(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法、感熱ゲル化剤及び積層造形用組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 24/26 20060101AFI20240719BHJP
C04B 24/32 20060101ALI20240719BHJP
C04B 24/16 20060101ALI20240719BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20240719BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20240719BHJP
C04B 24/42 20060101ALI20240719BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240719BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C04B24/26 Z
C04B24/32 A
C04B24/16
C04B24/06 A
C04B24/38 C
C04B24/42 A
C04B28/02
B28B1/30
(21)【出願番号】P 2023212440
(22)【出願日】2023-12-15
(62)【分割の表示】P 2023534055の分割
【原出願日】2023-03-01
【審査請求日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2022030905
(32)【優先日】2022-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】種村 淳美
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/156358(WO,A1)
【文献】特表2022-519095(JP,A)
【文献】特開2005-104749(JP,A)
【文献】特許第2668580(JP,B2)
【文献】特許第7408018(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形される水硬化性無機組成物用の感熱ゲル化剤であって、
水性媒体と、該水性媒体中に分散された、カルボキシ基含有単量体を単量体単位として含むカルボキシ基含有ポリマー(但し、-NHCH
2O-で表される基を含まない。)と、界面活性剤とを含有する分散体(但し、該分散体においてカルボキシ基は塩を形成していてもよい。)から構成されており、
前記カルボキシ基含有ポリマーを構成する全単量体に対する、前記カルボキシ基含有単量体の割合は0.1~5.0質量%であり、
前記界面活性剤として、
前記カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して0.5~3質量部のアニオン界面活性剤と、
前記カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して1~8質量部の曇点が30~90℃且つHLB値が11~15のノニオン界面活性剤を含有
し、前記水硬化性無機組成物との混和性及び消泡性の向上用の感熱ゲル化剤。
【請求項2】
前記カルボキシ基含有ポリマーは、ガラス転移温度が-20~50℃のカルボキシ基含有ポリマーである、請求項1に記載の感熱ゲル化剤。
【請求項3】
前記カルボキシ基含有ポリマーは、前記カルボキシ基含有単量体としてのエチレン系不飽和カルボン酸単量体と、脂肪族共役ジエン系単量体を単量体単位として含む、請求項1に記載の感熱ゲル化剤。
【請求項4】
更に、アルケニル芳香族系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、ヒドロキシアルキル基含有不飽和単量体及び不飽和カルボン酸アミド系単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種を単量体単位として含む、請求項3に記載の感熱ゲル化剤。
【請求項5】
前記アニオン界面活性剤は、スルホン酸系アニオン界面活性剤である、請求項1に記載の感熱ゲル化剤。
【請求項6】
前記ノニオン界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシアルキレンアリールエーテルである、請求項1に記載の感熱ゲル化剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の感熱ゲル化剤と、水硬化性無機組成物とを含有する、積層造形用組成物。
【請求項8】
前記水硬化性無機組成物は、JIS R 5210:2019、JIS R 5211:2019、JIS R 5212:2019、JIS R 5213:2019又はJIS R 5214:2019に規定されるセメント、又は該セメントを含むモルタル若しくはコンクリートである、請求項7に記載の積層造形用組成物。
【請求項9】
積層造形される水硬化性無機組成物用の感熱ゲル化剤の、水硬化性無機組成物との混和性及び消泡性の向上方法であって、
前記感熱ゲル化剤として、
水性媒体と、該水性媒体中に分散された、カルボキシ基含有単量体を単量体単位として含むカルボキシ基含有ポリマー(但し、-NHCH
2O-で表される基を含まない。)と、界面活性剤とを含有する分散体(但し、該分散体においてカルボキシ基は塩を形成していてもよい。)から構成されており、
前記カルボキシ基含有ポリマーを構成する全単量体に対する、前記カルボキシ基含有単量体の割合は0.1~5.0質量%であり、
前記界面活性剤として、
前記カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して0.5~3質量部のアニオン界面活性剤と、
前記カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して1~8質量部の曇点が30~90℃且つHLB値が11~15のノニオン界面活性剤を含有する、感熱ゲル化剤を用いる、向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の製造方法、感熱ゲル化剤及び積層造形用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の三次元データを基に、3Dプリンタ(積層造形装置)を使用してセメント材料を積層し建築を行う3Dプリンタ建築が注目されている。この建築法を使用すれば、従来法に比較して自由なデザインが可能になり、省力化と工期短縮でコストを大幅に削減することができるといわれている。
【0003】
ところで、セメント材料は、建築材料として広く使用されているものの、固化までかなりの時間が必要となる。したがって、固化時間を短縮化する試みが従来行われている。例えば、特許文献1には、乾燥反応を短縮化することを目的として、感熱ゲル化能を有する特定の化学構造の水性樹脂エマルジョンを水硬化性無機粉末に添加して、軟質モルタルシートを得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セメント材料を3Dプリンタで積層していく場合、セメントの垂れや潰れがどうしても生じてしまうが、乾燥反応の短縮が可能とされる特許文献1に記載のモルタル材料を3Dプリンタに適用しても上記のような問題点を解決することはできない。これは、特許文献1は、モルタル材料を2つのキャリアフィルムに挟んだ状態で加熱してフィルム状にする範囲において有効とされる手法の開示にとどまっており、垂直方向にセメント材料を積み上げることが想定された組成になっていないためである。
【0006】
そこで、本発明の目的は、3Dプリント等の積層造形による積層造形物の製造方法であって、積層中の水硬化性無機組成物の垂れや潰れの発生が実用上十分なレベルまで低減された製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の目的はまた、3Dプリント等の積層造形に用いられる水硬化性無機組成物に含有させる材料であって、消泡性に優れると共に、水硬化性無機組成物との混和性が高く、水硬化性無機組成物と混合して加熱することで速やかに非流動化する材料、及びこの材料を用いた積層造形用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の[1]~[15]を提供する。
【0009】
[1]水硬化性無機組成物と感熱ゲル化剤を含有する積層造形用組成物を積層し、積層時及び/又は積層後の加熱により、前記積層造形用組成物を非流動化させる、積層造形物の製造方法であって、
前記感熱ゲル化剤は、水性媒体と、該水性媒体中に分散されたポリマーと、曇点が30℃以上且つHLB値が10~18のノニオン界面活性剤とを含有し、
前記感熱ゲル化剤は、
下記(1)~(5)の配合物[(1)~(5)は固形分換算であり、水分含量を18.5質量%とする。]を、
(1)モルタル 100質量部
(2)グルコン酸ナトリウム 1質量部
(3)カルボキシメチルセルロース 0.5質量部
(4)シリコーン系消泡剤 0.1質量部
(5)前記感熱ゲル化剤 4.5質量部
上部が開口した円筒状容器に100g導入して脱泡後測定される、貫入抵抗値(針の直径=2mm、突き刺し速度=30mm/分、突き刺し深さ=10mm)が、
脱泡直後の17±3℃での値をa0、脱泡後600W30秒のマイクロウェーブ加熱後の17±3℃での値をa1としたときに、a1/a0の値が15以上となる感熱ゲル化剤である、製造方法。
この製造方法によれば、積層中の水硬化性無機組成物の垂れや潰れの発生が実用上十分なレベルまで低減された状態で、3Dプリント等の積層造形が可能になる。なお、感熱ゲル化剤は、加熱によりゲル化を生じる材料をいう。
【0010】
このような貫入抵抗値を示す感熱ゲル化剤は、積層中の水硬化性無機組成物の垂れや潰れの発生を防止することができる。また、上記製造方法に使用される積層造形用組成物は、加熱後に速やかに非流動化させることができることから、ノズルから吐出する際の流動性に優れるとの特性も有する。また、積層造形用組成物の消泡性に優れ、例えば、軽い振動を与えただけで泡が消失し、最終的な強度不足が防止される。そして、上記感熱ゲル化剤はバインダーとしても作用するため、硬化後の層間の接着強度が良好になる。すなわち、本製造方法によれば、硬化前の積層造形用組成物をノズルから吐出する際の流動性を向上させること、硬化前の積層造形用組成物の消泡性を向上させること、積層造形用組成物の硬化後の層間の接着強度を向上させること、といった課題の解決も可能となる。
【0011】
[2]前記ポリマーは、共役ジエンの単独又は共重合体、及び、エチレン系不飽和単量体の単独又は共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載の製造方法。このような共役ジエン系ポリマーやビニル系ポリマーは、感熱ゲル化剤の成分として有効である。
【0012】
[3]前記共役ジエンの単独又は共重合体は、スチレン・ブタジエン系ゴム、メチルメタクリレート・ブタジエン系ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン系ゴム、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン系ゴム、ブタジエンゴム及び天然ゴムからなる群より選択される少なくとも一種である、[2]に記載の製造方法。このような共役ジエン系ポリマーは、感熱ゲル化剤の成分として特に有効である。
【0013】
[4]前記ノニオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシエチレンアリールエーテルである、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。ノニオン界面活性剤として、上記成分を使用すると、積層性が特に優れるようになる。
【0014】
[5]前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、アルキル部分が、炭素数が12~20のアルキルである、[4]に記載の製造方法。
【0015】
[6]前記ポリオキシエチレンアリールエーテルは、アリール部分が、水素原子の少なくとも1つがアラルキル置換されたアリールである、[4]に記載の製造方法。
【0016】
ノニオン界面活性剤として、[5]や[6]の成分を使用すると、積層中の水硬化性無機組成物の垂れや潰れの発生を顕著に低減できるようになる。また、上記成分のノニオン界面活性剤は、親水性と疎水性のバランスが優れており、水硬化性無機組成物との混和性が向上し、泡の混入が防止され、消泡性にも優れるようになり、最終強度の向上にも貢献する。
【0017】
[7]前記水硬化性無機組成物は、JIS R 5210:2019、JIS R 5211:2019、JIS R 5212:2019、JIS R 5213:2019又はJIS R 5214:2019に規定されるセメント、又は該セメントを含むモルタル若しくはコンクリートである、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。このようなセメント、モルタル又はコンクリートは、上述の特性を有するゲル化剤と組み合わせても優れた硬化後の強度を示す。
【0018】
[8]積層造形される水硬化性無機組成物用の感熱ゲル化剤であって、
水性媒体と、該水性媒体中に分散された、カルボキシ基含有単量体を単量体単位として含むカルボキシ基含有ポリマー(但し、-NHCH2O-で表される基を含まない。)と、界面活性剤とを含有する分散体(但し、該分散体においてカルボキシ基は塩を形成していてもよい。)から構成されており、
前記カルボキシ基含有ポリマーを構成する全単量体に対する、前記カルボキシ基含有単量体の割合は0.1~5.0質量%であり、
前記界面活性剤として、
前記カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して0.5~3質量部のアニオン界面活性剤と、
前記カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して1~8質量部の曇点が30~90℃のノニオン界面活性剤を含有する、感熱ゲル化剤。なお、分散体においてカルボキシ基が塩を形成している場合、カルボキシ基の一部又は全部が塩を形成していればよく、塩としてはナトリウム塩、カルシウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0019】
セメントやモルタルのような水硬化性無機組成物に添加して用いる垂れや潰れを防止するための素材には、水硬化性無機組成物と混合して加熱することで速やかに非流動化させることが可能な感熱ゲル化剤が有効であること、さらには、その感熱ゲル化剤は、水硬化性無機組成物と良好な混和性を有している必要があるが、3Dプリント等の積層造形に用い加熱して固化を進めようとする場合、感熱ゲル化剤の消泡性が非常に重要であることが本発明者により見出された。
【0020】
すなわち、水硬化性無機組成物が気泡を含んでいると、ゲル化させようとして加熱した際に気泡が急激に膨張して全体がスポンジ状に膨らんでしまい、その状態で固化すると造形物の強度が極端に低下してしまう。3Dプリント等の積層造形では造形物中に鉄筋を入れることが困難なため、気泡の防止は非常に重要である。
【0021】
[8]に記載の感熱ゲル化剤は、消泡性に優れており、一旦起泡しても間もなく(例えば10分程度で)泡の多くが消滅する。また、3Dプリント等の積層造形に用いられる水硬化性無機組成物に含有させた場合に混和性に優れる。そして、水硬化性無機組成物と混合して加熱することで速やかに非流動化(ゲル化)する。水硬化性無機組成物が加熱されることでカチオン濃度(例えば、カルシウムイオン濃度)が上昇し、アニオン界面活性剤を失活することに加えてノニオン界面活性剤の曇点以上に加熱されることで該界面活性剤が失活し、ゲル化が生じるものと考えられる。ゲル化が生じることにより、3Dプリント(積層造形)する際の、水硬化性無機組成物の垂れや潰れが、実用上十分なレベルまで低減される。
【0022】
[9]前記カルボキシ基含有ポリマーは、前記カルボキシ基含有単量体としてのエチレン系不飽和カルボン酸単量体と、脂肪族共役ジエン系単量体を単量体単位として含む、[8]に記載の感熱ゲル化剤。
【0023】
[10]更に、アルケニル芳香族系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、ヒドロキシアルキル基含有不飽和単量体及び不飽和カルボン酸アミド系単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種を単量体単位として含む、[9]に記載の感熱ゲル化剤。
【0024】
[9]又は[10]に記載の単量体からなるカルボキシ基含有ポリマーは、乳化重合での製造が容易であり、水硬化性無機組成物と混合して得られる積層造形用組成物が硬化した場合の物性に優れ、消泡性及び混和性も優秀である。
【0025】
[11]前記アニオン界面活性剤は、スルホン酸系アニオン界面活性剤である、[8]~[10]のいずれかに記載の感熱ゲル化剤。
【0026】
[12]前記ノニオン界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシアルキレンアリールエーテルである、[8]~[11]のいずれかに記載の感熱ゲル化剤。
【0027】
[13]前記ノニオン界面活性剤は、11~15のHLB値を有する、[8]~[12]のいずれかに記載の感熱ゲル化剤。なお、この範囲内ではHLB値が低い方が消泡性に優れる傾向にある。
【0028】
[14][8]~[13]のいずれかに記載の感熱ゲル化剤と、水硬化性無機組成物とを含有する、積層造形用組成物。この積層造形用組成物は、3Dプリント等の積層造形することが可能で、加熱によるゲル化が生じることから、垂れや潰れの発生が抑えられる。
【0029】
[15]前記水硬化性無機組成物は、JIS R 5210:2019、JIS R 5211:2019、JIS R 5212:2019、JIS R 5213:2019又はJIS R 5214:2019に規定されるセメント、又は該セメントを含むモルタル若しくはコンクリートである、[14]に記載の積層造形用組成物。
【0030】
[14]又は[15]の積層造形用組成物を用いることで、造形物の製造方法が提供可能になる。すなわち、水硬化性無機組成物を積層造形する造形物の製造方法であって、水硬化性無機組成物に[8]~[13]のいずれかに記載の感熱ゲル化剤を含有させ、積層時及び/又は積層後に積層物を加熱して、感熱ゲル化剤をゲル化させる、製造方法が提供可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、3Dプリント等の積層造形による積層造形物の製造方法であって、積層中の水硬化性無機組成物の垂れや潰れの発生が実用上十分なレベルまで低減された製造方法を提供することが可能になる。
【0032】
本発明によりまた、3Dプリント等の積層造形に用いられる水硬化性無機組成物に含有させる材料であって、消泡性に優れると共に、水硬化性無機組成物との混和性が高く、水硬化性無機組成物と混合して加熱することで速やかに非流動化する材料、及びこの材料を用いた積層造形用組成物を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施形態に係る積層造形物の製造方法は、水硬化性無機組成物と感熱ゲル化剤を含有する積層造形用組成物を積層し、積層時及び/又は積層後の加熱により、前記積層造形用組成物を非流動化させるものであり、(i)感熱ゲル化剤は、水性媒体と、該水性媒体中に分散されたポリマーと、曇点が30℃以上且つHLB値が10~18のノニオン界面活性剤とを含有しており、(ii)感熱ゲル化剤は、下記(1)~(5)の配合物[(1)~(5)は固形分換算であり、水分含量を18.5質量%とする。]を、上部が開口した円筒状容器に100g導入して脱泡後測定される、貫入抵抗値(針の直径=2mm、突き刺し速度=30mm/分、突き刺し深さ=10mm)が、脱泡直後の17±3℃での値をa0、脱泡後600W30秒のマイクロウェーブ加熱後の17±3℃での値をa1としたときに、a1/a0の値が15以上となる感熱ゲル化剤である。なお、脱泡は、(1)~(5)の配合物を収容した円筒状容器に振動を与え、少なくとも円筒状容器の開口部分の配合物に目視できる泡が生じないようにすることにより行うことができる。
(1)モルタル 100質量部
(2)グルコン酸ナトリウム 1質量部
(3)カルボキシメチルセルロース 0.5質量部
(4)シリコーン系消泡剤 0.1質量部
(5)前記感熱ゲル化剤 4.5質量部
【0034】
上記実施形態を「第1の実施形態」と呼ぶ場合がある。また、曇点が30℃以上且つHLB値が10~18のノニオン界面活性剤を「ノニオン界面活性剤1」と呼び、ノニオン界面活性剤1以外のノニオン界面活性剤を「ノニオン界面活性剤2」と呼ぶ場合がある。水性媒体としては、水が挙げられ、水には水溶性の成分(例えばエタノール、グリセロール等)を含有させてもよい。
【0035】
以下、第1の実施形態について詳述する。
【0036】
感熱ゲル化剤は、上記ポリマー及びノニオン界面活性剤を含む分散物(エマルジョン、ラテックス等)として提供されてもよい。この場合、上記ポリマーをノニオン界面活性剤又はノニオン界面活性剤と他の界面活性剤(アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤等)で乳化又は分散重合して得てもよく(A法)、上記ポリマーを上記他の界面活性剤で乳化又は分散重合し、後でノニオン界面活性剤を添加してもよい(B法)。或いは、A法で得たものに対してノニオン界面活性剤を添加してもよい(C法)。A法、B法及びC法において用いられるノニオン界面活性剤は、ノニオン界面活性剤1のみからなっていても、ノニオン界面活性剤1及びノニオン界面活性剤2の混合物であってもよい。
【0037】
水性媒体中に分散されたポリマーとしては、示差走査熱量計により10℃/分の昇温速度で測定されるガラス転移温度(「Tg」と略す場合がある。)が-50~35℃のポリマーが採用できる。Tgは、-45~30℃、-40~30℃とすることもできる。水性媒体中に分散されたポリマーとしてはまた、25℃における弾性率(ヤング率)が1~10MPaのポリマーも採用可能である。ヤング率は、JISK 6251:2017に準拠して測定することができる。水性媒体中に分散されたポリマーとしては、Tgが-50~35℃且つヤング率が1~10MPaのポリマーが好適であり、ポリマーは架橋物であっても未架橋物であってもよい。このようなポリマーはエラストマーとしての性質を有する。
【0038】
水性媒体中に分散されたポリマーとしては、共役ジエンの単独又は共重合体(「共役ジエン系ポリマー」と略す場合がある。)、及び、エチレン系不飽和単量体の単独又は共重合体(「ビニル系ポリマー」と略す場合がある。)が有効である。
【0039】
第1の実施形態で使用される、「共役ジエン系ポリマー」としては、スチレン・ブタジエン系ゴム(以下、「SBR」と略称する場合があり、カルボキシ変性等の変性物もSBRに含まれる。)、メチルメタクリレート・ブタジエン系ゴム(以下、「MBR」と略称する場合があり、カルボキシ変性等の変性物もMBRに含まれる。)、アクリロニトリル・ブタジエン系ゴム(以下、「NBR」と略称する場合があり、カルボキシ変性、スチレン変性、(メタ)アクリレートエステル変性等の変性物もNBRに含まれる。)、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン系ゴム(以下、「VP」と略称する場合があり、カルボキシ変性等の変性物もVPに含まれる。)、ブタジエンゴム(以下、「BR」と略称する場合があり、カルボキシ変性等の変性物もBRに含まれる。)及び天然ゴム(以下、「NR」と略称する場合があり、ポリイソプレンもNRに含まれる。)からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0040】
上記共役ジエン系ポリマーが分散物として提供される場合は、スチレン・ブタジエン系ゴムエマルジョン(スチレン・ブタジエン系ゴムラテックス)、メチルメタクリレート・ブタジエン系ゴムエマルジョン(メチルメタクリレート・ブタジエン系ゴムエマルジョンラテックス)、アクリロニトリル・ブタジエン系ゴムエマルジョン(アクリロニトリル・ブタジエン系ゴムラテックス)、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン系ゴムエマルジョン(スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン系ゴムラテックス)、ブタジエンゴムエマルジョン(ブタジエンゴムラテックス)及び天然ゴムエマルジョン(天然ゴムラテックス)からなる群より選ばれる少なくとも1種として提供される。
【0041】
共役ジエン系ポリマーとしては、脂肪族共役ジエン系単量体(例えば、全単量体基準で10~80質量%)、エチレン系不飽和カルボン酸単量体(例えば、全単量体基準で0.5~15質量%)及びその他の共重合可能な単量体(例えば、全単量体基準で5~89.5質量%)の共重合物が挙げられる。
【0042】
脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。工業的に容易に製造され、入手の容易性及びコストの観点から、特に1,3-ブタジエンの使用が好ましい。
【0043】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸等の1塩基酸または2塩基酸(無水物)を1種又は2種以上使用することができる。
【0044】
その他の単量体としては、アルケニル芳香族系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド系単量体等が挙げられる。
【0045】
アルケニル芳香族系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチル-α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。工業的に容易に製造され、入手の容易性及びコストの観点から、特にスチレンの使用が好ましい。
【0046】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル等の単量体が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。工業的に容易に製造され、入手の容易性及びコストの観点から、特にアクリロニトリル又はメタクリロニトリルの使用が好ましい。
【0047】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2-エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。工業的に容易に製造され、入手の容易性及びコストの観点から、特にメチルメタクリレートの使用が好ましい。
【0048】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β-ヒドロキシエチルアクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ-(エチレングリコール)マレエート、ジ-(エチレングリコール)イタコネート、2-ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2-ヒドロキシエチル)マレエート、2-ヒドロキシエチルメチルフマレート等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
不飽和カルボン酸アミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
上記単量体の他にも、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体は何れも使用可能である。
【0051】
このような共役ジエン系ポリマーは、カルボキシ基を有するものであってもよく、その場合は、ポリマーを構成する全単量体に対する、カルボキシ基含有単量体の割合は0.1~5.0質量%であることが好ましい。カルボキシ基含有単量体の割合は0.5~3.5質量%、1.0~3.0質量%であってもよい。
【0052】
第1の実施形態で使用される、「ビニル系ポリマー」としては、アクリルポリマー及び/又はエチレン系共重合体が挙げられる。
【0053】
アクリルポリマーは、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー、又は当該モノマーと共重合可能なモノマーを単量体単位として含むポリマーを意味する(但し、下記定義によるエチレン系共重合体を除く。)。ここで、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル又はメタクリロイルを意味し、類似の化合物においても同様である。
【0054】
アクリルポリマーは水分散物として提供されてもよく、その場合は、原料であるモノマーを乳化重合して水分散物を得ればよい。アクリルポリマーの水分散物は、アクリルポリマーの有機溶剤の溶液を水中で分散させ、有機溶剤の少なくとも一部を除去する強制乳化型の水分散物であってもよい。
【0055】
アクリルポリマーとしては、エラストマーとしての性質を有するアクリルゴムを用いることができる。このようなアクリルゴムとしては、上述の定義によるTgが-40~30℃であるものが好ましい。
【0056】
アクリルポリマーとしては、低Tgモノマー(単独重合したときの上記定義によるTgが20℃以下、好ましくは0℃以下となるモノマーをいう。)と高Tgモノマー(単独重合したときの上記定義によるTgが50℃以上となるモノマーをいう。)の共重合体であり、共重合体としての上述の定義によるTgが-40~30℃であるアクリルポリマーが好適である。なお、低Tgモノマー及び高Tgモノマーの少なくとも1種は上述した(メタ)アクリロイル基を有する。
【0057】
低Tgモノマーとしては、炭素原子が1~12個の直鎖又は分岐の非三級アルコールのアクリル酸エステルが挙げられ、非三級アルコールの炭素数は、4~12個、又は4~8個であってもよい。このような非三級アルコールとしては、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、イソオクチルアルコール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-デカノール、2-プロピルヘプタノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-テトラデカノール等が挙げられる。
【0058】
すなわち低Tgモノマーとしては、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチル-ヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、イソデシルアクリレート、トリデシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコール-モノメタクリレート、ラウリルアクリレート、エトキシ-エトキシエチルアクリレート、エトキシル化-ノニルアクリレートが例示できる。
【0059】
高Tgモノマーとしては、炭素原子が1~2個又は6~18個の直鎖又は分岐の非三級アルコールのメタクリル酸エステル、或いは、炭素数6~18の環状の非三級アルコールのアクリル酸エステルが挙げられる。
【0060】
すなわち高Tgモノマーとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、3,3,5トリメチルシクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、プロピルメタクリレートが例示できる。
【0061】
高Tgモノマーとしては上記の他、スチレン、アルキルスチレン(メチルスチレン等)、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド(N-オクチルアクリルアミド等)、N,N-ジアルキルアクリルアミド(N,N-ジメチルアクリルアミド等)、(メタ)アクリロニトリル等が例示できる。
【0062】
エチレン系共重合体は、エチレンとエチレン系不飽和モノマーの共重合体であり、エチレン酢酸ビニル、エチレンエチルアクリレート、エチレンビニルエーテル、エチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0063】
エチレン系共重合体は水分散物として提供されてもよく、その場合は、原料であるモノマーを乳化重合して水分散物を得ればよい。
【0064】
エチレン系共重合体としては、エラストマーとしての性質を有するエチレン系共重合体を用いることができる。このようなエチレン系共重合体としては、上述の定義によるTgが-40~30℃であるものが好ましい。
【0065】
第1の実施形態では、上記(1)~(5)の配合物[(1)~(5)は固形分換算であり、水分含量を18.5質量%とする。]に関し、600W30秒のマイクロウェーブ加熱後のa1を用いた、a1/a0の値(30秒値)が15以上となるようなゲル化剤を用いる。
【0066】
a1/a0の値(30秒値)は、15~350とすることができ、更には、19~330とすることもできる。600W30秒のマイクロウェーブ加熱後のa1を用いた、a1/a0の値(30秒値)が15以上であることに加えて、600W50秒のマイクロウェーブ加熱後のa2を用いた、a2/a0の値(50秒値)が30以上であってもよい。a2/a0の値(50秒値)は、30~530、35~530であってもよい。更に、600W70秒のマイクロウェーブ加熱後のa3を用いた、a3/a0の値(70秒値)が60以上であってもよい。a3/a0の値(70秒値)は、60~900、60~880であってもよい。すなわち、a1/a0の値(30秒値)が15以上且つa2/a0の値(50秒値)が30以上、a1/a0の値(30秒値)が15以上且つa3/a0の値(70秒値)が60以上、a1/a0の値(30秒値)が15以上且つa2/a0の値(50秒値)が30以上且つa3/a0の値(70秒値)が60以上であってもよい。
【0067】
(1)~(5)の配合物に含まれる(1)モルタルとしては、家庭化学社製「速乾セメント」(https://www.monotaro.com/g/00269134/?t.q=%E9%80%9F%E4%B9%BE%20%E3%82%BB%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88)又はその同等物を使用する。(1)~(5)の配合物に含まれる(4)シリコーン系消泡剤としては、α-(オクタデカノイルオキシ)-ω-ヒドロキシ-ポリ(オキシエチレン)、グリセリルモノステアレート、二酸化ケイ素及びオクタメチルシクロテトラシロキサンを含有した、有効成分28%のエマルジョンタイプの消泡剤(例えば、ダウ・東レ株式会社社製「DOWSILTM SH 5507 Emulsion」又はその同等物)を使用する。
【0068】
第1の実施形態で使用される感熱ゲル化剤は、曇点が30℃以上且つHLB値が10~18のノニオン界面活性剤を含有する。ここで、曇点とは、JISK 3211:1990に規定された曇り点を意味し、例えば、2質量%水希釈液にて測定することができる。HLB値とは、界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値であり、グリフィン法(HLB値=20×親水部の式量の総和/分子量)で求めることができる。
【0069】
ノニオン界面活性剤の曇点は30~100℃、30~98℃、40~98℃であってもよく、ノニオン界面活性剤のHLB値は、11~17、12~17であってもよい。
【0070】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシエチレンアリールエーテルが使用可能である。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、(i)アルキル部分が、炭素数が12~20のアルキルであるものがよく、ポリオキシエチレンアリールエーテルは、(ii)アリール部分が、水素原子の少なくとも1つがアラルキル置換されたアリールであるものがよい。(i)のノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテルが挙げられる。(ii)のノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテルが挙げられる。
【0071】
第1の実施形態において、ポリマー100質量部に対するノニオン界面活性剤1の量は、1~12質量部、3~10質量部、5~8質量部とすることができる。
【0072】
第1の実施形態における水硬化性無機組成物としては、JIS R 5210:2019に規定されるポルトランドセメント、JIS R 5211:2019に規定される高炉セメント、JIS R 5212:2019に規定されるシリカセメント、JIS R 5213:2019に規定されるフライアッシュセメント又はJIS R 5214:2019に規定されるエコセメント、又はこれらのセメントを含むモルタル若しくはコンクリートを使用できる。
【0073】
第1の実施形態において、水硬化性無機組成物100質量部(固形分換算)に対して、感熱ゲル化剤を、1~20質量部、3~15質量部、又は3~10質量部用いることができる。
【0074】
第1の実施形態において、感熱ゲル化剤は、本発明の効果に影響を与えない範囲で、消泡剤、分散剤、老化防止剤、粘度調整剤、pH用製剤、防腐剤、電解質、充填剤、可塑剤、でんぷん、着色顔料等の添加剤を含有していてもよい。第1の実施形態における感熱ゲル化剤の固形分濃度は、例えば、30~60質量%とすることができ、40~50質量%であってもよい。
【0075】
実施形態に係る感熱ゲル化剤は、積層造形される水硬化性無機組成物用の感熱ゲル化剤であって、水性媒体と、水性媒体中に分散された、カルボキシ基含有単量体を単量体単位として含むカルボキシ基含有ポリマー(但し、-NHCH2O-で表される基を含まない。)と、界面活性剤とを含有する分散体(但し、該分散体においてカルボキシ基は塩を形成していてもよい。)から構成されており、カルボキシ基含有ポリマーを構成する全単量体に対する、カルボキシ基含有単量体の割合は0.1~5.0質量%であり、界面活性剤として、カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して0.5~3質量部のアニオン界面活性剤と、カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して1~8質量部の曇点が30~90℃のノニオン界面活性剤を含有する。なお、この実施形態を「第2の実施形態」と呼ぶ場合がある。
【0076】
以下、第2の実施形態について詳述する。
【0077】
カルボキシ基含有ポリマーは水性媒体に分散されており、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤は通常水性媒体に溶解して存在し、カルボキシ基含有ポリマーを水性媒体中で乳化、分散させる機能を有する。なお、水性媒体としては、水が挙げられ、水には水溶性の成分(例えばエタノール、グリセロール等)を含有させてもよい。
【0078】
カルボキシ基含有ポリマーは、ポリマー分子の側鎖及び/又は末端にカルボキシ基を有している一方で、-NHCH2O-で表される基を有していない。-NHCH2O-で表される基としては、-NHCH2OHや-NHCH2OCnH2n+1(nは1~4の数)が挙げられる。
【0079】
カルボキシ基含有ポリマーはカルボキシ基を備えていればよく、主鎖の骨格に制限はない。主鎖は、炭素が連続したもの(例えば、ビニル重合体)であっても、ウレタン結合(ポリウレタン)、エステル結合(ポリエステル)、エーテル結合(ポリエーテル)又はこれらの組み合わせを有していてもよい。
【0080】
カルボキシ基含有ポリマーを含む水硬化性無機組成物は積層造形の際にゲル化のために加熱される。カルボキシ基含有ポリマーの最低造膜温度(MFT)は任意であるが、水硬化性無機組成物のバインダ特性を考慮するとMFTは0~50℃であることが好ましく、5~40℃であってもよい。ガラス転移温度(Tg)の値は、MFTと連動することが一般的であるが、Tgは-20~50℃であることが好ましく、-15~40℃であってもよい。
【0081】
カルボキシ基含有ポリマーは、単量体の重合により得ることができ、カルボキシ基含有ポリマーを構成する全単量体に対する、カルボキシ基含有単量体の割合は0.1~5.0質量%である。カルボキシ基含有単量体の割合は0.5~3.5質量%、1.0~3.0質量%であってもよい。カルボキシ基含有単量体の割合が0.1~5.0質量%の範囲から外れる場合、水硬化性無機組成物との混和性が劣るようになる。カルボキシ基含有単量体の割合が0.1質量%を下回る場合、水硬化性無機組成物との混和性はアニオン界面活性剤の増量で補うことができるが、その場合、消泡性が劣り好ましくない。
【0082】
カルボキシ基含有ポリマーとしては、エチレン系不飽和カルボン酸単量体(カルボキシ基含有単量体に相当する。)と、脂肪族共役ジエン系単量体を単量体単位として含むポリマーが含まれる。エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の1塩基酸または2塩基酸(無水物の形態でもよい)が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。工業的に容易に製造され、入手の容易性及びコストの観点から、特に1,3-ブタジエンの使用が好ましい。
【0083】
カルボキシ基含有ポリマーは、エチレン系不飽和カルボン酸単量体及び脂肪族共役ジエン系単量体に加えて、アルケニル芳香族系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、ヒドロキシアルキル基含有不飽和単量体及び不飽和カルボン酸アミド系単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種を単量体単位として含んでいてもよい。
【0084】
アルケニル芳香族系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチル-α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。工業的に容易に製造され、入手の容易性及びコストの観点から、特にスチレンの使用が好ましい。
【0085】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどの単量体が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。工業的に容易に製造され、入手の容易性及びコストの観点から、特にアクリロニトリル又はメタクリロニトリルの使用が好ましい。
【0086】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2-エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。工業的に容易に製造され、入手の容易性及びコストの観点から、特にメチルメタクリレートの使用が好ましい。
【0087】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β-ヒドロキシエチルアクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ-(エチレングリコール)マレエート、ジ-(エチレングリコール)イタコネート、2-ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2-ヒドロキシエチル)マレエート、2-ヒドロキシエチルメチルフマレート等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0088】
不飽和カルボン酸アミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0089】
上記単量体の他にも、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体は何れも使用可能である。
【0090】
第2の実施形態において、カルボキシ基含有ポリマーは、水性媒体中に分散された分散液(エマルジョン、ラテックス、懸濁液等の状態)で提供されてもよい。感熱ゲル化剤全体として、カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して0.5~3質量部のアニオン界面活性剤が含有されるが、カルボキシ基含有ポリマーが分散液として提供される場合は、この分散液の状態で、カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して0.5~3質量部のアニオン界面活性剤を含有していてもよい。或いは、0.5~3質量部に満たない量のアニオン界面活性剤を含有する分散液を調製し、感熱ゲル化剤を調整する際に合計量がカルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して0.5~3質量部になるように、アニオン界面活性剤を後添加してもよい。
【0091】
第2の実施形態において、感熱ゲル化剤全体として、カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して1~8質量部の曇点が30~90℃のノニオン界面活性剤が含有されるが、カルボキシ基含有ポリマーが分散液として提供される場合は、この分散液の状態で、カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して1~8質量部のノニオン界面活性剤を含有していてもよい。或いは、1~8質量部に満たない量のノニオン界面活性剤を含有する分散液(ノニオン界面活性剤を含まない分散液であってもよい)を調整し、感熱ゲル化剤を調整する際に合計量がカルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して1~8質量部になるように、ノニオン界面活性剤を後添加してもよい。但し、ノニオン界面活性剤は30~90℃の曇点を有しているため、ノニオン界面活性剤を分散液の合成又は調製の際に系に添加する場合は、合成又は調製のための温度より高い曇点を有するノニオン界面活性剤のみを添加する。
【0092】
カルボキシ基含有ポリマーが分散液として提供される場合、分散液としては、スチレン-ブタジエン系ラテックス(モノマー成分として、スチレン、ブタジエン、カルボキシ基含有単量体を含むもの)、クロロプレン系ラテックス(モノマー成分として、クロロプレン、カルボキシ基含有単量体を含むもの)、メチルメタクリレート-ブタジエン系ラテックス(モノマー成分として、メタクリル酸メチル、ブタジエン、カルボキシ基含有単量体を含むもの)、ニトリルゴム系ラテックス(モノマー成分として、アクリロニトリル、ブタジエン、カルボキシ基含有単量体を含むもの)、ポリブタジエン系ラテックス(モノマー成分として、ブタジエン、カルボキシ基含有単量体を含むもの)、2-ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン系ラテックス(モノマー成分として、2-ビニルピリジン、スチレン、ブタジエン、カルボキシ基含有単量体を含むもの)等が例示できる。
【0093】
分散液としてはさらに、アクリル酸エステル樹脂系エマルジョン(モノマー成分として、(メタ)アクリル酸エステル、カルボキシ基含有単量体を含むもの)、スチレン・アクリル酸エステル樹脂系エマルジョン(モノマー成分として、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、カルボキシ基含有単量体を含むもの)、エチレン・酢酸ビニル樹脂系エマルジョン(モノマー成分として、エチレン、酢酸ビニル、カルボキシ基含有単量体を含むもの)、エチレン・酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合樹脂系エマルジョン(モノマー成分として、エチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、カルボキシ基含有単量体を含むもの)等も使用可能である。
【0094】
分散液としてはまた、ポリウレタンエマルジョン(側鎖又は末端にカルボキシ基を有するポリウレタンのエマルジョン)、ポリエステルエマルジョン(側鎖又は末端にカルボキシ基を有するポリエステルのエマルジョン)も挙げられる。これらのエマルジョンの場合、ポリウレタン又はポリエステルの側鎖又は末端にカルボキシ基が導入されている。
【0095】
カルボキシ基含有ポリマーが分散液として提供される場合、その固形分濃度は通常30~60質量%であり、40~50質量%であってもよい。カルボキシ基含有ポリマーの平均粒子径(平均粒子径は、共重合体ラテックスを四酸化オスミウムで染色後、透過型電子顕微鏡写真を撮影して、画像解析処理装置(装置名:旭化成(株)製IP-1000PC)を用いて粒子1000個の直径を計測し、個数平均によって測定される。)は任意であるが、80~250nmとすることができ、100~200nm、120~180nmであってもよい。
【0096】
第2の実施形態において、感熱ゲル化剤は、上述した水性媒体及びカルボキシ基含有ポリマーの他、界面活性剤を含んでおり、界面活性剤としては、カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して0.5~3質量部のアニオン界面活性剤と、カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して1~8質量部の曇点が30~90℃のノニオン界面活性剤とが含まれている。界面活性としてはこれら以外の成分の含有を禁じるものではないが、感熱ゲル化に大きく影響するため、これらの成分のみからなることが好ましい。
【0097】
アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル流酸エステル系アニオン界面活性剤;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキエチレンアルキルエーテル流酸エステル塩系アニオン界面活性剤;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、スルホコハク酸アルキルモノアミドジナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸系アニオン界面活性剤;ロジン酸塩、脂肪酸塩などのカルボン酸系界面活性剤が挙げられる。なかでもスルホン酸系アニオン界面活性剤が好ましい。
【0098】
アニオン界面活性剤の含有量は、カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して0.5~3質量部であるが、1.0~2.5質量部、1.0~2.0質量部であってもよい。アニオン界面活性剤の含有量が0.5質量部未満では混和性に劣るようになり、3質量部を超すと消泡性が低下し、感熱ゲル化も困難になる。
【0099】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル系ノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアリールエーテル系ノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0100】
ノニオン界面活性剤の含有量は、カルボキシ基含有ポリマー100質量部に対して1~8質量部であるが、2.0~7.5質量部、3.0~7.0質量部であってもよい。ノニオン界面活性剤の含有量を1質量部未満では混和性に劣るようになり、8質量部を超すと、感熱ゲル化が困難になり、消泡性も低下する。
【0101】
第2の実施形態において、ノニオン界面活性剤の曇点は30~90℃である。曇点は30~85℃、40~90℃、40~85℃、50~90℃、50~85℃であってもよい。ノニオン界面活性剤の曇点は感熱ゲル化の温度に相関することから、カルボキシ基含有ポリマーを添加した水硬化性無機組成物が積層造形される温度に従って、使用するノニオン界面活性剤の曇点を決定することが好ましい。例えば、高温時(夏季等)の屋外での積層造形においては、40~90℃、50~90℃といった高温側の曇点であるノニオン界面活性剤を、低温時(冬季等)の屋外での積層造形においては、30~80℃、30~70℃、30~60℃といった低温側の曇点であるノニオン界面活性剤を使用することが好ましい。
【0102】
第2の実施形態において、ノニオン界面活性剤のHLB値は、11~15の範囲であるとよい。HLB値は12~14であってもよい。HLBが高くなるにしたがって、消泡性が低下する傾向がある。
【0103】
第2の実施形態において、感熱ゲル化剤は、上述した水性媒体、カルボキシ基含有ポリマー、界面活性剤を含有していればよく、本発明の効果に影響を与えない範囲で、消泡剤、分散剤、老化防止剤、粘度調整剤、pH用製剤、防腐剤、電解質、充填剤、可塑剤、でんぷん、着色顔料等の添加剤を含有していてもよい。感熱ゲル化剤の固形分濃度は、例えば、30~60質量%とすることができ、40~50質量%であってもよい。
【0104】
感熱ゲル化剤を得るためには、含有する各成分を混合すればよいが、曇点が30~90℃のノニオン界面活性剤を含有するため、含有するノニオン界面活性剤の曇点以下の温度で混合することが好ましい。
【0105】
なお、カルボキシ基含有単量体を単量体単位として含むカルボキシ基含有ポリマーがラテックスとして提供される場合の製造例について、以下説明する。この場合、感熱ゲル化剤に必要となる、水性媒体、カルボキシ基含有ポリマー及びアニオン界面活性剤が含まれた状態でラテックスが得られる。
【0106】
ラテックスは、エチレン系不飽和カルボン酸単量体、脂肪族共役ジエン系単量体、及びその他の共重合可能な単量体を含有する単量体成分を、水媒体中で、界面活性剤と共に、乳化重合することで製造可能である。
【0107】
その他の共重合可能な単量体としては、アルケニル芳香族系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、ヒドロキシアルキル基含有不飽和単量体及び不飽和カルボン酸アミド系単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。単量体の具体例は上述の通りであり、界面活性剤として上述のアニオン界面活性剤を使用することができる。
【0108】
乳化重合時の単量体成分ならびにその他の成分を添加する方法としては、例えば、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法、及びパワーフィード方法が挙げられる。中でも、連続添加方法(以下、「連添」という場合もある)を採用することが好ましい。さらに、連添を複数回行ってもよい。
【0109】
乳化重合は、重合開始剤を使用して行うことが通常であり、分子量調整等の目的のために連鎖移動剤を用いてもよい。
【0110】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウムなどの水溶性重合開始剤;クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドなどの油溶性重合開始剤が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイド、及びt-ブチルハイドロパーオキサイドから選択することが好ましい。重合開始剤の配合量は特に制限されないが、単量体組成、重合反応系のpH、他の添加剤などの組み合わせを考慮して適宜調整される。
【0111】
連鎖移動剤としては、例えば、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、及びn-ステアリルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、及びジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、及びテトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラム系化合物;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、及びスチレン化フェノールなどのフェノール系化合物;アリルアルコールなどのアリル化合物;ジクロルメタン、ジブロモメタン、及び四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素化合物;α-ベンジルオキシスチレン、α-ベンジルオキシアクリロニトリル、及びα-ベンジルオキシアクリルアミドなどのビニルエーテル;トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノレン、及びα-メチルスチレンダイマーなどの連鎖移動剤が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤の配合量は、他の添加剤などの組み合わせを考慮して適宜調整することができる。
【0112】
上述した感熱ゲル化剤と、水硬化性無機組成物とを混合することで、積層造形用組成物が得られ、3Dプリント等の積層造形に使用できる。そして、積層時及び/又は積層後に積層物を加熱することにより、感熱ゲル化剤がゲル化を生じ、積層造形用組成物の垂れや潰れが防止される。加熱は例えば、積層造形用組成物が、例えば40~100℃になるように行えばよく、50~90℃であってもよい。加熱の手段は任意であり、例えば、温風の吹き付け、遠赤外線照射、加熱電灯照射、マイクロ波照射、過熱水蒸気の吹き付けが挙げられる。
【0113】
第2の実施形態における、感熱ゲル化剤と水硬化性無機組成物の混合比率は、例えば、水硬化性無機組成物100質量部に対して、感熱ゲル化剤が固形分換算で1~15質量部とすることができ、3~10質量部であってもよい。
【0114】
第2の実施形態における、水硬化性無機組成物としては、JIS R 5210:2019に規定されるポルトランドセメント、JIS R 5211:2019に規定される高炉セメント、JIS R 5212:2019に規定されるシリカセメント、JIS R 5213:2019に規定されるフライアッシュセメント又はJIS R 5214:2019に規定されるエコセメント、又はこれらのセメントを含むモルタル若しくはコンクリートを使用できる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例により本発明について説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0116】
(共重合体1)
耐圧性の重合反応器に窒素雰囲気下で重合水95質量部、スチレン7.2質量部、1,3-ブタジエン2.3質量部、アクリル酸1.2質量部、フマル酸0.5質量部、ヒドロキシエチルアクリレート2質量部、シクロヘキセン6質量部、t-ドデシルメルカプタン0.03質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.9質量部、炭酸水素ナトリウム0.3質量部を仕込み撹拌を開始させた。過硫酸カリウム1質量部を加えて反応器内温度を70℃に昇温し、スチレン19.5質量部、1,3-ブタジエン5.3質量部、t-ドデシルメルカプタン0.06質量部を150分かけて連続的に添加した。各単量体及びその他の化合物の添加終了後、ただちにスチレン28.0質量部、1,3-ブタジエン34質量部、t-ドデシルメルカプタン0.36質量部を360分かけて連続的に添加した。その後、重合反応器内を85℃に昇温し重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、未反応単量体及び他の低沸点化合物を除去するために水蒸気蒸留を行い、共重合体1を含むエマルジョンを得た。
【0117】
(共重合体2)
耐圧性の重合反応器に窒素雰囲気下で重合水90質量部、炭酸水素ナトリウム0.16質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6質量部、スチレン5.2質量部、1,3-ブタジエン2.7質量部、メタクリル酸メチル0.1質量部、シクロヘキセン4質量部、アクリル酸1.2質量部、ヒドロキシエチルアクリレート1質量部、フマル酸0.5質量部を仕込み撹拌を開始させた。過硫酸カリウム1質量部を加えて反応器内温度を68℃に昇温し、スチレン66.3質量部、1,3-ブタジエン23質量部、t-ドデシルメルカプタン1質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5質量部を450分かけて連続的に添加した。その後、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、未反応単量体及び他の低沸点化合物を除去するために水蒸気蒸留を行い、共重合体2を含むエマルジョンを得た。
【0118】
(共重合体3)
日本エイアンドエル株式会社製サイアテックスNA-106(アクリロニトリル・ブタジエン系ラテックス)を共重合体3とした。
【0119】
(共重合体4)
日本エイアンドエル株式会社製J‐9049(カルボン酸未変性スチレン・ブタジエン系ラテックス)にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.0質量部を添加して共重合体4とした。
【0120】
(共重合体5)
耐圧性の重合反応器に、窒素雰囲気下でイタコン酸0.8質量部、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.04質量部、ロート油0.24質量部、β‐ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩1.4質量部、重合水100質量部を仕込み撹拌を開始させ、反応器内温度を67℃に昇温した。67℃到達時に過硫酸カリウム0.33質量部を添加し、過硫酸カリウム添加終了直後から、100分間かけて1,3-ブタジエン9.6質量部、メタクリル酸メチル14.2質量部、t-ドデシルメルカプタン0.06質量部、ロート油0.012質量部、β‐ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.06質量部を連続的に添加した。添加終了後、80分間反応を続けたのち、1,3-ブタジエン20.4質量部、メタクリル酸メチル31.0質量部、t-ドデシルメルカプタン0.14質量部、ロート油0.027質量部、β‐ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.14質量部を270分かけて連続的に添加した。添加終了後、90分間撹拌を続けたのちイタコン酸0.2質量部、ロート油0.01質量部、β‐ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.05質量部を添加した。さらに1,3-ブタジエン6質量部、メタクリル酸メチル17.8質量部、t-ドデシルメルカプタン0.1質量部、ロート油0.05質量部、β‐ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.35質量部を120分間かけて連続的に添加した。その後、重合転化率が98%以上になった時点で重合を終了した。次いで、水酸化カリウムでpHを7.0に調整し、未反応単量体及び他の低沸点化合物を除去するために水蒸気蒸留を行い、共重合体5を含むエマルジョンを得た。
【0121】
(共重合体6)
日本エイアンドエル株式会社製サイアテックスSR‐110(カルボン酸変性スチレン・ブタジエン系ラテックス)を共重合体6とした。
【0122】
(共重合体7)
耐圧性の重合反応器に窒素雰囲気下で重合水90質量部、スチレン6.0質量部、1,3-ブタジエン4.0質量部、メタクリル酸メチル1.0質量部、ヒドロキシエチルアクリレート1.0質量部、フマル酸2.0質量部、シクロヘキセン2質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.15質量部、炭酸水素ナトリウム0.3質量部を仕込み撹拌を開始させた。過硫酸カリウム1質量部を加えて反応器内温度を70℃に昇温し、スチレン54.0質量部、1,3-ブタジエン29.0質量部、メタクリル酸メチル3.0質量部、t-ドデシルメルカプタン0.47質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1質量部を420分かけて連続的に添加した。各単量体及びその他の化合物の添加終了後、ただちにt-ドデシルメルカプタン0.1質量部を添加して70℃に保ったまま150分間反応させた。その後、重合反応器内を85℃に昇温し重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、未反応単量体及び他の低沸点化合物を除去するために水蒸気蒸留を行い、共重合体7を含むエマルジョンを得た。
【0123】
(アクリル系共重合体1)
耐圧性の重合反応器に窒素雰囲気下で重合水105質量部、スチレン5.2質量部、2-エチルへキシルアクリレート4.6質量部、イタコン酸1.5質量部、エチレングリコールジメタクリレート0.2質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3質量部、炭酸水素ナトリウム0.3質量部を仕込み撹拌を開始させた。過硫酸カリウム1質量部を加えて反応器内温度を70℃に昇温し、スチレン45.8質量部、2-エチルへキシルアクリレート40.6質量部、エチレングリコールジメタクリレート2.1質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.7質量部、重合水10質量部を300分かけて連続的に添加した。その後、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、得られたエマルジョンについて、水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、未反応単量体及び他の低沸点化合物を除去するために水蒸気蒸留を行い、アクリル系共重合体1を得た。
【0124】
(実施例1~14、比較例1~3)
共重合体1~7の100質量部に対して、表1記載のノニオン界面活性剤を同表記載の添加量加えたものを感熱ゲル化剤として使用した。なお、実施例14では、住化ケムテックス社製 スミフレックス510HQを用いた。
【0125】
(比較例4~8)
ノニオン界面活性剤未添加の、共重合体2~5、アクリル系共重合体1を感熱ゲル化剤として使用した。
【0126】
(比較例9)
市販のモルタル混合用ラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 L-3642E)をゲル化剤として使用した。
【0127】
(比較例10~11)
市販のモルタル(家庭化学社製「速乾セメント」)を使用し、感熱ゲル化剤を使用しなかった。なお比較例11には、凝結遅延剤であるグルコン酸ナトリウムを、モルタル100質量部に対して、1質量部添加した。
【0128】
【0129】
【0130】
[貫入抵抗値]
下記(1)~(5)の配合物[(1)~(5)は固形分換算であり、水分含量を18.5質量%とする。]を、上部が開口した円筒状容器に100g導入した。
(1)モルタル(家庭化学社製「速乾セメント」) 100質量部
(2)グルコン酸ナトリウム 1質量部
(3)カルボキシメチルセルロース 0.5質量部
(4)シリコーン系消泡剤(ダウ・東レ株式会社社製「DOWSILTM SH 5507 Emulsion」) 0.1質量部
(5)実施例1~比較例2のゲル化剤 4.5質量部
次に、スパチュラで円筒状容器の底面を1分間叩き脱泡させた。脱泡後、17℃において貫入抵抗値(針の直径=2mm、突き刺し速度=30mm/分、突き刺し深さ=10mm)を測定した。測定の際には最大値を読み取り、1サンプルについて5箇所測定し、平均値を得た。このとき得られた平均値をa0とした。
脱泡後のものを600W30秒のマイクロウェーブで加熱し、2~5℃の氷水で容器ごと冷やして内容物を17℃とし、同温で上記と同様にして貫入抵抗値の平均値を得た。このとき得られた平均値をa1とした。表1に、a0、a1、a1/a0を示す。
【0131】
[積層性]
ゲル化剤を加えた実施例1~13、比較例1~2と、ゲル化剤を加えていない比較例3~4について、食品加工用の絞り袋と絞り器を使用し、絞り器の口径10mmの条件で幅約10mmの紐状に押出し、約100mm押し出したら、加熱する場合は600W20秒のマイクロウェーブ加熱装置で加熱したのち、折り返して積層させ、層が垂れや破壊なく何層まで形成されるかを実験した。10層以上形成できたときは◎、7~9層形成できたときは〇、4~6層形成できたときは△、3層以下のときは×と表記した。
【0132】
なお、実施例の積層造形用組成物は、最終硬化強度、層間の接着強度は良好であった。また、積層造形用組成物が収容された容器に軽い振動(スパチュラで叩く等)を与えただけで泡が消失した。また、硬化前の積層造形用組成物のノズルかの吐出性も良好であった。
【0133】
(共重合体A)
撹拌機を備えた耐圧性の重合反応器に、重合水150質量部、表3記載の初期添加成分を一括して仕込み、75℃に昇温し、表3記載の連続添加成分を8時間連続添加して重合反応させた。重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調整し、未反応単量体及び他の低沸点化合物を除去するために水蒸気蒸留を行い、共重合体Aを含むラテックスを得た。なお、この共重合体Aは、全単量体に対するカルボキシ基含有単量体の割合が0.1~5.0質量%のカルボキシ基含有ポリマーに相当する。表3にはラテックス粒子の粒子径を示している。
【0134】
(共重合体B~I)
成分を表3記載のものに変更した他は、共重合体Aと同様にして共重合体B~Iを得た。なお、共重合体B~F及びHは、単量体に対するカルボキシ基含有単量体の割合が0.1~5.0質量%のカルボキシ基含有ポリマーに相当する。共重合体Gは、カルボキシ基含有ポリマーではあるが、全単量体に対するカルボキシ基含有単量体の割合が5.0質量%を超える。共重合体Iはカルボキシ基を有しないポリマーである。表3にはラテックス粒子の平均粒子径を示している。
【0135】
【0136】
(実施例21~30)
表4に示す共重合体A、B、C、E、F、Hを含むラテックスと、同表に示すノニオン界面活性剤とを同表の比率で混合して、感熱ゲル化剤を作製した。そして、下記の方法に従って特性を測定し、結果を表4に記載した。
【0137】
(比較例21~26)
表5に示す共重合体A、D、G、Iを含むラテックスと、同表に示すノニオン界面活性剤とを同表の比率で混合して、感熱ゲル化剤を作製した。そして、下記の方法に従って特性を測定し、結果を表5に記載した。
【0138】
(モルタル混和性及び感熱ゲル化)
200mLのポリカップに家庭化学製速乾セメント100gとグルコン酸ナトリウム1.0gを計量し、よく攪拌した。次に固形分45%に調整した感熱ゲル化剤24.4gと水6.3gを添加し、よく攪拌した。ポリカップを沸騰した湯に浸して、10分間加熱した。なお、グルコン酸ナトリウムは凝結遅延剤であり、添加しないと加熱後すぐに凝結する。評価基準は以下の通りであった。
[評価基準]
モルタル混和性 : 良好=〇、増粘=△、凝固=×
感熱ゲル化 : 凝固=〇、流動性あり=×
【0139】
(消泡性)
1000mLのメスシリンダーに固形分45%に調整した感熱ゲル化剤を200g計量した。ラテックス中に空気800mLを35秒かけて吹き込み。泡の体積を読み取った。空気吹込み10分後の発泡体積が、小さいほど消泡性は良好である。
【0140】
【0141】