(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ガスシールド溶接ワイヤ用線材およびガスシールド溶接ワイヤ
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
B23K35/30 320A
(21)【出願番号】P 2022569531
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(86)【国際出願番号】 CN2021093866
(87)【国際公開番号】W WO2021233228
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】202010418904.1
(32)【優先日】2020-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】チュ, ジャオシァ
(72)【発明者】
【氏名】シァ, リーチェン
(72)【発明者】
【氏名】シン, イーミン
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-022597(JP,A)
【文献】特開平04-022596(JP,A)
【文献】特開2000-225465(JP,A)
【文献】特開2004-230410(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102756219(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105234584(CN,A)
【文献】米国特許第03115406(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
C22C38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学元素として、質量パーセントで、
0<C≦0.03%、0<S≦0.020%、Mn:0.30~0.70%、Si:0.30~0.70%、Ti:0.02~0.07%、Cr:1.60~2.20%、Ni:1.6~2.4%、およびCu:0.20~0.35%を含有
し、残部がFeおよび不可避不純物である、ガスシールド溶接ワイヤ用線材。
【請求項2】
S元素含有量が質量パーセントで0.002~0.012%である、請求項1に記載のガスシールド溶接ワイヤ用線材。
【請求項3】
化学元素として、質量パーセントで、
0<C≦0.03%、0<S≦0.020%、Mn:0.30~0.70%、Si:0.30~0.70%、Ti:0.02~0.07%、Cr:1.60~2.20%、Ni:1.6~2.4%、およびCu:0.20~0.35%を含有し、
0<Ca≦0.0014%および/または0<Al≦0.015%をさらに含有
し、残部がFeおよび不可避不純物である、ガスシールド溶接ワイヤ用線材。
【請求項4】
上記溶接ワイヤ用線材中、P元素、O元素、およびN元素は不可避不純物であり、P元素、O元素、およびN元素の含有量は質量パーセントでP≦0.015%、O≦0.0060%、およびN≦0.0070%に制御されている、請求項
1に記載のガスシールド溶接ワイヤ用線材。
【請求項5】
C×P×10
4≦4(式中、CおよびPは上記溶接ワイヤ用線材中の対応元素の質量パーセントを表す)をさらに満たす、請求項
4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用線材。
【請求項6】
耐候性指数がI=26.01Cu+3.88Ni+1.20Cr+1.49Si+17.28P-7.29Cu×Ni-9.10Ni×P-33.39Cu
2≧10(式中、Cu、Ni、Cr、Si、およびPは上記溶接ワイヤ用線材中の対応元素の質量パーセントを表す)である、請求項
4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用線材。
【請求項7】
上記溶接ワイヤ用線材から得られる溶着金属は、混合ベイナイト+混合フェライトの微細構造を有し、上記混合フェライトの相比率が10%~30%であり、上記混合ベイナイトは、粒状ベイナイト、上部ベイナイト、下部ベイナイト、および塊状ベイナイトを含み、かつ、上記混合フェライトは、二次相を有するフェライト、粒界フェライト、針状フェライト、および塊状フェライトを含む、請求項1に記載のガスシールド溶接ワイヤ用線材。
【請求項8】
スパッタ率が2%未満である、請求項1に記載のガスシールド溶接ワイヤ用線材。
【請求項9】
上記溶接ワイヤ用線材から得られる溶着金属は、降伏強度ReLが350MPa以上、引張強度Rmが500MPa以上、伸びAが18%以上、かつ-40℃での衝撃エネルギーAkvが47J以上である、請求項1に記載のガスシールド溶接ワイヤ用線材。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のガスシールド溶接ワイヤ用線材から作製されたガスシールド溶接ワイヤ。
【請求項11】
上記ガスシールド溶接ワイヤから得られる溶着金属は、混合ベイナイト+混合フェライトの微細構造を有し、上記混合フェライトの相比率が10%~30%であり、上記混合ベイナイトは、粒状ベイナイト、上部ベイナイト、下部ベイナイト、および塊状ベイナイトを含み、かつ、上記混合フェライトは、二次相を有するフェライト、粒界フェライト、針状フェライト、および塊状フェライトを含む、請求項
10に記載のガスシールド溶接ワイヤ。
【請求項12】
スパッタ率が2%未満である、請求項
10に記載のガスシールド溶接ワイヤ。
【請求項13】
上記ガスシールド溶接ワイヤから得られる溶着金属は、降伏強度ReLが350MPa以上、引張強度Rmが500MPa以上、伸びAが18%以上、かつ-40℃での衝撃エネルギーAkvが47J以上である、請求項
10に記載のガスシールド溶接ワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤ用線材および溶接ワイヤに関し、特にガスシールド溶接ワイヤ用線材および溶接ワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
耐候性鋼は鋼製品の重要な一種である。社会の発展と産業の絶え間ない進歩に伴い、耐候性鋼の種類はますます豊富になっており、耐候性のレベルはますます高くなっている。現在、鉄道車両にも耐候性鋼が大量に使用されている。しかしながら、高品質の鉄道客車はステンレス鋼とアルミニウム合金材料からなり、両材料は、低合金耐候性鋼に比べて材料コストと製造コストがはるかに高い。他の側面も考慮して、鉄道客車の製造には、高耐候性製品であるQ350EWが使用されている。このような高耐候性鋼の耐候性は、一般的な耐候性鋼とステンレス鋼の中間であるため、経済性と鉄道客車の車体寿命をバランスよく達成できる。
【0003】
鉄道客車の車体に用いられる鋼板は比較的薄い。一般的な熱延板は厚さが3~6mmであり、一般的な冷延板は厚さが1.5~2.5mmである。熱延板と冷延板の使用比率はおよそ半々である。熱延板溶接の場合、大電流のスプレー移行溶接アーク方式または短絡移行溶接アーク方式が用いられることが多い。熱延板溶接プロセスは比較的安定であり、広い溶接プロセスウィンドウで良好な溶接外観を得ることができる。冷延薄板溶接の場合、短絡移行法が採用される。冷延鋼に用いられる短絡溶接電流は、熱延鋼に用いられる溶接電流に比べてはるかに小さい。このため、溶接プールの流動性がさほど良好ではなく、溶接アーク安定性に劣り、スパッタも多くなるため、最終的な溶接外観に劣るものとなる。
【0004】
薄い板の溶接プロセスにおける上述した問題に関し、既存技術の大半が、STTまたはCMTプロセスの機器を用いるなど、主に溶接電源の電流および電圧パルスを制御して溶接プロセスを改善することで、冷延薄板の溶接品質を改善している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的の1つは、高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材を提供することである。合金元素および微量元素の含有量を調整することで、冷延薄板に適用される溶接ワイヤの溶接プロセス性能が改善される。作製されたガスシールド溶接ワイヤ用線材は、高耐候性を前提として総合的な機械特性に優れ、溶接アークが安定しており、スパッタ率が低く、適用範囲が広く、鉄道客車車両のあらゆる板厚、冷延薄板に好適であり、客車全体の溶接品質を効果的に改善できる。
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、化学元素として、質量パーセントで、0<C≦0.03%、0<S≦0.020%、Mn:0.30~0.70%、Si:0.30~0.70%、Ti:0.02~0.07%、Cr:1.60~2.20%、Ni:1.6~2.4%、およびCu:0.20~0.35%を含有する高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材を提供する。
【0007】
本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材は、化学元素として、質量パーセントで、0<C≦0.03%、0<S≦0.020%、Mn:0.30~0.70%、Si:0.30~0.70%、Ti:0.02~0.07%、Cr:1.60~2.20%、Ni:1.6~2.4%、およびCu:0.20~0.35%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物であることが好ましい。
【0008】
本発明の技術的解決手段において、上記ガスシールド溶接ワイヤ用線材を溶接状態で使用する。高耐候性と優れた総合的機械特性を実現するために、合金組成は下記の通り設計する。
【0009】
C:本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Cの質量パーセントを増加させると、溶接ワイヤのスパッタが増加し、同時に溶着金属の強度も増加するため、溶接ワイヤ用線材の伸びが低下することになる。したがって、本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Cの質量パーセントは0<C≦0.03%に制御されている。
【0010】
S:本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、S元素は、溶接材料の溶接プロセス性能を顕著に高め、スパッタを減少させ、溶滴の広がり性を高めることができる。しかしながら、Sの質量パーセントが高すぎてはならないことに注意すべきである。さもないと、材料の純度に影響するため、溶着金属の低温衝撃靭性が低下することになる。したがって、本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Sの質量パーセントは0<S≦0.020%に制御されている。
【0011】
Mn:本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Mnは脱酸元素である。Mnの質量パーセントが低すぎると、スパッタが増加し、アーク安定性に影響することになる。しかしながら、Mnの質量パーセントが高すぎると、溶着金属の強度が増加し、塑性靭性が悪化することになることに注意すべきである。したがって、本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Mnの質量パーセントは0.30~0.70%に制御されている。
【0012】
Si:本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Siは脱酸元素である。Siの質量パーセントが低すぎると、スパッタが増加し、アーク安定性に影響することになるが、Siの質量パーセントが高すぎると、固溶強化により強度が増加して、溶着金属の靭性に影響することになる。したがって、本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Siの質量パーセントは0.30~0.70%に制御されている。
【0013】
Ti:本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Tiは主に、溶接金属中で脱酸および脱窒の役割を果たす。一定量のTiによって、溶接ワイヤの溶接プロセス性能を顕著に改善させ、スパッタを減らすことができる。しかしながら、Tiが過剰であると、溶接金属の強度が大幅に増加し、伸びが低下することになる。したがって、本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Tiの質量パーセントは0.02~0.07%に制御されている。
【0014】
Cr:本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Cr元素は、さらなるα-FeOOH形成を促進でき、主要な耐候性元素の1つである。Cr元素は、母材に近い内部さび層の組成が熱力学的安定状態に変わるよう促進するだけでなく、さび層がシート状緻密構造を形成するよう促進して、さび層の導電性を低下させることができる。しかしながら、Crの質量パーセントが高すぎると、溶着金属の性能に悪影響を及ぼすことに注意すべきである。したがって、本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Crの質量パーセントは1.60~2.20%に制御されている。
【0015】
Ni:本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Niは主要な耐候性元素の1つである。一定量のNiを添加することで、Cuの高温脆性傾向を低下させることができ、Ni含有量が増加すると、溶接金属の低温靭性が安定する傾向がある。しかしながら、Ni元素含有量が高すぎると、コストが高くなりすぎ、また、溶接ワイヤの加工性にも悪影響を及ぼすことになる。したがって、本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Niの質量パーセントは1.6~2.4%に制御されている。
【0016】
Cu:本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Cuは主要な耐候性元素の1つである。一定量の銅によって、鋼板表面に緻密な保護さび層が形成されやすくなり、湿潤環境での鋼板の耐候性が良好となる。Cu元素とCr元素を併用すると耐候性が良好となり、Cu元素とNi元素を併用すると高温脆性傾向を低下させることができる。したがって、本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Cuの質量パーセントは0.20~0.35%に制御されている。
【0017】
本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材において、S元素含有量は質量パーセントで0.002~0.012%であることが好ましい。S含有量がこのような範囲であると、溶接プロセス性能と溶接品質とのバランスを良好にすることができる。
【0018】
本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Ca元素およびAl元素の含有量は、質量パーセントで、0<Ca≦0.0014%および/または0<Al≦0.015%、好ましくは0<Ca≦0.0014%および0<Al≦0.015%に制御されていることが好ましい。
【0019】
本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材は、Ca元素およびAl元素をさらに含有してもよい。Ca元素および/またはAl元素の添加は、溶接ワイヤ鋼が円滑に連続鋳造されることを保証するためである。ガスシールド溶接ワイヤ用線材中のCa元素含有量が多すぎると、溶接ワイヤのスパッタが増加し、溶接プロセス性能が低下することになる。溶接ワイヤ用線材の円滑な製造を保証するという前提では、Ca元素含有量をできるだけ少なくするべきである。したがって、本発明の技術的解決手段において、Caの質量パーセントは0<Ca≦0.0014%に制御されている。
【0020】
したがって、本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材において、Alの質量パーセントは0<Al≦0.015%に制御されている。Al元素含有量が多すぎると、高融点介在物が増加することにより、溶接ワイヤ用線材の可塑性が低下し、溶接ワイヤ用線材を細線に伸線する際の歩留まりに大きく影響するだけでなく、溶接プロセスの安定性も低下することになる。したがって、ガスシールド溶接ワイヤ用線材中のAl元素含有量をできるだけ少なくすべきであり、その結果、良好な衝撃靭性も得やすくなる。
【0021】
本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材において、P元素、O元素、およびN元素は不可避不純物であり、P元素、O元素、およびN元素の含有量は、質量パーセントで、P≦0.015%、O≦0.0060%、およびN≦0.0070%に制御されていることが好ましい。
【0022】
上記の技術的解決手段に関し、本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材において、P元素、O元素、およびN元素は全て不可避不純物元素であり、ガスシールド溶接ワイヤ用線材中のP元素、O元素、およびN元素の含有量はできるだけ少なくすべきである。鋼中の不純物元素の質量パーセントが低いほど、鋼の純度が高くなり、溶接ワイヤのスパッタが少なくなり、溶着金属の可塑性および低温靭性が良好となる。
【0023】
本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材において、化学元素の含有量は、C×P×104≦4(式中、CおよびPは対応化学元素の質量パーセントの数値、すなわち、対応元素の質量パーセントの記号「%」の前の数字を表す)をさらに満たすことが好ましい。
【0024】
上記技術的解決手段に関し、本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材において、単一の化学元素の質量パーセントを制御しつつ、技術的特徴であるC×P×104≦4を制御することで、本発明のガスシールド溶接ワイヤ用線材が良好な溶接プロセス性能を有するようさらに保証できる。
【0025】
本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材において、耐候性指数Iおよび関与する元素の質量パーセントでの含有量は、I=26.01Cu+3.88Ni+1.20Cr+1.49Si+17.28P-7.29Cu×Ni-9.10Ni×P-33.39Cu2≧10を満たすことが好ましい。
【0026】
本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材において、耐候性のレベルは耐候性指数式で表すことができる。耐候性指数Iおよび関与する元素の質量パーセントでの含有量は、I=26.01Cu+3.88Ni+1.20Cr+1.49Si+17.28P-7.29Cu×Ni-9.10Ni×P-33.39Cu2(式中、Cu、Ni、Cr、Si、P、およびNiは対応元素の質量パーセントの数値、すなわち、対応元素の質量パーセントの記号「%」の前の数字を表す)を満たす。例えば、Cuの質量パーセントが0.35%の場合、式に代入される対応値は0.35である。上記の技術的解決手段において、耐候性指数Iを10以上に制御することで、本発明の線材が高耐候性となるよう効果的に保証できる。概して、高耐候性鋼の耐候性指数Iは通常15以下である。本出願で提供される解決手段において、耐候性指数Iは通常10~12に分布する。
【0027】
本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材の場合、得られる溶着金属は、混合ベイナイト+混合フェライトの微細構造を有し、混合フェライトの相比率が10%~30%であり、混合ベイナイトは、粒状ベイナイト、上部ベイナイト、下部ベイナイト、および塊状ベイナイトを含み、かつ、混合フェライトは、二次相を有するフェライト、粒界フェライト、針状フェライト、および塊状フェライトを含むことが好ましい。
【0028】
本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材は、スパッタ率が2%未満であることが好ましい。スパッタ率の最小値は0(すなわち、スパッタなし)である。本出願で提供される解決手段において、スパッタ率は低いほど望ましい。
【0029】
本発明に係るガスシールド溶接ワイヤ用線材において、得られる溶着金属は、降伏強度ReLが350MPa以上、通常550MPa以下であり、引張強度Rmが500MPa以上、通常690MPa以下であり、伸びAが18%以上であり、かつ-40℃での衝撃エネルギーAkvが47J以上であることが好ましい。
【0030】
したがって、本発明の別の目的は、ガスシールド溶接ワイヤを提供することである。上記ガスシールド溶接ワイヤは、高耐候性鋼Q350EWまたは類似製品の溶接の他、一般的な強度グレード(引張強度グレード50kg)の高耐候性溶接構造用鋼の溶接にも好適であり、鉄道客車、鉄道貨車、高速列車、地下鉄などの高耐候性用途で効果的に使用できる。
【0031】
上記目的を達成するために、本発明は、上記ガスシールド溶接ワイヤ用線材から作製された高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤを提供する。
【0032】
本発明のガスシールド溶接ワイヤを溶接に用いる際に使用する溶接ガスは、アルゴンおよび二酸化炭素の二元混合ガス、アルゴンおよび酸素の二元混合ガス、アルゴン、二酸化炭素、および酸素の三元混合ガス、またはその他の多成分ガスであってよいことに注意すべきである。好ましくは、アルゴンおよび二酸化炭素の二元混合ガスにおいて、アルゴンと二酸化炭素のガス比率は82%Ar+18%CO2あってよい。
【0033】
本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材および溶接ワイヤの利点および有益な効果は下記の通りである。
【0034】
本発明において、合金元素および微量元素の含有量を調整することで、冷延薄板に適用される溶接ワイヤの溶接プロセス性能が改善される。作製された高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材は、高耐候性を前提として総合的な機械特性に優れ、溶接アークが安定しており、低スパッタで、適用範囲が広く、鉄道客車車両のあらゆる板厚、特に冷延薄板に好適であり、客車全体の溶接品質を効果的に改善できる。
【0035】
本発明の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材から形成される溶着金属は、耐候性および総合的な機械特性が高く、降伏強度ReLが350~550MPa、引張強度Rmが500~690MPa、伸びAが18%以上、かつ-40℃での衝撃エネルギーAkvが47J以上である。
【0036】
したがって、本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤもまた上記利点および有益な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】実施例1の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の巨視的金属組織を示す。
【
図2】実施例1の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の粗大柱状晶の金属組織を示す。
【
図3】実施例1の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の粗大柱状晶の金属組織を別の倍率で示す。
【
図4】実施例1の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の粗大柱状晶の金属組織を別の倍率で示す。
【
図5】実施例1の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の微細柱状晶間HAZ部(熱影響部)の金属組織を示す。
【
図6】実施例1の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の微細柱状晶間HAZ部(熱影響部)の金属組織を別の倍率で示す。
【
図7】実施例1の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の微細柱状晶間HAZ部(熱影響部)の金属組織を別の倍率で示す。
【
図8】実施例2の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の被覆層における粗大柱状晶の微細構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明に係る高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤ用線材および溶接ワイヤについて、具体例および添付図面に基づいてさらに詳細に説明する。しかしながら、これらの説明は、本発明の技術的解決手段を不適切に限定するものではない。
【実施例】
【0039】
実施例1~6
下記工程により実施例1~6のガスシールド溶接ワイヤを作製した。
【0040】
(1)表1に示す化学組成に従って、製錬および連続鋳造またはダイキャストにより鋼塊を得た。製錬の際、50kgの真空誘導炉3基および150tの電気炉2基を使用した。
【0041】
(2)鋼塊を熱間圧延して線材(φ5.5mm)を得た。
【0042】
(3)線材に対し、粗伸線、中間焼鈍、仕上げ伸線、および銅めっきを行うことで、φ1.0mmの溶接ワイヤおよびφ1.2mmの溶接ワイヤを得た。
【0043】
実施例1~6で得られた溶接ワイヤおよび線材について化学元素の質量パーセントを表1に示す。
【0044】
【0045】
板厚を20mm、開先形状を60°片面V字突き合わせ、底面間隔を12mmとして、アルゴンリッチガスシールド溶接ワイヤの溶着金属試験を行った。ここで、ガス比率は82%Ar+18%CO2とし、溶接前の予熱は行わず、パス間温度は約150℃に制御した。溶接の際、実施例のガスシールド溶接ワイヤはアークが安定しており、広がり性が良好で、スパッタがほとんど無く、溶接外観が良好であり、全姿勢溶接で使用可能である。続いて、実施例1~6のガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の引張試験および衝撃試験を行い、また、溶接ワイヤのスパッタ率試験を行った。スパッタ率試験は、GB/T25776-2010「溶接消耗品の溶接工程認定方法」の試験基準に従って行った。結果を表2に示す。
【0046】
【0047】
表2から分かるように、本発明の実施例のガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属は、降伏強度ReLが350~550MPa、引張強度Rmが500~690MPa、伸びAが18%以上、かつ-40℃の衝撃エネルギーAkvが47J以上であった。さらに、本発明の実施例のガスシールド溶接ワイヤは、従来の混合ガスシールド溶接においてスパッタ率が2%未満であった。スパッタ率は低く、プロセス効果は良好であった。また、表1に基づいて分かるように、実施例の耐候性指数Iは10以上である。
【0048】
規格TB/T2375「鉄道用耐候性鋼の周期的浸潤腐食試験方法」に従って、実施例1~6のガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の腐食試験を行った。溶着金属サンプルに対する比較サンプルは、鉄道客車用の新たな高耐候性鋼であるQ350EWであった。腐食試験は72時間行った。試験結果を表3に示す。
【0049】
【0050】
表2および3から、ガスシールド溶接ワイヤの溶接に際して、本発明の実施例の溶接ワイヤから得られた溶着金属の総合的な機械特性および耐腐食性は、溶接母材Q350EWと同等であったことがわかる(総合的な機械特性がQ350EWの基準を満たしていた。当該分野において、耐腐食性差が10%以内であればQ350EWと同等であるとみなされる)。また、ガスシールド溶接ワイヤは、一般的な強度グレード(引張強度グレード50kg)の高耐候性溶接構造用鋼の溶接にも好適であった。したがって、本発明の実施例1~6のガスシールド溶接ワイヤは、溶接アークが安定で、スパッタ率が低く、適用範囲が広く、鉄道客車、鉄道貨車、高速列車、地下鉄などの高耐候性用途で効果的に使用できることがわかる。
【0051】
実施例1の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の巨視的金属組織を
図1に示す。
【0052】
図1に示す通り、溶着金属の巨視的金属組織は、主に、粗大柱状晶と微細柱状晶間HAZ部(熱影響部)とからなる。
【0053】
実施例1の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の粗大柱状晶の金属組織を各種の倍率で
図2、3、および4にそれぞれ示す。
【0054】
図2、3、および4から分かるように、高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の微細構造は、下部ベイナイト、粒状ベイナイト、線状に配列した二次相を有するフェライト、粒界フェライト(GBF)、および塊状フェライトを含む。
【0055】
実施例1の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の微細柱状晶間HAZ部(熱影響部)の金属組織を各種の倍率で
図5、6、および7にそれぞれ示す。
【0056】
図5、6、および7から分かるように、高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の微細柱状晶間HAZ部(熱影響部)の構造は、粒状ベイナイト、二次相を有するフェライト、および塊状フェライトを含む。
【0057】
実施例2の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の被覆層における粗大柱状晶の微細構造を
図8に示す。
【0058】
図8から分かるように、実施例2の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の被覆層における粗大柱状晶は、上部ベイナイト、下部ベイナイト、塊状ベイナイト、粒界フェライト(GBF)、および針状フェライトから構成される。
【0059】
図1~8から、本発明の高耐候性低スパッタガスシールド溶接ワイヤから形成された溶着金属の微細構造は混合ベイナイト+混合フェライトであり、混合フェライトの相比率は10%~30%であり、混合ベイナイトは、粒状ベイナイト、上部ベイナイト、下部ベイナイト、および塊状ベイナイトを含み、かつ、混合フェライトは、二次相を有するフェライト、粒界フェライト、針状フェライト、および塊状フェライトを含むことがわかる。
【0060】
本開示の保護範囲の先行技術部分については、本出願書類に記載された例に限定されないことに留意されたい。先行特許文献、先行刊行物、先行公用使用などを含むがこれらに限定されない、本開示と矛盾しないすべての先行技術は、本開示の保護範囲に含めることができる。
【0061】
また、本開示における種々の技術的特徴の組み合わせは、特許請求の範囲に記載された組み合わせや特定の実施形態に記載された組み合わせに限定されない。本開示に記載されたすべての技術的特徴は、それらの間に矛盾がない限り、自由にまたは任意に組み合わせることができる。
【0062】
上に列挙した実施例は、本開示の特定の実施形態にすぎないことにも留意されたい。本開示は上記の実施形態に限定されず、当業者が本開示から直接導き出すか、または本開示から容易に想到する類似の変形物または修正物が本開示の範囲内に含まれるべきであることは明らかである。