(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】ワーク受け部材の成形装置および成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 44/34 20060101AFI20240722BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240722BHJP
B23Q 3/02 20060101ALN20240722BHJP
B29K 105/04 20060101ALN20240722BHJP
【FI】
B29C44/34
B29C44/00 A
B23Q3/02 A
B29K105:04
(21)【出願番号】P 2021060033
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598093277
【氏名又は名称】株式会社ポリシス
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 俊成
(72)【発明者】
【氏名】毛利 隆人
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-74909(JP,A)
【文献】特開平4-146039(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/156535(US,A1)
【文献】特開平3-131445(JP,A)
【文献】特開昭61-131843(JP,A)
【文献】特開2013-176790(JP,A)
【文献】特開2010-188469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/34
B29C 44/00
B23Q 3/02
B29K 105/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱状態における加圧変形が可能であり加圧変形後の形状を冷却により記憶する発泡体によって構成されたワーク受け部材と、
上記ワーク受け部材をその被加圧面を除いて取り囲むように収容する形状保持用の成形容器と、を備え、
上記ワーク受け部材には、上記発泡体の内部まで加熱用の空気を導入するための
、上記発泡体の内部の細孔の孔径よりも大きい穴径を有する空気導入路が設けられている、ワーク受け部材の成形装置。
【請求項2】
上記空気導入路は、上記ワーク受け部材の外表面のうち上記被加圧面を除く面で開口している、請求項1に記載の、ワーク受け部材の成形装置。
【請求項3】
上記成形容器には、上記ワーク受け部材の上記空気導入路に連通するように壁部を貫通する貫通領域が設けられている、請求項1または2に記載の、ワーク受け部材の成形装置。
【請求項4】
上記ワーク受け部材を上記成形容器に収容した状態で加熱するための加熱用ブースと、上記加熱用ブースに熱風を供給可能に接続された加熱装置と、上記ワーク受け部材を上記成形容器に収容した状態で冷却するための冷却用ブースと、上記冷却用ブースに排熱のために吸気可能に接続された吸気装置と、を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の、ワーク受け部材の成形装置。
【請求項5】
上記加熱装置は上記吸気装置と兼用の送風機を有しており、上記送風機の吸気側が上記冷却用ブースに接続され、上記送風機の排気側が上記加熱用ブースに接続されている、請求項4に記載の、ワーク受け部材の成形装置。
【請求項6】
加熱状態における加圧変形が可能であり加圧変形後の形状を冷却により記憶する発泡体によって構成されたワーク受け部材に上記発泡体の内部まで加熱用の空気を導入するための
、上記発泡体の内部の細孔の孔径よりも大きい穴径を有する空気導入路を設け、上記ワーク受け部材をその被加圧面を除いて取り囲むように形状保持用の成形容器に収容する準備ステップと、
上記準備ステップで上記成形容器に収容された上記ワーク受け部材を上記空気導入路に加熱用の空気を導入して加熱する加熱ステップと、
上記加熱ステップで加熱された上記ワーク受け部材の上記被加圧面をワーク若しくはこのワークを模した加圧部材で加圧する加圧ステップと、
上記加圧ステップで加圧された上記ワーク受け部材を冷却する冷却ステップと、
上記冷却ステップで冷却された上記ワーク受け部材の加圧を解除して上記成形容器から取り出す加圧解除ステップと、
を有する、ワーク受け部材の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを受けるワーク受け部材の成形技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ワーク受け装置の一例である部品受け治具が開示されている。この部品受け治具は、治具本体と、製品を受けるために治具本体に取付けられるワーク受け部材と、を備えている。ワーク受け部材は、固形状の熱可塑性樹脂によって構成されている。
【0003】
この部品受け治具を使用するとき、ワーク受け部材を温水中に浸漬させて熱可塑性樹脂を柔らかい状態にしてこのワーク受け部材に部品モデルを押し付ける。その後、ワーク受け部材を冷却水や冷却風によって冷却して受け部を構成する熱可塑性樹脂を固化させる。最後に、部品モデルをワーク受け部材から取り外すことによって、ワーク受け部材の表面を部品形状に倣った形状に成形できる。これにより、ワーク受け部材に部品モデルの形状を記憶させてその形状を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の部品受け治具は、異なる複数の部品に対応させて使用するのに有効である。即ち、受け部に押し付ける部品モデルを、別の部品に対応した別形状の部品モデルに変更することによって、このワーク受け部材の形状を別の部品に対応した別形状に容易に変更することが可能になる。
【0006】
ところが、上記の部品受け治具の場合、ワーク受け部材が固形状の熱可塑性樹脂によって構成されているため、熱可塑性樹脂の全体を温めて柔らかい状態にするのに時間を要する。その結果、ワーク受け部材の形状を別形状に変更する作業に手間がかかり、異なる複数の部品に対応させて使用するのが難しいという問題が生じ得る。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、異なる形状のワークに対応して形状変更が可能なワーク受け部材の成形に要する時間を短縮するのに有効な技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
加熱状態における加圧変形が可能であり加圧変形後の形状を冷却により記憶する発泡体によって構成されたワーク受け部材と、
上記ワーク受け部材をその被加圧面を除いて取り囲むように収容する形状保持用の成形容器と、を備え、
上記ワーク受け部材には、上記発泡体の内部まで加熱用の空気を導入するための、上記発泡体の内部の細孔の孔径よりも大きい穴径を有する空気導入路が設けられている、ワーク受け部材の成形装置、
にある。
【0009】
本発明の別の態様は、
加熱状態における加圧変形が可能であり加圧変形後の形状を冷却により記憶する発泡体によって構成されたワーク受け部材に上記発泡体の内部まで加熱用の空気を導入するための、上記発泡体の内部の細孔の孔径よりも大きい穴径を有する空気導入路を設け、上記ワーク受け部材をその被加圧面を除いて取り囲むように形状保持用の成形容器に収容する準備ステップと、
上記準備ステップで上記成形容器に収容された上記ワーク受け部材を上記空気導入路に加熱用の空気を導入して加熱する加熱ステップと、
上記加熱ステップで加熱された上記ワーク受け部材の上記被加圧面をワーク若しくはこのワークを模した加圧部材で加圧する加圧ステップと、
上記加圧ステップで加圧された上記ワーク受け部材を冷却する冷却ステップと、
上記冷却ステップで冷却された上記ワーク受け部材の加圧を解除して上記成形容器から取り出す加圧解除ステップと、
を有する、ワーク受け部材の成形方法、
にある。
【発明の効果】
【0010】
上記の各態様において、ワーク受け部材の成形には、ワーク受け部材と成形容器が使用される。ワーク受け部材は、加熱状態における加圧変形が可能であり加圧変形後の形状を冷却により記憶する発泡体によって構成されている。このワーク受け部材は、その被加圧面を除いて取り囲まれるように成形容器に収容される。このため、ワーク受け部材は、成形容器に収容されたままの状態で被加圧面の加圧が可能とされる。また、ワーク受け部材は、形状保持用の成形容器によって被加圧面以外の面の変形が規制される。
【0011】
ここで、ワーク受け部材を構成する発泡体は、多数の細孔を有するポーラス状であり、細孔を熱伝達のための熱路として使用できる多孔質構造を有している。この多孔質構造によれば、熱路が形成されにくい固形状の樹脂などに比べた場合、局部的に熱を伝える効果を得ることができる。しかしながら、発泡体に形成されたポーラス状の細孔は不均一であり、しかも一般的に表面層が内部に比べて発泡率が低いため、発泡体を表面層から加熱するときには熱を内部まで伝えるのに時間を要する。とりわけ、発泡体の発泡倍率が低い場合には、熱伝達性が悪くなるため、ポーラス状の細孔のみを介して発泡体の内部まで熱を伝達させるのに時間を要する。このため、発泡体を軟化するまで付与する熱量を増やす必要がある。
【0012】
そこで、ワーク受け部材に発泡体の内部まで加熱用の空気を導入するための空気導入路が設けられている。この空気導入路を通じて発泡体の内部まで加熱用の空気を導入することによって、発泡体を外表面のみから加熱してポーラス状の細孔のみを通じて内部まで熱を伝える場合に比べて、発泡体と加熱用空気との接触面積を増やすことで熱伝達効率を向上させることができる。これにより、ワーク受け部材自体に設けた空気導入路を利用することで、発泡体の短時間での加熱が可能になる。
【0013】
そして、成形容器に収容されたワーク受け部材の加熱状態で、その被加圧面をワーク或いはこのワークを模した加圧部材で加圧することで、被加圧面を加圧部材の形状に倣って変形させることができる。これにより、ワーク受け部材の被加圧面を加圧部材の形状に倣ったワーク受け面に変形させることができる。
【0014】
その後、ワーク受け部材を冷却して加圧変形後の形状を記憶させる。このとき、ワーク受け部材に空気導入路が設けられているため、発泡体を内部まで冷却するのに要する時間を短くできる。そして、このワーク受け部材を加圧解除後に成形容器から取り出すことによって、このワーク受け部材をワーク受け用治具として使用できる。即ち、加圧変形後のワーク受け部材に形成される凹部の表面がワーク受け面となる。被加圧面を加圧する加圧部材の形状を適宜に変更すれば、同一形状のワークのみならず別形状のワークのワーク受け部材としても使用できる。この場合、異なる形状のワークを製造する工程における早いサイクルタイムに対応させてワーク受け部材の形状変更を行うことが可能になる。
【0015】
以上のごとく、上記の各態様によれば、異なる形状のワークに対応して形状変更が可能なワーク受け部材の成形に要する時間を短縮するのに有効な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態1の、ワーク受け部材の成形装置の全体構成を模式的に示す図。
【
図2】
図1中のワーク受け部材を斜め上方からみた斜視図。
【
図3】
図2のワーク受け部材を底面側からみた平面図。
【
図4】
図3のワーク受け部材のIV-IV線矢視断面図。
【
図5】
図1中のワーク受け部材を収容した状態の成形容器を斜め上方からみた斜視図。
【
図6】実施形態1の、ワーク受け部材の成形方法のフローを示す図。
【
図8】実施形態2の、ワーク受け部材の成形装置の全体構成を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上述の態様の好ましい実施形態について説明する。
【0018】
上記態様の、ワーク受け部材の成形装置において、上記空気導入路は、上記ワーク受け部材の外表面のうち上記被加圧面を除く面で開口しているのが好ましい。
【0019】
この成形装置によれば、ワーク受け部材の被加圧面で空気導入路が開口しない構造を採用することによって、加圧変形後のワーク受け部材のワーク受け面の面剛性が低下するのを抑制できる。
【0020】
上記態様の、ワーク受け部材の成形装置において、上記成形容器には、上記ワーク受け部材の上記空気導入路に連通するように壁部を貫通する貫通領域が設けられているのが好ましい。
【0021】
この成形装置によれば、成形容器の外部から壁部の貫通領域を通じてワーク受け部材の空気導入路に加熱用の空気を導入することができる。また、ワーク受け部材の空気導入路の空気を、成形容器の壁部の貫通領域を通じて成形容器の外部へ排出することができる。このため、ワーク受け部材の空気導入路と成形容器の外部との間で空気を移動させるための構造を簡素化することができる。
【0022】
上記態様の、ワーク受け部材の成形装置は、上記ワーク受け部材を上記成形容器に収容した状態で加熱するための加熱用ブースと、上記加熱用ブースに熱風を供給可能に接続された加熱装置と、上記ワーク受け部材を上記成形容器に収容した状態で冷却するための冷却用ブースと、上記冷却用ブースに排熱のために吸気可能に接続された吸気装置と、を備えるのが好ましい。
【0023】
この成形装置によれば、ワーク受け部材を成形容器に収容した状態で加熱用ブースに格納して、この加熱用ブースに加熱装置によって熱風を供給することができる。これにより、加熱装置によって供給された熱風はワーク受け部材の空気導入路を通じて発泡体の内部まで導入される。その後、ワーク受け部材を成形容器ごと加熱用ブースから取り出し、今度は冷却用ブースに格納して、加熱状態のワーク受け部材の被加圧面を加圧部材で加圧することができる。これにより、ワーク受け部材の被加圧面を所望の形状のワーク受け面に変形させることができる。そして、この冷却用ブースを吸気装置によって吸気して排熱することで、ワーク受け部材が保有する熱を速やかに除去して冷却することができる。これにより、ワーク受け部材の変形後の形状を短時間で記憶させることができる。
【0024】
上記態様の、ワーク受け部材の成形装置において、上記加熱装置は上記吸気装置と兼用の送風機を有しており、上記送風機の吸気側が上記冷却用ブースに接続され、上記送風機の排気側が上記加熱用ブースに接続されているのが好ましい。
【0025】
この成形装置によれば、加熱装置と吸気装置とで送風機を兼用することによって、装置の構造を簡素化して装置コストを低減することができる。
【0026】
以下、本発明にかかる、ワーク受け部材の成形装置および成形方法の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
なお、この実施形態の説明のための図面において、ワーク受け部材の成形装置の水平方向である第1方向を矢印Xで示し、水平方向であり且つ第1方向に直交する第2方向を矢印Yで示し、第1方向X及び第2方向Yの両方に直交する高さ方向を矢印Zで示している。
【0028】
(実施形態1)
図1には、実施形態1のワーク受け部材の成形装置(以下、単に「成形装置」ともいう。)1の全体構成(一部については断面)が模式的に示されている。この成形装置1は、ワークを受けるためのワーク受け部材(以下、単に「受け部材」ともいう。)10を成形する成形装置である。この成形装置1のフレーム2には、加熱用ブース30、加熱装置31、冷却用ブース40、吸気装置41、ユニットクーラー43等の複数の要素が組み込まれている。
【0029】
加熱用ブース30は、受け部材10を成形容器20に収容した状態で加熱するのに使用される。この加熱用ブース30のケース内部には、受け部材10を収容した成形容器20を一時的に保持可能な保持空間30aが設けられている。この加熱用ブース30は、受け部材10を収容した成形容器20を保持空間30aに格納するためにケース上部を開放することができ、またケース上部を閉鎖して保持空間30aを密閉できるように構成されている。
【0030】
加熱装置31は、受け部材10を加熱するための装置であり、加熱用ブース30に熱風を供給可能に接続されている。即ち、この加熱装置31は、ハウジング内に送風機32及びヒーター33を収容しており、熱風を吐出するための吐出管31aが加熱用ブース30の保持空間30aに接続されている。また、加熱装置31の吸気管31bは、加熱用ブース30の排気管30bに接続されている。
【0031】
送風機32によって吸気管31b側から吸気された空気は、ヒーター33で加熱された状態で吐出管31aを通じて加熱用ブース30の保持空間30aに供給される。一方で、加熱用ブース30の保持空間30aからの排気は、排気管30b及び吸気管31bを通じて加熱装置31に戻される。
【0032】
加熱用ブース30のケース上部を閉鎖した状態で加熱装置31を作動させると、保持空間30aの空気が加熱用ブース30と加熱装置31との間で連続的に循環するようになっている。その結果、保持空間30aを流通する熱風によって、受け部材10を加熱することができる。
【0033】
なお、加熱用ブース30と加熱装置31との間で空気の全量を循環させるようにしてもよいし、或いは一部の空気のみを循環させその他は外気を導入して補うようにしてもよい。また、受け部材10を加熱するための性能を高めるために、加熱用ブース30に、断熱材を設けたり、受け部材10に向けて熱風を直に吹き付けるための吹付ファンを追加して設けたりしてもよい。
【0034】
冷却用ブース40は、受け部材10を成形容器20に収容した状態で冷却するのに使用される。この冷却用ブース40のケース内部には、受け部材10を収容した成形容器20を一時的に保持可能な保持空間40aが設けられている。この冷却用ブース40は、受け部材10の被加圧面10aを加圧部材3によって加圧できるようにケース上部が開放されている。
【0035】
吸気装置41は、受け部材10を冷却するための装置であり、冷却用ブース40に排熱可能に接続されている。即ち、この吸気装置41は、ハウジング内に送風機42を収容しており、吸気管41aが冷却用ブース40の排気管40bを通じて保持空間40aに接続されている。
【0036】
ユニットクーラー43は、外気を吸気して冷却し、冷却された冷風を冷却用ブース40の保持空間40aに供給するためのものである。これにより、必要に応じてユニットクーラー43から冷却用ブース40の保持空間40aに冷風を供給することができる。
【0037】
吸気装置41を作動させると、送風機42によって吸気管41a側から吸気された空気は屋外に排気される。このとき、冷却用ブース40の保持空間40aの空気が吸気され排気管40bを通じて排気される。その結果、受け部材10が冷却される。このように、空気を吸気して冷却する吸気冷却構造は、受け部材10の表面に単に冷風を吹き付けて冷却する冷風供給構造を採用する場合に比べて、受け部材10の冷却に要する時間を短縮できる。また、ユニットクーラー43を併用すれば、吸気冷却構造と冷風供給構造を組み合わせることになり、受け部材10の冷却効果を高めることができ、受け部材10の冷却に要する時間を更に短縮できる。
【0038】
図2に示されるように、受け部材10は、略直方体形状をなしており、その上面が成形時に加圧部材3からの荷重を受ける被加圧面10aとなるように構成されている。この受け部材10は、略直方体形状の発泡体によって構成されている。この受け部材10は、単体として構成されており、成形容器20への装着が簡単で交換も可能であるため、保守面で優れている。
【0039】
この受け部材10では発泡体の外表面が露出しており、受け部材10の外表面が発泡体自体の外表面となる。従って、以下では、受け部材10自体が発泡体であるとして説明する。一方で、必要に応じて、発泡体の表面を薄肉のシート部材で被覆するようにしてもよい。この場合、受け部材10が発泡体とシート部材とによって構成されるため、シート部材の外表面が受け部材10の外表面になる。
【0040】
受け部材10は、細孔(或いは「気孔」ともいう。)が多数空いており、且つ多数の細孔が連続的に連通してなる熱路を形成することができる多孔質構造を有し、軽量性及び緩衝性に優れたスポンジ状部材であるのが好ましい。これにより、空気などの流体を受け部材10の内部に連続的に導入することができる。
【0041】
受け部材10は、加熱状態で軟化しこの加熱状態における加圧変形が可能であり加圧変形後の形状を冷却により記憶する性能、所謂「熱応答型の形状記憶性能」を有する。このために、この受け部材10は、典型的には、複数種類の中から適宜に選択されたポリオールと、複数種類の中から適宜に選択されたイソシアネートと、を主原料した化学反応によって得られる合成樹脂であるポリウレタンからなるのが好ましい。このポリウレタンは、複数のポリマーの鎖同士を連結するための架橋が温度に応じて消えたり復活したりする架橋現象を利用して、上記の形状記憶性能を実現している。
【0042】
この架橋現象について具体的に説明すると、受け部材10を常温で静置させた状態では、ポリウレタンの複数のポリマーの鎖同士が架橋点で架橋されており、変形によってエネルギー的に不安定になったポリマーは元の位置に戻ろうとする。このため、受け部材10は、加圧部材3からの受圧によって加圧変形する一方で、この受圧が解放されたときには、その形状記憶性能によって元の形状に復帰する。このとき、加圧部材3は、ワーク若しくはこのワークを模した加圧型によって構成されるのが好ましい。
【0043】
受け部材10は、ポリウレタンが基準温度を上回る温度まで加熱されることによって架橋が消えて柔らかくなり、加圧部材3からの受圧によって加圧変形したとき、その変形状態を維持するように作用する。このときの基準温度は、ポリウレタンの主原料であるポリオールやイソシアネートの種類や、副原料や添加剤の種類などの組み合わせに応じて定まる。その後、このポリウレタンは、冷却によって常温に戻る過程で架橋が復活して、変形状態のまま形状を記憶する。また、このポリウレタンは、基準温度を上回る温度まで再度加熱されることによって、初期の形状に復帰する。
【0044】
図2~
図4に示されるように、受け部材10には、発泡体の内部まで加熱用の空気を導入するための空気導入路11が設けられている。この空気導入路11は、発泡材の成形時に形成されているポーラス状の細孔に連通し、ワーク受け部材10の外表面10a,10b,10cのうち被加圧面10aを除く面(底面10b及び側面10c)で開口している。
【0045】
本実施形態では、空気導入路11は、断面形状が円形であり3方向X,Y,Zのそれぞれに直線的に延びる穴を複数結合することによって構成されている。空気導入路11を構成する複数の穴は、発泡体の内部にランダムに形成されているポーラス状の細孔とは異なり、規則的に設けられており、しかもその穴径がポーラス状の細孔の孔径を大きく上回るように構成されている。
【0046】
なお、空気導入路11を構成する複数の穴の形状や、各穴が延びる方向については、
図2~
図4に示されるものに特に限定されるものではない。複数の穴の全部或いは一部の断面形状が楕円、方形、多角形などであってもよい。また、複数の穴の全部或いは一部が3方向X,Y,Zとは別方向に延びるように構成されてもよい。
【0047】
図5に示されるように、成形容器20は、有底箱形状を有する形状保持用の容器であり、受け部材10をその上面である被加圧面10aを除いて取り囲むように収容する。即ち、この成形容器20に収容された受け部材10は、底面10b及び側面10cが成形容器20の壁部21によって取り囲まれる。このため、受け部材10は、被加圧面10aの変形が成形容器20によって規制されないが、底面10b及び側面10cの変形が成形容器20の壁部21によって規制される。
【0048】
特に図示しないものの、成形容器20には、受け部材10の空気導入路11に連通するように壁部21を貫通する貫通領域22が設けられている。この貫通領域22は、通気を許容するメッシュ構造或いは多孔板構造によって構成されている。これにより、成形容器20の外部の空気は、壁部21の貫通領域22を通じて受け部材10の空気導入路11に供給可能とされる。また、空気導入路11の空気は、壁部21の貫通領域22を通じて成形容器20の外部へと排出可能とされる。このように、空気導入路11は、発泡体の内部から空気を導出するための空気導出路にもなる。
【0049】
次に、
図6及び
図7を参照しながら、実施形態1の、受け部材10の成形方法について説明する。
【0050】
図6に示されるように、この成形方法は、上記構成の成形装置1を使用して受け部材10を成形する方法であり、第1ステップS101から第5ステップS105までの複数のステップを有する。なお、必要に応じて、
図6中の複数のステップに別のステップが追加されてもよいし、或いは
図6中の各ステップが複数に分割されてもよい。
【0051】
第1ステップS101は、受け部材10に空気導入路11を設け、この受け部材10をその被加圧面10aを除いて取り囲むように成形容器20に収容する準備ステップである。
【0052】
この第1ステップS101では、先ず、
図7(a)に示されるように、有底形状の成形金型容器50の空間51に発泡フォーム材Fを吐出する。このとき、成形金型容器50として底面が平坦であるものを使用するのが好ましい。その後、空間51の発泡フォーム材Fが攪拌されて凝固する。そして、
図7(b)に示されるように、発泡フォーム材Fが凝固することにより、コア部Maの表面側に表皮層Mbが形成されてなる発泡母材Mが得られる。このとき、発泡母材Mの内部のポーラス状の細孔が多数形成される。なお、発泡フォーム材Fの材料や成形条件などを適宜に選択することによって、表皮層Mbの厚みや硬度などを調整することができる。
【0053】
次に、
図7(c)に示されるように、成形金型容器50から発泡母材Mを取り出して、この発泡母材Mを分断線Lに沿って2つの切断発泡体に切断する。その後、
図7(d)に示されるように、2つの切断発泡体のうちの表皮層Mbの表面が平坦である一方の分断発泡体(即ち、成形金型容器50の内壁面に沿って表皮層24Bが形成された分断発泡体)を受け部材10とする。そして、この受け部材10に穴開け用治具(図示省略)を使用して複数の穴加工を施すことによって空気導入路11を設ける。このとき、ワーク受け部材10の内部の既に形成されているポーラス状の細孔とは別に空気導入路11が後加工される。これにより、空気導入路11を設けない場合に比べて、ワーク受け部材10が空気と接触できる接触面積を増やすことができる。最後に、穴加工がなされた受け部材10を、表皮層Mbが被加圧面10aとなるように上下反転させた状態で成形容器20に収容する(
図5を参照)。
【0054】
図6に戻り、第2ステップS102は、第1ステップS101で成形容器20に収容された受け部材10を空気導入路11に熱風を導入して加熱する加熱ステップである。この第2ステップS102では、先ず、受け部材10を収容した成形容器20を加熱用ブース30の保持空間30aに格納し、且つ加熱用ブース30を密閉状態にする(
図1を参照)。その後、加熱装置31を作動させて熱風を加熱用ブース30の保持空間30aに供給することで、空気導入路11を通じて受け部材10の内部まで熱風を導入する(
図1を参照)。受け部材10の内部に導入された熱風は、空気導入路11を区画する壁面との間で熱交換される。更に、この熱風は、空気導入路11からポーラス状の細孔に流入して細孔を区画する壁面との間で熱交換される。これにより、受け部材10が所望の加熱状態になる。
【0055】
なお、受け部材10に、別のワークWを受けるための凹状のワーク受け面12が既に形成されている場合には、この受け部材10が第2ステップS102で加熱されることで初期状態の元の形状に復帰する。即ち、受け部材10の凹状のワーク受け面12が平坦状の被加圧面10a(
図2を参照)に戻る。このとき、受け部材10の底面10b及び側面10cの変形は成形容器20の壁部21によって規制されているため、ワーク受け面12が形成される前の形状の受け部材10は勿論、ワーク受け面12が形成された後の形状の受け部材10であっても、当該受け部材10を成形容器20に手間なく収容することが可能になる。
【0056】
第3ステップS103は、第2ステップS102で加熱された受け部材10の被加圧面10aを加圧部材3で加圧する加圧ステップである。この第3ステップS103によれば、受け部材10の被加圧面10aが加圧部材3の形状に倣った凹状のワーク受け面12に変形する。
【0057】
第4ステップS104は、第3ステップS103で加圧された受け部材10を冷却する冷却ステップである。この第4ステップS104では、先ず、受け部材10を収容した成形容器20を加熱用ブース30の保持空間30aから取り出して、冷却用ブース40の保持空間40aに移し替える(
図1を参照)。その後、吸気装置41を作動させて冷却用ブース40の保持空間40aの空気を排気することで、空気導入路11を通じて受け部材10の内部の熱気を排気する(
図1を参照)。これにより、受け部材10が所望の冷却状態になり、加圧変形後の受け部材10の形状が記憶される。空気導入路11を設けない場合に比べて、受け部材10を短時間で所望の冷却状態にすることができる。
【0058】
更に、第4ステップS104では、必要に応じてユニットクーラー43を作動させるのが好ましい。この場合、受け部材10の表面に冷風を供給することによる冷却効果が加わるため、受け部材10の冷却に要する時間の更なる短縮が可能になる。
【0059】
第5ステップS105は、第4ステップS104で冷却された受け部材10を加圧部材3による被加圧面10aの加圧を解除して成形容器20から取り出す加圧解除ステップである。この第5ステップS105によれば、凹状のワーク受け面12が形成された受け部材10を得ることができる。受け部材10のワーク受け面12はワークWを受けるのに使用される。
【0060】
なお、別形状のワークWを受ける場合には、ワーク受け面12が別形状のワークWに対応したものとなるように受け部材10を成形し直す必要がある。そこで、第5ステップS105の後で第1ステップS101に戻り、加圧部材3を別のものに変更した上で、第1ステップS101から第5ステップS105までのステップを再び実行する。これにより、再度実行した第5ステップS105によって得られた受け部材10のワーク受け面12でワークWを受けることができる。
【0061】
上述の実施形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0062】
受け部材10の成形には、受け部材10と成形容器20が使用される。受け部材10は、加熱状態における加圧変形が可能であり加圧変形後の形状を冷却により記憶する発泡体によって構成されている。この受け部材10は、その被加圧面10aを除いて取り囲まれるように成形容器20に収容される。このため、受け部材10は、成形容器20に収容されたままの状態で被加圧面10aの加圧が可能とされる。また、受け部材10は、形状保持用の成形容器20によって被加圧面10a以外の面の変形が規制される。
【0063】
ここで、受け部材10を構成する発泡体は、多数の細孔を有するポーラス状であり、細孔を熱伝達のための熱路として使用できる多孔質構造を有している。この多孔質構造によれば、熱路が形成されにくい固形状の樹脂などに比べた場合、局部的に熱を伝える効果を得ることができる。しかしながら、発泡体に形成されたポーラス状の細孔は不均一であり、しかも一般的に表面層が内部に比べて発泡率が低いため、発泡体を表面層から加熱するときには熱を内部まで伝えるのに時間を要する。とりわけ、発泡体の発泡倍率が低い場合には、熱伝達性が悪くなるため、ポーラス状の細孔のみを介して発泡体の内部まで熱を伝達させるのに時間を要する。このため、発泡体を軟化するまで付与する熱量を増やす必要がある。
【0064】
そこで、受け部材10に発泡体の内部まで加熱用の空気を導入するための空気導入路11が設けられている。この空気導入路11を通じて発泡体の内部まで加熱用の空気を導入することによって、発泡体を外表面のみから加熱してポーラス状の細孔のみを通じて内部まで熱を伝える場合に比べて、発泡体と加熱用空気との接触面積を増やすことで熱伝達効率を向上させることができる。これにより、受け部材10自体に設けた空気導入路11を利用することで、発泡体の短時間での加熱が可能になる。
【0065】
そして、成形容器20に収容された受け部材10の加熱状態で、その被加圧面10aをワークW或いはこのワークWを模した加圧部材3で加圧することで、被加圧面10aを加圧部材3の形状に倣って変形させることができる。これにより、受け部材10の被加圧面10aを加圧部材3の形状に倣ったワーク受け面12に変形させることができる。
【0066】
その後、受け部材10を冷却して加圧変形後の形状を記憶させる。このとき、受け部材10に空気導入路11が設けられているため、発泡体を内部まで冷却するのに要する時間を短くできる。そして、この受け部材10を加圧解除後に成形容器20から取り出すことによって、この受け部材10をワーク受け用治具として使用できる。即ち、加圧変形後の受け部材10の被加圧面10aに形成される凹部の表面がワーク受け面12となる。被加圧面10aを加圧する加圧部材3の形状を適宜に変更すれば、同一形状のワークWのみならず別形状のワークWの受け部材10としても使用できる。この場合、異なる形状のワークWを製造する工程における早いサイクルタイムに対応させて受け部材10の形状変更を行うことが可能になる。
【0067】
従って、上述の実施形態1によれば、異なる形状のワークWに対応して形状変更が可能な受け部材10の成形に要する時間を短縮することができる。
【0068】
上記の成形装置1によれば、受け部材10の被加圧面10aで空気導入路11が開口しない構造を採用することによって、加圧変形後の受け部材10のワーク受け面12の面剛性が低下するのを抑制できる。
【0069】
上記の成形装置1によれば、成形容器20の外部から壁部21の貫通領域22を通じて受け部材10の空気導入路11に加熱用の空気を導入することができる。また、受け部材10の空気導入路11の空気を、成形容器20の壁部21の貫通領域22を通じて成形容器20の外部へ排出することができる。このため、受け部材10の空気導入路11と成形容器20の外部との間で空気を移動させるための構造を簡素化することができる。
【0070】
上記の成形装置1によれば、受け部材10を成形容器20に収容した状態で加熱用ブース30に格納して、この加熱用ブース30に加熱装置31によって熱風を供給することができる。これにより、加熱装置31によって供給された熱風は受け部材10の空気導入路11を通じて発泡体の内部まで導入される。その後、受け部材10を成形容器20ごと加熱用ブースから取り出し、今度は冷却用ブース40に格納して、加熱状態の受け部材10の被加圧面10aを加圧部材3で加圧することができる。これにより、受け部材10の被加圧面10aを所望の形状のワーク受け面12に変形させることができる。そして、この冷却用ブース40を吸気装置41によって吸気して排熱することで、受け部材10が保有する熱を速やかに除去して冷却することができる。これにより、受け部材10の変形後の形状を短時間で記憶させることができる。
【0071】
以下、上述の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0072】
(実施形態2)
図8に示されるように、実施形態2の成形装置101は、加熱装置31の送風機32が吸気装置のものと兼用されている点で、実施形態1の成形装置1と相違している。この成形装置101では、送風機32の吸気側が冷却用ブース40に接続され、冷却用ブース40からの吸気を加熱用ブースに熱風として供給するために送風機32の排気側が加熱用ブース30に接続されている。
【0073】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0074】
成形装置101を使用して受け部材10を成形する成形方法では、加熱用ブース30と冷却用ブース40のそれぞれに受け部材10を成形容器20に収容した状態で格納する。即ち、成形容器20に収容された状態の受け部材10が少なくとも二組使用される。この場合、加熱用ブース30における一方の受け部材10の加熱処理と、冷却用ブース40における他方の受け部材10の冷却処理と、が同時並行で実行される。
【0075】
その他の方法は、実施形態1と同様である。
【0076】
上述の実施形態2によれば、加熱装置31と吸気装置41とで送風機32を兼用することによって、装置の構造を簡素化して装置コストを低減することができる。
【0077】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、上述の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0078】
上述の実施形態では、空気導入路11がワーク受け部材10の外表面10a,10b,10cのうち被加圧面10aを除く面で開口する場合について例示したが、ワーク受け面12の所望の面剛性を確保することができる場合や、発泡体の表面を薄肉のシート部材で被覆する構造を採用する場合などでは、空気導入路11がワーク受け部材10の外表面10a,10b,10cのうち被加圧面10aで開口するようにしてもよい。
【0079】
上述の実施形態では、成形容器20の壁部21に設けられた貫通領域22を通じて、成形容器20の外部の空気を受け部材10の空気導入路11に導入する場合について例示したが、これに代えて、壁部21の貫通領域22を省略し、受け部材10のうち成形容器20から露出している部位で空気導入路11を開口させることができる。この場合、加熱用の空気を、成形容器20の壁部21を通過させることなく、受け部材10の空気導入路11に直に導入することができる。
【0080】
上述の実施形態では、加熱手段としての加熱用ブース30及び加熱装置31を使用して受け部材10を加熱し、冷却手段としての冷却用ブース40及び吸気装置41を使用して受け部材10を冷却する構成について例示したが、加熱手段や冷却手段は本構成に限定されるものではなく、必要に応じて本構成を適宜に変更可能である。例えば、受け部材10を加熱用ブース30に格納することなく、加熱装置31から供給される熱風をこの受け部材10に直に吹き付けるようにしたり、冷却手段自体を省略して受け部材10を自然放冷によって冷却するようにしたりすることもできる。
【符号の説明】
【0081】
1,101 ワーク受け部材の成形装置
3 加圧部材
10 (ワーク)受け部材
10a 被加圧面
10a,10b,10c 外表面
10b,10c 被加圧面を除く面
11 空気導入路
20 成形容器
21 壁部
22 貫通領域
30 加熱用ブース
31 加熱装置
32 送風機
40 冷却用ブース
41 吸気装置
S101 第1ステップ(準備ステップ)
S102 第2ステップ(加熱ステップ)
S103 第3ステップ(加圧ステップ)
S104 第4ステップ(冷却ステップ)
S105 第5ステップ(加圧解除ステップ)