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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】感温性表示部材用充填剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/18 20060101AFI20240722BHJP
   C08J 3/075 20060101ALI20240722BHJP
   C08F 20/56 20060101ALI20240722BHJP
   C08F 251/00 20060101ALI20240722BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240722BHJP
   G01K 11/16 20210101ALI20240722BHJP
   G01K 11/12 20210101ALI20240722BHJP
【FI】
G01K11/18
C08J3/075 CEP
C08J3/075 CEY
C08F20/56
C08F251/00
C08F2/44 C
G01K11/16
G01K11/12 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020052272
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2020164838
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019065714
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年9月21日から22日、山形大学において開催された2019年度化学系学協会東北大会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078950
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 忠
(72)【発明者】
【氏名】村上 賢治
(72)【発明者】
【氏名】中村 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】小粥 涼平
(72)【発明者】
【氏名】一ノ関 留奈
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友祐
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-172544(JP,A)
【文献】特開2011-006581(JP,A)
【文献】特開2003-147210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
C08J 3/075
C08F 20/56
C08F 251/00
C08F 2/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留水にNIPAMモノマーを0.6~6wt%加えてNIPAM水溶液を作製し、このNIPAM水溶液に粉末寒天を0.6~6wt%溶解させ、このNIPAM水溶液を加熱して沸騰後、寒天の凝固転移温度より高温において、重合開始剤および促進剤を加えてNIPAMモノマーを重合し、ゲル状化するまで凝固転移温度以下で静置する工程を含むことを特徴とする感温性表示部材用充填剤の製造方法。
【請求項2】
蒸留水にNIPAMモノマーを0.6~6wt%加えてNIPAM水溶液を作製し、このNIPAM水溶液にグルコースを6~25wt%加えて攪拌し、このNIPAM水溶液に粉末寒天を0.6~6wt%溶解させ、これを加熱して沸騰後、寒天の凝固転移温度より高温において、重合開始剤および促進剤を加えてNIPAMモノマーを重合し、ゲル状化するまで凝固転移温度以下で静置する工程を含むことを特徴とする感温性表示部材用充填剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の温度の前後において、分散又は凝集することにより、光透過性を変化させる温度応答性高分子を用いた感温性表示部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1ないし4に記載の感温性表示部材が知られている。これらの遮光材は、N・イソプロピルアクリルアミド(以下NIPAMという)の重合体が特定の温度(下限臨界溶液温度(以下LCSTという)または上限臨界溶液温度(以下UCSTという))の前後において、水中で親水性により膨張して透明に、また疎水性により収縮して不透明になる性質を利用して、これを水溶液等の溶媒と共にガラスや合成樹脂製の板材又はシートの間に密封して構成される。これらの遮光材は建物や温室への日射しを調整する窓材等への適用が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公昭61-7948号公報
【文献】特開平6-330681号公報
【文献】特開平10-316453号公報
【文献】特開2007-211153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の遮光材において温度応答性高分子の溶液を用いると、温度応答性高分子ポリマー及び溶媒を封入する容器からの漏出を防止するために、高い強度や気密なシール手段を必要とし、製造が容易でなく、高価になってしまうし、比較的頻繁な保守点検を必要とする。
そこで本発明は、温度応答性高分子の流動性を阻害し、漏出逸脱を防止し、比較的簡易に製造でき、安価に感温性表示部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の感温性表示部材は、透過性の表示部を備えた収容枠体と、この収容枠体に充填される充填剤とを具備させる。充填剤は、溶液中にあって臨界溶液温度の前後の変化に対応して分散、凝集する温度応答性高分子ポリマーと、この溶液をゲル状に維持するゲル化剤とを具備させた。臨界溶液温度の前後の温度に応じて温度応答性高分子ポリマーの溶解、凝集することにより収容枠体の表示部の遮光状態と透光状態を切り替え、またこれにより温度変化を視認可能にする。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、温度応答性高分子ポリマーの溶液を粉末寒天でゲル状にして粘性を有するため、流動し難く、充填剤の収容位置から漏出逸脱を防止することができ、感温性表示部材に収容するためのシール強度を低減して感温性表示部材を容易に製造することができ、製造コストを低廉化する。この結果、遮光状態と透光状態を自動的に切り替える窓材等の普及を促し、また温度変化に対する警告手段の適用範囲を拡大して温度変化に伴う様々なリスクを回避する。
グルコースを適宜の濃度で添加することにより、臨界溶液温度を調整可能としたので、感温性表示部材を所定の温度で遮光状態と透光状態切り替えることができ、温度変化に伴う様々なリスクを一層回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る感温性表示部材の正面図である。
図2図1の感温性表示部材の分解斜視図である。
図3図1の感温性表示部材の製造方法の説明図である。
図4】NIPAMと粉末寒天の混合比率を変えた感応性表示部材の透過率の変化を比較するグラフである。
図5】NIPAMと粉末寒天の混合割合を変えた感応性表示部材の透過性をLCSTより低い温度と高い温度とした状態の比較を示す写真である。
図6】NIPAM水溶液のグルコース濃度に対するLCSTの変化を示すグラフである。
図7】波長に対する透過率の変化を、NIPAM濃度6wt%及び寒天濃度2wt%の条件で異なるグルコース濃度ごとに比較したグラフで、(A)はLCSTより低温での透過率を、(B)はLCSTより高温での透過率の変化を示す。
図8】波長に対する透過率の変化を、グルコース濃度25wt%及び寒天濃度2wt%の条件で異なるNIPAM濃度ごとに比較したグラフで、(A)はLCSTより低温での透過率を、(B)はLCSTより高温での透過率の変化を示す。
図9】NIPAM6wt%、寒天2wt%の充填剤が白濁から透明に状態変化する温度を測定した結果を示す写真で、(A)はグルコース濃度6wt%の試料を、(B)はグルコース濃度25wt%の試料を示す。
図10】他の実施形態の感温性表示部材の平面図である。
図11】さらに他の実施形態の感温性表示部材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して本発明の実施の一形態を説明する。
図1図2において、本発明に係る感温性表示部材1は僅かな厚みの板状をなし、隙間をおいて上下に重なり合う一対の透明のガラス板2と、ガラス板2の相互間に介在することによりガラス板2の隙間に収容空間を形成するスペーサ3と、スペーサ3とガラス板2とに囲まれた空間に収容された充填剤4とを具備する。スペーサ3は、長手方向の対向片を有する略コ字状のシリコンゴムで構成される。感温性表示部材1は、ガラス板2及びスペーサ3が約1mmの厚みを持ち、スペーサ3の開口端で外側に開放し、充填剤4を注入できる。図3に示すように、感温性表示部材1は、対向一対のガラス板2の間にスペーサ3を挟み込むように重ね合わせ、側縁部を挟持手段(本実施形態では簡易的にクリップ5を使用した)により挟み込むことにより固定し、必要に応じて接着剤で固定して収容枠体が構成され、気密なシール手段を必要としない。
【0009】
充填剤4には、主に温度応答性高分子ポリマーとしてNIPAMを用いる。このNIPAMは、32℃付近を境に、下側の温度で溶媒である水に溶解する親水性を示し,ポリマー鎖が伸びた構造となるが,上側の温度で凝集する疎水性を示す相転移の特性を有する。
【0010】
この充填剤4を製造する方法を説明する。
容器に蒸留水とNIPAMモノマー0.6~6wt%を加え、撹拌してNIPAM水溶液を作製する。このNIPAM水溶液を加熱しながら粉末寒天0.6~6wt%を徐々に加えて900 rpmで撹拌し、溶解させた。この水溶液を沸騰するまで加熱し、沸騰後、すぐに液温を50℃~90℃の範囲に下げ、寒天の凝固転移温度より高温を維持しながら撹拌する。寒天は、水中において90℃以上で溶解し、冷却して50℃付近で凝固し始めゲル状をなすため、寒天の溶解後は50℃以上の温度で保温することにより寒天の凝固を防ぐ。また、再溶解するには90℃以上の高温が必要なため、充填剤4はゲル状を維持するのに十分な耐熱性を有することとなる。50℃~90℃で安定した後、このNIPAM水溶液に重合開始剤および促進剤を加え、3分ほど撹拌してNIPAMモノマーを重合させる。重合開始剤は過硫酸アンモニウム水溶液9wt% 、重合促進剤はN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンを過硫酸アンモニウム水溶液の1/5の添加量として用いた。重合開始剤や促進剤の添加量はゲルの特性を変化させるので必要に応じて適宜選択する。重合開始剤および促進剤を加えたNIPAM水溶液は短時間撹拌させた後、温風で温めて、図3に示すように、スペーサ3及びガラス板2で形成された収容部に流し込み充填剤4のゲル化が完了するまで室温で静置させる。その後、ゲル状の充填剤4は、さらに安定化させるために5℃以下で12時間以上静置する。
【0011】
本実施形態の製造方法で作成した感応性表示部材について、NIPAMと粉末寒天を種々の割合で混合した充填剤の透過率を測定した結果を図4に示す。透過率は、充填剤を25℃(LCST以下)または50℃(LCST以上)に保温し、紫外可視分光光度計を用いて太陽光の波長を対象に測定した。同図に示す測定結果から、LCST以下では、全ての条件で透過率が85%以上の透明度を確認できる。透過率を10%以下に抑えると、日光を遮る事が可能であり、この状態を基準とすると、NIPAM濃度6wt%、粉末寒天濃度0.6wt%の混合割合のとき、遮光性を有する事が確認できる。なお、透過率及び遮光性は、感応性表示部材の適用環境に応じて充填剤のNIPAMと粉末寒天の混合比率を変える事で必要な性能に調整可能である。
【0012】
また、本実施形態の製造方法で作成した感応性表示部材について、NIPAMと粉末寒天の割合を変えて混合した感応性表示部材の透過性を、LCSTより低い25℃とLCSTより高い60℃で確認した結果を図5に示す。透過性は、LCSTより低い場合は透明度を確保し、LCSTより高い場合は白濁した遮光性を示した。
【0013】
他の実施形態により充填剤を製造する方法を説明する。
スクリュー管瓶等の容器に蒸留水15mLと、NIPAM0.6~6wt%を加え、撹拌し溶解する。これにグルコース6~25wt%を添加して攪拌し、ゲル化剤である寒天粉末0.6~6wt%を加え、窒素によるバブリング処理を施す。このNIPAM溶液を90℃以上に加熱して寒天を溶解した後、50℃付近でゲル状に凝固する前の70℃に溶液温度を維持しつつ、重合開始剤である10wt%の過硫酸アンモニウム水溶液300μL、重合促進剤である20wt%のN,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン100μLを添加して重合処理を行う。このとき、重合開始剤および重合促進剤の添加量は、ゲルの所望の粘性に応じて適宜選択する。次いで重合処理を行なったNIPAM溶液を型枠に入れて室温で30分静置してゲル化し、さらに安定化させるために5℃以下で12時間以上静置して充填剤とする。
【0014】
この実施形態により製造した充填剤は、ゲル化する際にNIPAMにグルコースを加えることによりLCSTが低くなる方へ調整できることを確認した。このようなグルコース濃度とLCSTの相関関係は、図6に示すように、グルコース濃度が高くなるに従って、LCSTが低下する。NIPAM溶液は、その化学構造に基づいて、通常外部から熱エネルギーが加わると、水分子を保持しやすい親水性部分(アミド基)が水和していた水分子を放出して、疎水性部分であるイソプロピル基同士の疎水性相互作用により凝集するが、NIPAM中のアミド基が保持する水分子が多いため、水分子の放出に必要な熱エネルギーがほぼ決まってLCSTが固定される。これに対して、親水性部分が保持する水分子を減らすため、水分子との相互作用が強いヒドロキシ基を多く持つ糖類や、水分子と水和しやすい電解質塩を添加すれば、NIPAMの親水性部分からの水分子の放出に必要な熱エネルギーを減少できるからLCSTが低下する。同様の効果が得られるものとして、スクロースの構造やマルトースの構造を持つ糖類または塩化カルシウム(CaC12)等の電解質塩が挙げられる。
【0015】
NIPAM濃度6wt%及び寒天濃度2wt%の条件で、波長に対する透過率の変化を、異なるグルコース濃度ごとに比較したところ、図7(A)(B)に示すように、LCST以下(5℃)では、グルコース濃度に関わらず、どの波長域においても透過率は90%以上であり、LCST以上(40℃)では、グルコース濃度の増加に伴い透過率が減少することを確認した。
また、グルコース濃度25wt%及び寒天濃度2wt%の条件で、波長に対する透過率の変化を、異なるNIPAM濃度ごとに比較したところ、図8(A)(B)に示すように、LCST以下(5℃)では、NIPAM濃度が高くなるほど透過率が高くなり、LCST以上(40℃)では、NIPAM濃度の増加に伴い透過率が減少することを確認した。
【0016】
充填剤の液温を32℃から順次下げていき、充填剤が白濁から透明に状態変化する温度を測定した結果を図9に示す。グルコース濃度6wt%の試料は、水温30℃では白濁していたが、水温28℃で透明になった(同図(A))。グルコース濃度25wt%の試料は、水温30℃では白濁していたが、水温13℃で透明になった(同図(B))。
上記の結果を踏まえて、NIPAM濃度、グルコース濃度を調整し、目的に適した所望の仕様のLCSTおよび透過率の充填剤を作成することができる。
以上の結果から、本実施形態の製造方法で作成する充填剤は温度感応性表示部材として好都合である。
【0017】
なお、上記各実施形態において、充填剤4の作製にゲル化剤として粉末寒天を用いたが、本発明はこれに限定するものではなく、NIPAMを溶媒と共にゲル化するものであれば、入手の容易な片栗粉などのデンプン、ゼラチン、アルギン酸ナトリウムや他の多糖類を選択できる。また、ゲル状の経年劣化を防止するためにL-アスコルビン酸などの酸化防止剤を加えてもよい。
また、感温性遮光材を適用環境に応じたLCSTに調整するには、溶媒の変更・温度応答性高分子となるモノマーと他の種類のモノマーを共重合する等の方法を採用できる。なお、溶媒の選択にあたり、ゲル化剤や高分子が溶解する特性が前提となる。
【0018】
上記各実施形態の感温性表示部材1は、図10に示すように、例えば警告表示看板5などに応用すれば、LCSTより低い平常気温で充填剤4中のNIPAMがゲル状溶液内に分散して透過性を示すことによりガラス板2の透明な文字表示部分2aが視認不能な状態となる一方、LCSTより高い気温になると、充填剤4中のNIPAMがゲル状溶液内で凝集して遮光性を示すことにより文字表示部分3aが視認可能な状態となる。
【0019】
他の具体的な応用例として、感温性表示部材を薄膜層に形成して、シール、ワッペン、フィルムなどのシート状に構成すれば、監視対象物に貼付する等して低温又は高温状態を視認することができる。
また、図11に示すように、LCSTまたはUCSTの異なる複数の充填剤4を平面上に内外に充填区域を分けて配置すれば、ガラス板2上の透明の表示部2aを通して多段階の温度変化を表示できる。
【符号の説明】
【0020】
1 感温性表示部材
2 ガラス板
2a 表示部
3 スペーサ
4 充填剤
5 クリップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11