(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
B60K 20/02 20060101AFI20240719BHJP
F16H 63/20 20060101ALI20240719BHJP
G05G 9/02 20060101ALI20240719BHJP
G05G 9/10 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
B60K20/02 D
F16H63/20
G05G9/02
G05G9/10 Z
(21)【出願番号】P 2021133255
(22)【出願日】2021-08-18
【審査請求日】2023-12-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.メールの送信日 令和3年7月27日 2.メールの送信日 令和3年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中谷 翔大
(72)【発明者】
【氏名】吉松 広貴
(72)【発明者】
【氏名】坂井 裕紀
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-46617(JP,U)
【文献】特開2004-224122(JP,A)
【文献】実開昭57-5326(JP,U)
【文献】特開平11-280856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 20/02
F16H 63/20
G05G 9/02
G05G 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンからの動力によって駆動される左右の駆動輪と、
前記エンジンからの動力を前記左右の駆動輪に伝達する動力伝達装置と、を備え、
前記動力伝達装置は、
前記エンジンからの動力を変速する主変速機構と、
前記主変速機構からの動力を変速する副変速機構と、
前記副変速機構からの動力を減速するクリープ変速機構と、
前記主変速機構からの動力を増速するオーバードライブ変速機構と、を有し、
機体左右方向に沿って延びる第一揺動軸心及び機体前後方向に沿って延びる第二揺動軸心周りで揺動可能に構成され、前記クリープ変速機構及び前記オーバードライブ変速機構を各別に変速操作する単一の変速レバーと、
前記変速レバーと前記クリープ変速機構とを連係するクリープリンク機構と、
前記変速レバーと前記オーバードライブ変速機構とを連係するオーバードライブリンク機構と、
前記変速レバーを案内するレバーガイドと、を備え、
前記レバーガイドは、
機体前後方向に沿って延びる溝状に形成され、前記クリープ変速機構を変速操作する際に前記変速レバーが機体前後方向に移動するのを許容するクリープガイド溝と、
前記クリープガイド溝の横隣りにおいて、機体前後方向に沿って延びる溝状に形成され、前記オーバードライブ変速機構を変速操作する際に前記変速レバーが機体前後方向に移動するのを許容するオーバードライブガイド溝と、
前記クリープガイド溝と前記オーバードライブガイド溝とに亘って機体左右方向に沿って延びる溝状に形成され、前記変速レバーが前記クリープガイド溝と前記オーバードライブガイド溝との間で機体左右方向に移動するのを許容する横ガイド溝と、を有し、
前記変速レバーの操作位置として、
前記クリープガイド溝のうち機体前後方向の一方側の端部に位置し、前記クリープ変速機構が前記副変速機構からの動力を減速する状態となる低速位置と、
前記クリープガイド溝のうち前記横ガイド溝が接続される部分に位置し、前記クリープ変速機構が中立状態となる第一中立位置と、
前記オーバードライブガイド溝のうち機体前後方向の他方側の端部に位置し、前記オーバードライブ変速機構が前記主変速機構からの動力を増速する状態となる高速位置と、
前記オーバードライブガイド溝のうち前記横ガイド溝が接続される部分に位置し、前記オーバードライブ変速機構が中立状態となる第二中立位置と、が設定され、
前記クリープリンク機構は、前記変速レバーの基部に対して機体左右方向の一方側に配置され、前記第一揺動軸心周りで揺動可能なクリープリンク部材を有し、
前記オーバードライブリンク機構は、前記変速レバーの基部に対して機体左右方向の他方側に配置され、前記第一揺動軸心周りで揺動可能なオーバードライブリンク部材を有し、
前記変速レバーは、前記変速レバーの基部から機体左右方向の両側に向かって突出する軸部材を有し、
前記軸部材は、
前記軸部材のうち前記変速レバーの基部から前記クリープリンク部材側に向かって突出する第一軸部分と、
前記軸部材のうち前記変速レバーの基部から前記オーバードライブリンク部材側に向かって突出する第二軸部分と、を有し、
前記クリープリンク部材に、前記第一軸部分が入り込む第一凹部が形成され、前記第一軸部分が前記第一凹部に入り込むことにより、前記変速レバーと前記クリープリンク部材とが連係され、
前記オーバードライブリンク部材に、前記第二軸部分が入り込む第二凹部が形成され、前記第二軸部分が前記第二凹部に入り込むことにより、前記変速レバーと前記オーバードライブリンク部材とが連係され、
前記第一軸部分のうち機体前後方向で前記低速位置が位置する側とは反対側の部分に、前記クリープリンク部材が前記第一中立位置から前記低速位置側に位置ずれした状態において、前記変速レバーが前記横ガイド溝に沿って前記クリープガイド溝から前記オーバードライブガイド溝に移動する際に前記第一凹部に引っ掛かる引っ掛かり部が形成されている作業車。
【請求項2】
前記引っ掛かり部は、前記軸部材の軸心側に向かって凹入する切り欠き部によって構成されている請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記切り欠き部の前記軸部材の軸心方向の長さは、前記クリープリンク部材のうち前記第一凹部に対応する部分の厚さの二倍よりも長い長さに構成されている請求項2に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業車として、例えば、特許文献1に記載の作業車が知られている。特許文献1に記載の作業車は、エンジン(文献では「エンジン〔3〕」)と、エンジンからの動力によって駆動される左右の駆動輪(文献では「後輪〔2〕」)と、エンジンからの動力を左右の駆動輪に伝達する動力伝達装置(文献では「主変速機構〔A〕」等)と、を備えている。
【0003】
動力伝達装置は、エンジンからの動力を変速する主変速機構(文献では「主変速機構〔A〕」)と、主変速機構からの動力を変速する副変速機構(文献では「副変速機構〔D〕」)と、副変速機構からの動力を減速するクリープ変速機構(文献では「クリープ変速機構〔E〕」)と、主変速機構からの動力を増速するオーバードライブ変速機構(文献では「オーバー・ドライブ変速機構〔F〕」)と、を備えている。クリープ変速機構及びオーバードライブ変速機構は、単一の変速レバー(文献では「操作レバー〔31〕」)によって各別に変速操作されるように構成されている。変速レバーは、機体左右方向に沿って延びる第一揺動軸心(文献では「横軸支点〔a〕」)及び機体前後方向に沿って延びる第二揺動軸心(文献では「支点〔b〕」)周りで揺動可能に構成されている。
【0004】
変速レバーとクリープ変速機構とは、クリープリンク機構(文献では「変速操作アーム〔32〕」等)によって連係されている。クリープリンク機構は、変速レバーの基部に対して機体左右方向の一方側に配置され、第一揺動軸心周りで揺動可能なクリープリンク部材(文献では「変速操作アーム〔32〕」)を備えている。クリープリンク部材には、変速レバーが入り込む凹部(文献では「凹部〔32a〕」)が形成されている。変速レバーをクリープリンク部材の凹部に入り込ませることにより、変速レバーとクリープリンク部材とが連係されることになる。
【0005】
変速レバーとオーバードライブ変速機構とは、オーバードライブリンク機構(文献では「変速操作アーム〔33〕」等)によって連係されている。オーバードライブリンク機構は、変速レバーの基部に対して機体左右方向の他方側に配置され、第一揺動軸心周りで揺動可能なオーバードライブリンク部材(文献では「変速操作アーム〔33〕」)を備えている。オーバードライブリンク部材には、変速レバーが入り込む凹部(文献では「凹部〔33a〕」)が形成されている。変速レバーをオーバードライブリンク部材の凹部に入り込ませることにより、変速レバーとオーバードライブリンク部材とが連係されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1に記載の作業車では、変速レバーを低速位置(文献では「クリープ変速機構〔E〕のオン」)から中立位置(文献では「クリープ変速機構〔E〕の中立」)側に強い力で引っ張ると、クリープリンク部材に撓みが生じることがある。そして、クリープリンク部材に撓みが生じた状態で、変速レバーをクリープリンク機構の中立位置からオーバードライブ変速機構の中立位置(文献では「オーバー・ドライブ変速機構〔F〕のオフ」)側に移動させて、変速レバーがクリープリンク部材の凹部から外れると、クリープリンク部材の撓みが解放されることになる。そうすると、クリープリンク部材の撓みの解放によって、クリープリンク部材が中立位置から低速位置側に位置ずれすることになる。この場合、変速レバーをクリープリンク部材の凹部に入り込ませようとしても、変速レバーをクリープリンク部材の凹部に入り込ませることができない。
【0008】
上記状況に鑑み、クリープリンク部材が中立位置から低速位置側に位置ずれすることによって、変速レバーをクリープリンク部材に連係させることができない事態を回避することが可能な作業車が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、
エンジンと、
前記エンジンからの動力によって駆動される左右の駆動輪と、
前記エンジンからの動力を前記左右の駆動輪に伝達する動力伝達装置と、を備え、
前記動力伝達装置は、
前記エンジンからの動力を変速する主変速機構と、
前記主変速機構からの動力を変速する副変速機構と、
前記副変速機構からの動力を減速するクリープ変速機構と、
前記主変速機構からの動力を増速するオーバードライブ変速機構と、を有し、
機体左右方向に沿って延びる第一揺動軸心及び機体前後方向に沿って延びる第二揺動軸心周りで揺動可能に構成され、前記クリープ変速機構及び前記オーバードライブ変速機構を各別に変速操作する単一の変速レバーと、
前記変速レバーと前記クリープ変速機構とを連係するクリープリンク機構と、
前記変速レバーと前記オーバードライブ変速機構とを連係するオーバードライブリンク機構と、
前記変速レバーを案内するレバーガイドと、を備え、
前記レバーガイドは、
機体前後方向に沿って延びる溝状に形成され、前記クリープ変速機構を変速操作する際に前記変速レバーが機体前後方向に移動するのを許容するクリープガイド溝と、
前記クリープガイド溝の横隣りにおいて、機体前後方向に沿って延びる溝状に形成され、前記オーバードライブ変速機構を変速操作する際に前記変速レバーが機体前後方向に移動するのを許容するオーバードライブガイド溝と、
前記クリープガイド溝と前記オーバードライブガイド溝とに亘って機体左右方向に沿って延びる溝状に形成され、前記変速レバーが前記クリープガイド溝と前記オーバードライブガイド溝との間で機体左右方向に移動するのを許容する横ガイド溝と、を有し、
前記変速レバーの操作位置として、
前記クリープガイド溝のうち機体前後方向の一方側の端部に位置し、前記クリープ変速機構が前記副変速機構からの動力を減速する状態となる低速位置と、
前記クリープガイド溝のうち前記横ガイド溝が接続される部分に位置し、前記クリープ変速機構が中立状態となる第一中立位置と、
前記オーバードライブガイド溝のうち機体前後方向の他方側の端部に位置し、前記オーバードライブ変速機構が前記主変速機構からの動力を増速する状態となる高速位置と、
前記オーバードライブガイド溝のうち前記横ガイド溝が接続される部分に位置し、前記オーバードライブ変速機構が中立状態となる第二中立位置と、が設定され、
前記クリープリンク機構は、前記変速レバーの基部に対して機体左右方向の一方側に配置され、前記第一揺動軸心周りで揺動可能なクリープリンク部材を有し、
前記オーバードライブリンク機構は、前記変速レバーの基部に対して機体左右方向の他方側に配置され、前記第一揺動軸心周りで揺動可能なオーバードライブリンク部材を有し、
前記変速レバーは、前記変速レバーの基部から機体左右方向の両側に向かって突出する軸部材を有し、
前記軸部材は、
前記軸部材のうち前記変速レバーの基部から前記クリープリンク部材側に向かって突出する第一軸部分と、
前記軸部材のうち前記変速レバーの基部から前記オーバードライブリンク部材側に向かって突出する第二軸部分と、を有し、
前記クリープリンク部材に、前記第一軸部分が入り込む第一凹部が形成され、前記第一軸部分が前記第一凹部に入り込むことにより、前記変速レバーと前記クリープリンク部材とが連係され、
前記オーバードライブリンク部材に、前記第二軸部分が入り込む第二凹部が形成され、前記第二軸部分が前記第二凹部に入り込むことにより、前記変速レバーと前記オーバードライブリンク部材とが連係され、
前記第一軸部分のうち機体前後方向で前記低速位置が位置する側とは反対側の部分に、前記クリープリンク部材が前記第一中立位置から前記低速位置側に位置ずれした状態において、前記変速レバーが前記横ガイド溝に沿って前記クリープガイド溝から前記オーバードライブガイド溝に移動する際に前記第一凹部に引っ掛かる引っ掛かり部が形成されていることにある。
【0010】
本特徴構成によれば、クリープリンク部材が第一中立位置から低速位置側に位置ずれした状態において、変速レバーを横ガイド溝に沿ってクリープガイド溝からオーバードライブガイド溝に移動させようとすると、引っ掛かり部が第一凹部に引っ掛かることになる。これにより、クリープリンク部材が第一中立位置から低速位置側に位置ずれした状態において、第一軸部分が第一凹部から抜け出ることがない。すなわち、クリープリンク部材が第一中立位置から低速位置側に位置ずれすることによって、変速レバーをクリープリンク部材に連係させることができない事態を回避することができる。
【0011】
さらに、本発明において、
前記引っ掛かり部は、前記軸部材の軸心側に向かって凹入する切り欠き部によって構成されていると好適である。
【0012】
本特徴構成によれば、第一軸部分に切り欠き部を形成するだけで、引っ掛かり部を簡単に構成することができる。
【0013】
さらに、本発明において、
前記切り欠き部の前記軸部材の軸心方向の長さは、前記クリープリンク部材のうち前記第一凹部に対応する部分の厚さの二倍よりも長い長さに構成されていると好適である。
【0014】
本特徴構成によれば、切り欠き部が第一凹部に確実に引っ掛かるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】変速レバー、レバーガイド、クリープリンク機構及びオーバードライブリンク機構を示す前方斜視図である。
【
図4】変速レバー、レバーガイド、クリープリンク機構及びオーバードライブリンク機構を示す後方斜視図である。
【
図5】変速レバー及びレバーガイドを示す平面図である。
【
図7】変速レバーを低速位置から高速走行位置に切り替える際における軸部材の動きを示す平面図であって、クリープリンク部材が第一中立位置に位置している状態における軸部材の動きを示す平面図である。
【
図8】変速レバーを低速位置から高速走行位置に切り替える際における軸部材の動きを示す平面図であって、クリープリンク部材が第一中立位置から低速位置側に位置ずれしている状態における軸部材の動きを示す平面図である。
【
図9】別実施形態に係る軸部材を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、矢印Fの方向を「機体前側」、矢印Bの方向を「機体後側」、矢印Lの方向を「機体左側」、矢印Rの方向を「機体右側」とする。
【0017】
〔トラクタの全体構成〕
図1には、トラクタ(本発明に係る「作業車」に相当)を示している。本トラクタは、走行機体1と、原動部2と、運転部3と、変速部4と、を備えている。走行機体1は、左右の前輪5と、左右の後輪6(本発明に係る「駆動輪」に相当)と、左右の前輪5及び左右の後輪6に支持される機体フレーム7と、を備えている。前輪5は、操舵可能かつ駆動可能に構成されている。後輪6は、操舵不能かつ駆動可能に構成されている。本トラクタは、左右の後輪6のみが駆動する二輪駆動状態と、左右の前輪5及び左右の後輪6が駆動する四輪駆動状態と、に切り替え可能に構成されている。機体フレーム7の後部には、作業装置(図示省略)が連結されるリンク機構8が設けられている。
【0018】
原動部2は、エンジンEと、エンジンEを覆うボンネット9と、を備えている。運転部3は、運転者が着座する運転座席10と、運転者の搭乗空間を覆うキャビン11と、走行機体1を操向操作するためのステアリングハンドル12と、各種の操作レバー(後述する、主変速レバーや副変速レバー、変速レバー27等)と、を備えている。変速部4は、トランスミッションケース13と、トランスミッションケース13に収容される動力伝達装置14(
図2参照)と、を備えている。
【0019】
〔動力伝達装置〕
図2に示すように、動力伝達装置14は、エンジンEからの動力を駆動対象部(左右の後輪6等)に伝達するように構成されている。動力伝達装置14は、第一クラッチ機構15と、主変速機構16と、第二クラッチ機構17と、前後進切替機構18と、副変速機構19と、クリープ変速機構20と、オーバードライブ変速機構21と、を備えている。主変速機構16、前後進切替機構18、副変速機構19、クリープ変速機構20及びオーバードライブ変速機構21は、いずれもギヤ機構によって構成されている。
【0020】
第一クラッチ機構15は、エンジンEと主変速機構16との間において、エンジンEから主変速機構16への動力の伝達を入り切りするように構成されている。主変速機構16は、エンジンEからの動力を変速するように構成されている。第二クラッチ機構17は、主変速機構16と前後進切替機構18との間において、主変速機構16から前後進切替機構18への動力の伝達を入り切りするように構成されている。前後進切替機構18は、主変速機構16からの動力を正回転又は逆回転に切り替えて出力するように構成されている。すなわち、前後進切替機構18は、走行機体1の走行方向を前進又は後進に切り替えるように構成されている。副変速機構19は、前後進切替機構18からの動力を変速するように構成されている。すなわち、副変速機構19は、主変速機構16からの動力を変速するように構成されている。
【0021】
クリープ変速機構20は、副変速機構19からの動力を減速するように構成されている。クリープ変速機構20によって、副変速機構19からの動力が超低速(クリープ速度)に変速されることになる。
【0022】
ここで、シフタ22が伝動軸23に噛み合っていれば、副変速機構19からの動力が伝動軸23、シフタ22を経由して出力軸24に伝達されることになる。一方、シフタ22がクリープ変速機構20に噛み合っていれば、副変速機構19からの動力が伝動軸23、クリープ変速機構20、シフタ22を経由して出力軸24に伝達されることになる。なお、シフタ22が伝動軸23及びクリープ変速機構20から離間していれば、副変速機構19からの動力が出力軸24に伝達されることはない。
【0023】
オーバードライブ変速機構21は、前後進切替機構18からの動力を変速するように構成されている。すなわち、オーバードライブ変速機構21は、主変速機構16からの動力を増速するように構成されている。オーバードライブ変速機構21によって、前後進切替機構18からの動力が高速走行に適した速度に変速されることになる。
【0024】
ここで、シフタ25がオーバードライブ変速機構21に噛み合っていれば、前後進切替機構18からの動力が伝動軸26、シフタ25、オーバードライブ変速機構21を経由して出力軸24に伝達されることになる。なお、シフタ25がオーバードライブ変速機構21から離間していれば、前後進切替機構18からの動力がオーバードライブ変速機構21を介して出力軸24に伝達されることはない。
【0025】
〔変速レバー〕
図3から
図6に示すように、クリープ変速機構20及びオーバードライブ変速機構21を各別に変速操作する単一の変速レバー27が設けられている。変速レバー27は、機体左右方向に沿って延びる第一揺動軸心X及び機体前後方向に沿って延びる第二揺動軸心Y周りで揺動可能に構成されている。変速レバー27は、主変速機構16を変速操作する主変速レバー及び副変速機構19を変速操作する副変速レバーとは別に設けられている。変速レバー27は、運転座席10の横隣り(本実施形態では、左隣り)に配置されている。
【0026】
変速レバー27は、軸部材28を備えている。軸部材28は、変速レバー27の基部27aから機体左右方向の両側に向かって突出している。軸部材28は、第一軸部分28aと、第二軸部分28bと、を備えている。第一軸部分28aは、軸部材28のうち変速レバー27の基部27aから左側(後述するクリープリンク部材31側)に向かって突出する部分である。第二軸部分28bは、軸部材28のうち変速レバー27の基部27aから右側(後述するオーバードライブリンク部材34側)に向かって突出する部分である。
【0027】
〔レバーガイド〕
図3から
図5に示すように、変速レバー27を案内するレバーガイド29が設けられている。レバーガイド29は、クリープガイド溝29aと、オーバードライブガイド溝29bと、横ガイド溝29cと、を備えている。
【0028】
クリープガイド溝29aは、機体前後方向に沿って延びる溝状に形成されている。クリープガイド溝29aは、クリープ変速機構20を変速操作する際に変速レバー27が機体前後方向に移動するのを許容するように構成されている。
【0029】
オーバードライブガイド溝29bは、クリープガイド溝29aの横隣り(本実施形態では、右隣り)において、機体前後方向に沿って延びる溝状に形成されている。オーバードライブガイド溝29bは、オーバードライブ変速機構21を変速操作する際に変速レバー27が機体前後方向に移動するのを許容するように構成されている。
【0030】
横ガイド溝29cは、クリープガイド溝29aの前後中間部とオーバードライブガイド溝29bの前端部とに亘って機体左右方向に沿って延びる溝状に形成されている。横ガイド溝29cは、変速レバー27がクリープガイド溝29aとオーバードライブガイド溝29bとの間で機体左右方向に移動するのを許容するように構成されている。
【0031】
ここで、変速レバー27の操作位置として、低速位置LPと、高速位置HPと、第一中立位置NP1と、高速走行位置HDP(本発明に係る「高速位置」に相当)と、第二中立位置NP2と、が設定されている。
【0032】
低速位置LPは、クリープガイド溝29aのうち機体前後方向の一方側の端部(本実施形態では、前端部)に位置している。変速レバー27が低速位置LPに位置することにより、クリープ変速機構20が副変速機構19からの動力を減速する状態となる。すなわち、変速レバー27が低速位置LPに位置することにより、シフタ22がクリープ変速機構20に噛み合うことになる。
【0033】
高速位置HPは、クリープガイド溝29aのうち機体前後方向の他方側の端部(本実施形態では、後端部)に位置している。変速レバー27が高速位置HPに位置することにより、副変速機構19からの動力がクリープ変速機構20によって減速されずに出力軸24に伝達されることになる。すなわち、変速レバー27が高速位置HPに位置することにより、シフタ22が伝動軸23に噛み合うことになる。
【0034】
第一中立位置NP1は、クリープガイド溝29aのうち横ガイド溝29cが接続される部分に位置している。変速レバー27が第一中立位置NP1に位置することにより、クリープ変速機構20が中立状態となる。すなわち、変速レバー27が第一中立位置NP1に位置することにより、シフタ22が伝動軸23及びクリープ変速機構20から離間することになる。
【0035】
高速走行位置HDPは、オーバードライブガイド溝29bのうち機体前後方向の他方側の端部(本実施形態では、後端部)に位置している。変速レバー27が高速走行位置HDPに位置することにより、オーバードライブ変速機構21が前後進切替機構18からの動力を増速する状態となる。すなわち、変速レバー27が高速走行位置HDPに位置することにより、シフタ25がオーバードライブ変速機構21に噛み合うことになる。
【0036】
第二中立位置NP2は、オーバードライブガイド溝29bのうち横ガイド溝29cが接続される部分に位置している。変速レバー27が第二中立位置NP2に位置することにより、オーバードライブ変速機構21が中立状態となる。すなわち、変速レバー27が第二中立位置NP2に位置することにより、シフタ25がオーバードライブ変速機構21から離間することになる。
【0037】
〔クリープリンク機構〕
図3及び
図4に示すように、変速レバー27とクリープ変速機構20とを連係するクリープリンク機構30が設けられている。クリープリンク機構30は、第一揺動軸心X周りで揺動可能なクリープリンク部材31と、シフタ22を移動操作するクリープ操作アーム32と、を備えている。
【0038】
クリープリンク部材31は、変速レバー27の基部27aに対して機体左右方向の一方側(本実施形態では、左側)に配置されている。クリープリンク部材31の上端部には、下方に向かって凹入する第一凹部31aが形成されている。第一凹部31aは、第一軸部分28aが入り込むように構成されている。第一軸部分28aが第一凹部31aに入り込むことにより、第一軸部分28aと第一凹部31aとが係合されて、変速レバー27とクリープリンク部材31とが連係されることになる。
【0039】
〔オーバードライブリンク機構〕
図3及び
図4に示すように、変速レバー27とオーバードライブ変速機構21とを連係するオーバードライブリンク機構33が設けられている。オーバードライブリンク機構33は、第一揺動軸心X周りで揺動可能なオーバードライブリンク部材34と、シフタ25を移動操作するオーバードライブ操作アーム35と、を備えている。
【0040】
オーバードライブリンク部材34は、変速レバー27の基部27aに対して機体左右方向の他方側(本実施形態では、右側)に配置されている。オーバードライブリンク部材34の上端部には、下方に向かって凹入する第二凹部34aが形成されている。第二凹部34aは、第二軸部分28bが入り込むように構成されている。第二軸部分28bが第二凹部34aに入り込むことにより、第二軸部分28bと第二凹部34aとが係合されて、変速レバー27とオーバードライブリンク部材34とが連係されることになる。
【0041】
〔切り欠き部〕
図6から
図8に示すように、第一軸部分28aの後側部分には、切り欠き部28c(本発明に係る「引っ掛かり部」、「切り欠き部」に相当)が形成されている。切り欠き部28cは、第一軸部分28aのうち機体前後方向で低速位置LPが位置する側とは反対側の部分に形成されている。切り欠き部28cは、軸部材28の軸心C側に向かって凹入する形状に形成されている。すなわち、本発明に係る「引っ掛かり部」は、軸部材28の軸心C側に向かって凹入する切り欠き部28cによって構成されている。切り欠き部28cの軸部材28の軸心C方向の長さW1は、クリープリンク部材31のうち第一凹部31aに対応する部分の厚さW2の二倍よりも長い長さに構成されている。
【0042】
ここで、変速レバー27を低速位置LPから高速走行位置HDPに切り替える際における軸部材28の動きについて、
図7及び
図8に基づいて説明する。
【0043】
図7の上段の図に示すように、変速レバー27を低速位置LPから後側に引っ張ると、変速レバー27と共にクリープリンク部材31が後側に移動することになる。そして、
図7の中段の図に示すように、変速レバー27が第一中立位置NP1に位置すると、クリープリンク部材31も第一中立位置NP1に位置することになる。
【0044】
そして、
図7の中段、下段の図に示すように、クリープリンク部材31が第一中立位置NP1に位置している状態において、変速レバー27を第一中立位置NP1から第二中立位置NP2側に移動させると、切り欠き部28cが第一凹部31aに引っ掛かることなく(具体的には、第一軸部分28aの横外端部がクリープリンク部材31のうち第一凹部31aに対応する部分の横外側面に引っ掛かることなく)、第一軸部分28aが第一凹部31aから抜け出ることになる。これにより、変速レバー27を第二中立位置NP2に移動させて、第二軸部分28bを第二凹部34aに入り込ませることができる。
【0045】
図8の上段の図に示すように、変速レバー27を低速位置LPから後方に引っ張ると、変速レバー27と共にクリープリンク部材31が後側に移動することになる。ここで、変速レバー27を強い力で後方に引っ張ると、クリープリンク部材31に撓みが生じる場合がある。この場合、
図8の中段の図に示すように、変速レバー27が第一中立位置NP1に位置することになっても、クリープリンク部材31が第一中立位置NP1から低速位置LP側に位置ずれした状態となる。
【0046】
そして、
図8の中段、下段の図に示すように、クリープリンク部材31が第一中立位置NP1から低速位置LP側に位置ずれした状態において、変速レバー27を第一中立位置NP1から第二中立位置NP2側に移動させると、切り欠き部28cが第一凹部31aに引っ掛かって(具体的には、第一軸部分28aの横外端部がクリープリンク部材31のうち第一凹部31aに対応する部分の横外側面に引っ掛かって)、第一軸部分28aが第一凹部31aから抜け出ることができない。したがって、変速レバー27を第二中立位置NP2に移動させることができず、第二軸部分28bを第二凹部34aに入り込ませることができない。このように、切り欠き部28cは、クリープリンク部材31が第一中立位置NP1から低速位置LP側に位置ずれした状態において、変速レバー27が横ガイド溝29cに沿ってクリープガイド溝29aからオーバードライブガイド溝29bに移動する際に第一凹部31aに引っ掛かる引っ掛かり部として機能する。
【0047】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、本発明に係る「引っ掛かり部」は、切り欠き部28cによって構成されている。しかし、例えば、
図9に示すように、本発明に係る「引っ掛かり部」は、突起部28dによって構成されていてもよい。
【0048】
(2)上記実施形態では、切り欠き部28cの軸部材28の軸心C方向の長さW1は、クリープリンク部材31のうち第一凹部31aに対応する部分の厚さW2の二倍よりも長い長さに構成されている。しかし、切り欠き部28cの軸部材28の軸心C方向の長さW1は、クリープリンク部材31のうち第一凹部31aに対応する部分の厚さW2よりも長く構成されていれば、当該長さW2の二倍以下の長さに構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、トラクタの他、コンバインや田植機等の農業作業車にも利用可能である。また、本発明は、建設作業車にも利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
6 後輪(駆動輪)
14 動力伝達装置
16 主変速機構
19 副変速機構
20 クリープ変速機構
21 オーバードライブ変速機構
27 変速レバー
28 軸部材
28a 第一軸部分
28b 第二軸部分
28c 切り欠き部(引っ掛かり部、切り欠き部)
29 レバーガイド
29a クリープガイド溝
29b オーバードライブガイド溝
29c 横ガイド溝
30 クリープリンク機構
31 クリープリンク部材
33 オーバードライブリンク機構
34 オーバードライブリンク部材
C 軸部材の軸心
E エンジン
HDP 高速走行位置(高速位置)
LP 低速位置
NP1 第一中立位置
NP2 第二中立位置
W1 切り欠き部の軸部材の軸心方向の長さ
W2 クリープリンク部材のうち第一凹部に対応する部分の厚さ
X 第一揺動軸心
Y 第二揺動軸心