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特許7523431ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物、その成形体及びフィルム又はシート
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  • 特許-ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物、その成形体及びフィルム又はシート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物、その成形体及びフィルム又はシート
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20240719BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240719BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20240719BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C08L67/04
C08K3/36
C08G63/06
C08J5/18 CFD
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021508867
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008440
(87)【国際公開番号】W WO2020195550
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019062424
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋口 朋晃
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊輔
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-331757(JP,A)
【文献】特開2004-161802(JP,A)
【文献】特開2008-223002(JP,A)
【文献】国際公開第2008/018567(WO,A1)
【文献】特表2006-518799(JP,A)
【文献】特開2011-140656(JP,A)
【文献】米国特許第07754826(US,B1)
【文献】米国特許第08822584(US,B1)
【文献】特表2013-510572(JP,A)
【文献】ZHENG Z et al.,Effects of crystallization of polyhydroxyalkanoate blend on surface physicochemical properties and interactions with rabbit articular cartilage chondrocytes,Biomaterials, 2005,Vol.26,p.3537-3548,doi:10.1016/j.biomaterials.2004.09.041
【文献】KOYAMA N et al.,Miscibility of binary blends of poly[(R)-3-hydroxybutyric acid] and poly[(S)-lactic acid],POLYMER,1997,Vol.38 No.7,p.1589-1593,doi:10.1016/S0032-3861(96)00685-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08G
C08K
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分を含有するポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物であって、
前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分が、3-ヒドロキシヘキサノエート構造単位の平均含有比率が1~6モル%であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(A)と、3-ヒドロキシヘキサノエート構造単位又は4-ヒドロキシブチレート構造単位の平均含有比率が24~50モル%であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)又はポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(B)の混合物であり、
前記混合物中における前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(A)の割合が35~80重量%で、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)又はポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(B)の割合が20~65重量%であり、
該樹脂組成物の示差走査熱量分析における最も高い融解ピーク温度が130℃以上であり、かつ、全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーが20J/g~65J/gの範囲である、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分全体における3-ヒドロキシブチレートおよび他のモノマーの平均含有比率が、3-ヒドロキシブチレート/他のモノマー=97/3~70/30である、請求項に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分全体における3-ヒドロキシブチレートおよび他のモノマーの平均含有比率が、3-ヒドロキシブチレート/他のモノマー=89/1174/26である、請求項に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分の合計100重量部に対し、1重量部以上12重量部以下のシリカをさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分の合計100重量部に対し、0.1重量部以上20重量部以下の分散助剤をさらに含む、請求項に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物からなるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成形体。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物からなるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムまたはシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物、その成形体及びフィルム又はシートに関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来プラスチックは毎年大量に廃棄されており、これらの大量廃棄物による埋立て処分場の不足や環境汚染が深刻な問題として取り上げられている。また近年、マイクロプラスチックが、海洋環境において大きな問題になっている。
【0003】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂は優れた海水分解性を有しており、廃棄されたプラスチックが引き起こす環境問題を解決しうる材料である。例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の共重合体であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)は3-ヒドロキシヘキサノエートの組成比率を変化させることにより、加工特性および機械特性を柔軟にコントロールできる。
【0004】
しかし、3-ヒドロキシヘキサノエートの組成比率を上昇させると、結晶性が低下することにより機械特性は向上するものの、加工特性が低下する傾向がある。フィルム等の成形体に要求される高引裂耐性・高靱性を実現するためには、加工が極めて困難なレベルになるまで3-ヒドロキシヘキサノエートの組成比率を上昇させる必要があった。このことから、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を用いて良好な加工性および機械特性の双方を満足する成形体を得ることは難しかった。
【0005】
特許文献1では、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)とポリブチレンアジペートテレフタレートをブレンドすることにより、インフレーション成形性と、得られるフィルムの機械特性が向上すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/181500号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)に対してポリブチレンアジペートテレフタレートをブレンドしているが、ポリブチレンアジペートテレフタレートは海水分解性を有しておらず、環境分解性に劣っている。そのため、ブレンド物も当然、環境分解性に劣ることになるため、ポリブチレンアジペートテレフタレートを配合しなくても良好な加工性と機械特性を達成することが望まれる。
【0008】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、海水分解性を有しているポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含有し、かつ、優れた加工性と機械特性を両立したポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分を含有する組成物を、示差走査熱量分析における最も高い融解ピークが130℃以上で、かつ、全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーが特定の範囲になるよう構成することで、優れた加工性と機械特性を両立したポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は以下のとおりである。
[1]ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分を含有するポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物であって、該樹脂組成物の示差走査熱量分析における最も高い融解ピーク温度が130℃以上であり、かつ、全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーが20J/g~65J/gの範囲である、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
[2]前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分が、結晶融解エンタルピーが互いに異なる少なくとも2種類のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の混合物である、[1]に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
[3]前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含む、[1]または[2]に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
[4]前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分が、3-ヒドロキシヘキサノエート構造単位が1~6モル%のポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(A)と、3-ヒドロキシヘキサノエート構造単位が24モル%以上のポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(B)の混合物である、[3]に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
[5]前記混合物中、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(A)の割合が35重量%以上で、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(B)の割合が65重量%以下である、[4]に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
[6] 前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分の合計100重量部に対し、1重量部以上12重量部以下のシリカをさらに含む、[1]~[5]のいずれか1に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
[7] 前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分の合計100重量部に対し、0.1重量部以上20重量部以下の分散助剤をさらに含む、[6]に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
[8] [1]~[7]のいずれか1に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物からなるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成形体。
[9] [1]~[7]のいずれか1に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物からなるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムまたはシート。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、海水分解性を有しているポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含有し、かつ、優れた加工性と機械特性を両立したポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を提供することができる。本発明に係るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、近年問題となっているプラスチックによる環境問題を解決し得る材料になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例4で得たポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物のDSC曲線、および、それから算出される融解ピーク温度および結晶融解エンタルピー等を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
[ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物]
本発明におけるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、示差走査熱量分析における最も高い融解ピーク温度が130℃以上であり、かつ、全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーが20J/g~65J/gの範囲である。また、少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含むポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分を含有するものであり、該樹脂成分以外の成分をさらに含有することもできる。
【0015】
(ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分)
本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物の主要成分を構成するポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分は、単独のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂であってもよいし、2種以上のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の組合せであっても良い。前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂としては、例えば、海水分解性を有する3-ヒドロキシアルカノエート構造単位(モノマー単位)及び/又は4-ヒドロキシアルカノエート構造単位を有する重合体が挙げられる。特に、3-ヒドロキシアルカノエート構造単位を有する重合体、具体的には下記一般式(1)で示される構造単位を含む重合体が好ましい。
[-CHR-CH-CO-O-] (1)
【0016】
一般式(1)中、RはC2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数を示す。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。pとしては、1~10が好ましく、1~8がより好ましい。
【0017】
前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂としては、特に微生物から産生されるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂が好ましい。微生物から産生されるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂においては、3-ヒドロキシアルカノエート構造単位が、全て(R)-3-ヒドロキシアルカノエート構造単位として含有される。
【0018】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂は、3-ヒドロキシアルカノエート構造単位(特に、一般式(1)で表される構造単位)を、全構造単位の50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことが更に好ましい。ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂は、構造単位として、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート構造単位のみを含んでもよいし、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート構造単位に加えて、その他の構造単位(例えば、4-ヒドロキシアルカノエート構造単位等)を含んでいてもよい。
【0019】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂としては、3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBと称する場合がある)構造単位を含むことが好ましい。特に、3-ヒドロキシブチレート構造単位は、全て(R)-3-ヒドロキシブチレート構造単位であることが好ましい。
【0020】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(略称:P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(略称:P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB4HB)等が挙げられる。特に、加工性および機械特性等の観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)とポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましい。
【0021】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を構成するポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分が、3-ヒドロキシブチレート構造単位を含む樹脂を含む場合、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分全体における3-ヒドロキシブチレートおよび他のモノマーの平均含有比率は、3-ヒドロキシブチレート/他のモノマー=97/3~70/30(モル%/モル%)が好ましく、より好ましくは94/6~70/30(モル%/モル%)、さらに好ましくは89/10~81/19(モル%/モル%)である。3-ヒドロキシブチレート比率が97モル%以下であると、十分な機械特性を得られやすい傾向がある。また、3-ヒドロキシブチレート比率が70%以上では、樹脂の結晶化速度が速く、実用的な固化速度が得られる傾向がある。
【0022】
なお、他のモノマーとしては、例えば、3-ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HHと称する場合がある)や4-ヒドロキシブチレート(以下、4HBと称する場合がある)などのヒドロキシアルカエノエート類が挙げられる。
【0023】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分全体における各モノマーの平均含有比率は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号の段落[0047]に記載の方法により求めることができる。平均含有比率とは、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分の全体に含まれる3-ヒドロキシブチレートと他のモノマーのモル比を意味し、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分が2種以上のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の混合物である場合、混合物全体に含まれる各モノマーのモル比を意味する。
【0024】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分の重量平均分子量は、特に限定されないが、20万~200万が好ましく、より好ましくは25万~150万、更に好ましくは30万~100万である。重量平均分子量が20万未満では、得られるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物の機械特性が低くなる傾向がある。一方、重量平均分子量が200万を超えると、溶融加工時の機械への負荷が高く、生産性が低くなる傾向がある。
【0025】
また、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分が2種以上のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の混合物である場合、各ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されない。しかし、例えば、後述するような高結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂と低結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂とをブレンドする場合、高結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の重量平均分子量としては20万~100万が好ましく、より好ましくは22万~80万、更に好ましくは25万~60万である。高結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の重量平均分子量が20万未満では、得られるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物の機械特性が低くなる傾向があり、逆に重量平均分子量が100万を超えると、十分な結晶化速度が得られず、加工性が悪化する傾向がある。一方、低結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の重量平均分子量としては、20万~250万が好ましく、より好ましくは25万~230万、更に好ましくは30万~200万である。低結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の重量平均分子量が20万未満では、得られるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物の機械特性が低くなる傾向があり、逆に重量平均分子量が250万を超えると、溶融加工時の機械への負荷が高く、生産性が低くなる傾向がある。
【0026】
なお、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂又は樹脂成分の重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所社製HPLC GPC system)を用い、ポリスチレン換算により測定することができる。該ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるカラムとしては、重量平均分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0027】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の製造方法は特に限定されず、化学合成による製造方法であってもよいし、微生物による製造方法であってもよい。中でも、微生物による製造方法が好ましい。微生物による製造方法については、公知の方法を適用できる。例えば、3-ヒドロキシブチレートと、その他のヒドロキシアルカノエートとのコポリマー生産菌としては、P3HB3HVおよびP3HB3HH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が知られている。特に、P3HB3HHに関し、P3HB3HHの生産性を上げるために、P3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32,FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また前記以外にも、生産したいポリヒドロキシアルカノエート系樹脂に合わせて、各種ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0028】
(他の樹脂)
本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分以外の他の樹脂が含まれていてもよい。そのような他の樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバテートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。他の樹脂としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0029】
前記他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、より好ましくは20重量部以下である。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。
【0030】
(シリカ)
本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、引裂強度などの機械特性について改良効果を得ることを目的に、更にシリカを含有していることが好ましい。
【0031】
前記シリカとしては、特にその種類は限定されないが、汎用性の観点から、乾式法または湿式法で製造される合成非晶質シリカが好ましい。また、疎水処理または非疎水処理を施したいずれのものも使用可能であり、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
前記シリカとしては、吸着水分量が0.5重量%以上7重量%以下のシリカが好ましい。吸着水分量は、例えば研精工業株式会社製電磁式はかりMX-50を用いて160℃における揮発分を吸着水分量として測定することができる。吸着水分量が7重量%より大きい場合、シリカ表面や粒子間に吸着した水分の凝集力で分散しにくくなってフィルム成形時にフィッシュアイとなって外観不良を起こす場合がある。また逆に0.5重量%未満の場合には、この僅かに粒子間の残った水分が架橋液膜を形成して表面張力で大きな結合力を生み、分離・分散が極端に難しくなる傾向がある。
【0033】
前記シリカの平均一次粒子径は、フィルムやシートの引裂強度を向上させることができ、フィッシュアイ等の外観上の欠陥を生じにくく、透明性を大きく損なうことがなければ特に限定されないが、引裂強度等の機械的特性の向上効果が得られやすく、透明性に優れている点で0.001~0.1μmであることが好ましく、0.005~0.05μmであることが特に好ましい。なお、平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した任意の50個以上の一次粒子の径を算術平均することにより求められる。
【0034】
前記シリカの配合量(総配合量)は、前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分の合計100重量部に対して、1~12重量部であることが好ましい。1重量部より少ないと、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分と複合化した際に引裂強度などの機械特性について前記シリカの配合による十分な改良効果を発現できない場合がある。また、12重量部より多い場合は、シリカを良好に分散させることが難しくなる場合がある。前記シリカの配合量は、2重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましい。また、11重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
【0035】
本発明において前記シリカの分散性を向上させることを目的に、前記シリカと、分散助剤を併用することが好ましい。
【0036】
前記分散助剤としては、例えば、グリセリンエステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、ポリカプロラクトン系化合物などが例示される。これらのうち、樹脂成分への親和性に優れブリードしにくいことから、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエートなどの変性グリセリン系化合物;ジエチルヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸エステル系化合物;ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジカプリレート、ポリエチレングリコールジイソステアレートなどのポリエーテルエステル系化合物が好ましく、更には、バイオマス由来成分を多く含むものが、組成物全体のバイオマス度を高めることができることから特に好ましい。このような分散助剤としては、理研ビタミン株式会社の「リケマール」(登録商標)PLシリーズやROQUETTE社のPolysorbシリーズなどが例示される。分散助剤は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0037】
前記分散助剤の配合量(総配合量)は、前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分の合計100重量部に対して0.1~20重量部であることが好ましい。0.1重量部未満では、シリカの分散助剤としての機能を十分に発揮させることができない場合があったり、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分と複合化した際に引裂強度などの機械特性について前記シリカの配合による十分な改良効果を発現できない場合がある。一方、20重量部を超えると、ブリードアウトの原因になる場合がある。前記分散助剤の配合量は、0.3重量部以上がより好ましく、0.5重量部以上がさらに好ましい。また、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。
【0038】
(添加剤)
本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、結晶化核剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、導電剤、断熱剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、無機充填剤、有機充填剤、加水分解抑制剤等を目的に応じて使用できる。特に生分解性を有する添加剤が好ましい。
【0039】
結晶化核剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、オロチン酸、アスパルテーム、シアヌル酸、グリシン、フェニルホスホン酸亜鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。中でも、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分の結晶化を促進する効果が特に優れている点で、ペンタエリスリトールが好ましい。結晶化核剤の使用量は、特に限定されないが、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分100重量部に対して、0.1~5重量部が好ましく、より好ましくは0.5~3重量部、更に好ましくは0.7~1.5重量部である。また、結晶化核剤は、1種のみならず2種以上混合してもよく、目的に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0040】
滑剤としては、例えば、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、N-ステアリルベヘン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、p-フェニレンビスステアリン酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸とセバシン酸の重縮合物等が挙げられる。中でも、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分への滑剤効果が特に優れている点で、ベヘン酸アミドとエルカ酸アミドが好ましい。滑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、より好ましくは0.05~3重量部、更に好ましくは0.1~1.5重量部である。また、滑剤は、1種のみならず2種以上混合してもよく、目的に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0041】
可塑剤としては、例えば、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、ポリカプロラクトン系化合物、二塩基酸エステル系化合物等が挙げられる。中でも、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分への可塑化効果が特に優れている点で、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、二塩基酸エステル系化合物が好ましい。グリセリンエステル系化合物としては、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート等が挙げられる。クエン酸エステル系化合物としては、例えば、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。セバシン酸エステル系化合物としては、例えば、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。二塩基酸エステル系化合物としては、例えば、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート等が挙げられる。可塑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分100重量部に対して、1~20重量部が好ましく、より好ましくは2~15重量部、更に好ましくは3~10重量部である。また、可塑剤は、1種のみならず2種以上混合してもよく、目的に応じて、混合比率を適宜調整することができる。
【0042】
(組成物が示す融解挙動)
本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、これについて測定した示差走査熱量分析における最も高い融解ピーク温度が、130℃以上である。この条件を満足することにより、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物の結晶固化が短時間で進行することができ、該組成物の加工性を良好なものにすることができる。前記最も高い融解ピーク温度は、130~165℃が好ましく、より好ましくは130~155℃である。
【0043】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物が示す最も高い融解ピーク温度は、示差走査熱量計(TAインスツルメント社製DSC25型)を用いて、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を約2mg計量し、10℃/分の昇温速度にて-30℃から180℃まで昇温した時に得られるDSC曲線において、最も高温側の融解ピークの温度として測定される。
【0044】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、図1のDSC曲線で示すように、最も高温側の融解ピークに加えて、このピークよりも低温側の領域において、別の融解ピークを有していてもよく、例えば100℃以下にも融解ピークを有していてもよい。
【0045】
また、本発明のポリヒドロキシアルカネート系樹脂組成物は、これについて測定した示差走査熱量分析において全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーが、20J/g~65J/gの範囲にある。この範囲とすることにより、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物をフィルム化したときの引裂強度等の機械特性を向上させることができる。総結晶融解エンタルピーは、23~60J/gが好ましく、特に25~55J/gが好ましい。
【0046】
全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーは、各結晶融解エンタルピーの総和を指す。具体的には、前述のようにして得たDSC曲線において、融解開始前と融解終了後のベースラインを直線で結び、該直線とDSC曲線によって囲まれた融解領域(図1中の斜線領域)の面積として算出される。
【0047】
(組成物の製造方法)
以上で説明した融解挙動を示す本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を製造するための方法としては、例えば、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂が共重合体である場合において該共重合体を構成する各モノマーの共重合比率を適宜調整する方法、可塑剤等の、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分以外の成分を混合する方法、融解挙動が互いに異なる少なくとも2種のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を混合する方法等が挙げられる。特に、融解挙動が互いに異なる少なくとも2種のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を混合する方法が好ましい。具体的には、樹脂単独で示す結晶融解エンタルピーが互いに異なる少なくとも2種のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を混合することが好ましい。これによって、容易に、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物の示差走査熱量分析における最も高い融解ピーク温度を130℃以上とし、かつ、全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーを20J/g~65J/gの範囲にすることができる。
【0048】
少なくとも2種のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を混合する場合は、少なくとも1種の高結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂と、少なくとも1種の低結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を組み合わせて混合することが好ましい。一般に、高結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂は加工性に優れるが機械強度が乏しい性質を有し、低結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂は加工性に劣るが優れた機械特性を有する。これらの樹脂を組み合わせて使用することで、加工性と機械特性が共に優れたポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を構成することができる。
【0049】
前記高結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂が3-ヒドロキシブチレート構造単位を含む場合、該高結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂に含まれる3-ヒドロキシブチレート構造単位の平均含有比率は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分全体における3-ヒドロキシブチレート構造単位の平均含有比率よりも高いことが好ましい。高結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂が3-ヒドロキシブチレートと他のモノマーを含む場合、該高結晶性の樹脂における3-ヒドロキシブチレートおよび他のモノマーの平均含有比率は、3-ヒドロキシブチレート/他のモノマー=90/10~99/1(モル%/モル%)が好ましい。
【0050】
前記高結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)やポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)などが好ましい。高結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂がポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)である場合、該樹脂における3-ヒドロキシヘキサノエート構造単位の平均含有比率は1~6モル%であることが好ましい。
【0051】
また、本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を構成するポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分が3-ヒドロキシブチレート構造単位を含む場合、前記低結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂に含まれる3-ヒドロキシブチレート構造単位の平均含有比率は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分全体における3-ヒドロキシブチレート構造単位の平均含有比率よりも低いことが好ましい。低結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂が3-ヒドロキシブチレートと他のモノマーを含む場合、該低結晶性の樹脂における3-ヒドロキシブチレートおよび他のモノマーの平均含有比率は、3-ヒドロキシブチレート/他のモノマー=80/20~0/100(モル%/モル%)が好ましい。
【0052】
前記低結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)やポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)などが好ましい。低結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂がポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)である場合、該樹脂における3-ヒドロキシヘキサノエート構造単位の平均含有比率は24~100モル%であることが好ましく、24~99モル%であることがより好ましく、24~50モル%であることがさらに好ましい。
【0053】
以上述べた高結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂と低結晶性のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を併用する場合、両樹脂の混合物中における各樹脂の使用割合は特に限定されないが、前者が35重量%以上80重量%以下で、後者が20重量%以上65重量%以下であることが好ましい。
【0054】
2種以上のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂をブレンドする方法は特に限定されず、微生物産生によりブレンド物を得る方法であってよいし、化学合成によりブレンド物を得る方法であってもよい。また、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて2種以上の樹脂を溶融混練してブレンド物を得てもよいし、2種以上の樹脂を溶媒に溶解して混合・乾燥してブレンド物を得ても良い。
【0055】
[成形体]
本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、押出成形、射出成形、カレンダー成形等種々の成形方法によって成形体を作製することができる。
【0056】
本発明のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物をフィルムまたはシートに加工する際の成形加工方法としては、インフレーション法やTダイ押出法などの公知の方法を用いることができる。具体的な条件については適宜設定すればよいが、例えば、インフレーション法では、インフレーション成形前に除湿乾燥機などでペレットの水分率が500ppm以下になるまで乾燥し、シリンダー設定温度を100℃~160℃、アダプターおよびダイスの設定温度を130℃~160℃にすることが好ましい。
【0057】
本発明におけるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、フィルムまたはシートに加工した際に、高い引裂強度を発現することができる。引裂強度はエルメンドルフ引裂強度を指し、JIS P-8116に規定された標準エルメンドルフ引裂試験機に準拠する機能と構造を有する軽荷重引裂度試験機(熊谷理機工業株式会社製:NO.2037特殊仕様機)によってMD方向およびTD方向について測定される値をフィルムもしくはシートの厚さで除し、エルメンドルフ引裂強度とした。
【0058】
フィルムまたはシートの厚みについて特に制限はされないが、厚み1~100μm程度を一般にフィルム、厚み100μmを越えて2mm程度までをシートとよぶ。
【0059】
本発明のフィルムまたはシートは優れた生分解性を有しているため、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、食品産業、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に用いることができる。例えば、ゴミ袋、レジ袋、野菜・果物の包装袋、農業用マルチフィルム、林業用燻蒸シート、フラットヤーン等を含む結束テープ、植木の根巻フィルム、おむつのバックシート、包装用シート、ショッピングバック、水切り袋、その他コンポストバック等の用途に用いられる。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0061】
実施例および比較例で使用した物質を以下に示す。
[ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂]
P3HB3HH-1:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=94/6(モル%/モル%)、重量平均分子量は40万g/mol)
国際公開公報WO2019/142845号の実施例1に記載の方法に準じて製造した。
P3HB3HH-2:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=72/28(モル%/モル%)、重量平均分子量は100万g/mol)
国際公開公報WO2019/142845号の実施例9に記載の方法に準じて製造した。
P3HB3HH-3:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=75/25(モル%/モル%)、重量平均分子量は100万g/mol)
国際公開公報WO2019/142845号の実施例6に記載の方法に準じて製造した。
P3HB3HH-4:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=83/17(モル%/モル%)、重量平均分子量は70万g/mol)
国際公開公報WO2019/142845号の実施例7に記載の方法に準じて製造した。
P3HB4HB:P3HB4HB(Metabolix社製I6002:平均含有比率3HB/4HB=55/45(モル%/モル%)、重量平均分子量は23万g/mol)
【0062】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分として2種以上の樹脂の混合物を使用する場合、表1中の平均含有比率(3HB/コモノマー)は、各樹脂における3HB/コモノマー平均含有比率と、各樹脂の重量割合とから算出した平均値である。また、前記コモノマーとは、P3HB3HHについては3HHを指し、P3HB4HBについては4HBを指す。P3HB3HHとP3HB4HBの混合物を使用した実施例9、10、13、14、17、及び18における前記コモノマーは、3HHと4HBの双方を指す。
【0063】
[シリカ]
B-1:Nipsil LP[湿式シリカ](東ソー・シリカ社製)
シリカの平均一次粒子径は16nm、吸着水分量は4重量%である(メーカーカタログ値)。
【0064】
[分散助剤]
リケマール:PL-012[グリセリンエステル系化合物](理研ビタミン社製)
【0065】
[添加剤]
添加剤-1:ペンタエリスリトール(三菱化学社製:ノイライザーP)
添加剤-2:ベヘン酸アミド(日本精化社製:BNT-22H)
添加剤-3:エルカ酸アミド(日本精化社製:ニュートロン-S)
【0066】
実施例および比較例において実施した評価方法に関して、説明する。
[示差走査熱量分析における融解ピーク温度および結晶融解エンタルピーの測定]
示差走査熱量計(TAインスツルメント社製DSC25型)を用いて、各実施例または比較例で得られたポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を約2mg計量し、10℃/分の昇温速度にて-30℃から180℃まで昇温した時に得られるDSC曲線において、最も高温側に検出された融解ピークの温度を求めた。また、DSC曲線において、融解開始前と融解終了後のベースラインを直線で結び、該直線とDSC曲線によって囲まれた融解領域の面積として算出される総熱量を、総結晶融解エンタルピーとして求めた。実施例4のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物について得られたDSC曲線を図1に示す。
【0067】
[引裂強度の評価]
フィルムの作製
2mm厚のSUS板(30cm×35cm)の上に片面離型処理したPETフィルム(厚み50μm)の離型面をSUS板に対して反対向けに設置し、前記PETフィルム上に1.3gの樹脂組成物ペレットを置いた。さらに、前記樹脂組成物ペレットを囲うようにスペーサーとして70μmのシムプレートを設置した。その後、前記樹脂組成物ペレットを挟むように前記SUS板と同様の板を被せ、160℃に加熱したプレス機(株式会社神藤金属工業所製:圧縮成形機NSF-50)の加熱プレス板上に設置し、5分間予熱した。予熱後、2分間の時間をかけながら徐々に5MPaまで加圧した後、2分間圧力を保持した。プレス完了後、およそ20℃に冷却された冷却板上で室温まで冷却し、約50μm厚のフィルムを得た。このフィルムを室温23℃、湿度50%の環境中で1週間養生し、フィルムサンプルとした。
【0068】
引裂強度の測定
JIS P-8116に規定された標準エルメンドルフ引裂試験機に準拠する機能と構造を有する軽荷重引裂度試験機(熊谷理機工業株式会社製:NO.2037特殊仕様機)によって測定される値をフィルムの厚さで除し、フィルムサンプルのエルメンドルフ引裂強度とした。
【0069】
[加工性の評価]
小型混練機(DSM社製:DSM Xplore 5 モデル2005)を用いて、約4.5gの原料をバレル温度170℃、スクリュー回転数100rpmの条件で5分間混練した。その後、ダイより樹脂組成物を吐出して、直ちに、60℃に加温したウォーターバス中に投入し、結晶固化する時間を測定した。100秒以内に固化した場合、加工性が良好と評価した。
【0070】
(実施例1)
P3HB3HH-1を1.09g、P3HB3HH-2を3.41g、添加剤-1を0.045g、添加剤-2を0.0225g、添加剤-3を0.0225gを小型混練機(DSM社製:DSM Xplore 5 モデル2005)へ投入し、バレル温度170℃、スクリュー回転数100rpmの条件で5分間混練した。混練終了直後にダイより溶融状態のストランド状樹脂組成物を排出し、60℃に加熱したウォーターバス中に投入して加工性を評価した結果、加工性が良好であった。その後、ウォーターバス中で結晶固化したストランドをニッパーで裁断し、樹脂組成物ペレットとした。
【0071】
前記樹脂組成物ペレットよりプレス機を用いてフィルムを作製し、1週間養生後に引裂強度を測定した。その結果、5.1N/mmであった。加工性および引裂強度の結果を表2に示す。また、前記樹脂組成物ペレットを1週間養生し、示差走査熱量分析を用いて融解ピーク温度および総結晶融解エンタルピーの測定を行った。測定の結果、融解ピーク温度は142.8℃であり、総結晶融解エンタルピーは50J/gであった。それらの結果も表2に示す。
【0072】
(実施例2~10、比較例1~4)
配合を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを作製し、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表2にまとめた。
【0073】
(実施例11~14)
実施例7~10の配合において、樹脂の合計100重量部に対してシリカ5重量部を小型混練機に投入した以外は各実施例と同様にして樹脂組成物ペレットを作製し、各実施例と同様の評価を実施した。結果を表2にまとめた。
【0074】
(実施例15~18)
実施例7~10の配合において、樹脂の合計100重量部に対してシリカ5重量部と分散助剤1重量部を小型混練機に投入した以外は各実施例と同様にして樹脂組成物ペレットを作製し、各実施例と同様の評価を実施した。結果を表2にまとめた。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表2より、各実施例で得られたポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、加工性が良好で、引裂強度の値が大きく、機械特性が良好であったことが分かる。一方、比較例1は総結晶融解エンタルピーが68J/gと大きいものであり、引裂強度の値が小さく、機械特性が不十分であった。比較例2~4は、最も高い融解ピーク温度が低いもので、結晶固化に時間がかかり、加工性に劣っていた。
実施例7~10と実施例11~14を比較すると、シリカを含有させることにより引裂強度がさらに向上したことが分かる。また、実施例7~10と実施例15~18を比較すると、シリカと分散助剤を含有させることにより引裂強度がさらに向上したことが分かる。
図1