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特許7523591負極活物質としてシリコン(Si)を含む全固体電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】負極活物質としてシリコン(Si)を含む全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20240719BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240719BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240719BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240719BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240719BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240719BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240719BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20240719BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/131
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/1391
H01M4/62 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022574293
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 KR2021003459
(87)【国際公開番号】W WO2021251598
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】63/037,667
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/157,012
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ジョン-ボム・イ
(72)【発明者】
【氏名】ヒェ-リ・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ヒャ-ウン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】フェ-ジン・ハ
(72)【発明者】
【氏名】スン-ロク・バン
(72)【発明者】
【氏名】イン・シャーリー・メン
(72)【発明者】
【氏名】ダーレン・フアン・シェン・タン
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-116154(JP,A)
【文献】特開2019-046722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/38
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/131
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/1391
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極、正極、及び前記負極と正極との間に介在される固体電解質膜を含み、
前記負極は、負極活物質としてシリコンを含む負極活物質層を含み、
前記シリコンは、複数のシリコン粒子から構成されたものであり、
前記負極活物質層は、負極活物質層100wt%に対するシリコンの含量が90wt%以上であり、
前記固体電解質膜は、硫化物系固体電解質を含み、
前記負極活物質層は、炭素系導電材を含まず、
前記負極活物質層は、初期充放電サイクル進行前状態における気孔度が25vol%~65vol%である、全固体電池。
【請求項2】
前記負極活物質層は、負極活物質層100wt%に対するシリコンの含量が99wt%以上である、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記負極活物質層は、負極活物質層100wt%に対するシリコンの含量が99.9wt%以上である、請求項1または2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記負極は、集電体を含み、前記負極活物質層が前記集電体の少なくとも一面に形成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記硫化物系固体電解質は、LPS系ガラスまたはガラスセラミック(xLiS・yP)、またはアルジロダイト系硫化物系固体電解質(LiPSX;X=Cl、Br、I)のうち選択された1種以上を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記シリコン粒子は、粒径が0.1μm~10μmである、請求項1から5のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記負極活物質層は、サイクル進行前状態における気孔度が25vol%~40vol%である、請求項に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記負極は、SOC90%~100%状態における気孔度が10vol%未満である、請求項1からのいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項9】
前記シリコンは、純度97%以上のものが負極活物質として導入される、請求項1からのいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項10】
前記正極は正極活物質層を含み、前記正極活物質層は正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記遷移金属はCo、Mn、Ni、Alのうち1種以上を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項11】
前記正極活物質層は、バインダー樹脂、導電材及び固体電解質のうち1種以上をさらに含む、請求項10に記載の全固体電池。
【請求項12】
前記固体電解質は、前記硫化物系固体電解質を含み、前記硫化物系固体電解質は、LPS系ガラスまたはガラスセラミック(xLiS・yP)、またはアルジロダイト系硫化物系固体電解質(LiPSX;X=Cl、Br、I)のうち選択された1種以上を含む、請求項11に記載の全固体電池。
【請求項13】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、下記化学式1で表される化合物のうち1種以上を含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の全固体電池:
[化学式1]
LiNiCoMn … 化学式1
化学式1において、0.5≦x≦1.5、0<a≦1、0≦b<1、0≦c<1、0≦z<1、1.5<y<5であり、a+b+c+zは1以下であり、MはAlから選択された1種以上である。
【請求項14】
前記aは、0.5以上である、請求項13に記載の全固体電池。
【請求項15】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、LiNi0.8Co0.1Mn0.1を含む、請求項13または14に記載の全固体電池。
【請求項16】
前記負極活物質層は、導電材を含まない、請求項1から15のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項17】
前記電池は、NP比が0.1~30.0である、請求項1から16のいずれか一項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年6月11日付け出願の米国仮出願63/037,667及び2021年3月5日付け出願の米国仮出願63/157,012に基づく優先権を主張する。本発明は、全固体電池用負極及び前記負極を含む全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリチウムイオン二次電池では、遷移金属酸化物系正極活物質と黒鉛系負極活物質を使用し、液体電解質を使用して正極と負極との間にリチウムイオン伝導性を確保する。
【0003】
近年、黒鉛系負極活物質の代替材として、シリコン(Si)のような高容量負極活物質に対する研究が増加している。シリコン(Si)は、電気伝導性が高く、黒鉛系活物質に比べて高容量特性を示すため、シリコン(Si)を負極活物質として適用することで、炭素系負極が適用された現在の電池に比べて高い電池容量及び電池小型化の達成を期待できる。
【0004】
しかし、シリコン(Si)は、充放電過程で体積の変化が大きいことから亀裂が生じ易く、亀裂によって新たな表面が露出して液体電解質と接触する場合、表面にSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜が形成されて電池容量が減少する問題がある。このような容量退化を防止するため、従来、シリコン(Si)負極に多様なSiナノ構造体を炭素化合物、バインダー材料とともに使用して微粉化を防止し、Siのプレリチウム化を通じてLi損失を補おうと試みられている。または、フルオロエチレンカーボネート(FEC)や他のイオン性液体添加剤を使用してLiF/LiOH/LiOを形成する方案が考えられている。しかし、このような持続的な研究にもかかわらず、フルセル(full cell)において相変らず100サイクルを超える安定的なサイクル特性を得難く、それに対して新たなアプローチが必要な実情である。また、高いエネルギー密度を具現するため、バインダー及びカーボン導電性添加剤の比率を下げる方案に対しても研究が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、負極活物質としてシリコン(Si)を使用する全固体電池を提供することを目的とする。また、本発明は、耐熱安定性、エネルギー密度、寿命特性、クーロン効率などの電気化学的な特性に優れた全固体電池を提供することを他の目的とする。本発明の他の目的及び長所は、特許請求の範囲に示される手段、方法またはその組合せによって実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様は、全固体電池に関し、前記全固体電池は、負極、正極、及び前記負極と正極との間に介在される固体電解質膜を含み、前記負極は負極活物質としてシリコン(Si)を含む負極活物質層を含み、前記シリコンは複数のシリコン粒子から構成されたものであり、前記負極活物質層は負極活物質層100wt%に対するシリコン(Si)の含量が90wt%以上であり、前記固体電解質膜は硫化物系固体電解質を含む。
【0007】
本発明の第2態様によれば、第1態様において、前記負極活物質層は負極活物質層100wt%に対するシリコン(Si)の含量が99wt%以上である。
【0008】
本発明の第3態様によれば、第1態様において、前記負極活物質層は負極活物質層100wt%に対するシリコン(Si)の含量が99.9wt%以上である。
【0009】
本発明の第4態様によれば、第1~第3態様のうちいずれか一つにおいて、前記負極は集電体を含み、前記負極活物質層が前記集電体の少なくとも一面に形成される。
【0010】
本発明の第5態様によれば、第1~第4態様のうちいずれか一つにおいて、前記硫化物系固体電解質はLPS系ガラスまたはガラスセラミック(xLiS・yP)、またはアルジロダイト(argyrodite)系硫化物系固体電解質(LiPSX;X=Cl、Br、I)のうち選択された1種以上を含む。
【0011】
本発明の第6態様によれば、第1~第5態様のうちいずれか一つにおいて、前記シリコン(Si)粒子は粒径が0.1μm~10μmである。
【0012】
本発明の第7態様によれば、第1~第6態様のうちいずれか一つにおいて、前記負極活物質層は初期充放電サイクル進行前状態における気孔度が25vol%~65vol%である。
【0013】
本発明の第8態様によれば、第7態様において、前記負極活物質層はサイクル進行前状態における気孔度が25vol%~40vol%である。
【0014】
本発明の第9態様によれば、第1~第8態様のうちいずれか一つにおいて、前記負極はSOC70%~100%状態における気孔度が10vol%未満である。
【0015】
本発明の第10態様によれば、第1~第9態様のうちいずれか一つにおいて、前記シリコン(Si)は純度97%以上のものが負極活物質として導入される。
【0016】
本発明の第11態様によれば、第1~第10態様のうちいずれか一つにおいて、前記正極は正極活物質層を含み、前記正極活物質層は正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記遷移金属はCo、Mn、Ni、Alのうち1種以上を含む。
【0017】
本発明の第12態様によれば、第11態様において、前記正極活物質層はバインダー樹脂、導電材及び固体電解質のうち1種以上をさらに含む。
【0018】
本発明の第13態様によれば、第11または第12態様において、前記固体電解質は前記硫化物系固体電解質を含み、前記硫化物系固体電解質はLPS系ガラスまたはガラスセラミック(xLiS・yP)、またはアルジロダイト系硫化物系固体電解質(LiPSX;X=Cl、Br、I)のうち選択された1種以上を含む。
【0019】
本発明の第14態様によれば、第11~第13態様のうちいずれか一つにおいて、前記リチウム遷移金属複合酸化物は下記化学式1で表される化合物のうち1種以上を含む。
[化学式1]
LiNiCoMn … 化学式1
化学式1において、0.5≦x≦1.5、0<a≦1、0≦b<1、0≦c<1、0≦z<1、1.5<y<5であり、a+b+c+zは1以下であり、MはAlから選択された1種以上である。
【0020】
本発明の第15態様によれば、第14態様において、前記aは0.5以上である。
【0021】
本発明の第16態様によれば、第14または第15態様において、前記リチウム遷移金属複合酸化物はLiNi0.8Co0.1Mn0.1を含む。
【0022】
本発明の第17態様によれば、第12~第16態様のうちいずれか一つにおいて、前記正極活物質層は正極活物質、導電材、バインダー樹脂及び固体電解質を用いて、溶媒なしに乾式混合工程による製造方法で収得される。
【0023】
本発明の第18態様によれば、第1~第17態様のうちいずれか一つにおいて、前記負極活物質層は導電材を含まない。
【0024】
本発明の第19態様によれば、第1~第18態様のうちいずれか一つにおいて、前記負極活物質層は炭素系導電材を含まない。
【0025】
本発明の第20態様によれば、第1~第19態様のうちいずれか一つにおいて、前記電池はNP比が0.1~30.0である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様による全固体電池は、負極中の負極活物質であるSiの含量が多いため、エネルギー密度が高い電池を提供することができる。また、前記負極は、充放電サイクル進行前のSi粒子同士の間の空間による気孔によって多孔性特性を示すものであって、これら気孔によって充放電時のSi粒子の体積変化が緩衝される効果がある。また、Si負極と固体電解質を使用することで、Si粒子の体積変化によって亀裂が発生しても、亀裂によって新たに形成される表面にSEI被膜が形成されないため、活物質の損失を防止して電池容量を維持することができ、インピーダンスの上昇を引き起こさない。本発明による電池は、このような特徴から耐熱安定性、エネルギー密度、寿命特性、クーロン効率などの電気化学的な特性が優れる。
【0027】
本明細書に添付される図面は、本発明の望ましい実施形態を例示するものであり、発明の内容とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。一方、本明細書に添付される図面における要素の形状、大きさ、縮尺または比率などはより明確な説明を強調するため誇張されることもある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1a】従来の液体電解質電池において、負極活物質の亀裂によってSEI被膜が形成されるメカニズムを示した図である。
図1b】本発明の固体電解質電池において、負極活物質の亀裂によってSEI被膜が形成されるメカニズムを示した図である。
図1c】本発明の全固体電池において、サイクル進行中の負極のリチウム化メカニズムを示した図である。
図2】硫化物系固体電解質とSi粉末との混合物に対するX線回折パターンである。
図3a】実施例1-1による全固体電池のサイクル進行前の断面状態を示したSEMイメージである。
図3b】実施例1-1による全固体電池のサイクル進行後の断面状態を示したSEMイメージである。
図4a】本発明の実施例1-1によるSi負極のデジタルイメージである。
図4b図4aを拡大したSEMイメージである。
図4c図4aを拡大したSEMイメージである。
図5a】本発明の実施例1-1、1-2、1-3に対する電圧プロファイルを示した図である。
図5b】本発明の実施例1-1、1-2、1-3に対するサイクル性能及び平均クーロン効率を示した図である。
図5c】本発明の実施例1-1の電池に対するC/3レートの充放電プロフィールを示した図である。
図6】実施例1-1及び比較例1の電池に対し、初期リチウム化が行われる間の電圧プロファイルを示した図である。
図7】実施例1-1による電池のサイクル前Si-固体電解質(Solid State Electrolytes、SSE)及びリチウム化されたSi-SSEのリチウム化回折パターン、並びに比較例1のリチウム化回折パターンを示した図である。
図8a】実施例1-1及び比較例1の電池に対し、AXIS Supra XPS(Kratos Analytical製)を使用してSi-SSE界面生成物(interface products)を確認し、電池充電における炭素添加剤の有無による相違を確認した図である。
図8b】実施例1-1及び比較例1の電池に対し、AXIS Supra XPS(Kratos Analytical製)を使用してSi-SSE界面生成物を確認し、電池充電における炭素添加剤の有無による相違を確認した図である。
図8c】実施例1-1及び比較例1の電池に対し、AXIS Supra XPS(Kratos Analytical製)を使用してSi-SSE界面生成物を確認し、電池充電における炭素添加剤の有無による相違を確認した図である。
図9a】実施例1-1の電池に対し、滴定ガスクロマトグラフィー(Titration Gas Chromatography、TGC)方法を使用して、形成されたSEI及びLi-Siを定量化して示した図である。
図9b】実施例1-1の電池に対し、TGC方法を使用して、形成されたSEI及びLi-Siを定量化して示した図である。
図9c】実施例1-1の電池に対し、TGC方法を使用して、形成されたSEI及びLi-Siを定量化して示した図である。
図10a】比較例2による電池の寿命特性を示した図である。
図10b】比較例2による電池の寿命特性を示した図である。
図10c】実施例1-1による電池の寿命特性を示した図である。
図10d】実施例1-1による電池の寿命特性を示した図である。
図11a】実施例1-1と比較例2の室温条件での保存特性を確認した図である。
図11b】実施例1-1と比較例2の高温条件での保存特性を確認した図である。
図11c】実施例1-1と比較例2の室温条件での保存特性を確認した図である。
図11d】実施例1-1と比較例2の高温条件での保存特性を確認した図である。
図12a】実施例1-1の電池に対して電気化学インピーダンススペクトロスコピー(EIS:Electrochemical Impedance Spectroscopy)を測定して示した図である。
図12b】実施例1-1の電池に対してEISを測定して示した図である。
図12c】実施例1-1の電池に対してEISを測定して示した図である。
図12d】実施例1-1の電池に対してEISを測定して示した図である。
図13a】比較例3による電池に対する充放電グラフを示した図である。
図13b】実施例2による電池に対する充放電グラフを示した図である。
図14a】実施例1-1で乾式方法で製造された正極のSEMイメージである。
図14b】実施例1-1で乾式方法で製造された正極のSEMイメージである。
図14c】実施例1-1で乾式方法で製造された正極のSEMイメージである。
図14d】実施例1-1で乾式方法で製造された正極のSEMイメージである。
図15a】実施例1-1で製造された正極のEDSイメージである。
図15b】実施例1-1で製造された正極のEDSイメージである。
図15c】実施例1-1で製造された正極のEDSイメージである。
図16】実施例1-1で製造された電池において、レート変化による面積容量(areal capacity)を示した図である。
図17】実施例1-1で製造された電池において、1Cでの30サイクル間の面積容量及びクーロン効率の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳しく説明する。これに先だち、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。したがって、本明細書に記載された実施形態及び図面に示された構成は、本発明のもっとも望ましい一実施形態に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを代弁するものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解せねばならない。
【0030】
本明細書の全体において、ある部分が他の構成要素を「含む」とは、特に言及しない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0031】
また、本明細書の全体で使われる用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示されるとき、その数値でまたはその数値に近接した意味として使われ、本願の理解を助けるために正確又は絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使われる。
【0032】
本明細書の全体において、「A及び/またはB」との記載は「A、Bまたはこれら全て」を意味する。
【0033】
本発明は、電解質として固体電解質材料を含む全固体電池に関する。前記全固体電池の具体的な例としては、すべての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池またはスーパーキャパシタ素子のようなキャパシタなどが挙げられる。特に、前記二次電池は、具体的にはリチウムイオン二次電池である。
【0034】
一実施形態において、本発明による全固体電池は、負極、正極、及び前記負極と正極との間に介在される固体電解質膜を含み、前記負極は負極活物質としてシリコン(Si)を含む負極活物質層を含む。
【0035】
リチウム金属を負極として使用する場合、エネルギー密度が高くて長寿命特性を有するが、駆動温度が低いと、リチウムデンドライトの成長が酷くなって電池性能が退化する問題がある。しかし、Si負極の場合は、リチウムデンドライト成長の恐れがなく、常温でも優れた性能を示すことができるため、リチウム金属の負極に比べて有利である。一方、液体電解質を使用する電池においてSi負極は、駆動温度が低い場合(例えば、室温以下)、高率充電特性に優れる一方、可逆面積容量(reversible areal capacity)が低い。これは、液体電解質電池の場合、高ローディング電極を導入し難くする。本発明による電池は、上述した問題を解決できるという長所がある。
【0036】
以下、本発明の構成及び効果について詳しく説明する。
【0037】
本発明において、前記シリコンは、複数のシリコン粒子から構成されたものである。前記シリコン(Si)粒子は、直径が0.1μm~10μm、望ましくは3μm~5μmであり得る。この範囲に含まれる場合、負極の製造工程的な面及び厚さ均一性の確保の面で有利である。
【0038】
本発明の一実施形態において、前記負極活物質層は、負極活物質層100wt%に対するシリコン(Si)の含量が90wt%以上、99wt%以上、または99.9wt%以上であり得る。一方、本発明の一実施形態において、前記シリコン(Si)は、純度97%以上のものを負極活物質として導入することが望ましい。シリコン(Si)の純度が上記の範囲を満足する場合、初期非可逆反応の減少及びセルエネルギー密度の向上の面で有利である。また、負極中の負極活物質が負極組成のほとんどを占めるため、組成の面で均質な高ローディング電極を収得するのに有利である。
【0039】
本発明の具体的な一実施形態において、前記負極活物質層は、導電材を含まないことが望ましい。特に、カーボンブラックのような炭素系導電材の使用が排除されることが望ましい。負極活物質層に導電材が含まれる場合、固体電解質の非可逆的な分解反応が加速化して電池の抵抗特性及び寿命性能が低下する問題がある。
【0040】
また、本発明による負極活物質層は、固体電解質の含量が少ないほど、好適には固体電解質を含まないことが望ましい。本発明の負極活物質層は、シリコン(Si)の含量が高く、充放電による体積変化が誘発されるため、界面接触維持の面で固体電解質の含量が少ないこと、さらには含まないことが望ましい。
【0041】
本発明の一実施形態において、前記負極活物質層はSiのみから構成されるか、又は、Si及びバインダー樹脂のみから構成され得、このとき、前記バインダー樹脂は、負極活物質層100wt%に対して10wt%未満、1wt%未満、または0.1wt%未満で含まれ得る。
【0042】
前記負極は、負極集電体を含み、このとき、前記負極活物質層は前記集電体の少なくとも一面に形成され得る。本発明の一実施形態において、前記負極活物質層は、約10μm~100μmの厚さ範囲を有し得、例えば10μm~70μmまたは10μm~50μmの厚さで形成され得る。
【0043】
本発明の一実施形態において、前記負極活物質層は、初期充放電サイクルを進行する前の状態での気孔度が25vol%~65vol%、望ましくは25vol%~40vol%であり得る。一方、前記負極活物質層は10μm~50μmの厚さを有し得る。
【0044】
前記気孔は、シリコン(Si)粒子同士の間に存在する空間によって形成されたインタースティシャル・ボリューム(interstitial volume)であって、前記負極活物質層は前記インタースティシャル・ボリュームに起因する多孔性構造を有する。
【0045】
前記負極活物質層が多孔性構造を有することは、本発明による負極の体積が膨張することを緩衝できるという点で重要な技術的意味を有する。
【0046】
前記負極活物質層は、充電時にLi-Si合金相を形成し、体積が膨脹するが、この膨張した体積を気孔が収容するため、充電時は気孔度が顕著に減少し得る。本発明の一実施形態において、前記負極活物質層はSOC90%~SOC100%範囲では気孔度が10vol%以下であり得る。
【0047】
ただし、気孔の大きさや分布は、初期サイクル進行前の状態とは異なるが、気孔が占める体積は同一に維持され得る。
【0048】
図3a及び図3bは、本発明による負極において、充放電サイクル進行前(3a)及び充放電サイクル進行後(3b)の負極の状態を示した図である。図3aを参照すると、充放電サイクルを進行する前は、負極が各粒子同士の間の気孔による多孔性を示す。前記気孔の大きさは、負極活物質粒子の大きさに依存的なものであり、図面によれば約3μm~5μmと確認された。充放電サイクルが進行し、負極がリチウム化された状態では、体積膨張が気孔側に進んで気孔の体積が小さくなり、密度が高いリチウム化されたシリコン金属性状態になる(図3b)。前記負極は、負極の厚さ方向に対して垂直方向(Z軸方向)に制限的に膨張した状態を有する。これは、固体電解質膜に過度な応力(stress)が加えられることを防止し、クラックが形成されるなどの電池性能の退化を防止する。
【0049】
本発明の一実施形態において、前記負極活物質層は、例えば下記のような方法で製造され得る。
【0050】
本発明の一実施形態において、前記負極活物質層は、シリコン粉末を溶媒に投入し分散してスラリーを製造した後、これを適切な負極集電体に塗布して乾燥する方式で収得し得る。一方、前記乾燥された結果物は、所定の圧力、例えば約370MPaの圧力で加圧して厚さ及び気孔度を調節し得る。前記気孔度は、上述した水準に適切に制御され得る。前記溶媒は、バインダー樹脂をさらに含み得るが、前記バインダー樹脂の含量は、最終的に収得される負極活物質層100wt%に対して10wt%未満、1wt%未満、または0.1wt%未満の量で含まれるように調節され得る。前記加圧の方法は特に限定されず、公知の加圧方法を選択して適用し得る。
【0051】
前記溶媒は、例えばNMPなどを使用し得るが、これに特に限定されることはなく、シリコン(Si)の電気化学的特性に影響を及ぼさないものであれば制限なく使用し得る。
【0052】
前記負極は、具体的には下記のような方法で製造され得る。シリコン(Si)粉末を0.1wt%のポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidene DiFluoride、PVDF)を含むN-メチル-2-ピロリドンに分散し、該分散物をミキサーで混合してスラリーが形成されるまで撹拌した後、これを集電体に塗布する。この結果物を80℃真空下で乾燥した。例えば、負極の目標気孔度は約33%に設定し得る。
【0053】
前記固体電解質膜は、固体電解質を含み、前記固体電解質は硫化物系固体電解質を含み得る。前記硫化物系固体電解質は、硫黄(S)を含み、周期表の第1族または第2族に属する金属のイオン伝導性を有するものであって、Li-P-S系ガラス、Li-P-S系ガラスセラミック、アルジロダイト系硫化物系固体電解質などを含み得る。このような硫化物系固体電解質の非制限的な例としては、xLiS-yP、LiS-LiI-P、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiBr-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-P-P、LiS-P-SiS、LiS-P-SnS、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、またはLiPSX(X=Cl、Br、Iのうち1種以上)などが挙げられ、これらのうち一つ以上を含み得る。本発明の一実施形態において、前記硫化物系固体電解質は、LPS系ガラスまたはガラスセラミックであるxLiS-yP、またはアルジロダイト系硫化物系固体電解質(LiPSX;X=Cl、Br、I)のうち選択された1種以上を含み得る。
【0054】
本発明において、前記硫化物系固体電解質の平均粒径は、全固体電池に適した範囲に調節され得る。本発明の具体的な一実施形態において、前記固体電解質は、粒子の平均直径が0.1μm~50μmであり得る。また、本発明の一実施形態において、選択された固体電解質は1×10-5S/cm、望ましくは1×10-3S/cm以上のイオン伝導度を有するものである。
【0055】
本発明の一実施形態において、前記固体電解質膜は、例えば下記のような方法で製造され得る。
【0056】
まず、固体電解質を用意する。前記固体電解質は、市販中の製品を入手するか又は下記の方法で製造して用意し得る。固体電解質は下記のような方法で製造され得る。まず、LiCl、LiS及びPを化学量論的な量で混合し、遊星ボールミルなどの方法でミリングして均質混合物を収得する。前記混合物を所定時間に亘って高温熱処理し、目的とするLiPSCl固体電解質を収得し得る。前記熱処理は、約550℃で行われ得、熱処理時間は約8時間であり得る。
【0057】
次いで、前記固体電解質材料を所定の有機溶媒に投入及び分散させてスラリーを製造し、これを離型板などに塗布し乾燥してシート状に成形する。必要であれば、前記シート状の結果物を加圧して固体電解質膜を収得し得る。
【0058】
本発明の一実施形態において、前記正極は、正極活物質、正極導電材及び固体電解質を含む正極活物質層を含み得る。前記正極活物質層は、必要に応じて正極用バインダー樹脂をさらに含み得る。また、前記正極は、必要に応じて集電体を含み、前記正極活物質層が前記集電体の少なくとも一面に配置され得る。
【0059】
本発明の一実施形態において、前記正極活物質は、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、化学式Li1+xMn2-x(xは0~0.33、例えばLiMn)、LiMnO、LiMn、LiMnOのようなリチウムマンガン酸化物、リチウム銅酸化物(LiCuO);LiV、LiV、V、Cuなどのバナジウム酸化物;化学式LiNi1-x(M=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、BまたはGa、0<x<1)で表されるNiサイト型リチウムニッケル酸化物、例えば、LiNi1-z(Co、Mn、Al)(0<z<1);化学式LiMn2-x(M=Co、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTa、x=0.01~0.1、例えばLiMn1.5Ni0.5)またはLiMnMO(M=Fe、Co、Ni、CuまたはZn)で表されるリチウムマンガン複合酸化物;化学式のLiの一部がアルカリ土類金属イオンで置換されたLiMn;ジスルフィド化合物;Fe(MoO、リチウムリン酸鉄(LiFePO)のうち1種または2種以上の混合物を含み得る。本発明の一実施形態において、前記リチウムリン酸鉄は、導電性を改善するため、活物質粒子表面の全部または少なくとも一部が炭素材料でコーティングされ得る。
【0060】
望ましくは、前記正極活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(例えば、Li(Ni,Co,Mn)O、LiNi1-z(Co,Mn,Al)(0<z<1))、リン酸鉄リチウム(例えば、LiFePO/C)、リチウムニッケルマンガンスピネル(例えば、LiNi0.5Mn1.5)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(例えば、Li(Ni,Co,Al)O)、リチウムマンガン酸化物(例えば、LiMn)及びリチウムコバルト酸化物(例えば、LiCoO)のうち選択された1種以上を含み得る。
【0061】
本発明において、最も望ましくは、前記正極活物質がリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記遷移金属がCo、Mn、Ni、Alのうち1種以上を含み得る。
【0062】
本発明の一実施形態において、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、下記の化学式1で表される化合物のうち少なくとも1種以上を含み得る。
[化学式1]
LiNiCoMn … 化学式1
化学式1において、0.5≦x≦1.5、0<a≦1、0≦b<1、0≦c<1、0≦z<1、1.5<y<5であり、a+b+c+zは1以下であり、MはAl、Cu、Fe、Mg及びBのうち選択された1種以上を含み得る。
【0063】
本発明の一実施形態において、前記正極活物質は、aが0.5以上であるNi高含量正極活物質を使用することが望ましく、具体的な例としてLiNi0.8Co0.1Mn0.1が挙げられる。
【0064】
本発明の具体的な一実施形態において、前記正極導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維または金属繊維、金属粉末、導電性ウィスカー、導電性金属酸化物、活性カーボン(activated carbon)及びポリフェニレン誘導体からなる群より選択されたいずれか一つ、または、これらのうち2種以上の導電性材料の混合物であり得る。より具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、スーパーP(super-p)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、デンカ(denka)ブラック、アルミニウム粉末、ニッケル粉末、酸化亜鉛、チタン酸カリウム及び酸化チタンからなる群より選択された1種またはこれらのうちの2種以上の導電性材料の混合物であり得る。
【0065】
前記集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せず、高い導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用され得る。
【0066】
前記正極用バインダー樹脂としては、当業界で電極に通常適用される高分子を使用し得る。このようなバインダー樹脂の非制限的な例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン-トリクロロエチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルヘキシルアクリルレート、ポリブチルアクリルレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアリレート、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0067】
本発明の一実施形態において、前記正極に含まれる固体電解質は、高分子系固体電解質、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質のうち選択された1種以上を含み得る。本発明の一実施形態において、前記正極活物質は、望ましくは前記固体電解質膜について説明した硫化物系固体電解質を含み得る。
【0068】
本発明の一実施形態において、前記正極の前記正極活物質は、正極活物質層100wt%に対して70wt%以上で含まれることが望ましい。また、前記正極において、固体電解質は前記正極活物質層100wt%に対して10wt%~30wt%で含まれることが望ましい。
【0069】
一方、本発明の具体的な一実施形態において、前記正極は5mAh/cm以上、6mAh/cm以上、または10mAh/cm以上のローディング量(電極面積当り)を有し得る。本発明による電池において、このような高ローディング正極が適用される場合にも電気化学的に安定的な水準で電池の駆動が可能である。
【0070】
一方、本発明の具体的な一実施形態において、前記正極活物質層は、正極活物質、導電材、バインダー樹脂及び固体電解質を適切な溶媒に投入して製造したスラリーをキャスティングして収得するか、または、溶媒なしに乾式混合工程による製造方法で収得し得る。一方、本発明の一実施形態において、正極中の正極成分の均質な混合を達成し、それを通じて高ローディング正極を収得できるという面で、前記正極は溶媒を使わない乾式混合工程によって収得することが望ましい。
【0071】
前記乾式混合方法による正極活物質層の製造方法は、例えば下記のように説明され得る。まず、正極活物質、導電材及びバインダー樹脂を含む正極材料を混合装置に投入し、機械的な方式で混合して混合物を収得する。前記混合装置は、公知のミキサーや撹拌機のように比較的に均一な混合相を確保可能なものであれば何れも使用し得、特定の一つの装置に限定されることはない。一方、本発明の一実施形態において、前記混合工程で固形分の分散性を向上させ、バインダー樹脂の繊維状形成を誘導するため、昇温過程が含まれ得る。昇温時の温度は約30℃~100℃範囲内で適切に制御され得る。次いで、前記混合物を押出機を用いて電極の形態(広いフィルム状)で正極活物質層を押出し、加圧工程を通じて厚さを調節し得る。前記正極活物質層は、集電体なしに電極に適用されるか、または、必要であれば、収得した正極活物質層に集電体を付着して集電体を含む正極の形態で用意し得る。
【0072】
正極活物質は、例えばNMC811正極材料を商業的に入手して使用し得る。一方、必要に応じて、前記正極材料は粒子表面の全部または少なくとも一部がホウ素やニオブ系保護コーティング層でコーティングされ得る。前記コーティングには乾式方法やゾル-ゲル方法を使用し得るが、特に何れか一つの方法に限定されることはない。このように用意した正極活物質、導電材、固体電解質及びバインダー樹脂などを含む正極組成物を製造し、これをモールドに入れて加圧してシート状に成形し得る。このように乾式方法で正極を製造する場合、正極構成要素のより均一な混合相を確保でき、正極全体に対して均一な電気化学的特性を付与することができる。
【0073】
一方、本発明の一実施形態において、本発明による全固体電池は、例えば下記のような方法で製造され得る。上記のように負極、固体電解質膜及び正極を用意し、これらを順次に積層し加圧して電池を収得し得る。このとき、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなるダイや他の絶縁性ホルダーに取り付けられた金属性プランジャーを用い得る。
【0074】
一方、本発明の具体的な一実施形態において、本発明による前記全固体電池は、NP比が0.1~30の範囲を有し得る。上記のNP比の範囲内で安定的且つ一定した電気化学的特性を発揮する。前記NP比は、例えば、0.5~10、0.8~10、1.0~10、または1.0~5の範囲を有し得、電池エネルギー密度の面で1.0~1.5の範囲を有することが有利である。
【0075】
本発明による全固体電池は、負極活物質層に導電材のような炭素材料固体電解質を含まず、バインダーの含量も最小限に制御されるため、負極活物質層内の負極活物質であるシリコン(Si)の含量が増加し、エネルギー密度が改善される効果が奏される。
【0076】
本発明による全固体電池は、初期充放電サイクルで強い不動態SEIを形成することで、充放電及び体積の変化により、シリコンに亀裂が生じて新たな表面が発生しても、未反応固体電解質と前記シリコンの表面とが物理的に遮断されているため、電解質の分解が発生せず、導電材、固体電解質及びバインダーの負極への使用が排除または最小限に制御されるため、負極中の負極活物質であるシリコン(Si)の含量を高めることができる。その結果、本発明による全固体電池は、容量退化及びサイクル寿命低下という従来の液体電解質電池の問題を解決することができる。
【0077】
図1a及び図1bは、従来の液体電解質システム及び本発明の電解質システムを図式化したものである。従来の液体電解質電池は、新たな界面で電解液が分解されながら連続的にSEIが形成され、容量の損失につながる。しかし、本発明の電池システムは、固体電解質を使用するため、液体電解質のような電解質の分解が防止される。
【0078】
一方、図1cは、本発明の全固体電池において、負極のリチウム化メカニズムを詳しく示している。図1cによれば、本発明による電池は、1)リチウム化の進行中に不動態性質のSEIが負極と固体電解質膜との間に形成され、前記界面に近いシリコン粒子がリチウム化され、2)リチウム化が進行されたシリコン粒子からリチウム化されていないシリコン粒子へとリチウムイオンが拡散し、3)前記反応が負極の全体に広がってLi-Si層が形成される。
【0079】
また、本発明による全固体電池は、液体電解質を使用する従来のリチウムイオンバッテリー(LIB)に比べて耐熱安定性を確保することができる。一方、本発明による全固体電池は、シリコンの含量が多いバルク(bulk)タイプの負極を使用することで、スパッタリングや気相蒸着方式で形成された薄膜タイプの負極に比べて、顕著に高い電池容量を確保することができる。また、上述したように、負極の製造方法が簡単であるため、費用節減の効果が高く、量産可能な水準の工程性を確保することができる。
【0080】
以下、本発明による全固体電池の利点について具体的に説明する。
【0081】
1)高いシリコン組成分率:液体電解質電池の従来のシリコン負極は、シリコンナノ粒子またはマイクロ粒子、炭素添加剤、高分子バインダーから構成され、シリコン含量が約50wt%であると主に報告されている。100サイクル以上の電池性能を示したもののうち、70wt%を超過する含量はほとんど報告されていない。本発明による全固体電池は、負極で最大99.9wt%以上のシリコン重量分率を達成でき、炭素系導電材、固体電解質及びバインダー樹脂の使用を排除するか又は最小化する。このような電極は、低いNP比のフルセルでも100サイクル以上の充放電サイクルを示し、90%以上の容量維持率を見せる。負極中のシリコン含量を99.9wt%以上にし、所望のNP比に合わせるためのローディング量を制御するためには、ミクロンレベルのシリコン粒子を使用することが望ましく、これを極少量のバインダー成分とともに有機溶媒中に分散させる必要がある。前記バインダー成分は、負極中に、例えば0.1%未満で含まれ得る。一方、バインダー成分が全くない場合でも、シリコン負極は集電体と良好な接触を維持できるため、全固体電池への適用が可能である。一方、負極の気孔度を下げて高い電極パッキング密度を達成するため、負極は、電池に導入される前に、少なくとも370MPaの圧力でカレンダリングする必要がある。シリコンの体積は300%まで膨張可能であるため、充放電時の電池の体積変化を最小化するためには、理想的な負極の気孔度が約33%にならなければならない。本発明による電池において、負極はこのような範囲の気孔度を確保するため、電池の充放電中に負極が膨張する場合、前記気孔が膨張した体積を収容しながら、固体電解質と負極との界面での機械的な亀裂(fracture)を防止することができる。
【0082】
2)界面の安定化:従来、シリコン負極を使用する液体電解質電池の電池性能が退化する主な原因は、サイクル中に生成された新たな表面と電解液とが反応して電解液の還元によって持続的にSEIが生成されることである。本発明では、不動態SEI特性を有する硫化物系固体電解質を使用することで、この問題を直接取り扱って、初期サイクル以後の連続的な電解質の分解及びSEIの形成を防止した。これによって活物質の損失を防止し、電池容量を維持し、さらに経時的なインピーダンスの増加を防止することができた。すべての硫化物系固体電解質がシリコン負極と相性を有するわけではないため、SEIの不動態特性を確保するためには、このような効果を発揮できる適切な硫化物系固体電解質材料を選択する必要がある。これは、硫化物系固体電解質の電気化学的安定性窓(stability window)の範囲を研究し、これらの還元生成物を確認する方法を通じて確保できる。通常、固体電解質とシリコン負極との間に形成される界面は、イオン伝導性(ionically conductive)界面と混合伝導性(mixed conductive)界面との二種類がある。イオン伝導性界面には、単にイオン伝導性生成物と絶縁体のみが含まれている。混合伝導性界面は、イオン伝導性生成物及び電気伝導性生成物を含むものである。このような不動態特性を有する界面(passivating interface)は、固体電解質から形成されるものであって、電気伝導的な要素はなく、単にイオン伝導性界面のみを形成するものである。
【0083】
3)高いエネルギー及び出力密度(power density):従来の液体電解質を使用するシリコン二次電池は、電極の過度な不活性物質のため、高いエネルギーを達成し難い。本発明による二次電池は、負極内に過度な非活性物質が存在しないため、高いシリコンパッキング密度を達成して低い気孔度を有し、薄い電極を収得でき、これによって抵抗が低くなって高い出力密度を確保することができる。本発明による負極は、従来の液体電解質電池の負極と比べて電池体積が小さくなるため、比容量が高くて体積当りエネルギー密度が高い。リチウムイオンを有するシリコンの合金メカニズムのため、従来のリチウム金属や炭素系負極でのメッキやインターカレーションメカニズムと比べて、本発明でリチウムの樹枝状成長の危険性が格段に減少する。薄くて密度が高い電極の低い合金オーバーポテンシャル(overpotential)と比べると、本発明の全固体電池は高いレート容量(rate capability)及び出力密度を確保することができる。薄い固体電解質膜及び高ローディング遷移金属酸化物の正極と比べると、低いN/P比が使用されて電池の過度な重量を下げることができ、全体的なエネルギー密度を高めることができる。さらに、本発明は、電池がラージスタッキングフォーマット(large stacking formats)を採用できるため、電池外装材のような非活性要素などのデッドウェイト(dead weight)を減らし、過量の液状電解質を使わず、比容量及び体積当りエネルギー密度を高めることができる。
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。しかし、下記の実施例は本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇がこれらによって限定されることはない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0085】
[実施例]
硫化物系材料は、空気及び湿度に敏感であるため、分解されながらHSのような毒性ガスを生成する。したがって、すべての合成及びテスト段階は、アルゴンで充填されたグローブボックス(MBRAUN社製、MB200B、HO<0.5ppm、O<5.0ppm)で行われた。
【0086】
1.電池の製造
実施例1-1
1)負極の製造
Si粉末(Alfa Aesar社製、粒子直径3μm~5μm)をPVDF(Kynar(登録商標)HSV-900)0.1wt%が溶解されたN-メチル-2-ピロリドンに投入し混合して負極形成用スラリーを製造した。前記スラリーの濃度は約25wt%にし、前記Si粉末とPVDFとの重量比率は99.1:0.1にした。前記スラリーを銅薄膜(厚さ10μm)にドクターブレードを用いて塗布した。これを真空状態、80℃で一晩乾燥して溶媒を除去し、これをディスク状に切断して負極を収得した。収得された負極は厚さが45μm、ローディング量が13.2mAh/cmであった。収得された負極のデジタルイメージ及びSEMイメージを図4a~図4cに示した。
【0087】
2)正極の製造
NCM811(LG化学製、LiNi0.8Co0.1Mn0.1)、LiPSCl(NEI社製)、VGCF(シグマアルドリッチ社製(グラファイト化、鉄フリー))及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE、デュポン社製)を78:19.5:2:0.5の重量比で混ぜて加温された乳鉢で乾式混合した後、ステンレス鋼シリンダーを用いて熱間圧延して厚さを調節した。これを適切な形状に切断して正極を収得した。収得された正極は厚さが240μm、ローディング量が12.0mAh/cmであった。
【0088】
一方、前記NCM811は、表面がホウ素コーティングされたものを使用した。また、前記LiPSClは45ml、ZrOボールミルジャー(Emax、レッチェ社製)で予めミリングして用意した。前記ジャー(jar)はアルゴンガスで充填され、分散媒として無水キシレンを使用する湿式ミリングの方法を適用した。前記ミリングは、室温で2時間、約300rpmの速度で行われた。その後、前記ジャーでLiPSClを取出し、80℃、真空下で一晩乾燥し、乾燥した結果物を正極の乾式製造工程に投入した。
【0089】
図14は、上記のようにして収得された正極のSEM写真である。図14a~図14cは各スケールでの上面イメージであり、図14dは断面イメージである。図15a~図15cは、EDSイメージである。これらから、正極活物質、導電材及び固体電解質が凝集せずに均一な分散相になっていることを確認できる。
【0090】
3)固体電解質膜の製造
LiPSCl(NEI社製)75mgを二本のチタンロッドの間で370MPaで加圧して厚さ700μmの固体電解質膜を製造した。
【0091】
4)電池の製造
上記のように用意した負極、固体電解質膜及び正極をチタンプランジャーを用いて370Mpaの圧力で加圧して電池を製造した。前記チタンプランジャーは電流集電体として使用された。前記電池はNP比が1.1になるようにした。
【0092】
実施例1-2
正極の厚さを110μm、ローディング量を5.5mAh/cm、NP比を2.4にしたことを除き、実施例1-1と同じ方法で電池を製造した。
【0093】
実施例1-3
正極の厚さを24μm、ローディング量を0.5mAh/cm、NP比を26.0にしたことを除き、実施例1-1と同じ方法で電池を製造した。
【0094】
実施例2
実施例1-1で製造された負極及び対極としてのリチウム金属を使用し、前記負極とリチウム金属の対極との間に固体電解質層を介在して半電池を製造した。前記固体電解質層は実施例1-1の固体電解質層と同じものを使用した。
【0095】
比較例1
Si粉末(Alfa Aesar社製、粒子直径3μm~5μm)と導電材(カーボンブラック、STREM Chemicals製)をPVDF(Kynar(登録商標)HSV-900)0.1wt%が溶解されたN-メチル-2-ピロリドンに投入し混合して負極形成用スラリーを製造した。前記スラリーの固形分の濃度は約25wt%であった。前記スラリーにおいて、Si粉末、カーボンブラック及びバインダー樹脂は重量比で79.92:19.98:0.1の比率で混合された。前記スラリーを銅薄膜(厚さ10μm)にドクターブレードを用いて塗布した。これを真空状態、80℃で一晩乾燥して溶媒を除去し、370MPaで加圧して気孔度を33%にした。その後、これをディスク状に切断して負極を収得した。
【0096】
正極及び固体電解質膜は実施例1-1と同じ方法で用意した。
【0097】
上記のように用意した負極、固体電解質膜及び正極を、チタンプランジャーを用いて370Mpaの圧力で加圧して電池を製造した。前記チタンプランジャーは電流集電体として使用された。前記電池はNP比が1.1になるようにした。
【0098】
比較例2
実施例1-1と同じ方法で負極を用意した。正極は、NCM811(LG化学製、LiNi0.8Co0.1Mn0.1)、導電材(カーボンブラック、STREM Chemicals製)、PVDF(Kynar(登録商標)HSV-900)を97:1.5:1.5の比率でN-メチル-2-ピロリドンに投入し混合してスラリーを用意し、これをAlホイル(厚さ15μm)にコーティングした後、溶媒を乾燥して製作した。
【0099】
前記負極と正極との間に分離膜を介在して積層し、ラミネートして電極組立体を製造した。分離膜としては、ポリエチレン多孔性フィルム(厚さ15μm、気孔度33vol%)を使用した。前記電極組立体をコインセルに収納し、液体電解質を注液して電池を製造した。前記電池はNP比が1.1になるようにした。前記電解液は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との3:7(体積比)混合溶液にLiPF 1Mになるように用意した。
【0100】
比較例3
正極としてリチウム金属を使用したことを除き、比較例2と同じ方法で電池を製造した。
【0101】
2.評価の結果
(1)電圧プロファイルの確認
図6は、実施例1-1及び比較例1の電池に対し、初期リチウム化が行われる間の電圧プロファイルを示した図である。負極に導電材を使用していない実施例1-1の電池は、初期の電圧平坦区間が約3.5Vで確認されたが、比較例1の電池では、実施例の電池よりも低い2.5Vで平坦区間が確認された。このことから、リチウム化電位(lithiation potential)3.5Vに到達する前に固体電解質が分解されることを確認できる。
【0102】
(2)固体電解質の分解確認(1)
CuKα放射(λ=1.54178Å)、2θ(5-70゜、0.01゜ステップサイズ)の条件でX線回折(XRD)を行った。まず、初期電極及び繰り返して充放電された電極を電池から取り出し、乳鉢及び乳棒で粉砕した後、測定装置に入れてアルゴンガスで充填した。ICSDデータベースを使用してLiS及びLiPSClのピークを確認した。
【0103】
図7は、実施例1-1による電池のサイクル前Si-固体電解質(Si-SSE)及びリチウム化されたSi-SSEのリチウム化回折パターン、並びに比較例1のリチウム化回折パターンを示した図である。
【0104】
これによれば、実施例1-1のリチウム化された(lithiated)Si-SSEサンプルは、固体電解質(SSE)の結晶化構造を維持しており、約20゜付近で非晶質Li-Siピークが現れている。SEIが予想されたが、このようなバルクテクニックでは界面に形成された少量のSEIを検出し難かった。しかし、比較例1の電池では、サイクル前SSEの殆どの回折信号が確認されず、これは電解質分解が甚だしく発生したことを意味する。このような過程で、ナノ結晶質LiSが主要電解質分解生成物として形成されたと見られ、その広いピークが約26゜、45゜及び52゜付近で観察された。
【0105】
(3)固体電解質の分解確認(2)
AXIS Supra XPS(Kratos Analytical製)を使用してSi-SSE界面生成物を確認し、電池の充電における炭素添加剤の有無による相違を確認した。実施例1-1及び比較例1において、リチウム1s、硫黄2p及びシリコン2p領域での前記混合物の充電後の結合エネルギーを、充電前のシリコン-LiPSClと比べて確認した。XPSスペクトルを5mAの放出電流と700μm×300μmを用いて収集した。前記スペクトルをCasaXPSソフトウェアを用いて分析した。
【0106】
炭素が含まれた場合、S 2pでのLiS(161eV)が形成されることから、固体電解質の分解程度が大きくなることを確認した。比較例1の電池で、実施例1-1の電池に比べてPS 3-のピーク強度が大幅に低下することが観察された(図8a~図8c)。Li 1s領域は、多様なLiが存在するためピークを区別し難かったが、充電の後、固体電解質が一部還元されるため、低い結合エネルギー側に移動することが観察された。実施例1-1の場合、シフトが大きくなかったが、比較例1の場合は、約55.6eVでLiS信号が支配的であった。このことから、従来のXRD結果が再確認される。一方、Si 2p領域において、Si粒子の表面付近で天然の酸化層が観測された。電池の充電によって、このような信号がより低い結合エネルギーへ移動し、その結果リチウム化される。Li-Siに相応する結合エネルギーのピークは実施例1-1で確認され、比較例1ではSiが反応せずに残っていた。これは、比較例1でLiイオンがSi負極活物質に充電されず、固体電解質の分解を誘発してLiSを生成するためであると見られる。このような結果は、SSE系において、炭素系導電材の使用を排除しなければならない理由を裏付けるものである。負極で炭素が使用されない場合は、シリコン負極活物質の使用量を99.9wt%まで増加させることができる。
【0107】
(4)SEIの定量化(quantification)
滴定ガスクロマトグラフィー(titration gas chromatography:TGC)方法を用いてSEI及びLi-Siを定量化した。実施例1-1によって5個の電池を製造し、それぞれ充放電サイクルを1回から5回行って用意した。それぞれの電池から正極を除去し、負極とSSEをアルゴンで充填されたジャー(jar)で無水エタノールを添加してLi-Siを完全に反応させ、Hガスを生成させた。生成された前記ガスを用いてTGC方法でLiを定量化した。定量化されたHガスから由来したLi-Siの量は正規Hガスキャリブレーションカーブから計算した。また、クーロン効率%の損失と定量化されたLiから形成されたSEIを定量化した。これを図9a及び図9bに示した。
【0108】
図9a及び図9bを参照すると、初期サイクルでは形成されたSEIが電池の総容量対比11.7%であり、2回目のサイクルでは12.4%に増加した。その後のサイクルでは、SEIや活性Liはそれぞれ安定的に維持されて変化がなく、これは界面が不活性化されてLi-Siと電解質との間の連続的な反応が防止される界面不動態化(interface passivation)が行われたことを意味する。
【0109】
SEIの形成によるインピーダンスの増加を確認するため、実施例1-1の電池を30サイクル充放電しながらEISを測定し、その結果の電圧プロファイルを図9cに示した。図9cから、サイクル前には初期にSEIが形成されるため、1回目のサイクル後にインピーダンスが増加することが観察された。これはTGC分析と一致する。その後、30サイクルに亘ってインピーダンスの増加はなく、安定的に維持されるが、これはそれ以上SEIが形成されなかったことを意味する。
【0110】
(5)寿命特性
実施例1-1の電池及び比較例2の電池に対する寿命特性を図10a~図10dに示した。図10a及び図10bは、比較例2の電池に対する室温及び高温(55℃)での寿命特性を示したものであって、サイクルが進行するにつれて容量維持率が低下することが確認できる。一方、実施例1-1の電池は、室温や高温(55℃)でのサイクル進行中に容量維持率が維持されることが確認できる(図10c、図10d)。
【0111】
(6)保存特性
図11a~図11dは、実施例1-1と比較例2の室温及び高温条件での保存特性を確認した図である。満充電された実施例1-1及び比較例2の電池を室温に放置したとき、実施例1-1の電池に比べて比較例2の電池が放電し易いことが確認された。55℃では、実施例1-1の電池は約4.05Vで平坦区間が現れたが、比較例2の電池は100時間が経過する間3.85Vに低下した。これは、負極に含まれた炭素系導電材が固体電解質の還元分解を誘発して、電池が自己放電することを意味する。
【0112】
(7)断面イメージの確認
電池の多孔性シリコン電極のリチウム化過程において、気孔度の減少による体積の変化を観察するため、FEI社製のScios DualBeamを用いて集束イオンビーム断面走査電子顕微鏡のイメージを確保した。充放電を行った実施例1-1の電池に対し、多様な電流での断面クリーニング工程を用いてGa+ミリングを行い、Scios DualBeamに搭載された機能ツールを用いてSEM-EDXイメージングを行った。
【0113】
図3aはサイクルが進行されていない状態であり、図3bはサイクルが進行されて完全にリチウム化された状態である。サイクルが進行されていない状態では、負極は粒子同士の間の気孔による多孔性を有し、気孔の大きさは約3~5ミクロンであった。完全にリチウム化された状態では、気孔は完全に閉塞し、密度の高いリチウム化された金属性シリコン状態になり、電極の厚さ方向に対して垂直方向に制限的に膨張した状態を有する。
【0114】
リチウム化前状態(図3a)の場合、負極は25~40vol%の気孔度を有すると見られる。リチウム化された後(図3b)は、シリコンの体積が膨張してSiが気孔側に膨張し、Z軸方向に制限的に膨張した密な状態を有するようになる。これは、SSE層に対する過度な応力(stress)を防止して、亀裂の形成やセルの故障(fail)を防止する効果がある。
【0115】
(8)電気化学的性能の評価
実施例1-1の電池に対し、サイクル前及び6サイクル毎に、放電状態の電池に対してソーラトロン社製の1260インピーダンスアナライザを用いてEISを測定した。EISは、1MHz~0.1Hzの周波数範囲で30mVのAC電位を適用した。また、充放電はNeware社製のバッテリーサイクラーを用いて50MPaのスタック圧力下で行われ、BTS9000ソフトウェアを用いて分析した。
【0116】
図12aは、室温で行ったサイクル結果であり、電流を0.2mA/cmから5mA/cmまで増加させながら充放電して測定したものである。室温では、5mA/cmまで短絡が生じなかった。図12bは、約0.3mA/cmの条件で温度を-20℃~80℃に変化させながら充放電サイクルを行った結果である。温度の上昇とともに電池の容量が増加することが確認できる。低い温度では電池の分極が著しく増加した。これは、SSE内のLi+拡散のアレニウス挙動(Arrhenius behavior)のためであると見られ、低い温度でも短絡が発生されなかった。図12cは、高い面積ローディング量を有する負極を評価するためのものであって、正極の容量を12mAh/cmにした。一方、正極のバルクインピーダンスを克服するため、フルセルを60℃で作動させてLi+拡散キネティクスを向上させた。0.1C(1.2mAh/cm)下で、前記負極の可逆容量が11mAh/cm以上であることを確認できた。1C条件で充放電を行った結果、可逆容量は4mAh/cm以上であった。室温で充放電を繰り返す場合は、全固体電池の理想的な駆動環境になると見られる。図12dによれば、室温で5mA/cmで500サイクルの充放電を行った後、80%の容量維持率及び平均99.95%のクーロン効率を示すことが確認できた。
【0117】
また、図13aは比較例3、図13bは実施例2の電池に対して充放電特性を示した図である。平均負極ローディング量1.3mg/cmに対してC/20レートで充放電した結果、実施例2の電池で確実な平坦区間が現れながら、比較例3の電池に比べて優れた効果を発揮できることが確認された。比較例3の電池は、導電材の含量が低くて電気化学的特性が著しく低下した。このように液体電解質電池では、炭素及びバインダー添加剤を使用しないことで、容量が低く、低い初回サイクルクーロン効率を示した。しかし、同じSi電極に対して硫化物系固体電解質を使用した本発明の場合、高い容量使用率と高い初回クーロン効率が観察された。
【0118】
一方、図5a~図5cは、NCM811正極を備える実施例1-1、実施例1-2及び実施例1-3の多様なNP比を有する全固体電池に対して充放電特性及び容量特性を示した図である。本実験では2.5mAh/cmの面積容量が使われた。図5aは電圧プロファイル、図5bはサイクル性能及び平均クーロン効率を示した図である。電池は室温で約C/10レートで繰り返して充放電され、シリコンローディング量は各NP比に対してそれぞれ0.9mg/cm、2.0mg/cm及び21.5mg/cmであった。N/P比1.1の電池(Ni高含量NMC正極及び硫化物系固体電解質を含む)に対し、正極容量を>2.5mAh/cmに固定し、N/P比をほぼ1.1に下げたフルセルの場合、平均クーロン効率が99.9%を超過することを確認した。レートは室温でC/10及びC/3の速度に制御された。このように充放電されたすべての電池に対し、各サイクル当り99%以上の平均クーロン効率が確認され、低いNP比(1:1)のセルサイクルでも99.9%以上の平均クーロン効率が確認された。一方、図5cによれば、実施例1-1の電池に対して電流密度がC/10からC/3に3倍増加したが、高いレートでも高出力容量(high power capability)及び高容量維持率(high capacity retention)が観察された。すべての電池は室温で実験され、面積容量は最小2.5mAh/cmであった。
【0119】
また、実施例1-1の電池に対してレートを変化させて充放電サイクルを繰り返し、これを図16に示した。図16から、充放電を繰り返した後、同一レートに対して初期の面積容量を回復することが確認できる。
【0120】
一方、実施例1-1の電池に対して1Cのレートで30サイクルを繰り返し、その結果を図17に示した。図17から、サイクルが増加しても面積容量とクーロン効率の減少がほとんどないことが確認できる。
【0121】
(9)硫化物系固体電解質-シリコン(Si)混合物のX線回折パターン分析
硫化物系固体電解質とシリコン(Si)との化学的な相性(compatibility)を確認した。シリコン(Si)粉末とLiPSClとを50:50の重量比で混合した。前記混合物を一晩維持した。その後、前記混合物に対してMo-KαX線ソースを用いてX線回折を行い、その結果を図2に示した。各要素に該当する各回折ピークには残余副生成物がないことが確認され、これはこれらの化学的な安定性を示すものであって、これらの化学的な相性を確認できる。
図1a
図1b
図1c
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図5c
図6
図7
図8a
図8b
図8c
図9a
図9b
図9c
図10a
図10b
図10c
図10d
図11a
図11b
図11c
図11d
図12a
図12b
図12c
図12d
図13a
図13b
図14a
図14b
図14c
図14d
図15a
図15b
図15c
図16
図17