(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20240719BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240719BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
(21)【出願番号】P 2022529753
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(86)【国際出願番号】 IB2020000526
(87)【国際公開番号】W WO2021250437
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】土井 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】田村 柚子
(72)【発明者】
【氏名】岸 倫人
(72)【発明者】
【氏名】李 珍光
(72)【発明者】
【氏名】荻原 航
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/036055(WO,A1)
【文献】特開2011-108558(JP,A)
【文献】特開2019-145247(JP,A)
【文献】特開2020-075855(JP,A)
【文献】国際公開第2018/151119(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極と、
固体電解質を含有する固体電解質層と、
負極活物質を含む負極と、
がこの順に積層されてなる発電要素を備え、
前記固体電解質層が、1[MPa]以下のヤング率を有するバインダをさらに含
み、
前記固体電解質層における前記バインダの含有量が、前記固体電解質100質量%に対して3質量%以上である、二次電池。
【請求項2】
正極活物質を含有する正極と、
固体電解質を含有する固体電解質層と、
負極活物質を含む負極と、
がこの順に積層されてなる発電要素を備え、
前記固体電解質層が、1[MPa]以下のヤング率を有するバインダをさらに含む、二次電池(ただし、前記バインダが以下の(P1)~(P2)および(B1)~(B3)のすべての特性を満たすバインダを含むものを除く)。
(P1)弾性率:0.1~1,000MPa
(P2)弾性変形率:0.01~10,000%
(B1)平均径D:0.001~10μm
(B2)平均長さL:0.1μm~1,000mm
(B3)平均径Dに対する平均長さLの比L/D:10~100.0
【請求項3】
前記固体電解質が硫化物固体電解質を含む、請求項1
または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記硫化物固体電解質がアルジロダイト型固体電解質を含む、請求項
3に記載の二次電池。
【請求項5】
前記バインダが、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンカーボネート(PEC)およびポリエチレンオキサイド(PEO)からなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記固体電解質層に含まれるバインダの全量100質量%に占める、1[MPa]以下のヤング率を有するバインダの含有割合が50質量%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
全固体リチウムイオン二次電池である、請求項1~6のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記バインダが、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)またはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の二次電池と、
前記二次電池の発電要素を積層方向に加圧する加圧部材と、
を備え、
前記加圧部材によって前記発電要素に対して50~200[MPa]のプレス圧力が印加されている、電池装置。
【請求項10】
前記プレス圧力が80~200[MPa]である、請求項9に記載の電池装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
ここで、現在一般に普及しているリチウムイオン二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウムイオン二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
【0005】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池等の全固体電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウムイオン二次電池においては、従来の液系リチウムイオン二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。正極活物質として硫黄単体(S)や硫化物系材料を用いた全固体リチウムイオン二次電池は、その有望な候補である。
【0006】
ところで、リチウムイオン二次電池においては、その充電の進行に伴って負極電位が低下する。負極電位が低下して0V(vs. Li/Li+)を下回ると、負極において金属リチウムが析出してデンドライト(樹枝状)結晶が析出する(この現象を金属リチウムの電析とも称する)。特に、金属リチウムやリチウム含有合金を負極活物質として用いた全固体電池においては、金属リチウムの電析が充電反応そのものである。ここで、全固体電池において金属リチウムの電析が過剰に発生すると、析出したデンドライトが固体電解質層を貫通して電池の内部短絡が引き起こされる場合がある。
【0007】
全固体電池におけるこのような金属リチウムの電析を防止することを目的として、例えば米国特許第2018/0342768号明細書には、固体電解質層を構成する固体電解質粒子を、熱可塑性樹脂を含むポリマーフィルムで被覆する技術が開示されている。米国特許第2018/0342768号明細書によれば、このような構成とすることで、固体電解質層の機械的強度および空孔率が改善され、固体電解質層におけるデンドライトの成長が抑制されるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
米国特許第2018/0342768号明細書によれば、このような構成とすることで、固体電解質層の機械的強度および空孔率が改善され、デンドライトの成長が抑制されるとしている。
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、米国特許第2018/0342768号明細書に記載された技術を採用したとしても、場合によっては十分な電池性能が得られない場合があることが判明した。すなわち、採用するポリマーの物性によっては、固体電解質層におけるイオン伝導度が低下してしまい、電池の入出力特性が低下する場合があることが判明したのである。
【0010】
そこで本発明は、固体電解質層を備えた二次電池において、固体電解質層におけるイオン伝導度の低下を最小限に抑制しつつ、固体電解質層におけるデンドライトの成長を防止しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一形態によれば、正極活物質を含有する正極と、固体電解質を含有する固体電解質層と、負極活物質を含む負極とがこの順に積層されてなる発電要素を備えた二次電池が提供される。そして、当該二次電池においては、前記固体電解質層が、200[MPa]以下のヤング率を有するバインダをさらに含む点に特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る二次電池の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
【
図3】
図3は、低ヤング率のバインダを用いた場合に固体電解質層のイオン伝導度が向上するメカニズムを説明するための説明図である。
【
図4】
図4は、含まれるバインダのヤング率を1.3[MPa]から1300[MPa]の範囲で変化させて固体電解質層をそれぞれ作製し、300[MPa]のプレス圧力で加圧成型後に、常圧で当該固体電解質層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真(二次電子像および反射電子像)である。
【
図5】
図5は、本発明に係る二次電池の一実施形態である双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池を模式的に表した断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る双極型リチウムイオン二次電池を備えた電池装置の斜視図である。
【
図8】
図8は、後述する実施例の欄において、固体電解質に対するバインダの添加量が2質量%であった比較例4および比較例5、並びに実施例4および実施例7~実施例10について、バインダのヤング率[MPa]に対してイオン伝導性の測定値[S/cm]をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《二次電池》
本発明の一形態は、正極活物質を含有する正極と、固体電解質を含有する固体電解質層と、負極活物質を含む負極とがこの順に積層されてなる発電要素を備え、前記固体電解質層が、200[MPa]以下のヤング率を有するバインダをさらに含む、二次電池である。本発明に係る二次電池によれば、固体電解質層におけるイオン伝導度の低下を最小限に抑制しつつ、固体電解質層におけるデンドライトの成長を防止することができる。
【0014】
以下、図面を参照しながら、上述した本形態の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の一実施形態である扁平積層型の全固体リチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図2は、
図1に示す2-2線に沿う断面図である。積層型とすることで、電池をコンパクトにかつ高容量化することができる。なお、本明細書においては、
図1および
図2に示す扁平積層型の双極型でないリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」とも称する)を例に挙げて詳細に説明する。ただし、本形態に係るリチウムイオン二次電池の内部における電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用しうるものである。
【0016】
図1に示すように、積層型電池10aは、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための負極集電板25、正極集電板27が引き出されている。発電要素21は、積層型電池10aの電池外装材(ラミネートフィルム29)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、負極集電板25および正極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。
【0017】
なお、本形態に係るリチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材にラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムを含むラミネートフィルムの内部に収容される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0018】
また、
図1に示す集電板(25、27)の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。負極集電板25と正極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、負極集電板25と正極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、
図1に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0019】
図2に示すように、本実施形態の積層型電池10aは、実際に充放電反応が進行する扁平略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極と、固体電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。正極は、正極集電体11”の両面に正極活物質を含有する正極活物質層15が配置された構造を有する。負極は、負極集電体11’の両面に負極活物質を含有する負極活物質層13が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、固体電解質層17を介して対向するようにして、正極、固体電解質層および負極がこの順に積層されている。これにより、隣接する正極、固体電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、
図1に示す積層型電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
【0020】
図2に示すように、発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層15が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、場合によっては、集電体(11’,11”)を用いることなく、負極活物質層13および正極活物質層15をそれぞれ負極および正極として用いてもよい。
【0021】
負極集電体11’および正極集電体11”は、各電極(正極および負極)と導通される負極集電板(タブ)25および正極集電板(タブ)27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材であるラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27および負極集電板25はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11”および負極集電体11’に超音波溶接や抵抗溶接などにより取り付けられていてもよい。
【0022】
以下、本形態に係るリチウムイオン二次電池の主要な構成部材について説明する。
【0023】
[集電体]
集電体は、電極活物質層からの電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0024】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
【0025】
また、後者の導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
【0026】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
【0027】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
【0028】
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、およびSbからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
【0029】
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、集電体の全質量100質量%に対して5~80質量%である。
【0030】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。さらに、後述する負極活物質層や正極活物質層がそれ自体で導電性を有し集電機能を発揮できるのであれば、これらの電極活物質層とは別の部材としての集電体を用いなくともよい。このような形態においては、後述する負極活物質層がそのまま負極を構成し、後述する正極活物質層がそのまま正極を構成することとなる。
【0031】
[固体電解質層]
本形態に係る二次電池において、固体電解質層は、正極活物質層と負極活物質層との間に介在し、固体電解質を必須に含有する層である。固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態について特に制限はない。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、より高いイオン伝導度が得られるという観点からは、硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0032】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、LiI-Li3PS4、LiI-LiBr-Li3PS4、Li3PS4、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「Li2S-P2S5」の記載は、Li2SおよびP2S5を含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0033】
硫化物固体電解質は、例えば、Li3PS4骨格を有していてもよく、Li4P2S7骨格を有していてもよく、Li4P2S6骨格を有していてもよい。Li3PS4骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-Li3PS4、LiI-LiBr-Li3PS4、Li3PS4が挙げられる。また、Li4P2S7骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li7P3S11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)PxS4(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、Li2S-P2S5を主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。ハロゲンを含有する硫化物固体電解質としては、例えば、アルジロダイト型固体電解質(Li6PS5ClやLiPS5Br)が挙げられ、これもまた好ましく用いられうる材料である。
【0034】
また、硫化物固体電解質がLi2S-P2S5系である場合、Li2SおよびP2S5の割合は、モル比で、Li2S:P2S5=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLi2S:P2S5=70:30~80:20であることが好ましい。
【0035】
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
【0036】
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO3)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.3N0.46)、LiLaZrO(例えば、Li7La3Zr2O12)等が挙げられる。
【0037】
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0038】
本形態に係る二次電池において、固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有する。そして、当該バインダは、200[MPa]以下のヤング率を有するバインダを必須に含有する点に特徴がある。「ヤング率」とは、縦弾性係数とも称されるパラメータであり、フックの法則が成立する弾性範囲における同軸方向の歪みと応力との比例定数である。本明細書において、バインダのヤング率の値は、後述する実施例の欄に記載のナノインデンテーション法により測定された値を採用するものとする。固体電解質層に含まれるバインダが、200[MPa]以下のヤング率を有するものを含むと、固体電解質層にバインダを添加した場合であっても、固体電解質層におけるイオン伝導度の低下を十分に抑制することができる。これは、
図3に示すように、低ヤング率のバインダを固体電解質層に含ませた場合には、固体電解質層の製造時または二次電池の運転時におけるプレス圧力の印加により、固体電解質の粒子の間に存在していたバインダが押し出されて空隙へと移動することで、固体電解質の粒子同士が直接接触できるようになることによるものと推測される。これに対し、高ヤング率のバインダを固体電解質層に含ませたとしても、上記のような現象は発生せず、イオン伝導度の向上効果も得られない。この事実を裏付ける実験結果を
図4に示す。
図4は、含まれるバインダのヤング率を1.3[MPa]から1300[MPa]の範囲で変化させて固体電解質層をそれぞれ作製し、300[MPa]のプレス圧力で加圧成型後に、常圧で当該固体電解質層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真(二次電子像および反射電子像)である。
図4に示す顕微鏡写真によれば、固体電解質層に含まれるバインダのヤング率が小さくなるにつれて、プレスされた際に固体電解質の粒子間の空隙へバインダが侵入するとともに固体電解質の粒子同士が直接接触するようになる様子を見て取ることができる。なお、低ヤング率のバインダであっても、そのようなバインダを固体電解質層に含ませることで、固体電解質層におけるデンドライトの成長を防止することも可能である。従来の技術においては、デンドライトの成長を防止する目的で高ヤング率のバインダを添加していたことから、固体電解質層のイオン伝導度の低下が避けられなかったが、本発明によれば、固体電解質層のイオン伝導度の低下を最小限に抑制しつつ、固体電解質層におけるデンドライトの成長を防止することができるのである。なお、二次電池に用いられるバインダの中には加熱処理により結晶化することなどにより硬化するものも存在する。ただし、本発明に係るバインダは200[MPa]以下のヤング率を有するものであるため、上記のような結晶化などによる硬化はしていない(好ましくは結晶化していない)ものである。
【0039】
ここで、200[MPa]以下のヤング率を有するバインダの具体的な化学構造については特に制限はなく、従来公知の化学構造を有するバインダが適宜使用されうる。一例として、200[MPa]以下のヤング率を有するバインダは、低いヤング率を達成しやすいという観点からは、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンカーボネート(PEC)およびポリエチレンオキサイド(PEO)からなる群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましく、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)またはスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を含むことがより好ましい。なお、同一の化学構造を有するバインダであっても、その組成や重合度、架橋密度などを調節することにより、ヤング率の値を制御することが可能である。本形態に係る二次電池において、固体電解質層は、200[MPa]以下のヤング率を有するバインダを含むものであればよいが、固体電解質層のイオン伝導度を向上させるという観点からは、当該バインダのヤング率は低いほど好ましい。例えば、上記バインダのヤング率は、好ましくは100[MPa]以下であり、より好ましくは50[MPa]以下であり、さらに好ましくは20[MPa]以下であり、いっそう好ましくは7[MPa]以下であり、特に好ましくは3[MPa]以下であり、最も好ましくは1[MPa]以下である。また、上記バインダのヤング率の下限値について特に制限はないが、例えば0.1[MPa]以上である。
【0040】
本形態に係る二次電池において、固体電解質層は、200[MPa]以下のヤング率を有するバインダを含む限り、その他のバインダ(すなわち、200[MPa]超のヤング率を有するバインダ)をさらに含んでもよい。そのようなバインダの化学構造についても特に制限はなく、全固体電池や非水電解質二次電池のバインダとして従来公知のバインダが用いられうる。そのようなバインダの化学構造の一例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0041】
ただし、本発明の作用効果を十分に発現させるという観点からは、固体電解質層に含まれるバインダのうち、200[MPa]以下のヤング率を有するバインダが主成分であることが好ましい。すなわち、固体電解質層に含まれるバインダの全量100質量%に占める、200[MPa]以下のヤング率を有するバインダの含有割合は、好ましくは50質量%以上である。また、当該含有割合は、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、いっそう好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
【0042】
固体電解質層の厚みは、目的とするリチウムイオン二次電池の構成によっても異なるが、電池の体積エネルギー密度を向上させうるという観点からは、好ましくは600μm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは400μm以下である。一方、固体電解質層の厚みの下限値について特に制限はないが、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは80μm以上である。
【0043】
固体電解質層における200[MPa]以下のヤング率を有するバインダの含有量は特に制限されないが、例えば1~12質量%である。固体電解質層の柔軟性を高めて耐屈曲性を向上させるという観点からは、固体電解質100質量%に対して、好ましくは3質量%以上である。また、固体電解質層のイオン伝導度の向上効果の観点からは、固体電解質100質量%に対して、好ましくは3質量%以上、5質量%以下である。
【0044】
[負極(負極活物質層)]
本形態に係る二次電池において、負極活物質層13は、負極活物質を含む。負極活物質の種類としては、特に制限されないが、炭素材料、金属酸化物および金属活物質が挙げられる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。また、金属酸化物としては、例えば、Nb2O5、Li4Ti5O12等が挙げられる。さらに、ケイ素系負極活物質やスズ系負極活物質が用いられてもよい。ここで、ケイ素およびスズは第14族元素に属し、非水電解質二次電池の容量を大きく向上させうる負極活物質であることが知られている。これらの単体は単位体積(質量)あたり多数の電荷担体(リチウムイオン等)を吸蔵および放出しうることから、高容量の負極活物質となる。ここで、ケイ素系負極活物質としては、Si単体を用いることが好ましい。また同様に、Si相とケイ素酸化物相との2相に不均化されたSiOx(0.3≦x≦1.6)などのケイ素酸化物を用いることも好ましい。この際、xの範囲は0.5≦x≦1.5であることがより好ましく、0.7≦x≦1.2であることがさらに好ましい。さらには、ケイ素を含有する合金(ケイ素含有合金系負極活物質)が用いられてもよい。一方、スズ元素を含む負極活物質(スズ系負極活物質)としては、Sn単体、スズ合金(Cu-Sn合金、Co-Sn合金)、アモルファススズ酸化物、スズケイ素酸化物等が挙げられる。このうち、アモルファススズ酸化物としてはSnB0.4P0.6O3.1が例示される。また、スズケイ素酸化物としてはSnSiO3が例示される。また、負極活物質として、リチウムを含有する金属を用いてもよい。このような負極活物質は、リチウムを含有する活物質であれば特に限定されず、金属リチウムのほか、リチウム含有合金が挙げられる。リチウム含有合金としては、例えば、Liと、In、Al、SiおよびSnの少なくとも1種との合金が挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。負極活物質は、金属リチウム、ケイ素系負極活物質またはスズ系負極活物質を含むことが好ましく、金属リチウムを含むことが特に好ましい。
【0045】
負極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。負極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0046】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0047】
負極活物質層は、固体電解質をさらに含むことが好ましい。負極活物質層が固体電解質を含むことにより、負極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。負極活物質層に含有される固体電解質の具体的な形態について特に制限はなく、固体電解質層の欄において説明した例示および好ましい形態が同様に採用される。負極活物質層における固体電解質の含有量は、例えば、1~60質量%の範囲内であることが好ましく、10~50質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0048】
負極活物質層は、上述した負極活物質および固体電解質に加えて、バインダおよび導電助剤の少なくとも1つをさらに含有していてもよい。ここで、負極活物質層に含まれうるバインダの具体的な形態について特に制限はなく、固体電解質層の欄において説明した例示および好ましい形態が同様に採用される。すなわち、負極活物質層もまた、200[MPa]以下のヤング率を有するバインダを含むことが好ましい。
【0049】
導電助剤としては、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン等の金属、これらの金属を含む合金または金属酸化物;炭素繊維(具体的には、気相成長炭素繊維(VGCF)、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、活性炭素繊維等)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等のカーボンが挙げられるが、これらに限定されない。また、粒子状のセラミック材料や樹脂材料の周りに上記金属材料をめっき等でコーティングしたものも導電助剤として使用できる。これらの導電助剤のなかでも、電気的安定性の観点から、アルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ステンレス、銀、金、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、カーボンを少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらの導電助剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
【0050】
導電助剤の形状は、粒子状または繊維状であることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。
【0051】
負極活物質層の厚さは、目的とする全固体電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0052】
[正極活物質層]
本形態に係る二次電池において、正極活物質層15は、正極活物質を含む。正極活物質の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。なかでも、正極活物質層は、硫黄を含む正極活物質を含むことが好ましい。硫黄を含む正極活物質の種類としては、特に制限されないが、硫黄単体(S)のほか、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。なかでも、ジスルフィド化合物および硫黄変性ポリアクリロニトリル、およびルベアン酸が好ましく、特に好ましくは硫黄変性ポリアクリロニトリルである。ジスルフィド化合物としては、ジチオビウレア誘導体、チオウレア基、チオイソシアネート、またはチオアミド基を有するものがより好ましい。ここで、硫黄変性ポリアクリロニトリルとは、硫黄粉末とポリアクリロニトリルとを混合し、不活性ガス下もしくは減圧下で加熱することによって得られる、硫黄原子を含む変性されたポリアクリロニトリルである。その推定構造は、例えばChem. Mater. 2011,23,5024-5028に示されているように、ポリアクリロニトリルが閉環して多環状になるとともに、Sの少なくとも一部はCと結合している構造である。この文献に記載されている化合物はラマンスペクトルにおいて、1330cm-1と1560cm-1付近に強いピークシグナルがあり、さらに、307cm-1、379cm-1、472cm-1、929cm-1付近にピークが存在する。一方、無機硫黄化合物は安定性に優れることから好ましく、具体的には、硫黄単体(S)、S-カーボンコンポジット、TiS2、TiS3、TiS4、NiS、NiS2、CuS、FeS2、Li2S、MoS2、MoS3等が挙げられる。なかでも、S、S-カーボンコンポジット、TiS2、TiS3、TiS4、FeS2およびMoS2が好ましく、硫黄単体(S)、S-カーボンコンポジット、TiS2およびFeS2がより好ましく、硫黄単体(S)が特に好ましい。ここで、S-カーボンコンポジットとは、硫黄粉末と炭素材料とを含み、これらを加熱処理または機械的混合に供することによって複合化した状態のものである。より詳細には、炭素材料の表面や細孔内に硫黄が分布している状態、硫黄と炭素材料がナノレベルで均一に分散し、それらが凝集して粒子となっている状態、細かな硫黄粉末の表面や内部に炭素材料が分布している状態、または、これらの状態が複数組み合わさった状態のものである。
【0053】
正極活物質層は、硫黄を含む正極活物質に代えて、またはこれに加えて、硫黄を含まない正極活物質を含んでもよい。硫黄を含まない正極活物質としては、例えば、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、Li(Ni-Mn-Co)O2等の層状岩塩型活物質、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等のスピネル型活物質、LiFePO4、LiMnPO4等のオリビン型活物質、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、Li4Ti5O12が挙げられる。
【0054】
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0055】
正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm~100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm~50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm~20μmの範囲内であり、特に好ましくは1~20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0056】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40~99質量%の範囲内であることが好ましく、50~90質量%の範囲内であることがより好ましい。なお、正極活物質層は、導電助剤および/またはバインダをさらに含んでもよく、これらの具体的な形態および好ましい形態については、上述した負極活物質層の欄において説明したものが同様に採用されうる。すなわち、正極活物質層もまた、200[MPa]以下のヤング率を有するバインダを含むことが好ましい。
【0057】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0058】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体(11、12)と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0059】
[電池外装材]
電池外装材としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、
図1および
図2に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
【0060】
図1および
図2に示す実施形態に係る積層型電池10aは、複数の単電池層が並列に接続された構成を有することにより、高容量でサイクル耐久性に優れるものである。したがって、本実施形態に係る積層型電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
【0061】
以上、リチウムイオン二次電池の一実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0062】
例えば、本発明に係るリチウムイオン二次電池が適用される電池の種類として、集電体の一方の面に電気的に結合した正極活物質層と、集電体の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層とを有する双極型電極を含む、双極型(バイポーラ型)の電池も挙げられる。
【0063】
図5は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の一実施形態である双極型(バイポーラ型)のリチウムイオン二次電池(以下、単に「双極型二次電池」とも称する)を模式的に表した断面図である。
図5に示す双極型二次電池10bは、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装体であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。
【0064】
図5に示すように、本形態の双極型二次電池10bの発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層15が形成され、集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層13が形成された複数の双極型電極23を有する。各双極型電極23は、固体電解質層17を介して積層されて発電要素21を形成する。なお、固体電解質層17は、固体電解質が層状に成形されてなる構成を有する。
図5に示すように、一の双極型電極23の正極活物質層15と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層13との間に固体電解質層17が挟まれて配置されている。
【0065】
隣接する正極活物質層15、固体電解質層17、および負極活物質層13は、一つの単電池層19を構成する。したがって、双極型二次電池10bは、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層15が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層13が形成されている。
【0066】
さらに、
図5に示す双極型二次電池10bでは、正極側の最外層集電体11aに隣接するように正極集電板(正極タブ)25が配置され、これが延長されて電池外装体であるラミネートフィルム29から導出している。一方、負極側の最外層集電体11bに隣接するように負極集電板(負極タブ)27が配置され、同様にこれが延長されてラミネートフィルム29から導出している。
【0067】
なお、単電池層19の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、双極型二次電池10bでは、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、単電池層19の積層回数を少なくしてもよい。双極型二次電池10bでも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、発電要素21を電池外装体であるラミネートフィルム29に減圧封入し、正極集電板27および負極集電板25をラミネートフィルム29の外部に取り出した構造とするのがよい。
【0068】
また、本形態に係る二次電池は、全固体型でなくてもよい。すなわち、固体電解質層は、従来公知の液体電解質(電解液)をさらに含有していてもよい。固体電解質層に含まれうる液体電解質(電解液)の量について特に制限はないが、固体電解質により形成された固体電解質層の形状が保持され、液体電解質(電解液)の液漏れが生じない程度の量であることが好ましい。
【0069】
用いられうる液体電解質(電解液)は、有機溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。用いられる有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピオン酸メチル(MP)、酢酸メチル(MA)、ギ酸メチル(MF)、4-メチルジオキソラン(4MeDOL)、ジオキソラン(DOL)、2-メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびγ-ブチロラクトン(GBL)などが挙げられる。中でも、有機溶媒は、急速充電特性および出力特性をより向上できるとの観点から、好ましくは鎖状カーボネートであり、より好ましくはジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)からなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはエチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)から選択される。
【0070】
リチウム塩としては、Li(FSO2)2N(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド;LiFSI)、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3等が挙げられる。中でも、リチウム塩は、電池出力および充放電サイクル特性の観点から、好ましくはLi(FSO2)2N(LiFSI)である。
【0071】
液体電解質(電解液)は、上述した成分以外の添加剤をさらに含有してもよい。かような化合物の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2-ジビニルエチレンカーボネート、1-メチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-2-ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1-ジメチル-2-メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。これらの添加剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、添加剤を電解液に使用する場合の使用量は、適宜調整することができる。
【0072】
[電池装置]
上述した本発明の一形態に係る二次電池は、その運転時において、発電要素の積層方向に加圧された状態であることが好ましい。このため、本発明の一形態に係る二次電池は、当該二次電池の発電要素を積層方向に加圧する加圧部材とともに用いられることが好ましい。したがって、本発明の他の形態によれば、上述した本発明の一形態に係る二次電池と、前記二次電池の発電要素を積層方向に加圧する加圧部材とを備える、電池装置もまた、提供される。
【0073】
図6は、本発明の一実施形態に係る双極型リチウムイオン二次電池を備えた電池装置の斜視図である。
図7は、
図6に示すA方向から見た側面図である。
【0074】
図6に示すように、本発明の一形態に係る積層型電池10を備えた電池装置100は、
図1に示す積層型電池10と、積層型電池10を挟持する2枚の金属板200と、締結部材としてのボルト300およびナット400と、を有している。この締結部材(ボルト300およびナット400)は金属板200が積層型電池10を挟持した状態で固定する機能を有している。これにより、金属板200および締結部材(ボルト300およびナット400)は積層型電池10が備える発電要素21をその積層方向に加圧する加圧部材として機能する。なお、加圧部材は積層型電池10が備える発電要素21をその積層方向に加圧することができる部材であれば特に制限されない。加圧部材として、典型的には、金属板200のように剛性を有する材料から形成された板と上述した締結部材との組み合わせが用いられる。また、締結部材についても、ボルト300およびナット400のみならず、発電要素21をその積層方向に加圧するように金属板200の端部を固定するテンションプレートなどが用いられてもよい。なお、加圧部材によって発電要素に対して印加されるプレス圧力の大きさについて特に制限はなく、所望の電池性能を考慮して適宜決定すればよいが、得られる電池性能の観点から、発電要素の積層方向には、加圧部材によって50~200[MPa]のプレス圧力が印加されていることが好ましく、80~150[MPa]のプレス圧力が印加されていることがより好ましい。
【0075】
本形態に係る電池装置によれば、積層型電池10は、その運転時において、発電要素21の積層方向に加圧された状態となる。その結果、電池の運転時においても、
図3および
図4を参照しつつ説明したような固体電解質層に低ヤング率のバインダを含ませたことによる利点を享受することができ、固体電解質層のイオン伝導性を向上させることができる。そしてひいては、二次電池のエネルギー密度を向上させつつ、入出力特性をも改善できるため、好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、以下の操作は、露点が-70℃以下のアルゴングローブボックス(23℃、水分0.1ppm以下、酸素濃度10ppm以下)の内部において行った。また、以下の各実験例において用いたバインダのヤング率は、以下の方法により測定した。
【0077】
(バインダのヤング率の測定方法)
まず、ヤング率の測定は、Hysitron社製のナノインデンター「TI980」を計測装置として用いたナノインデンテーション法により行った。また、測定用圧子としては圧子先端半径100μmの球形ダイヤモンド圧子を用いた。そして、測定条件は以下の通りとした:
測定モード:負荷-除荷試験
最大圧入深さ:4000nm
最大荷重に達した時の保持時間:0秒
荷重速度および除荷速度:800nm/秒
測定に当たっては、ヤング率を測定するバインダを接着剤でガラス基板に固定した後、真空チャックにて試料台に固定した。そして、上述した測定条件で圧入深さと圧入荷重との関係を測定し、得られた測定値からインデンテーション歪みと平均接触圧力との関係を求めた(応力歪み曲線)。このようにして求めた応力歪み曲線の傾きから、Hertzの接触解に基づいて押し込み時の複合弾性率Erを求め、降伏点から降伏接触圧力Pyを求めた。なお、Hertzの接触解は以下の式で表される。
【0078】
【0079】
式中、Pは圧入荷重[mN]であり、Erは複合弾性率[GPa]であり、Rは圧子先端半径[μm]であり、hは圧入深さ[nm]である。
【0080】
そして、上記で得られた複合弾性率Erの値に基づき、試料のポアソン比νを仮定することにより、以下の式を用いてヤング率の値を算出した。各実験例において用いたバインダのヤング率の値については、下記の表1に示す。
【0081】
【0082】
式中、Eはサンプル(バインダ)のヤング率[GPa]であり、νはサンプル(バインダ)のポアソン比(サンプル(バインダ)に荷重を印加した場合の縦歪みと横歪みとの比)であり、Erは上記で算出したサンプル(バインダ)の複合弾性率[GPa]である。また、νiはダイヤモンド圧子のポアソン比(0.06とした)であり、Eiはダイヤモンド圧子のヤング率(1141[GPa]とした)である。
【0083】
《試験用ブロッキングセルの作製例》
[比較例1]
[固体電解質層の作製(バインダなし)]
リチウムイオン伝導性の硫化物固体電解質であるアルジロダイト型固体電解質(Li6PS5Cl)を準備した。この固体電解質を100mg秤量し、電極として機能するアルミニウム箔(厚さ20μm)で挟むようにしてφ10mmのマコール管内に入れ、25℃にて300~400[MPa]で一軸プレス成形することにより、アルミニウム箔(20μm)/固体電解質層(600μm)/アルミニウム箔(20μm)の構成を有するブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0084】
[比較例2]
[固体電解質層の作製(バインダあり)]
バインダとして、ヤング率が1229[MPa]であるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を準備した。そして予め作製しておいたスチレンブタジエンゴムが10.0質量%溶解した脱水1、3、5-トリメチルベンゼン溶液を、上記と同様のアルジロダイト型固体電解質(Li6PS5Cl)100質量%に対してバインダが5質量%の量になるよう混合して1次混合液を調製した。さらに、この1次混合液に、粘度調整のため脱水1、3、5-トリメチルベンゼンを適量添加することで、2次混合液を調製した。さらに、混合粉とバインダとの分散性を向上させるために、自転公転ミキサに投入し、2000rpmで4分間撹拌することで、電解質層塗工液を調製した。
【0085】
卓上アプリケーターに厚みが20μmのアルミニウム集電箔を載置し、上記で調製した電解質層塗工液をギャップが230μmになるようバーコーターを用いてアルミニウム集電箔上に塗工した。その後、80℃のホットプレートで10分間乾燥させた後、80℃で12時間真空乾燥させて、固体電解質層を形成した。乾燥後の固体電解質層の総厚さは80μm前後であった。
【0086】
上記で作製した固体電解質層をアルミニウム集電箔ごとφ10mmの打抜き機で2枚打ちぬき、これらを固体電解質層の面が向かい合うようにして貼り合わせ、平板プレス機を用いて固体電解質層に対して300MPaの圧力で一軸プレスを行い、アルミニウム箔(20μm)/固体電解質層(80μm)/アルミニウム箔(20μm)の構成を有するブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0087】
[比較例3]
バインダの添加量を、固体電解質100質量%に対して10質量%としたこと以外は、上述した比較例2と同様の手法により、本比較例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0088】
[比較例4]
バインダのヤング率が600[MPa]であるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を準備した。バインダの添加量を、固体電解質100質量%に対して2質量%としたこと以外は、上述した比較例2と同様の手法により、本比較例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0089】
[比較例5]
バインダとして、ヤング率が1229[MPa]であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)を準備した。そして、このPVdFバインダーを溶かす溶媒としては、脱水酪酸ブチルを用い、このバインダを上記と同様のアルジロダイト型固体電解質(Li6PS5Cl)100質量%に対して2質量%の量で添加・混合したこと以外は上述した比較例2と同様の手法により、本比較例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0090】
[実施例1]
バインダとして、ヤング率が0.864[MPa]であるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を準備した。そして、このバインダを上記と同様のアルジロダイト型固体電解質(Li6PS5Cl)100質量%に対して10質量%の量で添加・混合したこと以外は、上述した比較例2と同様の手法により、本実施例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0091】
[実施例2]
バインダの添加量を、固体電解質100質量%に対して5質量%としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本比較例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0092】
[実施例3]
バインダの添加量を、固体電解質100質量%に対して3質量%としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本比較例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0093】
[実施例4]
バインダの添加量を、固体電解質100質量%に対して2質量%としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本比較例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0094】
[実施例5]
バインダとして、ヤング率が6.98[MPa]であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)を準備した。そして、このPVdFバインダを溶解させる溶媒としては脱水酪酸ブチルを用い、このバインダを上記と同様のアルジロダイト型固体電解質(Li6PS5Cl)100質量%に対して10質量%の量で添加・混合したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、本実施例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0095】
[実施例6]
バインダの添加量を、固体電解質100質量%に対して3質量%としたこと以外は、上述した実施例5と同様の手法により、本実施例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0096】
[実施例7]
バインダの添加量を、固体電解質100質量%に対して2質量%としたこと以外は、上述した実施例5と同様の手法により、本実施例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0097】
[実施例8]
バインダとして、ヤング率が42.4[MPa]であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いたこと以外は、上述した実施例7と同様の手法により、本実施例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0098】
[実施例9]
バインダとして、ヤング率が1.29[MPa]であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いたこと以外は、上述した実施例7と同様の手法により、本実施例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0099】
[実施例10]
バインダとして、ヤング率が200[MPa]であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いたこと以外は、上述した実施例7と同様の手法により、本実施例のブロッキングセル(非活性化セル)を作製した。
【0100】
《試験用ブロッキングセルの評価例》
(有効イオン伝導度の評価)
上述した各実験例において作製されたブロッキングセル(非活性化セル)について、電気化学インピーダンス分光法(EIS)により有効イオン伝導度を測定した。具体的に、測定装置としてはソーラトロン社製のインピーダンスアナライザー モデル1260Aを用い、測定条件としては、振幅を10[mV]とし、周波数を1[MHz]~0.1[Hz]とした。また、測定時にはサンプルの積層方向に100[MPa]のプレス圧力を印加した。このようなEIS測定により取得されたコール・コールプロットのX軸(実軸)との切片から抵抗値を求め、これをサンプルの断面積および厚さに基づいて規格化して、有効イオン伝導度[S/cm]を算出した。結果を下記の表1に示す。なお、表1には、比較例1の有効イオン伝導度の値を100とした場合の相対値についても併せて示す。また、固体電解質に対するバインダの添加量が2質量%であった比較例4および比較例5、並びに実施例4および実施例7~実施例10について、バインダのヤング率[MPa]に対してイオン伝導性の測定値[S/cm]をプロットしたグラフを
図8に示す。
【0101】
(割れの有無の評価)
上述した各実施例において作製されたブロッキングセル(非活性化セル)を90度折り曲げた際に、サンプルに割れが発生したか否かを目視により調べた。結果を下記の表1に示す。なお、表1において、割れが生じたものは「×」、割れが生じていないものは「○」と記載されている。
【0102】
【0103】
表1および
図8に示す結果から、各実施例(本発明)によれば、固体電解質層にバインダを添加した場合であっても、固体電解質層におけるイオン伝導度の低下を十分に抑制することができることがわかる。これは、プレス圧力の印加により、固体電解質の粒子の間に存在していたバインダ(ヤング率が小さく柔軟である)が押し出されて空隙へと移動することで、固体電解質の粒子同士が直接接触できるようになったことによるものと推測される。
【0104】
また、各実施例について比較すると、バインダの添加量が固体電解質100質量%に対して3質量%以上であると、サンプルに割れが発生せずに好ましいことも判明した。これは、バインダ(ヤング率が小さく柔軟である)の添加量の増加に伴って、サンプルの固体電解質層の柔軟性も向上したことによるものと推測される。
【符号の説明】
【0105】
10,10a 積層型電池、
10b 双極型電池、
11 集電体、
11’ 負極集電体、
11” 正極集電体、
13 負極活物質層、
15 正極活物質層、
17 固体電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 負極集電板、
27 正極集電板、
29 ラミネートフィルム、
100 電池装置、
200 金属板、
300 ボルト、
400 ナット。