(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】長尺医療器具およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20240719BHJP
A61M 25/09 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61M25/00 612
A61M25/00 500
A61M25/09 500
A61M25/09 550
(21)【出願番号】P 2022554158
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2021036524
(87)【国際公開番号】W WO2022071600
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/037644
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小杉 知輝
(72)【発明者】
【氏名】中西 裕太
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広明
(72)【発明者】
【氏名】各務 直樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 友朗
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-130123(JP,A)
【文献】特許第6723489(JP,B1)
【文献】米国特許第05404887(US,A)
【文献】特開2014-050549(JP,A)
【文献】特開2007-202846(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112023125(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺医療器具であって、
基材部と、
前記基材部の外周表面に塗布された樹脂懸濁液に基づく樹脂製の外層部と、を有し、
前記外層部の表面には、前記樹脂懸濁液の乾燥により生じた亀裂に基づいて形成された不規則に配置される凹部と、前記凹部よりも外周側に外周面が形成された凸部を有する、
長尺医療器具。
【請求項2】
長尺医療器具であって、
基材部と、
前記基材部の外周表面に設けられた樹脂製の外層部とを有し、
前記外層部の表面には不規則に配置される凹部と、前記凹部よりも外周側に外周面が形成された凸部を有し、
前記外層部は、樹脂懸濁液が前記基材部の表面に塗布された後で乾燥されることにより形成され、
前記凹部は、前記外層部に塗布された懸濁液が乾燥されることにより
生じる亀裂に基づいて形成される、
長尺医療器具。
【請求項3】
前記凹部は周方向及び長軸方向に線状に不規則に配置される、
請求項1又は2のいずれかに記載の長尺医療器具。
【請求項4】
前記外層部を形成する前記樹脂懸濁液は、フッ素樹脂粒子を含む
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の長尺医療器具。
【請求項5】
前記フッ素樹脂粒子は、パーフルオロアルコキシアルカンの粒子である
請求項4に記載の長尺医療器具。
【請求項6】
前記長尺医療器具は、前記基材部と、前記基材部の周方向外周にコイル部材を配置される第1領域と、前記第1領域の基端側において、前記基材部の周方向外周に樹脂製の外層部が配置された第2領域とを有するガイドワイヤであって、
前記第2領域において前記凹部を有する、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の長尺医療器具。
【請求項7】
前記基材部は、管状体と、前記管状体の外周側に形成される補強体とを有し、前記外層部は前記管状体と前記補強体とを被覆する、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の長尺医療器具。
【請求項8】
前記補強体の外周側であって前記外層部との間に、前記補強体との接着性を高めた樹脂により形成される接着層を有する、
請求項7に記載の長尺医療器具。
【請求項9】
前記接着性を高めた樹脂は、接着性官能基を有するフッ素樹脂である
請求項8に記載の長尺医療器具。
【請求項10】
前記接着性官能基を有するフッ素樹脂は、接着性官能基を有するパーフルオロアルコキシアルカンである
請求項9に記載の長尺医療器具。
【請求項11】
前記基材部は、管状体と、前記管状体の外周側に形成される補強体と、前記管状体を被覆すると共に前記補強体を埋没するように形成される中間樹脂層と、を有し、
前記外層部は前記管状体と前記補強体とを被覆する、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の長尺医療器具。
【請求項12】
前記中間樹脂層と前記外層部は異なる樹脂で形成され、前記中間樹脂層との接着性を高めた樹脂により形成される接着層が前記中間樹脂層と前記外層部との間に形成される、
請求項11に記載の長尺医療器具。
【請求項13】
前記接着層を形成する樹脂は、接着性官能基を有するフッ素樹脂である
請求項12に記載の長尺医療器具。
【請求項14】
前記接着性官能基を有するフッ素樹脂は、接着性官能基を有するパーフルオロアルコキシアルカンである
請求項9に記載の長尺医療器具。
【請求項15】
基材部を準備する第1工程と、
前記基材部の外周に樹脂懸濁液を塗布する第2工程と、
前記基材部に塗布された前記樹脂懸濁液を乾燥させる第3工程と、
前記樹脂懸濁液の被膜を焼結させる第4工程と、を有し、
前記第3工程において、乾燥された前記樹脂懸濁液の被膜には亀裂が形成され、前記第4工程後において前記亀裂に起因する凹部が表面に形成される
長尺医療器具の製造方法。
【請求項16】
前記第1工程と前記第2工程との間に、前記基材部に対する接着性を高めた樹脂により接着層を形成する第5工程を有する、
請求項1
5に記載の長尺医療器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、長尺医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
ガイドワイヤ、カテーテル等の長尺医療器具を体内へ挿入した際の低摩擦性を実現するために、長尺医療器具の表面を親水性樹脂又はフッ素樹脂で被覆し、その表面に凹凸を形成する技術は知られている(特許文献1,2)。この技術により、長尺医療器具と体内の管状組織との接触面積を低減させることができる。長尺医療器具を血管へ挿入する場合、健康な非病変部では血管自体が血圧により管状構造を保つことができ、さらに血液は相対的に粘性が低いため、その技術は有効であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2009/081844号
【文献】特開2008-125523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摩擦の大きな生体管組織内を通過する際の低摩擦性を向上し得る長尺医療器具について検討する。長尺医療器具を体内へ挿入する際の摩擦が高い場合がある。例えば、体内に存在する生体管組織のうち、大動脈弓又は内頚動脈等の屈曲の強い血管部位、正常な血管と比較して柔軟性の高い消化管、血液と比較して粘性の高い液体が存在する病変血管部又は消化管において、長尺医療器具を体内へ挿入した際の摩擦が高くなる。
【0005】
そこで本開示は、生体管組織内を通過する際の低摩擦性を向上できるようにした長尺医療器具およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様にかかる長尺医療器具は、基材部と、基材部の外周表面に塗布された樹脂懸濁液に基づく樹脂製の外層部と、を有し、外層部の表面には、樹脂懸濁液の乾燥により生じた亀裂に基づいて形成された不規則に配置される凹部と、凹部よりも外周側に外周面が形成された凸部を有する。
【0007】
本開示において「不規則に配置される凹部」とは、単一または複数の組合せられた所定のパターンに基づいて形成された凹部ではなく、全体として所定のパターンに規制されない凹部であることを指す。即ち、長尺医療器具の樹脂製の外層部に形成される凹部は、その深さと開口幅と複数の凹部が形成される間隔とにおいて、製造において生じるばらつきよりも大きな所定のばらつきを有する。
【0008】
本開示の他の態様にかかる長尺医療器具は、基材部と、基材部の外周表面に設けられた樹脂製の外層部とを有し、外層部表面には不規則に配置される凹部と、凹部よりも外周側に外周面が形成された凸部を有し、外層部は、樹脂懸濁液が基材部の表面に塗布された後で乾燥されることにより形成され、凹部は、外層部に塗布された懸濁液が乾燥されることにより形成される。
凹部は周方向及び長軸方向に線状に不規則に配置されてもよい。
外層部を形成する樹脂懸濁液は、フッ素樹脂粒子を含んでもよい。
フッ素樹脂粒子は、パーフルオロアルコキシアルカンの粒子であってもよい。
【0009】
長尺医療器具は、基材部と、基材部の周方向外周にコイル部材を配置される第1領域と、第1領域の基端側において、基材部の周方向外周に樹脂製の外層部が配置された第2領域とを有するガイドワイヤであって、第2領域において凹部を有することもできる。
【0010】
基材部は、管状体と、管状体の外周側に形成される補強体とを有し、外層部は管状体と補強体とを被覆してもよい。
【0011】
補強体の外周側であって外層部との間に、補強体との接着性を高めた樹脂により形成される接着層を有してもよい。
接着性を高めた樹脂は、接着性官能基を有するフッ素樹脂であってもよい。
【0012】
接着性官能基を有するフッ素樹脂は、接着性官能基を有するパーフルオロアルコキシアルカンであってもよい。
基材部は、管状体と、管状体の外周側に形成される補強体と、管状体を被覆すると共に補強体を埋没するように形成される中間樹脂層と、を有し、外層部は管状体と補強体とを被覆してもよい。
中間樹脂層と外層部は異なる樹脂で形成され、中間樹脂層との接着性を高めた樹脂により形成される接着層が中間樹脂層と外層部との間に形成されてもよい。
接着層を形成する樹脂は、接着性官能基を有するフッ素樹脂であってもよい。
接着性官能基を有するフッ素樹脂は、接着性官能基を有するパーフルオロアルコキシアルカンであってもよい。
【0013】
本開示のさらに他の態様にかかる長尺医療器具の製造方法は、基材部を準備する第1工程と、基材部の外周に樹脂懸濁液を塗布する第2工程と、基材部に塗布された樹脂懸濁液を乾燥させる第3工程と、樹脂懸濁液の被膜を焼結させる第4工程と、を有し、第3工程において、乾燥された前記樹脂懸濁液の被膜には亀裂が形成され、第4工程後において亀裂に起因する凹部が表面に形成される。
樹脂懸濁液は、フッ素樹脂粒子を含んでもよい。
フッ素樹脂粒子は、パーフルオロアルコキシアルカンの粒子であってもよい。
第1工程と第2工程との間に、基材部に対する接着性を高めた樹脂により接着層を形成する第5工程を有してもよい。
【0014】
基材部に対する接着性を高めた樹脂は、接着性官能基を有するフッ素樹脂層であってもよい。
【0015】
接着性官能基を有するフッ素樹脂は、接着性官能基を有するパーフルオロアルコキシアルカンであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、体内の管状組織との接触面積を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示の実施形態に係るガイドワイヤおよびガイドワイヤを使用するカテーテルの概略図である。
【
図2】長尺医療器具の例としてのガイドワイヤの一部を示す縦断面図である。
【
図3】ガイドワイヤの表面に凹部を形成する工程を示す説明図である。
【
図4】ガイドワイヤの表面に亀裂が形成された状態を示す外観図である。
【
図5】ガイドワイヤの一部を拡大して示す外観図である。
【
図6】比較例のガイドワイヤの一部を拡大して示す外観図である。
【
図7】ガイドワイヤの外径を測定する装置を示す斜視図である。
【
図8】外層部に凹部を有するガイドワイヤの外径寸法を軸方向に沿って測定したデータのグラフである。
【
図9】
図8の測定データをFFT解析した波形図である。
【
図10】
図8の測定データのFFT解析結果を示すテーブルである。
【
図11】外層部に凹部を有するガイドワイヤの外径寸法を測定した結果を示すテーブルである。
【
図12】比較例のガイドワイヤの外径寸法を軸方向に沿って測定したデータのグラフである。
【
図14】
図12の測定データのFFT解析結果を示すテーブルである。
【
図15】比較例のガイドワイヤの外径寸法を測定した結果のテーブルである。
【
図16】ガイドワイヤの有するテーパ部の外径寸法を測定した結果を示すテーブルである。
【
図17】ガイドワイヤの表面に不規則な凹部が形成された他のケースについての解析結果テーブルである。
【
図19】外形寸法測定データのFFT解析結果を示すグラフである。
【
図20】ガイドワイヤの表面に不規則な凹部が形成されたさらに他のケースについての解析結果テーブルである。
【
図22】外径寸法測定データのFFT解析結果を示すグラフである。
【
図23】表面に凹部を有するガイドワイヤと表面に凹部を有さないガイドワイヤとの摺動抵抗を比較して示すグラフである。
【
図24】実施例2に係る医療用チューブの縦断面図である。
【
図25】医療用チューブの表面に凹部を形成する工程を示す説明図である。
【
図26】実施例3に係る医療用チューブの縦断面図である。
【
図27】医療用チューブの表面の凹部を形成する工程を示す説明図である。
【
図28】実施例4に係るガイドワイヤの遠位側についての測定データをFET解析したテーブルである。
【
図29】ガイドワイヤの近位側についての測定データをFET解析したテーブルである。
【
図30】ガイドワイヤの測定データを示すテーブルである。
【
図31】ガイドワイヤからコアワイヤを除いた外層部(外層樹脂と表記)の変動を測定したデータを示すテーブルである。
【
図32】他の態様のガイドワイヤの測定データを示すテーブルである。
【
図33】ガイドワイヤからコアワイヤを除いた外層部(外層樹脂と表記)の変動を測定したデータを示すテーブルである。
【
図34】さらに他の態様のガイドワイヤの測定データを示すテーブルである。
【
図35】ガイドワイヤからコアワイヤを除いた外層部(外層樹脂と表記)の変動を測定したデータを示すテーブルである。
【
図36】
図30に対応するガイドワイヤの遠位側の測定データおよび拡大外観図である。
【
図37】
図30に対応するガイドワイヤの近位側の測定データおよび拡大外観図である。
【
図38】
図32に対応するガイドワイヤの測定データおよび拡大外観図である。
【
図39】
図34のガイドワイヤに対応する測定データおよび拡大外観図である。
【
図40】種々のガイドワイヤについて解析されたMPFおよびMDFの値を示すテーブルである。
【
図42】実施例5に係るガイドワイヤについての測定データを解析したテーブルである。
【
図43】直径0.79mmのガイドワイヤの拡大外観図および外径データなどを示す説明図である。
【
図44】直径0.79mmの他のガイドワイヤの拡大外観図および外径データなどを示す説明図である。
【
図45】直径0.70mmのガイドワイヤの拡大外観図および外径データなどを示す説明図である。
【
図46】直径0.55mmのガイドワイヤの拡大外観図および外径データなどを示す説明図である。
【
図47】直径0.415mmのガイドワイヤの拡大外観図および外径データなどを示す説明図である。
【
図48】直径0.415mmの他のガイドワイヤの拡大外観図および外径データなどを示す説明図である。
【
図49】直径0.415mmのさらに他のガイドワイヤの拡大外観図および外径データなどを示す説明図である。
【
図50】直径0.415mmの他のガイドワイヤの拡大外観図および外径データなどを示す説明図である。
【
図51】直径0.415mmのさらに別のガイドワイヤの拡大外観図および外径データなどを示す説明図である。
【
図52】ガイドワイヤが使用される血管の例を示す説明図である。
【
図53】下肢血管モデルにガイドワイヤを使用した状態を示す説明図である。
【
図54】0.415mmのガイドワイヤに対して樹脂をコーティングする速度を変えた場合のMPFを示すグラフである。
【
図55】0.415mmのガイドワイヤを、樹脂のコーティング速度別に、模擬血管が強湾曲した箇所に使用した場合の摺動抵抗値と模擬血管が緩湾曲した箇所に使用した場合の摺動抵抗値を比較して示すグラフである。
【
図56】樹脂をコーティングする速度を変えて作成された複数のガイドワイヤについてのMPFと、それら複数のガイドワイヤを模擬血管の強湾曲部に使用した場合の摺動抵抗値とを示すテーブルである。
【
図57】樹脂をコーティングする速度を変えて作成された複数のガイドワイヤについてのMPFと、それら複数のガイドワイヤを模擬血管の緩湾曲部に使用した場合の摺動抵抗値とを示すテーブルである。
【
図58】
図56の測定データと
図57の測定データとを、模擬血管の湾曲の種類で対比させたグラフである。
【
図59】ガイドワイヤにPFAをコーティングした場合の摺動抵抗値とPTFEをコーティングした場合の摺動抵抗値とを比較して示すグラフである。
【
図60】実施例6に係るカテーテルの、凹部の深さ寸法(しわの深さ)、MPF、MDF、膜厚、パワー値の累積値を示すテーブルである。
【
図61】カテーテルの近位側(チューブ_上と表記)の外観の拡大図である。
【
図62】MDFとMPFの値を示すテーブルである。
【
図63】カテーテルの外径をカテーテルの長さ方向に沿って示すグラフである。
【
図65】カテーテルの近位側のデータを解析した結果を示すテーブルである。
【
図66】カテーテルの近位側の外径データの測定結果を示すテーブルである。
【
図67】カテーテルの中央付近(チューブ_中と表記)の外観の拡大図である。
【
図68】MDFとMPFの値を示すテーブルである。
【
図69】カテーテルの外径をカテーテルの長さ方向に沿って示すグラフである。
【
図71】カテーテルの中央付近のデータを解析した結果を示すテーブルである。
【
図72】カテーテルの中央付近の外径データの測定結果を示すテーブルである。
【
図73】カテーテルの遠位側(チューブ_下と表記)の外観の拡大図である。
【
図74】MDFとMPFの値を示すテーブルである。
【
図75】カテーテルの外径をカテーテルの長さ方向に沿って示すグラフである。
【
図77】カテーテルの遠位側のデータを解析した結果を示すテーブルである。
【
図78】カテーテルの遠位側の外径データの測定結果を示すテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の一態様では、後述するように 長尺医療器具の表面に、体内の管状組織との接触面積を低減するための複数の凹部を設ける。それら複数の凹部は、周方向及び長軸方向に、線状に形成される。これにより、本開示にかかわる長尺医療器具は、摩擦の大きな生体管組織内を通過する際の摩擦抵抗が小さくなる。本開示にかかる長尺医療器具は、その表面に複数の凹部を有するため、長尺医療器具の表面と血管の内壁との接触面積を少なくすることができる。したがって、本開示にかかる長尺医療器具を、例えば、屈曲の強い血管部位内へ挿入する場合、低摩擦性を実現することができる。
【0019】
本実施形態では、基材部の外周表面に樹脂懸濁液を塗布して外層部を形成し、外層部は、樹脂懸濁液の乾燥に基づいて形成された不規則に配置される凹部と、凹部よりも外周側に外周面が形成された凸部とを有する。
【0020】
一つの態様として、長尺医療器具は、基材部と、基材部の外周表面に設けられた樹脂製の外層部とを有し、外層部表面には不規則に配置される凹部と、凹部よりも外周側に外周面が形成された凸部を有し、外層部は、樹脂懸濁液が基材部の表面に塗布された後で乾燥されることにより形成され、凹部は、外層部に塗布された懸濁液が乾燥されることにより形成される。
【0021】
凹部は線状に形成され、長尺医療器具の周方向及び長軸方向に不規則に配置されてもよい。外層部を形成する樹脂懸濁液は、フッ素樹脂粒子を含んでもよい。
【0022】
本開示の長尺医療器具は、所定の管状組織に挿入したときの摩擦抵抗を低減させることができる。所定の管状組織とは、例えば、正常な血管と比較して柔軟性の高い消化管、又は、血液と比較して粘性の高い液体が存在する病変血管部もしくは消化管である。
【0023】
本開示の他の観点では、摺動性を改善できるようにした長尺医療器具を提供する。この観点では、外層部の表面に不規則に配置された凹部により、長尺医療器具に接触する血管内壁等の生体壁との間の摺動抵抗、または長尺医療器具を挿通させる別の長尺医療器具のルーメン内壁との間の摺動抵抗を小さくすることができる。
【0024】
以下、本開示の実施形態について説明する。本実施形態に係る長尺医療器具は、ガイドワイヤ1,1Aまたはカテーテル2のような長尺医療器具として構成される。長尺医療器具は、基材部11,11Aと、基材部11,11Aの表面に設けられた樹脂製の外層部12,12Aとを有する。凹部13は、後述のように、基材部11,11Aに樹脂懸濁液を塗布して外層部12,12Aを形成する際に、長尺医療器具の周方向および長軸方向に不規則に形成される。凹部13は、基材部11,11Aに塗布された樹脂懸濁液が乾燥する際に生じる亀裂130に基づいて、不規則に形成される。一つの観点では、外層部12,12Aの表面には、不規則に配置される凹部と、凹部よりも外周側に外周面が形成された凸部14とが設けられる。
【0025】
他の観点では、長尺医療器具は、基材部11,11Aと、基材部11,11Aの周方向外周にコイル部材23を配置される第1領域A1と、第1領域A1の基端側(術者の手元側または近位側)において、基材部11,11Aの周方向外周に樹脂製の外層部12,12Aが配置された第2領域A2とを有するガイドワイヤ1である。ガイドワイヤ1は、第2領域A2において凹部を有する。
【0026】
基材部11Bは、管状体111Bと、管状体111Bの外周側に形成される補強体113Bとを有し、外層部12Bは管状体111Bと補強体113Bとを被覆してもよい。
さらに他の観点では、凹部13は、外層部12,12Aのうち実質的に平坦な表面121に、不規則に配置される。実質的に平坦な表面121とは、本開示に係る凹部13を除いて、凹凸がなく、平らである面である。換言すれば、実質的に平坦な表面121とは、本開示に係る凹部13が存在しない場合において、凹凸のない面である。ガイドワイヤ1またはカテーテル2などの長尺医療器具がコイル形状などの凹凸部分を有する場合、その凹凸部分に対応する表面には凹凸が現れる。
【0027】
したがって、実質的に平坦な表面121は、外層部12,12Aの下側にコイルが配置されていない領域に対応する表面でもよい。例えば、長尺医療器具1がバルーンカテーテルの場合は、バルーンよりも基端側の領域(バルーンの形成されていない領域)が実質的に平坦な表面121の例である。長尺医療器具1がガイドワイヤの場合は、ガイドワイヤ先端のコイルが形成された領域よりも基端側の領域(コイルの設けられていない領域)が実質的に平坦な表面121の例である。
【0028】
実質的に平坦な表面121以外の表面に本開示に係る凹部13が不規則に形成されている場合も、本開示の範囲に含まれる。例えば、コイル形状に対応する外層部12の表面に、コイル形状に起因する凹凸と共に、凹部13が形成された長尺医療器具は、本開示の長尺医療器具の一種である。
【0029】
凹部13の形状は、不定形状の線状部でもよい。凹部13の形状は、空間周波数3~10(1/mm)を含んでもよい。
【0030】
不規則に配置される(形成される)不定形状の凹部13は、外層部12,12Aの表面に不規則に形成される不定形状の線状部13と表現することもできる。または、不定形状の凹部13は、外層部12,12Aに発生した亀裂130に由来する不定形状の線状部13と表現することもできる。
【0031】
したがって、本実施形態に係る長尺医療器具は、例えば、基材部11,11Aと、基材部11,11Aの表面に設けられた樹脂製の外層部12,12Aとを有し、外層部12,12Aの表面側の所定の領域121には、不規則に形成される複数の不定形状の線状部13であって、基材部11,11Aへ向けてくぼむ線状部12が設けられている、と表現してもよい。
【0032】
本実施形態に係る長尺医療器具は、例えば、基材部11,11Aと、基材部11,11Aの表面に設けられた樹脂製の外層部12,12Aとを有し、外層部12,12Aの表面側の所定の領域121には、外層部12,12Aに発生した亀裂に由来して不規則に形成される複数の不定形状の線状部13であって、基材部11,11Aへ向けてくぼむ線状部12が設けられている、と表現してもよい。
【0033】
本実施形態として、外層部12,12Aの実質的に平坦な表面121を基準として、それよりも外径が小さくなる方向に形成される凹部により説明をするが、例えば基材部11の径を基準として外径が大きくなる方向に不定形上の凸部14が形成されると把握してもよい。
【0034】
以下、長尺医療器具としてガイドワイヤ1を例に挙げて説明する。しかし、本開示はガイドワイヤ1に限らず、カテーテル2にも適用することができる。カテーテル2の表面に設けられる外層部に不定形状の凹部を不規則に形成することもできる。本開示は、ガイドワイヤまたはカテーテル2だけでなく、血管又は消化管のような管状生体組織に挿通される治療用の長尺な医療部材(例えば内視鏡)に適用可能である。
【実施例1】
【0035】
図1~
図18を用いて実施例1を説明する。
図1に示すように、カテーテル2は、例えば、狭窄部又は閉塞部を診断又は治療するために用いられる。カテーテル2は、バルーンカテーテル、マイクロカテーテル、心臓カテーテル、肺動脈カテーテル、血管造影用カテーテル、尿道カテーテル、消化器カテーテルなどでもよい。
【0036】
カテーテル2は、カテーテルシャフト21と、カテーテルシャフト21の基端側に接合されたコネクタ22とを備える。カテーテルシャフト21は、例えばコイル体と、コイル体の外側を被う樹脂チューブとを備えている(いずれも図示せず)。コイル体の内周側には、ガイドワイヤ1または他のカテーテルを挿通可能なルーメン(不図示)がコイル体の長手方向にわたって形成されている。
【0037】
図2は、本実施例に係るガイドワイヤ1を拡大して示す縦断面図である。ガイドワイヤ1は、「基材部」の一例としての芯材11と、芯材11の表面を覆うようにして密着して設けられた外層部12とを有し、外層部12の表面には不定形状の凹部13が不規則に形成されている。ガイドワイヤ1は、芯材11と外層部12との間に図示しない異なる樹脂層等を含んでよい。なお、芯材11の先端側には、コイル状の部分が設けられることがあるが、図示は省略する。
図2は、ガイドワイヤ1のうち、コイル状の部分が存在しない領域を拡大して示している。凹部13の深さ寸法h1は、一定値ではなくばらばらである。ただし、凹部13の深さ寸法h1が外層部12の厚さ寸法を超えることはない。符号10は、ガイドワイヤ1の中心軸である。
不定形状の凹部13は、
図5に示すように、ガイドワイヤ1の表面に複数形成されるしわ形状の線状部であり、芯材11側に向けて凹んでいる。
【0038】
図2の下側には、凹部13の横断面の概略が示されている。
図3には、凹部13を形成する方法が示されている。
図2および
図3を参照して説明する。
【0039】
コーティング工程S1では、外層部12の材料となるPFAディスパージョンを用いて芯材11をディップコートする。PFAディスパージョンとは、PFAの粒子(分散質)を水などの分散媒に分散させた懸濁液である。芯材11の全長にわたって全周をディップコートしてもよいし、芯材11のうち所定範囲の全周をディップコートしてもよい。分散質は、PFAに限らない。熱可塑性樹脂であって、摩擦抵抗の少ない樹脂であれば外層部12の材料として用いることができる。
【0040】
仮焼成工程S2では、ディップコートされた芯材11を、第1温度TEMP1で第1時間t1加熱することにより、分散媒を蒸発させて乾燥させる。仮焼成工程は、乾燥工程と表現することもできる。
【0041】
第1温度TEMP1は、例えば、分散媒の蒸発温度以上であって、かつ、分散質の融点よりも低い温度の範囲から選択してもよい(分散媒の蒸発温度≦TEMP1<分散質の融点)。第1時間t1は、分散媒の蒸発に必要な所定時間に定めることができる。
【0042】
芯材11に懸濁液を塗布し第1温度TEMP1で加熱することにより、懸濁液の表面から分散媒が蒸発して、分散質が膜状に固結する。その内部では、懸濁液の状態が維持される。表面の膜状となった分散質の内周側において、懸濁液中の分散媒が表面近くから順に蒸発をして懸濁液の体積が減少することにより、表面の膜状の分散質の一部が陥没する。懸濁液中の分散媒の蒸発が継続する間、表面の膜状の分散質の陥没は継続し、亀裂130が発生する。本焼成工程S3において、第1温度TEMP1よりも高い温度での加熱により分散媒が急激に蒸発する。本焼成工程S23では、分散媒の剥離が発生しない程度に懸濁液中の分散媒が十分に蒸発することにより、仮焼成工程S2での外層部12となる懸濁液が乾燥される。例えば分散媒としてエチレングリコールを含有する懸濁液を用いた場合、第1温度TEMP1として約200℃で2分間程度加熱することにより、亀裂130が発生する。
【0043】
仮焼成工程S2により、ガイドワイヤ1の表面に設けられた樹脂製の外層部12には、
図2の左下に示すように亀裂130が発生する。
図2の左下では、一つの亀裂130を拡大して模式的に示すが、実際には、
図4の外観図に示すように、仮焼成工程S2終了後のガイドワイヤ1の表面には、複数の亀裂130が形成される。
【0044】
図3に戻り、本焼成工程S3では、表面に亀裂130の発生したガイドワイヤ1を、第2温度TEMP2で第2時間t2加熱することにより、本焼成する。仮焼成工程を乾燥工程と呼ぶならば、本焼成工程は焼成工程と呼ぶこともできる。なお仮焼成工程と本焼成工程は、時間的に連続して行われてよい。
【0045】
第2温度TEMP2は、仮焼成時の第1温度TEMP1よりも高く設定される(TEMP1<TEMP2)。第2温度TEMP2は、分散質の融点(ここではPFAの融点)以上に設定される。
【0046】
第2時間t2は、亀裂130の上側の樹脂が溶けて亀裂130内に流入し、かつ亀裂130が流入した樹脂により完全に埋没されない程度の時間に設定することができる。次に、第1時間t1と第2時間t2の関係を説明する。仮焼成の時間である第1時間t1は、本焼成の時間である第2時間t2以上に設定してもよい(t1≧t2)。第1時間t1と第2時間t2とは、同一値または近い値に設定されてもよい。
【0047】
図2の右下に示すように、亀裂130に外層部12の表面側の樹脂が溶けて流れ込むことにより、凹部13が形成される。凹部13は、亀裂130に由来して形成されるため、亀裂13と同様の不定形状の線状となる。凹部13の横断面は、亀裂130の横断面に比べてなだらかとなる。
【0048】
このように、凹部13は、仮焼成工程S2で発生する亀裂130に由来して形成されるため、外層部12の表面に不規則に発生する不定形状の線状凹部13となる。曲線または直線のいずれかまたは両方を含む凹部13は、しわ形状と呼ぶこともできる。
【0049】
図4は、上述の通り、仮焼成工程S2が終了したときのガイドワイヤ1の表面の一部を拡大して示す。
図5は、本焼成工程S3が終了したときのガイドワイヤ1の表面の一部を拡大して示す。
図4と
図5とは異なる場所を拡大しており、倍率も異なるため、亀裂130の形状と凹部13の形状とが対応していないが、実際には、上述の通り、亀裂130に周辺の樹脂が溶けて流れ込むことにより凹部13が形成されるため、亀裂130の平面視での形状と凹部13の平面視での形状とはほぼ対応する。ただし、小さい亀裂130は流れ込んだ樹脂により埋まる可能性もある。
【0050】
図6は、比較例としてのガイドワイヤ1CEの一部を拡大して示す。比較例としてのガイドワイヤ1CEの表面には、不定形状の凹凸13が形成されていない。
図6に示すガイドワイヤ1CEを
図5の外観図の倍率よりも高い倍率で観測したならば、その表面に凹凸が現れるであろうが、それは意図的に形成されたものではない。
【0051】
図7は、ガイドワイヤ1の外径寸法を測定する測定装置3を示す。外径測定装置3は、例えば、フレーム31と、挿通孔33を有する平板部32と、外径測定器34と、リニアアクチュエータ35と、測定制御装置36とを備える。外径測定器34と測定制御装置36は、例えば株式会社キーエンスの超高速・高精度寸法測定器LS-9000シリーズの測定ヘッドLS-9006とコントローラLS-9500を用いることができる。
【0052】
フレーム31は、平坦な床面から上方に延びており、その上下方向の途中には平板部32が取り付けられている。平板部32には、ガイドワイヤ1が挿通される挿通孔33が形成されている。挿通孔33の周囲には、外径測定器34が配置されている。外径測定器34は、例えばレーザ光によって対象物の外径寸法を測定するもので、投光器と受光器とが挿通孔33を挟んで対向して配置されている。
【0053】
平板部32には、挿通孔33からやや離れた位置で、リニアアクチュエータ35が垂直に設けられている。リニアアクチュエータ35は、ガイドワイヤ1の一方の端部(
図7中ではガイドワイヤ1の上端部)を保持しながら、測定制御装置36からの制御信号にしたがって、一定速度で上方へ垂直に移動する。
【0054】
リニアアクチュエータ35によってガイドワイヤ1が垂直方向に一定速度で引き上げられる間に、外径測定器34はガイドワイヤ1の外径寸法をリアルタイムで測定し、測定制御装置36へ出力する。
【0055】
図7の測定装置3を用いて、例えば、外径測定のサンプリング周期8000回/秒、垂直移動速度10mm/秒、測定長30mmとして測定をすればよい。かかる測定により得られた本実施例および比較例のガイドワイヤの外形寸法データについて、以下に説明をする。
【0056】
図8は、外層部12の表面に不規則に不定形状の凹凸13が形成されたガイドワイヤ1の外径寸法を、
図7で述べた外径測定装置3により計測した結果(生データ)を示すグラフである。縦軸は外径寸法(μm)を示し、横軸はガイドワイヤ1の長さ方向の位置を示している。
図8のグラフから、本実施例のガイドワイヤ1の表面には、凹み方の様々な凹部13が不規則に形成されていることがわかる。
【0057】
図9は、
図8に示す測定データをFFT解析した結果を示す波形図である。縦軸はパワー値を示し、横軸は空間周波数(1/mm)を示す。
図9の波形図によれば、凹凸13を示す波形は、下限値SF1から上限値SF2までの範囲の空間周波数を含む。下限値SF1は1(1/mm)であり、上限値SF2は10(1/mm)である。すなわち、1~10(1/mm)の空間周波数を含む凹部13が形成されると、摺動抵抗が低減されることが実験から求められた。さらには、3~10(1/mm)の空間周波数を含むように、平面視の形状および横断面形状の様々な凹凸13をガイドワイヤ1の表面に不規則に形成すれば、
図18で後述する効果を得ることができる。
【0058】
図10は、凹部13を有するガイドワイヤ1の外径寸法をFFT解析した結果を示すテーブルT1である。
【0059】
テーブルT1の第1行目(1)に記載の通り、本実施例のガイドワイヤ1では、MPFは5.7232であり、MDFは5.542である。テーブルT1の第2行目(2)に記載の通り、パワー値が0.01よりも大きいデータが289個ある。
【0060】
テーブルT1の第3行目(3)~第7行目(7)には、MPFに対する空間周波数の範囲を変えたときのデータ分布状況を示す。第3行目(3)に示すように、全ての空間周波数範囲でのパワー値の累積値は7.834504である。第4行目(4)に示すように、MPFのプラスマイナス4の空間周波数の範囲では、累積値は6.24272となる。その分布比率は80%である。第5行目(5)に示すように、MPFのプラスマイナス3の空間周波数の範囲では、累積値は5.40852となる。その分布比率は69%である。第6行目(6)に示すように、MPFのプラスマイナス2の空間周波数の範囲では、累積値は3.95915である。その分布比率は51%である。第7行目(7)に示すように、MPFのプラスマイナス1の空間周波数の範囲では、累積値は2.10406である。その分布比率は27%であり、プラスマイナス4の空間周波数の分布比率とプラスマイナス1の空間周波数の分布比率の比率差は53%である。
【0061】
テーブルT1の第8行目(8)に示すように、空間周波数が3~10(1/mm)の範囲では、累積値は5.546508である。その分布比率は71%である。
【0062】
図11は、外層部12に凹部13を有するガイドワイヤ1の外径寸法を測定した結果を示すテーブルである。単位はμmである。外径寸法の最大値は573.1、外径寸法の最小値は556、外径寸法の中央値は564.55、外径寸法の平均値は567.6373、外径寸法の変動値は2.452621である。
【0063】
外径寸法の変動に着目すると、外径寸法の最小値に対する外径変動の最大値は17、外径変動の最小値は0、外径変動率は3.0%である。外径寸法の平均値に対する外径変動値は5.362737から-11.6373であり、外径変動率は+0.94から-2.05%である。外径寸法の中央値に対する外径変動値は8.45から-8.55であり、外径変動率は+1.50から-1.51%である。
【0064】
図12は、比較例のガイドワイヤ1CEの外径寸法を軸方向に沿って測定したデータのグラフである。縦軸は外径寸法(μm)を示し、横軸はガイドワイヤ1の長さ方向の位置を示す。
図12のグラフから、比較例のガイドワイヤ1CEの表面は、
図8に示すガイドワイヤと比較して凹凸が無く滑らかであることがわかる。
【0065】
図13は、
図12に示す測定データをFFT解析した結果を示す波形図である。縦軸はパワー値を示し、横軸は空間周波数(1/mm)を示す。
図13の波形図によれば、比較例としてのガイドワイヤ1CEの表面には凹凸が実質的に存在しないことがわかる。
【0066】
図14は、比較例のガイドワイヤ1CEの外径寸法をFFT解析した結果を示すテーブルT2である。
【0067】
テーブルT1の第1行目(1)に記載の通り、比較例のガイドワイヤ1CEでは、MPFは1.064であり、MDFは0.2441である。テーブルT2の第2行目(2)に記載の通り、パワー値が0.01よりも大きいデータは無い。なお、MPFの値とMDFの値とに生じている乖離は、
図13の1(1/mm)以上においてパワー値が図に現れない程度の変動を有していることによる。かかる変動は、ガイドワイヤの芯材11の加工により生じる径の変動等に起因する。
【0068】
テーブルT2の第3行目(3)~第7行目(7)には、MPFに対する空間周波数の範囲を変えたときのデータ分布状況を示す。第3行目(3)に示すように、全ての空間周波数範囲での累積値は1.51776である。第4行目(4)に示すように、MPFのプラスマイナス4の空間周波数の範囲では、累積値は0.926171となる。その分布比率は61%である。第5行目(5)に示すように、MPFのプラスマイナス3の空間周波数の範囲では、累積値は0.861739となる。その分布比率は57%である。第6行目(6)に示すように、MPFのプラスマイナス2の空間周波数の範囲では、累積値は0.801288である。その分布比率は53%である。第7行目(7)に示すように、MPFのプラスマイナス1の空間周波数の範囲では、累積値は0.612517である。その分布比率は40%である。
【0069】
テーブルT2の第8行目(8)に示すように、空間周波数が3~10(1/mm)の範囲では、累積値は0.357573である。その分布比率は24%である。
【0070】
図15は、ガイドワイヤ1CEの外径寸法を測定した結果を示すテーブルである。単位はμmである。外径寸法の最大値は561.7、外径寸法の最小値は559、外径寸法の中央値は560.35、外径寸法の平均値は560.1724、外径寸法の変動値は0.662483である。詳細は省略するが、比較例のガイドワイヤ1CEの表面は、本実施例の凹部13を有さず、実質的に滑らかであるため、外径寸法の変動は殆どない。
【0071】
図16を用いて、ガイドワイヤ1がテーパ部を有する場合を説明する。
図16は、ガイドワイヤ1のテーパ部の外径寸法を測定した結果を示すテーブルである。
【0072】
図示は省略するが、ガイドワイヤ1は、先端側に向かうにつれて徐々に縮径するテーパ部を有する場合がある。ガイドワイヤ1のテーパ部においては、芯材11にテーパが形成され、さらに凹部13がガイドワイヤ1の表面に形成されるため、テーパ部の外形寸法変化は非テーパ部の外形寸法変化より大きくなる。そのためテーパ部において凹部13が形成されたことによる外形寸法の変化を求めるためには、芯材11の径の変化を相殺するように補正を行った外形寸法変化の数値を求めることが必要となる。
【0073】
外形寸法変化の補正は、テーパ部の先端と基端との間の芯材11の外径の変化を一次関数で近似し、当該一次関数の逆関数等を用い、テーパ部の先端又は基端からの距離に応じて外径値に対して加算又は減算することにより行われる。
【0074】
図16の上側には、ガイドワイヤ1の芯材11に長尺方向10cm当り8μmの縮径を生じているテーパ部上に凹部13が不規則に形成されている場合の測定データの解析値が示されている。
図16の下側には、ガイドワイヤ1CEの芯材11に長尺方向10cm当り8μmの縮径を生じているテーパ部に凹部13が形成されていない場合の測定データの解析値が示されている。単位はμmである。
【0075】
テーブルの上側について説明する。外径寸法の最大値は570.205、外径寸法の最小値は550.655、外径寸法の中央値は560.43、外径寸法の平均値は563.6368、外径寸法の変動値は3.269153である。
【0076】
外径寸法の変動に着目すると、外径寸法の最小値に対する外径変動の最大値は19、外径変動の最小値は0、外径変動率は3.55%である。外径寸法の平均値に対する外径変動値は+6.363237から-12.6368であり、外径変動率は+1.13%から-2.24%である。外径寸法の中央値に対する外径変動値は+9.57から-9.43であり、外径変動率は+1.71%から-1.68%である。
【0077】
よって、テーパが存在しない場合と比較して、テーパ部での外形寸法変動は大きくなることから、テーパ部での外形寸法の補正を行うことが必要となる。
【0078】
図17~
図22を説明する。
図17は、ガイドワイヤ1の表面に不規則な凹部13が形成された他のケースについての解析結果テーブルT3である。
図18は、外形寸法の測定を測定したグラフである。
図19は、外形寸法測定データのFFT解析結果を示すグラフである。
図20は、ガイドワイヤ1の表面に不規則な凹部13が形成されたさらに他のケースについての解析結果テーブルT4である。
図21は、外形寸法の測定を測定したグラフである。
図22は、外形寸法測定データのFFT解析結果を示すグラフである。解析結果テーブルT3と解析結果テーブルT4は、樹脂製の外層部12の厚さが、
図8~
図10の解析結果テーブルT1よりも厚く形成した例である。
【0079】
テーブルT1、T3、T4の第1行目(1)に記載の通り、凹部13の形成されたガイドワイヤ1は、MPFは4~7の範囲であり、MDFも4~7の範囲である。第2行目(2)に記載の通り、パワー値が0.01よりも大きいデータは少なくとも100個ある。
【0080】
テーブルT1、T3、T4の第3行目(3)~第7行目(7)に記載の通り、空間周波数プラスマイナス4の分布比率の下限は66%である。空間周波数プラスマイナス1の分布比率の上限は35%である。空間周波数プラスマイナス4の分布比率の下限は、凹凸を形成しているテーブルT1、T3、T4の第4行目(4)の最小値(T4の70%)と凹凸を有しないテーブルT2の第4行目(4)の値(61%)との中央値としている。空間周波数プラスマイナス1の分布比率の上限は、凹凸を形成しているテーブルT1、T3、T4の第7行目(7)の最大値(T3の31%)と凹凸を有しないテーブルT2の第7行目(7)の値(40%)との中央値としている。凹凸を有するテーブルの空間周波数プラスマイナス4の分布比率の下限と空間周波数プラスマイナス1の分布比率の上限との比率差の下限は、31%となる。
【0081】
テーブルT1、T3、T4の第8行目(8)に示すように、空間周波数が3~10(1/mm)の範囲において、カテーテル1の表面に本実施例に係る不規則な凹部13が形成されることがわかる。
【0082】
図23は、表面に凹部13を有する本実施例のガイドワイヤ1の摺動抵抗と表面に凹部を有さない比較例のガイドワイヤ1CEの摺動抵抗とを比較して示すグラフである。縦軸は摺動抵抗の値を示す。
図23では内視鏡が口腔から、食道、胃を経由して十二指腸まで挿入され、当該内視鏡内にガイドワイヤを挿通させる模擬環境を使用した。当該模擬環境において内視鏡が体内へ挿入された当初の、内視鏡のガイドワイヤ挿通ルーメン内に生理食塩水が充填された環境へのガイドワイヤ導入を模擬した場合と、内視鏡内へガイドワイヤを挿入した後、内視鏡先端から胆汁が逆流入してガイドワイヤ挿通ルーメン内に胆汁が充填された環境へのガイドワイヤ導入を模擬した場合とで、ガイドワイヤ1とガイドワイヤ1CEを比較する。斜線部の棒グラフは本実施例のガイドワイヤ1を示し、白抜き棒グラフは比較例のガイドワイヤ1CEを示す。いずれの模擬実験においても、表面に不規則な凹部13を有する本実施例のガイドワイヤ1の方が摺動抵抗の小さいことがわかる。
【0083】
このように構成される本実施例によれば、外層部13のうち実質的に平坦な表面121に、凹部13を不規則に配置することにより、摺動抵抗を小さくすることができる。特に、凹部の形状は、空間周波数3~10(1/mm)の範囲に亘って現れる形状を含むことで、摺動抵抗を低減することができる。
【0084】
MDFまたはMPFの少なくとも一方の値が4~7(1/mm)の場合に摺動抵抗が低減されることは、テーブルT1およびT3の第1行目(1)から明らかである。同じく、MDFまたはMPFの少なくとも一方の値が5(1/mm)以上の場合に摺動抵抗が低減されることは、テーブルT1およびT3の第1行目(1)から明らかである。
【0085】
パワー値が0.01以上の空間周波数が少なくとも10個以上存在する場合に摺動抵抗が低減されることは、テーブルT1およびT3の第2行目(2)から明らかである。
【0086】
パワー値が0.01以上の空間周波数が1~10(1/mm)に分散して存在する場合に、摺動抵抗が低減されることは、
図9のFFT波形図から明らかである。
【0087】
平均周波数成分値のプラスマイナス1(1/mm)の範囲における分布比率が35%より小さい場合に摺動抵抗が低減されることは、テーブルT1およびT3の第7行目(7)から明らかである。
【0088】
平均周波数成分値のプラスマイナス4(1/mm)の範囲における分布比率が約80%以上である場合に摺動抵抗が低減されることは、テーブルT1およびT3の第4行目(4)から明らかである。
【0089】
平均周波数成分値のプラスマイナス1(1/mm)の分布比率とプラスマイナス4(1/mm)の分布比率との差が約50%以上である場合に摺動抵抗が低減されることは、テーブルT1およびT3の第7行目(7)の比率差から明らかである。
【0090】
空間周波数3~10(1/mm)のパワースペクトルが50%以上である場合に摺動抵抗が低減されることは、テーブルT1の第8行目(8)から明らかである。同様に、空間周波数3~10(1/mm)のパワースペクトルが70%以上である場合に摺動抵抗が低減されることは、テーブルT1の第8行目(8)から明らかである。
【0091】
最小外径値に対する外径変動率が3%以上である場合に摺動抵抗が低減されることは、
図11の外径変動率から明らかである。
【0092】
長軸方向1CEmの範囲において、幅が1mm未満で5μm以上の外径変化が10箇所以上存在する場合に摺動抵抗が低減されることは、
図8、
図18、
図22のグラフから明らかである。
【0093】
外層部12がテーパ部を含む場合に、テーパ部による外径変化を除いた外径変動率が最小外径値に対して3%以上であると摺動抵抗が低減されることは、
図16の上側に示すテーパ部に凹部13が形成された場合の測定結果から明らかである。
【実施例2】
【0094】
以下、他の実施例を説明する。本開示では、例えば、以下の観点に着目する。
【0095】
血管内であったとしても、病変部では、粘性の高い粥状血栓を生じていることがある。長尺医療器具の表面の凹部13内に粥状血栓が侵入すると、長尺医療器具の凹部の表面と粥状血栓とが接触するため、摩擦を生じる。
【0096】
体内の他の管状組織である消化管内は、正常な血液と比較して粘性の高い消化液が充満している。長尺医療器具表面の凹部13内に消化液が侵入すると、長尺医療器具の凹部13の表面と消化液とが接触することにより摩擦を生じる。
【0097】
消化管壁は、柔軟性が高く、蠕動運動によって消化管の内径が減少する。このため、表面に凹部13および凸部14を有する長尺医療器具であっても、消化管壁との間に摩擦を生じる。長尺医療器具に形成される凸部14間の距離(あるいは凹部13間の距離)が長い場合、長尺医療器具が消化管へ挿入されると、柔軟な消化管の表面が凹部13内に侵入して接触するため、摩擦を生じる。
【0098】
長尺医療器具の表面に、フッ素樹脂を含む樹脂懸濁液を用いて凹部13を形成することができる。この場合、フッ素樹脂とその内周側に形成される構成部材との間の接着性が低下する可能性がある。フッ素樹脂の内周側に形成される構成部材とは、金属構造体、又はウレタン等の別種樹脂である。すなわち、上述のように、線状の凹部13が不規則に配置された皺状の外層部12を基材部11の表面に形成すると、基材部11と外層部12との接着性が低下する可能性がある。
【0099】
本開示では、上述の観点に鑑みて、以下の構成を採用する。なお、以下の構成の少なくとも一部は実施例1にも記載されているか、または実質的に記載されている。
【0100】
線状の凹部13は、上述の通り、樹脂懸濁液が乾燥することで発生する亀裂に起因して形成される。すなわち、長尺医療器具の表面に塗布される樹脂懸濁液が乾燥されると、亀裂が不規則に発生し、その亀裂に起因して凹部13が形成される。
【0101】
線状の凹部13は、長尺医療器具の周方向90度以上の範囲に亘って形成され、周方向及び長軸方向に不規則に配置される。凹部13は、長尺医療器具の全周に形成されてもよい。
【0102】
凹部13は長尺医療器具の表面の形成される樹脂製の外層部12に形成され、凹部13の深さは外層部12の平均厚さのプラスマイナス7%~プラスマイナス25%となるように形成される。
【0103】
凹部13の形成される外層部12と基材部11の間に接着層を設けることもできる。すなわち、凹部13を形成する樹脂懸濁液の内周側であって、金属構造体又は別種樹脂との間に、接着性官能基を有するフッ素樹脂を接着層として形成し、接着層の外周側に樹脂懸濁液を塗布する。または凹部13の形成される外層部12を、接着性官能基を有するフッ素樹脂の樹脂懸濁液により形成してもよい。かかる構成とすることで、外層部12と基材部11との間の接着性を高めることが可能となる。
【0104】
本開示は、上述の構成を採用するため、以下の効果を奏する。
【0105】
正常な血管内へ長尺医療器具を挿入する場合、長尺医療器具の表面に凹部13が形成されているため、長尺医療器具の表面が血管内壁に接触する面積が減少する。したがって、長尺医療器具を血管内へ挿入する際の低摩擦性を実現することが可能となる。
【0106】
病変血管部への到達前に通過する正常な粘性の低い血液が線状の凹部13内に保留されるため、病変血管部において粥状血栓が凹部13内へ進入することが抑制され、長軸医療器具表面での摩擦を低減させることができる。
【0107】
長尺医療器具を消化管などの管状組織へ挿入する際に、粘性の高い消化液等の液体成分が線状の凹部13に進入する。この場合、凹部13の深部(底部)には、その液体成分中の粘性の低い液体(水分)が優勢に滲出する。したがって、粘性の高い液体成分が凹部13の深部へ進入することを抑制でき、長軸医療器具の表面と管状組織との摩擦を低減させることができる。
【0108】
凹部13は、長尺医療器具の周方向および長軸方向にわたって形成されるため、凹部13内に粘性の高い液体成分が進入した場合でも、その液体成分の少なくとも一部を進入箇所から長尺医療器具の周方向及び/又は長軸方向へ移動させることができる。凹部13へ進入した粘性の高い液体成分の少なくとも一部を当該凹部13と異なる場所へ移動させることにより、長軸医療器具の表面と管状組織との摩擦を低減させることができる。
【0109】
線状の凹部13は、長尺医療器具の表面の周方向及び/又は長軸方向に、不規則に配置されるため、消化管等の柔軟な体組織表面の凹凸と長尺医療器具の表面に形成された凹部13及び凸部14とが一定の距離に亘って一致してしまう可能性を低減できる。したがって、体組織の表面と長尺医療器具の表面との接触面積を減少させることができ、長尺医療器具の表面での摩擦を低減することができる。
【0110】
外層部12と基材部11の間に、金属構造体又は別種樹脂と結合する接着性官能基を有するフッ素樹脂からなる接着層を設けるため、接着層のフッ素樹脂と外層部12のフッ素樹脂とが相溶結合する。これにより、金属構造体又は別種樹脂からなる基材部11と凹部13が形成された外層部12との接着性を向上させることができる。
【0111】
本開示は、長尺医療器具の製造方法への説明を含む。従来技術では、特許文献1,2で示したように、物理的加工または化学的処理の特別に用意された凹凸形成工程によって、長尺医療器具の表面に凹凸を形成している。特別に用意された凹凸形成工程とは、長尺医療器具の外層樹脂が軟質性を保持している間に、凹凸を形成するためのパターンの押し当てる工程、又は、外層樹脂が硬化した後に外層樹脂の表面を研削して凹凸を形成する工程、外層樹脂の表面を部分的に溶解させて凹凸を形成する工程である。従来技術では、長尺医療器具の表面に凹凸を作るためだけの専用工程を特別に用意するため、長尺医療器具の製造工程が複雑化している。
【0112】
これに対し、本開示にかかる長尺医療器具は、基材部に塗布された樹脂懸濁液を乾燥させる工程において、乾燥後の樹脂懸濁液の被膜に亀裂を形成させ、その後、樹脂懸濁液の被膜を焼結させることにより、亀裂に起因する凹部を形成する。すなわち、本開示にかかる長尺医療器具の製造方法では、外層部12を形成する一連の工程の中で、凹部13を形成する。
【0113】
樹脂懸濁液、塗布後の乾燥により亀裂を形成することが可能であれば、媒質である樹脂種別および媒体は問わない。
【0114】
長尺医療器具を体内へ挿入する際の摩擦を低減させるために、樹脂種別はフッ素樹脂又は親水性樹脂であってもよい。フッ素樹脂として、パーフルオロアルコキシアルカンを用いることもできる。
【0115】
媒体は、入手容易性と乾燥容易性および安全性の観点から、水、アルコール、若しくは水またはアルコールを主要成分とする混合液を用いることができる。
【0116】
樹脂懸濁液がフッ素樹脂を有する場合、長尺医療器具の基材部に樹脂懸濁液を塗布する前に、接着性官能基を有するフッ素樹脂からなる接着層を形成してもよい。
【0117】
本開示にかかる長尺医療器具の製造方法によれば、長尺医療器具の表面に凹凸を形成するだけのための専用工程を特別に用意する必要がないため、長尺医療器具の製造工程が複雑化するのを防止できる。本開示にかかる長尺医療器具の製造方法によれば、外層部12と基材部11の間に接着層を形成するため、基材部11と樹脂懸濁液により形成されるフッ素樹脂による外層部12との間の接着性を向上させることができる。
【0118】
図24および
図25を用いて、実施例2を説明する。実施例2と後述の実施例3では、長尺医療器具として医療用チューブを例に挙げて説明する。この医療用チューブ1Aは、例えば、消化器バスケットのシースとして使用することができる。医療用チューブ1Aは、他のカテーテルにも使用することができる。
【0119】
医療用チューブ1Aは、基材部11Aと外層部12Aを有する。基材部11Aは、管状体111Aと、管状体111Aの外周側に設けられた中間樹脂層112Aとを備える。中間樹脂層112Aの外周面には、外層部12Aの内周面との接着性を改善するための接着層113Aが設けられている。接着層113Aは、基材部11Aの一部であると考えてもよい。
【0120】
外層部12Aの表面には、凹部13と凸部14が形成されている。凹部13と凸部14は表裏一体の関係にあると捉えることもできる。すなわち、外層部12Aの平坦な表面を想像した場合に、凹部13の存在しない箇所が凸部14となると考えてもよい。以下、凹部13を中心に説明する。凹部13は、医療用チューブ1Aの周方向および長軸方向にわたって伸びる短い線状に形成されており、不規則に配置される。実際の外観の様子は、後述する。
【0121】
図25は、医療用チューブ1Aの製造方法を示す。第1工程S11では、芯金100Aの外周面に「管状体」としてのPFAチューブ111Aを押し出し成形により設ける。PFAチューブ111Aには表面処理が施される。PFAチューブ111Aへの表面処理は、例えばPFAチューブ111Aと中間樹脂層112Aとの密着性を高めるための処理である。第2工程S12では、PFAチューブ111Aの外周面にPTFE溶液をコーティングすることにより、又は、PFAチューブ111Aの外周にPTFEチューブを押し出し成形で設けることにより、PTFE製の中間樹脂層112Aを形成する。中間樹脂層112Aの表面に接着層113Aを設けることもできる。
【0122】
中間樹脂層112Aの材質は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に限定されない。中間樹脂層112Aとして、PTFE、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ナイロン、およびウレタンからなる群より選ばれた少なくとも1種であってもよい。
【0123】
中間樹脂層112Aとしてナイロンまたはポリウレタン等を使用する場合、ナイロンまたはポリウレタンとPFAとの接着性を改善するために、接着性官能基を有するフッ素樹脂を接着層として用いることができる。すなわち、接着性官能基を有するフッ素樹脂(接着性フッ素樹脂とも呼ぶ)を、ナイロンまたはポリウレタンとPFAとの間に接着層113Aとして用いることができる。
【0124】
第3工程S13では、中間樹脂層112Aの外周面に(中間樹脂層112Aの外側に接着層113Aを設ける場合、接着層113Aの外周面に)PFA溶液をコーティングし、実施例1で述べたと同様に、乾燥および焼成を実施する。
【0125】
第4工程S14では、芯金100Aを引き抜き、医療用チューブ1Aを形成する。
【実施例3】
【0126】
図26および
図27を用いて、実施例3を説明する。医療用チューブ1Bは、基材部11Bと外層部12Bを有する。基材部11Bは、管状体111Bと、管状体111Bの外周側に設けられた中間樹脂層112Bとを備える。中間樹脂層112Bの外周面には、外層部12Bの内周面との接着性を改善するための接着層113Bが設けられている。接着層113Bは、基材部11Bの一部であると考えてもよい。中間樹脂層112Bは、補強体114Bを含んでもよい。
【0127】
外層部12Bの表面には、凹部13と凸部14が形成されている。凹部13は、医療用チューブ1Bの周方向および長軸方向にわたって伸びる短い線状に形成されており、不規則に配置される。実際の外観の様子は、後述する。
【0128】
図27は、医療用チューブ1Bの製造方法を示す。第1工程S21では、芯金100Bの外周面に「管状体」としてのPFAチューブ111Bを押し出し成形により設ける。PFAチューブ111Bには表面処理が施される。
第2工程S22では、PFAチューブ111Bの外周側に補強体114Bを設ける。
【0129】
第3工程S23では、補強体114Bが埋没されるようにして、PTFE溶液をコーティングすることにより、PTFE製の中間樹脂層112Bを形成する。
【0130】
第4工程S24では、中間樹脂層112Bの表面に接着層113Bを設ける。
【0131】
第5工程S25では、接着層113Bの外周面にPFA溶液をコーティングし、実施例1で述べたと同様に、乾燥および焼成を実施することにより、凹部13と凹部14が形成される外層部12Bを形成する。
【0132】
第6工程S26では、芯金100Bを引き抜き、医療用チューブ1Bを形成する。
【実施例4】
【0133】
図28~
図41を用いて実施例4を説明する。実施例4および後述の実施例5では、長尺医療器具としてガイドワイヤを例に挙げて説明する。
【0134】
図28は、実施例4に係るガイドワイヤの遠位側についての測定データをFET解析したテーブルT11である。
【0135】
テーブルT11の第1行目(1)に記載の通り、ガイドワイヤの遠位側では、MPFは3.6613であり、MDFは3.0762である。テーブルT11の第2行目(2)に記載の通り、パワー値が0.01よりも大きいデータが38個ある。
【0136】
テーブルT11の第3行目(3)~第7行目(7)には、MPFに対する空間周波数の範囲を変えたときのデータ分布状況を示す。第3行目(3)に示すように、全ての空間周波数範囲でのパワー値の累積値は1.784349である。第4行目(4)に示すように、MPFのプラスマイナス4の空間周波数の範囲では、累積値は1.462841となる。その分布比率は82%である。第5行目(5)に示すように、MPFのプラスマイナス3の空間周波数の範囲では、累積値は0.928622となる。その分布比率は52%である。第6行目(6)に示すように、MPFのプラスマイナス2の空間周波数の範囲では、累積値は0.695964である。その分布比率は39%である。第7行目(7)に示すように、MPFのプラスマイナス1の空間周波数の範囲では、累積値は0.418422である。その分布比率は23%であり、プラスマイナス4の空間周波数の分布比率とプラスマイナス1の空間周波数の分布比率の比率差は59%である。
【0137】
テーブルT11の第8行目(8)に示すように、空間周波数が3~10(1/mm)の範囲では、累積値は0.888071である。その分布比率は50%である。
【0138】
図29は、実施例4に係るガイドワイヤの近位側についての測定データをFET解析したテーブルT12である。
【0139】
テーブルT12の第1行目(1)に記載の通り、ガイドワイヤ近位側では、MPFは1.7521であり、MDFは0.7568である。テーブルT12の第2行目(2)に記載の通り、パワー値が0.01よりも大きいデータが64個ある。
【0140】
テーブルT12の第3行目(3)~第7行目(7)には、MPFに対する空間周波数の範囲を変えたときのデータ分布状況を示す。第3行目(3)に示すように、全ての空間周波数範囲でのパワー値の累積値は2.819703である。第4行目(4)に示すように、MPFのプラスマイナス4の空間周波数の範囲では、累積値は2.701526となる。その分布比率は96%である。第5行目(5)に示すように、MPFのプラスマイナス3の空間周波数の範囲では、累積値は2.616764となる。その分布比率は93%である。第6行目(6)に示すように、MPFのプラスマイナス2の空間周波数の範囲では、累積値は2.361196である。その分布比率は84%である。第7行目(7)に示すように、MPFのプラスマイナス1の空間周波数の範囲では、累積値は0.683675である。その分布比率は24%であり、プラスマイナス4の空間周波数の分布比率とプラスマイナス1の空間周波数の分布比率の比率差は72%である。
【0141】
テーブルT21の第8行目(8)に示すように、空間周波数が3~10(1/mm)の範囲では、累積値は0.64181である。その分布比率は23%である。
【0142】
図30は、ガイドワイヤの測定データを示すテーブルT13である。このガイドワイヤは、遠位側の直径は0.70mmであり、近位側の直径は0.79mmである。
【0143】
テーブルT13の上側には遠位側の測定データが示されており、テーブルT13の下側には近位側の測定データが示されている。測定データには、外径最大値、外径最小値、外径中央値、外径平均値(いずれも単位はμm)と、外径変動の最大値、外径変動の最小値、外径変動率が含まれる。
【0144】
図31は、ガイドワイヤからコアワイヤを除いた外層部12(外層樹脂と表記)の変動を測定したデータを示すテーブルT14である。
【0145】
ガイドワイヤは、基材部11としてのコアワイヤとコアワイヤの外側に設けられる外層部12としての外層樹脂を備える。不規則に配置される凹部13は、外層樹脂の表面に形成される。コアワイヤ自体は、凹部13の形成に影響を与えない。そこで、本実施例では、凹部13を形成し得る外層樹脂層の厚さに対する、凹部13の深さの程度を示す。
【0146】
テーブルT14の上側には遠位側の外層樹脂の測定データが示されており、テーブルT14の下側には近位側の外層樹脂の測定データが示されている。測定データには、外層樹脂厚の最大値、外層樹脂厚の最小値、外層樹脂厚の中央値、外層樹脂厚の平均値(いずれも単位はμm)と、外層樹脂厚の変動の最大値、外層樹脂厚の変動の最小値、外層樹脂厚の変動率が含まれる。図中では、外層樹脂厚を樹脂厚と表記する。
【0147】
テーブルT14から、外層樹脂厚全体に対する最大凹部の深さ(対最小値)は17%~85%の範囲を有することがわかる。外層樹脂厚の100%となる深さを有する凹部がもしも形成された場合、その凹部を起点として外層樹脂の剥離を生じることになる。したがって、外層樹脂厚100%に到らない凹部13が形成されることになる。
【0148】
図32は、他の態様のガイドワイヤの測定データを示すテーブルT15である。このガイドワイヤの直径は0.53mmである。テーブルT15に記録される測定データには、外径最大値、外径最小値、外径中央値、外径平均値(いずれも単位はμm)と、外径変動の最大値、外径変動の最小値、外径変動率が含まれる。
【0149】
図33は、T15で述べたガイドワイヤについて外層部(外層樹脂と表記)の変動だけを測定したデータを示すテーブルT16である。外層樹脂厚の測定データには、外層樹脂厚の最大値、外層樹脂厚の最小値、外層樹脂厚の中央値、外層樹脂厚の平均値(いずれも単位はμm)と、外層樹脂厚の変動の最大値、外層樹脂厚の変動の最小値、外層樹脂厚の変動率が含まれる。
【0150】
図34は、さらに他の態様のガイドワイヤの測定データを示すテーブルT17である。このガイドワイヤの直径は0.53mmであり、遠位側、中央部、近位側のいずれも直径は同一である。テーブルT17に記録される測定データには、外径最大値、外径最小値、外径中央値、外径平均値(いずれも単位はμm)と、外径変動の最大値、外径変動の最小値、外径変動率が含まれる。
【0151】
図35は、T17で述べたガイドワイヤについて外層部(外層樹脂と表記)の変動だけを測定したデータを示すテーブルT18である。外層樹脂厚の測定データには、外層樹脂厚の最大値、外層樹脂厚の最小値、外層樹脂厚の中央値、外層樹脂厚の平均値(いずれも単位はμm)と、外層樹脂厚の変動の最大値、外層樹脂厚の変動の最小値、外層樹脂厚の変動率が含まれる。
【0152】
図36は、
図30に対応するガイドワイヤの遠位側の測定データおよび拡大外観図である。
図36には、上から順に、外径寸法の元データ(横軸の単位はmm、縦軸の単位はμm)と、外径寸法の元データをFET解析した波形データ(横軸の単位はHz、縦軸の単位は振幅)と、FET解析の波形データの振幅を拡大した波形データと、外観とが示されている。
【0153】
外観に示すように、ガイドワイヤの表面には、その周方向に90度以上の範囲に亘って複数の凹部13が形成されている。形状に着目すると、直線状、S字状または裏返したS字状、蛇行形状、湾曲形状の複数の形状の凹部13が混在していることがわかる。
【0154】
図37は、
図30に対応するガイドワイヤの近位側の測定データおよび拡大外観図である。多くの凹部13は、互いに独立している。しかし、隣接する凹部同士を接続する凹部13bも見られる。
【0155】
図38は、
図32に対応するガイドワイヤの測定データおよび拡大外観図である。
【0156】
図39は、
図34のガイドワイヤに対応する測定データおよび拡大外観図である。
【0157】
図40は、
図36~
図39で述べた複数のガイドワイヤについて解析されたMPFおよびMDFの値を示すテーブルT19である。
図40において、「現行品」及び「先端コート機」は、ガイドワイヤとして使用する所定の長さに切断をした芯線の全体または一部に対して、ディッピング等の手法により樹脂懸濁液を塗布され、乾燥及び焼結を行われたものである。「現行品」「先端コート機」では、芯線の一部に外層及び凹部13の形成が可能である。例えば、ガイドワイヤの先端に外層コイルを付された後に、当該外層コイルが付されている領域を除き、ガイドワイヤの基端側にのみ外層及び凹部13を形成することが可能となる。「連続コート機」は、ロール状に巻回された芯線に対して樹脂懸濁液を塗布され、乾燥及び焼結を行われた後、再度ロール状に巻回されたものである。「連続コート機」では、一定の径を有する芯線の全体に外層及び凹部13の形成がされており、ガイドワイヤの製造においては所定の長さで切断し、先端部の研削等による縮径処理が行われるため、当該縮径処理が行われる範囲では外層は除去されることとなる。
ガイドワイヤの製造においてどちらの製造方法を採用したとしても、外層コイルを付されている領域よりも基端側において外層及び凹部13の形成がされていることが示されている。
【0158】
図41は、
図40のテーブルT19をグラフにして示す説明図である。
【実施例5】
【0159】
図42~
図59を用いて実施例5を説明する。本実施例では、今まで説明してきたガイドワイヤよりも細いガイドワイヤの表面に凹部を形成する場合について説明する。
【0160】
図42は、実施例5に係るガイドワイヤについての測定データを解析したテーブT21ルである。このテーブルT21には、直径0.79mm、直径0.70mm、直径0.55mmのガイドワイヤの測定データに加えて、直径0.415mmのガイドワイヤの測定データが示されている。さらに、直径0.415mmのガイドワイヤについては、皺(凹部13)の形成された場合と、皺の形成されなかった場合とがテーブルT21に記載されている。
【0161】
実施例5では、外層部12となる樹脂をガイドワイヤの表面にコーティングするときの速度V(コーティング速度または外層樹脂形成速度と呼ぶ)を変えて、凹部13の発生状況を測定している。
【0162】
テーブルT21の測定データには、凹部13の深さ(「皺の深さ」と表記)、MPF、MDF、膜厚、パワー値の累積値が含まれている。ここで、皺の深さとは、外径データの凹凸の差の半分として定義される。
直径0.55mmのガイドワイヤの皺の深さとMPFおよびMDFと、直径0.415mmであって皺の形成されたガイドワイヤの皺の深さおよびMPFおよびMDFを比較すると、直径0.55mmのガイドワイヤのMPFおよびMDFと直径0.415mmのガイドワイヤのMPFおよびMDFとに大きな変化は無い。したがって、皺の深さは、MPFおよびMDFに影響を与えないと考えることができる。
【0163】
各直径のガイドワイヤのパワー値の累積値を比較すると、皺の形成されなかったガイドワイヤについてのパワー値の累積値は、他のガイドワイヤのパワー値の累積値に比べてとても低い。したがって、パワー値の累積値から皺の深さをある程度推測可能であると考えることができる。
【0164】
図43は、直径0.79mmのガイドワイヤの拡大外観図および外径データなどを示す説明図である。
図43には、上から順に、ガイドワイヤの外観、ガイドワイヤの外径データのグラフ、外径データをX軸方向に拡大したグラフ、周波数分布、MPFおよびMDFの値を含むテーブルが示されている。MPFおよびMDFの値を含むテーブルは、
図28,
図29で説明したテーブルT11,T12とほぼ同一構造を持つ。
図43の下側にテーブルを拡大して示す。
【0165】
外径データのグラフの縦軸はμmであり、その最大目盛りは「860」である。外径データのグラフの横軸の単位はmmであり、その最大目盛りは「30」である。X軸方向を拡大したグラフの横軸の最大目盛りは「5.0」である。このガイドワイヤのMPFは5.10、MDFは4.81である。
【0166】
図44は、直径0.79mmの他のガイドワイヤの拡大外観図および外径データなどを示す。このガイドワイヤのMPFは6.13、MDFは6.03である。
【0167】
図45は、直径0.70mmのガイドワイヤの拡大外観図およびデータである。このガイドワイヤのMPFは6.90、MDFは6.91である。
【0168】
図46は、直径0.55mmのガイドワイヤの拡大外観図およびデータである。このガイドワイヤのMPFは4.72、MDFは4.52である。
【0169】
図47は、直径0.415mmのガイドワイヤをコーティング速度V1で樹脂コーティングした場合の拡大外観図およびデータである。このガイドワイヤのMPFは4.37、MDFは4.08である。
【0170】
図48は、直径0.415mmのガイドワイヤをコーティング速度V3で樹脂コーティングした場合の拡大外観図およびデータである。このガイドワイヤのMPFは3.53、MDFは0.51である。
【0171】
図49は、直径0.415mmのガイドワイヤをコーティング速度V4で樹脂コーティングした場合の拡大外観図およびデータである。このガイドワイヤのMPFは3.80、MDFは0.49である。
【0172】
図50は、直径0.415mmのガイドワイヤをコーティング速度V5で樹脂コーティングした場合の拡大外観図およびデータである。このガイドワイヤのMPFは2.58、MDFは0.44である。
【0173】
図51は、直径0.415mmのガイドワイヤをコーティング速度V2で樹脂コーティングした場合の拡大外観図およびデータである。このガイドワイヤのMPFは1.88、MDFは0.12である。
【0174】
樹脂コーティング速度について説明する。樹脂コーティング速度とは、ガイドワイヤ(またはカテーテル)の表面に外層部12となる樹脂被膜を形成するときの速度である。本実施例では、コーティング速度V1が最も速く、コーティング速度V2が最も遅い。コーティング速度V3,V4,V5は、コーティング速度V1とV2の間に位置し、V1>V3>V4>V5>V2の関係にある。実施例5の実験結果から、コーティング速度がV2以下になると、外層部12の表面に凹部13が形成されないことがわかる。コーティング速度がV2を超えて速くなるほど凹部13が形成されやすいことがわかる。したがって、実施例5には、例えば「所定の速度以上で基材部11の表面に樹脂懸濁液を塗布することにより、樹脂懸濁液の乾燥により生じた亀裂に基づいて形成され不規則に配置される凹部13」を設けることが開示されている。
【0175】
図52は、ガイドワイヤが使用される血管の例を示す説明図である。模擬血管モデルM1は、例えば、総腸骨動脈に屈曲病変の発生した様子を模して形成されている。ここでは、屈曲Raを緩湾曲部と呼ぶ。緩湾曲部を実現する模擬血管を緩湾曲模擬Raと呼ぶことができる。
【0176】
図53には、強湾曲部Rbの形成された下肢血管モデルM2を示す。強湾曲部Rbの曲率半径は緩湾曲部Raの曲率半径よりも小さい(Rb<Ra)。
【0177】
図54は、0.415mmのガイドワイヤに対して樹脂コーティング速度を変えた場合のMPFの相違を示すグラフである。
【0178】
図55は、0.415mmのガイドワイヤを、樹脂のコーティング速度別に、模擬血管が強湾曲した箇所に使用した場合の摺動抵抗値と模擬血管が緩湾曲した箇所に使用した場合の摺動抵抗値とを比較して示すグラフである。
【0179】
図54および
図55から、コーティング速度が速いほどMPFの値は大きくなり、摺動抵抗値は小さくなる傾向にあることがわかる。さらに、MPFと摺動抵抗値には、負の相関があることがわかる。MPFは平均周波数のことであり、周波数を皺(凹凸)の数として検出するためである。したがって、MPFの値が大きいということは、皺が多いことを意味し、皺が多いほど摺動性が向上すると考えられる。
【0180】
図56は、樹脂のコーティング速度を変えて作成された複数のガイドワイヤについてのMPFと、それら複数のガイドワイヤを模擬血管の強湾曲部Rbに使用した場合の摺動抵抗値とを示すテーブルである。
【0181】
図57は、樹脂のコーティング速度を変えて作成された複数のガイドワイヤについてのMPFと、それら複数のガイドワイヤを模擬血管の緩湾曲部Raに使用した場合の摺動抵抗値とを示すテーブルである。
【0182】
図58は、
図56の測定データと
図57の測定データとを、模擬血管の湾曲の種類Ra,Rbで対比させたグラフである。
【0183】
図56~
図58から、緩湾曲部Raでのガイドワイヤの摺動抵抗値の方が強湾曲部Rbでのガイドワイヤの摺動抵抗値よりも小さくなることがわかる。
【0184】
図59は、ガイドワイヤにPFAをコーティングした場合の摺動抵抗値とPTFEをコーティングした場合の摺動抵抗値とを比較して示すグラフである。
【0185】
図59では、表面に皺(凹部13)を有するPFAコーティングされたガイドワイヤと、表面に皺を有していないPTFEコーティングされたガイドワイヤとの摺動抵抗値が湾曲部の強弱ごとに対比されている。
【0186】
PFAコーティングの膜厚の平均値として、13.3μmのガイドワイヤと14.8μmのガイドワイヤとが示されている。PTFEコーティングの膜厚の平均値として、15.3μmのガイドワイヤと15.8μmのガイドワイヤとが示されている。
【0187】
図59から、外層部12となる樹脂層の表面に皺(凹部13)を形成することで、皺の形成されたPFAコーティングのガイドワイヤの摺動抵抗値は、皺の形成されないPTFEコーティングのガイドワイヤの摺動抵抗値よりも小さくなることがわかる。さらに、フッ素樹脂の機械的特性としての動摩擦係数は、皺の形成されないPFAコーティングのガイドワイヤの方が皺の形成されないPTFEコーティングのガイドワイヤよりも大きくなる。
なお、
図59では、PFA樹脂層の表面に皺を形成し、比較例として皺の形成されていないPTFE樹脂層と対比したが、本開示は、PFA以外の樹脂層での皺の形成と摺動抵抗の低下を除外しない。それらも本開示の範囲に含まれる。
【実施例6】
【0188】
図60~
図78を用いて実施例6を説明する。実施例6では、カテーテルの表面に凹部13を不規則に形成した場合の結果を説明する。
【0189】
図60は、実施例6に係るカテーテルの、凹部の深さ寸法(しわの深さ)、MPF、MDF、膜厚、パワー値の累積値を示すテーブルである。
【0190】
このテーブルでは、直径2mmの医療用チューブ(カテーテル)の近位側、直径2mmの医療用チューブ(カテーテル)の中央部、直径2mmの医療用チューブ(カテーテル)の遠位側、直径0.79mmのガイドワイヤ、直径0.70mmのガイドワイヤ、直径0.55mmのガイドワイヤ、直径0.415mmのガイドワイヤ(表面に皺あり)、直径0.415mmのガイドワイヤ(表面に皺なし)について、皺の深さ、MPF、MDF、膜厚、パワー値の累積値が示されている。ガイドワイヤについてのデータは、
図42で示したものと同一である。
【0191】
図61は、カテーテルの近位側(チューブ_上と表記)の外観の拡大図である。凹部13が網の目状に形成されていることがわかる。
図62は、MDFとMPFの値を示すテーブルである。
図63は、カテーテルの外径をカテーテルの長さ方向に沿って示すグラフである。
図64は、
図63の一部を拡大して示すグラフである。
図65は、カテーテルの近位側のデータを解析した結果を示すテーブルである。
図66は、カテーテルの近位側の外径データの測定結果を示すテーブルである。
【0192】
図67は、カテーテルの中央付近(チューブ_中と表記)の外観の拡大図である。
図68は、MDFとMPFの値を示すテーブルである。
図69は、カテーテルの外径をカテーテルの長さ方向に沿って示すグラフである。
図70は、
図69の一部を拡大して示すグラフである。
図71は、カテーテルの中央付近のデータを解析した結果を示すテーブルである。
図72は、カテーテルの中央付近の外径データの測定結果を示すテーブルである。
【0193】
図73は、カテーテルの遠位側(チューブ_下と表記)の外観の拡大図である。
図74は、MDFとMPFの値を示すテーブルである。
図75は、カテーテルの外径をカテーテルの長さ方向に沿って示すグラフである。
図76は、
図75の一部を拡大して示すグラフである。
図77は、カテーテルの遠位側のデータを解析した結果を示すテーブルである。
図78は、カテーテルの遠位側の外径データの測定結果を示すテーブルである。
【0194】
以上、本開示の実施形態について述べてきたが、本開示は、これらの実施形態に限られるものではなく、種々の変形が可能である。
【0195】
上記実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることもできる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることもできる。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することもできる。
【0196】
また、上述した実施形態に含まれる技術的特徴は、特許請求の範囲に明示された組み合わせに限らず、適宜組み合わせることができる。
【0197】
本開示には、以下の表現に示す構成が含まれている。
(表現1)
長尺医療器具であって、
基材部と、
前記基材部の表面に設けられた樹脂製の外層部とを有し、
前記外層部のうち実質的に平坦な表面には、不規則に配置される凹部又は凸部を有する、
長尺医療器具。
【0198】
(表現2)
表現1記載の長尺医療器具であって、
前記実質的に平坦な表面は、前記外層部の下側にコイルが配置されていない領域に対応する表面である、
長尺医療器具。
【0199】
(表現3)
表現1記載の長尺医療器具であって、
前記凹部の形状は、不定形状の線状部である、
長尺医療器具。
【0200】
(表現4)
表現3記載の長尺医療器具であって、
前記凹部又は凸部を有する外径を示す波形の形状は、空間周波数3~10(1/mm)を含む、
長尺医療器具。
【0201】
(表現5)
長尺医療器具であって、
基材部と、
前記基材部の表面に設けられた樹脂製の外層部とを有し、
前記外層部のうち実質的に平坦な表面には不規則に配置される凹部又は凸部を有し、
前記外層部の長軸方向に沿った外径寸法の測定結果をFET(Fast Fourier Transform)解析した場合に、以下の(条件1)~(条件9)の少なくともいずれか一つを満たす、長尺医療器具。
(条件1)中央パワー周波数(MeDian Power Frequency:MDF。以下MDF)または平均周波数(Mean Power Frequency:MPF。以下MPF)の少なくとも一方の値が4~7(1/mm)である
(条件2)MDFまたはMPFの少なくとも一方の値が5(1/mm)以上である
(条件3)パワー値が0.01以上の空間周波数が少なくとも100個以上存在する
(条件4)パワー値が0.01以上の空間周波数が1~10(1/mm)に分散して存在する
(条件5)平均周波数成分値のプラスマイナス1(1/mm)の範囲における分布比率が35%より小さい
(条件6)平均周波数成分値のプラスマイナス4(1/mm)の範囲における分布比率が約70%以上である
(条件7)平均周波数成分値のプラスマイナス1(1/mm)の分布比率とプラスマイナス4(1/mm)の分布比率との差が約40%以上である
(条件8)空間周波数3~10(1/mm)のパワースペクトルが50%以上である
(条件9)空間周波数3~10(1/mm)のパワースペクトルが65%以上である
【0202】
(表現6)
長尺医療器具であって、
基材部と、
前記基材部の表面に設けられた樹脂製の外層部とを有し、
前記外層部のうち実質的に平坦な表面には不規則に配置される凹部又は凸部を有し、
前記外層部の長軸方向に沿った外径寸法の測定結果が、以下の(条件10)または(条件11)の少なくともいずれか一つを満たす、長尺医療器具。
(条件10)最小外径値に対する外径変動率が3%以上である
(条件11)長軸方向1CEmの範囲において、幅1mm未満で5μm以上の外径変化が、10箇所以上存在する
【0203】
(表現7)
表現6記載の長尺医療器具であって、
前記条件10では、前記外層部がテーパ部を含む場合に、前記テーパ部による外径変化を除いた外径変動率が最小外径値に対して3%以上である
長尺医療器具。
【0204】
(表現8)
表現1~7のいずれか一項に記載の長尺医療器具であって、
前記外層部は、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)のいずれか1である、
長尺医療器具。
【0205】
(表現9)
表現1~7のいずれか一項に記載の長尺医療器具であって、
前記長尺医療器具はガイドワイヤである、
長尺医療器具。
【0206】
(表現10)
表現9に記載の長尺医療器具であって、
前記ガイドワイヤの外径寸法は1mm以下である、
長尺医療器具。
【0207】
(表現11)
表現9に記載の長尺医療器具であって、
前記ガイドワイヤの外径寸法は、700μm以下である、
長尺医療器具。
【0208】
(表現12)
表現9に記載の長尺医療器具であって、
前記ガイドワイヤの外径寸法の平均値は500~600μmである、
長尺医療器具。
【0209】
(表現13)
表現1~7のいずれか一項に記載の長尺医療器具であって、
前記長尺医療器具はカテーテルである、
長尺医療器具。
【符号の説明】
【0210】
1,1A,1B:ガイドワイヤ、1CE:比較例としてのガイドワイヤ、2:カテーテル、11:基材部、12:外層部、13:凹部、14:凸部、111A,111B:管状体、112A,112B:中間樹脂層、113A,113B:接着層、130:亀裂