(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】防爆無人航空機
(51)【国際特許分類】
B64C 39/02 20060101AFI20240722BHJP
B64C 27/08 20230101ALI20240722BHJP
B64U 10/14 20230101ALI20240722BHJP
B64U 20/30 20230101ALI20240722BHJP
B64U 20/70 20230101ALI20240722BHJP
B64U 20/83 20230101ALI20240722BHJP
B64U 20/87 20230101ALI20240722BHJP
B64U 30/299 20230101ALI20240722BHJP
B64U 50/19 20230101ALI20240722BHJP
B64U 101/30 20230101ALN20240722BHJP
【FI】
B64C39/02
B64C27/08
B64U10/14
B64U20/30
B64U20/70
B64U20/83
B64U20/87
B64U30/299
B64U50/19
B64U101:30
(21)【出願番号】P 2020215303
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390037224
【氏名又は名称】日本工機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518032292
【氏名又は名称】テクノス三原株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515100042
【氏名又は名称】株式会社ACSL
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】森 弘行
(72)【発明者】
【氏名】向田 尊俊
(72)【発明者】
【氏名】藤原 徹也
(72)【発明者】
【氏名】松本 英統
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105235898(CN,A)
【文献】特表2005-528769(JP,A)
【文献】特開2017-027752(JP,A)
【文献】特開2008-128694(JP,A)
【文献】特開2020-168978(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0274294(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0002544(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/08
B64C 39/02
B64U 10/14
B64U 20/30
B64U 20/70
B64U 20/83
B64U 20/87
B64U 30/299
B64U 50/19
B64U 101/30
G10K 9/22
H01G 9/04
H01G 9/12
H01H 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器を内部に収納するボディと、
前記ボディの内外に通じるように
前記ボディに設けられた貫通孔に挿入して前記ボディの内外に突出した状態で固定された筒状の固定パイプと、
推進力を発生させるプロペラと、
前記プロペラを支持するとともに前記プロペラのケーブルが通される中空管状のアームパイプと、
前記固定パイプの筒内に設けられ、前記ボディの内外の連通を封止する封止構造と、を備え、
前記アームパイプは、前記固定パイプに挿し込まれた状態で固定される
ように構成されることを特徴とする防爆無人航空機。
【請求項2】
前記ボディは、前記固定パイプを囲む所定範囲に、肉厚が他の範囲の肉厚よりも厚くなるように構成された厚肉部を備えることを特徴とする請求項1に記載の防爆無人航空機。
【請求項3】
前記封止構造は、
前記固定パイプの内部に充填された樹脂が硬化した固着接合部を含んで構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防爆無人航空機。
【請求項4】
前記ケーブルは、前記固定パイプから前記ボディの内部に引き込まれるように構成され、
前記封止構造は、前記固定パイプの内部において前記ケーブルを保持するとともに、前記固定パイプの内壁に接着されたケーブルクランプを含んで構成されることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の防爆無人航空機。
【請求項5】
前記固定パイプは、前記ボディに溶接によって接合され、
前記アームパイプは、前記固定パイプに樹脂による接着によって接合される
ように構成されることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の防爆無人航空機。
【請求項6】
前記ボディ及び前記固定パイプの表面に塗布されたポリウレア樹脂を含む保護層を更に備えることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の防爆無人航空機。
【請求項7】
前記アームパイプは、前記ポリウレア樹脂を含む保護層が表面に塗布されないように構成されることを特徴とする請求項6に記載の防爆無人航空機。
【請求項8】
前記保護層の上に塗布された導電性の塗膜を更に備えることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の防爆無人航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、可燃性ガスが存在する可能性がある防爆エリアを飛行する防爆無人航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、監視エリアに設けられた設備を点検するための無人飛行体に関する技術が開示されている。この技術では、無人飛行体は、設備を点検するために予め設定された飛行ルートに従って飛行する。そして、無人飛行体に搭載されたセンサによって爆発性を有するガスの漏洩が検知されると、無人飛行体は、飛行が危険な危険エリアを決定し、当該危険エリアを回避する新たな飛行ルートを設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無人航空機は、飛行中の故障や外乱等の影響によって飛行ルートを外れる事態が考えられる。このため、特許文献1の無人飛行体のように、危険エリアを回避する新たな飛行ルートを設定したとしても、意図せずに危険エリアへ侵入して墜落或いは破損してしまうおそれがある。この場合、機体が危険エリアの引火性ガスの着火源となるおそれがある。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたもので、可燃性ガスが存在する可能性がある防爆エリアにおいて、機体が着火源となることを防止することのできる防爆無人航空機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、第1の開示は、防爆無人航空機に適用される。防爆無人航空機は、電気機器を内部に収納するボディと、ボディの内外に通じるようにボディに設けられた貫通孔に挿入してボディの内外に突出した状態で固定された筒状の固定パイプと、推進力を発生させるプロペラと、プロペラを支持するとともにプロペラのケーブルが通される中空管状のアームパイプと、固定パイプの筒内に設けられ、ボディの内外の連通を封止する封止構造と、を備える。そして、アームパイプは、固定パイプに挿し込まれた状態で固定されるように構成される。
【0007】
第2の開示は、第1の開示において、更に以下の特徴を有している。
ボディは、固定パイプを囲む所定範囲に、肉厚が他の範囲の肉厚よりも厚くなるように構成された厚肉部を備える。
【0008】
第3の開示は、第1又は第2の開示において、更に以下の特徴を有している。
封止構造は、固定パイプの内部に充填された樹脂が硬化した固着接合部を含んで構成されている。
【0009】
第4の開示は、第1から第3の何れか1つの開示において、更に以下の特徴を有している。
ケーブルは、固定パイプからボディの内部に引き込まれるように構成される。封止構造は、固定パイプの内部においてケーブルを保持するとともに、固定パイプの内壁に接着されたケーブルクランプを含んで構成される。
【0010】
第5の開示は、第1から第4の何れか1つの開示において、更に以下の特徴を有している。
固定パイプは、ボディに溶接によって接合されるように構成され、アームパイプは、固定パイプに樹脂による接着によって接合されるように構成される。
【0011】
第6の開示は、第1から第5の何れか1つの開示において、更に以下の特徴を有している。
防爆無人航空機は、ボディ及び固定パイプの表面に塗布されたポリウレア樹脂を含む保護層を更に備える。
【0012】
第7の開示は、第6の開示において、更に以下の特徴を有している。
アームパイプは、ポリウレア樹脂を含む保護層が表面に塗布されないように構成される。
【0013】
第8の開示は、第6又は第7の開示において、更に以下の特徴を有している。
防爆無人航空機は、保護層の上に塗布された導電性の塗膜を更に備える。
【発明の効果】
【0014】
第1の開示によれば、ボディに固定された固定パイプの筒内は封止構造によって封止されている。このため、固定パイプに固定されアームパイプが衝撃を受けて破損したとしても、ボディの耐圧防爆構造は固定パイプの筒内の封止構造によって保たれる。これにより、防爆エリアにおいてアームパイプが破損したとしても、ボディ内の電気機器が着火源となることを防止することが可能となる。
【0015】
第2の開示によれば、ボディと固定パイプとの固定強度が厚肉部によって高められる。これにより、ボディと固定パイプとの間にクラック等が発生することを防ぐことができる。また、固定パイプの固定強度が増すことにより、プロペラ或いはアームパイプが衝撃を受けた場合に、固定パイプよりもアームパイプが破損し易くなる。これにより、ボディの耐圧防爆構造は固定パイプの筒内の封止構造によって保たれる。
【0016】
第3の開示によれば、固定パイプの内部が、充填された樹脂が硬化した固着接合部によって埋められる。これにより、ボディの内部にケーブルを通した状態であっても固定パイプの筒内を確実に封止することができる。
【0017】
第4の開示によれば、ケーブルクランプによってケーブルを保持しつつ固定パイプの筒内を更に強固に封止することができる。また、ケーブルクランプは硬化した樹脂と異なり寸法が安定しているため、封止構造の寸法管理が容易になる。
【0018】
第5の発明によれば、固定パイプは、ボディに溶接によって強固に接合されるのに対し、アームパイプは、固定パイプに樹脂による接着によって接合される。このような構成によれば、アームパイプに衝撃が加わった場合に固定パイプの溶接にクラックが発生する前にアームパイプの接着が破断し易くなる。これにより、それ以上の負荷が固定パイプの溶接部に作用することを防ぐことができる。
【0019】
第6の開示によれば、ボディ及び固定パイプの表面には、ポリウレア樹脂を含む保護層が塗布されている。このような構成によれば、固定パイプのボディへの接合強度が増すので、アームパイプに衝撃が加わった場合に固定パイプとボディとの接合部にクラックが生じることを防ぐことができる。
【0020】
第7の開示によれば、アームパイプの表面にはポリウレア樹脂を含む保護層が塗布されていない。このような構成によれば、アームパイプに衝撃が加わった場合に固定パイプが破損することによって固定パイプに生じる応力が緩和される。これにより、固定パイプとボディとの接合部にクラックが生じることを防ぐことができる。
【0021】
第8の開示によれば、ポリウレア樹脂を含む保護層の表面には、導電性の塗膜が塗布されている。このような構成によれば、保護層が静電気によって帯電することを抑制することができるので、静電気帯電による防爆エリアでの危険性を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態に係る無人航空機の概略構造を示す斜視図である。
【
図4】
図1に示す無人航空機の内部構造を透視した側面図である。
【
図5】実施の形態に係る無人航空機を下面側から見た斜視図である。
【
図6】アームパイプの中心軸を通り前後方向に平行な面でアームパイプを切断した断面の一部を示す図である。
【
図7】実施の形態の無人航空機へ施される表面処理を説明するための図である。
【
図8】実施の形態の無人航空機の解析モデルの概略図である。
【
図10】試験用のアームパイプの構成を説明するための断面図である。
【
図12】無人航空機の表面抵抗値を測定する箇所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この開示が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この開示に必ずしも必須のものではない。
【0024】
実施の形態.
1.無人航空機の概略構造
図1は、実施の形態に係る無人航空機の概略構造を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す無人航空機の上面図である。
図3は、
図1に示す無人航空機の正面図である。
図4は、
図1に示す無人航空機の内部構造を透視した側面図である。以下の説明では、機体のボディ長手方向を「前後方向」と定義し、機体の幅方向を「左右方向」と定義し、機体の高さ方向を「上下方向」と定義する。
【0025】
無人航空機10は、例えば前後方向及び左右方向の寸法が、それぞれ600-700mm程度を有する小型の無人航空機である。無人航空機10は、図示しない指令端末からの指令に従い機体の姿勢及び位置を把握しながら、上下方向の移動、水平方向の移動、ヨー方向の移動、及びこれらの組み合わせによって飛行することができる。無人航空機10は、主要な構成として、ボディ12と、複数のプロペラ14と、アームパイプ16と、プロペラガード18と、を備えている。
【0026】
ボディ12は、無人航空機10の外郭を構成する。ボディ12は、例えばアルミ合金等の金属で構成される。ボディ12の内部には、カメラ装置、LED、センサ等の複数の電気機器が収納されている。ボディ12の正面側には、カメラを保護するための第一カメラレンズ20、複数の第二カメラレンズ22、LEDを保護するためのLEDレンズ24が取り付けられている。ボディ12の下面側には、距離センサを保護するためのセンサレンズ26が取り付けられている。これらのレンズ20,22,24,26は、例えば強化ガラス或いはアクリル等の樹脂により構成される。
【0027】
ボディ12の後面側には、無人航空機10の外郭を構成するヘッドリア28が着脱可能に取り付けられている。ヘッドリア28は、例えばアルミ合金等の金属で構成される。ヘッドリア28を取り外すことにより、ボディ12の内部に収納された部品にアクセスすることができる。
【0028】
プロペラ14は、モータの回転力を推進力へと変換するための部品である。典型的には、プロペラ14は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)等の軽量且つ高強度の樹脂により構成される。本実施の形態の無人航空機10は、4つのプロペラ14を備えている。各プロペラ14は、回転軸方向が上下方向となる向きで、アームパイプ16に支持される。
【0029】
アームパイプ16は、各プロペラ14及びモータをボディ12に保持するための保持部品である。典型的には、アームパイプ16は、中空管状に形成された部品であって、CFRPやGFRP等の樹脂、或いはアルミ合金等の金属により構成される。本実施の形態の無人航空機10は、4つのプロペラ14に対応して、4本のアームパイプ16を有している。
【0030】
アームパイプ16の基端側は、ボディ12の側面に接合された固定パイプ8に固定される。アームパイプ16の基端側の固定構造は、本実施の形態の無人航空機10の特徴的構成であるため、詳細を後述する。アームパイプ16の先端側には、プロペラ14が取り付けられたモータが取り付けられている。モータは、アルミ合金等の金属で構成されたモータケース30によって覆われている。モータのケーブルは、アームパイプ16の管内を通ってボディ12の内部に引き込まれる。
【0031】
プロペラガード18は、プロペラ14を保護するための保護部材である。典型的には、プロペラガード18は、CFRPやGFRP等の樹脂により構成され、プロペラ14の回転領域よりも外側に張り出す大きさに設定されている。このような構成によれば、プロペラガード18は、プロペラ14が人や建物等の障害物に接触することを防止することができる。
【0032】
ボディ12には、GPSや指令端末との通信を行うための2本のアンテナ32と、無人航空機10の着陸脚としてのボディガイド34とが取り付けられている。ボディガイド34は、CFRPやGFRP、ナイロン等の樹脂、或いはアルミ合金等の金属により構成され、ボディ12の下面側の前後にそれぞれ取り付けられる。
【0033】
ボディ12の内部には、上述した電気部品の他、バッテリ36、バッテリケース38,フライトコントローラ40等の部品も収納されている。バッテリ36は、無人航空機10の動力源である。バッテリ36は、ボディ12内においてバッテリケース38に収納される。バッテリケース38は、CFRPやGFRP等の樹脂、或いはアルミ合金等の金属により構成される。
【0034】
フライトコントローラ40は、指令端末から入力された指令に従い無人航空機10の飛行を制御する。例えば、フライトコントローラ40は、指令端末から指示された飛行ルートに従って自律飛行するように無人航空機10の位置及び姿勢を制御する。或いは、フライトコントローラ40は、指令端末から指示された対象物を探索して目標飛行ルートを演算し、演算された目標飛行ルートに従って当該対象物の上空まで自律飛行してもよい。なお、無人航空機10の飛行制御に限定はない。すなわち、無人航空機の飛行制御は、既に多くの文献において種々の手法が提案されている。本実施の形態の無人航空機10は、周知の飛行制御を適宜採用することができる。
【0035】
2.無人航空機の耐圧防爆構造
本実施の形態の無人航空機10は、例えば化学プラントのような可燃性ガスが存在する可能性のある防爆エリアを飛行することを想定した設計が施されている。具体的には、無人航空機10は、IEC規格の耐圧防爆構造(IEC60079-1)に準拠した設計が施された防爆無人航空機である。
図5は、実施の形態に係る無人航空機を下面側から見た斜視図である。なお、
図5では、機体左側のプロペラガード18の図示を省略している。以下、
図5も参照しながら、無人航空機10の主要な耐圧防爆構造についてさらに詳しく説明する。
【0036】
2-1.ヘッドリアの耐圧防爆構造
ボディ12の後面側は、内部に収納されているバッテリ36等の取り出し等を行う取出口として機能している。このため、ヘッドリア28は、ボディ12の後面側にヘッドリア28が脱着自在に螺着されることによって耐圧防爆構造を実現している。
【0037】
2-2.レンズの周囲の耐圧防爆構造
第一カメラレンズ20は、外周に樹脂を充填して固着接合部204を形成することにより、第一レンズカバー202に接合される。第一レンズカバー202は、ボディ12の前面部に螺着される。これにより、第一カメラレンズ20及び第一レンズカバー202の周囲の耐圧防爆構造が実現される。
【0038】
また、第二カメラレンズ22は、外周に樹脂を充填して固着接合部(図示省略)を形成することにより、第二レンズカバー222に接合される。第二レンズカバー222は、外周及びボディ12のねじ部に樹脂を充填して固着接合部(図示省略)を形成することにより、ボディ12の前面部に接合される。さらに、LEDレンズ24及びセンサレンズ26は、それぞれのレンズ外周に樹脂を充填して固着接合部242,262を形成することによりボディ12に接合される。これにより、第二カメラレンズ22、第二レンズカバー222、LEDレンズ24及びセンサレンズ26の周囲の耐圧防爆構造が実現される。
【0039】
2-3.アンテナ周囲の耐圧防爆構造
ボディ12の内部からアンテナ32が取り出される取り出し部の周囲には樹脂を充填することよって固着接合部が形成される。これにより、アンテナ32の周囲の耐圧防爆構造が実現される。
【0040】
2-4.アームパイプ基端部の耐圧防爆構造
図6は、アームパイプの中心軸を通り前後方向に平行な面でアームパイプを切断した断面の一部を示す図である。固定パイプ8は、アームパイプ16の基端部をボディ12に固定するための筒状の部品である。典型的には、固定パイプ8は、アルミ合金等の金属で構成され、ボディ12に設けられた貫通孔6に挿入した状態で溶接によって接合されている。つまり、固定パイプ8は、ボディ12の内外に通じるように固定される。固定パイプ8とボディ12との接合部には、全周にわたって溶接部82が形成されている。固定パイプ8の内径はアームパイプ16の外径よりも大きい。アームパイプ16は、固定パイプ8の先端部8aに挿し込んだ状態で接着剤(樹脂)によって接合されている。固定パイプ8とアームパイプとの接合部には、全周にわたって接着部84が形成されている。
【0041】
ここで、本実施の形態の無人航空機10は、軽量化を目的として、ボディ12の基本厚さをt=2mmに設定している。このため、アームパイプ16の先端部に力が加わった場合、応力がアームパイプ16の基端部に集中し、固定パイプ8の溶接部に割れが生じるおそれがある。
【0042】
そこで、本実施の形態の無人航空機10は、固定パイプ8の周囲を囲む所定範囲に、ボディ12の基本厚さに対して更に厚肉となるように肉盛りされた厚肉部4を備えている。典型的には、厚肉部4は、ボディ12の表面に矩形の肉盛りを行うことで厚肉化されている。厚肉部4の部分のボディ厚さは、例えば基本厚さ2mmを含めてt=10mmに設定されている。このような構成によれば、アームパイプ16の先端部に加えられた力の応力がt=10mmの厚肉部4とt=2mmのボディ12との境界部に集中するため、固定パイプ8の溶接部82への負荷が軽減される。これにより、無人航空機10の機体重量の増加を最小限に抑えながら固定パイプ8の溶接部82に割れが生じることを防止することが可能となる。
【0043】
また、モータのケーブル42は、アームパイプ16及び固定パイプ8の筒内を通ってボディ12の内部へ引き込まれている。このため、アームパイプ16が衝撃によって破損した場合、ボディ12の内部が外部雰囲気と連通してしまい、耐圧防爆構造を維持できない。
【0044】
そこで、本実施の形態の無人航空機10は、耐圧防爆構造を実現するために、固定パイプ8の筒内にボディ12の内外の連通を封止するための封止構造を設けている。典型的には、封止構造は、固定パイプ8の先端部8aと基端部8cとの間の中間部8bに樹脂を充填して硬化させた固着接合部44を含んでいる。また、封止構造は、更に固定パイプ8の基端部8cに取り付けられたケーブルクランプ46を含んでいる。ケーブルクランプ46は、ケーブル42を挟んだ状態で保持するためのものであり、アルミ合金等の金属或いはナイロン等の樹脂で構成される。ケーブルクランプ46は、基端部8cの内壁及び固着接合部44との隙間に樹脂を充填して硬化させることにより、固定パイプ8の内部を更に強硬に封止する。このような封止構造によれば、アームパイプ16が破損した場合であっても、無人航空機10のボディ12の耐圧防爆構造が維持される。これにより、無人航空機10のアームパイプ16が防爆エリアにおいて破損した場合であっても、無人航空機10が着火源となることを防ぐことができる。
【0045】
特に、本実施の形態の無人航空機10は、アームパイプ16が固定パイプ8に接着剤によって接合されている。つまり、アームパイプ16の固定パイプ8への接合強度は、固定パイプ8のボディ12への接合強度よりも弱い。このため、アームパイプ16に負荷が入力されると、固定パイプ8の溶接部82に割れが生じる前にアームパイプ16の接着部84が破断して外れる。これにより、固定パイプ8の溶接部82に割れが生じることを防止することができるので、ボディ12の耐圧防爆構造が維持される。
【0046】
2-5.無人航空機の表面処理
本実施の形態の無人航空機10は、耐衝撃性を有する弾性体であるポリウレア樹脂を機体表面に塗布する表面処理が施されている。ポリウレア樹脂は、ポリウレアを主成分とする樹脂であって、イソシアートとアミン基との化学反応によって形成される結合が主体の化合物である。
図7は、実施の形態の無人航空機へ施される表面処理を説明するための図である。この図に示すように、本実施の形態の無人航空機10は、厚肉部4を含むボディ12及び固定パイプ8の表面に、ポリウレア樹脂の保護層2が塗布されている。
図8では、保護層2が塗布されている領域を網掛けで示している。ポリウレア樹脂は、例えばLINE-X(登録商標(LINE-X LLC))を用いることができる。保護層2の塗布厚は、例えば1.5mm以上とされる。ただし、保護層2の塗布厚が4.0mmを超えると、塗布厚の均一性を保つことが困難となり、また重量過多となることで飛行時間が短くなる。このため、保護層2の塗布厚は1.5mm以上4.0mm以下に設定することが好ましい。このような構成によれば、無人航空機10の耐衝撃性を更に向上させた耐圧防爆構造を実現することができる。
【0047】
また、保護層2は、アームパイプ16、プロペラガード18、ボディガイド34、及びヘッドリア28には塗布されていない。このような構成によれば、アームパイプ16やプロペラガード18に負荷が入力された場合に、これらの部品が先に破損することによって固定パイプ8の溶接部の割れを防ぐことができる。また、保護層2の塗布が必要なところを限定することにより、機体重量の増加を最小限に抑えることができる。
【0048】
なお、ポリウレア樹脂の保護層2は、静電気が帯電することがある。防爆エリアにおいて静電気の放電が起こると、それが着火源となるおそれがある。そこで、本実施の形態の無人航空機10は、保護層2の表面に導電性塗料を塗布している。典型的には、導電性塗料は、ポリエステルウレタン系銀銅導電塗料やカーボン系導電塗料が例示される。ここでは、機体の表面抵抗値が1.0×109Ω以下となるように導電性塗料が塗布される。このような構成によれば、保護層2の表面に導電性の塗膜が形成されるので、静電気帯電による防爆エリアでの危険性を低減することが可能となる。
【0049】
3.無人航空機の耐圧防爆構造の検証
本願の発明者らは、本実施の形態の無人航空機10の耐圧防爆構造の効果を検証するための試験を行った。以下、これらの試験及びその考察結果について説明する。
【0050】
4-1.強度解析試験
4-1-1.概要
本実施の形態の無人航空機のアームパイプの先端部に下向きの荷重を印加した場合にアームパイプの基端部に発生する負荷応力を、解析モデルを用いて解析した。比較する設計パラメータは、固定パイプの有無、ボディの厚さ、及び厚肉部の厚さとした。解析値は、固定パイプと厚肉部との溶接部の負荷応力、及び固定パイプとアームパイプとの接合部の負荷応力を算出した。
【0051】
4-1-2.強度解析モデルの構成
図8は、本実施の形態の無人航空機の解析モデルの概略図である。この図に示すように、解析モデルは、本実施の形態の無人航空機10の構造と同等のボディ、厚肉部、固定パイプ、アームパイプを含んで構成されている。解析モデルの解析パラメータは、以下のように設定した。
【0052】
[解析ソフト]
Femap With NX Nastran
[解析パラメータ]
ボディ:材質A5056,肉厚は2,4,10,15(mm)の4種類
固定パイプ:材質A5056,肉厚は2mm
アームパイプ:材質A5056,肉厚は2mm
【0053】
[材質A5056(アルミ合金)の機械的性質]
縦弾性係数:70.6kN/mm2
ポアソン比:0.34
[解析条件]
荷重:アームパイプの先端部に下向きに印加
拘束条件:ボディの端面を完全拘束
【0054】
4-1-3.強度解析結果
強度解析結果を表1に示す。なお、全てのモデルに対して同じ解析条件で解析を実施しているため、解析値(応力値)はモデル毎の平均値で算出した。また、解析値(応力値)は、全てのモデルの中での最大応力値を1とした場合での比較値で記載した。
【0055】
【0056】
4-1-4.強度解析結果の考察
No.2の固定パイプ無しでボディ厚さを4mm厚にした場合、2mm厚と比べて溶接部の負荷は約44%まで軽減するが、重量は約1.61倍増加となった。一方、No.7のボディ厚さ2mm厚、厚肉部2mm厚、固定パイプ有りとした場合は、溶接部の負荷は約25%まで軽減し、重量は約1.11倍増加に留まることが確認された。これにより、固定パイプを追加することは、重量の増加を抑えつつ、溶接部への負荷が軽減される構造であることが確認された。
【0057】
さらに、厚肉部の厚さが増えることで溶接部の負荷は段階的に軽減されており、厚肉部の厚さが2mm厚以上であるとき、溶接部より固定パイプ-アームパイプ接合部の方が、負荷が強くなることが確認された。
【0058】
以上の強度解析結果から、アームパイプを直接ボディと溶接するのではなく、固定パイプをボディとを溶接し、溶接部周囲のボディ厚さを局所的に厚くし、アームパイプと固定パイプとを接着により接合する構造にすることで溶接部への負荷が低減されることが確認された。
【0059】
4-2.衝撃試験
4-2-1.概要
本実施の形態の無人航空機10のアームパイプ16の取り付け構造を模擬した試験用のアームパイプ(試験体)を水平に設置し、アームパイプの先端部に錘を垂直に落下させて衝撃を加えた。錘落下高さ、固定パイプの有無、及びボディ+厚肉部の厚さを変化させて、アームパイプの溶接部の割れ(クラック)の有無を確認した。
【0060】
4-2-2.試験装置
図9は、衝撃試験の試験装置の概略を示す図である。試験装置100は、本体102と、ガイド106と、錘104とを備えている。本体の下部には、試験用のアームパイプが固定されている。試験装置100は、錘104がガイド106の内部を通過してアームパイプの先端部に落下するように構成されている。
【0061】
図10は、試験用のアームパイプの構成を説明するための断面図である。この図に示すように、試験用のアームパイプは、無人航空機10のアームパイプ16、固定パイプ8、ボディ12、及び厚肉部4の構成を模擬した試験用のアームパイプ、固定パイプ、ボディ+厚肉部によって構成されている。固定パイプは、ボディ+厚肉部に溶接され、その接合部には溶接部が形成されている。アームパイプは固定パイプに接着され、その接合部には接着部が形成されている。衝撃試験では、ボディ+厚肉部の厚さ(A)及び固定パイプの有無の異なる7種の試験体を用意した。
【0062】
本衝撃試験の試験条件を以下に示す。
錘:1.0Kg
錘落下高さ:100mm~2000mm
アームパイプ:材質A5056,直径φ14mm,厚さt1.0mm
固定パイプ:材質A5056,直径φ20mm,厚さt2.0mm
【0063】
4-2-3.衝撃試験結果
衝撃試験結果を表2に示す。なお、表中の「ドローン落下高さ」は、無人航空機10の落下時の高さに相当している。今回の試験では、無人航空機10の落下時にアームパイプ16の先端に加わる衝撃力を、次式(1)を用いて算出した(表3参照)。そして、算出した衝撃力に相当する錘の落下高さを算出した(表4参照)。
【0064】
F=m・V/(t・g) ・・・(1)
F:衝撃力[kgf]
m:減速直前の速度[m/s]
g:重力加速度 9.81[m/s2]
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
4-2-4.衝撃試験結果の考察
ボディ+厚肉部厚さが4mm厚で固定パイプ有無の比較をした場合(No.2とNo.4)、固定パイプ有りの方が溶接部の耐衝撃性を有することが確認された。
固定パイプ無しのボディ+厚肉部厚さ15mm厚(No.3)と固定パイプ有りでの5mm厚(No.5)が同程度の耐衝撃性となった。これは表4に記載の重量で比較すると、15mm厚は3160gに対して、固定パイプ有の5mm厚は665gとなり、15mm厚に比べて約20%の重量で同等の耐衝撃性を有することとなる。
No.4においては0.9m(ドローン落下高さ:10m)に耐久できなかったが、No.5以降は、1.35m(ドローン落下高さ:15m)に耐久することが確認された。
【0069】
以上の結果から、固定パイプを溶接し、ボディ+厚肉部が合計5mm以上であれば、重量増加を最小限に抑えつつ落下高さ15mに耐久することが可能であることが確認された。また、溶接部周囲のみを局所的に厚肉化することで、ボディ全体の厚肉化に比べ重量増加を抑えつつ溶接部への負荷低減が可能となることが確認された。
【0070】
4-3.落下試験
4-3-1.概要
本実施の形態の無人航空機10にポリウレア樹脂の保護層2を塗布した効果を確認するための落下試験を実施した。
図11は、落下試験の概要を示す図である。落下試験では、規定の落下高さから無人航空機10を落下させた後、ポリウレア樹脂の破断、剥離状況を確認した。
【0071】
4-3-2.試験条件
本落下試験の試験条件を以下に示す。
[使用したポリウレア樹脂]
品名:LINE―X(登録商標)(LINE-X LLC)
品番:XS-350
組成:ポリイソシアネート 50wt%,ポリアミン 50wt%
説明:イソシアネート混合物のA剤(硬化剤)とポリオール・芳香族ジアミン混合物であるB剤(樹脂)を加熱混合した100%ポリウレアのエラストマー
[試験条件]
ポリウレア樹脂の塗布厚さ:1.0mm,1.5mm,2.0mm
着地床:コンクリート
落下高さ:1m,10m,15m,20m
試験回数:1回
判定基準:IPX7を満足すること(JIS C 0920 電気機械器具の外殻による保護等級)
IPX7試験条件:試験体の再下端が水面から1mの位置で30分間没する。
【0072】
4-3-3.落下試験結果
落下試験析結果を表5に示す。
【0073】
【0074】
4-3-4.落下試験結果の考察
ポリウレア樹脂未塗布の状態(No.1)では、アームパイプの基端の溶接部に割れ(クラック)が発生した。IPX7試験の結果、内部への浸水が確認された。
ポリウレア樹脂を塗布した状態(No.2)では、1.5mm厚以上であれば最大20mの高さからの落下において、目視ではポリウレア樹脂の破断は確認されなかった。また、IPX7試験の結果、内部への浸水が確認されなかった。
ポリウレア樹脂の塗布厚に関しては、無人航空機10の形状が複雑であるため、4.0mm厚を超える場合は塗布厚の均一性を保つことが難しい。また、重量過多となり飛行時間が短くなることが懸念されるため、塗布厚さは4.0mm厚以下が望ましい。
落下試験を実施した結果、表5に示す衝撃試験では20m落下に耐久できなかったNo.5の構造に1.5mm厚以上のポリウレア樹脂を塗布することで、耐衝撃性が顕著に向上し、20m落下に耐久できることが確認された。
【0075】
4-4.導電性試験
4-4-1.概要
ポリウレア樹脂の保護層2を塗布した無人航空機10に導電性塗料を塗布した後に表面抵抗値を測定した。
【0076】
4-4-2.試験条件
[使用した導電性塗料]
品名:Polycalm(プラスコート(株))
品番:PCS-1201S
成分:表6の通り
[抵抗測定器]
品名:デジタルマルチメータ(日置電機株式会社)
品番:DT4282
[試験条件]
ポリウレア樹脂(LINE―X(登録商標))の保護層の表面にPolycalmを塗布し、12時間乾燥後に表面抵抗値を測定した。
図12は、無人航空機の表面抵抗値を測定する箇所を示す図である。本試験では、図に示すA-B,A-C,A-D,B-C,B-D,C-Dの間の表面抵抗値を測定した。
【0077】
【0078】
4-4-3.導電性試験結果
導電性試験結果を表7に示す。
【0079】
【0080】
4-4-4.導電性試験結果の考察
いずれの測定箇所においても、1.0×109Ω以下であることが確認された。この結果から、導電性塗料の塗布により静電気帯電の危険性を低減できることが確認された。
【0081】
5.変形例
本実施の形態の無人航空機10に適用される防爆構造は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0082】
封止構造としてのケーブルクランプ46の構成は必須ではない。すなわち、ケーブルクランプ46は、固着接合部44と同様に、樹脂を充填して硬化させた固着接合部として構成されていてもよい。また、厚肉部4の構成についても、必須の構成ではない。
【0083】
保護層2に用いられるポリウレア樹脂の種類に限定はない。また、導電性塗料についても、表面抵抗値が1.0×109Ω以下という基準を満たすことができるのであれば、その種類に限定はない。
【0084】
ヘッドリア28の耐圧防爆構造、レンズ20,22,24,26の周囲の耐圧防爆構造、及びアンテナ32の周囲の耐圧防爆構造に限定はない。これらの耐圧防爆構造は、既に公知となっている耐圧防爆構造を適宜適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
2 保護層
4 厚肉部
6 貫通孔
8 固定パイプ
8a 先端部
8b 中間部
8c 基端部
10 無人航空機
12 ボディ
14 プロペラ
16 アームパイプ
18 プロペラガード
20 第一カメラレンズ
22 第二カメラレンズ
24 LEDレンズ
26 センサレンズ
28 ヘッドリア
30 モータケース
32 アンテナ
34 ボディガイド
36 バッテリ
38 バッテリケース
40 フライトコントローラ
42 ケーブル
44 固着接合部
46 ケーブルクランプ
82 溶接部
84 接着部
100 試験装置
102 本体
104 錘
106 ガイド
202 第一レンズカバー
204 固着接合部
222 第二レンズカバー
242,262 固着接合部