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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ジルコニア焼結体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20240719BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20240719BHJP
   A61C 7/14 20060101ALI20240719BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 6/818 20200101ALI20240719BHJP
【FI】
C04B35/486
C04B35/64
A61C7/14
A61C13/083
A61K6/818
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024524565
(86)(22)【出願日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2023020999
(87)【国際公開番号】W WO2023238861
(87)【国際公開日】2023-12-14
【審査請求日】2024-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2022094106
(32)【優先日】2022-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023031663
(32)【優先日】2023-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162205
【氏名又は名称】共立マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】川合 瑛
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/065452(WO,A1)
【文献】特表2006-513963(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0023971(US,A1)
【文献】特開2021-059489(JP,A)
【文献】特開2018-052806(JP,A)
【文献】特開2010-025452(JP,A)
【文献】特開2011-178610(JP,A)
【文献】特開2011-073907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48 - 35/493
C04B 35/64 - 35/657
A61C 7/14
A61C 13/083
A61K 6/818
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア焼結体の製造方法であって、以下の工程:
ジルコニアと、イットリア及び/又はイッテルビアとを含む被処理体であって、ジルコニアと、イットリアと、イッテルビアとの合計を100mol%としたとき、イットリアとイッテルビアとの合計割合が4mol%以上6mol%以下である被処理体を準備する被処理体準備工程、
前記被処理体を800℃以上1200℃以下で加熱する第1加熱工程、
前記第1加熱工程を経た前記被処理体をマイクロ波加熱により1600℃以上2000℃以下で加熱する第2加熱工程、および
前記第2加熱工程を経た前記被処理体を50℃/min以上の速さで1300℃まで降温する冷却工程
を包含し、
前記第2加熱工程において、前記マイクロ波加熱を酸素濃度が30vol%以上100vol%以下の雰囲気下で実施する、ジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記マイクロ波加熱の加熱方式が、マルチモードである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第2加熱工程において、前記マイクロ波加熱を酸化雰囲気下で実施する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2加熱工程において、前記被処理体を所定の方向の両側から挟む位置にSiCサセプタを配置する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記被処理体準備工程において、ジルコニアを有する顆粒を成形して前記被処理体を準備する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
ジルコニアと、イットリア及び/又はイッテルビアとを含むジルコニア焼結体であって、
ジルコニアと、イットリアと、イッテルビアとの合計を100mol%としたとき、イットリアと、イッテルビアとの合計割合は4mol%以上6mol%以下であり、
EPMAによるライン分析で測定されるイットリウムまたはイッテルビウムの特性X線強度の変動係数が0.04以下であり、
厚さ1mmの試験片の厚さ方向におけるD65光源に対する全光線透過率が40%以上である、ジルコニア焼結体。
【請求項7】
結晶相の全体を100質量%としたとき、単位格子のc/a軸長比が1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相の割合が40質量%以上である、
請求項6に記載のジルコニア焼結体。
【請求項8】
140℃の熱水中に100時間浸漬させた後の単斜晶の割合が10%以下である、請求項6または7に記載のジルコニア焼結体。
【請求項9】
結晶相の全体を100質量%としたとき、単位格子のc/a軸長比が、1以上1.0055未満の範囲内にある結晶相の割合が25質量%以下である、請求項6または7に記載のジルコニア焼結体。
【請求項10】
さらに、アルミナを含み、
前記ジルコニア焼結体全体を100質量%としたとき、アルミナの割合が0.15質量%以下である、
請求項6または7に記載のジルコニア焼結体。
【請求項11】
請求項6または7に記載のジルコニア焼結体を含む、歯科材料。
【請求項12】
義歯、義歯ミルブランク、または歯科矯正ブラケットである、請求項11に記載の歯科材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア焼結体とその製造方法に関する。なお、本出願は2022年6月10日に出願された日本国特許出願第2022-094106号および2023年3月2日に出願された日本国特許出願第2023-031663号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
イットリア(Y)を少量固溶させたジルコニア焼結体(以下「部分安定化ジルコニア焼結体」ともいう)は、その強度、靭性および審美性の高さから歯科材料(例えば、義歯、歯科補綴物、義歯ミルブランク、歯科矯正ブラケット)等の生体材料として広く用いられている。例えば、特許文献1には、4.0mol%を超え6.5mol%以下のイットリアと、0.1wt%未満のアルミナとを含有する透光性ジルコニア焼結体が開示されている。このジルコニア焼結体は、焼結体密度が高く、優れた透光性を有するため、特に前歯用義歯として適した透光性及び強度を兼ね備えている、とされている。
【0003】
また、特許文献2および3には、ジルコニア焼結体の焼結温度を少なくとも1350℃以下とすることで、耐水熱劣化性に優れたジルコニア焼結体が実現されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許出願公開2015-143178号公報
【文献】日本国特許出願公開2014-12627号公報
【文献】日本国特許出願公開2014-218421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば歯科材料としてジルコニア焼結体を用いる場合には、優れた透光性と、優れた耐水熱劣化性とを両立していることが好ましい。特許文献1の技術では、ジルコニア焼結体中に単斜晶が残存していることから、耐水熱劣化性をさらに向上させる余地があり得る。また、特許文献2および3の技術では、透光性をさらに向上させる余地があり得る。
【0006】
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、透光性および耐水熱劣化性に優れたジルコニア焼結体を提供することにある。また、他の目的は、かかるジルコニア焼結体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、本発明者が検討したところ、所定の割合でイットリア及び/又はイッテルビア(Yb)を有する部分安定化ジルコニアを含む被処理体(「成形体」または「ワーク」ともいう)をマイクロ波加熱により焼結させ、その後1300℃まで急速に冷却することにより、透光性および耐水熱劣化性に優れたジルコニア焼結体が実現されることを見出した。かかるジルコニア焼結体の結晶相の解析によれば、単位格子のc/a軸長比が1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相の割合が向上していることが見出された。
【0008】
ここで開示されるジルコニア焼結体の製造方法の一態様では、以下の工程:ジルコニアと、イットリア及び/又はイッテルビアとを含む被処理体であって、ジルコニアと、イットリアと、イッテルビアとの合計を100mol%としたとき、イットリアと、イッテルビアとの合計割合が4mol%以上6mol%以下である被処理体を準備する被処理体準備工程、上記被処理体を800℃以上1200℃以下で加熱する第1加熱工程、上記第1加熱工程を経た上記被処理体をマイクロ波加熱により1600℃以上2000℃以下で加熱する第2加熱工程、および、上記第2加熱工程を経た上記被処理体を50℃/min以上の速さで1300℃まで降温する冷却工程を包含する。かかる製造方法によれば、透光性および耐水熱劣化性に優れたジルコニア焼結体を製造することができる。
【0009】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記マイクロ波加熱の加熱方式が、マルチモードである。これにより、プラズマの発生を抑制しながら加熱することができる。この結果、ジルコニア焼結体の割れの発生が抑制され、透光性および耐水熱劣化性により優れたジルコニア焼結体を製造することができる。
【0010】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記第2加熱工程において、上記マイクロ波加熱を酸化雰囲気下で実施する。これにより、ジルコニア焼結体が黒ずむのを抑制することができるため、透光性および耐水熱劣化性に優れ、かつ、審美性にも優れたジルコニア焼結体を製造することができる。
【0011】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記第2加熱工程において、上記マイクロ波加熱を酸素濃度が30vol%以上100vol%以下の雰囲気下で実施する。これにより、ジルコニア焼結体が黒ずむのを効果的に抑制することができるため、より審美性に優れ、かつ、透光性および耐水熱劣化性に優れたジルコニア焼結体を製造することができる。
【0012】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記第2加熱工程において、上記被処理体を所定の方向の両側から挟む位置にSiCサセプタを配置する。これにより、被処理体の内部の焼結をより好適に進行させることができるため、透光性および耐水熱劣化性により優れたジルコニア焼結体を製造することができる。
【0013】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記ジルコニアが顆粒状の粒子を含む。これにより、形状安定性が向上し、取扱性や作業性が向上し得る。
【0014】
また、本開示によりジルコニア焼結体が提供される。このジルコニア焼結体は、例えば、上記のいずれかの製造方法により製造することができる。ここで開示されるジルコニア焼結体は、ジルコニアと、イットリアと、イッテルビアとを含むジルコニア焼結体であって、ジルコニアと、イットリアと、イッテルビアとの合計を100mol%としたとき、イットリアとイッテルビアとの合計割合は4mol%以上6mol%以下であり、EPMAによるライン分析で測定されるイットリウムまたはイッテルビウムの特性X線強度の変動係数が0.04以下である。かかる構成によれば、優れた透光性および耐水熱劣化性が実現され得る。
【0015】
ここで開示されるジルコニア焼結体の好ましい一態様では、結晶相の全体を100質量%としたとき、単位格子のc/a軸長比が1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相の割合が40質量%以上である。これにより、透光性および耐水熱劣化性が向上する。
【0016】
なお、本明細書において、ジルコニア焼結体の単位格子のc/a軸長比及びその割合は、ジルコニア焼結体のX線回折パターンのプロファイルを解析プログラムとしてRIETAN-FPを用いたリートベルト解析することによって得ることができる。
【0017】
ここで開示されるジルコニア焼結体の好ましい一態様では、厚さ1mmの試験片の厚さ方向におけるD65光源に対する全光線透過率が40%以上である。これにより、審美性の高いジルコニア焼結体が実現される。
【0018】
ここで開示されるジルコニア焼結体の好ましい一態様では、140℃の熱水中に100時間浸漬させた後の単斜晶の割合が10%以下である。ここで開示されるジルコニア焼結体は、このような優れた耐水熱劣化性を有し得る。
【0019】
また、ここで開示されるジルコニア焼結体の好ましい一態様では、結晶相の全体を100質量%としたとき、単位格子のc/a軸長比が、1以上1.0055未満の範囲内にある結晶相の割合が25質量%以下である。かかる構成によれば、結晶相がより均質になるため、より優れた透光性および耐水熱劣化性が実現され得る。
【0020】
ここで開示されるジルコニア焼結体の好ましい一態様では、さらに、アルミナを含み、上記ジルコニア焼結体全体を100質量%としたとき、上記アルミナの割合が0.15質量%以下である。これにより、ジルコニア焼結時の異常粒成長が抑制され、透光性および耐水熱劣化性が向上し得る。
【0021】
また、本開示により、ここで開示されるジルコニア焼結体を含む歯科材料が提供される。ここで開示される歯科材料の好適な一態様では、義歯、義歯ミルブランク、または歯科矯正ブラケットである。ここで開示されるジルコニア焼結体は、透光性および耐水熱劣化性に優れているため、歯科材料として好適に用いることができ得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、ここで開示されるジルコニア焼結体の製造方法の一態様の概要を示すフローチャートである。
図2図2は、被処理体(仮焼結体)をマイクロ波加熱する方法の一例を示す模式図である。
図3図3は、例2のジルコニア焼結体の表面のEPMAによるライン分析の結果を示すグラフである。
図4図4は、例4のジルコニア焼結体の表面のEPMAによるライン分析の結果を示すグラフである。
図5図5は、例7のジルコニア焼結体の表面のEPMAによるライン分析の結果を示すグラフである。
図6図6は、例8のジルコニア焼結体の表面のEPMAによるライン分析の結果を示すグラフである。
図7図7は、例4のジルコニア焼結体の表面のイットリウムのマッピング画像(左側)および二次電子画像(右側)である。
図8図8は、例7のジルコニア焼結体の表面のイットリウムのマッピング画像(左側)および二次電子画像(右側)である。
図9図9は、例8のジルコニア焼結体の表面のイットリウムのマッピング画像(左側)および二次電子画像(右側)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、ここで開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、マイクロ波加熱の温度)以外の事柄であって本技術の実施に必要な事柄は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において、数値範囲を「A~B(ここでA、Bは任意の数値)」と記載している場合は、「A以上B以下」を意味すると共に、「Aを超えてB未満」、「Aを超えてB以下」、および「A以上B未満」の意味を包含する。
【0024】
ここで開示されるジルコニア焼結体は、少なくともジルコニア(ZrO)を含む。また、このジルコニア焼結体は、イットリア(Y)およびイッテルビア(Yb)の少なくとも一方を含む。即ち、ここで開示されるジルコニア焼結体は、イットリアとイッテルビアとの両方を含む態様と、イットリアを含み、イッテルビアを含まない態様と、イッテルビアを含み、イットリアを含まない態様とを有する。ジルコニア焼結体は、ジルコニアを主成分として含んでいる。ここで、「ジルコニアを主成分として含む」とは、ジルコニア焼結体を構成する化合物のうち、ジルコニアが占める割合が最も多いことを意味する。ジルコニア焼結体全体を100質量%としたとき、ジルコニアが占める割合は、例えば70質量%以上であって、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。ジルコニアの割合が高いことで、ジルコニア焼結体の強度、靭性、耐水熱劣化性等が向上し得る。
【0025】
ジルコニア焼結体に含まれるイットリア及び/又はイッテルビアは、例えば、ジルコニアに部分的に固溶した部分安定化ジルコニアの一部(所謂、安定化剤)として含まれ得る。部分安定化ジルコニアは、室温下において単斜晶の割合が抑制されるため、強度および靭性が向上し得る。また、単斜晶の割合が抑制されることで、ジルコニア焼結体を構成する結晶相のばらつきが抑制されるため、透光性が向上し得る。
【0026】
ジルコニア焼結体に含まれるジルコニアと、イットリアと、イッテルビアとの合計を100mol%としたとき、イットリアとイッテルビアとの合計割合(換言すれば、安定化剤の合計。イットリアまたはイッテルビアを含まない態様では、その含まない元素を0mol%とする。以下同じ。)は、例えば4mol%以上であって、4.1mol%以上であり得る。また、かかるイットリア及び/又はイッテルビアの合計割合は、例えば、6mol%以下、または5.6mol%以下であり得る。ジルコニア焼結体がイットリアとイッテルビウムの両方を有する場合、イットリアの割合がイッテルビアよりも多くてもよく、イットリアの割合がイッテルビアよりも少なくてもよい。
なお、イットリア及び/又はイッテルビアは、全てがジルコニアに固溶していてもよく、ジルコニアに固溶していない未固溶の状態のものを含んでいてもよい。
【0027】
ジルコニア焼結体は、さらにアルミナ(Al)を含み得る。アルミナを含むジルコニア焼結体では、異常粒成長が抑制されるため、ジルコニア焼結体の強度および透光性を向上し得る。また、耐低温劣化特性が向上し得るため、ジルコニア焼結体の強度および透光性を長期にわたり保持することができ得る。一方で、アルミナは、焼結体内部で不純物として残留し光散乱因子として働くためアルミナ含有量は高すぎない方がよい。そのため、アルミナの含有量は、ジルコニア焼結体全体を100質量%としたとき、例えば、0.15質量%以下であるとよく、0.125質量%以下、0.1質量%以下、または0.05質量%以下であり得る。
【0028】
また、ジルコニア焼結体は、ここで開示される技術の効果が著しく損なわれない範囲で、従来公知の着色剤を含み得る。着色剤としては、例えば、遷移金属元素やランタノイド系希土類元素等が挙げられる。このような元素としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、ニオブ、プラセオジム、ネオジム、ユーロピウム、ガドリニウム、エルビウム等が挙げられる。着色剤は、例えば、ジルコニア焼結体全体に対して2質量%以下であるとよく、1質量%以下、0.5質量%以下であり得る。
【0029】
また、ジルコニア焼結体は、不可避的に混入し得る元素を含み得る。例えば、ハフニウム、マグネシウム、ケイ素、チタン等が挙げられる。これらの元素の合計の含有量は、ジルコニア焼結体全体に対して、酸化物換算で2.5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下がより好ましく、例えば1.8質量%以下であるとよい。
【0030】
図1は、ここで開示されるジルコニア焼結体の製造方法の一態様の概要を示すフローチャートである。ここで開示されるジルコニア焼結体の製造方法は、ジルコニアとイットリア及び/又はイッテルビアとを含む被処理体を準備する被処理体準備工程S10と、被処理体を加熱する第1加熱工程S20と、第1加熱工程S20を経た被処理体(以下、「仮焼結体」ともいう)をマイクロ波加熱により加熱する第2加熱工程S30と、第2加熱工程を経た被処理体を降温する冷却工程S40とを包含し得る。
【0031】
<被処理体準備工程S10>
被処理体準備工程S10は、被処理体を構成する材料(以下、「被処理体材料」ともいう)を準備すること(以下「被処理体材料準備工程」ともいう)と、被処理体材料を成形すること(以下「成形工程」ともいう)とを包含し得る。
【0032】
被処理体材料準備工程では、まず、ジルコニア原料を準備する。ジルコニア原料としては、特に限定されるものではないが、例えば、ジルコニウム塩またはその水和物を用いることができる。ジルコニウム塩としては、例えば、オキシ塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
次に、ジルコニア原料の水溶液を準備し、加水分解反応を行うことで、ジルコニアゾルを調製する。加水分解反応は、かかる水溶液にアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アンモニア水溶液等を添加して行うことができる。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができ、アルカリ土類金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。
【0034】
次に、加水分解により得られたジルコニアゾル(ZrO・nHO)に、イットリア及び/又はイッテルビア、若しくはその原料を混合する。イットリアの原料としては、焼成によりイットリアとなり得るイットリウム含有化合物である。イットリウム含有化合物としては、塩化イットリウム、硝酸イットリウム等が例示される。イッテルビアの原料としては、焼成によりイッテルビアとなり得るイッテルビウム含有化合物であってもよい。イッテルビウム含有化合物としては、塩化イッテルビウム、硝酸イッテルビウム等が例示される。
【0035】
上記ジルコニアゾルに、イットリア及び/又はイッテルビアを添加する場合には、混合するイットリア及び/又はイッテルビアの割合は、上述したジルコニア焼結体におけるイットリア及び/又はイッテルビアの割合と同様であってよい。ジルコニアゾル含まれるジルコニアと、混合するイットリアと、イッテルビアとの合計を100mol%としたときに、イットリアとイッテルビアとの合計割合が、例えば4mol%以上であって、4.1mol%以上であってもよい。また、該イットリアとイッテルビアとの合計割合の上限は、例えば、6mol%以下であって、5.6mol%以下であってもよい。
【0036】
また、上記ジルコニアゾルにイットリア原料及び/又はイッテルビアの原料を混合する場合には、これら原料を焼成して得られるイットリア及び/又はイッテルビアの量が、上述のイットリア及び/又はイッテルビアの割合の範囲となるようにすればよい。例えば、イットリア原料として塩化イットリウム(YCl)Xmol(Xは正の数)を用いた場合には、イットリア(Y)を0.5Xmol得ることができるため、イットリアそのものを混合するときと比較して、2倍の物質量となるように塩化イットリウムを混合すればよい。
【0037】
次に、イットリア及び/又はイッテルビア、若しくはその原料を添加したジルコニアゾルを乾燥することで、各原料が均質に分散された乾燥粉末を得ることができ得る。乾燥方法は特に限定されるものではなく、例えば、自然乾燥、送風乾燥、熱風乾燥、加熱炉等を利用した加熱による乾燥、真空乾燥、吸引乾燥、凍結乾燥等を適宜選択することができる。
【0038】
乾燥して得られた粉末を仮焼することで、イットリア及び/又はイッテルビア部分安定化ジルコニアを含む仮焼粉末を得ることができる。仮焼温度は、特に限定されるものではないが、例えば、800℃~1200℃、好ましくは1000℃~1200℃とすることができる。なお、かかる仮焼により、イットリア原料はイットリアへと酸化され、イッテルビア原料はイッテルビアへと酸化され得る。仮焼のための加熱装置は、従来公知の加熱装置を用いることができ、加熱装置としては、例えば、電気炉、マッフル炉、トンネル式加熱炉、マイクロ波焼成炉等が挙げられる。
【0039】
仮焼粉末は、様々な形状および粒径を有する粒子を含むため、粉砕することが好ましい。粉砕方法は特に限定されず、例えば、公知の粉砕装置(例えばボールミル等)により粉砕することができる。ボールミルとしては、例えば、直径0.1mm~5mm程度のジルコニアボールを用いることが好ましい。
また、粉砕後の粉末は、所望の粒径に選別することが好ましい。例えば、メッシュ篩により所望の粒径のジルコニア粉末を得ることができ、メッシュの目開きの大きさは所望の粒径に合わせて適宜選択すればよい。
【0040】
被処理体材料として用いられるジルコニア粉末の好ましい平均粒径は、例えば、100nm~300nmであって、150nm~200nmがより好ましい。かかる範囲の平均粒径であれば、焼結性が高く、強度および透光性が向上し得る。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、レーザー回折・光散乱法により測定された体積基準の粒度分布において、微粒子側から累積50%に相当する粒径(D50)のことをいう。かかる測定には、例えば、粒子径分布測定装置LA950V2(株式会社堀場製作所製)を用いることができる。
【0041】
上記のように製造されたジルコニア粉末は、主にイットリア及び/又はイッテルビア部分安定化ジルコニア粒子を含んでいる。かかるジルコニア粉末中のイットリア及び/又はイッテルビア部分安定化ジルコニア粒子の割合は、50個数%以上であって、60個数%以上が好ましく、70個数%以上、80個数%以上、90個数%以上、95個数%以上であり得る。なお、ジルコニア粉末は、完全安定化ジルコニアを含んでいてもよい。また、ジルコニア粉末は、イットリア及び/又はイッテルビアが固溶していないジルコニア粒子を含んでいてもよい。さらに、ジルコニア粉末は、イットリア粒子及び/又はイッテルビア粒子を含んでいてもよい。
【0042】
このようにして、被処理体材料としてのジルコニア粉末を得ることができるが、被処理体材料は、このようなジルコニア粉末に限定されるものではない。
【0043】
例えば、上記ジルコニア粉末にアルミニウム化合物を混合してもよい。アルミニウム化合物は、第1加熱工程S20及び/又は第2加熱工程S30の加熱によりアルミナへと酸化され得る。そのため、アルミニウム化合物の混合量は、該アルミニウム化合物に含まれるアルミニウムが全てアルミナに酸化されると仮定し、上述のジルコニア焼結体におけるアルミナの含有量となるように決定すればよい。アルミニウム化合物としては、アルミナ粉末、アルミナゾル、水和アルミナ、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等を用いることができる。なお、ジルコニア粉末と、アルミニウム化合物とを水等の溶媒に分散させたスラリーとしてもよい。スラリーとした場合には、スラリーを乾燥させることでアルミニウム化合物が好適に分散したジルコニア粉末を得ることができる。
【0044】
アルミニウム化合物の平均粒径は、ジルコニア粉末と同程度、または、それよりも小さいことが好ましい。特に限定されるものではないが、アルミニウム化合物の平均粒径は、例えば、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下、100nm以下(例えば20nm~50nm)であってよい。これにより、アルミニウム化合物がジルコニア粉末中へ好適に分散させることができる。そのため、ジルコニア焼結体により均一にアルミナを分布させることができ、好適にジルコニア焼結体の異常粒成長を抑制することができる。
【0045】
また、被処理体材料は粉末状以外にも、顆粒状でも好適に使用することができる。顆粒状の被処理体材料の平均粒径は、例えば、10μm~100μmであって、20μm~90μm、または40μm~80μmであり得る。顆粒状とすることにより、形状安定性が向上し、取扱性や作業性が向上し得る。加えて、成形時の残留応力が緩和されることでマイクロ波加熱時の粉体粗密差に起因したホットスポットの発生が抑制され得る。また、ここで開示される製造方法では、マイクロ波による加熱によってジルコニアを焼結させるため、粉末よりも平均粒径の大きい顆粒であっても、顆粒内部まで好適に加熱することができる。
【0046】
顆粒状の成形体材料の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ジルコニア粉末を噴霧乾燥(スプレードライ)させることにより製造することができる。なお、かかるジルコニア粉末はアルミニウム化合物が含まれていてもよく、さらに、バインダを含み得る。噴霧乾燥では、ジルコニア粉末と、分散媒(例えば水)とを混合してスラリーを調製し、当該スラリーを液滴上に噴霧して乾燥させることで、顆粒状の被処理体材料を得ることができる。
【0047】
バインダとしては、後述する第1加熱工程または第2加熱工程の加熱温度により燃え抜ける成分であるとよい。バインダとしては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アミン系樹脂、アルキド系樹脂、セルロース系高分子などが挙げられる。なかでも、アクリル系樹脂を含むことが好ましい。アクリル系樹脂を含むことにより、ジルコニア粉末同士の接着性が高まり、ジルコニア顆粒を好適に製造することができる。また、成形された被処理体の形状安定性が高まり、被処理体を安定的に保持することができる。アクリル系樹脂としては、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマー(単量体全体の50質量%以上を占める成分)として含む重合体や、かかる主モノマーと当該主モノマーに共重合性を有する副モノマーとを含む共重合体が挙げられる。なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを意味する用語である。
【0048】
バインダの量が多すぎる場合には、バインダが燃え抜けた後、ジルコニア焼結体に空隙が生じやすくなる場合がある。ジルコニア焼結体に空隙が生じると耐水熱劣化性が低下し得る。また、空隙により光が屈折し易くなり、透光性が低下し得る。そのため、バインダの含有量は、噴霧乾燥に用いる粉末全体を100質量%としたとき、例えば、10質量%以下であるとよく、好ましくは5質量%以下である。また、バインダの量が少なすぎると、バインダの効果が不十分となり得る。そのため、バインダの含有量は、例えば、0.5質量%以上であるとよく、1質量%以上であり得る。
【0049】
次に、成形工程について説明する。被処理体材料を成形する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、加圧成形、射出成形、押出成形、鋳込成形等を採用することができる。加圧成形としては、例えば、冷間静水圧加圧成形(Cold Isostatic Pressing:CIP)、熱間静水圧加圧成形(Hot Isostatic Pressing:HIP)等が好ましく採用される。CIPまたはHIPによれば、均質性が高く、高密度な被処理体(成形体)を製造できる。
【0050】
<第1加熱工程S20>
第1加熱工程S20では、被処理体を加熱することで被処理体を仮焼結し、仮焼結体を得る。かかる加熱により、被処理体中に含まれ得る水分、バインダ、不純物等の成分を除去することができ得る。また、仮焼結により、被処理体中に存在し得る空隙を低減させることができるため、高温かつ高速の加熱による焼結において生じ得るクラックを好適に防止することができる。仮焼結は、例えば、800℃~1200℃、好ましくは1000℃~1100℃の加熱温度で実施することができる。仮焼結の時間は、被処理体の形状、大きさ、組成等により変動し得るため、適宜調整すればよいが、例えば、1.5時間~5時間であってよく、2時間~4時間であり得る。被処理体の加熱は、公知方法によって行うことができ、例えば、マッフル炉、電気炉、マイクロ波焼成炉等の加熱装置を用いることができる。
【0051】
第1加熱工程S20の加熱における昇温速度は、特に限定されるものではないが、例えば、800℃に達するまでを100℃/h~250℃/h、所定温度(例えば、1000℃~1200℃)に達するまでを50℃/h~150℃/hとすることができる。これにより、急激な焼結を防止し、クラックの発生を抑制することができる。
【0052】
<第2加熱工程S30>
第2加熱工程S30では、第1加熱工程S20を経た被処理体(仮焼結体)をマイクロ波加熱により焼結させ、焼結物を得る。マイクロ波加熱を行うことで、仮焼結体の内部側を迅速に加熱することができるため、仮焼結体の表面側の焼結の進行と内部側の焼結の進行との差が小さくなり、ジルコニア焼結体の内部の空隙をより低減することができる。以下、図を参照しながら第2加熱工程S30の一実施形態について説明する。なお、マイクロ波加熱の方法は以下の例に限定されるものではない。
【0053】
図2は、仮焼結体をマイクロ波加熱する方法の一例を示す模式図である。なお、図2における寸法関係(長さ、幅、厚みなど)は実際の寸法関係を反映するものではない。上、下、左、右の向きは、図中、U、D、L、Rの矢印でそれぞれ表されている。ここで、上、下、左、右の向きは、説明の便宜上定められているに過ぎず、設置形態を限定するものではない。
【0054】
図2に示すように、マイクロ波加熱装置10は、隔壁12と、加熱空間14とを有している。加熱空間14には、断熱容器20が設置され、断熱容器20の収容空間22にはサセプタ40と、仮焼結体50とが収容されている。また、断熱容器20の収容空間22は、ガス供給機30が接続されている。放射温度計60は、マイクロ波加熱装置10の外側の離れた位置に設置されている。
【0055】
マイクロ波加熱装置10は、隔壁12に囲まれた加熱空間14を有している。加熱空間14は、マイクロ波加熱する対象物を収容する空間である。図示していないが、加熱空間14の側壁、天井及び/又は底壁は、マイクロ波照射部を有しており、加熱空間14に収容された対象物にマイクロ波を照射し、加熱することができる。なお、マイクロ波は、従来マイクロ波加熱に使用されている周波数を有していればよく、例えば、周波数0.3GHz~3GHz(例えば2.45GHz)のマイクロ波を利用することができる。
【0056】
隔壁12はマイクロ波加熱装置10の加熱空間14と外部とを断熱しており、市販されているマイクロ波装置を使用することができる。また、断熱性を高める観点から、隔壁12の加熱空間14側に断熱材を裏張りしてもよい。
【0057】
隔壁12には、加熱空間14内の対象物の温度を測定するための貫通孔16が設けられている。貫通孔16は、加熱空間14とマイクロ波加熱装置10の外部をつなぐように貫通している。
このような構成を有するマイクロ波加熱装置10としては、例えば、四国計測工業株式会社製のμ-Reactor EXやμ-Reactor Mx等を用いることができる。
【0058】
断熱容器20は、内部にサセプタ40と仮焼結体50とを収容可能な収容空間22を有している。また、図2に示すように、この実施形態では、断熱容器20は、収容空間22とガス供給機30とを接続するためのガス導入孔24と、収容空間22と加熱空間14とを連通するガス排出孔26と、収容空間22内の被加熱物の温度を測定するための貫通孔28とを有している。この実施形態では、断熱容器20は直方体状の箱型容器であるが、その形状は特に限定されず、例えば、円筒状、角柱状等であってよい。また、図示していないが、この実施形態では、断熱容器20は、蓋部分と、ケース部分に分離可能なように設計されており、収容空間22に被加熱物を容易に出し入れ可能なように設計されている。断熱容器20の材質は、例えば、アルミナシリカファイバー等のセラミックファイバーを採用することができる。
【0059】
ガス導入孔24は、収容空間22と加熱空間14とを連通する貫通孔であり、ガス供給機30と接続されたポンプ32が挿通できるように設計されている。これにより、収容空間22に所望のガスを供給し、収容空間22内の雰囲気を制御することができる。
【0060】
ガス排出孔26は、収容空間22と加熱空間14とを連通する貫通孔であり、収容空間22が密閉されないように設計されている。これにより、仮焼結体50の焼成に進行に伴い、収容空間22の酸素が消費され、収容空間22が還元雰囲気になるのを防ぐことができる。また、ガス排出孔26は、ガス導入孔24から供給されるガスが収容空間22に滞留するのを防止することができる。なお、図2では、ガス排出孔26は1つ設けられているが、複数(2つ以上)設けられていてもよい。また、この実施形態では、ガス排出孔26は、ガス導入孔24が設けられた壁と対向する壁に設けられているが、ガス排出孔26の位置は特に限定されない。ガス排出孔26の直径は、特に限定されるものではないが、例えば、5mm~50mm程度、また例えば、5mm~20mm程度とすることができる。
【0061】
図2に示すように、この実施形態では、断熱容器20の上側に、収容空間22と加熱空間14とを連通する貫通孔28が設けられている。また、ここでは、貫通孔28とマイクロ波加熱装置10の貫通孔16とが直線上に並ぶように配置されている。これにより、マイクロ波加熱装置10の外部に設置された放射温度計60によって収容空間22に配置された被加熱物の温度を測定することができる。貫通孔28は、放射温度計60によって被加熱物の温度を測定できる大きさで設けられればよいため、特に限定されるものではないが、例えば、貫通孔28の直径は5mm~10mm程度とすることができる。なお、この実施形態では、ガス排出孔26と貫通孔28とがそれぞれ設けられているが、一つの貫通孔であっても、上述したガス排出孔26と貫通孔28の両者の機能を発揮し得るため、どちらか一方だけが設けられた構成であってもよい。
【0062】
ガス供給機30は、ポンプ32を介して断熱容器20の収容空間22に所望のガスを供給し、収容空間22の雰囲気を調整することができる。ガス供給機30は、所望のガスに合わせて適宜変更され得るものであり、市販されているガス供給機(例えば、酸素供給機)を特に制限なく使用できる。なお、収容空間22を大気雰囲気下に調整する場合には、ガス供給機30として送風機等を採用してもよい。
【0063】
仮焼結体50の焼成に伴い、仮焼結体50の周囲の酸素濃度が低下すると、仮焼結体50に含まれるジルコニアが還元される場合がある。これにより、ジルコニア焼結体が黒ずみ、審美性が損なわれ得る。そのため、マイクロ波加熱は、酸化雰囲気下で実施されることが好ましい。酸化雰囲気としては、例えば、大気雰囲気や、大気雰囲気よりも酸素濃度が高い雰囲気が挙げられる。特に、酸素濃度が30vol%以上であることが好ましく、例えば、50vol%以上、70vol%以上であり得る。このような酸化雰囲気下であれば、ジルコニア焼結体の黒ずみをより抑制することができる。なお、雰囲気中の酸素濃度の上限は特に制限されるものではなく、酸素濃度を100vol%以下とすることができるが、酸素濃度が高すぎると、酸素プラズマによる異常加熱が生じる場合がある。そのため、酸素濃度は、例えば、95vol%以下が好ましく、90vol%以下がより好ましい。なお、このような酸化雰囲気への制御は、仮焼結体50が設置されている断熱容器20の収容空間22で実施されればよい。
【0064】
また、仮焼結体50の焼成中は、上記酸化雰囲気へ制御するため、大気または上記酸素濃度を含むガスを収容空間22(詳細には、仮焼結体50)へ供給し続けることが好ましい。これにより、焼成に伴う収容空間22の雰囲気の変動(例えば酸素濃度が低下する等)を抑制することができる。また、図2中に矢印で示されるように、ガス供給機30から供給されるガスは、収容空間22へ流入した後、ガス排出孔26及び/又は貫通孔28から排出される。このような酸素フロー環境を仮焼結体50の周囲に形成することで、酸素プラズマによる異常加熱の発生を抑制することができる。
【0065】
サセプタ40は、マイクロ波のエネルギーを効率よく熱エネルギーに変換することで、マイクロ波加熱の効率を高めることができる加熱補助部材である。具体的には、サセプタ40は、マイクロ波を吸収することで仮焼結体50よりも素早く高温になるため、熱伝導により仮焼結体50の昇温を補助することができる。仮焼結体50は、高温に達すると、仮焼結体50自身がマイクロ波を吸収し易くなり、マイクロ波吸収体として振舞うことができるようになる。仮焼結体50がマイクロ波を吸収し易くなると、マイクロ波加熱によって仮焼結体50の内部加熱機構が促進され易くなる。これにより、仮焼結体50の内部の焼結が促進され、内部に空隙が残り難くなり、強度と透光性に優れたジルコニア焼結体を製造することができ得る。
【0066】
仮焼結体50をより短時間で昇温する観点から、マイクロ波加熱前に、サセプタ40は、仮焼結体50を所定の方向の両側から挟む位置に配置されることが好ましい。例えば、サセプタ40を仮焼結体50の鉛直方向(上下方向)の両側(即ち、上側と下側)に配置する態様、または、仮焼結体50の水平方向の少なくとも一方向の両側に配置する態様等が挙げられる。これにより、仮焼結体50の所定方向の両側の表面がサセプタ40によって加熱されるため、より短時間で仮焼結体50のマイクロ波吸収効率を高めることができる。この結果、マイクロ波加熱による仮焼結体50の内部加熱がより短時間で実現され得るため、ジルコニア焼結体内部の空隙をより低減することができる。なお、配置されるサセプタ40は、典型的には、仮焼結体50の表面に接するように配置されるが、サセプタ40と仮焼結体50の表面との間に隙間があってもよい。かかる隙間は、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下、さらに好ましくは1mm以下である。
【0067】
また、仮焼結体50はサセプタ40によって密閉されていないことが好ましい。これにより、マイクロ波がサセプタ40に阻害されることなく仮焼結体50へ直接吸収され易くなる。そのため、サセプタが仮焼結体を完全に被包している場合(例えば閉鎖式の箱型のサセプタの内部に仮焼結体を設置する場合)よりも、仮焼結体の内部加熱をより低温域から誘起することができる。この結果、表面からの熱伝導に起因した焼結様態と比較して、ジルコニア焼結体の内部に残留してしまう気孔が低減することができる。また、仮焼結体50がサセプタ40によって密閉されていないことで、仮焼結体50の周囲の酸素が消費されて還元雰囲気になるのを防ぐことができる。
【0068】
また、仮焼結体50において、サセプタ40が配置される所定の方向とは異なる少なくとも一方向の両側にサセプタ40が設置されていない(開放されている)ことが好ましい。これにより、さらにマイクロ波が仮焼結体50へ直接吸収され易くなり、内部加熱をより低温域から且つより均質に誘起することができる。また、サセプタ40が設置されない一方向が設けられることで、ガス供給機30から供給されるガスの流れ(フロー)の中に仮焼結体50を配置できるため、仮焼結体50の周囲の雰囲気をより好適に制御することができる。
【0069】
この実施形態では、図2に示すように、仮焼結体50が、2枚の板状のサセプタ40によって上下方向から挟持されており、仮焼結体50の水平方向はサセプタ40によって覆われていない。かかる構成では、仮焼結体50の水平方向のいずれにもサセプタ40が配置されていないため、特に、マイクロ波が仮焼結体50へ吸収され易くなり、内部の空隙が低減されたジルコニア焼結体を製造し易くなる。
【0070】
サセプタ40としては、炭化ケイ素(SiC)を主成分とするSiCサセプタが好ましく採用される。ここで、「SiCを主成分とする」とは、サセプタ40を構成する化合物において、SiCが50質量%以上を占めるものをいう。SiCサセプタとしては、例えば、単結晶SiC、再結晶SiC、反応焼結SiC、窒化物結合SiC、酸化物結合SiC、炭化ケイ素繊維等が挙げられる。また、マイクロ波吸収効率を高める観点から、このなかでも比較的気孔率の高い材料である、再結晶SiC、炭化ケイ素繊維を好ましく用いることができる。また、このなかでも再結晶SiCは耐熱性に優れているため、再結晶SiCを特に好ましく用いることができる。さらに、再結晶SiCにおいても、緻密な再結晶SiCではマイクロ波吸収効率が低下する場合があるため、再結晶SiCの気孔率は、例えば10%~90%であるとよく、好ましくは10%~30%である。なお、気孔率は、従来公知の方法で測定することができ、例えば、水銀圧入法によって測定することができる。
【0071】
サセプタ40が板状である場合、1枚あたりの厚みは、例えば1mm~4mmであることが好ましく、2mm~3mmがより好ましい。サセプタ40が薄すぎると、サセプタの強度が下がり得る。また、サセプタ40が厚すぎると、サセプタ40が加熱され難く、昇温速度が遅くなり得る。そのため、上記厚みの範囲であれば、サセプタ40の強度と、サセプタ40の昇温速度の両者のバランスが好適となる。これにより、より好適にジルコニア焼結体の内部の空隙を低減することができる。
【0072】
図2に示す実施形態では、仮焼結体50の上下にそれぞれ1枚ずつ板状のサセプタ40が配置されているが、板状のサセプタ40の場合、複数(2以上)であれば、その数は特に限定されない。例えば、サセプタ40を仮焼結体50の上側と下側それぞれで2枚以上重ねてもよい。また、仮焼結体50の上側と下側とで異なる枚数のサセプタ40を使用してもよい。
【0073】
なお、本実施形態では、サセプタ40は板状であったが、サセプタ40は仮焼結体50の所定方向の両側に配置されれば特に限定されない。例えば、一対の対向面に貫通孔が設けられた箱型(例えば、六面体形状)のサセプタ、柱体状のサセプタ(例えば、円筒状、角柱状)等が挙げられる。
【0074】
放射温度計60は、非接触で対象物の温度を測定することができる。図2に示すように、この実施形態では、放射温度計60は、マイクロ波加熱装置10と離れた位置に設置されており、仮焼結体50の上側のサセプタ40の表面温度を測定している。本明細書において、第2加熱工程S30におけるマイクロ波加熱における加熱温度、および、後述の冷却工程S40で降温速度の算出に用いられる温度は、放射温度計60で計測された温度のことをいう。なお、マイクロ波加熱による温度変化をより正確に測定する観点から、クランプ等によって放射温度計60を所定の位置を固定することが好ましい。放射温度計60としては、例えば、Optris社製のOPTCTRF1MHSFVFC3センサ(疑似放射率設定1.0)を使用することができる。
【0075】
マイクロ波加熱は、例えば、1600℃以上(例えば1600℃超)であるとよく、1620℃以上が好ましく、1650℃以上がより好ましく、1700℃以上(例えば、1700℃超)がさらに好ましく、1720℃以上が特に好ましい。特にメカニズムが限定されるものではないが、マイクロ波加熱の温度を1600℃以上の高温に設定することにより、ジルコニア焼結体の内部に生じ得る空隙を抑制した緻密な焼結体が製造される。また、ジルコニア焼結体の結晶相において、結晶相のばらつきが低減され、結晶粒界の不連続性が低減され得る。これにより、ジルコニア焼結体を通過する光が、結晶の界面で反射や屈折し難くなるため、透光性が向上すると推定される。
また、特に限定されるものではないが、加熱装置の耐熱性等の観点から、マイクロ波加熱は、例えば、2000℃以下とするのが適当であり、1900℃以下、1800℃以下、1750℃以下、または1730℃以下とすることができる。マイクロ波加熱の保持時間は、仮焼結体50の形状、大きさ、組成等によって適宜変更されるが、例えば、1分~20分程度、また例えば1分~10分程度とすることができる。なお、ここでいう保持時間には、上記マイクロ加熱温度に達するまでの昇温時間を含めないものとする。
【0076】
マイクロ波加熱の加熱方式は、特に限定されず、例えば、シングルモード、マルチモードのどちらも使用することができるが、好ましくはマルチモードが採用される。シングルモードでは、仮焼結体50の配置位置、大きさ等により、仮焼結体50にプラズマが生じる可能性があり、ジルコニア焼結体に割れが生じる場合がある。一方で、マルチモードでは、加熱空間14内の電磁界の集中が抑制されるため、プラズマが生じにくくなる。これにより、ジルコニア焼結体の割れの発生が抑制され得る。
【0077】
マイクロ波加熱の昇温速度は、仮焼結体の形状、大きさ、組成等によって適宜変更されるため、特に限定されるものではない。例えば、ジルコニア焼結体のイットリアとイッテルビアとの合計割合が4mol%~5mol%である場合、1000℃~1150℃程度に達するまでの昇温速度を500℃/min~900℃/minとすることができる。これにより、ジルコニア焼結体をより短時間で製造できる。また、その後1150℃~1200℃程度に達するまで、例えば、昇温速度を20℃/min~50℃/minとすることが好ましい。これにより、ジルコニアの急激な焼結によるクラックの発生を低減することができ得る。また、その後1600℃~2000℃程度に達するまでは、例えば、昇温速度を40℃/min~100℃/min、好ましくは40℃/min~60℃/minとすることができる。これにより、仮焼結体の焼結の進行が適切に制御され、より透光性および耐水熱劣化性に優れたジルコニア焼結体を製造することができ得る。
ジルコニア焼結体のイットリアとイッテルビアとの合計割合が5mol%~6mol%である場合、焼結時間の短縮の観点から、1100℃~1250℃程度に達するまでの昇温速度を500℃/min~900℃/minとすることが好ましい。また、クラック低減の観点から、1250℃~1550℃程度に達するまで、例えば、昇温速度を5℃/min~50℃/minとすることが好ましい。また、その後1600℃~2000℃程度に達するまでの昇温速度を、例えば40℃/min~100℃/min、好ましくは40℃/min~60℃/minとすることが好ましい。
【0078】
仮焼結体50の形状は、特に限定されるものではないが、より均一にマイクロ波による焼結を行う観点から、例えば、円盤状であることが好ましい。仮焼結体50の厚みは、例えば、0.5mm~10mmであることが好ましく、0.5mm~2mmがより好ましい。かかる範囲であれば、仮焼結体50の強度を保ちつつ、効率的にマイクロ波による焼結を実施することができる。また、仮焼結体50の最大径は、例えば、10mm~60mmが好ましく、10mm~20mmがより好ましい。かかる範囲であれば、より均一にマイクロ波による焼結を行うことができる。
【0079】
<冷却工程S40>
冷却工程S40では、第2加熱工程S30を経た被処理体を1300℃まで急速に冷却する。冷却工程S40は、第2加熱工程S30においてマイクロ波加熱された被処理体が所定の温度(例えば1600℃~2000℃)まで昇温・保持された後に実施される工程であり、典型的には、マイクロ波加熱から連続的に実施される。このような急速冷却により、ここで開示されるジルコニア焼結体を得ることができる。
【0080】
被処理体を1300℃まで冷却する際の降温速度は、例えば、50℃/min以上であって、好ましくは100℃/min以上、より好ましくは200℃/min以上である。降温速度の上限は、特に限定されるものではないが、例えば、1000℃/min以下、500℃/min以下であり得る。冷却方法としては、上述の範囲の降温速度を実現できる限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば、マイクロ波照射の制御、自然放冷、送風等が挙げられる。なお、冷却工程S40において、第2加熱工程S30でガス供給機30からの酸素を含むガスの供給を行っていた場合には、当該ガスの供給を続けてもよく、停止してもよい。本発明者の検討によれば、降温中に当該ガスの供給を停止することで、ジルコニア焼結体がより安定して製造され易くなり得る。
本明細書において、冷却工程S40における「降温速度」とは、降温が開始した時から1300℃に達するまでの平均降温速度のことをいう。
【0081】
上述のとおり、ここで開示される製造方法では、マイクロ波加熱によって被処理体を焼結させるため、内部の空隙が少なく、緻密なジルコニア焼結体を得ることができ得る。さらに、マイクロ波加熱を行うことで、マイクロ波加熱装置の加熱空間自体の温度は被処理体およびサセプタほど高くならないため、上述したような降温速度での急速冷却が可能となり、ジルコニア焼結体の単位格子のc/a軸長比が1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相の割合を高めることができる。その結果、透光性および耐水熱劣化性に優れたジルコニア焼結体が実現される。
【0082】
優れた透光性および耐水熱劣化性が実現される理由は、特に限定されるものではないが、以下のように推定される。
従来の加熱空間自体が高温となる加熱炉で焼結された被処理体では、焼結後の降温速度が緩やかであるため、単位格子のc/a軸長比が1.012超1.017以下の範囲内にある結晶相(例えば正方晶)と単位格子のc/a軸長比が1以上1.0055未満の範囲内にある結晶相(例えば立方晶)とが混在して存在しており、イットリウム濃度が局所的に偏析している。一般に、かかる偏析が起因となり、ジルコニア焼結体の水熱劣化が誘起されると考えられている。その一方で、本技術では、マイクロ波による焼結後に急速冷却を行うことで、イットリウムの偏析が抑制されると推測される。その結果、従来では単位格子のc/a軸長比が1以上1.0055未満の範囲内にある結晶相(例えば立方晶)として析出していた相が単位格子のc/a軸長比が1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相(例えば準安定正方晶)または単位格子のc/a軸長比が1.012超1.017以下の範囲内にある結晶相(例えば正方晶)として析出し、従来よりも均質な結晶構造が実現されていると考えられる。均質な結晶構造では、水熱劣化が誘起され難く、結晶界面での光の反射および屈折が抑制される。また、マイクロ波加熱により、空隙が少なく緻密性の高いジルコニア焼結体が実現されるため、水がジルコニア焼結体内部に侵入しづらくなる。以上のことから、ここで開示されるジルコニア焼結体は、優れた透光性および耐水熱劣化性を有すると推測される。
【0083】
ここで開示されるジルコニア焼結体では、結晶相の全体を100質量%としたとき、単位格子のc/a軸長比が1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相の割合が、例えば、40質量%以上であって、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。かかる割合の上限は、特に限定されるものではないが、100質量%以下であってよく、80質量%以下、60質量%以下であり得る。かかる結晶相の割合が高いほど、透光性および耐水熱劣化性が向上する傾向にある。
【0084】
ここで開示されるジルコニア焼結体では、結晶相の全体を100質量%としたとき、単位格子のc/a軸長比が、1.0055以上1.010未満の範囲にある結晶相と、1.012超1.017以下の範囲である結晶相との合計割合が、例えば75質量%以上であって、好ましくは85質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上、さらには100質量%であり得る。かかる割合が高いほど、結晶構造の均質性が向上し得るため、より優れた透光性および耐水熱劣化性が実現される。
【0085】
ここで開示されるジルコニア焼結体では、結晶相の全体を100質量%としたとき、単位格子のc/a軸長比が1以上1.0055未満の範囲内にある結晶相の割合が、例えば、25質量%以下であって、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下、さらには0質量%(含まない、または、検出限界以下)であり得る。かかる割合が低いほど、イットリウム及び/又はイッテルビウムの偏析が抑制され、より優れた透光性および耐水熱劣化性が実現され得る。
【0086】
ここで開示されるジルコニア焼結体では、イットリウムまたはイッテルビウムの偏析が抑制されている。例えば、いくつかの態様において、ジルコニア焼結体の表面において、イットリウムまたはイッテルビウムが結晶粒子の境界に偏析することが抑制されている。イットリウムまたはイッテルビウムの分布は、イットリアまたはイッテルビアの分布として評価することができる。また、いくつかの態様において、イットリアまたはイッテルビウムが均質に分散している。
【0087】
イットリウムまたはイッテルビウムの分布は、例えば、フィールドエミッション電子線マイクロアナライザ(FE-EPMA)によるライン分析により評価することができる。ここで開示されるジルコニア焼結体では、FE-EPMAによるライン分析で測定されるイットリウムまたはイッテルビウムの特性X線強度の変動係数(CV)が、例えば、0.04以下、0.035以下、0.031以下、または0.02以下である。かかる変動係数が小さいほど、イットリウムまたはイッテルビウムがより均質に分布しており、透過性および耐水熱劣化性が向上する。
本明細書において、上記変動係数は、特性X線強度データを5点平均した値に基づいて計算されたものをいう。変動係数は、標準偏差を算術平均で割った値である。また、上記ライン分析は、鏡面研磨したジルコニア焼結体の表面に対して行う。また、上記ライン分析の測定領域は、ジルコニア焼結体の結晶界面を少なくとも1回(好ましくは2回以上)通過するように設定する。
【0088】
ここで開示されるジルコニア焼結体では、140℃の熱水中に100時間浸漬させる水熱劣化試験後の単斜晶の割合が、例えば10%以下であって、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。なお、水熱劣化試験は、表面を鏡面研磨したジルコニア焼結体を高圧マイクロリアクター(オーエムラボテック社製、MMS―500)を用いて140℃の熱水中に100時間浸漬することで実施することができる。また、単斜晶の割合は、水熱劣化試験後のジルコニア焼結体の研磨面のX線回折パターンを取得することで測定することができる。
【0089】
ここで開示されるジルコニア焼結体では、例えば、全光線透過率が40%以上、42%以上、44%以上、45%以上、46%以上、または47%以上である。全光線透過率が40%以上であれば、例えばジルコニア焼結体を歯科材料に用いる場合に、歯科材料に要求される優れた審美性が達成される。また、特に限定されるものではないが、全光線透過率は、例えば、60%以下であり得る。なお、本明細書において「全光線透過率」とは、厚さ1mmの円盤状の試験片の厚さ方向におけるD65光源に対する全光線透過率のことをいう。
【0090】
上述のとおり、ここで開示されるジルコニア焼結体は、優れた透光性と優れた耐水熱劣化性とを兼ね備えているため、例えば、歯科材料に好適に用いることができる。歯科材料としては、例えば、前歯用義歯、奥歯用義歯等の義歯、義歯ミルブランク、歯科矯正ブラケット、歯科補綴物、ブリッジ等が挙げられる。
【0091】
以上の通り、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:ジルコニア焼結体の製造方法であって、以下の工程:
ジルコニアと、イットリア及び/又はイッテルビアとを含む被処理体であって、ジルコニアと、イットリアと、イッテルビアとの合計を100mol%としたとき、イットリアとイッテルビアとの合計割合が4mol%以上6mol%以下である被処理体を準備する被処理体準備工程、
上記被処理体を800℃以上1200℃以下で加熱する第1加熱工程、
上記第1加熱工程を経た上記被処理体をマイクロ波加熱により1600℃以上2000℃以下で加熱する第2加熱工程、および
上記第2加熱工程を経た上記被処理体を50℃/min以上の速さで1300℃まで降温する冷却工程
を包含する、ジルコニア焼結体の製造方法。
項2:上記マイクロ波加熱の加熱方式が、マルチモードである、項1に記載の製造方法。
項3:上記第2加熱工程において、上記マイクロ波加熱を酸化雰囲気下で実施する、項1または2に記載の製造方法。
項4:上記第2加熱工程において、上記マイクロ波加熱を酸素濃度が30vol%以上100vol%以下の雰囲気下で実施する、項3に記載の製造方法。
項5:上記第2加熱工程において、上記被処理体を所定の方向の両側から挟む位置にSiCサセプタを配置する、項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
項6:前記被処理体準備工程において、ジルコニアを有する顆粒を成形して前記被処理体を準備する、項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
項7:ジルコニアと、イットリア及び/又はイッテルビアとを含むジルコニア焼結体であって、
ジルコニアと、イットリアと、イッテルビアとの合計を100mol%としたとき、イットリアと、イッテルビアとの合計割合は4mol%以上6mol%以下であり、
EPMAによるライン分析で測定されるイットリウムまたはイッテルビウムの特性X線強度の変動係数が0.04以下である、
ジルコニア焼結体。
項8:結晶相の全体を100質量%としたとき、単位格子のc/a軸長比が1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相の割合が40質量%以上である、項7に記載のジルコニア焼結体。
項9:厚さ1mmの試験片の厚さ方向におけるD65光源に対する全光線透過率が40%以上である、項7または8に記載のジルコニア焼結体。
項10:140℃の熱水中に100時間浸漬させた後の単斜晶の割合が10%以下である、項7~9のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
項11:結晶相の全体を100質量%としたとき、単位格子のc/a軸長比が、1以上1.0055未満の範囲内にある結晶相の割合が25質量%以下である、項7~10のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
項12:さらに、アルミナを含み、上記ジルコニア焼結体全体を100質量%としたとき、アルミナの割合が0.15質量%以下である、項7~11のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
項13:項7~12のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体を含む、歯科材料。
項14:義歯、義歯ミルブランク、または歯科矯正ブラケットである、項13に記載の歯科材料。
【0092】
以下、ここで開示される技術に関する実施例を説明するが、かかる実施例はここで開示される技術を限定することを意図したものではない。
【0093】
<試験1>
(例1)
オキシ塩化ジルコニウム溶液を加水分解反応させて生成したジルコニアゾルに対し、イットリアを混合した。このとき、ジルコニアとイットリアの合計に対して、イットリアが4.1mol%となるようにした。かかる混合物を乾燥させたあと、1120℃、4時間仮焼し、部分安定化ジルコニア粉末を得た。かかるジルコニア粉末を直径1mmのジルコニアボールを用いたボールミルで粉砕後、メッシュ篩により選別し、成形体材料として平均粒径150nm~200nmのジルコニア粉末を得た。その後、平均粒径30nmのアルミナ粉末をジルコニア粉末に混合し、0.05質量%のアルミナを含むジルコニア粉末を調製した。このジルコニア粉末を円盤状の金型に充填し、0.78MPaの圧力を加えた後、金型から成形体を取り出し、かかる成形体に対して196MPaのCIP成形を行った。その後、得られた成形体を1100℃で2時間加熱し、仮焼結体を得た。このときの昇温速度が800℃までを120℃/h、1100℃までを100℃/hとなるように実施した。
【0094】
仮焼結体を厚さ2mmの板状SiCサセプタの上に載せ、さらに、仮焼結体の上に厚さ2mmの板状SiCサセプタを載せた状態で、断熱容器内に収容した。なお、断熱容器は、図2に示す断熱容器20と同様の構成のものを使用した。そして、断熱容器をマイクロ波加熱装置内に設置した。SiCサセプタは、再結晶SiCを用いた。マイクロ波加熱装置は、四国計測工業株式会社製のμ-Reactor EXを使用した。
【0095】
次に、ガス供給機としてM1O2 silent(株式会社神戸メディケア製)を用いて、断熱容器内に酸素濃度90vol%のガスを供給した。そして、ガスを供給しながら、マイクロ波加熱を開始し、1050℃までを600℃/min、1730℃までを40℃/minとなるように昇温し、1730℃で1分間維持した。その後、10℃/minの降温速度で1300℃まで降温し、1300℃に達したタイミングでマイクロ波加熱装置の電源を切って降温させた。なお、降温時には、上記ガスの供給を停止した(後述の例2~7においても同様に、降温時にはガスの供給を停止した。)。このようにして、例1のジルコニア焼結体を製造した。なお、マイクロ波加熱方式はマルチモードとした。また、温度測定には、Optris社製のOPTCTRF1MHSFVFC3センサを使用し、仮焼結体の上側のSiCサセプタの温度を測定した。
【0096】
(例2)
例1の製造方法から、マイクロ波加熱後の1300℃までの降温速度を50℃/minに変更した。これら以外は例1と同様にして例2のジルコニア焼結体を製造した。
【0097】
(例3)
例1の製造方法から、マイクロ波加熱後の1300℃までの降温速度を100℃/minに変更した。これら以外は例1と同様にして例3のジルコニア焼結体を製造した。
【0098】
(例4)
例1の製造方法から、マイクロ波加熱後の1300℃までの降温速度を200℃/minに変更した。これら以外は例1と同様にして例4のジルコニア焼結体を製造した。
【0099】
(例5)
例1の製造方法のうち、平均粒径150nm~200nmのジルコニア粉末に対し、アルミナ粉末を混合せず、バインダとしてポリアクリル系バインダを3質量%となるように混合するよう変更した。かかる混合物を噴霧乾燥により顆粒状とし、平均粒径70μmのジルコニア顆粒を得た。かかるジルコニア顆粒を成形体材料とし、例1と同様にして仮焼結体を得た後、例1と同様の昇温条件で加熱し、100℃/minの降温速度で1300℃まで降温した。そして、1300℃に達したタイミングでマイクロ波加熱装置の電源を切り、例5のジルコニア焼結体を製造した。
【0100】
(例6)
例5の製造方法のうち、平均粒径150nm~200nmのジルコニア粉末に対し、アルミナ粉末を0.125質量%となるように混合するよう変更した。マイクロ波加熱の昇温速度が1150℃までを600℃/min、1200℃までを20℃/min、1620℃までを40℃/minとなるように昇温し、1620℃で1分間保持した。その後、50℃/minの降温速度で1300℃まで降温し、1300℃に達したタイミングでマイクロ波加熱装置の電源を切り、例6のジルコニア焼結体を製造した。
【0101】
(例7)
例4の製造方法のうち、イットリア濃度が5.6mol%となるように変更した。また、アルミナ粉末の割合を0.015質量%となるように変更した。マイクロ波加熱の昇温速度が1200℃までを600℃/min、1500℃までを5℃/min、1730℃までを40℃/minとなるように昇温し、1730℃で1分間保持した。その後、200℃/minの降温速度で1300℃まで降温し、1300℃に達したタイミングでマイクロ波加熱装置の電源を切り、例7のジルコニア焼結体を製造した。
【0102】
(例8)
例1の製造方法のうち、マイクロ波による加熱を電気炉による加熱に変更した。具体的には、仮焼結体を120℃/hの速度で1450℃に昇温して、120分間保持した後、5℃/minの速度で降温した。これら以外の操作は例1と同様にして、例8のジルコニア焼結体を製造した。
【0103】
(例9)
例8の製造方法のうち、イットリア濃度が5.6mol%となるように変更した。また、アルミナ粉末の割合を0.015質量%となるように変更した。これら以外の操作は例8と同様にして、例9のジルコニア焼結体を製造した。
【0104】
(例10)
オキシ塩化ジルコニア溶液を加水分解反応させて生成したジルコニアゾルに対し、塩化イットリウムと塩化イッテルビウムとを混合した。なお、塩化イットリウムをイットリア換算し、塩化イッテルビウムをイッテルビア換算したとき、ジルコニアとイットリアとイッテルビアとの合計に対して、イットリアが1.7mol%、イッテルビアが2.4mol%となるように塩化イットリウムおよび塩化イッテルビウムを混合した。かかる混合物を乾燥させたあと、1120℃、4時間仮焼し、部分安定化ジルコニア粉末を得た。かかるジルコニア粉末を直径1mmのジルコニアボールを用いたボールミルで粉砕後、メッシュ篩により選別し、成形体材料として平均粒径150nm~200nmのジルコニア粉末を得た。この粉末に、平均粒径30nmのアルミナ粉末を0.05質量%となるように混合した。このジルコニア粉末を円盤状の金型に充填し、0.78MPaの圧力を加えた後、金型から成形体を取り出し、かかる成形体に対して196MPaのCIP成形を行った。その後、得られた成形体を1100℃で2時間加熱し、仮焼結体を得た。このときの昇温速度が800℃までを120℃/h、1100℃までを100℃/hとなるように実施した。その後、例4と同様にしてマイクロ波加熱をした後、1300℃までの降温速度を200℃/minとして降温を行い、例10のジルコニア焼結体を得た。ただし、マイクロ波加熱の条件は、1050℃までを600℃/min、1730℃までを40℃/minとなるように昇温した後、1730℃で1分間維持、となるように変更した。
【0105】
(例11)
例10の製造方法から、マイクロ波加熱を電気炉の電気炉による加熱に変更した。具体的には、仮焼結体を120℃/hの速度で1500℃に昇温して、120分間保持した後、5℃/minの速度で降温した。かかる降温は電気炉の加熱を止め、電気炉内で焼結体を自然放熱させることで行った。これら以外の操作は例10と同様にして、例11のジルコニア焼結体を製造した。
【0106】
(例12)
例10の製造方法から、塩化イットリウムの混合を行わず、塩化イッテルビウムを混合し、ジルコニア焼結体におけるイッテルビア濃度が5.6mol%となるように変更した。また、マイクロ波加熱の昇温速度が1200℃までを600℃/min、1500℃までを5℃/min、1730℃までを40℃/minとなるように昇温し、1730℃で1分間保持するよう変更した。これら以外は例10と同様にして、例12のジルコニア焼結体を製造した。
【0107】
(例13)
例12の製造方法から、マイクロ波加熱を電気炉の電気炉による加熱に変更した。具体的には、仮焼結体を120℃/hの速度で1500℃に昇温して、120分間保持した後、5℃/minの速度で降温した。かかる降温は電気炉の加熱を止め、電気炉内で焼結体を自然放熱させることで行った。これら以外の操作は例12と同様にして、例13のジルコニア焼結体を製造した。
【0108】
<結晶相解析>
X線回折装置としてX’Pert Pro Alpha-1(Malvern PaNalytical製)を用いて、各例で製造したジルコニア焼結体のX線回折パターンのプロファイルを得た。測定条件は以下のとおりとした。
線源:CuKα1(45kV 40mA)
測定範囲:10°≦2θ≦90°
スキャン速度:1.5°/min
ステップサイズ:0.0131°
【0109】
得られたXRDプロファイルを解析ソフト:RIETAN-FPを用いて、リートベルト解析を行い、単位格子のc/a軸長比および結晶相の割合(質量%)を解析した。解析は、正方晶、準安定正方晶、及び立方晶の混相とし、各元素の温度パラメータは同一とした。なお、ここで言う準安定正方晶とは、正方晶のa軸長、c軸長のみが異なる結晶相とする。結果を表1に示す。
【0110】
<透光性の評価>
各例で製造したジルコニア焼結体を厚さ1mmの円盤状の試験片となるように加工し、ダイヤモンドスラリー(平均粒径0.5μm)を研磨剤として用いて、上記試験片の両面を鏡面研磨した後、厚み方向におけるD65光源の全光線透過率を測定した。かかる測定には、日本電色工業製のヘーズメーターNDH4000を用いた。結果を表1に示す。
【0111】
<水熱劣化試験>
各例で製造したジルコニア焼結体を以下に示す手法に従い、水熱処理後の単斜晶率(%)を測定した。具体的には、まず、ジルコニア焼結体の表面をダイヤモンドスラリー(平均粒径0.5μm)にて鏡面研磨した。次に、研磨後の焼結体に対して、装置名:高圧マイクロリアクター(オーエムラボテック株式会社製)にて、140℃で100時間の水熱劣化処理を施した。その後、研磨面のX線回折パターンをX線回折装置(装置名:UltimaIV、株式会社リガク製)で測定した。そして、測定結果を用いて、下記式より単斜晶率(%)を求めた。下記式より理解されるように、単斜晶率は、単斜晶相(111)面に相当するX線回折ピーク強度[I(111)]、単斜晶相(11-1)面に相当するX線回折ピーク強度[I(11-1)]、および、単斜晶相以外の結晶相(111)面に相当するX線回折ピーク強度の合計[I(111)]より、算出することができる。その結果を表1に示す。
[単斜晶率(%)]
={I(111)+I(11-1)}
/{I(111)+I(11-1)+I(111)}
×100
なお、X線回折装置の各条件は、以下の通りである。
線源:CuKα(40kV 40mA)
測定範囲:26°≦2θ≦38°
スキャン速度:2.0°/min
ステップサイズ:0.02°
【0112】
【表1】
【0113】
イットリアの割合が4.1mol%である例1~6、8を比較すると、例2~6の水熱劣化後単斜晶率が5%以下に抑えられており、優れた耐水熱劣化性が実現されていることがわかる。これは、マイクロ波加熱(ここでは1620℃以上)によって焼結を行い、少なくとも50℃/min以上の降温速度で1300℃まで冷却したことにより、単位格子のc/a軸長比が、1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相の割合が40質量%以上となったことに起因すると考えられる。また、例2~6のジルコニア焼結体の結晶相は、単位格子のc/a軸長比が、1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相と、1.012超1.017以下の範囲内にある結晶相とで構成されており、均質性の高い結晶相が実現されていることがわかる。一方で、例1、8では、降温速度が遅すぎたために、単位格子のc/a軸長比が、1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相が析出せず、耐水熱劣化性が不十分となったと考えられる。さらに、例8では、電気炉加熱によってジルコニア焼結体を製造しているため、マイクロ波加熱で焼結させたものよりも、透過性および耐水熱劣化性が劣っていると考えられる。
【0114】
イットリアの割合が5.6mol%である例7、9を比較すると、例7の方が全光線透過率が高く、水熱劣化後の単斜晶率が低いことがわかる。これは、例7では、マイクロ波加熱と、急速冷却とを実施しており、単位格子のc/a軸長比が、1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相の割合が100質量%となっていることに起因すると考えられる。
【0115】
例10は、例4のイットリアの一部をイッテルビアに変更した例であるが、優れた透光性と優れた水熱劣化性とが実現されている。例10においても、ジルコニア焼結体は単位格子のc/a軸長比が、1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相と、1.012超1.017以下の範囲内にある結晶相とで構成されており、単位格子のc/a軸長比が、1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相の割合が40質量%以上である。一方、例11は、マイクロ波加熱ではなく電気炉による加熱を行った例であり、単位格子のc/a軸長比が、1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相が測定されなかった。これは、電気炉の加熱空間全体が高温に保持されており、焼結の後の降温速度が遅かったために、耐水熱劣化性が不十分となったと考えられる。
【0116】
例12、13では、イットリアの代わりにイッテルビアを有するジルコニア焼結体を製造した。イッテルビアを有するジルコニア焼結体の製造においても、マイクロ波加熱と、急速冷却により、単位格子のc/a軸長比が、1.0055以上1.010未満の範囲内にある結晶相が生じ、優れた透光性と優れた水熱劣化性とが実現されることがわかる。
【0117】
<試験2>
(FE-EPMAによるライン分析)
例2、4、7、8のジルコニア焼結体をFE-EPMA(日本電子株式会社製、JXA-8530F)によりライン分析を行い、イットリウムの強度分布について調べた。ジルコニア焼結体の表面を鏡面研磨し、かかる表面に対してライン分析を行った。条件の以下のとおりとした。
・検出器:Y WDS detector PETH
・加速電圧:15kV
・照射電流:5×10-8
・収集時間:500ms
・倍率:50000倍
・ピクセルサイズ:9.4nm
・測定点数:256
・測定距離:2400nm
【0118】
得られたイットリウムの特性X線強度データを5点平均でスムージング処理を行った後、イットリウムの特性X線強度の変動係数を求めた。各例の変動係数を表2に示す。なお、ライン分析の測定領域は、ジルコニア焼結体の結晶界面を少なくとも1回通過するように設定した。また、図3~6にそれぞれ、例2、例4、例7、例8のライン分析の結果のグラフを示す。かかるグラフは、イットリウムの特性X線強度を縦軸、測定距離を横軸に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
(STEM-EDXによる解析)
例4、7、8のジルコニア焼結体の表面をSTEM-EDX(日本電子株式会社製、JEM-ARM200F(HRP))により解析した。条件は以下のとおりとした。
・検出器:EX-24221M1G5T
・加速電圧:200kV
・倍率:20万倍
・スイープ回数:150回
【0121】
各例において、STEM-EDXにより、イットリウムのマッピング画像、及びかかるマッピング画像と同じ視野の二次電子画像を取得した。図7~9にそれぞれ例4、例7、例8のジルコニア焼結体の画像を示す。図7~9において、左側がイットリウムのマッピング画像、右側が二次電子画像である。マッピング画像は、白に近いほどイットリウム強度が高く、黒に近いほどイットリウム強度が小さいことを示す。
【0122】
表2および図3~6に示すとおり、マイクロ波加熱で焼結を行い急速冷却したジルコニア焼結体では、電気炉で焼結したジルコニア焼結体よりも、イットリウムの特性X線強度の変動係数が低かった。即ち、マイクロ波で焼結したジルコニア焼結体の方がイットリウムがより均質に分散している(濃度ムラが抑制されている)ことがわかる。
【0123】
また、図9に示すように、電気炉で焼結した場合には、二次電子画像で確認される結晶粒子の境界にイットリウムの強度が局所的に高くなっている(偏析している)。一方で、図7、8に示すように、マイクロ波加熱で焼結を行い急速冷却したジルコニア焼結体では、結晶粒子の界面のイットリウムの偏析が抑制されていることがわかる。
【0124】
以上、ここで開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9