(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】光位相変調器、光デバイス、及び光演算装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/09 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
G02F1/09 503
G02F1/09 505
(21)【出願番号】P 2022578473
(86)(22)【出願日】2022-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2022003084
(87)【国際公開番号】W WO2022163753
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2021012353
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】九内 雄一朗
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/149758(WO,A1)
【文献】特開2005-181707(JP,A)
【文献】特開2018-017881(JP,A)
【文献】特開2001-264716(JP,A)
【文献】特開2020-153859(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0333668(US,A1)
【文献】SOBOLEWSKI, R. et al.,Magneto-optical modulator for superconducting digital output interface,IEEE TRANSACTIONS ON APPLIED SUPERCONDUCTIVITY,2001年03月,Vol.11, No. 1,pp.727-730
【文献】WAN, J. et al.,Design of a novel high-speed magneto-optic modulator,PROCEEDINGS OF SPIE,2007年11月19日,Vol.6782,pp. 67821Q-1 - 67821Q-9
【文献】IWASAKI, K. et al.,Fabrication and properties of spatial light modulator with magneto-optical faraday effect,PROCEEDINGS OF SPIE,2006年,Vol.6311,pp.631116-1 - 631116-8
【文献】PARK, J. et al.,Magnetooptic spatial light modulator for volumetric digital recording system,JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2002年03月,Vol.41, Part 1, No. 3S,pp.1813-1816
【文献】IRVINE, S.E. et al.,A miniature broadband bismuth-substituted yttrium iron garnet magneto-optic modulator,JOURNAL OF PHYSICS D: APPLIED PHYSICS,2003年09月03日,Vol. 36,pp. 2218-2221
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-3/00
G02B 27/28
H01L 27/105
JSTPlus/JST7580 (JDreamIII)
Science Direct
IEEE Xplore
Scopus
SPIE Digital Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化自由層を構成するブロックであって、互いに対向する一対の第1の面及び第2の面と、前記第1の面及び前記第2の面とは異なり、且つ、光が入射及び出射する面である入射面及び出射面と、
前記第1の面、前記第2の面、前記入射面、及び、前記出射面とは異なる面である第3の面及び第4の面とを含むブロックと、
前記第1の面に直接又は間接に設けられた第1の電極と、
前記第1の面に直接又は間接に設けられた第1の磁化固定層と、
前記第2の面に設けられ、且つ、前記第1の電極に対向する第2の電極と、
前記第3の面に設けられた第2の磁化固定層と、
互いに対向する一対の第3の電極及び第4の電極であって、前記ブロック及び前記第2の磁化固定層を挟み込む第3の電極及び第4の電極と、
を備えて
おり、
前記第1の電極、前記第1の磁化固定層、前記ブロック、及び、前記第2の電極は、この順番で配置されている、
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項2】
前記第1の電極は、重金属を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の光位相変調器。
【請求項3】
前記第1の電極に接続され、且つ、パルス電圧又はパルス電流を生成する電源を更に備えている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光位相変調器。
【請求項4】
前記
第1の磁化固定層の磁化方向と、前記入射面から前記出射面へ向かう方向とは、直交又は略直交している、
ことを特徴とする請求項
1に記載の光位相変調器。
【請求項5】
前記第2の磁化固定層の磁化方向と、前記入射面から前記出射面へ向かう方向とは、平行又は略平行である、
ことを特徴とする請求項1
又は4に記載の光位相変調器。
【請求項6】
前記ブロック及び前記
第1の磁化固定層の各々を構成する材料は、何れも強磁性体であり、
前記ブロックを構成する前記材料の保磁力は、前記磁化固定層を構成する前記材料の保磁力よりも小さい、
ことを特徴とする請求項
1、4及び5の何れか1項に記載の光位相変調器。
【請求項7】
前記ブロックと前記
第1の磁化固定層との間に介在し、絶縁体により構成された層状部材であるスペーサ層を更に備えている、
ことを特徴とする請求項
1及び4~6の何れか1項に記載の光位相変調器。
【請求項8】
請求項1~
7の何れか1項に記載の光位相変調器である第1の光位相変調器及び第2の光位相変調器を備え、
前記第1の光位相変調器の前記出射面には、前記第2の光位相変調器の前記入射面が光学的に結合しており、
前記第1の光位相変調器における前記第1の面から前記第2の面へ向かう方向と、前記第2の光位相変調器における前記第1の面から前記第2の面へ向かう方向とは、直交又は略直交している、
ことを特徴とする光位相変調器。
【請求項9】
請求項1~
7の何れか1項に記載の光位相変調器を複数備え、
少なくとも一部の光位相変調器は、特定の面の面内方向において周期的に配置されている、
ことを特徴とする光デバイス。
【請求項10】
前記各光位相変調器の前記ブロックは、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された柱状のマイクロセルにより構成されている、
ことを特徴とする請求項
9に記載の光デバイス。
【請求項11】
複数の請求項
9又は10に記載の光デバイスであって、前記特定の面の法線方向に沿って順番に配置された複数の光デバイスを備え、
各光デバイスは、入射する空間強度分布を有する光を別の空間強度分布を有する光に変換したうえで出力する、
ことを特徴とする光演算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光位相変調器に関する。また、本発明は、光位相変調器を複数備えた光デバイス及び光演算装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
複数の光変調器をマトリクス状に配置することにより空間光変調器が得られる。空間光変調器としては、LCOS(Liquid Crystal On Silicon、例えば特許文献1参照)及びDMD(Digital Mirror Device、例えば特許文献2参照)が知られている。これらの空間光変調器は、例えば、プロジェクターに用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2017-198949号公報
【文献】日本国特表2007-510174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの空間光変調器には、ピクセルサイズを小さくすることが難しいという課題がある。
【0005】
また、LCOS及びDMDには、高速で動作させることが難しいという課題がある。LCOSは、液晶を用いるためであり、DMDは、ミラーを機械的に動かすためである。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑み成されたものであり、その目的は、小型化が可能であり、且つ、高速で動作可能な光位相変調器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る光位相変調器は、磁化自由層を構成するブロックであって、互いに対向する一対の第1の面及び第2の面と、前記第1の面及び前記第2の面とは異なり、且つ、光が入射及び出射する面である入射面及び出射面と、を含むブロックと、前記第1の面に直接又は間接に設けられた磁化固定層と、互いに対向する一対の第1の電極及び第2の電極であって、第1の電極、前記磁化固定層、前記ブロック、及び、第2の電極の順番で配置された第1の電極及び第2の電極と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、小型化が可能であり、且つ、高速で動作可能な光位相変調器を提供することができる。また、そのような光位相変調器を複数備えた光デバイス及び光演算装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る光位相変調器の斜視図である。
【
図2】(a)及び(b)は、
図1に示した光位相変調器の模式図である。
【
図3】
図1に示した光位相変調器を構成するブロックの斜視図である。
【
図4】(a)及び(b)は、それぞれ、
図1に示した光位相変調器の第1の変形例及び第2の変形例の模式図である。
【
図5】(a)及び(b)は、本発明の第2の実施形態に係る光位相変調器の模式図である。
【
図6】本発明の第3の実施形態に係る光位相変調器の斜視図である。
【
図7】本発明の第4の実施形態に係る光デバイスの斜視図である。
【
図8】本発明の第5の実施形態に係る光演算装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る光位相変調器11について、
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、光位相変調器11の斜視図である。
図2の(a)及び(b)は、光位相変調器11の模式図である。
図2の(a)及び(b)は、それぞれ、電極17から電極16に向かって電流が流れている状態、及び、電極16から電極17に向かって電流が流れている状態を示す。
図3は、光位相変調器11を構成するブロック13の斜視図である。
図3は、光位相変調器11の機能を説明するための斜視図である。
図4の(a)及び(b)は、それぞれ、光位相変調器11の第1の変形例及び第2の変形例の模式図である。
図4の(a)及び(b)は、何れも、電極17から電極16に向かって電流が流れている状態を示す。
【0011】
なお、本実施形態においては、光位相変調器11に入射させる光Lin(
図3参照)として波長が400~800nmである可視光を採用している。ただし、光Linの波長は、可視光に限定されるものではなく、紫外域及び近赤外域などからも適宜選択することができる。
【0012】
<光位相変調器の構成>
光位相変調器11は、
図1に示すように、基板12と、ブロック13と、スペーサ層14と、磁化固定層15と、電極16と、電極17と、を備えている。
【0013】
なお、
図1において、ブロック13の入射面13in及び出射面13outの法線方向であって、入射面13inから出射面13outに向かう方向をx軸正方向としている。また、ブロック13の面131及び面132の法線方向であって、面131から面132に向かう方向をz軸正方向としている。また、x軸正方向とz軸正方向とともに右手系の直交座標系を構成する方向をy軸正方向としている。
【0014】
光位相変調器11において、光Linは、入射面13inに対して垂直に、x軸負方向から基板12を介して入射する。入射面13inに入射した光は、出射面13outに向かってブロック13の内部を伝搬する。
図1においては、ブロック13の内部を伝搬する光の進行方向を2点鎖線の矢印kで図示している。また、
図2、
図3、及び
図4においても、矢印kを用いて光の進行方向を図示している。光の進行方向は、x軸正方向と同じ向きである。ブロック13の内部を伝搬し、出射面13outに至った光は、出射面13outから光Loutとして出射される。光Loutは、出射面13outに対して垂直に、x軸正方向へ出射する。ただし、光Linの入射面13inに対する入射角は、90°に限定されない。この入射角は、90°であることが好ましいが、90°からずれていてもよい。
【0015】
(基板)
基板12は、光Linに対して透光性を有する材料により構成された板状部材である。基板12の材料は、光Linに対してできるだけ高い透過率を有することが好ましい。本実施形態では、基板12の材料として石英ガラスを採用している。ただし、基板12の材料は、石英ガラスに限定されず、光Linに対する透過率及び屈折率や、硬さや、コストなどに応じて適宜選択することができる。また、基板12の厚み(
図1に示した座標系におけるx軸方向に沿った長さ)は、適宜定めることができる。基板12の一方の主面(x軸正方向側の主面)には、光位相変調器11の入射面13inを含む面(光位相変調器11の背面とも呼ぶ)が固定されている。本実施形態では、基板12と光位相変調器11とを固定する固定部材として、透光性を有する樹脂を用いている。ただし、この固定部材は、これに限定されない。
【0016】
(ブロック)
ブロック13は、基板12と同様に、光Linに対して透光性を有する材料により構成されている。ただし、ブロック13は、基板12と異なり、磁性原子を含んでいる。ブロック13は、その磁化の状態が固定されていない。このためブロック13は、スピンの注入によって容易に磁化率を変化させられる材料であれば特に制限されるものではなく、常磁性体や強磁性体などの種々の材料を用いることができる。より高い磁化率を達成するためには、室温(例えば25℃)において強磁性を示すように構成することが好ましく、スピン分極率が比較的高い強磁性体が好適に用いられる。スピン分極率は例えば50%以上であることが好ましい。本実施形態においては、ブロック13を構成する材料としてCoFeBを採用している。しかし、これに限らず、CoFe、NiFe、Fe、Ni、Co等も好適に用いることが出来る。また、単一組成から成るブロックである必要はなく、上述の微粒子を添加した絶縁体(例えばアルミナやガラス)も採用することができる。
【0017】
なお、後述するように、磁化固定層15も強磁性(より詳しくは硬磁性)を示す材料により構成されている。ここで、ブロック13の保磁力は、磁化固定層15の保磁力よりも小さい。これにより、磁化固定層15における磁化M15の方向を固定したまま、ブロック13の磁化M13の方向を変化させることができる。磁化M13は、磁化M15と平行又は略平行な方向のうち、磁化M15と同じ向きと逆の向きをとり得る。
【0018】
本実施形態においては、ブロック13の材料として、室温における保磁力及び残留磁化が、十分に小さい強磁性体(すなわち軟磁性体)を採用している。ブロック13の材料は、軟磁性体に限定されない。ただし、軟磁性体を用いてブロック13を構成することによって、偏極した電子の注入をやめた場合にブロック13に残留する残留磁化が室温における飽和磁化に対して十分に小さくなる。そのため、揮発性を有するブロック13を用いる場合、ブロック13の材料として、室温における残留磁化が、室温における飽和磁化に対して十分に小さい強磁性体を用いることが好ましい。ここで、室温における残留磁化が、室温における飽和磁化に対して十分に小さいとは、例えば、室温における飽和磁化に対して、室温における残留磁化が0%以上10%未満であることを意味する。
【0019】
この構成によれば、スピン偏極した電子をブロック13の内部に注入した場合、ブロック13に含まれる磁性原子間に磁気的な相互作用が生じ、磁化M13が生じる。また、スピン偏極した電子の注入を停止した場合、ブロック13に含まれる磁性原子間に働いていた相互作用が消失し、磁化M13も消失する。したがって、この構成によれば、スピン偏極した電子の注入を用いて、揮発的に磁化M13を発生させたり消失させたりすることができる。その結果、光位相変調器11は、ブロック13の内部を伝搬している光のうち、所定の成分における位相の遅れ度合いを制御することができる。
【0020】
なお、
図5を参照して後述する光位相変調器21のように、室温における残留磁化が、室温における飽和磁化に対して比較的大きい強磁性体(すなわち硬磁性体)をブロック13に用いてもよい。ここで、室温における残留磁化が、室温における飽和磁化に対して比較的大きいとは、例えば、室温における飽和磁化に対して、室温における残留磁化が90%以上100%以下であることを意味する。
【0021】
この構成によれば、スピン偏極した電子の注入により生じた磁化M13は、スピン偏極した電子の注入を停止したあとに、消失せずに残る。したがって、この構成を採用した場合、スピン偏極した電子の注入を停止したあとにおいても、不揮発的に所定の成分における位相を遅らせることができる。
【0022】
なお、本発明の一態様において、ブロック13を構成する材料における室温における飽和磁化に対する室温における残留磁化の割合は、0%以上10%未満又は90%以上100%以下に限定されず、10%以上90%未満であってもよい。
【0023】
また、ブロック13が常磁性を示す場合、磁化M13は、さまざまな方向をとり得る。ただし、スピン偏極した電子がブロック13に注入された場合、マクロにみた場合の磁化M13は、磁化M15と平行又は略平行な方向のうち、磁化M15と同じ向きと逆の向きとをとり得る。
【0024】
図3に示すように、ブロック13の形状は、直方体である。したがって、ブロック13の表面は、6つの面により構成されている。ただし、ブロック13の形状は、直方体に限定されず、直方体状であってもよい。また、後述するように、入射面13in及び出射面13outの形状は、長方形あるいは長方形状に限定されない。
【0025】
図3において、xy平面と平行な2つの平面であって、互いに対向する面を面131,132とする。面131,132は、それぞれ、第1の面及び第2の面の一例である。また、
図3において、yz平面と平行な2つの平面であって、互いに対向する面を入射面13in及び出射面13outとする。また、
図3において、zx平面と平行な2つの平面であって、互いに対向する面を面133,134とする。以下において、出射面13out及び入射面13inを含む面を、それぞれ、光位相変調器11の正面及び背面とし、面131~134を含む面を、それぞれ、光位相変調器11の側面とする。
【0026】
ブロック13は、入射面13in及び出射面13outを一対の底面とした場合、柱状のマイクロセルともいえる。ここで、マイクロセルとは、セルサイズが10μm未満のセルのことを指す。また、「セルサイズ」とは、入射面13in及び出射面13outの面積の平方根のことを指す。なお、入射面13in及び出射面13outの形状は、長方形あるいは長方形状であることが好ましい。なお、この形状は、少なくとも平行な一対の辺を含んでいることが好ましく、台形であってもよいし、平行四辺形であってもよい。
【0027】
以下において、ブロック13を構成する各辺のうち、x軸方向に沿った辺の長さ(ブロック13の厚み)を長さL1とし、y軸方向に沿った辺の長さ(入射面13in及び出射面13outの一辺の長さ)を長さL2とし、z軸方向に沿った辺の長さ(入射面13in及び出射面13outの他の一辺の長さ)を長さL3とする。
【0028】
本実施形態において、長さL1は、およそ1μmであり、長さL2及びL3は、およそ800nmである。ただし、長さL1,L2,L3は、これに限定されない。長さL2及びL3は、セルサイズが10μm未満となる範囲内において適宜定めることができる。また、長さL1は、適宜定めることができる。また、ブロック13においては、その材料を適宜調整することによって、屈折率が所望の値になるように定められていてもよい。
【0029】
本実施形態において、入射面13in及び出射面13outは、何れも、平坦な面(すなわち平面)である。ただし、入射面13in及び出射面13outは、平面に限定されず、凹凸が設けられていてもよい。この凸凹の構造は、周期的な構造であってもよいし、ランダムな構造であってもよい。この凸凹の構造を適宜設計することによって、入射面13in及び出射面13outにおいて生じ得る反射損失を低減することができる。
【0030】
本実施形態において、面131,132は、互いに平行な平面である。後述するように、面131にはスペーサ層14、磁化固定層15、及び電極16が設けられ、面132には、電極17が設けられている。面131が平面であることによって、厚みが均一なスペーサ層14を形成することが容易になる。また、面131,132が平行な平面であることによって、ブロック13に対して電流密度が均一な電流を注入することが容易になる。したがって、面131,132は、互いに平行な平面であることが好ましい。ただし、面131,132は、凹凸を含んでいてもよいし、互いに平行でなくてもよい。
【0031】
また、本実施形態において、面133,134は、互いに平行な平面である。ただし、面133,134は、凹凸を含んでいてもよいし、互いに平行でなくてもよい。
【0032】
(スペーサ層)
スペーサ層14は、絶縁体により構成された層状部材である。スペーサ層14は、ブロック13と、後述する磁化固定層15との間に介在し、ブロック13と磁化固定層15とを絶縁する。スペーサ層14は、ブロック13及び磁化固定層15とともにトンネル接合を形成する。したがって、スペーサ層14は、電流がトンネル可能な範囲内において、その厚みを適宜さだめることができる。スペーサ層14の典型的な厚みは、2nm以上3nm以下である。ただし、スペーサ層14の厚みは、これに限定されない。スペーサ層14は、良好なトンネル特性を示すために、ピンホールを含まず、且つ、厚みが均一な膜により構成されていることが好ましい。トンネル電流の担い手としてスピン偏極した電子を用いることにより、ブロック13の磁化をより低い電力でより高速にスイッチングすることができる。
【0033】
本実施形態では、スペーサ層14を構成する絶縁体として、酸化アルミニウム(Al2O3)を採用している。ただし、この絶縁体は、酸化アルミニウムに限定されない。この絶縁体としては、例えば、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)のスペーサ層を構成する絶縁体を用いることができる。
【0034】
なお、光位相変調器11においては、スペーサ層14を省略することもできる。スペーサ層14が設けられている場合、後述する磁化固定層15は、スペーサ層14を介して(すなわち間接に)面131に設けられる。一方、スペーサ層14が省略されている場合、磁化固定層15は、直接に面131に設けられる。
【0035】
(磁化固定層)
磁化固定層15は、導電性を有する強磁性体により構成された層状部材である。本実施形態において、磁化固定層15は、面131に対してスペーサ層14を介して間接に設けられている。ただし、磁化固定層15は、面131に対して直接に設けられていてもよい。
【0036】
磁化固定層15を構成する強磁性体は、室温において強磁性を示す。磁化固定層15の保磁力は、ブロック13の保磁力よりも大きい。本実施形態においては、磁化固定層15を構成する強磁性体として、ニッケルと鉄との合金であるパーマロイを採用している。ニッケルと鉄との組成比は、限定されないが、例えば、Ni81Fe19が挙げられる。また、この強磁性体は、パーマロイに限定されない。この強磁性体としては、例えば、酸化マグネシウムなど、MRAMの磁化固定層を構成する強磁性体を用いることができる。
【0037】
また、磁化固定層15の厚みも限定されず、適宜定めることができる。
【0038】
磁化固定層15は、磁化M15の方向に応じて、面直磁化型と、面内磁化型とに大別される。
【0039】
面直磁化型の磁化固定層15においては、磁化M15の方向は、
図2に示すように、磁化固定層15の主面の法線方向(z軸方向)に対して平行になる。本実施形態では、面直磁化型であって、磁化M15の方向がz軸負方向である磁化固定層15を採用している。この構成によれば、磁化M15の方向(z軸方向)は、光の進行方向(x軸方向)と直交又は略直交する(
図3参照)。したがって、ブロック13の内部をx軸方向と平行に伝搬する光のうち、偏光方向が磁化M15の方向に直交している成分(偏光方向がy軸方向と平行な成分)の位相を遅らせることができる。以下において、この成分のことをy方向成分と呼ぶ。
図3においては、光Linがブロック13を透過し光Loutに変換されることによって、偏光方向が磁化M15の方向と平行な成分(以下において、x方向成分と呼ぶ)と比較して、偏光方向が磁化M15の方向に直交している成分の位相が1/4波長分遅れている状態を示している。なお、ブロック13がy方向成分の位相を遅らせる度合いは、ブロック13の内部に形成される磁場に依存する。したがって、この度合いは、磁化M15の大きさに依存する。
【0040】
一方、面内磁化型の磁化固定層15においては、磁化M15の方向は、
図4の(a)及び(b)に示すように、磁化固定層15の主面と平行になる。すなわち、磁化M15の方向は、xy平面と平行な面内において何れかの方向をとり得る。面内磁化型の磁化固定層15を採用する場合、
図4の(a)に示す様に、磁化M15の方向(y軸方向)は、光の進行方向(x軸方向)と交わっていればよく、直交していることがより好ましい。この構成によれば、ブロック13の内部をx軸方向と平行に伝搬する光のうち、偏光方向が磁化M15の方向に直交している成分(偏光方向がz軸方向と平行な成分)の位相を遅らせることができる。
【0041】
なお、
図4の(b)に示す様に、磁化M15の方向がx軸方向と平行な磁化固定層15を採用した場合、磁化M15の方向と、光の進行方向(x軸方向)とは平行になる。この場合、ブロック13の内部をx軸方向と平行に伝搬する光の位相は、磁化M15の影響をなんら受けない。したがって、本実施形態においては、磁化M15の方向がx軸方向と平行な磁化固定層15を採用することはできない。ただし、この構成は、
図5を参照して後述するように、ブロック13における位相を遅らせる機能をキャンセルするために用いることができる。
【0042】
なお、光位相変調器11にスピン偏極した電子を流した場合に生じる磁化M15の方向については、
図2及び
図4を参照して後述する。
【0043】
(一対の電極)
一対の電極である電極16,17は、何れも、導体により構成された層状部材である。本実施形態においては、電極16,17を構成する導体として銅を採用している。ただし、この導体は、銅に限定されない。この導体は、高い導電率を有することが好ましい。この導体の例としては、銅以外に、アルミニウム及び金が挙げられる。
【0044】
電極16は、面131に対してスペーサ層14及び磁化固定層15を介して設けられている。したがって、面131には、スペーサ層14、磁化固定層15、及び電極16がこの順番で積層されている。また、電極17は、面132に対して直接設けられている。このように、電極16,17は、互いに対向するように設けられており、且つ、電極16、磁化固定層15、スペーサ層14、及び、電極17の順番で配置されている。電極16,17は、ブロック13、スペーサ層14、及び磁化固定層15を挟み込んでいるともいえる。電極16,17は、それぞれ、第1の電極及び第2の電極の一例である。
【0045】
電極16,17には、それぞれ、電源PSの正極及び負極の何れかが接続されており、電極間に電圧を印加可能である(
図2及び
図4参照)。電極16,17を用いてブロック13にスピン偏極した電子を注入することによってブロック13は、後述するように磁化する。ブロック13は、入射面13inから出射面13outに向かって伝搬する光の光路として機能する。したがって、電極16,17は、入射面13inから出射面13outに向かって伝搬する光の光路上の少なくとも一部に磁場が生じるように、ブロック13、スペーサ層14、及び、磁化固定層15に電圧を印加することができる。
【0046】
<ブロックの磁化の方向>
電源PSが光位相変調器11に対して、電流を供給した場合におけるブロック13の磁化M15について、
図2及び
図4を参照して説明する。
【0047】
(面直磁化型)
図2では、面直磁化型の磁化固定層15であって、磁化M15がブロック13から電極16へ向かう方向(z軸負方向)である磁化固定層15を採用した場合の磁化M13について説明する。
【0048】
図2の(a)に示すように、電極17に電源PSの正極(電位が高い側の電極)を接続し、電極16に負極(電位が低い側の電極)を接続する。この場合、光位相変調器11において、電流の流れる向きは、電極17から電極16へ向かう方向(z軸負方向)であり、電子の流れる向きは、電極16から電極17へ向かう方向(z軸正方向)である。なお、
図2においては、電子のうち、アップスピンを上向きの矢印で示し、ダウンスピンを下向きの矢印で示している。
【0049】
ダウンスピンは、磁化M15と同じ方向を向いている。したがって、ダウンスピンは、電極16から磁化固定層15及びスペーサ層14を介してブロック13に注入され、電極17に至る。すなわち、ダウンスピンは、光位相変調器11の内部を流れることができる。
【0050】
一方、アップスピンは、磁化M15と逆の方向を向いている。したがって、アップスピンは、電極16と磁化固定層15との界面において反射される。すなわち、アップスピンは、光位相変調器11の内部を流れることができない。
【0051】
このように、電流を電極17から電極16に向かって流すことにより、ブロック13の内部にスピン偏極した電子(ここでは、ダウンスピン)が多く注入される。ブロック13に含まれる磁性原子間には、ダウンスピンを介した磁気的な相互作用が生じるため、z軸負方向を向いた磁化M13が生じる。
【0052】
また、
図2の(b)に示すように、電極17に負極を接続し、電極16に正極を接続する。この場合、光位相変調器11において、電流の流れる向きは、電極16から電極17へ向かう方向(z軸正方向)であり、電子の流れる向きは、電極17から電極16へ向かう方向(z軸負方向)である。
【0053】
アップスピン及びダウンスピンは、何れも、電極17からブロック13及びスペーサ層14を通過し、スペーサ層14と磁化固定層15との界面に至る。ここで、ダウンスピンは、磁化固定層15に注入され、電極16に至る。すなわち、ダウンスピンは、光位相変調器11の内部を流れることができる。
【0054】
一方、アップスピンは、スペーサ層14と磁化固定層15との界面において反射される。すなわち、アップスピンは、光位相変調器11の内部を流れることができない。
【0055】
このように、電流を電極16から電極17に向かって流すことにより、ブロック13の内部にスピン偏極した電子(ここでは、アップスピン)が多く注入される。ブロック13に含まれる磁性原子間には、アップスピンを介した磁気的な相互作用が生じるため、z軸正方向を向いた磁化M13が生じる。
【0056】
なお、磁化M13の向きとしてz軸負方向及びz軸正方向の何れを採用するかは、適宜選択することができる。電流を流す方向に依存して、磁化M13の大きさが異なる場合には、磁化M13が大きくなる電流の方向を選択すればよい。
【0057】
(面内磁化型)
図4の(a)では、面内磁化型の磁化固定層15であって、磁化M15が光の進行方向に直交する磁化固定層15を採用した場合の磁化M13について説明する。また、
図4の(b)では、面内磁化型の磁化固定層15であって、磁化M15が光の進行方向と平行である磁化固定層15を採用した場合の磁化M13について説明する。なお、
図4の(a)及び(b)においては、電源PSの正極及び負極を、それぞれ、電極17及び電極16に接続する場合を例に、磁化M13について説明する。電源PSの正極及び負極を、それぞれ、電極16及び電極17に接続する場合については、面直磁化型の場合と同様に理解することができるので、説明を省略する。
【0058】
磁化M15が光の進行方向に直交する磁化固定層15を採用した場合、光位相変調器11において、電流の流れる向きは、電極17から電極16へ向かう方向(z軸負方向)であり、電子の流れる向きは、電極16から電極17へ向かう方向(z軸正方向)である。なお、
図4の(a)においては、電子のうち、アップスピンを左向きの矢印で示し、ダウンスピンを右向きの矢印で示している。
【0059】
ダウンスピンは、磁化M15と同じ方向を向いている。したがって、ダウンスピンは、電極16から磁化固定層15及びスペーサ層14を介してブロック13に注入され、電極17に至る。すなわち、ダウンスピンは、光位相変調器11の内部を流れることができる。
【0060】
一方、アップスピンは、磁化M15と逆の方向を向いている。したがって、アップスピンは、電極16と磁化固定層15との界面において反射される。すなわち、アップスピンは、光位相変調器11の内部を流れることができない。
【0061】
このように、電流を電極17から電極16に向かって流すことにより、ブロック13の内部にスピン偏極した電子(ここでは、ダウンスピン)が多く注入される。ブロック13に含まれる磁性原子間には、ダウンスピンを介した磁気的な相互作用が生じるため、y軸正方向を向いた磁化M13が生じる。
【0062】
また、磁化M15が光の進行方向と平行である磁化固定層15を採用した場合、光位相変調器11において、電流の流れる向きは、電極17から電極16へ向かう方向(z軸負方向)であり、電子の流れる向きは、電極16から電極17へ向かう方向(z軸正方向)である。なお、
図4の(b)においては、電子のうち、アップスピンを図面の奥向き(x軸負方向の向き)の矢印で示し、ダウンスピンを図面の手前向き(x軸正方向の向き)の矢印で示している。
【0063】
ダウンスピンは、磁化M15と同じ方向を向いている。したがって、ダウンスピンは、電極16から磁化固定層15及びスペーサ層14を介してブロック13に注入され、電極17に至る。すなわち、ダウンスピンは、光位相変調器11の内部を流れることができる。
【0064】
一方、アップスピンは、磁化M15と逆の方向を向いている。したがって、アップスピンは、電極16と磁化固定層15との界面において反射される。すなわち、アップスピンは、光位相変調器11の内部を流れることができない。
【0065】
このように、電流を電極17から電極16に向かって流すことにより、ブロック13の内部にスピン偏極した電子(ここでは、ダウンスピン)が多く注入される。ブロック13に含まれる磁性原子間には、ダウンスピンを介した磁気的な相互作用が生じるため、x軸正方向を向いた磁化M13が生じる。
【0066】
<光位相変調器の第3の変形例>
光位相変調器11の第3の変形例においては、光位相変調器11の構成から、スペーサ層14と、磁化固定層15と、電極17とを省略することができる。すなわち、第3の変形例は、磁化自由層を構成するブロック13であって、互いに対向する一対の面131及び面132(第1の面及び第2の面の一例)と、面131及び面132とは異なり、且つ、光が入射及び出射する面である入射面13in及び出射面13outと、を含むブロック13と、面131に直接又は間接に設けられた電極16(第1の電極の一例)と、を備えている。
【0067】
光位相変調器11は、磁化自由層がブロックにより構成されているものの、スピン移行トルク磁化反転(STT:Spin Transfer Torque)方式のMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)と同様に構成されている。それに対して、第3の変形例比較例は、スピン起動トルク(SOT:Spin Orbit Torque)方式のMRAMと同様に構成されている。このように、本発明の一態様に係る光位相変調器おいては、STT方式のMRAM及びSOT方式のMRAMの何れの構成を用いてもよい。また、本発明の一態様に係る光位相変調器おいては、電圧トルク方式のMRAMの構成を用いてもよい。
【0068】
なお、第3の変形例において、電極16は、重金属を含むことが好ましい。重金属の一例としては、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、タンタル(Ta)、及び、タングステン(W)が挙げられる。電極16は、これらの重金属のうち、何れか1種類の重金属により構成されていてもよいし、複数種類の重金属の合金により構成されていてもよい。また、電極16は、これらの重金属の少なくとも何れかと、遷移金属との合金により構成されていてもよい。遷移金属の一例としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及び、銅(Cu)が挙げられる。また、電極16は、上述した重金属の少なくとも何れかからなる層と、上述した遷移金属の少なくとも何れかからなる層と、を含む多層膜により構成されていてもよい。
【0069】
また、第3の変形例において、電極16に接続される電源PSは、パルス電圧を生成するように構成されている。ただし、電源PSは、パルス電流を生成するように構成されていてもよい。ここで、パルス電圧とは、横軸に時間をとり縦軸に電圧をとった場合に、ごく短い時間のみ電圧が所定の電圧を上回る波形を有する電圧を意味する。また、パルス電流とは、横軸に時間をとり縦軸に電流をとった場合に、短い時間に電流が所定の電流を上回る波形を有する電流を意味する。電極16に接続される電源PSが生成するパルス電圧は、連続パルスであってもよいし、単発パルスであってもよい。
【0070】
また、第3の変形例は、ブロック13の面131と、電極16との間に介在するスペーサ層14を更に備えていてもよい。すなわち、電極16は、面131に直接に設けられていてもよいし、スペーサ層14を介して間接に設けられていてもよい。
【0071】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る光位相変調器21について、
図5を参照して説明する。
図5の(a)及び(b)は、何れも、光位相変調器21の模式図である。
図5の(a)及び(b)は、それぞれ、電極17から電極16に向かって電流が流れている状態、及び、電極27から電極26に向かって電流が流れている状態を示す。
【0072】
<光位相変調器の構成>
光位相変調器21は、第1の実施形態で説明した光位相変調器11に対して、スペーサ層24、磁化固定層25、電極26、及び電極27を追加することによって得られる(
図5参照)。したがって、本実施形態においては、これらの部材について説明し、光位相変調器11と共通する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。なお、磁化固定層15は、第1の磁化固定層の一例であり、面直磁化型の構成を採用している(
図2参照)。
【0073】
入射面13in及び出射面13outを一対の底面とした場合、ブロック13の側面は、面131~134により構成される。面131~134は、それぞれ、第1の面~第4の面の一例である。なお、入射面13inは、
図5には図示されていない(例えば
図3参照)。
【0074】
(スペーサ層)
スペーサ層24は、絶縁体により構成された層状部材である。スペーサ層24は、ブロック13と、後述する磁化固定層25との間に介在し、ブロック13と磁化固定層15とを絶縁する。スペーサ層24は、形成されている面が面131ではなく面133である点を除けば、スペーサ層14と同様に構成されている。
【0075】
(磁化固定層)
磁化固定層25は、導電性を有する強磁性体により構成された層状部材である。本実施形態において、磁化固定層25は、面133に対してスペーサ層24を介して間接に設けられている。ただし、磁化固定層25は、面133に対して直接に設けられていてもよい。
【0076】
磁化固定層25を構成する強磁性体は、磁化固定層15を構成する強磁性体と同様である。ただし、本実施形態においては、磁化固定層25を構成する強磁性体として、室温における残留磁化が、室温における飽和磁化に対して比較的大きい強磁性体を採用している。ここで、室温における残留磁化が、室温における飽和磁化に対して比較的大きいとは、例えば、室温における飽和磁化に対して、室温における残留磁化が90%以上100%以内であることを意味する。
【0077】
磁化固定層25は、面内磁化型であって、その磁化(以下において、磁化M25とする)が光の進行方向(
図5に示すx軸正方向)と平行である構成を採用している(
図5参照)。ここで、光の進行方向は、入射面13inから出射面13outに向かう方向である。なお、本実施形態において、磁化M25は、光の進行方向と略平行であってもよい。
【0078】
(一対の電極)
一対の電極である電極26,27は、何れも、導体により構成された層状部材である。電極26,27を構成する導体は、電極16,17を構成する導体と同様である。したがって、ここでは、その説明を省略する。
【0079】
電極26は、面133に対してスペーサ層24及び磁化固定層25を介して設けられている。したがって、面133には、スペーサ層24、磁化固定層25、及び電極26がこの順番で積層されている。また、電極27は、面134に対して直接設けられている。このように、電極26,27は、互いに対向するように設けられており、且つ、ブロック13、スペーサ層24、及び磁化固定層25を挟み込んでいる。電極16,17は、それぞれ、第3の電極及び第4の電極の一例である。
【0080】
電極17及び電極16には、それぞれ電源PS1の正極及び負極が接続されている。また、電極27及び電極26には、それぞれ電源PS2の正極及び負極の何れかが接続されている(
図5参照)。
【0081】
<ブロックの磁化の方向>
図5の(a)において、電源PS1から電極17及び電極16へ電圧を印加しつつ、電源PS2から電極27及び電極26へ電圧を印加しない状態を示す模式図である。
図5の(b)は、電源PS2から電極27及び電極26へ電圧を印加しつつ、電源PS1から電極17及び電極16へ電圧を印加しない状態を示す模式図である。なお、電源PS1は、
図2及び
図4に示した電源PSの名称を便宜上、改めたものであり、電源PSと同一の構成を有する。電源PS2は、電源PS1と同様に構成されている。
【0082】
図5の(a)に示す状態は、電源PS2が接続されているものの、その出力がゼロであるため、
図2の(a)に示す状態と実質的に同じである。したがって、ブロック13に含まれる磁性原子間には、磁気的な相互作用が生じるため、y軸正方向を向いた磁化M13が生じる。その結果、ブロック13の内部をx軸方向と平行に伝搬する光のうち、y方向成分の位相を遅らせることができる。
【0083】
また、上述したように、磁化固定層25を構成する強磁性体として、室温における残留磁化が、室温における飽和磁化に対して比較的大きい強磁性体を採用している。したがって、光位相変調器21は、スピン偏極した電子のブロック13への注入を停止したあとにおいても、不揮発的に所定の成分(y方向成分)における位相を遅らせることができる。
【0084】
図5の(b)に示す状態においては、電源PS1の出力をゼロにした代わりに、光位相変調器21において、電極27から電極26へ向かう方向(y軸負方向)に電流を流している。すなわち、光位相変調器21において、電極26から電極27へ向かう方向(y軸正方向)に電子を流している。したがって、
図5の(b)に示す状態は、
図4の(b)に示した光位相変調器11を、図面の面内方向において時計回り方向に90°回転させた状態と同等である。したがって、ブロック13に含まれる磁性原子間には、磁気的な相互作用が生じるため、x軸正方向を向いた磁化M13が生じる。その結果、ブロック13の内部をx軸方向と平行に伝搬する光の方向成分の位相における遅れを解消することができる。
【0085】
なお、光位相変調器11における第3の変形例の場合と同様に、光位相変調器21の一変形例においては、光位相変調器21の構成から、スペーサ層14と、磁化固定層15と、電極17と、スペーサ層24と、磁化固定層25と、電極27とを省略することができる。すなわち、光位相変調器21の一変形例は、面131、面132、面133、面134、入射面13in、及び、出射面13outを含むブロック13と、面131に直接又は間接に設けられた電極16と、面133に直接又は間接に設けられた電極26と、を備えている構成であってもよい。本変形例における電極16及び電極26は、第3の変形例における電極16と同様に構成することができる。したがって、本変形例における電極16及び電極26の説明は、省略する。また、電極16に接続される電源PS1、及び、電極26に接続される電源PS2についても、第3の変形例における電源PSと同様に構成することができる。したがって、電源PS1、及び、電源PS2の説明は、省略する。
【0086】
〔第3の実施形態〕
本発明の第3の実施形態に係る光位相変調器31について、
図6を参照して説明する。
図6は、光位相変調器31の斜視図である。
【0087】
<光位相変調器の構成>
光位相変調器31は、第1の実施形態で説明した光位相変調器11をベースにして、同様の構成を有するもう1つの光位相変調器11を追加することによって得られる。なお、
図6に示した光位相変調器11Aは、
図1に示した光位相変調器11の名称を便宜上、改めたものであり、光位相変調器11と同様の構成を有する。光位相変調器11Bは、光位相変調器11Aと同様に構成されている。光位相変調器11A,11Bは、それぞれ、第1の光位相変調器及び第2の光位相変調器の一例である。なお、本実施形態において、光位相変調器11Aの構成要素には、光位相変調器11の各構成要素の符号の末尾に「A」を追記した符号を付している。また、光位相変調器11Bの構成要素には、光位相変調器11の各構成要素の符号の末尾に「B」を追記した符号を付している。
【0088】
図6に示すように、基板12の一方の主面(x軸正方向側の主面)には、光位相変調器11Aを構成するブロック13Aの入射面13Ainを含む面(光位相変調器11Aの背面)が固定されている。
【0089】
また、光位相変調器11Aを構成するブロック13Aの出射面13Aoutには、光位相変調器11Bを構成するブロック13Bの入射面13Binが固定されている。したがって、出射面13Aoutと入射面13Binとは、光学的に結合している。本実施形態では、出射面13Aoutと入射面13Binとを固定する固定部材として、透光性を有する樹脂を用いている。ただし、この固定部材は、これに限定されない。
【0090】
また、ブロック13A及びブロック13Bの各々が別個の部材であるものとして説明している。ただし、光位相変調器31の一態様においては、ブロック13A及びブロック13Bを一体成形したブロックを採用してもよい。この場合においても、出射面13Aoutと入射面13Binとは、光学的に結合している。また、この場合、一体成形されたブロックのx軸方向に沿った辺の長さ(ブロックの厚み)は、
図1に示した長さL1のおよそ2倍になる。
【0091】
光位相変調器11Aは、電極16Aから電極17Aへ向かう方向がz軸方向と平行になるように、その向きが定められている。一方、光位相変調器11Bは、電極16Bから電極17Bへ向かう方向がy軸方向と平行になるように、その向きが定められている。したがって、光位相変調器31において、電極16Aから電極17Aへ向かう方向と、電極16Bから電極17Bへ向かう方向とは、直交している。ただし、この2つの方向は、直交に限定されず略直交するように構成されていてもよい。なお、「略直交」とは、2つの方向の交わる角度が80°以上100°以下である状態を指す。
【0092】
なお、光位相変調器11A及び光位相変調器11Bには、それぞれ、別個の電源が接続されていてもよい(例えば、
図5参照)。また、光位相変調器11A及び光位相変調器11Bには、1つの電源が接続されていてもよい。1つの電源を接続する場合、光位相変調器11A及び光位相変調器11Bを並列に接続すればよい。この構成により、1つの電源を用いて光位相変調器11A及び光位相変調器11Bを同時駆動することができる。
【0093】
なお、光位相変調器31が備えている2つの光位相変調器11A及び光位相変調器11Bの各々の代わりに、光位相変調器11の第3の変形例を用いることもできる。
【0094】
〔第4の実施形態〕
本発明の第4の実施形態に係る光デバイス10について、
図7を参照して説明する。
図7は、光デバイス10の側面図である。
【0095】
<光デバイスの構成>
図7に示すように、光デバイス10は、基板12と、複数の光位相変調器11とを備えている。
【0096】
図7に示した基板12は、
図1に示した基板12と同様に構成されている。ただし、
図7に示した基板12においては、
図1に示した基板12と比較して、主面の面積が拡大されている。なお、基板12における主面の面積は、主面上に設ける光位相変調器11の数に応じて適宜定めることができる。また、基板12の一対の主面のうち、複数の光位相変調器11が設けられる側(x軸正方向側)の主面は、特定の面の一例である。各光位相変調器11は、各入射面13inが基板12の一方の主面に沿い、且つ、基板12の一方の主面の面内方向において周期的に並ぶように配置されている。ただし、各光位相変調器11の各入射面13inは、滑らかな曲面上に配置されていてもよいし、段差を有する面(例えば、凹凸状の面及び階段状の面)上に配置されていてもよい。
【0097】
本実施形態において用いる光位相変調器11は、
図1に示した光位相変調器11と同一に構成されている。ただし、光デバイス10を構成する各光位相変調器は、光位相変調器11に限定されない。例えば、光位相変調器31を構成する各光位相変調器として、
図5に示した光位相変調器21を採用することもできるし、
図6に示した光位相変調器31を採用することもできる。
【0098】
各光位相変調器11は、基板12におけるx軸正方向側の主面の面内方向において、周期的に配置されている。本実施形態において、各光位相変調器11は、y軸方向に平行な方向を行方向とし、z軸方向に平行な方向を列方向として、マトリクス状に配置されている。ただし、各光位相変調器11を配置する場合の周期構造は、これに限定されない。
【0099】
なお、本実施形態において、各光位相変調器11は、基板12の有効領域の全域に亘って周期的に配置されている。すなわち、複数の光位相変調器11は、その全てが周期的に配置されている。ただし、本発明の一態様においては、複数の光位相変調器11のうち少なくとも一部の光位相変調器11が上記有効領域の少なくとも一部において周期的に配置されていてもよい。この場合、残りの光位相変調器11は、上記有効領域の残りの領域において非周期的に配置されている。また、周期的に配置されている光位相変調器11の数及びこれらの光位相変調器11が周期的に配置されている領域のサイズは、限定されず、適宜定めることができる。また、上記有効領域のうち各光位相変調器11が周期的に配置されている領域は、1つであってもよいし、複数であってもよい。後者である場合、各領域における光位相変調器11の周期は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、各光位相変調器11が周期的に配置されている1つの領域においては、複数の周期が混在していてもよい。
【0100】
第1の実施形態において説明したように、ブロック13は、入射面13in及び出射面13outを一対の底面とした場合、柱状のマイクロセルともいえる。各マイクロセルの厚みである各ブロック13の長さL1又は屈折率は、各ブロック13において、互いに独立に設定されている。
【0101】
(周期的な配置の具体例)
上記主面上に設ける光位相変調器11において、長さL2,L3(
図1参照)の例としては、800μmが挙げられる。また、上記主面上に設ける光位相変調器11の数の例としては、4,000,000個が挙げられる。4,000,000個の光位相変調器11を後述するようにマトリクス状に配置する場合、光デバイス10は、例えば、2,000行2,000列の光位相変調器11により構成される。
【0102】
(光デバイスの機能)
このように構成された光デバイス10は、各光位相変調器11の入射面13inにより構成される面に対して、空間強度分布を有する光が入射した場合に、各セルの厚み又は屈折率に応じて、入射した光の空間強度分布を別の空間強度分布に変換したうえで出力することができる。したがって、光デバイス10は、空間光位相変調器の一態様であり、光回折素子として好適に利用できる。
【0103】
なお、光デバイス10が備えている複数の光位相変調器11の各々の代わりに、光位相変調器11の第3の変形例を用いることもできる。
【0104】
〔第5の実施形態〕
本発明の第5の実施形態に係る光演算装置1について、
図8を参照して説明する。
図8は、光演算装置1の側面図である。
【0105】
光演算装置1は、
図7に示した光デバイス10を5個備えている。以下において、5個の光デバイス10を、それぞれ、光デバイス10C,10D,10E,10F,10Gと呼び区別する。ただし、光演算装置1を構成する光デバイス10の数は、複数であればよく、その用途に応じて適宜定めることができる。
【0106】
光デバイス10C,10D,10E,10F,10Gは、各基板12の法線方向(
図7においては、x軸正方向)に沿って、この順番で配置されている。光デバイス10C,10D,10E,10F,10Gは、それぞれ、光位相変調器11C,11D,11E,11F,11Gを備えている。
図8に示した光位相変調器11C,11D,11E,11F,11Gは、
図1に示した光位相変調器11の名称を便宜上、改めたものであり、光位相変調器11と同様の構成を有する。
【0107】
光演算装置1においては、例えば、光デバイス10Cの基板12側の面を入射面として、光デバイス10Gを構成する各ブロック13の出射面13out側の面を出射面として利用することができる。
【0108】
光デバイス10C,10D,10E,10F,10Gは、それぞれ、空間強度分布を有する光が前段から入射した場合に、各セルの厚み又は屈折率に応じて、入射した光の空間強度分布を別の空間強度分布に変換したうえで後段に出力する光回折素子として機能する。空間強度分布を有する光に対して各光デバイス10C,10D,10E,10F,10Gが順番に作用することによって、光演算装置1は、光演算を実行することができる。
【0109】
この場合、各光デバイス10C,10D,10E,10F,10Gにおける各マイクロセル(各ブロック13)を透過する光の位相変化量を、スピン偏極した電子を用いて事後的に調整することができる。したがって、光演算装置1は、演算内容を事後的に調整可能な光演算装置を提供することができる。
【0110】
〔空間光位相変調器の他の用途〕
空間光位相変調器の一態様である光デバイス10の用途としては、上述した光回折素子のほかに、3次元における光情報の操作、光マニピュレータ、及び波面制御素子が挙げられる。
【0111】
<3次元における光情報の操作>
3次元における光情報の操作の例としては、3次元の立体動画であるホログラフィーが挙げられる。また、ホログラフィーの方式を利用するデバイスとしては、ホログラフィックデータストレージが挙げられる。
【0112】
3次元の立体動画であるホログラフィーにおいては、5,000本/mm程度の解像度を実現できることが好ましい。この解像度を実現するためには、ピクセル(すなわちブロック13)のセルサイズが例えば200nm以上500nm以下程度である空間光位相変調器が求められている。
図7に示した光デバイス10には、LCOS及びDMDのようにピクセルサイズに関する制約がないため、セルサイズが100nm未満であるブロック13を実現できると考えられる。したがって、光デバイス10は、ホログラフィーに好適に利用できる。
【0113】
また、光デバイス10をホログラフィックデータストレージに適用することにより、書き込み密度を高め、消費電力を削減することができる。また、ホログラフィックデータストレージは、ハードディスクドライブと比較して安定しているので、より長期の保存が可能である。
【0114】
<光マニピュレータ>
近年、有効領域にメタサーフェスの技術が用いられた光学素子、及び、回折光学素子(Diffractive Optical Element,DOE)と呼ばれる光学素子が普及してきている。これらの光学素子は、用途別に設計することにより、レンズ、ビームスプリッター、パターンジェネレータ、ビームシェイパ、回折レンズ、レンズアレイ、シリンドリカルレンズ、グレーティング、及びランダム位相シフタとして機能する。これらの光学素子は、光マニピュレータと総称される。ただし、これらの光学素子は、静的な光学素子であり、あらかじめ設計された用途以外には利用することができない。
【0115】
光デバイス10は、各マイクロセル(各ブロック13)を透過する光の位相変化量を、スピン偏極した電子を用いて事後的に調整することができる。したがって、光デバイス10は、各マイクロセルにおける位相変化量を事後的に調整することができるので、上述した機能のなかから特定の機能を事後的に選択可能な「動的な」光マニピュレータを実現することができる。
【0116】
また、光マニピュレータにおいては、可視光及び近赤外光に対する回折効率を高めるために、各マイクロセル(各ブロック13)のピクセルサイズを10nm以上800nm以下にすることが求められている。光デバイス10には、LCOS及びDMDのようにピクセルサイズに関する制約がないため、ピクセルサイズが10nm以上800nm以下であるブロック13を実現できると考えられる。したがって、複数段の光デバイス10を備えた光演算装置1は、設計を最適化することにより、様々な機能のなかから特定の機能を事後的に選択可能な「動的な」光マニピュレータを実現することができる。
【0117】
また、「動的な」光マニピュレータは、3Dプリンタの光学系にも好適に適用することができる。「動的な」光マニピュレータを3Dプリンタの光学系に適用することにより、以下の効果をそうする。
・3Dプリンタのスポットをマルチ化する。
・動的にレーザ光を照射するスポットのパターンを変化させる。
・動的にレーザ光の深度を変化させる。
・加工する材料が様々に異なる場合(すなわち、材料の屈折率が異なる場合)であっても、光軸や深度合わせなどの学習を自動化する。
【0118】
また、「動的な」光マニピュレータは、分析機器の光学系にも好適に適用することができる。この構成によれば、マルチスポットの同時検出及びスペクトル解析を実施するときに求められる解像度の要求を満たすことができる。LCOS及びDMDを分析機器の光学系に適用した場合、可視光を用いてマルチスポットの同時検出及びスペクトル解析を実施するためには、解像度が不十分である。
【0119】
<波面制御素子>
光デバイス10は、入射した光の空間強度分布を別の空間強度分布に変換することができる。したがって、光デバイス10は、光ディスクなどの光メモリに情報を書き込むための光学ヘッド、及び、レーザ加工機の加工ヘッドに好適に用いることができる。
【0120】
光デバイス10を光学ヘッドに適用することにより、読み込み用及び/又は書き込み用のレーザ光の波面を事後的に制御することができる。また、この構成によれば、光学ヘッドにおいて生じ得るノイズを事後的に制御することができる。レーザ加工機の加工ヘッドについても同様である。
(まとめ)
【0121】
本発明の第1の態様に係る光位相変調器は、磁化自由層を構成するブロックであって、互いに対向する一対の第1の面及び第2の面と、前記第1の面及び前記第2の面とは異なり、且つ、光が入射及び出射する面である入射面及び出射面と、を含むブロックと、前記第1の面に直接又は間接に設けられた磁化固定層と、互いに対向する一対の第1の電極及び第2の電極であって、第1の電極、前記磁化固定層、前記ブロック、及び、第2の電極の順番で配置された第1の電極及び第2の電極と、を備えている。
【0122】
本光位相変調器は、LCOSのように液晶を用いていないし、DMDのように機械的に動くミラーも用いていない。LCOSやDMDはその動作原理がバルクの物性に基づいているため、スムーズな動作にはある程度のサイズが必要である。構造を小さくするにつれて、特にナノサイズレベルでは、壁面からの分子間力などの影響が強くなり、本来の動作性が失われる。一方で、本光位相変調器は、磁化自由層がブロックにより構成されているものの、スピン移行トルク磁化反転(STT:Spin Transfer Torque)方式のMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)と同様に構成されており、もともとナノサイズの空間で起こる現象を動作原理としている。このため、サイズを小さくする方が本来の高速動作に近づく特徴がある。したがって、本光位相変調器は、MRAMと同様に、小型化可能であり、また、高速で動作可能である。
【0123】
ブロックには、スピン偏極した電子が第1の電極及び第2の電極を用いて注入される。ブロックを構成する材料は、スピン偏極した電子が溜まることによって磁化する。入射面から出射面へ向かって伝搬する光と、磁化したブロックとが相互作用することによって、入射面から出射面へ向かって伝搬する光のうち、ブロックの磁化方向と偏光方向が平行な直線偏光の位相は、他の光の位相よりも遅れる。すなわち、本光位相変調器は、光の位相を変調することができる。
【0124】
したがって、本光位相変調器は、小型化が可能であり、且つ、高速で動作可能な光位相変調器を提供することができる。
【0125】
なお、光位相変調器において、入射面及び出射面の大きさを、当該光位相変調器に入射する光の波長以下にすることによって、変調後の光に含まれる0次光(変調されていない成分)を抑制することができるので、変調効率を高めることができる。
【0126】
また、本発明の一態様に係る光位相変調器においては、上述した第1の態様に係る光位相変調器の構成から、磁化固定層と、第2の電極とを省略することができる。すなわち、本発明の一態様に係る光位相変調器は、磁化自由層を構成するブロックであって、互いに対向する一対の第1の面及び第2の面と、前記第1の面及び前記第2の面とは異なり、且つ、光が入射及び出射する面である入射面及び出射面と、を含むブロックと、前記第1の面に直接又は間接に設けられた第1の電極と、を備えている。
【0127】
本発明の第1の態様に係る光位相変調器は、上述したようにSTT方式のMRAMと同様の構成を有するのに対し、本発明の一態様に係る光位相変調器は、スピン起動トルク(SOT:Spin Orbit Torque)方式のMRAMと同様に構成されている。このため、本発明の第1の態様に係る光位相変調器は、本発明の一態様に係る光位相変調器と同様に、小型化可能であり、また、高速で動作可能である。
【0128】
また、本発明の一態様に係る光位相変調器において、前記第1の電極は、重金属を含む、ことが好ましい。
【0129】
上記の構成によれば、電流を一方のスピンに偏極したスピン流に変換する変換効率を高めることができる。
【0130】
また、本発明の一態様に係る光位相変調器は、前記第1の電極に接続され、且つ、パルス電圧又はパルス電流を生成する電源を更に備えている、ことが好ましい。
【0131】
上記の構成によれば、前記変換効率をより高めることができる。
【0132】
また、本発明の第2の態様に係る光位相変調器においては、上述した第1の態様に係る光位相変調器の構成に加えて、前記磁化固定層の磁化方向と、前記入射面から前記出射面へ向かう方向とは、直交又は略直交している、構成が採用されている。
【0133】
上記の構成によれば、ブロックの磁化方向と、入射面から出射面へ向かって伝搬する光の伝搬方向とを直交又は略直交させることができるので、光の位相を確実に変調することができる。
【0134】
また、本発明の第3の態様に係る光位相変調器においては、上述した第1の態様又は第2の態様に係る光位相変調器の構成に加えて、前記磁化固定層を第1の磁化固定層として、前記ブロックは、前記第1の面、前記第2の面、前記入射面、及び、前記出射面とは異なる面である第3の面及び第4の面を更に含み、前記第3の面に設けられた第2の磁化固定層と、互いに対向する一対の第3の電極及び第4の電極であって、前記ブロック及び前記第2の磁化固定層を挟み込む第3の電極及び第4の電極と、を更に備えている、構成が採用されている。
【0135】
ブロックには、第1の電極及び第2の電極を用いてスピン偏極した電子を注入するための電流(第1の電流とする)に加えて、第3の電極及び第4の電極を用いてスピン偏極した電子を注入するための電流(第2の電流とする)を流すことができる。したがって、ブロックを構成する材料は、第2の電流との相互作用により、第1の電流に起因する磁化方向(第1の方向とする)とは異なる方向(第2の方向とする)に磁化することもできる。入射面から出射面へ向かって伝搬する光の伝搬方向と、第2の方向とが平行又は略平行である場合、磁化したブロックは、当該光の位相に影響を与えない。上記の構成によれば、第1の電流を用いて光の位相を遅らせることもできるし、第2の電流を用いて光の位相における遅れをキャンセルすることもできるので、光の位相を変調する場合における自由度を高めることができる。
【0136】
また、本発明の第4の態様に係る光位相変調器においては、上述した第3の態様に係る光位相変調器の構成に加えて、前記第2の磁化固定層の磁化方向と、前記入射面から前記出射面へ向かう前記方向とは、平行又は略平行である、構成が採用されている。
【0137】
上記の構成によれば、ブロックの磁化方向と、入射面から出射面へ向かって伝搬する光の伝搬方向とを平行又は略平行にすることができるので、光の位相における遅れを確実にキャンセルすることができる。
【0138】
また、本発明の第5の態様に係る光位相変調器においては、上述した第1の態様~第4の態様の何れか一態様に係る光位相変調器の構成に加えて、前記ブロック及び前記磁化固定層の各々を構成する材料は、何れも強磁性体であり、前記ブロックを構成する前記材料の保磁力は、前記磁化固定層を構成する前記材料の保磁力よりも小さい、構成が採用されている。
【0139】
上記の構成によれば、スピン偏極した電子の注入をやめたあとであっても、ブロックは、磁化を有する。したがって、本光位相変調器は、スピン偏極した電子の注入をやめたあとであっても、不揮発的に位相の変調度合いを保持することができる。
【0140】
また、本発明の第6の態様に係る光位相変調器においては、上述した第1の態様~第5の態様の何れか一態様に係る光位相変調器の構成に加えて、前記ブロックと前記磁化固定層との間に介在し、絶縁体により構成された層状部材であるスペーサ層を更に備えている、構成が採用されていてもよい。
【0141】
上記の構成によれば、ブロックの磁化をより低い電力でより高速にスイッチングすることができる。
【0142】
また、本発明の第7の態様に係る光位相変調器においては、上述した第1の態様~第6の態様の何れか一態様に係る光位相変調器である第1の光位相変調器及び第2の光位相変調器を備え、前記第1の光位相変調器の前記出射面には、前記第2の光位相変調器の前記入射面が光学的に結合しており、前記第1の光位相変調器における前記第1の電極から前記第2の電極へ向かう方向と、前記第2の光位相変調器における前記第1の電極から前記第2の電極へ向かう方向とは、直交又は略直交している、構成が採用されている。なお、前記第1の光位相変調器における前記第1の電極から前記第2の電極へ向かう方向は、前記第1の光位相変調器の前記ブロックにおける前記第1の面から前記第2の面に向かう方向と言い替えることができる。同様に、前記第2の光位相変調器における前記第1の電極から前記第2の電極へ向かう方向は、前記第2の光位相変調器の前記ブロックにおける前記第1の面から前記第2の面に向かう方向と言い替えることができる。
【0143】
上記の構成によれば、入射面から出射面へ向かって伝搬する光のうち、第1の光位相変調器におけるブロックの磁化方向と偏光方向が平行な直線偏光の位相に加えて、第2の光位相変調器におけるブロックの磁化方向と偏光方向が平行な直線偏光の位相を遅らせることができる。そのうえで、第1の光位相変調器におけるブロック(前段のブロックとする)の磁化方向と、第2の光位相変調器におけるブロック(後段のブロックとする)の磁化方向とが、直交又は略直交しているので、入射面から出射面へ向かって伝搬する光の位相を、その偏光方向にかかわらず遅らせることができる。
【0144】
本発明の第8の態様に係る光デバイスは、上述した第1の態様~第6の態様の何れか一態様に係る光位相変調器を複数備えている。本光デバイスにおいて、少なくとも一部の光位相変調器は、特定の面の面内方向において周期的に配置されている。
【0145】
上記の構成によれば、本発明の一態様に係る光位相変調器を複数用いて、空間光位相変調器を実現することができるので、小型化が可能であり、且つ、高速で動作可能な空間光位相変調器を実現することができる。本空間光位相変調器の用途の例としては、3次元における光情報の操作、光マニピュレータ、及び、波面制御素子が挙げられる。
【0146】
また、本発明の第9の態様に係る光デバイスは、上述した第8の態様に係る光デバイスの構成に加えて、前記各光位相変調器の前記ブロックは、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された柱状のマイクロセルにより構成されている、構成が採用されている。
【0147】
本光デバイスは、空間強度分布を有する光が入射した場合に、各セルの厚み又は屈折率に応じて、入射した光の空間強度分布を別の空間強度分布に変換したうえで出力する光回折素子として機能する。そのうえで、本光デバイスは、各セルが本発明の一態様に係る光位相変調器を備えている。したがって、本光デバイスは、小型化が可能であり、且つ、高速で動作可能であり、且つ、製造後に各セルの位相変調量を調整可能な光回折素子を実現することができる。
【0148】
本発明の第10の態様に係る光演算装置は、複数の上述した第8の態様又は第9の態様に係る光デバイスであって、前記特定の面の法線方向に沿って順番に配置された複数の光デバイスを備えている。本光演算装置においては、各光デバイスは、入射する空間強度分布を有する光を別の空間強度分布を有する光に変換したうえで出力する、ように構成されている。
【0149】
上記の構成によれば、各光デバイスは、その前段から入射する空間強度分布を有する光を別の空間強度分布を有する光に変換したうえでその後段に出力する。したがって、本光デバイスは、最初段の光デバイスに入射する空間強度分布を有する光に対して順番に作用しながら、その光の空間強度分布をその都度変換していくので、光偏算多段光フィルタ装置として機能する。したがって、本光演算装置は、小型化が可能であり、且つ、高速で動作可能な光演算装置を実現することができる。
【0150】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0151】
1 光演算装置
10,10C~10G 光デバイス
11,11A~11G,21,31 光位相変調器
12 基板
13,13A,13B ブロック(磁化自由層)
13in,13out,13Ain,13Aout,13Bin,13Bout 入射面,出射面
131,132,133,134 面(第1の面,第2の面,第3の面,第4の面)
14,24,14A,14B スペーサ層
15,25,15A,15B 磁化固定層
16,26,16A,16B 電極(第1の電極)
17,27,17A,17B 電極(第2の電極)