(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】偏光制御により3次元ワークピースを造形するための照射システムを動作させる方法、照射システム及び装置
(51)【国際特許分類】
B22F 10/366 20210101AFI20240719BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240719BHJP
B22F 12/41 20210101ALI20240719BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240719BHJP
B23K 26/062 20140101ALI20240719BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240719BHJP
B23K 26/34 20140101ALI20240719BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20240719BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240719BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240719BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240719BHJP
【FI】
B22F10/366
B22F10/28
B22F12/41
B23K26/00 M
B23K26/00 N
B23K26/062
B23K26/21 Z
B23K26/34
B28B1/30
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2023520128
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2021075042
(87)【国際公開番号】W WO2022069192
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】102020125796.1
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】523394734
【氏名又は名称】ニコン エスエルエム ソルーションズ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100126848
【氏名又は名称】本田 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー シュテンゲル
(72)【発明者】
【氏名】マックス シュニーデンハルン
(72)【発明者】
【氏名】トニ アダム クロール
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-149132(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108581182(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0369961(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105,10/00,10/10,10/28,
10/366,12/00,12/40,12/41
B23K 26/00,26/062,26/21,26/34
B28B 1/30
B29C 64/00,64/135,64/264,67/00
B33Y 10/00,30/00,50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元ワークピース(110)を造形するためにレーザ放射線を原料粉末層に照射する照射システム(10)を動作させる方法において、キャリア(102)上に積層された原料粉末層(11)の少なくとも1区域に、直線偏光されたレーザ放射線が選択的に照射され、前記直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きが、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記原料
粉末層(11)の原料表面上への入射面の向きに応じて制御され
、
前記原料表面上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記入射面の前記向きに応じて前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きを制御する際に、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きが、前記原料粉末層(11)と交差する前記直線偏光されたレーザ放射線の走査方向(S)に応じて更新される方法。
【請求項2】
前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きが、前記原料
表面上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記入射面の前記向きに応じて制御され、前記偏光面が前記入射面に対し実質的に平行に向けられるようになっている、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きが、前記原料粉末層(11)の表面(28)から前記原料粉末層(11)の体積内へと延在しかつ前記直線偏光されたレーザ放射線と前記原料
粉末層(11)の原料粉末の相互作用に起因して形成される毛細管(24)の内側壁表面(26)上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記入射面の前記向きに応じて制御される、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きは、前記直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)が前記原料粉末層(11)と交差して導かれるときに従う走査パターンの分析に基づいて更新され、前記走査パターンの前記分析は、前記3次元ワークピース(110)の造形の開始に先立ち、及び/又は前記3次元ワークピース(110)の前記造形中にその場で行なわれる、
請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)の出力、焦点径及び焦点形状のうちの少なくとも1つ、及び/又は走査速度、走査方向(S)、走査モード及び/又は前記直線偏光されたレーザ放射線の前記ビーム(14a、14b)が前記原料粉末層(11)と交差して導かれるときに従う走査パターンのうちの少なくとも1つ、及び/又は前記原料粉末層(11)にわたって導かれるガス流量の少なくとも1つのパラメータが、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記ビーム(14a、14b)の前記原料
表面上への入射角(α)に応じて制御される、
請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)が、走査ストラテジーにしたがって前記原料粉末層(11)と交差して走査され、第1のベクトル方向を向く複数の走査ベクトルが連続的に走査されてから、前記第1のベクトル方向とは異なる第2のベクトル方向を向く少なくとも1つの走査ベクトルが走査される、
請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記原料粉末層(11)の第1区域に前記直線偏光されたレーザ放射線が選択的に照射され、前記原料粉末層(11)の第2区域にランダム化されたレーザ放射線、ラジアル偏光されたレーザ放射線及び/又は方位角偏光されたレーザ放射線が選択的に照射される、
請求項1ないし
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記原料粉末層(11)の前記第1区域が、前記原料粉末層(11)を選択的に照射することによって生成されるワークピース層のハッチング区域であり、及び/又は、前記原料粉末層(11)の前記第2区域が、前記原料粉末層(11)を選択的に照射することによって生成されるワークピース層の輪郭区域である、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
複数の直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)が、走査ストラテジーにしたがって前記原料粉末層(11)の重複区域と交差して走査され、全ての走査ベクトルが同じ走査モードにしたがって走査される、
請求項1ないし
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
3次元ワークピース(110)を造形するためにレーザ放射線を原料粉末層に照射する照射システム(10)において、キャリア(102)上に積層された原料粉末層(11)の少なくとも1区域に、直線偏光されたレーザ放射線を選択的に照射するように構成されており、前記直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記原料
粉末層(11)の原料表面上への入射面の向きに応じて制御するように構成された制御デバイス(18)を含んで
おり、
前記制御デバイス(18)が、前記原料表面上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記入射面の前記向きに応じて前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きを制御する際に、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きを、前記原料粉末層(11)と交差する前記直線偏光されたレーザ放射線の走査方向に応じて更新するように構成されている、照射システム(10)。
【請求項11】
制御デバイス(18)が、
- 前記偏光面が前記入射面に対し実質的に平行に向けられるように、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きを、前記原料
表面上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記入射面の前記向きに応じて制御し;
- 前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きを、前記原料粉末層(11)の表面(28)から前記原料粉末層(11)の体積内へと延在しかつ前記直線偏光されたレーザ放射線と前記原料
粉末層(11)の原料粉末の相互作用に起因して形成される毛細管(24)の内側壁表面(26)上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記入射面の前記向きに応じて制御する、
ように構成されている、請求項
10に記載の照射システム(10)。
【請求項12】
前記直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)が前記原料粉末層(11)と交差して導かれるときに従う走査パターンの分析に基づいて、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きを更新するように、前記制御デバイス(18)が構成されており、前記走査パターンの前記分析は、前記3次元ワークピース(110)の造形の開始に先立ち、及び/又は前記3次元ワークピース(110)の前記造形中にその場で行なわれる、
請求項
10に記載の照射システム(10)。
【請求項13】
前記制御デバイス(18)が、
- 前記直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)の出力、焦点径及び焦点形状のうちの少なくとも1つ、及び/又は走査速度、走査方向、走査モード及び/又は前記直線偏光されたレーザ放射線の前記ビーム(14a、14b)が前記原料粉末層(11)と交差して導かれるときに従う走査パターンのうちの少なくとも1つ、及び/又は前記原料粉末層(11)にわたって導かれるガス流量の少なくとも1つのパラメータを、前記原料
表面上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記ビーム(14a、14b)の入射角(α)に応じて制御するように;及び/又は、
- 前記直線偏光されたレーザ放射線の前記ビーム(14a、14b)が、走査ストラテジーにしたがって前記原料粉末層(11)と交差して走査され、第1のベクトル方向を向く複数の走査ベクトルが連続的に走査されてから、前記第1のベクトル方向とは異なる第2のベクトル方向を向く少なくとも1つの走査ベクトルが走査されるように、スキャナユニット(22)を制御するように;及び/又は
- 前記原料粉末層(11)の第1区域に前記直線偏光されたレーザ放射線が選択的に照射され、前記原料粉末層(11)の第2区域にランダム化されたレーザ放射線、ラジアル偏光されたレーザ放射線及び/又は方位角偏光されたレーザ放射線が選択的に照射されるように;
構成されており、前記原料粉末層(11)の前記第1区域が、特に、前記原料粉末層(11)を選択的に照射することによって生成されるワークピース層のハッチング区域であり、及び/又は、前記原料粉末層(11)の前記第2区域が、特に、前記原料粉末層(11)を選択的に照射することによって生成されるワークピース層の輪郭区域である、
請求項
10ないし
12のいずれか1項に記載の照射システム(10)。
【請求項14】
前記制御デバイス(18)は、複数の直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)が、走査ストラテジーにしたがって前記原料粉末層(11)の重複区域と交差して走査され、全ての走査ベクトルが同じ走査モードにしたがって走査されるように、スキャナユニット(22)を制御するように構成されている、請求項
10ないし
13のいずれか1項に記載の照射システム(10)。
【請求項15】
請求項
10ないし
14のいずれか1項に記載の照射システムが備わっている、3次元ワークピース(110)を造形するための装置(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元ワークピースを造形する目的でレーザ放射線を原料粉末層に照射するために照射システムを動作させる方法に関するものである。さらに、本発明は、この種の照射システムに関するものである。最後に、本発明は、3次元ワークピースを造形するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉末床溶融結合(powder bed fusion)は、粉体の、特に金属及び/又はセラミック原料を複雑な形状の3次元ワークピースへと加工することのできる積層造形法(additive layering process)である。このために、原料粉末層がキャリア上に形成され、造形すべきワークピースの所望される幾何形状に応じて部位選択的にレーザ放射線を受ける。粉末層内に入るレーザ放射線は、原料粉末粒子の加熱そして結果としての溶融又は焼結をひき起こす。その後、ワークピースが所望の形状及びサイズを有するまで、キャリア上において既にレーザ処理された層に対して、更なる原料粉末層が連続して形成される。粉末床溶融結合は、試作品、工具、交換部品、高価値部品又は、例えば、歯科用又は整形外科用補綴等の人工的補充物を、CADデータに基づいて造形又は修復するために利用可能である。
【0003】
例えば特許文献1に記載の粉末床溶融結合によって3次元ワークピースを造形するための例示的な装置は、多数の原料層を受入れるように構成されたキャリアと、キャリア上の原料上にレーザ放射線を選択的に照射してワークピースを造形するように構成された照射ユニットとを含む。照射ユニットには、レーザビームを少なくとも2つのサブビームに分割するように構成された空間光変調器が具備されている。直線偏光されたレーザ放射線を用いた空間光変調器を提供するために、空間光変調器の上流側に、レーザビームの直線偏光を行なう偏光手段が具備される。
【0004】
粉末床溶融結合装置のキャリア上に3次元ワークピースを作り上げる際に、原料粉末に衝突するレーザ放射線を吸収することにより、原料粉末が溶融及び/又は焼結され、溶融した原料の溶融プールが生成されることになる。さらに、原料の蒸発は、蒸気毛細管(vapor capillary)の形成を導き、この毛細管を介してレーザビームは原料のより深い領域へと入ってゆく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、3次元ワークピースを造形する目的でレーザ放射線を原料粉末層に照射するための照射システムを動作させる方法、及び高品質のワークピースの効率的な造形を可能にするこの種の照射システムを提供することにある。さらに、本発明は、高品質のワークピースの効率的な造形を可能にする照射システムを備えた3次元ワークピースを造形するための装置に関する。
【0007】
3次元ワークピースを造形する目的で原料粉末層にレーザ放射線を照射するための照射システムを動作させる方法においては、キャリア上に積層された原料粉末層の少なくとも1区域に、直線偏光されたレーザ放射線が選択的に照射される。原料粉末層は、原料粉末を分布させるようにキャリアの全体にわたって移動させられる粉末塗布装置を用いて、キャリアの表面上に積層され得る。キャリアは、しっかり固定されたキャリアであってよい。しかしながら、好ましくは、キャリアは垂直方向に変位可能となるように設計されており、こうして、ワークピースが原料粉末から層状に作り上げられるにつれてその構造の高さが増大するため、キャリアを垂直方向下向きに移動させることができる。さらに、キャリアには、キャリアを冷却及び/又は加熱するように構成された冷却デバイス及び/又は加熱デバイスが具備され得る。
【0008】
キャリア及び粉末塗布装置は、周囲の雰囲気に対して封止可能であるプロセスチャンバ内に収容され得る。ガス入口を介してプロセスチャンバ内にガス流を導入することによりプロセスチャンバの内部に不活性ガス雰囲気を確立することができる。ガス流は、プロセスチャンバを通り、キャリア上に積層された原料粉末層にわたって導かれた後、ガス流はガス出口を介してプロセスチャンバから放出され得る。プロセスチャンバ内でキャリア上に積層された原料粉末は、好ましくは金属粉末、詳細には金属合金粉末であるが、セラミック粉末又は異なる材料を含有する粉末であってもよい。粉末は、任意の好適な粒度又は粒度分布を有していてよい。しかしながら、100μm未満の粒度の粉末を加工することが好ましい。
【0009】
照射システムは、直線偏光されたレーザ光の少なくとも1つのビームを発出するレーザビーム源を含む。詳細には、照射システムのレーザビーム源は、532nmの波長の直線偏光されたレーザ光、すなわち「緑色」レーザ光を発出し得る。しかしながら、照射システムのレーザビーム源が、例えば偏光子又は偏光ビーム分割キューブなどの好適な偏光デバイスによって直線偏光されたレーザビームへと変換されるランダム偏光された(すなわち偏光されていない)レーザ光の少なくとも1つのビームを発出することも、同様に構想可能である。レーザ光を異なる偏光を伴う2つ以上の部分ビームに分割するために1つ以上のビーム分割キューブが使用される場合、照射ビームとして1つの部分ビームだけを使用し、その間他の部分ビームを遮断することができる。あるいは、1つ以上の部分ビームを1つ以上の付加的な製造用装置内の異なる照射システムへと誘導することができる。付加的に又は代替的には、1つ以上の部分ビームを修正することができ、特にその偏光を変更することが可能である。付加的に又は代替的には、同じ偏光を得るために、複数のビームを変化させることができ、これらのビームを組合わせてから、照射システムへ集合的に誘導することができる。
【0010】
照射システムは、単一のレーザビームを原料粉末に照射することができる。しかしながら、照射システムが2つ以上のレーザビームを原料粉末層に照射することも同様に構想可能である。照射システムが2つ以上のレーザビームを原料粉末層に照射する場合、少なくとも1つのレーザビームは、直線偏光されたレーザ光のビームであり得、少なくとも1つの更なるレーザビームはランダム偏光されたレーザ光のビーム、径方向偏光されたレーザ光のビーム及び/又は方位角偏光されたレーザ光のビームであってよい。照射システムにより原料粉末層上に照射される複数のレーザ光ビームは、レーザビーム源の好適なサブユニットによって発出され得る。
【0011】
照射システムは同様に、レーザビーム源が発出した少なくとも1つのレーザビームを分割、誘導及び/又は変化させるための少なくとも1つの光学ユニットも含み得る。光学ユニットは、対物レンズ及びスキャナユニットなどの光学素子を含むことができ、スキャナユニットは好ましくは回析光学素子及び偏向ミラーを含む。
【0012】
照射システムを動作させる方法においては、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きが、原料上の直線偏光されたレーザ放射線の入射面の向きに応じて制御される。本明細書中で使用される「偏光面」なる用語は、入射レーザビームの伝搬ベクトル及び電磁レーザ光波の電場ベクトルによって定義され、したがって電磁レーザ光波の電場の振動面と一致する平面を意味する。本明細書中で使用される「入射面」なる用語は、入射レーザビームの伝搬ベクトル及び、入射レーザビームが衝突する原料表面に垂直に延在する面法線によって定義される平面を意味する。
【0013】
直線偏光されたレーザ放射線の原料上の入射面に対する直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きは、原料によるレーザエネルギの吸収に対し強い影響を有する。したがって、原料上の直線偏光されたレーザ放射線の入射面に応じて偏光面の向きを制御することによって、原料による直線偏光されたレーザ光のエネルギの吸収を制御することができる。
【0014】
原料によるレーザエネルギの吸収を考慮に入れこれを積極的に制御することにより、3次元ワークピースを造形する際のプロセス安定性の改善を達成することができる。さらに、レーザエネルギの吸収を制御された方法で増大させることによって、プロセス生産性を増大させることができる。その結果として、高品質のワークピースを極めて効率的に造形することができる。さらに、例えば現在のところレーザ又は焼成/溶融による加工が困難であるCu及びCu合金などの材料が、原料上の直線偏光されたレーザ放射線の入射面の向きに応じて直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを制御しながら、直線偏光されたレーザ放射線をそれぞれの原料粉末に照射することによって加工可能となり得る。
【0015】
照射システムを動作させる方法の好ましい一実施形態において、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きは、原料上の直線偏光されたレーザ放射線の入射面の向きに応じて制御され、偏光面が入射面に対し実質的に平行に向けられるようになっている。換言すると、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きは、p偏光(p-pol)状態に達するように、直線偏光されたレーザ放射線の原料上の入射面の向きに対して制御される。
【0016】
p偏光状態では、直線偏光されたレーザ放射線の原料によるエネルギの吸収はs偏光(s-pol)状態の場合よりも高く、偏光面は入射面に垂直に延在している。さらに、p偏光状態での直線偏光されたレーザ放射線の吸収は概して、同様にランダム偏光されたレーザ放射線の吸収よりも高い。その結果として、p偏光状態に達するように入射面の向きに対して偏光面の向きを制御することにより、レーザエネルギの吸収を、制御された方法で増大させることができる。
【0017】
好ましくは、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きは、原料粉末層の表面から原料粉末層の体積内へと延在しかつ直線偏光されたレーザ放射線と原料の相互作用に起因して形成される毛細管の内側壁表面上へ直線偏光されたレーザ放射線が入射する面の向きに応じて制御される。毛細管は、原料層上に衝突するレーザビームのエネルギの吸収によって加熱された原料の蒸発に起因して形成される蒸気毛細管であり得る。毛細管のサイズ及び形状は、プロセスチャンバ内部に制御された雰囲気を確立するため及び原料粉末層に照射する際に生成されるスプラッシュ粒子(splash particles)、煙粒子又は煤粒子などの微粒子不純物を除去するために、入射レーザビームの出力、焦点径及び焦点形状、レーザビームの走査速度及び走査方向及び/又は原料の全体にわたるように導かれるガス流量の少なくとも1つのパラメータなどのさまざまなパラメータに左右され得る。
【0018】
原料粉末層上に照射されるレーザビームは、毛細管内に入り、原料粉末層の上部表面とは異なる向きを有する毛細管の内側壁表面に衝突する。例えば、レーザビームが衝突する毛細管の内側壁の表面は、原料粉末層が積層されるキャリアの表面に対して概して実質的に平行に向いている原料粉末層の上部表面に対しておよそ45~90°の角度で、好ましくはおよそ60~80°の角度で延在し得る。直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを制御する際に、原料とレーザビームの相互作用に起因して形成される毛細管の内側壁表面上へ直線偏光されたレーザ放射線の入射する面の向きを考慮することによって、原料によるレーザエネルギの吸収の極めて信頼性の高い正確な制御が可能となる。
【0019】
原料粉末層と交差するレーザビームの走査方向の変更は、通常、原料上の直線偏光されたレーザ放射線の入射面の向きの変更を導く。したがって、原料上の直線偏光されたレーザ放射線の入射面の向きに応じて直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを制御する際に、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きは、好ましくは、原料粉末層と交差する直線偏光されたレーザ放射線の走査方向に応じて更新される。
【0020】
直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを更新するために、偏光デバイス、例えば波長板、詳細には半波長板を回転させることができる。あるいは、放射線ビーム源から発出されたレーザ光の光路内で偏光デバイスの下流側に配設されているコリメータを回転させることができる。さらに、直線偏光されたレーザ放射線のビームを必要に応じて偏向させるための少なくとも1つの偏向ミラー、詳細には一対の偏向ミラーを利用することができる。さらに、直線偏光されたレーザ光のビームを偏向させるために、1つは偏光面の回転を行なうためそして1つはビームの偏向を行なうために利用される2対の偏向ミラーが存在してもよい。好ましい実施形態においては、金属コーティング(例えばアルミニウム、銀、金など)を伴うミラーが用いられる。
【0021】
直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きは、直線偏光されたレーザ放射線のビームが原料粉末層と交差して導かれるときに従う走査パターンの分析に基づいて更新される。走査パターンを分析することにより、原料粉末層と交差するレーザビームの走査方向の変化を決定することができる。その結果として、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを、必要に応じて更新し、且つ、原料粉末層と交差してレーザビームを走査するスキャナユニットの動作と同期化することができる。走査パターンの分析は、3次元ワークピースの造形開始に先立ち、及び/又は3次元ワークピースの造形中にその場で行なわれてよい。
【0022】
直線偏光されたレーザ放射線の原料によるエネルギの吸収は、原料上へのレーザビームの入射角によって大きく左右される。p偏光状態でかつ少なくともおよそ10~80°の入射角について、吸収は、入射角の増加に伴って増大する。本明細書中で使用される「入射角」なる用語は、入射レーザビームが衝突する原料表面に直交して延在する面法線と入射レーザビームの伝搬ベクトルの間の角度を意味する。
【0023】
原料粉末層を選択的に照射するため、すなわち原料粉末層と交差してレーザビームを走査するために、レーザビームは、原料粉末層の上部表面に直交して延在する面法線に対して偏向させられる。その結果として、入射角は、原料粉末層の上部表面に直交して延在する面法線との関係における入射レーザビームの偏向角度、ひいてはスキャナユニットの動作状態により左右される。さらに、入射角は、入射レーザビームが衝突する原料表面の向きに左右される。
【0024】
直線偏光されたレーザビームの入射角以外に、多くの更なるプロセスパラメータが、原料によるレーザエネルギの吸収に影響を及ぼし得る。これらのパラメータには、直線偏光されたレーザ放射線のビームの出力、焦点径、及び焦点形状が含まれ得る。さらに、走査速度、走査モード(リーディング(leading)又はトレーリング(trailing))、走査方向、原料粉末層と交差してレーザビームが導かれるときに従う走査パターンが、原料によるレーザエネルギの吸収に対する効果を有し得る。同様に、プロセスチャンバを通って及び原料粉末層の表面全体にわたって導かれるガス流量、詳細にはガス流量の流速及び体積流量ならびにガスの種類も、吸収に影響を及ぼし得る。
【0025】
したがって、照射システムを動作させる方法の好ましい一実施形態においては、直線偏光されたレーザ放射線のビームの出力、焦点径及び焦点形状のうちの少なくとも1つ、及び/又は走査速度、走査モード、走査方向及び直線偏光されたレーザ放射線のビームが原料粉末層と交差して導かれるときに従う走査パターンのうちの少なくとも1つ、及び/又は原料粉末層全体にわたって導かれるガス流量の少なくとも1つのパラメータが、原料上の直線偏光されたレーザ放射線のビームの入射角に応じて制御される。
【0026】
材料によるレーザエネルギの吸収に影響を及ぼす更なる1つ以上のプロセスパラメータと、直線偏光されたレーザビームの入射角とを相関することによって、一方では、吸収の極めて信頼性の高い制御を達成することができ、原料の過熱を回避することができる。他方では、手順上の効率を増大させることができる。例えば、レーザ出力の減少及び/又は走査速度の増加の結果としての吸収の低下を、好適な入射角での吸収の増大により補償することができる。さらに、特定の原料について、原料に対し加えられるエネルギは、例えばこれらの材料の加工を可能にする目的で、入射角を好適に制御することにより、制御された方法で増加させることができる。
【0027】
直線偏光されたレーザ放射線のビームを、走査ストラテジー(scan strategy)にしたがって原料粉末層と交差して走査させることができ、第1のベクトル方向に向いた複数の走査ベクトルが連続的に走査されてから、第1のベクトル方向とは異なる第2のベクトル方向を向く少なくとも1つの走査ベクトルが走査される。直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを変更することなく、第1のベクトル方向v1を向く走査ベクトルを、方向+v1で「前進方向に」そして方向-v1で「後退方向に」走査することができる。同様にして、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを変更することなく、第2のベクトル方向v2を向く走査ベクトルを、方向+v2で「前進方向に」そして方向-v2で「後退方向に」走査することができる。したがって、ベクトル方向、すなわちベクトルの延在方向が変更される場合にのみ、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きの変更が必要とされる。このような走査ストラテジーでは、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きの「更新数」を削減することができる。その結果として、更新プロセスを単純化することができる。
【0028】
照射システムを動作させる方法の一実施形態においては、原料粉末層の第1区域に直線偏光されたレーザ放射線が選択的に照射され、原料粉末層の第2区域に、ランダム化されたレーザ放射線、径方向に偏光されたレーザ放射線及び/又は方位角偏光されたレーザ放射線が選択的に照射され得る。第2区域は、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きの高頻度及び/又は高速の更新を必要とする走査ストラテジーにしたがって照射されるように意図されている原料粉末層の区域であり得る。例えば、第2区域は、複数の方向を向く走査ベクトル及び/又は短かい走査ベクトルを高密度で含む走査パターンにしたがって照射されるように意図され、及び/又は高い走査速度で照射されるように意図されている原料粉末層の一区域であり得る。
【0029】
詳細には、原料粉末層の第1区域は、原料粉末層を選択的に照射することによって生成されるワークピース層のハッチング区域(hatch section)であり得る。原料粉末層の第2区域は、原料粉末層を選択的に照射することによって生成されるワークピース層の輪郭区域であり得る。その結果として、上述の通りの直線偏光されたレーザ放射線を原料粉末層に照射することの利点を、ワークピース層の大部分の領域を主に形成するハッチング区域の中で実現することができる。同時に、輪郭区域内の偏光面の向きを更新する際に発生し得る問題点を回避することができる。
【0030】
照射システムを動作させる方法の更なる実施形態においては、複数の直線偏光されたレーザ放射線のビームが、走査ストラテジーにしたがって原料粉末層の重複区域を越えて走査されることができ、全ての走査ベクトルは同じ走査モードにしたがって走査される。本明細書中で使用される「重複区域」なる用語は、2つ以上のレーザビームを照射できる原料粉末層の一区域を定義する。例えば、原料粉末層の重複区域においては、全ての走査ベクトルが、トレーリング走査モードにしたがって走査されるか又は、全ての走査ベクトルがリーディング走査モードにしたがって走査される。こうして、重複区域では、原料によるレーザ放射線の吸収は走査モードによる影響を受けず、したがってより高い信頼性で制御可能である。
【0031】
3次元ワークピースを造形する目的でレーザ放射線を原料粉末層に照射するための照射システムが、キャリア上に積層される原料粉末層の少なくとも1区域に、直線偏光されたレーザ放射線を選択的に照射するように構成されている。該照射システムは、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを、原料上の直線偏光されたレーザ放射線の入射面の向きに応じて制御するように構成された制御デバイスを含んでいる。
【0032】
照射システムの制御デバイスは、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを、原料上の直線偏光されたレーザ放射線の入射面の向きに応じて制御し、こうして偏光面が入射面に対し実質的に平行に向けられるように構成され得る。こうしてp偏光状態を達成することができる。
【0033】
制御デバイスはさらに、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを、原料粉末層の表面から原料粉末層の体積内へと延在しかつ直線偏光されたレーザ放射線と原料との相互作用に起因して形成される毛細管の内側壁表面上への直線偏光されたレーザ放射線の入射面の向きに応じて制御するように構成され得る。
【0034】
その上、制御デバイスは、原料上の直線偏光されたレーザ放射線の入射面の向きに応じて直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを制御する際に、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを、原料粉末層と交差する直線偏光されたレーザ放射線の走査方向に応じて更新するように構成されていてよい。
【0035】
具体的には、制御デバイスは、直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを、直線偏光されたレーザ放射線のビームが原料粉末層と交差して導かれるときに従う走査パターンの分析に基づいて更新するように構成され得る。走査パターンの分析は、3次元ワークピースの造形開始に先立ち、及び/又は3次元ワークピースの造形中にその場で行なわれ得る。
【0036】
制御デバイスはさらに、直線偏光されたレーザ放射線のビームの出力、焦点径及び焦点形状のうちの少なくとも1つ、及び/又は走査速度、走査方向、走査モード及び/又は直線偏光されたレーザ放射線のビームが原料粉末層と交差して導かれるときに従う走査パターンのうちの少なくとも1つ、及び/又は原料粉末層全体にわたって導かれるガス流量の少なくとも1つのパラメータを、原料上の直線偏光されたレーザ放射線のビームの入射角に応じて制御するように構成され得る。
【0037】
代替的又は付加的に、制御デバイスは、直線偏光されたレーザ放射線のビームが、走査ストラテジーにしたがって原料粉末層と交差して走査され、第1のベクトル方向を向く複数の走査ベクトルが連続的に走査されてから、第1のベクトル方向とは異なる第2のベクトル方向を向く少なくとも1つの走査ベクトルが走査されるようにスキャナユニットを制御するように構成され得る。
【0038】
さらに、制御デバイスは、原料粉末層の第1区域に直線偏光されたレーザ放射線が選択的に照射され、原料粉末層の第2区域に、ランダム化されたレーザ放射線、径方向に偏光されたレーザ放射線及び/又は方位角偏光されたレーザ放射線が選択的に照射されるように、構成され得る。
【0039】
原料粉末層の第1区域は、原料粉末層を選択的に照射することによって生成されるワークピース層のハッチング区域であり得る。原料粉末層の第2区域は、原料粉末層を選択的に照射することによって生成されるワークピース層の輪郭区域であり得る。
【0040】
制御デバイスは同様に、複数の直線偏光されたレーザ放射線のビームが、走査ストラテジーにしたがって原料粉末層の重複区域と交差して走査され、全ての走査ベクトルが同じ走査モードにしたがって走査されるような形でスキャナユニットを制御するように構成され得る。
【0041】
3次元ワークピースを造形するための装置には、上述の照射システムが備わっている。
【0042】
本発明の好ましい実施形態について、以下で添付の概略的図面を参照しながらさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、レーザ放射線を原料粉末に照射することによって3次元ワークピースを造形するための装置を示す。
【
図2】
図2は、
図1の装置内で利用される照射システムを示す。
【
図3】
図3は、直線偏光されたレーザ放射線と原料の相互作用を例示する。
【
図4】
図4は、原料によるレーザ放射線の吸収の、レーザ放射線の偏光状態及び原料上のレーザビームの入射角に対する依存性を標示する図表を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、積層造形法によって3次元ワークピースを造形するための装置100を示す。装置100は、キャリア102及びキャリア102上に原料粉末を積層するための粉末塗布装置104を含む。キャリア102及び粉末塗布装置104は、周囲雰囲気に対し封止可能であるプロセスチャンバ106の内部に収容される。キャリア102は、ワークピース110がキャリア
102上の原料粉末から層状に構築されるにつれて、ワークピース110の構造高さの増大に伴ってキャリア102を下向きに移動させることができるように、構築シリンダ108内へと上下方向に変位可能である。キャリア102は、加熱器及び/又は冷却器を含み得る。
【0045】
装置100はさらに、キャリア102上に積層された原料粉末層11上にレーザ放射線を選択的に照射するための照射システム10をさらに含む。
図1に示された装置100の実施形態において、照射システム10は、各々レーザビーム14a、14bを発出するように構成されている2つのレーザビーム源12a、12bを含む。レーザビーム源12a、12bによって発出されるレーザビーム14a、14bを誘導し変化させるための光学ユニット16a、16bが、放射線ビーム源12a、12bの各々に結び付けられている。しかしながら、照射システム10には、単一のレーザビーム源及び単一の光学ユニットが装備されていて、その結果として単一のレーザビームしか発出しないことも同様に構想可能である。照射システム10及び装置100の更なる構成部品、例えば粉末塗布装置104の動作を制御するために、制御デバイス18が具備される。
【0046】
プロセスガス入口112を介してプロセスチャンバ106へシールドガスを供給することによって、プロセスチャンバ106内に制御されたガス雰囲気、好ましくは不活性ガス雰囲気が確立される。ガスは、プロセスチャンバ106を通り、キャリア102上に積層された原料粉末層11にわたって導かれた後、ガスは、プロセスガス出口114を介してプロセスチャンバ106から放出される。プロセスガス入口112からプロセスチャンバ106を通ってプロセスガス出口114までのシールドガスの流れ方向は、矢印Fで標示されている。プロセスガスは、プロセスガス出口114からプロセスガス入口112まで再循環されてもよく、その時点で冷却又は加熱されてもよい。
【0047】
3次元ワークピースを造形するための装置100の動作中、粉末塗布装置104を用いてキャリア102上に原料粉末層11が積層される。原料粉末層11を積層する目的で、粉末塗布装置104は、制御ユニット18の制御下で、キャリア102の全体にわたって移動させられる。その後、再び制御ユニット18の制御下で、原料粉末層11には、照射デバイス10を用いて造形すべきワークピース110の対応する層の幾何形状にしたがって、レーザ放射線が選択的に照射される。キャリア102上に原料粉末層11を積層するステップ及び、造形すべきワークピース110の対応する層の幾何形状にしたがって原料粉末層11にレーザ放射線を選択的に照射するステップは、ワークピース110が所望の形状及びサイズに達するまで繰返される。
【0048】
照射システム10によって原料粉末層11と交差して照射されるレーザビーム14a、14bのうち少なくとも1つは、直線偏光されたレーザ放射線のビームである。レーザビーム源12a及び光学ユニット16aのより詳細な例示は、
図2に示されている。レーザビーム源12aは、直線偏光されたレーザ放射線、例えば波長450nmのレーザ光すなわち「青色」レーザ光又は、532nmの波長のレーザ光すなわち「緑色」レーザ光、又は1000nm~1090nmの範囲内又は1530nm~1610nmの範囲内の波長のレーザ光すなわち「赤外線」レーザ光を発出する。偏光デバイス20は、偏光面の回転のために使用され、例えば、回転可能な形で組付けられた波長板、詳細には半波長板の形で設計されてよい。直線偏光されたレーザビーム14aは、スキャナユニット22を用いて原料粉末層11の全体にわたって走査される。
【0049】
原料粉末層11に衝突するレーザビーム14aにより原料粉末内に導入されるレーザエネルギは、原料粉末を溶融及び/又は焼結させる。具体的には、レーザビーム14aが原料粉末に衝突する領域内で、溶融した原料の溶融プールが、生成される。さらに、
図3中により詳細に例示されている蒸気毛細管24が、原料に衝突するレーザビーム14aのエネルギの吸収によって加熱された原料の蒸発に起因して形成される。
【0050】
レーザビーム14aは毛細管24内に入り、原料粉末層11の上部表面28と異なる向きを有する毛細管24の内側壁表面26に衝突する。
図3に例示されている例示的実施形態において、レーザビームが衝突する毛細管の内側壁の表面26は、キャリア102の表面に対して実質的に平行に向けられている原料粉末層11の上部表面28との関係においておよそ75~80°の角度γで延在している。
【0051】
図3に例示されている例示的実施形態において、レーザビーム14aは、リーディング走査モードで矢印Sにより標示された走査方向で原料粉末層11の全体にわたって走査される。原料上すなわち毛細管24の内側壁の表面26上へのレーザビーム14aの入射面が、入射レーザビーム14aの伝搬ベクトルP及び、入射レーザビーム14aが衝突する原料表面26に直交して延在する面法線Nによって定義される。入射レーザビーム14aの伝搬ベクトルPと面法線Nとの間で、入射角αが定義される。
【0052】
照射システム10の動作中、制御デバイス18は、原料の上の直線偏光されたレーザビーム14aの入射面の向きに応じて、直線偏光レーザビーム14aの偏光面の向きを制御する。具体的には、制御デバイス18は、毛細管24の内側壁表面26上の直線偏光されたレーザビーム14aの入射面の向きに応じて、直線偏光されたレーザビーム14aの偏光面の向きを制御する。
【0053】
図4から明らかになるように、原料上の直線偏光されたレーザ放射線の入射面に対する直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きは、原料によるレーザエネルギの吸収に対して強い影響を有する。原料上への直線偏光されたレーザ放射線の入射面の向きに対して平行な、直線偏光されたレーザ放射線14aの偏光面の向きによって定義されるp偏光状態において、原料によるレーザエネルギの吸収は、原料上の直線偏光されたレーザ放射線への入射面の向きに対して直交している、直線偏光されたレーザ放射線14aの偏光面の向きによって定義されるs-pol状態における原料によるレーザエネルギの吸収よりも高い。p偏光状態において、原料によるレーザエネルギの吸収は同様に、ランダム偏光されたレーザビームのエネルギの吸収よりも高い。したがって、制御デバイス18は、偏光面が入射面に対し実質的に平行になるように、すなわちp偏光状態に達するように、原料上の直線偏光されたレーザビーム14aの入射面の向きに応じて、直線偏光されたレーザビーム14aの偏光面の向きを制御する。
【0054】
原料粉末層11と交差するレーザビーム14aの走査方向Sの変更は、原料上への直線偏光されたレーザビーム14aの直線偏光されたレーザ放射線の入射面の向きの変更を導く。したがって、制御デバイス18は、原料上への直線偏光されたレーザビーム14aの入射面の向きに応じて直線偏光されたレーザビーム14aの偏光面の向きを制御する際に、直線偏光されたレーザビーム14aの偏光面の向きを、原料粉末層(11)と交差する直線偏光されたレーザビーム14aの走査方向Sに応じて更新する。
【0055】
図2の例示的配設において、直線偏光されたレーザビーム14aの偏光面の向きの更新は、偏光デバイス20を適切に回転させることによって達成される。制御デバイス18は、原料粉末層11と交差する直線偏光されたレーザビーム14aが導かれるときに従う走査パターンの分析に基づいて、直線偏光されたレーザビーム14aの偏光面の向きの更新を行なう。走査パターンの分析は、3次元ワークピース110の造形開始に先立って、及び/又は3次元ワークピース110の造形中にその場で行なわれ得る。
【0056】
直線偏光されたレーザビーム14aの偏光面の向きの更新を簡略化する目的で、直線偏光されたレーザ14aは、走査ストラテジーにしたがって原料粉末層11と交差して走査され、第1の方向に向く複数の走査ベクトルが連続的に走査されてから、第1の方向とは異なる第2の方向に向く少なくとも1つの走査ベクトルが走査される。このような走査ストラテジーは、走査方向Sの変更の数、ひいては、直線偏光されたレーザビーム14aの偏光面の向きを更新するために行なわれなければならない偏光デバイス20の回転数を削減する。
【0057】
図4はさらに、直線偏光されたレーザ放射線の原料によるエネルギの吸収が、原料上へのレーザビーム14aの入射角αによって大きく左右されることを例示している。入射角αはそれ自体、原料粉末層11の上部表面28に直交して延在する面法線に対する入射レーザビーム14aの偏向角α、ひいては、スキャナユニット22の動作状態によって左右される。さらに、入射角αは、入射レーザビーム14aが衝突する原料表面26の向きにより左右される。p偏光状態において、かつ少なくともおよそ10~80°の入射角について、吸収は、入射角αの増加に伴って増大する。吸収、入射角及び偏光の間の関係は同様に、材料依存性かつ温度依存性である場合もある。
【0058】
原料によるレーザエネルギ吸収の極めて信頼性の高い制御を可能にする目的で、制御デバイス18は、照射システム10の動作を制御する際に、直線偏光されたレーザビーム14aの入射角αの他に、原料によるレーザエネルギの吸収に影響を及ぼし得る多くの更なるプロセスパラメータも考慮する。具体的には、制御デバイス18は、直線偏光されたレーザビーム14aの出力、焦点径及び焦点形状のうちの少なくとも1つ、及び/又は走査速度、走査モード、走査方向S及び直線偏光されたレーザビーム14aのビームが原料粉末層11と交差して導かれるときに従う走査パターンのうちの少なくとも1つ、及び/又は原料粉末層11にわたって導かれるガス流量の少なくとも1つのパラメータを、原料上の直線偏光されたレーザビーム14aの入射角αに応じて制御する。
【0059】
レーザビーム源12b及び光学ユニット16bは、レーザビーム14bも同様に直線偏光されたレーザビーム14bであるように、レーザビーム源12a及び光学ユニット16aと同じ設計のものであってよい。このような場合、制御デバイス18は、全ての走査ベクトルが同じ走査モードにしたがって走査される走査ストラテジーにしたがって、直線偏光されたレーザビーム14a、14bが原料粉末層11の重複区域にわたって走査されるような方法で、照射システム10の動作を制御する。詳細には、原料粉末層11の重複区域において、全ての走査ベクトルは、原料によるレーザエネルギの吸収に対する走査モードの影響を無くすように、トレーリング走査モード又はリーディング走査モードのいずれかにしたがって走査される。
【0060】
しかしながら、レーザビーム源12b及び光学ユニット16bを、ランダム化されたレーザビーム14b、ランダム偏光されたレーザビーム14b及び/又は方位角偏光されたレーザビーム14bを発出するように構成することも同様に構想可能である。このような場合、原料粉末層11の第1区域に直線偏光されたレーザ放射線を選択的に照射し、原料粉末層11の第2区域にランダム化されたレーザ放射線、径方向に偏光されたレーザ放射線及び/又は方位角偏光されたレーザ放射線を選択的に照射することができる。具体的には、原料粉末層11の第1区域は、原料粉末層11を選択的に照射することによって生成されるワークピース層のハッチング区域であってよく、原料粉末層11の第2区域は、原料粉末層11を選択的に照射することにより生成されるワークピース層の輪郭区域であってもよい。
なお、本発明の実施態様として、以下に示すものがある。
[態様1]
3次元ワークピース(110)を造形するためにレーザ放射線を原料粉末層に照射する照射システム(10)を動作させる方法において、キャリア(102)上に積層された原料粉末層(11)の少なくとも1区域に、直線偏光されたレーザ放射線が選択的に照射され、前記直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きが、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記原料上への入射面の向きに応じて制御される、方法。
[態様2]
前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きが、前記原料上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記入射面の前記向きに応じて制御され、前記偏光面が前記入射面に対し実質的に平行に向けられるようになっている、
態様1に記載の方法。
[態様3]
前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きが、前記原料粉末層(11)の表面(28)から前記原料粉末層(11)の体積内へと延在しかつ前記直線偏光されたレーザ放射線と前記原料の相互作用に起因して形成される毛細管(24)の内側壁表面(26)上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記入射面の前記向きに応じて制御される、
態様1又は2に記載の方法。
[態様4]
前記原料上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記入射面の前記向きに応じて前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きを制御する際に、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きが、前記原料粉末層(11)と交差する前記直線偏光されたレーザ放射線の走査方向(S)に応じて更新される、
態様1ないし3のいずれかの態様に記載の方法。
[態様5]
前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きは、前記直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)が前記原料粉末層(11)と交差して導かれるときに従う走査パターンの分析に基づいて更新され、前記走査パターンの前記分析は、前記3次元ワークピース(110)の造形の開始に先立ち、及び/又は前記3次元ワークピース(110)の前記造形中にその場で行なわれる、
態様4に記載の方法。
[態様6]
前記直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)の出力、焦点径及び焦点形状のうちの少なくとも1つ、及び/又は走査速度、走査方向(S)、走査モード及び/又は前記直線偏光されたレーザ放射線の前記ビーム(14a、14b)が前記原料粉末層(11)と交差して導かれるときに従う走査パターンのうちの少なくとも1つ、及び/又は前記原料粉末層(11)にわたって導かれるガス流量の少なくとも1つのパラメータが、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記ビーム(14a、14b)の前記原料上への入射角(α)に応じて制御される、
態様1ないし5のいずれかの態様に記載の方法。
[態様7]
前記直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)が、走査ストラテジーにしたがって前記原料粉末層(11)と交差して走査され、第1のベクトル方向を向く複数の走査ベクトルが連続的に走査されてから、前記第1のベクトル方向とは異なる第2のベクトル方向を向く少なくとも1つの走査ベクトルが走査される、
態様1ないし6のいずれかの態様に記載の方法。
[態様8]
前記原料粉末層(11)の第1区域に前記直線偏光されたレーザ放射線が選択的に照射され、前記原料粉末層(11)の第2区域にランダム化されたレーザ放射線、ラジアル偏光されたレーザ放射線及び/又は方位角偏光されたレーザ放射線が選択的に照射される、
態様1ないし7のいずれかの態様に記載の方法。
[態様9]
前記原料粉末層(11)の前記第1区域が、前記原料粉末層(11)を選択的に照射することによって生成されるワークピース層のハッチング区域であり、及び/又は、前記原料粉末層(11)の前記第2区域が、前記原料粉末層(11)を選択的に照射することによって生成されるワークピース層の輪郭区域である、
態様8に記載の方法。
[態様10]
複数の直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)が、走査ストラテジーにしたがって前記原料粉末層(11)の重複区域と交差して走査され、全ての走査ベクトルが同じ走査モードにしたがって走査される、
態様1ないし9のいずれかの態様に記載の方法。
[態様11]
3次元ワークピース(110)を造形するためにレーザ放射線を原料粉末層に照射する照射システム(10)において、キャリア(102)上に積層された原料粉末層(11)の少なくとも1区域に、直線偏光されたレーザ放射線を選択的に照射するように構成されており、前記直線偏光されたレーザ放射線の偏光面の向きを、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記原料上への入射面の向きに応じて制御するように構成された制御デバイス(18)を含んでいる、照射システム(10)。
[態様12]
制御デバイス(18)が、
- 前記偏光面が前記入射面に対し実質的に平行に向けられるように、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きを、前記原料上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記入射面の前記向きに応じて制御し;
- 前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きを、前記原料粉末層(11)の表面(28)から前記原料粉末層(11)の体積内へと延在しかつ前記直線偏光されたレーザ放射線と前記原料の相互作用に起因して形成される毛細管(24)の内側壁表面(26)上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記入射面の前記向きに応じて制御する、
ように構成されている、態様11に記載の照射システム(10)。
[態様13]
前記制御デバイス(18)が、前記原料上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記入射面の前記向きに応じて前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きを制御する際に、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きを、前記原料粉末層(11)と交差する前記直線偏光されたレーザ放射線の走査方向に応じて更新するように構成されている、
態様11又は12に記載の照射システム(10)。
[態様14]
前記直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)が前記原料粉末層(11)と交差して導かれるときに従う走査パターンの分析に基づいて、前記直線偏光されたレーザ放射線の前記偏光面の前記向きを更新するように、前記制御デバイス(18)が構成されており、前記走査パターンの前記分析は、前記3次元ワークピース(110)の造形の開始に先立ち、及び/又は前記3次元ワークピース(110)の前記造形中にその場で行なわれる、
態様13に記載の照射システム(10)。
[態様15]
前記制御デバイス(18)が、
- 前記直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)の出力、焦点径及び焦点形状のうちの少なくとも1つ、及び/又は走査速度、走査方向、走査モード及び/又は前記直線偏光されたレーザ放射線の前記ビーム(14a、14b)が前記原料粉末層(11)と交差して導かれるときに従う走査パターンのうちの少なくとも1つ、及び/又は前記原料粉末層(11)にわたって導かれるガス流量の少なくとも1つのパラメータを、前記原料上の前記直線偏光されたレーザ放射線の前記ビーム(14a、14b)の入射角(α)に応じて制御するように;及び/又は、
- 前記直線偏光されたレーザ放射線の前記ビーム(14a、14b)が、走査ストラテジーにしたがって前記原料粉末層(11)と交差して走査され、第1のベクトル方向を向く複数の走査ベクトルが連続的に走査されてから、前記第1のベクトル方向とは異なる第2のベクトル方向を向く少なくとも1つの走査ベクトルが走査されるように、スキャナユニット(22)を制御するように;及び/又は
- 前記原料粉末層(11)の第1区域に前記直線偏光されたレーザ放射線が選択的に照射され、前記原料粉末層(11)の第2区域にランダム化されたレーザ放射線、ラジアル偏光されたレーザ放射線及び/又は方位角偏光されたレーザ放射線が選択的に照射されるように;
構成されており、前記原料粉末層(11)の前記第1区域が、特に、前記原料粉末層(11)を選択的に照射することによって生成されるワークピース層のハッチング区域であり、及び/又は、前記原料粉末層(11)の前記第2区域が、特に、前記原料粉末層(11)を選択的に照射することによって生成されるワークピース層の輪郭区域である、
態様1ないし14のいずれかの態様に記載の照射システム(10)。
[態様16]
前記制御デバイス(18)は、複数の直線偏光されたレーザ放射線のビーム(14a、14b)が、走査ストラテジーにしたがって前記原料粉末層(11)の重複区域と交差して走査され、全ての走査ベクトルが同じ走査モードにしたがって走査されるように、スキャナユニット(22)を制御するように構成されている、態様1ないし15のいずれかの態様に記載の照射システム(10)。
[態様17]
態様11ないし16のいずれかの態様に記載の照射システムが備わっている、3次元ワークピース(110)を造形するための装置(100)。