(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】統合された温度センサを有する乗り物ペイン
(51)【国際特許分類】
G01K 1/14 20210101AFI20240719BHJP
G01K 7/16 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01K1/14 L
G01K7/16 Z
(21)【出願番号】P 2022548752
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2021051138
(87)【国際公開番号】W WO2021160388
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-10-06
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン-ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ギレッセン
(72)【発明者】
【氏名】ローベルト ベスラー
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-502408(JP,A)
【文献】特表2015-507600(JP,A)
【文献】米国特許第02806118(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/14,7/16-7/28
H05B 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサを有する乗り物ペインであって、基材(1)、及び、前記基材(1)の表面上の透明導電性コーティング(4)を有し、
- 分離ライン(11)によって周囲の前記導電性コーティング(4)から電気的に分離されている温度計測フィールド(10)が、前記導電性コーティング(4)に形成されており、
前記温度計測フィールド(10)が、最大5cm
2
のサイズを有し、
- 2つの電気接触部(12.1、12.2)の間に延在する計測電流経路(14)が、前記温度計測フィールド(10)において、前記導電性コーティング(4)の領域から形成されており、
- 前記電気接触部(12.1、12.2)を、電圧源に接続でき、それにより、電流が前記計測電流経路(14)を通って流れるようになっており、かつ、
- 前記電気接触部(12.1、12.2)を、解析ユニットに接続することができ、この解析ユニットは、前記電流の電流強度を計測すること、これから前記計測電流経路(14)の電気抵抗を決定すること、及び、較正データを用いて前記電気抵抗から温度を決定すること、に適している、
乗り物ペイン。
【請求項2】
前記乗り物ペインが、中央透視領域を取り囲む周縁マスキングプリント(5)を有し、前記電気接触部(12.1、12.2)が、前記マスキングプリント(5)の領域に配置されている、請求項1に記載の乗り物ペイン。
【請求項3】
前記計測電流経路(14)の大部分が、前記透視領域に配置されている、請求項2に記載の乗り物ペイン。
【請求項4】
前記計測電流経路(14)が、1cm~20cmの長さを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
【請求項5】
前記計測電流経路(14)が、前記接触部(12.1、12.2)の間に延在する2つの平行な遮断ライン(13.1、13.2)によって形成されており、これらのラインが、前記計測電流経路(14)を、周囲の前記導電性コーティング(4)から電気的に分離している、請求項1~4のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
【請求項6】
前記乗り物ペインが、単ペイン安全ガラスとして実施されており、
前記導電性コーティング(4)が、前記基材(1)の内部側表面に配置されており、透明伝導性酸化物に基づく少なくとも1つの導電層を有する、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
【請求項7】
前記乗り物ペインが、積層安全ガラスとして実施されており、
前記基材(1)が、熱可塑性中間層(3)を介して他のペイン(2)に結合しており、
前記導電性コーティング(4)が、前記基材(1)の、前記中間層(3)に面する表面に配置されており、かつ銀に基づく少なくとも1つの導電層を有する、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
【請求項8】
それぞれの接触部(12.1、12.2)が、前記計測電流経路(14)を除いて、接触分離ライン(15.1、15.2)によって、周囲の前記導電性コーティング(4)から電気的に分離されている、請求項1~
7のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
【請求項9】
前記接触部(12.1、12.2)が、ガラスフリット及び銀粒子を含有する、プリントされ焼成された導電性ペーストとして実施されている、請求項1~
8のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
【請求項10】
前記計測電流経路(14)が、前記接触部(12.1、12.2)の間で、蛇行して、又はループ状の様式で、延在している、請求項1~
9のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の乗り物ペイン、電圧源、及び解析ユニットを備える乗り物であって、
前記電気接触部(12.1、12.2)が、前記電圧源及び前記解析ユニットに接続しており、
電圧を前記接触部(12.1、12.2)に適用でき、それにより、前記計測電流経路(14)を通って電流が流れるようになっており、かつ、
前記解析ユニットが、前記電流の電流強度を計測すること、これから前記計測電流経路(14)の電気抵抗を決定すること、及び、較正データを用いることによって前記電気抵抗から温度を決定すること、に適している、
乗り物。
【請求項12】
前記解析ユニットが、電流計測装置、及び、計測された前記電流を前記較正データと比較するためのプロセッサを有している、請求項
11に記載の乗り物。
【請求項13】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の乗り物ペインの温度を計測する方法であって、
- 電圧を前記電気接触部(12.1、12.2)に適用し、それにより、前記計測電流経路(14)を通って電流が流れるようにし、
- 前記電流の電流強度を計測し、
- 前記計測電流経路(14)の電気抵抗を、前記電流強度から決定し、かつ、
- 較正データを用いて、前記電気抵抗から、温度を決定する、
方法。
【請求項14】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の乗り物ペインの、自動車のウィンドウペインとしての使
用であって、
前記乗り物ペインの加熱を、計測された温度に応じて制御する、
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサを有する乗り物ペイン、これを備える乗り物、その温度を計測する方法、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乗り物の内部の温度を、この内部に配置された温度センサで計測することが慣用的である。このようにして計測される温度は、例えば、空気調節システム(空調システム)を制御するために用いることができ、運転者によって特定される目的温度にまで温度を制御するために用いることができる。
【0003】
原則として、温度を用いて、乗り物ペインそれ自体の加熱を制御することもでき、例えば、統合された加熱手段によって、又は乗り物ペインに向けられた空気流によって、これを行うことができる。例えば、温度が氷点下のときに、ペインを自動的に除霜(デフロスト)することができる。しかしながら、この手順は最適ではなく、なぜならば、内部における温度は、ペインの温度に正確には対応しないからである。ペインの温度をそれに取り付けられた温度センサを用いて計測することも可能であろう。しかしながら、製造後に設置される必要があるセンサは、乗り物の製造コストを増加させ、空間要件を増加させ、かつ、誤作動にさらされやすいことがある。
【0004】
乗り物ペインに導電性コーティングを備えることが、それ自体知られている。そのようなコーティングは、例えば、内部における熱快適性を向上させるために用いることができる。コーティングは、いわゆるIR保護コーティングとして、太陽光の赤外要素を反射でき、又は、いわゆる放射率低減コーティング(low-Eコーティング)として、乗り物ペインそれ自体から内部への熱放射を防止できる。コーティングを通って電流を流すときには、コーティングを乗り物ペインの加熱のために用いることができる。そのようなコーティングは、多数の文献からよく知られている。単に例示として、WO03/024155、US2007-0082219A1、US2007-0020465A1、WO2013/104438、又はWO2013/104439が参照され、これらは、銀に基づくIR保護コーティング又は加熱可能コーティングを開示しており、EP2141135A1、WO2010/115558A1、WO2011/10599A1、及びWO2018/206236A1が参照され、これらは、透明伝導性酸化物に基づく放射率低減コーティングを開示している。
【0005】
レーザー脱コーティングを用いて透明伝導性コーティングをパターン化することも知られている。このプロセスでは、細く直線的な脱コーティング領域が、レーザーによって、コーティングに導入される。これらは、例えば、コーティングされたペインに電磁放射のための透過性を提供するために用いられており、それによって、例えば、乗り物内部においてモバイルフォン若しくはGPSのシグナルを受容することができ、又は、電流を通し、それによって、例えば、局所的なホットスポットを回避することができる。単に例示として、EP2591638B1、EP2335452B1、EP2586610B1、EP2890655B1、WO2014/095152A1、及びEP2906417B1が参照される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、統合された温度センサを有する乗り物ペイン、及び、そのような乗り物ペインの温度を計測する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、請求項1に係る乗り物ペインによって、本発明に従って達成される。好ましい実施態様が、従属請求項から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明に係る乗り物ペインの実施態様の平面図である。
【
図3】
図3は、温度計測フィールドの実施態様の平面図である。
【
図4】
図4は、温度計測フィールドの別の実施態様の平面図である。
【
図5】
図5は、温度計測フィールドの別の実施態様の平面図である。
【
図6】
図6は、例示的な導電性コーティングの温度依存的な電気抵抗の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
温度センサが、乗り物ペインに直接に統合されており、それにより、後の外部センサの取り付けが不要となるようになっている。温度センサは、真のペイン温度の計測を可能にする。これは、透明コーティングの上に実施され、したがって、視覚的に目立たない。これらは、本発明の主要な利点である。
【0010】
温度センサを有する本発明に係る乗り物ペインは、少なくとも、基材、及び、基材の表面上の透明導電性コーティングを有する。用語「透明なコーティング」は、可視スペクトル範囲における少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも90%の平均透過率を有しておりそれによってペインを通る視界が実質的に制限されないようになっているコーティングを意味している。
【0011】
基材は、好ましくは、ガラスペインであり、特には、乗り物ペインで慣用的なように、ソーダ石灰ガラスでできている。しかしながら、基材は、他のタイプのガラスでできていてもよく、例えば、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、又は石英ガラスでできていてもよく、又はさらには、透明プラスチック、例えば、ポリカーボネート(PC)又はポリメチルメタクリレート(PMMA)でできていてもよい。基材の厚みは、通常は、0.5mm~5mmである。
【0012】
好ましい実施態様では、乗り物ペインが、単ペイン安全ガラス(ESG)又は積層安全ガラス(VSG)として実施されている。構造的に、単ペイン安全ガラスは、ガラス基材のみによって形成されており、これは、熱的に事前応力付与(プレストレス処理)されている。積層安全ガラスの場合には、基材が、熱可塑性中間層を介して他のペインに結合している。基材は、設置位置において乗り物内部に面することが意図されている内側ペインであってよく、又は、設置位置において外部環境に向くことが意図されている外側ペインであってよい。他のペインは、好ましくは、これもガラスペインであり、ソーダ石灰ガラスでできている。しかしながら、他のペインが、他のタイプのガラスでできていてもよく、例えば、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、又は石英ガラスでできていてもよく、又はさらには、透明プラスチック、例えばPC若しくはPMMAでできていてもよい。積層安全ガラスの場合には、基材及び他のペインが、通常は、0.5mm~3mmの厚みを有する。
【0013】
単ペイン安全ガラスの場合には、導電性コーティングが、好ましくは、基材の内部側表面に配置されている。これは、設置位置において内部に面する表面として言及される。基材が外側ペインを形成している積層安全ガラスの場合には、コーティングは、好ましくは、基材のうち、中間層及び内側ペインに向く内部側表面に、配置される。この場合、積層ガラスの内部において、導電性コーティングが、腐食及び損傷に対して保護される。基材が内側ペインを形成している積層安全ガラスの場合には、コーティングは、好ましくは、基材のうち、中間層及び外側ペインに向く外部側表面に、配置され、積層ガラスの内部において、腐食及び損傷に対して保護される。代替的には、コーティングが、好ましくは、内側ペインとしての基材の内部側表面に配置される。
【0014】
原則として、導電性である限りは、コーティングに関する要件はない。慣用的なコーティングは、複数の薄層のスタックであり、導電性が、1又は複数の導電性の個々の層によって提供される。薄層スタックの個々の層の層厚は、通常は1μm未満である。コーティングが、基材の露出した表面に適用される場合、例えば、単ペイン安全ガラス、又は内側ペインとしての基材を有する積層安全ガラスの場合における、内部側表面に適用される場合には、コーティングは、耐腐食性である必要がある。それぞれの導電層は、好ましくは、透明伝導性酸化物(TCO)に基づいて形成され、特には、インジウムスズ酸化物(ITO)に基づいて形成され、代替的には、例えば、混合インジウム亜鉛酸化物(IZO)、ガリウムドープスズ酸化物(GZO)、フッ素ドープスズ酸化物(SnO2:F)、又はアンチモンドープスズ酸化物(SnO2:Sb)に基づいて形成される。そのようなコーティングは、特に、放射率低減コーティング(low-Eコーティング)として慣用的であり、この場合には、乗り物ペインの内部側表面において、それらは、内部へのペインの熱放射の放出、及び、内部から外部に向かう熱の放射を、低減する。コーティングが積層ペインの内部表面に配置されている場合、例えば、VSGの外側ペインとしての基材の内部側表面又はVSGの内側ペインとしての基材の外部側表面に配置されている場合には、腐食に感受性の伝導層を用いることも可能である。それぞれの導電層は、好ましくは、金属に基づいており、特には銀に基づいており、代替的には、例えば、金、アルミニウム、又は銅に基づいている。そのようなコーティングは、特には、積層ペインにおいてIR保護コーティング及び/又は加熱可能コーティングとして慣用的であり、太陽光の赤外放射要素が反射され、かつ/又は、電気的に接触されそれにより電流がそれらを通って流れるようにし、それによって乗り物ペインを加熱する。電気的な接続は、典型的には、バスバーを介して形成され、バスバーは、ペインの幅の大部分にわたって2つの対向する側端部に沿って配置され、例えば、金属箔、特には銅箔のストリップとして実施され、又は、ガラスフリット及び銀粒子を含有する焼成されたペーストとして実施され、通常は、スクリーンプリントされる。
【0015】
好ましい実施態様では、伝導性コーティングが、-30℃~50℃の温度範囲において、電気抵抗の、線形又は略線形の温度依存性を有する。これは、温度センサの正確な較正の観点から有利である。
【0016】
温度センサは、導電性コーティングの領域によって形成される。この目的のために、温度計測フィールドが、導電性コーティングに形成される。温度計測フィールドは、コーティングを有しない分離ラインによって、周囲の導電性コーティングから電気的に完全に分離される。温度センサは、温度計測フィールド内に配置される。分離ラインは、温度センサを、温度計測フィールド外の伝導性コーティングから、電気的に切り離す。好ましい実施態様では、温度計測フィールドが、伝導性コーティングによって完全に取り囲まれている。分離ラインは、自己完結的な形状を有し、例えば、矩形若しくはその他の多角形、又は、円形若しくはその他の円状の形状を有する。原則として、伝導性コーティングの端部に温度計測フィールドを形成することも可能であり、そのようにして、コーティングの残りの部分によって部分的にのみ取り囲まれるようにしてもよい。この場合、分離ラインは、伝導性コーティングの側方端部において、2つの点の間に延在する。
【0017】
温度計測フィールドの形状及びサイズは、自由に選択できる。しかしながら、温度計測フィールドをできる限り小さく設計し、それによって、温度センサが視覚的に目立たないことが確保されるようにすることが推奨される。有利な実施態様では、温度計測フィールドが、最大5cm2、好ましくは0.5cm2~2cm2のサイズを有する。
【0018】
温度センサそれ自体は、2つの電気接触部と、それらの間に延在する計測電流通路とから形成される。電気接触部は、温度センサの電気的な接触のために用いられ、すなわち、電圧源及び解析ユニットへの電気的接続のために用いられる。この接触部は、好ましくは、ガラスフリット及び銀粒子を含有する、プリントされかつ焼成された導電ペーストとして実施される。プリントは、通常は、スクリーンプリントによって実行される。接触部は、電気ケーブルに接続され、又は電気ケーブルに接続することが意図されており、これを介して、電圧源及び解析ユニットへの電気的な接続が確立される。導電性コーティング及び電気接触部が積層ペインの内部に配置される場合には、電気ケーブルとして、平坦伝導体が、特に用いられる。これらは、導電性コアを有しており、導電性コアは、典型的には、電気的に絶縁性のポリマー被覆の中における、金属箔、特には銅箔のストリップとして、設計される。導電性コーティング及び電気接触部が乗り物ペインの露出した表面に配置される場合には、平坦伝導体を、接触のために用いることもでき、又は、剛性かつ中実の接続要素を、接触部に取り付けてよく、今度はこれが、はんだ付け、溶接、圧着によって、又はプラグ接続として、電気ケーブルに接続される。中実の接続要素に接続される電気ケーブルは、通常は、より線、円形伝導体、又はリボン上の金属メッシュである。電気接触部への平坦伝導体又は中実接続要素の接続は、好ましくは、はんだ付け化合物によって行われる。しかしながら、積層ペインの内部においては、接続は、純粋に機械的な押圧によって、又は銅ストリップの溶融スズメッキによって、行うことができる。
【0019】
計測電流経路が、導電性コーティングの領域によって形成され、2つの電気接触部の間に延在する。このようにして、これは、接触部の間の電気的な伝導体として機能し、その電気抵抗が決定され、これは、今度は、温度依存的であり、温度の決定を可能にする。計測電流経路は、異なる様式で、温度計測フィールドにおいて実施できる。例えば、温度計測フィールドのうち計測電流経路から離れている領域が、コーティング無しであってよい。これは、例えば、最初は全面的であった伝導性コーティングの、後の除去によって行うことができ、又は、コーティングの適用の際のマスキング技術によって、行うことができる。しかしながら、好ましくは、計測電流経路は、導電性コーティング内に導入される遮断ラインによって形成され、電流が、計測電流経路に沿って誘導される。遮断ラインを除いて、温度計測フィールドの全体が、導電性コーティングを備えている。温度計測フィールドの全体が、遮断ラインによって適切にパターン化され、それによって、計測電流経路を形成することができる。自己完結的な凹状形状、例えば矩形、を形成する領域が、遮断ラインによって全体として適切にパターン化され、計測電流経路を形成してもよい。しかしながら、好ましい実施態様では、計測電流経路が、温度計測フィールド内のコーティングの領域によってのみ形成されており、これが、特には線形の様式で、伸長している。これは、接触部の間に延在する2つの平行な遮断ラインによって形成され、それにより、計測電流経路が、接触部に接続される。遮断ラインは、それらの間に延在する計測電流経路を、周囲の導電性コーティングから、電気的に分離する。
【0020】
計測電流経路の経路は、個々の場合の要件に応じて、当業者によって自由に選択されうる。これは、いかなる制限も受けない。有利な実施態様では、計測電流経路が、蛇行する経路、又はループ状の経路を有する。このようにして、空間を節約する様式で、可能な限り長い計測電流経路を、温度計測フィールド内に収容することができる。しかしながら、計測電流経路は、原則として、直線状であってもよく、例えば、乗り物ペインの側方端部に沿って延在してよい。
【0021】
計測電流経路が短いほど、温度センサは視覚的により目立たなくなりうる。他方で、比較的長い計測電流経路は、抵抗及び温度のより正確な計測を可能にする。好ましくは、計測電流経路が、1cm~20cmの長さを有する。計測電流経路の幅は、好ましくは、0.1mm~2mmである。
【0022】
電気接触部は、電圧源に接続してよく、そのような電圧源に接続されるように意図されている。この接触部は、接触部に取り付けられた電気ケーブルを介して、電圧源に接続される。電圧源は、乗り物ペインの外に配置され、典型的には、乗り物の車載電気システムの一部である。電圧源によって接触部に電圧が適用されたときに、電流が、接触部の間で計測電流経路を通って流れる。温度計測のために接触部に適用される電圧が大きすぎて電流が計測電流経路の大幅な加熱を引き起こしそのようにして計測をゆがめることが無いように、注意する必要がある。電力は、好ましくは、0.5μW~3μWであり、特に好ましくは、1μW~1.5μWである。このようにして、特に好ましい結果が達成され、計測電流経路の加熱に起因する大幅なゆがみを排除できる。
【0023】
温度計測は、電流の電流強度を計測すること、及び、これから、オームの法則に従って電流強度及び電圧に関係する電気抵抗を決定すること、に基づく。電気抵抗は温度依存的なので、適切な較正データを用いて、電気抵抗から温度を決定することができる。較正データは、例えば、較正テーブル(較正表)の形態であってよく、又は、数学的な較正関数であってよい。電気接触部は、解析ユニットに接続されてよく、そのような解析ユニットに接続されることが意図されてよい。解析ユニットは、電流の電流強度を計測し、これから計測電流経路の電気抵抗を決定し、かつ較正データを用いて電気抵抗から温度を決定するために、適している。
【0024】
解析ユニットは、少なくとも、(電流計としても言及され、口語的にアンペアメータとしても言及される)電流計測装置、及び、計測された電流を較正データと比較するためのプロセッサを含む。解析ユニットは、典型的には、較正データを記憶するためのメモリも有する。解析ユニットは、典型的には、乗り物の車載電気/電子システムに統合される。
【0025】
本発明に係る乗り物ペインは、特に好ましくはウィンドシールドであり、しかしながら、例えば、サイドウィンドウ、リアウィンドウ、又はルーフパネルであってもよい。ウィンドシールドは、常に、複合ペインとして設計され、サイドウィンドウ、リアウィンドウ、及びルーフパネルは、単ペインガラス(特には熱的に事前応力付与されたESG)又は積層ペインとして設計されてよい。
【0026】
好ましい実施態様では、乗り物ペインが、周縁的なマスキングプリントを有する。このようなマスキングプリントは、乗り物ペインに関して慣用的であり、特に、ウィンドシールド、リアウィンドウ、及びルーフパネルに関して慣用的である。マスキングプリントは、乗り物ペインの側方端部に隣接して配置され、例えば、5cm~20cmの幅を有し、乗り物ペインを枠様式で取り囲む。マスキングプリントは、典型的には、不透明な、特には黒色の、エナメルから形成され、これは、スクリーンプリントによって1又は複数のペイン表面に適用される。マスキングプリントは、主に、乗り物本体への乗り物ペインの接着結合を隠す役割を有し、かつ、これをUV放射から保護する役割を有する。さらに、機能素子、例えば電気的接続部又はセンサが、多くの場合、マスキングプリントの領域に配置されて、隠される。取り囲む周縁的なマスキングプリントの領域は、不透明であり、本発明において中央透視領域として言及される、通して見る(透視する)ために提供されている乗り物ペインの透明領域を、取り囲む。したがって、乗り物ペインの面積は、マスキングプリントの不透明領域と、透視領域とに、分割される。有利な実施態様では、透視領域が、少なくともいくつかの領域で、合計の透過率70%を有する。用語「合計の透過率」は、ECE-R 43、付属3、セクション9.1によって特定される自動車ウィンドウの光透過率の試験のための方法に言及している。ウィンドシールドの場合には、合計の透過率が、特には少なくともいわゆる視野A(視界領域A、ゾーンA)において、少なくとも70%である。視野A及びその技術的な要件が、国際連合欧州経済委員会(UN/ECE)の規則No.43(ECE-R43、「安全グレージング材料及び乗り物におけるその設置の認可に関する統一的規則」」)で特定される。ここで、視界Aは、付属18において規定されている。
【0027】
本発明に係る温度計測フィールドは、透視領域に、又はマスキングプリントの不透明領域に、完全に配置されてよい。同様に、温度計測フィールドが、透視領域に部分的に配置され、かつマスキングプリントの不透明領域に部分的に配置されることが可能である。有利な実施態様では、少なくとも電気接触部が、マスキングプリントの領域に配置される。これは、温度センサが光学的に目立たない観点で有利であり、これはなぜならば、接触部は、典型的には、比較的目立つものであり、ケーブルを介して電気的に接続されるからである。接触部が、接触物と共に、マスキングプリントによって隠される。
【0028】
特に好ましい実施態様では、電気接触部が、マスキングプリントの領域に配置され、計測電流経路の大部分が、透視領域に配置される。このようにして、マスキングプリントの影響によって歪んではならない透視領域における温度の計測を実行しつつ、接触部を、隠すことができる。好ましくは、計測電流経路の少なくとも80%が、特に好ましくは計測電流経路の少なくとも90%が、透視領域に配置される。特に、接触部から透視領域の方向に延在する短い接続部分を除いて、計測電流経路の実質的に全体が、透視領域に配置される。
【0029】
本発明の1つの実施態様では、乗り物ペインが、ガラスの単ペインとして実施されており、特には、単ペイン安全ガラスとして実施されており、基材の内部側表面上の導電性コーティングが、透明伝導性酸化物に基づく、特にはITOに基づく、少なくとも1つの導電層を有する。この実施態様は、特に、サイドウィンドウ及びリアウィンドウのために適している。
【0030】
本発明の別の実施態様では、乗り物ペインが、積層ペインとして実施されており、特に、積層安全ガラスとして実施されており、基材が、熱可塑性中間層を介して他のペインに結合しており、導電性コーティングが、基材のうち中間層に面する表面に配置されており、金属に基づく、特には銀に基づく、少なくとも1つの導電層を有する。この実施態様は、特に、ウィンドシールド及びルーフパネルに適しているだけでなく、積層サイドウィンドウ及びリアウィンドウとしても適している。基材は、内部ペイン又は外部ペインであってよい。
【0031】
特に好ましい実施態様では、乗り物ペインが、ウィンドシールドであり、特には、乗用車のウィンドシールドである。導電性コーティングは、中央視界Aにおいて、中断、例えばレーザー処理されたパターン化ラインに起因する中断を、有していない。特に好ましくは、導電性コーティングが、中央視界Bにおけるそのような中断も有しない。温度計測フィールドが、視界A又は視界Bの外に配置される。視界A及び視界Bは、国連ヨーロッパ経済委員会(UN/ECE)の規則43(ECE-R43、「安全グレージング材料の認証及び車両への設置に関する統一規定」)(特に付属18参照)で特定されている。ウィンドシールドは、典型的には、周縁マスキングプリントを有する。導電性コーティングは、好ましくは、通信ウィンドウ又はデータ伝達ウィンドウとして機能しかつ中央視界A又はBの外に配置される任意の中断部又は無コーティング領域は除いて、透視領域の全体を覆っている。特に好ましくは、電気接触部が、マスキングプリントの領域に配置されており、計測電流経路の大部分が、透視領域に配置されている。
【0032】
別の特に好ましい実施態様では、導電性コーティングが、温度計測フィールドの外に、中断部を有しない。この実施態様は、例えば、サイドウィンドウに適している。
【0033】
温度計測フィールドが、計測電流経路から離れた導電性コーティングのさらなる領域を有する場合には、無論、計測のために用いられる電流が、計測電流経路を通って流れるようにし、取り囲んでいるコーティングをまわって流れないように、注意が必要である。これは、計測電流経路が接触部の間の最も短い接続となるような、接触部と計測電流経路との配置によって、達成することができる。例えば、接触部を、温度計測フィールドの2つの対向するコーナーの領域に配置することができ、計測電流経路が、これらの間で蛇行して延在してよい。しかしながら、随意に、接触部を、周囲のコーティングから電気的に分離することもできる。この場合には、それぞれの接触部が、好ましくは、計測電流経路を除いて、無コーティング接触分離ラインによって、取り囲む導電性コーティングから電気的に分離される。接触分離ラインは、計測電流経路の1つの側で(又は計測電流経路を画定する1つの遮断ラインで)出発し、接触部を1回まわって延在し、計測電流経路の他方の側で(又は計測電流経路を画定する他方の遮断ラインで)終端する。この場合、接触部の間の唯一の電気接続が、計測電流経路である。この実施態様が特に推奨されるのは、例えば、2つの接触部が、温度計測フィールドの1つの側方端部で周縁マスキングプリントの背後に隠されるために、互いに比較的接近して配置されている場合である。
【0034】
導電性コーティングは、好ましくは、乗り物ペインの大部分に提供され、特には、ペイン表面の少なくとも80%で、伝導性コーティングが提供される。好ましくは、反射コーティングが、本発明に係る分離ライン並びに本発明に係る任意の遮断ライン及び接触分離ラインを除いて、基材の表面全体に適用される。さらに、他の領域が無コーティングであってよく、特に、ウィンドシールドを通る電磁放射の透過を確保するための、通信、センサ、又はカメラのウィンドウとして意図される、光学的な周縁端部領域及び光学的な局所的領域が、無コーティングであってよい。周縁的な無コーティング端部領域は、例えば、20cm以下の幅を有する。
【0035】
本発明に係る乗り物ペインの製造では、基材表面の全体が、好ましくは、その全面積にわたってコーティングされ、その後で、無コーティングとなる領域から、コーティングを再び除去する。コーティングの除去は、好ましくは、レーザー脱コーティングによって行う。代替的には、特には、例えばカメラウィンドウ又は周縁的な脱コーティング端部領域等の平坦で非線形状の領域の場合に、脱コーティングを、機械的に、摩耗によって行うこともできる。代替的には、マスキング技術によって、初めから、その領域をコーティングから除外することもできる。
【0036】
本発明に係る分離ライン及び本発明に係る任意の遮断ライン及び接触分離ラインは、好ましくは、500μm未満のライン幅、特に好ましくは10μm~250μmのライン幅、最も特に好ましくは20μm~150μmのライン幅を有する。結果として、効果的な電気絶縁が達成され、かつラインが視覚的に目立たない。上述のラインは、好ましくは、レーザー脱コーティングによって伝導性コーティング中に導入され、これは、それ自体、産業プロセスに関して実証されており、これはなぜならば、細いラインを脱コーティングするためにほとんど時間がかからないからである。
【0037】
レーザー脱コーティングでは、レーザーの放射を、コーティング上に焦点合わせし、脱コーティングされるラインに沿って動かす。コーティング材料が、レーザー放射によって除去される。レーザー脱コーティングのための方法が、よく知られており、個々の場合における要件に応じて当業者によって自由に選択することができる。レーザー放射は、典型的には、レンズ又は対物レンズなどの光学素子によって、コーティングされた表面に焦点合わせされ、レーザースキャナーによって、表面にわたって動かされる。
【0038】
レーザー放射は、原則として、UV範囲、可視範囲、又はIR範囲に波長を有する。レーザー放射の波長は、好ましくは、150nm~2500nmであり、特に好ましくは、250nm~1200nmである。例えば、Nd-YAGレーザーは、工業的な用途に関してそれ自体証明されており、これを用いることができる。Nd:YAGレーザーは、その基本的な波長である1064nmで作動することができ、又は、波長は、二倍又は三倍であってもよい。しかしながら、他のレーザーを用いることもでき、例えば、他の固体状態レーザー(例えば、チタン-サファイアレーザー又は他のドープされたYAGレーザー)、ファイバーレーザー、半導体レーザー、エキシマーレーザー、又はガスレーザーを用いることもできる。
【0039】
レーザーは、好ましくは、パルスモードで作動する。これは、高い強度密度及び遮断ラインの効果的な挿入の観点から、特に有利である。好ましくは、ナノセカンド又はピコセカンドの範囲のパルスが用いられる。パルス長は、好ましくは、50ns以下である。パルス周波数は、好ましくは、1kHz~2000kHzであり、特に好ましくは、10kHz~1000kHzである。これは、レーザー脱コーティングの間のレーザーの強度密度の観点から特に有利である。
【0040】
レーザー放射の出力強度は、好ましくは、0.1Wから50Wであり、例えば、0.3Wから10Wである。必要とされる出力強度は、特に、用いられるレーザー放射の波長に依存し、かつ、導電性コーティングの吸収の程度に依存し、単純な実験によって当業者によって決定されうる。
【0041】
レーザー放射は、好ましくは、導電層にわたって、100mm/sから10000mm/sの速度で移動し、特に好ましくは、200mm/sから5000mm/sの速度で移動し、最も特に好ましくは、300mm/sから2000mm/sの速度で移動し、例えば、500mm/sから1000mm/sの速度で移動する。これによって、特に良好な結果が達成される。
【0042】
本発明は、また、本発明に係る乗り物ペイン、電圧源、及び解析ユニットを備えた乗り物も含み、電気接触部が、(電気的に、特にはガルバニックに)電圧源及び解析ユニットに接続しており、電圧をこの接触部に適用することができ、それにより、電流が、計測電流経路を通って流れるようになっており、解析ユニットが、電流の電流強度を計測してこれから計測電流経路の電気抵抗を決定するために、かつこの電気抵抗から較正データを用いて温度を決定するために、適している。乗り物ペインに関する上記の記載が、乗り物にも同様にあてはまる。
【0043】
本発明は、本発明に係る乗り物ペインを製造する方法も含む。基材を提供し、その表面のうちの1つを、その全体にわたって、透明導電性コーティングでコーティングする。ここで、特には、物理気相成長の方法が用いられ、特に好ましくはマグネトロンエンハンストカソードスパッタリング(マグネトロンスパッタリング)が用いられる。しかしながら、代替的には、コーティングを、化学気相成長又は蒸気堆積によって行ってもよい。随意に、周縁的な端部領域を、コーティングから排除してよく、又は、この端部領域におけるコーティングを、のちに除去してよく、例えば、機械的に摩耗(アブレーション)によって除去してよい。これは、特に、コーティングが腐食に対して感受性であり、基材を、他のペインに、コーティングされた表面を介して後に結合して積層ペインを形成するときに、有用である。無コーティング端部領域の結果として、この場合には、コーティングが、周囲雰囲気と接触しない。周縁的な分離ラインをコーティングに導入して、温度計測フィールドを、周囲のコーティングから分離することができる。計測電流経路は、温度計測フィールドに形成され、好ましくは、遮断ラインを用いてコーティングをパターニングすることによって、形成される。電気接触部は、計測電流経路の始点と終点とに形成され、好ましくは、ガラスフリット及び銀粒子を含有する伝導性ペーストをプリントし焼成することによって、形成する。分離ライン及び遮断ラインは、好ましくは、レーザー脱コーディングによって導入され、特には、慣用的なプロセス工程によって導入される。接触部のプリントは、レーザー脱デコーディングの前又は後に行ってよい。
【0044】
乗り物ペインは、典型的には、乗り物分野において慣用的なように、湾曲している。基材及び他のありうるペインの曲げは、好ましくは、伝導性コーティングの適用及び遮断ラインの導入の後に行われる。慣用的なガラス曲げ方法、例えば重力曲げ、押圧曲げ、及び/又は吸引曲げを、用いることができる。
【0045】
乗り物ペインが複合ペインである場合には、基材は、好ましくは、曲げの後で、熱可塑性フィルムを介して他のペインに積層される。積層は、例えば、オートクレーブ法、真空バッグ法、真空リング法、カレンダー法、真空ラミネータ法、又はこれらの組み合わせによって、行われる。ペインは、通常は、熱、真空、及び/又は圧力の作用の下で結合される。
【0046】
本発明は、本発明に係る乗り物ペインの温度を計測する方法も含み、この方法では、
- 電圧を電気接触部に適用し、それにより、電流が計測電流経路を通って流れるようにし、
- 電流の電流強度を計測し、
- 電流強度から、計測電流経路の電気抵抗を決定し、かつ、
- 較正データを用いて、電気抵抗から、温度を決定する。
乗り物ペインに関する上記の記載が、この計測法にも同様に適用される。
【0047】
本発明は、本発明に係る乗り物ペインの、自動車のウィンドウペインとしての使用、特には、ウィンドシールド、サイドウィンドウ、リアウィンドウ、又はルーフパネルとしての使用も含む。有利な実施態様では、乗り物ペインの加熱が、計測された温度の関数として制御される。このようにして、ペイン上での氷結、霜、又は液体の凝縮が起こりそうな温度で、ペインの加熱を、所定の期間にわたって、又は、同様に温度センサによって計測される目標温度に達するまで、起動できる。しきい値温度、すなわち、それよりも温度が低い場合に加熱が開始されるしきい値温度を、自動加熱を制御する車載電子システムに記憶させる。ペインの加熱は、例えば、温かい空気の流れを適用することによって、又は、乗り物ペインそれ自体における加熱要素によって、行うことができる。特に好ましい実施態様では、導電性コーティングが、温度計測フィールドの外で電気的に接触しており、加熱要素として機能し、この加熱要素は、電圧の適用の後の電流の流れの結果として、加熱される。可能な加熱電流の最も均一な導入は、いわゆる電流バスバーを用いて行うことができ、バスバーは、乗り物ペインの2つの対向する側方端部に沿って配置され、かつ、コーティングの幅のおよそ全体にわたって延在する。電流バスバーは、例えば、ガラスフリット及び銀粒子を含有するプリントされ焼成されたペーストとして実施してよく、又は、金属箔のストリップ、特には銅ストリップとして実施してよい。しかしながら、計測された温度は、他の目的のために用いてもよく、例えば、運転者のための情報の目的で表示してよく、又は、空調システムの自動制御のための基礎として用いてもよい。
【0048】
本発明を、図面及び例示的な実施態様を参照して、詳細に説明する。
図面は、概略図であり、縮尺どおりではない。図面は、決して本発明を限定しない。
【0049】
図1及び
図2は、それぞれ、温度センサを有する本発明に係る乗り物ペインの態様の詳細を描写している。乗り物ペインは、乗用車のウィンドシールドであり、積層ペイン(VSG、積層安全ガラス)として実施されている。これは、積層ペインの内側ペインを形成する基材1、外側ペインを形成する他のペイン2、及び、内側ペインと外側ペインとを互いに結合する熱可塑性中間層3を有する。基材1は、例えば、1.6mm厚のソーダ石灰ガラスでできたガラスペインである。外側ペイン2は、例えば、2.1mmの厚みのソーダ石灰ガラスでできたガラスペインである。中間層3は、例えば、0.76mmの厚みを有しておりポリビニルブチラール(PVB)の可塑剤含有フィルムでできている。
【0050】
乗り物ペインは、周縁マスキングプリント5を有しており、これは、ブラックエナメルから形成されており、外側ペイン2のうち中間層3に面する表面にプリントされている。マスキングプリント5によって、乗り物ペインの周縁端部領域が不透明である。不透明な端部領域は、乗り物ペインの透明な中央透視領域を取り囲む。
【0051】
基材1のうち中間層3に面している表面は、導電性コーティング4を備えている。このコーティング4は、例えば、銀に基づく複数の導電層に加えて多数の誘電層を含む、薄層スタックである。例えば5cmの幅を有する周縁端部領域においては、基材1がコーティングされていない。積層ペインの内部において、このようにして、腐食感受性のコーティング4が、腐食に対して保護される。コーティング4の端部は、マスキングプリント5によって隠されている。
【0052】
温度センサを含む温度計測フィールド10が、透視領域に形成されている。しかしながら、代替的には、温度計測フィールド10が、完全に又は部分的に、マスキングプリント5の不透明な端部領域に配置されてもよい。温度計測フィールド10のありうる実施態様が、下記の図面に示されている。
【0053】
図3は、温度計測フィールド10の第1の例示的な実施態様を描写している。これは、周縁的な分離ライン11によって画定されており、この分離ラインによって、温度計測フィールド10(より正確には、温度計測フィールド10内の導電性コーティング4)が、周囲のコーティング4から電気的に分離される。温度計測フィールド10に、温度センサが形成されており、2つの電気接触部12.1、12.2、及びこれらの間に延在する計測電流経路14からなる。接触部12.1、12.2は、例えば、ガラスフリット及び銀粒子を含有する、プリントされかつ焼成された伝導性ペーストでできた正方形として形成されている。計測電流経路14は、コーティング4のうち、2つの平行な遮断ライン13.1、13.2によって周囲のコーティング4から電気的に分離された領域から、形成されている。遮断ライン13.1、13.2は、第1の接触部12.1から第2の接触部12.2にまで延在し、これらの間に位置するコーティング4が、計測電流経路14を形成する。接触部12.1、12.2は、温度計測フィールド10の2つの対向するコーナーの領域から大きく離れて配置されている。空間を節約するために、計測電流経路14が、接触部12.1、12.2の間で蛇行して延在している。
【0054】
接触部12.1、12.2にはんだ付けされているのが、(図示されない)平坦伝導体であり、これは、乗り物ペインの側方端部を超えて延在し、計測電流経路14の、車載エレクトロニクスへの接続、特には、電圧源及び解析ユニットへの接続を、可能にする。電圧源によって電圧が接触部12.1、12.2に適用されたときに、電流が、計測電流経路14を通って流れる。電流強度を、解析ユニットによって計測し、これから、抵抗を、オームの法則を用いて決定する。抵抗は、温度依存的であり、較正データと比較され、それによって、乗り物ペインの現在の温度を決定できる。
【0055】
図4は、温度計測フィールド10の第2の例示的な実施態様を描写している。これは、同様に、周縁的な分離ライン11によって画定されている。2つの電気接触部12.1、12.2が、互いに隣接して、温度計測フィールドの下方端部の近傍に、配置されている。計測電流経路14は、ループ状の様式で、接触部12.1、12.2の間に延在している。このような構成は、特に、接触部12.1、12.2をマスキングプリント5の不透明端部領域に配置する一方で、計測電流経路14を主に透視領域に配置する場合に、適している。それ以外は、この実施態様は、
図3のそれに対応する。
【0056】
2つの接触部12.1、12.2は、短い距離で離れているので、電流が、計測電流経路14を介して主に流れるのではなく、接触部12.1、12.2の間の直接の接続ラインに沿って、流れることがある。これを回避するために、それぞれの接触部12.1、12.2が、接触分離ライン15.1、15.2によって、周囲の導電性コーティング4から電気的に分離される。接触分離ライン15.1、15.2は、第1の遮断ライン13.1から、それぞれの接触部12.1、12.2をまわって、第2の遮断ライン13.2にまで延在する。このようにして、接触部12.1、12.2が、計測電流経路14のみを介して互いに電気的に接続され、そのようにして、電流が、計測電流経路14を介して流されるようになる。
【0057】
図5は、温度計測フィールド10の第3の例示的な実施態様を描写している。これは、同様に、周縁的な分離ライン11によって画定されている。この実施態様は、計測電流経路14が、接触部12.1、12.2の間に延在する2つの平行な遮断ラインによって形成されていないという点で、
図3及び
図4の実施態様とは異なっている。代わりに、2つの対向するコーナーにおいて接触部12.1、12.2によって画定されている矩形領域が、遮断ライン13によってパターン化されており、それにより、これが、全体として、計測電流経路14を形成するようになっている。示されている実施態様では、温度計測フィールド10が、周縁的なコード領域であり、これは、計測電流経路14の一部ではなく、その代わりに、これを、枠様式で取り囲んでいる。しかしながら、接触部12.1、12.2を温度計測フィールド10のコーナー部に再配置するのであれば、温度計測フィールド10の全体を計測電流経路14として用いることもできるであろう。遮断ライン13による計測電流経路14の設計は、当業者によって自由に選択することができ、いかなる制限もない。
【0058】
図6は、例示的な導電性コーティング4の温度依存性を描写している。コーティング4は、複数の導電性銀層及び複数の誘電層を含む薄層スタックである。このようなコーティングは、それ自体知られており、ウィンドシールドに関して、IR保護コーティング及び/又は加熱可能コーティングとして慣用的に用いられている。電気抵抗が、温度に対してプロットされており、略直線的な依存関係が認識されうる。この温度依存性は、対応する較正データを用いる解析ユニットによって、計測された抵抗に基づいて温度を決定することを、可能にする。
本開示に係る発明は、下記の態様を含む:
<態様1>
温度センサを有する乗り物ペインであって、基材(1)、及び、前記基材(1)の表面上の透明導電性コーティング(4)を有し、
- 分離ライン(11)によって周囲の前記導電性コーティング(4)から電気的に分離されている温度計測フィールド(10)が、前記導電性コーティング(4)に形成されており、
- 2つの電気接触部(12.1、12.2)の間に延在する計測電流経路(14)が、前記温度計測フィールド(10)において、前記導電性コーティング(4)の領域から形成されており、
- 前記電気接触部(12.1、12.2)を、電圧源に接続でき、それにより、電流が前記計測電流経路(14)を通って流れるようになっており、かつ、
- 前記電気接触部(12.1、12.2)を、解析ユニットに接続することができ、この解析ユニットは、前記電流の電流強度を計測すること、これから前記計測電流経路(14)の電気抵抗を決定すること、及び、較正データを用いて前記電気抵抗から温度を決定すること、に適している、
乗り物ペイン。
<態様2>
前記乗り物ペインが、中央透視領域を取り囲む周縁マスキングプリント(5)を有し、前記電気接触部(12.1、12.2)が、前記マスキングプリント(5)の領域に配置されている、態様1に記載の乗り物ペイン。
<態様3>
前記計測電流経路(14)の大部分が、前記透視領域に配置されている、態様2に記載の乗り物ペイン。
<態様4>
前記計測電流経路(14)が、1cm~20cmの長さを有する、態様1~3のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
<態様5>
前記計測電流経路(14)が、前記接触部(12.1、12.2)の間に延在する2つの平行な遮断ライン(13.1、13.2)によって形成されており、これらのラインが、前記計測電流経路(14)を、周囲の前記導電性コーティング(4)から電気的に分離している、態様1~4のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
<態様6>
前記温度計測フィールド(10)が、最大5cm
2
のサイズ、好ましくは0.5cm
2
~2cm
2
のサイズを有する、態様1~5のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
<態様7>
前記乗り物ペインが、単ペイン安全ガラスとして実施されており、
前記導電性コーティング(4)が、前記基材(1)の内部側表面に配置されており、透明伝導性酸化物に基づく少なくとも1つの導電層を有する、
態様1~6のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
<態様8>
前記乗り物ペインが、積層安全ガラスとして実施されており、
前記基材(1)が、熱可塑性中間層(3)を介して他のペイン(2)に結合しており、
前記導電性コーティング(4)が、前記基材(1)の、前記中間層(3)に面する表面に配置されており、かつ銀に基づく少なくとも1つの導電層を有する、
態様1~6のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
<態様9>
それぞれの接触部(12.1、12.2)が、前記計測電流経路(14)を除いて、接触分離ライン(15.1、15.2)によって、周囲の前記導電性コーティング(4)から電気的に分離されている、態様1~8のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
<態様10>
前記接触部(12.1、12.2)が、ガラスフリット及び銀粒子を含有する、プリントされ焼成された導電性ペーストとして実施されている、態様1~9のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
<態様11>
前記計測電流経路(14)が、前記接触部(12.1、12.2)の間で、蛇行して、又はループ状の様式で、延在している、態様1~10のいずれか一項に記載の乗り物ペイン。
<態様12>
態様1~11のいずれか一項に記載の乗り物ペイン、電圧源、及び解析ユニットを備える乗り物であって、
前記電気接触部(12.1、12.2)が、前記電圧源及び前記解析ユニットに接続しており、
電圧を前記接触部(12.1、12.2)に適用でき、それにより、前記計測電流経路(14)を通って電流が流れるようになっており、かつ、
前記解析ユニットが、前記電流の電流強度を計測すること、これから前記計測電流経路(14)の電気抵抗を決定すること、及び、較正データを用いることによって前記電気抵抗から温度を決定すること、に適している、
乗り物。
<態様13>
前記解析ユニットが、電流計測装置、及び、計測された前記電流を前記較正データと比較するためのプロセッサを有している、態様12に記載の乗り物。
<態様14>
態様1~11のいずれか一項に記載の乗り物ペインの温度を計測する方法であって、
- 電圧を前記電気接触部(12.1、12.2)に適用し、それにより、前記計測電流経路(14)を通って電流が流れるようにし、
- 前記電流の電流強度を計測し、
- 前記計測電流経路(14)の電気抵抗を、前記電流強度から決定し、かつ、
- 較正データを用いて、前記電気抵抗から、温度を決定する、
方法。
<態様15>
態様1~11のいずれか一項に記載の乗り物ペインの、自動車のウィンドウペインとしての使用、特には、ウィンドシールド、サイドウィンドウ、リアウィンドウ、又はルーフパネルとしての使用であって、
前記乗り物ペインの加熱を、計測された温度に応じて制御する、
使用。
【符号の説明】
【0059】
(1) 基材
(2) 他のペイン
(3) 熱可塑性中間層
(4) 導電性コーティング
(5) マスキングプリント
(10) 温度計測フィールド
(11) 分離ライン
(12.1) 第1の電気接触部
(12.2) 第2の電気接触部
(13) 遮断ライン
(13.1) 第1の遮断ライン
(13.2) 第2の遮断ライン
(14) 計測電流経路
(15.1) 第1の接触分離ライン
(15.2) 第2の接触分離ライン