(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】微粒子の製造方法及び当該方法により得られる微粒子
(51)【国際特許分類】
B22F 9/14 20060101AFI20240722BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240722BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240722BHJP
【FI】
B22F9/14 Z
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2020035348
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】597029228
【氏名又は名称】京石産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145953
【氏名又は名称】真柴 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】土井 善夫
(72)【発明者】
【氏名】岡本 晃來
(72)【発明者】
【氏名】森永 智
(72)【発明者】
【氏名】西村 一誠
(72)【発明者】
【氏名】依田 眞一
(72)【発明者】
【氏名】真下 茂
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-152374(JP,A)
【文献】特開2019-094541(JP,A)
【文献】特開2016-027184(JP,A)
【文献】特開2002-294434(JP,A)
【文献】特開2016-204746(JP,A)
【文献】特開2014-152391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中で、軸方向において水平に対向し、かつ対向した面が同一形状かつ同一面積である1対の電極間に繰り返しパルス放電することにより、微粒子を製造する方法
であって、
前記電極が棒状電極であり、
前記1対の各棒状電極が、2以上の棒状電極を束ねたものである、製造方法。
【請求項2】
前記束ねられた棒状電極の形状が円柱形であることを特徴とする、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記電極の素材が、Ag、Au、Cu、Pt、Pd
、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、C、Si、Ga、Ge、Se
、Zr、Nb、Mo
、In、Sn、Sb
、Ta
、Re、Tl、Pb、Bi及びランタノイドから選択される1つ又は2以上の素材の混合物又は合金であることを特徴とする、請求項1
又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子の製造方法及び当該方法により得られる微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や半導体、化合物の微粒子、特にナノサイズの粒子は、触媒、光触媒、磁性材料、電池材料、光電材料、医療材料として、環境、IT、印刷、医療などさまざまな分野で産業化が進められている材料である。ナノ粒子は、バルク体、粉体に比べて、表面積、反応性、触媒特性、磁性などに優れている。特に、貴金属類の微粒子は希少かつ高価であるが、触媒や電子材料、医療材料分野において他に替わることができない性質を有しているため特に高い需要が存在する。したがって、貴金属の微粒子を効率良く製造できれば、より付加価値の高い微粒子をより安価で提供できるようになる。
【0003】
このような微粒子の製造方法として、化学合成法、レーザー蒸発法及びアーク放電法等種々の方法が検討されてきた。しかしながらこれら方法で製造された微粒子は、製造された微粒子同士の凝集が起きやすいという問題があった。このような問題を解決する方法として、液中において金属電極に放電し微粒子を得る方法が検討されている。特許文献1は、液中において金属電極間にパルス放電を行うことによりナノ粒子を得る方法を開示している。
【0004】
特許文献1の方法において、液体外から1対の金属電極を液体中に斜め方向に差し込み、各電極がV字を描きながら対向するように配置されている。特許文献1では、これら金属電極を用いてパルス放電を行い、通電時に電極を構成する金属を瞬間的にプラズマ化させ、停電時に当該プラズマを瞬間的に冷却することでナノ粒子を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、ナノ粒子の生成に伴い、各金属電極が対向した面(V字の先端部)において蒸発し、それにより電極間の距離が開いていく。電極が一定の距離以上に離れると放電できなくなるため、電極の蒸発にともない各電極をV字の先端部に向けて軸方向に移動させ電極間の距離を調整しつつ、パルス放電を継続しなければならない。しかしながら、これら金属電極を正確に対向させつつ、電極間の距離及び対向する各電極の面積を一定に保つことには困難を伴う。
【0007】
例えば、対向する電極の軸方向の形状に歪みがある場合や、対向する電極にわずかな振動等が加わることにより電極の対向面にずれが生じてしまった場合、金属電極の対向面全体で均一に放電されないことによりプラズマの発生が不均一となり、電極の一部が蒸発せずに残ってしまう場合がある。
図10は、特許文献1の方法によりナノ粒子を製造する際に、電極同士の対向面にずれが生じた結果、金属電極の蒸発が均一に進行せず、一部に溶け残りが生じた電極の写真である。このように金属電極の溶け残りが生じると、電極面積を一定に保つことができないため電流密度が一定とならず、安定したプラズマ形成が出来ないため、均一な粒子径を有するナノ粒子を得る事が困難となる場合がある。このような問題を解決するには、対向する各電極の軸あわせをミクロン単位で行う必要があるが、このような軸あわせは実験室レベルにおいて可能であっても、工業的に大量生産する場合には現実的ではない。したがって、このような問題を解決可能な技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特定の電極を特定の配置にて通電することにより前記課題が解決できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち本発明は、
[1]液体中で、軸方向において水平に対向し、かつ対向した面が同一形状かつ同一面積である1対の電極間に繰り返しパルス放電することにより、微粒子を製造する方法、
[2]前記電極が棒状電極である、[1]に記載の製造方法、
[3]前記1対の各棒状電極が、2以上の棒状電極を束ねたものであることを特徴とする、[2]に記載の製造方法、
[4]前記束ねられた棒状電極の形状が、束ねられた際に隣接する棒状電極同士の接触面を小さくする形状であることを特徴とする、[3]に記載の製造方法、
[5]前記束ねられた棒状電極の形状が円柱形であることを特徴とする、[3]又は[4]に記載の製造方法、
[6]前記電極の素材が、Ag、Au、Cu、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Sc、 Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、C、Si、Ga、Ge、Se、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、In、Sn、Sb、Te、Hf、Ta、W、Re、Tl、Pb、Bi及びランタノイドから選択される1つ又は2以上の素材の混合物又は合金であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法、並びに
[7][1]~[6]のいずれかに記載の製造方法により得られる微粒子、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、棒状電極間にパルス放電をした際に、棒状電極の不均一な蒸発を極力排除してプラズマの発生をより安定させ、より均一な粒子径を有する微粒子をより高い効率で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)3本の束ねられた棒状電極の正面図及び(b)1対の前記棒状電極を水平方向に対向させた場合を説明する斜視図である。
【
図2】実施例1において1本のパラジウム電極を対向させて放電した後の電極の写真である。
【
図3】実施例1で得られた微粒子の粒度分布のグラフである。
【
図4】実施例2において、束ねられた3本のパラジウム電極を対向させて放電した後の電極の写真である。
【
図5】実施例2で得られた微粒子の粒度分布のグラフである。
【
図6】実施例3において、1本の金電極を対向させて放電した後の電極の写真である。
【
図7】実施例3で得られた微粒子の粒度分布のグラフである。
【
図8】実施例4において、束ねられた3本の金電極を対向させて放電した後の電極の写真である。
【
図9】実施例4で得られた微粒子の粒度分布のグラフである。
【
図10】特許文献1の方法で使用した後の電極の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前述の通り、本発明の方法は、液体中で、軸方向において水平に対向し、かつ対向した面が同一形状かつ同一面積である1対の電極(以下、対となる各電極を「電極X」及び「電極Y」とする)間に、繰り返しパルス放電することにより微粒子を製造する方法に関する。以下に、前記方法の構成及び方法の詳細を説明する。
【0012】
1.電極
電極は、対となる電極(電極Xと電極Yとの)間にパルス放電することで微粒子を製造するために使用する。電極の素材は、得ようとする微粒子の原料となる素材でありかつ通電性を有する素材であれば特に制限されない。このような素材として、例えば、Ag、Au、Cu、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Sc、 Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、C、Si、Ga、Ge、Se、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、In、Sn、Sb、Te、Hf、Ta、W、Re、Tl、Pb、Bi及びランタノイドから選択される1つ又は2以上の素材の混合物又は合金が挙げられる。対向する2つの電極が同一素材製の電極であっても良いし、1の電極(電極X)とこれに対向する電極(電極Y)とがそれぞれ異なる素材により形成されても良い。
【0013】
前述の通り、本発明の電極は、対向した面が同一形状かつ同一面積である。ここで、「対向した面」とは、前述のように1対の電極である電極Xと電極Yとを軸方向において水平に対向させた際の対向した面を意味する。また、前記「対向した面」は、電極放電を開始する前の各電極の「対向した面」だけで無く、電極放電により電極の蒸発が進行した場合における各電極の「対向した面」も意味する。また、「同一形状かつ同一面積」とは、対向した2つの電極の「対向した面」の断面形状及び断面積が完全に一致している場合を含むことはもちろんのこと、対向した2つの電極の「対向した面」の断面形状及び断面積が、放電により電極材料のプラズマが均一に発生する程度の精度である場合も含む。このような精度の具体的な例として、例えば、円柱形の棒状電極を使用する場合において、2つの棒状電極の精度が直径で±2%の範囲である事を意味する。このように「対向する面」が「同一形状かつ同一面積」である事により、電極からの放電がより均一に進行し、より均一な粒子径を有する微粒子をより大量に高い効率で製造できる。
【0014】
電極の具体的な形状及び大きさについては、長さを有しており軸方向に水平に固定した場合に、自重により容易にたわむ事が無いような形状及び太さである事を条件として、特に制限は無い。このような形状の具体的な例として、棒状や板状の形状が挙げられる。電極の断面形状について特に制限は無く、例えば、三角柱、四角柱、五角柱及び六角柱等の多角形柱状であってもよいし、楕円を含む円形の柱状(円柱形)であってもよい。前記の通り、対向する電極は「同一形状かつ同一面積」であるため、例えば、一方の電極Xを円柱形の電極とした場合には、もう一方の電極Yも前記電極と同一形状(円柱形)かつ同一面積の電極を使用する。なお、微粒子の単位時間当たりの製造量を増やすために、電極の対向する面の面積、言い換えれば電極の太さを太くすることも出来る。
【0015】
ただし、電極の太さをあまりにも太くしすぎると以下のような問題が発生する場合がある。電極の表面は、一見平滑に見えてもミクロの視点で見ると細かい凹凸を有している場合がある。細かい凹凸を有する電極を対向させた際に、対向面の面積をあまりにも大きくしすぎると、例えば、凸部同士が対向した部分では放電が発生し、一方で凹部同士が対向した部分では電流が流れず放電が発生しない。このように放電電流の流れが局在化すると、電極の蒸発(言い換えれば、電極の削れ方)が不均一となり、微粒子の製造効率が低下し、より均一な粒子径を有する微粒子を得る事が難しくなる場合がある。本発明者らの検討により、前記細かい凹凸を起因とした放電の局在化は、電極の太さがより太くなることにより顕著になる傾向があることがわかった。従って、電極の太さを、その断面積が一定の面積以下となるような太さにすることがより好ましい。このような電極の太さは、電極の素材及び放電の条件等に基づいて適宜調整することが可能である。具体的には、一般的には、電極の太さを、その対向面の断面積が0.001~30mm2、好ましくは0.01~20mm2、より好ましくは0.1~10mm2となるようにすることにより、より均一な電流の流れを得る事が出来る。電極の長さについては特に制限されず、軸方向に水平に固定した場合に自重により容易にたわむ事が無いような長さであることを条件として、電極の素材、電極の太さ、得ようとする微粒子の量及び放電の条件等により適宜変更可能である。
【0016】
より大量の微粒子を得るために、前記各電極を棒状電極とした上で、2以上の棒状電極を束ねて対向する棒状電極としても良い。言い換えれば、2以上の棒状電極を束ねて、電極X及び電極Yとして対向させてよい。このようにすることで、放電をより均一に進行させつつ、対向する電極全体としての面積を増やし、単位時間当たりに蒸発する棒状電極の量を増加させ、より均一な粒子径を有する微粒子をより高い製造効率で得る事が出来る。さらに、電極X及び電極Yとしてそれぞれ1本の棒状電極を使用する場合、対向した電極X及び電極Yの位置がずれた場合に均一な放電が得られない可能性がある。一方で、複数の棒状電極を束ねて対向した電極X及び電極Yとして使用した場合には、棒状電極全体としての見かけ上の対向面の面積が広がるため、束ねられた棒状電極の対向面における位置が多少ずれた場合でも、放電の均一性が損なわれにくい。この場合における棒状電極の素材は、得ようとする微粒子の原料となる素材でありかつ通電性を有する素材であれば特に制限されない。このような素材として、例えば、前記のような素材が挙げられる。なお、束ねられる棒状電極の全てが同じ素材製のものであってよいし、束ねられる2以上の棒状電極がそれぞれ異なる素材製のものであってもよい。
【0017】
棒状電極を束ねて使用する場合における束ねられる各棒状電極の大きさ及び形状については、前記と同様である。複数の棒状電極を束ねて得られた2つの棒状電極X及びYが軸方向において水平に対向した場合に同一形状かつ同一面積になる事を条件として、束ねられる2以上の棒状電極の素材、大きさ及び形状を同一にしても良いし、それぞれ異なるものにしてもよい。束ねられる棒状電極1本の太さを、その対向面の断面積が0.001~30mm2、好ましくは0.01~20mm2、より好ましくは0.1~10mm2となるようにすることにより、より均一な電流の流れを得る事が出来る。所望する微粒子の量や反応条件に合わせて、前記棒状電極を2以上束ねて棒状電極として使用することにより、束ねられた棒状電極の個数に応じて均一なプラズマが発生するため、単位時間当たりに得られる微粒子の量を飛躍的に増加させる事ができる。
【0018】
ここで、前記棒状電極の形状が、束ねられた際に隣接する棒状電極同士の接触面を小さくする形状とすることがより好ましい。棒状電極の形状を隣接する棒状電極同士の接触面積が小さくなるような形状とすることにより、接触した箇所に接触抵抗が生じる。接触抵抗が生じることにより、束ねられたそれぞれの棒状電極が独立した電極として通電可能となる。前記の通り、束ねられた棒状電極の数に応じて、単位時間当たりに得られる微粒子の量を飛躍的に増加させる事ができる。このような棒状電極の形状として、例えば、三角形、四角形、五角形及び六角形等の頂点を有する多角形柱状や、楕円を含む円形の柱状(円柱形)の形状が挙げられる。接触面積を最小限としつつ、2以上の棒状電極を束ねる際に各棒状電極の位置調整をする手間を最小限に出来ることから、円柱形とすることがより好ましい。
【0019】
図1を用いてさらに詳しく説明する。
図1(a)は、3本の円柱形の棒状電極(棒状電極a、b及びc)を束ねた一の棒状電極X及び3本の円柱形の棒状電極(棒状電極a’、b’及びc’)を束ねた別の棒状電極Yの正面図である。
図1(b)は、軸方向において水平に対向させた前記一の棒状電極と前記別の棒状電極とを表す図面である。束ねられた各棒状電極(例えば棒状電極aとa’)は、その対向面において同一形状かつ同一面積となっている。また、それぞれの棒状電極において束ねられている各棒状電極は、各棒状電極(棒状電極aとa’、bとb’及びc’とc)が対向するように位置が調整されている。束ねられた棒状電極a、b及びc並びに棒状電極a’、b’及びc’は互いの接触面積が非常に小さい。従って、これら電極間には接触抵抗が発生し、束ねられた電極間(棒状電極a、b及びc間、並びに棒状電極a’、b’及びc’間)における通電量は最小限に抑えられる。一方、それぞれ対向した棒状電極(棒状電極aとa’、bとb’及びc’とc)間でパルス放電されることにより、各棒状電極が蒸発しプラズマ化した後急冷されることにより微粒子が得られる。
【0020】
また、各棒状電極1本当たりの太さをより均一な電流の流れを得る事が出来る太さ、具体的には前述のような断面積となるような太さにすることにより、各棒状電極(棒状電極aとa’、bとb’及びc’とc)間の電流の流れをより均一に出来る。一方で、複数の棒状電極を束ねることにより、棒状電極X及びYとしての全体の断面積を増やす(棒状電極Xの面積=棒状電極a、b及びcの断面積の合計)ことが出来るため、単位時間当たりに得られる微粒子の量をより増加させる、言い換えれば微粒子の製造効率をより高めることができる。
【0021】
棒状電極を束ねる方法に特に制限は無く、例えば、棒状電極の根元1箇所のみや根元だけで無く途中等複数の箇所において、絶縁性又は通電性の材料で縛る等の方法が採用できる。棒状電極の根元1箇所のみに金具等を用いて複数の棒状電極を束ねるように固定する方法を採用することがより好ましい。また、束ねられる棒状電極の本数に関しても特に制限は無い。
【0022】
2.液体
液体は、電極を用いて液中パルス放電を行うためのものであり、さらに、液中パルス放電による生成物を一時的に液中に貯蔵するためのものである。使用される液体は、特に限定されるものではなく、放電の条件及び目的物の生成反応等に応じて適宜選択可能である。本発明の方法において使用する液体は、2種以上の化合物の混合物でもよい。液体は、例えば、飽和炭化水素(例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、シクロオクタン等)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等)、水(例えば、純水、蒸留水、イオン交換水等)、過酸化水素、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等)、窒素、アンモニア、油、シリコーン、イオン液体、エステル類 (例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジメチル等)、又はエーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール等)である。
【0023】
上記液体に、微粒子にドープさせるための材料として、例えば、酸素、窒素、硫黄、セレン、炭素、臭素、フッ素、塩素又はヨウ素等を含む試薬や、Na、Mg、K又はCa等のアルカリ金属やアルカリ土類金属を含む試薬を添加してもよい。
【0024】
3.電極放電
本発明の電極放電は、液体中で、軸方向において水平に対向し、かつ対向した面が同一形状かつ同一面積である1対の電極(電極X及び電極Y)間に、繰り返しパルス放電することによりおこなう。
前記液体は、絶縁性の容器、例えばガラスや陶器製の容器中に収容される。電極放電を行う際の液体の量は特に制限されるものではなく、例えば、一対の電極を液体中に浸漬でき、後述のパルス放電により液体が飛散しない程度の量であり、かつパルス放電による生成物の濃度によって液体の拡散性が失われない程度の量であればよい。放電時の液体の温度は、使用する電極の素材、電極放電の条件、使用する液体の種類等に基づいて適宜調整可能である。電極放電を行う際に、例えば、液体の温度を5~300℃の範囲の温度にしてよい。
【0025】
前記液体中に、1対の電極を浸漬させる。前述の通り、1対の電極(電極X及び電極Y)を軸方向に水平に対向させる。ここで、「軸方向に水平に」とは、各電極の中心軸が一致した状態で対向していることを意味する。なお、「中心軸が一致」とは、中心軸が完全に一致した場合が含まれることはもちろんのこと、中心軸にずれが生じている場合であっても放電の進行を過度に妨げない程度のずれ、具体的には電極の蒸発が均一でプラズマの発生が安定している状態が維持できる程度のずれを有している場合も含まれる。液体中に電極を固定する方法に特に制限は無い。例えば、金具等を用いて上から吊り下げる方法、下端部に固定金具を有するアームで固定する方法、液体を収容する容器の側面から電極を挿し込む方法等が採用可能である。このように1対の電極を軸方向に水平に対向させることにより、電極に振動が加えられた場合や、電極の軸方向の形状においてわずかな歪みを有する場合でも、電極の対向面がずれにくく、放電をより均一に行うことが出来る。
【0026】
液体中に固定された電極と電源装置を接続し、パルス放電を行う。パルス放電の条件は、使用する電極の素材、電極の大きさ、液体の種類、温度等諸条件に基づいて適宜変更可能である。パルス放電する際の電圧を、例えば、10~500V、好ましくは20~500V、より好ましくは30~300V、さらに好ましくは40~200Vとすることにより、過度に電気を消費すること無く効率よく放電を進行できる。パルス放電する際の電流量は、反応条件、例えば、電極の素材等により異なるが、一般的には、電圧を高くするほどより粒子径の小さい微粒子が得られる傾向にある。具体的な電流の値は、時間平均で、数百A、好ましくは100~200Aとすることにより、過度に電気を消費すること無く効率よく電極による放電を行える。パルス電流の周波数を、例えば、60~120kHzとすることが好ましい。また、パルス電流を出力する際に、パルス電流の立ち上がり期間を、例えば、0.01~10マイクロ秒とすることが好ましい。パルス電流の継続時間は、出力電圧や、パルス電流の電流値によって適宜変更可能である。パルス電流の継続時間を、例えば、1~50ミリ秒、好ましくは1~30ミリ秒として繰り返し継続して出力することで、放電の効率をより向上できる。
【0027】
前記のようにパルス放電を行うことにより、液体中で対向する電極間に繰り返しパルス放電が行われる。パルス放電の通電時に、瞬間的に電極を構成する材料が蒸発し、短時間のイオン化(プラズマ)状態となる。プラズマ状態となった電極材料はパルス放電が停止した際に反応系である液体全体で急冷されるため、液体の全域で発生した核が成長すること無くそのまま微粒子の形態で得られる。前述の通り、電極放電が進行するに従い、電極が蒸発する事により各電極間の距離が離れていく。したがって、電極放電の進行に伴い、電極間の距離を調整することが好ましい。電極間の距離は、手動で調整してもよいし、モーター等を用いて自動的に調整してもよい。対向する電極間の距離は、使用する電極の素材やパルス放電の条件により適宜変更可能である。例えば、対向する電極間の距離を、0.01~0.1mmとしてもよい。
【0028】
パルス放電を行っている最中に、新たに発生した微粒子やクラスター状態の粒子群が既に形成された微粒子に付着し、最終的に得られる微粒子の粒子径を大きくしてしまう場合がある。このような場合には、パルス放電をする間に、液体、特に電極間の液体に流れを持たせるために、電極間に気泡を供給し及び/又は液体を攪拌することがより好ましい。このように電極間の液体に流れを持たせることにより、生成した微粒子が電極間から離れるように液体中に拡散し、不必要に粒子径が成長した微粒子の発生をより抑制できる。液体を攪拌する方法に特に制限は無く、例えば、バブリング、ディスパー及びマグネチックスターラー等の通常用いられている攪拌手段を用いることができる。
【0029】
4.得られる微粒子
本発明の方法において、液体中で繰り返しパルス放電が行われる。これにより、瞬間的なプラズマ状態と急冷効果により、微粒子を合成することができる。また、電極や液体の種類を替えることで、様々な組み合わせの合金及び化合物の微粒子を合成できる。電極の素材を選択する事により、貴金属の微粒子も製造可能である。微粒子の粒径も、パルス放電の放電条件等反応条件を調整することにより、適宜調整可能である。条件を調整することにより、例えば、大塚電子株式会社製ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(型番ELSZ-2000ZS)を用いて測定した際の数平均粒子径が0.1~2nm、より具体的には0.6~2nmの微粒子を得る事ができる。このように得られた微粒子を、前記液体の分散液としてそのまま使用してもよい。
【0030】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、実施例が本発明の範囲に影響を与えないことは言うまでも無い。
【実施例】
【0031】
1.実施例1
容量6lのガラス製水槽に4lの純水を入れた。2本のパラジウム製の円柱形棒状電極(直径3mm、断面積7mm2、長さ10cm)を1対の棒状電極(電極X及び電極Y)として使用した。これら棒状電極を、モーターに接続され垂直下方向に伸びた2本のアームの先端に互いが水平方向に対向するように根元にてそれぞれ1本ずつ固定した。前記固定した電極を、前記アームと共に前記ガラス製水槽の水に電極が全てつかるように浸漬した。初期の電極間の距離を1mmとした。各棒状電極と電源装置とを接続し、モーターを駆動させて電極間の距離を制御しながらパルス放電を開始した。パルス放電の条件は以下の通りである:電圧40V、電流量200A、電流ピーク値180A、周波数60Hz、パルス電流の立ち上がり期間5マイクロ秒、パルス電流の継続時間17ミリ秒。前記条件で20分パルス放電を継続した。なお、パルス放電に伴い電極が蒸発し電極間の距離が広がるため、前記モーターを駆動させ、0.1mm/分の送りスピードで棒状電極をその軸方向に動かし、対向する棒状電極が融着する事がないように、15A以上の電流値が計測されると自動で停止し、棒状電極間の距離を離すように自動調整を行った。
【0032】
放電終了後の棒状電極の写真が
図2に示されている。
図2の写真の通り、各棒状電極が均一に放電された結果均一に蒸発していた。上記電極放電の結果、0.2wt%のパラジウム微粒子分散液が得られた。前記パラジウム微粒子を大塚電子株式会社製ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(型番ELSZ-2000ZS)にて測定したところ、得られた微粒子の粒子径が数平均粒子径で0.1nmであることが分かった。同機器を用いて粒度分布を計測した結果が、
図3のグラフである。
図3に示すとおり、本発明の方法により得られた微粒子は、非常に均一な粒度分布を有していた。
【0033】
2.実施例2
パラジウム製の円柱形棒状電極(直径3mm、断面積7mm
2、長さ10cm)3本を束ねた(合計断面積21mm
2)ものを2つ準備し、1対の棒状電極(電極X及び電極Y)として使用した以外、実施例1と同様に電極放電を行った。電極放電終了後の棒状電極の写真が
図4に示されている。
図4の写真の通り、各棒状電極が均一に蒸発していた。上記放電の結果、0.4wt%のパラジウム微粒子分散液が得られた。実施例1と比較して、微粒子の製造効率が向上したことが明らかである。前記パラジウム微粒子を大塚電子株式会社製ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(型番ELSZ-2000ZS)にて測定したところ、得られた微粒子の粒子径が数平均粒子径で0.2nmであることが分かった。同機器を用いて粒度分布を計測した結果が、
図5のグラフである。
図5に示すとおり、本発明の方法により得られた微粒子は、非常に均一な粒度分布を有していた。
【0034】
3.実施例3
2本の金製の円柱形棒状電極(直径3mm、断面積7mm
2、長さ10cm)を1対の棒状電極(電極X及び電極Y)として使用した以外、実施例1と同様に放電を行った。放電終了後の棒状電極の写真が
図6に示されている。
図6の写真の通り、棒状電極が均一に蒸発していた。上記放電の結果、0.1wt%の金微粒子分散液が得られた。前記金微粒子を大塚電子株式会社製ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(型番ELSZ-2000ZS)にて測定したところ、得られた微粒子の粒子径が数平均粒子径で0.4nmであることが分かった。同機器を用いて粒度分布を計測した結果が、
図7のグラフである。
図7に示すとおり、本発明の方法により得られた微粒子は、非常に均一な粒度分布を有していた。
【0035】
4.実施例4
金製の円柱形棒状電極(直径3mm、断面積7mm
2、長さ10cm)3本を束ねた(合計断面積21mm
2)ものを2つ準備し、1対の棒状電極(電極X及び電極Y)として使用した以外、実施例1と同様に放電を行った。放電終了後の棒状電極の写真が
図8に示されている。
図8の写真の通り、棒状電極が均一に蒸発していた。上記放電の結果、0.4wt%の金微粒子分散液が得られた。実施例3と比較して、微粒子の製造効率が向上したことが明らかである。前記金微粒子を大塚電子株式会社製ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(型番ELSZ-2000ZS)にて測定したところ、得られた微粒子の粒子径が数平均粒子径で0.2nmであることが分かった。同機器を用いて粒度分布を計測した結果が、
図9のグラフである。
図9に示すとおり、本発明の方法により得られた微粒子は、非常に均一な粒度分布を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の方法により、より高い効率で微粒子を製造することが可能である。このように得られた微粒子は、触媒や電子材料、医療材料等幅広い分野に利用可能である。