(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】シール部品の検査方法、検査装置、及び検査プログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 3/20 20060101AFI20240719BHJP
G01M 13/005 20190101ALN20240719BHJP
【FI】
G01M3/20 B
G01M13/005
(21)【出願番号】P 2023503390
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2021046355
(87)【国際公開番号】W WO2022185660
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2021033460
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】川井 智博
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-186632(JP,A)
【文献】特表2016-500826(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0074954(US,A1)
【文献】特開2004-157035(JP,A)
【文献】特開2020-159935(JP,A)
【文献】高橋 明 ほか,気体透過性試験,日本ゴム協会誌[オンライン],1976年,第49巻第8号,P.39-47,[検索日 2022.02.24],インターネット<URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/49/8/49_611/_pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00- 3/40
G01M 13/00- 13/045
G01M 99/00
G01N 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の規格で製造された複数のゴム製のシール部品のガスの透過量をヘリウムリークテストによって個々に測定し、
前記シール部品ごとに、透過量が上昇する非安定区間中の予め定められた基準時の測定値と、透過量が安定する安定区間の測定値とを対にしたサンプルデータを取得し、
取得した複数のサンプルデータに基づいて、前記基準時の測定値と前記安定区間の測定値との関係を1次関数で定義し、
前記シール部品と同一の規格で製造された検査対象となるシール部品のガスの透過量をヘリウムリークテストによって測定し、
前記1次関数を用いて、前記検査対象となるシール部品の前記基準時の測定値から前記安定区間の測定値を推測する、
シール部品の検査方法。
【請求項2】
前記1次関数は、前記サンプルデータ中の前記基準時の測定値を説明変数、前記安定区間の測定値を目的変数とし、
前記検査対象となるシール部品の安定区間の測定値は、前記1次関数を用いた単回帰分析によって推測する、
請求項1に記載のシール部品の検査方法。
【請求項3】
最小二乗法によって前記1次関数を求める、
請求項1に記載のシール部品の検査方法。
【請求項4】
最小二乗法によって前記1次関数を求める、
請求項2に記載のシール部品の検査方法。
【請求項5】
前記1次関数は、相関係数を0.9以上とする、
請求項1ないし3のいずれか一に記載のシール部品の検査方法。
【請求項6】
前記1次関数は、決定係数を0.9以上とする、
請求項1ないし3のいずれか一に記載のシール部品の検査方法。
【請求項7】
前記1次関数は、相関係数を0.9以上とし、かつ決定係数を0.9以上とする、
請求項1ないし3のいずれか一に記載のシール部品の検査方法。
【請求項8】
ゴム製のシール部品のガスの透過量をヘリウムリークテストによって測定した測定値を入力する入力部と、
同一の規格で製造された複数のシール部品の測定値ごとに、透過量が上昇する非安定区間中の予め定められた基準時の測定値と、透過量が安定する安定区間の測定値とを対にしたサンプルデータを生成するサンプル生成部と、
生成した複数のサンプルデータに基づいて、前記基準時の測定値と前記安定区間の測定値との関係を1次関数で定義する定義部と、
前記1次関数を用いて、前記シール部品と同一の規格で製造された検査対象となるシール部品の前記基準時の測定値から前記安定区間の測定値を推測する推測部と、
を備えるシール部品の検査装置。
【請求項9】
前記定義部は、前記サンプルデータ中の前記基準時の測定値を説明変数、前記安定区間の測定値を目的変数として前記1次関数を定義し、
前記推測部は、前記1次関数を用いた単回帰分析によって前記検査対象となるシール部品の安定区間の測定値を推測する、
請求項8に記載のシール部品の検査装置。
【請求項10】
コンピュータにインストールされ、このコンピュータに、
同一の規格で製造された複数のゴム製のシール部品のガスの透過量をヘリウムリークテストによって個々に測定した測定値の入力を受け付ける機能と、
前記シール部品ごとに、透過量が上昇する非安定区間中の予め定められた基準時の測定値と、透過量が安定する安定区間の測定値とを対にしたサンプルデータを生成する機能と、
生成した複数のサンプルデータに基づいて、前記基準時の測定値と前記安定区間の測定値との関係を1次関数で定義する機能と、
前記シール部品と同一の規格で製造された検査対象となるシール部品のガスの透過量をヘリウムリークテストによって測定した測定値の入力を受け付ける機能と、
前記1次関数を用いて、前記検査対象となるシール部品の前記基準時の測定値から前記安定区間の測定値を推測する機能と、
を実行させるシール部品の検査プログラム。
【請求項11】
前記1次関数は、前記サンプルデータ中の前記基準時の測定値を説明変数、前記安定区間の測定値を目的変数として定義され、
前記検査対象となるシール部品の安定区間の測定値は、前記1次関数を用いた単回帰分析によって推測される、
請求項10に記載のシール部品の検査プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シール部品の透過漏れを検査するシール部品の検査方法、検査装置、及び検査プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば固体高分子形燃料電池では、酸素の流路と水素の流路とを区画する上で、シール部材が重要な役割を担っている。この種の燃料電池は、膜電極接合体(MEA)を一対のセパレータで挟み込んだ複数枚の燃料電池セルを積層したスタック構造を備えている。膜電極接合体は、電解質膜をアノード電極(陽極)とカソード電極(陰極)とで挟み込んだ構造物であり、それぞれの電極は、触媒層とガス拡散層(GDL)との積層構造を有している。セパレータはガス拡散層に密接し、ガス拡散層との間に水素と酸素との流路を形成する。
【0003】
燃料電池セルは、セパレータに形成した流路を利用し、アノード電極には水素を、カソード電極には酸素を供給する。これによって水の電気分解と逆の電気化学反応を生じさせて発電を行なう。
【0004】
このような固体高分子形燃料電池の構造上、水素の流路と酸素の流路とは確実に区画されなければならず、これらの流路を区画するシール部品に高いシール性能が求められる。とりわけ水素の密封性は、安全性の観点からも発電効率の観点からも重要度が高い。
【0005】
その一方でシール部品の材料であるゴムは、ガスの透過性を有している。このため固体高分子形燃料電池では、シール部品と他の部材との間に生じている隙間からガスが漏れることがあるばかりでなく、水素がシール部品を透過する透過漏れも発生する(特許文献1の段落[0004]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-159935号公報
【文献】特開2016-106215号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】高橋明 小笠原五郎著、「気体透過性試験」、日本ゴム協会誌 第49巻第8号、1976年、p39-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シール部品の透過漏れは、ヘリウムリークディテクタを用いたヘリウムリークテストによって検査することができる。ヘリウムリークテストは、漏れ検査の中でも感度が高く、微小な漏れに対する検査精度に優れている。透過漏れの検出については明記されていないものの、固体高分子形燃料電池を開示する特許文献2にも、ヘリウムリークディテクタを用いたシール部品のガス漏れ検出が紹介されている(同文献の段落[0003]参照)。
【0009】
ヘリウムリークディテクタを用いたヘリウムリークテストは、微小な漏れの検出が可能であるという利点を有する一方で、正確な漏れ量を測定できる状態になるまでに時間がかかる。例えば固体高分子形燃料電池に用いるようなシール部品についていうならば、7~10分もの検査時間を必要とする。仮に一つの検査対象に対して検査を三回実施すると、完了までに21~30分もの時間がかかってしまう。
【0010】
ヘリウムリークテストに時間がかかるのは、検査対象を透過した検査ガスに含まれるヘリウムを検知して漏れ量を測定するという原理上、検査ガスの透過量が安定するまで待たなければならないからである。JIS-Z2331はヘリウムリークテストについて各種手法を規定しているが、いずれの手法を採用しても、検査対象を透過した検査ガスに含まれるヘリウムを検知するという検査原理は変わらず、検査時間に長時間を要する。
【0011】
検査時間の短縮化が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
シール部品の検査方法の一態様は、同一の規格で製造された複数のゴム製のシール部品のガスの透過量をヘリウムリークテストによって個々に測定し、前記シール部品ごとに、透過量が上昇する非安定区間中の予め定められた基準時の測定値と、透過量が安定する安定区間の測定値とを対にしたサンプルデータを取得し、取得した複数のサンプルデータに基づいて、前記基準時の測定値と前記安定区間の測定値との関係を1次関数で定義し、前記シール部品と同一の規格で製造された検査対象となるシール部品のガスの透過量をヘリウムリークテストによって測定し、前記1次関数を用いて、前記検査対象となるシール部品の前記基準時の測定値から前記安定区間の測定値を推測する工程と、を備える。
【0013】
シール部品の検査装置の一態様は、ゴム製のシール部品のガスの透過量をヘリウムリークテストによって測定した測定値を入力する入力部と、同一の規格で製造された複数のシール部品の測定値ごとに、透過量が上昇する非安定区間中の予め定められた基準時の測定値と、透過量が安定する安定区間の測定値とを対にしたサンプルデータを生成するサンプル生成部と、生成した複数のサンプルデータに基づいて、前記基準時の測定値と前記安定区間の測定値との関係を1次関数で定義する定義部と、前記1次関数を用いて、前記シール部品と同一の規格で製造された検査対象となるシール部品の前記基準時の測定値から前記安定区間の測定値を推測する推測部と、を備える。
【0014】
シール部品の検査プログラムの一態様は、コンピュータにインストールされ、このコンピュータに、同一の規格で製造された複数のゴム製のシール部品のガスの透過量をヘリウムリークテストによって個々に測定した測定値の入力を受け付ける機能と、前記シール部品ごとに、透過量が上昇する非安定区間中の予め定められた基準時の測定値と、透過量が安定する安定区間の測定値とを対にしたサンプルデータを生成する機能と、生成した複数のサンプルデータに基づいて、前記基準時の測定値と前記安定区間の測定値との関係を1次関数で定義する機能と、前記シール部品と同一の規格で製造された検査対象となるシール部品のガスの透過量をヘリウムリークテストによって測定した測定値の入力を受け付ける機能と、前記1次関数を用いて、前記検査対象となるシール部品の前記基準時の測定値から前記安定区間の測定値を推測する機能と、を実行させる。
【発明の効果】
【0015】
シール部品の透過漏れを検査する透過検査に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】シール部品のガス透過曲線を例示するグラフ。
【
図2】個体が異なる複数のシール部品それぞれのガス透過曲線を例示するグラフ。
【
図3】実施の一形態として、シール部品の検査方法の実施に必要なヘリウムリークディテクタとコンピュータとのハードウエア構成を示すブロック図。
【
図4】非安定区間中の基準時の測定値をY軸に、安定区間の測定値をX軸においた複数のサンプルデータと、これらのサンプルデータに基づく回帰直線とを示すグラフ。
【
図5】シール部品のガス透過曲線上で、検査対象となるシール部品の安定区間の測定値を推測する処理を図式化して示す模式図。
【
図6】1次関数の回帰直線上で、検査対象となるシール部品の安定区間の測定値を推測する処理を図式化して示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態は、ヘリウムリークディテクタ201(
図3参照、以下「リークディテクタ201」とも略称する)を用いたヘリウムリークテストによって図示しないシール部品の透過漏れを検査するシール部品の検査方法及び検査装置である。本実施の形態では、それらの検査方法及び検査装置に用いられるコンピュータプログラムも紹介する。
【0018】
つぎの項目にそって説明する。
1.ガス透過曲線の規則性
2.検査原理
3.検査装置
4.検査方法
(1)サンプル取得工程
(2)関数定義工程
(3)漏れ量推測工程
5.まとめ
【0019】
1.ガス透過曲線の規則性
ゴム製のシール部品、例えば固体高分子燃料電池に用いられ、水素の流路と酸素の流路とを区画するシールのガス透過性を検査する場合、リークディテクタ201を用いてヘリウムリークテスト(以下「リークテスト」とも略称する)を実施する。
【0020】
図1に示すように、リークディテクタ201の出力から得られるシール部品の測定値を時間軸の関数で示すと、透過量が上昇する非安定区間Aを経た後に、透過量が安定する安定区間Bに遷移する。これは前述したように、シール部品を透過した検査ガスに含まれるヘリウムを検知して漏れ量を判定するというリークディテクタ201の原理上、シール部品を透過する検査ガスの透過量が安定するまでに時間を要するからである。
【0021】
そこで横軸を時間、縦軸を測定値としたときのガス透過曲線11は、
図1に例示するような形状になる。ガス透過曲線11は、例えば非特許文献1の第39-40ページに記載されているガス透過量の理論式からも明らかなように、ある時間での透過量を定義するつぎの理論式によって表わすことができる。
【0022】
【数1】
Q:透過量
t:時間
D:拡散係数
A:透過断面積
w:シール接触幅(透過長)
∂c/∂x:シール接触幅(x=w)あたりの気体濃度(c)
P:透過係数
Δp:ヘリウム圧力
【0023】
拡散係数D及び透過係数Pは、シール部品の材料などに特有の値であり、ガス透過曲線11を決定づける要因になっている。
【0024】
実際のリークテストに際しては、気体濃度c及びヘリウム圧力Δpは開始直後に徐々に大きくなり、いずれ安定する。これによって透過量が上昇する非安定区間Aと、透過量が安定する安定区間Bとが発生する。
【0025】
2.検査原理
ガス透過曲線11は、式(1)の理論式で表されるために、どのようなシール部品であっても類似した形状をとることになる。
【0026】
図2のグラフに示されているガス透過曲線11a、11b、11c、……11nは、同一の規格で製造された個体が異なる複数のシール部品について、リークディテクタ201によって測定したそれぞれのガス透過量に基づくガス透過曲線11である。個々のシール部品の個体差によって値は分散しているが、曲線形状の類似性は保たれていることがわかる。本実施の形態の検査方法はこの点に着目し、検査対象であるシール部品のリークディテクタ201による測定値中、非安定区間Aの測定値から安定区間Bの測定値を推測する(
図5、
図6参照)。
【0027】
安定区間Bの測定値を推測するために、本実施の形態の検査方法はサンプル取得工程、関数定義工程、及び漏れ量推測工程という三つの工程を実施する。本実施の形態の検査装置は、サンプル取得工程の実行を支援する入力部及びサンプル生成部、関数定義工程の実行を支援する定義部、及び漏れ量推測工程の実行を支援する推測部を備えている。
【0028】
サンプル取得工程では、同一の規格で製造された複数のゴム製のシール部品のガスの透過量Q(t)をヘリウムリークテストによって個々に測定し、シール部品ごとに、透過量が上昇する非安定区間A中の基準時CT(
図5参照)の測定値と、透過量が安定する安定区間Bの測定値とを対にした複数のサンプルデータSD(
図4参照)を取得する。
【0029】
関数定義工程では、複数のサンプルデータSDに基づいて、非安定区間A中の基準時CTの測定値と安定区間Bの測定値との関係を1次関数で定義する。
【0030】
漏れ量推測工程では、シール部品と同一の規格で製造された検査対象となるシール部品のガスの透過量Q(t)をヘリウムリークテストによって測定し、定義した1次関数を用いて、検査対象となるシール部品の非安定区間Aの測定値から安定区間Bの測定値を推測する。
【0031】
3.検査装置
本実施の形態では、上記三つの工程による検査方法をパーソナルコンピュータ(パソコン)やタブレット端末などの情報処理装置と、リークディテクタ201とによって実行する。ここでは情報処理装置としてパソコン101を利用した場合を例に挙げ、そのアーキテクチャを紹介する。
【0032】
図3に示すように、パソコン101のアーキテクチャは一般的なパーソナルコンピュータと変わることがない。各種処理を実行して各部を集中的に制御するCPU102を中核に据え、メインメモリ103、フラッシュメモリ104、HDD105、ネットワークに接続するための通信インターフェース(IF)106、周辺機器を接続するためのI/O107がCPU102に接続されている。
【0033】
入力装置109は、一例としてはデータ入力用に用意されたキーボード及びマウスであり、他の一例としては表示装置108に設けられたタッチパネルである。情報処理装置としてタブレット端末やスマホなどの情報端末を使用する場合、入力装置109にはタッチパネルが用いられる。表示装置108及び入力装置109は、パソコン101のユーザインターフェースとなる。
【0034】
パソコン101のHDD105には、シール部品の検査のために用いられるコンピュータプログラム、検査プログラムPGがインストールされている。検査プログラムPGは、例えば個々のセルに入力された値に基づいて1次関数の計算を実行することができる一般的な表計算ソフトウエアである。このような検査プログラムPGは、その起動時に全部又は一部がメインメモリ103に読み込まれ、シール部品の検査方法の実施を支援する各種の処理、つまり後述する第1~第3の工程の処理をCPU102に実行させる。
【0035】
検査プログラムPGは、HDD105に格納されるのみならず、例えば光メディア、半導体記憶装置、データ伝送媒体などの各種の記憶媒体に格納されて可搬性をもったり、データ転送が可能な状態になったりもする。
【0036】
リークディテクタ201はディスプレイ202を備え、ヘリウムリークテストの測定結果をディスプレイ202に表示する。
【0037】
4.検査方法
検査プログラムPGにしたがいパソコン101が実行する各種の処理によって支援されるシール部品の検査方法を順に説明する。
【0038】
(1)サンプル取得工程
この工程は、次工程(関数定義工程)で定義する1次関数の説明変数及び目的変数の値をサンプルデータSDとして取得する工程である。サンプルデータSDは、個体が異なる複数のシール部品のそれぞれについて、リークディテクタ201によってガスの透過量Q(t)を測定することによって取得される。
【0039】
リークディテクタ201は、複数のシール部品からリークテストによって採取した測定値、つまりある時間ごとのガスの透過量Q(t)のデータをディスプレイ202に表示する。透過量Q(t)のデータは、その値が上昇する非安定区間Aから安定する安定区間Bに至るまでの間、所定の周期で取得した一連のデータである。
【0040】
リークディテクタ201による測定に際して、パソコン101では検査プログラムPGを起動させておく。検査プログラムPGは、前述したように関数計算を実行し得る表計算ソフトウエアであり、起動することで、表示装置108に複数のセル(図示せず)をマトリクス状に表示させる。
【0041】
作業者は、リークディテクタ201のディスプレイ202に表示される透過量Q(t)のうち、値が上昇する非安定区間A中の基準時CTの測定値と、値が安定する安定区間Bの測定値とを対にしたデータをサンプルデータSDとして、これらの値を表計算ソフトウエアのセルに入力する。
【0042】
このときパソコン101の入力装置109は、シール部品のガスの透過量Q(t)をリークテストによって測定した測定値を入力する入力部として機能する。
【0043】
基準時CTは、リークディテクタ201がリークテストを実行した後、予め定められた時間が経過した時点を意味する。この基準時CTの意味合いは、サンプル取得工程においても、後述する漏れ量推測工程での基準時CT(
図5参照)においても同様である。ただし基準時CTは、正確に秒単位で一致している必要はなく、ある程度の時間の範囲のずれは許容される。例えば数秒から数十秒程度のずれは問題ない。
【0044】
入力するサンプルデータSDのデータ数は、30個以上である。つまり作業者は、同一の規格で製造された30個以上のゴム製のシール部品のそれぞれについて、サンプルデータSDをなす透過量Q(t)の値をパソコン101に入力する。
【0045】
パソコン101のCPU102は、検査プログラムPGにしたがい、入力されたサンプルデータSDを例えばメインメモリ103の図示しないワークエリアに一時記憶し、次工程である関数定義工程の実施に備える。
【0046】
こうしてパソコン101は、同一の規格で製造された複数のシール部品の測定値ごとに、透過量Q(t)が上昇する非安定区間A中の予め定められた基準時CTの測定値と、透過量が安定する安定区間Bの測定値とを対にしたサンプルデータSDを生成するサンプル生成部の機能を実行する。
【0047】
(2)関数定義工程
【0048】
検査プログラムPGは、フラッシュメモリ104のワークエリアに一時記憶した複数のサンプルデータSDに基づいて、非安定区間A中の基準時CTの測定値と、安定区間Bの測定値との関係を1次関数で定義する。このとき検査プログラムPGは、例えばマクロのようなプログラムを利用して一連の処理の全部又は一部を自動で実行するように構築されていても、作業者の手入力に基づくコマンドによってそのような一連の処理の全部又は一部を実行するように構築されていてもよい。
【0049】
一例として、検査プログラムPGは、サンプルデータSDに含まれている非安定区間A中の基準時CTの測定値を説明変数、安定区間Bの測定値を目的変数として、複数のサンプルデータSDから回帰直線RL(
図4参照)を得、この回帰直線RLから1次関数式を求めるような演算動作をCPU102に実行させる。
【0050】
図4は、非安定区間Aにおける基準時CTの透過量Q(t)の測定値をY軸に、この測定値に対応する同一のシール部品の安定区間Bの透過量Q(t)の測定値をX軸においた複数のサンプルデータSDと、これらのサンプルデータSDに基づく回帰直線RLとを示すグラフである。このグラフは概念的であり、見やすいようにサンプルデータSDのデータ数を減らして示している。
【0051】
図4のグラフ中、回帰直線RLは、
Y=aX+b ……(2)
の1次関数式で表される。本実施の形態では、非安定区間A中の基準時CTの測定値(Y値)を説明変数、安定区間Bの測定値(X値)を目的変数とするため、式(2)は、次式(3)のように変形して用いられる。
X=(Y-b)/a ……(3)
【0052】
検査プログラムPGは、式(2)(3)中の定数a(傾き)及び定数b(y切片)を求めるために、例えば最小二乗法、つまり個々のサンプルデータSDの誤差の二乗の和を最小にする演算処理をCPU102に実行させる。CPU102は、XとYの共分散をXの分散で割った次式(4)によって定数aの傾きを算出する。
【0053】
【数2】
n:サンプルデータ(X,Y)の総数
x
i:サンプルデータXの個々の数値
xバー:サンプルデータXの平均値
y
i:サンプルデータYの個々の数値
yバー:サンプルデータYの平均値
【0054】
定数bの切片は、上記式(2)中、基準時CTの測定値(Y値)の平均値をYに、安定区間Bの測定値(X値)の平均値をXに、式(4)で求めた定数aをaにそれぞれ代入することで算出される。
【0055】
本実施の形態では、サンプルデータSDのばらつきを考慮し、相関係数や決定係数によってばらつきの多いデータを排除する。そのための手法の一例として、式(2)の1次関数を定義するに際して、相関係数Rが0.9以上になるサンプルデータSDを用いる。
【0056】
相関係数Rは、XとYの共分散を、Xの標準偏差とYの標準偏差との積で割ることによって求めることができる。検査プログラムPGは、次式(5)の演算をCPU102に実行させ、相関係数Rを算出する。
【0057】
【0058】
検査プログラムPGは、CPU102に式(5)を演算させて相関係数Rを求め、相関係数Rが0.9以上になるサンプルデータSDを用いて式(2)の1次関数を定義する。
【0059】
ばらつきの多いサンプルデータSDを排除する別の手法の一例としては、式(2)の1次関数を定義するに際して、決定係数R2が0.9以上になるサンプルデータSDを用いるようにしてもよい。決定係数R2は、相関係数Rを二乗することによって求めることができる。
【0060】
ばらつきの多いサンプルデータSDを排除するさらに別の手法の一例としては、式(2)の1次関数を定義するに際して、相関係数Rが0.9以上で、かつ決定係数R2が0.9以上になるサンプルデータSDを用いるようにしてもよい。
【0061】
以上の処理によって、定数a(傾き)及びb(y切片)の値が定められた式(2)の1次関数式が求められる。この1次関数式は、例えばフラッシュメモリ104に記憶され、登録される。
【0062】
こうしてパソコン101は、生成した複数のサンプルデータSDに基づいて、非安定区間A中の基準時CTの測定値と安定区間Bの測定値との関係を1次関数で定義する定義部の機能を実行する。
【0063】
(3)漏れ量推測工程
図5及び
図6に示すように、この工程では、検査対象となるシール部品を検査し、予め定められた基準時CTのガスの透過量Q(t)の測定値から安定区間Bの測定値を推測する。検査対象は、サンプル取得工程でリークテストを実施した複数のシール部品と同一の規格で製造されたシール部品である。
【0064】
漏れ量推測工程を実行するには、関数定義工程で定義した式(2)の1次関数のYに、検査対象であるシール部品の基準時CTでのガスの透過量Q(t)の測定値を代入する。作業者は、リークディテクタ201のディスプレイ202に表示される透過量Q(t)のうち、非安定区間A中の基準時CTの測定値を知得したならば、その値を検査プログラムPGである表計算ソフトウエアのセルに入力する。入力されたデータは、例えばメインメモリ103のワークエリアに一時記憶される。
【0065】
検査プログラムPGは、例えばマクロのようなプログラムによって、あるいは作業者の手入力に基づくコマンドによって漏れ量推測工程の実施が指令されると、フラッシュメモリ104に登録した1次関数式(式(2)参照)を呼び出す。そしてこの1次関数式のYに、ワークエリアに一時記憶した基準時CTのガスの透過量Q(t)の値を代入する。基準時CTの測定値(Y値)は、説明変数として用いられる。そこで目的変数となるX値を左辺におく式(3)に式(2)を変形することで、安定区間Bの透過量Q(t)の測定値(X値)を推測することができる。
【0066】
こうしてパソコン101は、1次関数を用いて、シール部品と同一の規格で製造された検査対象となるシール部品の非安定区間A中の基準時CTの測定値から安定区間Bの測定値を推測する推測部の機能を実行する。
【0067】
検査プログラムPGは、検査したシール部品について、安定区間Bのガスの透過量Qの推測値を表示装置108に表示させる。作業者は、表示された推測値を参照し、推測値が検査対象であるシール部品の要求スペックを超えていなければ、検査合格と判定する(
図6参照)。
【0068】
5.まとめ
関数定義工程及び漏れ量推測工程では、1次関数を用いた単回帰分析という手法によって、非安定区間A中の基準時CTに測定された透過量Q(t)の値から、安定区間Bの透過量Q(t)の測定値が推測される。したがって本実施の形態によれば、ヘリウムリークディテクタ201によるヘリウムリークテストに際して、測定値が非安定区間Aから安定区間Bに至る前の段階で、検査対象となるシール部品の安定区間Bにおける測定値を推測することができる。このためシール部品の透過漏れを検査する透過検査に要する時間を短縮することができる。
【0069】
実施に際しては、例えばパソコン101にリークディテクタ201を接続し、サンプル取得工程及び漏れ量推測工程のいずれか一方又は両方の実施時、ガスの透過量Q(t)のデータをリークディテクタ201からパソコン101に適宜自動で送信するように構成してもよい。このような処理は、リークディテクタ201にも検査プログラムPGをインストールするか、パソコン101からの要求に応じ、リークディテクタ201がパソコン101にデータ送信できるように構成されていれば実行可能である。
【符号の説明】
【0070】
11(11a、11b、11c、……11n) ガス透過曲線
101 パソコン
102 CPU
103 メインメモリ
104 フラッシュメモリ
105 HDD
106 通信インターフェース
107 I/O
108 表示装置
109 入力装置
201 ヘリウムリークディテクタ(リークディテクタ)
A 非安定区間
B 安定区間
CT 基準時
RL 回帰直線
SD サンプルデータ