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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】白髪防止用組成物、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/98 20060101AFI20240722BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20240722BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20240722BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20240722BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20240722BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
A61K8/98
A61K8/64
A61Q5/02
A61Q5/12
A61Q5/06
A61Q5/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020056109
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021155354
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】500101243
【氏名又は名称】株式会社ファーマフーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】506173765
【氏名又は名称】株式会社フューチャーラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】草川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】金 武祚
(72)【発明者】
【氏名】山津 敦史
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-170943(JP,A)
【文献】特開昭56-079617(JP,A)
【文献】特開2001-328919(JP,A)
【文献】国際公開第2016/068338(WO,A1)
【文献】特開2004-189688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K35/00-35/768
A61K 9/00- 9/72
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白髪防止用組成物であって、家禽鳥類由来の卵黄成分を含み、前記卵黄成分が約1-約3kDaの分子量を有し、前記家禽鳥類がニワトリである、白髪防止用組成物。
【請求項2】
前記卵黄成分が前記家禽鳥類由来の卵黄の加水分解物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記加水分解物がタンパク質分解酵素および/または酸によるものである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
メラニン産生を促進するための請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
チロシナーゼ遺伝子の発現を増加させるための請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、シャンプー、リンス、ヘアトニック、毛髪栄養化粧水、ヘアエッセンス、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、ヘアクリーム、ヘアリキッド、及びヘアローションからなる群から選択されるいずれか1つ以上の剤形である請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
白髪防止用組成物を製造する方法であって、
家禽鳥類由来の卵黄から卵黄成分を得る工程と、
前記卵黄成分から少なくとも分子量約1kDaの画分を抽出する工程と
前記少なくとも分子量約1kDaの画分の卵黄成分から、分子量約1-約3kDaの画分を抽出する工程と
を含み、前記家禽鳥類がニワトリである、方法。
【請求項8】
前記卵黄成分が前記家禽鳥類由来の卵黄の加水分解物である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記加水分解物がタンパク質分解酵素および/または酸によるものである、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、白髪防止用組成物、特に家禽鳥類由来の卵黄から得ることができる白髪防止用組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家禽鳥類の卵黄は食品として利用されるばかりではなく、その成分は美容、健康、または医薬関連分野において盛んに利用されており、例えば、本発明者らは、卵黄タンパク質加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする発毛促進剤(特許文献1)を開発している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6393772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、卵黄成分の新規な利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、家禽鳥類由来の卵黄を用いて、種々の方法によりその有効成分を抽出し、またその成分を種々の分子量に細分化して分画したところ、特定の画分の卵黄分解物に白髪を防止または抑制する効果を確認した。それによって、家禽鳥類由来の卵黄を用いて、新規白髪防止用組成物を提供した。
【0006】
したがって、本発明の主要な観点によれば、以下の発明が提供される。
(項目1)家禽鳥類由来の卵黄成分を含む、白髪防止用組成物。
(項目2)前記卵黄成分が前記家禽鳥類由来の卵黄の加水分解物である、項目1に記載の組成物。
(項目3)前記加水分解物がタンパク質分解酵素および/または酸によるものである、項目2に記載の組成物。
(項目4)前記卵黄成分が少なくとも約1kDaの分子量を有する、項目1~3のいずれか一項に記載の組成物。
(項目5)前記卵黄成分が約1-約3kDaの分子量を有する、項目1~3のいずれか一項に記載の組成物。
(項目6)メラニン産生を促進するための項目1~5のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7)チロシナーゼ遺伝子の発現を増加させるための項目1~6のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)前記組成物は、シャンプー、リンス、ヘアトニック、毛髪栄養化粧水、ヘアエッセンス、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、ヘアシャンプー、及びヘアローションからなる群から選択されるいずれか1つ以上の剤形である項目1~7のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)前記家禽鳥類がニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、カモ、アヒル、ガチョウ、ダチョウ、ホロホロチョウ、オナガドリ、チャボ、ハト、コブハクチョウ、エミュー、またはキジである、項目1~8のいずれか一項に記載の組成物。
(項目10)家禽鳥類由来の卵黄から卵黄成分を得る工程と、
前記卵黄成分から少なくとも分子量約1kDaの画分を抽出する工程と
を含む、白髪防止用組成物を製造する方法。
(項目11)前記卵黄成分から分子量約1-約3kDaの画分を抽出する工程を含む、項目10に記載の方法。
(項目12)前記卵黄成分が前記家禽鳥類由来の卵黄の加水分解物である、項目10または11に記載の方法。
(項目13)前記加水分解物がタンパク質分解酵素および/または酸によるものである、項目12に記載の方法。
【0007】
なお、上記した以外の本発明の特徴及び顕著な作用・効果は、次の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本願発明の白髪防止用組成物をメラノーマ細胞に添加した場合のチロシナーゼ遺伝子発現量の比較解析結果を示すグラフである。
図2図2は、本願発明の白髪防止用組成物をメラノーマ細胞に添加した場合のメラニン合成の比較解析結果を示すグラフである。
図3図3は、本願発明の白髪防止用組成物をメラノーマ細胞に添加した場合のメラニン合成を観察した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明に係る一実施形態および実施例を、図面を参照して説明する。
上記のとおり、本発明に係る一実施形態は、家禽鳥類由来の卵黄成分を含む、白髪防止用組成物である。
【0010】
本願明細書において、「卵黄成分」とは、上記のような家禽鳥類由来の卵黄を原料として、乾燥処理や分解処理などの任意の処理方法によって得られる任意の成分である。卵黄としては、卵黄液、卵黄粉末、または脱脂卵黄粉末等を用いることができる。卵黄から卵黄油や卵黄レシチンを製造する際に副産物として生じる脱脂卵黄を用いることで、資源の有効利用に供することもできる。
【0011】
卵黄の脱脂処理は、例えば、エタノール、イソプロパノール、ヘキサンなどの食品加工に使用可能な有機溶媒を卵黄に作用させて実施することができる。卵黄にこれらの溶媒を添加して、攪拌することで生成する固形物を採取することによって脱脂卵黄を得ることができ、必要に応じてこの操作を複数回繰り返すこともできる。
【0012】
本願明細書において、「家禽鳥類」とは、上記のような卵黄成分を採取し得る卵を産卵するものであればよく、例えばニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、カモ、アヒル、ガチョウ、ダチョウ、ホロホロチョウ、オナガドリ、チャボ、ハト、コブハクチョウ、エミュー、またはキジなどが含まれるが、これらに限られるものではない。本発明の一実施形態においては、入手が容易で、産卵種としても多産であり、卵も大きく大量飼育方法が確立しているという点でニワトリが好ましい。
【0013】
本願明細書において、「タンパク質分解酵素」とは、タンパク質やポリペプチドの加水分解酵素であるプロテアーゼ、プロテイナーゼ、及びペプチダーゼを含み、本発明の白髪防止用組成物を得るために家禽鳥類由来の卵黄におけるペプチド結合を加水分解することができるものであれば特に限られるものではない。例えば、本発明の一実施形態において、「タンパク質分解酵素」としては、ペプシン、トリプシン、レニン、レニンを含むチーズ用途のレンネット、カルボキシペプチダーゼA、バチルス属細菌由来のプロテアーゼ(商品名「アルカラーゼ」ノボザイム、商品名「オリエンターゼ22BF」エイチビィアイ、商品名「ヌクレイシン」エイチビィアイ、商品名「プロテアーゼS『アマノ』G」天野エンザイム、商品名「サモアーゼPC10」大和化成株式会社)、アスペルギルス属麹菌由来プロテアーゼ(商品名「オリエンターゼONS」エイチビィアイ、商品名「オリエンターゼ20A」エイチビィアイ、商品名「プロテアーゼP『アマノ』3G」天野エンザイム、商品名「フレーバーザイム」ノボザイム)、パパイン、カスパーゼ、キモトリプシン、サブチリシン、ナットウキナーゼ、バシロライシン、ステムブロメライン、ロイシルアミノペプチダーゼ、ペプシン、カテプシンD、サモアーゼ、プロテアックス、プロテアーゼA、プロチンSD-NY10、ペプチダーゼR、ペプチダーゼP、及びトリプシンなどを用いることができる。またタンパク質分解酵素は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本願明細書において、「酸」とは、アレニウス、ブレンステッド・ローリー、またはルイスのいずれかの定義によって酸とされるものを含み、本発明の白髪防止用組成物を得るために家禽鳥類由来の卵黄におけるペプチド結合を加水分解することができるものであれば特に限られるものではない。例えば、本発明の一実施形態において、「酸」としては、クエン酸、塩酸、硫酸、硝酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過臭素酸、メタ過ヨウ素酸、過マンガン酸、チオシアン酸、グルタミン酸、リン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、チオジプロピオン酸、酢酸、アコニット酸、アジピン酸、アルギン酸、安息香酸、カプリル酸、乳酸、リノレン酸、リンゴ酸、ステアリン酸、コハク酸、タンニン酸、酒石酸、スルファミン酸、およびギ酸などを用いることができる。タンパク質を構成するペプチド結合は極めて安定な結合であるため、酸を用いて非酵素的に分解するために、低いpHで高温に加熱して分解することもでき、比較的弱酸性の酸を用いる場合には、長時間にわたって高温で処理することもできる。
【0015】
本願明細書において、「アルカリ」または「アルカリ水溶液」とは、アレニウス、ブレンステッド・ローリー、またはルイスのいずれかの定義によってアルカリとされるものを含み、本発明の白髪防止用組成物を得るために家禽鳥類由来の卵黄におけるペプチド結合を加水分解することができるものであれば特に限られるものではない。例えば、本発明の一実施形態において、「アルカリ」としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属または、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属の水溶液などを用いることができる。タンパク質を構成するペプチド結合は極めて安定な結合であるため、アルカリを用いて非酵素的に分解するために、高いpHで高温に加熱して分解することもでき、比較的弱アルカリ性のアルカリを用いる場合には、長時間にわたって高温で処理することもできる。
【0016】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0017】
本発明の一実施形態において、本発明の白髪防止用組成物は、家禽鳥類由来の卵黄を原料とした化学的な分解物である。本発明の一実施形態において、分解物としては、熱分解物や加水分解物などを含むことができ、加水分解物としてはタンパク質分解酵素、酸、および/またはアルカリによる加水分解物を含むことができる。
【0018】
(1:分解物)
本発明の一実施形態において、家禽鳥類由来の卵黄を材料として用いて本発明の白髪防止用組成物を製造する場合、卵黄を化学的に分解して得ることもできる。この場合、分解手法としては、家禽鳥類由来の卵黄におけるペプチド結合を適切に切断し、より分子量の小さい可溶性の成分とすることができるものであればよく、例えば、熱分解や、タンパク質分解酵素、酸、またはアルカリなどによる加水分解などが挙げられる。本発明の一実施形態において、本発明の白髪防止用組成物は家禽鳥類由来の卵黄が有する白髪防止成分を利用するものであるため、ヘア化粧品等の原料としてその成分の機能が発揮されるように配合できる低分子量の可溶化物であれば、その分解の手法や程度は特に限られるものではない。
【0019】
(2:酵素加水分解物)
タンパク質分解酵素による加水分解の場合、原料として卵黄を準備して、エタノール、イソプロパノール、ヘキサンなどの食品加工に使用可能な有機溶媒を卵黄に作用させて脱脂処理を行う。この脱脂卵黄にタンパク質分解酵素を加えて攪拌させる。この際の攪拌条件は原料とタンパク質分解酵素が十分に攪拌され、使用するタンパク質分解酵素が原料におけるペプチド結合を加水分解して本発明に係る卵黄成分が適切に得られるものであればよく、例えば約25~約75℃で約1~約24時間攪拌させることができ、好ましくは約55℃で約3時間攪拌させる。またタンパク質分解酵素の濃度としては、使用する原料卵黄及び酵素の種類に応じて適宜変動するが、用いる酵素の機能を発揮し得る濃度であれば特に限られるものではなく、例えば原料に脱脂卵黄を用いる場合、タンパク質分解酵素と脱脂卵黄の質量比が約1:約20~約1:約1000の範囲が好ましい。
【0020】
タンパク質分解酵素を加えて攪拌させた後、余剰酵素を失活させるため、高温で攪拌させる。この際の失活条件は添加したタンパク質分解酵素が十分に失活するようなものであればよく、例えば温浴約95℃で約10~約30分間攪拌させることができ、好ましくは約80℃で約15分間攪拌させる。失活後の溶液を濾過器の形状に合わせた寸法の定性濾紙を用いて濾過し、本発明の白髪防止用組成物を得ることができる。
【0021】
(3:酸加水分解物)
酸による加水分解の場合、原料として卵黄を準備して、エタノール、イソプロパノール、ヘキサンなどの食品加工に使用可能な有機溶媒を卵黄に作用させて脱脂処理を行う。この脱脂卵黄に酸を加えて攪拌させる。この際の攪拌条件は原料と酸が十分に攪拌され、酸が原料におけるペプチド結合を加水分解して本発明に係る卵黄成分が適切に得られるものであればよく、例えば約40~約80℃で約1~約4時間攪拌させることができ、好ましくは約80℃で約1時間攪拌させる。また酸の濃度としては、溶液全体として、原料におけるペプチド結合を加水分解して本発明に係る卵黄成分が適切に得られる酸性度のものとなればよく、用いる酸の種類や酸性の強弱によってその濃度を適宜変更することができ、好ましくはpHを約4以下に調整し得る濃度とすることができる。例えばクエン酸を用いる場合には、約0.1%~約1%(v/w)、例えば、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、または約1%クエン酸などであってもよい。
【0022】
酸を加えて攪拌させた後、反応を停止させるため、塩基で中和させる。この際の条件は添加した酸が十分に中和するようなものであればよく、例えば水酸化ナトリウムを用いる場合には約0.1%~約1%(v/w)、例えば、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、または約1%水酸化ナトリウムなどであってもよい。中和後の溶液を濾過器の形状に合わせた寸法の定性濾紙を用いて濾過し、本発明の白髪防止用組成物を得ることができる。
【0023】
(4:アルカリ加水分解物)
アルカリによる加水分解の場合、原料として卵黄を準備して、エタノール、イソプロパノール、ヘキサンなどの食品加工に使用可能な有機溶媒を卵黄に作用させて脱脂処理を行う。この脱脂卵黄にアルカリを加えて攪拌させる。この際の攪拌条件は原料とアルカリが十分に攪拌され、アルカリが原料におけるペプチド結合を加水分解して本発明に係る卵黄成分が適切に得られるものであればよく、例えば室温~約100℃で約1~約4時間攪拌させることができ、好ましくは約80℃で約1時間攪拌させる。またアルカリ水溶液の濃度としては、用いるアルカリの機能を発揮し得る濃度であれば特に限られるものではなく、例えば水酸化ナトリウムを用いる場合には約0.1%~約1%(v/w)、例えば、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、または約1%水酸化ナトリウムなどであってもよい。
【0024】
アルカリ水溶液を加えて攪拌させた後、反応を停止させるため、酸で中和させる。この際の条件は添加したアルカリ水溶液が十分に中和するようなものであればよく、例えば塩酸を用いる場合には約0.1%~約1%(v/w)、例えば、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、または約1%塩酸などであってもよい。中和後の溶液を濾過器の形状に合わせた寸法の定性濾紙を用いて濾過し、本発明の白髪防止用組成物を得ることができる。
【0025】
また本発明の一実施形態において、これらのタンパク質分解酵素、酸、および/またはアルカリによる加水分解物を混合させて本発明の白髪防止用組成物とすることもできる。この場合、混合される分解物の種類、またはその混合比は適宜変更することができる。
【0026】
本発明の一実施形態において、種々の溶液を濾過する際には、濾材(金網、濾布、濾紙等)の閉塞防止と円滑な濾過を目的として、濾過対象溶液中に入れて濾材上に紛体等の層を形成させる濾過助剤を用いることもでき、例えば、珪藻土、パーライト、セルロース、パルプ繊維、及びそれらの組み合わせを濾過助剤として用いることもできる。この場合、添加する濾過助剤の量は、本発明の白髪防止用組成物やその効果に対して望ましくない影響を与えるものでなく、また本発明の白髪防止用組成物を適切に濾過できるものであれば特に制限はなく、例えば、抽出物中の珪藻土の量として、約0.01g/mL~約0.1g/mL程度となるようにして添加される。
【0027】
(白髪防止用組成物)
本発明の一実施形態において、本発明の白髪防止用組成物の形態は特に限定されるものではなく、上記のように濾過して得た液体状の組成物であってもよく、またはこの濾液を凍結乾燥、減圧濃縮乾固、噴霧乾燥、真空乾燥、流動乾燥、ドラム式乾燥、棚式乾燥、およびマイクロウェーブによる乾燥等の本技術分野において周知の方法によって濃縮または乾燥して、ペースト状、または粉末状(抽出物粉末)、細粒状、顆粒状としたものであってもよい。また本発明の一実施形態において、本発明の白髪防止用組成物に対しては、殺菌処理を行ってもよく、殺菌後、さらに濃縮、乾燥、または粉末化を行ってもよい。
【0028】
本発明の一実施形態において、本発明の白髪防止用組成物は、上記のようにして得られた卵黄タンパク質加水分解物を適宜脱塩してそのまま用いることができる。また、他の実施形態において、限外濾過膜、ゲル濾過や各種カラムクロマトグラフィー、メンブレンフィルター、等電点を利用した方法などで精製や分画して用いてもよい。精製、分画後の卵黄タンパク質加水分解物が白髪防止作用を有することは、例えば、実施例2~4に記載の方法等で確認することができる。
【0029】
限外濾過を行う場合、得られた卵黄タンパク質加水分解物は、例えば分画分子量1kDaの親水性ポリエーテルスルホン酸製メンブレンなどを用いて、1kDa以下の分画物と1kDa以上の分画物とにわけることもできる。さらに、1kDa以上の分画物については、例えば分画分子量3kDaのメンブレンを用いることにより、1-3kDaの分画物と3kDa以上の分画物とにわけることができる。本発明の一実施形態においては、所望の画分の分画物を得るために適切なメンブレンを用いることができ、本発明の組成物はここに例示した画分の分画物に限られるものではなく、例えば約1kDa以下、約3kDa以下、約5kDa以下、約10kDa以下、約0-約3kDa、約1-約3kDa、約0-約5kDa、約1-約5kDa、約0-約10kDa、約1-約10kDa、約1kDa以上、約3kDa以上、約5kDa以上、約10kDa以上などの画分にすることもできる。本発明の一実施形態において、本発明の白髪防止用組成物は、分画処理をしていない卵黄タンパク質加水分解物をそのまま用いるものであり、好ましくは少なくとも約1kDa以上の分子量を有し、さらに好ましくは約1-約3kDaの分子量を有する。
【0030】
本発明の白髪防止用組成物には、家禽鳥類由来の卵黄成分をそのまま使用しても良く、効果を損なわない範囲内で、化粧品、医薬部外品、または医薬品等に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤等の成分を含有することもできる。
【0031】
本発明の白髪防止用組成物は、家禽鳥類由来の卵黄成分を含むものであればその形態は特に限られるものではなく、例えば、シャンプー、リンス、ヘアトニック、毛髪栄養化粧水、ヘアエッセンス、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、ヘアクリーム、ヘアリキッド、及びヘアローション等とすることもできる。
【0032】
本発明の白髪防止用組成物の配合量は、その使用態様に応じて適宜調整することができるが、例えば本発明の白髪防止用組成物は該成分を約0.0001w/w%~約0.5w/w%の濃度で含むことができ、好ましくは約0.001w/w%~約0.1w/w%、より好ましくは少なくとも約0.01w/w%の濃度、さらに好ましくは約0.1w/w%~約0.5w/w%の濃度、よりさらに好ましくは約0.1w/w%の濃度で含むことができる。
【実施例
【0033】
以下に、実施例を用いて、本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
以下に、本開示において用いる実験手法および材料について説明する。なお、本実施形態において、以下の実験手法を用いているが、これら以外の実験手法を用いても、同様の結果を得ることができる。
【0035】
(実施例1:卵黄タンパク質加水分解物の製造)
(1)脱脂卵黄の調製
卵黄粉末1kgにエタノール5Lを加え、ブレンダーで30分間攪拌したのち固形物を回収した。この操作を3回繰り返して卵黄から脱脂を行い、風乾し、568gの脱脂卵黄粉末を得た。
【0036】
(2)卵黄タンパク質加水分解物の調製
(1)で得られた脱脂卵黄粉末500gに水2.5kg及びノボザイムズ社製のアルカラーゼ(商品名、Bacillus licheniformis 由来のプロテアーゼ)25gを加え、pHを7にあわせて、55℃で3時間酵素反応させ、その後、80℃で15分間の熱処理で酵素を失活させ、3000×gで20分間遠心分離し、不溶物を除去し、ろ過後、ろ液をスプレー乾燥して、約140gの卵黄タンパク質加水分解物を得た。
【0037】
(3)分子量分画物の調製
(2)で得られた卵黄タンパク質加水分解物100gに水400mLを加え、水溶液を得た。この水溶液をタンジェンシャルフロー型の循環限外濾過装置(ミリポア社)に供し、分画分子量1kDaの親水性ポリエーテルスルホン酸製メンブレンを用いて1kDa以下分画物水溶液および1kDa以上分画物水溶液を得た。更に1kDa以上分画物水溶液を分画分子量3kDaのメンブレンに供し、1-3kDa分画物水溶液および3kDa以上分画物水溶液を得た。それぞれの水溶液を凍結乾燥し、63.03gの1kDa以下分画物、17.13gの1-3kDa分画物、および19.84gの3kDa以上分画物をそれぞれ得た。
【0038】
(実施例2:チロシナーゼmRNA発現量測定)
本発明の白髪防止用組成物を培養液中に添加することで、メラニンを生成するチロシナーゼ遺伝子の発現が増加するかどうかをマウスメラノーマ細胞を用いて確認した。メラニン生成においては、チロシナーゼ(TYR)、チロシナーゼ関連タンパク質1(TRP1)及びチロシナーゼ関連タンパク質2(TRP2)が主要な酵素として関与することが知られている。本実施例では、実施例1において得られた各画分の本願発明に係る組成物がチロシナーゼ遺伝子発現に与える影響を評価した。
【0039】
まずサンプルとして、卵黄タンパク加水分解物(分画処理なし)、卵黄タンパク加水分解物の1-3kDa分画物、卵黄タンパク加水分解物の1kDa以下分画物、卵黄タンパク加水分解物の3kDa以上分画物、及びalpha-MSH(α-メラノサイト刺激ホルモン。シグマ社)を用意した。
【0040】
B16-4A5(マウスメラノーマ細胞)を低グルコースDMEM培地(10%FBS)を使用して前培養した。その後、24wellプレートに5.0x10個/wellで細胞を播種し、一晩培養した。上記4種類の卵黄タンパク加水分解物サンプル(分画処理なし、1-3kDa、1kDa以下、3kDa以上)を0.5%濃度で添加した低グルコースDMEM培地(1%FBS)、またはα-MSHを100nM濃度で添加した低グルコースDMEM培地(1%FBS)をそれぞれ調製した。各溶液を添加し、24時間培養した。培養後、培地を除き、PBSで細胞を洗浄した。
【0041】
フェノールおよびグアニジン塩によりRNAを抽出し、cDNA library construction kit (タカラ社)を用いてcDNAライブラリーを作成した。その後、PrimeScriptRT-PCR kit(タカラ社)を用いて溶液を調製し、マウスチロシナーゼ遺伝子に対応するプライマーおよびマウスGAPDHに対応するプライマーを添加した。リアルタイムPCRを実施し、GAPDHとの相対比較で遺伝子量を定量した。
【0042】
その結果を図1に示した。図1に示したとおり、α-MSHを添加していないネガティブコントロールと比較して、分画処理なし卵黄タンパク加水分解物および1-3kDa分画物では、チロシナーゼ活性化やメラニン合成促進に関連するα-MSHを添加したもの以上にチロシナーゼ遺伝子の発現量が増加していた。中でも1-3kDa分画物では顕著にチロシナーゼの発現量が増加していた。
【0043】
(実施例3:メラニン合成能の評価)
毛髪の色を決定するメラニン色素はメラノサイトで産生される色素成分である。メラノサイトは毛母細胞と隣り合う形で毛球部に存在しており、毛母細胞が細胞分裂して髪が作り出される際に、メラノサイトからメラニン色素が受け渡され、髪の内部に取りこまれる。したがって、メラノサイトにおけるメラニン合成が正常に行われない場合は、髪がメラニンを取り込むことができず、白髪が発生することとなる。本実施例においては、マウスメラノーマ細胞におけるメラニン合成能について、実施例1において得られた各画分の組成物を添加した場合と添加しない場合とで比較した。
【0044】
まずサンプルとして、卵黄タンパク加水分解物(分画処理なし)、卵黄タンパク加水分解物の1-3kDa分画物、卵黄タンパク加水分解物の1kDa以下分画物、卵黄タンパク加水分解物の3kDa以上分画物、及びalpha-MSH(α-メラノサイト刺激ホルモン。シグマ社)を用意した。
【0045】
B16-4A5(マウスメラノーマ細胞)を、低グルコースDMEM培地(10%FBS)を使用して前培養した。その後、24wellプレートに5.0x10個/wellで細胞を播種し、一晩培養した。上記4種類の卵黄タンパク加水分解物サンプル(分画処理なし、1-3kDa、1kDa以下、3kDa以上)を0.5%濃度で添加した低グルコースDMEM培地(1%FBS)、またはα-MSHを100nM濃度で添加した低グルコースDMEM培地(1%FBS)をそれぞれ調製した。各溶液を添加し、36時間培養した。培養後、培地を除き、PBSで細胞を洗浄した。
【0046】
トリプシン-EDTAを用いて細胞を遊離し、その細胞遊離液を1.5mLチューブに移し、1200rpmで5分遠心し、底面に細胞を集めた。溶液を除き、2MのNaOHを加えて70℃で10分加温し、細胞を溶解した。96wellプレートに各溶解液を移し、Abs405nmで測定した。
【0047】
その結果を図2に示した。図2に示したとおり、α-MSHを添加していないネガティブコントロールと比較して、分画処理なし卵黄タンパク加水分解物、1-3kDa分画物、および3kDa以上分画物では、メラニン合成量が増加していた。中でも分画処理なし卵黄タンパク加水分解物および1-3kDa分画物ではα-MSHを添加したもの以上にメラニン合成量が増加していた。
【0048】
(実施例4:メラニン合成の顕微鏡細胞観察)
細胞におけるメラニン合成を顕微鏡で観察した。まずサンプルとして、卵黄タンパク加水分解物(分画処理なし)、卵黄タンパク加水分解物の1-3kDa分画物、及びalpha-MSH(α-メラノサイト刺激ホルモン。シグマ社)を用意した。
【0049】
B16-4A5(マウスメラノーマ細胞)を、低グルコースDMEM培地(10%FBS)を使用して前培養した。その後、24wellプレートに5.0x10個/wellで細胞を播種し、一晩培養した。上記2種類の卵黄タンパク加水分解物サンプル(分画処理なし、1-3kDa)を添加した低グルコースDMEM培地(1%FBS)、またはα-MSHを100nM濃度で添加した低グルコースDMEM培地(1%FBS)をそれぞれ調製した。各溶液を添加し、36時間培養した。培養後、デジタルカメラ付き倒立顕微鏡(オリンパス社)を用いて、×200で観察した。
【0050】
その結果を図3に示した。図3に示したとおり、α-MSHを添加していないネガティブコントロールと比較して、分画処理なし卵黄タンパク加水分解物および1-3kDa分画物では、メラニン合成を示す黒色の模様が観察できた。特に1-3kDa分画物ではα-MSHを添加したものと同等またはそれ以上に黒色の模様が観察できた。
【0051】
その他、本開示は、様々に変形可能であることは言うまでもなく、上述した一実施形態に限定されず、発明の要旨を変更しない範囲で種々変形可能である。
図1
図2
図3