(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】細胞採取具
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20240722BHJP
C12M 1/30 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C12M1/26
C12M1/30
(21)【出願番号】P 2020031466
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-02-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)刊行物名 アジア・アフリカ「ネオ・ファイバー・テクノロジー」学術会議 講演予稿集 発行者名 京都工芸繊維大学繊維科学センター 該当箇所 「The Shape of Fiber Material and Functionality Evaluation and its Development in Cell Harvesting Instrument」 発行年月日 2019年3月4日 (2)刊行物名 「平成30年度ネオファイバーテクノロジープロジェクト研究報告会」 講演予稿集 発行者名 京都工芸繊維大学繊維科学センター 該当箇所 「細胞採取器具における繊維材料の形状および機能性評価とその開発」 発行年月日 2019年3月18日 (3)学会における発表 「ポリ-L-乳酸繊維糸(PLLA)使用の子宮頸がん検査用細胞採取ブラシの研究開発とその繊維構造」について、ポスター発表 開催日 2019年6月5日~6月7日 学会名、開催場所 2019年繊維学会年次大会のアントンパール・ジャパン社の企業ブース、タワーホール船堀 (東京都江戸川区船堀4-4-1) (4)刊行物名 「快適性とスマートテキスタイル国際シンポジウム2019 in 奈良」 講演予稿集 発行者名 一般社団法人 日本繊維製品消費科学会 該当箇所 「Research and Development of a Braided Cervical Cell Harvest Instruments Using PLLA Yarn-Fiber Structure and Modified Cross Section Yarn-」 発行年月日 2019年9月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (5)刊行物名 「2019年度日本機械学会年次大会」 講演論文集 発行者名 一般社団法人 日本機械学会 該当箇所 「組紐および異形断面繊維を用いた子宮頸部細胞採取ブラシの研究開発」 発行年月日 2019年9月8日 (6)刊行物名 「2019(令和元)年度一般社団法人日本家政学会関西支部第41回研究発表会」 予稿集 発行者名 一般社団法人 日本家政学会 該当箇所 「ポリ-L-乳酸糸使用の組紐子宮頸部細胞採取ブラシの研究開発-繊維構造と組紐の量産化-」 発行年月日 2019年10月26日 (7)刊行物名 「2019年繊維学会秋季研究発表会」 予稿集 発行者名 一般社団法人 繊維学会 該当箇所 「ポリL乳酸繊維糸を用いた組紐子宮頸部細胞採取ブラシの開発とその繊維構造および吸着性について」 発行年月日 2019年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】523132778
【氏名又は名称】森野 ひとみ
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】森野 ひとみ
(72)【発明者】
【氏名】山根 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】平田 耕造
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-017547(JP,A)
【文献】国際公開第2004/020614(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
A61B 9/00- 10/06
A61F 13/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柄と、柄の先端の芯と、芯の周囲の採取部とから成り、
採取部は複数本の組紐から成り、各組紐は複数本の異形繊維から成りかつ前記芯に固定され、
前記異形繊維は、複数枚の紐状のリボンが長辺方向に沿って互いに結合された、合成樹脂のモノファイバーから成り、
複数枚のリボンには短辺方向が平行でない組み合わせが含まれ、かつリボン間に空隙を備え、
採取部の表面にリボンの長辺が表れ、
さらに、組紐と組紐の間の空隙、組紐の異形繊維間の空隙、及び前記リボン間の空隙に、採取した細胞を保持するように構成されている、細胞採取具。
【請求項2】
前記リボンは前記短辺方向に沿って表面に凹凸を備えていることを特徴とする、
請求項1の細胞採取具。
【請求項3】
前記異形繊維は前記リボンを3枚あるいは4枚備えていることを特徴とする、
請求項1または2の細胞採取具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、子宮頸部等から検査用の細胞を採取する採取具に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮頸癌の検査の信頼性を高めるには、子宮頸部の細胞の採取量を増すことと、採取量のバラツキを小さくすることが必要である。発明者らはこのため、組紐を用いた細胞採取具を提案した(非特許文献1)。即ち、ポリL乳酸等の繊維を用い、八つ金剛組、S-凹凸ねじり、Z-凹凸ねじり、江戸源氏組等の組紐を作る。この組紐を芯に固定し、細胞の採取具とする。試作した細胞採取具は、市販のブラシ状の細胞採取具以上の細胞採取量を示した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】2018年6月2日 日本繊維機械学会 第71回年次大会 講演番号B2-03 「組紐編み技術を用いた子宮頸部細胞採取器具の開発」 森野ひとみ 他
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、組紐を用いた細胞採取具を改良し、細胞採取量が大きくかつ採取量のバラツキが小さい細胞採取具を得ることを検討し、異形繊維を用いることが有効であることを見出した。
この発明の課題は、細胞採取量が大きくかつ採取量のバラツキが小さい、細胞採取具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の細胞採取具は、柄と、柄の先端の芯と、芯の周囲の採取部とから成り、
採取部は、複数枚の合成樹脂のリボンが長辺方向に沿って互いに結合されたモノファーバーの異形繊維から成り、複数枚のリボンには短辺方向が平行でない組み合わせが含まれ、かつリボン間に空隙を備え、
採取部の表面にリボンの長辺が表れる。
【0006】
好ましくは、複数本の異形繊維から成る組紐が複数本前記芯に固定され、組紐と組紐の間の空隙、組紐の異形繊維間の空隙、及び前記リボン間の空隙に、採取した細胞を保持するように構成されている。
【0007】
より好ましくは、前記リボンは前記短辺方向に沿って表面に凹凸を備えている。これらの凹凸も細胞を採取しかつ細胞を保持する。従って細胞採取量が増加する。
【0008】
好ましくは、前記異形繊維は前記リボンを3枚あるいは4枚備えている。比較的少枚数のリボンが細胞の採取個所と強く接触することにより、採取量が増加する。
【0009】
異形繊維は組紐として用いるとは限らない。例えば前記異形繊維のワタを芯に固定し、異形繊維間の空隙及び前記リボン間の空隙に細胞を保持するようにしても良い。
【0010】
異形繊維から成る不織布あるいは編地を設け、これを採取部として芯に固定し、異形繊維間の空隙及び前記リボン間の空隙に細胞を保持するようにしても良い。
【0011】
図10(ブラシ状の細胞採取具を用いた従来例)、
図11(異形繊維ではない繊維を 組紐にした比較例)、
図12(異形繊維を組紐にした実施例)を比較すると、実施例では細胞の採取量が大きいことが分かる。特に
図11と
図12の違いは、異形繊維を用いるかどうかによるものである。
図11,
図12から、異形繊維を用いることにより細胞採取量が増すことが分かる。さらに表1は実施例での細胞採取量のバラツキを表し、実施例でのバラツキは小さい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図7】2種類のさらに他の異形繊維を示す模式的断面図
【
図8】異形繊維のワタを用いた変形例の細胞採取具の要部を示す図
【
図9】異形繊維の不織布を用いた変形例の細胞採取具の要部を示す図
【
図10】市販の細胞採取ブラシの形状と試料の吸着量を示す図
【
図11】異形繊維の代わりに3本の繊維を引き揃えた、比較例の細胞採取ブラシの形状と試料の吸着量を示す図
【
図12】実施例の細胞採取ブラシの形状と試料の吸着量を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0014】
図1~
図12に、実施例の細胞採取具とその性能を示す。組紐自体は周知であり、組紐の製造方法は、非特許文献1により発表済みである。非特許文献1で発表した組紐の写真を
図2に示す。
【0015】
図1は4種類の実施例の細胞採取具を示す。細胞採取具の下端に柄が有り、柄の先端にプラスチック等の芯が固定されている。芯の表面に複数本の組紐が接着等により固定され、細胞の採取部となる。採取部には組紐の側面が表れ、側面には異形繊維の側面が表れる。後述のように、異形繊維は複数のリボンから成り、採取部の側面に異形繊維を構成するリボンの側面が表れ、細胞を擦り取る。
【0016】
図3,
図4は実施例での異形繊維の断面を示す。繊維の材質は溶融紡糸が可能なように化学繊維とし、実施例では生分解性でかつ表面にエーテル基、水酸基等の親水性基を備えるポリL乳酸繊維を用いた。なおポリアミド等の化学繊維も、同様に表面に親水性基を備えるので、生分解性でないため被検者の体内に残存すると問題が生じ得るが、使用可能である。繊維の表面に親水性基があると、採取した細胞を保持しやすくなると考えられる。
【0017】
図3,
図4の異形繊維は短辺方向断面がY字状で、3枚のリボンが異形繊維の中心で互いに結合されたモノファイバーの繊維である。このような異形繊維は溶融紡糸によりノズルを用いて紡糸する。各リボンは円柱を積み重ねたような断面形状を持ち、リボンの側面に凹凸がある。
図3,
図4の異形繊維に対応するノズルは、例えばレーザ加工により円形の孔をノズルに形成すると共に、孔が互いにつながるようにレーザの照射位置を制御することにより製造できる。
【0018】
3枚のリボンは全て等しいものである必要はない。
図5は変形例の異形繊維を示し、1枚のリボンは他の2枚のリボンに比べ短辺方向が短い。
【0019】
リボンの枚数は3枚に限らない。このような例を
図6に示す。異形繊維10はリボン15を2枚備え、L字状である。異形繊維12はリボン15を4枚備え”+”状、異形繊維14はリボン15を5枚備えH字状である。リボン15の枚数を多くするよりも、3枚あるいは4枚のリボンが細胞を採取する個所に強く接触する方が、多くの細胞を採取できると考えられる。このため、リボン15の枚数は3枚あるいは4枚が好ましい。またリボン15の端部に長辺16の端部が表れ、長辺16は異形繊維の長辺方向に続いている。さらにリボン15は凸部17と凹部18を備え、短辺方向に沿って表面に凹凸がある。
【0020】
図3~
図6のリボン15は短辺方向に凹凸があるが、凹凸の無い例を
図7に示す。異形繊維20は3枚の平らなリボン21から成る。異形繊維24では、断面が三角形状のリボン25が3枚、異形繊維24の中心部27で互いに接続されている。異形繊維20,24では、リボン21,25に凹凸が無い分、細胞の採取能力が低い。
【0021】
図8はワタ状の採取部32を備える変形例を示す。40は細胞の採取具で、柄30とその先端に固定した合成樹脂等の芯31と、芯31を取り囲むワタ状の採取部32とから成る。
図3~
図7の異形繊維の塊を、繊維の方向がランダムに分布するように処理すると、ワタ状の採取部32が得られる。
【0022】
図9は不織布から成る筒状の採取部52を備える変形例を示す。細胞の採取具50は柄30と芯31を備え、芯31を採取部52の筒に挿入し、両者は例えば接着されている。不織布の筒54を製造し、厚さを増すため筒54を2重~多重に折り返し、採取部52とする。そして採取部52の筒内に芯31を通し、例えば接着する。小径の不織布54を製造するため、例えば小径の筒を異形繊維による編成する。そしてニードルパンチ等により筒状の編地の異形繊維を部分的に切断すると、不織布の筒54となる。
【0023】
子宮頸部細胞の採取量を評価するための試験を行った。市販の細胞採取具(従来例)の形状と試験結果を
図10に示す。異形繊維ではなく、断面円形の繊維を3本引き揃えて組紐とし、他は実施例と同様の細胞採取具(比較例)での試験結果を
図11に示す。比較例では直径110μmのポリL乳酸繊維を3本引き揃えたが、平行に引き揃えただけで、異形繊維ではない。
図3、
図4の異形繊維を用いた実施例の細胞採取具での試験結果を
図12に示す。
【0024】
採取量を評価するため、ラテックスに赤インキを溶かした試料を、子宮頸部の模型に塗布し、採取具を擦過させ、採取具の重量変化から吸着した試料の重量を測定した。採取具は回転させずに直線状に12回ずつ擦過させ、1種類の採取具を各10本用いて、吸着量の平均値を求めた。測定時の室温は25℃であった。
【0025】
6種類の市販ブラシを用いたが、吸着量の平均値は20mg未満であった。組紐を用いた比較例では、吸着量の平均値は61mg~72mgで、従来例に比べ3倍以上に増加した。実施例での吸着量の平均値は94mg~116mgで、従来例の5倍以上で、比較例よりも約50%大きかった。
【0026】
実施例の細胞採取具では、吸着量のバラツキも小さかった。吸着量の分布を表1に示す。吸着量の標準偏差は平均値の20%未満であった。また4種類の細胞採取具全体(試料数40)で、吸着量の最小値は70mgであり、比較例での平均値に匹敵する。以上のことから、実施例では吸着量のバラツキは小さい、あるいは従来例及び比較例以上の細胞を確実に採取できるといえる。
【0027】
表1
表1 実施例での吸着量
八つ金剛組 S-凹凸ねじり Z-凹凸ねじり 江戸源氏組
平均値(mg) 94.4 115.7 112.4 94.4
最大値(mg) 126.0 138.4 130.6 122.9
最小値(mg) 79.3 98.0 94.9 70.0
標準偏差(mg) 15.1 13.0 12.8 18.2
【0028】
実施例と比較例及び従来例での、吸着量の差について考察する。従来例では採取部の表面に繊維の先端が露出し、いわば繊維の先端が点と成り、細胞を擦り取る。これに対して比較例では、組紐の表面に繊維の長辺方向の側面が表れ、繊維の側面が細胞を擦り取る。また採取された細胞は、組紐と組紐の間、及び組紐内の繊維と繊維の間に保持される。
【0029】
実施例では、1本の繊維に複数のリボン15が有り、各リボン15の長辺16(断面視では短辺方向の先端)が細胞を擦り取る。異形繊維の中心でリボン15が互いに結合されているため、複数の繊維を単に引き揃えた場合に比べ、リボン15は剛性が高く、より強く細胞を擦り取る。さらに1本のリボン15の側面には凸部17と凹部18が例えば各々複数有るため、リボン15の側面も細胞を擦り取ることができる。これらのため実施例の細胞採取具は比較例よりも細胞を擦り取る能力が高い。さらに実施例では、異形繊維内のリボン15とリボン15の空隙にも採取した細胞が保持される。
【0030】
実施例では子宮頸部細胞の採取を示したが、咽頭部など他の部位の細胞を採取しても良い。
【符号の説明】
【0031】
10,12,14,20,24 異形繊維
15,21,25 リボン
16 長辺
17 凸部
18 凹部
27 中心部
30 柄
31 芯
32,52 採取部
40,41 細胞採取具
54 不織布の筒