(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】油圧制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/14 20060101AFI20240722BHJP
F16H 61/04 20060101ALI20240722BHJP
F16H 59/74 20060101ALI20240722BHJP
F16H 59/68 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
F16H61/14 602Q
F16H61/14 602L
F16H61/04
F16H59/74
F16H59/68
(21)【出願番号】P 2020078302
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】貞方 健太
(72)【発明者】
【氏名】南 竜洋
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 博之
(72)【発明者】
【氏名】重中 康夫
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-017385(JP,A)
【文献】特開2009-085341(JP,A)
【文献】特開2014-101981(JP,A)
【文献】特開2016-065551(JP,A)
【文献】特許第3466061(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00-39/00
48/00-48/12
F16H 59/00-61/12
61/16-61/24
61/66-61/70
63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の摩擦締結要素の締結/非締結を切り替えることにより、変速を行う自動変速機の油圧制御装置であって、
油圧ポンプと、
この油圧ポンプから供給された作動油の流量を調整する流量制御弁と、
上記各摩擦締結要素に対応して夫々設けられ、上記流量制御弁から供給された作動油の、上記各摩擦締結要素への油圧の供給/非供給を切り替えることにより、上記各摩擦締結要素の締結/非締結を切り替える締結用油圧制御弁と、
これらの締結用油圧制御弁に対し、所定の制御電流を供給することにより、上記各摩擦締結要素への油圧の供給/非供給を切り替える制御装置と、
を有し、
上記締結用油圧制御弁は、
上記制御装置より制御電流が供給される電磁弁と、
この電磁弁により駆動されるスプールと、
このスプールが内部で摺動するシリンダと、
このシリンダの閉塞端と上記スプールの先端との間に配置された付勢ばねと、
を有し、
上記スプールは、
先端から順に、第1大径部分と、小径部分と、第2大径部分が形成されており、
上記シリンダは、
上記流量
制御弁に接続された第1ポートと、
この第1ポートよりも上記電磁弁の側に位置し、油圧を供給すべき摩擦締結要素に接続された第2ポートと、
この第2ポートよりも上記電磁弁の側に位置し、上記第2大径部分により閉塞可能であって、上記シリンダ内の作動油を流出させる第3ポートと、
を備え、
上記第1ポートは、上記電磁弁の非通電時における上記スプールの上記第2大径部分よりも上記シリンダの閉塞端の側に位置し、
上記制御装置は、上記自動変速機を搭載した車両のエンジン始動後、車両の発進前に、上記各摩擦締結要素のうちの、車両の発進時において締結される摩擦締結要素に対応して設けられた上記締結用油圧制御弁に単一のパルス状の固着防止電流を供給するように構成されていることを特徴とする油圧制御装置。
【請求項2】
複数の摩擦締結要素の締結/非締結を切り替えることにより、変速を行う自動変速機の油圧制御装置であって、
上記各摩擦締結要素に対して夫々設けられ、上記各摩擦締結要素への油圧の供給/非供給を切り替えることにより、上記各摩擦締結要素の締結/非締結を切り替える締結用油圧制御弁と、
これらの締結用油圧制御弁に対し、所定の制御電流を供給することにより、上記各摩擦締結要素への油圧の供給/非供給を切り替える制御装置と、
を有し、
上記制御装置は、上記自動変速機を搭載した車両のエンジン始動後、車両の発進前に、上記各摩擦締結要素のうちの、車両の発進時において締結される摩擦締結要素に対応して設けられた上記締結用油圧制御弁に固着防止電流を供給するように構成され、
上記複数の摩擦締結要素のうちの少なくとも1つは、摩擦締結要素を構成する摩擦板同士のクリアランスが実質的にゼロにされたゼロタッチクラッチであり、上記自動変速機を搭載した車両の発進時においては、上記ゼロタッチクラッチを含む複数の摩擦締結要素が締結され、上記制御装置は、上記ゼロタッチクラッチに対応して設けられた締結用油圧制御弁のみに上記固着防止電流を供給するように構成されていることを特徴とする油圧制御装置。
【請求項3】
上記制御装置は、上記ゼロタッチクラッチへの上記固着防止電流の供給を停止させた後、上記自動変速機を搭載した車両の発進時において締結される上記ゼロタッチクラッチ以外の摩擦締結要素を締結させる請求項2記載の油圧制御装置。
【請求項4】
上記車両のエンジン始動後、車両の発進前に供給される上記固着防止電流は、上記制御電流よりも低い電流に設定されている請求項1乃至3の何れか1項に記載の油圧制御装置。
【請求項5】
上記各
締結用油圧制御弁のうちの少なくとも1つは、上記制御電流を供給したとき、対応して設けられた摩擦締結要素が締結状態に切り替えられるように構成されている請求項1乃至4の何れか1項に記載の油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧制御装置に関し、特に、複数の摩擦締結要素の締結/非締結を切り替えることにより、変速を行う自動変速機の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5761337号公報(特許文献1)には、自動変速機の制御方法及び制御装置並びに自動変速機システムが記載されている。ここに記載されている自動変速機は、複数の摩擦締結要素を備えており、これらの摩擦締結要素を選択的に締結させることにより、自動変速機内の動力の伝達経路を変更して、変速段を変更できるように構成されている。即ち、自動変速機の変速段を、ある変速段から他の変速段に変更する場合には、締結されていた一部の摩擦締結要素を開放すると共に、開放されていた他の摩擦締結要素を締結させることにより、自動変速機内の動力の伝達経路が変更される。
【0003】
また、一般に、自動変速機は、変速時において、締結させるべき摩擦締結要素に対応して設けられた電磁弁を作動させ、この電磁弁によりスプールを移動させることにより、その摩擦締結要素に油圧を供給して、これを締結させる。また、開放させる(非締結にさせる)べき摩擦締結要素に対応して設けられた電磁弁を作動させ、その摩擦締結要素への油圧の供給を停止して、これを開放させる。車両の発進時においては、1速やリバース等の、自動変速機の発進時の変速段を構成する摩擦締結要素を締結させることにより、車両を発進させる。特許文献1記載の自動変速機においては、車両の発進時や変速時において、締結させるべき摩擦締結要素や、開放すべき摩擦締結要素に対応して設けられた電磁弁が作動するタイミングが正確に揃うように、プリチャージを実行している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自動変速機を切り替えるために各摩擦締結要素に対応して設けられた電磁弁によって移動されるスプールは、固着して動きが悪くなる場合がある。このように、スプールが固着してしまうと、電磁弁に制御信号が送られた後、電磁弁が作動され、実際にスプールが移動するまでの時間が長くなり、締結すべき摩擦締結要素に実際に油圧が供給されるまでに要する時間が長くなってしまう。このようなスプールの固着が発生すると、特許文献1記載の発明のように、プリチャージを実行していたとしても、摩擦締結要素の締結が遅れてしまい、自動変速機による変速の応答性が悪くなる。また、車両の発進時において、スプールに固着が発生していると、運転者が意図したときに、スムーズに発進させることができなくなるという問題がある。
【0006】
従って、本発明は、油圧供給の遅れに基づく、車両発進の遅れを抑制することができる自動変速機の油圧制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、複数の摩擦締結要素の締結/非締結を切り替えることにより、変速を行う自動変速機の油圧制御装置であって、油圧ポンプと、この油圧ポンプから供給された作動油の流量を調整する流量制御弁と、各摩擦締結要素に対応して夫々設けられ、流量制御弁から供給された作動油の、各摩擦締結要素への油圧の供給/非供給を切り替えることにより、各摩擦締結要素の締結/非締結を切り替える締結用油圧制御弁と、これらの締結用油圧制御弁に対し、所定の制御電流を供給することにより、各摩擦締結要素への油圧の供給/非供給を切り替える制御装置と、を有し、締結用油圧制御弁は、制御装置より制御電流が供給される電磁弁と、この電磁弁により駆動されるスプールと、このスプールが内部で摺動するシリンダと、このシリンダの閉塞端とスプールの先端との間に配置された付勢ばねと、を有し、スプールは、先端から順に、第1大径部分と、小径部分と、第2大径部分が形成されており、シリンダは、流量制御弁に接続された第1ポートと、この第1ポートよりも電磁弁の側に位置し、油圧を供給すべき摩擦締結要素に接続された第2ポートと、この第2ポートよりも電磁弁の側に位置し、第2大径部分により閉塞可能であって、シリンダ内の作動油を流出させる第3ポートと、を備え、第1ポートは、電磁弁の非通電時におけるスプールの第2大径部分よりもシリンダの閉塞端の側に位置し、制御装置は、自動変速機を搭載した車両のエンジン始動後、車両の発進前に、各摩擦締結要素のうちの、車両の発進時において締結される摩擦締結要素に対応して設けられた締結用油圧制御弁に単一のパルス状の固着防止電流を供給するように構成されていることを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明においては、制御装置が、電磁弁に対して所定の制御電流を供給する。電磁弁は、自動変速機の各摩擦締結要素に対して夫々設けられており、各摩擦締結要素への油圧の供給/非供給を切り替えることにより、制御装置の制御電流に基づいて各摩擦締結要素の締結/非締結を切り替える。また、制御装置は、車両のエンジン始動後、発進前に、各摩擦締結要素のうちの、発進時において締結される摩擦締結要素に対応して設けられた電磁弁に固着防止電流を供給する。
【0009】
本件発明者は、締結すべき摩擦締結要素への油圧供給遅れの発生は、電磁弁によって駆動される部品の固着が原因であり、この固着の発生は、電磁弁に固着防止電流を供給することにより抑制できることを突き止めた。即ち、車両の駐停車時に、自動変速機に備えられた摩擦締結要素が長時間非締結状態にされていると、これにより固着が発生することが本件発明者により見出された。上記のように構成された本発明によれば、制御装置は、車両のエンジン始動後、発進前に、各摩擦締結要素のうちの、発進時において締結される摩擦締結要素に対応して設けられた電磁弁に固着防止電流を供給し、これにより固着の発生が抑制される。即ち、電磁弁に固着防止電流を供給することにより、電磁弁によって駆動される部品の固着が解消され、運転者が発進操作を行ったとき、スムーズに車両を発進させることができる。なお、車両のエンジン始動後は、油圧ポンプが作動しているため、電磁弁に固着防止電流を供給すると、その電磁弁に対応して設けられた摩擦締結要素が締結状態にされるが、固着防止電流の供給は車両の発進前に行われるため、摩擦締結要素の締結により、車両が発進されることはない。
【0010】
本発明において、好ましくは、車両のエンジン始動後、車両の発進前に供給される固着防止電流は、制御電流よりも低い電流に設定されている。
このように構成された本発明によれば、エンジン始動後、車両の発進前に供給される固着防止電流が制御電流よりも低い電流に設定されているので、固着防止電流の供給による電力の消費を抑制することができ、低消費電力で固着の発生を抑制することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、各電磁弁のうちの少なくとも1つは、制御電流を供給したとき、対応して設けられた摩擦締結要素が締結状態に切り替えられるように構成されている。
【0012】
このように構成された本発明によれば、少なくとも1つの電磁弁は、制御電流を供給したとき、対応して設けられた摩擦締結要素に油圧が供給され、締結状態にされるので、電磁弁に電流を流さなくとも非締結状態にすることができ、消費電流を低減することができる。また、エンジン始動後、車両の発進前に供給する固着防止電流も、微少電流を流すだけで済むため、固着を抑制するために消費される電流量を更に少なくすることができる。
【0013】
また、本発明は、複数の摩擦締結要素の締結/非締結を切り替えることにより、変速を行う自動変速機の油圧制御装置であって、各摩擦締結要素に対して夫々設けられ、各摩擦締結要素への油圧の供給/非供給を切り替えることにより、各摩擦締結要素の締結/非締結を切り替える締結用油圧制御弁と、これらの締結用油圧制御弁に対し、所定の制御電流を供給することにより、各摩擦締結要素への油圧の供給/非供給を切り替える制御装置と、を有し、制御装置は、自動変速機を搭載した車両のエンジン始動後、車両の発進前に、各摩擦締結要素のうちの、車両の発進時において締結される摩擦締結要素に対応して設けられた締結用油圧制御弁に固着防止電流を供給するように構成され、複数の摩擦締結要素のうちの少なくとも1つは、摩擦締結要素を構成する摩擦板同士のクリアランスが実質的にゼロにされたゼロタッチクラッチであり、自動変速機を搭載した車両の発進時においては、ゼロタッチクラッチを含む複数の摩擦締結要素が締結され、制御装置は、ゼロタッチクラッチに対応して設けられた電磁弁のみに固着防止電流を供給するように構成されていることを特徴としている。
【0014】
ゼロタッチクラッチは、摩擦板同士のクリアランスが実質的にゼロにされているため、これを車両の発進用の摩擦締結要素とすることにより、車両発進の応答性を良好にすることができる。また、上記のように構成された本発明によれば、車両の発進前においては、ゼロタッチクラッチに対応して設けられた電磁弁のみに固着防止電流が供給されるので、固着防止電流の供給により車両が発進されてしまうのを確実に防止することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、制御装置は、ゼロタッチクラッチへの固着防止電流の供給を停止させた後、自動変速機を搭載した車両の発進時において締結されるゼロタッチクラッチ以外の摩擦締結要素を締結させる。
【0016】
このように構成された本発明によれば、ゼロタッチクラッチへの固着防止電流の供給を停止させた後、発進時において締結されるゼロタッチクラッチ以外の摩擦締結要素を締結させる。このため、車両を発進させる際は、ゼロタッチクラッチに対応して設けられた電磁弁に制御電流を供給するだけで車両を発進させることができ、車両発進の応答性を極めて良好にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の自動変速機の油圧制御装置によれば、油圧供給の遅れに基づく、車両発進の遅れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態による油圧制御装置を備えた自動変速機システム全体を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態による油圧制御装置により変速段が切り替えられる自動変速機の概略構成を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態による油圧制御装置により変速段が切り替えられる自動変速機におけるクラッチ/ブレーキ-変速段対応表である。
【
図4】本発明の実施形態による油圧制御装置に備えられた油圧制御回路を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態による油圧制御装置において、通電状態にある締結用油圧制御弁の断面図である。
【
図6】本発明の実施形態による油圧制御装置において、非通電状態にある締結用油圧制御弁の断面図である。
【
図7】固着が発生した場合における締結用油圧制御弁の作用の一例を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施形態による油圧制御装置において、締結用油圧制御弁のコイルに供給する固着防止電流波形の一例を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態による油圧制御装置において、締結用油圧制御弁に供給する電流と、これに対応して設けられた摩擦締結要素に供給される油圧の関係を示すグラフである。
【
図10】本発明の実施形態の油圧制御装置において、ECUの制御装置により実行される処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による自動変速機の油圧制御装置を説明する。
図1は、本発明の実施形態による油圧制御装置を備えた自動変速機システム全体を示すブロック図である。
図2は、本発明の実施形態による油圧制御装置により変速段が切り替えられる自動変速機の概略構成を示す図である。
図3は、本発明の実施形態による油圧制御装置により変速段が切り替えられる自動変速機におけるクラッチ/ブレーキ-変速段対応表である。
図4は、本発明の実施形態による油圧制御装置に備えられた油圧制御回路を示す図である。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施形態による油圧制御装置を備えた自動変速機システム1は、車速センサ2と、スロットル開度センサ4と、タービン回転数センサ6と、ATF湯温センサ8と、締結用油圧センサ10と、を有する。さらに、自動変速機システム1は、上記各センサからの信号が入力されるECU12と、このECU12からの制御信号によって制御される油圧制御回路14と、この油圧制御回路14から供給された油圧により変速段が切り替えられる自動変速機20と、を有する。
【0021】
車速センサ2は、自動変速機システム1が搭載されている車両(図示せず)の車速を検出し、検出信号をECU12に入力するように構成されている。
スロットル開度センサ4は、自動変速機システム1が搭載されている車両(図示せず)のエンジン(図示せず)のスロットル開度を検出し、検出信号をECU12に入力するように構成されている。
タービン回転数センサ6は、自動変速機システム1が搭載されている車両のエンジンに設けられているターボチャージャー(図示せず)のタービンの回転数を検出し、検出信号をECU12に入力するように構成されている。
【0022】
ATF湯温センサ8は、自動変速機20に供給される油圧の作動油(Automatic Transmission Fluid)の温度を検出し、検出信号をECU12に入力するように構成されている。
締結用油圧センサ10は、油圧制御回路14を介して、自動変速機20の各摩擦締結要素22に供給される作動油の温度を検出し、検出信号をECU12に入力するように構成されている。後述するように、自動変速機20は複数の摩擦締結要素22を備えており、これらの摩擦締結要素22夫々に対応するように複数の締結用油圧センサ10が設けられている。各摩擦締結要素22に供給されている作動油の圧力は、各摩擦締結要素22に対応して設けられている締結用油圧センサ10によって検出され、検出信号がECU12に入力される。
【0023】
ECU(Electric Control Unit)12は、各センサから入力された検出信号に基づいて、車両のエンジン(図示せず)や、自動変速機20等を制御するように構成されている。具体的には、ECU12は、車速センサ2、スロットル開度センサ4、及びタービン回転数センサ6によって検出された検出信号に基づいて、自動変速機20の適切な変速段を計算し、これに基づいて自動変速機20を制御するように構成されている。即ち、ECU12は、適切な変速段が計算されると、その変速段が実現されるように、自動変速機20に備えられた第1乃至第5の摩擦締結要素22a~22eの締結/非締結を切り替える。また、第1乃至第5の摩擦締結要素22a~22eの締結/非締結は、摩擦締結要素への油圧の供給/非供給によって切り替えられる。このため、ECU12は、油圧制御回路14に備えられた第1乃至第5の締結用油圧制御弁16a~16e及び流量制御弁18を制御することにより、第1乃至第5の摩擦締結要素22a~22eの締結/非締結を切り替える。
【0024】
即ち、自動変速機20に備えられた第1乃至第5の摩擦締結要素22a~22eに対応して、第1乃至第5の締結用油圧制御弁16a~16eが夫々設けられており、ECU12は、切り替えを行うべき摩擦締結要素に対応した締結用油圧制御弁を制御することにより、締結/非締結を切り替える。なお、以下では、第1乃至第5の締結用油圧制御弁16a~16eを総称して、単に、締結用油圧制御弁16と表し、第1乃至第5の摩擦締結要素22a~22eを総称して、単に、摩擦締結要素22と表す。ここで、ECU12は、マイクロプロセッサ、各種インターフェイス回路、メモリ、これらを作動させるソフトウェア(以上、図示せず)等により構成されている。このように構成されたECU12の一部の回路は、各締結用油圧制御弁16の電磁弁に対し、所定の制御電流を供給することにより、各摩擦締結要素22への油圧の供給/非供給を切り替える制御装置12aとして機能する。また、各締結用油圧制御弁16に備えられた電磁弁、及び制御装置12aは、本発明の実施形態による油圧制御装置として機能する。なお、制御装置12aは、車両のエンジン(図示せず)等を制御するためのECU12とは別個のハードウェアによって構成されていても良い。
【0025】
次に、
図2及び
図3を参照して、本発明の実施形態による油圧制御装置により変速段が切り替えられる自動変速機の構成を説明する。
本実施形態において、自動変速機20は、FR車等の車両に搭載される縦置き式の自動変速機である。
図2に示すように、自動変速機20は、変速機ケース20aと、車両の駆動源(図の左側)から変速機ケース20aの内部に挿入された入力軸20bと、変速機ケース20aの内部から反駆動源側(図の右側)に突出された出力軸20cと、を備えている。入力軸20bと出力軸20cとは車両前後方向に沿った同一軸心上に配置されており、入力軸20bが車両前側に位置しかつ出力軸20cが車両後側に位置する縦置きの姿勢で自動変速機20が配設されている。このため、以下では、駆動源側(図の左側)のことを前側ということがあり、反駆動源側(図の右側)のことを後側ということがある。
【0026】
入力軸20b及び出力軸20cの軸心上には、第1、第2、第3、第4プラネタリギヤセット(以下、単に「ギヤセット」という)PG1、PG2、PG3、PG4が前側(駆動源側)から順に配設されている。
【0027】
変速機ケース20a内における第1ギヤセットPG1の前側には第1クラッチCL1が配設され、第1クラッチCL1の前側には第2クラッチCL2が配設され、第2クラッチCL2の前側には第3クラッチCL3が配設されている。また、第3クラッチCL3の前側には第1ブレーキBR1が配設され、第3ギヤセットPG3の径方向の外側には第2ブレーキBR2が配設されている。このように、自動変速機20の各摩擦締結要素(第1~第3クラッチCL1~CL3及び第1、第2ブレーキBR1、BR2)は、前側(駆動源側)から、第1ブレーキBR1、第3クラッチCL3、第2クラッチCL2、第1クラッチCL1、第2ブレーキBR2の順で軸方向に配設されている。
【0028】
第1~第4ギヤセットPG1~PG4は、いずれも、キャリヤに支持されたピニオンがサンギヤとリングギヤに直接噛合するシングルピニオン型である。第1ギヤセットPG1は、回転要素として、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1、及び第1キャリヤC1を有する。第2ギヤセットPG2は、回転要素として、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2、及び第2キャリヤC2を有する。第3ギヤセットPG3は、回転要素として、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3、及び第3キャリヤC3を有する。第4ギヤセットPG4は、回転要素として、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4、及び第4キャリヤC4を有する。
【0029】
そして、第1ギヤセットPG1は、第1サンギヤS1が軸方向に2分割されたダブルサンギヤ型である。すなわち、第1サンギヤS1は、軸方向の前側に配置された前側第1サンギヤS1aと、後側に配置された後側第1サンギヤS1bとを有している。これら一対の第1サンギヤS1a、S1bは、同じ歯数を有し、第1キャリヤC1に支持された同じピニオンに噛合しているため、これら第1サンギヤS1a、S1bの回転数は常に等しい。すなわち、前後一対の第1サンギヤS1a、S1bは、常に同じ速度で回転し、一方の回転が停止しているときは他方の回転も停止する。
【0030】
この自動変速機20においては、第1サンギヤS1(より詳しくは後側第1サンギヤS1b)と第4サンギヤS4とが常時連結され、第1リングギヤR1と第2サンギヤS2とが常時連結され、第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とが常時連結され、第3キャリヤC3と第4リングギヤR4とが常時連結されている。入力軸20bは第1キャリヤC1に常時連結され、出力軸20cは第4キャリヤC4に常時連結されている。具体的に、入力軸20bは、前後一対の第1サンギヤS1a、S1bの間を通る動力伝達部材24aを介して第1キャリヤC1に連結されている。後側第1サンギヤS1bと第4サンギヤS4とは、動力伝達部材24bを介して互いに連結されている。第4キャリヤC4と第2キャリヤC2とは、動力伝達部材24cを介して互いに連結されている。
【0031】
第1クラッチCL1は、入力軸20b及び第1キャリヤC1と、第3サンギヤS3とを断接する。第2クラッチCL2は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と、第3サンギヤS3とを断接する。第3クラッチCL3は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とを断接する。
【0032】
具体的に、第1クラッチCL1は、第1キャリヤC1に結合された回転可能な内側保持部材と、内側保持部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、第3サンギヤS3に動力伝達部材24d,24eを介して結合された回転可能な外側保持部材と、外側保持部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP1とを有している。ピストンP1の隣接位置には、油圧制御回路14から供給される油圧が導入される油圧室F1が画成されており、この油圧室F1への油圧の給排に応じて上記ハブ側摩擦板及びドラム側摩擦板が圧接または圧接解除される。そして、当該圧接または圧接解除により、上記内側保持部材及び外側保持部材が互いに連結または分離され、これに伴って入力軸20b及び第1キャリヤC1と、第3サンギヤS3とが断接される。
【0033】
第2クラッチCL2は、第3サンギヤS3に動力伝達部材24d,24eを介して結合された回転可能な内側保持部材と、内側保持部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2に動力伝達部材24fを介して結合された回転可能な外側保持部材と、外側保持部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP2とを有している。ピストンP2の隣接位置には、油圧制御回路14から供給される油圧が導入される油圧室F2が画成されており、この油圧室F2への油圧の給排に応じて上記ハブ側摩擦板及びドラム側摩擦板が圧接または圧接解除されることにより、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と、第3サンギヤS3とが断接される。
【0034】
第3クラッチCL3は、第3サンギヤS3に動力伝達部材24d,24eを介して結合された回転可能な内側保持部材と、内側保持部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、第2リングギヤR2に動力伝達部材24gを介して結合された回転可能な外側保持部材と、外側保持部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP3とを有している。ピストンP3の隣接位置には、油圧制御回路14から供給される油圧が導入される油圧室F3が画成されており、この油圧室F3への油圧の給排に応じて前記ハブ側摩擦板及びドラム側摩擦板が圧接または圧接解除されることにより、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが断接される。
【0035】
第1ブレーキBR1は、変速機ケース20aと第1サンギヤS1(より詳しくは前側第1サンギヤS1a)とを断接する。第2ブレーキBR2は、変速機ケース20aと第3リングギヤR3とを断接する。
【0036】
具体的に、第1ブレーキBR1は、前側第1サンギヤS1aに動力伝達部材24hを介して結合された回転可能な内側保持部材と、内側保持部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、変速機ケース20aに結合された回転不能な外側保持部材と、外側保持部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP4とを有している。ピストンP4の隣接位置には、油圧制御回路14から供給される油圧が導入される油圧室F4が画成されており、この油圧室F4への油圧の給排に応じて上記ハブ側摩擦板及びドラム側摩擦板が圧接または圧接解除されることにより、変速機ケース20aと第1サンギヤS1とが断接される。
【0037】
第2ブレーキBR2は、第3リングギヤR3に結合された回転可能な内側保持部材と、内側保持部材の外周面に係合されたハブ側摩擦板と、変速機ケース20aに結合された回転不能な外側保持部材と、外側保持部材の内周面に係合されたドラム側摩擦板と、ハブ側摩擦板とドラム側摩擦板とを圧接するために軸方向に進退駆動されるピストンP5とを有している。ピストンP5の隣接位置には、油圧制御回路14から供給される油圧が導入される油圧室F5が画成されており、この油圧室F5への油圧の給排に応じて上記ハブ側摩擦板及びドラム側摩擦板が圧接または圧接解除されることにより、変速機ケース20aと第3リングギヤR3とが断接される。
【0038】
変速機ケース20aは、第1ブレーキBR1と第3クラッチCL3との間の軸方向位置に、変速機ケース20aの内周面から径方向内側に延びる環状の縦壁部W1を有するとともに、縦壁部W1の内周端から後方に延びる円筒状の円筒壁部W2を有している。円筒壁部W2は、動力伝達部材24eの内周面に沿って同心状に延びるように形成されている。
【0039】
動力伝達部材24eの径方向外側には、軸方向に並ぶ3つのハウジングが形成されており、これら3つのハウジングに、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び第3クラッチCL3の各ピストンP1,P2,P3がそれぞれ収容されている。
【0040】
縦壁部W1、円筒壁部W2、及び動力伝達部材24eには、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び第3クラッチCL3の各油圧室F1,F2,F3にそれぞれ油圧を供給するための油路が形成されている。具体的に、縦壁部W1及び円筒壁部W2には油路aが形成され、動力伝達部材24eには油路b,c,dが形成されている。そして、油路a及び油路bを通じて第1クラッチCL1の油圧室F1に油圧が供給され、油路a及び油路cを通じて第2クラッチCL2の油圧室F2に油圧が供給され、油路a及び油路dを通じて第3クラッチCL3の油圧室F3に油圧が供給される。
【0041】
なお、図示しないが、円筒壁部W2の外周面と動力伝達部材24eの内周面との間における油路aと油路b,c,dとの連通部は、それぞれシールリングによりシールされている。
【0042】
第1ブレーキBR1のピストンP4は、縦壁部W1の前側に形成されたハウジングに収容されている。当該ハウジングにより区画された油圧室F4には、変速機ケース20aの外側から油路eが直接に連通している。
【0043】
第2ブレーキBR2のピストンP5は、変速機ケース20aの後部の内周面に嵌合されたハウジングに収容されている。このハウジングにより区画された油圧室F5には、変速機ケース20aの外側から油路fが直接に連通している。
【0044】
以上のような構成の自動変速機20によれば、
図3の締結表に示すように、油圧室F1~F5に対する油圧の給排制御に基づいて、5つの摩擦締結要素(CL1,CL2,CL3,BR1,BR2)の中の特定の3つの摩擦締結要素が選択的に締結されることにより、前進1~8速及び後退速のいずれかが形成される。また、
図3に示すように、前進1速で車両を発進させる場合には、第1の摩擦締結要素22aである第1クラッチCL1、第4の摩擦締結要素22dである第1ブレーキBR1、及び第5の摩擦締結要素22eである第2ブレーキBR2が締結される。即ち、第1クラッチCL1、第1ブレーキBR1、及び第2ブレーキBR2は、前進1速の発進変速段を構成する。一方、後退速で車両を発進させる場合には、第3の摩擦締結要素22cである第3クラッチCL3、第4の摩擦締結要素22dである第1ブレーキBR1、及び第5の摩擦締結要素22eである第2ブレーキBR2が締結される。即ち、第3クラッチCL3、第1ブレーキBR1、及び第2ブレーキBR2は、後退速の発進変速段を構成する。
【0045】
また、本実施形態において、自動変速機20の第2ブレーキBR2は、「ゼロタッチクラッチ」として構成されている。ここで、本明細書において、「ゼロタッチクラッチ」とは、摩擦締結要素である第2ブレーキBR2を構成する摩擦板(ドライブプレート及びドリブンプレート)同士が「ゼロタッチ状態」にあるクラッチ又はブレーキを意味する。また、「ゼロタッチ状態」とは、摩擦締結要素を構成する摩擦板の間のクリアランスが、摩擦締結に至る直前まで詰められた状態を意味する。従って、本実施形態において、自動変速機20の第2ブレーキBR2を構成する摩擦板同士のクリアランスは、実質的にゼロにされている、ということができる。このため、本実施形態において、摩擦締結要素である第2ブレーキBR2は、僅かな油圧を供給するだけで締結状態とされるため、極めて高い応答性を得ることができる。
【0046】
次に、
図4を参照して、本発明の実施形態の油圧制御装置における油圧制御回路14を説明する。
図4に示すように、油圧制御回路14は、第1乃至第5の締結用油圧制御弁である5つの締結用油圧制御弁16a乃至16eと、これらの締結用油圧制御弁16a乃至16eに供給される作動油の流量を制御する流量制御弁18と、を有する。また、油圧制御回路14は、流量制御弁18に作動油を供給する油圧ポンプ26と、油圧ポンプ26によって吸い上げられる作動油を貯留するオイルパン28と、を有する。
【0047】
油圧ポンプ26は、オイルパン28に貯留された作動油を吸い上げ、流量制御弁18に供給するように構成されている。流量制御弁18によって流量調整された作動油は、第1の締結用油圧制御弁16a乃至第5の締結用油圧制御弁16eに夫々供給される。また、流量制御弁18及び油圧ポンプ26は、ATF湯温センサ8(
図1)等の検出信号に基づいて、ECU12によって制御され、各摩擦締結要素に適正な油圧を供給している。
【0048】
ここで、
図4に示すように、第1の締結用油圧制御弁16aは、自動変速機20の第1の摩擦締結要素22aである第1クラッチCL1に接続されている。さらに、第2の締結用油圧制御弁16bは、第2の摩擦締結要素22bである第2クラッチCL2に接続され、第3の締結用油圧制御弁16cは、第3の摩擦締結要素22cである第3クラッチCL3に接続されている。また、第4の締結用油圧制御弁16dは、第4の摩擦締結要素22dである第1ブレーキBR1に接続され、第5の締結用油圧制御弁16eは、第5の摩擦締結要素22eである第2ブレーキBR2に接続されている。
【0049】
このため、例えば、第1の締結用油圧制御弁16aに通電が行われた場合には、これに対応している自動変速機20の第1の摩擦締結要素22aである第1クラッチCL1に油圧が供給され、これが締結される。また、第1の締結用油圧制御弁16aへの通電が停止されると、第1クラッチCL1内の油圧が抜け、締結が解除されると共に、作動油が第1の締結用油圧制御弁16aを介してオイルパン28に回収される。このように、第1乃至第5の摩擦締結要素22a乃至22eに夫々対応して設けられた第1乃至第5の締結用油圧制御弁16a乃至16eに通電を行うことにより、各摩擦締結要素を締結させることができる。さらに、第1乃至第5の摩擦締結要素22a乃至22eには、第1乃至第5の締結用油圧センサ10a乃至10eが設けられており、各摩擦締結要素に供給されている油圧が検出される。
【0050】
次に、
図5乃至
図9を参照して、本発明の実施形態による油圧制御装置に備えられている締結用油圧制御弁の構成及び作用を説明する。
図5は、通電状態にある締結用油圧制御弁の断面図である。
図6は、非通電状態にある締結用油圧制御弁の断面図である。
図7は、固着が発生した場合における締結用油圧制御弁の作用の一例を示すグラフである。
図8は、締結用油圧制御弁のコイルに供給する固着防止電流波形の一例を示す図である。
図9は、締結用油圧制御弁に供給する電流と、これに対応して設けられた摩擦締結要素に供給される油圧の関係を示すグラフである。
【0051】
図5に示すように、第5の締結用油圧制御弁16eは、シリンダ30と、このシリンダ30内で摺動するスプール32と、このスプールを駆動する電磁弁34と、を有する。なお、ここでは第5の締結用油圧制御弁16eの構成を説明するが、本実施形態の油圧制御装置に備えられている第1乃至第5の締結用油圧制御弁16a乃至16eは、何れも同じ構成を備えている。
【0052】
シリンダ30は円筒形の筒であり、一端が閉塞され、他端が開放されている。また、シリンダ30の外周面には、3つのポート30a、30b、30cが設けられている。第1のポート30aは、流量制御弁18に接続されており、流量制御弁18から流出した作動油は、第1のポート30aを通ってシリンダ30内に流入する。また、第2のポート30bは、対応して設けられた摩擦締結要素22に接続されている。従って、第5の締結用油圧制御弁16e(
図4)のシリンダ30の第2のポート30bは、自動変速機20の第2ブレーキBR2の油圧室F5(
図2)に接続される。さらに、第3のポート30cは、シリンダ30内の作動油を流出させるように構成され、第3のポート30cから流出した作動油はオイルパン28に回収される。
【0053】
電磁弁34は、内蔵されたコイル34aに所定の制御電流を流すことにより、スプール32をシリンダ30内で摺動させるように構成されている。即ち、電磁弁34のコイル34aに所定の制御電流が通電されている状態では、スプール32は
図5に示す位置に移動され、締結用油圧制御弁16は、摩擦締結要素22への油圧の供給状態となる。一方、電磁弁34のコイル34aに通電されていない状態では、スプール32は
図6に示す位置に移動され、第5の締結用油圧制御弁16eは、第5の摩擦締結要素22eへの油圧の非供給状態となる。即ち、電磁弁34は、所定の制御電流が供給されたとき、対応して設けられた摩擦締結要素22が締結状態に切り替えられ、制御電流が供給されていないとき、摩擦締結要素22が非締結状態に切り替えられるように構成された、ノーマルクローズソレノイドである。また、本実施形態において、電磁弁34としては、基本的に、スプール32を
図5に示す位置又は
図6に示す位置の2つの位置に移動させるように使用されるON/OFFソレノイドを使用することができる。
【0054】
スプール32は、シリンダ30内に摺動可能に配置された段付き円柱形の部品であり、シリンダ30の各ポートを開閉するように構成されている。また、スプール32の先端と、シリンダ30の閉塞されている側の端部の間には、付勢ばね36が配置されている。この付勢ばね36はシリンダ30内に配置されたコイルスプリングであり、スプール32を、シリンダ30の開放されている側の端部に向けて付勢している。従って、電磁弁34のコイル34aに通電された状態では、スプール32は、電磁弁34によって付勢ばね36の付勢力に抗して
図5に示す位置へ駆動される。一方、電磁弁34のコイル34aへの通電が停止された状態では、スプール32は付勢ばね36の付勢力によって
図6に示す位置に移動される。
【0055】
また、スプール32には、先端から順に、第1大径部分
32c、小径部分32b、第2大径部分
32aが形成されており、各大径部分は、シリンダ30の内径とほぼ同一の直径に構成されている。このため、スプール32の摺動により、シリンダ30の各ポートの接続状態が変更される。即ち、
図5に示す電磁弁34への通電状態では、第1のポート30a及び第2のポート30bがスプール32の小径部分32bと整合するため、第1のポート30aと第2のポート30bが連通される。これにより、流量制御弁18から供給された作動油が、対応して設けられた摩擦締結要素22に供給され、摩擦締結要素22が締結状態に切り替えられる。一方、第3のポート30cは、第2大径部分
32aによって閉塞される。
【0056】
一方、
図6に示す電磁弁34への非通電状態では、第2のポート30b及び第3のポート30cがスプール32の小径部分32bと整合するため、第2のポート30bと第3のポート30cが連通される。これにより、摩擦締結要素22内の作動油が、締結用油圧制御弁16のシリンダ30を介してオイルパン28に流出する。一方、流量制御弁18から第1のポート30aを介してシリンダ30に流入した作動油は、スプール32の第1大径部分
32cによって止められ、シリンダ30内に留まる。
【0057】
このように、各摩擦締結要素22の締結/非締結は、対応して設けられた締結用油圧制御弁16を作動させ、各摩擦締結要素22への油圧の供給/非供給を切り替えることにより実現される。ECU12に内蔵された制御装置12aは、各締結用油圧制御弁16の電磁弁34に、所定の制御電流を通電させることにより、その締結用油圧制御弁16に対応して設けられた摩擦締結要素22の締結/非締結を切り替える。
【0058】
しかしながら、車両の駐停車時等、締結用油圧制御弁16の電磁弁34に、長期間に亘って制御電流の通電が行われていない場合には、締結用油圧制御弁16のスプール32が、シリンダ30内で
図6に示す位置に固着してしまうことがある。このように、スプール32の固着が発生した場合には、制御装置12aにより、電磁弁34に制御電流が通電されても、直ぐに締結用油圧制御弁16の切り替えが行われず、締結用油圧制御弁の切り替えに遅れが発生してしまう。特に、発進時において締結させる第5の摩擦締結要素22eに対応した第5の締結用油圧制御弁16eの切り替えが遅れると、車両の発進応答性が低下してしまう。
【0059】
図7は、固着が発生した場合における締結用油圧制御弁16の挙動の一例を示したグラフであり、横軸は時間を示し、縦軸は、締結用油圧制御弁16に対応して設けられた摩擦締結要素22に供給された油圧を示している。
図7において、実線は、固着が発生していない正常な締結用油圧制御弁16における油圧の変化を示しており、破線は、固着が発生した締結用油圧制御弁16における油圧の変化を示している。
【0060】
図7の実線に示すように、固着が発生していない締結用油圧制御弁16では、時刻t
0において電磁弁34のコイル34aへの通電が開始されると、約0.7秒後の時刻t
1において油圧が上昇し始める。次いで、一旦、油圧が一定値となった後、時刻t
2において再び急激に上昇する曲線を描いている。一方、
図7の破線は、締結用油圧制御弁16のコイル34aに1時間程度通電を行わず、意図的に締結用油圧制御弁16のスプール32を固着させた状態で、コイル34aに通電を行った場合における油圧の変化を示している。
【0061】
図7の破線に示すように、固着が発生した締結用油圧制御弁16では、時刻t
0において電磁弁34のコイル34aへの通電が開始された後、しばらく油圧の上昇は見られず、時刻t
0における通電の開始後、約2.9秒経過した時刻t
3において、油圧が上昇し始めている。
図7に例示した締結用油圧制御弁16の挙動は、自動変速機20の実際の稼働条件に基づくものではないが、コイル34aに長時間通電が行われず、スプール32に固着が発生すると、摩擦締結要素22に対する油圧の供給に遅れが生じることが確認された。このように、締結用油圧制御弁16に固着が発生すると、対応して設けられた摩擦締結要素22の油圧の上昇が遅れ、自動変速機20の応答性が低下する。
【0062】
そこで、本実施形態の油圧制御装置では、ECU12の制御装置12aにより、発進時に締結される摩擦締結要素22に対応して設けられた電磁弁34に、固着防止電流が供給される。即ち、本実施形態においては、
図4に示すように、第1の摩擦締結要素22aに対応して第1の締結用油圧制御弁16aが設けられ、第2の摩擦締結要素22bに対応して第2の締結用油圧制御弁16bが設けられ、第3の摩擦締結要素22cに対応して第3の締結用油圧制御弁16cが設けられ、第4の摩擦締結要素22dに対応して第4の締結用油圧制御弁16dが設けられ、第5の摩擦締結要素22eに対応して第5の締結用油圧制御弁16eが設けられている。制御装置12aは、これらの締結用油圧制御弁の中で、発進時において締結される摩擦締結要素の1つに対応して設けられた第5の締結用油圧制御弁16eの電磁弁34のコイル34aに、固着防止電流を供給するように構成されている。
【0063】
図8は、第5の締結用油圧制御弁16eの電磁弁34のコイル34aに供給する固着防止電流波形の一例を示す図である。
図8に示すように、固着防止電流は、1つのパルス状に供給される。本実施形態においては、車両のエンジン始動後、車両の発進前に、固着防止電流として、約10[mSec]の期間、パルス状に通電が行われる。また、本実施形態においては、約10[mSec]の通電期間において供給される電流は、締結用油圧制御弁16の制御電流よりも少なく設定されている。このように、第5の締結用油圧制御弁16eのコイル34aに固着防止電流を供給することにより、
図6に示す位置にあるスプール32が、
図5に示す位置へ向けて僅かに移動し、元の位置に復帰する。
【0064】
次に、
図9を参照して、締結用油圧制御弁16のコイル34aに供給する電流と、これに対応して設けられた摩擦締結要素22に供給される油圧の関係を説明する。上述したように、締結用油圧制御弁16の電磁弁34のコイル34aに「制御電流」を供給すると、スプール32は、
図5に示す状態まで移動される。この状態では、シリンダ30の第1のポート30a及び第2のポート30bが完全に開かれるため、流量制御弁18からの油圧が、対応して設けられた摩擦締結要素22に十分に供給され、摩擦締結要素22は締結状態にされる。
図9に示すように、本実施形態においては、締結用油圧制御弁16に対する制御電流は約1[A]である。
【0065】
一方、本実施形態において、第5の締結用油圧制御弁16eのコイル34aに供給する「固着防止電流」は、
図8に示すようにパルス状に供給される。この「固着防止電流」は「制御電流」よりも少ない約0.5[A]に設定されている。このように、締結用油圧制御弁16の電磁弁34のコイル34aにパルス状の「固着防止電流」を供給することにより、締結用油圧制御弁16のスプール32は、
図6に示す状態から、
図5に示す位置に向けて移動し始める。しかしながら、「固着防止電流」の通電期間は非常に短いため、第5の締結用油圧制御弁16eに対応して設けられた第5摩擦締結要素22eには、高い油圧は発生しない。しかしながら、コイル34aに固着防止電流が流れた瞬間は、スプール32が移動するため、シリンダ30とスプール32の間に薄い油膜が形成され、スプール32の固着の発生が抑制される。
【0066】
なお、本実施形態においては、「固着防止電流」としてパルス状に供給される電流は、「制御電流」よりも少ない約0.5[A]に設定されているが、変形例として、「固着防止電流」を「制御電流」と同程度の電流値に設定することもできる。
【0067】
次に、
図10を参照して、本発明の実施形態による油圧制御装置の作用を説明する。
図10は、本発明の実施形態の油圧制御装置において、ECU12の制御装置12aにより実行される処理を示すフローチャートである。なお、
図10に示すフローチャートによる処理は、自動変速機20が搭載された、駐停車中の車両の電源が投入されたとき実行される。また、
図10のフローチャートは、「ゼロタッチクラッチ」である第5の締結用油圧制御弁16e等の電磁弁34のコイル34aに供給する電流を設定するための処理を示している。
【0068】
まず、
図10のステップS1においては、自動変速機20を搭載した車両のエンジン(図示せず)が始動されたか否かが判断される。運転者がエンジン(図示せず)の始動操作を行った場合にはステップS2に進み、始動操作が行われていない場合には、ステップS1における処理が繰り返される。エンジン(図示せず)が始動されることにより、油圧ポンプ26が作動し、油圧制御回路14に油圧が供給される。
【0069】
次に、ステップS2においては、複数の摩擦締結要素22が締結されているか否かが判断される。各摩擦締結要素22が締結されているか否かは、各摩擦締結要素22に夫々対応して設けられた締結用油圧センサ10(
図4)の検出信号に基づいて判断される。締結用油圧センサ10によって検出された圧力が所定の圧力以上である場合には、その締結用油圧センサ10に対応して設けられた摩擦締結要素22が締結されている、と判断される。複数の摩擦締結要素22が締結されていると判断された場合にはステップS12に進み、締結されている摩擦締結要素22が0又は1つである場合にはステップS3に進む。
【0070】
ステップS3においては、第5の摩擦締結要素22eである第2ブレーキBR2に対応する第5の締結用油圧制御弁16eの電磁弁34への固着防止電流の供給が開始される。ここで、上述したように、第2ブレーキBR2はゼロタッチクラッチであるため、固着防止電流を短期間供給しただけでも締結されてしまう虞がある。このような場合に、例えば、第1の締結用油圧制御弁16a(第1クラッチC1)及び第4の締結用油圧制御弁16d(第1ブレーキBR1)が締結されていたとすると、第2ブレーキBR2が締結されることにより、意に反して車両が発進してしまう虞がある。
【0071】
しかしながら、ステップS2において、締結されている摩擦締結要素22が0又は1つであることが確認されているため、車両の不意の発進を確実に回避することができる。即ち、
図3に示すように、本実施形態において、自動変速機20は、3つの摩擦締結要素22が同時に締結されたとき動力が伝達されるように構成されているため、0又は1つの摩擦締結要素22が締結された状態で、第2ブレーキBR2が締結されたとしても、動力が伝達されることはない。なお、変形例として、締結状態の摩擦締結要素がない場合のみ固着防止電流が供給されるように本発明を構成することもでき、或いは、他の条件に基づいて、自動変速機による動力の伝達が起こらないことを確認することもできる。
【0072】
次に、ステップS4においては、ステップS3において固着防止電流の供給が開始された後、所定時間が経過したか否かが判断される。上述したように、本実施形態において、固着防止電流を供給する期間は、約10mSecである(
図8)。
固着防止電流の供給開始後、所定時間が経過していない場合には、ステップS6に進み、ここでは、車両に備えられたシフター(図示せず)が、ドライブレンジに切り替えられたか否かが判断される。ステップS6において、ドライブレンジに切り替えられていない場合には、ステップS4に戻り、以降、所定時間が経過するまで、ステップS4→S6→S4の処理が繰り返される。
【0073】
固着防止電流の供給開始後、所定時間が経過するとステップS5に進み、ここで、第5の締結用油圧制御弁16eの電磁弁34への固着防止電流の供給が停止される。これにより、所定時間である約10mSecの固着防止電流の供給が終了し、ステップS8に進む。この固着防止電流の供給により、第5の締結用油圧制御弁16eのスプール32が、
図6に示す状態から図中の左方向に駆動された後、
図6に示す状態に戻る。これにより、スプール32がシリンダ30に固着していたとしても、これが解消される。
【0074】
一方、ステップS3において固着防止電流の供給が開始された後、所定時間経過する前に、運転者が車両のシフター(図示せず)をドライブレンジに切り替えた場合には、フローチャートにおける処理は、ステップS6からステップS7に進む。ステップS7においては、第5の締結用油圧制御弁16eの電磁弁34への固着防止電流の供給が、所定時間経過する前に途中で停止される。即ち、固着防止電流の供給中に、シフター(図示せず)がドライブレンジに切り替えられると、第2ブレーキBR2以外の、発進時に締結される摩擦締結要素(第1クラッチC1及び第1ブレーキBR1)が締結され、車両が発進してしまう可能性がある。このため、固着防止電流の供給中にシフター(図示せず)がドライブレンジに切り替えられた場合には、固着防止電流の供給が中止され(ステップS7)、ステップS8に進む。
【0075】
なお、本実施形態において、固着防止電流の供給は極めて短時間(約10mSec)であり、この期間中にシフター(図示せず)がドライブレンジに切り替えられる可能性は極めて低い。本実施形態においては、ステップS6、S7の処理を備えることにより、このような極めて低いリスクにも対処している。また、ステップS6、S7の処理を設けておくことにより、固着防止電流を供給する期間を比較的長く設定することも可能になる。
【0076】
一方、ステップS2において、複数の摩擦締結要素22が締結されていると判断された場合には、ステップS8に進む。即ち、エンジン(図示せず)の始動後、複数の摩擦締結要素22が締結されている場合には、固着防止電流の供給により第5の摩擦締結要素22e(第2ブレーキBR2)が締結されてしまうと、車両が不意に発進してしまう虞があるため、固着防止電流の供給は実行されない。なお、駐停車時においては、通常、自動変速機20はニュートラルにされ、全ての摩擦締結要素22が非締結にされている。しかしながら、誤動作等により、何れかの摩擦締結要素22が締結されていた場合でも、車両が不意に発信されることのないよう、ステップS2により摩擦締結要素22の状態がチェックされている。
【0077】
次いで、ステップS8においては、運転者が車両のシフター(図示せず)をドライブレンジに切り替えたか否かが判断され、切り替えられていない場合にはステップS8の処理が繰り返される。即ち、ステップS5において固着防止電流の供給が終了した後、又は、ステップS2において複数の摩擦締結要素22が締結されていると判断された後、運転者がシフター(図示せず)をドライブレンジに切り替えるまで待機し、ステップS9に進む。なお、ステップS6において既にシフター(図示せず)がドライブレンジに切り替えられていると判断されている場合には、待機することなくステップS9に進む。
【0078】
ステップS9において、制御装置12aは、第1の締結用油圧制御弁16a及び第4の締結用油圧制御弁16dの電磁弁34に制御電流を供給し、これらに対応して設けられた第1の摩擦締結要素22a(第1クラッチC1)及び第4の摩擦締結要素22d(第1ブレーキBR1)を締結させる。これにより、車両の発進時において締結される摩擦締結要素22のうち、ゼロタッチクラッチである第5の摩擦締結要素22e以外の摩擦締結要素22が締結される。
【0079】
次に、ステップS10において、ECU12に発進指令が入力されたか否かが判断され、発進指令が入力されていない場合には、ステップS10の処理が繰り返される。本実施形態においては、スロットル開度センサ4によって検出されたアクセルペダル(図示せず)の踏込量が所定の閾値以上であり、且つブレーキ(フットブレーキ及びサイドブレーキ)がオフにされている場合に、ECU12に発進指令が入力された、と判断される。
【0080】
発進指令が入力されるとステップS11に進み、ステップS11において、制御装置12aは、第5の締結用油圧制御弁16eの電磁弁34に制御電流を供給し、これに対応して設けられた第5の摩擦締結要素22e(第2ブレーキBR2)を締結させる。このように、車両の発進時において第5の摩擦締結要素22eを締結させることにより、自動変速機20はエンジン(図示せず)の動力を伝達するようになり、車両が発進される。ここで、第5の摩擦締結要素22e(第2ブレーキBR2)はゼロタッチクラッチにより構成されているため、制御電流が供給されると、極めて短時間で締結状態にされる。このため、運転者による発進操作に即座に応答して、車両が発進される。
【0081】
次いで、ステップS12においては、自動変速機20の通常の変速制御が開始され、
図10に示すフローチャートの処理が終了する。通常の変速制御において、制御装置12aは、車速センサ2、スロットル開度センサ4、タービン回転数センサ6等の検出信号に基づいて、適正な変速段を設定する。そして、制御装置12aは、その変速段が実現されるように、各締結用油圧制御弁16に制御信号を送り、第1乃至第5の摩擦締結要素22a~22eを選択的に締結させる。
【0082】
本発明の実施形態の油圧制御装置によれば、制御装置12aは、車両のエンジン始動後、発進前に、各摩擦締結要素22のうちの、発進時において締結される第5の摩擦締結要素22eに対応して設けられた第5の締結用油圧制御弁16eの電磁弁34に固着防止電流を供給する(
図10のステップS3)。これにより、第5の締結用油圧制御弁16eのスプール32の固着の発生が抑制される。即ち、電磁弁34に固着防止電流を供給することにより、電磁弁34によって駆動される部品であるスプール32の固着が解消され、運転者が発進操作を行ったとき、スムーズに車両を発進させることができる。なお、車両のエンジン始動後は、油圧ポンプ26が作動しているため、電磁弁34に固着防止電流を供給すると、その電磁弁34に対応して設けられた第5の摩擦締結要素22eが締結状態にされるが、固着防止電流の供給は車両の発進前に行われるため、第5の摩擦締結要素22eの締結により、車両が発進されることはない。
【0083】
また、本実施形態の油圧制御装置によれば、エンジン始動後、車両の発進前に供給される固着防止電流が制御電流よりも低い電流に設定されている(
図8)ので、固着防止電流の供給による電力の消費を抑制することができ、低消費電力で固着の発生を抑制することができる。
【0084】
さらに、本実施形態の油圧制御装置によれば、電磁弁34は、制御電流を供給したとき、対応して設けられた摩擦締結要素22に油圧が供給され(
図9)、締結状態にされるので、電磁弁34に電流を流さなくとも非締結状態にすることができ、消費電流を低減することができる。また、エンジン始動後、車両の発進前に供給する固着防止電流も、微少電流を流すだけで済むため、固着を抑制するために消費される電流量を更に少なくすることができる。
【0085】
また、本実施形態の油圧制御装置によれば、車両の発進前においては、ゼロタッチクラッチである第5の摩擦締結要素22eに対応して設けられた電磁弁34のみに固着防止電流が供給される(
図10のステップS3)ので、固着防止電流の供給により車両が発進されてしまうのを確実に防止することができる。
【0086】
さらに、本実施形態の油圧制御装置によれば、ゼロタッチクラッチである第5の摩擦締結要素22eへの固着防止電流の供給を停止(
図10のステップS5)させた後、発進時において締結されるゼロタッチクラッチ以外の摩擦締結要素を締結させる(
図10のステップS9)。このため、車両を発進させる際は、ゼロタッチクラッチに対応して設けられた電磁弁34に制御電流を供給する(
図10のステップS11)だけで車両を発進させることができ、車両発進の応答性を極めて良好にすることができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、ゼロタッチクラッチを含む6つのクラッチ及び2つのブレーキを備えた自動変速機に本発明を適用していたが、任意の形式の自動変速機に本発明を適用することができる。
【0088】
また、上述した実施形態においては、締結用油圧制御弁16に備えられた電磁弁34として、制御電流を供給することにより、油圧が供給され、摩擦締結要素22を締結させるノーマルクローズソレノイドが採用されていた。これに対し、変形例として、制御電流を停止させることにより、油圧が供給され、摩擦締結要素22を締結させるノーマルオープンソレノイドを採用することもできる。この場合には、摩擦締結要素22に油圧を供給するとき、電磁弁への制御電流が停止(電流=0)され、摩擦締結要素22への油圧の供給を停止させるとき、電磁弁に所定の制御電流が供給される。さらに、固着防止電流は、間欠的に供給される。また、油圧制御回路の中にノーマルクローズソレノイドとノーマルオープンソレノイドを混在させることもできる。
【符号の説明】
【0089】
1 自動変速機システム
2 車速センサ
4 スロットル開度センサ
6 タービン回転数センサ
8 ATF湯温センサ
10 締結用油圧センサ
12 ECU
12a 制御装置
14 油圧制御回路
16 締結用油圧制御弁
18 流量制御弁
20 自動変速機
20a 変速機ケース
20b 入力軸
20c 出力軸
22 摩擦締結要素
24a 動力伝達部材
24b 動力伝達部材
24c 動力伝達部材
24d 動力伝達部材
24e 動力伝達部材
24f 動力伝達部材
24g 動力伝達部材
24h 動力伝達部材
26 油圧ポンプ
28 オイルパン
30 シリンダ
30a 第1のポート
30b 第2のポート
30c 第3のポート
32 スプール
32a 第2大径部分
32b 小径部分
32c 第1大径部分
34 電磁弁
34a コイル
36 付勢ばね