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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ホイールローダ
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/22 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
E02F9/22 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021049707
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148140
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日暮 昌輝
(72)【発明者】
【氏名】井村 進也
(72)【発明者】
【氏名】関根 和也
(72)【発明者】
【氏名】堤 芳明
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0130739(US,A1)
【文献】特開2013-127187(JP,A)
【文献】特開2005-155242(JP,A)
【文献】特開2004-143797(JP,A)
【文献】国際公開第2004/029435(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第112031064(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪および後輪が取り付けられた車体と、前記車体の前部に設けられたバケットと、前記バケットを保持するリフトアームと、前記リフトアームを駆動するリフトアームシリンダと、前記車体の駆動源であるエンジンと、前記エンジンの回転数を制御する制御装置と、を備えたホイールローダにおいて、
前記リフトアームの角度を検出する角度センサと、
前記リフトアームシリンダの油圧室と接続され、前記油圧室との間で圧油の流出入が可能なアキュムレータと、
前記アキュムレータの圧力を検出する圧力センサと、を備え、
前記制御装置は、
前記角度センサにて検出された前記リフトアームの角度が、前記エンジンの回転数を減速する減速制御条件を満たす場合、前記圧力センサにて検出された前記アキュムレータの圧力に基づいて、前記エンジンの回転数を減速する
ことを特徴とするホイールローダ。
【請求項2】
請求項1に記載のホイールローダにおいて、
前記制御装置は、
前記圧力センサにて検出された前回の前記アキュムレータの圧力と、前記圧力センサにて検出された今回の前記アキュムレータの圧力との差圧を算出し、
前記差圧が設定圧を超えると、前記エンジンの回転数の減速を開始し、前記差圧が前記設定圧以下になって設定時間が経過すると、前記エンジンの回転数の減速を終了する
ことを特徴とするホイールローダ。
【請求項3】
請求項2に記載のホイールローダにおいて、
前記設定時間は、前記ホイールローダの車速および前記前輪と前記後輪との間の距離に基づいて予め定められる
ことを特徴とするホイールローダ。
【請求項4】
請求項1に記載のホイールローダにおいて、
前記制御装置は、
前記圧力センサにて検出された前回の前記アキュムレータの圧力と、前記圧力センサにて検出された今回の前記アキュムレータの圧力との差圧を算出し、前記差圧が大きくなるほど、前記エンジンの回転数を減速する
ことを特徴とするホイールローダ。
【請求項5】
請求項4に記載のホイールローダにおいて、
前記制御装置は、
今回取得した前記差圧が前回取得した前記差圧より大きい場合には、前記差圧が大きくなるほど前記エンジンの回転数を減速し、今回取得した前記差圧が前回取得した前記差圧以下の場合には、前回取得した前記差圧に対応する前記エンジンの回転数を維持する
ことを特徴とするホイールローダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バケットを有するホイールローダに関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、例えば特許文献1には、ブームシリンダのボトム室の圧力変動を吸収する目的でスイッチ操作された場合に、コントローラは、ライドコントロールバルブがアキュムレータとブームシリンダのボトム室とを連通するように信号を送信する構成のホイールローダが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-186942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホイールローダが走行する走行路面の状態は作業場によって様々であり、走行路面上に段差が連続するような悪路も存在する。走行路面上に段差が連続すると、リフトアームシリンダ(ブームシリンダ)のボトム室の圧力変動をアキュムレータで十分に吸収できず、その結果、振動によりバケット内の土砂等がこぼれ落ちる可能性がある。特許文献1では、アキュムレータによる振動を吸収する構成に留まっており、段差が連続するような悪路をホイールローダが走行した場合には、振動が増幅してしまって振動を吸収できない可能性がある。振動を吸収できない状態で走行すると、移動させる必要のある土砂等がバケットからこぼれ落ちてしまう。
【0005】
そこで、本発明は、悪路を走行した場合にも、車速を調整することを必要としないで、バケットから土砂等がこぼれ落ちにくくするホイールローダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、代表的な本発明は、前輪および後輪が取り付けられた車体と、前記車体の前部に設けられたバケットと、前記バケットを保持するリフトアームと、前記リフトアームを駆動するリフトアームシリンダと、前記車体の駆動源であるエンジンと、前記エンジンの回転数を制御する制御装置と、を備えたホイールローダにおいて、前記リフトアームの角度を検出する角度センサと、前記リフトアームシリンダの油圧室と接続され、前記油圧室との間で圧油の流出入が可能なアキュムレータと、前記アキュムレータの圧力を検出する圧力センサと、を備え、前記制御装置は、前記角度センサにて検出された前記リフトアームの角度が、前記エンジンの回転数を減速する減速制御条件を満たす場合、前記圧力センサにて検出された前記アキュムレータの圧力に基づいて、前記エンジンの回転数を減速することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、バケットから土砂等がこぼれ落ちにくいホイールローダを提供できる。しかも、本発明によれば、悪路を走行した場合にも、車速を調整することを必要としない。なお、前述した以外の課題、構成、および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本発明の実施形態に係るホイールローダの側面図である。
図1B】本発明の実施形態に係るホイールローダの斜視図である。
図2】ホイールローダの駆動システム構成を示す図である。
図3】走行振動抑制油圧回路のシステム構成を示す図である。
図4】ホイールローダが段差を乗り越えた場合のリフトアームシリンダのボトム室の圧力変動とリフトアームシリンダのシリンダ長の変化を示す図である。
図5】ホイールローダが連続する段差を同じ車速で乗り越えた場合のリフトアームシリンダのボトム室の圧力変動を示す図である。
図6】異なる車速でホイールローダが段差を乗り越えた場合のリフトアームシリンダのボトム室の圧力変動を比較して示した図である。
図7】ホイールローダが最初に段差を乗り越えた後、減速して次の段差を乗り越えた場合におけるリフトアームシリンダのボトム室の圧力変動を示す図である。
図8】メインコントローラのハードウェア構成を模式的に示すブロック図である。
図9】ホイールローダの電気的構成を示すブロック図である。
図10】メインコントローラの機能ブロック図である。
図11】減速制御判定部の処理手順を示すフローチャートである。
図12】減速ゲイン算出部の処理手順を示すフローチャートである。
図13】参照圧と減速ゲインとの関係を示すマップ図である。
図14】時間の経過に伴う参照圧の変化を示す図である。
図15】指令回転数算出部の処理手順を示すフローチャートである。
図16】アクセルペダルの踏込量とエンジン要求回転数との関係を示すマップ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るホイールローダの実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1Aは、本発明の実施形態に係るホイールローダの側面図、図1B、本発明の実施形態に係るホイールローダの斜視図である。
【0011】
図1A,Bに示すように、ホイールローダ1は、リフトアーム11、バケット3、一対の前輪5等を有する前フレーム(車体)6と、運転室4、エンジン室20、一対の後輪7等を有する後フレーム(車体)8とで構成されている。エンジン室20にはエンジン100が搭載されており、後フレーム8の後方にはカウンタウェイト21が取り付けられている。前フレーム6と後フレーム8とはセンタピン9により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ10の伸縮により後フレーム8に対し前フレーム6が左右に屈折する。なお、以下の説明において、前輪5および後輪7をまとめて「車輪5,7」とする場合がある。
【0012】
リフトアーム11は一対のリフトアームシリンダ12の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット3はバケットシリンダ16の駆動により上下方向に回動(クラウドまたはダンプ)する。バケットシリンダ16とバケット3の間にはベルクランク15およびプッシュロッド14を含むリンク機構が介設されており、このリンク機構を介してバケットシリンダ16はバケット3を回動させる。なお、これらリフトアーム11、バケット3、一対のリフトアームシリンダ12、バケットシリンダ16、ベルクランク15、プッシュロッド14等によって作業機2が構成されている。
【0013】
リフトアーム11と前フレーム6の連結部分にはリフトアーム角度センサ(角度センサ)18が取り付けられており、このリフトアーム角度センサ18によってリフトアーム11の回動角度が検出される。また、ベルクランク15の所定位置には、リフトアーム11に対するバケット3の角度を検出するバケット角度センサ19が取り付けられている。
【0014】
後フレーム8の前部に搭載された運転室4には、オペレータが座る運転席、ホイールローダ1の操舵角を制御するステアリングホイール117、ホイールローダ1を始動・停止させるキースイッチ、オペレータへの情報を提示するモニタ、ホイールローダ1の動作全体の制御を行うメインコントローラ(制御装置)121等が設けられている。
【0015】
なお、図1Aは、ホイールローダ1の運搬作業時の姿勢を示している。運搬作業時には、バケット3が前方のオペレータの視界を遮らない程度の高さまでリフトアーム11を上昇させて、土砂等を掬い込んだバケット3が走行時に地面と接触しないようにしている。
【0016】
図2は、ホイールローダ1の駆動システム構成を示す図である。図2に示すように、エンジン100の出力軸100aは、トルクコンバータ101、油圧ポンプ102、ブレーキポンプ103に直結されており、エンジン100の出力軸100aの回転数は、エンジンコントローラ(制御装置)104の電気信号105により制御され、エンジンコントローラ104は、メインコントローラ121からの回転数指令127に基づき、電気信号105を出力している。メインコントローラ121は、アクセルペダル106の踏込量に基づき、回転数指令127を出力している。
【0017】
トルクコンバータ101の出力軸は、トランスミッション107を介してドライブシャフト108に接続されており、エンジン100の駆動力は、トルクコンバータ101、トランスミッション107、ドライブシャフト108を介して車輪5,7に伝達される。その結果、車輪5,7が回転する。
【0018】
トルクコンバータ101は、インペラ、タービン、およびステータで構成された流体クラッチである。トルクコンバータ101からトランスミッション107に伝達される駆動力は、トルクコンバータ101の出力回転数に対しエンジン100の出力軸100aの回転数が大きいほど増大する構造であり、アクセルペダル106の踏込量でエンジン100の回転数を上げることで、トルクコンバータ101が出力する駆動力は大きくなる。トルクコンバータ101の出力回転数と、エンジン100の出力軸100aの回転数に差が無い時、トルクコンバータ101が出力する駆動力は0となる。
【0019】
車輪5,7に作用する走行抵抗が一定の平地を走行している際、エンジン100の出力軸100aの回転数が一定ならば走行速度も一定となる。エンジン100の出力軸100aの回転数を上昇させると、ホイールローダ1は加速し、エンジン100の出力軸100aの回転数を下げると、減速する。
【0020】
トランスミッション107は、トランスミッションコントローラ109の電気信号110により、トルクコンバータ101の出力とドライブシャフト108の接続を遮断して車輪5,7の駆動力を落としたり、回転方向を反転させて駆動力の方向を変えたりする。
【0021】
具体的には、トランスミッション107は、前進走行または後進走行において、例えば1~4速度段の何れかに対応したギア比となるように、複数のギアの組合せが制御される。これにより、設定された速度段に応じて、トルクコンバータ101の出力軸のトルクや回転数、回転方向が、車輪5,7へ伝達される。
【0022】
なお、トランスミッションコントローラ109の電気信号110は、オペレータの前後進指示スイッチ111がニュートラルの時と、ブレーキペダル112の踏込量が一定以上の時、接続を遮断するように出力される。
【0023】
また、トランスミッション107にはドライブシャフト108の回転数を計測する車速センサ(図示せず)が取り付けられており、トランスミッションコントローラ109が車速センサに基づいてホイールローダ1の車速を測定している。なお、車速センサの代わりに、車輪5,7の回転数を直接検出してホイールローダ1の車速を測定しても良い。
【0024】
油圧ポンプ102は、エンジン100の出力軸100aが1回転する毎に、一定流量の圧油を出力する。なお、本実施形態において、油圧ポンプ102は、傾転角に応じて押し退け容積が制御される斜板式あるいは斜軸式の可変容量型油圧ポンプであるが、固定容量型の油圧ポンプを用いても良い。
【0025】
油圧ポンプ102から出力された圧油は、作業機制御油圧回路113を介して、リフトアームシリンダ12とバケットシリンダ16に供給され、リフトアームシリンダ12とバケットシリンダ16を伸縮する。
【0026】
油圧ポンプ102から出力される圧油の量は、エンジン100の出力軸100aの回転数が大きいほど増加するので、アクセルペダル106の踏込量でエンジン100の回転数を上げると、リフトアームシリンダ12とバケットシリンダ16の伸縮速度は速くなる。
【0027】
作業機制御油圧回路113は、オペレータによるリフトレバー114の操作により、油圧ポンプ102の出力とリフトアームシリンダ12の接続を遮断してリフトアーム11の動作を停止したり、伸縮方向を反転し、リフトアーム11の上下方向の動作を切り換えたりする。
【0028】
作業機制御油圧回路113は、オペレータによるバケットレバー115の操作により、油圧ポンプ102の出力とバケットシリンダ16の接続を遮断してバケット3の動作を停止したり、伸縮方向を反転し、バケット3の角度の前後方向の動作を切り換えたりする。
【0029】
油圧ポンプ102から出力された圧油は、ステアリング制御油圧回路116を介して、左右のステアリングシリンダ10に接続され、左右のステアリングシリンダ10を伸縮する。
【0030】
ステアリング制御油圧回路116は、オペレータがステアリングホイール117を右回転させた時は、油圧ポンプ102から出力された圧油を右ステアリングシリンダ10Rが縮む方向と、左ステアリングシリンダ10Lが伸びる方向に接続し、ホイールローダ1を右旋回させ、オペレータがステアリングホイール117を左回転させた時は、油圧ポンプ102から出力された圧油を右ステアリングシリンダ10Rが伸びる方向と、左ステアリングシリンダ10Lが縮む方向に接続し、ホイールローダ1を左旋回させる。
【0031】
ブレーキポンプ103から出力された圧油はアキュムレータ118に蓄圧され、アキュムレータ118に蓄圧された圧油はブレーキ制御油圧回路119を介して、車輪5,7のブレーキ力を制御する。
【0032】
ブレーキ制御油圧回路119は、オペレータによるブレーキペダル112の踏込量で制御圧が調整される。
【0033】
図3は、図2に示す走行振動抑制油圧回路123のシステム構成を示す図である。図3に示すように、制御バルブ電磁弁201は、メインコントローラ121からの励磁信号(電気信号)305で駆動される。励磁状態のときは、制御バルブ電磁弁201が位置201aに切り換わり、パイロット油圧源202の圧力を切換弁203に作用させる。すると、切換弁203が連通位置203aに切り換わる。一方、非励磁状態のときは、制御バルブ電磁弁201が位置201bに切り換わり、切換弁203が非連通位置203bに切り換わる。
【0034】
切換弁203が連通位置203aにあるとき、リフトアームシリンダ12のボトム室(油圧室)12bとアキュムレータ124とが連通し、両者の間を圧油が流出入する。また、リフトアームシリンダ12のロッド室12cとタンク204とが連通し、ロッド室12c内の圧油がタンク204に導かれる。一方、切換弁203が非連通位置203bにあるとき、アキュムレータ124とリフトアームシリンダ12のボトム室12bとの連通が遮断され、リフトアームシリンダ12のロッド室12cとタンク204との連通が遮断される。
【0035】
アキュムレータ圧力センサ205は、アキュムレータ124の圧力を計測し、圧力信号206をメインコントローラ121に出力する。
【0036】
メインコントローラ121は、走行振動抑制制御切換スイッチ126がONで、リフトアーム角度センサ18の検出値が所定値であって、車速が一定速度以上の時、制御バルブ電磁弁201に励磁信号305を出力し、それ以外の場合は励磁をしない(詳細後述)。
【0037】
なお、図示していないが、メインコントローラ121とエンジンコントローラ104とトランスミッションコントローラ109とは、すべて通信ネットワークで接続されている。
【0038】
図4は、ホイールローダ1が段差を乗り越えた場合のリフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力変動とリフトアームシリンダ12のシリンダ長の変化を示す図である。図4において、上段はリフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力を、下段はリフトアームシリンダ12のシリンダ長の変化をそれぞれ示している。
【0039】
なお、切換弁203が連通位置203aにあるときは、アキュムレータ124とリフトアームシリンダ12のボトム室12bとが連通しているため、アキュムレータ124の圧力変動はリフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力変動と等しい。そのため、アキュムレータ圧力センサ205にて検出されたアキュムレータ圧力は、リフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力Pとみなすことができる。
【0040】
ホイールローダ1の前輪5が段差に乗り上げると、区間1aに示すように、リフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力Pが上昇する。リフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力Pの上昇をアキュムレータ124が吸収することで、リフトアームシリンダ12のシリンダ長Lは縮小する。
【0041】
区間1bでは、アキュムレータ124に蓄圧された圧油がリフトアームシリンダ12のボトム室12bに導かれるため、リフトアームシリンダ12のシリンダ長Lが伸長する。
【0042】
ホイールローダ1の前輪5が段差を乗り越えて着地すると、区間1cに示すように、リフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力Pが上昇する。リフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力Pの上昇をアキュムレータ124が吸収することで、リフトアームシリンダ12のシリンダ長Lは縮小する。その後、リフトアームシリンダ12のシリンダ長Lは伸縮しながら、アキュムレータ124の圧力Pの変動は減衰していく。
【0043】
このように、アキュムレータ124がリフトアームシリンダ12のボトム室12bに発生する圧力変動を吸収することで、リフトアーム11の先端に接続されたバケット3に作用する衝撃が緩和され、土砂等がバケット3からこぼれ落ちることが抑制される。
【0044】
次に、段差が連続する場合について説明する。図5は、ホイールローダ1が連続する段差を同じ車速で乗り越えた場合のリフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力変動を示す図である。なお、図5において、区間1a~1cはホイールローダ1の前輪5が最初の段差を乗り越えた状態を示しており、図4における区間1a~1cと同じである。
【0045】
区間2aは、前輪5が最初の段差を乗り越えた後、リフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力変動の減衰が終わる前に、前輪5が2番目の段差を乗り越えた状態である。
【0046】
図5に示すように、区間2aにおいて、リフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力変動が増幅され、バケット3への衝撃も増幅されるため、土砂等がバケット3からこぼれ落ちてしまう。
【0047】
図6は、異なる車速でホイールローダ1が段差を乗り越えた場合のリフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力変動を比較して示した図である。図6において、区間1a~1cは図4と同じ車速で前輪5が段差を乗り上げた状態、区間3a~3cは区間1a~1cより低速で前輪5が段差を乗り上げた状態をそれぞれ示す。図6の区間3a~3cに示すように、ホイールローダ1の車速を抑えることで、前輪5が地面から受ける衝撃が弱くなるため、リフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力変動が小さくなる。
【0048】
図7は、ホイールローダ1が最初に段差を乗り越えた後、減速して次の段差を乗り越えた場合におけるリフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力変動を示す図である。図7の区間4aにおいて、リフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力変動は増幅されるものの、低速で2番目の段差を乗り越えているため、図5の区間2aと比べて、リフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力変動は抑制される。その結果、バケット3への衝撃も弱くなり、土砂等がバケット3からこぼれるのを防止できる。
【0049】
このように、ホイールローダ1が連続する段差を乗り越える際に、土砂等がバケット3からこぼれるのを防止するためには、リフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力変動の増幅を抑えることが重要となる。
【0050】
図8はメインコントローラ121のハードウェア構成を模式的に示すブロック図である。図8に示すように、メインコントローラ121は、車体の動作全体を制御するための各種演算を行うCPU(Central Processing Unit)121Aと、CPU121Aによる演算を実行するためのプログラムを格納するROM(Read Only Memory)121B等の記憶装置と、CPU121Aがプログラムを実行する際の作業領域となるRAM(Random Access Memory)121Cと、外部装置との間で各種の情報や信号の入出力を行う入出力インターフェース121Dとを含むハードウェアから構成されている。
【0051】
このようなハードウェア構成において、ROM121Bに格納されたプログラムがRAM121Cに読み出され、CPU121Aの制御に従って動作することによりプログラム(ソフトウェア)とハードウェアとが協働して、後述するメインコントローラ121の機能を実現する機能ブロックが構成される。
【0052】
なお、エンジンコントローラ104、トランスミッションコントローラ109も、メインコントローラ121と同様の構成となっている。
【0053】
図9は、ホイールローダ1の電気的構成を示すブロック図である。図9に示すように、メインコントローラ121は、トランスミッションコントローラ109からの車速情報301と、走行振動抑制制御切換スイッチ126のON情報302と、リフトアーム角度センサ18の角度情報303と、アキュムレータ圧力センサ205の圧力信号206と、アクセルペダル106の踏込量304とが入力されており、エンジンコントローラ104に回転数指令127と制御バルブ電磁弁201に励磁信号305を出力している。
【0054】
図10は、メインコントローラ121の機能ブロック図である。図10に示すように、走行振動抑制判定部401は、ホイールローダ1の車速情報301と、走行振動抑制制御切換スイッチ126のON情報302と、リフトアーム11の角度情報303とに基づいて、走行振動抑制油圧回路123の制御バルブ電磁弁201を励磁するために励磁信号305を設定する。
【0055】
具体的には、ホイールローダ1が所定の速度で走行中であって、走行振動抑制制御切換スイッチ126がON、かつ、リフトアーム11が所定の角度範囲内にある場合(即ち、バケット3が地面からある程度上昇した「運搬姿勢」である場合)に、走行振動抑制判定部401は、励磁信号305を設定する。ここで、「運搬姿勢」とは、バケット3に土砂等が収容された状態で、リフトアーム11によりバケット3が地面からすこし高い位置に保持された姿勢のことであり、例えば図1Aに示す姿勢が本実施形態における運搬姿勢である。
【0056】
なお、本実施形態では、ホイールローダ1の車速情報301と、走行振動抑制制御切換スイッチ126のON情報302と、リフトアーム11の角度情報303とに基づいて、走行振動抑制油圧回路123の制御バルブ電磁弁201を励磁するために励磁信号305を設定したが、少なくともリフトアーム11の角度情報303に基づいて励磁信号305を出力すれば良い。なお、ダンプ積み作業や、掘削作業等の車速が低速となる場面では、走行振動抑制制御が作動すると車体が不安定になってしまいダンプ積み作業や掘削作業等に支障が出てしまう可能性がある。そこで、走行振動抑制判定部401は、車速情報301を常時監視して、ダンプ積み作業や掘削作業等に対応した所定車速以下となる場合には、走行振動抑制制御をキャンセルすべく、エンジン回転数を自動で減速させる本制御を実行させないようにするのが好ましい。
【0057】
減速制御判定部402は、励磁信号305と、アキュムレータ124の圧力信号206とに基づき、後述する減速制御判定信号403および差圧404を設定する。
【0058】
図11は、減速制御判定部402の処理手順を示すフローチャートである。なお、図11に示す処理は所定時間(例えば10ミリ秒)毎に繰り返し行われる。
【0059】
図11に示すように、S101において励磁信号305がOFFの場合、即ち、制御バルブ電磁弁201を非励磁にする場合(S101/No)、減速制御判定部402は、基準圧にアキュムレータ124の圧力信号206の値(検出圧)を設定し(S108)、差圧404に0を設定し(S109)、減速制御判定信号403(減速制御)にOFFを設定する(S110)。つまり、エンジン回転数の減速制御を行わない(車速を減速しない)。
【0060】
一方、S101において励磁信号305がONの場合、減速制御判定部402は、差圧404に圧力信号206の値(検出圧)から基準圧(前回値)を引いた値を設定し(S102)、S103において差圧404が設定圧より大きい場合は(S103/Yes)、タイマに0を設定し(S104)、減速制御判定信号403にONに設定する(S105)。つまり、エンジン回転数の減速制御を行う(車速を減速する)。
【0061】
ここで、S103は、バケット3から土砂等がこぼれ落ちる可能性があるか否かを判定するための処理であり、別言すれば、エンジン回転数を減速する制御を行うか否かを判定するための処理である。つまり、S103の判定により、バケット3から土砂等がこぼれ落ちる可能性があればエンジン回転数を減速し、そうでなければエンジン回転数を減速しない。そのため、S103における設定値は、ホイールローダ1が段差を乗り越える際、バケット3から土砂等がおぼれ落ちるとみなせるリフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力の差(差圧)に基づいて定められている。
【0062】
S103において差圧404が設定値以下の場合(S103/No)、減速制御判定部402は、タイマに、タイマ(前回値)に1を加算した値を設定し(S106)、タイマが設定時間未満の場合(S107/Yes)には、減速制御判定信号403にONを設定する(S105)。つまり、エンジン回転数の減速制御を行う(車速を減速する)。
【0063】
一方、タイマが設定時間以上の場合(S107/No)、減速制御判定部402は、減速制御判定信号403にOFFを設定する(S110)。つまり、エンジン回転数の減速制御を行わない(車速を減速しない)。
【0064】
ここで、S107における設定時間を設ける理由は、S103において差圧404が設定圧以下の場合に直ちに減速制御をOFF(S110)にすると、ホイールローダ1がハンチングする可能性があるからである。即ち、S106,S107の処理を行うことで、ホイールローダ1のハンチングを防止している。
【0065】
また、この設定時間を長くすると、車速が減速するので、作業効率が悪くなる可能性がある一方、設定時間が短すぎると、バケット3から土砂等がこぼれる可能性がある。そこで、本実施形態では、前輪5が段差(特定位置)を乗り越えた後、後輪7が段差を乗り越えるまでの時間(例えば1秒)を設定時間に設定している。即ち、車速とホイールベース(前輪5と後輪7との距離)とに基づいて設定時間が定められている。
【0066】
次に、図10の減速ゲイン算出部405は、減速制御判定信号403と差圧404の入力に基づき、減速ゲイン406を設定する。
【0067】
図12は、減速ゲイン算出部405の処理手順を示すフローチャートである。なお、図12に示す処理は所定時間(例えば10ミリ秒)毎に繰り返し行われる。
【0068】
図12に示すように、減速制御判定信号403がOFFの場合(S201/No)、減速ゲイン算出部405は、参照圧に0を設定し(S206)、減速ゲイン406に1を設定する(S207)。即ち、アクセルペダル106の踏込量304に応じた車速になる。
【0069】
S201において、減速制御判定信号403がON場合(S201/Yes)には、減速ゲイン算出部405は、差圧404と参照圧(前回値)との大小を比較し(S202)、差圧404が参照圧(前回値)以下の場合(S202/No)には、参照圧に参照値(前回値)を設定し(S205)、減速ゲイン406にマップ(図13)を参照して得られた減速ゲイン(マップ値)を設定する(S204)。
【0070】
図13は、参照圧と減速ゲインとの関係を示すマップ図である。図13に示すように、参照圧が大きくなるほど減速ゲインが小さくなる特性のマップデータがROM121Bに記憶されている。これにより、差圧404が大きくなるほど減速ゲインが小さくなり、エンジン回転数が減速される。例えば、参照圧がPr1の場合には、減速ゲイン算出部405は、参照圧Pr1に対応する減速ゲインG1(0<G1<1)を図13に示すマップデータから取得する。
【0071】
一方、図12のS202において、差圧404が参照圧(前回値)より大きい場合(S202/Yes)は、減速ゲイン算出部405は、参照圧に差圧404を設定し(S203)、減速ゲイン406にマップ(図13)を参照して得られた減速ゲイン(マップ値)を設定する(S204)。
【0072】
このように、本実施形態では、差圧404が参照圧(前回値)より大きい場合には、参照圧を差圧に設定するため(S203)、減速ゲイン(-)が大きくなる。一方、差圧404が前回の参照圧以下の場合には、参照圧を参照圧(前回値)に設定するため(S205)、前回の減速ゲインが維持される。
【0073】
これについて図14を参照して詳しく説明する。図14は時間の経過に伴う参照圧の変化を示す図である。図14に示すように、減速制御がONになる時間t1において、参照圧がPr1まで上昇し、時間t1から時間t2まで時間の経過に伴って参照圧が徐々に上昇する。参照圧の上昇に伴って減速ゲインが増加する(エンジン回転数が減速する)。時間t2において差圧404が参照圧(前回値)以下になると、差圧404(一点鎖線)は下がるが参照圧は前回値Pr2に維持される。よって、前回値Pr2に対応する減速ゲインが維持される。そして、減速制御がOFFになる時間t3において、参照圧がゼロになる。このように、時間t1~時間t2は減速ゲインが徐々に大きくなり、時間t2~時間t3は一定の減速ゲイン(一定のエンジン回転数)となる。
【0074】
図10に示す指令回転数算出部407は、減速ゲイン406と、アクセルペダル106の踏込量304との入力に基づき、回転数指令127を設定する。
【0075】
図15は、指令回転数算出部407の処理手順を示すフローチャートである。なお、図15に示す処理は所定時間(例えば10ミリ秒)毎に繰り返し行われる。図15に示すように、指令回転数算出部407は、エンジン要求回転数に、図14に示すマップを参照して得られたエンジン要求回転数(マップ値)を設定する(S301)。
【0076】
図16は、アクセルペダル106の踏込量304とエンジン要求回転数(rpm)との関係を示すマップ図である。図16に示すように、踏込量304が大きくなるほどエンジン要求回転数が大きくなる特性のマップデータがROM121Bに記憶されている。これにより、アクセルペダル106を踏み込むほど、車速が増加する。例えば、踏込量304がV1である場合には、指令回転数算出部407は、踏込量V1に対応するエンジン要求回転数N1を図16に示すマップデータから取得する。
【0077】
次いで、指令回転数算出部407は、エンジン目標回転数に、エンジン要求回転数に減速ゲイン(406)を掛けた値を設定する(S302)。指令回転数算出部407は、エンジン目標回転数と予め設定されたエンジン最低回転数との大小を比較し(S303)、S303においてエンジン目標回転数がエンジン最低回転数以下の場合(S303/No)には、回転数指令127にエンジン最低回転数を設定し(S305)、S303においてエンジン目標回転数がエンジン最低回転数より大きい場合(S303/Yes)には、回転数指令127にエンジン目標回転数を設定する。ここで、エンジン最低回転数は、例えばアイドリング時のエンジン回転数である。
【0078】
以上説明したように、本実施形態によれば、メインコントローラ121が、リフトアーム11の角度情報303が、エンジン100の減速制御条件を満たす場合に、アキュムレータ124の圧力信号206に基づいて、エンジン100の回転数を減速する構成としたので、ホイールローダ1が連続する段差を乗り越える場合において車速を抑えることができるため、バケット3の土砂等がこぼれ落ちるのを防止できる。より詳細には、車速が減速することで、リフトアームシリンダ12のボトム室12bの圧力変動が抑えられるため、バケット3の姿勢が安定する。その結果、バケット3から土砂等がこぼれ落ちにくくなる。
【0079】
また、アキュムレータ124の差圧が設定圧以下になった後(S103/No)、設定時間が経過すると(S107/NO)、エンジン100の減速制御が終了する(S110)構成としたので、ホイールローダ1のハンチングが防止される。ここで、設定時間を、ホイールローダ1の車速および前輪5と後輪7との間の距離に基づいて予め設定しているので、前輪5が段差を乗り越えて後輪7が段差を乗り越えるまでの間、確実にエンジン100の減速制御を行うことができる。
【0080】
また、アキュムレータ124の差圧404が大きくなるほど、エンジン回転数を減速する構成(図13参照)としているため、バケット3から土砂等がこぼれ落ちることがより一層防止される。
【0081】
また、今回取得したアキュムレータ124の差圧404が前回取得した差圧より大きい場合には、差圧404が大きくなるほどエンジン回転数を減速し、今回取得した差圧404が前回取得した差圧404以下の場合には、前回取得した差圧404に対応するエンジン回転数を維持する構成(図14参照)としたので、バケット3から土砂等がこぼれ落ちることがより一層防止される。
【0082】
このように、本実施形態によれば、土砂等をバケット3に掬い込んで運搬する際、段差が連続する路面を走行する場合でも、オペレータが車速を微調整せずとも、バケット3からの土砂等がこぼれ落ちるのを防止できる。よって、運搬作業の操作が容易になり、不慣れなオペレータの作業効率が改善する。
【0083】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0084】
例えば、オペレータが搭乗せず遠隔で運搬作業を行う無人のホイールローダに対しても、本発明を適用すれば、凹凸が連続する走行路面をホイールローダが走行する際、バケット内の土砂等がこぼれ落ちることを防止できる。即ち、本発明は、無人運転のホイールローダに対しても好適である。
【0085】
なお、上記した実施形態では、エンジン100の駆動力を、トルクコンバータ101およびトランスミッション107を介して車輪5,7に伝達する構成を例示したが、本発明は、いわゆるHST(Hydro Static Transmission)式のホイールローダにも適用できる。
【符号の説明】
【0086】
1 ホイールローダ
2 作業機
3 バケット
5 前輪
6 前フレーム(車体)
7 後輪
8 後フレーム(車体)
11 リフトアーム
12 リフトアームシリンダ
12b ボトム室(油圧室)
16 バケットシリンダ
18 リフトアーム角度センサ(角度センサ)
100 エンジン
101 トルクコンバータ
104 エンジンコントローラ(制御装置)
107 トランスミッション
109 トランスミッションコントローラ
121 メインコントローラ(制御装置)
124 アキュムレータ
126 走行振動抑制制御切換スイッチ
205 アキュムレータ圧力センサ(圧力センサ)
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16