(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16D 13/74 20060101AFI20240719BHJP
F16D 13/72 20060101ALI20240719BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20240719BHJP
F16D 13/60 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
F16D13/74 A
F16D13/72 B
F16D13/52 C
F16D13/60 Z
(21)【出願番号】P 2022541484
(86)(22)【出願日】2021-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2021028049
(87)【国際公開番号】W WO2022030349
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2020134038
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】小澤 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】曾 恒香
(72)【発明者】
【氏名】吉本 克
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-143689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/52
F16D 13/60
F16D 13/72-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンの駆動力で回転する入力部材と共に回転し、複数の駆動側クラッチ板が取り付けられたクラッチハウジングに収容されるクラッチ部材であって、前記駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板が取り付けられ、車両の車輪を回転させるとともに、先端の開口部からオイルを供給する出力部材と連結されたクラッチ部材と、
前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なプレッシャ部材と、
前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板を圧接または離間させる方向に付勢するクラッチスプリングと、
を具備した動力伝達装置であって、
前記プレッシャ部材は、
前記クラッチスプリングを収容する収容凹部と、
前記収容凹部を区画し、かつ、前記出力部材
の軸線方向に沿った断面において、前記クラッチスプリングと前記開口部との間に位置して前記軸線方向に延在する側壁と、
前記側壁と連続し、かつ、前記出力部材の径方向に延び、かつ、前記収容凹部を区画する底壁と、
前記側壁と前記底壁との境界部分であって、前記径方向に関して前記開口部と重ならない部分に形成され、かつ、前記収容凹部にオイルを流入させるオイル流入口と、
前記収容凹部に流入したオイルを前記プレッシャ部材に取り付けられた前記被動側クラッチ板に向けて供給するオイル供給口と、を有する、動力伝達装置。
【請求項2】
車両のエンジンの駆動力で回転する入力部材と共に回転し、複数の駆動側クラッチ板が取り付けられたクラッチハウジングに収容されるクラッチ部材であって、前記駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板が取り付けられるとともに、車両の車輪を回転させ得る出力部材と連結されたクラッチ部材と、
前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なプレッシャ部材と、
前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板を圧接または離間させる方向に付勢するクラッチスプリングと、
を具備した動力伝達装置であって、
前記プレッシャ部材は、
前記クラッチスプリングを収容する収容凹部と、
前記収容凹部よりも径方向外側に位置し、かつ、前記被動側クラッチ板および前記駆動側クラッチ板を圧接可能なフランジ部と、
前記収容凹部の開口端側かつ少なくとも一部が前記収容凹部よりも径方向外側に位置し、かつ、前記プレッシャ部材に取り付けられた前記被動側クラッチ板に向けてオイルを供給するオイル供給口と、を有する、動力伝達装置。
【請求項3】
前記オイル供給口の一部は、前記フランジ部に形成されている、請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記プレッシャ部材は、前記収容凹部において前記プレッシャ部材の中心側に向かって開口したオイル流入口を備え、
前記オイル流入口は、前記クラッチスプリングの一端を受けるための前記収容凹部の底部側に形成された第1の孔部であり、
前記オイル供給口は、前記プレッシャ部材の外径側に向かって開口する第2の孔部であり、
前記プレッシャ部材には、前記収容凹部の開口縁部から前記第2の孔部までオイルが流通可能な溝部が形成され、
前記第1の孔部から前記収容凹部内に流入したオイルを、前記溝部を介して前記第2の孔部から流出させて、前記プレッシャ部材に取り付けられた前記被動側クラッチ板に向かって流動させる、請求項2または3に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記クラッチ部材は、
前記出力部材と連結される第1クラッチ部材と、
前記被動側クラッチ板が取り付けられる第2クラッチ部材と、を有し、
前記第1クラッチ部材および前記第2クラッチ部材のそれぞれには、前記第2クラッチ部材に取り付けられた前記被動側クラッチ板に向かってオイルを流動させるオイル供給孔が複数形成されている、請求項2に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意に入力部材の回転力を出力部材に伝達させ又は遮断させ得る動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に自動二輪車が具備する動力伝達装置は、エンジンの駆動力をミッション及び駆動輪へ伝達又は遮断を任意に行わせるためのもので、エンジン側と連結された入力部材と、ミッション及び駆動輪側と連結された出力部材と、出力部材と連結されたクラッチ部材と、クラッチ部材に対して近接又は離間可能なプレッシャ部材とを有しており、プレッシャ部材をクラッチ部材に対して近接させることにより、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させて動力の伝達を行わせるとともに、プレッシャ部材をクラッチ部材に対して離間させることにより、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を解放させることにより当該動力の伝達を遮断するよう構成されている。
【0003】
従来の動力伝達装置として、例えば特許文献1で開示されているように、クラッチ部材に複数のオイル供給孔を形成し、回転中心部(クラッチ作動軸)から供給されたオイルを当該オイル供給孔を介して駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板に流動可能としたものが挙げられる。これにより、駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板に十分なオイルを供給することができ、これら駆動側クラッチ板及び被動側クラッチ板の圧接及び圧接力の解放を円滑に行わせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の動力伝達装置においては、被動側クラッチ板が専らクラッチ部材に取り付けられていたため、クラッチ部材に形成されたオイル供給孔からオイルを流動させて十分にオイルを供給し得るものの、クラッチ部材に加えてプレッシャ部材にも被動側クラッチ板が取り付けられた動力伝達装置に適用した場合、クラッチ部材に形成されたオイル供給孔からプレッシャ部材に取り付けられた被動側クラッチ板に向かってオイルを流動させて供給するのが困難となっていた。なお、動力伝達装置の形態や適用される車両によっては、プレッシャ部材に取り付けられた被動側クラッチ板に向かって専らオイルの供給が必要であるものも予想される。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、プレッシャ部材に取り付けられた被動側クラッチ板に対して十分なオイルの供給を図ることができる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、車両のエンジンの駆動力で回転する入力部材と共に回転し、複数の駆動側クラッチ板が取り付けられたクラッチハウジングに収容されるクラッチ部材であって、前記駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板が取り付けられ、車両の車輪を回転させるとともに、先端の開口部からオイルを供給する出力部材と連結されたクラッチ部材と、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なプレッシャ部材と、前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板を圧接または離間させる方向に付勢するクラッチスプリングとを具備した動力伝達装置であって、前記プレッシャ部材は、前記クラッチスプリングを収容する収容凹部と、前記収容凹部を区画し、かつ、前記出力部材の軸線方向に沿った断面において、前記クラッチスプリングと前記開口部との間に位置して前記軸線方向に延在する側壁と、前記側壁と連続し、かつ、前記出力部材の径方向に延び、かつ、前記収容凹部を区画する底壁と、前記側壁と前記底壁との境界部分であって、前記径方向に関して前記開口部と重ならない部分に形成され、かつ、前記収容凹部にオイルを流入させるオイル流入口と、前記収容凹部に流入したオイルを前記プレッシャ部材に取り付けられた前記被動側クラッチ板に向けて供給するオイル供給口と、を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、車両のエンジンの駆動力で回転する入力部材と共に回転し、複数の駆動側クラッチ板が取り付けられたクラッチハウジングに収容されるクラッチ部材であって、前記駆動側クラッチ板と交互に形成された複数の被動側クラッチ板が取り付けられるとともに、車両の車輪を回転させ得る出力部材と連結されたクラッチ部材と、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させて前記エンジンの駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を解放させて前記エンジンの駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なプレッシャ部材と、前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板を圧接または離間させる方向に付勢するクラッチスプリングとを具備した動力伝達装置であって、前記プレッシャ部材は、前記クラッチスプリングを収容する収容凹部と、前記収容凹部よりも径方向外側に位置し、かつ、前記被動側クラッチ板および前記駆動側クラッチ板を圧接可能なフランジ部と、前記収容凹部の開口端側かつ少なくとも一部が前記収容凹部よりも径方向外側に位置し、かつ、前記プレッシャ部材に取り付けられた前記被動側クラッチ板に向けてオイルを供給するオイル供給口と、を有することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載の動力伝達装置において、前記オイル供給口の一部は、前記フランジ部に形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項2または3に記載の動力伝達装置において、前記プレッシャ部材は、前記収容凹部において前記プレッシャ部材の中心側に向かって開口したオイル流入口を備え、前記オイル流入口は、前記クラッチスプリングの一端を受けるための前記収容凹部の底部側に形成された第1の孔部であり、前記オイル供給口は、前記プレッシャ部材の外径側に向かって開口する第2の孔部であり、前記プレッシャ部材には、前記収容凹部の開口縁部から前記第2の孔部までオイルが流通可能な溝部が形成され、前記第1の孔部から前記収容凹部内に流入したオイルを、前記溝部を介して前記第2の孔部から流出させて、前記プレッシャ部材に取り付けられた前記被動側クラッチ板に向かって流動させることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項2に記載の動力伝達装置において、前記クラッチ部材は、前記出力部材と連結される第1クラッチ部材と、前記被動側クラッチ板が取り付けられる第2クラッチ部材と、を有し、前記第1クラッチ部材および前記第2クラッチ部材のそれぞれには、前記第2クラッチ部材に取り付けられた前記被動側クラッチ板に向かってオイルを流動させるオイル供給孔が複数形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1、2の発明によれば、プレッシャ部材に取り付けられた被動側クラッチ板に対して十分なオイルの供給を図ることができる。また、請求項1の発明によれば、収容凹部を利用してプレッシャ部材に取り付けられた被動側クラッチ板にオイルを供給することができる。さらに、請求項2の発明によれば、収容凹部を介してオイルを遠心力で流動させ、プレッシャ部材に取り付けられた被動側クラッチ板にオイルを円滑に供給することができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、第1の孔部から収容凹部内に流入したオイルを当該収容凹部の開口側に流通させ、溝部を介して第2の孔部からオイルを流出させることができ、プレッシャ部材に取り付けられた被動側クラッチ板にオイルを確実に供給することができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、クラッチ部材が第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材に分割された構造であってもクラッチ部材及びプレッシャ部材に取り付けられた被動側クラッチ板に対してオイルを確実に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る動力伝達装置を示す外観図
【
図5】同動力伝達装置におけるクラッチハウジングを示す斜視図
【
図6】同動力伝達装置における第1クラッチ部材を示す3面図
【
図8】同動力伝達装置における第2クラッチ部材を示す3面図
【
図10】同動力伝達装置におけるプレッシャ部材を示す3面図
【
図14】同動力伝達装置における遠心クラッチ手段を示す縦断面図
【
図15】同遠心クラッチ手段を示す一部破断した斜視図
【
図16】同動力伝達装置における(a)圧接アシスト用カムの作用、(b)バックトルクリミッタ用カムの作用を説明するための模式図
【
図17】同動力伝達装置が適用される車両を示す模式図
【
図18】同動力伝達装置におけるウェイト部材が内径側位置にある状態を示す断面図
【
図19】同動力伝達装置におけるウェイト部材が内径側位置と外径側位置との間の中間位置にある状態を示す断面図
【
図20】同動力伝達装置におけるウェイト部材が外径側位置にある状態を示す断面図
【
図21】同動力伝達装置におけるウェイト部材が外径側位置にあり、プレッシャ部材が作動位置にある状態を示す断面図
【
図22】本発明の他の実施形態に係る動力伝達装置を示す縦断面図
【
図23】本発明のさらに他の実施形態に係る動力伝達装置を示す縦断面図
【
図24】本発明の他の実施形態(長孔状のオイル流入
口を有する)に係る動力伝達装置を示す縦断面図
【
図25】同動力伝達装置におけるプレッシャ部材を表面側から見た斜視図
【
図26】同動力伝達装置におけるプレッシャ部材を裏面側から見た斜視図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置Kは、
図17に示すように、車両に配設されて任意にエンジンEの駆動力をミッションMを介して駆動輪T側へ伝達し又は遮断するためのもので、
図1~15に示すように、車両のエンジンEの駆動力で回転する入力ギア1(入力部材)が形成されたクラッチハウジング2と、ミッションMに接続された出力シャフト3(出力部材)と、クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)と、プレッシャ部材5と、複数の駆動側クラッチ板(6a、6b)及び複数の被動側クラッチ板(7a、7b)と、ウェイト部材10を具備した遠心クラッチ手段9と、補助クラッチ板17とを有して構成されている。
【0021】
入力ギア1は、エンジンEから伝達された駆動力(回転力)が入力されると出力シャフト3を中心として回転可能とされたもので、リベット等によりクラッチハウジング2と連結されている。クラッチハウジング2は、
図2中右端側が開口した円筒状部材から成るとともに入力ギア1と連結して構成されており、エンジンEの駆動力により入力ギア1の回転と共に回転し得るようになっている。
【0022】
また、クラッチハウジング2は、
図5に示すように、周方向に亘って複数の切欠き2aが形成されており、これら切欠き2aに嵌合して複数の駆動側クラッチ板(6a、6b)が取り付けられている。かかる駆動側クラッチ板(6a、6b)のそれぞれは、略円環状に形成された板材から成るとともにクラッチハウジング2の回転と共に回転し、且つ、軸方向(
図2中左右方向)に摺動し得るよう構成されている。なお、第2クラッチ部材4bに対応する位置に取り付けられたクラッチ板を駆動側クラッチ板6a、プレッシャ部材5に対応する位置に取り付けられたクラッチ板を駆動側クラッチ板6bとしている。
【0023】
クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)は、クラッチハウジング2の駆動側クラッチ板6aと交互に形成された複数の被動側クラッチ板7aが取り付けられるとともに、車両のミッションMを介して駆動輪Tを回転させ得る出力シャフト3(出力部材)と連結されたものであり、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとの2つの部材を組み付けて構成されている。
【0024】
第1クラッチ部材4aは、その中央に形成された挿通孔(
図6、7参照)に出力シャフト3が挿通され、互いに形成されたギアが噛み合って回転方向に連結されるよう構成されている。かかる第1クラッチ部材4aには、
図6、7に示すように、圧接アシスト用カムを構成する勾配面4aaと、バックトルクリミッタ用カムを構成する勾配面4abとが形成されている。なお、同図中符号4acは、第1クラッチ部材4aと固定部材8とを連結するためのボルトBの挿通穴が形成されたボス部を示している。
【0025】
また、第1クラッチ部材4aに挿通された出力シャフト3は、
図2に示すように、軸方向に延びる挿通孔3aが形成されており、かかる挿通孔3aを介してクラッチハウジング2内にオイルが供給されるようになっている。さらに、挿通孔3aには、棒状部材から成る操作部材18が挿通されており、その操作部材18の先端には操作部18aが取り付けられている。かかる操作部18aは、プレッシャ部材5を回転自在に支持するベアリングWと連結された連動部材19と当接して組み付けられている。そして、図示しないクラッチ操作手段を操作すると、操作部材18が
図2中右側に移動し、操作部18aが連動部材19を押圧するので、プレッシャ部材5を同方向に押圧し、作動位置から非作動位置に移動させ得るようになっている。
【0026】
第2クラッチ部材4bは、
図8、9に示すように、フランジ部4bbが形成された円環状部材から成るもので、外周面に形成されたスプライン嵌合部4baに被動側クラッチ板7aがスプライン嵌合にて取り付けられるよう構成されている。そして、クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)には、
図2~4に示すように、プレッシャ部材5が組み付けられ、当該プレッシャ部材5のフランジ部5cと第2クラッチ部材4bのフランジ部4bbとの間に複数の駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)が交互に積層状態にて取り付けられるようになっている。
【0027】
プレッシャ部材5は、
図10~13に示すように、周縁部に亘ってフランジ部5cが形成された円板状部材から成るもので、駆動側クラッチ板(6a、6b)と被動側クラッチ板(7a、7b)とを圧接させてエンジンEの駆動力を車輪に伝達可能な状態とする作動位置と、当該駆動側クラッチ板(6a、6b)と被動側クラッチ板(7a、7b)との圧接力を解放させてエンジンEの駆動力が車輪に伝達されるのを遮断し得る非作動位置との間で移動可能なものである。
【0028】
より具体的には、第2クラッチ部材4bに形成されたスプライン嵌合部4baは、
図8、9に示すように、当該第2クラッチ部材4bの外周側面における略全周に亘って一体的に形成された凹凸形状にて構成されており、スプライン嵌合部4baを構成する凹溝に被動側クラッチ板7aが嵌合することにより、被動側クラッチ板7aの第2クラッチ部材4bに対する軸方向の移動を許容しつつ回転方向の移動が規制され、当該第2クラッチ部材4bと共に回転し得るよう構成されているのである。
【0029】
また、本実施形態に係る第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bのそれぞれには、
図4に示すように、第2クラッチ部材4bに取り付けられた被動側クラッチ板7aに向かってオイルを流通させ得るオイル供給孔(4ad、4bc)が複数形成されている。すなわち、出力シャフト3の先端において挿通孔3aから供給されたオイルは、第1クラッチ部材4aに形成されたオイル供給孔4ad及び第2クラッチ部材4bに形成されたオイル供給孔4bcを介して被動側クラッチ板7aに供給されるよう構成されているのである。
【0030】
一方、プレッシャ部材5の周縁部には、周方向に亘って突起状の嵌合部5iが複数形成されており、これら嵌合部5iに被動側クラッチ板7bが嵌合状態にて取り付けられるようになっている。かかる被動側クラッチ板7bは、一方の面が駆動側クラッチ板6b及び他方の面が駆動側クラッチ板6aに接触しつつ積層状態にて取り付けられるとともに、プレッシャ部材5に対する軸方向の移動が許容されつつ回転方向の移動が規制され、当該プレッシャ部材5と共に回転し得るよう構成されている。
【0031】
しかるに、被動側クラッチ板(7a、7b)は、駆動側クラッチ板(6a、6b)と交互に積層形成されており、隣接する各クラッチ板(6a、6b、7a、7b)が圧接又は圧接力の解放が可能なようになっている。すなわち、各クラッチ板(6a、6b、7a、7b)は、第2クラッチ部材4b及びプレッシャ部材5の軸方向への摺動が許容されており、各クラッチ板(6a、6b、7a、7b)が圧接されてクラッチがオンすることにより、クラッチハウジング2の回転力が第2クラッチ部材4b及び第1クラッチ部材4aを介して出力シャフト3に伝達される状態となり、各クラッチ板(6a、6b、7a、7b)の圧接力が解放されてクラッチがオフすることにより、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bがクラッチハウジング2の回転に追従しなくなり、出力シャフト3への回転力の伝達がなされなくなるのである。
【0032】
しかして、駆動側クラッチ板(6a、6b)と被動側クラッチ板(7a、7b)とが圧接された状態にて、クラッチハウジング2に入力された回転力(エンジンEの駆動力)を出力シャフト3(出力部材)を介して駆動輪側(ミッションM)に伝達するとともに、駆動側クラッチ板(6a、6b)と被動側クラッチ板(7a、7b)との圧接が解放された状態にて、クラッチハウジング2に入力された回転力(エンジンEの駆動力)が出力シャフト3(出力部材)に伝達されるのを遮断し得るようになっている。
【0033】
また、プレッシャ部材5は、
図9、10に示すように、収容凹部5dが周方向に亘って複数(本実施形態においては3つ)形成されており、それぞれの収容凹部5dにクラッチスプリングSが嵌入されている。かかるクラッチスプリングSは、
図2、3に示すように、収容凹部5d内に収容されつつ一端が固定部材8に当接しており、駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)が圧接される方向にプレッシャ部材5を付勢している。
【0034】
そして、図示しないクラッチ操作手段を操作することにより、操作部材18を移動させて連動部材19を
図2中右側に押圧すると、プレッシャ部材5が同方向に押圧されて非作動位置まで移動し、駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)の圧接又は圧接の解放を行わせ得るようになっている。
【0035】
またさらに、本実施形態においては、
図6、7、10、12、13に示すように、第1クラッチ部材4aには、勾配面4aa及び4abが形成されるとともに、プレッシャ部材5には、これら勾配面4aa及び4abと対峙する勾配面5a、5bが形成されている。すなわち、勾配面4aaと勾配面5aとが当接して圧接アシスト用カムを成すとともに、勾配面4abと勾配面5bとが当接してバックトルクリミッタ用カムを成しているのである。
【0036】
そして、エンジンEの回転数が上がり、入力ギア1及びクラッチハウジング2に入力された回転力が、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bを介して出力シャフト3に伝達され得る状態(ウェイト部材10が外径側位置)となったときに、
図16(a)に示すように、プレッシャ部材5にはa方向の回転力が付与されるため、圧接アシスト用カムの作用により、当該プレッシャ部材5には同図中c方向への力が発生する。これにより、プレッシャ部材5は、そのフランジ部5cが第2クラッチ部材4bのフランジ部4bbに対して更に近接する方向(
図2中左側)に移動して、駆動側クラッチ板(6a、6b)と被動側クラッチ板(7a、7b)との圧接力を増加させるようになっている。
【0037】
一方、出力シャフト3の回転が入力ギア1及びクラッチハウジング2の回転数を上回ってバックトルクが生じた際には、
図16(b)に示すように、クラッチ部材4にはb方向の回転力が付与されるため、バックトルクリミッタ用カムの作用により、プレッシャ部材5を同図中d方向へ移動させて駆動側クラッチ板(6a、6b)と被動側クラッチ板(7a、7b)との圧接力を解放させるようになっている。これにより、バックトルクによる動力伝達装置Kや動力源(エンジンE側)に対する不具合を回避することができる。
【0038】
遠心クラッチ手段9は、
図14、15に示すように、クラッチハウジング2の回転に伴う遠心力により内径側位置(
図18参照)から外径側位置(
図20参照)に移動可能とされたウェイト部材10を具備したもので、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき駆動側クラッチ板(6a、6b)と被動側クラッチ板(7a、7b)とを圧接させてエンジンEの駆動力を車輪(駆動輪T)に伝達可能な状態とするとともに、当該ウェイト部材10が内径側位置にあるとき駆動側クラッチ板(6a、6b)と被動側クラッチ板(7a、7b)との圧接力を解放させてエンジンEの駆動力が車輪(駆動輪T)に伝達されるのを遮断し得るよう構成されている。
【0039】
具体的には、遠心クラッチ手段9は、駒状部材で構成されたウェイト部材10と、支持部材13が取り付けられた保持部材11と、圧接部材12と、第1球状部材14と、第2球状部材15と、コイルスプリングから成る付勢部材16とを有して構成されている。なお、保持部材11及び圧接部材12は、周方向に亘って複数の突起部が形成されており、駆動側クラッチ板6と同様、クラッチハウジング2の切欠き2aに嵌合して取り付けられている。これにより、保持部材11及び圧接部材12は、それぞれクラッチハウジング2の軸方向に移動可能とされるとともに、回転方向に係合して当該クラッチハウジング2と共に回転可能とされている。
【0040】
ウェイト部材10は、
図14に示すように、保持部材11の収容部11aに収容されており、遠心力が付与されない状態で内径側位置に保持されるとともに、遠心力が付与されることにより付勢部材16の付勢力に抗して外側に移動し、外径側位置に至るようになっている。保持部材11は、ウェイト部材10を内径側位置と外径側位置との間で移動可能に保持するもので、
図15に示すように、円環状部材から成り、周方向に亘って複数形成されるとともにウェイト部材10を収容する収容部11aと、収容部11a内に形成された溝形状11bと、押圧面11cとを有して構成されている。
【0041】
各収容部11aは、ウェイト部材10の形状及び移動範囲に合致した凹形状から成り、その外周壁面11aaには、付勢部材16の一端が当接し得るよう構成されている。なお、保持部材11における収容部11aが形成された面には、支持部材13が固定されており、かかる支持部材13を介してウェイト部材10が径方向に移動可能に保持されている。
【0042】
圧接部材12は、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動することにより駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)の積層方向(
図2中右側)に移動して当該駆動側クラッチ板(6a、6b)と被動側クラッチ板(7a、7b)とを圧接させるものである。具体的には、圧接部材12は、
図15に示すように、円環状部材から成り、周方向に亘って複数形成された勾配溝12aと、勾配溝12aが形成された位置にそれぞれ形成された溝形状12bと、押圧面12cとを有して構成されている。
【0043】
勾配溝12aは、ウェイト部材10に対応した位置にそれぞれ形成されており、内側から外側に向かって上り勾配とされている。これにより、クラッチハウジング2が停止した状態ではウェイト部材10を付勢部材16の付勢力にて内径側位置に保持させる(
図18参照)とともに、クラッチハウジング2が回転すると、ウェイト部材10に遠心力が付与されて上り勾配の勾配溝12aに沿うことによって、圧接部材12が保持部材11から離間する方向(すなわち、駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)を圧接させる方向)に移動するようになっている(
図19、20参照)。
【0044】
しかして、ウェイト部材10を介在させつつ保持部材11及び圧接部材12が組み付けられると、
図14、15に示すように、各ウェイト部材10に対応して勾配溝12aが位置することとなり、遠心力によってウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に向かい勾配溝12aに沿うことによって、圧接部材12が
図14中矢印方向(図中右側)に移動し、当該圧接部材12に形成された押圧面12cが駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)を押圧して圧接状態とするとともに、保持部材11がその反力で
図14中矢印とは反対方向(図中左側)に移動し、当該保持部材11に形成された押圧面11cが補助クラッチ板17を圧接する。
【0045】
第1球状部材14は、ウェイト部材10に取り付けられた鋼球から成り、ウェイト部材10に形成された貫通孔の一方の開口から一部を突出させて圧接部材12の転動面に接触して転動可能とされている。また、第2球状部材15は、ウェイト部材10に取り付けられた鋼球から成り、ウェイト部材10に形成された貫通孔の他方の開口から一部を突出させて保持部材11の転動面に接触して転動可能とされている。
【0046】
すなわち、ウェイト部材10は、遠心力が付与されない状態において内径側位置に保持(
図18参照)され、駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)の圧接力が解放された状態となっており、遠心力が付与されると、
図19に示すように、外側に移動し、外径側位置に至る(
図20参照)ことにより、駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)が圧接状態となってエンジンEの駆動力が車輪Tに伝達可能な状態となる。なお、
図21は、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき、プレッシャ部材5が非作動位置に移動して駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)の圧接力が解放された状態を示している。
【0047】
補助クラッチ板17は、クラッチハウジング2内に配設され、駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)とは異なる径(本実施形態においては、駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)より小径)の円環状部材から成り、
図2に示すように、その中央開口に出力シャフト3(出力部材)が挿通されて嵌合状態とされるとともに、保持部材11の押圧面11cと対峙した被押圧面を有して構成されている。
【0048】
かかる補助クラッチ板17は、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき(すなわち、駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)が圧接状態のとき)、保持部材11に形成された押圧面11cにて押圧されて圧接されると、エンジンEの駆動力を出力シャフト3に伝達し得るようになっている。また、ウェイト部材10が内径側位置にあるとき(すなわち、駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)の圧接力が解放状態のとき)、保持部材11に形成された押圧面11cによる押圧力が低下して圧接力が解放されると、エンジンEの駆動力が出力シャフト3に伝達されるのを遮断し得るようになっている。
【0049】
すなわち、ウェイト部材10が外径側位置に移動すると、勾配溝12aがカムとして機能し、保持部材11及び圧接部材12が互いに離間する方向に移動する。これにより、圧接部材12の押圧面12cが駆動側クラッチ板(6a、6b)及び被動側クラッチ板(7a、7b)を圧接するとともに、保持部材11の押圧面11cが補助クラッチ板17の被押圧面を押圧して圧接するので、エンジンEの駆動力が駆動輪Tに伝達されることとなる。
【0050】
ここで、本実施形態に係るプレッシャ部材5は、当該プレッシャ部材5に取り付けられた被動側クラッチ板7bに向かってオイルを流動させ得るオイル流通路が形成されている。かかるオイル流通路は、
図10~13に示すように、オイル流入
口5eと、溝部5fと、オイル流出
口5gとを有して構成されており、クラッチスプリングSを収容する収容凹部5dを介してプレッシャ部材5のフランジ部5cに向かってオイルを流通させ得るようになっている。
【0051】
オイル流入
口5eは、
図11、13に示すように、収容凹部5dの底部側(クラッチスプリングSの一端を受ける部位側)に形成された第1孔部から成るとともに、収容凹部5dにおいてプレッシャ部材5の中心側に向かって開口して形成されている。オイル流出
口5gは、
図11、12に示すように、プレッシャ部材5のフランジ部5c側に形成された第2の孔部から成るとともに、プレッシャ部材5の外径側に向かって開口して形成されている。
【0052】
また、溝部5fは、プレッシャ部材5の表面側に形成された溝形状から成り、収容凹部5dの開口縁部からオイル流出
口5g(第2の孔部)まで連通して形成されており、収容凹部5dの開口縁部からオイル流出
口5g(第2の孔部)までオイルを流通可能とされている。そして、
図3に示すように、挿通孔3aから供給されたオイル(同図中のR1参照)は、遠心力によって収容凹部5dより内径側の面5hに沿って流れてオイル流入
口5e(第1の孔部)に至り、そのオイル流入
口5eを介して収容凹部5d内に流入する(同図中のR2参照)。
【0053】
このように収容凹部5d内に流入したオイルは、収容凹部5dの内周面5daに沿って開口側に向かって流動し、溝部5fを流通してオイル流出口5gから流出される(同図中のR3参照)。この流出部5gから流出したオイルは、プレッシャ部材5に取り付けられた被動側クラッチ板7bに至り、その被動側クラッチ板7b及び当該被動側クラッチ板7bと積層する駆動側クラッチ板6b(隣接して積層する駆動側クラッチ板6aも含む)に対してオイル供給されることとなる。すなわち、第1クラッチ部材4aのオイル供給孔4ad及び第2クラッチ部材4bのオイル供給孔4bcを介して被動側クラッチ板7a(その被動側クラッチ板7aと積層する駆動側クラッチ板6aを含む範囲)にオイルが供給されるとともに、プレッシャ部材5のオイル流通路を構成するオイル流入口5e、溝部5f及びオイル流出口5gを介して被動側クラッチ7b(その被動側クラッチ板7bと積層する駆動側クラッチ板6bを含む範囲)にオイルが供給されるのである。
【0054】
さらに、本実施形態においては、
図11に示すように、面5hが抜き勾配αを有して形成されるとともに、収容凹部5dの内周面5daが抜き勾配βを有して形成されている。これにより、面5hに沿って流動するオイルは、抜き勾配αによりオイル流入
口5eに向かって円滑に流動するとともに、内周面5daに沿って流動するオイルは、抜き勾配βにより溝部5fに向かって円滑に流動することとなる。
【0055】
本実施形態によれば、被動側クラッチ板(7a、7b)は、クラッチ部材(第2クラッチ部材4b)及びプレッシャ部材5に取り付けられるとともに、プレッシャ部材5は、当該プレッシャ部材5に取り付けられた被動側クラッチ板7bに向かってオイルを流動させ得るオイル流通路が形成されたので、プレッシャ部材5に取り付けられた被動側クラッチ板7b(その被動側クラッチ板7bと積層する駆動側クラッチ板6bを含む範囲)に対して十分なオイルの供給を図ることができる。
【0056】
また、本実施形態に係るプレッシャ部材5は、クラッチスプリングSを収容する収容凹部5dと、被動側クラッチ板(7a、7b)及び駆動側クラッチ板(6a、6b)を圧接可能なフランジ部5cとを有するとともに、オイル流通路は、当該収容凹部5dを介してフランジ部5cに向かってオイルを流通させ得るので、収容凹部5dを利用してプレッシャ部材5に取り付けられた被動側クラッチ板7bにオイルを供給することができる。
【0057】
さらに、オイル流通路は、収容凹部5dにおいてプレッシャ部材5の中心側に向かって開口したオイル流入口5eと、プレッシャ部材5の外径側に向かって開口したオイル流出口5gとを有し、オイル流入口5eから収容凹部5d内に流入したオイルをオイル流出口5gから流出させてプレッシャ部材5に取り付けられた被動側クラッチ板7bに向かって流動させ得るので、収容凹部5dを介してオイルを遠心力で流動させ、プレッシャ部材5に取り付けられた被動側クラッチ板7bにオイルを円滑に供給することができる。
【0058】
またさらに、オイル流入口5eは、クラッチスプリングSの一端を受けるための収容凹部5dの底部側に形成された第1の孔部から成るとともに、オイル流出口5gは、プレッシャ部材5のフランジ部5c側に形成された第2の孔部から成り、収容凹部5dの開口縁部から第2の孔部までオイルを流通可能な溝部5fが形成されたので、第1の孔部(オイル流入口)から収容凹部5d内に流入したオイルを当該収容凹部5dの開口側に流通させ、溝部5fを介して第2の孔部(オイル流出口)からオイルを流出させることができ、プレッシャ部材5に取り付けられた被動側クラッチ板7bにオイルを確実に供給することができる。
【0059】
加えて、本実施形態に係るクラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)は、当該クラッチ部材(第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4b)に取り付けられた被動側クラッチ板7aに向かってオイルを流動させ得るオイル供給孔(4ad、4bc)が形成されたので、クラッチ部材(第2クラッチ部材4b)及びプレッシャ部材5に取り付けられた被動側クラッチ板(7a、7b)に対してオイルを十分に供給することができる。
【0060】
また、本実施形態に係るクラッチ部材は、出力部材と連結される第1クラッチ部材4aと、被動側クラッチ板7aが取り付けられる第2クラッチ部材4bとを有するとともに、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bのそれぞれにオイル供給孔(4ad、4bc)が複数形成されたので、クラッチ部材が第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bに分割された構造であっても第2クラッチ部材4b及びプレッシャ部材5に取り付けられた被動側クラッチ板(7a、7b)に対してオイルを確実に供給することができる。
【0061】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、オイル流通路が他の位置に形成されたものであってもよく、例えば、
図22に示すように、オイル流通路を構成するオイル流入
口5eが収容凹部5dの開口側に形成されるとともに、オイル流出
口5gが溝部5fを介さず形成されたものであってもよい。また、
図23に示すように、クラッチ部材が分割構成されたものでなく、遠心クラッチ手段9を具備せず、収容凹部5dの内部にボス部4acが突出形成されて構成されたものに適用され、その収容凹部5dにオイル流入
口5e及びオイル流出
口5gが形成されたものであってもよい。
【0062】
加えて、収容凹部5dの底部側に形成されたオイル流入
口5eに代えて、
図24~26に示すように、収容凹部5dの内側(プレッシャ部材5の中心側)に向かって開口したオイル流入
口5jとしてもよい。かかるオイル流入
口5jは、
図26に示すように、プレッシャ部材5の軸方向に亘って開口した長孔から成り、当該オイル流入
口5j、溝部5f及びオイル流出
口5g(先の実施形態と同様のもの)によりオイル流通路が形成されている。これにより、挿通孔3aから供給されたオイルは、
図24に示すように、遠心力によって軸方向に大きく開口したオイル流入
口5jから収容凹部5d内に至り(同図中の矢印Ra参照)、溝部5fを流通してオイル流出
口5gから流出される(同図中の矢印Rb参照)こととなる。
【0063】
さらに、オイル流通路は、プレッシャ部材5に形成されて当該プレッシャ部材5に取り付けられた被動側クラッチ板7bに向かってオイルを流動させ得るものであれば足り、収容凹部5dを介さない通路であってもよい。なお、本発明の動力伝達装置は、自動二輪車の他、自動車、3輪又は4輪バギー、或いは汎用機等種々の多板クラッチ型の動力伝達装置に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
被動側クラッチ板は、クラッチ部材及びプレッシャ部材に取り付けられるとともに、プレッシャ部材は、当該プレッシャ部材に取り付けられた被動側クラッチ板に向かってオイルを流動させ得るオイル流通路が形成された動力伝達装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 入力ギア(入力部材)
2 クラッチハウジング
2a 切欠き
3 出力シャフト(出力部材)
3a 挿通孔
4a 第1クラッチ部材
4aa 勾配面(圧接アシスト用カム)
4ab 勾配面(バックトルクリミッタ用カム)
4ac ボス部
4ad オイル供給孔
4b 第2クラッチ部材
4ba スプライン嵌合部
4bb フランジ部
4bc オイル供給孔
5 プレッシャ部材
5a 勾配面(圧接アシスト用カム)
5b 勾配面(バックトルクリミッタ用カム)
5c フランジ部
5d 収容凹部
5da 内周面
5e オイル流入口(オイル流通路)
5f 溝部(オイル流通路)
5g オイル流出口(オイル流通路)
5h 面
5i 嵌合部
5j オイル流入口(オイル流通路)
6a、6b 駆動側クラッチ板
7a、7b 被動側クラッチ板
8 固定部材
9 遠心クラッチ手段
10 ウェイト部材
11 保持部材
11a 収容部
11aa 内周壁面
11b 溝形状
11c 押圧面
12 圧接部材
12a 勾配溝
12b 溝形状
12c 押圧面
13 支持部材
14 第1球状部材
15 第2球状部材
16 付勢部材
17 補助クラッチ板
18 操作部材
18a 操作部
19 連動部材
B ボルト
S クラッチスプリング
W ベアリング