(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】HLA-Eを発現する肝臓前駆細胞を含む細胞組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/407 20150101AFI20240719BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240719BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240719BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240719BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240719BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K35/407
A61P1/16
A61P37/06
A61P43/00 105
C12N5/071
C12N5/074
(21)【出願番号】P 2021533603
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2019084868
(87)【国際公開番号】W WO2020120664
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2018/085024
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521255071
【氏名又は名称】セライオン エスエイ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214259
【氏名又は名称】山本 睦也
(72)【発明者】
【氏名】ジーン-レオン チェリンゲリアン
(72)【発明者】
【氏名】エリサ コリトーレ
(72)【発明者】
【氏名】ジュゼッペ マッザ
(72)【発明者】
【氏名】ナサリー ベルモンテ
(72)【発明者】
【氏名】エティエンヌ ソカル
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-510432(JP,A)
【文献】El-Kehdy, H. et al.,"Immunoprofiling of Adult-Derived Human Liver Stem/Progenitor Cells: Impact of Hepatogenic Differentiation and Inflammation",Stem Cells Int.,2017年,Vol. 2017, 2679518,pp. 1-15
【文献】Najar, M. et al.,"Cytokinome of adult-derived human liver stem/progenitor cells: immunological and inflammatory features",Hepatobiliary Surg. Nutr.,2018年10月,Vol. 7,pp. 331-344
【文献】Raicevic, G. et al.,"Influence of inflammation on the immunological profile of adult-derived human liver mesenchymal stromal cells and stellate cells",Cytotherapy,2015年,Vol. 17,pp. 174-185
【文献】PROSPEC, [online],IFN G HUMAN,2020年09月24日,[令和5年11月7日検索], インターネット,<URL: https://web.archive.org/web/20200924144840/https://www.prospecbio.com/interferon-gamma_human>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト成体肝臓に由来する前駆細胞または幹細胞を含む、線維化障害の処置において使用するための組成物であって、前記前駆細胞または幹細胞の少なくとも60%が細胞表面マーカーHLA-Eを発現することを特徴とする、組成物。
【請求項2】
HLA-E発現細胞は、抗ヒトHLA-E抗体を使用してフローサイトメトリーによって測定した場合に、HLA-Eの相対蛍光強度中央値(rMFI)が少なくとも6.5である、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記ヒト成体肝臓に由来する前駆細胞または幹細胞が、ビメンチン、CD13、CD90、CD73、CD44、CD29、α-平滑筋アクチン(ASMA)および/またはCD140bから選択される少なくとも1つの間葉系マーカーに対して陽性であり、
前記組成物が、任意に、分泌されたHLA-Gを含む、請求項1または2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記組成物が、分泌されたHLA-Gを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
線維化障害の処置において使用するための単離された肝臓前駆細胞または幹細胞を含む細胞集団であって、
前記前駆細胞または幹細胞の少なくとも60%が細胞表面マーカーHLA-Eを発現する、細胞集団。
【請求項6】
前記単離された肝臓前駆細胞または幹細胞が、ヒト肝臓細胞であり、
好ましくは、ビメンチン、CD13、CD90、CD73、CD44、CD29、α-平滑筋アクチン(ASMA)および/またはCD140bから選択される少なくとも1つの間葉系マーカーに対して陽性である成体ヒト肝臓前駆細胞である、請求項5に記載の使用のための細胞集団。
【請求項7】
HLA-E発現細胞は、抗ヒトHLA-E抗体を使用してフローサイトメトリーによって測定した場合に、HLA-Eの相対蛍光強度の中央値(rMFI)が少なくとも6.5である、請求項5または6に記載の使用のための細胞集団。
【請求項8】
ヒト成体肝臓に由来する前駆細胞または幹細胞を含む、望ましくない免疫応答を有する障害の免疫療法および/または処置において使用するための組成物であって、前記前駆細胞または幹細胞の少なくとも60%が細胞表面マーカーHLA-Eを発現することを特徴とする、組成物。
【請求項9】
HLA-E発現細胞は、抗ヒトHLA-E抗体を使用してフローサイトメトリーによって測定した場合に、HLA-Eの相対蛍光強度中央値(rMFI)が少なくとも6.5である、請求項
8に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
前記ヒト成体肝臓に由来する前駆細胞または幹細胞が、ビメンチン、CD13、CD90、CD73、CD44、CD29、α-平滑筋アクチン(ASMA)および/またはCD140bから選択される少なくとも1つの間葉系マーカーに対して陽性であり、
前記組成物が、分泌されたHLA-Gを含む、請求項
8または
9に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含むことを特徴とする、請求項
8から
10のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
ヒト成体肝臓に由来する単離された肝臓前駆細胞または幹細胞を含む、望ましくない免疫応答を有する障害の免疫療法および/または処置において使用するための細胞集団であって、前記前駆細胞または幹細胞の少なくとも60%が細胞表面マーカーHLA-Eを発現することを特徴とする、細胞集団。
【請求項13】
前記単離された肝臓前駆細胞または幹細胞が、ヒト肝臓細胞であり、
好ましくは、ビメンチン、CD13、CD90、CD73、CD44、CD29、α-平滑筋アクチン(ASMA)および/またはCD140bから選択される少なくとも1つの間葉系マーカーに対して陽性である成体ヒト肝臓前駆細胞である、請求項
12に記載の使用のための細胞集団。
【請求項14】
HLA-E発現細胞は、抗ヒトHLA-E抗体を使用してフローサイトメトリーによって測定した場合に、HLA-Eの相対蛍光強度の中央値(rMFI)が少なくとも6.5である、請求項
12または
13に記載の使用のための細胞集団。
【請求項15】
ヒト成体肝臓に由来する前駆細胞または幹細胞を含む、肝臓疾患の処置において使用するための組成物であって、前記前駆細胞または幹細胞の少なくとも60%が細胞表面マーカーHLA-Eを発現し、
前記肝臓疾患が、好ましくは、線維炎症性慢性肝臓疾患である、または、
アラジール症候群、アルコール性肝臓疾患(アルコール性硬変)、α1-アンチトリプシン欠乏症(すべての表現型)、高脂血症および他の脂質代謝障害、自己免疫性肝炎、バッドキアリ症候群、胆道閉鎖症、進行性の家族性胆汁うっ滞I、IIおよびIII型、肝臓のがん、カロリ病、クリグラーナジャール症候群、フルクトース血症、ガラクトース血症、炭水化物欠損グリコシル化欠陥、他の炭水化物代謝障害、レフサム病および他のペルオキシソーム病、ニーマンピック病、ウォルマン病および他のリソソーム障害、チロシン血症、トリプルH、および他のアミノ酸代謝障害、デュビンジョンソン症候群、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を含む脂肪肝疾患、慢性肝不全、慢性肝不全の急性増悪(ACLF)、ギルバート症候群、糖原病IおよびIII型、ヘモクロマトーシス、肝炎A~G、ポルフィリン症、原発性胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、チロシン血症、凝固因子欠乏、血友病B、フェニルケトン尿症、ウィルソン病、劇症肝不全、肝切除術後の肝不全、ミトコンドリア呼吸鎖疾患からなるリストから選択される肝臓疾患である、組成物。
【請求項16】
HLA-E発現細胞は、抗ヒトHLA-E抗体を使用してフローサイトメトリーによって測定した場合に、HLA-Eの相対蛍光強度の中央値(rMFI)が少なくとも6.5である、請求項
15に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
前記ヒト成体肝臓に由来する前駆細胞または幹細胞が、ビメンチン、CD13、CD90、CD73、CD44、CD29、α-平滑筋アクチン(ASMA)および/またはCD140bから選択される少なくとも1つの間葉系マーカーに対して陽性であり、
前記組成物が、任意に、分泌されたHLA-Gを含む、請求項
15または
16に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
前記組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含むことを特徴とする、請求項
15から
17のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
ヒト成体肝臓に由来する前駆細胞または幹細胞を含む、肝臓疾患の処置において使用するための細胞集団であって、前記前駆細胞または幹細胞の少なくとも60%が細胞表面マーカーHLA-Eを発現し、
前記肝臓疾患が、好ましくは、線維炎症性慢性肝臓疾患である、または、
アラジール症候群、アルコール性肝臓疾患(アルコール性硬変)、α1-アンチトリプシン欠乏症(すべての表現型)、高脂血症および他の脂質代謝障害、自己免疫性肝炎、バッドキアリ症候群、胆道閉鎖症、進行性の家族性胆汁うっ滞I、IIおよびIII型、肝臓のがん、カロリ病、クリグラーナジャール症候群、フルクトース血症、ガラクトース血症、炭水化物欠損グリコシル化欠陥、他の炭水化物代謝障害、レフサム病および他のペルオキシソーム病、ニーマンピック病、ウォルマン病および他のリソソーム障害、チロシン血症、トリプルH、および他のアミノ酸代謝障害、デュビンジョンソン症候群、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を含む脂肪肝疾患、慢性肝不全、慢性肝不全の急性増悪(ACLF)、ギルバート症候群、糖原病IおよびIII型、ヘモクロマトーシス、肝炎A~G、ポルフィリン症、原発性胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、チロシン血症、凝固因子欠乏、血友病B、フェニルケトン尿症、ウィルソン病、劇症肝不全、肝切除術後の肝不全、ミトコンドリア呼吸鎖疾患からなるリストから選択される肝臓疾患である、細胞集団。
【請求項20】
ヒト成体肝臓に由来する前駆細胞または幹細胞を含む、細胞移植、好ましくは同種異系移植において使用するための組成物であって、前記前駆細胞または幹細胞の少なくとも60%が細胞表面マーカーHLA-Eを発現することを特徴とする、組成物。
【請求項21】
HLA-E発現細胞は、抗ヒトHLA-E抗体を使用してフローサイトメトリーによって測定した場合に、HLA-Eの相対蛍光強度中央値(rMFI)が少なくとも6.5である、請求項
20に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
前記ヒト成体肝臓に由来する前駆細胞または幹細胞が、ビメンチン、CD13、CD90、CD73、CD44、CD29、α-平滑筋アクチン(ASMA)および/またはCD140bから選択される少なくとも1つの間葉系マーカーに対して陽性であり、
前記組成物が、任意に、分泌されたHLA-Gを含む、請求項
20または
21に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
前記組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含むことを特徴とする、請求項
20から
22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
細胞移植、好ましくは同種異系移植において使用するための単離された肝臓前駆細胞または幹細胞を含む細胞集団であって、
前記前駆細胞または幹細胞の少なくとも60%が細胞表面マーカーHLA-Eを発現する、細胞集団。
【請求項25】
前記単離された肝臓前駆細胞または幹細胞が、ヒト肝臓細胞であり、
好ましくは、ビメンチン、CD13、CD90、CD73、CD44、CD29、α-平滑筋アクチン(ASMA)および/またはCD140bから選択される少なくとも1つの間葉系マーカーに対して陽性である成体ヒト肝臓前駆細胞である、請求項
24に記載の使用のための細胞集団。
【請求項26】
HLA-E発現細胞は、抗ヒトHLA-E抗体を使用してフローサイトメトリーによって測定した場合に、HLA-Eの相対蛍光強度の中央値(rMFI)が少なくとも6.5である、請求項
24または
25に記載の使用のための細胞集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝臓を起源とする単離された肝臓前駆細胞または幹細胞、ならびに医薬、肝臓学、移植、肝不全および線維炎症性肝臓疾患におけるそれらの使用の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、多くの生体機能を実施する重要な器官である。複数の肝機能のうちの1つの損傷は、健康に劇的な影響を有する。急性または慢性肝臓疾患の世界的発生率は、世界保健機関は、これらの病理を5番目から9番目の間の死因としている。肝臓細胞移植(LCT)は、肝臓の修復/再生を目的とする肝疾患の処置に関する臨床調査下の手順である(Najimiら、Stem Cells Translational Medicine、2016年)。レシピエントに対して可能な限り免疫学的に近縁なドナーを適合させようとする努力にもかかわらず、免疫系による拒絶に関する肝臓細胞移植後に生じる問題は、細胞療法、組織移植および詳細にはLCTの後の主要な課題のままである。間葉系幹細胞(MSC)は、細胞外環境、特にサイトカインを含有する環境に依存して差異的に挙動することができる多面発現性細胞(pleiotropic cell)である(Speesら、Stem Cells research and therapy、2016年)。研究によって、MSCが、低免疫原性であり、免疫応答の発生を阻害する場合があり、様々な免疫細胞集団を炎症促進性から抗炎症性/調節性表現型へと歪めることが示されている(Najarら、Inflammation research、2018年)。ベースラインレベルでは、MSCは、最小限に免疫抑制的である。それにもかかわらず、細胞は、特定の環境要因に曝露された後に、免疫抑制性の表現型を採用し得る(Kouroupisら、Tissue engineering Part B、2018年)。あいにく、個々の患者の内的要因に依存して、これらのナイーブMSCのわずかな部分しか注入後に免疫抑制的にならない。これらの理由のために、免疫抑制性の改善された新たなMSC表現型を開発する必要がある。
【0003】
免疫機能および移植拒絶に対する解決の手がかりは、通常、ヒトにおいてHLA複合体と称される主要組織適合抗原である。クラスI HLAタンパク質をコードする遺伝子は、ヒトの第6p21染色体のテロメア末端にクラスター形成する。これらには、古典的クラスIaのタンパク質である、HLA-A、-Bおよび-Cが含まれ、これらは、偏在的に発現され、非常に多形性である。対照的に、非古典的クラスIbのタンパク質である、HLA-E、HLA-FおよびHLA-Gは比較的不変であり、選択的に発現される。HLA-クラスIb分子の主な機能は、Tリンパ球およびBリンパ球、NK細胞ならびに抗原提示細胞などの様々な免疫エフェクター細胞上に発現した特異的阻害性受容体と相互作用することによって、免疫応答をモジュレートすることである。
【0004】
骨、軟骨または脂肪組織に由来するMSCは、ヒトの白血球抗原(HLA)クラスIaのタンパク質を低レベルで発現することが説明されてきた。これらは、HLA-Ibタンパク質および特にHLA-Eを含む可溶性因子の発現によって免疫調節性を呈することができる(Morandiら、Stem Cells、2008年)。生理学的条件では、HLA-Eの発現は、HLA-Gに深く関連する(Morandiら、Stem Cells、2008年;Morandi,Pistoia、Front.Immunol.、2014年)。HLA-Eは、ヒト胎児の肝臓(Houlihanら、J.Immunol.、1992年)、成体肝細胞およびクッパ-細胞(Araujoら、J.Immunol.Res.、2018年)において発現されることが文献で証明されてきた。このような発現は、C型肝炎ウイルス(HCV)感染後に増加し、このことは、肝臓疾患におけるHLA-Eの潜在的な免疫調節の役割を示唆する(Araujoら、2018年)。ヒト人工多能性幹細胞由来の網膜色素上皮細胞はHLA-Eを構成的に発現し、CD94/NKG2A受容体複合体とのその相互作用は、NK細胞活性化の抑制をもたらす(Sugitaら、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.、2018年)。骨髄移植後に、HLA-Eは、低リスクの移植片対宿主病および死亡率の低下に関連することが示されている(Pabonら、Transplant Proceedings 2014年)。IFNγによる脂肪組織MCSのin vitroでのプライミングによって、HLA-Eおよび他の免疫抑制タンパク質の発現が増加し、T細胞阻害を可能にする(Wobmaら、J.Immunol.Regen.Med.、2018年)。
【0005】
WO2008121894は、HLA-E陽性細胞もしくはHLA-E陽性細胞またはHLA-EおよびHLA-G陽性細胞の両方が豊富に存在する集団を有するMSCの細胞組成物、ならびに変性疾患の処置および移植の免疫調節におけるそれらの潜在的使用について記載している。W02018081514は、in vitroでの低酸素培養条件において、炎症性サイトカインを間葉系間質細胞に適用することによって得られる免疫抑制性間葉系間質細胞について記載している。US20120328578は、炎症を起こした関節の滑液または炎症性サイトカインを用いる細胞の処置による幹細胞における免疫抑制性の誘導に基づいて、滑膜関節における炎症を処置する方法を開示している。
【0006】
臨床研究を遂行するためにより大きなスケールで生産し、GMP条件下で生成したADHLSCおよびHHALPC(HALPC、ヒト同種異系肝臓前駆細胞とも称される)は、正常な成体肝臓のコラゲナーゼ消化および実質画分の初代培養後に得られた未分化前駆細胞である。HHALPCは、自己再生能を呈し、間葉系および肝細胞マーカーの両方を発現し、高度な肝性分化のポテンシャルを呈する特殊性を有する。これらの細胞は、肝臓線維症、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)および慢性肝不全の急性増悪(ACLF)を含むヒトの肝臓疾患、ならびに他のヒトの疾患を標的とする際に特に興味深い。
【0007】
Raicevicら(Cytotherapy、2015年)は、成体由来ヒト肝臓間葉系間質細胞(ADHLSC)に炎症性サイトカインカクテルを一晩補充する方法を開示している。HLA-EまたはHLA-Gの膜および細胞内発現は観察されなかった。Raicevicは、多量のHLA-E発現細胞を有する組成物の存在についても言及していない。
【0008】
Mehdi Najarら、2018年は、炎症プライミングADHLSCを開示している。この文献は、炎症プライミングADHLSCにおけるHLA-Eの誘導についても、HLA-Gの発現についても言及していない。Mehdi Najarは、HLA-E発現細胞組成物に関連し得る利益について全く言及していない。
【0009】
Hoda El-Kehdyら、2017年は、炎症プライミングADHLSCについても開示しており、構成的およびプライミング状態の(未)分化ADHLSCにおけるHLA-ABC、HLA-DRおよびHLA-Gの発現が、HLA-Gの有意に誘導された発現もHLA-DRの発現も示していないことを示している。
【0010】
これらの先行技術文献はいずれも、診療所で使用するための肝臓幹細胞または前駆細胞のHLA-E発現集団を得る必要性について開示しておらず、十分なHLA-E発現が細胞溶解を回避する際に役割を担う可能性があるということについても言及していない。
【0011】
例えば、炎症、自己免疫疾患および移植片拒絶の防止または処置に関する、特に肝臓疾患に関連する病理の処置に関する免疫調節性ならびに免疫抑制的および/または免疫回避的活性の増強を伴う、新たなまたは改善された同種異系細胞療法について、当技術分野における需要が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】WO2008121894
【文献】W02018081514
【文献】US20120328578
【非特許文献】
【0013】
【文献】Najimiら、Stem Cells Translational Medicine、2016年
【文献】Speesら、Stem Cells research and therapy、2016年
【文献】Najarら、Inflammation research、2018年
【文献】Kouroupisら、Tissue engineering Part B、2018年
【文献】Morandiら、Stem Cells、2008年
【文献】Morandi,Pistoia、Front.Immunol.、2014年
【文献】Houlihanら、J.Immunol.、1992年
【文献】Araujoら、J.Immunol.Res.、2018年
【文献】Sugitaら、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.、2018年
【文献】Pabonら、Transplant Proceedings 2014年
【文献】Wobmaら、J.Immunol.Regen.Med.、2018年
【文献】Raicevicら(Cytotherapy、2015年)
【文献】Mehdi Najarら、2018年
【文献】Hoda El-Kehdyら、2017年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、請求項1に記載のヒト成体肝臓に由来する前駆細胞または幹細胞を含む組成物、請求項8に記載の単離された肝臓前駆細胞または幹細胞、および請求項21に記載の細胞集団を提供する。より詳細には、本発明は、HLA-E陽性である細胞、およびこのようなHLA-E陽性の細胞を少なくとも60%含む組成物を提供する。本発明の細胞において観察されるHLA-E発現は、主に、細胞表面において優勢でない場合である。増加した量のHLA-E発現細胞(それらの細胞表面に)を有する組成物が、CD8+ T細胞に媒介される細胞溶解を回避することができ、よって、治療に使用するのに特に適していることが見出された。
【0015】
本発明の細胞、細胞集団および前記細胞を含む組成物内のHLA-E発現は、その免疫抑制性および/または免疫回避性をかなり増強することが示される。特に、これらの細胞、細胞集団および組成物は、例えば、炎症、自己免疫疾患および移植片拒絶を含むがこれらに限定されない、望ましくない免疫応答に関与する障害の処置または防止において使用するのに、ならびに肝臓疾患の処置において使用するのに非常に適している。
【0016】
単離された肝臓前駆細胞、細胞集団または前記細胞を含む組成物は、それらの増殖能を維持し、それらの肝臓特異性と共に肝臓細胞移植に対する有効性および安全性を増加させる。さらに、これらが成体起源であるために、これらの幹細胞は、胚細胞に関連する免疫学的、倫理的および発癌性の問題を除去する(Volarevicら、International Journal of Medical sciences、2018年)。
【0017】
HLA-E発現による前駆細胞の免疫抑制特性の増強は、細胞療法および/または組織移植の免疫応答に関連するリスクの低下に寄与し、これは、同種異系細胞移植の間に特に高い。したがって、本発明のHLA-E陽性の肝臓に由来する前駆細胞は、複数の肝臓障害に対する細胞療法として、患者にとって改善された有効性および忍容性を伴って好結果をもたらす可能性がより高い。
【0018】
本発明のさらなる実施形態では、肝臓前駆細胞、細胞集団または前記細胞を含む組成物は、HLA-Gに対して陽性であるか、または上昇したレベルのHLA-G発現を有する可能性がある。HLA-EとHLA-Gの協同作用が、各肝臓前駆細胞の免疫抑制作用をさらに増強し、これらを細胞療法のアプローチでの使用により良好に適するようにし得ると考えられる(Morandi,Pistoia、Frontiers in Immunology 2014年)。
【0019】
本発明の別のさらなる実施形態では、肝臓由来の前駆細胞、細胞集団または前記細胞を含む組成物は、さらに、少なくとも1つの間葉系マーカーに対して陽性である。間葉系マーカーとしては、ビメンチン、CD13、CD90、CD73、CD44、CD29、α-平滑筋アクチン(ASMA)およびCD140-bが挙げられるがこれらに限定されない。別のさらなる実施形態では、本発明の肝臓由来の前駆細胞は、HGFを分泌する。別のさらなる実施形態では、本発明の肝臓由来の前駆細胞は、HLA-DRに対して陰性である。さらなる実施形態では、肝臓由来の前駆細胞は、必要に応じて少なくとも1つの肝マーカーに対して陽性であり、および/または必要に応じて少なくとも1つの肝臓特異的活性を有する。肝マーカーとしては、アルブミン(ALB)、HNF-3B、HNF-4、CYP1A2、CYP2C9、CYP2E1、CYP3A4およびアルファ-1アンチトリプシンが挙げられるがこれらに限定されない。肝臓特異的活性としては、尿分泌、ビリルビンコンジュゲーション、アルファ-1アンチトリプシン分泌およびCYP3A4活性が挙げられるがこれらに限定されない。
【0020】
第2の態様では、本発明は、請求項30に記載のHLA-E陽性肝臓前駆細胞または幹細胞を調製する方法を提供する。より詳細には、本方法は細胞をプレコンディショニングするステップを含み、これは、肝臓前駆細胞または幹細胞の培養の細胞培地に1種または複数種のサイトカインを添加することを指す。
【0021】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、請求項24から29に記載の使用に好適である。より詳細には、本発明の組成物は、その免疫抑制性が特に有益であるいくつかの疾患の処置における使用のために提供される。
【0022】
別の態様では、本明細書は、望ましくない免疫応答を伴う障害、線維化障害および肝臓疾患を含む、本明細書に開示される細胞、細胞集団および/または組成物の免疫抑制性が特に有益である障害および疾患の処置および/または防止のための方法についても記載する。望ましくない免疫応答としては、例えば、炎症、自己免疫疾患および移植片拒絶が挙げられるがこれらに限定されない。
【0023】
より詳細には、本発明は、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞、その細胞株、細胞集団および/または組成物の、このような処置を必要とする対象への投与を含む方法を提供する。このような投与は、典型的には、治療有効量、すなわち、一般的に、所望の局所的または全身的効果および性能をもたらす量でなされる。
【0024】
さらに別の態様では、本開示は、望ましくない免疫応答を伴う障害の処置および/または防止、線維化障害の処置および/または防止、ならびに肝臓疾患の処置および/または防止のための、治療において使用するためのおよび/または医薬品の製造において使用するための、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞、その細胞株、細胞集団および/または組成物の使用についても記載する。このような疾患は、肝臓組織に影響を及ぼす障害、肝細胞の生存能および/または機能に影響を及ぼす疾患ならびに線維炎症反応によって引き起こされる慢性肝不全を含んでもよい。加えて、免疫調節性および免疫抑制性のために、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞、その細胞株、細胞集団および/または組成物の使用は、望ましくない免疫応答が回避されるべき疾患の処置のための、治療において使用するためにおよび/または医薬品の製造において使用するために提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の様々な実施形態による肝臓前駆細胞のHLA-E発現を示す図である。
図1は、未処置対照条件:IL-1β/TNFα/IFNγの組合せ、IL-10単独およびIL-1β/TNFα/IFNγ/IL-10の組合せ(「すべて」)と比較した、1名のドナー(VLK019)から単離した肝臓前駆細胞に関する異なる培養条件でのHLA-Eタンパク質発現を示すFACS解析データを表す。緑色のヒストグラム「ISO」は、アイソタイプ対照である(ベースライン、検出された蛍光なし、検出されたHLA-E発現なし)。
【
図2】
図2は、未処置対照条件:IL-1β/TNFα/IFNγの組合せ、IL-10単独およびIL-1β/TNFα/IFNγ/IL-10の組合せ(「すべて」)と比較した、3名の異なるドナーから単離した肝臓前駆細胞に関する異なる培養条件でのHLA-Eタンパク質発現を示すFACS解析データを表す。緑色のヒストグラムは、アイソタイプ対照である(ベースライン、検出された蛍光なし、検出されたHLA-E発現なし)。
【
図3】
図3は、未処置対照条件:IL-1β/TNFα/IFNγの組合せ、IL-10単独およびIL-1β/TNFα/IFNγ/IL-10の組合せ(「すべて」)と比較した、異なる培養条件で検出したHLA-E発現に関する平均蛍光強度(n=3)を示すFACS解析データを示す。未処置細胞と比較した、プレコンディショニングされた細胞におけるHLA-E発現レベルの上昇が確認される。
【
図4】本発明の様々な実施形態によるHLA-E陽性肝臓前駆細胞の遺伝子発現プロファイルを示すグラフである。
図4は、未処置対照条件(ベースライン):IL-1β/TNFα/IFNγの組合せ、IL-10単独およびIL-1β/TNFα/IFNγ/IL-10の組合せ(「すべて」)と比較した、3つの異なる培養条件でのHLA-EおよびHLA-Gの遺伝子発現の倍数増加を示すRT-PCRデータを表す。
【
図5】
図5は、未処置対照(ベースライン)と比較した、本発明の実施形態によるプレコンディショニングされた肝臓前駆細胞におけるIDO1、HGF、PTGS2、IL-6およびIL-10の遺伝子発現の倍数増加を示すRT-PCRデータを表す。IDO1、PTGS2、IL-6および/またはIL-10に関する遺伝子発現レベルの増加は、IFNγ、TNFα、IL-Iβ、IL-10、またはこれらの組合せから選択される炎症性サイトカインで細胞が前処置された場合に確認された。
【
図6】本発明の実施形態により、HLA-E陽性である単離された肝臓前駆細胞によって分泌されたHLA-Gタンパク質の定量を示すグラフである。
図6は、様々な培養条件:未処置(対照条件)、IL-1β/TNFα/IFNγの組合せ、IL-10単独またはIL-Iβ/TNFα/IFNγ/IL-10の組合せ(「すべて」)で処置、から回収した上清中の可溶性HLA-Gの検出可能なレベルを示す分泌解析データを表す。ヒトHLA-G配列を有するプラスミドでトランスフェクトしたヒトの黒色腫Bowes細胞(HMBC)を陽性対照(「HMBCでトランスフェクトした」)として使用した。これらのデータによって、本発明の実施形態により、HLA-E発現に関して陽性であるプレコンディショニングされた単離肝臓前駆細胞によるHLA-G分泌の上昇が確認される。
【
図7】本発明の様々な実施形態において、HLA-E陽性肝臓前駆細胞を含む細胞集団における免疫調節因子PGE2の分泌を示すグラフである。
図7は、未処置の肝臓前駆細胞(対照条件)およびIL-1β/TNFα/IFNγの組合せ、IL-10単独またはIL-1β/TNFα/IFNγ/IL-10の組合せ(「すべて」)でプレコンディショニングした肝臓前駆細胞を含む様々な条件からの上清におけるPGE2の検出可能なレベルを示す分泌解析データを表す。未処置条件と比較して、本発明の実施形態により、プレコンディショニングされた細胞において、増強された分泌レベルが観察された。
【
図8】本発明の様々な実施形態において、HLA-E陽性肝臓前駆細胞を含む細胞集団における上昇したIDO1酵素活性レベルを示すグラフである。 様々な実験条件からの上清におけるIDO活性の検出可能なレベルを示す酵素アッセイにおいて得られたデータを
図8に表す。様々な条件には、未処置の肝臓前駆細胞(対照条件)およびIL-1β/TNFα/IFNγの組合せ、IL-10単独またはIL-1β/TNFα/IFNγ/IL-10の組合せ(「すべて」)でプレコンディショニングされた肝臓前駆細胞が含まれる。本発明の実施形態により、プレコンディショニングされた細胞において、増強されたIDO活性が観察された。
【
図9】
図9A、9Bおよび9Cは、コンディショニングの前後の肝臓前駆細胞の集団におけるHLA-E発現を示す図である。
【
図10】
図10A、10B、10Cおよび10Dは、CD8 T細胞に媒介される細胞溶解に関する本発明による細胞組成物および細胞の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、HLA-E陽性である単離された肝臓前駆細胞または幹細胞、このような細胞を調製する方法、このような細胞を含む組成物、炎症、自己免疫疾患および移植片拒絶などの望ましくない免疫応答に関与する障害の処置または防止のための、ならびに肝臓疾患の処置のためのこれらの使用に関する。
【0027】
別段に定義されていなければ、技術用語および科学用語を含む本発明を開示する際に使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解される意味を有する。さらなるガイダンスによって、本発明の教示をより理解するために、用語の定義が含まれる。
【0028】
本明細書で使用される場合、以下の用語は以下の意味を有する:
【0029】
「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、本明細書で使用される場合、文脈において別段に明確に指示されていなければ、単数と複数の指示対象の両方を指す。例として、「区画(a compartment)」は、1つまたは2つ以上の区画を指す。
【0030】
本明細書で使用される場合、測定可能な値、例えば、パラメーター、量、持続時間などを指す「約(about)」は、所定値のおよび所定値からの+/-20%以下、好ましくは+/-10%以下、より好ましくは+/-5%以下、またより好ましくは+/-1%以下、なおより好ましくは+/-0.1%以下の変動を包含することを意味する(このような変動が、開示される発明において実施するのが適当である限りにおいて)。しかし、修飾語「約(about)」が指す値は、それ自体も具体的に開示されていることが理解されるべきである。
【0031】
「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、および「含む(comprises)」ならびに「から構成される(comprised of)」は、本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(including)」、「含む(includes)」または「含有する(contain)」、「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、その後に続くもの、例えば構成成分の存在を指定する包括的またはオープンエンドな用語であり、当技術分野で公知であるかまたは本明細書に開示される追加の列挙されていない構成成分、特徴、要素、メンバー、ステップの存在を除外も排除もしない。
【0032】
エンドポイントによる数値範囲の列挙は、その範囲内に包摂されるすべての数字および部分ならびに列挙されたエンドポイントを含む。
【0033】
別段に定義されていなければ、本明細書においておよび本明細書の全体を通して、「重量%(% by weight)」、「重量パーセント(weight percent)」、「%wt」または「wt%」という表現は、配合物の総重量に対する各構成成分の相対的重量を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「単離された細胞」は、一般的に、in vivoで細胞が関連する1つもしくは複数の細胞または1つもしくは複数の細胞構成成分と関連しない細胞を指す。例えば、単離された細胞は、そのネイティブ環境から取り出されていてもよく、またはそのネイティブ環境から取り出された細胞の増殖、例えばex vivoでの増殖から得られてもよい。
【0035】
用語「in vitro」は、本明細書で使用される場合、動物または人体の外側、またはそれに対する外部を示す。用語「in vitro」は、本明細書で使用される場合、「ex vivo」を含むことが理解されるべきである。用語「ex vivo」は、典型的には、動物または人体から取り出され、体の外側、例えば培養容器内で維持または増殖した組織または細胞を指す。
【0036】
用語「肝臓前駆細胞」は、肝臓から単離された細胞を培養することによって生成され、かつそれまたはその後代が、少なくとも1種の相対的により特定化された細胞型を生じ得る、特定化されていない、増殖コンピテント細胞を指す。肝臓前駆細胞は、より特定化された細胞(好ましくは、肝細胞または肝活性化細胞であるが)を漸増的に生成する1つまたは複数の系統に沿って分化することができる子孫を生じ、このような子孫は、それ自体が前駆細胞であってよく、または、肝臓前駆細胞は、最終分化肝臓細胞(例えば、完全に特定化された細胞、特に、初代ヒト肝細胞のものと類似する形態学的および機能的特徴を表す細胞)を生成する1つまたは複数の系統に沿って分化することができる子孫を生じる。用語「幹細胞」は、自己再生することが可能で、すなわち分化せずに増殖することができ、それによって、幹細胞の後代またはその少なくとも一部が、特定化されていないかまたは比較的特定化の程度が低い表現型、分化の可能性、および母幹細胞の増殖能を実質的に保持する前駆細胞を指す。この用語は、実質的に制限のない自己再生が可能である、すなわち、さらなる増殖に対する後代またはその一部の能力が、母細胞と比較して実質的に低下しない幹細胞、および制限された自己再生を呈する、すなわち、さらなる増殖に関する後代またはその一部の能力が、母細胞と比較して劇的に低下する幹細胞を包含する。
【0037】
様々な細胞型を生じる能力に基づいて、前駆細胞または幹細胞は、通常、全能性、多能性、多分化能または単分化能として記載することができる。単一の「全能性」細胞は、生物全体に成長、すなわち発生することが可能であるものとして定義される。「多能性」細胞は、生物全体に成長することができないが、3つの胚葉すべて、すなわち、中胚葉、内胚葉、および外胚葉を起源とする細胞型を生じることが可能であり、生物のすべての細胞型を生じることが可能であり得る。「多分化能」細胞は、生物の2つ以上の異なる器官または組織のそれぞれから少なくとも1つの細胞型を生じることが可能であり、前記細胞型は、同一のまたは異なる胚葉を起源とし得るが、生物のすべての細胞型を生じることは可能ではない。「単分化能」細胞は、1つの細胞系統のみの細胞に分化することが可能である。
【0038】
用語「間葉系幹細胞」は、主に間葉系細胞、または間質細胞に由来するかもしくはそれから単離される多分化能間質細胞として理解されるべきである。前記間葉系幹細胞は、肝細胞、破骨細胞、軟骨細胞、腱細胞および脂肪細胞を含むがこれらに限定されない様々な細胞型に分化することができる。
【0039】
用語「肝細胞」は、様々なサイズまたは倍数性(例えば、二倍体、四倍体、八倍体)の肝細胞を含むがこれらに限定されない肝臓上皮細胞および肝臓実質細胞を包含する。
【0040】
用語「HLA-E陽性」は、本明細書で使用される場合、検出可能なレベルのHLA-Eタンパク質を発現する肝臓前駆細胞または幹細胞を指す。HLA-E発現は、細胞内に、細胞表面に、および/または可溶性タンパク質として存在してもよい。細胞が特定のマーカーに対して陽性であると述べられている場合、これは、当業者が、好適な対照と比較して、適切な測定を実行した際にそのマーカーに関する識別可能なシグナル、例えば逆転写ポリメラーゼ連鎖反応またはフローサイトメトリーによって検出可能なまたは検出の可能性のある抗体の存在またはエビデンスを結論付けることになることを意味する。検出方法によってマーカーの定量的評価が可能になる場合、陽性細胞は、平均して、対照と有意に異なる、例えば以下に限定されないが、対照細胞によって生じるこのようなシグナルより少なくとも0.5倍、少なくとも1倍、少なくとも1.5倍高い、例えば少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍高いかまたはさらに高いシグナルを生成し得る。
【0041】
上昇した発現、分泌または酵素活性に関連する場合、用語「上昇した」は、本明細書で使用される場合、例えばプレコンディショニングなどのいずれの処置にも付されていなかった類似する細胞における発現、分泌または酵素活性の基礎レベルよりも高い、例えば以下に限定されないが、対照細胞によって生じるこのようなシグナルよりも少なくとも0.5倍、少なくとも1倍、少なくとも1.5倍高い、例えば少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍高いかまたはさらに高いプレコンディショニングの結果としての発現、分泌または酵素活性のレベルを定義する。
【0042】
用語「肝臓」は、肝臓器官を指す。用語「肝臓の部分」は、一般的に、その起源となる肝臓器官の前記部分または領域の量についていかなる限定もなく、肝臓器官の任意の部分に由来する組織試料を指す。好ましくは、肝臓器官に存在するすべての細胞型はまた、肝臓の前記部分において表されていてもよい。肝臓の部分の量は、本発明の方法を合理的に実践するために十分な初代肝臓細胞を得るための必要性に対して実践的に考慮することからの少なくとも部分的な結果であり得る。ゆえに、肝臓の部分は、肝臓器官のパーセンテージを表してもよい(例えば、少なくとも1%、10%、20%、50%、70%、90%またはそれより高いパーセンテージで、典型的にはw/w)。他の非限定的な例では、肝臓の一部は、重量で定義されてもよい(例えば、少なくとも1g、10g、100g、250g、500g、またはそれより多く)。例えば、肝臓の一部は、肝葉、例えば右葉もしくは左葉、または肝臓分割手術中もしくは肝生検において切除される多数の細胞を含む任意のセグメントもしくは組織試料であってもよい。
【0043】
用語「成体肝臓」は、出生後、すなわち誕生後の任意の時間、好ましくは全期間であり、例えば誕生後少なくとも1日齢、1週間齢、1カ月齢もしくは1カ月を超える月齢、または少なくとも1、5、10年もしくはそれを超えてもよい、対象の肝臓を指す。ゆえに、「成体肝臓」、すなわち成熟した肝臓は、そうでなければ「幼児」、「小児」、「青年」または「成人」という従来の用語で記載されることになるヒト対象において見出すことができる。当業者は、肝臓が、様々な動物種において出生後の様々な時間間隔で実質的な発生成熟に達することができ、各種に関して用語「成体肝臓」を適正に解釈することができることを認識する。
【0044】
用語「哺乳動物」は、例えば以下に限定されないが、ヒト、飼育動物および家畜、動物園の動物、狩猟動物、愛玩動物、伴侶動物ならびに実験動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタならびに霊長類、例えばサルおよび類人猿などを含むように分類された任意の動物を含む。
【0045】
用語「解離させる」は、本明細書で使用される場合、一般的に、組織または器官の細胞組織を部分的または完全に破壊すること、すなわち、組織または器官の細胞と細胞構成成分との間の関連を部分的または完全に破壊することを指す。当業者が理解することができるように、組織または器官を解離させる目的は、前記組織または器官から細胞(細胞集団)の懸濁液を得ることである。懸濁液は、唯一のまたは単一の細胞、および2つ以上の細胞のクラスターまたは凝集塊を形成するように物理的に結合した細胞を含んでもよい。解離させることは、好ましくは、細胞生存率の低下をもたらさないか、または可能な限り小さくする。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「初代細胞」は、対象の組織または器官、例えば肝臓から得られる細胞の懸濁液中に、適切な技法を用いてこのような外植された組織または器官中に存在する細胞を解離させることによって、存在する細胞を含む。
【0047】
用語「培養する」は、当技術分野で一般的であり、広範には、細胞および/またはその後代の維持および/または成長を指す。
【0048】
用語「継代する」は、当技術分野で一般的であり、培養細胞を、培養基質からおよび互いに、分離するおよび解離させることを指す。簡潔性のために、付着培養条件下で1回目に細胞を成長させた後に実施した継代培養を、本明細書において、本発明の方法の範囲内の「第1の継代培養」(または継代培養1、P1)と称する。細胞は、少なくとも1回、好ましくは2回以上継代培養されてもよい。継代培養1の次に、各継代培養は、本明細書において、1ずつ増加する数と共に、例えば継代培養2、3、4、5、またはP1、P2、P3、P4、P5などと称される。
【0049】
用語「コンフルエンス」は、本明細書で使用される場合、細胞が成長に利用可能な表面の実質的にすべてを被覆して互いに接触している培養細胞の密度(すなわち、完全にコンフルエント)を指す。
【0050】
用語「血漿」は、従来定義された通りであり、ヒトまたは動物の体の一部を形成しない組成物を指す。
【0051】
用語「血清」は、従来定義された通り、試料において凝固を最初に起こさせ、次に、適切な技法、典型的には遠心分離によって、このように形成された塊および血液試料の細胞構成成分を液体構成成分(血清)から分離することによって、全血の試料から得られる。不活性触媒、例えばガラスビーズまたは粉末が、凝固を容易にし得る。有利には、血清は、哺乳動物に対して不活性触媒を含有する血清分離容器(SST)を使用して調製することができる。
【0052】
用語「細胞培地」または「細胞培養培地」または「培地」は、細胞の維持または成長のために使用することができる栄養分を含む水性液体またはゲル状物質を指す。細胞培養培地は、血清を含有しても、無血清であってもよい。
【0053】
用語「成長因子」は、本明細書で使用される場合、様々な細胞型の増殖、成長、分化、生存および/または遊走に影響を及ぼし、単独でまたは他の物質で調節された場合に、生物に発生的、形態学的および機能的変化をもたらすことができる、生物学的に活性な物質を指す。成長因子は、典型的には、リガンドとして、細胞内に存在する受容体(例えば、表面または細胞内の受容体)に結合することによって作用することができる。成長因子は、本明細書において、特に、1つまたは複数のポリペプチド鎖を含むタンパク質性実体であってもよい。用語「成長因子」は、線維芽細胞成長因子(FGF)ファミリー、骨形成タンパク質(BMP)ファミリー、血小板由来成長因子(PDGF)ファミリー、形質転換成長因子ベータ(TGF-ベータ)ファミリー、神経成長因子(NGF)ファミリー、上皮成長因子(EGF)ファミリー、インスリン関連成長因子(IGF)ファミリー、肝細胞成長因子(HGF)ファミリー、インターロイキン-6(IL-6)ファミリー(例えば、オンコスタチンM)、造血成長因子(HeGF)、血小板由来内皮細胞成長因子(PD-ECGF)、アンジオポエチン、血管内皮成長因子(VEGF)ファミリー、またはグルココルチコイドのメンバーを包含する。本方法がヒト肝臓細胞に関して使用される場合、本方法において使用される成長因子は、ヒトまたは組換え成長因子であってもよい。本方法におけるヒトおよび組換え成長因子の使用は、このような成長因子が細胞機能に関する所望の効果を誘引することが期待されるため、好ましい。
【0054】
本明細書で使用される場合、用語「プレコンディショニングされた」肝臓前駆細胞または幹細胞は、in vitroで1つまたは複数のシグナル伝達分子に曝露される肝臓前駆細胞または幹細胞として定義される。好ましくは、前記分子を、所定の期間、前記細胞の細胞培地に添加する。
【0055】
用語「サイトカイン」は、本明細書で使用される場合、その作用が免疫系の細胞または多分化能細胞に関するものである免疫細胞または他の細胞、例えばこれらに限定されないが、T細胞、B細胞、NK細胞、マクロファージ、造血細胞、間葉系細胞および前駆細胞を含む多分化能細胞、または他の細胞型によって分泌される成長、分化または屈化性の因子などのシグナル伝達分子を指す。代表的なサイトカインとしては、以下に限定されないが、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、肝細胞成長因子(HGF)、以下に限定されないがインターロイキン-1アルファ(IL-1α)、インターロイキン-1ベータ(IL-1β)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-10(IL-10)などのインターロイキンからなる群、インターフェロン-アルファ(IFNα)およびインターフェロン-ガンマ(IFNγ)、腫瘍壊死因子-アルファ(TNFα)、ならびに顆粒球マクロファージコロニー刺激因子が挙げられる。
【0056】
用語「細胞集団」および「細胞の集団」は、一般的に、細胞の群を指す。別段に示されていなければ、この用語は、本明細書において定義される細胞から本質的になるかまたはそれらを含む細胞群を指す。細胞集団は、共通の表現型を有する細胞から本質的になってもよく、または共通の表現型を有する少なくともわずかな細胞を含んでもよい。細胞は、形態学的外観、特定の細胞構成成分または生成物(例えば、RNAまたはタンパク質)の発現レベル、ある特定の生化学経路の活性、増殖能および/または動態、分化能および/もしくは分化シグナルへの応答、またはin vitro培養時の挙動(例えば、付着または単分子層成長)を含むがこれらに限定されない1つまたは複数の明白な特徴が実質的に同様であるかまたは同一である場合に共通の表現型を有すると称される。したがって、このような明白な特徴により細胞集団またはその画分が定義され得る。細胞集団は、細胞の相当部分が共通の表現型を有する場合に「実質的に均一」であり得る。「実質的に均一な」細胞集団は、具体的に(例えば、本発明の肝臓前駆細胞もしくは幹細胞の表現型、または本発明の肝臓前駆細胞または幹細胞の後代)と称される表現型などの共通の表現型を有する細胞を少なくとも60%、例えば少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはさらに少なくとも99%含み得る。さらに、集団中に存在する他のどの細胞も細胞集団の全特性を変更しないかまたは細胞集団の全特性に重大な影響を与えず、したがって細胞株として規定することができる場合、細胞集団は、本発明の肝臓前駆細胞または幹細胞(すなわち、本発明の肝臓前駆細胞または幹細胞の後代)の表現型などの共通の表現型を有する細胞から本質的になり得る。
【0057】
用語「薬学的に許容される担体」は、本明細書で使用される場合、対象に重大な刺激をもたらさず、投与された組成物の生体活性および特性を無効にしない担体または希釈剤を指す。担体の例は、限定するものではないが、プロピレングリコール、食塩水、エマルションおよび水と有機溶媒との混合物である。
【0058】
用語「十分量」は、所望のおよび測定可能な効果を生じるのに十分な量、例えば、タンパク質発現プロファイルを変更するのに十分な量を意味する。
【0059】
用語「治療有効量」は、疾患の症状を改善するのに有効な量である。治療有効量は、予防を治療と考えることができるため、「予防的に有効な量」であり得る。
【0060】
用語「処置」は、対象が標的とされた病理学的状態または障害を防止または減速させる(和らげる)、治療処置と予防もしくは防止措置の両方を指す。処置を必要とするものは、障害を既に有するもの、および障害を有する傾向にあるものまたは障害が防止されるべきものを含む。
【0061】
用語「同種異系」は、本明細書で使用される場合、提供された材料が、レシピエントと異なる個体に由来することを意味する。同種異系幹細胞移植は、ヒトが、遺伝的に類似するが同一ではないドナー由来の幹細胞を受容する手順を指す。
【0062】
用語「線維症」は、本明細書で使用される場合、修復または反応プロセスにおける器官または組織中の過剰な線維性結合組織の形成を指す。
【0063】
用語「肝臓線維症」は、急性または慢性の肝臓傷害のいずれかの後に、間質内または「瘢痕」における細胞外マトリックスの蓄積を指す。硬変は、進行性線維症の最終段階であり、隔壁形成と肝細胞の結節を囲む瘢痕の輪によって特徴付けられる。典型的には、線維症は臨床的に明らかとなるまでに数年または数十年を要するが、硬変が数カ月で発症する注目すべき例外には、小児の肝臓疾患(例えば、胆道閉鎖症)、薬物誘導性肝臓疾患、および肝臓移植後の免疫抑制に伴うウイルス性肝炎が含まれ得る。
【0064】
用語「rMFI」または相対蛍光強度中央値は、特定の標的に対して抗体を使用して測定される蛍光強度と対照抗体(アイソタイプ対照)から得られる強度との間の比である。
【0065】
用語「遺伝子工学」、「遺伝子改変」または「遺伝子操作」は、バイオテクノロジーを使用する生物の遺伝子の直接的な操作である。これは、種の境界内および種の境界を跨いで遺伝子を導入し、改善されたかまたは新規な生物を生成することを含む、細胞の遺伝子構成を変化させるために使用される一連の技術である。新たなDNAは、組換えDNA方法を使用して目的の遺伝子材料を単離することおよびコピーすることのいずれかによって、またはDNAを人工的に合成することによって得られる。構築物は、通常、このDNAを宿主生物中に挿入するために作成および使用される。
【0066】
用語「ゲノム編集」または「ゲノム工学」は、DNAが、生存生物のゲノムにおいて、挿入、欠失、改変または置き換えられる一種の遺伝子工学である。遺伝子材料を宿主ゲノム中に無作為に挿入する初期の遺伝子工学技法とは異なり、ゲノム編集は、部位特異的位置への挿入を標的とする。
【0067】
第1の態様では、本発明は、前記前駆細胞もしくは幹細胞の少なくとも60%が細胞表面マーカーHLA-Eを発現するヒト成体肝臓に由来する前駆細胞もしくは幹細胞またはHLA-E陽性である単離された肝臓前駆細胞または幹細胞の組成物を提供する。
【0068】
単離された肝臓由来の前駆細胞におけるHLA-E発現の誘導は、その免疫抑制性を相当に増強することが示される。前記HLA-Eを発現する細胞は、CD8+ T細胞に媒介される細胞溶解に対して保護された。理論に拘束されることを望むものではないが、HLA-E陽性前駆細胞の免疫抑制性は、ナチュラルキラー細胞の細胞傷害活性を調節するHLA-Eの能力によってもたらされると考えられる。結論として、HLA-E陽性前駆細胞は、望ましくない免疫応答、例えば以下に限定されないが、炎症、自己免疫疾患および複数の肝臓障害を含む移植片拒絶に関与する障害の処置および/または防止に特に十分に適する。
【0069】
これらの前駆細胞がそれらの増殖能を保持することができ、特定の培地でのインキュベーションによって細胞が肝臓特異的細胞型へと特異的に分化することが可能であると考えられる。これらの増殖能、およびこれらの肝臓特異性によって、肝臓細胞移植に対する有効性および安全性の増加がもたらされる。さらに、それらの成体の起源のために、これらの幹細胞は、胚細胞に関連する免疫学的、倫理的および発癌性の問題を除去する。
【0070】
本発明の前駆細胞の増強された免疫抑制特性は、特に同種異系細胞移植中に高い、細胞療法および/または組織移植の免疫応答に関連するリスクの低下に寄与する。したがって、本発明のHLA-E陽性の肝臓由来の前駆細胞は、望ましくない免疫応答、例えば以下に限定されないが、炎症、自己免疫疾患および移植片拒絶を伴う障害、ならびに複数の肝臓障害に対する細胞療法として成功する可能性がより高く、患者に対する有効性および忍容性の改善を伴う。
【0071】
特定の実施形態では、本発明は、HLA-E陽性であるヒト肝臓前駆細胞、好ましくはHLA-E陽性であるヒト成体肝臓前駆細胞を提供する。
【0072】
本発明の目的として、用語「HLA-Eの発現」または「HLA-E陽性細胞」は、野生型、未処置の初代細胞において観察され得る基礎的なHLA-E発現よりも高い発現として定義される。したがって、前記細胞は、未処置の前駆細胞または幹細胞における基礎的なHLA-E発現と比較して上昇したレベルのHLA-E発現を有する。ゆえに、本発明は、同様に、基礎レベルと比較して増強されたレベルのHLA-E発現を有する肝臓から単離された前駆細胞または幹細胞の組成物を提供する。基礎的なHLA-E発現は、発現の非存在およびHLA-E発現を増強する刺激の非存在下での最小限の発現に関する場合がある。上昇したレベルの発現は、例えば以下に限定されないが、対照細胞による発現の測定値よりも少なくとも1.5倍高く、例えば少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍高くまたはさらに高く測定される発現のレベルを指す。
【0073】
一実施形態では、本発明は、ヒト成体肝臓に由来する前駆細胞または幹細胞の組成物であって、前記前駆細胞または幹細胞の少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%が細胞表面マーカーHLA-Eを発現する、組成物に関する。
【0074】
別のまたはさらなる実施形態では、本発明は、HLA-E発現細胞が、フローサイトメトリーによって測定された場合に、HLA-Eの相対蛍光強度中央値(rMFI)が少なくとも6.5である組成物または肝臓前駆細胞もしくは幹細胞に関する。rMFIは、標的の蛍光強度の中央値を対照の蛍光強度の中央値で除すことによって得られる比である。rMFIは、一般に、変動を受けない安定したパラメーターと考えられる。本発明の文脈では、抗(ヒト)HLA-E抗体が使用される。好適な抗体の例は、Miltenyiからの抗HLA-E抗体クローンREA1031である。可能なフローサイトメーターは、MACSQuant(登録商標)分析器である。
【0075】
さらなる実施形態では、HLA-E発現細胞は、フローサイトメトリーによって測定した場合に、HLA-Eの相対蛍光強度中央値(rMFI)が少なくとも7、より好ましくは少なくとも8、より好ましくは少なくとも9、より好ましくは少なくとも10を示す。別の実施形態では、前記rMFIは、6.5から15の間、より好ましくは6.5から14の間、より好ましくは6.5から13の間、より好ましくは6.5から13の間、より好ましくは6.5から12の間である。
【0076】
免疫寛容の誘導に関与する別のタンパク質は、HLA-Gである。HLA-Eと同様に、HLA-Gも、阻害性ナチュラルキラー細胞受容体を誘発し、免疫抑制機能を発揮することができる。HLA-EおよびHLA-Gは、共に作用することが報告されている。したがって、本発明のさらなる実施形態では、肝臓前駆細胞は、HLA-Gに対してさらに陽性である。HLA-EおよびHLA-Gの協同作用によって、各肝臓前駆細胞の免疫抑制作用がさらに増強され、これらを細胞療法のアプローチでの使用により良好に適するようにする。
【0077】
一実施形態では、本発明による細胞集団または組成物は、高いHLA-G分泌を示すことになる。
【0078】
さらなる実施形態では、本発明の細胞、前記細胞を含む集団および組成物は、少なくとも1つの間葉系マーカーに対して陽性であり得る。間葉系マーカーとしては、ビメンチン、CD13、CD90、CD73、CD44、CD29、α-平滑筋アクチン(ASMA)およびCD140bが挙げられるがこれらに限定されない。さらなる実施形態では、本発明の細胞、前記細胞を含む集団および組成物は、HGFを分泌する。別のさらなる実施形態では、本発明の細胞、前記細胞を含む集団および組成物は、HLA-DRに対して陰性である。さらなる実施形態では、前記集団および組成物は、さらに、少なくとも1種の肝マーカーおよび/または少なくとも1つの肝臓特異的活性に関連するマーカーに対して必要に応じて陽性である。例えば、肝マーカーとしては、アルブミン(ALB)、HNF-3B、HNF-4、CYP1A2、CYP2C9、CYP2E1、CYP3A4およびアルファ-1アンチトリプシンが挙げられるがこれらに限定されない。肝臓特異的活性としては、尿分泌、ビリルビンコンジュゲーション、アルファ-1-アンチトリプシン分泌、CYP3A4活性が挙げられるがこれらに限定されない。これらのマーカー/活性の存在は、肝臓起源、単離された肝臓前駆細胞または幹細胞の多分化能および維持された肝臓の機能性をさらに確信させる。
【0079】
一実施形態では、細胞は、
a.α-平滑筋アクチン(ASMA)、CD140bおよび必要に応じてアルブミン(ALB)に対して陽性、
b.プロテイン2を含有するSushiドメイン(SUSD2)およびサイトケラチン-19(CK-19)に対して陰性
である点で特徴付けることもできる。
【0080】
さらなる実施形態では、前記細胞は、CD90、CD73、ビメンチン、ASMA、CD140bおよびCD13を発現すること、ならびにHGFを分泌することが確認された。
【0081】
さらなるまたは他の実施形態では、細胞は、
a.HNF-3B、HNF-4、CYP1A2、CYP2C9、CYP2E1およびCYP3A4ならびに必要に応じてアルブミンから選択される少なくとも1つの肝マーカー、ならびに/または
b.ビメンチン、CD90、CD73、CD44、およびCD29から選択される少なくとも1つの間葉系マーカー、ならびに/または
c.尿分泌、ビリルビンコンジュゲーション、アルファ-1-アンチトリプシン分泌、およびCYP3A4活性から選択される少なくとも1つの肝臓特異的活性、ならびに/または
d.ATP2B4、ITGA3、TFRC、SLC3A2、CD59、ITGB5、CD151、ICAM1、ANPEP、CD46、およびCD81から選択される少なくとも1つのマーカー、ならびに/または
e.MMP1、ITGA11、FMOD、KCND2、CCL11、ASPN、KCNK2、およびHMCN1から選択される少なくとも1つのマーカー
に対して陽性として特徴付けるまたは測定することもできる。
【0082】
さらなる実施形態では、細胞は、さらに試験され、マーカーCD133、CD45、CK19および/またはCD31に対して陰性であることが確立される。
【0083】
本発明のさらなる実施形態では、肝臓由来の前駆細胞は、未処置の肝臓由来の前駆細胞または幹細胞において検出されたプロスタグランジンE2(PGE2)分泌の基礎レベルと比較して、上昇したレベルのPGE2をさらに有する。
【0084】
本発明の別のさらなる実施形態では、肝臓由来の前駆細胞は、未処置の肝臓前駆細胞または幹細胞において検出された基礎的な酵素活性と比較して、上昇したレベルのインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)酵素活性をさらに有する。
【0085】
本発明のさらに別のさらなる実施形態では、肝臓由来の前駆細胞は、未処置の肝臓前駆細胞または幹細胞において検出された基礎的な発現レベルと比較して、IDO、プロスタグランジン-エンドペルオキシドシンターゼ2(PTGS2)、インターロイキン-6(IL-6)および/またはIL-10からなる群に属する1種または複数種のサイトカインまたは免疫調節性因子の上昇したレベルの発現をさらに有する。
【0086】
PTGS2は、PGE2の生成に関与するが、一方、IDO、PGE2、IL-6、IL-10およびHGFは、免疫調節性を有する分泌された因子である。これらの個々のまたは組み合わせた上昇したレベルの発現、分泌および/または酵素活性は、本発明の肝臓由来の前駆細胞の免疫抑制性および免疫調節性にさらに寄与する。したがって、上述の実施形態による細胞は、より強力な免疫調節性を有し、細胞療法、特に同種異系細胞移植に関与する療法において使用するのにより安全である。
【0087】
一実施形態では、前記組成物または細胞集団は、前駆細胞または肝細胞の約50%以上、約60%以上、約65%以上、約70%以上、約80%以上または約90%以上を含んでもよく、前記前駆細胞または肝細胞の実質的に均一なまたは均一な集団である。組成物または細胞集団の免疫抑制性は、前記集団内で増加する量の前駆細胞または肝細胞によってさらに増強される。
【0088】
本発明の一実施形態では、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。本発明の細胞が生存可能なままであり、それらの免疫調節性を保持する薬学的に許容される担体または希釈剤が選択される。担体は、薬学的に許容される溶媒または例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)およびそれらの好適な混合物を含有する分散媒体であってもよい。よって、本発明は、上記のように単離された肝臓前駆細胞もしくは幹細胞、その細胞株、またはこれらを含む細胞集団を開示する。
【0089】
好ましくは、本発明の単離された肝臓前駆細胞を含む組成物は、少なくとも103、106、109個以上の細胞(例えば、各用量または投与ごとに、500万から5億個の間または500万から2億5000万個の間または5000万から5億個の間または5000万から2億5000万個の間または1億から5億個の間または1億から2億5000万個の間の細胞)を含んでもよい。このような細胞ベースの組成物は、さらなる治療、診断、または任意の他の有益な効果をもたらすことができる生物学的起源(例えば、抗体または成長因子)または化学的起源(例えば、薬物、細胞保存または標識化合物)の他の薬剤を含んでもよい。文献は、細胞ベースの医薬組成物と適合する必要に応じた添加剤、賦形剤、ビヒクルおよび/または担体ならびにそれらを肝臓前駆細胞と組み合わせる手段のいくつかの例を提供し、これらはさらなる特定の緩衝剤、成長因子またはアジュバントを含んでもよく、組成物の各構成成分の量は定義される(マイクログラム/ミリグラム、体積、またはパーセンテージで)。
【0090】
さらなる実施形態では、本発明の組成物は、このような細胞を新鮮な細胞としてまたは長期保存に好適な細胞(例えば、凍結保存細胞)のいずれかとして含む組成物の形態で、in vivo投与(ヒトまたは動物モデルにおいて)またはin vitro適用のための治療方法において使用することができる医薬組成物として提供され得る。
【0091】
別のまたはさらなる実施形態では、本発明の組成物は、細胞が、バイオ人工肝臓デバイス、天然もしくは合成のマトリックス、または適切な位置(細胞のホーミングおよび生着を補助するケモカインを発現する炎症または組織傷害の領域を含む)で細胞の生着および機能性を可能にする他のシステムを含むin vitroおよび/またはin vivoで成長および分化することができる細胞の懸濁液、スポンジまたは他の三次元構造として提供することができる。特に、本発明の組成物は、注入(静脈内または動脈内へのカテーテル投与も包含する)または埋め込み、例えば、局所注入、全身注入、脾臓内注入、関節内注入、腹腔内注入、門脈内注入、肝髄、例えば肝被膜下への注入、非経口投与、または胎芽もしくは胎児への子宮内注入により投与することができる。
【0092】
本発明による細胞、組成物および細胞集団は、様々な方法により得ることができる。
【0093】
一実施形態では、本発明の前記幹細胞または前駆細胞ならびに組成物または細胞集団中に存在する前記幹細胞または前駆細胞は、HLA-Eをコードする核酸の外因性配列を含む。ヒトHLA-Eの配列は、NCBIの遺伝子ID3133で公知である。前記外因性核酸の導入は、当技術分野で通常知られている遺伝子工学技法によって実施することができる。前記外因性核酸は、例えば、ベクター、誘導性プロモーター、目的のタンパク質生成物をコードする配列などを含む核酸構築物であってもよい。種々のベクター(例えば、プラスミド、発現ベクター、レトロウイルスベクターなど)が、配列の細胞内への送達に関して当技術分野で公知である。一実施形態では、ベクターは、レトロウイルスまたはレンチウイルスのベクターである。
【0094】
当技術分野で公知の様々な技法、例えば、電気穿孔、カルシウム沈降したDNA、融合、トランスフェクション、リポフェクションなどを使用して、標的細胞をトランスフェクトすることができる。DNAが導入される特定の手法は、本発明の実践にとって重要ではない。レトロウイルスと適切なパッケージング株の組合せを使用することができ、ここで、キャプシドタンパク質は、標的細胞を感染させるために機能的である。通常、細胞およびウイルスは、培養培地中で少なくとも約24時間インキュベートされることになる。一般に使用されるレトロウイルスベクターは、「欠陥」があり、すなわち、産生性感染に必要とされるウイルスタンパク質を産生することができない。ベクターの複製には、パッケージング細胞株における成長が必要とされる。
【0095】
目的のタンパク質産物は、本明細書に記載の前駆細胞または幹細胞の集団を検出するおよび/または選択するのを補助するために選択されてもよい。幹細胞を検出または選択するために、検出構築物を、幹細胞であることまたは幹細胞を含むことが疑われる細胞または細胞の集団中に導入する。発現構築物の導入後に、細胞は、検出可能なマーカーを発現するのに十分な期間、通常少なくとも約12時間かつ約2週間以内維持され、約1日から約1週間であってもよい。
【0096】
遺伝子構築物は、拡大後に標的細胞から取り出されてもよい。これは、一時的なベクター系の使用によって、または所望のタンパク質コード配列に隣接する異種性の組換え部位を含むことによって、達成することができる。好ましくは、検出可能なマーカー、例えば緑色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、抗体選択方法に好適な細胞表面タンパク質などは、発現ベクターに含まれ、その結果、構築物の検出後に、外因性配列を欠く細胞を容易に単離することができる。
【0097】
哺乳類の細胞において一時的または長期的発現を提供する発現ベクターを使用してもよい。一般に、一時的発現には、宿主細胞において効率的に複製することができる発現ベクターの使用が含まれ、その結果、宿主細胞は発現ベクターの多くのコピーを蓄積し、次に、発現ベクターによってコードされた高レベルの所望のポリペプチドを合成する。好適な発現ベクターおよび宿主細胞を含む一時的発現システムによって、細胞の簡便な短期間の拡大が可能になるが、細胞の長期的遺伝子型に影響を及ぼさない。
【0098】
一部の実施形態では、選択された細胞は、少なくとも1回の継代培養、通常、少なくとも約2回の継代培養、少なくとも約3回の継代培養、またはそれより多く、かつ約10回以下の継代培養、通常、約7回以下の継代培養の間培養を維持される。このような培養の後に、細胞を上記のように検出可能なマーカーの発現に対して選別する。
【0099】
一実施形態では、前記外因性核酸は、標的化ゲノム編集によって前記細胞に導入される。標的化ゲノム編集に使用される一般的な方法は、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写アクチベーター様エフェクターベースのヌクレアーゼ(TALEN)、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR/Cas9)系などのヌクレアーゼの使用である。好ましい実施形態では、CRISPR/Cas9系を使用して、HLA-Eを前記幹細胞または前駆細胞中に導入する。
【0100】
本発明は、同様に、プレコンディショニングまたは刺激によって、HLA-E陽性肝臓前駆細胞または幹細胞を調製するための方法を提供する。特に、本方法は、細胞をプレコンディショニングするステップを含み、これは、1種または複数種のサイトカインを肝臓前駆細胞または幹細胞の培養の細胞培地に添加することを指す。
【0101】
好ましい実施形態では、このような方法は、
(a)成体肝臓またはその一部を解離させて、初代肝臓細胞の集団を形成するステップと、
(b)(a)の初代肝臓細胞の調製物を生成するステップと、
(c)(b)の調製物に含まれる細胞を、それに対する細胞の付着および成長ならびに細胞の集団の出現を可能にする支持体上で培養するステップと、
(d)(c)の細胞を少なくとも1回継代培養するステップと、
(e)ステップ(d)の1回の継代培養で、好ましくはステップ(d)の最後の継代培養で、細胞を1種または複数種のサイトカインでプレコンディショニングするステップと、
(f)(e)のプレコンディショニング後に得られる細胞集団を採取するステップと
を含む。
【0102】
さらなる実施形態では、HLA-Eの発現は、ステップ(f)で得られた細胞において必要に応じて測定され、これらの細胞のさらなる選択が実施される。
【0103】
基礎的なHLA-Eの発現は、発現の非存在および培地中に外因性サイトカインが存在しない場合の最小限の発現に関連し得る。
【0104】
本方法のステップ(a)に関して、解離ステップは、十分に分化した肝細胞と一緒に、肝臓前駆細胞または幹細胞を生成するために使用することができる初代細胞の量を含む肝臓またはその一部を得ることを含む。
【0105】
肝臓またはその一部は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトと交換可能に称される、「対象」、「ドナー対象」または「ドナー」から得られる。肝臓の一部は、肝臓の任意の部分に由来する組織試料であり得、肝臓に存在する様々な細胞型を含んでもよい。本発明による細胞は、好ましくは哺乳類の肝臓またはその一部から単離され、ここで、用語哺乳類は、ヒト、飼育動物および家畜、ならびに動物園の動物、実験動物、狩猟動物、または愛玩動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ、マウス、ラット、ウサギなどを含む哺乳動物として分類される任意の動物を指す。より好ましくは、肝臓前駆細胞または幹細胞は、ヒトの肝臓またはその一部、好ましくはヒトの成体肝臓またはその一部から単離される。本発明により成体ヒト対象の肝臓に由来する肝臓前駆細胞もしくは細胞株、またはその後代は、例えば、望ましくない免疫応答、例えば以下に限定されないが、炎症、自己免疫疾患および移植片拒絶を含む障害(肝臓疾患を含む)を患っている患者、特にヒト患者の研究および治療において有利に使用することができる。腫瘍成長を生じやすい、例えば胚性幹細胞などの幹細胞の他の供給源とは対照的に、成体肝臓に由来する幹細胞は、発癌性のばらつきに関するリスクの低下をもたらし、細胞移植における使用に対してそれらをより安全にする。
【0106】
本発明の代替の実施形態では、成体肝臓またはその一部は、非ヒト動物対象、好ましくは非ヒト哺乳動物対象に由来してもよい。本明細書に記載されるように、非ヒト動物または非ヒト哺乳動物対象の肝臓に由来する前駆細胞もしくは幹細胞もしくは細胞株、またはその後代は、例えば、同一の、関連するもしくは他の非ヒト動物もしくは非ヒト哺乳動物種のメンバーの肝臓疾患の研究および治療において、またはさらに肝臓疾患を患っているヒト患者の治療において(例えば、非ヒト動物または非ヒト哺乳動物の細胞を含む異種移植、バイオ人工肝臓デバイス)、有利に使用することができる。例であり限定するものではないが、ヒトの治療において使用するための特に好適な非ヒト哺乳動物細胞は、ブタを起源とし得る。
【0107】
ドナー対象は、例えば、「心肺」基準(通常、循環および呼吸器機能の不可逆的停止を含む)または「脳死」基準(通常、脳幹を含む全脳のすべての機能の不可逆的停止を含む)などの当技術分野で認められた基準によって決定される場合、生きていても死んでいてもよい。採取は、当技術分野で公知の手順、例えば生検、摘出または切除などを含んでもよい。
【0108】
当業者は、ドナー対象から肝臓またはその一部を採取するステップの少なくとも一部の態様は、それぞれの法的および倫理的規範に従う場合があることを認識する。例であり限定するものではないが、生存しているヒトドナーから肝臓組織を採取するステップは、ドナーのさらなる生命の維持と両立する必要がある場合がある。したがって、典型的には、例えば生検または摘出を使用して、生存しているヒトドナーから肝臓の一部のみが取り出されてもよく、その結果、適正レベルの生理学的な肝臓機能がドナーにおいて維持される。しかしながら一方で、非ヒト動物から肝臓またはその一部を採取するステップは、非ヒト動物のさらなる生存と両立する必要がない場合がある。例えば、非ヒト動物は、組織を採取した後に、人道的に処分される場合がある。これらのおよびこれらに類似する配慮は、当業者にとって明らかであり、法的および倫理的基準を反映するものである。
【0109】
肝臓またはその一部は、循環、例えば心拍動を維持し、呼吸機能、例えば肺呼吸または人工呼吸を持続するドナー、好ましくはヒトドナーから得られてもよい。倫理的および法的規範に従うドナーは、脳死状態である必要がある場合も、そうである必要がない場合もある(例えば、ヒトドナーのさらなる生存と両立しない肝臓全体またはその一部の取出しは、脳死した人間において許可される場合がある)。このようなドナーから肝臓またはその一部を採取するステップは、組織が、通常虚血(循環の停止)から生じる実質的な無酸素状態(酸素供給の欠如)を経験していないため、有利である。
【0110】
あるいは、肝臓またはその一部は、組織を採取する時点で、循環を停止した、例えば心拍動を有さない、および/または呼吸機能が停止した、例えば肺呼吸も人工呼吸も有さないドナー、好ましくはヒトドナーから得られてもよい。これらのドナーに由来する肝臓またはその一部は、少なくともある程度の無酸素状態を経験しているかもしれないが、生存可能な前駆細胞または幹細胞は、このような組織からも単離することができる。肝臓またはその一部は、ドナーの循環(例えば、心拍)停止後約24時間以内、例えば、ドナーの循環(例えば、心拍)停止後約20時間以内、例えば約16時間以内、より好ましくは約12時間以内、例えば約8時間以内、さらにより好ましくは約6時間以内、例えば約5時間以内、約4時間以内または約3時間以内、なおより好ましくは約2時間以内、最も好ましくは約1時間以内、例えば約45、30または15分以内に採取されてもよい。
【0111】
採取された組織は、約室温まで、または室温より低い温度まで冷却されてもよいが、通常、組織またはその一部の凍結は、特にそのような凍結によって核形成または氷晶成長がもたらされる場合には、回避される。例えば、組織は、約1℃から室温の間、約2℃から室温の間、約3℃から室温の間または約4℃から室温の間の任意の温度で保たれてもよく、有利には約4℃で保たれてもよい。組織は、当技術分野で公知のように「氷上で」保たれてもよい。組織は、虚血時間、すなわち、ドナーの循環が停止した後の時間のすべてまたは一部の間冷却されてもよい。すなわち、組織は、温虚血、冷虚血、または温虚血と冷虚血の組合せに供されてもよい。採取した組織は、例えば、処理の48時間前まで、好ましくは24時間未満、例えば16時間未満、より好ましくは12時間未満、例えば10時間未満、6時間未満、3時間未満、2時間未満または1時間未満の間このように保たれてもよい。
【0112】
採取した組織は、組織のさらなる処理の前に、好適な培地中で、例えば、完全にもしくは少なくとも部分的に浸水させて保たれるのが有利であるが、そうする必要がない場合もある、および/または好適な培地によって潅流されてもよいが、そうする必要がない場合もある。当業者は、処理前の期間、組織の細胞の生存を支持することができる好適な培地を選択することができる。
【0113】
肝臓または肝臓の一部からの前駆細胞または幹細胞の単離は、当技術分野で公知の、例えばEP1969118、EP3039123、EP3140393またはWO2017149059に記載されるような方法に従って実施される。
【0114】
簡潔には、肝臓の初代細胞の集団は、肝臓またはその一部を解離させることから最初に得られ、前記肝臓またはその一部由来の初代細胞の集団を形成する。次に、この調製物に含まれる細胞を、好ましくは支持体上での細胞の付着および成長を可能にするように、付着条件下で培養する。次に、これらの細胞を少なくとも1回、好ましくは70%コンフルエンスで継代培養する。最後に、少なくとも1種の肝マーカーおよび少なくとも1種の間葉系マーカーに対して陽性であり、少なくとも1つの肝臓特異的活性を有する細胞を単離する。
【0115】
肝臓またはその一部を解離させて、それから初代細胞の集団(懸濁液)を得るために好適な方法は、酵素的消化、機械的分離、濾過、遠心分離およびこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、当技術分野で周知のいずれの方法であってもよい。
【0116】
本方法のステップ(b)に関して、肝臓またはその一部を解離させることによって本発明において定義され得られる初代細胞の集団は、典型的には不均一である、すなわち、これは、肝臓の実質および/または肝臓の非実質画分に存在していたかもしれない、前駆細胞または幹細胞を含めた任意の肝臓を構成する細胞型に属する1つまたは複数の細胞型に属する細胞を含んでもよい。例示的な肝臓を構成する細胞型としては、以下に限定されないが、肝細胞、胆管細胞(胆道細胞)、クッパ-細胞、肝星細胞(伊東細胞)、卵円形細胞および肝臓内皮細胞が挙げられる。上記用語は、当技術分野で確立された意味を有し、このように分類されたいずれかの細胞型を包含するものとして本明細書において広く解釈される。
【0117】
初代細胞集団は、任意の好適な技法を適用することによって、物理特性(寸法、形態)、生存能、細胞培養条件、または細胞表面マーカーの発現に基づいて、肝臓を解離させる方法ならびに/または肝細胞および/もしくは他の細胞型に関して初期調製物を分割または濃縮するための任意の方法に従って、肝細胞を様々な比率(全細胞の0.1%、1%、10%、またはそれより多く)で含んでもよい。
【0118】
定義され、肝臓(またはそれの一部)を解離させることによって本発明において得られる初代細胞の集団を、新鮮な初代肝臓細胞として細胞培養物を確立するために直ちに使用することができ、または好ましくは、それらを長期保存するために一般的技術を使用して初代肝臓細胞の凍結保存調製物として保存することができる。
【0119】
ステップ(c)に関して、ステップ(b)で得られた肝臓初代細胞の調製物を、次いで、完全な合成支持体(例えば、プラスチックまたは任意のポリマー物質)またはフィーダー細胞、タンパク質抽出物、または類似する初代細胞の付着および増殖ならびに所望のマーカー(このようなマーカーは、好ましくは、免疫組織化学、フローサイトメトリー、または他の抗体ベースの技法によってタンパク質のレベルで特定される)を有する成体肝臓前駆細胞の集団の出現を可能にする生物起源の任意の他の材料で予めコーティングした合成支持体上で直接培養する。初代細胞は、それらの付着および増殖ならびに均一な細胞集団の出現を持続させる細胞培養培地中で培養される。上記で定義されるように、初代肝臓細胞を培養するこのステップは、培養中に肝臓前駆細胞の出現および増殖をもたらし、肝臓前駆細胞または幹細胞が十分に増殖するまで継続され得る。例えば、培養するステップは、細胞集団がある特定の程度のコンフルエンス(例えば、少なくとも50%、70%、または少なくとも90%またはそれを超えるコンフルエント)に達するまで継続され得る。
【0120】
ステップ(c)で得られた肝臓前駆細胞または幹細胞は、EP3140393またはWO2017149059に記載されるように、この段階で(すなわち、ステップ(d)で示されるように細胞を継代培養する前に)既に関連するマーカーを検出することが可能な技術によってさらに特徴付けることができる。このようなマーカーを特定し、これらが陽性であるか陰性であるかを測定するための技術の中で、ウエスタンブロット、フローサイトメトリー免疫細胞化学、およびELISAが好ましく、これは、これらが、このステップで利用可能な少量の肝臓前駆細胞に関してもタンパク質レベルでのマーカー検出を可能にするためである。
【0121】
次いで、肝臓前駆細胞の単離は、陽性マーカーの存在に基づいてなされてもよく、肝臓前駆細胞は、少なくとも1種の間葉系マーカーに対して陽性であり得る。間葉系マーカーとしては、以下に限定されないが、ビメンチン、CD13、CD90、CD73、CD44、CD29、平滑筋アクチン(ASMA)およびCD140-bが挙げられる。加えて、肝臓前駆細胞は、HGFを分泌し得る。加えて、肝臓前駆細胞は、必要に応じて、少なくとも1種の肝マーカーに対して陽性であってもよい、および/または少なくとも1つの肝臓特異的活性を有してもよい。例えば、肝マーカーとしては、アルブミン(ALB)、HNF-3B、HNF-4、CYP1A2、CYP2C9、CYP2E1、CYP3A4およびアルファ-1アンチトリプシンが挙げられるがこれらに限定されない。肝臓特異的活性としては、尿分泌、ビリルビンコンジュゲーション、アルファ-1アンチトリプシン分泌およびCYP3A4活性が挙げられるがこれらに限定されない。
【0122】
本方法のステップ(d)に関して、初代細胞は、それらの付着および増殖、ならびに少なくとも1回の継代培養の後に、肝臓前駆細胞または幹細胞を次第に濃縮する均一な細胞集団の出現を持続させる細胞培養培地中で培養される。これらの肝臓前駆細胞は、所望の特性を有する後代を得るのに十分な細胞を生成するために急速に拡大することができ(EP3140393またはWO2017149059に記載されるように)、48~72時間以内に得ることができる細胞倍加および少なくとも2、3、4、5回またはそれより多い継代培養の間、所望の特性を有する肝臓前駆細胞の維持を伴う。
【0123】
単離された肝臓前駆細胞を、それに対する細胞の付着を可能にする基質上にプレーティングし、それらのさらなる増殖を持続させる培地、一般的には、血清を含有してもよいかまたは無血清であってもよい液体培養培地中で培養する。一般的に、それに対する細胞の付着を可能にする基質は、実質的に親水性の任意の基質であってもよい。付着細胞を成長させるための現在の標準的実践には、ウシ、ヒトまたは他の動物の血清の添加を含むまたは含まない、規定の化学培地の使用が関与し得る。有機または無機化合物の適切な混合物を補充してもよいこれらの培地は、栄養分および/または成長促進剤を提供する他に、特定の細胞型の成長/付着または排除/分離も促進することができる。栄養分および/または成長促進剤を提供する他に、添加した血清は、処置したプラスチック表面を、細胞がより十分に付着することができるマトリックスの層でコーティングすることによって、細胞の付着を促進することもできる。当業者に認識されるように、所望の密度の細胞の次のプレーティングを容易にするために、細胞を計数することができる。
【0124】
細胞がプレーティングされる環境は、本発明の方法において、少なくとも細胞培地を、典型的には、単離された肝臓前駆細胞の生存および/または成長を支持する液体培地を含んでもよい。液体培養培地は、それに対する細胞の導入の前に、それと一緒にまたはその後に、系に添加されてもよい。
【0125】
典型的には、培地は、当技術分野で公知のような基礎的な培地配合物を含む。以下に限定されないが、イーグル最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、アルファ改変最小必須培地(アルファ-MEM)、基礎必須培地(BME)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、BGJb培地、F-12栄養混合物(Ham)、Liebovitz L-15、DMEM/F-12、必須改変イーグル培地(EMEM)、RPMI-1640、199培地、Waymouth’s MB 752/1またはウイリアムス培地E、ならびにその改変および/または組合せを含む多くの基礎的な培地配合物を使用して、本発明において初代細胞を培養することができる。上記基礎培地の組成物は、一般的に、当技術分野で公知であり、培養される細胞に必要な培地および/または培地補充物の濃度を改変またはモジュレートすることは、当業者の技術の範囲内にある。好ましい基礎的な培地配合物は、成体肝臓細胞のin vitro培養を持続させることが報告されており、それらの適切な成長、増殖、所望のマーカーおよび/もしくは生物学的活性の維持、または長期保存のための成長因子の混合物を含む、ウイリアムス培地E、IMDMまたはDMEMなどの市販のもののうちの1つであってもよい。別の好ましい培地は、肝臓前駆細胞の成長を支持する市販の無血清培地、例えばMiltenyiからのStemMacs(商標)などである。
【0126】
このような基礎的な培地配合物は、それ自体公知である哺乳動物の細胞発生に必要な成分を含有する。例であり限定するものではないが、これらの成分は、無機塩(特に、Na、K、Mg、Ca、Cl、P、ならびに可能であればCu、Fe、SeおよびZnを含有する塩)、生理的緩衝剤(例えば、HEPES、重炭酸塩)、ヌクレオチド、ヌクレオシドおよび/または核酸塩基、リボース、デオキシリボース、アミノ酸、ビタミン、抗酸化剤(例えば、グルタチオン)および炭素源(例えば、グルコース、ピルビン酸塩、例えばピルビン酸ナトリウム、酢酸塩、例えば酢酸ナトリウム)などを含んでもよい。ピルビン酸ナトリウムを含むかまたは含まない低グルコース配合物として、多くの培地が利用可能であることも明らかである。
【0127】
培養において使用するために、基礎培地は、1種または複数種のさらなる構成成分を供給され得る。例えば、追加の補充物を使用して、細胞に、最適な成長および拡大のために必須な微量元素および物質を供給することができる。このような補充物としては、インスリン、トランスフェリン、セレニウム塩、およびこれらの組合せが挙げられる。これらの構成成分は、以下に限定されないが、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、アール塩溶液などの塩溶液中に含まれてもよい。さらなる抗酸化剤補充物、例えばb-メルカプトエタノールが添加されてもよい。多くの基礎培地は、アミノ酸を既に含有しているが、一部のアミノ酸、例えば、溶液中にある場合に安定性が低いことが知られているL-グルタミンは、後で補充されてもよい。培地は、抗生物質および/または抗真菌化合物、例えば、典型的には、ペニシリンおよびストレプトマイシンの混合物、ならびに/または以下に限定されないが、アンホテリシン、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ナリジクス酸、ネオマイシン、ナイスタチン、パロモマイシン、ポリミキシン、ピューロマイシン、リファンピシン、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、チロシン、およびゼオシンで例示される他の化合物をさらに供給されてもよい。
【0128】
ホルモンは、細胞培養において有利に使用することができ、それには、D-アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)、チロトロピン、チロキシン、L-チロニン、上皮成長因子(EGF)および肝細胞成長因子(HGF)が挙げられるがこれらに限定されない。肝臓細胞は、トリヨードチロニン、α-トコフェロールアセテート、およびグルカゴンと共に培養することから利益も得ることができる。
【0129】
脂質および脂質担体を使用して、細胞培養培地に補充することもできる。このような脂質および担体としては、とりわけ、シクロデキストリン、コレステロール、アルブミンにコンジュゲートしたリノール酸、アルブミンにコンジュゲートしたリノール酸およびオレイン酸、コンジュゲートしていないリノール酸、アルブミンにコンジュゲートしたリノール-オレイン-アラキドン酸、アルブミンにコンジュゲートしていないおよびコンジュゲートしたオレイン酸を挙げることができるがこれらに限定されない。アルブミンは、脂肪酸を含まない製剤中で同様に使用することができる。
【0130】
細胞培養培地の哺乳類の血漿または血清による補充も企図される。血漿または血清は、生存能および拡大に必要な細胞因子および構成成分を含有することが多い。好適な血清代替物の使用も企図される。本明細書に記載される培地中で使用するための好適な血清または血漿としては、ヒト血清もしくは血漿、または非ヒト動物由来の血清もしくは血漿、好ましくは非ヒト哺乳動物、例えば非ヒト霊長類(例えば、キツネザル、サル、類人猿)、胎仔もしくは成体のウシ、ウマ、ブタ、子ヒツジ、ヤギ、イヌ、ウサギ、マウスもしくはラットの血清もしくは血漿などを挙げることができる。別の実施形態では、上記血漿および/または血清の任意の組合せを細胞培地中で使用することができる。
【0131】
本発明のさらなる実施形態では、単離された肝臓前駆細胞は、1種または複数種のサイトカインでプレコンディショニングされる。好ましくは、前記サイトカインを肝臓前駆細胞または幹細胞の細胞培養培地に添加する。用いられる細胞は、新鮮であるか、凍結されているか、または事前培養に供されていてもよい。
【0132】
ステップ(e)に関して、プレコンディショニングのための培地組成物は、同じ特徴を有してもよく、肝臓前駆細胞を単離する間に使用される培地の組成物と同一であるかまたは実質的に同一であってもよい。あるいは、培地は異なっていてもよい。
【0133】
よって、本発明の実施形態による単離された肝臓前駆細胞のプレコンディショニングは、細胞をin vitroで1種または複数種のシグナル伝達分子に、この場合には各サイトカインの細胞培地への添加によるサイトカインに曝露することを含む。プレコンディショニングにおいて使用するのに好適なサイトカインは、炎症性サイトカインであっても抗炎症性サイトカインであってもよく、インターロイキン-1アルファ(IL-1α)、インターロイキン-1ベータ(IL-1β)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-10(IL-10)、インターフェロン、例えばインターフェロン-アルファ(INFα)およびインターフェロン-ガンマ(IFNγ)、腫瘍壊死因子-アルファ(TNFα)および顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子を含む。
【0134】
HLA-Eなどの特異的マーカーの発現は、当技術分野で公知の任意の好適な免疫学的技法、例えばフローサイトメトリー、免疫細胞化学もしくは親和性吸着、ウエスタンブロット解析、ELISAなどを使用して、またはマーカーであるmRNAの量を測定する任意の好適な技法、例えばノーザンブロット、半定量的もしくは定量的RT-PCRなどによって検出することができる。
【0135】
上記のように、単離された前駆細胞のサイトカインによるin vitroでの処置により、HLA-Eの発現が誘導される。したがって、本発明のさらなる実施形態では、プレコンディショニングされた細胞は、プレコンディショニングされていない肝臓前駆細胞または幹細胞における基礎的なHLA-E発現と比較して、上昇したレベルのHLA-E発現を有する。ゆえに、本発明は、同様に、1種または複数種のサイトカインを細胞培地に添加することによって、基礎レベルと比較して増強されたレベルのHLA-E発現を有する肝臓から単離されたプレコンディショニングされた前駆細胞を調製する方法を提供する。基礎的なHLA-Eの発現は、発現の非存在および培地中にサイトカインが存在しない場合の最小限の発現に関連し得る。上昇したレベルの発現は、例えば以下に限定されないが、対照細胞による発現の測定値よりも少なくとも1.5倍高く、例えば少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍高くまたはさらに高く測定される発現のレベルを指す。
【0136】
好ましくは、サイトカイン、すなわち、IFNγ、TNFα、IL-1β、および必要に応じてIL-10ならびにこれらの組合せは、HLA-E発現を誘導するために使用される。したがって、本発明のさらなる実施形態では、成体肝臓前駆細胞または幹細胞のプレコンディショニングは、好ましくは、IFNγ、TNFα、IL-1β、IL-10およびこれらの任意の組合せから選択されるサイトカインを用いて実施される。これらのサイトカインは、肝臓前駆細胞において、HLA-Eの発現を効率的に誘導することが見出された。実施形態では、サイトカインは、少なくともIFNγおよびTNFαである。好ましい実施形態では、混合物は、IL-1βおよび/またはIL-10をさらに含む。これらの特異的サイトカインの組合せは、肝臓前駆細胞または幹細胞におけるHLA-E発現の誘導の効率の増加を示す。
【0137】
一実施形態では、サイトカインは、5ng/mlから400ng/mlの間、好ましくは10ng/mlから360ng/mlの間、より好ましくは20ng/mlから240ng/mlの間の最終総濃度で細胞の細胞培地に添加される。本発明の別のまたはさらなる実施形態では、細胞培地における個々のサイトカイン濃度は、5から100ng/mlの間、より好ましくは10から80ng/mlの間の、最も好ましくは20から60ng/mlの間である。
【0138】
より詳細には、肝臓前駆細胞のサイトカインによるプレコンディショニングの有効性は、細胞が、1時間から72時間、より好ましくは12時間から60時間、より好ましくは24時間から60時間、最も好ましくは24~48時間プレコンディショニングされた場合に、HLA-E発現に関して最も有効である。
【0139】
言及された濃度および処置期間の範囲は、前記細胞において許容されるHLA-E発現を誘導するのに十分であると考えられる。
【0140】
上記ステップ(f)に関して、細胞集団の必要に応じた単離は、本発明のさらなる実施形態では、プレコンディショニングされていない肝臓前駆細胞または幹細胞と比較して、上昇したレベルのHLA-Eを有する細胞に適用される。
【0141】
上述のように、本発明は、本発明のHLA-Eに対して陽性である単離された肝臓前駆細胞もしくは幹細胞、その細胞株またはこれらを含む細胞集団、あるいは必要に応じて遺伝子改変された、分化した後代、特に肝細胞または肝細胞様細胞を含むその後代を含む組成物にも関する。
【0142】
さらなる態様では、本発明は、以下に限定されないが:
- 肝臓代謝欠損、肝臓変性疾患または劇症肝不全を処置するための(同種異系)肝臓細胞移植、
- バイオ人工肝臓デバイスの調製、
- 動物における本発明による単離された前駆細胞もしくは幹細胞またはその集団の移植によるヒト肝臓疾患の動物モデルの調製、
- in vitroおよび毒物学、薬理学の動物モデルの調製、
- ヒト肝炎ウイルスに対する抗ウイルス薬を含む、本発明による単離された前駆細胞もしくは幹細胞またはその集団に関する新薬の試験
を含む、肝臓疾患の処置における使用のために上記の組成物を提供する。
【0143】
したがって、肝不全、肝炎および先天性代謝異常を含むがこれらに限定されない肝臓に関連する疾患の処置において、本発明の細胞を使用することができる。本発明の組成物は、特に、それらの免疫調節性による炎症または免疫応答に関連する肝臓疾患の処置において使用するのに非常に適している。可能性のある免疫に関連するリスクを包含する、肝臓細胞移植を含む処置は、本発明の肝臓前駆細胞を含む組成物の優れた免疫調節性から利益も得る。
【0144】
本発明は、以下の目的:
- 望ましくない免疫応答、例えば以下に限定されないが、炎症、自己免疫疾患および移植片拒絶を伴う障害を処置すること、
- 免疫療法において、
- 以下に限定されないが、肝臓線維化障害、肺線維症、腎臓線維症、前立腺線維症、乳房線維症、心筋線維症および線維症の特異的マーカーの上昇に関与する他の障害であって、このマーカーが、線維化疾患、肝臓線維症および/または線維炎症性慢性肝不全を含む慢性線維炎症性疾患の存在と相関し得る、任意の生化学的、血清学的マーカーまたは任意の他の臨床的もしくは超音波検査的特徴である、障害を含む線維化障害を処置すること、
- 肝臓に基づく先天性代謝欠損を処置するための肝臓前駆細胞または幹細胞
(このような疾患の包括的でない例としては、フェニルケトン尿症および他のアミノ酸代謝異常症、血友病および他の凝固因子欠乏、家族性高コレステロール血症および他の脂質代謝障害、尿素回路障害、糖原病、ガラクトース血症、フルクトース血症、チロシン血症、タンパク質および炭水化物代謝欠損、有機酸尿症、ミトコンドリア病、ペルオキシソームおよびリソソーム障害、タンパク質合成異常、肝臓細胞輸送体の欠陥、グリコシル化の欠陥などが挙げられる)
- 後天的進行性肝臓変性疾患を処置すること、
- 劇症肝不全および急性または慢性の肝不全を処置すること、
- バイオ人工肝臓デバイスおよび肝臓アシストデバイス内、
- ヒト肝臓疾患の動物モデル
において使用するための単離された前駆細胞もしくは幹細胞、その集団または後者を含む組成物も開示する。
【0145】
本発明のHLA-E陽性肝臓前駆細胞もしくはその細胞集団またはこれらを含有する組成物を肝臓内または肝臓外の位置において肝臓細胞移植(LCT)による組織工学および細胞療法のために使用することができる(肝臓または他の器官および組織の以前のまたは後の移植に対する免疫学適応答を調節することを含む)。このアプローチを使用して、ヒト肝臓疾患の動物モデルを、動物に本発明の単離されたヒト肝臓前駆細胞またはこれらを含有する組成物を移植することによっても得ることができ、ここで、ヒト肝細胞への化合物の効果は、より効果的に評価され、動物モデルにおける効果と識別され得る。
【0146】
- ヒトの肝臓指向性ウイルス感染(HBV、HAV、HCV、HEV、HDV、...)の動物モデルの調製において
- 本発明による移植された肝臓前駆細胞または幹細胞を使用して、自然史、伝染、耐性、処置の効果、抗ウイルス薬の使用または任意のリサーチについて研究すること、
- 本発明の肝臓前駆細胞または幹細胞を使用する、毒物学、薬理学および薬理遺伝学のin vitro細胞モデルおよびin vivo動物モデルの調製、
- 本発明による肝臓前駆細胞または幹細胞に関する新薬の試験、
- その後、in vitroで拡大され得る本発明による肝臓前駆細胞または幹細胞にウイルス配列を挿入することによる、遺伝子療法、
- ヒト肝臓細胞の代謝を研究するための動物モデル、
- 同種異系細胞の忍容性
- 肝臓または肝臓細胞の同種移植片拒絶を回避、防止または処置するための、本発明による肝臓前駆細胞または幹細胞の使用。
【0147】
上記のように、本発明の肝臓前駆細胞の免疫抑制性により、本発明の組成物を目的の組織に投与し、炎症に対して、線維症に対しておよびそれらに続く破壊に対して、この組織を保護することができる。これは、望ましくない免疫反応が有害な結果を有することが多い細胞代替療法の間、特に有利である。よって、本発明の組成物を細胞代替療法において使用することができる。対象における目的の組織、好ましくは肝臓組織に前駆細胞を投与し、機能細胞を補充するかまたは失われた機能を有し、線維症および組織破壊をもたらす炎症が回避される細胞を代替することができる。したがって、前駆細胞、その細胞株、その細胞集団および後者を含む組成物は、以下に限定されないが、肝臓線維化障害、肺線維症、腎臓線維症、前立腺線維症、乳房線維症、心筋線維症および線維症の特異的マーカーの上昇に関与する他の障害であって、このマーカーが、線維化疾患、特に、肝臓における線維炎症反応が慢性肝不全をもたらすことが多い線維炎症性慢性肝臓疾患の存在と相関する可能性のある、任意の生化学的、血清学的マーカーまたは任意の他の臨床的もしくは超音波検査的特徴を含む線維化障害の処置において使用するのに特に適する。肝臓由来の前駆細胞の免疫抑制性は、肝機能の進行性の損失をもたらす進行中の線維炎症性反応を低下または防止することに寄与する。一方、再生し、肝臓細胞型に分化する肝臓前駆細胞の能力は、肝臓再生に寄与し、よって、慢性肝不全を防止する助けとなる。
【0148】
肝臓の質量および/または機能の損失をもたらし、本発明の上昇したレベルのHLA-Gを有する肝臓前駆細胞または幹細胞から利益を得ることができる肝臓線維症に代表される疾患状態または欠乏症としては、以下に限定されないが、アラジール症候群、アルコール性肝臓疾患(アルコール性硬変)、アルファ1-アンチトリプシン欠乏症(すべての表現型)、高脂血症および他の脂質代謝障害、自己免疫性肝炎、バッドキアリ症候群、胆道閉鎖症、進行性の家族性胆汁うっ滞I、IIおよびIII型、肝臓のがん、カロリ病、クリグラーナジャール症候群、フルクトース血症、ガラクトース血症、炭水化物欠損グリコシル化欠陥、他の炭水化物代謝障害、レフサム病および他のペルオキシソーム病、ニーマンピック病、ウォルマン病および他のリソソーム障害、チロシン血症、トリプルH、および他のアミノ酸代謝障害、デュビンジョンソン症候群、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を含む脂肪肝疾患、慢性肝不全、慢性肝不全の急性増悪(ACLF)、ギルバート症候群、糖原病IおよびIII型、ヘモクロマトーシス、肝炎A~G、ポルフィリン症、原発性胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、チロシン血症、凝固因子欠乏、血友病B、フェニルケトン尿症、ウィルソン病、劇症肝不全、肝切除術後の肝不全、ミトコンドリア呼吸鎖疾患が挙げられる。加えて、細胞を使用して、ウイルス感染による後天的肝臓障害を処置することもできる。
【0149】
したがって、本発明の前駆細胞または幹細胞、その細胞株、細胞集団および/または組成物の使用は、治療における使用および/または肝臓疾患の処置のための医薬品の製造における使用のために提供される。このような疾患は、肝臓組織に影響を及ぼす障害、肝細胞の生存能および/または機能に影響を及ぼす疾患ならびに線維炎症性反応によって引き起こされる慢性肝不全を含んでもよい。加えて、免疫調節性および免疫抑制性のために、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞、その細胞株、細胞集団および/または組成物の使用は、望ましくない免疫応答が回避されるべき疾患の処置のための、治療において使用するためにおよび/または医薬品の製造において使用するために提供される。本発明による細胞の投与は、対象における組織の再構築または再生をもたらすことができる。細胞は、それらを、意図された組織部位に移植もしくは移動させ、機能的に欠損した領域を再構築もしくは再生できるようにして、または炎症反応によって引き起こされる可能性のあるさらなる損傷に対してその領域を保護できるようにして、投与される。
【0150】
本明細書は、肝臓疾患を防止および/または処置するための方法であって、本発明の組成物の、このような処置を必要とする対象への投与を含む、方法についても記載する。このような投与は、典型的には、治療有効量、すなわち、一般に、所望の局所的および全身的効果および性能をもたらす量でなされる。
【0151】
さらなる態様では、本発明は、本発明の成体肝臓前駆細胞または幹細胞、その細胞株またはこれらを含む細胞集団を含む医薬組成物に関する。例であり限定するものではないが、本発明の単離された肝臓前駆細胞または幹細胞、その細胞株またはこれらもしくはその後代を含む細胞集団は、注入(カテーテル投与も包含する)または埋め込み、例えば局所注入、全身注入、脾臓内注入(Guptaら、Seminars in Liver Disease 12:321頁、1992年)、門脈への注入、肝髄、例えば肝被膜下への注入、非経口投与、または胎芽もしくは胎児への子宮内注入によって有利に投与され得る。
【0152】
本発明の肝臓を起源とする前駆細胞または幹細胞、その細胞株またはこれら、もしくはその後代を含む細胞集団は、必要に応じて遺伝子改変されるか、あるいはこれらを含む医薬組成物は、組織工学および肝臓細胞移植(LCT)による細胞療法にさらに使用されてもよい。肝臓細胞移植、および肝臓幹細胞移植(LSCT)は、本発明の細胞を含む成熟した肝細胞または肝臓前駆細胞を、細胞の肝アクセスおよび生着につながる任意の方法、好ましくは門脈を介してであるが、あるいはまた直接的な肝注入または脾臓内注入によって、注入する技法を指す。
【0153】
例えば、細胞は、単離手順後または凍結保存後の解凍後に、好ましくはヒトアルブミンを含有する任意の保存培地中で、細胞懸濁液として提供されてもよい。
【0154】
一実施形態では、本発明は、本発明の前駆細胞または幹細胞を単離するために、患者自身の肝臓組織を使用することを企図する。このような細胞は、患者にとって自己であり、患者に容易に投与することができることになる。しかし、患者が、例えば特定の病理状態の根底にある遺伝子の欠陥を含有した場合には、このような欠陥は、得られた細胞を遺伝子操作することによって、または同種異系幹細胞移植として当技術分野でも公知の、患者自身ではない組織から単離された前駆細胞または幹細胞を使用することによって避けることができる。
【0155】
このような細胞の患者への投与が企図される場合、前駆細胞または幹細胞を得るために本発明の方法に供された肝臓組織は、少なくとも達成可能な制限内で、患者と投与された細胞の間の組織適合性を最大化するように選択されるのが好ましい場合がある。これらの努力にもかかわらず、患者の免疫系による投与された細胞の拒絶のリスクは依然として高い(例えば、移植片対宿主拒絶)。本発明による肝臓由来の前駆細胞を含む組成物は、同種異系LCTまたはLSCTの拒絶のリスクをさらに低下させ、したがって、さらなる実施形態では、本発明は、同種異系移植において使用するための組成物を提供する。
【0156】
本発明の前駆細胞または幹細胞の治療的使用に関する課題は、最適な効果を達成するのに必要な量である。投与のための用量は様々であってもよく、初期投与の後に次の投与を含んでもよく、本開示を踏まえて当業者によって確認され得る。典型的には、投与された用量(複数可)は、治療有効量の細胞、すなわち、所望の局所的または全身的作用および性能を達成するものを提供する。加えて、当業者は、対象に投与される本発明の医薬組成物中の最適な添加剤、ビヒクル、および/または担体を容易に決定することができる。典型的には、任意の添加剤(活性な前駆細胞もしくは幹細胞および/またはサイトカインに加えて)は、リン酸緩衝食塩水中に0.001から50%(w/wまたはw/v)溶液の量で存在してもよく、有効成分は、典型的には、マイクログラムからミリグラムの順で、例えば約0.0001から約5%(w/wまたはw/v)、好ましくは約0.0001から約1%、最も好ましくは約0.0001から約0.05%または約0.001から約20%、好ましくは約0.01から約10%、最も好ましくは約0.05から約5%で存在してもよい。
【0157】
HLA-E陽性肝臓前駆細胞またはその集団を含む治療用組成物を投与する場合、一般的には、単位投与量で製剤化され得る。いずれの場合にも、薬剤を含むおよび/または例えば、細胞をバイオポリマーもしくは合成ポリマー中に組み込むことによって、本発明の細胞またはその細胞の集団の生存能を確保する細胞を患者に投与するための公知の方法を採用することが望ましい場合がある。好適なバイオポリマーの例としては、以下に限定されないが、フィブロネクチン、フィブリン、フィブリノーゲン、トロンビン、コラーゲン、およびプロテオグリカン、ラミニン、付着分子、プロテオグリカン、ヒアルロナン、グリコサミノグリカン鎖、キトサン、アルギネート、このようなタンパク質に由来する天然のまたは合成により改変されたペプチド、ならびに合成、生分解性および生体適合性ポリマーが挙げられる。これらの組成物は、サイトカイン、成長因子を含むかまたは含まない場合も生成することができ、懸濁液、またはそれらの中に埋め込まれた細胞を含む三次元ゲルとして投与され得る。
【0158】
滅菌注入溶液は、本発明を実践する際に利用される細胞を、必要量の適切な溶媒中に、所望により様々な量の他の成分と共に、投入することによって調製することができる。このような組成物は、好適な担体、希釈剤または賦形剤、例えば滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロースなどとの混合物中にさらに存在してもよい。組成物は、所望の投与経路および調製剤に応じて、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、ゲル化または増粘添加剤、保存剤、風味剤、着色料などの補助剤を含有してもよい。
【0159】
本発明をさらに例証する以下の非限定的な例によって本発明をさらに説明するが、これらの例は、本発明の範囲を限定することを意図せず、そのように解釈されるべきでもない。
【実施例】
【0160】
1.プレコンディショニングされたHLA-E陽性肝臓前駆細胞または幹細胞の調製
(a)肝臓前駆細胞の調製
EP 3 140 393またはWO 2017 149 059に記載されているように、ヒト成体肝臓前駆細胞を健康な死体ドナーまたは心停止ドナーの肝臓から単離した。
【0161】
簡潔には、肝臓細胞調製物を10%のFBS、10mg/mlのINS、1mMのDEXを補充したウイリアムス E培地中に再懸濁させる。初代細胞をCorning(登録商標)CellBIND(登録商標)フラスコで培養し、5%のCO2を含有する十分に加湿した雰囲気で37℃にて培養する。24時間後に、付着していない細胞を排除するために培地を交換し、その後、1週間に2回新しくし、一方、培養物を毎日顕微鏡で追跡する。12~16日後に培養培地を9%のFBSを補充した高グルコースDMEMに切り替える。間葉系様の形態を有する細胞型が出現し、増殖する。70~95%コンフルエンスに達した際に、細胞を組換えトリプシンおよび1mMのEDTAでトリプシン処理し、1cm2当たり1~10×103個の細胞の密度で再度プレーティングする。各継代培養において、80~90%コンフルエンシーで細胞をトリプシン処理した。
【0162】
(b)肝臓前駆細胞のプレコンディショニング
80~90%コンフルエンスに達した細胞のP5において、炎症プライミングをIL-Iβ(5~100ng/mL、peprotech、参照:200-1B)、IFNγ(5~100ng/mL、prospec、参照:CYT-206)、TNFα(5~100ng/mL、prospec、参照:CYT-223)、IL-10(5~100ng/mL、peprotech、参照:200-10-10UG)および/またはこれらの組合せで48時間行い、「すべて」を使用して、IL-Iβ、IFNγ、TNFαおよびIL-10の組合せで処置した細胞に言及するために使用する。その後、上清を採取し、分析のために、組換えトリプシン(trypLE;LifeTech)および1mMのEDTAで細胞をトリプシン処理した。
【0163】
2.HLA-E発現:フローサイトメトリーによる細胞の特徴付け
未処置および処置した細胞でのHLA-E発現をフローサイトメトリーによって評価した。
【0164】
全体で5×105個の細胞をPBS緩衝液中で4℃にて30分間または室温にて15分間、抗ヒトHLA-E-PE抗体と共にインキュベートした。対応する対照アイソタイプ抗体を使用して、モノクローナル抗体の非特異的結合を評価した。アイソタイプからのヒストグラムのシフトは、アイソタイプと比較してHLA-Eの発現の増加を示す。これらの結果は、未処置条件と比較して、プレコンディショニングされた細胞におけるHLA-E発現のレベルの上昇を示す。
【0165】
図1および
図2に示されるように、1種または複数種のサイトカインの、本発明の実施形態による細胞の細胞培地への添加による肝臓前駆細胞のプレコンディショニングによって、プレコンディショニングされていない細胞(対照条件)における基礎的なHLA-E発現のレベルと比較して、HLA-E発現のレベルが上昇した細胞がもたらされる。
【0166】
図3に表された結果は、特異的mAbで染色した細胞の平均蛍光強度(MFI)を示し、対照条件(未処置)と比較して、MFIレベルの上昇を示すプレコンディショニングされた肝臓前駆細胞集団のHLA-E陽性一致を確認する。結果は、平均±SEMとして表す。すべてのデータは、Prism 5ソフトウェアで解析した。
【0167】
3.リアルタイム逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)による遺伝子発現の定量
プレコンディショニングされた成体肝臓前駆細胞および対照細胞を実施例1に記載されたように調製した。
【0168】
RT-PCRを使用して、遺伝子発現を特徴付けた。市販のキットを製造業者の使用説明書に従って使用して、cDNAを合成した。試料をリアルタイムPCR機器に二連でランした。遺伝子発現の相対的定量は、内因的対照転写物に対するシグナル強度を正規化することによって確立した。正規化後に、データをプロットし、様々なサイトカインの組合せでプレコンディショニングした肝臓前駆細胞集団間で比較した。
【0169】
より詳細には、GenElute(商標)Mammalian Total RNA Miniprep Kit(Sigma-RTN070)を使用して、全RNA抽出のために細胞を回収した。RNA抽出の間、On-Column DNase I Digestion Set(Sigma 参照:DNASE70)を使用して、DNAse処理を行った。次いで、NanoDrop(Thermo Scientific)を使用して、RNAを定量した。Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit(Roche-04897030001)を製造業者の使用説明書に従って使用して、一本鎖cDNAを合成した。鋳型cDNA、Taqman Master Mix緩衝液(10pL;Applied Biosystems)、ならびにフォワードおよびリバースプライマーを含有するPCR増幅混合液(20plの最終体積)によりPCRを二連で実行し、ViiA 7 Real-Time PCR System(Applied Biosystems)で実施した。サイクリング条件は、95℃で10分のポリメラーゼ活性化、95℃で15秒を40サイクルおよび60℃で1分間を含んだ。定量は、ハウスキーピング遺伝子GAPDHに対して正規化した。
【0170】
本研究に関して使用される市販のプライマーおよびプローブをこの後に列挙する(すべての製品はThermo Fisherからのもの):GAPDH-Hs99999905_m1、HLA-G-Hs00365950_g1、HLA-E-Hs03045171_m1、IDO1-Hs00984148_m1、HGF-Hs00300159_m1、PTGS2-Hs00153133_m1、IL-6-Hs00174131_m1、IL-10-Hs00961622_m1。
【0171】
図4は、プレコンディショニングされた肝臓前駆細胞がHLA-Eに対して陽性であることを示す。プレコンディショニングされた肝臓前駆細胞は、プレコンディショニングされていない肝臓前駆細胞における基礎的なHLA-E発現と比較して、上昇したレベルのHLA-E発現を有する。加えて、
図4は、プレコンディショニングされたHLA-E陽性細胞が、さらに、HLA-Gに対して陽性であってもよいことを示す。結果は、平均±SEM(n=3)として表される。すべてのデータをPrism 5ソフトウェアによって解析した。
【0172】
HLA-E陽性であるか、または上昇したレベルのHLA-Eを有する肝臓前駆細胞は、さらに、プレコンディショニングされていない肝臓前駆細胞または幹細胞(対照)において検出される基礎的な発現レベルと比較して、免疫調節性を有する1種または複数種のサイトカインおよび/または因子の遺伝子発現レベルの上昇も有し得る。
図5は、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1(IDO1)、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ2(PTGS2)、IL-6およびIL-10遺伝子発現レベルが、増加した量のHLA-E陽性細胞を含むプレコンディショニングされた肝臓前駆細胞の集団において上昇したことを示す。3名の異なるドナー(n=3)から単離された肝臓前駆細胞または幹細胞に関して試験を実施した。結果を平均±SEMとして表す。
【0173】
4.HLA-G分泌:HLA-E陽性肝臓前駆細胞または幹細胞を含む集団におけるCLIA(化学発光サンドイッチの原理)による可溶性HLA-Gの定量
プレコンディショニングされた肝臓前駆細胞を実施例1に記載されたように調製した。
【0174】
可溶性タンパク質の発現をプレコンディショニングされた肝臓前駆細胞から採取した上清中で測定した。この後に記載したように、市販の酵素連結免疫アッセイ(ELISA)キットを使用して、可溶性HLA-Gタンパク質定量化を実施した。
【0175】
CLIAキット:Human HLA-G ELISA Kit(CLIA)-LS-F30041を使用して、可溶性HLA-G ELISAを実施した。100pLの細胞培養上清または標準物質を捕捉抗体と37℃で90分間インキュベートした。インキュベーション後に、100piのビオチン化検出抗体を各ウェルに37℃で1時間添加した。洗浄ステップの後に、100pL/wのHRP-コンジュゲートしたものを37℃で30分間インキュベートした。5回洗浄した後、プレートを化学発光基質と37℃で5分間インキュベートし、光から保護した。インキュベーション時間の終わりに、プレートを直ちに分析して、マイクロプレートルミノメーターを使用して各ウェルの相対発光量(RLU)を決定した。アッセイの検出範囲は、0.16~10ng/mlのsHLA-Gであった。各試料は二連で試験した。
【0176】
図6に表される結果は、プレコンディショニングされた肝臓前駆細胞が、それらの上清中において増強したレベルのHLA-Gを有することを示す。
【0177】
5.HLA-E陽性肝臓前駆細胞または幹細胞における免疫調節性サイトカインおよび/または免疫調節性因子の発現
プレコンディショニングされたHLA-E陽性肝臓前駆細胞を実施例1に記載したように調製した。
【0178】
市販の酵素連結免疫アッセイ(ELISA)キットを使用して、可溶性タンパク質の発現を測定した。HLA-E陽性肝臓前駆細胞または基礎的なHLA-E発現と比較して上昇したレベルのHLA-E発現を有する肝臓前駆細胞は、プレコンディショニングされていない肝臓由来の前駆細胞または幹細胞(未処置)において検出されたPGE2の基礎レベルと比較して、上昇したレベルのプロスタグランジンE2(PGE2)の分泌をさらに有する。
【0179】
図7は、本発明の実施形態により、IFNγ、TNFα、IL-1βおよび/またはIL-10から選択される1種または複数種のサイトカインでプレコンディショニングした後に、上昇したレベルのHLA-Eを有する肝臓前駆細胞における免疫調節因子PGE2の上昇した分泌を確認する。試験は、3名の異なるドナー(n=3)から単離された肝臓前駆細胞に関して実施した。結果を平均±SEMとして表す。すべてのデータをPrism 5ソフトウェアによって解析した。
【0180】
6.本発明の実施形態により、IDO1活性は、HLA-E成体肝臓前駆細胞において増強される。
プレコンディショニングされたHLA-E陽性肝臓前駆細胞を実施例1に記載したように調製した。
【0181】
蛍光性の高い生成物を生成するために、化合物N-ホルミルキヌレニン(NFK)と選択的に反応する蛍光顕色剤を使用して(Ex/Em=402/488nm)、IDO1の酵素活性を測定した。NFKの形成は、IDO酵素活性の量と直接的に関連する。
【0182】
図8に示されるように、プレコンディショニングされていない肝臓前駆細胞(未処置)におけるIDO1の基礎的な酵素活性と比較して、IDO1の酵素活性は、プレコンディショニングされた肝臓前駆細胞において増強される。試験は、3名の異なるドナー(n=3)から単離された肝臓前駆細胞に関して実施した。結果を平均±SEMとして表す。すべてのデータをPrism 5ソフトウェアによって解析した。
【0183】
本発明は、以前に記載された現実化のいずれの形態にも限定されず、添付の特許請求の範囲を再検討することなく、いくらかの修正を提示された製作例に付加することができると考えられる。
【0184】
7.ヒト肝臓前駆細胞におけるHLA-E発現の定量
細胞を解凍し、9%のFBSを含有するDMEMの細胞結合表面に1cm2当たり30.000個の細胞でプレーティングした。次の日に、DMEM+9%のFBS(=刺激されていない条件)またはIFNγ 10ng/ml、TNFα 50ng/ml、IL-1β 20ng/mlからなる炎症性カクテルを補充したDMEM+9%のFBS(=刺激された条件)と共に、細胞をインキュベートした。インキュベーションの24時間後に、細胞を分離し、フローサイトメトリーによってHLA-E発現を決定した。
【0185】
抗HLA-E抗体(番号130-117-401、MiltenyiからのクローンREA1031)を使用するフローサイトメトリー(MacsQuant)によって、HLA-E発現を決定した。相対蛍光強度中央値(rMFI、MFI抗体/MFIアイソタイプ)およびHLA-Eを発現する細胞のパーセンテージを、アイソタイプ対照抗体を使用して決定した。
【0186】
結果:
細胞当たりのHLA-E発現は、刺激されていない細胞に対して刺激された細胞で増加したことが判明した。加えて、集団におけるHLA-E陽性細胞のパーセンテージは有意に増加し、治療において使用されるのに有用な、HLA-E発現細胞のパーセンテージの高い細胞の集団がもたらされた。
【0187】
図9Aは、炎症性カクテルで刺激した肝臓前駆細胞においてより高いHLA-E発現を示す代表的ヒストグラムを示す。
図9Bは、炎症性コンディショニングを有するまたは有さないHLA-E陽性細胞の平均パーセンテージを示す。コンディショニングの24時間後に、コンディショニングされた集団は、コンディショニングされていない細胞と比較して、HLA-E陽性細胞の増加を示した(14.7%対86.4%)。刺激された条件下で、HLA-E陽性細胞は最少69.6%および最大98.2%であり、一方、刺激されていない集団では、HLA-E陽性細胞は、4.1%から22.3%の範囲であった。細胞が、
図9Aに示されるように、アイソタイプ対照と比較して、より高い蛍光強度を有する場合、HLA-E陽性であると考えられる。
【0188】
図9Cは、刺激の24時間後のHLA-Eの増加した発現を示し、刺激した細胞に関する平均rMFIは8.3で、これと比較して、刺激されていない細胞に関する平均rMFIは3.0であった。刺激された条件下では、6.8から11.8の間のrMFIが観察され、一方、刺激されていない細胞では、2.2から3.8のrMFIが検出された。(rMFI:相対蛍光強度中央値またはMFI抗体/MFIアイソタイプ(細胞をHLA-E抗体で染色した際の蛍光シグナルを、細胞をアイソタイプ対照で染色した際の蛍光シグナルで除した))。(2名の異なる肝臓ドナーを含むn=5。)
【0189】
8.HLA-E発現は、NKまたはCD8+細胞による肝臓幹細胞または前駆細胞の死滅を低下させる
PBMCから単離したCD8+ T細胞を使用して細胞ベースのアッセイを開発し、肝臓幹細胞または前駆細胞へのHLA-E発現の影響を調査した。
【0190】
ヒトCD8+ T細胞の単離および培養:
ヒトの末梢血単核球(PBMC)を、Ficoll-Hypaque密度勾配で遠心分離によって正常な成体ドナーのバフィーコートから単離した。製造業者の使用説明書(Invitrogen(商標))に従って、Dynabeads(登録商標)Untouched(商標)Humand CD8 T細胞キットを使用して、CD8+ T細胞を単離した。単離された細胞の純度および生存能は、通常、フローサイトメトリー分析(APC-にコンジュゲートしたCD8抗体およびDAPI)によって決定され、80%より多いCD8+細胞を示す。
【0191】
肝臓幹細胞の培養およびプレコンディショニング:
細胞傷害性アッセイを開始する2日前(=-2日目)に、肝臓幹細胞を解凍し、9%のFBSを含有するDMEM中で細胞結合表面に1cm2当たり30.000個の細胞をプレーティングした。次の日に、DMEM+9%のFBS(=刺激されていない条件)またはIFNγ 10ng/ml、TNFα 50ng/ml、IL-1β 20ng/mlからなる炎症性カクテルを補充したDMEM+9%のFBS(=刺激された条件)と共に、細胞をインキュベートした。プレコンディショニングの24時間後に、細胞をトリプシン処理し、計数し、細胞傷害性アッセイまたは特徴付け(フローサイトメトリーによるHLA-E発現)に使用した。HLA-E発現をフローサイトメトリーでチェックした。相対蛍光強度中央値(RMFI、MFI抗体/MFIアイソタイプ)およびHLA-Eを発現する細胞のパーセンテージは、アイソタイプ対照抗体を使用して決定されてきた。
【0192】
CD8+ T細胞の細胞傷害性アッセイ:
2回の連続的な共培養を実施した。1回目の接触からのCD8+ T細胞を同一バッチの肝臓幹細胞を含む培養に戻した。0日目の1回目の接触は、X-VIVO培地中1cm2当たり20000個の細胞で24ウェルプレートに刺激されていないかまたは刺激された細胞をプレーティングして開始した。インキュベーション(加湿雰囲気下、37℃、5%のCO2)の4時間後に、細胞のプレーティングをチェックし、200万個のCD8+ T細胞を1mlのX-VIVOの最終体積を有する各ウェルに添加した。対照条件は、単独またはヒトT-アクチベーター抗CD3/CD28Dynabeads(製造業者のプロトコールに従う)と共に培養されたCD8+ T細胞からなる。共培養の4日目に、100UI/mlのIL-2を各ウェルに添加した。7日間の共培養後に、CD8+ T細胞を含有する上清を採取することによって、1回目の接触を終了した。培養上清をさらなるELISAアッセイのために-80℃で保ち、一方、CD8+ T細胞を、IL-2を含有するX-VIVO中に再懸濁させ、フローサイトメトリーにより計数した(CD8+細胞に関する絶対計数)。CD8+ T細胞を1回目の接触と同じ肝臓幹細胞の条件で(刺激されたかまたはされていない)2回目の接触のために培養に戻した。2回目の接触は、共培養上清、CD8+ T細胞および肝臓幹細胞を採取した後の5日間(=11日目)継続した。CD8+ T細胞および肝臓幹細胞の生存能および細胞計数をAPCにコンジュゲートしたCD8抗体およびDAPIを使用するフローサイトメトリーによって評価した。
【0193】
CD8+ T細胞の細胞傷害性への耐性に関して炎症性プレコンディショニングの効果を光学顕微鏡、生存能の決定および共培養終了時の細胞計数によって、ならびに共培養上清中に分泌されたIFNγ(CD8+ T細胞活性化のサロゲート)を測定することによって、評価した。
【0194】
結果:
図10Aは、CD8+ T細胞との共培養後(2回目の接触の5日目)の肝臓幹細胞の代表的写真を示す。炎症性サイトカインで刺激された肝臓幹細胞は、共培養の終了時に依然として観察されるが、一方、刺激されていない細胞のほとんどは死滅している。
【0195】
図10Bは、CD8+ T細胞との共培養の終了時(2回目の接触)の肝臓幹細胞の計数を示す。細胞計数はフローサイトメトリーによって決定した(CD8+陽性細胞を除外した、MiltenyiからのMacsQuantによる絶対計数)。刺激されていない細胞と比較して、細胞が刺激された場合により多くの細胞が計数され、それぞれ、平均3581個の細胞と比較して15199個の細胞であった(2名の異なる肝臓ドナーおよび2名のPBMCドナーを含むn=4)。
【0196】
図10Cは、肝臓幹細胞との共培養の終了時(2回目の接触)のCD8+ T細胞の計数を示す。CD8+ T細胞の数は、一旦活性化されたT細胞が増殖するため、実験の終了時に測定した。平均して、刺激された細胞と比較して、刺激されていない細胞との共培養の終了時に、より多くのCD8+ T細胞が存在する(188369対87930個の細胞)。CD8+ T細胞の数はフローサイトメトリーによって計数する(CD8+陽性細胞のみを含む、MiltenyiからのMacsQuantによる絶対計数)、(2名の異なる肝臓ドナーおよび2名のPBMCドナーを含むn=4)。
【0197】
図10Dは、高レベルのHLA-Eを発現する肝臓前駆細胞集団/CD8+ T細胞の共培養の終了時(2回目の接触)のIFNγ濃度を示す。共培養の上清中のIFNγの濃度は、CD8+ T細胞が、刺激された肝臓前駆細胞と比較して、刺激されていない肝臓前駆細胞と共にインキュベートされた場合により高い。T細胞によるIFNγの分泌は活性化に関連するため、これは、刺激された肝臓幹細胞がCD8+ T細胞をあまり活性化しないことを示す。IFNγをCD8+ T細胞-肝臓幹細胞共培養上清中で、ELISAによって測定した(2名の異なる肝臓幹細胞ドナーおよび4名のPBMCドナーを含むn=12)。
【0198】
結論:
炎症性カクテルによる刺激後に、高レベルのHLA-Eを発現する肝臓前駆細胞集団をCD8+ T細胞に媒介される細胞溶解から保護する。加えて、CD8+ T細胞の活性化は、刺激されていない細胞と比較して刺激された肝臓幹細胞と共にインキュベートした場合に低下する(T細胞の増殖およびIFNγ分泌の低下によって示されるように)。この保護は、より高い発現レベルのHLA-Eと相関する。