IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

特許7523399ハニカム構造体の発熱分布の推定方法、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法
<>
  • 特許-ハニカム構造体の発熱分布の推定方法、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法 図1
  • 特許-ハニカム構造体の発熱分布の推定方法、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法 図2
  • 特許-ハニカム構造体の発熱分布の推定方法、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法 図3
  • 特許-ハニカム構造体の発熱分布の推定方法、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法 図4
  • 特許-ハニカム構造体の発熱分布の推定方法、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法 図5
  • 特許-ハニカム構造体の発熱分布の推定方法、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法 図6
  • 特許-ハニカム構造体の発熱分布の推定方法、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法 図7
  • 特許-ハニカム構造体の発熱分布の推定方法、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法 図8
  • 特許-ハニカム構造体の発熱分布の推定方法、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ハニカム構造体の発熱分布の推定方法、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/20 20060101AFI20240719BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20240719BHJP
   B01D 53/94 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
F01N3/20 K ZAB
F01N3/28 301P
B01D53/94
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021061937
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157615
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野呂 貴志
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隼伍
(72)【発明者】
【氏名】井原 爾史
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-231708(JP,A)
【文献】特開2020-151632(JP,A)
【文献】特開2020-153325(JP,A)
【文献】特開2011-256816(JP,A)
【文献】特開2014-198296(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0277449(US,A1)
【文献】国際公開第1993/017228(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
F01N 3/28
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する柱状ハニカム構造部、及び、
前記柱状ハニカム構造部の外周壁の表面に、前記柱状ハニカム構造部の中心軸を挟んで対向するように配設されている一対の電極層A及び電極層B
を備えたハニカム構造体であり、
前記電極層A及び電極層Bは、それぞれ、電極層A1と電極層A2、及び、電極層B1と電極層B2に電気的に分離されており、
前記電極層A1と電極層B1、及び、前記電極層A2と電極層B2は、互いに前記ハニカム構造体の外周面の距離が近い側に位置している、ハニカム構造体の発熱分布の推定方法であって、
前記電極層A1と電極層B1との間で所定の微小電流を流して前記柱状ハニカム構造部を通電させ、前記外周壁、及び前記電極層の表面において、前記電極層A1から前記電極層B1に渡って、それぞれ周方向に沿って離間した複数地点の表面電位を測定する第1の工程と、
前記電極層A2と電極層B2との間で所定の微小電流を流して前記柱状ハニカム構造部を通電させ、前記外周壁、及び前記電極層の表面において、前記電極層A2から前記電極層B2に渡って、それぞれ周方向に沿って離間した複数地点の表面電位を測定する第2の工程と、
測定された前記複数地点の表面電位に基づいて、前記ハニカム構造体内の複数箇所での抵抗、通電経路による抵抗比率、電圧分担率、及び前記電極層A1、A2、B1及びB2の表面電位、の少なくとも1つを定量化する第3の工程と、
前記第3の工程で定量化した値に基づき、前記ハニカム構造体内の発熱分布を推定する工程と、
を含む、ハニカム構造体の発熱分布の推定方法。
【請求項2】
前記電極層A1から前記電極層B1に渡る、周方向に沿って離間した前記複数地点の表面電位の測定、及び、前記電極層A2から前記電極層B2に渡る、周方向に沿って離間した前記複数地点の表面電位の測定を、それぞれ、前記柱状ハニカム構造部のセルの延伸方向に沿って複数箇所に対して行う、請求項1に記載のハニカム構造体の発熱分布の推定方法。
【請求項3】
前記電極層A1と電極層A2、及び、前記電極層B1と電極層B2が、それぞれスリットにより電気的に分離されている請求項1または2に記載のハニカム構造体の発熱分布の推定方法。
【請求項4】
前記第1の工程において、前記複数地点の表面電位の測定が、前記電極層A1、電極層B1、前記電極層A1とB1との間の前記外周壁からそれぞれ、少なくとも2地点以上の表面電位を測定するものであり、
前記第2の工程において、前記複数地点の表面電位の測定が、前記電極層A2、電極層B2、前記電極層A2とB2との間の前記外周壁からそれぞれ、少なくとも2地点以上の表面電位を測定するものである、
請求項1~3のいずれか一項に記載のハニカム構造体の発熱分布の推定方法。
【請求項5】
前記第3の工程が、下記(i)及び/または(ii)の表面電位差に基づき、前記通電抵抗の抵抗比率を算出することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のハニカム構造体の発熱分布の推定方法:
(i)前記第1の工程において、前記複数地点の表面電位の測定において、前記電極層A1における測定地点での最も低い表面電位と、前記電極層B1における測定地点での最も高い表面電位と、の差:
(ii)前記第2の工程において、前記複数地点の表面電位の測定において、前記電極層A2における測定地点での最も低い表面電位と、前記電極層B2における測定地点での最も高い表面電位と、の差。
【請求項6】
前記第3の工程が、下記(iii)及び/又は(iv)の表面電位から、前記電極層A1、A2、B1、B2の合計電圧を算出し、全体電圧に対する前記電極層A1、A2、B1、B2の合計電圧分担率を算出することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のハニカム構造体の発熱分布の推定方法:
(iii)前記第1の工程において、前記電極層A1及び電極層B1において複数地点で表面電位を測定し、その前記電極層A1における表面電位、及び、その前記電極層B1における表面電位:
(iv)前記第2の工程において、前記電極層A2及び電極層B2において複数地点で表面電位を測定し、その前記電極層A2における表面電位、及び、その前記電極層B2における表面電位。
【請求項7】
前記第3の工程が、下記(v)の表面電位差P及びQから、前記ハニカム構造体の通電経路の電圧分担率(P/P+Q)を算出することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のハニカム構造体の発熱分布の推定方法:
(v)前記第1の工程における前記電極層A1または電極層A2と前記外周壁との表面電位差Pと、前記第2の工程における前記電極層B1または電極層B2と前記外周壁との表面電位差Q。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のハニカム構造体の発熱分布の推定方法によって、検査前の前記ハニカム構造体の前記第3の工程における定量値を算出する工程と、
前記ハニカム構造体内の発熱分布を推定する工程で得られた閾値に基づいて前記第3の工程における定量値を評価して、合格品を選別する検査工程と、
を含む、ハニカム構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載のハニカム構造体の発熱分布の推定方法によって検査前の前記ハニカム構造体の前記第3の工程における定量値を算出する工程と、
前記ハニカム構造体内の発熱分布を推定する工程で得られた閾値に基づいて前記第3の工程における定量値を評価して、合格品を選別する検査工程と、
を含む、電気加熱式担体の製造方法。
【請求項10】
前記電気加熱式担体の製造方法が、
前記ハニカム構造体の第3の工程における定量値を算出する工程の前に、前記検査前のハニカム構造体の前記電極層A及び電極層B上にそれぞれ金属端子を設ける工程を有する請求項9に記載の電気加熱式担体の製造方法。
【請求項11】
前記電気加熱式担体の製造方法が、
前記検査工程の後に、前記ハニカム構造体の前記電極層A及び電極層B上にそれぞれ金属端子を設ける工程を有する請求項9に記載の電気加熱式担体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の発熱分布の推定方法、ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジン始動直後の排気ガス浄化性能の低下を改善するため、電気加熱触媒(EHC)が提案されている。EHCにおいては、触媒効果を十分に得られるようにするために、ハニカム構造体内での温度ムラを少なくして均一な温度分布にすることが望まれている。
【0003】
従来、ハニカム構造体の性能評価として、実際にハニカム構造体に対し、通電によって発熱させたときの、ハニカム構造体内の温度分布の検査が行われている。特許文献1には、ハニカム構造体を通電させて、複数箇所の抵抗値を測定し、当該測定箇所での電流値を推定し、当該推定値に基づいて発熱量を算出して、ハニカム構造体の発熱分布を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-153325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1に記載の検査方法を検討したところ、推定した発熱分布は、実際にハニカム構造体を通電加熱したときの発熱分布を再現しきれておらず、改善の余地があるものであった。したがって、ハニカム構造体及び電気加熱式担体の発熱性能を検査する方法として、より改良の必要がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、ハニカム構造体の発熱分布を簡易かつ安価に推定することが可能であり、より正確に推定できるハニカム構造体の発熱分布の推定方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の本発明によって解決されるものである。本発明は以下のように特定される。
(1)外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する柱状ハニカム構造部、及び、
前記柱状ハニカム構造部の外周壁の表面に、前記柱状ハニカム構造部の中心軸を挟んで対向するように配設されている一対の電極層A及び電極層B
を備えたハニカム構造体であり、
前記電極層A及び電極層Bは、それぞれ、電極層A1と電極層A2、及び、電極層B1と電極層B2に電気的に分離されており、
前記電極層A1と電極層B1、及び、前記電極層A2と電極層B2は、互いに前記ハニカム構造体の外周面の距離が近い側に位置している、ハニカム構造体の発熱分布の推定方法であって、
前記電極層A1と電極層B1との間で所定の微小電流を流して前記柱状ハニカム構造部を通電させ、前記外周壁、及び前記電極層の表面において、前記電極層A1から前記電極層B1に渡って、それぞれ周方向に沿って離間した複数地点の表面電位を測定する第1の工程と、
前記電極層A2と電極層B2との間で所定の微小電流を流して前記柱状ハニカム構造部を通電させ、前記外周壁、及び前記電極層の表面において、前記電極層A2から前記電極層B2に渡って、それぞれ周方向に沿って離間した複数地点の表面電位を測定する第2の工程と、
測定された前記複数地点の表面電位に基づいて、前記ハニカム構造体内の複数箇所での抵抗、通電経路による抵抗比率、電圧分担率、及び前記電極層A1、A2、B1及びB2の表面電位、の少なくとも1つを定量化する第3の工程と、
前記第3の工程で定量化した値に基づき、前記ハニカム構造体内の発熱分布を推定する工程と、
を含む、ハニカム構造体の発熱分布の推定方法。
(2)(1)に記載のハニカム構造体の発熱分布の推定方法によって、検査前の前記ハニカム構造体の前記第3の工程における定量値を算出する工程と、
前記ハニカム構造体内の発熱分布を推定する工程で得られた閾値に基づいて前記第3の工程における定量値を評価して、合格品を選別する検査工程と、
を含む、ハニカム構造体の製造方法。
(3)(1)に記載のハニカム構造体の発熱分布の推定方法によって検査前の前記ハニカム構造体の前記第3の工程における定量値を算出する工程と、
前記ハニカム構造体内の発熱分布を推定する工程で得られた閾値に基づいて前記第3の工程における定量値を評価して、合格品を選別する検査工程と、
を含む、電気加熱式担体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ハニカム構造体の発熱分布を簡易かつ安価に推定することが可能であり、より正確に推定できるハニカム構造体の発熱分布の推定方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記ハニカム構造体の製造方法及び電気加熱式担体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態におけるハニカム構造体のセルの延伸方向に垂直な断面模式図である。
図2】本発明の実施形態におけるハニカム構造体の表面電位の測定方法を説明するための模式図である。
図3】本発明の実施形態におけるハニカム構造体の表面電位の測定方法を説明するための模式図である。
図4】本発明の実施形態に係る電気加熱式担体のセルの延伸方向に垂直な断面模式図である。
図5】上側抵抗と下側抵抗との比率と、上側、下側電極層端部の発熱分布の温度差(℃)との関係を示すグラフである。
図6】外周壁の所定位置からの距離と、全体の規格化電圧との関係を示すグラフである。
図7】ハニカム構造体の通電経路の電圧分担率の値と、左側、右側電極層端部の発熱分布の温度差(℃)との関係を示すグラフである。
図8】全体の規格化電圧に対する電極層の合計電圧分担率の値と、電極層端部と、中央部との発熱分布の温度差(℃)との関係を示すグラフである。
図9】具体例1に係る表面電位の測定位置と、表面電位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0011】
<ハニカム構造体の発熱分布の推定方法>
(1.ハニカム構造体)
図1は本発明の実施形態におけるハニカム構造体の発熱分布の推定方法で発熱分布の測定対象となるハニカム構造体10のセル15の延伸方向に垂直な断面模式図である。
【0012】
ハニカム構造体10は、外周壁12と、外周壁12の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセル15を区画形成する隔壁13とを有する柱状ハニカム構造部11を備えている。
【0013】
柱状ハニカム構造部11の外形は柱状である限り特に限定されず、例えば、端面が円形の柱状(円柱形状)、端面がオーバル形状の柱状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、柱状ハニカム構造部11の大きさも特に限定されないが、例えば、端面の面積が2000~20000mm2であってもよい。
【0014】
柱状ハニカム構造部11は、導電性を有するセラミックスで構成されている。ハニカム構造体10が通電してジュール熱により発熱可能である限り、当該セラミックスの電気抵抗率については特に制限はないが、0.1~200Ωcmの電気抵抗率を有してもよい。本発明において、柱状ハニカム構造部11の電気抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0015】
柱状ハニカム構造部11を構成するセラミックスとしては、限定的ではないが、アルミナ、ムライト、ジルコニア及びコージェライト等の酸化物系セラミックス、炭化珪素、窒化珪素及び窒化アルミ等の非酸化物系セラミックス等を挙げることができる。また、炭化珪素-金属珪素複合材や炭化珪素/グラファイト複合材等を用いることもできる。これらの中でも、耐熱性と導電性の両立の観点から、外周壁及び隔壁の材質は、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とすることが好ましく、珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素であることが更に好ましい。外周壁及び隔壁の材質が、珪素-炭化珪素複合材を主成分とするものであるというときは、外周壁及び隔壁がそれぞれ、珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。外周壁及び隔壁の材質が、炭化珪素を主成分とするものであるというときは、外周壁及び隔壁がそれぞれ、炭化珪素(合計質量)を、全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0016】
柱状ハニカム構造部11のセル形状は、特に限定されないが、柱状ハニカム構造部11の中心軸に直交する断面において、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形、円形、又は楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。好ましくは、多角形である。
【0017】
隔壁13の厚さは、特に限定されないが、0.05~0.50mmであることが好ましく、製造の容易さの点で、0.10~0.45mmであることが更に好ましい。例えば、0.05mm以上であると、柱状ハニカム構造部11の強度がより向上し、0.50mm以下であると、圧力損失を小さくすることができる。なお、隔壁13の厚みは、セル15の延伸方向に垂直な断面において、隣接するセル15の重心同士を結ぶ線分のうち、隔壁13を通過する部分の長さとして定義される。
【0018】
柱状ハニカム構造部11のセル密度は、特に限定されないが、5~150セル/cm2の範囲であることが好ましく、5~100セル/cm2の範囲であることがより好ましく、31~80セル/cm2の範囲であることが更に好ましい。
【0019】
外周壁12の厚みは、特に限定されないが、0.1mm~1.0mmとすることができる。ここで、外周壁12の厚みは、厚みを測定しようとする外周壁12の箇所をセルの延伸方向に垂直な断面で観察したときに、当該測定箇所における外周壁12の接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0020】
隔壁13は緻密質でもよいが、多孔質とすることが好ましい。隔壁13の気孔率は、特に制限はないが、35~60%とすることができる。気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。なお、緻密質というのは気孔率が5%以下のことを指す。
【0021】
隔壁13の平均細孔径は、特に限定されないが、2~15μmとすることができる。平均細孔径は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0022】
ハニカム構造体10は、柱状ハニカム構造部11の外周壁12の表面に、柱状ハニカム構造部11の中心軸を挟んで対向するように一対の電極層A及び電極層B(電極層A及び電極層Bが1つの対をなしている)が配設されている。電極層Aは、電極層A1と電極層A2に電気的に分離され、電極層Bは、電極層B1と電極層B2に電気的に分離されている。電極層A1と電極層B1、及び、電極層A2と電極層B2は、互いにハニカム構造体10の外周面の距離が近い側に位置している。すなわち、ハニカム構造体10の外周面に沿って、電極層A1、電極層B1、電極層B2、電極層A2がこの順に配置されている。
【0023】
図1に示す実施形態では、電極層A1と電極層A2、及び、電極層B1と電極層B2は、それぞれ、柱状ハニカム構造部11の延伸方向に沿うようなスリット16によって電気的に分離されている。電気的に分離とは、電極層自体に電気が流れないようにされているものである。電極層A1と電極層A2、及び、電極層B1と電極層B2の電気的な分離は、スリットによるものに限らず、予め別々に電極層を印刷する方法、または、絶縁部材を設けて電気的に分離させる方法によるもの等であってもよい。スリット16による電気的な分離の場合、スリット幅は、例えば、0.5~5mmとすることができる
【0024】
柱状ハニカム構造部11の均一発熱性を高めるという観点から、電極層A1、A2、B1、B2は外周壁12の外面上で外周壁12の周方向及びセルの延伸方向に帯状に延設することができる。具体的には、電極層A1、A2、B1、B2は、柱状ハニカム構造部11の両端面間の80%以上の長さに亘って延設することができる。
【0025】
電極層A1、A2、B1、B2の厚みは、特に限定されないが、0.01~5mmとすることができる。電極層A1、A2、B1、B2の厚みは、測定箇所をセルの延伸方向に垂直な断面で観察したときに、電極層A1、A2、B1、B2の外面の当該測定箇所における接線に対する法線方向の厚みとして定義される。
【0026】
電極層A1、A2、B1、B2の電気抵抗率を柱状ハニカム構造部11の電気抵抗率より低くすることにより、電極層に優先的に電気が流れやすくなり、通電時に電気がセルの流路方向及び周方向に広がりやすくなる。電極層A1、A2、B1、B2の電気抵抗率は、限定的ではないが、柱状ハニカム構造部11の電気抵抗率の1/10以下とすることができる。電極層A1、A2、B1、B2の電気抵抗率の下限については、特に限定はないが、例えば、1/200以上が好ましい。電極層A1、A2、B1、B2の電気抵抗率は、四端子法により25℃で測定した値とする。
【0027】
電極層A1、A2、B1、B2の材質としては、金属及び導電性セラミックスを使用することができる。金属としては、例えばCr、Fe、Co、Ni、Si又はTiの単体金属又はこれらの金属よりなる群から選択される少なくとも一種の金属を含有する合金が挙げられる。導電性セラミックスとしては、限定的ではないが、炭化珪素(SiC)が挙げられ、珪化タンタル(TaSi2)及び珪化クロム(CrSi2)等の金属珪化物等の金属化合物が挙げられ、更には、上記導電性セラミックスの一種以上と上記金属の一種以上の組み合わせからなる複合材(サーメット)を挙げることができる。サーメットの具体例としては、金属珪素と炭化珪素の複合材、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材、更には上記の一種又は二種以上の金属に熱膨張低減の観点から、アルミナ、ムライト、ジルコニア、コージェライト、窒化珪素及び窒化アルミ等の絶縁性セラミックスを一種又は二種以上添加した複合材が挙げられる。電極層A1、A2、B1、B2の材質としては、上記の各種金属及び導電性セラミックスの中で、例えば、珪化タンタルや珪化クロム等の金属珪化物と金属珪素と炭化珪素の複合材との組合せとすることができる。
【0028】
柱状ハニカム構造部11の外周壁12において、電極層A1が設けられている表面と電極層B1が設けられている表面との間、及び/または、電極層A2が設けられている表面と電極層B2が設けられている表面との間に、それぞれ、セル15の延伸方向に沿うようにスリットが設けられていてもよい。このような構成によれば、ハニカム構造体10の熱応力緩和特性が向上する。これらのスリット(熱応力緩和スリット)の長さ及び幅は、特に限定されず、所望の熱応力緩和特性に応じて適宜設計することができる。
【0029】
(2.ハニカム構造体の発熱分布の推定方法)
次に、本発明の実施形態に係るハニカム構造体の発熱分布の推定方法について詳述する。まず、図2に示すように、電極層A1と電極層B1との間で所定の微小電流を流して柱状ハニカム構造部を通電させる。このとき、電源部31から電気的に接続された2本の電流端子32が、ハニカム構造体10の電極層A1と電極層B1にそれぞれ押し当てられており、通電状態を保っている。電極層A1と電極層B1との間に流す微小電流は、ハニカム構造体10が発熱しない程度の大きさの電流である。ハニカム構造体10が発熱しない程度の微小電流としては、ハニカム構造体10の材質や電気抵抗率にもよるが、1~1000mAとすることができ、この範囲内で電極層A1と電極層B1との間に一定の電流を流す。さらに、ハニカム構造体が低抵抗な緻密質である場合は、10~1000mAの範囲が好ましく、ハニカム構造体が多孔質である場合は、低抵抗な緻密質よりも相対的に抵抗が高いため、10~100mAの範囲が好ましい。
【0030】
次に、電極層A1と電極層B1との間で所定の微小電流を流して柱状ハニカム構造部を通電させた状態で、外周壁12及び電極層A1、B1の表面において、電極層A1から電極層B1に渡って、それぞれ周方向に沿って離間した複数地点の表面電位を測定する。図2では、一例として、電極層A1上で3箇所、電極層A1と電極層B1との間の外周壁12上で4箇所、電極層B1上で3箇所の測定地点33を示している。電極層A1上の表面電位の測定地点の数、電極層A1と電極層B1との間の外周壁12上の表面電位の測定地点の数、及び、電極層B1上の表面電位の測定地点の数は、図2に示す例に限られず、適宜設定可能であるが、それぞれ少なくとも2地点以上の表面電位を測定することが好ましく、測定地点の数が多いほどより詳細で精度の高いハニカム構造体10の発熱分布の推定が可能となる。
【0031】
次に、図3に示すように、電極層A2と電極層B2との間で所定の微小電流を流して柱状ハニカム構造部を通電させる。このとき、電源部31から電気的に接続された2本の電流端子32が、ハニカム構造体10の電極層A2と電極層B2にそれぞれ押し当てられており、通電状態を保っている。電極層A2と電極層B2との間に流す微小電流は、上述の電極層A1と電極層B1との間に流した微小電流と同じ大きさの一定の電流とする。
【0032】
電極層A2と電極層B2との間で所定の微小電流を流して柱状ハニカム構造部を通電させた状態で、外周壁12及び電極層A2、B2の表面において、電極層A2から電極層B2に渡って、それぞれ周方向に沿って離間した複数地点の表面電位を測定する。図3では、一例として、電極層A2上で3箇所、電極層A2と電極層B2との間の外周壁12上で4箇所、電極層B2上で3箇所の測定地点33を示している。電極層A2上の表面電位の測定地点の数、電極層A2と電極層B2との間の外周壁12上の表面電位の測定地点の数、及び、電極層B2上の表面電位の測定地点の数は、図3に示す例に限られず、適宜設定可能であるが、それぞれ少なくとも2地点以上の表面電位を測定することが好ましく、測定地点の数が多いほどより詳細で精度の高いハニカム構造体10の発熱分布の推定が可能となる。
【0033】
上述の電極層A1から電極層B1に渡る、周方向に沿って離間した複数地点の表面電位の測定、及び、上述の電極層A2から電極層B2に渡る、周方向に沿って離間した複数地点の表面電位の測定を、それぞれ、柱状ハニカム構造部11のセル15の延伸方向に沿って複数箇所に対して行ってもよい。このような構成によれば、柱状ハニカム構造部11のセル15の延伸方向に沿った地点での測定も行うため、より詳細で精度の高いハニカム構造体10の発熱分布の推定が可能となる。
【0034】
次に、測定された複数地点の表面電位に基づいて、ハニカム構造体10内の複数箇所での抵抗(以下、通電抵抗とも称する)、通電経路による抵抗比率、電圧分担率、及び、電極層A1、A2、B1、B2の表面電位、の少なくとも1つを定量化する。これらの定量化は、1つ、または複数を組み合わせて行ってもよい。
【0035】
上記の定量化について、(i)上述の複数地点の表面電位の測定において、電極層A1における測定地点での最も低い表面電位と、電極層B1における測定地点での最も高い表面電位との差(以下、下側抵抗とも称する)、及び/または、(ii)上述の複数地点の表面電位の測定において、電極層A2における測定地点での最も低い表面電位と、電極層B2における測定地点での最も高い表面電位との差(以下、上側抵抗とも称する)に基づいて通電抵抗の抵抗比率を算出してもよい。すなわち、表面電位の測定の始点が位置する電極層の最低表面電位から終点が位置する電極層の最高表面電位の電位差に基づいて通電抵抗の抵抗比率を算出することができる。また、このとき、電極層A1上から外周壁上を亘り電極層B1上へと測定した複数地点の始点と終点の表面電位差と、電極層A2上から外周壁上を亘り電極層B2上へと測定した複数地点の始点と終点の表面電位差との平均値によってハニカム構造体内の複数箇所での抵抗を推定してもよい。
【0036】
また、上記の定量化について、電極層A1、A2、B1、B2の表面電位の定量化は、(iii)電極層A1及び電極層B1において複数地点で表面電位を測定し、その電極層A1における表面電位、及び、その電極層B1における表面電位、及び/又は、(iv)電極層A2及び電極層B2において複数地点で表面電位を測定し、その電極層A2における表面電位、及び、その電極層B2における表面電位から、電極層A1、A2、B1、B2の合計電圧を算出し、全体電圧に対する電極層A1、A2、B1、B2の合計電圧分担率を算出する。
【0037】
また、上記の定量化について、ハニカム構造体10の通電経路の抵抗比率は、上側抵抗と下側抵抗から、上側抵抗の比率(上側抵抗/(上部抵抗+下側抵抗))を算出する。
【0038】
上述の例のようにハニカム構造体10の、通電経路による抵抗比率、通電経路の電圧分担率、及び、電極層A1、A2、B1、B2の表面電位、の少なくとも1つの定量化を行い、これらの定量化した値に基づいて、ハニカム構造体10内の発熱分布を推定する。発熱分布の推定としては、例えば、通電経路による抵抗比率、通電経路の電圧分担率、及び、全体電圧に対する電極層の合計電圧分担率の値と、これらの値における発熱分布の関係を対比することによって、所望の発熱分布となる(発熱の偏りが少ないなど)以下の第1から第3の指標を設定することが挙げられる。発熱分布の関係との対比については、例えば、表面電位を定量化した複数のハニカム構造体(各サンプル)に対して、所定の通電発熱条件(後述の具体例においては、電力:1.5kw、印加時間:20秒)にて通電発熱した際の、後述する位置での温度差を求め、この温度差との関係を対比する方法が挙げられる。
【0039】
通電経路(上側と下側)による抵抗比率については、以下のような第1の指標により所望の発熱分布になるかを判断することが可能である。
・第1の指標:上記の上側抵抗と下側抵抗との抵抗比率(上側抵抗/(上部抵抗+下側抵抗))を算出し、この値が0.50±α(一定値)である、とする指標。α(一定値)については、図5に示すように、通電経路による抵抗比率の値(上側抵抗と下側抵抗との比率)を横軸、上側と下側の電極層の端部における発熱分布の最大温度と最小温度との差を縦軸として、各サンプルの値をプロットし、そこから所望の発熱分布(発熱分布の最大温度と最小温度との差が小さく、発熱の偏りが小さくなる)が得られるものを正常として、正常となるサンプルが位置するプロットからαを設定する。
【0040】
通電経路の電圧分担率については、以下のような第2の指標により所望の発熱分布になるかを判断することが可能である。
・第2の指標:測定によって得られた電極層A1または電極層A2とハニカム構造体の外周壁との表面電位差Pと、電極層B1または電極層B2とハニカム構造体の外周壁との表面電位差Qを求め、ハニカム構造体の通電経路の電圧分担率(P/P+Q)を算出し、この値が0.50±α(一定値)である、とする指標。このとき、図6に示すように、ハニカム構造体の上側(電極層A2、B2側)と下側(電極層A1、B1側)の各表面電位について、ハニカム構造体の左側(電極層A1、A2側)と右側(電極層B1、B2側)の電圧分担率を、図6のグラフにおけるハニカム構造体の左側の表面電位(表面電位差P)/左側と右側の合計表面電位(表面電位差P+Q)から算出する。図6において、横軸は、外周壁の所定位置からの距離を示し、縦軸は、表面電位の最も低い地点と最も高い地点での表面電位差(全体電圧)を1として、全体電圧を規格化したときの、測定した地点の表面電位を示す。α(一定値)については、図7に示すように、通電経路の電圧分担率の値を横軸、左側と右側の電極層の端部における発熱分布において、高温側の電極層端部と低温側の電極層端部との温度差を縦軸として、各サンプルの値をプロットし、そこから所望の発熱分布(発熱分布の電極層端部の温度差が小さく、発熱の偏りが小さくなる)が得られるものを正常として、正常となるサンプルが位置するプロットからαを設定する。
【0041】
電極層A1、A2、B1、B2の表面電位の定量化については、以下のような第3の指標により所望の発熱分布になるかを判断することが可能である。
・第3の指標:図6に示すように、測定によって得られた電極層A1(B1)と電極層A2(B2)との合計分担電圧Rを算出し、全体電圧(全体の規格化電圧)に対する電極層の合計電圧分担率(R/1)を算出する。全体電圧としては、ハニカム構造体の上側半分または下側半分の表面電位測定において、表面電位の最も低い地点と最も高い地点での表面電位差を1と規格化し、これを全体の規格化電圧とする。また、電極層の合計分担電圧は、表面電位の最も低い地点と電極層の端部との表面電位差と、表面電位の最も高い地点と電極層の端部との表面電位差と、を合計した値を意味する。
第3の指標は、この電極層の合計電圧分担率の値について、電極層端部と電極層中央部との発熱分布の温度差がT1℃以上となる電極層の電圧分担率を上限の閾値とし、電極層端部と電極層中央部との発熱分布の温度差がT2℃以下となる電極層の電圧分担率を下限の閾値とする指標である。なお、T1については、例えば、電流が電極層の中央部から端部へと分散しやすくするため、例えば、0℃以上とすることが挙げられる。一方、T2に関しては、ハニカム構造体の径、容積、ハニカム構造部および電極層の電気抵抗率等に基づいて、適宜設定することができる。図8に、電極層の合計電圧分担率の値を横軸、電極層端部と電極層中央部との発熱分布の温度差(℃)を縦軸として、各サンプルの値をプロットした。この場合、下限の閾値と上限の閾値との間に位置するものを所望の発熱分布(発熱分布の最大温度と最小温度との差が小さく、発熱の偏りが小さくなる)を有するものと推定する。
【0042】
本発明の実施形態に係るハニカム構造体の発熱分布の推定方法によれば、ハニカム構造体10が発熱しない程度の微小電流を流してハニカム構造体10の表面電位を測定し、測定された複数の表面電位に基づいて、ハニカム構造体内の複数箇所での抵抗、通電経路による抵抗比率、電圧分担率、及び電極層A1、A2、B1及びB2の表面電位、の少なくとも1つを定量化して、この定量化した値に基づいて、所望の発熱分布を推定することができる。このため、ハニカム構造体または電気加熱式担体を発熱し、さらに冷却する必要が無く、省電力(低コスト)での検査が可能となるため、簡易かつ安価に推定することが可能となる。また、本発明の実施形態に係るハニカム構造体の発熱分布の推定方法によれば、電極層が分割されたことで通電経路(上側/下側)の抵抗比率、電圧分担率を算出できるとともに、電極層における合計電圧分担率を算出し、その値に基づくことにより好ましいハニカム構造体の発熱分布を推定することができる。
【0043】
<ハニカム構造体の製造方法>
本発明の実施形態に係るハニカム構造体の製造方法は、まず、上述のように本発明の実施形態に係るハニカム構造体の発熱分布の推定方法によって、ハニカム構造体10内の複数箇所での抵抗、通電経路による抵抗比率、電圧分担率、及び前記電極層A1、A2、B1及びB2の表面電位、の少なくとも1つを定量化し、定量値を算出する。
次に、ハニカム構造体内の発熱分布を推定する工程で得られた閾値に基づいて当該定量値を評価して、合格品を選別する。合格品の選別基準は、ハニカム構造体10に必要な閾値に基づいて適宜設定することができる。選別基準として、例えば、上述の所定の微小電流を流して、通電経路による抵抗比率、電圧分担率、及び前記電極層A1、A2、B1及びB2の表面電位を定量化し、ハニカム構造体の発熱分布を推定する工程で得られた閾値に基づいて、所望の発熱分布となる上記第1~第3の指標での評価を行い、これらの指標に示す閾値を満足することによって、合格品とするなどが挙げられる。
本発明の実施形態に係るハニカム構造体の製造方法によれば、上述のように定量化した値を算出し、所定の指標を設けて、その指標における閾値に基づいて定量値を評価することで、合格品に選別されたハニカム構造体が得られるため、精度の高い評価に基づく選別がなされたハニカム構造体を簡易かつ安価に作製することができる。
【0044】
<電気加熱式担体の製造方法>
(1.電気加熱式担体)
図4は、本発明の実施形態に係る電気加熱式担体20のセルの延伸方向に垂直な断面模式図である。電気加熱式担体20は、上述のハニカム構造体10及び金属端子21a、21bを備えている。
【0045】
(2.金属端子)
金属端子21a、21bは、それぞれ、ハニカム構造体10の電極層A1及びA2、電極層B1及びB2上に設けられており、電気的に接合されている。これにより、金属端子21a、21bは、電極層A1、A2、B1、B2を介して電圧を印加すると通電してジュール熱によりハニカム構造体10を発熱させることが可能である。
【0046】
金属端子21a、21bの材質としては、金属であれば特段の制約はなく、単体金属及び合金等を採用することもできるが、耐食性、電気抵抗率及び線膨張率の観点から例えば、Cr、Fe、Co、Ni及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含む合金とすることが好ましく、ステンレス鋼及びFe-Ni合金がより好ましい。金属端子21a、21bの形状及び大きさは、特に限定されず、電気加熱式担体20の大きさや通電性能等に応じて、適宜設計することができる。
【0047】
電気加熱式担体20に触媒を担持することにより、電気加熱式担体20を触媒体として使用することができる。複数のセル15の流路には、例えば、自動車排ガス等の流体を流すことができる。触媒としては、例えば、貴金属系触媒又はこれら以外の触媒が挙げられる。貴金属系触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属をアルミナ細孔表面に担持し、セリア、ジルコニア等の助触媒を含む三元触媒や酸化触媒、又は、アルカリ土類金属と白金を窒素酸化物(NOx)の吸蔵成分として含むNOx吸蔵還元触媒(LNT触媒)が例示される。貴金属を用いない触媒として、銅置換又は鉄置換ゼオライトを含むNOx選択還元触媒(SCR触媒)等が例示される。また、これらの触媒からなる群から選択される2種以上の触媒を用いてもよい。なお、触媒の担持方法についても特に制限はなく、従来、ハニカム構造体に触媒を担持する担持方法に準じて行うことができる。
【0048】
(3.電気加熱式担体の製造方法)
本発明の実施形態に係る電気加熱式担体の製造方法は、まず、本発明の実施形態に係るハニカム構造体10を準備し、ハニカム構造体10の電極層A1、A2、B1、B2上に金属端子21a、21bを溶接や溶射などで設ける。
次に、上述のように本発明の実施形態に係るハニカム構造体の発熱分布の推定方法によって、検査前(具体的には、後述の検査工程を行う前)のハニカム構造体10の第3の工程における定量値を算出する。
次に、ハニカム構造体10内の発熱分布を推定する工程で得られた閾値に基づいて、第3の工程における定量値を評価して、合格品を選別する検査工程を行う。このような検査工程によって、電気加熱式担体20を作製することができる。なお、ハニカム構造体10の発熱分布の推定方法によって、検査前のハニカム構造体10の第3の工程における定量値を評価して合格品を選別し、その後、合格品のハニカム構造体10の電極層A1、A2、B1、B2上に金属端子21a、21bを設けてもよい。
合格品の選別基準は、所望の発熱分布となり得るハニカム構造体10に必要な閾値に基づいて適宜設定することができる。例えば、当該選別基準は、上述のハニカム構造体の製造方法で示した合格品の選別基準を用いることができる。
【0049】
(4.具体例)
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための具体例を例示するが、本発明は当該具体例に限定されるものではない。
【0050】
<具体例1>
(1.ハニカム構造体の準備)
図1に示したような構成のハニカム構造体を準備する。当該ハニカム構造体は、Si-SiC製であり、端面が直径100mmの円形であり、高さ(セルの流路方向における長さ)が100mmである。セル密度は93セル/cm2であり、隔壁の厚みは101.6μmであり、隔壁の気孔率は45%であり、隔壁の平均細孔径は8.6μmである。
ハニカム構造体の電極層A1、A2、B1、B2はSi-SiC製であり、電極層A1と電極層A2との間のスリット、及び、電極層B1と電極層B2との間のスリットの幅は、1.5mmであった。電極層A1、A2、B1、B2の厚みは、それぞれ0.2mmである。
また、ハニカム構造体は、外周壁において、電極層A1が設けられている表面と電極層B1が設けられている表面との間、及び、電極層A2が設けられている表面と電極層B2が設けられている表面との間に、それぞれ、セルの延伸方向に沿うように幅1.5mmのスリット(熱応力緩和スリット)が設けられている。
【0051】
(2.通電試験)
次に、図2に示すように、電源部から電気的に接続された2本の電流端子を、ハニカム構造体の電極層A1と電極層B1にそれぞれ押し当て、40mAの定電流(微小電流)を流し、通電させる。
次に、ハニカム構造体を通電させた状態で、外周壁及び電極層A1、B1の表面において、電極層A1から電極層B1に渡って、それぞれ周方向に沿って離間した合計36地点の表面電位を測定する。
【0052】
次に、図3に示すように、電源部から電気的に接続された2本の電流端子を、ハニカム構造体の電極層A2と電極層B2にそれぞれ押し当て、40mAの定電流(微小電流)を流し、通電させる。
次に、ハニカム構造体を通電させた状態で、外周壁及び電極層A2、B2の表面において、電極層A2から電極層B2に渡って、それぞれ周方向に沿って離間した合計36地点の表面電位を測定する。
【0053】
上述の電極層A1上から外周壁上を亘り電極層B1上へと測定した36地点の位置と、それらの表面電位、及び、上述の電極層A2上から外周壁上を亘り電極層B2上へと測定した36地点の位置と、それらの表面電位との関係を示すグラフを図9に示す。
【0054】
(3.表面電位の定量化、発熱分布の推定)
ハニカム構造体内の複数箇所での抵抗(通電抵抗)、通電経路による抵抗比率、電圧分担率、及び、電極層A1、A2、B1、B2の表面電位を定量化する。発熱分布の推定については、各サンプル(複数のハニカム構造体)において、電力:1.5kw、印加時間:20秒にて通電発熱した際の後述の温度差を求めた。
表面電位の定量化に関して、具体的には、電極層A1上から外周壁上を亘り電極層B1上へと測定した36地点の始点と終点の表面電位差と、電極層A2上から外周壁上を亘り電極層B2上へと測定した36地点の始点と終点の表面電位差との平均値によってハニカム構造体内の複数箇所での抵抗を推定する。
電極層A1、A2、B1、B2の合計分担電圧(R)を、電極層A1及びB1、または電極層A2及びB2のいずれか表面電位の低い方を表面電位データから算出し、全体電圧(全体の規格化電圧)に対する電極層の合計電圧分担率(R/1)を算出する。
同様の電極層の合計電圧分担率の算出を、複数のハニカム構造体(各サンプル)について行い、図8に示すように、全体の規格化電圧に対する電極層の合計電圧分担率の値を横軸、電極層端部と電極層中央部との発熱分布の温度差(℃)を縦軸として、各サンプルの値をプロットする。この電極層の合計電圧分担率の値について、上限の閾値となる電圧分担率と、下限の閾値となる電圧分担率とを設定し、この下限の閾値と上限の閾値との間に位置するものを所望の発熱分布(発熱分布の平均温度差が小さく、発熱の偏りが小さくなる)を有するものと推定する。
ハニカム構造体の通電経路の抵抗比率を、上述の電極層A1と電極層B1との間の外周壁での表面電位と、電極層A2と電極層B2との間の外周壁での表面電位との差に基づいて算出する。具体的には、電極層A1上から外周壁上を亘り電極層B1上へと測定した36地点における電極層A1の最も低い表面電位と電極層B1の最も高い表面電位との差(下側抵抗)を求める。さらに、電極層A2上から外周壁上を亘り電極層B2上へと測定した36地点における電極層A2の最も低い表面電位と電極層B2の最も高い表面電位との差(上側抵抗)を求める。そして、上側抵抗と下側抵抗との比率(上側抵抗/(上側抵抗+下側抵抗))を算出することによってハニカム構造体の通電経路の抵抗比率を算出する。
同様の通電経路の抵抗比率の算出を、複数のハニカム構造体(各サンプル)について行い、図5に示すように、通電経路による上側抵抗と下側抵抗との比率(ハニカム構造体の通電経路の抵抗比率)を横軸、上側と下側の電極層の端部における発熱分布の最大温度と最小温度との差を縦軸として、各サンプルの値をプロットする。この通電経路による上側抵抗と下側抵抗との比率の値について、閾値(0.50±α)を設定し、この閾値内に位置するものを所望の発熱分布(発熱分布の最大温度と最小温度との差が小さく、発熱の偏りが小さくなる)を有するものと推定する。
ハニカム構造体の通電経路の電圧分担率を、電極層A1及びB1、または電極層A2及びB2のいずれか表面電位の低い方を表面電位データから算出する。具体的には、電極層A1(又は電極層A2)における表面電位が一定となった点と外周壁の所定位置での表面電位差Pと、電極層B1(又は電極層B2)における表面電位が一定となった点と外周壁の所定位置での表面電位差Qと、を算出し、この表面電位差P、Qに基づき、通電経路の電圧分担率(P/P+Q)を算出する。なお、外周壁の所定位置は、電極層A1(又は電極層A2)と外周壁のある位置との距離(外周壁の左半分)と、電極層B1(又は電極層B2)と外周壁のある位置との距離(外周壁の右半分)と、が等しくなる位置である。
同様の通電経路の電圧分担率の算出を、複数のハニカム構造体(各サンプル)について行い、図7に示すように、通電経路の電圧分担率の値を横軸、左側と右側の電極層の端部における発熱分布の高温側の電極層端部と低温側の電極層端部との温度差を縦軸として、各サンプルの値をプロットする。この通電経路の電圧分担率の値について、閾値(0.50±α)を設定し、この閾値内に位置するものを所望の発熱分布(発熱分布の最大温度と最小温度との差が小さく、発熱の偏りが小さくなる)を有するものと推定する。
【0055】
上述のように複数のハニカム構造体(各サンプル)内の通電経路による抵抗比率、通電経路の電圧分担率、及び、電極層A1、A2、B1、B2の表面電位の定量化(電極層の合計電圧分担率)を行い、これらに基づいて、ハニカム構造体内の発熱分布を推定し、所望の発熱分布を有するものを推定する。具体的には、通電経路による抵抗比率、低抵抗側における通電経路の電圧分担率、低抵抗側において全体の規格化電圧に対する電極層の合計電圧分担率を算出し、これらの算出した値とその値における発熱分布との関係を対比し、所望の発熱分布となる上記の第1から第3の指標を設定することによってハニカム構造体内の発熱分布を推定する。
【0056】
なお、表面電位の測定値と、表面電位の設計値との差を対比することにより、ハニカム構造体の設計値との抵抗差を推定することもできる。
【0057】
具体例1に示すように、ハニカム構造体が発熱しない程度の微小電流を流してハニカム構造体の表面電位の変化を測定し、その分布を定量化することで、発熱性能を推定することができる。このため、ハニカム構造体の発熱分布を簡易かつ安価に推定することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 ハニカム構造体
11 柱状ハニカム構造部
12 外周壁
13 隔壁
15 セル
16 スリット
20 電気加熱式担体
21a、21b 金属端子
31 電源部
32 電流端子
33 測定地点
A1、A2、B1、B2 電極層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9