(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ガラス板の製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、及び円環形状のガラス板
(51)【国際特許分類】
C03B 29/02 20060101AFI20240719BHJP
C03B 33/09 20060101ALI20240719BHJP
C03C 23/00 20060101ALI20240719BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20240719BHJP
B23K 26/354 20140101ALI20240719BHJP
【FI】
C03B29/02
C03B33/09
C03C23/00 D
C03C19/00 Z
B23K26/354
(21)【出願番号】P 2022565407
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043198
(87)【国際公開番号】W WO2022114060
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】1-2020-06805
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】VN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】東 修平
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-206517(JP,A)
【文献】国際公開第2020/111282(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/050938(WO,A1)
【文献】特開2004-035333(JP,A)
【文献】特開2003-160348(JP,A)
【文献】特開平02-241684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 29/00 - 29/16
C03B 33/09
C03C 19/00
C03C 23/00
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面の面取処理を含むガラス板の製造方法であって、
前記面取処理は、
前記面取処理の前のガラス素板の端面にレーザ光を照射して面取面を形成するステップと、
前記レーザ光の照射前に前記ガラス素板を加熱するステップと、を備え、
前記ガラス素板を加熱したときの前記ガラス素板の温度をTp[℃]とし、前記ガラス素板のガラス転移点をTg[℃]とし、前記ガラス素板の平均線膨張係数をα[1/℃]としたとき、(Tg-Tp)≦-3.28×10
7・α+428を満足し、
前記ガラス素板のガラス転移点は、650℃以上であることを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項2】
端面の面取処理を含むガラス板の製造方法であって、
前記面取処理は、
前記面取処理の前のガラス素板の端面にレーザ光を照射して面取面を形成するステップと、
前記レーザ光の照射前に前記ガラス素板を加熱するステップと、を備え、
前記ガラス素板を加熱したときの前記ガラス素板の温度をTp[℃]とし、前記ガラス素板のガラス転移点をTg[℃]とし、前記ガラス素板の平均線膨張係数をα[1/℃]としたとき、(Tg-Tp)≦-5.67×10
7・α+840を満足し、
前記ガラス素板は中心部に円孔を有する円環形状であって、一対の主表面と、前記円孔の輪郭を形成する内周端面と、外周端面とを有し、
前記面取面を形成するステップは、さらに、前記ガラス素板の前記外周端面にレーザ光を照射するステップと、前記ガラス素板の前記内周端面にレーザ光を照射するステップとを、この順に含み、
前記内周端面にレーザ光を照射する時の前記ガラス素板の温度Tpを、前記外周端面にレーザ光を照射する時の前記ガラス素板の温度Tpよりも低くする、
ことを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項3】
(Tg-Tp)≦-3.67×10
7・α+500を満足する、請求項2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
(Tg-Tp)≦-3.28×10
7・α+428を満足する、請求項2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
(Tg-Tp)≧50℃を満足する、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス素板の平均線膨張係数αは、20×10
-7[1/℃]~60×10
-7[1/℃]である、請求項1~5のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項7】
前記面取処理の後の前記ガラス素板にアニール処理を行わない、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法を用いて磁気ディスク用ガラス基板を製造する方法であって、
前記ガラス素板は、円環形状であり、
前記ガラス板の製造方法を用いて前記ガラス板を製造した後、製造した前記ガラス板の主表面に研削及び/又は研磨を行って磁気ディスク用ガラス基板を製造することを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造された前記磁気ディスク用ガラス基板の主表面に磁性膜を形成する、ことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項10】
中心部に円孔を有する円環
形状のガラス板であって、
前記円環
形状のガラス板は、主表面と、前記円孔の輪郭を形成する内周端面と、外周端面とを有し、
前記内周端面及び前記外周端面には面取面を有しており、
前記内周端面及び前記外周端面の前記面取面は、加熱溶融により形成された面であり、
前記内周端面の近傍の前記主表面の端部における残留応力の最大値は、前記外周端面の近傍の前記主表面の端部における残留応力の最大値よりも大きい、ことを特徴とする円環形状のガラス板。
【請求項11】
前記ガラス板の半径方向において、前記外周端面の近傍及び前記内周端面の近傍の前記主表面の端部に、それぞれリタデーション値のピークが存在する、請求項10に記載の円環形状のガラス板。
【請求項12】
中心部に円孔を有する円環形状のガラス板であって、
前記円環形状のガラス板は、主表面と、前記円孔の輪郭を形成する内周端面と、外周端面とを有し、
前記内周端面及び前記外周端面には面取面を有しており、
前記内周端面の近傍の前記主表面の端部における残留応力の最大値は、前記外周端面の近傍の前記主表面の端部における残留応力の最大値よりも大きく、
前記ガラス板の半径方向において、前記外周端面の近傍及び前記内周端面の近傍の前記主表面の端部に、それぞれリタデーション値のピークが存在する、ことを特徴とする円環形状のガラス板。
【請求項13】
前記ガラス板の表面に、化学強化層を有しない、請求項10~12のいずれかに記載の円環形状のガラス板。
【請求項14】
前記ガラス板の主表面のいずれの場所でも、残留応力はリタデーション値で50[nm]以下である、請求項10
~13のいずれか1項に記載の円環形状のガラス板。
【請求項15】
前記ガラス板は磁気ディスク用ガラス基板であって、
前記主表面の算術平均粗さRaは0.2nm以下である、請求項10
~14のいずれか1項に記載の円環形状のガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス素板の端面の面取処理を含むガラス板の製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、及び円環形状のガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
データ記録のためのHDD(ハードディスクドライブ)装置には、円環形状の磁気ディスク用ガラス基板に磁性膜が設けられた磁気ディスクが用いられる。
磁気ディスク用ガラス基板を製造するとき、最終製品である磁気ディスク用ガラス基板の素となる円環状のガラス板の端面は、微細なパーティクルが主表面に付着して磁気ディスクの性能に悪影響を与えないためにも、パーティクルの発生しやすい端面の表面を滑らかにすることが好ましい。また、磁気ディスクを精度よくHDD装置に組み込む点から、さらには、ガラス基板の主表面に磁性膜を形成する際にガラス基板の外周端面を把持する治具の把持に適するように、ガラス板の端面を目標形状に揃えることが好ましい。
【0003】
ガラス板の端面を目標形状にするための方法として、ガラス板等のシートのエッジの仕上げ方法が知られている(特許文献1)。この仕上げ方法では、シートのエッジを高温に予熱し、予熱されたエッジをレーザ光で加熱し、レーザ光で加熱後、さらにエッジをアニール処理して残留応力を低減させる。
これにより、エッジに沿った許容不能な量の残留引っ張り応力、ヒビまたは欠陥の発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記エッジの仕上げ方法を磁気ディスク用ガラス基板の素になる円環形状のガラス素板に適用した場合、レーザ光の照射による加熱の後であってアニールする前、例えばレーザ光照射直後にガラス板に割れが生じる場合があった。
さらに、レーザ光の照射による加熱後、アニールを行うことは生産効率の点でも不利である。
【0006】
そこで、本発明は、レーザ光の照射により端面に面取処理をするとき、レーザ光の照射後においてガラス板の割れを発生させないガラス板の製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法を提供するとともに、割れの発生しにくい円環形状のガラス板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
端面の面取処理を含むガラス板の製造方法であって、
前記面取処理は、
前記面取処理の前のガラス素板の端面にレーザ光を照射して面取面を形成するステップと、
前記レーザ光の照射前に前記ガラス素板を加熱するステップと、を備え、
前記ガラス素板を加熱したときの前記ガラス素板の温度をTp[℃]とし、前記ガラス素板のガラス転移点をTg[℃]とし、前記ガラス素板の平均線膨張係数をα[1/℃]としたとき、(Tg-Tp)≦-5.67×107・α+840を満足する。
【0008】
(Tg-Tp)≦-3.67×107・α+500を満足する、ことが好ましい。
【0009】
(Tg-Tp)≦-3.28×107・α+428を満足する、ことが好ましい。
【0010】
(Tg-Tp)≧50℃を満足する、ことが好ましい。なお、(Tg-Tp)≧100℃を満足することがさらに好ましい。
【0011】
前記ガラス素板の平均線膨張係数αは、20×10-7[1/℃]~60×10-7[1/℃]である、ことが好ましい。
【0012】
前記面取処理の後の前記ガラス素板にアニール処理を行わない、ことが好ましい。
【0013】
本発明の他の一態様は、前記ガラス板の製造方法を用いて磁気ディスク用ガラス基板を製造する方法である。
前記ガラス素板は、円環形状である。
前記ガラス板の製造方法を用いて前記ガラス板を製造した後、製造した前記ガラス板の主表面に研削及び/又は研磨を行って磁気ディスク用ガラス基板を製造する。
【0014】
本発明のさらに他の一態様は、前記磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造された前記磁気ディスク用ガラス基板の主表面に磁性膜を形成する、ことを特徴とする磁気ディスクの製造方法である。
【0015】
本発明のさらに他の一態様は、中心部に円孔を有する円環形状のガラス板であって、
前記円環形状のガラス板は、手法面と、前記円孔の輪郭を形成する内周端面と、外周端面とを有し、
前記内周端面及び前記外周端面には面取面を有しており、
前記内周端面の近傍の前記主表面の端部における残留応力の最大値は、前記外周端面の近傍の前記主表面の端部における残留応力の最大値よりも大きい、ことを特徴とする円環形状のガラス板である。
前記ガラス板の主表面のいずれの場所でも、残留応力はリタデーション値で50[nm]以下であることが好ましい。
前記ガラス板は磁気ディスク用ガラス基板であって、前記主表面の算術平均粗さRaは0.2nm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上述のガラス板の製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、および磁気ディスクの製造方法によれば、レーザ光の照射によりガラス素板の端面に面取処理をするとき、レーザ光の照射後においてガラス板の割れを発生させない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は、一実施形態であるガラス板の製造方法で製造されるガラス板の一例の斜視図であり、(b)は、面取面の断面形状の一例を示す図であり、(c)は、面取処理前のガラス素板の端面の形状の一例を示す図である。
【
図2】一実施形態で行うレーザ光の照射による面取面の形成の一例を示す図である。
【
図3】平均線膨張係数αと温度差(Tg-Tp)を座標軸としたグラフにおけるガラス板の割れ等の有無を示す領域の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、一実施形態のガラス板の製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、及び円環形状のガラス板について詳細に説明する。
【0019】
一実施形態のガラス板の製造方法は、ガラス素板の端面に面取加工を行う面取処理を含む。面取処理では、ガラス素板の端面にレーザ光を照射して面取面が形成されるが、この面取処理を行う前に、ガラス素板は加熱される。以降、この加熱を事前加熱という。すなわち、ガラス素板を事前加熱することで、レーザ光の照射により容易に端面を溶解状態あるいは軟化させ、面取面を形成することができる。また、ガラス素板を事前加熱することにより、レーザ光の照射により面取面を形成した直後にガラス板に割れが発生することを低減、抑制することができる。しかし、面取面の形成直後にガラス板に割れが発生しない場合でも、上述したように所定の時間が経過して、面取処理後に行う後工程の直前に遅れて割れが発生する場合もあった。以降、遅れて発生する割れを、遅れ割れという。
【0020】
そこで、本願発明者は、面取処理後のガラス板に生じる残留歪みによって、面取面形成のためのレーザ光の照射直後に発生するガラス板の割れの他に、遅れ割れを抑制する対策を鋭意検討した結果、以下の対策を見出した。すなわち、ガラス素板を加熱したときのガラス素板の温度をTp[℃]とし、ガラス素板のガラス転移点をTg[℃]とし、ガラス素板の平均線膨張係数をα[1/℃]としたとき、レーザ光の照射直後に発生するガラス板の割れを防止するために、(Tg-Tp)≦-5.67×107・α+840を満足するように、温度Tpを設定することである。ここで、平均線膨張係数αは、100℃~300℃における線膨張係数である。なお、ガラス転移点Tg、平均線膨張係数αは、例えば熱機械分析装置(TMA;Thermomechanical Analysis)を用いて測定することができる。
上記対策により、レーザ光の照射直後に発生するガラス板の割れを防止することができ、さらに、上記(Tg-Tp)の範囲を制限することにより、面取処理後の後工程の前に遅れて発生するガラス板の遅れ割れの発生、さらにはひびの発生を防止することができる。
【0021】
図1(a)は、一実施形態であるガラス板の製造方法で製造されるガラス板の一例の斜視図であり、
図1(b)は、面取面の断面形状の一例を示す図であり、(c)は、面取処理前のガラス板の端面の形状の一例を示す図である。
【0022】
図1(a)に示すガラス板1は、中心部に円孔3を有する円環状の薄板のガラス板である。
ガラス板は、円環形状でなくてもよく、円孔3のあいていない外周が円形状の円板形状でもよい。さらには、ガラス板は、外周が円形状の円板形状でなくてもよく、矩形形状のガラス板でもよく、形状は特に制限されない。
ガラス板1は円環形状の場合、磁気ディスク用ガラス基板の素板として用いることができる。この磁気ディスク用ガラス基板を作製する場合、磁気ディスク用ガラス基板のサイズは制限されない。公称直径3.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の場合、例えば、外径(公称値)は、95mm~100mmであり、内径(公称値)は25mmである。公称直径2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の場合、例えば、外径(公称値)は、65mm~70mmであり、内径(公称値)は20mmである。磁気ディスク用ガラス基板の板厚は、例えば0.20mm~0.7mm、好ましくは0.30mm~0.6mmであり、より好ましくは、0.30mm~0.53mmである。この磁気ディスク用ガラス基板の主表面上に磁性膜が形成されて磁気ディスクが作られる。
【0023】
図1(a)に示すガラス板1には、端面の面取加工により端面の面取面が形成されている。
図1(b)は、本件発明により形成される面取面の断面形状の一例を示す図である。断面形状は、ガラス板の中心軸(磁気ディスク用ガラス基板となる場合の回転軸)を通る面で半径方向に沿ってガラス板1を切断したときの端面の形状である。
図1(b)に示すように、面取面を含む端面5の断面形状は、径方向外側に突出した滑らかな曲線によって作られる湾曲面形状を成している。以後、面取面を含む端面5を、単に端面5とも呼ぶ。
図1(b)に示す例では、端面5は、径方向外側に突出した滑らかな曲線によって作られる湾曲面であるが、他の一例として、2つの主表面とそれぞれつながる2つの湾曲面と、当該2つの湾曲面の間であって端面の中央部に位置し、直線状にガラス板1の厚さ方向に延びる側壁面とを有するように形成してもよい。さらに他の一例として、2つの主表面とそれぞれつながる2つの傾斜面と、当該2つの傾斜面の間であって端面の中央部に位置する側壁面とを有し、2つの傾斜面と側壁面のいずれもが略直線状に厚さ方向に延びるように形成してもよい。なお、上記の各面の境界部は、丸みを帯びていてもよいし、角ばっていてもよい。上記の面取処理後のガラス板1の面取長は、半径方向において端面が最も突出した位置の半径と、主表面が端面に向かって傾斜し始める位置の半径との差分として定義され、例えば30~200μmとすることができる。
磁気ディスク用ガラス基板の場合、このガラス板1を必要に応じて、主表面の研削及び研磨を行った後、ガラス板1の主表面上に磁性膜が形成されて磁気ディスクが作られる。
【0024】
図1(c)は、面取処理前のガラス素板の端面7の形状の一例を示す図である。この端面7に、後述するレーザー光を照射することにより、ガラス素板の主表面と端面7との境界部の角部が溶解し、例えば
図1(b)のように湾曲面となることで面取される。面取処理前のガラス素板の端面7は、ガラス素板の主表面に対して略直交する面である。このような面は、後述するレーザ光を端面7に照射することにより、面取面を含む端面5を両側の主表面に対して対称的に形成させることができるので好ましい。なお、
図1(c)に示す端面7の形状は、一例であって、主表面に対して略直交する形状に制限されず、角部が丸みを帯びている形状や主表面に対して傾斜した形状であってもよい。
【0025】
面取処理のために行うレーザ光の照射前に、
図1(c)に示すガラス素板は事前加熱される。事前加熱では、ヒータ等を配置した空間内にガラス素板を配置してガラス素板全体の温度を温度Tpに上げる。ヒータとしては例えば、ハロゲンランプヒータ、カーボンヒータ、シーズヒータなどの赤外線ヒータ等を用いることができる。ガラス素板の温度は、ガラス素板の場所によって殆ど変化せず、略均一な温度にする。略均一な温度とは、例えば、最高温度と最低温度の温度差が50℃以下であることをいう。ガラス素板の温度を略均一な温度Tpにすることで、ガラス素板の端面7にレーザ光を照射したときの温度も端面7の全周上で均一にすることができ、その結果、ガラス素板の端面7のガラスの溶解状態に影響を受ける面取面の形状を円周方向に一定の形状で安定的に形成することができる。
また、ガラス素板の温度が主表面上において略均一となるように事前加熱すると、レーザ光の照射時において、円環状のガラス素板の端面近傍から中心方向に向かう半径方向において温度差を小さくできるので、後述する端面近傍に生じる残留歪の最大値(ピーク)を小さくすることができる。その結果、レーザー光による面取処理後のトラブル(割れ、後れ割れ、ひびなど)を抑制しやすくなるため好ましい。
他方、ガラス素板の端面7及びこの端面7近傍の主表面端部のみを局部的に温度Tpに加熱した場合、ガラスは熱伝導性が比較的小さい材料のため、ガラス素板の中心方向に向かって熱伝導しにくく、その結果、ガラス素板の主表面端部とこの主表面端部に対して半径方向の内側の部分との間で大きな温度差が生じる。その状態でレーザー光を照射すると、レーザー光による加熱が加わってさらに温度差が大きくなるので、高い残留歪(残留応力)が局所的に発生しやすくなるので好ましくない。
【0026】
温度Tpは、レーザ光Lの照射開始時のガラス素板10の温度である。また、温度Tpのガラス素板は、温度Tpを維持するようにヒータによる赤外線等の照射を受けながら、レーザ光の照射を受けることもできる。
図2は、レーザ光の照射による面取面の形成の一例を示す図である。具体的には、
図2に示すように、円孔16のあいた円板形状のガラス素板10は、主表面12と端面14とを有する。主表面12は通常、表と裏で略同じ形状である(以後、一対の主表面とも言う)。端面14は、主表面12に略垂直な端面である。
図2に示す例では、外周端面をレーザ光Lによる形状加工の端面14としているが、円孔16に沿った内周端面もレーザ光Lによる形状加工の対象とすることができる。
本実施形態では、端面14にレーザ光Lを照射し、レーザ光Lを、円板形状のガラス素板10の周方向に端面14に対して相対的に移動しながら、端面14を目標形状に加工する。レーザ光Lの照射方法は、例えば、図示されないレーザ光源から出射したレーザ光Lを、コリーメータ等を含む光学系を通して平行光とした後、集束レンズ24を介してレーザ光Lを集束させた後、拡張するレーザ光Lを端面14に照射することができる。
なお、内周端面にレーザ光Lを照射する場合、例えば、ガラス素板10の主表面の上方から入射させたレーザ光Lを、円孔内に設置した反射ミラーで反射させればよい。
なお、外周端面の面取処理と内周端面の面取処理とを両方行う場合、それらを同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。それらを別々に行う場合、その順序はどちらを先に行ってもよい。また、事前加熱は、各面取処理毎に実施しても最初の1度にまとめてもよいが、後者とすると生産効率を高めることができる。
【0027】
一方、ガラス素板10は、ガラス素板10の中心位置を回転中心として一定速度で回転させる。こうして、レーザ光Lと端面14とを、円板形状のガラス素板10の周方向にお互いに相対的に移動させながら、レーザ光Lはガラス素板10の端面14の全周に照射される。
ここで、レーザ光Lの端面14への照射は、端面14の照射位置における法線方向から行うことが好ましい。ここで法線方向とは、完全な法線方向(法線方向からの傾斜角度0度)の他に、法線方向に対する傾斜角度が10度以内の範囲内も許容範囲として含まれる。なお、レーザ光Lの端面14への照射は、照射位置における端面14の法線方向に対して傾斜角度0度±45度の範囲内で傾斜させてもよい。
【0028】
このような円環形状のガラス素板10は、例えば、予め作製された板状ガラスからレーザ光を用いる分離方法等により得ることができる。円環形状のガラス素板10の素となる板状ガラスは、例えば、フローティング法あるいはダウンドロー法を用いて作製されたものである。あるいは、溶融ガラスの塊を、金型を用いてプレス成形したものであってもよい。ガラス素板10の素となる板状ガラスの板厚は、最終製品である磁気ディスク用ガラス基板の目標板厚に対して、研削及び研磨の取り代量の分だけ厚く、例えば、10~300μm程度厚い。
【0029】
端面14に照射するレーザ光Lの断面強度分布はシングルモードとすることができる。すなわち、レーザ光Lの断面強度分布は、ガウス分布とすることができる。このようなレーザ光Lの、端面14における照射位置上の光束(照射スポット)のガラス素板10の厚さ方向の幅をW1[mm]とし、ガラス素板10の厚さをTh[mm]とし、レーザ光Lの平均パワー密度をPd[W/mm
2]としたとき、レーザ光Lの照射では、W1>Thであって、Pd×Thは、0.8~15[W/mm]である照射条件を用いることが好ましい。ここで、レーザ光Lの光束は、
図2に示すようにガラス素板10の厚さ方向の両側にはみ出すように照射されるのが好ましい。また、端面14の両側にはみ出す幅を同等とすることで、ガラス素板10の厚さ方向の両側において面取りを均等に行うことができ、2つの面取面の形状を同等にすることができる。平均パワー密度Pdは、レーザ光Lの全パワーP[W]を、レーザ光Lの照射する部分における光束の面積で割った値である。レーザ光Lの光束が、短軸半径がW1/2、長軸半径がW2/2である楕円形状(
図2参照)を成している場合、平均パワー密度Pdは4×P/W1/W2/π[W/mm
2](πは円周率)と規定される。平均パワー密度Pdは、例えば1~30[W/mm
2]とすることができる。
【0030】
ここで、レーザ光Lの一例として、CO2レーザ光を用いるが、ガラスに対し吸収がある発振波長であればよく、CO2レーザ光に制限されない。例えば、COレーザ(発振波長約5μmや10.6μm)、Er-YAGレーザ(発振波長約2.94μm)等が挙げられる。CO2レーザ光を用いる場合、波長は3μm以上とすることが好ましい。さらに、波長を11μm以下とするとより好ましい。波長が3μmよりも短いと、ガラスがレーザ光を吸収しにくくなり、ガラス素板10の端面14を十分に加熱できない場合がある。また、波長が11μmより長いと、レーザ装置の入手が困難である場合がある。なお、レーザ光源の発振形態は特に限定されず、連続発振光(CW光)、パルス発振光、連続発振光の変調光のいずれであってもよい。但し、パルス発振光および連続発振光の変調光の場合、レーザ光Lの相対的な移動速度が速い場合に移動方向に面取面の形状のムラを生じる虞がある。その場合、発振および変調の周波数は1kHz以上が好ましく、より好ましくは5kHz以上、さらに好ましくは10kHz以上である。
なお、レーザ光Lとガラス素板10の端面との相対的な移動速度は、例えば0.7~100[mm/秒]である。
【0031】
光束の幅W1及び後述する長さW2は、レーザ光Lのガラス素板10への照射位置を、例えば2枚のシリンドリカルレンズを用いて調整することで設定することができる。また、幅W1はビームプロファイラから求めることができ、長さW2は、ビームプロファイラによるビーム形状とガラス板の直径Dから求めることができる。
この後、面取面の形成されたガラス素板10、すなわちガラス板1の主表面に、研削及び/または研磨が行われ、さらに適宜洗浄等が行われて磁気ディスク用ガラス基板が作製される。また、必要に応じて、ガラス板1の端面研磨処理を行うこともできる。また、主表面の研削や研磨の前後やこれらの合間に、適宜ガラス板1に化学強化を施してもよい。
【0032】
本実施形態では、面取面の形成のために、
図2に示すレーザ光Lの端面14への照射を行うが、レーザ光Lの照射によって端面14の表面の照射部分が局所的に高温になり、その結果、半径方向の内側領域との熱膨張の差の相違が生まれて、面取面の形成直後にガラス板1の端面14の近傍に割れが発生する。また、面取面の形成直後にガラス板1に割れが発生しない場合でも、面取処理後に行う後工程の直前までに遅れ割れの発生が見つかる場合がある。 このため、本実施形態では、面取面の形成のためにレーザ光Lの端面14への照射を行う前に、ガラス素板10の事前加熱を行う。このとき、ガラス素板10を事前加熱したときのガラス素板10の温度をTp[℃]とし、ガラス素板10のガラス転移点をTg[℃]とし、ガラス素板10の平均線膨張係数をα[1/℃]としたとき、(Tg-Tp)≦-5.67×10
7・α+840を満足するように、ガラス素板10の事前加熱の温度Tpを設定する。
この場合、(Tg-Tp)≦-3.67×10
7・α+500を満足するように、ガラス素板10の事前加熱の温度Tpを設定することが、遅れ割れの発生を防止する点から好ましい。さらに、(Tg-Tp)≦-3.28×10
7・α+428を満足するように、温度Tpを設定することが、ひびの発生を防止する点から好ましい。
このように、温度Tpを設定することにより、割れおよび遅れ割れの発生を抑制するので、従来のように残留歪を低減するために、面取り処理後のガラス素板10にアニール処理をしなくてよい。ここで、アニール処理とは、面取り処理後のガラス素板10を、例えば当該ガラスの歪点以上の温度に加熱し、その後ゆっくり冷却してガラス内部の残留歪(残留応力)を小さくする処理のことを言う。
【0033】
図3は、平均線膨張係数αと温度差(Tg-Tp)を座標軸としたグラフにおけるガラス素板10の割れの有無を示す領域の一例を示す図である。
図3に示す直線L1、L2、L3は、ガラス素板10の“割れ”、“遅れ割れ”、および、“ひび”が発生する領域を区切る直線である。
“割れ”は、面取面の形成直後に発生する割れをいい、“遅れ割れ”は、面取面の形成直後に割れは発生しないが、面取処理後約1時間以内におよそ50~70%の確率で割れが発生する割れをいう。“ひび”は、面取面の形成直後の“割れ”や“遅れ割れ”とは異なり、ごくまれに、後工程(主表面の研削、研磨)の際中にガラス板1に亀裂や割れが発生するものをいう。
直線L1は、“割れ”が発生する場合と、“割れ”が発生しない場合とを区分けする直線である。
直線L2は、“遅れ割れ”が発生しない場合と、“遅れ割れ”が発生する場合とを区分けする直線である。
直線L3は、“ひび”が発生する場合と、“ひび”が発生しない場合とを区分けする直線である。
直線L1よりも上に位置する領域では、“割れ”が発生する。
直線L1と同等からそれよりも下に位置する領域R
Aでは、“割れ”が発生しない。
直線L2と同等かそれよりも下に位置する領域R
Bでは、“割れ”も“遅れ割れ”も発生すしない。
直線L3と同等かそれより下に位置する領域R
Cでは、“割れ”、“遅れ割れ”が発生せず、“ひび”も発生しない。
このように、平均線膨張係数αと温度差(Tg-Tp)により、“割れ”、“遅れ割れ”、“ひび”の発生の有無を区分けすることができる。
【0034】
したがって、面取面の形成直後に“割れ”が発生しないようにするためには、温度差(Tg-Tp)が直線L1と同等かそれより低い領域RA~RCに位置するように、ガラス板1の平均線膨張係数αとTgに応じて温度Tpを設定すればよい。すなわち、直線L1は、(Tg-Tp)=-5.67×107・α+840で表されるので、(Tg-Tp)≦-5.67×107・α+840を満足するように温度Tpを設定する。
さらに、“遅れ割れ”が発生しないようにするためには、温度差(Tg-Tp)が直線L2と同等かそれより低い領域RB,RCに位置するように、ガラス板1の平均線膨張係数αとTgに応じて温度Tpを設定すればよい。すなわち、直線L2は、(Tg-Tp)=-5.67×107・α+840で表されるので、(Tg-Tp)≦-3.67×107・α+500を満足するように温度Tpを設定する。
さらに、“ひび”が発生しないようにするためには、温度差(Tg-Tp)が直線L3と同等かそれより低い領域RCに位置するように、ガラス板1の平均線膨張係数αとTgに応じて温度Tpを設定すればよい。すなわち、直線L3は、(Tg-Tp)=-3.28×107・α+428で表されるので、(Tg-Tp)≦-3.28×107・α+428を満足するように温度Tpを設定する。
【0035】
一実施形態によれば、(Tg-Tp)≧50℃を満足することが好ましい。事前加熱における温度Tpとガラス転移点Tgとの差が50℃未満になると、ガラス素板10が変形して平坦度が悪化(増加)する虞があるので好ましくない。平坦度が悪化すると、その後の工程における板厚方向の取代が増大するので好ましくない。ここで平坦度とは、主表面全面におけるフラットネスのPV値(高さ方向における最も高い値と最も低い値との差分値)のことを言い、例えばフラットネステスター等で測定することができる。また、平坦度の悪化とは、例えば平坦度が30μm以上変化することをいう。なお、(Tg-Tp)≧100℃を満足すると、平坦度の悪化を15μm以下に抑制することができるので、より好ましい。
【0036】
ガラス板1の平均線膨張係数αは特に制限はないが、最終的にハードディスクドライブ装置の磁気ディスク用基板として用いる場合、例えば100×10-7[1/℃]以下である。一実施形態によれば、平均線膨張係数αは、20×10-7[1/℃]~60×10-7[1/℃]であることが好ましい。平均線膨張係数αが60×10-7[1/℃]超の場合、適用可能な(Tg-Tp)の上限値が比較的小さく、温度Tpとガラス転移点Tgとが近いため、温度Tpの温度制御を厳密にすることが必要になる。温度Tpとガラス転移点Tgが近づきすぎると、ガラス板1の軟化による平坦度悪化が発生する虞がある。また、平均線膨張係数αが20×10-7[1/℃]未満の場合、ガラス板をハードディスクドライブ装置の磁気ディスクに用いる場合、ハードディスクドライブ装置のスピンドル材料の線膨張係数との差が大きくなりすぎて、スピンドルが熱で膨張した際にガラス板が割れる虞がある。なお、上記観点から、平均線膨張係数αの上限は、45×10-7[1/℃]であることがより好ましい。また、上記観点から、平均線膨張係数αの下限は、30×10-7[1/℃]であることがより好ましい。
【0037】
こうして事前加熱及びレーザ光Lの照射により、面取面を内周端面及び外周端面に有する、レーザ光照射直後の“割れ”のない円環形状のガラス板1を作製することができる。
ここで、ガラス板1の内周端面近傍の主表面の部分(内周端面の半径を基準(ゼロ)として半径方向に3mm以内の主表面上の円環状の領域)、すなわち内周端面近傍の主表面端部における残留応力の最大値は、外周端面近傍の主表面の部分(外周端面の半径を基準(ゼロ)として半径方向に3mm以内の主表面上の円環状の領域)、すなわち外周面近傍の主表面端部における残留応力の最大値よりも大きくすることが好ましい。事前加熱においてガラス素板の主表面全体を略均一な温度とすることによって、ガラス板1の半径方向に残留応力を見たとき、上記の内周端面近傍及び外周端面近傍の主表面端部にそれぞれ残留応力のピークを形成することができる。
レーザ光の照射により主表面端部や端面に生じる残留応力は通常は圧縮応力である。一方、円環状のガラス板1を用いて磁気ディスク用ガラス基板、さらには磁気ディスクを製造し、HDD装置に磁気ディスクを内蔵する場合、その内周端面側の主表面端部や端面は、HDD装置のスピンドル、スペーサ、クランパー等と強く接触し、傷がつく可能性がある。そのようなとき、残留応力は上記接触による磁気ディスクの傷つきを抑制する。すなわち、内周端面側の主表面端部におけるリタデーション値を、外周端面側の主表面端部におけるリタデーション値よりも大きくすることで、上記のような効果を得ることができる。なお、内周端面近傍の主表面端部における残留応力はリタデーション値で50[nm]以下であることが好ましく、20[nm]以下であるとより好ましい。また、外周端面近傍の主表面端部における残留応力はリタデーション値で30[nm]以下であることが好ましい。
また、ガラス板1の主表面上の、内周端面側の主表面端部及び外周端面側の主表面端部を除いた領域(以後、中周領域とも呼ぶ)の残留応力は、内周端面側の主表面端部及び/又は外周端面側の主表面端部の残留応力の最大値よりも小さいことが好ましい。この中周領域の残留応力は、リタデーション値で20[nm]以下であることが好ましく、10[nm]以下であるとより好ましい。
また、ガラス板1の主表面のいずれの場所でも、残留応力はリタデーション値で50[nm]以下であると好ましく、20[nm]以下であるとより好ましい。
本発明において残留応力の値は、リタデーション値を用いる。リタデーション値は、例えば、フォトニックラティス社製PA-200などの二次元複屈折評価装置を用いて測定することができる。ガラス板1の主表面におけるリタデーション値の分布を調べる場合、測定分解能は面内方向において例えば約0.05~0.2mmとすればよい。
上記のようなガラス板1を得るには、
図3に示す領域R
Cの条件を満たす範囲内において、例えば、内周端面の面取処理時の温度Tpを、外周端面の面取処理時の温度Tpよりも低くすればよい。同一のガラス板1であれば、ガラス転移点Tg及び平均線膨張係数αは変わらないので、温度Tpを低くすると(Tg-Tp)が大きくなり、残留応力が増加する。なお、上記のようなガラス板1を得る場合、(1)事前加熱、(2)外周端面の面取処理、(3)内周端面の面取処理、の順に実施することが好ましい。この順序では自然放冷を利用して内周端面の面取処理時のガラス素板の温度を低下させやすいので、事前加熱を最初の1度で済ませることができる。
【0038】
ガラス板1から磁気ディスク用ガラス基板を作製する場合、上記面取処理後、ガラス板1を磁気ディスク用ガラス基板となる前の中間体のガラス板として、ガラス板1の主表面の研削及び/又は研磨処理が行われる。このうち研削処理は行われなくてもよい。
研削処理と研磨処理の両方を行う場合、ガラス板1の研削後、研磨が行われる。
研削処理では、例えば、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いて、ガラス板1の両側の主表面に対して研削加工を行う。具体的には、ガラス板1を、両面研削装置の保持部材(キャリア)に設けられた保持孔内に保持しながらガラス板1の両側の主表面の研削を行う。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤および下定盤の間にガラス板1が狭持される。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させ、クーラントを供給しながらガラス板1と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス板1の両主表面を研削することができる。例えば、ダイヤモンドを樹脂で固定した固定砥粒をシート状に形成した研削部材を定盤に装着して研削処理をすることができる。研削処理を行うことで、主表面の平坦度を小さくすることができる。研削処理後の主表面の平坦度は、例えばフラットネスのPV値で10μm以下である。
【0039】
次に、研削後のガラス板1の主表面に第1研磨が施される。具体的には、ガラス板1を、両面研磨装置の研磨用キャリアに設けられた保持孔内に保持しながらガラス板1の両側の主表面の研磨が行われる。第1研磨は、研削処理後の主表面に残留したキズや歪みの除去、あるいは微小な表面凹凸(マイクロウェービネスや、粗さ)のおおまかな調整(低下)を目的とする。
【0040】
第1研磨処理では、固定砥粒による上述の研削処理に用いる両面研削装置と同様の構成を備えた両面研磨装置を用いて、研磨スラリを与えながらガラス板1が研磨される。第1研磨処理では、遊離砥粒を含んだ研磨スラリが用いられる。第1研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、酸化セリウム、あるいはジルコニア等の砥粒が用いられる。両面研磨装置も、両面研削装置と同様に、上下一対の定盤の間にガラス板1が狭持される。下定盤の上面及び上定盤の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッド(例えば、樹脂ポリッシャ)が取り付けられている。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス板1と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス板1の両主表面を研磨する。研磨砥粒の大きさは、平均粒径(d50)で0.5~3μmの範囲内であることが好ましい。
【0041】
第1研磨後または第2研磨後に、ガラス板1を化学強化してもよい。この場合、化学強化液として、例えば硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合熔融液等を用い、ガラス板1を化学強化液中に浸漬する。これにより、イオン交換によってガラス板1の表面に圧縮応力層を形成することができる。
【0042】
次に、ガラス板1に第2研磨が施される。第2研磨処理は、主表面の仕上げ加工を目的とする。第2研磨処理は鏡面研磨である。第2研磨においても、第1研磨に用いる両面研磨装置と同様の構成を有する両面研磨装置が用いられる。具体的には、ガラス板1を、両面研磨装置の研磨用キャリアに設けられた保持孔内に保持させながら、ガラス板1の両側の主表面の研磨が行われる。第2研磨処理では、第1研磨処理に対して、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なり、樹脂ポリッシャの硬度も異なる。樹脂ポリッシャの硬度は第1研磨処理時よりも小さいことが好ましい。例えばコロイダルシリカを遊離砥粒として含む研磨液が両面研磨装置の研磨パッドとガラス板1の主表面との間に供給され、ガラス板1の主表面が研磨される。第2研磨に用いる研磨砥粒の大きさは、平均粒径(d50)で5~50nmの範囲内であることが好ましい。第2研磨処理後のガラス板1の主表面の粗さは、例えばAFMを用いて測定したときの算術平均粗さRaで0.2nm以下である。
なお、化学強化処理の要否については、ガラス組成や必要性を考慮して適宜選択すればよい。また、第1研磨処理及び第2研磨処理の他にさらに別の研磨処理を加えてもよく、2つの主表面の研磨処理を1つの研磨処理で済ませてもよい。また、上記各処理の順番は、適宜変更してもよい。
こうして、ガラス板1の主表面を研磨して、磁気ディスク用ガラス板に要求される条件を満足した磁気ディスク用ガラス基板を得ることができる。
この後、主表面が研磨されて作製されたガラス板1(磁気ディスク用ガラス基板)に、少なくとも磁性膜を形成して磁気ディスクが作製される。
【0043】
このように、ガラス板1の製造方法では、面取処理を行ったガラス板1の主表面を研削あるいは研磨する。この場合、端面の面取処理後、主表面の研削あるいは研磨の前に、端面の研磨を行わない、あるいは、端面の研磨を行っても、端面の研磨による取り代量は5μm以下とすることができる。したがって、端面研磨量を減らすことにより生産コストを低減することができる。これは、レーザ光Lにより、表面凹凸が小さい面取面(端面)を形成することができるからである。換言すれば、レーザ光Lの照射によって、端面(面取面や側壁面を含む)に火造り面を形成することができる。火造り面は、ガラス表面を加熱して溶融させることにより形成されるものであり、傷やマイクロクラックが少ない滑らかな面である。 レーザ光Lの照射によって形成された面取面(端面)の表面粗さは、例えば算術平均粗さRa(JIS B0601 2001)で50nm以下にすることができる。なお、上記算術平均粗さRaは30nm以下とすることがより好ましく、20nm以下とすることがさらに好ましい。端面の算術平均粗さRaは、例えばレーザー顕微鏡で測定することができる。
【0044】
一実施形態によれば、ガラス板1は、ガラス転移点Tgが500℃以上のガラスで構成することができる。ガラス転移点Tgは650℃以上であることが好ましく、750℃以上であることがより好ましい。ガラス転移点Tgが高い程、ガラス板1を加熱したときの熱収縮と、熱収縮に起因して発生する変形(基板の反り等)を抑制することができる。したがって、磁気ディスクの磁性膜等を磁気ディスク用ガラス基板に形成する際の熱処理を考慮して、ガラス転移点Tgを650℃以上とすることが好ましく、750℃以上とすることがより好ましい。
【0045】
本実施形態におけるガラス板1あるいはガラス素板10の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。また、主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アモルファスのガラスとするとさらに好ましい。
【0046】
本実施形態のガラス板1あるいはガラス素板10の組成を限定するものではないが、好ましくは、酸化物基準に換算し、モル%表示で、SiO2を50~75%、Al2O3を1~15%、B2O3を0~15%、Li2O、Na2O及びK2Oから選択される少なくとも1種の成分を合計で0~35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0~20%、ならびにZrO2、TiO2、La2O3、Y2O3、Ta2O5、Nb2O5及びHfO2から選択される少なくとも1種の成分を合計で0~10%、有する組成からなるアモルファスのアルミノシリケートガラスである。
【0047】
(実験例)
本実施形態のガラス板1の製造方法の効果を確認するために、平均線膨張係数αの異なるガラス素板10を種々用意し、ガラス素板10の事前加熱における温度Tpを種々変更して、ガラス板1を作製し、ガラス板1の“割れ”、“遅れ割れ”を目視で観察した。さらに、“割れ”、“遅れ割れ”のないものは、研削及び研磨を行った後、“ひび”を目視により観察した。
ガラス板1の外径は95mm、内孔の内径は25mm、厚さThは0.7mmであった。 事前加熱では、ガラス素板10の主表面全体を赤外線ヒータにより加熱した。この事前加熱により内周端面及び外周端面も同時に加熱される。ガラス素板10の温度Tpは、非接触温度計(サーモグラフィ)を用いて計測した。加熱したときのガラス素板10の主表面の温度を計測したところ、主表面の中周部において温度Tpとなっており、内周端面及び外周端面の近傍を含む主表面全体において略均一な温度であった。
レーザ光Lの照射条件は、幅W1=1mm、長さW2=10mmとし、平均パワー密度Pdを5.1[W/mm2]とした。レーザ光Lの端面14に沿って移動する移動速度20[mm/秒]とした。先にガラス素板10の外周端面を面取処理し、その後内周端面を面取処理した。事前加熱は外周端面の面取処理の前に温度Tpで実施し、温度を維持しつつ外周端面の面取処理と内周端面の面取処理とをこの順で行った。なお、面取り処理後、主表面の残留応力を低減させるためのアニール処理を行わなかった。
【0048】
下記表1に、各条件における割れ発生レベルを示す。“割れ発生レベル”の欄における“C”は、レーザ光照射直後に“割れ”が発生したことを意味する。“B”は、レーザ光照射直後の“割れ”は発生しなかったが“遅れ割れ”が発生したことを意味する。“A”は、レーザ光照射直後の“割れ”、及び“遅れ割れ”が発生しなかったが、“ひび”が発生したことを意味する。“AA”は、レーザ光照射後の“割れ”、“遅れ割れ”、及び“ひび”が発生しなかったことを意味する。
【0049】
【0050】
表1の結果より、(Tg-Tp)≦-5.67×107・α+840を満足するように事前加熱をする(条件6~15)ことにより、レーザ光の照射後においてレーザ照射直後の“割れ”が発生しないことがわかる。
また、(Tg-Tp)≦-3.67×107・α+500を満足するように事前加熱をする(条件16~25)ことにより、“遅れ割れ”が発生しないことがわかる。
また、(Tg-Tp)≦-3.28×107・α+428を満足するように事前加熱をする(条件26~30)ことにより、“ひび”が発生しないことがわかる。
次に、条件26~28において、内周端面の面取処理時の温度Tpが、外周端面の面取処理時の温度Tpより20℃低くなるように調節して円環状のガラス板1を作製し、さらに、算術平均粗さRaが0.2nm以下となるように主表面の研磨を行って磁気ディスク用ガラス基板を得た(条件31~33)。条件31~33のそれぞれにおいて得られた、主表面研磨前の円環状のガラス板1及び主表面研磨後の磁気ディスク用ガラス基板についてリタデーションを測定したところ、いずれの条件においても主表面研磨前後におけるリタデーション値の値や分布はほぼ同一であった。具体的には、いずれの条件においても、主表面の残留応力の最大値は50nm以下であり、半径方向において外周端面近傍及び内周端面近傍にリタデーション値のピークが存在し、内周端面近傍の主表面端部の残留応力の最大値は、外周端面近傍の主表面端部における残留応力の最大値よりも大きかった。また、内周端面近傍の主表面端部の残留応力の最大値は50nm以下であり、外周端面近傍の主表面端部の残留応力の最大値は30nm以下であり、中周領域の残留応力は20nm以下であった。また、外周端面及び内周端面の表面粗さRaは50nm以下であった。
【0051】
また、(Tg-Tp)を変更した以外は条件30と同じ条件で円環状のガラス板1を作製した(条件34~37)。これらの条件の割れ発生レベルはいずれもAAであった。これらの条件において、事前加熱を含むレーザ照射処理の前後のガラス素板及びガラス板の平坦度を測定し、平坦度の増加量を算出した結果を表2に示す。
【表2】
【0052】
表2の結果より、(Tg-Tp)≧50℃とすると平坦度の増加量を30μm以下に抑制できることがわかる。また、(Tg-Tp)≧100℃とすると平坦度の増加量をさらに小さい15μm以下に抑制できることがわかる。
【0053】
以上、本発明のガラス板の製造方法、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法、磁気ディスクの製造方法、及び円環形状のガラス板について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0054】
1 ガラス板
3 円孔
5,7 端面
10 ガラス素板
12 主表面
14 端面
16 円孔
24 集束レンズ