(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3204 20160101AFI20240722BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20240722BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20240722BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20240722BHJP
【FI】
F16J15/3204 201
F16C33/78 D
F16C33/78 Z
F16J15/447
F16J15/3232 201
(21)【出願番号】P 2020118008
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】上池 孝明
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-009673(JP,A)
【文献】実開昭55-140124(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72-33/82
F16J 15/3204-15/3236
F16J 15/40-15/453
F16J 15/54-15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に同軸回転される内側部材及び外側部材のうちの一方の第1部材に取り付けられ、環状の芯部材に固着された弾性部材のリップ部が前記内側部材及び前記外側部材のうちの他方の第2部材に設けられたシール溝の側面に接触する密封装置であって、
前記リップ部は、前記芯部材の第2部材側端部から前記シール溝の側面に向けて延出する基端側片部と、該基端側片部に対して屈曲状に設けられ該基端側片部の先端部から前記シール溝の側面に沿うように延出する先端側片部と、該先端側片部の先端部から前記シール溝の側面に向けて突出するように設けられ該側面に接触する突部と、を備えて
おり、
前記先端側片部の延出方向に沿う寸法は、前記基端側片部の延出方向に沿う寸法よりも大きいことを特徴とする密封装置。
【請求項2】
相対的に同軸回転される内側部材及び外側部材のうちの一方の第1部材に取り付けられ、環状の芯部材に固着された弾性部材のリップ部が前記内側部材及び前記外側部材のうちの他方の第2部材に設けられたシール溝の側面に接触する密封装置であって、
前記リップ部は、前記芯部材の第2部材側端部から前記シール溝の側面に向けて延出する基端側片部と、該基端側片部に対して屈曲状に設けられ該基端側片部の先端部から前記シール溝の側面に沿うように延出する先端側片部と、該先端側片部の先端部から前記シール溝の側面に向けて突出するように設けられ該側面に接触する突部と、を備えており、
前記基端側片部は、前記シール溝の側面側となる被密封空間側に向けて斜めに延びるように設けられ、前記先端側片部は、前記リップ部が自然状態において、前記シール溝の側面に平行となるように、かつ前記基端側片部とは逆側となる外部空間側に向けて斜めに延びるように設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
相対的に同軸回転される内側部材及び外側部材のうちの一方の第1部材に取り付けられ、環状の芯部材に固着された弾性部材のリップ部が前記内側部材及び前記外側部材のうちの他方の第2部材に設けられたシール溝の側面に接触する密封装置であって、
前記リップ部は、前記芯部材の第2部材側端部から前記シール溝の側面に向けて延出する基端側片部と、該基端側片部に対して屈曲状に設けられ該基端側片部の先端部から前記シール溝の側面に沿うように延出する先端側片部と、該先端側片部の先端部から前記シール溝の側面に向けて突出するように設けられ該側面に接触する突部と、を備えており、
前記基端側片部は、その厚さ寸法が前記先端側片部の厚さ寸法よりも大きく、かつ前記シール溝の側面側となる被密封空間側に向けて斜めに延びるように設けられ、前記先端側片部は、前記基端側片部とは逆側となる外部空間側に向けて斜めに延びるように設けられており、前記基端側片部と前記先端側片部との屈曲部が前記シール溝の側面に近接されて潤滑剤の漏出を抑制する非接触シール部を構成することを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記先端側片部は、前記リップ部が自然状態において、前記シール溝の側面に平行となるように設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項1または
4において、
前記基端側片部は、前記シール溝の側面側となる被密封空間側に向けて斜めに延びるように設けられ、前記先端側片部は、前記基端側片部とは逆側となる外部空間側に向けて斜めに延びるように設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項1
,2,4,5のいずれか1項において、
前記基端側片部は、その厚さ寸法が前記先端側片部の厚さ寸法よりも大きく、
該先端側片部との屈曲部が前記シール溝の側面に近接されて潤滑剤の漏出を抑制する非接触シール部を構成することを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、相対的に同軸回転される内側部材及び外側部材を備えた軸受装置に装着される密封装置が知られている。このような密封装置としては、一方の部材に装着される芯金に弾性部材からなるリップ部を設け、このリップ部を他方の部材に弾性的に接触させる構成とされたものが知られている。
例えば、下記特許文献1には、外輪の内周面に嵌合固定されるシール部材に、環状の芯金と、この芯金に固着され、内輪のシール溝の内側面に接触される高摩耗材からなるシールリップ部を有した弾性部材と、を設けた転がり軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された転がり軸受では、シールリップ部の先端部分が摩耗するまでは強い接触力が与えられて回転側部材のトルクが高くなる傾向があり、また、シールリップ部の先端部分の摩耗によって摩耗粉が生じる懸念があり、更なる改善が望まれる。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、回転側部材の低トルク化を図るとともに、リップ部の摩耗を抑制し得る密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明に係る密封装置は、相対的に同軸回転される内側部材及び外側部材のうちの一方の第1部材に取り付けられ、環状の芯部材に固着された弾性部材のリップ部が前記内側部材及び前記外側部材のうちの他方の第2部材に設けられたシール溝の側面に接触する密封装置であって、前記リップ部は、前記芯部材の第2部材側端部から前記シール溝の側面に向けて延出する基端側片部と、該基端側片部に対して屈曲状に設けられ該基端側片部の先端部から前記シール溝の側面に沿うように延出する先端側片部と、該先端側片部の先端部から前記シール溝の側面に向けて突出するように設けられ該側面に接触する突部と、を備えており、前記先端側片部の延出方向に沿う寸法は、前記基端側片部の延出方向に沿う寸法よりも大きいことを特徴とする。
前記目的を達成するために、本発明に係る密封装置は、相対的に同軸回転される内側部材及び外側部材のうちの一方の第1部材に取り付けられ、環状の芯部材に固着された弾性部材のリップ部が前記内側部材及び前記外側部材のうちの他方の第2部材に設けられたシール溝の側面に接触する密封装置であって、前記リップ部は、前記芯部材の第2部材側端部から前記シール溝の側面に向けて延出する基端側片部と、該基端側片部に対して屈曲状に設けられ該基端側片部の先端部から前記シール溝の側面に沿うように延出する先端側片部と、該先端側片部の先端部から前記シール溝の側面に向けて突出するように設けられ該側面に接触する突部と、を備えており、前記基端側片部は、前記シール溝の側面側となる被密封空間側に向けて斜めに延びるように設けられ、前記先端側片部は、前記リップ部が自然状態において、前記シール溝の側面に平行となるように、かつ前記基端側片部とは逆側となる外部空間側に向けて斜めに延びるように設けられていることを特徴とする。
前記目的を達成するために、本発明に係る密封装置は、相対的に同軸回転される内側部材及び外側部材のうちの一方の第1部材に取り付けられ、環状の芯部材に固着された弾性部材のリップ部が前記内側部材及び前記外側部材のうちの他方の第2部材に設けられたシール溝の側面に接触する密封装置であって、前記リップ部は、前記芯部材の第2部材側端部から前記シール溝の側面に向けて延出する基端側片部と、該基端側片部に対して屈曲状に設けられ該基端側片部の先端部から前記シール溝の側面に沿うように延出する先端側片部と、該先端側片部の先端部から前記シール溝の側面に向けて突出するように設けられ該側面に接触する突部と、を備えており、前記基端側片部は、その厚さ寸法が前記先端側片部の厚さ寸法よりも大きく、かつ前記シール溝の側面側となる被密封空間側に向けて斜めに延びるように設けられ、前記先端側片部は、前記基端側片部とは逆側となる外部空間側に向けて斜めに延びるように設けられており、前記基端側片部と前記先端側片部との屈曲部が前記シール溝の側面に近接されて潤滑剤の漏出を抑制する非接触シール部を構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る密封装置は、上述のような構成としたことで、回転側部材の低トルク化を図るとともに、リップ部の摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】(a)、(b)は、本発明の一実施形態に係る密封装置の一例及びこの密封装置が組み込まれた軸受装置の一例を模式的に示し、(a)は、一部破断概略縦断面図、(b)は、(a)におけるX部に対応させた一部を省略した一部破断概略縦断面図である。
【
図2】(a)は、同密封装置が備えるリップ部の自然状態を模式的に示し、
図1(b)に対応させた一部破断概略縦断面図、(b)、(c)は、同密封装置の変形例をそれぞれ模式的に示し、(a)に対応させた一部破断概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
図1及び
図2(a)は、本実施形態に係る密封装置の一例及びこの密封装置が組み込まれる軸受装置の一例を模式的に示す図である。
【0010】
本実施形態に係る密封装置10は、相対的に同軸回転される内側部材4及び外側部材2のうちの一方の第1部材に取り付けられる。
図1(a)では、この密封装置10を、外輪を構成する外側部材2と内輪を構成する内側部材4とを備えた軸受装置1に組み込んだ例を示している。
この軸受装置1は、例えば、外側部材2がハウジング等に嵌め込まれ、内側部材4に軸9が挿通され、内側部材4が軸9とともに外側部材2に対して回転される構成とされている。また、この軸受装置1は、外側部材2と内側部材4との間に転動体(図例では、玉)6を介装させた転がり軸受装置とされている。この軸受装置1は、自動車等の各種車両のトランスミッションの軸9を支持するものである。
これら外側部材2と内側部材4との間には、全周に亘って環状に被密封空間8が形成される。
【0011】
被密封空間8には、単列の転動体6がリテーナ(保持器)7に保持された状態で、外側部材2の軌道輪2a及び内側部材4の軌道輪4aを転動可能に介装されている。この被密封空間8には、グリースが適度に充填されている。図例では、軸受装置1として、外側部材2及び内側部材4に、溝状の軌道輪2a,4aを設けた深溝玉軸受を例示している。
【0012】
図1(a)に示すように、被密封空間8における軸方向両側には、それぞれ、外側部材2と内側部材4との間に、密封装置10,10が被密封空間8を間に挟むように装着されている。これら軸方向両側の密封装置10,10によって被密封空間8がシールされ、被密封空間8内への異物等の侵入や被密封空間8内に充填されたグリースの外部への漏出が抑制される。なお、軸方向両側に設けられた密封装置10,10は、互いに同様の構成であるので、以下では、一方の密封装置10を例にとって説明する。また、密封装置10が組み込まれる軸受装置1としては、上記したような構成とされたものに限られず、その他、種々の構成とされたものでもよい。
【0013】
密封装置10は、環状の芯部材11と、芯部材11に固着された弾性部材14と、を備えている。弾性部材14は、内側部材4及び外側部材2のうちの他方の第2部材に設けられたシール溝5の側面5bに接触するリップ部15を備えている。本実施形態では、密封装置10は、第1部材としての外側部材2に取り付けられ、第2部材としての内側部材4のシール溝5の側面5bにリップ部15が接触する構成とされている。リップ部15は、密封装置10の径方向一方側となる内径(軸心)側に設けられている。
【0014】
この密封装置10は、軸9と同心状の環状に形成されている。この密封装置10の芯部材11は、ステンレス鋼板や冷間圧延鋼板(SPCC)等の金属材から形成された環状体である。
この芯部材11は、軸方向に沿って延びる円筒部12と、この円筒部12の軸方向一方(外部空間)側端部に連なり、該端部から内径側に向けて延出する円板部13と、を備えている。図例では、外側部材2の内周面3aを、軸方向他方(被密封空間8)側の内周面よりも拡径状に形成された凹段部3の段底面としている。
【0015】
弾性部材14は、ゴム材(弾性材料)からなり、芯部材11に全周に亘って固着一体とされている。
この弾性部材14は、芯部材11の円筒部12の外周面を覆い、芯部材11の円板部13の外側面を覆うように設けられている。また、弾性部材14は、円筒部12の軸方向他方(被密封空間8)側の端面を覆うように設けられている。芯部材11の円筒部12が、弾性部材14を介して外側部材2の内周面3aに嵌合(内嵌)される。また、密封装置10が外側部材2に装着された状態では、円筒部12の被密封空間8側の端面を覆う弾性部材14の部位が外側部材2の凹段部3の一側面に当接する。なお、外側部材2の凹段部3の一側面は、外部空間側を向く面である。
【0016】
また、図例では、密封装置10が外側部材2に装着された状態で、密封装置10の外部空間側に向く面と外側部材2及び内側部材4の外部空間側に向く端面とが略同一平面となる構成とした例を示している。
また、弾性部材14は、芯部材11の円板部13の内径側端部13aの軸心側端面及び被密封空間8側面を覆うように設けられている。弾性部材14には、この円板部13の内径側端部13aを覆う部位にリップ部15が一連状に設けられている。
【0017】
リップ部15は、円板部13の内径側端部13aから内側部材4に設けられたシール溝5の側面5bに向けて近接するように延出する基端側片部16を備えている。また、リップ部15は、基端側片部16に対して屈曲状に設けられ基端側片部16の先端部からシール溝5の側面5bに沿うように延出する先端側片部17を備えている。また、リップ部15は、先端側片部17の先端部からシール溝5の側面5bに向けて突出するように設けられ側面5bに接触する突部18を備えている。このような構成とすれば、基端側片部16と、この基端側片部16に対して屈曲状に設けられた先端側片部17と、によってリップ部15を構成することができる。従って、シール溝5の側面5bに向けて延出する部分のみによって構成されたリップ部に比べて、リップ部15の延出方向に沿う寸法を大きくすることができる。これにより、基端側片部16と先端側片部17との境界部に屈曲部15aが設けられることも相俟ってリップ部15が撓み易くなる。従って、リップ部15が受ける反力(締付力)を低減させることができ、回転側部材(本実施形態では、内側部材4)の低トルク化を図ることができる。また、これにより、シール溝5の側面5bに接触される突部18の摩耗を抑制することができる。
【0018】
本実施形態では、先端側片部17は、
図2(a)に示すように、リップ部15が自然状態(弾性変形していない状態)において、シール溝5の側面5bに平行となるように設けられている。このような構成とすれば、リップ部15が自然状態において、先端側片部17が基端側片部16の先端部から延びるに従いシール溝5の側面5bに近接するように斜めに延びるものと比べて、リップ部15の反力を効果的に低減させることができる。また、先端側片部17とシール溝5の側面5bとの隙間が屈曲部15a側において大きくなることがなく、先端側片部17がシール溝5の側面5bに近接する領域を拡大することができ、シール性を向上させることができる。
【0019】
また、本実施形態では、基端側片部16は、シール溝5の側面5b側となる被密封空間8側に向けて斜めに延びるように設けられている。換言すれば、基端側片部16は、被密封空間8側に向かいつつ軸方向及び径方向に交差するように延びている。また、先端側片部17は、基端側片部16とは逆側となる外部空間側に向けて斜めに延びるように設けられている。換言すれば、先端側片部17は、外部空間側に向かいつつ軸方向及び径方向に交差するように延びている。このような構成とすれば、基端側片部16が軸方向に延び、先端側片部17が径方向に延びるようなリップ部と比べて、撓み易くなり、リップ部15の反力を効果的に低減させることができる。
また、本実施形態では、基端側片部16は、その厚さ寸法T1が先端側片部17の厚さ寸法T2よりも大きい。そして、先端側片部17との屈曲部15aがシール溝5の側面5bに近接されて潤滑剤の漏出を抑制する非接触シール部Sを構成する。このような構成とすれば、基端側片部16の厚さ寸法T1を先端側片部17の厚さ寸法T2よりも大きくして先端側片部17よりも撓み難くし、その屈曲部15aをシール溝5の側面5bに近接させて非接触シール部Sとして機能させることができる。これにより、別途にグリースリップを設けたものと比べて、リップ部15を配置するスペースの省スペース化を図りながらも潤滑剤の漏出を抑制することができる。
【0020】
また、本実施形態では、先端側片部17の延出方向に沿う寸法(延出寸法)L2は、基端側片部16の延出方向に沿う寸法(延出寸法)L1よりも大きく形成されている。このような構成とすれば、先端側片部17がより撓み易くなり、リップ部15の反力を効果的に低減させることができる。以下、リップ部15及びシール溝5の具体的構成の一例について説明する。
内側部材4のシール溝5は、外径側及び外部空間側に開放された環状の凹段部として形成されている。このシール溝5は、径方向外側に向く段周面を構成する溝周面5aと、外部空間側に向く段壁面を構成する側面5bと、によって区画されている。このシール溝5の溝周面5aは、軸9と同軸な円筒の外周面である。また、このシール溝5の側面5bは、被密封空間8側に向かうに従い拡径するテーパ状の傾斜面として形成されている。図例では、径方向断面(径方向に沿って切断した断面)視において、溝周面5aと側面5bとのなす角度を115度程度とした例を示しているが、このような角度に限られず、95度~130度程度としてもよい。
【0021】
基端側片部16は、芯部材11の円板部13の内径側端部13aから被密封空間8側に向かうに従い縮径する円錐台状に形成されている。図例では、径方向断面視において、この基端側片部16と芯部材11の円板部13とのなす角度を135度程度とした例を示しているが、120度~150度程度であってもよい。
この基端側片部16の延出方向先端部となる屈曲部15aは、シール溝5の側面5bに近接しており、シール溝5の側面5bとの間に非接触シール部Sを構成する隙間が形成されている。図例では、屈曲部15aは、シール溝5の被密封空間8側に連なる内側部材4の外周面と概ね同一平面上に位置するように設けられている。
【0022】
この基端側片部16の延出寸法L1は、図例では、芯部材11の円板部13の内径側端部13aから屈曲部15aの厚さ方向略中心までの延出方向に沿う寸法である。この基端側片部16の延出寸法L1は、屈曲部15aがシール溝5の側面5bに対して非接触状態でかつ側面5bとの間に非接触シール部Sを構成する隙間が形成される寸法である。
また、基端側片部16は、屈曲部15aに向かうに従い厚さ寸法T1が小さくなるように形成されている。つまり、この基端側片部16は、基端側片部16における円板部13側部位の厚さ寸法T1よりも屈曲部15a側の厚さ寸法T1が小さく形成されている。先端側片部17の厚さ寸法(突部18が設けられていない部位の厚さ寸法)T2は、この基端側片部16の最も厚さ寸法T1が小さい屈曲部15a側部位よりも小さく形成されている。図例では、先端側片部17の厚さ寸法T2を、基端側片部16の屈曲部15a側部位の厚さ寸法T1の概ね1/2程度とした例を示しているが、このような例に限られない。
【0023】
先端側片部17は、本実施形態では、
図2(a)に示すように、自然状態において、傾斜面とされたシール溝5の側面5bに平行に設けられている。このような構成とすれば、シール溝5及びリップ部15の公差によってシール溝5の側面5bと先端側片部17との間隔が小さくなった場合にも、リップ部15が撓み易くなるのでシール溝5の側面5bに突部18が過剰に圧接されることを抑制することができる。
この先端側片部17は、屈曲部15aから外部空間側に向かうに従い縮径する円錐台状に形成されている。また、先端側片部17は、自然状態において、シール溝5の側面5bに対面される面が側面5bに平行となるように形成されている。図例では、この先端側片部17の厚さ方向両面が自然状態においてシール溝5の側面5bに平行な構成とした例を示している。自然状態における先端側片部17とシール溝5の側面5bとが平行とは、完全に平行であるものに限られず、概ね平行であればよい。例えば、先端側片部17と側面5bとのなす角度が15度以下程度とされたものも含むものであってもよい。
【0024】
また、図例では、自然状態のリップ部15の径方向断面視において、この先端側片部17と基端側片部16とのなす角度が180度よりも小さい、具体的には、110度程度となる例が示されているが、80度~140度程度としてもよい。
また、この先端側片部17の延出寸法L2は、図例では、屈曲部15aの厚さ方向略中心から当該先端側片部17の延出方向先端までの延出方向に沿う寸法である。図例では、この先端側片部17の延出寸法L2を、基端側片部16の延出寸法L1の2倍程度とした例を示している。
また、この先端側片部17の厚さ寸法T2は、屈曲部15aから突部18が設けられた部位まで概ね一様な厚さとされている。
【0025】
突部18は、先端側片部17の先端部に設けられ、被密封空間8側に向かって突出している。より具体的には、突部18は、先端側片部17の被密封空間8側の面に設けられ、シール溝5の側面5bと対向している。この突部18は、
図1(b)に示すように、リップ部15の弾性変形を伴ってシール溝5の側面5bに当接される。図例では、突部18は、径方向断面視において、先端に向かうに従い先細り状に形成されている。この突部18の先端は、その弾性変形を伴って、シール溝5の側面5bに対して当接される。つまり、突部18は、シール溝5の側面5bに対して当接された状態で、その先端側が押し潰される。また、上記した先端側片部17は、この突部18がシール溝5の側面5bに当接した状態においても側面5bに対して概ね平行とされている。また、屈曲部15aは、リップ部15の弾性変形を伴って突部18がシール溝5の側面5bに当接した状態においても側面5bとの間に非接触シール部Sを構成する隙間が形成されるように設けられている。なお、この突部18は、全周に亘って設けられている。
【0026】
次に、本実施形態に係る密封装置及びこれが組み込まれる軸受装置の変形例について説明する。
なお、以下の変形例では、先に説明した例との相違点について主に説明し、同様の構成については、同一符号を付し、その説明を省略または簡略に説明する。また、先に説明した例と同様に奏する作用効果についても説明を省略または簡略に説明する。
【0027】
図2(b)は、第1変形例に係る密封装置10A及びこれが組み込まれる軸受装置1Aの一例を模式的に示している。
本変形例では、内側部材4Aのシール溝5Aが凹段部ではなく、外径側に向けて開口し周方向に延びる凹溝である。このシール溝5Aは、上記と概ね同様な溝周面5a及び側面5bと、外部空間側の溝壁面5cと、によって区画されている。図例では、溝壁面5cは、外部空間側に向かうに従い拡径するテーパ状の傾斜面として形成されている。また、内側部材4Aの外部空間側縁部には、溝壁面5cの外径側端部に連なり、外径側に向く縁外周面5dが設けられている。
密封装置10Aの弾性部材14Aには、内側部材4Aの縁外周面5dに向けて近接するように延出する外部側リップ部19が設けられている。この外部側リップ部19は、内側部材4Aの縁外周面5dとの間に外部側非接触シール部S1を構成する隙間が形成されるように設けられている。このような構成とすれば、外部側非接触シール部S1によって被密封空間8側への異物等の侵入や外部空間側へのグリースの漏出をより効果的に抑制することができる。
【0028】
外部側リップ部19は、芯部材11の円板部13の内径側端部13aから内径側に向けて延出し、外部空間側の側面が弾性部材14Aの円板部13側面を覆う部位の外部空間側の側面と同一平面となるように設けられている。また、この外部側リップ部19の被密封空間8側の側面は、外部空間側に向かうに従い縮径するテーパ状の傾斜面である。つまり、この外部側リップ部19は、内径側に向かうに従い厚さ寸法が小さくなるように形成されている。図例では、この外部側リップ部19の被密封空間8側の側面をシール溝5Aの側面5bと平行となるように設けた例を示している。この外部側リップ部19は、内側部材4Aの縁外周面5dとの間に外部側非接触シール部S1を構成する隙間が形成されるように、その延出寸法が適宜設定されている。
【0029】
図2(c)は、第2変形例に係る密封装置10B及びこれが組み込まれる軸受装置1Bの一例を模式的に示している。
本変形例においても、上記第1変形例と概ね同様、内側部材4Bのシール溝5Bは、外径側に向けて開口し周方向に延びる凹溝とされている。図例では、シール溝5Bの溝幅寸法、より特定的には溝周面5aの軸方向に沿う寸法を、第1変形例よりも大きくした例を示している。
また、本変形例においても、上記第1変形例と概ね同様、弾性部材14Bに、内側部材4Bの縁外周面5dに向けて近接するように延出する外部側リップ部19Aを設けた例を示している。本変形例では、外部側リップ部19Aは、芯部材11の円板部13側の端部から延出方向先端までの厚さ寸法が略一様な厚さとされ、円板部13側の端部から外部空間側に向けて径方向に対して斜めに延びるように設けられている。
【0030】
なお、上記した各例では、基端側片部16及び先端側片部17を径方向に対して斜めに延びる形状とした例を示しているが、基端側片部16を軸方向に延出する形状としたり、先端側片部17を径方向に延出する形状としたりしてもよい。また、上記した各例では、先端側片部17を、リップ部15が自然状態でシール溝5,5A,5Bの側面5bに平行な形状とした例を示しているが、このような態様に限られない。また、上記した各例では、シール溝5,5A,5Bの側面5bを傾斜面とした例を示しているが、軸方向に対して垂直な垂直面としてもよい。上記各例に係る密封装置10,10A,10B及びこれが組み込まれる軸受装置1,1A,1Bを構成する各部材及び各部の構成は、上記した例に限られず、その他、種々の変形が可能である。
【0031】
例えば、先端側片部17に設けられた突部18の突出寸法は、突部18がシール溝5,5A,5Bの側面5bに当接するとともに、先端側片部17がシール溝5,5A,5Bの側面5bに非接触状態で近接対向するような寸法としてもよい。また、突部18は、周方向に間隔を空けて間欠的に設けられたものであってもよい。また、突部18には、被密封空間8側と外部空間側とを連通させるスリットや連通溝等が設けられていてもよい。
先端側片部17の厚さ寸法T2は、基端側片部16の厚さ寸法T1以上としてもよい。また、先端側片部17の延出寸法L2は、リップ部15の配置スペースに応じて適宜の寸法としてもよく、延出方向先端がシール溝5,5A,5Bの溝周面5aに対して非接触状態となるように適宜の寸法としてもよい。先端側片部17の延出寸法L2は、基端側片部16の延出寸法L1の1.1倍~3倍程度であってもよく、基端側片部16の延出寸法L1以下としてもよい。
基端側片部16の延出寸法L1は、リップ部15の配置スペースに応じて適宜の寸法としてもよい。また、基端側片部16の延出寸法L1は、上記各例のような態様に代えて、屈曲部15aと側面5bとの間に比較的大きな隙間が形成されるような寸法や、屈曲部15aが側面5bに対面しないような位置に留まるような寸法としてもよい。
【0032】
密封装置10,10A,10Bは、回転側となる外側部材2に取り付けられるものであってもよい。また、密封装置10,10A,10Bは、外側部材2に取り付けられるものに限られず、内側部材4,4A,4Bに取り付けられるものであってもよい。
芯部材11は、板金加工されたものであってもよく、繊維強化樹脂等の樹脂製であってもよい。
弾性部材14,14A,14Bに用いられるゴムの材質は特に限定されないが、例えば、NBR、H-NBR、EPDM、ACM、AEM、FKM、シリコーンゴム等が挙げられる。
外側部材2の内周面3aに、軸心側に向けて開口する取付溝を設け、この取付溝に弾性変形を伴って嵌め入れられる凸条を弾性部材14,14A,14Bに設けた構成等としてもよい。なお、弾性部材14,14A,14Bは、上記のように円筒部12の外周面や円板部13の側面を覆うように設けられたものに限られず、円板部13の内径側端部13aのみに固着されたものであってもよい。
【0033】
また、上記各例において、被密封空間8内の潤滑剤は、オイルのはね掛け、ノズルからのオイルの噴射、オイルバス等によって供給されるものであってもよい。
軸受装置1,1A,1Bとしては、外側部材2と内側部材4,4A,4Bとの間に、複列状に転動体6が設けられたものであってもよい。また、軸受装置1,1A,1Bとしては、上記したような深溝玉軸受に限られず、アンギュラ玉軸受であってもよい。また、軸受装置1,1A,1Bとしては、転動体6を玉(ボール)とした玉軸受に限られず、転動体6を円筒ころや円錐ころ等としたころ軸受であってもよく、また、外側部材2及び内側部材4,4A,4Bのうちの一方にフランジ状やハブ状の固定部等を有した軸受装置1,1A,1Bであってもよい。軸受装置1,1A,1Bは、各種車両のトランスミッションの軸9を支持するものに限られず、その他、種々の回転部として設けられる軸9を支持するものであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
10,10A,10B 密封装置
11 芯部材
14,14A,14B 弾性部材
15 リップ部
15a 屈曲部
16 基端側片部
17 先端側片部
18 突部
2 外側部材(第1部材)
4,4A,4B 内側部材(第2部材)
5,5A,5B シール溝
5b 側面
8 被密封空間
L1 基端側片部の延出寸法(延出方向に沿う寸法)
L2 先端側片部の延出寸法(延出方向に沿う寸法)
T1 基端側片部の厚さ寸法
T2 先端側片部の厚さ寸法
S 非接触シール部