IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オックスフォード ナノポール テクノロジーズ リミテッドの特許一覧

特許7523470分子的実体とナノ細孔との間の相互作用の検知
<>
  • 特許-分子的実体とナノ細孔との間の相互作用の検知 図1
  • 特許-分子的実体とナノ細孔との間の相互作用の検知 図2
  • 特許-分子的実体とナノ細孔との間の相互作用の検知 図3
  • 特許-分子的実体とナノ細孔との間の相互作用の検知 図4A
  • 特許-分子的実体とナノ細孔との間の相互作用の検知 図4B
  • 特許-分子的実体とナノ細孔との間の相互作用の検知 図4C
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】分子的実体とナノ細孔との間の相互作用の検知
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20240719BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240719BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20240719BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
C12M1/34 Z
C12Q1/68
C12M1/00 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021569271
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-26
(86)【国際出願番号】 GB2020051237
(87)【国際公開番号】W WO2020234595
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】1907243.8
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】511252899
【氏名又は名称】オックスフォード ナノポール テクノロジーズ ピーエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヘロン,アンドリュー ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ブルース,マーク ジョン
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-524284(JP,A)
【文献】特表2018-518666(JP,A)
【文献】特表2017-532049(JP,A)
【文献】特表2013-512447(JP,A)
【文献】特表2016-504593(JP,A)
【文献】特表2016-512605(JP,A)
【文献】特表2011-501806(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0370903(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 - C12M 3/10
C12Q 1/00 - C12Q 3/00
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子的実体とナノ細孔との間の相互作用を検知する方法であって、
複数のセンサ素子からなるアレイを備えるセンサ装置を提供するステップであって、前記センサ素子は、それぞれのナノ細孔を支持するように構成され、前記ナノ細孔は、分子的実体との相互作用が可能であり、かつそれぞれ電極を含み、各センサ素子は、分子的実体と前記ナノ細孔との相互作用に依存する電気信号を前記電極において出力するように構成されている、センサ装置を提供するステップと、
検出回路を提供するステップであって、前記検出回路は、それぞれが前記センサ素子のうちの1つからの電気信号を増幅させることができる、複数の検出チャネルであって、前記アレイ中の前記センサ素子の数が前記検出チャネルの数よりも多い、複数の検出チャネルと、前記検出チャネルをそれぞれのセンサ素子に選択的に接続することができるスイッチ装置とを備える、検出回路を提供するステップと、
前記スイッチ装置を制御して、検出チャネルをそれぞれのセンサ素子に接続するステップと、
前記検出チャネルから出力された、増幅された前記電気信号の分析に基づいて、センサ素子での相互作用の完了を検出するステップと、
前記検出に応答して、相互作用の完了が検出されたセンサ素子に接続されているそれぞれの前記検出チャネルに接続するように、前記スイッチ装置を制御するステップであって、それぞれの前記検出チャネルを、現在検出チャネルに接続されていない新たなセンサ素子に接続する、前記スイッチ装置を制御するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記方法は、前記検出チャネルを、現在検出チャネルに接続されていないセンサ素子に接続する、前記スイッチ装置を制御する前記ステップの後、
前記それぞれの検出チャネルから出力された前記増幅された電気信号の分析に基づいて、分子的実体が前記新たなセンサ素子での相互作用に利用可能であるかどうかを判断するステップと、
分子的実体が相互作用に利用可能であるとの判断に応答して、前記それぞれの検出チャネルを前記新たなセンサ素子に接続し続けるステップ、または分子的実体が相互作用に利用できないとの判断に応答して、前記スイッチ装置を制御して、前記それぞれの検出チャネルを、現在検出チャネルに接続されていないさらに新たなセンサ素子に接続するステップと、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分子的実体はポリマーであり、前記センサ素子は、前記ナノ細孔に対する前記分子的実体の転位中に、前記分子的実体と相互作用することができるそれぞれのナノ細孔を支持するように構成されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記検出回路は、前記センサ素子へのバイアス信号を提供することができるバイアス回路構成をさらに備え、前記センサ素子は、それぞれの前記センサ素子の前記ナノ細孔に対する前記分子的実体の前記転位を制御することができる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は、前記バイアス回路構成を制御して、すべての前記センサ素子の前記ナノ細孔に対して前記分子的実体の転位を引き起こすように構成されているバイアス信号を印加することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、前記バイアス回路構成に、それぞれのセンサ素子が検出チャネルに接続されているときは、それぞれの前記センサ素子に、それぞれの前記センサ素子の前記ナノ細孔に対する前記分子的実体の転位を引き起こすように構成されている駆動バイアス信号を印加させ、かつそれぞれのセンサ素子が検出チャネルに接続されていないときは、それぞれの前記センサ素子に、抑制バイアス信号であって、それぞれのセンサ素子の前記ナノ細孔に対する前記分子的実体の転位を抑制するように構成されている抑制駆動信号を印加させることをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記抑制駆動信号は、それぞれのセンサ素子の前記ナノ細孔に対する前記分子的実体の転位を抑制し、かつ前記ナノ細孔の近傍内の分子的実体を捕捉するように選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記センサ素子および/または分子的実体は、前記それぞれのナノ細孔の近傍内の分子的実体を捕捉するように適合されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記センサ素子は、前記それぞれのナノ細孔の近傍内の分子的実体を捕捉するように構成されている捕捉部分をさらに備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記センサ素子はそれぞれ、前記センサ素子の前記それぞれのナノ細孔に付着している少なくとも1つの捕捉部分を備える、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記分子的実体はポリヌクレオチドである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ナノ細孔はタンパク質細孔である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記センサ素子は、ナノ細孔を有する膜を支持するように構成されており、前記ナノ細孔が、前記膜に挿入されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
分子的実体とナノ細孔との間の相互作用を検知するための生化学的検知システムであって、
それぞれのナノ細孔を支持するように構成されてる複数のセンサ素子のアレイを含むセンサ装置であって、前記ナノ細孔は、分子的実体との相互作用が可能であり、かつそれぞれ電極を含み、各センサ素子は、分子的実体と前記ナノ細孔との相互作用に依存する電気信号を前記電極で出力するように構成されている、センサ装置と、
検出回路とを備え、前記検出回路が、
それぞれが前記センサ素子のうちの1つからの電気信号を増幅させることができる複数の検出チャネルであって、前記アレイ中の前記センサ素子の数が検出チャネルの数よりも多い複数の検出チャネルと、
前記検出チャネルをそれぞれのセンサ素子に選択的に接続することができるスイッチ装置と、
前記スイッチ装置のスイッチングを制御して、検出チャネルをそれぞれのセンサ素子に接続するように構成されているコントローラを備える検出回路と、を備え、
前記コントローラは、前記検出チャネルから出力された、増幅された前記電気信号の分析に基づいて、センサ素子での相互作用の完了を検出し、前記検出に応答して、前記スイッチ装置を制御し、相互作用の完了が検出されたセンサ素子に接続されているそれぞれの前記検出チャネルを、現在検出チャネルに接続されていないさらなるセンサ素子に接続するように構成されている、生化学的検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子的実体とナノ細孔との間の相互作用の検知に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
分子的実体、例えばポリヌクレオチドとの相互作用を検知するためのナノ細孔の使用は、ごく最近の開発の対象となっている有力な技術である。それぞれのナノ細孔を支持するように構成されているセンサ素子のアレイを備えるセンサ装置が開発されており、それによって、複数のナノ細孔が、典型的には同じ試料からの相互作用を並行して検知できるようになることにより、データ収集が増加する。本発明は、スループットおよび感度をさらに改善することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の第1の態様によれば、分子的実体とナノ細孔との間の相互作用を検知する方法であって、分子的実体との相互作用が可能であるそれぞれのナノ細孔を支持するように構成されており、かつそれぞれの電極を含むセンサ素子のアレイを備えるセンサ装置であって、各センサ素子は、分子的実体のナノ細孔との相互作用に依存する電気信号を電極において出力するように構成されている、センサ装置を提供することと、それぞれがセンサ素子のうちの1つからの電気信号を増幅させることができる複数の検出チャネルであって、アレイ中のセンサ素子の数が検出チャネルの数よりも多い複数の検出チャネルと、検出チャネルをそれぞれのセンサ素子に選択的に接続することができるスイッチ装置とを備える検出回路を提供することと、スイッチ装置を制御して、検出チャネルをそれぞれのセンサ素子に接続することと、検出チャネルから出力された増幅された電気信号の分析に基づいて、センサ素子での相互作用の完了を検出し、それに応答して、スイッチ装置を制御し、相互作用の完了が検出されたセンサ素子に接続されているそれぞれの検出チャネルを、現在検出チャネルに接続されていないさらなるセンサ素子に接続することと、を含む方法が提供される。
【0004】
したがって、本発明は、アレイのセンサ素子からの電気信号の平行した検知を可能にする複数の検出チャネルを有する検出回路を適用する。検出チャネルよりも多くのセンサ素子を有しており、スイッチング回路を使用して検出チャネルをそれぞれのセンサ素子に接続し、それによって多重化システムを提供する。
【0005】
センサ素子のアレイ、複数の検出チャネル、およびスイッチング装置の構成は、WO2010/122293からそれ自体として知られており、これは、膜が形成され、許容可能な数の膜タンパク質が挿入されているセンサ素子を選択することを教示しており、膜の形成および膜タンパク質の挿入がランダムプロセスの影響を受け、その結果、許容可能な品質のセンサ素子の準備が不完全になる場合、検出チャネルの利用を増やすことを目的としている。しかしながら、本発明では、スイッチ装置は、異なる目的のために異なる方法で制御される。
【0006】
具体的には、本発明では、センサ素子での相互作用の完了の検出は、検出チャネルから出力される増幅された電気信号の分析に基づいて検出され、それに応答して、スイッチ装置は、相互作用の完了が検出されたセンサ素子に接続されているそれぞれの検出チャネルを、現在検出チャネルに接続されていないさらなるセンサ素子に接続するように制御され、その結果、さらなるセンサ素子からの電気信号の検出が可能になる。実際には、連続する相互作用間の平均待機時間を大幅に短縮でき、分子的実体の濃度が飽和している状態でもより高いスループットが可能となる。
【0007】
同様に、検知時間を飽和させるために必要な試料の量がより少ないため、感度が向上する。検知デバイスに供給される試料の量は、特に相互作用間の平均時間が平均相互作用期間よりも短いレジームでは、検知のスループットに大きな影響を与えることなく減少させることができる。
【0008】
驚いたことに、これは、センサ装置中のセンサ素子のアレイに供給される試料中の分子的実体の検知の全体的なスループットを向上させることが見出された。この利点は次のように達成される。いずれかの所与のセンサ素子での相互作用が完了すると、別の分子的実体が利用可能になるのを待つ遅延がある。しかしながら、分子的実体が別のセンサ素子で利用可能である確率がより高く、それによって別の相互作用までの遅延が減少する可能性が高いことが認識されている。センサ素子への分子的実体の利用の可能性は、典型的には、ランダムプロセスの影響を受けるため、スイッチングのすべての場合で遅延が減少することが保証できなくても、平均して遅延が減少する。
【0009】
遅延の全体的な減少は、本発明を、ナノ細孔の近傍の分子的実体を捕捉するための手段が設けられているセンサ素子に適用することによって改善され得る。これにより、分子的実体が検出チャネルに先に接続されたセンサ素子での相互作用の期間中に捕捉されたため、分子的実体がさらなるセンサ素子で利用可能である確率がさらに高まることにより、全体的なスループットがさらに高まる。
【0010】
そのような捕捉は、例えば、それぞれのナノ細孔の近傍内の分子的実体を捕捉するように適合されているセンサ素子および/または分子的実体によって達成され得る。同様に、そのような捕捉は、それぞれのナノ細孔の近傍内の分子的実体を捕捉するように構成されている捕捉部分をさらに備えるセンサ素子によって達成され得る。そのような捕捉部分の様々な例が知られている。例えば、捕捉部分は、分子的実体に結合し、ナノ細孔または、ナノ細孔が膜に挿入されている場合には膜に付着し得るテザーであってもよい。
【0011】
そのような捕捉は、他の手段によって、例えば、センサ素子の電極に適切なバイアス信号を適用することによって達成することができる。
【0012】
この効果は、それぞれの検出チャネルから出力された増幅された電気信号の分析に基づいて、分子的実体がさらなるセンサ素子での相互作用に利用可能であるかどうかを判断することと、分子的実体が相互作用に利用可能であるとの判断に応答して、それぞれの検出チャネルをさらなるセンサ素子に接続し続けること、または分子的実体が相互作用に利用できないとの判断に応答して、スイッチ装置を制御して、それぞれの検出チャネルを、現在検出チャネルに接続されていない、まだその上さらなるセンサ素子に接続することと、によって高めることができる。このようにして、複数のさらなるセンサ素子をテストすることができ、それにより、相互作用に利用可能な分子的実体を見つける全体的な確率を高め、それに応じてスループットを高める。
【0013】
本発明は、分子的実体がポリヌクレオチドなどのポリマーであり、ナノ細孔に対する、例えばナノ細孔を介した分子的実体の転位中に、センサ素子が、分子的実体と相互作用することができるそれぞれのナノ細孔を支持するように構成されている場合に、特に利益を提供する。この場合、相互作用期間が比較的長いため、スループットの改善が特に大きい。したがって、ポリヌクレオチドの長いフラグメントライブラリーなどの分子的実体の改善が達成される。例えば、フラグメントのサイズが100kbオーダー(キロベースを表す「kb」)のライブラリーは、ナノ細孔への送達を拡散に依存している場合、相互作用間に数十秒から最大数分かかることがある。ただし、このような大きなフラグメントは相互作用にも長い時間がかかり(例えば、500塩基/秒で100kbは200秒かかり)、この時間は、次のフラグメントを別の未使用のセンサ素子で利用可能にするために効果的に使用される。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、分子的実体とナノ細孔との間の相互作用を検知するための生化学的検知システムであって、分子的実体との相互作用が可能であるそれぞれのナノ細孔を支持するように構成されており、かつそれぞれの電極を含むセンサ素子のアレイを備えるセンサ装置であって、各センサ素子は、分子的実体のナノ細孔との相互作用に依存する電気信号を電極において出力するように構成されている、センサ装置と、検出回路であって、それぞれがセンサ素子のうちの1つからの電気信号を増幅させることができる複数の検出チャネルであって、アレイ中のセンサ素子の数が検出チャネルの数よりも多い複数の検出チャネル、検出チャネルをそれぞれのセンサ素子に選択的に接続することができるスイッチ装置、およびスイッチ装置のスイッチングを制御して、検出チャネルをそれぞれのセンサ素子に接続するように構成されているコントローラを備える検出回路と、を備え、コントローラは、検出チャネルから出力された増幅された電気信号の分析に基づいて、センサ素子での相互作用の完了を検出し、それに応答して、スイッチ装置を制御し、相互作用の完了が検出されたセンサ素子に接続されているそれぞれの検出チャネルを、現在検出チャネルに接続されていないさらなるセンサ素子に接続するように構成されている、生化学的検知システムが提供される。
【0015】
より良好な理解を可能にするために、本発明の実施形態は、添付の図面を参照して非限定的な例としてここで説明される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】生化学的検知システムの図である。
図2】センサ装置の概略断面図である。
図3】生化学的検知システムのデータプロセッサで実行される方法のフローチャートである。
図4A】同じタイムスケールの3つの時間概略図のセットであり、比較例における単一のセンサ素子の使用を示す時間概略図である。
図4B】本方法の一例における4つのセンサ素子の各使用を示す時間概略図である。
図4C】その例における検出チャネルの全体的な使用を示す時間概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
分子的実体とナノ細孔との相互作用を検知するための生化学的検知システム1を図1に示す。生化学的検知システム1は、センサ装置3とセンサ装置3に接続されている検出回路4とを備える、検知装置2を備える。
【0018】
センサ装置3は、分子的実体との相互作用が可能なそれぞれのナノ細孔をそれぞれが支持するセンサ素子30のアレイを備える。センサ素子30は、それぞれの電極31を備える。使用中、各センサ素子30は、分子的実体とナノ細孔との相互作用に依存する電気信号をその電極31で出力する。センサ装置3は、図1に概略的に示されているが、様々な構成を有することができ、いくつかの非限定的な例は以下の通りである。
【0019】
一例では、センサ装置3は、図2に示されている形態を有し得る。本明細書では、センサ装置2はセンサ素子30のアレイを備え、各センサ素子30は基板34中のウェル33を横切って支持されている膜32を備え、膜32は膜32中に挿入されているナノ細孔35を有する。膜31は、以下でさらに考察されるように、脂質などの両親媒性分子から作製されてもよい。各膜32は、センサ素子30のアレイを横切って延在し、かつ各ナノ細孔35と流体連絡している試料室36から、それぞれのウェル33を密封する。各ウェル33は、その中に配置されているセンサ電極32を有する。各センサ素子30に共通の基準電位を提供するために、共通電極37が試料室36中に設けられている。使用中、試料室36は、センサ素子30のナノ細孔35と相互作用する分子的実体を含む試料を受け取る。
【0020】
図2では、明確にするために2つのセンサ素子30が示されているが、一般に、任意の数のセンサ素子30を設けることができる。典型的には、データ収集速度を最適化するために、例えば256、1024、4096、またはそれ以上のセンサ素子30など、多数のセンサ素子30を設けることができる。
【0021】
センサ装置3は、WO2009/077734またはWO2014/064443に開示されているような詳細な構造を有し得る。
【0022】
センサ素子30のナノ細孔および関連する要素は、以下の通りであり得るが、図2に示されている例に限定されない。
【0023】
ナノ細孔は、典型的にはナノメートルオーダーのサイズを有する細孔である。分子的実体がナノ細孔と相互作用し、その間ナノ細孔を通って転位するポリマーである実施形態では、その場合ナノ細孔は、ポリマーがそこを通過できるような適切なサイズである。
【0024】
ナノ細孔は、タンパク質細孔または固体細孔であり得る。細孔の寸法は、一度に1つのポリマーのみが細孔を転位することができるようなものであり得る。
【0025】
ナノ細孔がタンパク質細孔である場合には以下の特性を有し得る。
【0026】
ナノ細孔は、膜貫通タンパク質細孔であり得る。本発明に従って使用するための膜貫通タンパク質細孔は、β-バレル細孔またはα-ヘリックスバンドル細孔に由来し得る。β-バレル細孔は、β鎖から形成されるバレルまたはチャネルを含む。好適なβ-バレル細孔としては、α-溶血素、炭疽毒素、およびロイコシジンなどのβ-毒素、ならびにMycobacterium smegmatisポリン(Msp)、例えばMspA、MspB、MspC、またはMspD、リセニン、外膜ポリンF(OmpF)、外膜ポリンG(OmpG)、外膜ホスホリパーゼA、およびNeisseriaオートトランスポーターリポタンパク質(NalP)などの細菌の外膜タンパク質/ポリンが挙げられるが、これらに限定されない。α-ヘリックスバンドル細孔は、α-ヘリックスから形成されているバレルまたはチャネルを含む。好適なα-ヘリックスバンドル細孔は、内膜タンパク質およびα外膜タンパク質、例えばWZAおよびClyA毒素を含むが、これらに限定されない。膜貫通孔は、Mspまたはα-溶血素(α-HL)に由来し得る。膜貫通孔はリセニンに由来してもよい。リセニン由来の好適な細孔は、WO2013/153359に開示されている。MspA由来の好適な細孔は、WO2012/107778に開示されている。細孔は、WO2016/034591に開示されているように、CsgGに由来し得る。細孔は、DNAオリガミ細孔であり得る。
【0027】
タンパク質細孔は、天然に存在する細孔であり得、または変異体細孔であり得る。典型的な細孔は、WO2010/109197、Stoddart D et al.,Proc Natl Acad Sci,12;106(19):7702-7、Stoddart D et al.,Angew Chem Int Ed Engl.2010;49(3):556-9、Stoddart D et al.,Nano Lett.2010 Sep 8;10(9):3633-7、Butler TZ et al.,Proc Natl Acad Sci 2008;105(52):20647-52、およびWO2012/107778に記載されている。
【0028】
タンパク質細孔は、WO2015/140535に記載されているタイプのタンパク質細孔のうちの1つであり得、そこに開示されている配列を有し得る。
【0029】
ナノ細孔がタンパク質細孔である場合、それは、センサ素子30で支持されている膜に挿入され得る。そのような膜は、両親媒性層、例えば脂質二重層であり得る。両親媒性層は、親水および親油特性の両方を有する、リン脂質などの両親媒性分子から形成された層である。両親媒性層は、単分子層または二分子層であり得る。両親媒性層は、Gonzalez-Perez et al.,Langmuir,2009,25,10447-10450、またはWO2014/064444に開示されているようなブロック共重合体であり得る。代替的に、タンパク質細孔は、例えば、WO2012/005857に開示されているように、固体層に設けられている開口に挿入され得る。
【0030】
ナノ細孔は、固体層に形成された開口を含み得、これは、固体細孔と呼ばれ得る。開口は、検体が通過することがある、またはそこに入ることができる固体層に提供されるウェル、ギャップ、チャネル、トレンチ、またはスリットであり得る。このような固体層は、生物学的起源のものではない。換言すれば、固体層は、有機体または細胞等の生物学的環境、もしくは生物学的に利用可能な構造の合成的に製造されたバージョンに由来しないか、またはそれらから単離されない。固体層は、微細電子材料、絶縁材料、例えばSi、A1、およびSiO、有機および無機ポリマー、例えばポリアミド、プラスチック、例えばTeflon(登録商標)またはエラストマー、例えば二成分付加硬化シリコンゴム、およびガラスを含むがこれらに限定されない有機および無機材料の両方から形成することができる。固体層はグラフェンから形成してもよい。好適なグラフェン層は、WO2009/035647、WO2011/046706、またはWO2012/138357に開示されている。固体細孔のアレイを準備するための好適な方法は、WO2016/187519に開示されている。
【0031】
そのような固体細孔は、典型的には、固体層の開口である。開口は、ナノ細孔としての特性を強化するために、化学的またはその他の方法で変更することができる。固体細孔は、トンネル電極(Ivanov AP et al.,Nano Lett.2011 Jan 12;11(1):279-85)、または電界効果トランジスタ(FET)デバイス(例えば、WO2005/124888に開示されているように)などのポリマーの代替または追加の測定を提供する追加の構成要素と組み合わせて使用することができる。固体細孔は、例えば、WO00/79257に記載されているものを含む既知のプロセスによって形成され得る。
【0032】
分子的実体は、センサ素子30中のナノ細孔と相互作用し、その相互作用に依存する電気信号の出力を電極31において引き起こす。
【0033】
センサ装置3の一種においては、電気信号は、ナノ細孔を流れるイオン電流であり得る。同様に、イオン電流以外の電気特性が測定され得る。代替のタイプの特性のいくつかの例には、イオン電流、インピーダンス、トンネル特性、例えばトンネル電流(例えば、Ivanov AP et al.,Nano Lett.2011 Jan 12;11(1):279-85に開示されているように)、およびFET(電界効果トランジスタ)電圧(例えば、WO2005/124888に開示されているように)が含まれるが、これらに限定されない。1つ以上の光学特性を使用してもよく、任意で電気特性と組み合わせてもよい(Soni GV et al.,Rev Sci Instrum.2010 Jan;81(1):014301)。この特性は、ナノ細孔を流れるイオン電流などの膜貫通電流であり得る。イオン電流は典型的には、DCイオン電流であってもよいが、原則として、代替案として、AC電流フロー(すなわち、AC電圧の印加下で流れるAC電流の大きさ)を使用することもできる。
【0034】
相互作用は、例えばナノ細孔を介した、ナノ細孔に対する分子的実体の転位中に発生し得る。
【0035】
電気信号は、分子的実体とナノ細孔との間の相互作用に関連している特性の一連の測定値として提供される。このような相互作用は、ナノ細孔の狭窄領域で発生し得る。例えば、分子的実体が、ナノ細孔に対して転位する一連のポリマー単位を含むポリマーである場合、測定値は、細孔に対して転位する連続したポリマー単位に依存する特性のものであり得る。
【0036】
イオン溶液は、ナノ細孔のいずれかの側に提供され得る。ポリマーである対象の分子的実体を含む試料は、例えば、図2のセンサ装置の試料室36内の、ナノ細孔の片側に加えることができる。膜であり、例えば電位差または化学的勾配の下で、ナノ細孔に対して転位することができる。電気信号は、細孔に対するポリマーの転位中に導出されることができ、例えば、ナノ細孔を介するポリマーの転位中に得られ得る。ポリマーは、ナノ細孔に対して部分的に転位し得る。
【0037】
ポリマーがナノ細孔を介して転位するときに測定値を得ることを可能にするために、転位の速度は、ポリマーに結合する結合部分によって制御することができる。典型的には、結合部分は、印加電界に合わせてまたは逆らって、ナノ細孔を通してポリマーを移動させることができる。結合部分は、例えば結合部分が酵素である場合には酵素活性を使用して分子モーターになる、または分子ブレーキとなることができる。ポリマーがポリヌクレオチドである場合、ポリヌクレオチド結合酵素の使用を含む、転位の速度を制御するために提案されたいくつかの方法がある。ポリヌクレオチドの転位の速度を制御するための好適な酵素には、ポリメラーゼ、ヘリカーゼ、エキソヌクレアーゼ、一本鎖および二本鎖結合タンパク質、ならびにジャイレースなどのトポイソメラーゼが含まれるが、これらに限定されない。他のポリマー型では、そのポリマー型と相互作用する結合部分を使用することができる。結合部分は、WO2010/086603、WO2012/107778、およびLieberman KR et al,J Am Chem Soc.2010;132(50):17961-72)に開示されている、ならびに電位依存性スキーム(Luan B et al.,Phys Rev Lett.2010;104(23):238103)についてのいかなる結合部分でもよい。
【0038】
結合部分は、ポリマーの動きを制御するいくつかの方法で使用することが可能である。結合部分は、印加電界に合わせてまたは逆らって、ナノ細孔を通してポリマーを移動させることができる。結合部分は、例えば、結合部分が酵素である場合、酵素活性を使用して分子モーターとして使用することができ、または分子ブレーキとして使用することができる。ポリマーの転位は、細孔を通るポリマーの移動を制御する分子ラチェットによって制御され得る。分子ラチェットは、ポリマー結合タンパク質であり得る。ポリヌクレオチドに関して、ポリヌクレオチド結合タンパク質は、好ましくは、ポリヌクレオチドハンドリング酵素である。ポリヌクレオチドハンドリング酵素は、ポリヌクレオチドの少なくとも1つの特性と相互作用すること、かつそれを修飾することができるポリペプチドである。酵素は、個々のヌクレオチドまたはヌクレオチドのより短い鎖、例えばジ-またはトリヌクレオチドを形成するために、ポリヌクレオチドを切断することによってポリヌクレオチドを修飾してもよい。酵素は、それを配向するか、またはそれを特定の位置に移動させることによって、ポリヌクレオチドを修飾してもよい。ポリヌクレオチドハンドリング酵素は、それが、標的ポリヌクレオチドに結合し、かつ細孔を通るその移動を制御することができる限り、酵素活性を提示する必要がない。例えば、酵素を、その酵素活性を除去するために修飾してもよく、または酵素として作用することを防ぐ条件下で使用してもよい。そのような条件は以下でより詳しく考察される。
【0039】
好ましいポリヌクレオチドハンドリング酵素は、ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼ、ヘリカーゼ、およびトポイソメラーゼ、例えば、ジャイレースである。ポリヌクレオチドハンドリング酵素は、例えば、WO2015/140535またはWO2010/086603に記載されているタイプのポリヌクレオチドハンドリング酵素のうちの1つであり得る。
【0040】
ナノ細孔を介したポリマーの転位は、印加された電位の有無にかかわらず、シスからトランスまたはトランスからシスのいずれかで発生してもよい。転位は、転位を制御する可能性のある印加電位下で発生する可能性がある。
【0041】
二本鎖DNA上で進行的または前進的に作用するエキソヌクレアーゼを細孔のシス側に使用して、印加された電位下で、または逆電位下のトランス側で、残りの一本鎖を貫通接続することができる。同様に、二本鎖DNAを巻き戻すヘリカーゼも類似の様式で使用することができる。印加電位に対する鎖転位を必要とする配列決定用途の可能性もあるが、DNAは最初に逆電位または非電位下で酵素によって「捕捉され」なければならない。その後、結合に続いて電位が戻されると、鎖は、細孔をシスからトランスへと通り、電流によって拡張された立体構造で保持されることになる。一本鎖DNAエキソヌクレアーゼまたは一本鎖DNA依存性ポリメラーゼは分子モーターとして作用して、印加された電位に対して、新たに転位した一本鎖を、制御された様式で細孔を通ってトランスからシスへと引き戻すことができる。代替的に、一本鎖DNA依存性ポリメラーゼは、細孔を通るポリヌクレオチドの動きを遅らせる分子ブレーキとして作用することができる。WO2012/107778またはWO2012/033524に記載されている任意の部分、技術または酵素を使用して、ポリマーの動きを制御することができる。
【0042】
センサ素子30および/または分子的実体は、それぞれのナノ細孔の近傍内の捕捉分子的実体を捕捉するように適合され得る。例えば、センサ素子30は、それぞれのナノ細孔の近傍内の分子的実体を捕捉するように構成されている捕捉部分をさらに含み得る。捕捉部分は、転位を制御する目的も有する上記の結合部分またはエキソヌクレアーゼのいずれかであり得るか、または別個に設けられ得る。
【0043】
捕捉部分は、センサ素子のナノ細孔に付着し得る。少なくとも1つの捕捉部分は、各センサ素子のナノ細孔に付着し得る。
【0044】
捕捉部分は、分子的実体に結合するタグまたはテザーであり得る。その場合、分子的実体はその結合を達成するように適合され得る。
【0045】
そのようなタグまたはテザーは、例えば、WO2018/100370に開示されているように、および本明細書で以下にさらに記載されているように、ナノ細孔に付着し得る。
【0046】
あるいは、ナノ細孔が膜に挿入されている場合、そのようなタグまたはテザーは、例えば、WO2012/164270に開示されているように、膜に付着し得る。
【0047】
本明細書に記載の方法は、それらを捕捉する目的で分子的実体を適合させるアダプターの使用を含み得る。例として、ポリヌクレオチドのナノ細孔配列決定での使用に適したポリヌクレオチドアダプターが当技術分野で知られている。ポリヌクレオチドのナノ細孔配列決定で使用するためのアダプターは、少なくとも1つの一本鎖ポリヌクレオチドまたは非ポリヌクレオチド領域を含み得る。例えば、ナノ細孔配列決定で使用するためのY-アダプターが当技術分野で知られている。Yアダプターは、典型的には、(a)二本鎖領域および(b)一本鎖領域または他端において相補的ではない領域を含む。Yアダプターは、一本鎖領域を含む場合、オーバーハングを有するとして記載され得る。Yアダプター中の非相補領域の存在は、二本鎖部分とは異なり2本の鎖が典型的には互いにハイブリダイズしないため、アダプターにY形状を与える。Yアダプターは、1つ以上のアンカーを含み得る。
【0048】
Yアダプターは、好ましくは、細孔内に優先的に入るリーダー配列を含む。リーダー配列は、通常は、ポリマーを含む。ポリマーは、好ましくは、負に荷電されている。ポリマーは、好ましくは、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチド、(無塩基DNAなどの)修飾ポリヌクレオチド、PNA、LNA、ポリエチレングリコール(PEG)、またはポリペプチドである。リーダーは、好ましくは、ポリヌクレオチドを含み、より好ましくは、一本鎖ポリヌクレオチドを含む。一本鎖リーダー配列は、最も好ましくは、ポリdT切片などのDNAの一本鎖を含む。リーダー配列は、好ましくは、1つ以上のスペーサーを含む。リーダー配列は任意の長さであり得るが、通常は、20~150ヌクレオチド長などの10~150ヌクレオチド長である。リーダーの長さは、典型的には、当該方法に使用される、膜に埋め込まれたナノ細孔に依存する。リーダー配列は、膜貫通孔中に優先的に入り、それによって細孔を通るポリヌクレオチドの移動を促進する。アダプターは、当技術分野で知られている任意の方法を使用して、DNA分子に連結され得る。
【0049】
ポリヌクレオチドアダプターは、アダプターに付着した膜アンカーまたは膜貫通孔アンカーを含み得る。例えば、膜アンカーまたは膜貫通孔アンカーは、ナノ細孔の近傍内におけるアダプターおよび結合ポリヌクレオチドの局在化を促進し得る。アンカーは、膜に挿入することができるポリペプチドアンカーおよび/または疎水性アンカーであり得る。一実施形態では、疎水性アンカーは、脂質、脂肪酸、ステロール、カーボンナノチューブ、ポリペプチド、タンパク質、またはアミノ酸であり、例えば、コレステロール、パルミチン酸塩、またはトコフェロールである。アンカーは、チオール、ビオチン、または界面活性剤を含み得る。アンカーは、ビオチン(ストレプトアビジンに結合するため)、アミロース(マルトース結合タンパク質または融合タンパク質に結合するため)、Ni-NTA(ポリ-ヒスチジンまたはポリ-ヒスチジンタグ付きタンパク質に結合するため)、またはペプチド(抗原など)であり得る。
【0050】
アンカーは、リンカー、または2、3、4、もしくはそれ以上のリンカーを含み得る。好ましいリンカーはポリマー、例えばポリヌクレオチド、ポリエチレングリコール(PEG)、多糖類、およびポリペプチドを含むが、これらに限定されない。これらのリンカーは直鎖状、分岐状、または環状であってもよい。例えば、リンカーは環状ポリヌクレオチドであってもよい。アダプターは、環状ポリヌクレオチドリンカー上の相補的配列にハイブリダイズし得る。1つ以上のアンカーまたは1つ以上のリンカーは、切断または分解することができる成分、例えば制限部位または光解離性基を含み得る。リンカーは、マレイミド基で官能化されて、タンパク質のシステイン残基に結合する。好適なリンカーは、WO2010/086602に記載されている。アンカーは、コレステロールまたは脂肪アシル鎖であり得る。例えば、ヘキサデカン酸などの6~30個の炭素原子の長さを有する任意の脂肪アシル鎖を使用することができる。好適なアンカーおよびアンカーをアダプターに付着させる方法の例は、WO2012/164270およびWO2015/150786に開示されている。
【0051】
ナノ細孔に付着しているタグおよびテザーの例は次の通りである。
【0052】
本明細書に記載の方法で使用するためのナノ細孔は、1つ以上の検体(例えば、分子的実体)に結合するための1つ以上の結合部位を含み、それによって捕捉部分として機能するように修飾され得る。いくつかの実施形態では、ナノ細孔は、検体に付着したアダプターに結合するための1つ以上の結合部位を含むように修飾してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、ナノ細孔は、検体に付着したアダプターのリーダー配列に結合してもよい。いくつかの実施形態では、ナノ細孔は、検体に付着したアダプター中の一本鎖配列に結合してもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、ナノ細孔は、1つ以上のタグまたはテザーを含むように修飾されており、各タグまたはテザーは検体に対する結合部位を含む。いくつかの実施形態では、ナノ細孔は、ナノ細孔ごとに1つ以上のタグまたはテザーを含むように修飾されており、各タグまたはテザーは検体に対する結合部位を含む。
【0054】
膜貫通孔に付着した短いオリゴヌクレオチドであって、リーダー配列の配列またはアダプターの別の一本鎖配列に相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドを使用して、標的ポリヌクレオチドの捕捉を増強してもよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、タグまたはテザーは、オリゴヌクレオチド(例えば、DNA、RNA、LNA、BNA、PNA、またはモルフォリノ)を含んでも、またはそれであってもよい。オリゴヌクレオチド(例えば、DNA、RNA、LNA、BNA、PNA、またはモルフォリノ)は、約10~30ヌクレオチド長または約10~20ヌクレオチド長を有することができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、タグまたはテザーに使用するためのオリゴヌクレオチド(例えば、DNA、RNA、LNA、BNA、PNA、またはモルフォリノ)は、他の修飾箇所または例えばビーズを含む固体基材表面への接合のために修飾された少なくとも1つの末端(例えば、3´-または5´-末端)を有することができる。末端修飾剤は、結合に使用することができる反応性官能基を付加してもよい。付加することができる官能基の例としては、アミノ、カルボキシル、チオール、マレイミド、アミノオキシ、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。官能基は、オリゴヌクレオチド配列の末端から官能基の物理的距離を加えるために、異なる長さのスペーサー(例えば、C3、C9、C12、スペーサー9および18)と組み合わせることができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、タグまたはテザーは、モルフォリノオリゴヌクレオチドを含んでもよく、またはモルフォリノオリゴヌクレオチドであってもよい。モルフォリノオリゴヌクレオチドは、約10~30ヌクレオチド長または約10~20ヌクレオチド長を有することができる。モルフォリノオリゴヌクレオチドは、修飾されていても修飾されていなくてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、モルフォリノオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの3´および/または5´末端で修飾されてもよい。モルフォリノオリゴヌクレオチドの3´および/または5´末端の修飾の例としては、化学結合のための3’アフィニティータグおよび官能基(例えば、3’-ビオチン、3’-一級アミン、3’-ジスルフィドアミド、3’-ピリジルジチオ、およびそれらの任意の組み合わせを含む);5’末端修飾(例えば、5’-一級アミン、および/または5’-ダブシルを含む)、クリックケミストリーのための修飾(例えば、3’-アジド、3’-アルキン、5’-アジド、5’-アルキンを含む)、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
いくつかの実施形態では、タグまたはテザーは、例えば、ナノ細孔への結合を容易にするために、ポリマーリンカーをさらに含んでもよい。例示的なポリマーリンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)を含むが、これに限定されない。ポリマーリンカーは、約500Da~約10kDa(両端を含む)、または約1kDa~約5kDa(両端を含む)の分子量を有してもよい。ポリマーリンカー(例えば、PEG)は、例えば、これらに限定されないが、マレイミド、NHSエステル、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)、アジド、ビオチン、アミン、アルキン、アルデヒド、およびそれらの任意の組み合わせを含む異なる官能基で官能化することができる。いくつかの実施形態では、タグまたはテザーは、5´-マレイミド基および3´-DBCO基を有する1kDaのPEGをも含んでもよい。いくつかの実施形態では、タグまたはテザーは、5´-マレイミド基および3´-DBCO基を有する2kDaのPEGをさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、タグまたはテザーは、5´-マレイミド基および3´-DBCO基を有する3kDaのPEGをさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、タグまたはテザーは、5´-マレイミド基および3´-DBCO基を有する5kDaのPEGをさらに含んでもよい。
【0059】
タグまたはテザーの他の例には、Hisタグ、ビオチンまたはストレプトアビジン、検体に結合する抗体、検体に結合するアプタマー、DNA結合ドメインなどの検体結合ドメイン(例えば、ロイシンジッパーのようなペプチドジッパー、一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)を含む)、およびそれらの任意の組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0060】
当技術分野で既知の任意の方法を用いて、タグまたはテザーをナノ細孔の外面、例えば、膜のシス側上に付着させてもよい。例えば、1つ以上のタグまたはテザーは、1つ以上のシステイン(システイン結合)、1つ以上のリジンなどの一級アミン、1つ以上の非天然アミノ酸、1つ以上のヒスチジン(Hisタグ)、1つ以上のビオチンまたはストレプトアビジン、1つ以上の抗体に基づいたタグ、エピトープの1つ以上の酵素修飾(例えば、アセチルトランスフェラーゼを含む)、およびそれらの任意の組み合わせを介してナノ細孔に付着することができる。そのような修飾を実施するための好適な方法は、当技術分野で周知である。好適な非天然アミノ酸には、4-アジド-L-フェニルアラニン(Faz)、およびLiu C.C.and Schultz P.G.,Annu.Rev.Biochem.,2010,79,413-444の図1中の1~71が付番されたいずれかのアミノ酸を含むが、これらに限定されない。
【0061】
いくつかの実施形態では、1つ以上のタグまたはテザーがシステイン結合を介してナノ細孔に付着している場合、1つ以上のシステインを置換によりナノ細孔を形成する1つ以上のモノマーに導入することができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、タグまたはテザーは、ナノ細孔に直接または1つ以上のリンカーを介して付着してもよい。タグまたはテザーは、WO2010/086602に記載のハイブリリンカーを用いてナノ細孔に付着してもよい。あるいは、ペプチドリンカーを使用してもよい。ペプチドリンカーはアミノ酸配列である。ペプチドリンカーの長さ、可撓性、および親水性は、通常は、モノマーおよび細孔の機能を妨げないように設計される。好ましい可撓性ペプチドリンカーは2~20個、例えば、4、6、8、10、または16個のセリン、および/またはグリシンアミノ酸のストレッチである。より好ましい可撓性リンカーとしては、(SG)、(SG)、(SG)、(SG)、(SG)、および(SG)であって、Sはセリンであり、Gはグリシンである。好ましい剛性リンカーは、2~30個、例えば4、6、8、16、または24個のプロリンアミノ酸のストレッチである。より好ましい剛性リンカーは、Pがプロリンである、(P)12を含む。
【0063】
膜貫通孔は、ポリヌクレオチドの捕捉を増強するように修飾されてもよい。例えば、細孔は、細孔の入口内および/または細孔のバレル内にある正電荷を増加させるように修飾されてもよい。そのような修飾は当技術分野において既知である。例えば、WO2010/055307は細孔のバレル内の正電荷を増加させるα-溶血素の突然変異を開示している。
【0064】
ポリヌクレオチド捕捉を増強する突然変異を含む修飾MspA、リセニン、およびCsgG細孔は、それぞれWO2012/107778、WO2013/153359、およびWO2016/034591に開示されている。これらの刊行物に開示されている修飾細孔はいずれも本明細書で用いてもよい。
【0065】
次に、検出回路4の構成について考察する。検出回路4は、各センサ素子30の電極31に接続されており、そこから出力される電気信号を処理する主な機能を有する。検出回路4はまた、各センサ素子30へのバイアス信号の印加を制御する機能を有する。
【0066】
検出回路4は、複数の検出チャネル40を含む。各検出チャネル40は、単一のセンサ電極31から電気信号を受信し、その電気信号を増幅するように構成されている。したがって、検出チャネル40は、関心のある相互作用によって引き起こされる特徴的な変化を検出するのに十分な分解能で非常に小さな電流を増幅するように設計されている。検出チャネル40はまた、そのような各相互作用を検出するために必要な時間分解能を提供するのに十分に高い帯域幅で設計されている。これらの制約には、高感度で、したがって高価な部品が必要である。各検出チャネル40は、Stoddart D et al.,Proc Natl Acad Sci,12;106(19):7702-7、Lieberman KR et al,J Am Chem Soc.2010;132(50):17961-72、およびWO2000/28312に記載されているような標準的な単一チャネル記録装置と同様であり得る。あるいは、各検出チャネル40は、WO2010/122293、WO2011/067599、またはWO2016/181118に詳細に記載されているように構成され得る。
【0067】
アレイ内のセンサ素子30の数は、検出チャネル40の数よりも多く、生化学的検知システムは、多重化された方法、特に電気的に多重化された方法で選択されたセンサ素子30からポリマーの測定を行うように動作可能である。これは、センサ素子30のセンサ電極31と検出チャネル40との間にスイッチ装置42を提供することによって達成される。明確にするために、図6は、4つのセンサ素子30および2つの検出チャネル40を有する簡略化された例を示しているが、センサセル30および検出チャネル40の数は、通常、はるかに多い。例えば、一部の適用においては、センサ装置2は、合計4096個のセンサ素子30と1024個の検出チャネル40を備える場合がある。
【0068】
スイッチ装置42は、WO2010/122293に詳細に記載されているように構成され得る。例えば、スイッチ装置42は、それぞれが検出チャネル40からN個のセンサ素子30のグループに接続された、複数の1対Nマルチプレクサを備え得、かつスイッチングの状態を選択するためのラッチなどの適切なハードウェアを含み得る。
【0069】
スイッチ装置42のスイッチングにより、生化学的検知システム1を操作して、電気的に多重化された方法で選択されたセンサ素子30からの電気信号を増幅することができる。検出回路4は、検出チャネル40からの出力信号を受信するデータプロセッサ5を含む。データプロセッサ5は、以下でさらに説明するように、スイッチ装置42を制御して検出チャネル40をそれぞれのセンサ素子30に接続する、コントローラとして機能する。
【0070】
また、検出回路4は、各センサ素子30へのバイアス信号の印加を制御する機能を実行するためのバイアス制御回路41を含む。バイアス制御回路41は、共通電極37および各センサ装置30のセンサ電極31に接続されている。バイアス信号は、共通電極37に対するセンサ電極31にバイアスをかけて、ナノ細孔に対する分子的実体の転位を制御するように選択される。一般に、所与のセンサ素子30に供給されるバイアス信号は、センサ素子30で転位を発生させる駆動バイアス信号、またはセンサ素子30で転位を発生させることを抑制する抑制バイアス信号である可能性がある。
【0071】
バイアス制御回路41は、データプロセッサ5によって制御される。データプロセッサは、バイアス制御回路41に対して2つの動作モードを選択することができる。
【0072】
バイアス制御回路41の第1の動作モードでは、駆動バイアス信号がすべてのセンサ素子30に供給され、それによって、分子的実体が利用可能である各センサ素子30のナノ細孔に対して分子的実体の転位を引き起こす。この第1の動作モードでは、センサ素子30からの電気信号がスイッチ装置42によって検出チャネル40に供給されているかどうかにかかわらず、いずれかのセンサ素子30で転位が発生している可能性がある。したがって、転位の発生は、分子的実体がセンサ素子30に利用可能になるランダムプロセスにのみ依存する。センサ素子30が上記のような捕捉部分を含む場合、転位は捕捉に続いて起こるが、いかなる電気信号も検出チャネルに供給されていない。
【0073】
バイアス制御回路41の第2の動作モードでは、バイアス制御回路41は、それぞれのセンサ素子30が検出チャネル41に接続されている場合は、それぞれのセンサ素子30に駆動バイアス信号を供給するように、およびそれぞれのセンサ素子30が検出チャネル40に接続されていない場合は、それぞれのセンサ素子30に抑制バイアス信号を供給するように、スイッチ装置42のスイッチングと同期して制御される。この第2の動作モードでは、転位は、センサ素子30が電気信号の供給のために検出チャネル41に接続されている場合にのみ、センサ素子30で発生する。しかしながら、転位は、スイッチ装置を介して検出チャネル40に接続されていないセンサ素子30では抑制される。しかしながら、そのようなセンサ素子30では、センサ素子30の近傍の分子的実体の捕捉が依然として発生し得る。例えば、そのような捕捉は、上記のような捕捉部分を含むセンサ素子30によって、または適切に選択されている抑制バイアス信号によって発生し得る。
【0074】
データプロセッサ5は、以下のように構成されている。データプロセッサ5は、検出チャネル40の出力に接続されており、そこから増幅された電気信号が供給される。データプロセッサ5は、増幅された電気信号を記憶および分析し、その分析に基づいて、上記のバイアス電圧回路41の制御および以下に記載のスイッチ装置42の制御を含む、検出回路のその他の要素を制御する。データプロセッサ5は、検出回路2の一部を形成し、それと共通のパッケージに、おそらくは共通の回路基板上に設けられ得る。データプロセッサ5は、例えば、適切なコンピュータプログラムを実行するプロセッサとして、またはASIC(特定用途向け集積回路)として、任意の適切な形態で実装することができる。
【0075】
生化学的検知システム1のデータプロセッサ5は、分析システム6に接続されている。データプロセッサ5はまた、増幅された出力信号を分析システム6に供給する。分析システム6は、ナノ細孔で測定された特性の測定値を表す生信号である増幅された電気信号のさらなる分析を実行する。そのような分析システム6は、例えば、分子的実体全体の同一性を評価することができ、または分子的実体がポリマーである場合、そのポリマー単位の同一性を評価することができる。したがって、分析システムは、適切なプログラムを実行するコンピュータ装置として構成され得る。そのようなコンピュータ装置は、生化学的検知システム1のデータプロセッサ5に直接またはネットワークを介して、例えばクラウドベースのシステム内で接続することができる。
【0076】
データプロセッサ5によって実行される検出回路2を制御する方法は、図3に示されており、以下のように実行される。同じ方法が、各検出チャネル40に対して並行して実行される。
【0077】
この方法は、ステップS1として開始され、その時点で、センサ素子30のいずれも、検出チャネル40に接続されていない。バイアス制御回路41の第2の動作モードでは、この時点で、抑制バイアス信号が各センサ素子30に供給される。
【0078】
ステップS2において、データプロセッサ5は、どのセンサ素子30を各それぞれの検出チャネル40に接続するのかを選択する。ステップS2を実行する第1の例では、センサ素子30についての情報が知られていないため、どのセンサ素子30でも選択することができ、例えば、センサ素子のアレイの周りに均等に広がっているセンサ素子30を選択する。バイアス制御回路41の第2の動作モードでは、上述の通り、同時点において、データプロセッサ5はバイアス制御回路41を制御して、先に供給された抑制バイアス信号の代わりに、選択されたセンサ素子30に駆動バイアス信号を供給する。
【0079】
ステップS3において、データプロセッサ5は、スイッチ装置を制御して、ステップS2で選択されたセンサ素子30をそれぞれの検出チャネル40に接続する。
【0080】
ステップS4において、選択されたセンサ素子30からの増幅された電気信号は、複数の測定に対応する期間、データプロセッサによって受信および記憶される。記憶された電気信号は、その期間にわたって増幅された電気信号を表すデータの「チャンク」を提供する。
【0081】
ステップS5において、データプロセッサ5は、各それぞれのセンサ素子30についてのデータのチャンクを分析し、その分析に基づいて、そのそれぞれのセンサ素子30からデータを受信し続けるかどうかを決定する。
【0082】
一般に、ステップS5が実行されるとき、各それぞれのセンサ素子30において、分子的実体がそのセンサ素子のナノ細孔との相互作用に利用可能である場合と利用できない場合がある。分子的実体は、例えば捕捉部分または適切なバイアス信号による捕捉など、上記の手段の使用によりナノ細孔の近傍で捕捉されていることによって、相互作用に利用され得る。これには、分子的実体がまだ転位を開始していない場合や、転位が始まったばかりの場合が含まれ得る。あるいは、分子的実体が既に部分的に転位していることで、相互作用に利用できる場合があり得る。
【0083】
バイアス制御回路41の第1の動作モードでは、選択されたセンサ素子30をそれぞれの検出チャネル40に接続した後にステップS5が最初に実行されるとき、転位は先にいずれかのセンサ素子30で発生している可能性があり、したがって分子的実体は、選択されたセンサ素子30を介して既に部分的に転位されている場合があり得る。したがって、これがいずれかの所与のセンサ素子30に当てはまるかどうかは、センサ装置3における捕捉および転位を推進するランダムプロセスに起因して変動する。
【0084】
バイアス制御回路41の第2の動作モードでは、選択されたセンサ素子30をそれぞれの検出チャネル40に接続した後にステップS5が最初に実行されるとき、転位は、抑制バイアス信号の供給によりいずれのセンサ素子30においてもあらかじめ発生しておらず、しかし、したがって、分子的実体は選択されたセンサ素子30を介して既に部分的に転位されている可能性があるが、分子的実体は、上記の手段の使用によりナノ細孔の近傍で捕捉されていることによって、相互作用に利用され得る。この場合も、いずれかの所与のセンサ素子30にこれが当てはまるかどうかは、センサ装置3中の分子的実体の捕捉を推進するランダムプロセスに起因して変動する。
【0085】
ステップS5で実行される分析は、増幅された電気信号が、分子的実体がそれぞれのセンサ素子30のナノ細孔との相互作用に利用可能であることを表すかどうかの判断を含む。電気信号は分子的実体が相互作用に利用できるかどうかの特徴であるため、この判断が可能である。例えば、測定された特性がナノ細孔を流れるイオン電流である場合、相互作用に利用できる分子的実体がない場合はイオン電流が比較的高いレベルになり得、分子的実体が細孔を塞いでいることによって分子的実体が相互作用に利用できる場合は、比較的低いレベルになり得る。したがって、例えば、増幅された電気信号をローパスフィルタリングし、様々な状況を区別する閾値に対してそれをテストすることによって、分子的実体が相互作用に利用できるかどうかを判断することは、簡単である。他の測定された特性の場合、同様の特徴を使用して、ステップS5で判断を行うことができる。
【0086】
したがって、ステップS5において、データプロセッサ5は、データのチャンクの分析に基づいて、分子的実体が選択されたセンサ素子30のナノ細孔との相互作用に利用可能であるかどうかを判断する。そうである場合、ステップS5は、そのそれぞれのセンサ素子30からデータを受信し続けることを決定し、方法はステップS4に戻る。そうでない場合、ステップS5は、そのそれぞれのセンサ素子30からのデータの受信を継続しないという決定をもたらし、その結果、方法はステップS2に戻る。
【0087】
新たなセンサ素子において相互作用のために利用可能な分子的実体がないときに、検出チャネル40を新たなセンサ素子30に接続するようにスイッチ装置42を制御した後に、ステップS5が初めて実行されることを考えると、これはさらに新たなセンサ素子を選択するためにステップS2が再び実行されるという結果をもたらす。
【0088】
その後、この工程は、ステップS5で、検出チャネルが、分子的実体が利用可能なセンサ素子に接続されていることが検出されるまで、ステップS2の連続実行で選択された1つ以上の新たなセンサ素子30で繰り返される。
【0089】
分子的実体が新たなセンサ素子30での相互作用に利用可能である場合、ステップS4に戻ると、電気信号に対応するデータのさらなるチャンクに対してステップS4およびS5が繰り返される。ステップS4およびS5の繰り返しの実行は、分子的実体がセンサ素子30のナノ細孔との相互作用に利用可能であるケースがもはやないことがステップS4で判断されるまで、分子的実体の相互作用の期間中の電気信号の記録を効果的に提供する。これは、事実上、相互作用の完了の検出であり、その結果、方法はステップS2に戻り、さらに新たなセンサ素子30を選択する。
【0090】
全体的な効果は、センサ素子30での相互作用の完了が検出されるときはいつでも、検出チャネルの新たなセンサ素子へのスイッチングが実行されることである。
【0091】
ステップS2において、データプロセッサ5は、スイッチ装置42が行うことができる接続を考慮して、任意の適切な方法でそれぞれの検出チャネル4に接続するための新たなセンサ素子30を選択することができる。例えば、スイッチ装置42が複数の1対Nマルチプレクサを備える場合、データプロセッサ5は、対応する検出チャネル40に接続するために、N個のセンサ素子30の各グループのセンサ素子30を規則的なサイクルで連続して選択することができる。より複雑なアプローチでは、選択は、データプロセッサ5に利用可能な他の情報を考慮に入れることができる。一例では、データプロセッサ5は、各センサ素子30での最後に認識された相互作用からの間隔を記録し、間隔が長いセンサ素子30を優先的に選択することができる。別の例では、データプロセッサ5は、センサ素子50に関するステータス情報を記録し、それを選択において考慮に入れることができる。
【0092】
任意の変形形態では、データプロセッサ5は、増幅された電気信号をさらに分析して、膜が形成されかつ許容可能な数の膜タンパク質が挿入されたケースではないことにより許容可能な性能品質を持たないセンサ素子30を検出し、結果を記録してもよい。その場合、データプロセッサ5は、これが当てはまる場合、センサ素子30の選択を回避してもよく、それによって、WO2010/122293に開示されているものと同様の技術だが、本明細書に開示されている追加のステップと組み合わせて効果的に適用する。
【0093】
図3に示されている制御方法の実施により、分子的実体の濃度が飽和している場合でも、連続する相互作用間の平均待機時間が大幅に短縮され得るため、センサ装置3からのデータ収集の全体的なスループットが改善される。これは、分子的実体が利用可能である確率が、相互作用がちょうど完了したばかりのセンサ素子30よりも別のセンサ素子30の方が高いためである。したがって、平均して、1つの相互作用の完了と、同じ検出チャネル40での新たな相互作用からの電気信号の収集との間の遅延が減少する。この増加した確率は、センサ装置3のランダムプロセスに起因する他のセンサ素子30への分子的実体の利用可能性に起因する。
【0094】
これを別の方法で考えると、ナノ細孔は遠くの分子的実体よりも近くの分子的実体と速く相互作用する。このような相互作用の発生は確率論的であり、分子的実体が試料のバルクからナノ細孔の近傍内に拡散する確率によって制限される。通常、ナノ細孔検知システムは、新たな分子的実体がその近傍に入るよりも速く、近くの近傍から分子的実体を捕捉して枯渇させる。この場合、相互作用の発生は、新たな分子的実体がバルク試料から局所的な近傍に入る速度によって制限される。
【0095】
同様に、検知時間を飽和させるために必要な試料の量がより少ないため、感度が高まる。検知デバイス3に供給される試料の量は、特に相互作用間の平均時間が平均相互作用期間よりも短いレジームにおいて、検知のスループットに大きな影響を与えることなく減らすことができる。
【0096】
この利点は、バイアス制御回路54の第1の動作モードと第2の動作モードの両方で同様である。
【0097】
第1の動作モードでは、転位はいずれかのセンサ素子30で発生し得るため、スイッチングは、それが起こっているセンサ素子から電気信号を受信する検出チャネル40の確率を高める。この場合、分子的実体が、検出チャネル40が接続されている新たなセンサ素子30に部分的に転位する可能性がある。したがって、電気信号は分子的実体の一部から取得され、つまり、個々の読み取りの長さは短くなり得るが、それでもデータ収集の全体的な速度は、その後の分析に大きな悪影響を与えることなく増加する。これは、より大きな分子のフラグメントである分子的実体、例えば、ポリヌクレオチドのフラグメントであり、データが組み合わされて分子的実体全体の同一性を評価する場合に適切になり得る。
【0098】
第2の動作モードでは、センサ素子30が検出チャネル40に接続されるまで、転位が抑制される。したがって、この場合、ポリマーがナノ細孔に対して転位する場合、電気信号はポリマー全体から得られる。これは、全長を分析する必要がある分子的実体の場合に適切になり得る。
【0099】
これらの利点は、センサ素子30が、上記のように、ナノ細孔の近傍の分子的実体を捕捉するための手段を含む場合に特に大きく、なぜなら、これは、いずれかの検出チャネル40に接続されていない他のセンサ素子30が、既に分子的実体を捕捉している確率をさらに高め、同時に、検出チャネル40に接続されているセンサ素子30での転位から電気信号が捕捉されているからである。このような捕捉により、分子的実体を消費または枯渇させる条件を適用することなく、多数の分子的実体をナノ細孔の近傍に保つことができる。
【0100】
センサ素子30に捕捉部分を設ける場合、捕捉部分が分子的実体を捕捉するのに効果的であるとしても、例えば、サイドアームハイブリダイゼーションを使用した場合でも、先に積まれた分子的実体との相互作用を検知すると同時に、所与のセンサ素子30に別の分子的実体を積むことは困難であり得る。これは、配列されている分子的実体からの立体的または静電的排除効果が、別の分子的実体が結合するのに十分に近づくのを妨げていることが原因である可能性がある。この場合、特に、スループットおよび感度は、未使用のセンサ素子30上に次の分子的実体を積み重ねることによって達成され得る。
【0101】
図4は、本方法によって提供される増加したスループットを示す例として、それぞれ同じタイムスケールでの3つの時間概略図(A)~(C)を示している。時間概略図は、センサ素子30がそのナノ細孔に対して能動的に転位する分子的実体を有するときの占有期間t-occ、センサ素子30がナノ細孔に対して能動的に転位する分子的実体、能動的に転位する分子的実体を有さないときの非占有期間t-unocc、センサ素子30がナノ細孔の近傍に分子的実体を有するが、上記の捕捉手段を使用して達成し得る転位が発生していないときの待機期間t-wait、およびスイッチ装置30のスイッチングが発生する間のスイッチング期間t-sを示している。したがって、この例は、バイアス制御回路41の第2の動作モードに対応するが、バイアス制御回路41の第1の動作モードで同様の利益が達成される。
【0102】
時間概略図(A)は、比較例として、スイッチングなしの単一ナノ細孔の使用を示している。相互作用が完了した各占有期間t-occの後、非占有期間t-unoccがあり、その間新たな相互作用が発生するのを待機している。したがって、スループットはこれらの期間の割合によって低下する。
【0103】
検知されるポリマーの長さに応じて、占有期間t-occは0.1秒~60分以上のいずれかになり得る。非占有期間t-unoccは、検体濃度とポリマーの長さ(ポリマー検体の場合)の両方に依存する。非占有期間t-unoccは、検体濃度の減少とともに増加する。ポリマー検体のポリマーの長さによって関係は複雑になるが、大まかに言えば、ポリヌクレオチドの長さが長くなるとナノ細孔が自由鎖の末端と会うのが難しくなるため、短いポリマーと比較して、ポリマーが長いと非占有期間t-unoccが長くなる。
【0104】
時間概略図(B)は、4つのセンサ素子30間で周期的にスイッチングする本方法を適用するときの4つのセンサ素子30それぞれの使用を示しており、時間概略図(C)は、時間概略図(B)の4つのセンサ素子に接続されている検出チャネルの全体的な使用を示している。これは、4つのセンサ素子30間で周期的にスイッチングする場合、占有期間t-occと比較して非占有期間t-unoccが十分に短い例であるため、分子的実体が新たなセンサ素子にて相互作用に利用できる場合が常にある。したがって、検出チャネル40は、スイッチング期間t-sの間を除いて、常に電気信号を受信する。したがって、スイッチング期間t-sが非占有期間t-unoccよりも短いため、スループットが大幅に低下する。スイッチング期間t-sは、細孔/検体の化学的性質とは無関係に、検出回路5自体に必要な時間であり、最大約1秒までかかり得る。
【0105】
したがって、本方法は、長いポリマー(例えば、少なくとも10、20、30、40、または50kbの長さのポリヌクレオチド)を検知すること、および/または比較的低い検体濃度で検知することの両方に特に有益である。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C