(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド水溶液、水溶液入り容器、及び当該水溶液の保管又は輸送方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/093 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
C01B21/093 Z
(21)【出願番号】P 2023069556
(22)【出願日】2023-04-20
(62)【分割の表示】P 2021513540の分割
【原出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2019073655
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020036114
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100226023
【氏名又は名称】杉浦 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】新宮原 晃士
(72)【発明者】
【氏名】奥村 康則
(72)【発明者】
【氏名】岡島 正幸
(72)【発明者】
【氏名】板山 直彦
(72)【発明者】
【氏名】小山 祐介
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-067644(JP,A)
【文献】国際公開第2006/101141(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/150131(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/097259(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169874(WO,A1)
【文献】特開2019-121537(JP,A)
【文献】ACS Energy Letters,2017年,Vol.2,pp.2005-2006,DOI:10.1021/acsenergylett.7b00623
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/00 - 21/50
C01D 15/00 - 15/10
H01G 11/00 - 11/86
H01M 10/36 - 10/39
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を除去してアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド粉体を得るための、又は有機溶媒によりアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドを抽出してアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドの溶液を得るための、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドを含む水溶液であって、
前記水溶液の総量に対して、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド及び水の含有量の合計が
99.5質量%以上であり、
且つアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドの含有量が30質量%以上であり、
pHが-3~10である、水溶液。
【請求項2】
アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドを含む水溶液であって、
前記水溶液の総量に対して、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド及び水の含有量の合計が99.5質量%以上であり、且つアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドの含有量が30質量%以上であり、
pHが-3~10である、水溶液。
(ただし、前記水溶液には、水系リチウムイオン二次電池に用いられる水系電解液であって、pHが3以上12以下であり、水と、リチウムイオンと、FSIアニオンと、アルミニウムイオン、チタンイオン、マンガンイオン、亜鉛イオン、ガリウムイオン、イットリウムイオン、ジルコニウムイオン、インジウムイオン、ランタンイオン、セリウムイオン、ネオジムイオン及びハフニウムイオンから選ばれる少なくとも1種の金属カチオンと、を含み、前記水系電解液1kgあたり、前記金属カチオンを0molより大きく0.01mol以下含む、水系電解液は含まれない。)
【請求項3】
前記水溶液の総量に対して、フッ化物イオンを10000質量ppm以下含む、請求項
1又は2に記載の水溶液。
【請求項4】
前記水溶液の総量に対して、硫酸イオンを10000質量ppm以下含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の水溶液。
【請求項5】
前記水溶液の総量に対して、アミド硫酸イオンを1~10000質量ppm含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の水溶液。
【請求項6】
前記水溶液の総量に対して、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドを
30~90質量%含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の水溶液。
【請求項7】
容器と、
前記容器内に収容された水溶液と、を備え、
前記水溶液が、
請求項1~6のいずれか一項に記載の水溶液である、水溶液入り容器。
【請求項8】
前記容器が、樹脂、ガラス、及び金属からなる群から選択される材料の少なくとも一つを含む、請求項
7に記載の水溶液入り容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド水溶液、水溶液入り容器、及び当該水溶液の保管又は輸送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド等のアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドは、N(SO2F)2基を有する化合物の中間体として有用である。また、電解質、電池又はキャパシタの電解液への添加物、選択的求電子フッ素化剤、光酸発生剤、熱酸発生剤、近赤外線吸収色素等として使用されるなど、様々な用途において有用な化合物である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド製品の一形態として水溶液がある。当該製品は、水溶液の状態で保管及び輸送される。しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところによれば、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドは、加水分解を受けやすく、水溶液におけるアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドの安定性をより高める必要性があることが判明した。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、より保存安定性の高いアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド水溶液、当該水溶液を含む水溶液入り容器、及び当該水溶液の保管又は輸送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の水溶液は、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドを含む水溶液であって、水溶液の総量に対して、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド及び水の含有量の合計が98質量%以上であり、pHが-3~10である、水溶液。
【0007】
本開示の水溶液は、水溶液の総量に対して、フッ化物イオンを10000質量ppm以下含むと好ましい。
【0008】
本開示の水溶液は、水溶液の総量に対して、硫酸イオンを10000質量ppm以下含むと好ましい。
【0009】
本開示の水溶液は、水溶液の総量に対して、アミド硫酸イオンを1~10000質量ppm含むと好ましい。
【0010】
本開示の水溶液は、水溶液の総量に対して、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドを1~90質量%含むと好ましい。
【0011】
本開示の水溶液入り容器は、容器と、容器内に収容された水溶液と、を備え、水溶液が上記の水溶液である。
【0012】
上記容器が、樹脂、ガラス、及び金属からなる群から選択される材料の少なくとも一つを含むと好ましい。
【0013】
本開示のアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドを含む水溶液の保管又は輸送方法は、上記水溶液を保管又は輸送するものである。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、より保存安定性の高いアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド水溶液、当該水溶液を含む水溶液入り容器、及び当該水溶液の保管又は輸送方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示のアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド水溶液は、当該水溶液の総量に対して、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド及び水の含有量の合計が98質量%以上であり、pHが10以下である。本開示の水溶液は保存安定性に優れるため、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドを水溶液の状態で保存、又は輸送するのに適している。以下、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド水溶液を単にMFSI水溶液とも呼ぶ。
【0016】
アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドは、ビス(フルオロスルホニル)イミドのアルカリ金属塩であって、一般式:MN(SO2F)2で表される化合物である(Mはアルカリ金属である)。Mとしては、具体的には、Li、Na、K、Rb、及びCsが挙げられ、Li、Na又はKであると好ましく、Liであることがより好ましい。なお、以下では、アルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドを単にMFSIとも呼び、特定のアルカリ金属を含むアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミドについて言及する場合は、Mを当該アルカリ金属で置き換える。
【0017】
MFSIが加水分解すると、フルオロスルホン酸アミドが生じる。フルオロスルホン酸アミドは、微量でも電池性能等に悪影響を与えるため、フルオロスルホン酸アミドが存在することは好ましくない。フルオロスルホン酸アミドは、MFSIの固体(粉体等)、又はMFSIを有機溶媒に溶解させた溶液においても空気中又は有機溶媒に含まれる水と反応して生成する。ここで、本発明者らが鋭意検討したところによれば、フルオロスルホン酸アミドは、水溶液中では直ちに加水分解して消失する。そのため、MFSIを固体(粉体等)、又は有機溶媒に溶解させた溶液として保存する場合と異なり、水溶液中でMFSIを保存した場合はフルオロスルホン酸アミドの含有量を低く抑えることができる。
【0018】
MFSI水溶液に含まれるMFSIとしては、2種類以上のアルカリ金属を含んでいてもよいが、一種のアルカリ金属のみを含むことが好ましい。なお、一種のアルカリ金属のみを含むことは、MFSI水溶液における当該一種のアルカリ金属以外のアルカリ金属の合計量が、不純物レベルであることを意味し、具体的には、MFSI水溶液に含まれるアルカリ金属イオンの総量に対して、当該一種のアルカリ金属以外のアルカリ金属の合計量が1モル%以下であると好ましく、0.5モル%以下であるとより好ましく、0.1モル%以下であると更に好ましい。
【0019】
MFSI水溶液におけるMFSI及び水の含有量の合計は、98.5質量%以上であると好ましく、99質量%以上であるとより好ましい。
【0020】
MFSI水溶液のpHは、更にMFSI水溶液の保存安定性を高める観点から7未満であると好ましく、6以下であるとより好ましく、5以下であると更に好ましい。また、MFSI水溶液のpHは、有機溶媒によりMFSIを抽出する場合に、不純物の発生を抑制できる等の取り扱い性の観点から-3以上であると好ましく、1以上であるとより好ましく、2以上であると更に好ましく、4以上であると特に好ましい。なお、MFSI水溶液の保存安定性及び取り扱い性を両立させる観点から、MFSI水溶液のpHは、-3~10であると好ましく、-3以上7未満であることがより好ましく、-3~6であることが更に好ましく、0~6であることが特に好ましい。MFSI水溶液のpHは、pHメーター、pH試験紙等により測定することができる。
【0021】
MFSI水溶液におけるMFSIの含有量は、特に制限はなく、MFSIの飽和濃度以下であればよく、MFSI水溶液の総量に対して、1~90質量%であってよく、5~85質量%であってよい。なお、MFSI水溶液においてMFSIが希釈されると、MFSIの安定性がより向上する傾向にあり、保管に要するスペースの面からは高濃度の方が好ましい。このような観点からは、MFSI水溶液におけるMFSIの含有量は、MFSI水溶液の総量に対して、5~90質量%であると好ましく、7~85質量%であるとより好ましく、10~80質量%であると更に好ましく、15~80質量%であると更になお好ましく、25~75質量%であると特に好ましい。
なお、MFSI水溶液におけるMFSIの含有量は、MFSI水溶液の総量に対して、30質量%以上であってもよく、32質量%以上であってもよく、35質量%以上であってもよい(上限は、MFSIの飽和濃度であってよい。)。
【0022】
本開示のMFSI水溶液は、フッ化物イオン(F-)を含んでいてもよい。MFSI水溶液におけるフッ化物イオンの含有量は、MFSI水溶液の総量に対して、10000質量ppm以下であると好ましく、1~1000質量ppmであるとより好ましく、1~500質量ppmであると更に好ましく、2~100質量ppmであると特に好ましく、3~50質量ppmであるとより更に好ましい。なお、フッ化物イオンは、MFSI水溶液に含まれていなくてもよく、フッ化物イオンの含有量を実質的に0質量ppmとしてもよい。MFSI水溶液におけるフッ化物イオンの含有量は、MFSI水溶液の総量に対して、1000質量ppm以下であってもよい。
本開示のMFSI水溶液にフッ化物イオンを含む酸を添加することにより、pHを好ましい範囲に調整することができる。ここで用いる酸としては、例えば、フッ酸、酸性フッ化アンモニウム等が挙げられる。pH調整の結果、上記フッ化物イオンが含まれ得る。
【0023】
本開示のMFSI水溶液は、硫酸イオン(SO4
2-)を含んでいてもよい。MFSI水溶液における硫酸イオンの含有量は、MFSI水溶液の総量に対して、10000質量ppm以下であると好ましく、2~1000質量ppmであるとより好ましく、3~500質量ppmであると更に好ましく、5~100質量ppmであると特に好ましく、10~50質量ppmであるとより更に好ましい。なお、硫酸イオンは、MFSI水溶液に含まれていなくてもよく、その含有量を実質的に0質量ppmとしてもよい。なお、硫酸イオンは、MFSI水溶液に含まれていなくてもよく、硫酸イオンの含有量を実質的に0質量ppmとしてもよい。
本開示のMFSI水溶液に硫酸イオンを含む酸を添加することにより、pHを好ましい範囲に調整することができる。ここで用いる酸としては、硫酸、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸水素リチウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム等が挙げられる。pH調整の結果、上記硫酸イオンが含まれ得る。硫酸イオンを含む酸をMFSI水溶液に添加した場合、MFSI水溶液における硫酸イオンの含有量は、MFSI水溶液の総量に対して、10000質量ppm以下とすることもでき、100~5000質量ppmとすることもでき、500~3000質量ppmとすることもできる。
【0024】
本開示のMFSI水溶液は、フルオロ硫酸イオン(FSO3
-)を含んでいてもよい。MFSI水溶液におけるフルオロ硫酸イオンの含有量は、MFSI水溶液からMFSIを有機溶媒での分離する際の精製効率の観点から、MFSI水溶液の総量に対して、10000質量ppm以下であると好ましく、2~1000質量ppmであるとより好ましく、3~500質量ppmであると更に好ましく、5~100質量ppmであると特に好ましく、10~50質量ppmであるとより更に好ましい。なお、フルオロ硫酸イオンは、MFSI水溶液に含まれていなくてもよく、フルオロ硫酸イオンの含有量を実質的に0質量ppmとしてもよい。
【0025】
本開示のMFSI水溶液は、アミド硫酸イオンを含んでいてもよい。アミド硫酸イオンが含まれることにより余剰の塩基が中和され、MFSI水溶液のpHが10を超えにくくなる。また、アミド硫酸イオンは、保存中にMFSI水溶液中で徐々に加水分解され、硫酸水素アンモニウムが生じる。生じた硫酸水素アンモニウムの緩衝作用によりMFSI水溶液のpHが変動しにくくなるため、MFSI水溶液のpHを適正な範囲に維持しやすい。アミド硫酸イオンの含有量は、MFSI水溶液の総量に対して、1~10000質量ppmであると好ましく、10~5000質量ppmであるとより好ましく、100~4000質量ppmであると更に好ましく、500~3000質量ppmであると特に好ましい。また、アミド硫酸イオンの含有量は、MFSIの精製負荷が低減する観点から、1500質量ppm以下であってもよく、1~1000質量ppmであってもよく、1~500質量ppmであってもよい。アミド硫酸イオンの濃度は、アミド硫酸又はその塩(例えば、アミド硫酸のアルカリ金属塩)をMFSI水溶液に添加することによって調整してもよい。
【0026】
本開示のMFSI水溶液は、不純物としてアンモニア又はアンモニウム塩を含んでいてもよい。MFSI水溶液におけるアンモニア又はアンモニウム塩の含有量は、MFSI水溶液からMFSIを有機溶媒での分離する際の分離性の観点から、MFSI水溶液の総量に対して、10000質量ppm以下であると好ましく、1000質量ppm以下であるとより好ましく、1~500質量ppmであると更に好ましい。なお、アンモニア又はアンモニウム塩は、MFSI水溶液に含まれていなくてもよく、アンモニア又はアンモニウム塩の含有量を実質的に0質量ppmとしてもよい。
【0027】
本開示のMFSI水溶液は、原料に由来する不純物を含んでいてもよい。そのような不純物としては、ビス(フルオロスルホニル)イミド(H(SO2F)2N、以下、HFSIとも呼ぶ。)が挙げられる。MFSI水溶液におけるHFSIの含有量としては、MFSI100モル部に対して、7モル部以下であると好ましく、5モル部以下であるとより好ましく、3モル部以下であると更に好ましく、2モル部以下であると特に好ましく、1モル部以下であるとより更に好ましい。なお、HFSIは、MFSI水溶液に含まれていなくてもよく、HFSIの含有量を、MFSI100モル部に対して、実質的に0モル部としてもよい。
【0028】
本開示のMFSI水溶液は、遷移金属化合物を含まないほうが好ましい。MFSI水溶液における遷移金属化合物の含有量は、MFSI水溶液の総量に対して100質量ppm以下であると好ましく、50質量ppm以下であると好ましく、10質量ppm以下であると更に好ましく、5質量ppm以下であると特に好ましい。遷移金属化合物としては、ビスマス化合物(フッ化ビスマス(BF3)、塩化ビスマス(BiCl3)等のハロゲン化ビスマス、酸化ビスマス等)などが挙げられる。MFSI水溶液におけるビスマス化合物の含有量は、MFSI水溶液の総量に対して100質量ppm以下であると好ましく、50質量ppm以下であると好ましく、10質量ppm以下であると更に好ましく、5質量ppm以下であると特に好ましく、実質的に0質量ppmであるとより更に好ましい。
【0029】
本開示のMFSI水溶液を調製する方法としては、特に制限はないが、例えば以下の1)~3)の方法が挙げられる。
1)MFSIの固体(粉体)を水に溶解させる
2)MFSIの有機溶媒溶液から水で抽出する
3)水中でのHFSIとアルカリ金属化合物との中和反応
【0030】
1)で用いるMFSIの固体(粉体)は、従来公知の方法で得られたものであってよい。そのような方法としては、例えば、2)及び3)の方法で得られたものであってよく、以下の4)又は5)の方法で得られたものから副生成物を除去したものであってもよい。
4)水中でのビス(フルオロスルホニル)イミドのオニウム塩とアルカリ金属水酸化物との反応
5)水中でのビス(フルオロスルホニル)イミドの塩とアルカリ金属ハロゲン化物とのイオン交換反応
4)の方法において、オニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、オキソニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン等が挙げられ、アンモニウムイオンとしては、NH4
+、テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリプロピルアンモイニウム等が挙げられる。
5)の方法において、ビス(フルオロスルホニル)イミドの塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0031】
2)の方法において、有機溶媒としては、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ニトリル系溶媒、ハロゲン系溶媒、芳香族系溶媒、カーボネート系溶媒等が挙げられる。
3)の方法において、アルカリ金属化合物としては、HFSIと反応し、副生成物として水又は二酸化炭素等の容易に除去できる気体を生じるものが好ましく、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩等が挙げられる。3)の方法においては、未反応物が水溶液中に残らないよう、ほぼ等モルのHFSIとアルカリ金属化合物を使用し、不溶性の未反応物はろ過等によって除去することができる。
なお、3)又は4)の方法で製造されたMFSIの水溶液から有機溶媒によりMFSIを抽出して得られたMFSI溶液に2)の方法を適用してMFSIから副生成物を分離してもよい。
【0032】
MFSI水溶液のpHを調整する場合、酸又は塩基を添加してpHを調整することができる。酸としては特に制限はないが、佛酸、塩酸、硫酸、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素リチウム等が挙げられる。塩基としては、アルカリ金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、アルカリ金属炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム)などが挙げられる。
【0033】
本開示の水溶液入り容器は、容器内に上記MFSI水溶液を収容したものである。すなわち、本開示の水溶液入り容器は、容器と、当該容器内に収容された本開示のMFSI水溶液とを備える。「水溶液入り」とは、水溶液が容器内に既に収容された状態を指す。
【0034】
容器の材質としては特に制限はなく、樹脂、ガラス、金属等のいずれの材質のものも使用できる。樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩化ビニル、PET、PTFE、PFA等が挙げられる。ガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等が挙げられる。金属としては、鉄、SUS、銅、ニッケル合金、コバルト合金、チタン合金等が挙げられる。なお、容器は、ボトルであってもよいが、袋状のものであってもよく、ポリプロピレン等の樹脂製の袋であってもよい。なお、容器は一種以上の材料で構成されていてもよく、例えば、複数の樹脂を積層した材料、樹脂又はガラスに金属箔を積層した材料等を使用してもよい。
【0035】
MFSI水溶液において、MFSIは徐々に分解して強酸となり金属を腐食する傾向にある。また、微量のフッ酸も発生するためガラスを侵食する可能性もある。そのため、長期間の保存を行う場合は、樹脂製容器で保管することが好ましい。なお、容器が2種類以上の材料を含む場合、MFSI水溶液と接触する側の表面が樹脂で構成されていると好ましい。
【0036】
本開示のMFSI水溶液は、保存安定性に優れるため、水溶液のまま保管することができる。MFSI水溶液は、上述の水溶液入り容器として保管されてよい。
保管温度は、-20℃~60℃であると好ましく、-10℃~45℃であるとより好ましく、0℃から40℃であると更に好ましい。MFSI水溶液は一旦凝固し、凝固したMFSI水溶液が再融解する際に分解する場合がある。保管温度が-20℃以上であると、再融解する際のMFSIの分解を抑制できる傾向にある。保管温度が60℃以下であると、MFSIの分解反応を抑制することができる傾向にある。
MFSI水溶液の保管期間としては、少なくとも1日であってよく、少なくとも3日であってよく、少なくとも1週間であってよい。
MFSI水溶液は、保管中の水分の減少を避けるため、容器に密封された状態で保管されることが好ましい。
【0037】
また、本開示のMFSI水溶液は、保存安定性に優れるため、水溶液のまま輸送することができる。MFSI水溶液は、上述の水溶液入り容器として輸送されてよい。
輸送方法としては、例えば輸送車両による輸送が挙げられ、輸送車両の荷台等に乗せた状態で輸送する方法が挙げられる。
【0038】
本開示のMFSI水溶液の使用方法としては、水溶液としてそのまま使用してもよいが、加熱、減圧、スプレードライ、又はそれらを組み合わせた方法により水を除去してMFSI粉体を得てもよいし、有機溶媒によりMFSIを抽出してMFSIの有機溶媒溶液を得てもよい。
【0039】
有機溶媒による抽出を行う場合、当該有機溶媒としては、特に限定されないが、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒、エステル系溶媒、カーボネート系溶媒等が使用できる。好ましくは、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、バレロニトリル、イソブチロニトリル、ブチロニトリル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、あるいはそれらから任意に組み合わせて得ることができる混合溶媒が挙げられる。アミド硫酸イオン、フッ素イオン、硫酸イオン、及びアンモニア又はアンモニウム塩は、塩又は分子の形態で抽出操作により水層へ選択的に分離除去できる。
【0040】
有機溶媒により抽出されたMFSIは、更に濃縮、晶析、再結晶等を行うことにより、単離精製できる。
【0041】
得られたMFSI粉体又は溶液は、電池又はキャパシタの電解液への添加物、選択的求電子フッ素化剤、光酸発生剤、熱酸発生剤、近赤外線吸収色素等に使用することができる。
【実施例】
【0042】
(製造例1)
水10.0gにリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの粉体10.0gを溶解させて水溶液を得た。pHメーターにより得られた水溶液のpHが2.9であることが分かった。イオンクロマトグラフィーにより水溶液中にフッ化物イオンが30質量ppm、硫酸イオンが20質量ppm、アミド硫酸イオンが25質量ppm含まれていることが分かった。
【0043】
(製造例2)
水9.9gに炭酸リチウム0.10g及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの粉体10.0gを溶解させて水溶液を得た。pHメーターにより得られた水溶液のpHが7.2であることが分かった。イオンクロマトグラフィーにより、得られた水溶液中には、炭酸リチウムを除いて製造例1と同量のフッ化物イオン、硫酸イオン、アミド硫酸イオンが含まれていることが分かった。
【0044】
(製造例3)
水に硫酸0.059gを溶解させて10.0gに調整したものに、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの粉体10.0gを溶解させて水溶液を得た。硫酸の添加量は、硫酸イオンの初期濃度で2867質量ppmに相当する。pHメーターにより得られたLiFSI水溶液のpHが0.1であることが分かった。イオンクロマトグラフィーにより、LiFSI水溶液中には、硫酸の添加分を除いて製造例1と同量のフッ化物イオン、アミド硫酸イオンが含まれていていることが分かった。
【0045】
(製造例4)
炭酸リチウム214gと水966gとを混合し氷浴で冷却したスラリーに対し、ビス(フルオロスルホニル)イミド1000gを45分間かけて滴下した。得られた白濁液から不溶物をNo.5Cの桐山ろ紙で取り除くことにより、LiFSIを50.1質量%含む水溶液(水溶液における水とLiFSIの合計量は、99.8質量%であった。)を得た。なお、LiFSIの濃度は、19F NMRにより測定した。
得られた水溶液には、19F NMR分析により、フルオロスルホン酸イオンが91質量ppm含まれていることが分かった。また、イオンクロマトグラフィーにより、得られた水溶液中にフッ化物イオンが6質量ppm、硫酸イオンが28質量ppm、アミド硫酸イオンが1930質量ppm、アンモニウムイオンが6質量ppm含まれていることが分かった。また、pH試験紙により得られた水溶液のpHが5であることが分かった。
【0046】
(製造例5)
水9.9gに水酸化リチウム一水和物0.10g及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド10.0gを溶解させて水溶液を得た。pH試験紙により得られた水溶液のpHが14であることが分かった。
【0047】
(製造例6)
水にリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの粉体を溶解させて、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの濃度が10.0質量%の水溶液20.0gを得た。pHメーターにより得られた水溶液のpHが7.3であることが分かった。イオンクロマトグラフィーにより、得られた水溶液中にフッ化物イオンが8質量ppm、硫酸イオンが3質量ppm含まれていることが分かった。
【0048】
(製造例7)
水にリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの粉体を溶解させて、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの濃度が31.0質量%の水溶液20.0gを得た。pHメーターにより得られた水溶液のpHが7.2であることが分かった。イオンクロマトグラフィーにより、得られた水溶液中にフッ化物イオンが20質量ppm、硫酸イオンが4質量ppm、アミド硫酸イオンが1質量ppm含まれていることが分かった。
【0049】
(製造例8)
水にリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの粉体を溶解させて、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの濃度が40.0質量%の水溶液20.0gを得た。pHメーターにより得られた水溶液のpHが6.9であることが分かった。イオンクロマトグラフィーにより、得られた水溶液中にフッ化物イオンが26質量ppm、硫酸イオンが5質量ppm、アミド硫酸イオンが2質量ppm含まれていることが分かった。
【0050】
(製造例9)
水にリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの粉体を溶解させて、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの濃度が71.0質量%の水溶液20.0gを得た。pHメーターにより水溶液のpHが5.6であることが分かった。イオンクロマトグラフィーにより、水溶液中にフッ化物イオンが43質量ppm、硫酸イオンが6質量ppm、アミド硫酸イオンが18質量ppm含まれていた。
【0051】
(製造例10)
水にリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの粉体を溶解させて、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの濃度が81.0質量%の水溶液20.0gを得た。pHメーターにより水溶液のpHが5.1であることが分かった。イオンクロマトグラフィーにより、水溶液中にフッ化物イオンが53質量ppm、硫酸イオンが19質量ppm、アミド硫酸イオンが25質量ppm含まれていることが分かった。
【0052】
(実施例1)
製造例1で得られた水溶液を、ポリプロピレン製容器中25℃で1週間保管した。保管後の水溶液には、19F NMR分析により、LiFSIが49.9質量%、フッ化物イオンが29質量ppm含まれていることが分かった。また、イオンクロマトグラフィーにより、硫酸イオンが22質量ppm、アミド硫酸イオンが25質量ppm含まれていることが分かった。保管後の水溶液における水とLiFSIの合計量は、100.0質量%であった。
【0053】
(実施例2)
製造例2で得られた水溶液を、ポリプロピレン製容器中25℃で1週間保管した後に実施例1と同様の分析をした結果、水溶液中には、LiFSIが49.6質量%、フッ化物イオンが40質量ppm、硫酸イオンが17質量ppm、アミド硫酸イオンが22質量ppm含まれていることが分かった。保管後の水溶液における水とLiFSIの合計量は、99.4質量%であった。
【0054】
(実施例3)
製造例3で得られた水溶液を、ポリプロピレン製容器中25℃で1週間保管した後に実施例1と同様の分析をした結果、水溶液中には、LiFSIが50.0質量%、フッ化物イオンが39質量ppm、硫酸イオンが3301質量ppm、アミド硫酸イオンが246質量ppm、アンモニウムイオンが1質量ppm含まれていることが分かった。保管後の水溶液における水とLiFSIの合計量は、99.7質量%であった。
【0055】
(実施例4)
製造例4で得られた水溶液を、ポリプロピレン製容器中5℃で1週間保管した後に実施例1と同様の分析をした結果、水溶液中には、LiFSIが50.1質量%、フルオロスルホン酸イオンが64質量ppm、フッ化物イオンが6質量ppm、硫酸イオンが21質量ppm、アミド硫酸イオンが1820質量ppm、アンモニウムイオンが7質量ppm含まれていることが分かった。
【0056】
(実施例5)
製造例4で得られた水溶液を、ポリプロピレン製容器中25℃で1週間保管した後に実施例1と同様の分析をした結果、水溶液中には、LiFSIが50.1質量%、フルオロスルホン酸イオンが73質量ppm、フッ化物イオンが6質量ppm、硫酸イオンが27質量ppm、アミド硫酸イオンが1839質量ppm、アンモニウムイオンが6質量ppm含まれていることが分かった。
【0057】
(実施例6)
製造例4で得られた水溶液を、ポリプロピレン製容器中40℃で1週間保管した後に実施例1と同様の分析をした結果、水溶液中には、LiFSIが50.1質量%、フルオロスルホン酸イオンが33質量ppm、フッ化物イオンが13質量ppm、硫酸イオンが175質量ppm、アミド硫酸イオンが1950質量ppm、アンモニウムイオンが8質量ppm含まれていることが分かった。保管後の水溶液における水とLiFSIの合計量は、99.8質量%であった。
【0058】
(実施例7)
製造例6で得られた水溶液を、ポリプロピレン製容器中40℃で3ヶ月間保管した後に実施例1と同様の分析をした結果、水溶液中には、LiFSIが10.2質量%、フッ化物イオンが8質量ppm、硫酸イオンが12質量ppm、アミド硫酸イオンが3質量ppm含んでいた。保管後の水溶液における水とLiFSIの合計量は、100.0質量%であった。
【0059】
(実施例8)
製造例7で得られた水溶液を、ポリプロピレン製容器中40℃で3ヶ月間保管した後に実施例1と同様の分析をした結果、水溶液中には、LiFSIが30.8質量%、フッ化物イオンが17質量ppm、硫酸イオンが3質量ppm含んでいた。保管後の水溶液における水とLiFSIの合計量は、100.0質量%であった。
【0060】
(実施例9)
製造例8で得られた水溶液を、ポリプロピレン製容器中40℃で1ヶ月間保管した後に実施例1と同様の分析をした結果、水溶液中には、LiFSIが40.8質量%、フッ化物イオンが25質量ppm、硫酸イオンが5質量ppm含んでいた。保管後の水溶液における水とLiFSIの合計量は、100.0質量%であった。
【0061】
(実施例10)
製造例9で得られた水溶液を、ポリプロピレン製容器中25℃で2週間保管した後に実施例1と同様の分析をした結果、水溶液中には、LiFSIが71.1質量%、フッ化物イオンが53質量ppm、硫酸イオンが52質量ppm、アミド硫酸イオンが187質量ppm含んでいた。保管後の水溶液における水とLiFSIの合計量は、100.0質量%であった。
【0062】
(実施例11)
製造例10で得られた水溶液を、ポリプロピレン製容器中25℃で2週間保管した後に実施例1と同様の分析をした結果、水溶液中には、LiFSIが80.8質量%、フッ化物イオンが130質量ppm、硫酸イオンが102質量ppm、アミド硫酸イオンが375質量ppm含んでいた。保管後の水溶液における水とLiFSIの合計量は、99.9質量%であった。
【0063】
(比較例)
製造例5で得られた水溶液を、ポリプロピレン製容器中25℃で1週間保管した後に実施例1と同様の分析をした結果、水溶液中には、LiFSIが48.5質量%、フッ化物イオンが2488質量ppm、硫酸イオンが3987質量ppm、アミド硫酸イオンが8135質量ppm、アンモニウムイオンが5質量ppm含まれていることが分かった。保管後の水溶液における水とLiFSIの合計量は、97.6質量%であった。
【0064】
実施例1~11、及び比較例における保管条件、保管前後での各成分の濃度等を表1に示す。
【0065】
【0066】
表1に示すとおり、実施例1~11では、保管前後の水溶液のLiFSI濃度が一定に保たれていることから、LiFSIの分解が抑制され、保存安定性が良好であることが分かった。一方、比較例では、保管前後でLiFSI濃度が減少しており、保存後のアルカリ金属ビス(フルオロスルホニル)イミド及び水の含有量の合計が98質量%を下回っていることから保管中にLiFSIの分解反応が進んでおり、保存安定性に劣ることが分かった。