(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】潅流液供給システム及び潅流液供給システムの作動方法
(51)【国際特許分類】
A61B 1/12 20060101AFI20240722BHJP
A61B 1/015 20060101ALI20240722BHJP
A61B 1/307 20060101ALI20240722BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20240722BHJP
A61B 1/01 20060101ALI20240722BHJP
A61B 17/94 20060101ALI20240722BHJP
G01L 9/00 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
A61B1/12 521
A61B1/015 514
A61B1/307
A61B1/00 550
A61B1/01 511
A61B17/94
G01L9/00 B
(21)【出願番号】P 2019184806
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100157325
【氏名又は名称】伊藤 太一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 崇
(72)【発明者】
【氏名】松永 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 洋一
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 典子
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/236513(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109998698(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106963344(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107440672(CN,A)
【文献】特開平09-005028(JP,A)
【文献】国際公開第2008/047859(WO,A1)
【文献】特開2000-035369(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0171401(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00 - 1/32
A61B 17/94
G01L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡手術に用いる潅流液供給システムであって、
体腔内へ挿入される内視鏡と、
前記内視鏡内において前記内視鏡の先端近傍まで延在する送液チャンネルと、
前記内視鏡内に延在し前記内視鏡の先端近傍の圧力を検出する圧力センサと、
前記内視鏡内に延在し前記内視鏡の先端近傍の温度を検出する温度センサと、
前記送液チャンネルに接続され、前記送液チャンネルを通して前記内視鏡の先端近傍に液を供給し、供給された液を体腔を通して体外に排出する潅流ポンプと、
前記圧力センサから取得した圧力信号と前記温度センサから取得した温度信号とに基づき、前記潅流ポンプにおける潅流液の供給圧力を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記温度信号に基づいて、前記内視鏡の先端近傍に供給される液の供給量の増加に伴
い加圧期間内において前記圧力信号の示す圧力値
が漸減する時間変化を補正し、補正後の圧力値が所定の基準値に近付くように、前記潅流ポンプにおける潅流液の供給圧力を増減することにより、前記潅流ポンプからの潅流液の供給量を制御する
潅流液供給システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記温度信号に基づいて、前記内視鏡の先端近傍における対象部位の温度上昇に伴う前記圧力信号の示す圧力値の変化を補正する
請求項1に記載の潅流液供給システム。
【請求項3】
体腔は尿管であり、
前記内視鏡は尿管を通して、少なくとも上部尿路まで挿入され、
前記潅流ポンプは、前記送液チャンネルを通して上部尿路又は腎盂内に液を供給し、
前記圧力センサは、少なくとも上部尿路まで挿入されて腎盂内圧を検出し、
前記制御部は、検出された腎盂内圧が設定された基準値に近づくよう、前記潅流ポンプにおける潅流液の供給圧力を設定する
請求項1又は2に記載の潅流液供給システム。
【請求項4】
さらに、患者の尿管から上部尿路に挿入され、前記内視鏡を上部尿路まで案内する尿管アクセスシースを備え、
供給された液は、前記尿管アクセスシースを通して体外に排出される
請求項3に記載の潅流液供給システム。
【請求項5】
前記圧力センサは、
長軸方向に延伸する光ファイバと、
前記光ファイバの一端から構成されたハーフミラーからなる第1のミラーと、
前記第1のミラーを前記長軸方向に取り囲む周壁と、
前記周壁の前記長軸方向の端に配され、前記第1のミラー及び前記周壁とともに気室を構成し、外圧により前記気室内、および外方に変位するダイヤフラムと、
前記ダイヤフラム上に前記第1のミラーに対向して配された第2のミラーと、
前記光ファイバの他端から入光し前記第1のミラーにて反射される光と、前記光ファイバの他端から入光し前記第2のミラーにて反射される光との位相差の変化を計測する計測部と、
前記位相差の変化に基づき前記ダイヤフラムに付勢される前記外圧を算出する圧力算出部とを備えた
請求項1から4の何れか1項に記載の潅流液供給システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記潅流ポンプの供給圧力を変化させることにより、前記潅流ポンプから液を間欠的に送液して前記内視鏡の先端近傍に液を間欠的に供給する
請求項1に記載の潅流液供給システム。
【請求項7】
体腔内に挿入された状態で用いられる内視鏡に対し、前記内視鏡内において前記内視鏡の先端近傍まで延在する送液チャンネルを通して潅流ポンプから前記内視鏡の先端近傍に液を供給し、供給された液を体腔を通して外に排出する潅流液供給システムの作動方法であって、
前記内視鏡内に延在する圧力センサが、前記内視鏡の先端近傍の圧力を検出し、
前記内視鏡内に延在する温度センサが、前記内視鏡の先端近傍の温度を検出し、
前記圧力センサから取得した圧力信号と前記温度センサから取得した温度信号とに基づき、潅流ポンプにおける潅流液の供給圧力を制御することにより、前記潅流ポンプからの潅流液の供給量を制御する制御部が作動し、
前記制御部は、前記温度信号に基づいて、前記内視鏡の先端近傍に供給される液の供給量の増加に伴
い加圧期間内において前記圧力信号の示す圧力値
が漸減する時間変化を補正し、補正後の圧力値が所定の基準値に近付くように、前記潅流ポンプにおける潅流液の供給圧力を増減することにより、前記供給圧力を制御する
潅流液供給システムの作動方法。
【請求項8】
前記潅流液供給システムは、前記内視鏡を体腔内へ導くアクセスシースを通して液を排出する構成である
請求項7に記載の潅流液供給システムの作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内視鏡手術中に手術対象部位に潅流流体を送液又は送気する潅流液供給システムに関し、特に、上部尿路内視鏡手術に用いる潅流液供給システム及び潅流液供給システムの作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において低侵襲化を目的として、内視鏡を患者の皮膚表面に形成した孔から体腔内に挿入して行う内視鏡手術が拡大している。泌尿器科疾患に対する治療では、上部尿路(尿管、腎盂)内の尿路上皮腫瘍や尿路結石症を切除する腎盂尿管鏡による上部尿路内視鏡手術が行われる。この上部尿路内視鏡手術では、尿道から膀胱、尿管を経由して内視鏡を上部尿路に挿入し、内視鏡の先端を腎盂に挿入して腎盂尿管鏡を構成し、手術部位を観察しながら切除プローブで対象部位への処理を行う。あるいは、尿道から膀胱、尿管を経由してアクセスシースを上部尿路に挿入し、アクセスシースを通して内視鏡の先端が腎盂に挿入される。このとき、結石破砕片や手術部位からの出血に伴い腎盂内の視野が低下する場合がある。そのため、上部尿路内視鏡手術では、重力による滴下または一定の流量に設定できる潅流装置を用いて手術部位に潅流液を供給して、内視鏡を通して手術部位の視認性を確保する手法が採られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-217952号公報
【文献】登録実用新案第3207495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上部尿路内視鏡手術において、手術部位からの出血量が多い場合や、潅流液の供給量が不足する場合等、既定の方法では十分な視野を確保できないことがあり、潅流液を間欠供給して視認性を向上する措置が採られていた。その場合、高腎盂内圧に伴う敗血症等の術後合併症が発生することが懸念される。したがって、上部尿路内視鏡手術では、術後合併症予防の観点から、低腎盂内圧を保ちながら視野確保のため一定の流量を確保する灌流液の供給が必要となる。
【0005】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、上部尿路内視鏡手術において、手術中に腎盂内圧を検出し、潅流液供給時の腎盂内圧を設定された低腎盂内圧に保ちながら、視野確保のため一定の流量を供給する潅流液供給システム及び潅流液供給システムの作動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の一態様に係る潅流液供給システムは、内視鏡手術に用いる潅流液供給システムであって、体腔内へ挿入される内視鏡と、前記内視鏡内において前記内視鏡の先端近傍まで延在する送液チャンネルと、前記内視鏡内に延在し前記内視鏡の先端近傍の圧力を検出する圧力センサと、前記内視鏡内に延在し前記内視鏡の先端近傍の温度を検出する温度センサと、前記送液チャンネルに接続され、前記送液チャンネルを通して前記内視鏡の先端近傍に液を供給し、供給された液を体腔を通して体外に排出する潅流ポンプと、前記圧力センサ及び前記潅流ポンプと電気的に接続され、前記圧力センサから取得した圧力信号と前記温度センサから取得した温度信号とに基づき、前記潅流ポンプにおける潅流液の供給圧力を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記温度信号に基づいて、前記内視鏡の先端近傍に供給される液の供給量の増加に伴い加圧期間内において前記圧力信号の示す圧力値が漸減する時間変化を補正し、補正後の圧力値が所定の基準値に近付くように、前記潅流ポンプにおける潅流液の供給圧力を増減することにより、前記潅流ポンプからの潅流液の供給量を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様に係る潅流液供給システム、及び潅流液供給システムの作動方法によれば、手術中に腎盂内圧を検出し、潅流液供給時の腎盂内圧を設定された基準値に近付けることができる。その結果、潅流液供給時の腎盂内圧を、患者に対し適応的に設定された低腎盂内圧に保ちながら、視野確保のため一定の流量を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る潅流液供給システム1の構成を示す模式図である。
【
図2】潅流液供給システム1における内視鏡20の先端付近の分解斜視図である。
【
図3】(a)は、圧力センサ30の構成の概要を示す模式図、(b)は、(a)におけるA部の拡大図である。
【
図4】(a)(b)は、圧力センサ30における圧力の計測原理を説明するための模式図である。
【
図5】(a)は、潅流液供給システム1における性能評価試験に用いたアクセスシース、(b)は内視鏡の構成である。
【
図6】潅流液供給システム1における供給圧力と腎盂圧との関係を示す実験結果である。
【
図7】潅流液供給システム1における供給圧力と潅流液の供給量との関係を示す実験結果である。
【
図8】潅流液供給システム1における潅流液の供給に伴う腎盂圧の時間変化を示す実験結果である。
【
図9】潅流液供給システム1による、潅流液供給における圧力センサ30を利用した腎盂内圧のフィードバック制御の際の腎盂内圧の計測結果であり、(a)は増圧時、(b)は降圧時の結果である。
【
図10】変形例1に係る潅流液供給システム1Aの構成を示す模式図である。
【
図11】実施の形態2に係る潅流液供給システム1Bの構成を示す模式図である。
【
図12】潅流液供給システム1Bにおける内視鏡20の先端付近の分解斜視図である。
【
図13】12/14Frアクセスシースを用いた上部尿路内視鏡手術におけるレーザー照射に伴う温度の時間変化の測定結果である。
【
図14】10/12Frアクセスシースを用いた上部尿路内視鏡手術におけるレーザー照射に伴う温度の時間変化の測定結果である。
【
図15】上部尿路内視鏡手術の対象部位を示す模式図である。
【
図16】(a)(b)は、上部尿路内視鏡手術における潅流液の供給による腎盂圧の変化の影響を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪発明を実施するための形態に至った経緯≫
泌尿器科疾患に対する治療では、上部尿路(尿管、腎盂)内の腫瘍や結石を切除又は破砕するために、腎盂尿管鏡による上部尿路内視鏡手術が行われる。
図15は、上部尿路内視鏡手術の対象部位を示す模式図である。上部尿路とは尿管又は腎盂を指し、尿管又は腎盂内に結石又は腫瘍があるとき、腎盂尿管鏡を用いた上部尿路内視鏡手術により対象部位の切除又は破砕が行われる。
【0010】
腎盂尿管鏡は、可撓性を有する樹脂製の管であるアクセスシース内に内視鏡を挿入することで構成される。内視鏡は、先端部に画像取得手段を有し、流体、鉗子、レーザーメス等の術具が挿入路を有し可撓性を有する管から構成される。
【0011】
上部尿路内視鏡手術では、アクセスシースを尿道から膀胱、尿管を経由して上部尿路に挿入し、内視鏡の先端を腎盂に挿入して腎盂尿管鏡を構成し、手術部位を観察しながら切除プローブで対象部位への処置を行う。
【0012】
このときに手術部位からの出血に伴い、尿管又は腎盂内の視野が低下するという問題がある。そのため、上部尿路内視鏡手術では、重力による滴下または一定の流量に設定できる潅流装置を用いて手術部位に潅流液を供給し、内視鏡を通して手術部位の視認性を向上することが行われている。持続潅流装置には、例えば、内視鏡の後部に注入口を設け、注入口に送液用ポンプを接続して内視鏡内に送液チャンネルを構成し、潅流液を灌流ポンプを使って送液チャンネルに通して生体内へ供給するとともに、送液チャンネルとは異なる排液経路から体外に排出することにより潅流させる構成が採られる。
【0013】
ところが、上部尿路内視鏡手術において、手術部位からの出血量が多い場合や、あるいは、潅流液の供給量が不足する場合等、既定の方法では十分な視野を確保できないことがある。この場合、持続潅流装置を用いて、体腔における内視鏡の視認性を向上するためには、送液ポンプが体腔に吐出する灌注圧力及び流れを高くして潅流液を、最大5cc/回の流量範囲で間欠供給して視認性を向上する措置が採られる。
【0014】
しかしながら、潅流に伴う腎盂内圧は、一般的には30~40cmH2O以内の範囲で制御を要するが、患者の尿管の太さ、腎盂の大きさ、送液チャンネルの太さ、送液ポンプの供給圧力といった手術条件によって変動する。そのため、送液ポンプの供給圧を高めて腎盂内圧が高くなり過ぎた場合には、灌注した細菌尿又は結石等に付着した菌が腎盂から腎臓内に侵入する結果、集合管を介して血管内へと逆流し、高腎盂内圧に伴う敗血症等の術後合併症が発生することが懸念される。
【0015】
図16(a)(b)は、上部尿路内視鏡手術における灌流液の供給による腎盂圧の変化の影響を説明するための模式図である。尿管に挿入されるアクセスシースの内径は、概ね3.17mmから5.33mm(9.5Frから16Fr)であり、患者の尿管の径に合わせて選択される。
図16(a)は小径のアクセスシースを用いた場合の例であり、(b)は大径のアクセスシースを用いた場合の例である。
【0016】
図16(a)に示すように、小径のアクセスシースを用いた場合には、アクセスシースの挿入により尿管が損傷する尿管損傷に至る可能性は少ない。しかしながら、腎盂内に供給された潅流液は、アクセスシースの内壁と内視鏡との隙間を排液経路として排出されるため、アクセスシースが小径である場合には、排液経路の容量が減少し潅流液の排出量が減少する。その結果、腎盂内圧が上昇して、破砕された結石等に付着した菌が腎臓内部に侵入して、発熱、尿路感染、敗血症等の術後合併症が発生するおそれがある。
【0017】
一方、
図16(b)に示すように、大径のアクセスシースを用いた場合には、アクセスシースの内壁と内視鏡との隙間に十分な排液経路の容量を確保できるために、腎盂内に供給された潅流液は十分に排出される。そのため、腎盂内圧は上昇せず、敗血症等の術後合併症が発生する可能性は少ない。しかしながら、アクセスシース挿入時に尿管が損傷して尿管穿孔等の尿管損傷に至るおそれがあり、その後発生する尿管狭窄に伴う腎機能の廃絶に至る可能性がある。
【0018】
これに対し、上部尿路内視鏡手術では、手術中の視野確保と術後合併症予防の観点から、潅流液の供給圧力を、患者の器官や手術条件に適合するように設定することが必要と考えられる。
【0019】
そこで、発明者らは、手術中に腎盂内圧を検出して患者に対し適応的に設定された低腎盂内圧を保ちながら、視野確保のため一定の流量を供給する潅流液供給方法について鋭意検討を行い、以下の実施の形態に至ったものである。
【0020】
≪本発明を実施するための形態の概要≫
本開示の実施の形態に係る潅流液供給システムは、内視鏡手術に用いる潅流液供給システムであって、体腔内へ挿入される内視鏡と、前記内視鏡内において前記内視鏡の先端近傍まで延在する送液チャンネルと、前記内視鏡内に延在し前記内視鏡の先端近傍の圧力を検出する圧力センサと、前記送液チャンネルに接続され、前記送液チャンネルを通して前記内視鏡の先端近傍に液を供給し、供給された液を体腔を通して体外に排出する潅流ポンプと、前記圧力センサ及び前記潅流ポンプと電気的に接続され、前記圧力センサから取得した圧力信号に基づき、前記潅流ポンプにおける潅流液の供給圧力を制御する制御部とを備えたことを特徴とする。 また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記制御部は、前記圧力信号の示す圧力値が所定の基準値に近付くように、前記潅流ポンプにおける潅流液の供給圧力を増減する構成としてもよい。
【0021】
係る構成により、手術中に内視鏡先端近傍の圧力を検出し、体腔内の内圧を設定された基準値に近付けることができる。その結果、潅流液供給時の体腔内の内圧を、患者に対し適応的に設定された低内圧に保ちながら、視野確保のため一定の流量を供給することができる。
【0022】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、さらに、前記内視鏡内に延在し前記内視鏡の先端近傍の温度を検出する温度センサを備え、前記制御部は、さらに、前記温度力センサから取得した温度信号に基づいて前記潅流ポンプからの潅流液の供給量を制御する構成としてもよい。
【0023】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記制御部は、前記温度信号に基づき前記圧力信号の示す圧力値を補正し、補正後の圧力値が所定の基準値に近付くように、前記潅流ポンプにおける潅流液の供給圧力を増減する構成としてもよい。
【0024】
係る構成により、手術中に内視鏡先端近傍の圧力をより精度よく検出して、潅流液供給時の体腔内の内圧を低圧に保ちながら、視野確保のため一定の流量を供給することができる。
【0025】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、体腔は尿管であり、前記内視鏡は尿管を通して、少なくとも上部尿路まで挿入され、前記潅流ポンプは、前記送液チャンネルを通して上部尿路又は腎盂内に液を供給し、前記圧力センサは、少なくとも上部尿路まで挿入されて腎盂内圧を検出し、前記制御部は、検出された腎盂内圧が設定された基準値に近づくよう、前記潅流ポンプにおける潅流液の供給圧力を設定する構成としてもよい。
【0026】
係る構成により、腎盂尿管鏡による上部尿路内視鏡手術において、手術中に腎盂内圧を検出し、潅流液供給時の腎盂内圧を設定された基準値に近付けることができる。その結果、潅流液供給時の腎盂内圧を、患者に対し適応的に設定された低腎盂内圧に保ちながら、視野確保のため一定の流量を供給することができる。
【0027】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、さらに、患者の尿管から上部尿路に挿入され、前記内視鏡を上部尿路まで案内する尿管アクセスシースを備え、供給された液は、前記アクセスシースを通して体外に排出される構成としてもよい。
【0028】
係る構成により、前記内視鏡を上部尿路まで案内するとともに、尿管アクセスシースの管内を送液経路として、腎盂内に供給された液を体外に排出することができる。
【0029】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記圧力センサは、長軸方向に延伸する光ファイバと、前記光ファイバの一端から構成されたハーフミラーと、前記第1のミラーを前記長軸方向に取り囲む周壁と、前記周壁の前記長軸方向の端に配され、前記第1のミラー及び前記周壁とともに気室を構成し、外圧により前記気室内方に変位するダイヤフラムと、前記ダイヤフラム上に前記第1のミラーに対向して配された第2のミラーと、前記光ファイバの他端から入光し前記第1のミラーにて反射される光と、前記光ファイバの他端から入光し前記第2のミラーにて反射される光との位相差の変化を計測する計測部と、前記位相差の変化に基づき前記ダイヤフラムに付勢される前記外圧を算出する圧力算出部とを備えた構成としてもよい。
【0030】
係る構成により、送液チャンネルの容量をほとんど犠牲にすることなく、体腔内に挿入された内視鏡の先端近傍の圧力を検出することができる圧力センサを構築できる。
【0031】
また、本開示の実施の形態に係る潅流液供給システムの作動方法は、体腔内に挿入される内視鏡に対する潅流液供給システムの作動方法であって、前記内視鏡に延在する圧力センサにより、前記内視鏡の先端近傍の圧力を検出し、前記圧力センサから取得した圧力信号に基づき潅流ポンプにおける潅流液の供給圧力を制御することにより、前記内視鏡の先端近傍まで延在する送液チャンネルを通して前記内視鏡の先端近傍に液を供給し、供給された液を体腔を通して体外に排出することを特徴とする。
【0032】
係る構成により、手術中に内視鏡先端近傍の圧力を検出し、体腔内の内圧を設定された基準値に近付けるような潅流液供給を行うことができる。その結果、潅流液供給時の体腔内の内圧を、患者に対し適応的に設定された圧力内に保ちながら、視野確保のため一定の流量を供給することができる。
【0033】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、さらに、前記内視鏡に延在し前記内視鏡の先端近傍の温度を検出する温度センサから取得した温度信号に基づき前記供給圧力を制御する構成としてもよい。
【0034】
係る構成により、手術中に内視鏡先端近傍の圧力をより精度よく検出して、体腔内の内圧を設定された基準値により一層近付けるような潅流液供給を行うことができる。
【0035】
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記内視鏡を体腔内へ導くアクセスシースを通して液を排出する構成としてもよい。
【0036】
係る構成により、潅流液供給時の体腔内の内圧を低圧に保ちながら潅流液の供給と排出を行い、視野確保のため一定の流量を供給する潅流液供給を行うことができる。
【0037】
≪実施の形態1≫
本実施の形態に係る潅流液供給システム1について、図面を用いて説明する。なお、図面は模式図であって、その縮尺は実際とは異なる場合がある。潅流液供給システム1(以下、「潅流システム」とする)は、医師等が内視鏡手術中に手術対象部位に潅流流体を送液又は送気するための医療機器であり、手術中の視野確保と術後合併症予防の観点から腎盂内圧の適正化を図るものである。
【0038】
<潅流システム1の全体構成>
上部尿路内視鏡手術では、上述のとおり、内視鏡を尿道から膀胱、尿管を経由して上部尿路に挿入し、内視鏡の先端を腎盂に挿入して、手術部位を観察しながら切除プローブ等を用いて対象部位への処置が行われる。あるいは、尿道から膀胱、尿管を経由してアクセスシースを上部尿路に挿入し、アクセスシースを通して内視鏡の先端が腎盂に挿入される。
図1は、上部尿路内視鏡手術において構成された、実施の形態1に係る潅流システム1の構成を示す模式図である。なお、本明細書では、図面において紙面上方向を「上」方向、紙面下方向を「下」方向とする。
【0039】
図1に示すように、潅流システム1は、アクセスシース10、内視鏡20、圧力センサ30、潅流装置40、制御部50を有し、これらの構成要素が接続されて送液チャンネル及び排液経路が形成された潅流システムを構成する。
【0040】
<潅流システム1の各部構成>
以下、潅流システム1の各部構成について説明する。
【0041】
(アクセスシース10)
アクセスシース10は樹脂材料からなり可撓性を有する管である、体腔内に挿入される管部11と管後部に操作者の持ち手部12を有する。本例では、アクセスシース10は、尿道から膀胱、尿管を経由して上部尿路に挿入され、管内部に内視鏡20が挿入され、内視鏡20の先端を腎盂に到達させるための案内手段として機能する。また、腎盂内に供給された液は、体腔内に挿入されたアクセスシース10の内壁と内視鏡20との隙間の空間を通してアクセスシース10の開口端12aから体外に排出される(
図1中、FBと表記)。
【0042】
アクセスシース10には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアセタール等の樹脂材料を用いることができる。また、アクセスシース10の管の内径は、例えば、3.17mm以上5.33mm以下(9.5Fr以上16Fr以下)の範囲から患者の尿管の内径に基づき選択される。あるいは、3.17mm以上4mm以下(9.5Fr以上12Fr以下)の範囲から選択されてもよい。しかしながら、管径、材質は、上記した寸法、材質等に限定されないことは言うまでもない。
【0043】
(内視鏡20)
内視鏡20は、尿管内に挿入されたアクセスシース10を通して先端を腎盂付近まで挿入され、手術部位を観察しながら切除プローブ等を用いて対象部位への処置を行うための医療器具である。内視鏡20には、軟性尿管鏡であり、例えば、オリンパス株式会社製、腎盂尿管ファイバースコープURF-P6を用いてもよい。
【0044】
内視鏡20は、体腔内に挿入される長尺状の挿入部20xと、挿入部20xの後部に位置し操作者の持ち手部分となる操作部25を有する。
【0045】
操作部25は、操作者が湾曲部の湾曲の程度を調整するための操作レバー251、鉗子及び処置具60を挿入するための鉗子口252、潅流装置40から導出された給水路411が接続される送液口253、画像観察を行うための接眼部254を有する。
【0046】
挿入部20xは、可撓性を有する軟性管20x1と、軟性管より先端側にあり、後述する操作レバー251の操作により上下(
図1における上下方向)の2方向に湾曲する湾曲部20x2、さらに先端に位置する先端部20x3から構成されている。軟性管20x1は、例えば、フッ素樹脂等の樹脂材料からなり、湾曲部20x2は、例えば、フッ素ゴム等のゴム材料からなり、先端部20x3は、樹脂材材料からなる。
【0047】
挿入部20xの管内には、潅流液の送液チャンネル21、画像を伝達するためのイメージガイド22、照明光を導光するためのライトガイド23が挿通されている。
【0048】
イメージガイド22は、画像を伝達するための光ファイバ束から構成され、先端221から入射した被写体からの光を操作部25の接眼部254に伝達する。
【0049】
ライトガイド23は、照明光を伝達するための光ファイバ束から構成され、操作部25付近において光源23から出力された光を入力して先端231から出射する。
【0050】
送液チャンネル21は、潅流液を送液するための樹脂管路から構成され、潅流装置40から給水路411及び操作部25の送液口253を介して供給される潅流液を先端部20x3に送液して(
図1中、FFと表記)、先端部20x3に位置する送液用開口21aから体腔内に供給する。
【0051】
また、送液チャンネル21は、鉗子及び処置具が挿通される術具チャンネルとして機能する。鉗子及び処置具60は操作部25に設けられた鉗子口252から挿入され、挿入部20xの先端部20xに位置する送液用開口21aから、処置具先端61を延出させて、対象部位に対する処置が行われる。処置具としては、レーザーメス、バスケット等を用いてもよい。鉗子口252には潅流液が漏れ出ないように封止栓が設けられている。
【0052】
図2は、内視鏡20の先端部20x3付近の分解斜視図である。先端部20x3は、湾曲部20x2の湾曲ゴム管201の先端側に配された先端部本体202と、先端部本体202を覆う先端部カバー203からなる。
【0053】
先端部本体202には、孔が開設されており、それぞれの孔にイメージガイド22の先端221、ライトガイド23の先端231、送液チャンネル21の管端211が嵌挿されている。
【0054】
先端部カバー203には、イメージガイド22の先端221に対応する位置に対物レンズ222が配され、ライトガイド23の先端231が挿入される位置に照明光出射開口23aが開設され、送液チャンネル21の管端211に対応して送液用開口21aが開設されている。
【0055】
(圧力センサ30)
圧力センサ30は、内視鏡20内に延在し内視鏡20の先端近傍の圧力を検出する圧力センサであり、損傷を防止するために、例えば、ポリイミド等の樹脂材料から構成されるアウターチューブを被せた状態で設置される。内視鏡20内に圧力センサ30を配する理由は、構造が簡易になり、容易に潅流液供給システム1を構築することができるとともに、送液チャンネル21から供給される潅流液に直接触れるために、潅流液の圧力を計測するために好適な配置であるからである。具体的には、圧力センサ30には、例えば、「電気学会誌」第136巻 第3号 2016年(147頁~150頁)、又は特許公報(日本国・特許第3393370号)等に記載の光ファイバ圧力センサを用いることができる。
【0056】
圧力センサ30は、送液チャンネル21内に延在して配されている光ファイバ31、光ファイバ31の先端に配された圧力検出部32と、内視鏡20の操作部25の送液口253から導出された光ファイバ31が接続される計測部33、圧力算出部34を有する。
【0057】
図3(a)は、圧力センサ30の構成の概要を示す模式図である。
図3(a)に示すように、圧力センサ30は、計測部33に一端が接続された光ファイバ31の他端に圧力検出部32を備えた構成を採る。
【0058】
計測部33は、白色光源331、分光器332、フォトカプラ33及びこれらを接続する光ファイバ31を有し、底コヒーレンス光である白色光源331が発した光はフォトカプラ33を介して光ファイバ31により圧力検出部32に伝達される。圧力検出部32はファブリ・ペロー干渉計の構成となっており、ダイヤフラムと光ファイバ端面のハーフミラー間で生じる干渉光が光ファイバ31によりフォトカプラ33に伝達され、フォトカプラ33を介して分光器332に到達して検出される。
【0059】
圧力算出部34は、干渉スペクトルの波長変化に基づきダイヤフラム323に付勢される変位を算出し、予め計測してある圧力に対する変位量から外圧を算出する。
【0060】
図3(b)は、
図3(a)におけるA部(圧力検出部32)の拡大図である。
図3(b)に示すように、圧力検出部32は、長軸方向に延伸する光ファイバ31の一端から構成された第1のミラー321と、第1のミラー321を長軸方向に取り囲む周壁322と、周壁322の長軸方向の端に配され、第1のミラー321及び周壁322とともに気室325を構成し、外圧により気室325内および外方に変位するダイヤフラム323と、ダイヤフラム323上に第1のミラー321に対向して配された第2のミラー324とを有する。第2のミラー324は第1のミラー321よりも反射率が高く、第2のミラー324には全反射ミラー、第1のミラー321にはハーフミラーを用いてもよい。
【0061】
具体的には、光ファイバ31は、例えば、直径(d1)125μmであり、光ファイバ31の一端に硫化亜鉛(ZnS)による誘電体ハーフミラー層、もしくはクロム(Cr)によるハーフミラー層が形成されて第1のミラー321を構成している。第1のミラー321は、真空蒸着法、スパッタリング法等の気相成長法により形成してもよい。
【0062】
周壁322は、長軸方向の長さlは約2から6μm、長軸方向に垂直な方向の厚みt1は約15μmである。
【0063】
ダイヤフラム323は、直径(d2)約120μm、厚み(t2)約0.7μmであり、シリコン酸化膜からなり、例えば、CVD法等の気相成長法により形成してもよい。ダイヤフラム323には、長軸方向の中心を中心として直径(d3)約60μm、厚み(t3)2.3μmであって、第1のミラー321に突出した突出部323a(突出部の段差は1.6μm)が形成されており、突出部323aの頂上面に第2のミラー324が載設されている。
【0064】
第2のミラー324は、直径(d3)約50μm、厚み(t4)約0.1μmであり、金属からなり、例えば、アルミニウム(AL)を用い、真空蒸着法、スパッタリング法等の気相成長法により形成してもよい。
【0065】
以上の構成により、圧力検出部32では、ダイヤフラム323が外圧により変形していない状態において、長軸方向において第1のミラー321と第2のミラー324とは、約2.5μmの距離を隔てて対向している。
【0066】
なお、圧力センサ30の構成要素に関する上記材質、形状、各種寸法等は一例であって、上記した内容に限定されないことは言うまでもない。
【0067】
図4(a)(b)は、圧力センサ30における圧力の計測原理を説明するための模式図である。
【0068】
計測部33の白色光源331が発した光はフォトカプラ33を介して光ファイバ31により圧力検出部32に伝達される。そして、圧力検出部32にて光ファイバとダイヤフラムのギャップ長に応じた干渉縞が生じ、ハーフミラーを透過した干渉光(R1、R2)が光ファイバ31によりフォトカプラ33に伝達され、フォトカプラ33を介して分光器332に到達して干渉スペクトルとして検出される。このとき、干渉スペクトルのピーク波長からダイヤフラムの変化を計測する。この計測には、例えば、K. Totsu, Y. Haga and M. Esashi, "Ultra-miniature fiber-optic pressure sensor using white light interferometry", J. Micromech. Microeng. 15 (2005), pp. 71-75.、V. Bhatia, M. B. Sen, K. A. Murphy and R. O. Claus, “Wavelength-tracked white light interferometry for highly sensitive strain and temperature measurements”, Electron. Lett., Vol.32, No.3, pp.247-249, (1996)に記載された方法を用いることができる。
【0069】
予め実験等により特定されているダイヤフラム323に付勢される圧力とスペクトルピーク波長の変化量との関係に基づいて、ダイヤフラム323に付勢された圧力を算出する。
【0070】
これにより、送液チャンネル21の容量をほとんど犠牲にすることなく、体腔内に挿入された内視鏡20の先端近傍の圧力を検出することができる圧力センサを構築することができる。具体的には、上部尿路内視鏡手術において、アクセスシース10が患者の上部尿路に挿入され、内視鏡20がアクセスシース10を通して、少なくとも上部尿路まで挿入され、送液チャンネル21を通して上部尿路又は腎盂内に液を供給している状態において、圧力センサ30は、少なくとも上部尿路まで挿入されて腎盂内圧を検出することができる。
【0071】
(潅流装置40)
潅流装置40は、内視鏡20の送液口253に給水路411を介して接続され、送液チャンネル21を通して内視鏡の先端部20x近傍に潅流液を供給する持続潅流装置である。また、供給された潅流液は、潅流装置40からの潅流液の供給圧力により、アクセスシース10の内壁と内視鏡20との間の空間を通してアクセスシース10の開口端12aから体外に排出される。潅流装置40は、給水路411に接続された給水用の潅流ポンプ41を備える。潅流ポンプ41は制御部50から出力される制御信号に基づき潅流液の吐出圧力(装置出口圧力)を増減させるように制御する。
【0072】
潅流ポンプ41には、例えば、東京理化器械株式会社製、定量送液ポンプRP-1100を用いてもよい。当該装置では、制御信号として外部信号入力端子へ入力電圧0~5Vを入力することにより、入力電圧値に応じて潅流液を吐出圧力を0~1.4kg/cm2の範囲に制御して、潅流液の流量を制御することができる。潅流ポンプ41は同一のポンプにおいて共用されている構成としてもよい。
【0073】
これにより、上部尿路内視鏡手術において、アクセスシース10が尿管を通して、患者の上部尿路に挿入されている状態において、内視鏡20はアクセスシース10を通して、少なくとも上部尿路まで挿入され、潅流ポンプ41は送液チャンネル21を通して上部尿路又は腎盂内に液を持続的に供給するとともに、供給された液をアクセスシース10内の空間を通して体外に排出することができる。
【0074】
(制御部50)
制御部50は、圧力センサ30及び潅流ポンプ41と電気的に接続され、圧力センサ30からの出力信号に基づき潅流ポンプ41からの潅流液の供給量を制御する。
【0075】
具体的には、制御部50は、圧力算出部34からダイヤフラム323に付勢された圧力を示す電気信号を入力し、検出された圧力の値が設定された基準値に近づくよう、潅流ポンプ41における潅流液の供給圧力を増減し、さらに、圧力センサ30での圧力検出を繰り返す方法で、フィードバック制御を行う。このとき、例えば、制御部50は、検出された圧力の値と基準値との差異に基づき、潅流ポンプ41における潅流液の供給圧力を漸増又は漸減する量を異ならせてもよい。
【0076】
<評価試験>
以下、予備試験、及び実施の形態に係る潅流液供給システム1を用いて評価試験により性能評価を行った。以下、その結果について説明する。
【0077】
(予備試験)
発明者は、潅流液供給システム1を用い、市販されている異なる複数のアクセスシースを用いて、潅流ポンプの吐出圧力と腎盂内圧、又は潅流液流量との関係について、予備的に評価を行った。試験条件を以下に示す。
【0078】
[試験条件、方法]
潅流液供給システム1を用い、アクセスシースを豚の上部尿路から腎盂に挿入し、内視鏡の先端を腎盂に挿入した状態で、潅流ポンプの供給圧力(吐出圧力)を40mbarから180mbarまで変化させて、潅流液を間欠的に送液し、腎盂内圧及び潅流液流量を計測した。ここでは、腎盂内圧は、腎盂内に腎瘻用のカテーテルを挿入し、腎盂内の圧力を動脈圧測定装置により測定した。潅流液流量は潅流ポンプにより測定した。
【0079】
アクセスシースの供試サンプルとして、市販されている5種類のアクセスシース(サンプルA:Cook Medical「Flexor」(登録商標)9.5/11.5 Fr、サンプルB:Olympus「UroPass」(登録商標)10/12Fr、サンプルC:Rocamed 「BI-FLEX」(登録商標)10/12Fr、サンプルD:BARD「PROXIS」(登録商標)10/12Fr、サンプルE:Coloplast「ReTrace」(登録商標)10/12F)を用いた。内視鏡20には、オリンパス株式会社製、腎盂尿管ファイバースコープURF-P6を用いた。
図5(a)は、供試サンプルに用いたアクセスシース、(b)は内視鏡の構成である。
【0080】
[試験結果]
図6は、潅流液の供給圧力と腎盂圧との関係を示す実験結果である。
図6に示すように、アクセスシースの管路の断面積が8~9mm
2であるサンプルD及びEでは、潅流ポンプの供給圧
力140mbar以上において、腎盂内圧は基準腎盂内圧40cmH
2O以上となり、断面積が7~8mm
2であるサンプルAでは、潅流ポンプの供給圧力80mbar以上において、腎盂内圧は基準腎盂内圧40cmH
2O以上となった。これに対し、断面積が9mm
2より大きいサンプルB及びCでは、潅流ポンプの供給圧力の全範囲40mbarから180mbarにおいて、腎盂内圧は基準腎盂内圧40cmH
2O未満となった。
【0081】
図7は、潅流液の供給圧力と潅流液の供給量との関係を示す実験結果である。
図7に示すように、潅流ポンプの供給圧力の全範囲40mbarから180mbarにおいて、潅流液の供給量は断面積の増加に伴って増加し、断面積が9mm
2より大きいサンプルB及びCが最も供給量が多いという結果であった。
【0082】
以上の結果から、アクセスシース10としてサンプルB又はCを用いることが、腎盂内圧及び潅流液流量の観点から好ましい。
【0083】
(潅流液供給システム1による評価試験)
発明者は、潅流液供給システム1を用い、腎瘻用のカテーテルを用いて測定される腎盂内圧と圧力センサにより検出される腎盂内圧との関係について、測定を行った。試験条件を以下に示す。
【0084】
[試験条件1、方法]
潅流液供給システム1を用い、アクセスシースを豚の上部尿路から腎盂に挿入し、内視鏡の先端を腎盂に挿入した状態で、潅流ポンプの供給圧力(吐出圧力)を60、80、100、120、140、160、180mbarに昇順に変化させて、温度37.0℃の潅流液を間欠的に送液し、腎盂内圧及び潅流液流量を計測した。ここでは、腎盂内圧は、潅流液供給システム1における圧力センサ30により測定した(
図8中の実線)。また、腎盂内圧の測定結果を検証するために、腎盂内に腎瘻用のカテーテル(Aライン圧力)を挿入し、腎盂内の圧力を動脈圧測定装置により腎盂内圧を測定した(
図8中の破線)。潅流液流量は潅流ポンプにより測定した。アクセスシースには、
図5(a)に示すB又はCを用い、内視鏡は
図5(b)に示す内視鏡を用いた。
【0085】
[試験結果1]
図8は、潅流液供給システム1における潅流液の供給に伴う腎盂圧の時間変化を示す実験結果である。具体的には、潅流液供給システム1における潅流液の供給中における、腎瘻用のカテーテルを用いて測定される腎盂内圧と圧力センサにより検出される腎盂内圧の時間変化を示す実験結果である。
【0086】
図8に示すように、60、80mbarの加圧時には、圧力センサ測定圧力がAライン圧力に比べ低いという結果になった。流路抵抗による影響と推定される。
【0087】
また、100、120、140mbarの加圧時には、圧力センサ測定圧力とAライン圧力と一致する結果になった。
【0088】
また、160、180mbarの加圧時には、加圧直後には圧力センサ測定圧力とAライン圧力とほぼ一致するが、加圧期間内に圧力センサ測定圧力が低下しAライン圧力との差が漸増するという結果になった。圧力センサ測定圧力が加圧後に0以下となった。
【0089】
60から180mbarまでの各加圧期間における、腎盂内温度変化を以下に示す。
【0090】
【0091】
160、180mbarの加圧時には、100、120、140mbarの加圧時と比べて、腎盂内温度上昇が大きい。潅流液の温度が体温よりも高く、
図7に示すように供給圧力が高い場合には潅流液の供給量が多いために、160、180mbarの加圧時おいて腎盂内温度上昇が大きいと考えられる。160、180mbar加圧期間における圧力センサ測定圧力とAライン圧力との差異の漸増は腎盂内温度上昇と同様の傾向を示すことから、加圧期間における腎盂内温度上昇に起因するものと推定される。
【0092】
以上の結果から、潅流液供給システム1を用い、100、120、140mbarの加圧時には、圧力センサにより腎盂内圧を適切に検出できることが確認された。
【0093】
160、180mbarの加圧時には、加圧直後には、圧力センサにより腎盂内圧を検出することができるが、加圧期間における腎盂内温度上昇に対応するように、加圧期間内に圧力センサ測定圧力が漸減することが確認された。そのため、圧力センサの腎盂内温度変化に対する影響を最小限とするため、温度補正を可能とした実施の形態2に係る潅流液供給システム1Bについては後述する。
【0094】
[試験条件2、方法]
潅流液供給システム1を用い、アクセスシースを豚の上部尿路から腎盂に挿入し、内視鏡の先端を腎盂に挿入した状態で、潅流液供給システム1による潅流液供給時における圧力センサ30の計測値に基づく腎盂内圧のフィードバック制御の評価実験を行った。具体的には、制御部50に腎盂内圧の目標値5、10、15、20mmHgを昇順及び降順に設定し、圧力センサ30からの腎盂内圧の計測値の出力が目標値に近付くように潅流ポンプ41の供給圧力(吐出圧力)を増減する制御を行って腎盂内に潅流液を送液する。この状態で、圧力センサ30及びリファレンスとして動脈圧測定装置により腎盂内圧の計測を行った。アクセスシース、内視鏡、潅流液の温度、上記以外の送液条件は試験条件1と同じである。
【0095】
[試験結果2]
図9は、潅流液供給システム1による、潅流液供給における圧力センサ30を利用した腎盂内圧のフィードバック制御の際の腎盂内圧の計測結果であり、(a)は増圧時、(b)は降圧時の結果である。
図9に、圧力センサ30により検出される腎盂内圧(実線(太):Optic pressure sensorと表記)、腎瘻用のカテーテルを用いて動脈圧測定装置により測定される腎盂内圧(破線(細):Reference pressure sensorと表記)、計測値は潅流ポンプ41の回転数(実線(中):Irrigation pumpと表記)の時間変化を示す。
【0096】
図9(a)(b)よると、昇圧時及び降圧時のそれぞれにおいて、計測期間全体を通して圧力センサ30により検出される腎盂内圧は動脈圧測定装置により測定される腎盂内圧と一致していること確認された。
【0097】
また、
図9(a)(b)に示すように、5、10、15、20mmHgと設定値を上げていくと、それに伴い潅流ポンプ41が回転数を上昇し、圧力センサ30により計測される腎盂内圧と動脈圧測定装置により計測される腎盂内圧の両方において、概ね目標圧力に達することが確認された。また、降圧時にも同様に目標圧力に追従して沿って降圧されることが確認された。また、15mmHg以上では、昇圧時、降圧時ともに腎盂内圧が設定圧力に達するために約1分程度の時間を要することが確認された。
【0098】
以上の結果から、潅流液供給システム1を用い、内視鏡の先端を上部尿路から腎盂に挿入した状態で、潅流液供給システム1による圧力センサ30の計測値を利用して潅流液供給時の腎盂内圧のフィードバック制御が可能であることが確認された。
【0099】
<潅流システム1の効果>
潅流液供給システム1では、上記した圧力範囲においては、圧力センサ30により腎盂内圧を適切に検出できることが確認された。
【0100】
潅流液供給システム1では、圧力センサ30を用いて、制御部50は、圧力センサ30により検出された圧力の値が設定された基準値に近づくよう、潅流ポンプ41における潅流液の供給圧力をフィードバック制御を行うことにより、圧力センサ30が配された内視鏡20の先端近傍の圧力を基準値に近付けるよう制御することができる。
【0101】
その結果、潅流液供給システム1によれば、上部尿路内視鏡手術において、アクセスシース10が患者の上部尿路に挿入され、内視鏡20がアクセスシース10を通して、少なくとも上部尿路まで挿入され、送液チャンネル21を通して上部尿路又は腎盂内に液を供給している状態において、圧力センサ30は、少なくとも上部尿路まで挿入されて腎盂内圧を検出し、制御部50は、検出された腎盂内圧が設定された基準値に近づくよう、潅流ポンプ41における潅流液の供給圧力を設定し、潅流ポンプ41は、設定された供給圧力により送液チャンネル21を通して上部尿路又は腎盂内に液を供給することができる。
【0102】
<まとめ>
以上、説明したように、実施の形態1に係る潅流液供給システム1は、体腔内へ挿入される内視鏡20と、内視鏡20内において内視鏡20の先端近傍まで延在する送液チャンネル21と、内視鏡20内に延在し内視鏡20の先端近傍の圧力を検出する圧力センサ30と、送液チャンネル21を通して内視鏡20の先端近傍に液を供給し、供給された液を体腔を介して体外に排出する潅流ポンプ40と、圧力センサ30から取得した圧力を示す電気信号である圧力信号に基づき潅流ポンプ40における潅流液の供給圧力を 制御する制御部50とを備えたことを特徴とする。
【0103】
係る構成により、潅流液供給システム1では、上部尿路内視鏡手術において、手術中に腎盂内圧を検出し、潅流液供給時の腎盂内圧を設定された基準値に近付けることができる。その結果、潅流液供給時の腎盂内圧を、患者に対し適応的に設定された低腎盂内圧に保ちながら、視野確保のため一定の流量を供給することができる。
【0104】
<変形例1>
以上、実施の形態を1例に説明したが、例えば、実施の形態1に対して各種変形を施して得られる形態も本開示に含まれる。
【0105】
以下では、そのような形態の一例として、変形例1について説明する。
【0106】
実施の形態に1係る潅流液供給システム1では、尿道から膀胱、尿管を経由してアクセスシース10を上部尿路に挿入し、アクセスシース10を通して内視鏡の先端が腎盂に挿入される構成とした。また、潅流液供給システム1では、腎盂内に供給された液は、体腔内に挿入されたアクセスシース10の内壁と内視鏡20との隙間の空間を通してアクセスシース10の開口端12aから体外に排出される構成とした。しかしながら、本開示に係る潅流液供給システムは、体腔内へ挿入された内視鏡の先端近傍まで延在する送液チャンネルを通した生体内への潅流液の供給時の圧力制御ができる構成であればよく、内視鏡を体腔内へ挿入するための案内手段、及び生体内からの排液経路については、適宜変更してもよい。
【0107】
図10は、変形例1に係る潅流液供給システム1Aの構成を示す模式図である。
図10に示すように、変形例1に係る潅流液供給システム1Aでは、アクセスシースを案内手段として介さずに、内視鏡10が体腔内へ直接挿入される。また、生体内に供給された液は、体腔の内壁と内視鏡10との隙間の空間を通して体外に排出される構成を採る。すなわち、実施の形態に1係る潅流液供給システム1とは、アクセスシース10を用いない点で相違し、他の構成については潅流液供給システム1と同一の構成を採る。
図10では、同一の構成については潅流システム1と同じ番号を付し説明を省略する。
【0108】
潅流液供給システム1Aでは、内視鏡10が体腔内へ直接挿入することにより、患者の尿管の径が細い場合などに、アクセスシースによる尿管損傷の可能性を低減することができる。係る構成では、生体内に供給された潅流液は、
図10に示すように、潅流装置40からの潅流液の供給圧力により、体腔である尿管の内壁と内視鏡20との隙間を通して尿管の体表の孔から体外に排出される(
図10中、FBと表記)。
【0109】
係る構成により、潅流液供給システム1Aでは、尿管損傷の可能性を低減するとともに、実施の形態1と同様に、上部尿路内視鏡手術において、手術中に腎盂内圧を検出し、潅流液供給時の腎盂内圧を設定された基準値に近付けることができる。その結果、潅流液供給時の腎盂内圧を、患者に対し適応的に設定された低腎盂内圧に保ちながら、視野確保のため一定の流量を供給することができる。
【0110】
≪実施の形態2≫
実施の形態1に係る潅流システム1は、内視鏡20内に延在し内視鏡20の先端近傍の圧力を検出する圧力センサ30を有し、制御部50は、圧力センサ30からの出力信号に基づき潅流ポンプ41における潅流液の供給圧力を制御構成とした。
【0111】
実施の形態2に係る潅流システム1Bでは、さらに、内視鏡20内に延在し内視鏡20の先端近傍の温度を検出する温度力センサ70Aを備え、制御部50Aは、圧力センサ30及び温度力センサ70Aからの出力信号に基づき潅流ポンプ40における潅流液の供給圧力を制御する構成とした点で、実施の形態1と相違する。
【0112】
以下、実施の形態2に係る潅流システム1Bについて、図面を参照しながら説明する。
【0113】
<潅流システム1Bの構成>
図11は、実施の形態2に係る潅流液供給システム1Bの構成を示す模式図である。
図12は、潅流液供給システム1Bにおける内視鏡20の先端付近の分解斜視図である。
【0114】
潅流システム1Bは、温度センサ70A及び制御部50Aを備えた点で、実施の形態1に係る潅流システム1と相違し、他の構成については
図1に示した潅流システム1と同じ構成を採る。
【0115】
以下、潅流システム1Bの温度センサ70A及び制御部50Aの構成について説明し、他の構成要素については潅流システム1と同じ番号を付し説明を省略する。
【0116】
(温度センサ70A)
温度センサ70Aは、内視鏡20内に延在し内視鏡20の先端近傍の温度を検出する温度センサである。具体的には、例えば、温度センサカテーテルを用いることができる。
【0117】
温度センサ70Aは、内視鏡20内に延在して配されているリードワイヤ71A、リードワイヤ71Aの先端に配された温度検出部711Aと、内視鏡20の操作部25の送液口253から導出されたリードワイヤ71Aが接続される温度計測部72Aを有する。
【0118】
温度検出部711Aは、例えば、サーミスタ等の温度検出素子から構成される。
【0119】
温度計測部72Aは、温度検出部711Aにより検出された、例えば、抵抗値の変化から温度の変化量を算出して、予め実験等により特定されている温度検出部711A周囲の温度を算出する。
【0120】
これにより、アクセスシース10が患者の上部尿路に挿入され、内視鏡20がアクセスシース10を通して、少なくとも上部尿路まで挿入され、送液チャンネル21を通して上部尿路又は腎盂内に液を供給している状態において、温度センサ70Aは、少なくとも上部尿路まで挿入されて上部尿路(尿管、腎盂)内の温度を検出することができる。
【0121】
図12は、潅流液供給システム1Bにおける内視鏡20の先端部20x3付近の分解斜視図である。先端部20x3は、実施の形態1と同様、先端部本体202と、先端部本体202を覆う先端部カバー203からなる。
【0122】
先端部本体202には、孔が開設されており、それぞれの孔にイメージガイド22の先端221、ライトガイド23の先端231、送液チャンネル21の管端211、温度センサ70の温度検出部711Aが嵌挿されている。
【0123】
先端部カバー203には、対物レンズ222、照明光出射開口23a、送液用開口21aに加えて、温度センサの温度検出部711Aに対応して開口71aが開設されている。
【0124】
(制御部50A)
制御部50Aは、圧力センサ30、温度センサ70A及び潅流ポンプ41と電気的に接続され、圧力センサ30及び温度センサ70Aからの出力信号に基づき潅流ポンプ41からの潅流液の供給量を制御する。
【0125】
具体的には、制御部50は、圧力算出部34からダイヤフラム323に付勢された圧力を示す電気信号に加えて、温度計測部72Aが出力する温度検出部711A周囲の温度を示す電気信号を入力する。そして、制御部50は、検出された温度情報に基づき、検出された圧力の値を補正し、補正後の圧力の値が設定された基準値に近づくよう、潅流ポンプ41における潅流液の供給圧力を増減する方法により、潅流液の供給圧力を制御する。
【0126】
<潅流システム1Bの効果>
上部尿路内視鏡手術において、上部尿路を含む腎盂内の温度上昇の要因として以下の理由が挙げられる。
【0127】
先ず、
図8に示すように、潅流液の温度が体温よりも高く、供給圧力が高い場合には腎盂内温度が上昇すると考えられる。
【0128】
また、発明者の実験によれば、上部尿路内視鏡手術では、レーザーメスにより対象部位に処置を施す場合にも、腎盂内の温度が上昇することが確認されている。
【0129】
図13、14は、上部尿路内視鏡手術におけるレーザー照射に伴う温度の時間変化を示す測定結果である。潅流システムに潅流液供給システム1と同じ構成を用い、
図13は、12/14Frアクセスシースを用いた場合、
図14は、10/12Frアクセスシースを用い、レーザー光の印加エネルギー、周波数、パルス幅を異ならせた条件における腎盂内温度変化の測定結果である。
【0130】
図13、14に示すように、レーザー照射に伴い腎盂内の温度が上昇していることが見て取れる。10/12Frアクセスシースを用いた
図14では、12/14Frアクセスシースを用いた
図13よりも、排液チャンネルの容量が小さく潅流液による冷却効果が少ないために、レーザー照射に伴う温度上昇が大きいと推定される。
【0131】
このような腎盂内の温度上昇が発生した場合、
図8に示すように、腎盂内温度上昇に対応するように圧力センサによる検出圧力が漸減すると考えられる。
【0132】
この温度上昇に伴う圧力検出精度の低下に対し、潅流液供給システム1Bによれば、アクセスシース10が患者の上部尿路に挿入され、内視鏡20がアクセスシース10を通して、少なくとも上部尿路まで挿入され、送液チャンネル21を通して上部尿路又は腎盂内に液を供給している状態において、圧力センサ30は、少なくとも上部尿路まで挿入されて腎盂内圧を検出し、温度センサ70Aは、少なくとも上部尿路まで挿入されて腎盂内の温度を検出する。そして、制御部50Aは、検出された腎盂内圧の値を検出された温度情報に基づき補正し、補正後の圧力の値が設定された基準値に近づくよう、潅流ポンプ41における潅流液の供給温度を設定することにより、潅流ポンプ41は、設定された供給温度により送液チャンネル21を通して上部尿路又は腎盂内に液を供給することができる。
【0133】
<まとめ>
以上、説明したように、実施の形態2に係る潅流液供給システム1Bは、実施の形態1に係る潅流液供給システム1に、さらに、内視鏡20内に延在し内視鏡20の先端近傍の温度を検出する温度センサ70Aを備え、制御部50Aは、さらに、圧力センサ30及び温度力センサ70Aから取得した温度を示す電気信号である温度信号に基づき潅流ポンプ40における潅流液の供給圧力を制御することを特徴とする。また、制御部50Aは、温度信号に基づき圧力信号の示す圧力値を補正し、補正後の圧力値が所定の基準値に近付くように、潅流ポンプ40における潅流液の供給圧力を増減する構成としてもよい。
【0134】
係る構成により、潅流液供給システム1Bでは、上部尿路内視鏡手術において、手術中に腎盂内圧をより精度よく検出して、潅流液供給時の腎盂内圧を低腎盂内圧に保ちながら、視野確保のため一定の流量を供給することができる。
【0135】
≪その他の変形例≫
以上、本開示の具体的な構成について、実施形態を例に説明したが、本開示は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以上の実施の形態に何ら限定を受けるものではない。例えば、実施の形態に対して各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【0136】
以下では、そのような形態の一例として、変形例について説明する。
(1)上記実施の形態では、潅流液供給システム1、1A、1Bは、内視鏡20内に延在して配される送液チャンネル21は、鉗子及び処置具が挿通される術具チャンネルとして機能する構成とした。しかしながら、術具チャンネルを送液チャンネル21とは独立のチャンネルとして、送液チャンネル21の外部に術具チャンネルを配する構成としもよい。これにより、手術の際、鉗子及び処置具が挿通を内視鏡20に挿通させたときに、送液チャンネルの容量が減少することを防止することができ、これより流量低下を防止できる。(2)上記実施の形態では、潅流液供給システム1、1A、1Bは、内視鏡20内において、圧力センサ30を送液チャンネル21内に延在して配される構成としている。圧力センサ30を配するための構造が簡易になり、潅流液の圧力を計測するために好適であるためである。しかしながら、圧力センサ30は、送液チャンネル21外に配してもよい。これにより、送液チャンネルの容量を増加することができる。
【0137】
また、圧力センサ30を内視鏡20内に内蔵し、圧力センサ30の信号を伝送するファイバ31と内視鏡20の画像を伝達するためのイメージガイド22が一体化されたラインを構築してもよい。さらに、この一体化されたライン出力に対し、内視鏡の画像システムと潅流液供給システムとの制御部分が連結又は一体化された専用デバイスを構築して接続できる構成としてもよい。
(3)上記実施の形態に係る潅流液供給システム1Bでは、内視鏡20内において、温度センサ70Aは、送液チャンネル21外に延在して配される構成としている。しかしながら、温度センサ70Aを送液チャンネル21内に延在して配してもよい。構造が簡易になり、容易に潅流液供給システム1Bを構築することができる。
(4)上記実施の形態では、潅流液供給システム1、1Bは、アクセスシース10の内壁と内視鏡20との隙間の空間を排液経路として、腎盂内に供給された潅流液が排出される構成としている。しかしながら、排液チャンネルを内視鏡20内に独立して延在して配してもよい。
(5)上記実施の形態では、潅流液供給システム1、1A、1Bについて、泌尿器科疾患に対する治療において、腎盂尿管鏡による上部尿路内視鏡手術を例に、実施の形態を示した。しかしながら、本発明に係る潅流液供給システム、及び潅流液供給システムの作動方法の用途は、上部尿路内視鏡手術に限定されるものではなく、潅流液を供給して行う内視鏡手術に広く活用することができる。
【0138】
≪補足≫
以上で説明した実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程、工程の順序などは一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていないものについては、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0139】
また、上記の方法が実行される順序は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記方法の一部が、他の方法と同時(並列)に実行されてもよい。
【0140】
また、発明の理解の容易のため、上記各実施の形態で挙げた各図の構成要素の縮尺は実際のものと異なる場合がある。また本発明は上記各実施の形態の記載によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0141】
また、各実施の形態及びその変形例の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本開示の一態様に係る潅流液供給システム及び潅流液供給システムの作動方法は、医療において、内視鏡手術中に手術対象部位に潅流流体を送液又は送気するための医療支援手段として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0143】
1、1A 潅流液供給システム
10 アクセスシース
11 管部
11a 送液経路
12 持ち手部
12a 開口端
20 内視鏡
20x 挿入部
20x1 軟性管
20x2 湾曲部
201 湾曲ゴム管
20x3 先端部
202 先端部本体
203 先端部カバー
21 送液チャンネル
22 イメージガイド
221 先端部
222 対物レンズ
23 ライトガイド
231 先端部
232 光源
25 操作部
251 操作レバー
252 鉗子口
253 送液口
254 接眼部
30 圧力センサ
31 光ファイバ
32 圧力検出部
321 第1のミラー
322 スペーサ
323 ダイヤフラム
322a 突出部
324 第2のミラー
325 気室
33 計測部
34 圧力算出部
40 潅流装置
41 潅流ポンプ
411 給水路
50、50A 制御部
60、61 処置具
70A 温度センサ