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特許7523645加工性判定装置、加工性判定方法及び加工性判定プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】加工性判定装置、加工性判定方法及び加工性判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20240719BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20240719BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
B23K26/00 Q
B23K26/38
B23K26/03
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2023178228
(22)【出願日】2023-10-16
【審査請求日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2023006493
(32)【優先日】2023-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 英夫
(72)【発明者】
【氏名】西田 純一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 治也
(72)【発明者】
【氏名】湧井 宗忠
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-118774(JP,A)
【文献】特開2017-205775(JP,A)
【文献】特開2017-177174(JP,A)
【文献】特開2012-061474(JP,A)
【文献】特開2001-071164(JP,A)
【文献】特開2017-131937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して前記被加工材を加工する加工工程と、前記レーザ光を前記被加工材の素材の融点を超えない判定照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工ユニットと、
前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する測定部と、
前記測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出する特徴量抽出部と、
前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定する判定部と、
前記判定部により判定された判定結果を報知する報知部と、
を備える
加工性判定装置。
【請求項2】
前記レーザ加工ユニットは、前記加工性判定工程において、前記判定照射条件で、前記レーザ光を前記被加工材の素材内部に繰り返し照射し、
前記特徴量抽出部は、前記測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の時間的変化を特徴量情報として抽出し、
前記基準情報は、前記被加工材の温度上昇の度合いを示す判定基準を含み、
前記判定部は、前記特徴量情報に含まれる前記被加工材の温度の時間的変化が、前記判定基準を外れる温度上昇の状態か否かによって、前記被加工材の加工性を判定する
請求項1記載の加工性判定装置。
【請求項3】
前記レーザ加工ユニットは、前記加工性判定工程において、前記判定照射条件で、前記レーザ光を、照射位置を移動させながら前記被加工材の素材表面に照射し、
前記特徴量抽出部は、前記測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の位置的変化を特徴量情報として抽出し、
前記基準情報は、前記被加工材の基準温度範囲及び温度のばらつきの少なくとも一方に基づく判定基準を含み、
前記判定部は、前記特徴量情報に含まれる前記被加工材の温度の位置的変化が、前記判定基準を満たすかどうかによって、前記被加工材の加工性を判定する
請求項1記載の加工性判定装置。
【請求項4】
前記判定照射条件は、第1の照射条件及び第2の照射条件を含み、
前記レーザ加工ユニットは、前記加工性判定工程において、前記第1の照射条件で、前記レーザ光を、照射位置を移動させながら前記被加工材の素材表面に照射し、前記第2の照射条件で、前記レーザ光を前記被加工材の素材内部に繰り返し照射し、
前記測定部は、前記第1の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する放射光の第1の赤外線強度と、前記第2の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する放射光の第2の赤外線強度と、を測定し、
前記特徴量抽出部は、前記測定部によって測定された前記第1の赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の位置的変化を示す第1の特徴量情報を抽出すると共に、前記測定部によって測定された前記第2の赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の時間的変化を示す第2の特徴量情報を抽出し、
前記判定部は、前記第1の特徴量情報を前記基準情報に含まれる第1の判定基準と比較すると共に、前記第2の特徴量情報を前記基準情報に含まれる第2の判定基準と比較して、その結果の組み合わせに基づき前記被加工材の前記加工性を判定する
請求項1記載の加工性判定装置。
【請求項5】
前記レーザ加工ユニットは、前記第2の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材の素材内部に照射する前に、第3の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材の素材表面に照射して前記被加工材の表面改質を行う
請求項4記載の加工性判定装置。
【請求項6】
前記表面改質は、前記第3の照射条件で照射された前記レーザ光により前記被加工材の素材表面を平均深さ0.05mm~1.5mm及び平均粗さ10μm以下で除去するものである
請求項5記載の加工性判定装置。
【請求項7】
前記測定部は、1600nm以上の波長帯の前記赤外線強度を測定する
請求項1記載の加工性判定装置。
【請求項8】
前記第1の照射条件、前記第2の照射条件及び前記第3の照射条件のレーザ出力は、前記加工照射条件のレーザ出力よりも小さく、
前記第1の照射条件及び前記第2の照射条件のレーザ出力は、前記第3の照射条件のレーザ出力よりも小さく、
前記第1の照射条件のレーザ出力は、前記第2の照射条件のレーザ出力よりも小さい
請求項5記載の加工性判定装置。
【請求項9】
前記第1の照射条件で照射される前記レーザ光のエネルギー密度は、1W/mm以上5W/mm未満であり、
前記第2の照射条件で照射される前記レーザ光のエネルギー密度は、5W/mm以上10W/mm以下である
請求項4記載の加工性判定装置。
【請求項10】
前記第1の判定基準は、前記被加工材の基準温度範囲及び温度のばらつきの少なくとも一方に関する情報を含み、
前記第2の判定基準は、前記被加工材の温度上昇の度合いを示す情報を含む
請求項4記載の加工性判定装置。
【請求項11】
レーザ加工ユニットによって、被加工材の素材の融点を超えない判定照射条件で、前記被加工材にレーザ光を照射する工程と、
測定部によって、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する工程と、
特徴量抽出部によって、前記測定部により前記被加工材の加工前に測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出する工程と、
判定部によって、前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定する工程と、
報知部によって、前記判定部により判定された判定結果を報知する工程と、を含む
加工性判定方法。
【請求項12】
前記照射する工程では、前記レーザ加工ユニットが、前記判定照射条件で、前記レーザ光を前記被加工材の素材内部に繰り返し照射し、
前記抽出する工程では、前記測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の時間的変化を特徴量情報として抽出し、
前記基準情報として、前記被加工材の温度上昇の度合いを示す判定基準が予め記録されており、
前記判定する工程では、前記特徴量情報に含まれる前記被加工材の温度の時間的変化が、前記判定基準を外れる温度上昇の状態か否かによって、前記被加工材の加工性を判定する
請求項11記載の加工性判定方法。
【請求項13】
前記照射する工程では、前記レーザ加工ユニットが、前記判定照射条件で、前記レーザ光を、照射位置を移動させながら前記被加工材の素材表面に照射し、
前記抽出する工程では、前記測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の位置的変化を特徴量情報として抽出し、
前記基準情報として、前記被加工材の基準温度範囲及び温度のばらつきの少なくとも一方に基づく判定基準が予め記録されており、
前記判定する工程では、前記特徴量情報に含まれる前記被加工材の温度の位置的変化が、前記判定基準を満たすかどうかによって、前記被加工材の加工性を判定する
請求項11記載の加工性判定方法。
【請求項14】
前記判定照射条件は、第1の照射条件及び第2の照射条件を含み、
前記照射する工程では、前記第1の照射条件で、前記レーザ光を、照射位置を移動させながら前記被加工材の素材表面に照射し、前記第2の照射条件で、前記レーザ光を、前記被加工材の素材内部に繰り返し照射し、
前記測定する工程では、前記測定部が前記第1の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する放射光の第1の赤外線強度と、前記第2の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する放射光の第2の赤外線強度と、を測定し、
前記抽出する工程では、前記特徴量抽出部が前記測定部により測定された前記第1の赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の位置的変化を示す第1の特徴量情報を抽出すると共に、前記測定部により測定された前記第2の赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の時間的変化を示す第2の特徴量情報を抽出し、
前記判定する工程では、前記第1の特徴量情報を前記基準情報に含まれる第1の判定基準と比較すると共に、前記第2の特徴量情報を前記基準情報に含まれる第2の判定基準と比較して、その結果の組み合わせに基づき前記被加工材の前記加工性を判定する
請求項11記載の加工性判定方法。
【請求項15】
レーザ加工ユニットによって、被加工材の素材の融点を超えない判定照射条件で、前記被加工材にレーザ光を照射させる工程と、
測定部によって、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定させる工程と、
特徴量抽出部によって、前記測定部により前記被加工材の加工前に測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出させる工程と、
判定部によって、前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定させる工程と、
報知部によって、前記判定部により判定された判定結果を報知させる工程と、を含み、
前記判定照射条件は、第1の照射条件及び第2の照射条件を含み、
前記照射させる工程では、前記第1の照射条件で、前記レーザ光を、照射位置を移動させながら前記被加工材の素材表面に照射させ、前記第2の照射条件で、前記レーザ光を、前記被加工材の素材内部に繰り返し照射させ、
前記測定させる工程では、前記測定部によって前記第1の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する放射光の第1の赤外線強度と、前記第2の照射条件で前記レーザ光が前記被加工材に照射されたときに発生する放射光の第2の赤外線強度と、を測定させ、
前記抽出させる工程では、前記特徴量抽出部によって前記測定部により測定された前記第1の赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の位置的変化を示す第1の特徴量情報を抽出させると共に、前記測定部により測定された前記第2の赤外線強度の時系列データに基づき前記被加工材の温度の時間的変化を示す第2の特徴量情報を抽出させ、
前記判定させる工程では、前記第1の特徴量情報を前記基準情報に含まれる第1の判定基準と比較させると共に、前記第2の特徴量情報を前記基準情報に含まれる第2の判定基準と比較させて、その結果の組み合わせに基づき前記被加工材の前記加工性を判定させることを、コンピュータに実行させる
加工性判定プログラム。
【請求項16】
レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して前記被加工材を加工する加工工程と、前記レーザ光を前記被加工材の素材を貫通しない範囲の判定照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工ユニットと、
前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する測定部と、
前記測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出する特徴量抽出部と、
前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定する判定部と、
前記判定部により判定された判定結果を報知する報知部と、
を備え
前記被加工材がステンレス鋼の場合、前記基準情報は、前記レーザ光の照射開始後の所定期間における前記被加工材の温度上昇値、及び前記レーザ光の照射開始から所定時間経過後の前記被加工材の冷却到達温度に基づく判定基準を含み、
前記判定部は、前記特徴量情報に含まれる前記被加工材の温度上昇値、及び前記被加工材の冷却到達温度が、前記判定基準を満たすか否かによって、前記被加工材の加工性を判定する
加工性判定装置。
【請求項17】
レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して前記被加工材を加工する加工工程と、前記レーザ光を前記被加工材の素材を貫通しない範囲の判定照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工ユニットと、
前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する測定部と、
前記測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出する特徴量抽出部と、
前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定する判定部と、
前記判定部により判定された判定結果を報知する報知部と、
を備え、
前記被加工材がアルミニウム合金の場合、前記基準情報は、前記レーザ光の照射開始から所定時間内の前記被加工材の最高到達温度に基づく判定基準を含み、
前記判定部は、前記特徴量情報に含まれる前記被加工材の最高到達温度が、前記判定基準を満たすか否かによって、前記被加工材の加工性を判定す
工性判定装置。
【請求項18】
前記判定照射条件は、第1の照射条件及び第2の照射条件を含み、
前記レーザ加工ユニットは、前記第1の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材の素材内部に照射する前に、前記第2の照射条件で前記レーザ光を前記被加工材の素材表面に照射して前記被加工材の表面改質を行う
請求項1記載の加工性判定装置。
【請求項19】
前記測定部は、1600nm以上の波長帯の前記赤外線強度を測定する
請求項16又は17記載の加工性判定装置。
【請求項20】
レーザ加工ユニットによって、被加工材の素材を貫通しない範囲の判定照射条件で、前記被加工材にレーザ光を照射する工程と、
測定部によって、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する工程と、
特徴量抽出部によって、前記測定部により前記被加工材の加工前に測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出する工程と、
判定部によって、前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定する工程と、
報知部によって、前記判定部により判定された判定結果を報知する工程と、を含み、
前記被加工材がステンレス鋼の場合は、
前記基準情報として、前記レーザ光の照射開始後の所定期間における前記被加工材の温度上昇値、及び前記レーザ光の照射開始から所定時間経過後の前記被加工材の冷却到達温度に基づく判定基準が予め記録されており、
前記判定する工程では、前記特徴量情報に含まれる前記被加工材の温度上昇値及び前記被加工材の冷却到達温度が、前記判定基準を満たすか否かによって、前記被加工材の加工性を判定する
加工性判定方法。
【請求項21】
レーザ加工ユニットによって、被加工材の素材を貫通しない範囲の判定照射条件で、前記被加工材にレーザ光を照射する工程と、
測定部によって、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する工程と、
特徴量抽出部によって、前記測定部により前記被加工材の加工前に測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出する工程と、
判定部によって、前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定する工程と、
報知部によって、前記判定部により判定された判定結果を報知する工程と、を含み、
前記被加工材がアルミニウム合金の場合は、
前記基準情報として、前記レーザ光の照射開始から所定時間内の前記被加工材の最高到達温度に基づく判定基準が予め記録されており、
前記判定する工程では、前記特徴量情報に含まれる前記被加工材の最高到達温度が、前記判定基準を満たすか否かによって、前記被加工材の加工性を判定す
工性判定方法。
【請求項22】
レーザ加工ユニットによって、被加工材の素材を貫通しない範囲の判定照射条件で、前記被加工材にレーザ光を照射させる工程と、
測定部によって、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定させる工程と、
特徴量抽出部によって、前記測定部により前記被加工材の加工前に測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出させる工程と、
判定部によって、前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定させる工程と、
報知部によって、前記判定部により判定された判定結果を報知させる工程と、を含み、
前記被加工材がステンレス鋼の場合は、
前記基準情報として、前記レーザ光の照射開始後の所定期間における前記被加工材の温度上昇値、及び前記レーザ光の照射開始から所定時間経過後の前記被加工材の冷却到達温度に基づく判定基準が予め記録されており、
前記判定させる工程では、前記特徴量情報に含まれる前記被加工材の温度上昇値及び前記被加工材の冷却到達温度が、前記判定基準を満たすか否かによって、前記被加工材の加工性を判定させることを、コンピュータに実行させる
加工性判定プログラム。
【請求項23】
レーザ加工ユニットによって、被加工材の素材を貫通しない範囲の判定照射条件で、前記被加工材にレーザ光を照射させる工程と、
測定部によって、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定させる工程と、
特徴量抽出部によって、前記測定部により前記被加工材の加工前に測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出させる工程と、
判定部によって、前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定させる工程と、
報知部によって、前記判定部により判定された判定結果を報知させる工程と、を含み
前記被加工材がアルミニウム合金の場合は、
前記基準情報として、前記レーザ光の照射開始から所定時間内の前記被加工材の最高到達温度に基づく判定基準が予め記録されており、
前記判定させる工程では、前記特徴量情報に含まれる前記被加工材の最高到達温度が、前記判定基準を満たすか否かによって、前記被加工材の加工性を判定させることを、コンピュータに実行させる
加工性判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性判定装置、加工性判定方法及び加工性判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーザ加工機等のレーザ加工装置においては、一般的に被加工材の材質及び板厚に応じた加工条件が予め設定されている。従って、レーザ加工装置のオペレータは、被加工材の材質及び板厚に合致した加工条件を選択して、もしくは加工プログラムの指示する加工条件にてレーザ加工を実施する。
【0003】
しかし、同じ名称の材質及び板厚の被加工材であっても、製造国、製造メーカ、製造ロット及び保管状況等の個体差によって、レーザ加工装置に事前に用意されている加工条件のままでは、良好な加工品質が得られないことがある。また、ステンレス鋼及びアルミニウム合金など各種の用途に応じて様々な材料が開発されており、材料を構成する合金元素量及び製造プロセス等によって、レーザ加工装置に事前に用意されている汎用材用の加工条件のままでは、同様に良好な加工品質が得られないこともある。
【0004】
このため、レーザ加工ヘッドの内部に設けられた検出部により、加工中のレーザ光の照射に伴う加工点及びその近傍を含む加工点側からの戻り光を検出し、監視部によって加工条件に応じた特定波長帯の光レベルを時系列的に抽出して加工の加工状態を監視する技術が知られている(特許文献1参照)。また、被加工材の材質及び板厚に適した加工条件を選択した上で、被加工材の実際の材質及び板厚を測定し、選択した加工条件を、測定結果に応じて修正する技術も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-166543号公報
【文献】特許第6754614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された装置では、種々の加工条件の下で、実際のレーザ加工の加工状態を判定することはできるが、判定結果に基づき加工条件を修正することは想定されていない。また、上記特許文献2に開示された装置では、被加工材の材質及び板厚に応じて選択される加工条件を、実際に測定された材質及び板厚に基づいて修正することはできるが、選択された加工条件を修正しない場合、どの程度の加工品質が得られるのかを判定することは想定されていない。
【0007】
すなわち、上記従来技術は、判定された加工状態に応じた加工条件及び選択された加工条件に基づく被加工材の加工性(加工に適しているかどうかの程度)そのものを、例えば製造メーカ毎、製造ロット毎、又は保管状況毎に異なる実際の被加工材の個体差(品質のバラつき)に対応させて、実際の加工前に判定するものではなかった。
【0008】
このため、加工前に被加工材の加工条件に基づく加工性を判定して、その判定結果に基づいて、予め設定された加工条件での加工を行うか、被加工材に適した加工条件に変更するか等の判断を、テスト加工(試し加工)することなくオペレータがすることはできないという問題がある。
【0009】
本発明の一態様は、加工前に被加工材の加工条件に基づく加工性を判定して、判定結果を報知することで、これに基づくオペレータの判断を容易にし、加工不良を低減することが可能な加工性判定装置、加工性判定方法及び加工性判定プログラムである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る加工性判定装置は、レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して前記被加工材を加工する加工工程と、前記レーザ光を前記被加工材の素材の融点を超えない判定照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工ユニットと、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する測定部と、前記測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出する特徴量抽出部と、前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定する判定部と、前記判定部により判定された判定結果を報知する報知部と、を備える。
【0011】
本発明の一態様に係る加工性判定方法は、レーザ加工ユニットによって、被加工材の素材の融点を超えない判定照射条件で、前記被加工材にレーザ光を照射する工程と、測定部によって、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する工程と、特徴量抽出部によって、前記測定部により前記被加工材の加工前に測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出する工程と、判定部によって、前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定する工程と、報知部によって、前記判定部により判定された判定結果を報知する工程と、を含む。
【0012】
本発明の一態様に係る加工性判定プログラムは、レーザ加工ユニットによって、被加工材の素材の融点を超えない判定照射条件で、前記被加工材にレーザ光を照射させる工程と、測定部によって、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定させる工程と、特徴量抽出部によって、前記測定部により前記被加工材の加工前に測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出させる工程と、判定部によって、前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定させる工程と、報知部によって、前記判定部により判定された判定結果を報知させる工程と、をコンピュータに実行させる。
【0013】
本発明の一態様に係る加工性判定装置、加工性判定方法及び加工性判定プログラムによれば、レーザ加工ユニットによって被加工材に素材の融点を超えない判定照射条件でレーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度の時系列データに基づき、被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出し、抽出された特徴量情報と、予め記録済みの被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づきレーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で被加工材を加工した場合の被加工材の加工性を判定し、判定結果を報知する。これにより、例えば加工前に被加工材の加工条件に基づく加工性を判定して判定結果を報知することができるので、実際の加工に際して予め設定された加工条件での加工を行うべきか、被加工材に適した加工条件に変更すべきか等の判定結果に基づくオペレータによる判断が容易になり、加工不良の低減を図ることが可能となる。
【0014】
本発明の他の態様に係る加工性判定装置は、レーザ光を加工照射条件で被加工材に照射して前記被加工材を加工する加工工程と、前記レーザ光を前記被加工材の素材を貫通しない範囲の判定照射条件で前記被加工材に照射して前記被加工材の加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工ユニットと、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する測定部と、前記測定部によって測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出する特徴量抽出部と、前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定する判定部と、前記判定部により判定された判定結果を報知する報知部と、を備える。
【0015】
本発明の他の態様に係る加工性判定方法は、レーザ加工ユニットによって、被加工材の素材を貫通しない範囲の判定照射条件で、前記被加工材にレーザ光を照射する工程と、測定部によって、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する工程と、特徴量抽出部によって、前記測定部により前記被加工材の加工前に測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出する工程と、判定部によって、前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定する工程と、報知部によって、前記判定部により判定された判定結果を報知する工程と、を含む。
【0016】
本発明の他の態様に係る加工性判定プログラムは、レーザ加工ユニットによって、被加工材の素材を貫通しない範囲の判定照射条件で、前記被加工材にレーザ光を照射させる工程と、測定部によって、前記被加工材に前記判定照射条件で前記レーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定させる工程と、特徴量抽出部によって、前記測定部により前記被加工材の加工前に測定された前記赤外線強度の時系列データに基づいて、前記被加工材の温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出させる工程と、判定部によって、前記抽出された特徴量情報と、予め記録済みの前記被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、前記レーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で前記被加工材を加工した場合の前記被加工材の加工性を判定させる工程と、報知部によって、前記判定部により判定された判定結果を報知させる工程と、をコンピュータに実行させる。
【0017】
本発明の他の態様に係る加工性判定装置、加工性判定方法及び加工性判定プログラムによれば、レーザ加工ユニットによって被加工材に素材を貫通しない範囲の判定照射条件でレーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度の時系列データに基づき、被加工材の温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出し、抽出された特徴量情報と、予め記録済みの被加工材の加工性の判定用の基準情報と、に基づきレーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で被加工材を加工した場合の被加工材の加工性を判定し、判定結果を報知する。これにより、例えば加工前に被加工材の加工条件に基づく加工性を判定して判定結果を報知することができるので、実際の加工に際して予め設定された加工条件での加工を行うべきか、被加工材に適した加工条件に変更すべきか等の判定結果に基づくオペレータによる判断が容易になり、加工不良の低減を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、加工前に被加工材の加工条件に基づく加工性を判定して、判定結果を報知することで、これに基づくオペレータの判断を容易にし、加工不良を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る加工性判定装置の基本的構成を示すブロック図である。
図2図2は、加工性判定装置の概略構成を示す説明図である。
図3図3は、加工性判定装置の機能的構成を示すブロック図である。
図4図4は、加工性判定装置のハードウェア構成を示す説明図である。
図5図5は、被加工材の材料毎の酸化熱指標、レーザ切断面及び条痕変化の調査結果を示す結果表である。
図6図6は、切断面の平均粗さと酸化熱指標との関係を示すグラフである。
図7図7は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。
図8図8は、図7の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図9図9は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。
図10図10は、図9の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図11図11は、タイプAの被加工材の表面状態の調査結果を説明するための図である。
図12図12は、図11の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図13図13は、タイプBの被加工材の表面状態の調査結果を説明するための図である。
図14図14は、図13の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図15図15は、タイプCの被加工材の表面状態の調査結果を説明するための図である。
図16図16は、図15の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図17図17は、加工性判定装置の加工性判定処理フローの一例を示すフローチャートである。
図18図18は、加工性判定装置の加工性判定処理フローの一例を示すフローチャートである。
図19図19は、本発明の第2の実施形態に係る加工性判定装置の基本的構成を示すブロック図である。
図20図20は、本発明の第2の実施形態に係る加工性判定装置によって、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。
図21図21は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。
図22図22は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。
図23図23は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。
図24図24は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。
図25図25は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。
図26図26は、被加工材毎の冷却到達温度の時間的変化の特徴量とドロスの大きさを示す結果表である。
図27図27は、加工性判定装置のステンレス鋼の加工性判定処理フローの他の例を示すフローチャートである。
図28図28は、加工性判定装置のステンレス鋼の加工性判定処理フローの他の例を示すフローチャートである。
図29図29は、本発明の第3の実施形態に係る加工性判定装置の基本的構成を示すブロック図である。
図30図30は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係を示すグラフである。
図31図31は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係を示すグラフである。
図32図32は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係を示すグラフである。
図33図33は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係を示すグラフである。
図34図34は、被加工材毎の加熱による最高到達温度の時間的変化の特徴量とドロスの大きさの調査結果を示す結果表である。
図35図35は、加工性判定装置のアルミニウム合金の加工性判定処理フローの他の例の一部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態に係る加工性判定装置、加工性判定方法及び加工性判定プログラムを詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施の形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、以下の実施の形態においては、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。また、実施の形態においては、各構成要素の配置、縮尺及び寸法等が誇張あるいは矮小化されて実際のものとは一致しない状態で示されている場合、並びに一部の構成要素につき記載が省略されて示されている場合があるとする。
【0021】
[第1の実施形態]
[加工性判定装置の機能的構成]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る加工性判定装置の機能的構成を示すブロック図である。図2は、加工性判定装置の概略構成を示す説明図である。図3は、加工性判定装置の機能的構成を示すブロック図である。
【0022】
図1に示すように、第1の実施形態に係る加工性判定装置として機能するレーザ加工装置100は、レーザ光LBを加工照射条件で被加工材Wに照射して被加工材Wを加工する加工工程と、レーザ光LBを被加工材Wの素材の融点を超えない判定照射条件で被加工材Wに照射して被加工材Wの加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工ユニット20と、被加工材Wに判定照射条件でレーザ光LBを照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する赤外線センサ(測定部)30と、赤外線センサ(測定部)30によって測定された赤外線強度の時系列データに基づいて被加工材Wの温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出する特徴量抽出部68と、抽出された特徴量情報と、予め記録済みの被加工材Wの加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、レーザ加工ユニット20で、予め設定された加工条件で被加工材Wを加工した場合の被加工材Wの加工性を判定する判定部66と、判定部66により判定された判定結果を報知する報知部67と、を備える。また、レーザ加工装置100は、特徴量情報と、基準情報と、を記憶する記憶部61を備える。なお、赤外線センサ30は、放射温度計等の光強度を測定可能な機器で代用することも可能である。
【0023】
図2に示すように、レーザ加工装置100は、例えば、赤外線センサ30及びレーザ加工ユニット20を制御するNC(Numerical Control)装置60と、NC装置60からのトリガ信号に従って、赤外線センサ30からの光強度信号をA/D変換してNC装置60に出力するA/D変換器40と、を備えている。
【0024】
被加工材Wは、例えば、鉄鋼である場合、主成分として鉄(Fe)を含み、非鉄金属のアルミニウム合金鋼である場合、主成分としてアルミニウム(Al)を含む。被加工材Wは、これらの主成分の他にメーカが意図的に添加した元素、及び不純物として混入している元素を含む。
【0025】
なお、鉄鋼は、鉄(Fe)よりも酸化しやすい元素として、少なくとも炭素(C)、マンガン(Mn)、ケイ素(シリコン)(Si)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタニウム(Ti)を含むものと考えられる。また、不純物は、ここでは、材質の主たる含有物ではない含有物のことを指し、被加工材Wの溶融時に気泡のような物理現象を誘発する物質も含むものとする。
【0026】
レーザ加工装置100は、被加工材Wのレーザ切断、レーザ穴あけ等の加工を行う。レーザ加工装置100は、レーザ光LBを被加工材Wに照射して加工を行うレーザ加工ユニット20を有する。レーザ加工ユニット20は、板金等の被加工材Wを載置する加工テーブル11と、図示しない駆動機構と、を含む。
【0027】
加工テーブル11は、加工対象である被加工材Wを支持する。駆動機構は、例えば、加工テーブル11に対して、第1の方向(X方向)に移動する第1軸(X軸)キャリッジと、この第1軸キャリッジ上を第1の方向と交差する第2の方向(Y方向)に移動する第2軸(Y軸)キャリッジと、を有する。
【0028】
レーザ加工ユニット20は、レーザ光LBを生成して射出するレーザ発振器21と、第1及び第2軸キャリッジに搭載されてこれらによりX方向及びY方向に移動可能に構成されたレーザ加工ヘッド22と、レーザ発振器21で生成されたレーザ光LBをレーザ加工ヘッド22へと伝送するプロセスファイバ23と、を備える。
【0029】
また、レーザ加工装置100は、アシストガスを供給するアシストガス供給装置(図示せず)を備えている。なお、レーザ加工装置100は、レーザ加工ヘッド22が被加工材Wに対して移動する構成に限定されるものではなく、被加工材Wがレーザ加工ヘッド22に対して移動する構成も採用し得る。
【0030】
レーザ発振器21は、例えば、レーザダイオードから発せられる種光が共振器でYb(イッテルビウム:Ytterbium)などを励起させ増幅させて所定の波長のレーザ光LBを射出するタイプ、又はレーザダイオードより発せられるレーザ光LBを直接利用するタイプのレーザ発振器等が用いられる。
【0031】
レーザ発振器21は、波長900nm~1100nmの1μm帯のレーザ光LBを射出する。例えば、DDL(Direct Diode Laser)発振器は、波長910nm~950nmのレーザ光LBを射出し、ファイバレーザ発振器は、波長1060nm~1080nmのレーザ光LBを射出する。
【0032】
また、青色半導体レーザは、波長400nm~460nmのレーザ光LBを射出する。グリーンレーザは、波長500nm~540nmのレーザ光LBを射出するファイバレーザ発振器又はDDL発振器でもよく、1μm帯のレーザ光LBと光合成した多波長共振器であってもよい。また、レーザ発振器21は、レーザ光LBを被加工材Wのどの位置に出射するかを確認するガイド光GB(例えば、波長650nm)を出射する(図示省略)。
【0033】
レーザ加工ヘッド22は、レーザ光LBの照射中心軸Cを含む筒状のハウジング20aを有し、ビームコントロールユニット24を備える。ビームコントロールユニット24は、レーザ光LBを被加工材Wの材料に適した集光径及び発散角に制御する機能を有する。ビームコントロールユニット24は、プロセスファイバ23の出力端から射出されたレーザ光LBを入射して平行光束に変換するコリメータレンズ24aと、コリメータレンズ24aから射出されたほぼ平行光束のレーザ光LBをX軸及びY軸と直交する第3の方向(Z方向)の下方に向けて反射すると共に、所定の波長の光を透過させるベンドミラー24bと、ベンドミラー24bで反射したレーザ光LBを集束させて被加工材Wに照射する加工用の集光レンズ24cと、を有する。
【0034】
ベンドミラー24bには、例えば、少なくともレーザ光LB及びガイド光GBの波長(例えば、1080nm、650nm)を反射するコーティングが施されている。なお、ベンドミラー24bは、加工に用いる任意のレーザ光LBの波長帯に応じて、透過率波長特性を変更して設計可能であるから、加工用のレーザ光のみを反射するようにコーティングしてもよい。
【0035】
ハウジング20aは、レーザ加工ヘッド22の先端側においては、先細形状となるように形成されている。レーザ加工ヘッド22は、その先端部に、レーザ光LBを被加工材Wに照射するための円形の開口部25aを有するノズル25を備えている。ノズル25は、溶融した被加工材Wを除去するために、アシストガス供給装置から供給される所定のアシストガス圧のガス流をレーザ光LBと共に被加工材Wに噴射するノズル機能を有する。ノズル25は、レーザ加工ヘッド22に着脱自在に設けられる。
【0036】
なお、コリメータレンズ24a、ベンドミラー24b、集光レンズ24c及びノズル25は、予め光軸が調整された状態でレーザ加工ヘッド22内に固定されている。また、ビームコントロールユニット24内には、集束位置を調整するために、コリメータレンズ24aを光軸に平行な方向(X軸方向)に駆動するレンズ駆動部(図示せず)が設けられている。また、集束位置を調整するため、レーザ加工ヘッド22自体を、図示しない駆動機構によって、Z方向に移動可能に構成されていてもよい。
【0037】
赤外線センサ30は、例えば、レーザ加工ヘッド22のハウジング20aの上部に設けられたセンサユニット31の内部に備えられている。センサユニット31は、赤外線センサと共に、光学レンズ系(図示せず)を備えている。赤外線センサ30は、ハウジング20aの上部のセンサユニット31の内部における、ベンドミラー24bの被加工材Wと対峙した透過側に設けられている。
【0038】
赤外線センサ30は、被加工材Wの加工側からベンドミラー24bに向かう光BRに含まれる放射光のうち、ベンドミラー24bを透過した所定波長帯の測定対象の赤外光(赤外線)IRを入力して受光する。放射光は、レーザ光LBにより加熱された被加工材Wの材料から発せられる広帯域の波長を有する電磁波のうち、熱輻射で放出される赤外線を含んでいる。赤外線センサ30は、この赤外線を捉え、電気信号に変換する。
【0039】
本例の赤外線センサ(測定部)30は、1600nm以上の波長帯の赤外線強度を測定する。すなわち、赤外線センサ30は、例えば、特定帯域(1600nm以上、2500nm以下)の波長のみを透過する波長フィルタを前段に配置し、後段に光電変換素子として、例えば、InGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)を用いたフォトダイオード使用している。
【0040】
なお、NC装置60で別途可視光領域のエネルギー分布及び画像等をモニタリングする場合は、レーザ加工ヘッド22の出射ユニット22a側とセンサユニット31との間にダイクロイックミラー(図示せず)を配置して、赤外線は透過させ、可視光を反射させるようにしてもよい。
【0041】
図3に示すように、NC装置60は、加工を実行するレーザ加工ユニット20の制御の他に、機能的には、演算処理部63、制御部64、表示部62、入力部65、記憶部61、判定部66、及び報知部67を含む。演算処理部63は、図1で示した特徴量抽出部68を有する。演算処理部63は、センサ信号処理ユニットとしても機能する。
【0042】
すなわち、赤外線センサ30で捉えられ光電変換された電流出力のセンサ出力信号は、演算処理部63に向けて伝送される。電流転送されたセンサ出力信号は、電流-電圧変換回路(図示せず)によって電圧信号に変換され、電圧信号に変換されたセンサ出力信号は、A/D変換器40によりデジタル信号に変換されて、このデジタル信号が演算処理部63に入力される。
【0043】
演算処理部63は、特定の演算処理を高速で行えるハードウェア又はミドルウェアの演算処理装置等からなり、センサ出力信号の瞬時的な電圧値を赤外線の光強度に換算し、この光強度の時系列データを取得し得る。そして、演算処理部63は、得られた光強度の時系列データに基づく温度特性の時間的遷移を表す特徴量情報を抽出する特徴量抽出部68として機能する。
【0044】
制御部64は、出力I/F(インタフェース:Interface)208を介してレーザ加工ユニット20の動作を制御する。表示部62は、加工の加工条件等の各種情報を入力する設定入力画面、判定結果等のオペレータへ報知する各種情報の表示画面等を表示する。入力部65は、例えばキーボード、トラックボール、マウス及びジョイスティック等の各種入力デバイスを含んで構成され得る。
【0045】
記憶部61は、各種の記憶媒体を有すると共に、上述した特徴量情報及び基準情報等の様々な情報を読み書き可能に記憶する。判定部66は、例えば記憶部61に記憶された特徴量情報及び基準情報に基づいて、これから行う加工の加工条件に基づく被加工材Wの加工性を判定する。報知部67は、判定部66による判定結果を、表示部62を介してオペレータに報知する。なお、基準情報は、実験等により選定されて定められた、予め記録された情報である。
【0046】
なお、表示部62は、入力部65として機能するタッチパネルを備えて構成され得る。表示部62がタッチパネルを備えた場合は、オペレータは、例えば、表示部62を操作することにより、入力I/F(インタフェース:Interface)207を介して被加工材Wに関する各種情報等を、NC装置60の制御部64に対して入力可能となる。
【0047】
[ハードウェア構成]
図4は、加工性判定装置のハードウェア構成を示す説明図である。なお、図4は、加工性判定装置として機能するレーザ加工装置100のNC装置60のハードウェア構成を例に挙げて説明するが、ハードウェア構成はこれに限定されるものではなく、汎用のパーソナルコンピュータ(PC)と同等の構成など、種々の構成を採用し得る。
【0048】
図4に示すように、NC装置60は、例えば、GPU(画像演算処理装置:Graphics Processing Unit)212と、CPU(中央演算処理装置:Central Processing Unit)201と、RAM(Random Access Memory)202と、ROM(Read Only Memory)203と、HDD(ハードディスクドライブ:Hard Disk Drive)204と、SSD(ソリッドステートドライブ:Solid State Drive)205と、メモリカード206と、FPGA(Field Programable Gate Array)215と、を備えたハードウェアにより実現されている。
【0049】
また、NC装置60は、上述した入力I/F(インタフェース:Interface)207と、出力I/F(インタフェース:Interface)208と、通信I/F(インタフェース:Interface)209と、を備える。ハードウェアの各構成部201~209,215は、それぞれバス200によって相互に接続されている。
【0050】
入力I/F207には、キーボード、トラックボール、ジョイスティック、マウス及びタッチパネル等の上述した各種の入力デバイスの他、赤外線センサ30等の測定装置、及び温度センサ、光センサ、音響センサ、画像センサ、分光センサ等の各種センサを含む入力機器211が接続され得る。出力I/F208には、報知部67により情報を表示する表示部62の他、図示しないスピーカ及びランプ等を含む出力機器210が接続され得る。通信I/F209は、インターネット等のネットワーク213を介して、サーバ等の外部機器214と通信を行う。上記レーザ加工装置100の各構成部も、このようなハードウェアによって構成され得る。
【0051】
[加工性判定方法]
次に、加工性判定装置を用いた加工性の判定方法について説明する。
本実施形態では、被加工材Wとして軟鋼を用いた。本発明者等は、NC装置60の標準加工条件で、素材内部の成分(内部成分)及び素材表面の性状(表面性状)の異なる種々の被加工材Wを加工(レーザ切断)して、被加工材Wの切断面を観察した。その結果、被加工材Wの加工性(切断性)は、被加工材Wの表面性状及び内部成分の特性(内部特性)に大きく影響を受けていることが判明した。
【0052】
すなわち、被加工材Wの表面性状とは、具体的には、被加工材Wの素材表面の表層部分における酸化膜の状態及び素材表面との密着性(以下、「酸化膜の状態及び密着性」と称する。)を意味する。ここで、表層部分とは、素材表面に形成された酸化膜のレイヤーに該当する部分のことを意味し、素材表面に酸化膜がない場合は、この表層部分もないこととなる。被加工材Wの加工性は、第1に、被加工材Wの素材表面の酸化膜の状態及び密着性に大きく影響されることが判明した。以下、この要因を「表面起因」と呼ぶ。表面起因が良好とはいえない場合の切断面は、レーザ入射面側の条痕の乱れが大きい。特に、酸化膜が剥離した部分では、条痕が乱れ、ノッチが発生し易い。
【0053】
また、被加工材Wの内部特性とは、具体的には、被加工材Wの内部成分による酸化反応の大きさを意味する。被加工材Wの加工性は、第2に、被加工材Wの内部成分に基づく酸化反応熱に大きく影響されることが判明した。以下、この要因を「内部起因」と呼ぶ。例えば、軟鋼の厚板では、アシストガスとして酸素を用い、レーザ光の熱と酸化反応熱を熱源として溶融切断を行う。そのとき、酸化反応しやすい元素が多いものは切断面が粗くなりやすい。酸化熱が大きいと過剰燃焼しやすくなることと、これらの元素は熱伝導率を小さくするために熱が拡散し難く、切断面の温度上昇を助長しやすいことと、が原因と考えられる。
【0054】
そこでまず、内部起因について調べるために、第1の調査を行った。第1の調査に当たっては、被加工材Wの表面状態の影響を排除するため、被加工材Wの素材表面の酸化膜を除去して表面状態を揃えた状態でレーザ切断を行った。酸化膜の除去は、所定のレーザ出力により表面の面粗さを所定値となるように所定の深さ削ることによって行った。レーザ切断は、レーザ出力3(kW)、加工速度630(mm/min)及びアシストガスを酸素(O)とした加工条件で行った。
【0055】
被加工材Wの材料の切断性は、レーザ光LBの入熱が同じであっても内部成分の酸化反応熱が異なると大きく影響されるので、材料に含まれる鉄(Fe)よりも酸化しやすい元素量と相関があると考えられる。このため、上述した鉄(Fe)よりも酸化しやすい各元素(炭素(C)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタニウム(Ti))の酸化発熱量から酸化熱の大きさの指標(以下、「酸化熱指標」と呼ぶ。)を算出した。
【0056】
酸化熱指標は、酸化反応熱に対応する。酸化反応熱は、被加工材Wに含まれる各元素の酸化熱への寄与度から求められる。各元素の酸化熱への寄与度は、酸素1モルと反応する各元素の酸化発熱量の大きさから求められる。よって、下記式(1)で酸化熱指標を求めた。
【0057】
【数1】
【0058】
図5は、被加工材の材料毎の酸化熱指標、レーザ切断面及び条痕変化の調査結果を示す結果表である。図6は、切断面の平均粗さと酸化熱指標との関係を示すグラフである。なお、結果表300における各項目の品質評価の「○」、「△」及び「×」は、得られた数値及び切断面等を品質の観点から実際に確認評価して定義したものであり、それぞれ「良」、「可」及び「不可」に対応している。
【0059】
図5に示すように、結果表300においては、サンプルa、サンプルb及びサンプルcの結果301,302,303が示されている。
サンプルaについては、酸化熱指標が2.37で、切断面は、部分的に条痕が深くなり、ピッチも大きくなり、やや粗くなることから「△」の評価となった。レーザ光LBの入射深さが1mmでの条痕変化は、深さにややバラつきのある結果となっていることが確認できる。
【0060】
サンプルbについては、酸化熱指標が2.28で、切断面は、ノッチが少なく、条痕の深さも最も浅いことから、「○」の評価となった。レーザ光LBの入射深さが1mmでの条痕変化は、深さのバラつきが少なく全てのサンプルの中で最も浅い結果となったので、概ね切断面の評価通りの結果となっていることが確認できる。
【0061】
サンプルcについては、酸化熱指標が3.78で、切断面は、全てのサンプルの中で最もノッチが多くなったことから「×」の評価となった。レーザ光LBの入射深さが1mmでの条痕変化は、深さにバラつきが多く深い結果となったので、概ね切断面の評価通りの結果となっていることが確認できる。
【0062】
そして、サンプルa、サンプルb及びサンプルcの切断面の平均粗さを算出し、算出結果を、図6に示すように、縦軸に切断面の平均粗さ(μm)を表し、横軸に酸化熱指標の大きさを表したグラフ304にプロットして回帰直線305を得た。図6からも明らかなように、切断面の粗さは酸化熱指標が表す酸化反応熱の大きさの順に粗くなることが分かった。従って、被加工材Wの材料の切断性と酸化反応熱の大きさには相関があることが証明された。
【0063】
上述した酸化反応熱を生じさせる元素は、上記のように一般に熱伝導率を小さくするために熱が拡散し難く、切断面の温度上昇を助長することが考えられる。そこで、被加工材Wの材料の酸化反応熱の大きさを熱伝導の大きさと捉え、被加工材Wの内部材質と熱伝導の違いについて分類するための第2の調査を行った。熱伝導は、被加工材Wに含まれる元素のうち、例えば、炭素(C)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)等が多くなれば小さくなることが判明しているので、被加工材Wの素材内部にレーザ光LBによって繰り返し加熱冷却を行うことで、熱伝導の違いを調査した。
【0064】
図7は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。図8は、図7の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図7(a)は、赤外線センサ30でサンプルdを測定して、赤外線センサ30から出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形310を示している。図7(a)において、縦軸は温度(℃)を表し、横軸は時間(秒:s)を表している。第2の調査に当たっては、判定照射条件として、板厚25mmの被加工材Wの素材内部に照射するレーザ光LBのレーザ出力を400W、周波数を10Hz、デューティを50%に設定し、1秒間に10回の繰り返し加熱を行った。図7(b)は、図7(a)の温度波形310の1周期分を、時間軸をms単位に拡大して示した温度波形311を示す図である。図7(a),(b)に示すように、レーザ光LBの照射開始から1秒経過後の温度測定時間(レーザ照射開始1秒後~11秒までの時間)において、複数サイクルのレーザ照射により時間経過と共に被加工材Wの温度波形310,311が、約300℃~約800℃の間で細かく上下動(発熱及び放熱の繰り返し)することが分かる。
【0065】
図7(c)は、図7(a)で示した繰り返し加熱冷却による温度波形310の下側の包絡線を示す波形図である。この波形図は、図7(a)の波形図の1サイクル毎の冷却到達温度の時間的遷移を特徴量情報(第2の特徴量情報)312として抽出したものである。この特徴量情報312は、被加工材Wの熱伝導に起因した温度上昇の度合いを示し、以後の判定評価に用いることができる。この特徴量情報312に基づき、温度測定開始(レーザ照射開始から1秒後)から冷却到達温度(300℃)に到達するまでの時間を、被加工材Wの材料の内部特性を判定するための判定基準(第2の判定基準)として設定した。すなわち、冷却到達温度に到達するまでの時間が2.0秒未満である場合は熱伝導の評価が「×」で、2.0秒以上、2.5秒未満である場合は熱伝導の評価が「△」で、2.5秒以上である場合は熱伝導の評価が「○」と評価した。
【0066】
図7(c)に示すように、サンプルdについては、冷却到達温度(300℃)に到達するまでの時間が2.0秒であるため、熱伝導は「△」の評価となっている。これは、温度が上がりにくくも上がりやすくもなく、熱伝導が中程度の材料であることを示している。
また、サンプルdの被加工材Wの切断面画像は、図8(a)に示す画像313のようになり、表面から1mmの深さ(Iで示す線)の面粗さ及び2mmの深さ(IIで示す線)の面粗さは、図8(b)に示すグラフ314のようになった。サンプルdの被加工材Wは、表面から1mmの深さの面粗さの方が、表面から2mmの深さの面粗さよりも安定しているが、全体的にバラつきがあり、切断面の条痕の乱れもやや散見される結果となった。
【0067】
図9は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。図10は、図9の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図9(a)は、赤外線センサ30でサンプルeを測定して、赤外線センサ30から出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形315を示している。加工条件と判定照射条件については、サンプルdと共通する。また、温度波形316及び特徴量情報(第2の特徴量情報)317についても、図7と同様である。
【0068】
図9(c)に示すように、サンプルeについては、冷却到達温度(300℃)に到達するまでの時間が8.8秒であるため、熱伝導は「○」の評価となっている。これは、温度が上がりにくく、熱伝導率が小さい材料であることを示している。
また、サンプルeの被加工材Wの切断面画像は、図10(a)に示す画像318のようになり、表面から1mmの深さ(Iで示す線)の面粗さ及び2mmの深さ(IIで示す線)の面粗さは、図10(b)に示すグラフ319のようになった。サンプルeの被加工材Wは、表面から1mmの深さ及び2mmの深さの面粗さは共に安定し全体的にバラつきがなく、切断面に条痕の乱れも現れない結果となった。以上のことから、熱伝導の評価が「○」となったサンプルeの被加工材Wの方が、熱伝導の評価が「△」となったサンプルdの被加工材Wよりも、比較的面粗さが小さく、ノッチの発生も少ない綺麗な切断面となることが判明した。
【0069】
次に、表面起因について調べるために、第3の調査を行った。第3の調査に当たっては、まず、被加工材Wの素材表面の酸化膜の状態と条痕の乱れとの関係について調べることにした。
例えば、図11に示すタイプAの被加工材Wは、素材の状態で酸化膜が剥離(斑状)しており、酸化膜の剥離率が比較的大きいタイプのものが該当する。また、図13に示すタイプBの被加工材Wは、素材の状態で酸化膜の剥離はない(酸化膜が付着している)が、レーザ照射により酸化膜が剥離するタイプのものが該当する。これら、タイプA及びタイプBのいずれの被加工材Wでも、素材表面の酸化膜が剥離すると、表面におけるレーザ吸収率及び酸化反応のしやすさ等が変化する。このため、切断面においては、酸化膜が剥離した部分で条痕が不均一となる。従って、切断面の条痕の乱れは素材表面の酸化膜の密着性と強い相関があると考えられる。このことは、上記のように調べたタイプA及びタイプBの被加工材Wの切断面の画像において、酸化膜の剥離箇所を起点として、条痕が深くノッチとなっていたことからも明らかである。
【0070】
以上のことを踏まえ、被加工材Wは、表面性状において、上記タイプA及びタイプBの他に、図15に示す、レーザ照射によっても、素材表面の酸化膜が全く剥離しないタイプのタイプCを加えた3つのタイプに分類することが可能であることが判明した。そこで、第3の調査に当たっては、判定照射条件として、板厚19mmの被加工材Wの素材表面に照射するレーザ光LBのレーザ出力を125W、速度を500mm/min、周波数を100Hz、デューティを100%に設定し、80mmの走査距離でレーザ照射(レーザ走査)を行った。
【0071】
図11は、タイプAの被加工材の表面状態の調査結果を説明するための図である。図12は、図11の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図11(a)及び図11(b)に示すように、タイプAの被加工材Wは、その表面画像330及び素材表面の拡大画像330aからも分かるように、素材の状態で酸化膜が剥離しているところがある。図11(c)は、タイプAの被加工材Wにレーザ走査を行ったときの検出温度の位置的変化を示す波形図を含んでいる。この波形図は、温度の位置的変化を特徴量情報(第1の特徴量情報)331として抽出したものである。素材の状態で酸化膜が剥離しているところがあるため、図11(c)に示すように、レーザ走査をすると、波形図の横軸に表す距離(mm)において、縦軸に表す温度(℃)の位置的変化を示す特徴量情報(第1の特徴量情報)331は、図示のように表される。なお、特徴量情報(第1の特徴量情報)331は、赤外線センサ30により1.95μm~2.5μmの赤外線強度を放射率1として温度で測定した温度パターンを表している(以下、同じ)。波形図の下方における表面画像332は、波形図に対応するレーザ走査後の表面状態を表している。
【0072】
すなわち、素材表面において、レーザ光LBを照射する前から酸化膜が剥離しているところでは温度が低くなる。酸化膜が載っている(付着している)ところで、酸化膜の密着性が弱い部分はレーザ光LBの照射により酸化膜が剥離してしまう。このようなレーザ照射により酸化膜が剥離したところ(表面画像332の白っぽいところ)では、酸化膜が発光発熱し温度が高くなる。このため、特徴量情報(第1の特徴量情報)331は、高温側のピークが多く現れると共に、高温側及び低温側において波形の乱れが多く散見される結果となった。
【0073】
また、タイプAの被加工材Wの切断面画像は、図12(a)に示す画像333のようになり、表面から1mmの深さ(Iで示す線)の面粗さ及び2mmの深さ(IIで示す線)の面粗さは、図12(b)に示すグラフ334のようになった。タイプAの被加工材Wは、表面から1mmの深さ及び2mmの深さのいずれにおいても、面粗さは不安定で全体的にバラつきがあり、切断面の条痕の乱れも多く見られる結果となった。
【0074】
図13は、タイプBの被加工材の表面状態の調査結果を説明するための図である。図14は、図13の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図13(a)及び図13(b)に示すように、タイプBの被加工材Wは、その表面画像340及び素材表面の拡大画像340aからも分かるように、素材の状態で酸化膜の剥離はない(酸化膜が付着している)。図13(c)は、タイプBの被加工材Wにレーザ走査を行ったときの検出温度の位置的変化を示す波形図を含んでいる。この波形図は、温度の位置的変化を特徴量情報(第1の特徴量情報)341として抽出したものである。素材の状態で酸化膜の剥離はないが、図13(c)に示すように、レーザ走査をすると、波形図の横軸に表す距離(mm)において、縦軸に表す温度(℃)の位置的変化を示す特徴量情報(第1の特徴量情報)341は、図示のように表され、レーザ走査後の表面状態は、波形図の下方の表面画像342のようになる。
【0075】
すなわち、素材表面において、酸化膜の密着性が弱くレーザ照射により酸化膜が剥離する箇所(表面画像342の白っぽいところ)が増える傾向にあるので、特徴量情報(第1の特徴量情報)341は、低温側ではタイプAのものに比べると安定しているが、高温側ではやはりピークが多く現れて、高温側及び低温側における波形の乱れも多少見られる結果となった。
【0076】
また、タイプBの被加工材Wの切断面画像は、図14(a)に示す画像343のようになり、表面から1mmの深さ(Iで示す線)の面粗さ及び2mmの深さ(IIで示す線)の面粗さは、図14(b)に示すグラフ344のようになった。タイプBの被加工材Wは、表面から2mmの深さの面粗さの方が、表面から1mmの深さの面粗さよりも安定し、タイプAのものよりも全体的にバラつきは少ないが、切断面に多少の条痕の乱れが現れる結果となった。
【0077】
図15は、タイプCの被加工材の表面状態の調査結果を説明するための図である。図16は、図15の被加工材を切断した際の切断面画像及び面粗さを示す図である。
図15(a)及び図15(b)に示すように、タイプCの被加工材Wは、その表面画像350及び素材表面の拡大画像350aからも分かるように、素材の状態で素材表面の酸化膜が全く剥離していない(酸化膜がしっかり付着している)。図15(c)は、タイプCの被加工材Wにレーザ走査を行ったときの検出温度の位置的変化を示す波形図を含んでいる。この波形図は、温度の位置的変化を特徴量情報(第1の特徴量情報)351として抽出したものである。素材の状態で酸化膜が全く剥離していないため、図15(c)に示すように、レーザ走査をすると、波形図の横軸に表す距離(mm)において、縦軸に表す温度(℃)の位置的変化を示す特徴量情報(第1の特徴量情報)351は、図示のように表される。波形図の下方の表面画像352は、波形図に対応するレーザ走査後の表面状態を表している。
【0078】
すなわち、素材表面において、酸化膜の剥離はほとんどないので、レーザ照射により極一部酸化膜が剥離するものの(表面画像352の白っぽいところ)、特徴量情報(第1の特徴量情報)351は、高温側のピークが少し現れるが、低温側において波形の乱れがほとんどなく安定している結果となった。
【0079】
また、タイプCの被加工材Wの切断面画像は、図16(a)に示す画像353のようになり、表面から1mmの深さ(Iで示す線)の面粗さ及び2mmの深さ(IIで示す線)の面粗さは、図16(b)に示すグラフ354のようになった。タイプCの被加工材Wは、表面から1mmの深さの面粗さの方が、表面から2mmの深さの面粗さよりも安定しているが、タイプA及びタイプBのものよりも全体的にバラつきが少なく、切断面に条痕の乱れが現れない結果となった。
【0080】
以上の観点から、被加工材Wの加工性(切断性)は、被加工材Wの表面の酸化膜の状態及び密着性(表面性状)と、被加工材Wの内部成分による酸化反応の大きさ(内部特性)と、に大きく依存し、赤外線強度に基づく温度によって判定可能であることが証明された。そこで、本出願人は、レーザ加工ユニット20及び赤外線センサ30を用いて実施された上記の各調査の結果等を勘案し、被加工材Wの加工性の判定用の基準情報を設定した。
【0081】
すなわち、基準情報は、被加工材Wの表面性状の判定用の第1の判定基準(しきい値)及び被加工材Wの内部特性の判定用の第2の判定基準(しきい値)を含む。第1の判定基準は、被加工材Wの基準温度範囲及び温度のばらつきの少なくとも一方に関する情報を含み、第2の判定基準は、被加工材Wの温度上昇の度合いを示す情報を含む。
【0082】
そして、加工性の判定において、具体的には、レーザ加工装置100においては、レーザ加工ユニット20は、加工性判定工程において、判定照射条件で、レーザ光LBを被加工材Wの素材内部に繰り返し照射する。演算処理部63(特徴量抽出部68)は、赤外線センサ(測定部)30によって測定された赤外線強度の時系列データに基づき被加工材Wの温度の時間的変化を特徴量情報として抽出する。例えば記憶部61に記憶された基準情報は、被加工材Wの温度上昇の度合いを示す判定基準を含む。判定部66は、例えば記憶部61に記憶された特徴量情報に含まれる被加工材Wの温度の時間的変化が、判定基準を外れる温度上昇の状態か否かによって、被加工材Wの加工性を判定する。また、レーザ加工装置100においては、レーザ加工ユニット20は、加工性判定工程において、判定照射条件で、レーザ光LBを、照射位置を移動させながら被加工材Wの素材表面に照射する。演算処理部63(特徴量抽出部68)は、赤外線センサ(測定部)30によって測定された赤外線強度の時系列データに基づき被加工材Wの温度の位置的変化を特徴量情報として抽出する。例えば記憶部61に記憶された基準情報は、被加工材Wの基準温度範囲及び温度のばらつきの少なくとも一方に基づく判定基準を含む。判定部66は、例えば記憶部61に記憶された特徴量情報に含まれる被加工材Wの温度の位置的変化が、判定基準を満たすかどうかによって、被加工材Wの加工性を判定する。
【0083】
更に、レーザ加工装置100においては、判定照射条件は、第1の照射条件及び第2の照射条件を含み、レーザ加工ユニット20は、加工性判定工程において、第1の照射条件で、レーザ光LBを、照射位置を移動させながら被加工材Wの素材表面に照射し、第2の照射条件で、レーザ光LBを被加工材Wの素材内部に繰り返し照射する。また、赤外線センサ(測定部)30は、第1の照射条件でレーザ光LBが被加工材Wに照射されたときに発生する赤外光(放射光)の第1の赤外線強度と、第2の照射条件でレーザ光LBが被加工材Wに照射されたときに発生する赤外光(放射光)の第2の赤外線強度と、を測定する。また、演算処理部63(特徴量抽出部68)は、赤外線センサ(測定部)30によって測定された第1の赤外線強度の時系列データに基づき被加工材Wの温度の位置的変化を示す第1の特徴量情報を抽出すると共に、赤外線センサ(測定部)30によって測定された第2の赤外線強度の時系列データに基づき被加工材Wの温度の時間的変化を示す第2の特徴量情報を抽出する。また、判定部66は、第1の特徴量情報を基準情報に含まれる第1の判定基準(しきい値)と比較すると共に、第2の特徴量情報を基準情報に含まれる第2の判定基準(しきい値)と比較して、その結果の組み合わせに基づき被加工材Wの加工性を判定する。なお、記憶部61は、例えば、演算処理部63(特徴量抽出部68)によって抽出された第1の特徴量情報及び第2の特徴量情報を記憶する。
【0084】
なお、被加工材Wの内部特性を正確に判定するためには、好ましくは、レーザ加工ユニット20は、第2の照射条件でレーザ光LBを被加工材Wの素材内部に照射する前に、第3の照射条件でレーザ光LBを被加工材Wの素材表面に照射して被加工材Wの表面改質を行う。ここで、被加工材Wの表面改質は、例えば、第3の照射条件で照射されたレーザ光LBにより被加工材Wの表面を平均深さ0.05mm~1.5mm及び平均粗さ10μm以下で除去するものであり、酸化膜を取り除くものである。
【0085】
従って、レーザ加工ユニット20により照射されるレーザ光LBの第1の照射条件、第2の照射条件及び第3の照射条件のレーザ出力は、加工照射条件に含まれるレーザ出力よりも小さく、第1の照射条件及び第2の照射条件のレーザ出力は、第3の照射条件のレーザ出力よりも小さく、第1の照射条件のレーザ出力は、第2の照射条件のレーザ出力よりも小さくなるように設定される。
【0086】
具体的には、レーザ切断の加工の標準の加工条件(標準条件)は、例えば、被加工材Wの板厚に応じた、レーザ出力が1000(W)、加工速度が900~1000(mm/min)、(パルス)周波数が1000(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が75(%)、ガス種がO、ガス圧が0.06(MPa)、ノズルギャップが1(mm)及びACLが70等の各パラメータの項目が設定されている。なお、ACLはレーザ光LBをコリメート光にするときのビーム径に関するパラメータであり、数値が大きいほどコリメート光のビーム径が大きくなり、コリメート光のビーム径が大きくなるほどビームスポット径が小さくなるように作用するパラメータである。
【0087】
一方、レーザ光LBの第1の照射条件は、例えば、レーザ出力が125(W)、加工速度が500(mm/min)、(パルス)周波数が100(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が100(%)、ガス圧が0.04(MPa)、ノズルギャップが50(mm)、ノズルがD2.5W、ガス種がO、レンズ焦点距離が190(mm)、ACLが120、B軸が25(mm)及びレーザ照射径が5.9(Φ)等の各パラメータの項目が設定され、例えば、上記加工速度で80mmの距離にわたってレーザ走査を行い、被加工材Wの材料の表面状態(酸化膜の密着性又は剥離状態)を温度特性により判別するための条件である。
【0088】
また、レーザ光LBの第2の照射条件は、例えば、レーザ出力が400(W)、加工速度が0(mm/min)、(パルス)周波数が10(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が50(%)、ガス圧が0.01(MPa)、ノズルギャップが50(mm)、ノズルがD2.5W、ガス種がO、レンズ焦点距離が190(mm)、ACLが140、B軸が25(mm)及びレーザ照射径が6.5(Φ)等の各パラメータの項目が設定され、例えば、スポット照射によりレーザ走査を行い、被加工材Wの材料の内部状態(酸化反応熱と熱伝導)を温度特性により判別するための条件である。
【0089】
また、レーザ光LBの第3の照射条件は、例えば、焦点位置が素材表面に位置する状態で、レーザ出力が700(W)、加工速度が10000(mm/min)、(パルス)周波数が10000(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が40(%)、ガス圧が0.1(MPa)、ノズルギャップが5(mm)、ノズルがD2.5W、ガス種がO及びレンズ焦点距離が190(mm)等の各パラメータの項目が設定され、例えば、第1及び第2の照射条件よりもレーザ出力が高い状態で、被加工材Wの材料の表面改質(酸化膜の除去)を行うための条件である。
【0090】
なお、第1の照射条件で照射されるレーザ光LBのエネルギー密度は、1W/mm以上5W/mm未満であり、第2の照射条件で照射されるレーザ光LBのエネルギー密度は、5W/mm以上10W/mm以下である。第1の照射条件を上記のように設定して被加工材Wの表面性状を判定するのは、次の理由による。
【0091】
すなわち、上記第1~第3の調査により、密着力の弱い酸化膜は、レーザ切断中に酸化膜が素材表面から剥離し、切断面にノッチが入りやすいことが判明している。このため、その密着性をレーザ走査による温度変化の挙動から予測することとした。被加工材Wの素材表面の状態を正確に評価するため、レーザによる熱の侵入深さを極力抑えて、被加工材Wの素材表面の酸化膜を加熱冷却することで熱応力を発生させている。照射するレーザ光LBのエネルギー密度が強すぎると、材料の内部成分による影響も現れてしまうため、熱応力を負荷させる目的で1W/mm以上5W/mm未満のエネルギー密度で十分に足りると想定した。そして、酸化膜がレーザ照射により剥離すると、スパッタとなって発光し高温となるため、逆に素材の状態で既に素材表面の酸化膜が剥がれている部分は、レーザ吸収率が小さくなるため温度が低くなる。本出願人の知見によると、酸化膜の素材表面への密着性がよいと、温度はある特定の温度範囲内で安定することが判明している。なお、レーザ光LBの照射エリア(レーザ照射径)が大きいと、酸化膜の状態変化がレーザ走査により平均化されてしまうので温度変化の挙動が小さくなり、表面状態の違いが見えにくくなってしまう。また、照射エリアが小さいとレーザ出力も同時に弱くする必要があるために、レーザ出力が不安定になってしまう。これらのことから、被加工材Wの表面性状の判定に際しては、例えば、レーザ出力を125(W)に設定し、照射エリア(レーザ照射径)を約5.9(Φ)と設定した。
【0092】
また、第2の照射条件を上記のように設定して被加工材Wの内部特性を判定するのは、次の理由による。
すなわち、上記第1~第3の調査により、温度変化の挙動から材料の熱伝導率を評価することにより、被加工材Wの材質的な加工性(切断性)の品質を判定可能なことが判明している。例えば、鉄(Fe)は800℃付近の温度で磁気変態し、900℃前後での温度で相変態して、1500℃前後の温度で溶融する特性の材料であるため、これらの温度で熱伝導や比熱が変化する。そのため、被加工材Wの材料の内部における熱伝導率を解析するのに、これらの温度をできるだけ超えないような設定が必要である。このことから、レーザ照射のエネルギー密度を5W/mm以上10W/mm以下となるように設定した。また、このエネルギー密度は、レーザ切断の加工に必要なレーザ照射のエネルギー密度と比べると十分に弱いため、レーザ出力(パワー)が不安定になりやすい。そのため、照射エリア(レーザ照射径)を大きめに設定しレーザ出力(パワー)を調整するようにした。
【0093】
そして、材料の熱伝導を評価するためには、レーザ照射による加熱での到達温度を評価するよりも、レーザ照射をオフにしたときの冷却温度を評価した方が、材料の熱伝導率を強く反映した結果が得られることが判明している。すなわち、レーザ照射による加熱の温度変化の挙動は、熱伝導率以外に、例えば、材料表面のレーザ吸収率の影響なども受けてしまうため、熱伝導の評価には不向きである。一方、冷却に関しては、レーザ照射のエネルギーが小さくても鋼の熱伝導率が比較的大きいので、1サイクル(100ms)程度で高温から室温近くまで冷却される。従って、材料の冷却到達温度の大きさを評価するためには、冷却時間50ms前後が適当であると想定した。また、繰り返し加熱冷却による冷却温度の温度変化の挙動を正確に評価するために、(パルス)周波数を10(Hz)とし、(パルス)デューティ(パルス幅)を50(%)と設定した。また、アシストガスのガス圧が強すぎると、冷却速度が速過ぎてしまうので、保護ガラスへのスパッタ飛散防止程度の目的でガス圧を0.01(MPa)に設定した。なお、レーザ照射による加熱温度自体が低いので酸化熱の発生量は小さくなるため、アシストガスの種類は酸素(O)であっても窒素(N)であってもよい。
【0094】
以上のような見解から、本出願人は、被加工材Wの表面性状を判定するための第1の判定基準(しきい値)を、例えば、所定距離のレーザ走査により取得された特徴量情報331,341,351において、450℃~800℃の温度範囲にあるデータ成分が40%以下であるか、又はその温度パターンにおける標準偏差が100℃以上であるか、に設定した。表面性状は、温度範囲に40%以下であり、又は標準偏差が100℃以上である場合は、酸化膜の状態が悪く品質が悪いとされる。また、被加工材Wの内部特性を判定するための第2の判定基準(しきい値)を、例えば、繰り返し加熱冷却による冷却開始から冷却到達温度に到達するまでの時間が2.5秒以上であるか、に設定した。内部特性は、時間が2.5秒以上である場合は、熱伝導が小さく品質が良いとされる。なお、第1及び第2の判定基準は、これらに限定されるものではない。
【0095】
例えば、第1の判定基準を、レーザ出力150(W)、照射エリア(レーサ照射径)6.5(Φ)で加工速度100(mm/s)により10秒間レーザ走査させたときの、蓄積時間1msの測定温度が450℃~800℃の範囲にある総積算時間を比べるものとしてもよい。この総積算時間が第1の判定基準と比べて、短ければ酸化膜の状態が悪く、長ければ酸化膜の密着性が良好であると判定することもできる。また、例えば、蓄積時間1msの測定温度データの標準偏差を比べるものとしてもよい。この標準偏差が、第1の判定基準と比べて、大きければ酸化膜の状態が悪く、小さければ酸化膜の密着性が良好であると判定することもできる。
【0096】
更に、例えば、第2の判定基準を、温度800℃までレーザ照射を行いスポット加熱した後にレーザ照射をオフにして冷却を開始し、冷却開始から300℃までに到達する時間を比べるものとしてもよい。この到達する時間が第2の判定基準と比べて、短ければ内部特性が良好で、長ければ切断面が粗くなると判定することもできる。また、レーザ照射をオフにしてから50ms後の冷却温度を比べるものとしてもよい。この冷却温度が第2の判定基準と比べて、低ければ内部特性が良好で、高ければ切断の品質が悪くなると判定することもできる。なお、基準情報(第1の判定基準、第2の判定基準)は、オペレータにより適宜変更、設定等することが可能な情報である。
【0097】
[加工性判定装置の処理フロー]
図17及び図18は、加工性判定装置の加工性判定処理フローの一例を示すフローチャートである。
図17に示すように、レーザ加工装置100において加工性判定処理がスタートすると、まず、NC装置60において、記憶部61の加工プログラムDB(Database)390から、制御部64に必要な加工プログラムが選択されて読み出される(ステップS100)。次に、加工プログラムにより選択された加工条件が、記憶部61の加工条件DB(Database)391から読み出される(ステップS101)と共に、加工条件が適用される被加工材Wの内部特性判定用のしきい値(第2の判定基準)及び表面性状判定用のしきい値(第1の判定基準)が、記憶部61の内部特性判定用のしきい値DB(Database)392及び表面性状判定用のしきい値DB(Database)393からロードされて、制御部64及び演算処理部63にそれぞれ設定される。
【0098】
そして、演算処理部63において各判定用のしきい値を決定し(ステップS102)、内部(特性)判定処理においては、第3の照射条件下でレーザ光LBを被加工材Wに照射して表面改質を行った後に、表面改質部に第2の照射条件下でレーザ光LBを被加工材Wに照射して(ステップS103)、赤外線センサ30によりレーザ照射時の放射光の赤外線に基づく温度を測定する(ステップS104)。また、表面(性状)判定処理においては、第1の照射条件下でレーザ光LBを被加工材Wに照射して(ステップS105)、赤外線センサ30によりレーザ照射時の放射光の赤外線に基づく温度を測定する(ステップS106)。なお、上記内部判定処理及び表面判定処理は、並行して行われても、いずれか一方が先でいずれか他方が後に行われてもよい。
【0099】
図18に示すように、演算処理部63は、上記ステップS104で測定された温度の時系列データを入力し、被加工材Wの温度の時間的変化を示す特徴量情報(第2の特徴量情報)を抽出する。判定部66は、抽出された特徴量情報(第2の特徴量情報)を、設定された内部特性判定用のしきい値と比較することにより、例えば、材料の内部特性がしきい値以下であるか否かを判定する(ステップS107)。また、演算処理部63は、上記ステップS106で測定された温度の時系列データを入力し、被加工材Wの温度の位置的変化を示す特徴量情報(第1の特徴量情報)を抽出する。判定部66は、抽出された特徴量情報(第1の特徴量情報)を、設定された表面性状判定用のしきい値と比較することにより、例えば、材料の表面性状がしきい値以下であるか否かを判定する(ステップS110)。
【0100】
上記ステップS107で内部特性がしきい値以下であると判定した場合(ステップS107のYES)は、被加工材Wの材料の内部特性が良好であると判定する(ステップS108)。一方、上記ステップS107で内部特性がしきい値以下ではないと判定した場合(ステップS107のNO)は、被加工材Wの材料の内部特性が不良であると判定する(ステップS109)。
【0101】
また、上記ステップS110で表面性状がしきい値以下であると判定した場合(ステップS110のYES)は、被加工材Wの材料の表面性状が良好であると判定する(ステップS111)。一方、上記ステップS110で表面性状がしきい値以下ではないと判定した場合(ステップS110のNO)は、被加工材Wの材料の表面性状が不良であると判定する(ステップS112)。
【0102】
そして、判定部66は、上記ステップS108及びS109のいずれかの結果、並びに上記ステップS111及びS112のいずれかの結果に基づき、被加工材Wの加工性の判定結果処理を行う(ステップS113)。すなわち、上記ステップS108及びS111の組み合わせの場合、内部特性(内部成分による酸化反応の大きさ)が良好であると共に表面性状(酸化膜の状態及び密着性)が良好であるので、例えば、被加工材Wの加工性は良好であるとの判定結果を得る。また、それ以外の上記ステップS108及びS112の組み合わせの場合、内部特性は良好であるが表面性状が不良であり、上記ステップS109及びS111の組み合わせの場合、内部特性は不良であるが表面性状が良好であり、上記ステップS109及びS112の組み合わせの場合、内部特性及び表面性状が共に不良であるので、これらの場合は被加工材Wの加工性は不良であるとの判定結果を得る。
【0103】
こうして得られた被加工材Wの加工性の判定結果は、報知部67により表示部62上に表示される(ステップS114)等してオペレータに報知され、本フローチャートによる一連の処理を終了する。以上のように、第1の実施形態に係るレーザ加工装置100においては、このようにオペレータが製品加工に際して、加工前に被加工材Wの加工条件に基づく加工性が判定されて報知されるので、被加工材Wの材料特性に合わせた加工条件の適用可否をオペレータが加工前に予め把握することが可能となる。そして、報知された判定結果に基づいて、オペレータは、予め設定された加工条件で加工を行うべきか、被加工材に適した加工条件に変更等すべきかの判断を容易に行うことができるので、加工不良を低減することが可能となる。
【0104】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、被加工材Wとして軟鋼を加工する場合の加工性判定を行ったが、第2の実施形態では、被加工材Wとしてステンレス鋼を加工する場合の加工性判定を行う。第2の実施形態に係る加工性判定装置、加工性判定方法及び加工性判定プログラムは、先に説明した第1の実施形態のレーザ加工装置100とは異なるが、上述した基本的構成、概略構成、機能的構成及びハードウェア構成等のほとんどは同様である。このため、以下では、特に言及しない限り、第1の実施形態と重複する箇所には同一の符号を付して、既に説明した部分と重複する説明は割愛する。
【0105】
図19は、本発明の第2の実施形態に係る加工性判定装置の基本的構成を示すブロック図である。
第2の実施形態に係るレーザ加工装置100Aは、例えば図19に示すように、レーザ光LBを加工照射条件で被加工材Wに照射して被加工材Wを加工する加工工程と、レーザ光LBを被加工材Wの素材を貫通しない範囲の判定照射条件で被加工材Wに照射して被加工材Wの加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工ユニット20Aと、被加工材Wに判定照射条件でレーザ光LBを照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する赤外線センサ(測定部)30と、赤外線センサ(測定部)30によって測定された赤外線強度の時系列データに基づいて、被加工材Wの温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出する特徴量抽出部68と、抽出された特徴量情報と、予め記録済みの被加工材Wの加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、レーザ加工ユニット20Aで、予め設定された加工条件で被加工材Wを加工した場合の被加工材Wの加工性を判定する判定部66Aと、判定部66Aにより判定された判定結果を報知する報知部67と、を備え、特徴量情報及び基準情報を記憶する記憶部61を備える。
【0106】
第2の実施形態における被加工材Wは、例えばステンレス鋼である場合は主成分として鉄(Fe)を含み、一般的にクロム(Cr)を質量分率で11(11mass%)以上含む。被加工材Wは、この主成分の他に用途に応じて、様々な合金元素、及び不可避的に混入する不純物が含まれる。
【0107】
[加工性判定方法]
次に、加工性判定装置を用いた加工性の判定方法について説明する。
本発明者等は、NC装置60(図2及び図3参照)の標準加工条件で、各種ステンレス鋼の被加工材Wを加工(レーザ切断)して、被加工材Wのドロスを測定した。その結果、被加工材Wの加工性(ドロスの有無、ドロス高さ等:以下、「加工性(ドロス)」とする。)は、被加工材Wの構成成分の特性(素材内部の特性:内部特性)に大きく影響を受けていることが判明した。
【0108】
なお、ドロスとは、切断した材料の下面に溶融付着した金属や酸化物等が堆積したものを指し、スラグと同義である。また、ドロスの発生の有無の判定に際しては、ドロスの発生の有無を判定する被加工材Wの板面からのドロス高さ(ドロスの大きさ)の許容値を、例えば被加工材Wの板厚に応じて適宜設定して行ってもよい。
【0109】
ここで、ステンレス鋼の被加工材Wの内部特性とは、具体的には、被加工材Wの内部成分による熱伝導の大きさ、相変態、及び融点等を意味する。例えば、熱伝導の大きな材料は熱拡散しやすく、加工点でのレーザ入熱による昇温が不十分で、溶融金属の温度も低いために粘性が高くなる。このため、溶融金属が排出されにくくなるので、ドロスが大きくなる。
【0110】
例えば、フェライト系のステンレスは熱伝導が大きいため、この傾向が強い。また、2相ステンレスは熱伝導の大きなフェライト相を含むのと、高温での相変態による潜熱の影響とで、レーザ加工点での温度が上がりにくくなるので、ドロスが大きい。また、被削性を改善するために硫黄(S)を含むものは固液共存温度範囲を広げるために、粘度の高い固液共存領域の温度域で溶融金属の排出が難しくドロスが発生する。
【0111】
そこで、ステンレス鋼の被加工材Wの熱伝導、相変態及び融点の違いなどの内部特性を解析するための第4の調査を行った。第4の調査に当たっては、被加工材Wの素材内部にレーザ光LBのスポット照射により繰り返し加熱冷却を行って、温度の時間的変化から熱伝導、相変態、融点の違いなどの内部特性を解析した。なお、レーザ切断の加工は、レーザ出力8500W、切断速度6500mm/min及びアシストガスを窒素(N)とした加工条件に基づき行った。
【0112】
図20は、本発明の第2の実施形態に係る加工性判定装置によって、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。図21図25は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係及び冷却到達温度と時間との関係を示すグラフである。図26は、被加工材毎の冷却到達温度の時間的変化の特徴量とドロスの大きさの調査結果を示す結果表である。
【0113】
なお、図26の結果表306に示すように、被加工材Wとしてのサンプル1~6は、それぞれ板厚6mmのステンレス鋼の板金で、鋼種がSUS304、SUS430、SUS430、S32750、SUS303、SUS316である。また、図26には、サンプル1~6毎の冷却到達温度、温度上昇値及び最大ドロス高さが示されている。
【0114】
図20は、サンプル1(SUS304)についての上記各温度と時間との関係を示している。図20(a)は、赤外線センサ30でサンプル1を測定して、赤外線センサ30から出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形360を示している。図20(a)において、縦軸は温度(℃)を表し、横軸は時間(ミリ秒:ms)を表している。
【0115】
第4の調査では、判定照射条件として、板厚6mmの被加工材Wの素材内部にスポット照射するレーザ光LBのレーザ出力を380W、周波数を10Hz、デューティを75%に設定し、1秒間に10回の繰り返し加熱を行った。図20(b)は、図20(a)の温度波形360の2周期分を、時間軸をms単位で拡大して示した温度波形361を示す図である。
【0116】
図20(a),(b)に示すように、レーザ光LBの照射開始から10秒間において、複数サイクルのレーザ照射により時間経過と共に被加工材Wの温度波形360,361が、約300℃~約1000℃の間で細かく上下動(発熱及び放熱の繰り返し)することが分かる。
【0117】
図20(c)は、図20(a)で示した繰り返し加熱冷却による温度波形360の下側の包絡線を示す波形図である。この波形図は、図20(a)の波形図の1サイクル毎の冷却到達温度の時間的遷移を特徴量情報362として抽出したものである。この特徴量情報362は、被加工材Wの熱伝導の大きさ、相変態及び溶融に起因した温度変化(温度上昇の度合い)を示し、以後の判定評価に用いることができる。この特徴量情報362に基づき、レーザ照射開始から4秒後~8秒後までの間(判定期間)の温度上昇値の判定基準(第1しきい値)、及びレーザ照射開始から8秒後(所定時間経過後:判定時点)の到達温度(冷却到達温度)の判定基準(第2しきい値及び第3しきい値)を、被加工材Wの材料の内部特性を判定するために設定した。
【0118】
すなわち、本出願人は、第1しきい値を80℃、第2しきい値を400℃、及び第3しきい値を820℃と設定した。そして、レーザ照射開始から4秒後~8秒後までの間(判定期間)の温度上昇値が第1しきい値(80℃)未満で、且つレーザ照射開始から8秒後(判定時点)の冷却到達温度が第2しきい値(400℃)未満となる材料をグループAと分類した。
【0119】
また、レーザ照射開始から4秒後~8秒後までの間(判定期間)の温度上昇値が第1しきい値(80℃)未満で、且つレーザ照射開始から8秒後(判定時点)の冷却到達温度が第2しきい値(400℃)以上となる材料をグループBと分類した。更に、レーザ照射開始から4秒後~8秒後までの間(判定期間)の温度上昇値が第1しきい値(80℃)以上で、且つレーザ照射開始から8秒後(判定時点)の冷却到達温度が第3しきい値(820℃)以上となる材料をグループCと分類して、これら以外の材料をグループDと分類した。
【0120】
そして、ステンレス鋼の被加工材Wの切断性(加工性)は、ドロスの大きさ(ドロス高さ)で評価した。レーザ切断の加工において、アシストガスに窒素(N)等の無酸化ガスを主体にして切断を行う場合には、レーザ光LBで溶融した金属がアシストガスにより排出されないと、切断面の下方にドロスとなって溶融金属が凝固し強固に付着することが判明している。このため、後工程でドロスを除去する必要が生じるので、工数がかかってしまうこととなり、そのためにもドロスは少ない方がよいといえる。
【0121】
このようなドロスの大きさの評価は、例えば最大ドロス高さを測定することにより行った。ドロスの測定に際しては、例えば、幅20mm、長さ80mmの矩形状のサンプル材をレーザ切断し、長辺側の2辺をそれぞれ3箇所ずつマイクロメータで測定して、6つの測定点の最高高さ(最大ドロス高さ)で評価を行った。
【0122】
その結果、上記のようにグループA~Dの各グループにグループ分けした材料のうち、最大ドロス高さが最も高かった材料はグループB及びグループCの材料であり、次いでグループAの材料となった。そして、グループDの材料はドロスが小さく、最大ドロス高さが最も低いものとなったので、グループDの材料が最も切断性(加工性)が良好であることが判明した。なお、他のグループA~Cについては、切断性(加工性)が良好ではない(良くない)ものとした。
【0123】
図20(c)に示すように、サンプル1については、レーザ照射開始から4秒(s)後の温度が651℃で、レーザ照射開始から8秒(s)後の判定時点の温度が741℃となり、レーザ照射開始から4秒後~8秒後までの間の判定期間における温度上昇値が90℃(80℃以上)となった。また、サンプル1の最大ドロス高さは64μmとなった(図26参照)。
【0124】
従って、サンプル1は、判定期間の温度上昇が80℃以上であり、大きな変曲点もなく安定して温度上昇を続ける材料といえる。そして、サンプル1は、判定時点の冷却到達温度が820℃未満であるため、上記のグループDに相当する材料であることが判明した。
【0125】
このグループDの材料の最大ドロス高さは、他のグループA~Cの材料と比べて最も低い(小さい)。なお、サンプル1は、レーザ照射開始から10秒後の加熱による最高到達温度が約1000℃近くまで達しており、サンプル1の融点が1450℃前後であることを考慮すると、レーザ照射の中心部では融点を超えた可能性もあると想定される。
【0126】
図21は、サンプル2(SUS430)についての上記各温度と時間との関係を示している。図21(a)は、赤外線センサ30でサンプル2を測定して、赤外線センサ30から出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形363を示している。加工条件と判定照射条件については、サンプル1と共通する。また、特徴量情報364についても、図20と同様である。
【0127】
図21(b)に示すように、サンプル2については、レーザ照射開始から4秒(s)後の温度が311℃で、レーザ照射開始から8秒(s)後の判定時点の温度が352℃となり、レーザ照射開始から4秒後~8秒後までの間の判定期間における温度上昇が41℃(80℃未満)となった。また、サンプル2の最大ドロス高さはサンプル1と比べて高く(大きく)なり、93μmとなった(図26参照)。
【0128】
従って、サンプル2は、判定期間の温度上昇が80℃未満であり、サンプル1~6の中で最もレーザ加熱により昇温しにくい材料といえる。そして、サンプル2は、判定時点の冷却到達温度が400℃未満であるため、上記のグループAに相当する材料であることが判明した。サンプル2のフェライト系ステンレスは、融点が1500℃前後とステンレスの中では比較的高く、判定照射条件でのレーザ照射では融点にまでは達していないと想定される。
【0129】
このサンプル2は、オースナイト系ステンレスに比べて熱伝導が大きいことや、電気抵抗が小さいためレーザ吸収率も小さいこと、更にオースナイト系ステンレスに比べて融点が50℃程度高いことなどが上記の結果の要因となっていると考えられる。いずれにしても、サンプル2は、レーザ照射による材料が溶融するまでの熱量が不十分となり、溶融金属の温度が低下して、粘度が高くなるのでドロスが発生しやすい材料であるといえる。
【0130】
図22は、サンプル3(SUS430)についての上記各温度と時間との関係を示している。サンプル3は、サンプル2と同じSUS430であるが、製造ロットが異なるサンプルである。図22(a)は、赤外線センサ30でサンプル3を測定して、赤外線センサ30から出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形365を示している。加工条件と判定照射条件については、サンプル1,2と共通する。また、特徴量情報366についても、図20,21と同様である。
【0131】
図22(b)に示すように、サンプル3については、レーザ照射開始から4秒(s)後の温度が416℃で、レーザ照射開始から8秒(s)後の判定時点の温度が517℃となり、レーザ照射開始から4秒後~8秒後までの間の判定期間における温度上昇が101℃(80℃以上)となった。また、サンプル3の最大ドロス高さは41μmとなり、最も低い(小さい)ものとなった(図26参照)。
【0132】
従って、サンプル3は、判定期間の温度上昇が80℃以上であり、サンプル2と比べて冷却到達温度の時間的変化に違いがあり、同じ材質でありながら昇温しやすい材料といえる。そして、サンプル3は、判定時点の冷却到達温度が820℃未満であるため、上記のグループDに相当する材料であることが判明した。サンプル3は、サンプル2よりも溶融金属の温度が高温になり粘度が低下していると考えられるので、ドロスは小さいものとなった。
【0133】
図23は、サンプル4(S32750)についての上記各温度と時間との関係を示している。図23(a)は、赤外線センサ30でサンプル4を測定して、赤外線センサ30から出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形367を示している。加工条件と判定照射条件については、サンプル1~3と共通する。また、特徴量情報368についても、図20図22と同様である。
【0134】
図23(b)に示すように、サンプル4については、レーザ照射開始から4秒(s)後の温度が588℃で、レーザ照射開始から8秒(s)後の判定時点の温度が648℃となり、レーザ照射開始から4秒後~8秒後までの間の判定期間における温度上昇が60℃(80℃未満)となった。また、サンプル4の最大ドロス高さは1164μmとなり、最も高い(大きい)ものとなった(図26参照)。
【0135】
従って、サンプル4は、判定期間の温度上昇が80℃未満であり、2相ステンレスのためレーザ照射直後は温度上昇しやすいが、中間温度域では昇温が遅くなるという冷却到達温度の時間的変化に特徴を有する材料といえる。そして、サンプル4は、判定時点の冷却到達温度が400℃以上であるため、上記のグループBに相当する材料であることが判明した。
【0136】
サンプル4は、2相ステンレスなのでオースナイト相を含むため、熱伝導がやや小さく、電気抵抗も大きいので、レーザ吸収率は大きくなっており、レーザ照射による初期の昇温は速いと考えられる。また、中間温度域で温度上昇が停滞する領域があるのは、この温度域でフェライト相の一部がオーステナイト相に変態するため、変態潜熱により昇温しにくくなっていると考えられる。
【0137】
例えば、レーザ照射開始から10秒後の加熱による最高到達温度は900℃以下で、サンプル4の融点が1500℃前後と高温であることを考慮すると、レーザ照射により融点までは到達していないと考えられる。また、相変態による潜熱の影響で溶融に必要な熱量も大きいため、レーザによる入熱で溶融金属の温度が上がりにくく、粘度が高くなる。このため、サンプル4は、ドロスが付着し易い材料であるといえる。
【0138】
図24は、サンプル5(SUS303)についての上記各温度と時間との関係を示している。図24(a)は、赤外線センサ30でサンプル5を測定して、赤外線センサ30から出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形369を示している。加工条件と判定照射条件については、サンプル1~4と共通する。また、特徴量情報370についても、図20図23と同様である。
【0139】
図24(b)に示すように、サンプル5については、レーザ照射開始から4秒(s)後の温度が694℃で、レーザ照射開始から8秒(s)後の判定時点の温度が833℃となり、レーザ照射開始から4秒後~8秒後までの間の判定期間における温度上昇が139℃(80℃以上)となった。また、サンプル5の最大ドロス高さは644μmとなり、サンプル4に次いで高い(大きい)ものとなった(図26参照)。
【0140】
従って、サンプル5は、判定期間の温度上昇が80℃以上であり、高温域で大きな変曲点のあるレーザ照射により昇温しやすい材料といえる。そして、サンプル5は、判定時点の冷却到達温度が820℃以上であるため、上記のグループCに相当する材料であることが判明した。サンプル5については、レーザ照射開始から7秒後の加熱による最高到達温度が1000℃を超えており、温度上昇も停滞してくるので、この領域でレーザ照射の中心部では溶融が始まったと考えられる。
【0141】
また、レーザ照射開始から7秒前後の変曲点は溶融に伴う潜熱と関連していると考えられるので、溶融開始が速い材料といえる。そして、サンプル5は、被削性改善のために硫黄(S)を多く含む材料であり、溶融開始温度を下げて完全に溶融が完了するまでの固液共存する温度領域が広くなっていると考えられる。この固液共存領域が広がることで、この領域で温度上昇の停滞が起こったと推定され、固液共存領域では材料の粘度が非常に高いので、溶融金属が排出されにくい。このため、サンプル5は、ドロスが大きくなる材料であるといえる。
【0142】
図25は、サンプル6(SUS316)についての上記各温度と時間との関係を示している。図25(a)は、赤外線センサ30でサンプル6を測定して、赤外線センサ30から出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形371を示している。加工条件と判定照射条件については、サンプル1~5と共通する。また、特徴量情報372についても、図20図24と同様である。
【0143】
図25(b)に示すように、サンプル6については、レーザ照射開始から4秒(s)後の温度が675℃で、レーザ照射開始から8秒(s)後の判定時点の温度が803℃となり、レーザ照射開始から4秒後~8秒後までの間の判定期間における温度上昇が128℃(80℃以上)となった。また、サンプル6の最大ドロス高さは66μmとなった(図26参照)。
【0144】
従って、サンプル6は、判定期間の温度上昇が80℃以上であり、オースナイト系であるためニッケル(Ni)など比較的多くの合金元素を含み、電気抵抗が高く、レーザ吸収率も大きいので、レーザ照射により昇温しやすい材料といえる。そして、サンプル6は、判定時点の冷却到達温度が820℃未満であるため、上記のグループDに相当する材料であることが判明した。
【0145】
なお、サンプル6は、レーザ照射開始から10秒後の加熱による最高到達温度が約1000℃近くまで達しており、サンプル6の融点が1400℃前後であることを考慮すると、レーザ照射の中心部では素材表面が溶融開始している可能性がある。サンプル6は、判定期間の温度上昇が大きく、固液共存領域は小さいため、大きな変曲点もなく溶融域まで安定して温度上昇する。このため、サンプル6は、ドロスが小さい材料であるといえる。
【0146】
以上の観点から、ステンレス鋼の被加工材Wの加工性(ドロス)は、被加工材Wの内部成分による熱伝導の大きさ、相変態、溶融などの内部特性に大きく依存し、赤外線強度に基づく温度によって判定可能であることが証明された。そこで、本出願人は、レーザ加工ユニット20及び赤外線センサ30を用いて実施された上記の第4の調査の結果を勘案し、ステンレス鋼の被加工材Wの加工性の判定用の基準情報(判定基準)を上記のように設定した。
【0147】
そして、ステンレス鋼の被加工材Wの加工性の判定において、具体的には、レーザ加工装置100Aにおいては、レーザ加工ユニット20Aは、加工性判定工程において、判定照射条件で、レーザ光LBを被加工材Wに繰り返し照射(例えば、スポット照射)する。被加工材Wがステンレス鋼の場合、例えば記憶部61に記憶された基準情報は、レーザ光LBの照射開始後の所定期間(4秒後~8秒後)における被加工材Wの温度上昇値、及びレーザ光LBの照射開始から所定時間(8秒)経過後の被加工材Wの冷却到達温度に基づく判定基準を含む。
【0148】
判定部66Aは、具体的には、例えば記憶部61に記憶された特徴量情報に含まれる被加工材Wの温度上昇値、及び被加工材Wの冷却到達温度が、判定基準を満たすか否かによって、被加工材Wの加工性を判定する。
【0149】
なお、レーザ切断の加工の標準の加工条件(標準条件)は、より具体的には、例えばステンレス鋼の被加工材Wの板厚に応じた、レーザ出力が8500(W)、加工速度が6500(mm/min)、(パルス)周波数が300(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が100(%)、ガス種がN、ガス圧が1.0(MPa)、ノズルギャップが0.3(mm)及びACLが80等の各パラメータの項目が設定されている。
【0150】
また、ステンレス鋼の被加工材Wに対するレーザ光LBの判定照射条件は、例えば、レーザ出力が380(W)、加工速度が0(mm/min)、(パルス)周波数が10(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が75(%)、ガス圧が0.01(MPa)、ノズルギャップが50(mm)、ノズルがD7.0AL、ガス種がN、レンズ焦点距離が190(mm)、ACLが140、B軸が25(mm)及びレーザ照射径が6.5(Φ)等の各パラメータの項目が設定されている。判定照射条件は、例えば、スポット(定点)でレーザ照射を行い、ステンレス鋼の被加工材Wの材料の内部状態(熱伝導、相変態、溶融)を温度特性により判別するための条件である。
【0151】
ここで、第2の実施形態における判定照射条件を上記のように設定してステンレス鋼の被加工材Wの内部特性を判定するのは、次の理由による。
すなわち、第4の調査により、温度変化の挙動から材料の熱電導率、相変態、溶融状況を評価することにより、ステンレス鋼の被加工材Wの材質的な加工性(切断性)の品質を判定可能なことが判明している。固体の熱伝導率を評価するためには、レーザ照射のエネルギー密度が高すぎると、瞬間的に溶融し、更には貫通してしまうので、材料が溶融しない温度範囲での温度の時間的変化の解析は必須であり、材質等の状況によっては溶融してしまっても貫通はしない温度範囲での温度の時間的変化を解析する必要もある。
【0152】
そして、ステンレス鋼の場合であっても、材料の熱伝導、相変態、溶融などの材料固有の材料特性(内部特性)を評価するためには、レーザ照射をオフにしたときの冷却温度を評価すれば、材料の熱伝導率などの内部特性を強く反映した結果が得られることは、第1の実施形態で既に述べた通りである。すなわち、レーザ照射による加熱の温度変化の挙動は、熱伝導率以外に、例えば材料表面状態に依存したレーザ吸収率の影響なども受けてしまうため、内部特性の評価には不向きであるので、冷却温度を評価するようにした。
【0153】
このことから、レーザ照射のエネルギー密度を上述したように設定し、冷却到達温度の時間的変化を評価するため、加熱時間と冷却時間が適正なバランスとなるように調整を行った。すなわち、レーザ照射の1サイクル(100ms)で加熱時間を75msとし、冷却時間を25msとなるように調整し、アシストガスについては上述した目的で0.01(MPa)に設定した。
【0154】
以上のような見解から、本出願人は、ステンレス鋼の被加工材Wの内部特性を判定するため判定基準(第1しきい値)を、例えば、繰り返し加熱冷却によるレーザ照射開始から4秒後~8秒後までの間(判定期間)の冷却到達温度の温度上昇値が80℃未満であるかに設定し、熱伝導の大きさを評価した。また、判定基準(第2しきい値、第3しきい値)を、例えば、レーザ照射開始から8秒後(判定時点)の冷却到達温度が400℃未満であるか、820℃以上であるかに設定し、相変態の大きさ及び溶融状況を評価した。なお、レーザ照射開始から4秒後~8秒後の冷却到達温度の1ms間隔の温度上昇の変動によって、例えば固液共存温度領域の大きさを評価することも可能である。判定基準は、これらに限定されるものではない。
【0155】
例えば、判定基準を、温度1500℃までレーザ照射を行いスポット(定点)加熱した後に、レーザ照射をオフにして冷却を開始し、冷却中の変曲点、冷却速度などを抽出した特徴量情報と比べるものとしてもよい。この特徴量情報を判定基準と比べて、内部特性を比較評価し、ドロスの大きさを判定して加工性を判定することもできる。なお、基準情報(判定基準)は、上述したように適宜変更、設定等が可能である。
【0156】
[加工性判定装置の処理フロー]
図27及び図28は、加工性判定装置のステンレス鋼の加工性判定処理フローの他の例を示すフローチャートである。
【0157】
図27に示すように、レーザ加工装置100Aにおいて加工性判定処理がスタートすると、まず、NC装置60において、記憶部61の加工プログラムDB(Database)390から、制御部64に必要な加工プログラムが選択されて読み出される(ステップS120)。
【0158】
次に、加工プログラムにより選択された加工条件が、記憶部61の加工条件DB(Database)391から読み出される(ステップS121)。これと共に、ステップS121では、加工条件が適用されるステンレス鋼の被加工材Wの材料特性(内部特性)判定用のしきい値(判定基準)が、記憶部61の材料特性判定用のしきい値DB(Database)394からロードされて、制御部64及び演算処理部63にそれぞれ設定される。
【0159】
また、演算処理部63においては、判定用のしきい値(第1~第3しきい値)をそれぞれ決定する(ステップS122)。そして、内部特性判定用の判定照射条件下でレーザ光LBを被加工材Wに照射して(ステップS123)、赤外線センサ30によりレーザ照射時の放射光の赤外線に基づく温度を測定する(ステップS124)。
【0160】
その後、演算処理部63は、上記ステップS124で測定された温度の時系列データを入力し、ステンレス鋼の被加工材Wの温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出する。そして、判定部66Aは、抽出された特徴量情報と、設定された内部特性判定用の複数のしきい値(第1~第3しきい値)と、を比較することにより、それぞれの比較結果の組み合わせに基づいて、被加工材Wの材料のグループ分け(分類)及び加工性(切断性)の判定を行う。
【0161】
すなわち、図28に示すように、まず、レーザ照射開始から4秒後~8秒後までの間の判定期間の温度上昇値が第1しきい値(80℃)未満であるか否かを判定する(ステップS125)。このステップS125で、判定期間の温度上昇値が第1しきい値未満であると判定した場合(ステップS125のYES)は、更にレーザ照射開始から8秒後(判定時点)の冷却到達温度が第2しきい値(400℃)未満であるか否かを判定する(ステップS126)。
【0162】
このステップS126で、判定時点の冷却到達温度が第2しきい値未満であると判定した場合(ステップS126のYES)は、被加工材WをグループAに分類して(ステップS127)、材料特性はドロスが発生しやすく切断性が良くないものであると判定する。また、ステップS126で、判定時点の冷却到達温度が第2しきい値以上であると判定した場合(ステップS126のNO)は、被加工材WをグループBに分類して(ステップS128)、材料特性はドロスが発生しやすく切断性が良くないものであると判定する。
【0163】
一方、上記ステップS125で、判定期間の温度上昇値が第1しきい値以上であると判定した場合(ステップS125のNO)は、更にレーザ照射開始から8秒後(判定時点)の冷却到達温度が第3しきい値(820℃)以上であるか否かを判定する(ステップS129)。
【0164】
このステップS129で、判定時点の冷却到達温度が第3しきい値以上であると判定した場合(ステップS129のYES)は、被加工材WをグループCに分類して(ステップS130)、材料特性はドロスが発生しやすく切断性が良くないものであると判定する。なお、グループA,B,Cは、それぞれドロスが発生しやすい傾向にあるが、材料特性がそれぞれ異なる材料であるため、レーザ切断の加工条件は各グループ毎に分けて調整され得る。
【0165】
また、ステップS129で、判定時点の冷却到達温度が第3しきい値未満であると判定した場合(ステップS129のNO)は、被加工材WをグループDに分類して(ステップS131)、材料特性はドロスが小さく切断性が良好なものであると判定する。なお、グループDは、ドロスが小さい材料特性の材料であるため、レーザ切断の加工条件は標準条件に調整され得る。
【0166】
そして、各ステップS127,S128,S130,S131でグループA~Dに分類され判定された被加工材Wの加工性の判定結果に応じて、判定結果処理が行われる(ステップS132)。判定結果処理では、例えば、分類されたグループに応じて、上記ステップS121で記憶部61の加工条件DB391から読み出されて選択済みである加工条件に対する、変更要素(変更可能なパラメータ)等の算定等が行われたり、変更要素をオペレータに示唆可能な報知用情報が生成されたりする。
【0167】
判定結果処理の結果情報は、上記の判定結果と共に、報知部67により表示部62上に表示される(ステップS133)等してオペレータに報知され、本フローチャートによる一連の処理を終了する。以上のように、第2の実施形態に係るレーザ加工装置100Aにおいても、第1の実施形態と同様の作用効果を奏することが可能となるので、予め設定された加工条件で加工を行うべきか、被加工材に適した加工条件に変更等すべきかの判断をオペレータが容易に行うことが可能で、加工不良を低減することができる。
【0168】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、被加工材Wとしてアルミニウム合金を加工する場合の加工性判定について説明する。
図29は、本発明の第3の実施形態に係る加工性判定装置の基本的構成を示すブロック図である。
【0169】
第3の実施形態に係るレーザ加工装置100Bは、例えば図29に示すように、レーザ光LBを加工照射条件で被加工材Wに照射して被加工材Wを加工する加工工程と、レーザ光LBを被加工材Wの素材を貫通しない範囲の判定照射条件で被加工材Wに照射して被加工材Wの加工性を判定する加工性判定工程と、を実行可能なレーザ加工ユニット20Bと、被加工材Wに判定照射条件でレーザ光LBを照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する赤外線センサ(測定部)30と、赤外線センサ(測定部)30によって測定された赤外線強度の時系列データに基づいて、被加工材Wの温度の時間的変化を示す特徴量情報を抽出する特徴量抽出部68と、抽出された特徴量情報と、予め記録済みの被加工材Wの加工性の判定用の基準情報と、に基づいて、レーザ加工ユニット20Bで、予め設定された加工条件で被加工材Wを加工した場合の被加工材Wの加工性を判定する判定部66Bと、判定部66Bにより判定された判定結果を報知する報知部67と、を備え、特徴量情報及び基準情報を記憶する記憶部61を備える。
【0170】
第3の実施形態における被加工材Wは、例えばアルミニウム合金である場合は主成分としてアルミニウム(Al)を含む。被加工材Wは、この主成分の他に用途に応じて、様々な合金元素、及び不可避的に混入する不純物が含まれる。
【0171】
アルミニウム合金の被加工材Wの内部特性とは、具体的には、被加工材Wの内部成分によるレーザ照射での温度上昇の大きさを意味する。アルミニウム合金は、レーザ吸収率が低いため昇温しにくいが、合金元素量及び熱処理等の製造プロセスによってレーザ吸収率が変化する。一般的に合金元素量が増えるとレーザ吸収率が高くなり昇温しやすくなる。そして、昇温しやすい材料ほど溶融量が増えるので、ドロスが大きくなる傾向が強い。
【0172】
そこで、アルミニウム合金の被加工材Wの温度上昇の大きさの内部特性を解析するための第5の調査を行った。第5の調査に当たっては、まず、アルミニウム合金はレーザ吸収率が低いので、被加工材Wの素材表面を所定のレーザ出力によって、表面の面粗さが所定の状態となるように、所定の深さだけ削ること(表面改質)を行った。そして、被加工材Wの素材内部にレーザ光LBのスポット照射により繰り返し加熱冷却を行って、熱伝導、融点の違いなどの内部特性を解析した。なお、レーザ切断の切断加工の加工条件は、第4の調査と同様である。
【0173】
図30図33は、被加工材に繰り返し加熱冷却を実施した際の温度と時間との関係を示すグラフである。図34は、被加工材毎の加熱による最高到達温度の時間的変化の特徴量とドロスの大きさの調査結果を示す結果表である。なお、図34の結果表307に示すように、被加工材Wとしてのサンプル11~14は、それぞれ板厚6mmのアルミニウム合金の板金で、材種がA1050、A6061、A5052、A6061である。また、図34には、サンプル11~14毎の最高到達温度及び最大ドロス高さが示されている。
【0174】
図30は、サンプル11(A1050)についての上記温度と時間との関係を示している。図30(a)は、赤外線センサ30でサンプル11を測定して、赤外線センサ30から出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形373を示している。図30(a)において、縦軸は温度(℃)を表し、横軸は時間(ミリ秒:ms)を表している。
【0175】
第5の調査では、判定照射条件として、板厚6mmの被加工材Wの素材内部にスポット照射するレーザ光LBのレーザ出力を2000W、周波数を10Hz、デューティを95%に設定し、1秒間に10回の繰り返し加熱を行った。図30(b)は、図30(a)の温度波形373の2周期分を、時間軸をms単位で拡大して示した温度波形374を示す図である。
【0176】
図30(a),(b)に示すように、レーザ光LBの照射開始からの温度測定時間(レーザ照射開始~5秒までの時間)内において、複数サイクルのレーザ照射により時間経過と共に被加工材Wの温度波形373,374が、約250℃~約350℃の間で細かく上下動(発熱及び放熱の繰り返し)することが分かり、温度測定時間内の加熱による最高到達温度の時間的遷移を特徴量情報として抽出することが可能である。
【0177】
そして、温度測定時間内の温度波形373,374が表す加熱による最高到達温度の時間的遷移の特徴量情報は、被加工材Wの熱伝導の大きさ、溶融に起因した温度変化(温度上昇の度合い)を示し、レーザ切断の切断品質に影響を及ぼす材質の特性を表しているので、以後の判定評価に用いることができる。このような特徴量情報に基づき、レーザ照射開始から5秒間の温度測定時間(所定時間)内の最高到達温度を、被加工材Wの材料の内部特性に基づく切断性を判定するための判定基準(第4しきい値)として設定した。
【0178】
すなわち、本出願人は、最高到達温度が高いものほどレーザ切断中の溶融温度まで容易に到達するので、溶融量が多くなりドロスが生成され易いことを見出した。これに基づき、レーザ照射開始から5秒間(温度測定時間内)の最高到達温度を判定するための第4しきい値を550℃に設定して、温度測定時間内の最高到達温度が550℃を超えるものは最大ドロス高さが大きい(高い)と評価した。
【0179】
従って、温度測定時間内の最高到達温度が第4しきい値(550℃)未満となる材料を、ドロスが小さいとしてグループEに分類し、第4しきい値(550℃)以上となる材料を、ドロスが大きいとしてグループFに分類した。なお、第4の調査と同様に、被加工材Wの切断性(加工性)の評価をドロスの大きさ(ドロス高さ)で評価した。また、ドロスの大きさの評価は、第4の調査と同様である。第5の調査では、温度測定時間内の最高到達温度が550℃未満の材料は、切断性(加工性)が良好であることが判明した。従って、グループEは切断性が良好であり、グループFは切断性が良くないものとした。
【0180】
図30(a)に示すように、サンプル11については、レーザ照射開始から5秒間の最高到達温度が356℃となり、最大ドロス高さは42μmとなった(図34参照)。従って、サンプル11は、温度測定時間内の最高到達温度が550℃未満であり、最大ドロス高さは小さく、温度上昇が小さいので、上記のグループEに相当する材料といえる。これは、熱伝導率が大きいためと考えられ、レーザ照射中に温度は停滞することなく上昇し続けていることからも、サンプル11の素材表面は溶融していないものと考えられる。
【0181】
図31は、サンプル12(A6061)についての上記温度と時間との関係を示している。図31は、赤外線センサ30でサンプル12を測定して、赤外線センサ30から出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形375を示している。加工条件と判定照射条件については、サンプル11と共通する。
【0182】
図31に示すように、サンプル12については、レーザ照射開始から5秒間の最高到達温度が485℃となり、最大ドロス高さは54μmとなった(図34参照)。サンプル12は、Al-Mg-Si系合金であるので高強度が得られると共に、熱伝導率も優れた材料である。従って、サンプル12は、温度測定時間内の最高到達温度が550℃未満であり、最大ドロス高さも小さく、熱伝導率も優れているので、サンプル11と同様に昇温しにくい材料であり、上記のグループEに相当する材料といえる。サンプル12もレーザ照射中は温度が上昇し続けているので、素材表面は溶融していないものと考えられる。
【0183】
図32は、サンプル13(A5052)についての上記温度と時間との関係を示している。図32は、赤外線センサ30でサンプル13を測定して、赤外線センサ30から出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形376を示している。加工条件と判定照射条件については、サンプル11,12と共通する。
【0184】
図32に示すように、サンプル13については、レーザ照射開始から5秒間の最高到達温度が498℃となり、最大ドロス高さは63μmとなった(図34参照)。サンプル13は、Al-Mg合金であるのでMgを多く含有しており、Mgの固溶体硬化により高強度が得られると共に、熱伝導率も比較的小さい材料である。従って、サンプル13は、測定温度時間内の最高到達温度が550℃未満であり、最大ドロス高さも小さいので、上記のグループEに相当する材料といえる。サンプル13もレーザ照射中は温度が上昇し続けているので、素材表面は溶融していないものと考えられる。
【0185】
図33は、サンプル14(A5083)についての上記温度と時間との関係を示している。図33は、赤外線センサ30でサンプル14を測定して、赤外線センサ30から出力された赤外線強度の時系列データを温度の時系列データに変換した温度波形377を示している。加工条件と判定照射条件については、サンプル11~13と共通する。
【0186】
図33に示すように、サンプル14については、レーザ照射開始から5秒間の最高到達温度が858℃となり、最大ドロス高さは105μmとなった(図34参照)。サンプル14は、サンプル13よりもMgの含有量が多く、他のサンプル11~13よりも昇温しやすい材料である。従って、サンプル14は、温度測定時間内の最高到達温度が550℃以上であり、最大ドロス高さが大きいので、上記のグループFに相当する材料といえる。サンプル14は、レーザ照射開始から0.5秒後には温度上昇が停滞しているので、素材表面が溶融して潜熱により温度停滞が起こっているものと考えられる。
【0187】
以上の観点から、アルミニウム合金の被加工材Wの加工性(ドロス)は、被加工材Wの熱伝導の大きさ、溶融などの内部特性に大きく依存しているので、ステンレス鋼の場合と同様に赤外線強度に基づく温度によって判定可能であることが証明された。そこで、本出願人は、上記のように実施された第5の調査の結果を勘案して、アルミニウム合金の被加工材Wの加工性の判定用の基準情報(判定基準)を上記のように設定した。
【0188】
そして、アルミニウム合金の被加工材Wの加工性の判定において、具体的には、レーザ加工装置100Bにおいては、レーザ加工ユニット20Bは、加工性判定工程において、判定照射条件で、レーザ光LBを被加工材Wに繰り返し照射(例えば、スポット照射)する。被加工材Wがアルミニウム合金の場合、例えば記憶部61に記憶された基準情報は、レーザ光LBの照射開始から所定時間(温度測定時間)内(5秒間)の被加工材Wの最高到達温度に基づく判定基準を含む。
【0189】
判定部66Bは、例えば記憶部61に記憶された特徴量情報に含まれる被加工材Wの最高到達温度が、判定基準を満たすか否かによって、被加工材Wの加工性を判定する。
【0190】
なお、被加工材Wの内部特性を再現性よく判定するために、好ましくは、判定照射条件は、第1の照射条件及び第2の照射条件を含む。レーザ加工ユニット20Bは、第1の照射条件でレーザ光LBを被加工材Wの素材内部に照射する前に、第2の照射条件でレーザ光LBを被加工材Wの素材表面に照射して被加工材Wの表面改質を行う。ここで、被加工材Wの表面改質は、例えば、第2の照射条件で照射されたレーザ光LBにより被加工材Wの表面を平均深さ0mm~0.02mm及び平均粗さ5μm~10μmとなるように表面粗化を行うものである。
【0191】
具体的には、レーザ切断の加工の標準の加工条件(標準条件)は、例えばアルミニウム合金の被加工材Wの板厚に応じた、レーザ出力が8500(W)、加工速度が6300(mm/min)、(パルス)周波数が2000(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が100(%)、ガス種がN、ガス圧が1.6(MPa)、ノズルギャップが0.3(mm)及びACLが120等の各パラメータの項目が設定されている。
【0192】
また、アルミニウム合金の被加工材Wに対するレーザ光LBの第3の実施形態における第1の照射条件は、例えば、レーザ出力が2000(W)、加工速度が0(mm/min)、(パルス)周波数が10(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が95(%)、ガス圧が0.04(MPa)、ノズルギャップが50(mm)、ノズルがD7.0AL、ガス種がO、レンズ焦点距離が190(mm)、ACLが140、B軸が25(mm)及びレーザ照射径が6.5(Φ)等の各パラメータの項目が設定されている。第1の照射条件は、例えば、スポット(定点)でレーザ照射を行い、アルミニウム合金の被加工材Wの材料の内部状態(熱伝導、溶融)を温度特性により判別するための条件である。
【0193】
一方、レーザ光LBの第3の実施形態における第2の照射条件は、例えば、焦点位置が素材表面に位置する状態で、レーザ出力が650(W)、加工速度が10000(mm/min)、(パルス)周波数が5000(Hz)、(パルス)デューティ(パルス幅)が35(%)、ガス圧が0.3(MPa)、ノズルギャップが8(mm)、ノズルがD7.0AL、ガス種がO及びレンズ焦点距離が190(mm)等の各パラメータの項目が設定され、上記のような表面改質を行うための条件である。
【0194】
第3の実施形態における判定照射条件(第1の照射条件)を上記のように設定してアルミニウム合金の被加工材Wの内部特性を判定するのは、次の理由による。
すなわち、第5の調査により、温度変化の挙動から材料の熱伝導率及び溶融状態を評価することにより、アルミニウム合金の被加工材Wの材質的な加工性(切断性)の品質を判定可能なことが判明している。固体の熱伝導率及び溶融状態を評価するためには、材料の素材表面を溶融したとしても貫通させない範囲のレーザ照射の条件に調整する必要がある。
【0195】
そして、アルミニウム合金の場合、材料の熱伝導及び溶融などの材料固有の材料特性(内部特性)を評価するためには、レーザ照射による加熱における温度測定期間内の最高到達温度を評価することにより、材料の内部特性を評価しやすいことが判明した。材料の内部特性は、冷却中の到達温度でも評価可能ではあるが、アルミニウム合金は熱伝導が極めて大きい材料であるため、一般的に冷却速度が速く、冷却到達温度が低いので、材料特性の影響が表れにくい。これに対し、加熱による到達温度で評価した方が、材料の熱伝導率などの内部特性を強く反映した結果が得られることが判明した。
【0196】
このことから、材料におけるレーザ照射面の状態によるレーザ吸収率の変動を抑えるために、内部特性の判定前に上記のような表面改質を行った上で、加熱による到達温度の時間的変化を評価するため、加熱時間と冷却時間が適正なバランスとなるように調整を行った。すなわち、レーザ照射の1サイクル(100ms)で加熱時間を95msとし、冷却時間を5msとなるように調整し、アシストガスについては上述した目的で0.04(MPa)に設定した。
【0197】
以上のような見解から、本出願人は、アルミニウム合金の被加工材Wの内部特性を判定するための判定基準(第4しきい値)を、例えば、繰り返し加熱冷却によるレーザ照射開始から5秒間(温度測定期間内)の最高到達温度が550℃未満であるかに設定し、レーザ照射による溶融のしやすさを評価した。なお、判定基準は、これに限定されるものではない。
【0198】
例えば、判定基準を、所定の基準温度(例えば、500℃)までに、加熱温度が到達する時間を特徴量としたものに基づき設定するようにしてもよい。この加熱温度が到達する時間を判定基準と比べて、溶融のしやすさを比較評価し、ドロスの大きさを判定して加工性を判定することもできる。この場合の基準情報(判定基準)も、上述したように適宜変更、設定等が可能である。
【0199】
[加工性判定の処理フロー]
図35は、加工性判定装置のアルミニウム合金の加工性判定処理フローの他の例の一部を示すフローチャートである。
この加工性判定処理では、レーザ加工ユニット20Bによって、図27に示したステップS122及びステップS123の間で、上述したような表面改質処理が行われる。また、制御部64等に設定される内部特性判定用のしきい値(第4しきい値)は、第2の実施形態のものとは異なる。更に、加工条件及び判定照射条件(第1の照射条件、第2の照射条件)は、第2の実施形態(ステンレス鋼)のものとは異なる。それ以外は、ステンレス鋼の場合と同様に行われ得る。したがって、ここでは、上記ステップS124以降の相違する処理について主に説明する。
【0200】
上記ステップS124で赤外線強度に基づく温度を測定したら、図35に示すように、判定部66Bは、レーザ照射開始から5秒間の温度測定期間内の最高到達温度が第4しきい値(550℃)未満であるか否かを判定する(ステップS134)。このステップS133で、温度測定期間内の最高到達温度が第4しきい値未満であると判定した場合(ステップS133のYES)は、被加工材WをグループEに分類して(ステップS135)、材料特性はドロスが発生しにくく切断性が良好なものであると判定する。
【0201】
一方、ステップS133で、温度測定期間内の最高到達温度が第4しきい値以上であると判定した場合(ステップS133のNO)は、被加工材WをグループFに分類して(ステップS136)、材料特性はドロスが発生しやすく切断性が良くないものであると判定する。
【0202】
そして、各ステップS135,S136でグループE,Fに分類された被加工材Wの加工性の判定結果に応じて、上記のステップS132と同様に判定結果処理が行われ(ステップS137)、結果情報を上記の判定結果と共に表示部62上に表示する(ステップS138)等してオペレータに報知し、本フローチャートによる一連の処理を終了する。
【0203】
以上のように、第3の実施形態に係るレーザ加工装置100Bにおいても、第1及び第2の実施形態と同様の作用効果を奏することが可能となるので、予め設定された加工条件で加工を行うべきか、被加工材に適した加工条件に変更等すべきかの判断をオペレータが容易に行うことが可能で、加工不良を低減することができる。
【0204】
[変形例]
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、一実施形態に記載の範囲には限定されない。上述した実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0205】
例えば、上述した第1の実施形態では、被加工材Wの材料の表面性状及び内部特性の組み合わせの判定結果が、「良好」又は「不良」の二択により加工性を判定することについて説明したが、これに限定されない。例えば、被加工材Wの材料の表面性状及び内部特性の判定を、それぞれ複数のしきい値による「○」、「△」及び「×」等の複数段階の評価により行って、これら複数段階の評価に基づき、加工性をより細かく判定するようにしてもよい。
【0206】
また、上述した第2の実施形態では、ステンレス鋼の被加工材Wの材料特性(内部特性)の判定を、判定期間の温度上昇値及び判定時点の冷却到達温度に対して第1しきい値~第3しきい値の判定基準を用いて行い、第3の実施形態では、アルミニウム合金の被加工材Wの内部特性の判定を、温度測定期間内の最高到達温度に対して第4しきい値の判定基準を用いて行うことについて説明したが、これらに限定されない。例えば、被加工材Wの内部特性の判定を、より多くの特徴量に対してより多くの(複数段階の)しきい値を設定して行い、より細かく材料特性の分類分け等を行って判定するようにしてもよい。
【0207】
以上、本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0208】
11 加工テーブル
20 レーザ加工ユニット
22 レーザ加工ヘッド
30 赤外線センサ
60 NC装置
100 レーザ加工装置
W 被加工材
【要約】
【課題】加工前に被加工材の加工条件に基づく加工性を判定して報知し、オペレータの判断を容易にし、加工不良を低減する。
【解決手段】加工性判定装置は、加工性判定工程において被加工材の素材の融点を超えない判定照射条件でレーザ光を被加工材に照射するレーザ加工ユニットと、被加工材にレーザ光を照射したときに発生する放射光の赤外線強度を測定する測定部と、測定された赤外線強度の時系列データに基づいて被加工材の温度の時間的又は位置的変化を示す特徴量情報を抽出する特徴量抽出部と、抽出された特徴量情報と予め記録済みの被加工材の加工性の判定用の基準情報とに基づいてレーザ加工ユニットで、予め設定された加工条件で被加工材を加工した場合の被加工材の加工性を判定する判定部と、判定された判定結果を報知する報知部と、を備える。
【選択図】図1
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