(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】誘導加速シンクロトロン
(51)【国際特許分類】
H05H 13/04 20060101AFI20240722BHJP
H05H 7/10 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H05H13/04 N
H05H7/10
H05H13/04 G
(21)【出願番号】P 2020042498
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100194869
【氏名又は名称】榎本 慎一
(72)【発明者】
【氏名】高山 健
(72)【発明者】
【氏名】岡村 勝也
(72)【発明者】
【氏名】川久保 忠通
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-310013(JP,A)
【文献】特開2011-113901(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0217140(US,A1)
【文献】T.Iwashita et al.,「KEK digital accelerator」,Phys. Rev. ST Accel. Beams 14, 071301,2011年07月20日
【文献】K.Takayama et al,「Induction acceleration ofheavy ions in the KEK digital accelerator: Demonstration of a fast-cyclinginduction synchrotron」,Phys. Rev. ST Accel. Beams 17, 010101,2014年01月29日
【文献】Leo Kwee Wah et al.,「Compact hadron driver forcancer therapies using continuous energy sweep scanning」,Phys. Rev. Accel. Beams 19, 042802,2016年04月26日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 3/00-15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉込用誘導加速セル及び加速用誘導加速セル
へのパルス電圧の印加によりビームバンチの閉じ込めと加速をする誘導加速シンクロトロンにおいて、
交流電源からダイオード整流器によって第一コンデンサバンクに充電される上流DC回路と、前記上流DC回路の出
力を高周波インバータによって高周波交流に変換し、昇圧トランスによって一定の高電圧に変換した後に高圧整流器によって再度直流に戻し第二コンデンサバンクに充電する中流DC回路と、中流DC回路に接続され、双方向チョッパ
回路によって第三コンデンサバンクを充電する下流DC回路を備え、加速サイクルに必要な加速用の誘導電圧パターンを下流DC回路の指令値とすることで加速用のスイッチング電源の出力電圧を加速サイクルに同期させ、
加速用
の誘導電圧を上昇させるフェーズにおいては前
記双方向チョッパ回路を順方向モードで動作させることにより、前記第三コンデンサ
バンクの電圧を上昇せしめ、
加速用
の誘導電圧を下降させるフェーズにおいては前
記双方向チョッパ回路を逆方向モードで動作させることにより前記第三コンデンサ
バンクの電圧を下降せしめ、
ビームバンチが感じる加速用
の誘導電圧を常にシンクロトロンの1ターン毎の理想的
な加速
用の誘導電圧に一致させることを特徴とする誘導加速シンクロトロン。
【請求項2】
充電用スイッチのオン時間幅を制御することで任意の電圧に充電される、入力端に反射波のエネルギーを吸収するダイオードと抵抗からなるマッチング回路を備えたパルス成形線路と、前記パルス成形線路の出力端に出力用スイッチを備え、前記出力用スイッチの投入タイミングを制御することで任意のタイミングでパルスを発生させ、発生パルスを伝送線路を通じて励磁コイルに通電できるキッカー電磁石と
充電用スイッチのオン時間幅を制御することで任意の電圧に充電されるコンデンサと任意のタイミングでターンオンすることにより前記コンデンサに蓄積された電荷を放電するサイリスタスイッチと前記サイリスタスイッチがオンした時に放電エネルギーによって励磁されるセプタムマグネット
であって前記コンデンサと並列に接続され前記コンデンサの電圧が反転したときに反対方向の放電経路となるダイオードとコイルの直列回路を備えたセプタムマグネットを備え、
任意のタイミングの1ターンで、任意のエネルギーでビームを主加速器リングから取り出すことを特徴とする
請求項1に記載の誘導加速シンクロトロン。
【請求項3】
前記ビームバンチ周回軌道のフラット運動量分散関数領域の上流に位置する偏向電磁石入口近傍の主加速器リング内側の真空容器の内壁近くで、周回ビームが当たらない箇所に炭素薄膜の膜面を前記ビームバンチからこぼれたスピルの軌道に対して垂直にして配置し、
前記スピルが前記炭素薄膜を通過することで前記スピルから電子が剥離され、前記偏向電磁石を通過することで第二照射ビームラインに導かれ、
さらに前記第二照射ビームラインに配置された第二セプタム電磁石で前記スピルの軌道を補正することで、
任意の1加速サイクル内で加速中に連続的にエネルギーをスイープしながら前記スピルを主加速器リングから取り出すことを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の誘導加速シンクロトロン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重粒子線セラピーに好適な、誘導加速セルを用いた高精度の速い繰り返しで、さらに任意タイミングの1ターンで、任意のエネルギーでビームを主加速器リングからの取り出し、また加速中に連続的にエネルギーをスイープしながらビームを主加速器リングから取り出しすることができる誘導加速シンクロトロンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導加速シンクロトロン技術は、特許文献1-5、非特許文献1-11に十分開示されている。従来の誘導加速シンクロトロンの概要は、特許文献1の特許公報(特許第3896420号)の請求項1に、
「イオンビームの通過シグナル及びイオンビームに印加された誘導電圧値を知るための誘導電圧シグナルを基に、閉込用デジタル信号処理装置及び閉込用パターン生成器で閉込用ゲート信号パターンを生成し、閉込用誘導加速セルのオン及びオフを閉込用インテリジェント制御装置により制御し、閉込用誘導加速セルによってイオンビームに印加する誘導電圧の発生タイミング及び印加時間をフィードバック制御し、
イオンビームの通過シグナル、位置シグナル及びイオンビームに印加された誘導電圧値を知るための誘導電圧シグナルを基に、加速用デジタル信号処理装置及び加速用パターン生成器で加速用ゲート信号パターンを生成し、加速用誘導加速セルのオン及びオフを加速用インテリジェント制御装置により制御し、加速用誘導加速セルによってイオンビームに印加する誘導電圧の発生タイミング及び印加時間をフィードバック制御し、
全てのイオン種の周回に同期させ、加速することを特徴とする全種イオン加速器。」
と記載のように、ビーム閉込用誘導加速セル及びビーム加速用誘導加速セルをパルス電圧でデジタル的にオン及びオフ制御することで、同一の加速器で、イオン種を限定することなく、加速器に採用される電磁石で発生する磁場強度が許す任意のエネルギーレベルに加速する技術である。
【0003】
しかしながら、ビームの入射から次のビームの入射まで数秒を想定していた特許文献1より、1/10~100程度の速い繰り返しの誘導加速シンクロトロン、重粒子線セラピーにおいて、以下の問題があった。
【0004】
[問題1]
ここで、シンクロトロンの1ターン毎の理想的加速電圧V
accは偏向電磁石の励磁パターンdB/dtにより下式(1)で一意に決められている。
V
acc=ρC
0dB/dt 式(1)
(ρは偏向電磁石での曲率半径、C
0はシンクロトロンでの軌道周長)
速い繰り返しシンクロトロンでは磁束密度B(t)のAC成分は加速器の運転周波数を持って余弦関数で変動する。これに同期した加速電圧も(1)式に従い正弦関数で変動させねばならない(
図3)。
【0005】
他方、特許文献1の構成において、これまで実証された速い繰り返しの誘導加速シンクロトロンでは定電圧のV
accしか生成できなかった。このため、誘導加速電圧の局所時間平均が(1)式を満足するように誘導加速電圧パルス密度を制御する方式が採用されていた(非特許文献4,5)。その方式では、
図2に示すように運動量分散関数がゼロでない処に置かれた誘導加速セルによるオーバー電圧の加速のため、荷電粒子の横方向の運動が励起され、結果としてエミッタンスの増大が見出され、誘導加速セルを用いた誘導加速シンクロトロンでは高精度の速い繰り返しができなかった(非特許文献9)。
【0006】
[問題2]
速い繰り返しの誘導加速シンクロトロンの1ターンにおける主加速器リングからのビームの取り出しは、従来加速終了時に合わせて、高速で立ち上げるキッカー電磁石(キッカーと略することがある)とセプタム電磁石(セプタムと略すことがある)の組み合わせで取り出す手段が採用されていたが、加速周期毎に変化可能な任意の時間に(任意のエネルギーで)ビームを取り出す手法は無かった。
【0007】
[問題3]
さらに、これまで、重粒子線セラピーにおいて、ビームの損失や照射周辺部を放射化すること無しに、照射表面部からガン患部の深部までをビームで連続的にスイープする手段はなかった。
【0008】
また、速い繰り返しの誘導加速シンクロトロンにおいて、連続的にエネルギーをスイープしながらビームを主加速器リングから取り出す手法(
図12)は非特許文献10に提案されたデバイス(電圧可変静電セプタム)を用いる手法以外には知られていない。但し、その提案されたデバイスは技術的難度が高く、まだ実現していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-310013号公報(全種イオン加速器及びその制御方法)
【文献】特開2007-18756号公報(誘導電圧制御装置及びその制御方法)
【文献】特開2007-18757号公報(シンクロトロン振動数制御装置及びその制御方法)
【文献】特開2007-18849号公報(荷電粒子ビームの軌道制御装置及びその制御方法)
【文献】特開2007-165220号公報(誘導加速装置及び荷電粒子ビームの加速方法)
【非特許文献】
【0010】
【文献】K.Takayama and J.Kishiro, “Induction Synchrotron”, Nucl. Inst. and Meth. A 451, 304-317(2000).
【文献】Y. Sato et al., “Charge fraction of 6.0 MeV/n heavy ions with a carbon foil: Dependence on the foil thickness and projectile atomic number”, Nucl. Inst. Meth. B 201, 571 (2003).
【文献】K.Takayama et al., "Experimental Demonstration of the Induction Synchrotron", Phys. Rev. Lett. 98, 054801 (2007).
【文献】Tanuja Dixit, T. Iwashita, and Ken Takayama, “Induction Acceleration Scenario from an Extremely Low Energy in the KEK All-Ion Accelerator”, Nucl. Inst. Meth. A 602, 326-336 (2009).
【文献】T.Iwashita, T.Adachi, K.Takayama, K.W.Leo, T.Arai, Y.Arakida, M.Hashimoto, E.Kadokura, M.Kawai, T.Kawakubo, Tomio Kubo, K.Koyama, H.Nakanishi, K.Okazaki, K.Okamura, H.Someya, A.Takagi, A.Tokuchi, and M.Wake “KEK digital accelerator”, Phys. Rev. ST-AB 14, 071301 (2011).
【文献】Induction Accelerators, Ken Takayama and Richard J. Briggs (eds), (Springer, Berlin and Heidelberg, 2011)
【文献】K.Okamura, Y.Ohsawa, M.Wake, T.Yoshimoto, R.Sasaki, K.Takaki, and K.Takayama, “Beam Acceleration Experiment with SiC Based Power Supply and the Next Generation SiC-JFET Package” , Material Science Forum 778-780, pp 883-886 (2014).
【文献】N. Munemoto, K.Takayama, K.Okamura et al., “Direct injection of fully stripped carbon ions into a fast-cycling induction synchrotron and their capture by the barrier bucket”, Phys. Rev. Accel. and Beams 20, 080101 (2017).
【文献】K.Takayama, K.Okamura et al., “Induction Acceleration of Heavy Ions in the KEK Digital Accelerator: Demonstration of a Fast-Cycling Induction Synchrotron”, Phys. Rev. ST-AB 17, 010101 (2014).
【文献】Leo Kwee Wah, Takumi Monma, Toshikazu Adachi, Tadamichi Kawakubo, Tanuja Dixit, and Ken Takayama, “Compact hadron driver for cancer therapies using continuous energy sweep scanning”, Phys. Rev. Accelerators and Beams 19, 042802 (2016).
【文献】K.Okamura and K.Takayama, “Development of an Induction Accelerator Cell Driver Utilizing 3.3 kV SiC-MOSFETS”, Proceedings of IPAC 2017, Copenhagen, Denmark, WEPVA056.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、重粒子線セラピーに好適な、誘導加速セルを用いた高精度の速い繰り返しで、さらに任意タイミングの1ターンで、任意のエネルギーでビームを主加速器リングからの取り出し、また加速中に連続的にエネルギーをスイープしながらビームを主加速器リングから取り出しすることができる誘導加速シンクロトロンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)
閉込用誘導加速セル及び加速用誘導加速セルへのパルス電圧の印加によりビームバンチの閉じ込めと加速をする誘導加速シンクロトロンにおいて、
前記加速用誘導加速セルを駆動する加速用のスイッチング電源の上流に接続された第三コンデンサバンク及び前記第三コンデンサバンクの上流に接続された双方向チョッパ回路からなる下流DC回路と、前記下流DC回路の上流に接続した第二コンデンサバンクと、
を備え、
前記下流DC回路の電圧を増加させるフェーズでは、前記双方向チョッパ回路を順方向モードで駆動し前記第三コンデンサバンクを充電し、
前記下流DC回路の電圧を低下させるフェーズでは、前記双方向チョッパ回路を逆方向モードで駆動することにより前記第三コンデンサバンクを放電することで、
高精度の速い繰り返を可能としたことを特徴とする誘導加速シンクロトロン。
(2)
前記ビームバンチの周回軌道に配置され前記ビームバンチを第一照射ビームラインに導くキッカー電磁石と、
前記第一照射ビームラインに配置されビームの軌道を補正する第一セプタム電磁石を含み、
任意のタイミングの1ターンで、任意のエネルギーでビームを主加速器リングから取り出すため、前記キッカー電磁石と前記第一セプタム電磁石の充電電圧を前記任意のタイミングに必要な電圧に制御することを特徴とする
(1)に記載の誘導加速シンクロトロン。
(3)
前記ビームバンチ周回軌道のフラット運動量分散関数領域の上流に位置する偏向電磁石入口近傍の主加速器リング内側の真空容器の内壁近くで、周回ビームが当たらない箇所に炭素薄膜の膜面を前記ビームバンチからこぼれたスピルの軌道に対して垂直にして配置し、
前記スピルが前記炭素薄膜を通過することで前記スピルから電子が剥離され、前記偏向電磁石を通過することで第二照射ビームラインに導かれ、
さらに前記第二照射ビームラインに配置された第二セプタム電磁石で前記スピルの軌道を補正することで、
任意の1加速サイクル内で加速中に連続的にエネルギーをスイープしながら前記スピルを主加速器リングから取り出すことを特徴とする
(1)又は(2)に記載の誘導加速シンクロトロン。
とした。なお、(1)、(2)は、従来の誘導加速シンクロトロンにも適用できる。
【0013】
より詳しくは、
[問題1に関して]
図1に示す速い繰り返しの誘導加速シンクロトロン1において、加速用誘導加速装置の加速用誘導加速セルを駆動するスイッチング電源の動作を
図4に示すように三部構成のスイッチング機構で制御する。
【0014】
すなわち、スイッチング機構は、
・1つは交流電源からダイオード整流器によって第一コンデンサバンクに充電される上流DC回路、
・2番目は上流DC回路の出力を高周波インバータによって高周波交流に変換し、昇圧トランスによって一定の高電圧に変換した後に高圧整流器によって再度直流に戻し第二コンデンサバンクに充電する中流DC回路、
・3番目は中流DC回路に接続され、双方向チョッパによって第三コンデンサバンクを充電する下流DC回路である。
【0015】
そして、加速サイクルに必要な加速用の誘導電圧パターンを下流DC回路の司令値とすることで出力電圧を加速サイクルに同期させ、ビームバンチが感じる加速用の誘導電圧を式1の電圧Vaccと一致させる。すなわち、加速用のスイッチング電源のコンデンサに加速サイクルに同期してハーフサインの電圧プロフィールになる様に可変電圧充電をする。
【0016】
下流DC回路の電圧を増加させるフェーズでは、上記の双方向チョッパ回路を順方向モードで駆動することにより、第三コンデンサが充電される。
下流DC回路の電圧を低下させるフェーズでは、上記双方向チョッパ回路を逆方向モードで駆動することにより前記第三コンデンサを放電する。より具体的には、以下の通りの制御となる。
【0017】
図4に示す、上流DC回路の充電部のダイオード整流器は交流電源に接続され交流を直流に変換する。第一コンデンサバンクは直流電圧のエネルギーを貯蔵する。
【0018】
高周波インバータは第一コンデンサバンクの直流電圧を高周波の交流電圧に変換する。昇圧トランスは前記交流電圧を昇圧する。高圧整流器は昇圧トランスによって昇圧された高周波電圧を直流に変換する。
【0019】
第二コンデンサバンクは高圧エネルギーを貯蔵する。下流の双方向チョッパは第二コンデンサバンクの高圧エネルギーを下流の第三コンデンサバンクとの間でやり取りする。第三コンデンサバンクは、加速電圧のエネルギーを貯溜する。
【0020】
さらに下流の加速用のスイッチング電源は制御装置より送られるパルス発生トリガー信号を用いて加速に必要な加速用の高電圧パルスを発生する。
【0021】
制御装置は上位のタイミング制御装置より送られるタイミング信号および内蔵する誘導電圧パターンに従って第三コンデンサバンクの充電電圧が所望の電圧になるように双方向チョッパの動作制御をする。
【0022】
[問題2に関して]
速い繰り返しの誘導加速シンクロトロンの任意時間に1ターンでビームを取り出す、1ターンビーム取り出し用のキッカー電磁石とセプタム電磁石の組み合わせは既存のものである。
【0023】
1ターンでのビームの取り出しタイミングは照射プログラムによって事前に決められる。一方、照射ドーズプロフィールの実時間測定結果をキッカー電源制御系にフィードバックして決定することも可能である。
【0024】
図5に見るように任意の時間にキッカー電磁石をトリガーし、任意のエネルギーのビームバンチを主加速器リング外の第一照射ビームラインに引き出す、更に第一セプタム電磁石のサポートで、主加速器リング域から第一照射ビームラインの軌道へと導く。
【0025】
キッカー励磁電源は
図6に示す構成で以下に説明する様に動作させる。励磁電源の等価回路(
図6(キッカー電磁石励磁電源)、
図7(第一セプタム電磁石励磁電源))に示す充電・放電方式を採用する事により、ビームの取り出しタイミングに対応する磁気剛性を与えるキッカー電磁石磁場、セプタム電磁石磁場まで励磁する。
【0026】
図6に示すキッカー電磁石用電源のスイッチSW-1をオンし、例えば、2本の25m長、25オームの同軸線(
図6中の
PFN)に充電する。次のビームの取り出しタイミングに必要とするPFNの電圧に達したタイミングで、SW-1をオフにする。
【0027】
この状態でビームの取り出しタイミングまで待ち、SW-2をオンにする。回路電流は2本の25オームの同軸線を経由して、キッカー電磁石の励磁コイルを流れる。回路端部を短絡しておけば、逆電流がキッカー励磁コイル、同軸伝送線、SW-2、PFN、ダイオードDを経由して流れ、12.5オームのマッチング抵抗Rで失われる。
【0028】
図7に示す第一セプタム電磁石用電源のコンデンサCmがスイッチSWcを通して高圧電源HVから充電される。コンデンサCmが次のビームの取り出しタイミングに必要とする充電量に達したら、SWcはオフされる。ビームの取り出しタイミングでサイリスタ―スイッチSCRをONする。電流はコンデンサCmから第一セプタム電磁石の励磁コイルへ流れる。電流が転流すると自動的にSCRはオフになる。転流した電流はダイオードDrとインダクタンスLrを通して、コンデンサCmが再充電完了するまで流れる。その時点でコンデンサCmが次のビームの取り出しタイミング時に必要な電圧に不足している場合はSWcをオンにして充電を行う。逆に電圧オーバーであれば、スイッチSWdをオンし、放電して必要な充電電圧を維持する。
【0029】
ビームの取り出しタイミングは重粒子線セラピーの治療プロトコルで決定されるが、取り出しタイミングに関係する制御情報は充電時間制御情報としてキッカー、第一セプタムの2つの電源に送られる。
【0030】
[問題3に関して]
限られた領域に大きな運動量分散関数(
図2)を有する重粒子線セラピー用の速い繰り返しの誘導加速シンクロトロン1(
図1)を用意する。非特許文献10に提案された(以降、エネルギースイープビーム取り出し法とも呼ぶ)バリアーバケット加速で使用されているバリアーバケットに捕獲したビームの一部(スピル)に対してバケツからこぼす手法を5価の炭素イオン(C
5+)や1価のヘリウムイオン(He
+)の様な完全電離状態の一歩手前の価数を持ったイオンに適用する。
【0031】
非特許文献10に示された様に、誘導加速セルからビームに印加される加速用誘導加速電圧パルスと閉込用誘導電圧パルスの発生タイミングをスイッチング電源でデジタル制御し、取り出すスピルの強度と取り出しタイミングは決定される。
【0032】
下流の照射ビームスポットの深度方向の位置モニター信号(例えば照射ビームの癌患部ブラッグピーク近傍から発生する即発ガンマー線の信号)を高速計算機にて処理をして、上記デジタル制御にフィードバックし、必要な照射するスピルプロフィールを得る。照射するスピルの取り出しは具体的に以下の通りの制御となる。
【0033】
大きな運動量分散関数の位置で、バリアーバケットからこぼれた5価の炭素イオン(C
5+)のスピルの軌道は、もはや加速されていないので磁場のランプに合わせて、ビームが周回する真空容器の主加速器リング内側の内壁面近くに徐々に近寄る(
図8)。
【0034】
フラット運動量分散関数領域の上流に位置する偏向電磁石の入口近傍の主加速器リング内側の真空容器の内壁近くで、周回ビームが当たらない箇所に炭素薄膜の膜面をスピルの軌道に対して垂直にして配置する(
図8)。薄膜を通過する5価の炭素イオンは、炭素薄膜の構成原子との相互作用により残された最後の周回電子をはぎ取られ、6価(即ち完全電離)の炭素イオン(C
6+)に変換される。
【0035】
6価の炭素イオンは、炭素薄膜の位置の直ぐ下流に置かれた偏向電磁石でバリア
バケット内に留まっているC
5+ビームに比較して大きな偏向を受け、軌道を大きく主加速器リングの内側に曲げられ、周回する5価の炭素イオンの軌道から大きく分離される(
図9)。
【0036】
したがって、C6+に変換したビームは出口下流ではすでに主加速器リングの中心周回軌道から見ると大きな軌道変位となって現れる。この6価の炭素イオンはそのまま、主加速器リングの主電磁石と同様に励磁される第二セプタム磁石等を用い主加速器リング外の第二照射ビームラインへ取り出され、ガン患部照射領域へとガイドされる。
【0037】
主加速器リングに繋がる第二セプタム電磁石などC6+照射されるスピルの伝搬用電磁石は速い繰り返しシンクロトロンの励磁パターンと同期して励磁を行い、照射されるスピルの伝搬ラインの真空容器内ビーム軌道をそのエネルギーに関係なく(ビーム取り出しタイミングに関係なく)常に真空容器の中心に保持される。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、従来技術では不可能であった、重粒子線セラピーに好適の高精度の速い繰り返しの誘導加速シンクロトロンが実現し、ビーム軌道の放射化などの悪影響を完全に回避した理想的加速が可能になった。
【0039】
さらに、加速中の任意のタイミングの1ターンで、任意のエネルギーでビームを主加速器リングから取り出すことが可能になった。
【0040】
また、本発明により、照射ビームのロスやロスに伴うガン患部照射エリア一体の放射化を避け、ガン患部の深部方向への自由な照射、連続的スイープ照射が可能になった。
【0041】
本発明により、速い繰り返しの誘導加速シンクロトロン特有の高速照射を最大限活かし、動く臓器中に位置するガン患部の追尾照射が可能になった。現行の呼吸同期照射などの照射時間ロスが大幅に削減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は重粒子線セラピー用の速い繰り返しの誘導加速シンクロトロン(単に、セラピー加速器ともいう)の構成を示す図である。 QF:収束用4極磁石 QD:発散用4極磁石
【
図2】
図2は、セラピー加速器のリングラッティス関数である。
【
図3】
図3は、理想的な加速用の誘導加速電圧パターンの一例である。
【
図4】
図4は三部構成の加速用のスイッチング電源の駆動説明図(スイッチング機構の一例)で、スイッチング電源は特許文献1と同じである。閉じ込め用と加速用のスイッチグ電源は別々であるが、構成は同じである。閉込用のスイッチング電源の制御、動作は特許文献1と同じである。
【
図5】
図5は、1ターンでの可変エネルギーのビームの取り出しの説明図である。
【
図6】
図6は、キッカー電磁石励磁電源の回路図である。
【
図7】
図7は、第一セプタム電磁石励磁電源の回路図である。
【
図8】
図8は、価数変換用電子剥離炭素薄膜装置の構成図である。
【
図9】
図9は、価数変換されたスピルの取り出し原理(軌道分離)の説明図である。
【
図10】
図10は、1ターンビーム取り出し用のキッカー電磁石励磁電流の制御例である。
【
図11】
図11は、1ターンビーム取り出し用の第一セプタム電磁石励磁電流の制御例である。
【
図12】
図12は、非特許文献10の連続的なビームの取り出しを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明は下記形態例に限定されるものではない。
【0044】
図1に、重粒子線セラピー:ESCORT(Energy Sweep Compact Rapid Cycling Therapy)を実現するコア技術(誘導加速、エネルギー可変ビームスピルの取り出し)を含む、速い繰り返しの誘導加速シンクロトロン1(単に、「セラピー加速器」ともいう)を示す。
【0045】
閉込用・加速用誘導加速装置は、閉込用・加速用誘導加速セルからビームに印加される誘導電圧(パルス電圧)をオンオフすることで、ビームを閉じ込め、加速する既存の装置である。詳細は特許文献1-5を参照されたい。
【0046】
キッカー電磁石は、1ターンでのビームの取り出し用で、プログラムでトリガー時間と充電量が制御されて動作する。
【0047】
第一セプタム電磁石は、1ターンでのビームの取り出し用で、加速器周期毎に変動する取り出しビームのエネルギーに対応する磁場をピーク時に発生できるような半サイン形状の励磁電流を通電し、第一照射ビームラインにおいてビーム軌道を補正する。
【0048】
キッカー電磁石と第一セプタム電磁石の充電電圧を、上述のように、任意の取り出しタイミングに必要な電圧に制御し、ビームを第一照射ビームラインに取り出す。
【0049】
炭素薄膜は、粒子から電子を剥離し、価数変換する。
【0050】
第二セプタム電磁石は、主加速器の電磁石と同じ励磁パターンで励磁され。上流の偏向電磁石による軌道変更を補助し、エネルギースイープしてスピルを第二照射ビームラインに取り出す。
【0051】
重粒子線セラピーで必要とするイオンビームエネルギーや加速粒子数への要求はほぼ決まっている。それを実現するESCORT仕様も既存炭素線セラピーに対応する標準的なものが既に提示されている。
【0052】
1ターンビーム取り出し用のキッカー電磁石に典型的パラメーターを仮定し、本発明の電源回路構成を仮定してなされた計算機シミュレーション結果を
図10に示す。I(Rm)はキッカー電磁石に通電する加速周期毎の電流波形を示すものであり、図に示されているように、パルス毎に自由自在にその電流ピーク値を変化させ得る事が分かる(計算時間の節約のため加速周期は意図的に短縮している)。
【0053】
1ターンビーム取り出し用の第一セプタム電磁石に典型的パラメーターを仮定し、本発明の電源回路構成を仮定してなされた計算機シミュレーション結果を
図11に示す。I(Lm)は第一セプタム電磁石に通電する加速周期毎の電流波形を示すものであり、図に示されているように、パルス毎に自由自在にその電流ピーク値を変化させ得る事が分かる(計算時間の節約のため加速周期は意図的に変更している)。
【符号の説明】
【0054】
1 誘導加速シンクロトロン