(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】情動的反応を制御するため、並びに潜在的な気分変調の治療及び予防のための、ビフィドバクテリウム・ロンガムを用いる、方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/745 20150101AFI20240719BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20240719BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240719BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K35/745
A61P25/22
A61P25/24
A23L33/135
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022103685
(22)【出願日】2022-06-28
(62)【分割の表示】P 2018506884の分割
【原出願日】2016-08-31
【審査請求日】2022-07-26
(32)【優先日】2015-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】バーゴンゼッリ デゴンダ, ガブリエラ
(72)【発明者】
【氏名】アルヴェス ヌーンズ, ティアゴ
(72)【発明者】
【氏名】マルクヮルト, ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】シュミット, ヨルン アントニウス ヨハネス
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-503130(JP,A)
【文献】T. Odamaki et al., Journal of Medical Microbiology, (2007), 56, 1301-1308
【文献】H. Akatsu et al., Journal of Parenteral and Enteral Nutrition, (2013), 5, 631-640
【文献】J. Kondo et al., World journal of Gastroenterology, (2013), 19, 14, 2162-2170
【文献】市川直樹、塩入俊樹,不安障害とうつ病ー病態に応じた薬剤の選択,Depression Strategy,2013年,Vol. 3, No. 2,p. 4-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/745
A61P 25/22
A61P 25/24
A23L 33/135
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を含む食用組成物であって、該組成物を必要としている個体において気分
を改善するための組成物であり、前記個体が気分障害を有し、前記気分障害が臨床的うつ病であり、少なくとも6週間の期間にわたって前記個体に毎日投与され
、前記気分の改善は、うつレベルの低減、より肯定的な情動状態、否定的思考及び/又は否定的な緊張感の量の低減及び/又は強度の低減、気分変動のリスク低減、又は肯定的な気分の保持から選択される、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、脂質、タンパク質、炭水化物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される成分を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物がプレバイオティクスを含み、前記プレバイオティクスが、オリゴ糖、食物繊維、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部が生きている、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、該組成物の乾燥重量1g当たり10
4~10
11cfuの前記B.ロンガムATCC BAA-999を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物を、10
4~10
12cfuの前記B.ロンガムATCC BAA-999を含む1日用量で前記個体に投与する、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部が、非増殖性の細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、該組成物の乾燥重量1g当たり10
2~10
8の前記B.ロンガムATCC BAA-999の非増殖性の細胞を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物を、10
4~10
10cfuの前記B.ロンガムATCC BAA-999の非増殖性の細胞を含む1日用量で前記個体に投与する、請求項7に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本開示は、全般的にはプロバイオティクス菌に関する。具体的には、気分を安定させるため若しくは改善するため、及び/又は過度の情動的苦痛を制御するための、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)NCC3001(ATCC BAA-999)を用いる、組成物及び方法が開示される。
【背景技術】
【0002】
[0002]不安は、米国の18歳齢以上の成人のうち約4千万人に影響を与えている。この人数は、概して成人人口の約18%に当たる。短期間の不安は、例えば、試験又はばつの悪いものであるとして考えられる環境などのストレスフルイベントにより生じ得る。しかしながら、不安は治療しなければ少なくとも半年など長期にわたって持続する場合があり、また不安の状態が悪化を続け、不安障害となる(crippling)場合もある。不安障害は、アルコール乱用又は物質乱用などといったその他の精神疾患又は身体的疾患を併発する場合もある。典型的な不安障害には、パニック障害、強迫性障害(OCD)、外傷後ストレス障害(PTSD)、対人恐怖症(又は社交不安症)、限局性恐怖症、及び全般不安症(GAD)がある。
【0003】
[0003]現在、不安関連障害に関してはいくつかの治療法が利用できる。一般的に、不安障害は、抗うつ薬、抗不安薬、又はβ遮断薬などの薬剤で治療される。薬物療法は、脳内の化学成分を変化させ、時には重度の副作用を有する。薬物療法は、その他の頻繁に摂取される薬物と望ましくない相互作用を生じる場合もある。
【発明の概要】
【0004】
[0004]本発明者らは、驚くべきことに、ビフィドバクテリウム・ロンガムATCC BAA-999が、かかる細菌を投与された患者における脳の情動活動を低減することを見出した。本明細書において以下に詳述するとおり、本発明者らは、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照試験を実施した。過敏性腸症候群(IBS)では、(高率で不安が発症することから)精神病理学が中心的な役割を果たすため、この状態を臨床試験のモデルとして使用した。結果として、B.ロンガムATCC BAA-999を用いた6週間の治療が、併存抑うつ症状、全般的な胃腸症状、及びIBS患者のクオリティ・オブ・ライフを改善したことが実証された。
【0005】
[0005]具体的には、かかる臨床試験により、B.ロンガムATCC BAA-999の投与は、腸から脳へのシグナル伝達を介して、挙動を制御することが示された。これらの効果は、情動の制御に関与する脳領域の下方制御により介在されるものと思われる。便秘症ではないIBS患者をB.ロンガムATCC BAA-999により6週間治療したところ、抑うつスコアが改善され、IBS症状の十分な緩和が達成され、クオリティ・オブ・ライフの身体的スコアが改善され、恐怖刺激への応答における情動及び気分の制御に関与する脳中枢(扁桃体及び大脳辺縁系前頭部(fronto-limbic regions))の機能が下方制御された。
【0006】
[0006]理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、現在、B.ロンガムATCC BAA-999の予防機序及び/又は治療機序は、心理的要因と有意に関連付けられ得る微生物-腸-脳軸の二方向性の制御に関連しているものと考えている。この観点において、IBSは、腸生理の変化と、腸-脳軸を介した心理的要因との相互作用の結果生じるものであり、IBSでは、脳及び腸の症状は相互に影響しあっているものと考えられる。腸管微生物叢は、この腸と脳との間の「対話(dialogue)」において中心的な役割を果たしている。
【0007】
[0007]したがって、一般的な実施形態において、本開示は、気分を安定させる方法及び/又は改善させる方法、を提供する。方法は、治療有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を含む食用組成物を、かかる組成物を必要としている個体に投与すること、を含む。
【0008】
[0008]一実施形態において、方法は、気分を安定させる及び/又は改善させる必要のあるものとして、個体を識別すること、を含む。
【0009】
[0009]一実施形態において、組成物は、脂質、タンパク質、炭水化物、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される成分を更に含む。
【0010】
[0010]一実施形態において、組成物は、プレバイオティクスを含む。プレバイオティクスは、オリゴ糖、食物繊維、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0011】
[0011]一実施形態において、組成物を、少なくとも3週間の期間中、毎日個体に投与する。
【0012】
[0012]一実施形態において、B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部は生きている。組成物は、組成物の乾燥重量1g当たり104~1011cfuのB.ATCC BAA-999を含み得る。この組成物を、104~1012cfuのB.ATCC BAA-999を含む1日用量で個体に投与することができる。この1日用量を、少なくとも3週間の期間中、毎日個体に投与することができる。
【0013】
[0013]一実施形態において、B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部は非増殖性の細胞である。組成物は、組成物の乾燥重量1g当たり102~108個のB.ロンガムATCC BAA-999の非増殖性の細胞を含み得る。組成物を、104~1010個のB.ロンガムATCC BAA-999の非増殖性の細胞を含む1日用量で個体に投与することができる。1日用量を、少なくとも3週間の期間中、毎日個体に投与することができる。
【0014】
[0014]一実施形態において、方法は、自然療法である。
【0015】
[0015]別の実施形態では、本開示は、過度の情動的苦痛を制御する方法を提供する。本方法は、治療有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を含む食用組成物を、かかる組成物を必要としている個体に投与すること、を含む。
【0016】
[0016]一実施形態において、個体は、対人恐怖症、限局性恐怖症、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される状態を有する。
【0017】
[0017]一実施形態において、方法は、過度の情動的苦痛を有するものとして、個体を識別すること、を含む。
【0018】
[0018]別の実施形態では、本開示は、気分の安定化又は改善、過度の情動的苦痛の制御、不安の軽減、ストレスの軽減、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される効果を達成するための、食用組成物の製造方法を提供する。方法は、脂質、タンパク質、及び炭水化物からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む食品製品に、治療有効量又は予防有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を組み込むこと、を含む。
【0019】
[0019]別の実施形態では、本開示は、気分の安定化、気分の改善、過度の情動的苦痛の制御、不安の軽減、ストレスの軽減、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される効果を達成する、レジメンを補助する、方法を提供する。補助されたレジメンは、医薬組成物を必要としている個体、又はリスクのある個体にかかる医薬組成物を投与すること、を含む。方法は、治療有効量又は予防有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を含む食用組成物を、かかる個体に対し医薬組成物と併せて投与すること、を含む。
【0020】
[0020]別の実施形態では、本開示は、気分の安定化、気分の改善、過度の情動的苦痛の制御、不安の軽減、ストレスの軽減、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される効果を達成するための組成物、を提供する。組成物は、治療有効量又は予防有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を含む。
【0021】
[0021]本開示により提供される1つ以上の実施形態の利点は、組成物が、有効であり、入手しやすく、低価格であり、望ましくない副作用なく投与するため安全なものである微生物株を含むことにより、かかる組成物を使用して、気分を安定させること若しくは改善することができる、及び/又は過度の情動的苦痛を制御することができるというものである。
【0022】
[0022]本開示により提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、市販で既に試験済みの、食品製品への添加が許容され得ることが判明している細菌株を使用して、気分を安定させる若しくは改善する、及び/又は過度の情動的苦痛を制御するというものである。
【0023】
[0023]本開示により提供される1つ以上の実施形態の更なる利点は、自然療法を用い、恐怖刺激及び/又はストレスフル刺激に対する情動応答を下方制御するというものである。
【0024】
[0024]本開示により提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、自然療法を用い、クオリティ・オブ・ライフ、特に活力及び情動の健康を改善するというものである。
【0025】
[0025]本開示により提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、気分を制御する既知の化合物と比較して良好な安全性プロファイルが得られるというものである。
【0026】
[0026]本開示により提供される1つ以上の実施形態の更なる利点は、気分を制御する既知の化合物による副作用が、最小限に抑えられる、又は完全に回避されるというものである。
【0027】
[0027]本開示により提供される1つ以上の実施形態の更なる利点は、本明細書で開示される組成物と同時投与される、気分を制御する1種以上の既知の化合物の効果が、改善される、及び/又はかかる化合物の投与量が、低減されるというものである。
【0028】
[0028]本開示により提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、ヘルスケアの補助に関連する全く不必要なコストを最小限に抑える又は回避するというものである。
【0029】
[0029]本開示により提供される1つ以上の実施形態の更なる利点は、同様にその他の健康効果が得られる細菌株を使用して、気分を安定させる若しくは改善する、及び/又は過度の情動的苦痛を制御するというものである。
【0030】
[0030]追加の特徴及び利点を本明細書に記載する。これらは、以降の発明を実施するための形態及び図面から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本明細書で開示される臨床試験のデザインを示す。
【
図2】B.ロンガムATCC BAA-999の投与による主要転帰、すなわち抑うつ及び不安について二群(dichomotous)に分けたスコアにおける改善を例示するグラフ、を示す。
【
図3】B.ロンガムATCC BAA-999の投与による二次転帰、すなわち抑うつ及び不安の継続スコアにおける改善を例示するグラフ、を示す。
【
図4】B.ロンガムATCC BAA-999の投与が身体的グローバルドメイン(globaldomain)、並びに身体の全般的な健康(身体機能)及びその他の日常活動による動作(身体的役割)についての問題を有意に改善したこと、ひいては活力及び情動機能に関する精神的なサブドメインの改善傾向をもたらしたこと、を例示するグラフ及び表、を示す。
【
図5】B.ロンガムATCC BAA-999の投与が身体的グローバルドメイン(globaldomain)、並びに身体の全般的な健康(身体機能)及びその他の日常活動による動作(身体的役割)についての問題を有意に改善したこと、ひいては活力及び情動機能に関する精神的なサブドメインの改善傾向をもたらしたこと、を例示するグラフ及び表、を示す。
【
図6】B.ロンガムATCC BAA-999投与群では、プラセボ投与群と比較して視覚連合野及び頭頂皮質(parietal cortices)がより機能していたこと、並びにB.ロンガムATCC BAA-999投与群では、プラセボ投与群と比較して情動及び気分に関与する脳中枢(扁桃体及び前頭-辺縁系領域)の機能が低下していたことを示すfMRIイメージ、を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[0036]本開示及び添付の「特許請求の範囲」において使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、別途文脈上明らかな記載がない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「微生物株(a bacterial strain)」又は「微生物株(the bacterialstrain)」についての言及は、2種以上の微生物株を含む。
【0033】
[0037]「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含んでいる(comprising)」という用語は、排他的にではなく包含的に解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは包括的なものであると解釈される。
【0034】
[0038]しかしながら、本明細書に開示されている組成物は、具体的に開示されていない要素を含まない場合がある。したがって、「含む(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成成分「から本質的になる/から本質的に構成される(consisting essentially of)」及び「からなる/から構成される(consistingof)」実施形態の開示を含む。同様にして、本明細書で開示される方法は、本明細書において具体的に開示されない任意のステップを含まなくてもよい。したがって、用語「を含む(comprising)」を用いる実施形態の開示は、特定された工程「から本質的になる/から本質的に構成される(consisting essentially of)」及び「からなる/から構成される(consistingof)」実施形態の開示を含む。
【0035】
[0039]「X及び/又はY」の文脈にて使用される用語「及び/又は」は、「X」又は「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。本明細書において使用する場合、用語「例(example)」及び「などの(such as)」は、特に、後に用語の掲載が続く場合は、単に例示的なものであり、かつ説明のためのものであり、排他的又は包括的なものであると判断すべきではない。別途記載のない限り、本明細書で開示される任意の実施形態を、本明細書で開示される任意の別の実施形態と組み合わせることができる。
【0036】
[0040]本明細書で使用するとき、「約」及び「およそ」は、数値範囲内、例えば、参照されている数の-10%から+10%の範囲、好ましくは参照されている数の-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照されている数の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照されている数の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。
【0037】
[0041]更に、本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数(integers,whole)又は分数を含むと理解されるべきである。用語「間(between)」は、特定の範囲の端点を包含する。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数字又は数字の部分集合を対象とする請求項を支持するために与えられていると解釈すべきである。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9等の範囲を支持するものと解釈すべきである。
【0038】
[0042]「動物」としては、齧歯類、水生哺乳類、イヌ及びネコ等の飼育動物、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマ等の家畜、並びにヒトを含むがこれらに限定されない哺乳類が挙げられるが、これらに限定されない。「動物」、「哺乳類」、又はこれらの複数形が用いられる場合、これらの用語は、本節の文脈により効果が示される、又は示されるように意図され得る動物にも当てはまる。本明細書で使用するとき、用語「個体」及び「患者」は、本明細書において定義されるとおりの治療を受ける又は治療を受けることが意図される動物、特に哺乳動物、及び更にはヒトを含むものと理解される。用語「個体」及び「患者」は、本明細書で使用するとき、多くの場合、ヒトを指して使用されるが、本開示はヒトに限定されはしない。したがって、用語「個体」及び「患者」は、治療により効果を得ることのできる任意の動物、哺乳動物又はヒトを指す。
【0039】
[0043]用語「治療」及び「治療すること」には、状態又は疾患(障害)の改善をもたらす任意の効果、例えば状態又は疾患を和らげること、軽減すること、制御すること、又は解消させることが含まれる。この用語は、対象が完治するまで治療されることを必ずしも意味するものではない。状態又は疾患を「治療すること」又は「その治療」の非限定的な例としては、(1)状態又は疾患を阻害すること、すなわち状態若しくは疾患又はその臨床症状の発症を止めること、及び(2)状態又は疾患を緩和すること、すなわち状態若しくは疾患又はその臨床症状の一時的又は永続的な消退を生じさせることが挙げられる。治療は患者に関連するものであってもよく、又は医師に関連するものであってもよい。
【0040】
[0044]用語「予防」又は「予防すること」は、状態又は障害にさらされ得る又はそれに罹り易い傾向があり得るが、まだ状態又は障害の症状を呈していない又はそれが現れていない個体において、言及される状態又は障害の臨床症状を発症させないことを意味する。用語「状態」及び「疾患/障害」は、任意の疾患、状態、症状、又は徴候を意味する。
【0041】
[0045]相対的な用語「改善した(improved)」、「上昇した(increased)」、及び「増強された(enhanced)」などは、B.ロンガムATCC BAA-999(本明細書において開示)を含む組成物の効果を、B.ロンガムATCC BAA-999を含まないことを除き同一である組成物の効果と比較して言及するものである。
【0042】
[0046]用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取、並びにかかる個体に対する少なくとも1種の栄養分の提供が意図された、製品又は組成物を意味する。本明細書に記載の多くの実施形態を含む本開示の組成物は、本明細書に記載の必須成分(essential elements)及び制限に加え、本明細書に記載の、又は食事療法に有用な、任意の追加の若しくは任意選択的な成分、構成成分、又は制限を含んでよく、これらから構成されてよく、又は本質的にこれらから構成されてよい。
【0043】
[0047]本明細書で使用されるとき、「完全栄養」は、その組成物が投与される動物にとって、唯一の栄養源とするのに十分な、十分な種類及びレベルの主要栄養素(タンパク質、脂質及び炭水化物)及び微量栄養素を含有する。個体は、このような完全栄養組成物から、個体が必要とする栄養分の100%を受容可能である。
【0044】
[0048]本開示の一態様は、個体、好ましくはヒトにおいて、気分を安定させる若しくは改善する、及び/又は過度の情動的苦痛を制御する(例えば、恐怖症を予防又は治療する)のに有効な量で、B.ロンガムATCC BAA-999を含む、組成物である。B.ロンガムATCC BAA-999は、BL999及びNCC3001としても既知であり、専門の供給業者より、例えば、森永乳業株式会社(日本)より商品名BB536で商業的に入手することができる。用語「B.ロンガムATCC BAA-999」は、かかる細菌、かかる細菌の一部、及び/又はかかる細菌により発酵した増殖培地を含む。一実施形態において、組成物を、ある期間にわたって、すなわち、少なくとも3週間、いくつかの実施形態では少なくとも4週間、その他の実施形態では少なくとも5週間、及び更に他の実施形態では少なくとも6週間にわたって、毎日個体に投与することができる。
【0045】
[0049]いくつかの実施形態では、方法は自然療法である。例えば、組成物は天然の成分から構成されてよく、好ましくは個体には合成医薬化合物などの人工化合物は全く投与されない。他の実施形態では、組成物は、医薬組成物も投与されるレジメンを補助する。
【0046】
[0050]上記のとおり、組成物を、気分を安定させる、及び/又は改善するために投与することができる。用語「気分」とは、特定の時間における、感情の状態又は質(情動状態)を意味する。気分は、さほど具体的でない、さほど激しくない、及び特定の刺激又は出来事によりさほど誘発されないという点で、単純な情動とは異なる。気分は、一般的に、肯定的又は否定的のいずれかを有する。気分の改善は、うつレベルの低減、不安レベルの低減、ストレスレベルの低減、知覚エネルギーレベル(「活力」)の増大、より肯定的な情動状態、自尊感情の増強、否定的思考及び/又は否定的な緊張感(tension)の量の低減及び/又は強度の低減、気分変動のリスク低減、又は肯定的な気分の保持のうちの1つ以上を含み得る。臨床的うつ病及び双極性障害は、気分障害(すなわち、気分の長期変調)の例である。気分障害は、精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)の分類システムにおける診断群であり、気分における変調を主要な特徴とする。
【0047】
[0051]気分を改善する必要のある個体の非限定例としては、物質乱用を行っている個体、物質乱用から回復しつつある個体、例えば、少なくとも6ヶ月間毎日ベンゾジアゼピンを摂取している個体、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0048】
[0052]更に、この点に関し、組成物を、不安及び/又はストレスを低減する必要のある個体において不安及び/又はストレスを低減するために投与することができる。方法は、不安を低減する及び/又はストレスを低減する必要があるものとして、個体を識別すること、を含み得る。
【0049】
[0053]本明細書で使用するとき、「物質乱用」は、使用者が、医療専門家による承認又は監督のいずれも受けていないような量又は方法で物質を摂取する、任意の物質の使用である。物質乱用を行っている個体は、典型的には、直近1ケ月以内、直近1週以内、又は直近1日以内に物質を摂取している。物質乱用から回復しつつある個体は、典型的には、直近10年以内、直近5年以内、直近4年以内、直近3年以内、直近2年以内、又は更には直近1年以内に物質を乱用していたものの、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1ヶ月、及びより好ましくは少なくとも1年間にわたり、物質乱用していない。
【0050】
[0054]「物質乱用」に含まれる物質の非限定例としては、ニコチン、カート、大麻、アルコール、γ-ヒドロキシ酪酸(GHB)、フルニトラゼパム、アルキルナイトレート、3,4-メチレンジオキシ-N-メチルアンフェタミン(MDMA又はエクスタシー)、リセルグ酸ジエチルアミド(LSD)、アヘン類(オピオイド類を含む。)、メスカリン、シロシビン、メチルフェニデート、4-メチルチオアンフェタミン(4-MTA)、ブプレノルフィン、アンフェタミン、メタンフェタミン、ケタミン、チレタミン、フェンサイクリジン(PCP)、サルビア、デキストロメトルファン(DXM)、ベンゾジアゼピン、バルビツレート(barbituates)、睡眠薬、コカイン、ヘロイン、溶剤、ガス、及びタンパク質同化ステロイドが挙げられる。
【0051】
[0055]「アルコール」は、任意の薬物含有エチルアルコールを含む。「アルキルナイトレート」の非限定例としては、イソアミルナイトライト、イソペンチルナイトライト、シクロヘキシルナイトライト、イソブチルナイトライト、イソプロピルナイトライト、及びブチルナイトライトが挙げられる。「アヘン類」により、ケシの子嚢(例えば、パパヴェル・ソムニフェルム(Papaver somniferum))から抽出される天然に生じる物質であり、モルヒネ、ノスカピン、コデイン、パパベリン、又はテバインを含む、数多くのアルカロイド類のうちの少なくとも1つを含有するアヘンの任意の調製品又は誘導体を意味する。ヘロインはモルヒネから加工される。本開示の目的に関し、用語「アヘン類」はオピオイド類を含む。アヘン類の非限定例としては、コデイン、オキシコドン、ヒドロコドン、オキシモルホン、メペリジン、プロポキシフェン、モルヒネ、メタドン、フェンタニル、及びこれらの類似体が挙げられる。「溶剤」の非限定例としては、塗料用シンナー、ガソリン、及びグルーが挙げられ、並びに「ガス」の非限定例としては、ブタン、プロパン、エアロゾル噴霧剤、及び亜酸化窒素が挙げられる。
【0052】
[0056]したがって、本明細書で開示される、気分を安定させる及び/又は改善する方法についてのいくつかの実施形態は、例えば、B.ロンガムATCC BAA-999を含む、組成物の投与を開始する前に、気分を安定させる及び/又は改善する必要があるものとして、個体を診断すること、を含む。
【0053】
[0057]上記のとおり、組成物を、過度の情動的苦痛を制御(例えば、恐怖症を予防又は治療)するために投与することができる。「恐怖症」は、個体が実際に引き起こされる危険を回避するにあたり、不釣り合いなほどの労力を費やす対象又は状況に対する持続的な恐怖である。本明細書において開示される組成物により治療又は予防され得る「恐怖症」の非限定例としては、対人恐怖症(例えば、社交不安症)、限局性恐怖症(例えば、特定の種類の動物に対する恐怖、例えば高さなどといった特定の種類の環境に対する恐怖、例えば狭い閉鎖空間などの特定の状況に対する恐怖、及び/又は特定の医療処置に対する恐怖)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。したがって、本明細書で開示される過度の情動的苦痛を制御する方法についてのいくつかの実施形態は、B.ロンガムATCC BAA-999を含む、組成物の投与を開始する前に、過度の情動的苦痛を有する個体、を診断すること、を含む。
【0054】
[0058]B.ロンガム ATCC BAA-999は、本願の譲受人によりNCC3001として2001年1月29日にInstitut Pasteur,28rue du Docteur Roux,F-75024 Paris Cedex15,Franceに寄託された。この寄託物に対する公衆による利用(access)についての全ての制限は、本願の特許の付与をもとに取り消し不能な条件で撤回され、生存活性のあるサンプルが受託者により頒布不能になった場合には、寄託物は新たに補充されることになる。
【0055】
[0059]B.ロンガムATCC BAA-999は、任意の好適な方法により培養され得る。B.ロンガムATCC BAA-999は、例えば、組成物を形成するにあたり凍結乾燥形態又は噴霧乾燥形態で食品製品に添加され得る。
【0056】
[0060]組成物を、例えば、乳又は水で再構成するための粉末形態で経口的に及び/又は経腸的に投与することができる。組成物は、食品組成物、ペットフード組成物、ダイエタリーサプリメント、機能性食品、栄養処方、飲料、及び医薬組成物からなる群から選択され得る。好ましい実施形態では、組成物は、ヒト成人などの成体を対象とした食品製品である。
【0057】
[0061]食品組成物は、かかる組成物を、薬局及びドラッグストアだけでなくスーパーマーケットにも流通させることができるという利点を有する。一般に好ましい味わいの食品組成物は、製品の受容に更に貢献することになろう。好適な食品組成物の非限定例としては、ヨーグルト、乳、フレーバーミルク、アイスクリーム、レディ・トゥ・イート・デザート、麦芽飲料、レディ・トゥ・イート・ディッシュ、インスタント・ディッシュ、ヒト用飲料、及び食事を完全に又は一部代替する食品組成物が挙げられる。
【0058】
[0062]組成物は、以下の、保護親水コロイド(例えば、ガム、タンパク質、変性デンプン)、バインダー、膜形成剤、カプセル化剤、壁/シェル材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(例えば、油、脂質、ワックス、レシチン)、吸着材、キャリア、充填剤、協働化合物(co-compound)、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒など)、流動剤、味マスキング剤、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、抗酸化物質、又は抗菌剤のうちの1つ以上を更に含有し得る。組成物は、水、任意の素材由来のゼラチン、植物ガム、リグニンスルホネート、タルク、糖、デンプン、アラビアゴム、植物油、ポリアルキレングリコール、着香料、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、潤滑剤、又は着色剤が挙げられるがこれらに限定されない、従来の医薬品添加剤、アジュバント、賦形剤又は希釈剤、も含有し得る。このような更なる成分は、目的とするレシピエントに対する適合性を考慮して好ましく選択される。一実施形態において、組成物は、栄養学的に完全な処方である。
【0059】
[0063]組成物はタンパク質を含んでよい。好適なタンパク質の非限定例としては、動物性タンパク質((例えば、乳タンパク質、肉タンパク質、又は卵タンパク質)、植物性タンパク質((例えば、大豆タンパク質、コムギタンパク質、コメタンパク質、又はピーナッツタンパク質)、遊離アミノ酸の混合物、又はそれらの組み合わせが挙げられる。カゼイン及びホエイタンパク質等の乳タンパク質、並びにダイズタンパク質が特に好ましい。
【0060】
[0064]タンパク質は、無処置のもの、加水分解物、又は無処置のものと加水分解物との混合物であってよい。部分加水分解タンパク質(加水分解度2~20%)は、牛乳アレルギーを発症するリスクのあるヒト対象及び/又は動物にとって有利なものであり得る。更に、予め加水分解したタンパク質源は、概して、障害のある胃腸管により比較的容易に消化吸収される。
【0061】
[0065]加水分解タンパク質が使用される場合、要望通りの、当該技術分野で既知の加水分解プロセスが実施され得る。例えば、ホエイタンパク質加水分解物は、1工程以上で酵素によりホエイ画分を加水分解することにより調製することもできる。出発材料として使用されるホエイ画分が実質的にラクトースフリーである場合、加水分解プロセス中にタンパク質が受けるリジンブロックを大幅に減少させることができる。これにより、約15重量%の全リジンから、約10重量%未満のリジンにまで、リジンブロックの程度を低減することができ、例えば、約7重量%のリジンにより、タンパク質源の栄養価は大幅に改善される。
【0062】
[0066]組成物は、炭水化物源及び/又は脂質源も含有し得る。組成物が脂質を含む場合、かかる脂質は、好ましくは組成物のエネルギーのうち5%~40%をもたらし、例えば、エネルギーのうち20%~30%をもたらす。好適な脂質プロファイルは、ナタネ油、トウモロコシ油、及び高オレイン酸ヒマワリ油のブレンドを使用して得ることもできる。
【0063】
[0067]炭水化物は、好ましくは組成物のエネルギーのうち40%~80%をもたらす。好適な炭水化物の非限定例としては、スクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、コーンシロップ固形物、マルトデキストリン、及びこれらの混合物が挙げられる。更に又は代替的に、食物繊維を添加してもよい。食物繊維は、酵素によって消化されずに小腸を通過し、天然の膨張性薬剤及び緩下剤として機能する。食物繊維は、可溶性又は不溶性のものであってよく、概して2種類のブレンドが好ましい。好適な食物繊維の非限定例としては、大豆、ピーナッツ、オーツ麦、ペクチン、グアーガム、部分加水分解されたグアーガム、アラビアガム、フラクトオリゴ糖、酸性オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、シアリルラクトース、及び動物乳に由来するオリゴ糖が挙げられる。好ましい繊維ブレンドは、イヌリンと比較的短鎖のフルクトオリゴ糖との混合物である。一実施形態において、繊維含量は組成物の2~40g/Lであり、例えば4~10g/Lである。
【0064】
[0068]組成物は、USRDAなどの政府機関の推奨に準拠して微量元素及びビタミンなどのミネラル及び/又は微量栄養素を含み得る。例えば、組成物は、1日用量当たり、好ましくは所定の範囲で以下の微量栄養素、すなわち、300~500mgのカルシウム、50~100mgのマグネシウム、150~250mgのリン、5~20mgの鉄、1~7mgの亜鉛、0.1~0.3mgの銅、50~200μgのヨウ素、5~15μgのセレン、1000~3000μgのβ-カロテン、10~80mgのビタミンC、1~2mgのビタミンB1、0.5~1.5mgのビタミンB6、0.5~2mgのビタミンB2、5~18mgのナイアシン、0.5~2.0μgのビタミンB12、100~800μgの葉酸、30~70μgのビオチン、1~5μgのビタミンD、及び/又は3~10μgのビタミンEのうちの1種以上を含み得る。
【0065】
[0069]モノ及びジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル、レシチン、並びに/又はモノ及びジグリセリドなどといった、1種以上の、食品等級の乳化剤を組成物に組み込むことができる。好適な塩類及び安定化剤を含めることができる。
【0066】
[0070]一実施形態において、組成物は、追加の、食品等級の微生物を含む(すなわち、B.ロンガムATCC BAA-999に追加する)。「食品等級」の微生物は、食品への使用が安全な微生物である。食品等級の微生物は、食品等級の酵母を含み得る。食品等級の細菌は、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオン酸菌、及びこれらの混合物からなる群から選択され得る。好適な食品等級の酵母の非限定例としては、サッカロミセスセレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)及び/又はサッカロミセス・ブラウディ(Saccharomycesboulardii)が挙げられる。
【0067】
[0071]食品等級の細菌は追加のプロバイオティクス菌を含み得るものの、いくつかの実施形態ではB.ロンガムATCC BAA-999が組成物中の唯一のプロバイオティクス菌である。「プロバイオティクス」は、宿主の健康又は幸福(well-being)に有益に働く微生物細胞の調製物又は微生物細胞の成分を意味する。(Salminen S.,Ouwehand A.,Benno Y.et al”Probiotics:how should they be defined”Trends Food Sci.Technol.1999:10 107-10)。
【0068】
[0072]プロバイオティクス細菌は、好ましくは、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオン酸菌、及びこれらの混合物からなる群から選択される。プロバイオティクス菌は、確立されたプロバイオティクス特性を有する任意の乳酸菌又はビフィズス菌であってよい。例えば、プロバイオティクス菌は、ビフィズス菌増殖促進性腸管微生物叢の発達を促進することができる。
【0069】
[0073]好適なプロバイオティクス菌の非限定例としては、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、サッカロミセス(Saccharomyces)、及びこれらの混合物が挙げられ、特にビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ラクチス(Bifidobacteriumlactis)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillusacidophilus)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillusparacasei)、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillussalivarius)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、サッカロミセス・ブラウディ(Saccharomyces boulardii)、及びラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillusreuteri)、及びこれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは、ラクトバチルス・ジョンソンニ(Lactobacillusjohnsonii)(NCC533、CNCM1-1225)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(NCC490、CNCM1-2170)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(NCC2705、CNCM1-2618)、ビフィドバクテリウム・ラクチス(2818、CNCM1-3446)、ラクトバチルス・パラカゼイ(NCC2461、CNCM1-2116)、ラクトバチルス・ラムノサスGG(ATCC53103)、ラクトバチルス・ラムノサス(NCC4007、CGMCC1.3724)、エンテロコッカス・フェシウムSF68(NCIMB10415)、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0070】
[0074]好ましい実施形態では、組成物は、少なくとも1種のプレバイオティクスを含む。「プレバイオティクス」は、腸内のプロバイオティクス細菌の生育を促進させること目的とした食物である。プレバイオティクスは、腸管内で、ある種の食品等級の細菌の生育、特にプロバイオティクス菌の生育を促進することができ、ひいてはB.ロンガムATCC BAA-999及び任意の追加のプロバイオティクス菌の効果を増強することができる。好ましいプレバイオティクスは、オリゴ糖、及び任意選択的にフルクトース、ガラクトース、マンノース、大豆及び/又はイヌリン、食物繊維、又はこれらの混合物からなる群から選択される。
【0071】
[0075]B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部は生菌であってよい。追加的に又は代替的に、B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部は不活化された非増殖性の細菌であってよい。
【0072】
[0076]「非増殖性」は、古典的な平板培養法によって検出され得る生細胞及び/又はコロニー形成単位が存在しないことを意味する。このような古典的な平板法は、微生物学の書籍、James Monroe Jay,Martin J.Loessner,David A.Golden.2005.Modern food microbiology.7th edition,Springer Science,New York,N.Y.790pに要約されている。典型的には、生細胞が存在しないことは、以下の、異なる濃度の細菌調製物(「非増殖性」試料)を接種し、適切な条件下で(好気的及び/又は嫌気的雰囲気で少なくとも24時間)インキュベーションした後に、寒天プレート上に視認され得るコロニーがないこと、又は液体増殖培地に濁りがないこと、として示すことができる。特別な無菌の食品製品又は医薬品などのいくつかの実施形態では、非増殖性の形態のB.ロンガムATCC BAA-999が好ましい場合がある。例えば、組成物において、B.ロンガムATCC BAA-999のうち少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%が非増殖性であってよい。
【0073】
[0077]一実施形態において、B.ロンガムATCC BAA-999のうち少なくとも一部は組成物中で生存し、好ましくは生きたまま腸内にたどり着く。例えば、組成物において、B.ロンガムATCC BAA-999のうち少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%が生菌であってよい。結果として、B.ロンガムATCC BAA-999の生菌は腸内にとどまり、増殖することにより有効性を増強し得る。B.ロンガムATCC BAA-999の生菌は、共生細菌及び/又は宿主と相互作用することによって有効なものにもなり得る。
【0074】
[0078]治療用途において、組成物を、状態及び合併症の症状のうち少なくとも一部を治癒する、又は進行を阻むのに十分な量で投与する。この目的を達成するのに適した量を、「治療有効用量」として定義する。この目的のための有効量は、状態の重症度並びに患者の体重及び全身状態など、当業者に公知のいくつもの要因によって異なり得る。
【0075】
[0079]予防用途において、組成物を、特定の状態の疑いのある、又はかかるリスクのある患者に対し、かかる状態の発症リスクを少なくとも一部低減するのに十分な量で投与することができる。かかる量が「予防有効用量」である。ここでも、正確な量は、患者の健康状態及び体重などの患者に固有のいくつもの要因によって異なる。
【0076】
[0080]組成物を、好ましくは、治療有効用量及び/又は予防有効用量のB.ロンガムATCC BAA-999を提供する量で、投与する。B.ロンガムATCC BAA-999の少なくとも一部が生菌形態で存在する場合、B.ロンガム ATCC BAA-999は腸内でコロニーを形成し、増殖することができることから、B.ロンガム ATCC BAA-999は任意の濃度で治療に有効である。
【0077】
[0081]それでもなお、組成物の1日用量は、好ましくは104~1012cfu(コロニー形成単位)、より好ましくは104~1011cfu、最も好ましくは104~1010cfuのB.ロンガムATCC BAA-999を提供するものである。組成物は、組成物の乾燥重量1g当たり102~1010cfu、好ましくは102~109cfu、より好ましくは102~108cfuのB.ロンガムATCC BAA-999を含み得る。
【0078】
[0082]不活性化された、及び/又は非増殖性のB.ロンガムATCC BAA-999の場合、組成物は、組成物の乾燥重量1g当たり102~1010、好ましくは組成物の乾燥重量1g当たり103~108、より好ましくは組成物の乾燥重量1g当たり105~108の、B.ロンガムATCC BAA-999の非増殖性の細胞を含んでよい。
【0079】
[0083]非増殖性の微生物はコロニーを形成せず、そのため、用語「細胞(cells)」は、特定量の増殖性細菌細胞から得られた、ある量の非増殖性微生物を指す。この量は、不活性化された菌、非生菌若しくは死菌である、又はDNA若しくは細胞壁材料などの断片として存在する微生物を含む。
【0080】
[0084]組成物は、0.2未満、好ましくは0.15未満の水分活性を有する粉末であり得る。組成物は、常温保存可能な粉末であり得る。低水分活性により、常温保存安定性を得ることができ、並びにB.ロンガムATCC BAA-999及び任意の追加のプロバイオティクス微生物について、長期保管期間後であっても活性を確実に維持し得る。水分活性(aw)は、系に含まれる水のエネルギー状態の測定値であり、水蒸気圧を同一温度下での純水の水蒸気圧により除したものとして定義される。したがって、純粋な蒸留水の有する水分活性はちょうど1である。
【0081】
[0085]追加的に又は代替的に、B.ロンガムATCC BAA-999及び任意の追加のプロバイオティクス微生物は、カプセル化された形態で提供され得る。細菌のカプセル化は、治療上及び技術上の利点を有し得る。例えば、カプセル化は、細菌の生存率を上昇させ、ひいては腸内にたどり着く生菌数を増加させることができる。更に、細菌を徐々に放出させることにより、対象の健康に対する細菌の作用を延長させることが可能となる。例えば、細菌は、凍結又は噴霧乾燥されてゲル中に組み込まれたものであってよい。
【0082】
[0086]本開示の別の態様は、気分を安定させる若しくは改善する、及び/又は過度の情動的苦痛を制御するための、食用組成物の製造方法である。方法は、タンパク質、脂質、又は炭水化物のうちの少なくとも1つを含む食品製品に、治療有効量又は予防有効量のB.ロンガムATCC BAA-999を組み込むこと、を含み得る。食品製品は栄養学的に完全なものであってよい。
【実施例】
【0083】
[0088]以下の非限定例は、B.ロンガムATCC BAA-999が脳の情動的反応性を低減することを示す、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照試験である。
【0084】
[0089]序 特定のプロバイオティクス菌は腸のIBS症状を改善し得るものの、この集団における併発不安又は抑うつ症状の治療に対するかかる菌の有効性は不明である。B.ロンガムATCC BAA-999は、軽度腸炎のマウスモデルにおいて、不安様の挙動及び海馬のニューロトロフィンレベルを正常化させることがこれまでに示されている。本発明者らは、マウスの抑うつモデルにおける未公開のデータも有しており、マウスにおいても睡眠パターンの改善が示されている。
【0085】
[0090]目的及び方法 IBS患者における不安及び抑うつ症状に対するB.ロンガムATCC BAA-999の効果を評価するため、並びに機序を試験するため、本発明者らは、軽度~中等度の不安及び/又は抑うつ症状を有する下痢型又は混合型(Rome III分類)の成人IBS患者において、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照の、単施設試験を実施した。B.ロンガム群ではHAD-Dスコアが高かったことを除き(p=0.046)、2群間でデモグラフィック及びベースライン(準備期間)データにおける差はなかった。
【0086】
[0091]B.ロンガムATCC BAA-999(1日当たり1.0E+10CFU)又はプラセボ(マルトデキストリン)を6週間にわたり毎日投与した。投与前、投与終了時、及び治療から1ヶ月後(追跡期間)の不安及び抑うつ症状(HADスコア(病院不安及びうつ尺度)及びSTAI(状態-特性不安尺度))、IBS症状(適切な緩和についての問診表(adequate relief question)、IBSについてのバーミンガム大学及びブリストル大学の尺度)、クオリティ・オブ・ライフ(SF-36)並びに身体化(PHQ-15)の評価には、検証済みの問診表を使用した。この試験デザインを
図1に示す。
【0087】
[0092]本発明者らは、背景を隠した(backward masked)恐怖パラダイム(fMRI)、認知機能(記憶力及び集中力)、血清BDNF及び炎症マーカー、並びに腸微生物叢プロファイル(16S rRNA Illumina)を用い、脳の活動パターンを評価した。fMRIパラダイムでは、淡々とした表情に隠された情動刺激(恐怖の表情及び幸福そうな表情)の表出に応じた血中酸素濃度依存(BOLD)活性化を利用し、スキャナで4つの連続的fMRIスキャンを取得し評価した。先験的関心領域には扁桃体を選択した。この解析を全ての対象に対し実施した。
【0088】
[0093]結果 本発明者らは44名の患者をランダム化し、うち38名(B.ロンガムATCC BAA-999=18名、プラセボ=20名)で試験を完遂した。結果を
図2~
図6に示す。B.ロンガムATCC BAA-999で治療した患者群では、6週の時点でプラセボ群と比較して抑うつスコアが改善されており(RR 2.94、95% CI 1.05-8.23、p=0.01)、この有益な効果は追跡期間で維持された。B.ロンガムATCC BAA-999で治療した患者では、プラセボで治療した患者よりもIBS症状全般が十分に改善されている報告が多かったが(RR2.1、95% CI 1.15-3.83、p=0.02)、バーミンガム大学によるIBSスコアでは統計的に有意な変化は見られなかった。B.ロンガムATCC BAA-999による治療群では、プラセボ群と比較して、活力及び情動機能の精神的サブドメインにおける改善傾向を有するとともに、クオリティ・オブ・ライフに関係する身体サブドメイン(physical subdomain)が改善されていた(p=0.03、マンホイットニーのU検定=228.5)。
【0089】
[0094]B.ロンガムATCC BAA-999の有益な効果は、抑うつ症状に対しては治療後1ヶ月維持された一方、IBS症状及びクオリティ・オブ・ライフは準備期間に戻った。
【0090】
[0095]具体的には、
図2は、B.ロンガムATCC BAA-999による治療により、治療企図分析(ITT)及び治験実施計画書に適合した対象分析(PP)のいずれにおいても抑うつスコアが改善されたことを示す。B.ロンガムATCC BAA-999の有益な効果は、治療から1ヶ月間の時点でも持続していた(術後ITT分析及びPP分析)。
【0091】
[0096]
図3は、連続変数(continuousvariable)としての抑うつの改善がB.ロンガムATCC BAA-999群では達成された(ANCOVA、p=0.049)ことを、ベースラインについて補正して示す。この有益な効果は治療後1ヶ月の時点では維持されていなかった。連続変数として分析した場合、B.ロンガムATCC BAA-999による治療では、不安スコアが改善されなかった。
【0092】
[0097]
図4及び
図5は、B.ロンガムATCC BAA-999群で、プラセボ群と比較して、SF-36の身体的グローバルドメイン、並びに全般的な身体の健康(身体機能)及び作業若しくはその他の日常活動(身体的役割)についての課題において、統計的に有意な改善があったことを示す。SF-36精神的グローバルドメインでは、治療群間で有意ではない差が観察された。しかしながら、メンタルサブドメインを分析した場合、B.ロンガムATCC BAA-999治療群では、活力及び情動機能において統計学的に有意ではない改善傾向が観察された。
【0093】
[0098]
図6は、機能MRIにより、脳の扁桃体、前頭領域及び側頭領域(p<0.001)を含む、情動の処理に関与する複数の脳領域において、B.ロンガムATCC BAA-999で治療した患者では、プラセボで治療した患者と比較して、否定的な情動刺激への応答が、ベースラインから有意に低下したことが明らかになったことを示す。具体的には、治療前には、プラセボ群及びB.ロンガム群間では、B.ロンガム群において視覚連合野及び頭頂皮質(parietal cortices)がより機能していたことを除き、恐怖刺激と強迫観念とを比較して応答に大きな違いはなかった。しかしながら治療の終了時には、プラセボ群においては、扁桃体、前頭皮質及び側頭皮質の機能が増しており、後頭部の機能は低下していた。
【0094】
[0099]不安、認知機能、炎症マーカー、血中BDNFレベル、又は腸内微生物叢プロファイルに関しては、B.ロンガム ATCC BAA-999により治療した患者群とプラセボ群とを比較して、統計学的に有意な差が観察されなかった。
【0095】
[0100]結論 試験結果から、B.ロンガムATCC BAA-999による6週間の治療により、IBS患者における併存抑うつ症状、全般的な胃腸症状、及びクオリティ・オブ・ライフは改善されることが、示される。この効果は、扁桃体及び前頭-辺縁系領域における脳活動パターンの変化と関連付けられ、辺縁系の反応性の低下は、B.ロンガムATCC BAA-999の有益な効果によるものであり得ることが、示される。