(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】重水素化された又は部分的に重水素化されたN,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4045 20060101AFI20240719BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20240719BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240719BHJP
A61P 25/30 20060101ALI20240719BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K31/4045
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/30
A61P25/28
(21)【出願番号】P 2021571882
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2020065244
(87)【国際公開番号】W WO2020245133
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-22
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521527989
【氏名又は名称】サイビン ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ランズ,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル,ゼラ
(72)【発明者】
【氏名】ベンウェイ,ティファニー
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-117185(JP,A)
【文献】特開2011-016835(JP,A)
【文献】Frontiers in Neuroscience,2018年,Vol.12, Article 536,p.1-17
【文献】Pharmacology Biochemistry & Behavior,1982年,Vol.16,p.811-814
【文献】Biochem Pharmacology,1986年,Vol.35, No.17,p.2893-2896
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(b)及び(c)、及び任意で(a)
(a)
その薬学的に許容される塩を含む
、N,N-ジメチルトリプタミン、
(b)その薬学的に許容される塩を含む、α位に2つの重水素原子を有する重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物
、
(c)その薬学的に許容される塩を含む、α位に1つの重水素原子を有する重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物、
から本質的になる重水素富化混合物であって、
前記(b)及び(c)を合計で50重量%以上含み、及び、
実質的な量のα,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンを含まない、重水素富化混合物。
【請求項2】
N,N-ジメチルトリプタミンを含む、請求項1に記載の重水素富化混合物。
【請求項3】
α位に2つの重水素原子を有する重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物が、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及びその薬学的に許容される塩である、請求項1又は2に記載の重水素富化混合物。
【請求項4】
2重量%以上の、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項3に記載の重水素富化混合物。
【請求項5】
α位に1つの重水素原子を有する重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物が、α,β,β-トリデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、これらの化合物の薬学的に許容される塩からなる群より選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の重水素富化混合物。
【請求項6】
α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、又はその薬学的に許容される塩を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の重水素富化混合物。
【請求項7】
(b)その薬学的に許容される塩を含む、α位に2つの重水素原子を有する重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び
(c)その薬学的に許容される塩を含む、α位に1つの重水素原子を有する重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物
を、合計で
60重量%以上含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の重水素富化混合物。
【請求項8】
N,N-ジメチルトリプタミン、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、並びにそれらの薬学的に許容される塩の混合物
から本質的になる、請求項1~7のいずれか1項に記載の重水素富化混合物。
【請求項9】
混合物中に存在するN,N-ジメチルトリプタミン、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの平均分子量が、188.
9~190.28である、請求項8に記載の重水素富化混合物。
【請求項10】
HPLCによる純度が99%以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の重水素富化混合物。
【請求項11】
HPLCによる純度が99.9%以上である、請求項10に記載の重水素富化混合物。
【請求項12】
(a)任意のN,N-ジメチルトリプタミン、
(b)α位に2つの重水素原子を有する重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び
(c)α位に1つの重水素原子を有する重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物
が、薬学的に許容される塩の形態である、請求項1~11のいずれか1項に記載の重水素富化混合物。
【請求項13】
薬学的に許容される塩がフマル酸塩である、請求項12に記載の重水素富化混合物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の重水素富化混合物を、薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物。
【請求項15】
治療に使用するための、請求項1~13のいずれか1項に記載の重水素富化混合物、又は請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
患者の精神認知障害の治療方法において使用するための、請求項1~13のいずれか1項に記載の重水素富化混合物、又は請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
精神認知障害が(i)強迫性障害、(ii)うつ病性障害、(iii)不安障害、(iv)薬物乱用、及び、(v)意欲消失障害からなる群より選択される、請求項16に記載の使用のための重水素富化混合物、又は組成物。
【請求項18】
前記障害が大うつ病性障害である、請求項17に記載の使用のための重水素富化混合物、又は組成物。
【請求項19】
前記障害が治療抵抗性うつ病である、請求項18に記載の使用のための重水素富化混合物、又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N,N-ジメチルトリプタミン、重水素化されたN,N-ジメチルトリプタミン、及び部分的に重水素化されたN,N-ジメチルトリプタミンから選択される2種以上の化合物を含む組成物に関する。
【0002】
特に、本発明は、N,N-ジメチルトリプタミンと、2重量%以上の、α,α-ジデューテロ(dideutero)-N,N-ジメチルトリプタミン及びα,α,β,β-テトラデューテロ(tetradeutero)-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物との組み合わせを含む組成物に関する。本発明のさらなる及び代替的な組成物は、N,N-ジメチルトリプタミンと、2重量%以上の、α,β,β-トリデューテロ(trideutero)-N,N-ジメチルトリプタミン、α,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及びα-デューテロ(deutero)-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される1種以上の部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物との組み合わせを含む。本発明の組成物を合成する方法、及び精神障害又は精神認知障害(例えば、大うつ病性障害)の治療におけるこのような組成物の使用方法も提供される。
【背景技術】
【0003】
古典的な幻覚剤は、精神障害の治療における前臨床的及び臨床的有望性を示している(Carhart-Harris and Goodwin (2017), The Therapeutic Potential of psychedelicDrugs: Past, Present and Future, Neuropsychopharmacology 42, 2105-2113)。特に、サイロシビンは、無作為化された二重盲検試験において、幅広いうつ病及び不安評定尺度の有意な改善を実証した(Griffiths et al. (2016), Psilocybin produces substantial and sustained decreases in depression and anxiety in patients with life-threatening cancer: a randomised double-blind trial, Journal of Psychopharmacology 30(12), 1181-1197)。
【0004】
N,N-ジメチルトリプタミン(DMT)もまた、短時間作用型幻覚剤として治療的価値を有すると理解されているが、その作用の持続時間が非常に短いので(20分未満)、有効な治療が制限されている。DMTの没入型サイケデリック体験を拡張するために、投与プロトコルが開発されている(Gallimore and Strassman (2016), A model for the application of target-controlled intravenous infusion for a prolonged immersive DMT psychedelic experience, Frontiers in Pharmacology, 7:211)。しかしながら、これらのプロトコルは、DMTの代謝が乏しい患者において毒性蓄積の危険を伴う(さらなる議論については、Strassman et al (1994), Dose response study of N,N-dimethyltryptamine in humans, Arch Gen Psychiatry 51, 85を参照のこと)。
【0005】
α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンは、N,N-ジメチルトリプタミンと比較して、そのインビボ薬物動態プロファイルに有意な差を与える動的同位体効果を示すことが知られている。sp3炭素中心にて水素を重水素で置換することは、CHとCD結合との間の結合強度の差によって、「動的同位体効果」をもたらすことが知られている。げっ歯類の脳におけるα,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの半減期は、α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの単独投与が、治療に必須とされるより長い間、患者をDMTスペースに維持することを示唆していることが、1982年に最初に実証された(Barker et al. (1982), Comparison of the brain levels of N,N-dimethyltryptamine and α,α,β,β-tetradeutero-N,N-dimethyltryptamine following intraperitoneal injection, Biochemical Pharmacology, 31(15), 2513-2516)。
【発明の概要】
【0006】
N,N-ジメチルトリプタミンの薬物動態プロファイルを制御可能に改変し、それによってより柔軟な治療への応用を可能にするために、本発明は、一部では、α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンが示す動的同位体効果の知識を応用する能力に基づく。特に、N,N-ジメチルトリプタミンと、重水素化N,N-ジメチルトリプタミン類似体(特に、α位に少なくとも1つの重水素原子を含む(すなわち、ジメチルアミノ成分が結合した炭素原子に結合している少なくとも1つの重水素原子を含む)N,N-ジメチルトリプタミン、及び、特定の実施形態によれば、β位に1つ又は2つの重水素原子を含むN,N-ジメチルトリプタミン)との混合物を含む個々の薬物組成物を提供することにより、本発明は、臨床における注入プロトコル又はモノアミン酸化酵素阻害剤との併用療法に頼ることなく、治療的に最適化された持続時間の間、外部世界から患者を完全な分離状態(本明細書では「DMTスペース」と称する)に維持するために、微調整された単一投与量を可能にする組成物及び方法を提供する。本発明は、DMTを使った心理療法の管理における、臨床上の複雑さを減少させ、臨床的柔軟性を増加させる、臨床的に応用可能な解決策を提供する。
【0007】
さらに、我々は、重水素化の程度(代理で、本明細書に開示された合成方法における投入還元剤のH:D比)と、親化合物の代謝半減期の増強効果との間に、定量可能な関係を観察した。このような技術的効果は、複数のN,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む組成物(すなわち、N,N-ジメチルトリプタミン及びその重水素化類似体から選択される2種以上の化合物を含む組成物、ここで重水素化類似体は、特にα位で及び任意でβ位で重水素化されたもの又はこれらの薬学的に許容される塩)を調製する精度を定量的に増加させるために使用され得る。
【0008】
それゆえ、第一の態様から見ると、本発明は、N,N-ジメチルトリプタミン、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α-プロチオ(protio),α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び、これらの化合物の薬学的に許容される塩から選択される2種以上の化合物を含む組成物を提供する。
【0009】
第二の態様から見ると、本発明は、2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルグリオキサルアミド(glyoxalamide)を、90モル%以下の水素化リチウムアルミニウム及び10モル%以上の重水素化リチウムアルミニウムから本質的になる還元剤で、還元することにより得られる組成物を提供する。
【0010】
第三の態様から見ると、本発明は、2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドを、90モル%以下の水素化リチウムアルミニウム及び10モル%以上の重水素化リチウムアルミニウムから本質的になる還元剤で、還元することにより得られる組成物を提供する。
【0011】
第四の態様から見ると、本発明は、薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて、第一~第三の態様のいずれか1つに定義される組成物を含む医薬組成物を提供する。
【0012】
第五の態様から見ると、本発明は、治療に使用するための、第一~第四の態様のいずれか1つに定義される組成物を提供する。
【0013】
第六の態様から見ると、本発明は、患者の精神認知障害を治療する方法において使用するための、第一~第四の態様のいずれか1つに定義される組成物を提供する。
【0014】
第七の態様から見ると、本発明は、第一~第四の態様のいずれか1つに定義される組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む、精神認知障害を治療する方法を提供する。
【0015】
第八の態様から見ると、本発明は、患者の精神認知障害を治療する方法において使用するための医薬の製造において、第一~第四の態様のいずれか1つに定義される組成物の使用を提供する。
【0016】
第九の態様から見ると、本発明は、2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルグリオキサルアミド及び/又は2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドを、90モル%以下の水素化リチウムアルミニウム及び10モル%以上の重水素化リチウムアルミニウムから本質的になる還元剤と接触させることを含む、本発明の第一~第三の態様のいずれかによる組成物を調製する方法を提供する。
【0017】
第十の態様から見ると、本発明は、α,β,β-トリデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,α,β-トリデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される化合物を提供する。
【0018】
本発明のさらなる態様及び実施形態は、以下の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、DMT及び完全重水素化DMTと比較して、部分的に重水素化されたDMTの予測薬物動態プロファイルを示す。予測されたA)血漿濃度及びB)脳組織濃度は、部分的に重水素化されたDMTの延長された半減期を示す。ハッシュ化された領域は、「DMTスペース」と呼ばれる外界からの完全な断絶として経験される効果部位濃度(>60ng/mL)を示す。
【
図2】
図2は、実施例4に記載のDMT及び6種類の重水素含有組成物について計算されたインビトロ半減期をプロットする。A)線形回帰分析。半減期のr
2値は0.754であり、勾配はゼロと有意に異なることが見出された(p=0.01)。B)重水素化類似体の半減期は、(重水素化されていない)DMT(破線)からのパーセント変化として示される。
【
図3】
図3は、実施例4に記載のDMT及び6種類の重水素含有組成物のインビトロ固有クリアランスを示している。A)線形回帰分析。固有クリアランスのr
2値は0.7648であり、勾配はゼロと有意に異なることが見出された(p=0.01)。B)重水素化類似体の固有クリアランスは、(重水素化されていない)DMT(破線)からのパーセント変化として示される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書を通じて、本発明の1つ又は複数の態様は、本明細書に記載された1つ又は複数の特徴と組み合わされて、本発明の別個の実施形態を定義することができる。
【0021】
本明細書では、文脈が他のことを示唆しなければ、単数形の名詞は、複数形の名詞を包含し、その逆もまた同様である。
【0022】
本明細書を通して、「含む」又は「含み」もしくは「含んでいる」などの変形は、記述された要素、整数又はステップ、又は要素、整数又はステップの群の包含を意味するが、任意の他の要素、整数又はステップ、又は要素、整数又はステップの群の排除は意味しないものと理解される。
【0023】
本発明は、N,N-ジメチルトリプタミン、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び、これらの化合物の薬学的に許容される塩から選択される2種以上の化合物を含む組成物を提供する。
【0024】
重水素原子は、追加の中性子を有する水素原子である。
【0025】
本明細書ではしばしば、用語α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、それぞれ重水素化(又は完全重水素化)N,N-ジメチルトリプタミン及び部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミンと呼ばれる。従って、重水素化(又は完全重水素化)N,N-ジメチルトリプタミンは、厳密には、α位の両方のプロトンが重水素原子で置換されているN,N-ジメチルトリプタミン化合物を指す。部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミンという用語は、厳密には、α位の2つのプロトンのうちの1つが重水素原子で置換されているN,N-ジメチルトリプタミン化合物を指す。本発明の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、α位が2つの重水素原子で置換されている任意のN,N-ジメチルトリプタミン化合物であり、本発明の部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、α位に1つの水素原子と1つの重水素原子とを有する任意のN,N-ジメチルトリプタミン化合物である。
【0026】
従って、本発明は、N,N-ジメチルトリプタミン、重水素化N,N-ジメチルトリプタミン、及び部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミンから選択される2種以上の化合物を含む組成物であって、N,N-ジメチルトリプタミンと、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物との組み合わせを含む組成物を提供する。
【0027】
N,N-ジメチルトリプタミン及びその全ての重水素化類似体は、アニオン性対イオンを有する付加塩を自由に形成する。明細書全体を通して、N,N-ジメチルトリプタミン化合物(特に、N,N-ジメチルトリプタミン、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物)は、任意の薬学的に許容される塩(例えばフマル酸塩)をも等しく指す。
【0028】
典型的には、酸性試薬を用いて、N,N-ジメチルトリプタミン化合物の塩、特に薬学的に許容される塩を調製することができる。適切な酸性試薬の例は、フマル酸、塩酸、酒石酸、クエン酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、酢酸、マレイン酸、乳酸、酒石酸及びグルコン酸からなる群より選択される。しばしば、塩の形態である場合、本発明の組成物における、又は本発明の種々の態様、及びその実施形態に従って使用される、N,N-ジメチルトリプタミン化合物(特に本発明の化合物として)は、フマル酸塩、塩酸塩、酒石酸塩又はクエン酸塩であり、特にフマル酸塩である。
【0029】
本発明の第一の態様の組成物、及び実際には、本発明の第二及び第三の(及び必要に応じて、他の)態様の組成物中に存在する化合物は、それゆえ、N,N-ジメチルトリプタミン化合物(特に、本明細書に記載のN,N-ジメチルトリプタミン又は重水素化もしくは部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物)として、遊離塩基の形態又は塩の形態(本明細書に記載の塩など)で存在してもよく、任意にそれらの溶媒和物(例えば、水和物)として存在してもよい。
【0030】
本発明の特定の実施形態によれば、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物(完全に重水素化された化合物)は、β位において0、1又は2個の重水素原子を含むが、2、3又は4個の重水素原子の存在以外は、化合物N,N-ジメチルトリプタミンと同一である。本発明のこれらの特定の及び他の特定の実施形態によれば、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物(部分的に重水素化された化合物)は、β位において0、1又は2個の重水素原子を含むことができるが、1、2又は3個の重水素原子の存在以外は、化合物N,N-ジメチルトリプタミンと同一である。本発明のこれらの特定の実施形態による、6種の完全重水素化及び部分重水素化化合物が、以下の表に示される。
【0031】
【0032】
第一の態様の好ましい実施形態において、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を2重量%以上含む。第一の態様の好ましい実施形態において、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を5重量%以上含む。第一の態様の好ましい実施形態では、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を10重量%以上含む。第一の態様の好ましい実施形態において、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を15重量%以上含む。第一の態様の好ましい実施形態において、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を20重量%以上含む。第一の態様の好ましい実施形態において、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を25重量%以上含む。第一の態様の好ましい実施形態において、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を30重量%以上含む。第一の態様の好ましい実施形態では、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を50重量%以上含む。第一の態様の好ましい実施形態において、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を60重量%以上含む。第一の態様の好ましい実施形態において、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を75重量%以上含む。第一の態様の好ましい実施形態では、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を最大で90重量%まで含む。第一の態様の好ましい実施形態では、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を最大で95重量%まで含む。第一の態様の好ましい実施形態において、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を最大で96重量%まで含む。第一の態様の好ましい実施形態では、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を最大で97重量%まで含む。第一の態様の好ましい実施形態において、組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミンを最大で98重量%まで含む。
【0033】
従って、これまでの記載から、本発明の第一の態様の特定の実施形態、特に、以下の8つの段落で議論される実施形態によれば、組成物は、2%~90%、2%~95%、2%~96%、2%~97%、2%~98%、例えば、5%~90%、5%~95%、5%~96%、5%~97%、5%~98%;10%~90%、10%~95%、10%~96%、10%~97%、10%~98%;15%~90%、15%~95%、15%~96%、15%~97%、15%~98%;20%~90%、20%~95%、20%~96%、20%~97%、20%~98%;25%~90%、25%~95%、25%~96%、25%~97%、25%~98%;30%~90%、30%~95%、30%~96%、30%~97%、30%~98%;50%~90%、50%~95%、50%~96%、50%~97%、50%~98%;60%~90%、60%~95%、60%~96%、60%~97%、60%~98%;又は75%~90%、75%~95%、75%~96%、75%~97%、75%~98%(いずれも重量%)の1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含むことが理解される。
【0034】
第一の態様の実施形態では、組成物は、
N,N-ジメチルトリプタミンと、
α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,α,β-トリデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及びα,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物と
の組み合わせ、例えば、
N,N-ジメチルトリプタミンと、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンとの組み合わせ、
N,N-ジメチルトリプタミンと、α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンとの組み合わせ、又は、
N,N-ジメチルトリプタミンと、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンとの組み合わせ、を含む。
【0035】
第一の態様の好ましい実施形態では、組成物は、
N,N-ジメチルトリプタミンと、
2重量%以上の、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及びα,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物と
の組み合わせを含む。
【0036】
第一の態様の他の実施形態では、組成物は、
N,N-ジメチルトリプタミンと、
2重量%以上の、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,α,β-トリデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物と
の組み合わせを含む。
【0037】
第一の態様の好ましい実施形態では、組成物は、2重量%以上のα,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンを含む。
【0038】
第一の態様の好ましい実施形態では、組成物は、2重量%以上のα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンを含む。
【0039】
第一の態様の特定の実施形態では、組成物は、2重量%以上のα,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、2重量%以上のα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンを含む。
【0040】
組成物が、1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を2重量%以上含む場合には、そのような組成物は、1種以上の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を、95重量%以下、又は96重量%以下、97重量%以下、あるいは98重量%以下含みうることが理解されるであろう。
【0041】
第一の態様の好ましい実施形態では、組成物は、α,β,β-トリデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される1種以上の部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含むか、あるいはさらに含む(例えば、さらに含む)。好ましくは、部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンである。
【0042】
好ましい実施形態では、1種以上の部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、最大で全組成物の50重量%までを構成する。
【0043】
本発明の第一の態様の他の好ましい実施形態によれば、組成物は、組成物の全重量を基準にして、最大で50重量%までの、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、α-プロチオ,α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物及びそれらの薬学的に許容される塩から選択される1種以上の化合物を含む。このような実施形態では、このような組成物は、全組成物を基準として、2重量%以上、例えば5重量%以上、10重量%以上、15%重量以上、20重量%以上、25%重量以上、又は30%重量以上、上記1種以上の化合物を含み得ることが理解されるであろう。
【0044】
典型的には、本発明の組成物は、N,N-ジメチルトリプタミンを含む。
【0045】
特定の実施形態によれば、本発明の組成物は、本明細書に記載のすべての実施形態を含み、N,N-ジメチルトリプタミンを含む実施形態、2種以上のN,N-ジメチルトリプタミン化合物(すなわち、N,N-ジメチルトリプタミン及びその重水素化類似体から選択される化合物、ここで、重水素化類似体は、特にα位及び任意でβ位で重水素化されたもの、又はこれらの薬学的に許容される塩)から本質的になる実施形態を含むが、これらに限定されない。2種以上のN,N-ジメチルトリプタミン化合物から本質的になる組成物とは、組成物が追加の成分(N,N-ジメチルトリプタミン化合物以外)を含むことができるが、これらの追加成分の存在が、組成物の本質的な特徴に実質的に影響を与えないことを意味する。特に、N,N-ジメチルトリプタミン化合物から本質的になる組成物は、実質的な量の他の薬学的に活性な物質(すなわち、実質的な量の他の薬物)を含まないであろう。
【0046】
より典型的には、本発明の組成物は、本明細書に記載の全ての実施形態を含み、N,N-ジメチルトリプタミンを含む実施形態、2種以上のN,N-ジメチルトリプタミン化合物のみからなる実施形態を含むが、これらに限定されない。
【0047】
本発明の組成物は、2重量%~98重量%のN,N-ジメチルトリプタミン、及び好ましくは5重量%~95重量%のN,N-ジメチルトリプタミンを含むことができる。本発明の好ましい組成物は、10重量%~90重量%のN,N-ジメチルトリプタミン、又は15重量%~85重量%のN,N-ジメチルトリプタミン、又は20重量%~80重量%のN,N-ジメチルトリプタミン、又は25重量%~75重量%のN,N-ジメチルトリプタミン、又は30重量%~70重量%のN,N-ジメチルトリプタミン、又は40重量%~60重量%のN,N-ジメチルトリプタミンを含む。
【0048】
本発明の組成物は、好ましくは、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を、5~95重量%含む。
【0049】
本発明の第二の態様は、2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルグリオキサルアミドを、90モル%以下の水素化リチウムアルミニウム及び10モル%以上の重水素化リチウムアルミニウムから本質的になる還元剤で、還元することにより得られる組成物を提供する;第三の態様は、2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドを、90モル%以下の水素化リチウムアルミニウム及び10モル%以上の重水素化リチウムアルミニウムから本質的になる還元剤で、還元することにより得られる組成物を提供する。両方の態様において、還元剤は、液体媒体中に溶解又は懸濁されることができる。典型的には、水との強い反応性のために、及びアルコールのような溶媒を保護するために、固体(粉末状)の形態で入手可能であるものの、水素化(あるいは重水素化)リチウムアルミニウムは、しばしば不活性雰囲気下で、乾燥した非プロトン性溶媒、例えばエーテル中で操作される。当業者には、このような使用上の注意や適切なプロトコルが知られている。
【0050】
従って、本発明は、2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルグリオキサルアミド及び2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドのうちの1種又は複数種を含有する組成物を、90モル%以下の水素化リチウムアルミニウムと10モル%以上の重水素化リチウムアルミニウムとから本質的になる還元剤(必要に応じて液体媒体中に溶解又は懸濁される)で還元して得られる組成物を提供することが、理解されるであろう。本発明はまた、このような還元によって得られる組成物、又はより一般的には、本発明の第二又は第三の態様による還元によって得られる組成物を提供する。
【0051】
本明細書に記載のN,N-ジメチルトリプタミン化合物の量は、特に本発明の第一の態様の組成物を参照して、本発明の第二及び第三の態様の組成物に準用できることも理解されるべきである。
【0052】
好ましくは、本明細書に記載される還元剤は、例えば、本発明の第二、第三、及び第九の態様によれば、それだけでなく、直前の段落にも記載されているように、水素化リチウムアルミニウム85モル%及び重水素化リチウムアルミニウム15モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム80モル%及び重水素化リチウムアルミニウム20モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム25モル%及び重水素化リチウムアルミニウム75モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム30モル%及び重水素化リチウムアルミニウム70モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム65モル%及び重水素化リチウムアルミニウム35モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム60モル%及び重水素化リチウムアルミニウム40モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム55モル%及び重水素化リチウムアルミニウム45モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム50モル%及び重水素化リチウムアルミニウム50モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム45モル%及び重水素化リチウムアルミニウム55モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム40モル%及び重水素化リチウムアルミニウム60モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム35モル%及び重水素化リチウムアルミニウム65モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム30モル%及び重水素化リチウムアルミニウム70モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム25モル%及び重水素化リチウムアルミニウム75モル%から本質的になり、又は水素化リチウムアルミニウム20モル%及び重水素化リチウムアルミニウム80モル%から本質的になり、又はリチウムアルミニウム15モル%から本質的になる。
【0053】
特定の実施形態によれば、還元剤が、水素化リチウムアルミニウム及び重水素化リチウムアルミニウムから本質的になるとは、還元剤は、追加の成分を含むことができるが、これらの成分の存在は、還元剤の本質的な特性(特に安定性及び還元性)に、実質的に影響を及ぼさないことを意味する。
【0054】
本発明の第四の態様によれば、薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて、本発明の第一~第三の態様によって定義される組成物を含む医薬組成物が、提供される。
【0055】
本発明の医薬組成物は、1種以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて、本発明の組成物(第一~第三の態様のいずれかに記載)を含む。適切な医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤を用いて、当業者によって調製されることができ、前記薬学的に許容される賦形剤の例には、Gennaroらの「Remmington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, Lippincott, Williams and Wilkins, 2000(具体的には、第五部:医薬製造)」に記載されているものが含まれる(ただし、それらに限定されない)。適切な賦形剤はまた、医薬賦形剤のハンドブック、第二版(Editors A. Wade and P. J.Weller, American Pharmaceutical Association, Washington, The Pharmaceutical Press, London, 1994)に記載されている。
【0056】
本発明の医薬組成物は、錠剤のような固体投与単位に圧縮されてもよく、又はカプセル又は坐剤に加工されてもよい。薬学的に適した液体により、化合物は、溶液、懸濁液、乳剤の形態で、又はスプレーとして調製されることもできる。錠剤を含め、投薬単位を作るためには、充填剤、着色剤、高分子結合剤などの従来の添加剤の使用が考えられる。一般に、任意の薬学的に許容される添加剤を使用することができる。
【0057】
医薬組成物を調製し、投与するのに適した充填剤には、適切な量で使用される、ラクトース、デンプン、セルロース及びそれらの誘導体等、又はそれらの混合物が含まれる。非経口投与のために、水性懸濁液、等張生理食塩水及び滅菌注射用溶液を使用することができ、これらは、薬学的に許容される分散剤及び/又は湿潤剤、例えばプロピレングリコール又はブチレングリコールを含有することができる。
【0058】
本発明はまた、本発明の医薬組成物を、組成物に適した包装材料と組み合わせて提供してもよく、包装材料には、医薬組成物を使用するための指示書が含まれてもよい。
【0059】
本発明の組成物は治療に有用であり、それを必要とする患者に投与することができる。本明細書中で使用される場合、用語「患者」は、好ましくは、ヒト患者を指しているが、家畜哺乳動物を指していてもよい。この用語は、実験哺乳動物を包含しない。
【0060】
本発明の第六の態様によれば、患者の精神認知障害を治療する方法において使用するための第一~第四の態様のいずれか1つに定義される組成物が提供される。本発明の第七の態様は、第一~第四の態様のいずれか1つに記載の組成物を、必要とする患者に投与することを含む、精神認知障害の治療方法を提供し、第八の態様は、患者の精神認知障害を治療する方法において使用するための医薬の製造における、第一~第四の態様のいずれか1つに定義される組成物の使用を提供する。
【0061】
本明細書で使用される場合、「精神認知障害(psychocognitive disorder)」という用語は、1つ又はそれ以上の認知機能障害に関連し得る精神障害を包含する。本明細書で使用される場合、「精神障害(psychiatric disorder)」という用語は、個体において発生し、且つ、現在の苦悩(例えば、痛みの症状)もしくは能力障害(すなわち、機能の1つ又は複数の重要な領域における障害)に関連する、又は死亡、痛み、能力障害、もしくは自由度の重大な損失に苦しむリスクの大幅な増大に関連する、臨床的に重要な行動又は心理学的症候群もしくはパターンである。
【0062】
本明細書で参照される精神障害及び精神認知障害の診断基準は、「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, (DSM-5)」に提供されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0063】
本明細書中で使用される場合、「強迫性障害(obsessive-compulsive disorder)」という用語は、強迫観念又は強迫行為のいずれかの(一般的に、両方の)存在によって定義される。この症状は、重大な機能障害及び/又は苦悩を引き起こす可能性がある。強迫観念は、反復的に人の頭に浮かぶ、不必要な侵入思考、イメージ、又は衝動として定義される。強迫行為は、人間が行うべきと駆られるように感じる反復的な行動又は精神的な行為である。典型的には、強迫性障害(OCD)は、強迫行為をすることに駆られる1つ以上の強迫観念として現れる。例えば、細菌に対する強迫観念により、清潔にしたいという強迫行為(衝動)に駆られる。強迫行為は、ドアがロックされていることをチェックするなどの、明らかで他人から見て観察可能なものか、又は、あるフレーズを頭の中で繰り返すなど、観察することができない潜在的な精神的行為のいずれかであり得る。
【0064】
本明細書中で使用される場合、「うつ病性障害」という用語は、大うつ病性障害、持続性うつ病性障害、双極性障害、双極性うつ病、及び末期患者におけるうつ病を含む。
【0065】
本明細書中で使用される場合、「大うつ病性障害(MDD);大うつ病又は臨床的うつ病とも呼ばれる」という用語は、二週間以上の期間にわたる、ほとんど一日中、ほとんど毎日の、5個以上の次の症状の存在として定義される(本明細書では、「大うつ病エピソード」とも呼ばれる):
・抑うつ気分、例えば、悲しい、空虚又は泣きそうに感じる(子供及びティーンエイジャーでは、抑うつ気分は、持続的な易怒性として現れることがある);
・すべてあるいはほとんどの活動において、興味が著しく減少するか、又は喜びを感じない;
・食事療法をしていないのに、体重が有意に減少する、体重が増加する、又は食欲が減少もしくは増加する(子供では、期待される体重増加が見られない);
・不眠又は睡眠願望の増加;
・他者に観察可能な不穏状態又は動作遅延;
・疲労又は活力の減退;
・無価値観、又は過剰なもしくは不適切な罪悪感;
・決断が困難、又は思考もしくは集中が困難;
・死もしくは自死に関する反復思考、又は自殺企図
症状の少なくとも1つは、抑うつ気分又は興味もしくは喜びの喪失のいずれかでなければならない。
【0066】
気分変調症としても知られている持続性うつ病性障害は、次の2つの特徴を示す患者として定義される。
A.少なくとも2年間、ほとんどの時間、ほとんど毎日、抑うつ気分を有する。
子供及び青年期の若者は、怒りっぽい気分になることがあり、期間は少なくとも1年である。
B.抑うつの間、人は次の症状の少なくとも2つを経験する:
・過食又は食欲不振のいずれか
・過眠又は睡眠障害を有する
・疲労又は活力の減退
・低い自尊心
・集中又は決断が困難
【0067】
本明細書で使用される場合、「治療抵抗性うつ病」という用語は、標準的ケア療法による適切な治療に対して適切な応答を達成することができないMDDを説明する。
【0068】
本明細書で使用される場合、躁うつ病としても知られる「双極性障害」は、気分、活力、活動レベル、及び日々の業務を実行する能力に異常なシフトを引き起こす障害である。
【0069】
双極性障害の2つの定義されたサブカテゴリがあり、それらの全ては、気分、活力、及び活動レベルの明確な変化を含む。これらの気分は、極度の「アップ」、高揚感、及びエネルギッシュな挙動(躁病エピソードとして知られており、さらに以下に定義されている)の期間から、非常に悲しい「ダウン」又は無希望な期間(うつ病エピソードとして知られる)にわたる。それほどひどくない躁期は、軽躁エピソードとして知られている。
【0070】
双極I型障害は、少なくとも7日間続く躁病エピソードによって、又は人が即時の病院でのケアを必要とするような深刻な躁症状によって定義される。通常は、うつ病エピソードも発生し、典型的には少なくとも2週間持続する。混合された特徴を有するうつ病のエピソード(うつ症状及び躁症状を同時に有する)も起こり得る。
【0071】
双極II型障害は、うつ病エピソード及び軽躁エピソードのパターンによって定義されるが、上述した末期の躁病エピソードではない。
【0072】
本明細書で使用される場合、「双極性うつ病」は、以前の又は共存する躁症状のエピソードとともに、うつ症状を経験している個人として定義されるが、双極性障害のための臨床的基準には適合しない。
【0073】
本明細書で使用される場合、「不安障害(不安症)」という用語は、全般性不安障害、恐怖症、パニック障害、社交不安障害、及び外傷後ストレス障害を含む。
【0074】
本明細書中で使用される「全般性不安障害(GAD)」は、1つの対象又は状況に特化しない長期間の不安を特徴とする慢性障害を意味する。GADに罹患している者は、非特定の持続的な恐怖及び不安を経験し、日常のありきたりな事を過度に気にするようになる。GADは、次の症状3つ以上を伴う慢性的な過度の不安によって特徴付けられる:不穏状態、疲労、集中力の欠如、易怒性、筋肉の緊張、及び睡眠障害。
【0075】
「恐怖症」は、対象又は状況に対する絶え間ない恐れとして定義され、罹患した人は、それを避けるために(典型的には、生じている実際の危険と不釣り合いに)どんな苦労も惜しまない。恐れている対象や状況が完全に回避できない場合には、罹患した人は、社会的又は職業的活動において著しい苦痛及び重大な支障とともに、それに耐えることになる。
【0076】
「パニック障害」に罹患している患者は、激しい恐怖及び不安による一度以上の短い発作(パニック発作とも呼ばれる)を経験する人として定義されており、しばしば、振戦、身震い、混乱、めまい、悪心、及び/又は呼吸困難を特徴とする。パニック発作は、急激に発生して、10分未満にピークに至るおそれや不快と定義される。
【0077】
「社交不安障害」は、激しい恐怖、及び、ネガティブな世間の詮索、人前での困惑、恥をかく状況、又は社会的交流の回避と定義される。社交不安は、しばしば、発赤、発汗、及び発話困難を含む特定の身体症状を示す。
【0078】
「外傷後ストレス障害(PTSD)」は、トラウマ的経験に起因する不安障害である。外傷後ストレスは、戦闘、自然災害、レイプ、人質事件、児童虐待、いじめ、又は重大事故のような極限状況から生じる可能性がある。一般的な症状には、過覚醒、フラッシュバック、回避行動、不安、怒り及びうつ病が含まれる。
【0079】
本明細書で使用される場合、「薬物乱用」という用語は、使用者がその物質を、彼ら自身又は他人に有害な量で又は方法で消費する薬剤のパターン化された使用を意味する。
【0080】
本明細書で使用される場合、「意欲消失障害」という用語は、自主的で意図的な活動を開始し実行するモチベーションの低下を症状として含む障害を指す。
【0081】
本発明の第六~第八の態様の好ましい実施形態では、精神認知障害は、(i)強迫性障害、(ii)うつ病性障害、(iii)不安障害、(iv)薬物乱用、及び(v)意欲消失障害から選択される。
【0082】
本発明の第六~第八の態様の特定の実施形態によれば、うつ病性障害は大うつ病性障害である。さらに特定の実施形態によれば、大うつ病性障害は、治療抵抗性の大うつ病性障害である。
【0083】
本発明の部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む組成物は、以下のスキーム1及びスキーム2に提供される反応スキーム(合成スキーム)に従って合成することができる。このスキームに示された化学は、PE Morris及びC Chiaoによって報告された(Journal of Labelled Compounds And Radiopharmaceuticals, Vol. XXXIII, No. 6, 455-465 (1993))。本発明の部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む組成物は、以下のスキーム3及び実施例4に示される合成スキームに従って合成することもできる。
【0084】
重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物及び部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物に対する、N,N-ジメチルトリプタミンの相対割合は、還元剤中の水素化リチウムアルミニウムと重水素化リチウムアルミニウムの比を変えることによってコントロールすることができる。相対割合は、N,N-ジメチルトリプタミン、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンのうちの1種以上を、上記組成物に添加することによってさらに変化させることができる。
【0085】
本発明の特定の利点は、特に、その第二及び第三の態様に従って得られる組成物及び第九の態様の方法に限定されるものではないが、本発明のこれらの態様に従って記載された還元が、続いてのクロマトグラフィー精製(例えば、カラムクロマトグラフィー)を必要とせずに、特に高い純度を得ることを可能にし、それによって、本発明の組成物を調製する効率を増加させることである。さらに、高い純度を達成するためにクロマトグラフィーの使用を回避する能力は、スケールアップをより効率的にし、従ってコスト効率が良い。
【0086】
スキーム1及び2(本発明の第二及び第三の態様の特定の実施形態を表す)における還元工程から得られた組成物の同定は、所望であれば、分光分析及び/又は質量分析と組み合わせて当業者が自由に使える従来の手段により、混合物の成分をクロマトグラフィー分離することによって達成することができる。
【0087】
【0088】
【0089】
本発明の別の組成物は、還元剤がもっぱら水素化リチウムアルミニウムである場合にスキーム1又はスキーム2によって得られるN,N-ジメチルトリプタミンを、還元剤がもっぱら重水素化リチウムアルミニウムである場合にスキーム1又はスキーム2から得られる重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物と混合することによって得ることができる。
【0090】
上記の組成物は、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を添加することによってさらに改変されてもよい。このような重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物のストックは、例えば、上記のクロマトグラフィー分離から得ることができる。このようにして、例えば、本発明の第十の態様の化合物を得ることができる。第十の態様の特定の実施形態によれば、化合物は、α,β,β-トリデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される。
【0091】
本明細書に記載した還元から得られる組成物の同定は、混合物の成分のクロマトグラフィー分離によって、分光及び/又は質量分析と組み合わせて達成することができるが、本発明の特定の利点は、特定の実施形態によれば、そうする必要が必ずしもないことである。これは、すでに示唆したように、我々は、本発明に従って達成可能な純度に加えて、重水素化の程度(言い換えると、本発明の組成物中のN,N-ジメチルトリプタミン化合物中の重水素の量又は割合)と、得られた組成物の代謝半減期との間に定量化可能な関係が存在することを認識したからである。重水素化の程度は、本発明の方法で使用される重水素-含有還元剤の量を介して制御することができ、それを通じて(特定の実施形態によれば)、本発明の組成物は、親化合物(重水素化されていないN,N-ジメチルトリプタミン)の代謝半減期の増強について、予測可能な方法で得ることができ、それゆえ制御可能である。
【0092】
特に、実施例4及び関連する
図2及び3に詳述されているように、N,N-ジメチルトリプタミンのα-炭素における重水素富化を増加させると、代謝安定性が増大し、クリアランスが減少し、半減期が長くなることが実証された。分子量と半減期との間に直線関係が存在し、特に、本発明の重水素富化N,N-ジメチルトリプタミン含有組成物の製造のために添加する還元剤は、LiAlH
4とLiAlD
4とを、約1:2.5~約2.5:1の間の比で含む。
【0093】
このようなタイプの組成物は、本発明の第一の態様の特定の実施形態を構成する。
これらの特定の実施形態によれば、組成物は、
N,N-ジメチルトリプタミンと、
α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及びα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの一方又は両方と
の混合物から本質的になり、組成物は、場合により、薬学的に許容される塩の形態であり、ここで、組成物中に存在するN,N-ジメチルトリプタミン、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの平均分子量は、188.28~190.28である。
【0094】
本明細書で使用される場合、平均分子量とは、適切な質量分光技術、例えばLC-MS SIM(選択イオンモニタリング)によって測定される、N,N-ジメチルトリプタミンの分子量と、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及びα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの一方又は両方の分子量との加重平均を意味し、薬学的に許容される塩の形成による重量寄与は無視される(該当する場合)。
【0095】
このような特定の平均分子量を有する組成物を提供することは、本明細書の教示を介して、特に、本明細書に記載の還元において、水素化リチウムアルミニウムと重水素化リチウムアルミニウムとの相対的比率を調節することによって、当業者によって達成可能であることが理解されるであろう。
【0096】
この文脈において、組成物が、N,N-ジメチルトリプタミンと、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及びα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの一方又は両方との混合物から本質的になるとは、組成物が、これらに加えて追加の成分を含んでもよいが、このような追加の成分の存在は、組成物の本質的な特徴に実質的に影響を与えないことを意味する。特に、この組成物は、実質的な量の他の薬学的に活性な化合物(他のN,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む)を含まないであろう。従って、実質的な量の他の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物、特にβ-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、及び、β,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物、例えば、β-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及びβ,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、並びに、β-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物及びβ,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン化合物(それぞれ、α位に水素原子の代わりに1つ又は2つの重水素を有している)は、そのような実施形態の組成物には存在しない。
【0097】
言い換えれば、これらの特定の実施形態による組成物は、
N,N-ジメチルトリプタミンと、
α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及びα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの1種以上と
の混合物から本質的になる生物学的に活性な成分を含む薬物物質を構成し、生物学的に活性な成分は、188.28~190.28の平均分子量を有し、薬物物質は任意で薬学的に許容される塩の形態である。
【0098】
これらの特定の実施形態による組成物は、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及びα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの1種以上を、同位体的な非富化N,N-ジメチルトリプタミンの量よりも多い量で含むことが理解されるであろう。また、これらの特定の実施形態において、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及びα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの割合が大きいほど、組成物の平均分子量が高くなることも理解されるであろう。
【0099】
より具体的な実施形態によれば、組成物中に存在するN,N-ジメチルトリプタミン、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの平均分子量は、188.9~189.7、例えば188.90~189.70である。
【0100】
本明細書に記載の特定の実施形態(組成物中に存在するN,N-ジメチルトリプタミン、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンの平均分子量が188.9~189.7、例えば188.90~189.70である組成物を含む)のさらに具体的な実施形態によれば、組成物は、任意で薬学的に許容される塩の形態であり、これにより、組成物中に存在するN,N-ジメチルトリプタミン、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンが、薬学的に許容される塩の形態で存在することが理解されるであろう。このような塩は、本明細書の他の場所に記載されているようなものであってもよく、さらにより具体的な実施形態によれば、組成物はフマル酸塩の形態である。
【0101】
本明細書で引用したそれぞれ及びあらゆる特許文献及び非特許文献は、各文献の内容全体が本明細書に全体的に記載されているかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0102】
本発明は、以下の非限定的な節及び続く実施例を参照して、さらに理解することができる。
1.N,N-ジメチルトリプタミン、重水素化N,N-ジメチルトリプタミン、及び、部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミンから選択される2種以上の化合物を含む組成物。
2.N,N-ジメチルトリプタミンと、
2重量%以上の、1種以上の重水素化又は部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物と
の組み合わせを含む節1に記載の組成物であって、ここで、
重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、α位が2つの重水素原子で置換されており、部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物は、α位に1つの水素原子及び1つの重水素原子を有するN,N-ジメチルトリプタミン化合物である、組成物。
3.重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物が、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される、節1又は2に記載の組成物。
4.α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンを2重量%以上含む、節3に記載の組成物。
5.α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンを2重量%以上含む、節3又は4に記載の組成物。
6.α,β,β-トリデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される1種以上の部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を含む、節1~5のいずれか1つに記載の組成物。
7.部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物が、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンである、節6に記載の組成物。
8.1種以上の部分重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物が、全組成物の50重量%以下を構成する、節1~7のいずれか1つに記載の組成物。
9.5~95重量%のN,N-ジメチルトリプタミンを含む、節1~8のいずれか1つに記載の組成物。
10.α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α,α,β,β-テトラデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物を5~95重量%含む、節1~9のいずれか1つに記載の組成物。
11.2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルグリオキサルアミドを、90重量%以下の水素化リチウムアルミニウム及び10%以上の重水素化リチウムアルミニウムから本質的になる還元剤で、還元することにより得られる組成物。
12.2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドを、90重量%以下の水素化リチウムアルミニウム及び10%以上の重水素化リチウムアルミニウムから本質的になる還元剤で、還元することにより得られる組成物。
13.患者の精神障害又は精神認知障害の治療に使用するための、節1~12のいずれか1つに記載の組成物。
14.精神障害又は精神認知障害が、(i)強迫性障害、(ii)うつ病性障害、(iii)不安障害、(iv)薬物乱用、及び(v)意欲消失障害から選択される、節13に記載の使用のための組成物。
15.α,β,β-トリデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、α,β-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン、及び、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンから選択される、化合物。
【0103】
[実施例]
実施例1:
2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドを、「Morris and Chiao (1993), Journal of labelled compounds and radiopharmaceuticals, Vol. XXXIII, No. 6.」に記載されているように合成する。
0.063gのLiAlH4及び0.278gのLiAlD4(モル比20:80のLiAlH4:LiAlD4)を、磁気撹拌しながら25mlの乾燥Et2Oに懸濁させる。0.785gの2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドを300mLに溶解し、撹拌した懸濁液に滴加する。試薬を還流下で3時間加熱し、次いで氷浴中で冷却し、水を滴加してクエンチした。得られた混合物を濾過し、乾燥し、溶媒を真空下で除去して、3モル%のN,N-ジメチルトリプタミン、28モル%のα-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及び69モル%のα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンからなる組成物を約0.5g得る。
【0104】
実施例2:
0.173gのLiAlH4と0.156gのLiAlD4(モル比55:45のLiAlH4:LiAlD4)を、磁気撹拌しながら25mlの乾燥Et2Oに懸濁させる。0.785gの2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドを300mLに溶解し、撹拌した懸濁液に滴加する。試薬を還流下で3時間加熱し、次いで氷浴中で冷却し、水を滴加してクエンチした。得られた混合物を濾過し、乾燥し、溶媒を真空下で除去して、24モル%のN,N-ジメチルトリプタミン、50モル%のα-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及び26モル%のα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンからなる組成物を約0.5g得る。
【0105】
実施例3:
0.293gのLiAlH4と0.035gのLiAlD4(モル比90:10のLiAlH4:LiAlD4)を、磁気撹拌しながら25mlの乾燥Et2Oに懸濁させる。0.785gの2-(3-インドリル)-N,N-ジメチルアセトアミドを300mLに溶解し、撹拌した懸濁液に滴加する。試薬を還流下で3時間加熱し、次いで氷浴中で冷却し、水を滴加してクエンチした。得られた混合物を濾過し、乾燥し、溶媒を真空下で除去して、76モル%のN,N-ジメチルトリプタミン、22モル%のα-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン及び2モル%のα,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミンからなる組成物を約0.5g得る。
【0106】
実施例4:
DMTに対する、重水素化DMT類似体ブレンドのインビトロ固有クリアランスを評価するための、ヒト肝細胞の使用
固有クリアランスのインビトロ測定は、インビボ肝クリアランスを予測するための有益なモデルである。肝臓は体内の薬物代謝の主な器官であり、インタクトな細胞中に存在する、I相及びII相薬物代謝酵素の両方を含む。
【0107】
サンプルの合成
N,N-DMT 220.9g(遊離塩基として)を、スキーム3に示された化学を使用して、N,N-DMTフマル酸塩として調製した。さらに4~6gの、6種類の部分重水素化混合物も、修正した条件を用いて製造した。
【0108】
【0109】
DMTの合成
ステージ1:インドール-3-酢酸とジメチルアミンとのカップリング
N2下で5Lの容器に、インドール-3-酢酸(257.0g、1.467モル)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、~20%ウェット)(297.3g、1.760モル)及びジクロロメタン(2313mL)を入れて、乳白色の懸濁液を得た。次いで、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC.HCl、337.5g、1.760モル)を、16~22℃で5分間にわたって一部ずつ加えた。反応混合物を周囲温度で2時間撹拌し、その後、THF(1100mL、2.200モル)中の2Mのジメチルアミンを、20~30℃にて、20分にわたって滴加した。得られた溶液を周囲温度で1時間撹拌し、ここでHPLCは、1.1%のインドール-3-酢酸及び98.1%の目的生成物(ステージ1と呼ばれる)を示した。次いで、反応混合物に10%K2CO3(1285mL)を加え、5分間撹拌した。層を分離し、上部水性層をジクロロメタンで抽出した(643mL×2)。有機抽出物を合わせ、飽和塩水(643mL)で洗浄した。次いで、有機抽出物をMgSO4で乾燥し、濾過し、45℃にて真空中で濃縮した。これにより、オフホワイトの粘着性固体として、303.1gの粗ステージ1が得られた。次いで、粗物質を50℃にて2時間、tert-ブチルメチルエーテル(TBME、2570mL)中でスラリーにし、その後周囲温度に冷却し、濾過し、TBMEで洗浄した(514mL×2)。次いで、濾過ケークを50℃にて真空中で乾燥して、オフホワイトの固体として、266.2gのステージ1を得た(収率=90%)(HPLCで純度98.5%、NMRで純度>95%)。
【0110】
ステージ2:DMTの調製
N2下で5L容器に、ステージ1(272.5g、1.347モル)及びテトラヒドロフラン(THF、1363mL)をいれ、オフホワイトの懸濁液を得た。次いで、THF(505.3mL、1.213モル)中の2.4MのLiAlH4を、20~56℃にて35分間にわたって滴加して、琥珀色の溶液を得た。この溶液を2時間60℃に加熱し、ここでHPLCは、ステージ1(ND)、ステージ2と呼ばれる目的生成物ブラケット(92.5%)、不純物1(2.6%)、不純物2(1.9%)を示した。完全な反応混合物を周囲温度に冷却し、次いで20~30℃で30分間にわたって、25%のロッシェル塩(aq)(2725mL)の溶液に滴加した。得られた乳白色の懸濁液を20~25℃で1時間撹拌し、その後層を分離し、上部有機層を飽和塩水(681mL)で洗浄した。次いで、有機層をMgSO4で乾燥し、濾過し、45℃にて真空中で濃縮した。得られた粗油を、エタノールから共沸蒸留した(545mL×2)。これにより、HPLCによる純度95.0%及びNMRによる純度>95%で、234.6gのステージ2(収率=92%)が得られた。
【0111】
ステージ3a(i)~(iii):DMTフマル酸塩の種結晶の調製
(i)ステージ2(100mg)を8容量の酢酸イソプロピルに入れ、50℃に温め、その後、エタノール中の溶液としてフマル酸(一当量)を加えた。次いで、フラスコを50℃で1時間寝かせ、その後室温に冷却し、一晩撹拌し、白色の懸濁液を得た。固体を濾過により単離し、50℃で4時間乾燥して、161mgの生成物(>99%収率)を得た。HPLCによる純度は99.5%であり、NMRによる純度は>95%であった。
(ii)方法(i)における酢酸イソプロピルをイソプロピルアルコールで置換し、一晩撹拌した後に白色の懸濁液を得た。固体を濾過により単離し、50℃で4時間乾燥して、168mgの生成物(>99%収率)を得た。HPLCによる純度は99.8%であり、NMRによる純度は>95%であった。
方法(i)における酢酸イソプロピルをテトラヒドロフランで置換し、一晩撹拌した後に白色の懸濁液を得た。固体を濾過により単離し、50℃で4時間乾燥して、161mgの生成物(>99%収率)を得た。HPLCによる純度は99.4%であり、NMRによる純度は>95%であった。
X線粉末回折による分析は、方法9i)~(iii)それぞれの生成物が同じであることを示し、パターンAとラベルされた。
【0112】
ステージ3b:DMTフマル酸塩の調製
N2下で5Lのフランジフラスコに、エタノール(2928mL)の溶液としてフマル酸(152.7g、1.315モル)及びステージ2(248.2g、1.315モル)を入れた。混合物を75℃に加熱して暗褐色溶液を得た。この溶液を、予熱した(80℃)の5Lのジャケット付き容器にポリッシング濾過した。次いで、溶液を70℃に冷却し、パターンA(0.1重量%)を播種し、種を30分間成熟させ、その後、5℃/時間の速度で0℃まで冷却した。0℃でさらに4時間撹拌した後、バッチを濾過し、冷エタノールで洗浄し(496mL×2)、次いで50℃で一晩乾燥させた。これにより、HPLCによる純度99.9%及びNMRによる純度>95%で、312.4g(収率=78%)のステージ3が得られた。XRPD:パターンA
【0113】
DMT化合物の重水素化混合物の合成
固体LiAlH4/LiAlD4混合物を用いて、ステージ2で修正合成を採用し、1.8当量のLiAlH4/LiAlD4-対-0.9当量を使用し、重水素化されていないDMTについて上述した方法を使用した。
6種類の重水素化反応を行った。
【0114】
DMT化合物の重水素化混合物の代表的な合成(1:1のLiAlH
4
:LiAlD
4
を用いる)
N2下で250mLの3口フラスコに、LiAlH4(1.013g、26.7mmol)、LiAlD4(1.120g、26.7mmol)及びTHF(100mL)を入れた。得られた懸濁液を30分間撹拌した後、ステージ1(6g、29.666mmol)を、20~40℃にて15分間にわたって一部ずつ添加した。次いで反応混合物を2時間加熱して還流(66℃)し、この際HPLCは、ステージ1が残っていないことを示した。混合物を0℃に冷却し、25%ロッシェル塩(aq)(120mL)を用いて30℃未満で30分間クエンチした。得られた乳白色の懸濁液を1時間撹拌し、次いで分離した。下部水性層を除去し、上部有機層を飽和食水(30mL)で洗浄した。次いで、有機物をMgSO4で乾燥し、濾過し、真空下で濃縮した。これにより、4.3gの粗物質が得られた。次いで、粗物質をエタノール(52mL)中に入れ、フマル酸(2.66g、22.917mmol)を加えて、その後75℃に加熱した。得られた溶液を周囲温度まで一晩冷却し、その後1時間、さらに0~5℃まで冷却した。固体を濾過により単離し、冷エタノールで洗浄した(6.5mL×2)。濾過ケークを50℃で一晩乾燥して、生成物5.7g(収率=63%)を、HPLCによる純度99.9%、NMRによる純度>95%で得た。
【0115】
重水素化の程度の評価
これは、LCMS-SIM(SIM=単一イオンモニタリング)によって達成され、分析は、N,N-ジメチルトリプタミンの保持時間にて、3種の重水素化N,N-ジメチルトリプタミン化合物(N,N-ジメチルトリプタミン(D0)、α-デューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン(D1)、及び、α,α-ジデューテロ-N,N-ジメチルトリプタミン(D2))の各質量について別々のイオンカウントを与えた。その後、これらのイオンカウントから、各成分の割合を算出した。
例えば、%D0=[D0/(D0+D1+D2)]×100。
【0116】
【0117】
6種類の重水素化反応のデータを、以下の表1にまとめる:
【0118】
DMT(SPL026)と6種類の重水素化化合物のブレンドのインビトロ固有クリアランス
固有クリアランスのインビトロ測定は、インビボ肝クリアランスを予測するための有益なモデルである。肝臓は体内の薬物代謝の主な器官であり、インタクトな細胞中に存在する、I相及びII相薬物代謝酵素の両方を含む。
【0119】
目的
DMTに対する、重水素化DMT類似体ブレンドのインビトロ固有クリアランスを評価するための、ヒト肝細胞の使用
【0120】
実験の説明
10人のドナーからプールしたヒト(混合性別)肝細胞(54.5万細胞/mL)を用いて、DMT及び6種の重水素化類似体のインビトロ固有クリアランスを調査した。
【0121】
5μmの濃度を全ての試験化合物、及び、スマトリプタン、セロトニン、ベンジルアミン対照物質に使用した。この濃度は、モノアミン酸化酵素(MAO)のミカエリス定数(Km)より下である一方、シグナル-対-ノイズ比を最大にするために選択された。ジルチアゼム及びジクロフェナク対照物質を、1μMの実験室有効濃度で使用した。
【0122】
試験化合物を96ウェルプレート内で肝細胞懸濁液と混合し、37℃で最大60分間インキュベートした。懸濁液を連続的に撹拌した。7つの時点で、少量のアリコートを取り出し、その中の試験化合物/ブレンド濃度をLC-MS/MSにより測定した。測定された時点は、2、4、8、15、30、45及び60分間であった。
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
MRMトランジションは、重水素化無し(D0トランジション)、又は高レベルのD1もしくはD2重水素化(それぞれD1及びD2トランジション)のいずれかを含むDMTサンプルの予備分析から決定された。
【0127】
次に、得られた濃度-時間プロファイルを用いて、固有クリアランス(CLint)及び半減期(t1/2)を計算した。これを行うために、各分析物のMSピーク面積又はMSピーク面積/IS応答が、x軸上のサンプリングの時間(分)に対し、y軸上の自然対数スケール上にプロットされる。この線の勾配は消失速度定数である。これは、-ln(2)/勾配によって、半減期に変換される。固有クリアランスは、勾配/消失速度定数から計算され、式は、Clint=(-1000*勾配)/細胞密度(1E6細胞/ml)であり、マイクロリットル/min/百万細胞の単位を与える。
【0128】
結果
固有クリアランス及び半減期の値を、DMT及び上記6種類の重水素化混合物について計算した。これらのデータは、D0、D1、及びD2の比に依存して重み付けされ、各化合物ブレンドについて、全体的な固有クリアランス及び半減期値を与える(表2)。
【0129】
表2.DMT及び6種類の重水素化混合物のインビトロ固有クリアランス及び計算半減期
【表2】
【0130】
データは、回帰分析を用いて線形モデルでフィッティングされ、DMTのα-炭素における重水素富化は、分子量(MW)の増加に伴って、固有クリアランスを直線的に減少させ、ゆえに、同定された範囲内で正確に予測することができる半減期を有するDMT薬物物質を製造できることが明らかになった。
【0131】
96.6%のD2-DMTを含む混合物1は、最も大きな変化を示すが、固有クリアランス速度は、重水素化されていないDMTと比較してほぼ半分になり(
図3)、半減期はほぼ二倍になる(
図2)。重水素化の中間ブレンド(混合物2~5)は、分子量と相関した様式で固有クリアランスを減少させた(
図3)。
【0132】
結論
これらのデータは、DMTのα-炭素における重水素富化の増加が、代謝安定性を増加させ、クリアランスの減少及びより長い半減期をもたらすことを実証する。特に、本発明の方法による重水素富化DMT含有薬物物質を製造するための投入還元剤が、1:2.5~2.5:1の比でLiAlH4とLiAlD4を含む場合、MWと半減期の間に直線関係が存在する。