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特許7523605貝殻を用いたクエン酸一カルシウムの製造方法及びその応用
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  • 特許-貝殻を用いたクエン酸一カルシウムの製造方法及びその応用 図1
  • 特許-貝殻を用いたクエン酸一カルシウムの製造方法及びその応用 図2
  • 特許-貝殻を用いたクエン酸一カルシウムの製造方法及びその応用 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】貝殻を用いたクエン酸一カルシウムの製造方法及びその応用
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/41 20060101AFI20240719BHJP
   C07C 59/265 20060101ALI20240719BHJP
   A23L 29/00 20160101ALN20240719BHJP
   A23L 33/16 20160101ALN20240719BHJP
   C02F 1/58 20230101ALN20240719BHJP
   C01F 11/22 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C07C51/41
C07C59/265
A23L29/00
A23L33/16
C02F1/58 M
C01F11/22
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022581509
(86)(22)【出願日】2021-06-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 KR2021007724
(87)【国際公開番号】W WO2022014884
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】10-2020-0086269
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514266091
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF CHEMICAL TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】パク ジョンキュ
(72)【発明者】
【氏名】カン ミョンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イム ジウン
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0036736(KR,A)
【文献】特表2004-530424(JP,A)
【文献】特表平02-501619(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0181096(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/
C01F 11/
C07C 59/
C02F 1/
A23L 29/
A23L 33/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)クエン酸を水に溶解して、クエン酸水溶液を製造する工程;
2)貝殻粉末を前記クエン酸水溶液に、前記貝殻粉末及びクエン酸を1:0.8~1:5のモル比で混合した後、1分~20分間撹拌して、液状クエン酸カルシウム(C1214CaO14)を製造する工程;
前記工程2)の後、前記液状クエン酸カルシウムをろ過して、不純物を除去する工程;
3)前記液状クエン酸カルシウムを凍結乾燥又はスプレー乾燥方法で急速乾燥させる工程;及び
4)クエン酸一カルシウム(C1214CaO14)粉末を回収する工程;
を含む貝殻を用いたクエン酸一カルシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝殻を用いたクエン酸一カルシウム(C1214CaO14)の製造方法及びその応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貝殻の処理及び資源のリサイクルのためにこれを埋立材として活用するか、建設用資材及び肥料として活用するための努力が行われてきた。
【0003】
特に、発電所や製鉄所で脱黄材料として使用するために、貝殻を900℃以上の温度で熱処理して、酸化カルシウム(CaO)を得、これを水と反応させて液状消石灰を製造する試みがあった。これに関連する従来の技術として、特許文献1と特許文献2には、貝殻から炭酸カルシウムと酸化カルシウムを得るために、800~1500℃の高温で熱処理する方法が開示されている。しかし、このような処理方法は、処理過程で大量の二酸化炭素(CO2)ガスが発生することになり、これは現在の地球温暖化の主犯である二酸化炭素(CO2)ガスを減らそうと思う努力に違背し、熱処理に伴うエネルギーが多く消費され、製造単価が高すぎて実用化しにくい問題があった。
【0004】
従って、従来の技術と異なり、牡蠣などの貝殻の処理及び資源のリサイクルを環境にやさしく効果的に処理するための方法が必要とされている。
【0005】
一方、国内の主力産業である電子製品生産工場、LCD製造工程及び半導体産業から発生する産業廃水にはフッ酸が多く混ざっている。産業の発展に伴い、フッ酸廃水の量が急激に増加することになり、環境的な問題のために低濃度及び高濃度のフッ酸廃水処理が緊急の問題となっている。現在、フッ酸廃水を処理に最も多く使われる方法が液状消石灰を用いた沈殿法である。しかし、このような液状消石灰をフッ素除去に用いる場合、消石灰の溶解度が低くて反応性が低下し、pHが高くなるという短所を有している。これにより、フッ素除去により多くの石灰を注入する必要があり、その結果、大量のスラッジが発生し、処理コストがさらに必要とされる。
【0006】
また、低濃度のフッ酸が含まれている廃水の場合、処理時間が長くなり、反応効率が低く、当量比5倍以上の消石灰投入を必要とするため、効率性が低い問題を有していた。
【0007】
また、消石灰を用いたフッ素除去の場合、フッ素との反応工程後に得られる沈殿物が、蛍石(CaF2)以外に、酸化カルシウム(CaO)や水酸化カルシウム(Ca(OH)2)などが多く混ざり高品質のフッ化カルシウム(CaF2)が得られにくく、特にフッ化カルシウム(CaF2)はフッ化水素を製造するための原料として使用することができ、前記工程を通じて高純度のフッ化カルシウム(CaF2)を製造する場合、そのリサイクル度が高くなる。
【0008】
これに関連する従来の技術として、特許文献3では、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウムなどの様々なカルシウム塩を用いたフッ素除去方法を開示しているが、残留フッ素濃度が12mg/L、フッ素除去率は98.66%程度に過ぎず、残留フッ素濃度が5mg/Lに達する低い濃度までは除去できず、また、特許文献4では、鉄化合物と希少金属を用いたフッ素イオン及びシアン化物の除去方法を開示しているが、フッ素除去率が91%程度にとどまり、フッ素除去率が高くない。これはフッ素を除去するために使用されるカルシウム塩の溶解度と関連し、ほとんどのカルシウム塩の溶解度はそれほど高くない。
【0009】
一方、食品添加物及び健康補助剤として使用するためのカルシウム関連素材は、その効果を十分に示すためには必ず溶解してカルシウムイオンに電離しなければならず、懸濁して沈殿が起こらないようにし、人体のカルシウム吸収率を高めるためには、溶解速度が速くなければならなく、イオン化の程度が高くなければならない。
【0010】
従って、本発明では、牡蠣などの貝殻を親環にやさしく処理し、溶解度を高めるための方法としてクエン酸として貝殻を溶解して、クエン酸一カルシウム(C1214CaO14)を製造する方法を開発し、前記製造方法で製造されたクエン酸一カルシウムを産業体廃水中のフッ素イオンを除去するフッ素除去剤又は従来のクエン酸カルシウムを代替する食品添加剤として使用する、貝殻をリサイクルする方法を開発し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】韓国 公開特許公報 第10-2008-0015167号
【文献】韓国 登録特許 第10-1753823号
【文献】韓国 公開特許公報 第10-2016-0090657号
【文献】韓国 登録特許 第10-1958079号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、貝殻の処理及び資源のリサイクルのために貝殻を用いたクエン酸一カルシウムの製造方法及びその応用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、1)クエン酸を水に溶解して、クエン酸水溶液を製造する工程;2)貝殻粉末を前記クエン酸水溶液に加えた後、撹拌して、液状クエン酸カルシウム(C1214CaO14)を製造する工程;3)前記液状クエン酸カルシウムを熱乾燥又は急速乾燥させる工程;及び4)クエン酸一カルシウム(C1214CaO14)粉末を回収する工程;を含む貝殻を用いたクエン酸一カルシウムの製造方法を提供する。
【0014】
前記熱乾燥は、50℃~80℃のオーブンで行われ、前記急速乾燥は凍結乾燥又はスプレー乾燥方法で行われることを特徴とする。
【0015】
前記工程2)において、前記貝殻粉末及びクエン酸は、1:0.8~1:5のモル比で混合され、前記撹拌は、1分~300分間行われることを特徴とし、前記工程2)の後、前記液状クエン酸カルシウムをろ過して、不純物を除去する工程をさらに含むことができる。
【0016】
また、別の形態において、前記製造方法で製造されたクエン酸一カルシウムを含むフッ素除去用組成物を提供し、前記組成物は、食品、動物用飼料、植物用肥料又は化粧品形態を含む。
【0017】
さらに、別の形態において、本発明は、前記製造方法で製造されたクエン酸一カルシウムを含む廃水処理用組成物を提供する。
【0018】
また、別の形態において、本発明は、貝殻粉末及びクエン酸が含まれた液状クエン酸カルシウムを含むフッ素除去用組成物を提供する。
【0019】
さらに、別の形態において、本発明は、貝殻粉末及びクエン酸が含まれた液状クエン酸カルシウムを含む廃水処理用組成物を提供する。
【0020】
また、別の形態において、本発明は、1)貝殻粉末及びクエン酸が溶解された混合溶液を準備する工程;及び2)前記混合溶液をフッ素イオンが含まれた廃水溶液に加えて、フッ素イオンを除去する工程;を含むフッ素イオン除去方法を提供する。
【0021】
さらに、別の形態において、本発明は、1)貝殻粉末及びクエン酸が溶解された混合溶液を準備する工程;2)前記混合溶液をフッ素イオンが含まれた廃水溶液に加えて、フッ素イオンを除去する工程;及び3)反応沈殿物をろ過及び乾燥して、フッ化カルシウム(CaF2)を得る工程;を含むフッ化カルシウム製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、従来、貝殻を処理するために用いられた毒性と腐食性の強い塩酸、硝酸、硫酸などを使用せずに、人体に無害なクエン酸を使用することにより、海生生物だけでなく、ヒトに無害な方法で貝殻を処理することができ、二酸化炭素の発生量を最小化することができ、環境にやさしい長所がある。
【0023】
また、本発明は、貝殻を用いて製造された液状クエン酸カルシウム(C1214CaO14)を産業廃水に含まれたフッ素を除去するフッ素除去剤として用いることにより、フッ素の残留濃度を15mg/L以下に下げ、フッ素の除去率を99%以上に上げることができると同時に、フッ素除去後、99~100%の高純度のフッ化カルシウム(CaF2)を得ることができる。
【0024】
さらに、本発明により貝殻を用いて製造されたクエン酸一カルシウムは、食品添加剤、動物飼料及び化粧品など従来の高価なクエン酸カルシウムが使用される分野に代替剤として使用することができ、西海及び南海などの海岸地域で大きな問題として残っている貝殻を処理すると共に、資源のリサイクルに利用できる長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一態様によるクエン酸一カルシウムの製造方法を示す流れ図である。
図2】本発明の他の一態様によるフッ素イオン除去方法及びフッ化カルシウム製造方法を示す流れ図である。
図3】本発明の実施例1~実施例3のフッ素除去実験により形成された沈殿物を分析したX線回折分析グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を以下のように説明する。しかし、本発明の実施形態は、種々の他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をさらに完全に説明するために提供されるものである。さらに、明細書全体において、ある構成要素を「含む」とは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0027】
本発明は、1)クエン酸を水に溶解して、クエン酸水溶液を製造する工程;2)貝殻粉末を前記クエン酸水溶液に加えた後、撹拌して、液状クエン酸カルシウム(C1214CaO14)を製造する工程;3)前記液状クエン酸カルシウムを熱乾燥又は急速乾燥させる工程;及び4)クエン酸一カルシウム(C1214CaO14)粉末を回収する工程;を含む貝殻を用いたクエン酸一カルシウムの製造方法を提供する。
【0028】
以下、本発明の一態様による貝殻を用いた液状クエン酸カルシウム(C1214CaO14)又はクエン酸一カルシウム(C1214CaO14)粉末の製造方法を、図面を参照して工程別に詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の一態様による貝殻を用いたクエン酸一カルシウムの製造方法を工程別に示す流れ図である。
【0030】
まず、貝殻粉末及びクエン酸水溶液の混合溶液を撹拌して、液状クエン酸カルシウム(C1214CaO14)を製造することができる。前記工程は、貝殻粉末をクエン酸水溶液と撹拌して溶解させる工程である。
【0031】
このとき、前記貝殻粉末は、牡蠣の貝殻を粉砕して製造されたものであってもよく、前記牡蠣の貝殻は、別途の熱処理を行わなかったもので、炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分として含むことができる。
【0032】
また、前記貝殻粉末は、前記牡蠣の貝殻に付着した異物を除去して洗浄した後、粉砕して製造したものであってもよい。このとき、前記粉砕は、湿式粉砕又は乾式粉砕であってもよく、好ましくは、洗浄した貝殻を乾燥した後、粉砕することができる。
【0033】
前記粉砕された貝殻粉末は、1μm~500μmのサイズを有することができる。
【0034】
クエン酸(citric acid、C687又はHOC(CO2H)(CH2CO2H)2)は、炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分として含む貝殻粉末を溶解させることができ、前記工程は、毒性と腐食性の強い塩酸、硝酸、硫酸などを使用せず、生体無害なクエン酸を用いて貝殻を溶解するので、海生生物だけでなくヒトに無害な方法で容易に貝殻を処理する点で環境にやさしい。
【0035】
前記工程2)において、前記貝殻粉末1モル対比クエン酸を少なくとも0.8モル以上混合することができ、好ましくは、貝殻粉末及びクエン酸は1:0.8~1:5のモル比で混合することができる。これは、以後の工程でクエン酸三カルシウムが析出するのを防ぎ、純粋なクエン酸一カルシウムからなる液状クエン酸カルシウムを形成するようにするためである。
【0036】
クエン酸一カルシウムは、下記式(1)
【化1】
で示される化合物であり、クエン酸2つの分子が1つのカルシウムと反応して形成することができる。
【0037】
そこで、前記貝殻粉末1モル対比クエン酸が0.8モル未満で混合される場合、使用されるクエン酸の量が少なく、使用された貝殻が全て溶解しないという問題が発生するか、撹拌中に析出が生じ、溶解度の低いクエン酸三カルシウムを形成することができ、前記貝殻粉末1モル対比クエン酸が5モルを超過して混合される場合、反応に参加しないクエン酸が過剰に使用される問題が発生する可能性がある。
【0038】
前記液状クエン酸カルシウム(C1214CaO14)は、貝殻粉末及びクエン酸が溶解した溶液であり、貝殻粉末から溶解して出たカルシウムイオン(Ca2+)及びクエン酸塩(C647 )を含むことができる。
【0039】
また、前記液状クエン酸カルシウム(C1214CaO14)から熱乾燥又は急速乾燥によりクエン酸一カルシウム粉末を形成することができる。
【0040】
そこで、前記貝殻粉末及びクエン酸との反応のための撹拌は、前記液状クエン酸カルシウム(C1214CaO14)からクエン酸三カルシウムが析出して出ない時間範囲内で行われることが好ましく、好ましくは1分~300分、より好ましくは1分~60分、さらに好ましくは1分~20分間行うことができる。もし前記撹拌時間以上に貝殻及びクエン酸が反応して析出物を形成する場合、結晶質のクエン酸三カルシウムが形成され、クエン酸一カルシウムは形成されなくなる。
【0041】
このとき、前記撹拌は、棒、超音波撹拌機を利用して行うことができるが、これに限定されず、その他の適切な撹拌法が使用することができる。
【0042】
また、前記工程2)では、高温熱処理が要求されず、10℃~40℃の室温で貝殻を溶解させることができ、溶解時に二酸化炭素が発生せず、800℃以上の高温熱処理を必要とするか、又は二酸化炭素を発生させる従来の貝殻処理方法よりも環境にやさしい長所がある。
【0043】
また、本発明の貝殻を用いたクエン酸一カルシウムの製造方法は、前記液状クエン酸カルシウム(C1214CaO14)を熱乾燥又は急速乾燥させる工程を含むことができる。
【0044】
このとき、前記熱乾燥又は急速乾燥は、貝殻を用いてクエン酸カルシウムを製造するが、水溶液内の溶解度が高くカルシウムイオンの供給率がより高いクエン酸一カルシウムを製造するためのものであってもよい。
【0045】
前記熱乾燥は、50℃~80℃のオーブンで行われ、前記急速乾燥は、常圧又は室温状態で前記貝殻及びクエン酸を混合及び撹拌して、クエン酸三カルシウムが形成される前、減圧又は減温の方法でクエン酸一カルシウムを形成することにより、凍結乾燥又はスプレー乾燥方法で行うことができる。
【0046】
また、本発明の貝殻を用いたクエン酸一カルシウムの製造方法は、前記工程2)の後、前記液状クエン酸カルシウムをろ過して、不純物を除去する工程;をさらに含むことができる。
【0047】
前記不純物を除去する工程は、残余有機物を除去する工程であり、ろ過工程を通じて前記液状クエン酸カルシウムから有機物を分離除去することができる。
前記回収したクエン酸一カルシウム粉末は、平均粒径が100nm~10μmの粒子サイズを有することができる。
【0048】
前記製造されたクエン酸一カルシウム(C1214CaO14)は、下記式(2)
【化2】
で示される化合物であるクエン酸三カルシウム(C1210Ca314)と比較して、溶解度が8倍以上高い長所がある。
【0049】
また、別の態様において、本発明は、前記製造方法で製造されたクエン酸一カルシウムを含むフッ素除去用組成物を提供する。
【0050】
また、別の態様において、本発明は、前記製造方法で製造されたクエン酸一カルシウムを含む廃水処理用組成物を提供する。
【0051】
前記クエン酸一カルシウム(C1214CaO14)は、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム又はクエン酸三カルシウムに対するフッ素イオンを含む溶液又は廃液内溶解度が著しく高く、より多くのカルシウムイオン(Ca2+)を提供することができる。すなわち、フッ素イオンを含む溶液又は廃液中のフッ素イオンの除去効果は、フッ素除去剤に含まれるカルシウムの溶解度に依存し、従来に一般的なフッ素除去剤として使用される消石灰や生石灰の場合、前記溶解度が著しく低く、フッ素残余濃度が15mg/L以下に下げにくく、そのために過剰の消石灰や生石灰が使用され、残留スラッジを処理しなければならない困難があった反面、本発明のフッ素除去用組成物又は廃水処理用組成物は、フッ素が含まれている溶液又は廃液中に多量のカルシウムイオン(Ca2+)を提供することができ、フッ素除去効率及びフッ化カルシウム(CaF2)の形成効率を高めることができる。
【0052】
前記フッ素除去用組成物又は廃水処理用組成物は、廃水中のフッ素イオンの濃度を、海に放流される許容上限値である15mg/L以下、さらに河川に放流される許容上限値である3mg/L以下に下げることができ、一例として、フッ素イオンが1000ppm濃度で含まれて溶液に添加される場合、残余フッ素を3ppm以下に下げることができる。
【0053】
また、前記フッ素除去用組成物又は廃水処理用組成物は、フッ素イオンを除去率99.8%以上で除去できるとともに、フッ化カルシウム(CaF2)を得ることができ、これにより製造されたフッ化カルシウム(CaF2)は、フッ化水素を製造するために再使用することができる。
【0054】
前記フッ素除去用組成物又は廃水処理用組成物は、産業廃棄物に分類されている貝殻をリサイクルして製造された点及び前記貝殻を熱処理及び強酸などを処理することなく製造された点で、環境にやさしい。
【0055】
また、前記フッ素除去用組成物は、食品、動物用飼料、植物用肥料又は化粧品形態を含むことができる。
【0056】
前記クエン酸一カルシウムは、溶液内の溶解度が高く多量のカルシウムイオンを提供することができ、カルシウムイオンを安定化してカルシウムの体内吸収率を高めることができ、カルシウム強化の目的で食品又は飲料、化粧品などに添加することができる。これにより、クエン酸一カルシウムを含む組成物は、カルシウムイオンを含む機能性飲料、機能性ミネラルウォータなどの飲料分野とカルシウムイオン豆腐、アイスクリーム、キムチなどの食品加工分野、機能性の米と機能性の小麦粉などの穀物加工分野、肉質改善剤、野菜用栄養剤などの肥料、動物用飼料分野、健康補助食品、化粧品分野などに多様に利用することができる。
【0057】
これにより、前記クエン酸一カルシウムを含む組成物は、皮膚を垂れ下がる物質生成を強く抑制し、張りのある、又は健康な肌にし、皮膚保護膜を強化する脂質層の合成を促進する効果及びカルシウム不足によるトラブル予防に役に立つ。また、カルシウム吸収を促進させることにより体内のカルシウム濃度を増加させ、骨粗鬆症、くる病、テタニのような骨格疾患及び循環器系疾患、大腸疾患、高血圧などの各種成人病予防に役に立つことができる。
【0058】
また、別の態様において、本発明は、貝殻粉末及びクエン酸が含まれた液状クエン酸カルシウムを含むフッ素除去用組成物を提供する。
【0059】
さらに、別の態様において、本発明は、貝殻粉末及びクエン酸が含まれた液状クエン酸カルシウムを含む廃水処理用組成物を提供する。
【0060】
前記貝殻粉末及びクエン酸が含まれた液状クエン酸カルシウムを含むフッ素除去用組成物及び廃水処理用組成物は、カルシウムイオン(Ca2+)が廃水中に含まれているフッ素イオン(F)と反応して、フッ化カルシウム(CaF2)を沈殿させることにより、廃水溶液中のフッ素イオンを処理することができる。
【0061】
また、別の態様において、本発明は、1)貝殻粉末及びクエン酸が溶解された混合溶液を準備する工程;及び2)前記混合溶液をフッ素イオンが含まれた廃水溶液に加えて、フッ素イオンを除去する工程;を含むフッ素イオン除去方法を提供する。
【0062】
また、別の態様において、本発明は、1)貝殻粉末及びクエン酸が溶解された混合溶液を準備する工程;2)前記混合溶液をフッ素イオンが含まれた廃水溶液に加えて、フッ素イオンを除去する工程;及び3)反応沈殿物をろ過及び乾燥して、フッ化カルシウム(CaF2)を得る工程;を含むフッ化カルシウム製造方法を提供する。
【0063】
以下、本発明の一態様による貝殻を用いた廃水中のフッ素イオン除去方法及びフッ化カルシウム製造方法を、図面を参照して詳細に説明する。
【0064】
図2は、本発明の別の一態様によるフッ素イオン除去方法及びフッ化カルシウム製造方法を工程別に示す流れ図である。
【0065】
本発明の一態様によるフッ素イオン除去方法は、貝殻の処理及びリサイクル性を高める長所がある。
【0066】
本発明の一態様によるフッ素イオン除去方法において、前記混合溶液は、溶解度の低いクエン酸三カルシウムが析出される前に撹拌を止めた溶液である。前記貝殻粉末及びクエン酸が溶解された混合溶液は、前記貝殻粉末1モルに対して前記クエン酸を少なくとも0.8モルを以上含むことができ、好ましくは、前記貝殻粉末及びクエン酸を1:0.8~1:5のモル比で含むことができる。
【0067】
これは、後の工程でクエン酸一カルシウムを形成するためであり、もし前記クエン酸が、前記貝殻粉末1モル対比クエン酸が0.8モル未満で混合される場合、使用されたクエン酸の量が少なく、使用された貝殻が全て溶解しないか、クエン酸三カルシウムで析出される問題が発生する可能性があり、前記貝殻粉末1モル対比クエン酸が5モルを超えて混合される場合、反応に参加しないクエン酸が過剰に使用される問題が発生する可能性がある。
【0068】
前記貝殻粉末及びクエン酸が溶解した混合溶液は、前記貝殻粉末をクエン酸水溶液に加えて、撹拌する方法で形成されたものであってもよい。
【0069】
そこで、貝殻を溶解させる過程で高温熱処理が必要とされず、二酸化炭素が発生しないため、100℃以上の高温熱処理を必要とするか、又は二酸化炭素を発生させる従来の貝殻処理方法よりも環境にやさしい長所がある。
【0070】
前記混合溶液に含まれているカルシウムイオン(Ca2+)は、廃水中に含まれているフッ素イオン(F)と反応して、フッ化カルシウム(CaF2)を沈殿させることにより、廃水溶液中のフッ素イオンを処理することができる。
【0071】
本発明のフッ素イオン除去方法は、貝殻から廃水中のフッ素イオンを除去するとともに、高純度のフッ化カルシウム(CaF2)を得ることができ、前記得られたフッ化カルシウム(CaF2)は、フッ化水素(HF)を製造するために再使用でき、貝殻のリサイクル度を著しく高めることができる長所がある。
【0072】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0073】
実施例1:クエン酸一カルシウム製造
粉砕機を利用して貝殻を粉砕し、粉砕された貝殻粉末1,000gを10L蒸溜水と3,843gクエン酸を含む容器に入れ、5分~20分の時間範囲で撹拌機を利用して撹拌して貝殻を溶解した。
【0074】
前記貝殻が溶解した溶液(貝殻及びクエン酸のモル比=1:2)をろ過し、ろ過された溶液を乾燥して、クエン酸一カルシウム粉末を回収した。
【0075】
実施例2:クエン酸三カルシウム製造
粉砕機を利用して貝殻を粉砕し、粉砕された貝殻粉末1,000gを10L蒸溜水と980gクエン酸を含む容器に入れ、25分~60分の時間範囲で撹拌機を利用して撹拌して貝殻を溶解した。前記溶液(貝殻及びクエン酸のモル比=2:1)は時間の経過と共に溶解が進んだ直後に濁り、析出物が発生した。前記析出物を含む溶液をろ過して有機物及び残渣を分離し、濁った溶液を乾燥してクエン酸三カルシウム粉末を回収した。
【0076】
実施例3:貝殻及びクエン酸の混合溶液の製造
粉砕機を利用して貝殻を粉砕し、粉砕された貝殻粉末8.3gを1L蒸溜水と8.3gクエン酸を含む容器に入れ、撹拌機を利用して約10分間撹拌して、貝殻を完全に溶解した。
【0077】
前記溶液(貝殻及びクエン酸のモル比=2:1)を撹拌しながら時間が経つにすれて若干黄金色に溶液が変わることが観察できたが、これは、貝殻が溶解し、貝殻に付着していた有機物と残渣が残っていることを意味する。前記溶液をろ過し、溶液と有機物及び残渣を分離除去した。
【0078】
実験例1:クエン酸カルシウムの構造及び有機物分析
前記実施例1及び実施例2で製造されたクエン酸カルシウムの構造及び有機物分析を行うために、ICP-AES測定器及び元素分析器を利用して分析し、結果を下記表1に示した。
【0079】
この時、ICP-AES測定器は、Thermo Scientific社製のiCAP 6500 duo Inductively Coupled Plasma-Emission Spectrometerモデルを使用し、元素分析器はThermo Scientific社製のFLASH(登録商標) EA-2000 Organic Elemental Analyzerを使用した。
【0080】
【表1】
【0081】
前記表1に示すように、前記実施例1で回収した粉末は、クエン酸一カルシウム(C1214CaO14)と一致することがわかり、前記実施例2で回収した粉末は、クエン酸三カルシウム(C1210Ca314)と一致することがわかる。これにより、貝殻をクエン酸と反応させ、反応を通じて析出が発生される前に熱乾燥又は急速乾燥することにより、クエン酸一カルシウム(C1214CaO14)を製造できることがわかる。
【0082】
実験例2:フッ素除去実験後の残余フッ素濃度の測定
前記実施例1~3で製造した粉末又は溶液を用いてフッ素除去率を確認するために、以下の方法でフッ素除去実験を行い、実験後に残ったろ液の残余フッ素濃度をイオン濃度計により測定し、下記表2~表4に示した。このとき、イオン濃度計は、Metrohm社製のMetrohm 930 compact IC Flexモデルを使用した。
【0083】
・実施例1の貝殻から製造したクエン酸一カルシウムを用いたフッ素除去実験
1,000ppm濃度の50%フッ酸(HF)溶液を製造し、カルシウムイオン:フッ素イオンのモル比が1:2、2:2となるように前記実施例1で回収したクエン酸一カルシウム粉末10.56gと21.12gを1Lの水に混合して溶液を製造し、前記フッ酸及び溶液を30分間反応させ、その結果を下記表2に示した。
【0084】
【表2】
【0085】
前記表2に示すように、フッ素除去実験結果、実施例1のクエン酸一カルシウム粉末をそれぞれ1,000ppm濃度(実験値:970ppm)のフッ素イオンを含む溶液に、Ca:Fのモル比を1:2、2:2にして添加する場合、残余フッ素濃度が7.3ppmと2.2ppmであり、フッ素除去率が99.25%、99.77%であり、残余フッ素濃度が15ppm以下、フッ素除去率が99%以上でフッ素除去効果が非常に優れているとがわかる。
【0086】
・実施例2の貝殻から製造したクエン酸三カルシウムによるフッ素除去実験
1,000ppm濃度の50%フッ酸(HF)溶液を製造し、カルシウムイオン:フッ素イオンのモル比が1:2、2:2、4:2となるように前記実施例2で回収したクエン酸三カルシウム粉末4.75g、9.5g及び19.1gを1Lの水に混合してスラリーを製造し、前記フッ酸及びスラリーを30分間反応させ、その結果を下記表3に示した(クエン酸三カルシウム(C1210Ca314)は、1モル当たりのカルシウムイオンは、3モルが含まれるため、理論的添加量より1/3だけ入ることになる。)。
【0087】
【表3】
【0088】
前記表3に示すように、フッ素除去実験結果、実施例2のクエン酸三カルシウム粉末を1,000ppm(実験値:970ppm)のフッ素イオンを含む溶液に、Ca:Fのモル比を1:2、2:2、4:2にしてそれぞれ加える場合、残余フッ素濃度が23ppm、16.2ppm、16.5ppm、フッ素除去率が97.63%、98.33%、98.28%とフッ素除去効果は優れるが、前記実施例1のクエン酸一カルシウムと比較して多少低下する効果を確認することができる。また、前記実施例2のクエン酸三カルシウム粉末を理論的当量より2倍以上加えても、フッ素除去率がさらに上昇することなく限界点に達していることがわかる。
【0089】
それにより、本発明の製造方法により貝殻を用いて製造されたクエン酸一カルシウムは、フッ素の残留濃度を10ppm以下に下げることができ、フッ素除去率を99%以上に高めることができることがわかる。これは、クエン酸三カルシウム、消石灰、生石灰、液状消石灰、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムなどの従来のフッ素除去のためのカルシウム塩と比較して著しく優れた数値である。
【0090】
・実施例3の貝殻及びクエン酸が溶解した混合溶液を用いたフッ素除去実験
1,000ppm濃度の50%フッ酸(HF)溶液を製造し、前記実施例3で製造した貝殻及びクエン酸が溶解している溶液を1Lの水に混合した後、30分間反応させ、その結果を下記表4に示した。
【0091】
【表4】
【0092】
前記表4に示すように、前記実施例3により製造された貝殻及びクエン酸が溶解した溶液を1,000ppm濃度のフッ素イオンを含む溶液に加える場合、残余フッ素濃度が1.9ppmと非常に低く、フッ素除去率が99.81%と著しく高いことがわかる。これは、貝殻をクエン酸を用いて溶解させる場合、カルシウムイオンが多量に溶解して出るためであると考えられ、これにより、貝殻及びクエン酸が溶解している溶液は、フッ素イオンを含む溶液中のフッ素イオンを除去するのに効果的に使用できることがわかる。
【0093】
実験例3:フッ素除去実験後沈殿物のX線回折分析
前記実験例2のフッ素除去実験後に生成された沈殿物の成分を分析するために、前記実験例2で実施例1~3のフッ素除去実験によりろ過及び乾燥させた沈殿物に対してX線回折分析(XRD)を行い、その結果を図3に示した。このとき、X線回折分析器、Rigaku社製のD/MAX2200V/PCモデルを使用して分析した。
【0094】
図3に示すように、実施例1~3のフッ素除去実験後に生成された沈殿物の成分分析の結果、沈殿物はフッ化水素(CaF2)であることがわかり、その他不純物は検出されなかった。
【0095】
これにより、貝殻及びクエン酸を溶解させた溶液(実施例3)又はこれから製造されたクエン酸カルシウム(実施例1及び2)をフッ素イオンを含む溶液と反応させて形成された沈殿物は、フッ化水素(CaF2)であり、前記沈殿物は不純物及び未反応物をほとんど含まないことがわかる。
【0096】
従って、本発明の貝殻を用いたフッ素除去方法は、フッ素イオンを含む溶液から効果的にフッ素イオンを除去し、高純度のフッ化水素(CaF2)を回収できることがわかる。
【0097】
以上、本発明を例示的に説明し、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で数々の変形が可能であろう。したがって、本明細書に開示された実施例は、本発明を限定するものでなく説明するためのものであり、そのような実施例によって本発明の思想と範囲が限定されるものではない。本発明の保護範囲は、以下の特許請求の範囲によって解釈されるべきであり、それと同等の範囲内にあるすべての技術は、本発明の権利範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3