(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】粒子状物質による細胞損傷防止活性を有するペプチドおよびその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20240719BHJP
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A61P 27/06 20060101ALI20240719BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240719BHJP
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A61P 37/08 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A61K8/00
A61K38/08
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A61Q5/02
A61Q19/00
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A61P7/06
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A61P9/06
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A61P15/00
A61P17/00
A61P17/04
A61P17/06
A61P17/08
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A61P17/16
A61P25/00
A61P25/02
A61P27/02
A61P27/04
A61P27/06
A61P35/00
A61P37/02
A61P37/08
(21)【出願番号】P 2023530927
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 KR2020016910
(87)【国際公開番号】W WO2022114261
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】10-2020-0159849
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510271129
【氏名又は名称】ケアジェン カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAREGEN CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヨンジ
(72)【発明者】
【氏名】キム ウンミ
(72)【発明者】
【氏名】リ ウンジ
(72)【発明者】
【氏名】カン ハンア
(72)【発明者】
【氏名】ファン ボビョル
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/171285(WO,A1)
【文献】特表2020-515547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む粒子状物質による細胞損傷防止用組成物。
【請求項3】
前記細胞損傷は、皮膚細胞、呼吸器細胞または角膜細胞の損傷である、請求項2に記載の粒子状物質による細胞損傷防止用組成物。
【請求項4】
前記ペプチドは、アリール炭化水素受容体(Aryl Hydrocarbon Receptor、AHR)の活性化を抑制する、請求項2に記載の粒子状物質による細胞損傷防止用組成物。
【請求項5】
前記ペプチドは、シトクロム(Cytochrome)P450の活性を抑制する、請求項2に記載の粒子状物質による細胞損傷防止用組成物。
【請求項6】
前記粒子状物質は、多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons、PAHs)を含む、請求項2に記載の粒子状物質による細胞損傷防止用組成物。
【請求項7】
配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む粒子状物質による皮膚細胞損傷防止用化粧料組成物。
【請求項8】
前記組成物は、皮膚老化、皮膚シワの増加、皮膚弾力の損傷、皮膚色の損傷、色素過形成、シミ、ソバカス、皮膚の乾燥、皮膚炎症、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、または乾癬の改善用途である、請求項7に記載の化粧料組成物。
【請求項9】
前記組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、ゲル、ローション、エッセンス、クリーム、パウダー、せっけん、シャンプー、リンス、パックマスク、界面活性剤-含有クレンジング、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、オイル、リキッドファンデーション、クリームファンデーション、およびスプレーからなる群から選択される1種の剤形を有する、請求項7に記載の化粧料組成物。
【請求項10】
配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む粒子状物質によって引き起こされる疾患の治療または予防用薬学的組成物。
【請求項11】
前記粒子状物質によって引き起こされる疾患は、アトピー皮膚炎、接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、ニキビ、皮膚乾燥症、乾癬;アレルギー性鼻炎、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、肺機能減少、喘息、気管支拡張症、特発性肺線維症、慢性閉鎖性肺疾患、嚢胞性線維症、細気管支炎、急性上気道感染症、肺炎、副鼻腔炎、咽頭炎、扁桃炎、喉頭炎;眼球乾燥症、アレルギー性結膜炎、緑内障、白内障、黄斑変性、網膜出血、網膜剥離、網膜色素変性症、老人性黄斑変性、糖尿病性網膜症;ガン、免疫毒性、末梢神経系損傷、中枢神経系損傷、内分泌腺異常、生殖器官障害、乳児および幼児の発達障害、貧血、不整脈、心臓麻痺、狭心症、および心筋梗塞症からなる群から選択される疾患である、請求項10に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記ペプチドは、アリール炭化水素受容体(Aryl Hydrocarbon Receptor、AHR)の活性化を抑制する、請求項10に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記ペプチドは、シトクロム(Cytochrome)P450の活性を抑制する、請求項10に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記粒子状物質は、多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons、PAHs)を含む、請求項10に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、粒子状物質による細胞の損傷を防止する活性を有するペプチドおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子状物質(particulate matter)は、目に見えないほど小さな粒子の微粒子を意味する。粒子状物質は、亜硫酸ガス、窒素酸化物、鉛、オゾン、一酸化炭素などを含む大気汚染物質であり、自動車、工場、調理過程などで発生し、大気中に長期間浮遊する。大気中に浮遊する直径50μm以下の微粒子を全浮遊粒子(TSP、total suspended particle)と称し、通常、このTSPのうち10μmより小さい微粒子を粒子状物質と定義する。粒子状物質は、粒子の直径に応じて、10μm以下の直径を有する場合にはPM10とし、粒子径が2.5μm以下である場合にはPM2.5とし、これを「微小粒子状物質」または「極粒子状物質」とも称する。
【0003】
粒子状物質は、炭素、有機炭化水素、硝酸塩、硫酸塩、有害金属成分を含んでおり、呼吸器疾患、心血管系疾患、眼球疾患、ガン、皮膚疾患、頭痛などを直接引き起こすか、これらの疾患をより悪化させるものと知られている。また、粒子状物質は、粒子のサイズが皮膚の毛穴の5分の1ほど小さいため、粒子状物質が皮膚の中に浸透すると、皮膚外層の保護膜の機能が損傷し、刺激に対して敏感になる。
【0004】
粒子状物質の中に含まれている多環芳香族炭化水素(polyaromatic hydrocarbons、PAHs)は、皮膚の毛嚢を介して皮膚の中に入ってメラニン細胞と色素斑を増加させ、コラーゲン合成の減少と分解を増加させてシワ生成および弾力低下を引き起こし、皮膚の老化を促進する。多環芳香族炭化水素は、細胞内に浸透することができ、細胞内に浸透したアリール炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon receptor、AHR)と結合して、核内に移動する。核内に移動したAHRは、ARNT(AHR nuclear translocator)と複合体AHR/ARNTを形成し、この複合体「AHR/ARNT」は、DNA上、AHRE(AHR responsive element)、DRE(Dioxin responsive element)、XRE(Xenobiotic responsive element)配列に結合し、活性酸素種(ROS、reactive oxygen species)を発生させるか、CYP1A1、CYP1A2、CYP1B1などの酵素を介して毒性物質を発生させて細胞の損傷を誘導し、様々な炎症媒介因子、メラニン合成関連転写因子である小眼球症連関転写要素(Microphthalmiaassociated transcription factor;Mitf)、シワ生成関連酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix metalloproteases;MMPs)の発現を増加させて、皮膚では、皮膚炎、色素過形成(シミ、ソバカスなど)、シワなどを引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国登録特許第10-2065171号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、身体の細胞が粒子状物質と接触する場合に引き起こされる細胞の損傷を防止することができる活性を有するペプチドを開発するために鋭意研究を重ねた。結果、本発明者らが開発したペプチドが、粒子状物質によって誘導されるAHRの活性化を抑制し、且つAHRの活性化によって誘導されるシトクロムP450の活性も抑制することで、細胞保護活性を有することを実験的に証明し、本発明を完成するに至った。
【0007】
したがって、本発明の目的は、粒子状物質によって誘導される細胞の損傷を効果的に防止する活性を有するペプチドを提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、上述の活性を有するペプチドを有効成分として含む細胞損傷防止用組成物を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、上述の活性を有するペプチドを有効成分として含む皮膚細胞損傷防止用化粧料組成物を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、上述の活性を有するペプチドを有効成分として含む粒子状物質との接触によって引き起こされる疾患の治療または予防用薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、
本発明の一側面は、配列番号1のアミノ酸配列からなる、粒子状物質による細胞損傷防止活性を有するペプチドを提供する。
【0012】
本発明の他の側面は、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む粒子状物質による細胞損傷防止用組成物を提供する。
【0013】
本発明の他の側面は、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む粒子状物質による皮膚細胞損傷防止用化粧料組成物を提供する。
【0014】
本発明のさらに他の側面は、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む粒子状物質によって引き起こされる疾患の治療または予防用薬学的組成物を提供する。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
1.ペプチドおよび活性
本発明の一様態によると、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを提供する。
【0017】
本明細書の用語「ペプチド」は、ペプチド結合によってアミノ酸残基が互いに結合して形成された直鎖状の分子を意味する。
【0018】
本発明の配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドは、変形なく使用可能であるが、他方、前記ペプチドが有する本来の活性、例えば、粒子状物質による細胞の損傷を保護する活性に影響を及ぼさない範囲内で、アミノ酸残基の欠失、挿入、置換、またはこれらの組み合わせによって相違する配列を有するアミノ酸の変異体または断片であることができる。
【0019】
本発明のペプチドは、その活性を変化させない範囲内で、リン酸化(phosphorylation)、硫化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、糖化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)などで変形されることができる。
【0020】
本発明のペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドと実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドおよびその変異体またはその活性断片を含む。前記実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドは、前記配列番号1のアミノ酸配列とは、それぞれ75%以上、例えば、80%以上、90%以上、95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドを意味する。また、前記ペプチドには、標的化配列、タグ(tag)、標識された残基、半減期またはペプチド安定性を増加させるための特定の目的で製造されたアミノ酸配列がさらに含まれることができる。
【0021】
本発明のペプチドは、アミノ酸配列の一部の部位を選定し、その活性を増加させるために、N-末端および/またはC-末端の変形が誘導されていてもよい。このようなN-末端および/またはC-末端の変形により、本発明のペプチドの安定性を著しく向上させることができ、例えば、ペプチドの生体内投与時に半減期を増加させることができる。前記用語ペプチドの「安定性」は、生体内タンパク質切断酵素の攻撃から本発明のペプチドを保護するインビボでの安定性だけでなく、貯蔵安定性(例えば、常温貯蔵安定性)も含む意味である。
【0022】
前記N-末端の変形は、ペプチドのN-末端に、アセチル基(acetyl group)、フルオレニルメトキシカルボニル基(fluoreonylmethoxycarbonyl group)、ホルミル基(formyl group)、パルミトイル基(palmitoyl group)、ミリスチル基(myristyl group)、ステアリル基(stearyl group)およびポリエチレングリコール(polyethylene glycol;PEG)からなる群から選択された保護基が結合したものであることができる。
【0023】
前記C-末端の変形は、ペプチドのC-末端に、ヒドロキシ基(hydroxyl group、-OH)、アミノ基(amino group、-NH2)、アジド(azide、-NHNH2)などが結合したものであることができるが、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明のペプチドは、本発明が属する技術分野において周知の様々な方法で製造することができる。例えば、本発明のペプチドは、当業界において公知の化学的合成方法、特に、固相合成技術(solid-phasesynthesis techniques;Merrifield、J.Amer.Chem.Soc.85:2149-54(1963);Stewart,et al.,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd.ed.,Pierce Chem.Co.:Rockford,111(1984))または液相合成技術(US登録特許第5,516,891号)によって製造されることができる。
【0025】
本発明のペプチドは、粒子状物質によって引き起こされる細胞の損傷を効果的に防止することができる。
【0026】
粒子状物質の中に含まれている多環芳香族炭化水素(polyaromatic hydrocarbons、PAHs)は、細胞内に浸透することができ、細胞内に浸透した多環芳香族炭化水素は、アリール炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon receptor、AHR)と結合し、核内に移動する。核内に移動したAHRは、ARNT(AHR nuclear translocator)と複合体AHR/ARNTを形成し、この複合体「AHR/ARNT」は、DNA上に存在するAHRE(AHR responsive element)、DRE(Dioxin responsive element)、XRE(Xenobiotic responsive element)配列に結合し、活性酸素種(ROS、reactive oxygen species)を発生させるか、CYP1A1、CYP1A2、CYP1B1などの酵素の発現または活性を増加させ、これにより毒性物質を発生させて細胞の損傷を誘導し、様々な炎症媒介因子の発現も増加させる。
【0027】
本発明のペプチドは、粒子状物質との接触によって細胞内で増加するAHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)の核内移動(nuclear translocation)およびこれによって増加するシトクロムP450活性を著しく抑制することで、粒子状物質によって発生する細胞の損傷を防止することができる。
【0028】
2.細胞損傷防止用組成物
本発明の他の様態によると、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む粒子状物質による細胞損傷防止用組成物を提供する。
【0029】
一実施態様において、前記細胞損傷は、皮膚細胞、呼吸器細胞または角膜細胞の損傷であることができる。
【0030】
他の実施態様において、本発明のペプチドは、AHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)の活性化を抑制する活性を有することができる。前記ペプチドによるAHRの活性化の抑制は、AHRの核内への移動の抑制であることができる。
【0031】
他の実施態様において、本発明のペプチドは、シトクロム(Cytochrome)P450の活性を抑制する活性を有することができる。前記ペプチドによるシトクロムP450の活性の抑制は、シトクロムP450の活性化の抑制または発現(expression)の抑制であることができる。
【0032】
他の実施態様において、前記粒子状物質は、多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons、PAHs)を含むことができる。
【0033】
本発明の他の様態によると、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む粒子状物質による皮膚細胞損傷防止用化粧料組成物を提供する。
【0034】
本発明において、粒子状物質による皮膚細胞の損傷は、例えば、皮膚老化、皮膚シワの増加、皮膚弾力の損傷、皮膚色の損傷、色素過形成、シミ、ソバカス、皮膚の乾燥、皮膚炎症、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、または乾癬を含むことができる。
【0035】
前記化粧料組成物は、皮膚老化、皮膚シワの増加、皮膚弾力の損傷、皮膚色の損傷、色素過形成、シミ、ソバカス、皮膚の乾燥、皮膚炎症、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、または乾癬の改善用途の組成物であることができる。
【0036】
本発明の組成物は、(i)上述の本発明のペプチドの化粧品学的有効量(cosmetically effective amount);および(ii)化粧品学的に許容される担体を含むことができる。
【0037】
前記用語「化粧品学的有効量」は、本発明の組成物が粒子状物質による皮膚細胞損傷防止効能を奏するのに十分な量を意味する。
【0038】
本発明の化粧料組成物は、当業界において通常製造される如何なる剤形にも製造可能であり、例えば、溶液、懸濁液、エマルジョン、ペースト、ゲル、クリーム、ローション、パウダー、せっけん、界面活性剤-含有クレンジング、オイル、パウダーファンデーション、エマルジョンファンデーション、ワックスファンデーションおよびスプレーなどに剤形化されることができるが、これに限定されるものではない。より詳細には、柔軟化粧水、栄養化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、エッセンス、アイクリーム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パック、スプレーまたはパウダーの剤形に製造されることができる。
【0039】
本発明の化粧料組成物の剤形がペースト、クリームまたはゲルである場合には、担体成分として、動物性油、植物性油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、シリカ、タルクまたは酸化亜鉛などが用いられることができる。本発明の化粧料組成物の剤形がパウダーまたはスプレーである場合には、担体成分として、ラクトース、タルク、シリカ、アルミニウムヒドロキシド、カルシウムシリケートまたはポリアミドパウダーが用いられることができ、特に、スプレーである場合には、さらに、クロロフルオロヒドロカーボン、プロパン/ブタンまたはジメチルエーテルのような推進薬を含むことができる。
【0040】
本発明の化粧料組成物の剤形が溶液またはエマルジョンである場合には、担体成分として、溶媒、溶解化剤または乳濁化剤が用いられ、例えば、水、エタノール、イソプロパノール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3-ブチルグリコールオイル、グリセロール脂肪族エステル、ポリエチレングリコールまたはソルビタンの脂肪酸エステルを用いることができる。
【0041】
本発明の化粧料組成物の剤形が懸濁液である場合には、担体成分として、水、エタノールまたはプロピレングリコールのような液状の希釈剤、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールエステルおよびポリオキシエチレンソルビタンエステルのような懸濁剤、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天またはトラガントなどが用いられることができる。
【0042】
本発明の化粧料組成物の剤形が界面-活性剤含有クレンジングである場合には、担体成分として、脂肪族アルコールサルフェート、脂肪族アルコールエーテルサルフェート、スルホコハク酸モノエステル、イセチオネート、イミダゾリニウム誘導体、メチルタウレート、サルコシネート、脂肪酸アミドエーテルサルフェート、アルキルアミドベタイン、脂肪族アルコール、脂肪酸グリセリド、脂肪酸ジエタノールアミド、植物性油、ラノリン誘導体またはエトキシル化グリセロール脂肪酸エステルなどが用いられることができる。
【0043】
本発明の化粧料組成物は、有効成分としてのペプチドと前記担体成分の他に、化粧料組成物に通常使用される成分を含むことができ、例えば、抗酸化剤、安定化剤、溶解化剤、ビタミン、顔料および香料のような通常の補助剤を含むことができる。
【0044】
本発明の他の様態によると、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として含む粒子状物質によって引き起こされる疾患の治療または予防用薬学的組成物を提供する。
【0045】
一実施態様において、本発明のペプチドは、アリール炭化水素受容体(Aryl Hydrocarbon Receptor、AHR)の活性化を抑制する活性を有することができる。前記ペプチドによるAHRの活性化の抑制は、AHRの核内への移動の抑制であることができる。
【0046】
他の実施態様において、本発明のペプチドは、シトクロム(Cytochrome)P450の活性を抑制する活性を有することができる。前記ペプチドによるシトクロムP450の活性の抑制は、シトクロムP450の活性化の抑制または発現(expression)の抑制であることができる。
【0047】
他の実施態様において、前記粒子状物質は、多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons、PAHs)を含むことができる。
【0048】
前記用語「予防」は、粒子状物質によって引き起こされる疾患による症状またはその合併症による症状の発生の抑制を意味し、前記用語「治療」は、すでに発生した粒子状物質によって引き起こされる疾患またはこの疾患の合併症による症状の軽減または除去を意味する。
【0049】
前記粒子状物質によって引き起こされる疾患は、アトピー皮膚炎、接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、ニキビ、皮膚乾燥症、乾癬;アレルギー性鼻炎、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、肺機能減少、喘息、気管支拡張症、特発性肺線維症、慢性閉鎖性肺疾患(COPD;chronic obstructive pulmonary disease)、嚢胞性線維症、細気管支炎、急性上気道感染症、肺炎、副鼻腔炎、咽頭炎、扁桃炎、喉頭炎;眼球乾燥症、アレルギー性結膜炎、緑内障、白内障、黄斑変性、網膜出血、網膜剥離、網膜色素変性症、老人性黄斑変性、糖尿病性網膜症;ガン、免疫毒性、末梢神経系損傷、中枢神経系損傷、内分泌腺異常、生殖器官障害、乳児および幼児の発達障害、貧血、不整脈、心臓麻痺、狭心症、および心筋梗塞症からなる群から選択される疾患であることができるが、これに限定されない。
【0050】
本発明の薬学的組成物は、(i)上述の本発明のペプチドの治療学的有効量(therapeutically effective amount);および(ii)薬学的に許容される担体を含む。
【0051】
前記用語「治療学的有効量」は、本発明の組成物が、粒子状物質によって引き起こされる疾患の治療または予防効能を奏するのに十分な量を意味する。
【0052】
前記薬学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルジネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。好適な薬剤学的に許容される担体および製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.,1995)に詳細に記載されている。
【0053】
本発明の薬学的組成物は、経口または非経口で投与することができ、非経口投与の場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉内注入、腹腔内注入、経皮投与などで投与することができる。
【0054】
本発明の薬学的組成物の好適な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度および反応感応性のような要因に応じて様々であり、普通、熟練された医師は、所望の治療または予防に効果的な投与量を容易に決定および処方することができる。
【0055】
本発明の薬学的組成物の1日投与量は、0.001~10,000mg/kgである。
【0056】
本発明の薬学的組成物は、当該発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施することができる方法によって、薬剤学的に許容される担体および/または賦形剤を用いて製剤化することで、単位容量の形態に製造されるかまたは多容量容器内に内入させて製造されることができる。ここで、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、エキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0057】
本発明のペプチドは、粒子状物質による細胞損傷防止活性が非常に優れており、粒子状物質から皮膚細胞、呼吸器細胞または角膜細胞の損傷を保護するための活性物質として使用可能されることができる。また、本発明のペプチドは、粒子状物質によって引き起こされる様々な疾患の治療剤としても開発されることができる。
【0058】
ただし、本発明の効果は、上記で言及されている効果に制限されず、言及されていないさらに他の効果は、下記の記載から当業者が明確に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】アリール炭化水素受容体(Aryl Hydrocarbon Receptor、AHR)によって媒介されるシグナル伝逹メカニズムを示す模式図である。
【
図2】ヒト角質形成細胞HaCaTで粒子状物質処理によって誘導されたAHRの核内移動の増加が、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドの処理によって著しく減少することを示すウェスタンブロット実験の結果である。
【
図3】ヒト角質形成細胞HaCaTで粒子状物質処理によって誘導されたシトクロムP450の活性増加が、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドの処理によって濃度依存的に減少することを示すP450活性測定実験の結果である。
【
図4】ヒト肺胞上皮細胞A549で粒子状物質処理によって誘導されたシトクロムP450の活性増加が、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドの処理によって濃度依存的に減少することを示すP450活性測定実験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本出願を実施例によって詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本出願を具体的に例示するものであって、本出願の内容が下記の実施例によって限定されない。
【0061】
実施例
製造例1:ペプチドの製造
自動ペプチド合成機(Liberty、CEM Corporation、米国)を用いて、下記の表1に記載の配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドを合成し、C18逆相高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)(U-3000、Thermo fisher scientific、米国)を用いて、これらの合成されたペプチドを純粋分離した。カラムは、Pursuit XRs C18(250*4.65mm100Å、Agilent、米国)を用いた。
【0062】
【0063】
実験例1:AHRの核移動実験(nuclear translocation test)
粒子状物質に存在する多環芳香族炭化水素(polyaromatic hydrocarbons、PAHs)は、AHRのリガンド(ligand)として作用し、PAHが細胞内に浸透してAHRに結合する場合、AHRの核移動を促進する。合成したペプチドの粒子状物質による細胞損傷抑制効果を確認するために、細胞に粒子状物質を処理した後、リガンド-AHR結合時に観察されるAHRの核移動(nuclear translocation)をペプチドが阻害するかを証明する実験を行った。
【0064】
5×105細胞/ウェルの密度(density)で6-ウェルプレートにヒト角質形成細胞(human keratinocyte)であるHaCaT細胞を接種した。一晩インキュベーションした後、無血清培地(serum-free media)に交換した。角質形成細胞HaCaTに合成したペプチドを濃度別(20μm、100μm、200μm)に1時間前処理した。次いで、50μg/cm2の都市粒子状物質(Urban particulate matter、Sigma、NIST1648A)を1時間処理した。角質形成細胞を収集した後、細胞核抽出物を準備してウェスタンブロッティングを行った。ウェスタンブロッティングは、抗-AHR抗体(Cell Signaling Technology社製)を使用して、当業界において公知のプロトコルにしたがって行った。
【0065】
実験結果、
図2に図示されているウェスタンブロッティングの結果から分かるように、粒子状物質を処理していない対照群細胞(Con)に比べて、粒子状物質を処理した細胞(NC)において、AHRの核移動が急激に増加したことを確認することができた。また、配列番号1のアミノ酸配列のペプチドを処理した細胞において、粒子状物質処理によって増加したAHRの核移動の水準が著しく減少することを確認することができた。
【0066】
実験例2:シトクロムP450活性分析
粒子状物質に存在する多環芳香族炭化水素(PAHs)は、細胞内に浸透してAHRに結合する場合、AHRの核移動を促進する。核内に移動したAHRは、ARNT(AHR nuclear translocator)と複合体AHR/ARNTを形成し、この複合体は、転写因子(transcription factor)として作用して、シトクロムP450(CYPs)の発現を促進するものと知られている。合成したペプチドの粒子状物質による細胞損傷抑制効果を確認するために、細胞に粒子状物質を処理した後、シトクロムP450の活性をペプチドが阻害するかを確認する実験を行った。
【0067】
先ず、1×104細胞/ウェルの密度(density)で96-ウェルプレートにヒト角質形成細胞(human keratinocyte)であるHaCaT細胞を接種した。一晩インキュベーションした後、無血清培地(serum-free media)に交換した。角質形成細胞HaCaTに合成したペプチドを濃度別(20μm、100μm、200μm)に1時間前処理した。次いで、50μg/cm2の都市粒子状物質(Urban particulate matter、Sigma、NIST1648A)を24時間処理した。角質形成細胞を収集した後、P450-GloTM Assay kit(Promega)を用いて、シトクロムP450の活性を測定した。
【0068】
実験結果、
図3に図示されているシトクロムP450の活性測定結果から分かるように、粒子状物質を処理していない対照群細胞(Con)に比べて、粒子状物質を処理した細胞(NC)において、シトクロムP450の活性が急激に増加したことを確認することができた。また、配列番号1のアミノ酸配列のペプチドを処理した細胞において、粒子状物質処理によって増加したシトクロムP450の活性が減少することを確認することができた。また、粒子状物質処理によるシトクロムP450活性の増加は、ペプチドを処理した場合、処理したペプチドの濃度に依存的な方式で減少した。
【0069】
また、粒子状物質による呼吸器損傷をペプチドが抑制することができるか確認するために、ヒト肺胞上皮細胞(human alveolar epithelial cell)であるA549細胞に対してもシトクロムP450の活性測定実験を行った。
【0070】
先ず、1.2×104細胞/ウェルの密度(density)で96-ウェルプレートにヒト肺胞上皮細胞A549細胞を接種した。一晩インキュベーションした後、無血清培地(serum-free media)に交換した。肺胞上皮細胞A549に合成したペプチドを濃度別(20μm、100μm、200μm)に1時間前処理した。次いで、50μg/cm2の都市粒子状物質(Urban particulate matter、Sigma、NIST1648A)を24時間処理した。処理した細胞を収集した後、P450-GloTM Assay kit(Promega)を用いて、シトクロムP450の活性を測定した。
【0071】
実験結果、
図4に図示されているシトクロムP450の活性測定結果から分かるように、粒子状物質を処理していない対照群細胞(Con)に比べて、粒子状物質を処理した細胞(NC)において、シトクロムP450の活性が急激に増加したことを確認することができ、配列番号1のアミノ酸配列のペプチドを処理した細胞において、粒子状物質処理によって増加したシトクロムP450の活性が減少することを確認することができた。また、粒子状物質処理によるシトクロムP450活性の増加は、ペプチドを処理した場合、処理したペプチドの濃度に依存的な方式で減少した。
【0072】
以上、本出願の代表的な実施例について例示的に説明しているが、本出願の範囲は、前記のような特定の実施例にのみ限定されず、当該分野において通常の知識を有する者であれば、本出願の請求の範囲に記載の範疇内で適切に変更が可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0073】
配列番号1:Ser Ser Asn Ala Glu Val Leu Ala Leu Phe
【配列表】