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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池膜を形成する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20240722BHJP
   H01M 8/1018 20160101ALI20240722BHJP
   H01M 8/103 20160101ALI20240722BHJP
   H01M 8/1072 20160101ALI20240722BHJP
   H01M 8/1081 20160101ALI20240722BHJP
   H01M 8/1086 20160101ALI20240722BHJP
   C08G 73/18 20060101ALI20240722BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20240722BHJP
   C08L 79/04 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/1018
H01M8/103
H01M8/1072
H01M8/1081
H01M8/1086
C08G73/18
C08K3/32
C08L79/04 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021514050
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2019051036
(87)【国際公開番号】W WO2020056275
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】62/731,156
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591049136
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ サウス カロライナ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】ベニスウィッツ,ブライアン・シー
(72)【発明者】
【氏名】マードック,ローラ
(72)【発明者】
【氏名】ピンギトーレ,アンドルー・ティー
(72)【発明者】
【氏名】ワン,リーフイ
(72)【発明者】
【氏名】ホァン,フェイ
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-500567(JP,A)
【文献】特表2013-507742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックスフロー電池膜を形成する方法であって、
ポリリン酸、芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノ化合物、及び芳香族又はヘテロ芳香族カルボン酸化合物を含む重合組成物であって、前記芳香族又はヘテロ芳香族カルボン酸化合物は、芳香族又はヘテロ芳香族ポリカルボン酸又はそのエステル、無水物、又は酸塩化物を含み、及び/又は芳香族又はヘテロ芳香族ジアミノカルボン酸を含む重合組成物を形成すること;
前記芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノ化合物を前記芳香族又はヘテロ芳香族カルボン酸化合物と重合して、前記ポリリン酸中に溶解したポリベンズイミダゾールを含むポリマー溶液を形成すること;
前記ポリマー溶液を成形して、前記ポリマー溶液を含む膜前駆体を形成すること;
前記膜前駆体のポリリン酸の少なくとも一部を加水分解してリン酸及び水を形成し、それにより、前記膜前駆体が、前記ポリベンズイミダゾールを含むゲル膜を形成すること、ここで、当該ゲル膜が、構造を失うことなく60重量%以上の液体含有物を含ませることができる自己支持膜であり;
前記ゲル膜をすすいでリン酸及び残存するポリリン酸を除去して、すすがれたゲル膜を形成すること;及び
前記すすぐ工程で得られた前記すすがれたゲル膜に、レドックスフロー電池支持電解質を吸収させること;
を含み、
前記吸収工程の前または後に、前記ポリベンズイミダゾールが架橋されてもよい、
前記方法。
【請求項2】
前記重合組成物が、前記重合組成物の10重量%以下の濃度の前記芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノ化合物及び前記芳香族又はヘテロ芳香族カルボン酸化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノ化合物が、2,3,5,6-テトラアミノピリジン;3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルスルホン;3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルエーテル;3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル;1,2,4,5-テトラアミノベンゼン;3,3’,4,4’-テトラアミノベンゾフェノン;3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルメタン;及び3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルジメチルメタン、又はそれらの塩、或いはそれらの任意の組合せを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記芳香族又はヘテロ芳香族カルボン酸化合物が、ピリジン-2,5-ジカルボン酸;ピリジン-3,5-ジカルボン酸;ピリジン-2,6-ジカルボン酸;ピリジン-2,4-ジカルボン酸;4-フェニル-2,5-ピリジンジカルボン酸;3,5-ピラゾールジカルボン酸;2,6-ピリミジンジカルボン酸;2,5-ピラジンジカルボン酸;2,4,6-ピリジントリカルボン酸;ベンズイミダゾール-5,6-ジカルボン酸;5-ヒドロキシイソフタル酸;4-ヒドロキシイソフタル酸;2-ヒドロキシテレフタル酸;5-アミノイソフタル酸;5-N,N-ジメチルアミノイソフタル酸;5-N,N-ジエチルアミノイソフタル酸;2,5-ジヒドロキシテレフタル酸;2,6-ジヒドロキシイソフタル酸;4,6-ジヒドロキシイソフタル酸;2,3-ジヒドロキシフタル酸;2,4-ジヒドロキシフタル酸;3,4-ジヒドロキシフタル酸;1,8-ジヒドロキシナフタレン-3,6-ジカルボン酸;ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸;イソフタル酸;テレフタル酸;フタル酸;3-フルオロフタル酸;5-フルオロイソフタル酸;2-フルオロテレフタル酸;テトラフルオロフタル酸;テトラフルオロイソフタル酸;テトラフルオロテレフタル酸;3-スルホフタル酸;5-スルホイソフタル酸;2-スルホテレフタル酸;テトラスルホフタル酸;テトラスルホイソフタル酸;テトラスルホテレフタル酸;1,4-ナフタレンジカルボン酸;1,5-ナフタレンジカルボン酸;2,6-ナフタレンジカルボン酸;2,7-ナフタレンジカルボン酸;ジフェン酸;ジフェニルエーテル 4,4’-ジカルボン酸;ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸;ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸;4-トリフルオロメチルフタル酸;2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン;4,4’-スチルベンジカルボン酸;及び4-カルボキシ桂皮酸、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記膜前駆体が20μm~4,000μmの厚さを有する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記加水分解を、0℃~150℃の温度及び20%~100%の相対湿度において行う、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ゲル膜のポリベンズイミダゾールを架橋することを含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ポリベンズイミダゾールが、前記ゲル膜を酸素の存在下で加熱することにより、又は放射線の作用により架橋される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリベンズイミダゾールが、エピクロロヒドリン、ジエポキシド、ジイソシアネート、α,ω-ジハロアルカン、ジアクリレート、及びビスアクリルアミドからなる群から選択される架橋剤を用いて架橋される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記すすぐ工程が、洗浄溶液のpHを求めることを含み、前記洗浄溶液のpHが中性であると決定された時点で、前記すすぐ工程が完了したことを決定することを含む、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の方法であって
前記レドックスフロー電池膜は、100mS/cm以上の2.6M硫酸溶液中における面内イオン伝導率を示す、前記方法
【請求項12】
前記ゲル膜の前記ポリベンズイミダゾールが、次の繰り返し単位:
【化1】

【化2】


【化3】


(式中、n及びmは、それぞれ独立して、1以上である)
の1以上又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1~11のいずれかに記載の方法
【請求項13】
前記支持電解質が、塩酸、硝酸、フルオロスルホン酸、又は硫酸、或いはそれらの混合物のような鉱酸;酢酸、ギ酸、p-トルエンスルホン酸、又はトリフルオロメタンスルホン酸、或いはそれらの混合物のような強有機酸;或いは1以上の鉱酸及び/又は1以上の有機酸の組合せを含むか;或いは前記支持電解質が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、又はそれらの任意の組合せを含むか、或いは前記支持電解質が、テトラアルキルアンモニウムカチオンを含む、請求項1~12のいずれかに記載の方法
【請求項14】
前記レドックスフロー電池膜が架橋されている、請求項1~13のいずれかに記載の方法
【請求項15】
レドックスフロー電池膜を含むレドックスフロー電池を製造するための方法であって、前記方法は、請求項1~14のいずれかに記載の方法にしたがって前記レドックスフロー電池膜を形成することを含み、
前記レドックスフロー電池は、100mA/cm以上の電流密度で作動させることができる、上記方法
【請求項16】
前記レドックスフロー電池がバナジウムフロー電池である、請求項15に記載の方法
【請求項17】
前記レドックスフロー電池が、242mA/cmの電流密度において、90%以上のクーロン効率及び/又は75%以上のエネルギー効率及び/又は80%以上の電圧効率を有する、請求項15又は16に記載の方法
【請求項18】
前記レドックスフロー電池が、483mA/cmの電流密度において、90%以上のクーロン効率及び/又は65%以上のエネルギー効率及び/又は65%以上の電圧効率を有する、請求項15~17のいずれかに記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本出願は、2018年9月14日の出願日を有する、「フロー電池用のポリベンズイミダゾール(PBI)膜」と題された米国仮特許出願第62/731,156号(全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる)の出願の利益を主張する。
【0002】
[0002]本発明は、エネルギー省によって授与された登録番号DE-AR0000767での政府支援を受けてなされたものである。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
[0003]エネルギー部門に対する増加する需要により、新たな再生可能エネルギー機器のシームレスな統合と同時に、グリッド管理とバックアップ電源を更に含む大規模なエネルギー貯蔵デバイスに対する新たなニーズが生まれている。レドックスフロー電池は、大量のエネルギーを効率的に貯蔵し、且つかかるニーズを満たすためのコスト要件を満足する未だ満足されていない可能性を有する。レドックスフロー電池は、それぞれの電解液が酸化還元により原子価が変化するレドックス対(或いはレドックスカップルという)を形成する金属イオン(活物質)を含む、イオン交換膜によって分離された正極電解液と負極電解液とを用いることによって充電及び放電を行う。
【0004】
[0004]残念ながら、レドックスフロー電池の広範な採用は、デバイス製造の高いコストによって制限されてきた。例えば、バナジウムレドックスフロー電池(VRB)においては、コストの大部分はバナジウム電解質に起因する。かかるコストは、電気化学スタックの寸法を減少させることによって軽減することができる。しかしながら、これを効率的に達成し、高い電力密度を維持するためには、電池は高電流負荷下で作動させることができなければならない。レドックスフロー電池において使用される従来の膜(一般に、Nafion(登録商標)のようなペルフルオロスルホン酸膜)は、劣ったイオン伝導体であり、高電流負荷下での作動を維持することができず、したがって、これらの膜を組み込んだ電池はより高いコストのより大きなセルスタックを必要とする。レドックスフロー電池のコストを低減し、全体的な性能を向上させる試みにおいて、膜を開発する動きが急増しているが、限られた結果しか得られていない。
【0005】
[0005]イオン交換膜は、レドックスフロー電池の主要構成要素であり、電池の出力、容量、寿命、及びコストに重要な影響を及ぼす。レドックス対電解質イオンの低いクロスオーバー、並びに高電流負荷において機能する能力が要求されていることに加えて、イオン交換膜は、機械的及び化学的安定性並びに高い耐久性を示さなければならない。レドックスフロー電池のイオン交換膜は、常に電解液中に浸漬されており、したがって酸化などによる劣化に耐えることができなければならず、膜の耐久性はレドックスフロー電池の寿命を決定する主な要因になっている。
【0006】
[0006]幾つかのタイプのリン酸(PA)ドープポリベンズイミダゾール(PBI)膜は、種々の電気用途における使用が考えられている。従来のPBI膜は、高温ポリマー電解質膜としてのそれらの性能が最も顕著に知られている。また、これらの従来のPBI膜は、電気化学的水素分離、SO脱分極電解槽、及びレドックスフロー電池のような複数の新しいデバイスのために考えられてきた。今日まで、レドックスフロー電池のためのPBI膜に関する研究は、従来のメタ-ポリベンズイミダゾール(m-PBI)及びその誘導体に焦点を当ててきた。電気化学的用途において使用するための従来のPBI膜は、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)中で溶液キャストして緻密なフィルムを形成し、次に形成されたフィルム膜を所望の電解質中で吸収させること(「従来の混合プロセス」という)によって製造されている。残念なことに、これらの従来のPBI膜は、電解液中で吸収させた場合には極めて低いイオン伝導率(20mS・cm-1未満)を示し、約100mA・cm-2を超える電流負荷においては作動させることができないことが示された。更に、従来のPBI膜のための従来の吸収プロセスは時間がかかり、環境に優しくない技術であり、膜製造プロセスのコストを増大させる。
【0007】
[0007]より最近においては、ポリリン酸(PPA)溶媒中にPBIポリマーを含む重合組成物を直接キャストすることを含む、PBIゲル膜を製造する方法が開発されている。その後にPPAをPBIに対する貧溶媒であるPAに加水分解することにより、形成された状態でPAが吸収されたPBIゲル膜の固化が誘発される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
[0008]高いイオン伝導性を示し、高電流負荷下で作動させることができ、同時にレドックスフロー電池の厳しい環境において非常に安定且つ耐久性でもあるレドックスフロー電池用のイオン交換膜が、当該技術において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[0009]一実施形態によれば、レドックスフロー電池膜を形成する方法が開示される。この方法には、ポリリン酸(PPA)、芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノ化合物、及び芳香族又はヘテロ芳香族カルボン酸化合物を含む重合組成物を形成することを含ませることができる。芳香族カルボン酸化合物は、芳香族又はヘテロ芳香族ポリカルボン酸又はそのエステル、無水物、又は酸塩化物、或いは芳香族又はヘテロ芳香族ジアミノカルボン酸であってよい。この方法はまた、重合組成物の化合物を、例えば加熱することによって重合して、化合物の重合及びポリベンズイミダゾール(PBI)溶液の形成を行うことも含む。
【0010】
[0010]重合の後、PBIポリマー溶液を成形して膜前駆体を形成することができ、溶液のPPAを加水分解して、それによってリン酸(PA)及び水を形成し、膜前駆体のポリマーを固化させて、PA及び水が吸収されたPBIゲル膜を形成することができる。PBIゲル膜は、高い液体含量を導入して構造を保持することができ、即ち、例えば約40重量%以下の低い固体含量においても自己支持構造を維持することができるので、従前公知の従来のPBI膜とは異なる。この方法には、PBIゲル膜にレドックスフロー電池支持電解質(その一例は硫酸である)を吸収させることを更に含ませることができる。例えば、形成された状態のPBIゲル膜の高い液体含量(一般に約60重量%以上)を維持しながら、形成された状態のPBIゲル膜を水で数回洗浄することができ、次にレドックスフロー電池支持電解質を含む溶液と接触させて、それによってPBIゲル膜に支持電解質を吸収させてレドックスフロー電池膜を形成することができる。
【0011】
[0011]また、PBIゲル膜(即ち高い液体含量で自己支持性であるPBI膜)、及びPBIゲル膜中に吸収されたレドックスフロー電池支持電解質を含むレドックスフロー電池膜も開示される。本レドックスフロー電池膜は、例えば2.6M龍酸溶液中で約100mS/cm以上の高いイオン伝導率を示すことができる。
【0012】
[0012]また、レドックスフロー電池膜を組み込んだレドックスフロー電池も記載する。レドックスフロー電池には、アノード液とカソード液とを分離する上記記載のレドックスフロー電池膜を含ませることができる。開示されるレドックスフロー電池は、高い電流密度、例えば約100mA/cm以上で作動させることができる。レドックスフロー電池には、当該技術において公知の他の電池部品(例えば、電極、集電体、フローラインなど)を含ませることができ、シングルセルスタック又はマルチセルスタック内に単一のセル又は複数のセルを含ませることができる。
【0013】
[0013]当業者に対するそのベストモードを含む本発明の完全かつ実施可能な開示を、添付の図面の参照を含む本明細書の残りの部分においてより詳細に示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】[0014]図1は、本明細書に記載の膜を組み込むことができるレドックスフロー電池を概略的に示す。
図2】[0015]図2は、記載したレドックスフロー電池内に含ませることができるマルチセルスタックを概略的に示す。
図3】[0016]図3は、本明細書に記載の膜を組み込んだVRBの電圧効率(VE)、クーロン効率(CE)、及びエネルギー効率(EE)を示す。
図4】[0017]図4は、従来のPBI膜を組み込んだVRBと比較した図3のVRBについての分極曲線を示す。
図5】[0018]図5は、本明細書に記載の膜を組み込んだVRBのVE、CC、及びEEを示す。
図6】[0019]図6は、従来のPBI膜を組み込んだVRBと比較した図5のVRBの分極曲線を示す。
図7】[0020]図7は、本明細書に記載の膜を組み込んだVRBのVE、CC、及びEEを示す。
図8】[0021]図8は、本明細書に記載の膜を組み込んだVRBのVE、CC、及びEEを示す。
図9】[0022]図9は、本明細書に記載の膜を組み込んだVRBのVE、CC、及びEEを示す。
図10】[0023]図10は、比較の膜を組み込んだVRBのVE、CC、及びEEを示す。
図11】[0024]図11は、比較の膜を組み込んだVRBについての分極曲線を、それぞれが本明細書に記載の膜を組み込んだ2つの他の電池と比較する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[0025]本明細書及び図面における参照符号の繰り返しの使用は、本発明の同一又は類似の特徴又は要素を表すことを意図している。
[0026]ここで、開示する主題の種々の実施形態を詳細に参照し、その1以上の例を以下に記載する。それぞれの実施形態は、主題の説明の目的で与えられ、それを限定するものではない。実際に、主題の範囲又は精神から逸脱することなく、本発明において種々の修正及び変更を行うことができることは、当業者には明らかであろう。例えば、一実施形態の一部として図示又は説明される特徴を他の実施形態において使用して、更に他の実施形態を生成させることができる。
【0016】
[0027]本発明は、一般に、レドックスフロー電池イオン交換膜、かかる膜を形成する方法、及びかかる膜を組み込んだレドックスフロー電池に関する。レドックスフロー電池膜は、ポリベンズイミダゾール(PBI)膜、より具体的にはPBIゲル膜に基づく。本明細書で利用される「ゲル」という用語は、一般に、高い液体内容物を含ませて自己支持構造を維持することができるポリマーマトリクスを指す。例えば、本明細書に記載のPBIゲル膜は、ポリマーマトリクスの構造を失うことなく、複合体膜(全固形分+液体含量)の約60重量%以上、約65重量%以上、約75重量%以上、約80重量%以上、又は約85重量%以上の液体を含み得る。一実施形態においては、PBIゲル膜は、自己支持半剛性構造を維持しながら約60重量%~約95重量%の液体を含み得、即ちポリマーマトリクスの構造を失うことなく、操作して柔軟性を示すことができる。更に、PBIゲル膜を処理してゲルから液体を除去し、次に液体を再吸収させて、ポリマーマトリックスの構造を失うことなく再膨潤させることができる。
【0017】
[0028]本レドックスフロー電池膜は、高い伝導性及び低いセル抵抗を示し得、これにより高電流負荷条件下において高い性能で作動させることが可能になり、これは他の技術と比較して同じか又はより良好な性能を与えるより小さく且つより低コストの電気化学スタックを有する電池を示すことができる。例えば、記載されるレドックスフロー電池膜は、約100mS/cm以上、約200mS/cm以上、又は幾つかの実施形態においては約300mS/cm以上の、2.6M硫酸溶液中における面内イオン伝導率を示し得る。架橋した膜は、約300mS/cm以上、約400mS/cm以上、又は約500mS/cm以上のような非常に高い面内イオン伝導率を示し得る。例えば、本レドックスフロー電池は、幾つかの実施形態においては約100mS/cm~約600mS/cmの、2.6M硫酸溶液中における面内イオン伝導率を示し得る。
【0018】
[0029]更に、開示される膜を組み込んだ電池は、高い電流密度、例えば約100mA/cm以上、例えば幾つかの実施形態においては約100mA/cm~約500mA/cmで作動させることができる。更に、記載するレドックスフロー電池膜を組み込んだ電池は、高い効率で作動させることができる。例として、242mA/cmの電流密度において、記載される膜を組み込んだレドックスフロー電池は、約90%以上、例えば幾つかの実施形態においては約93%~約99%のクーロン効率(CE);約75%以上、例えば幾つかの実施形態においては約78%~約85%のエネルギー効率(EE);及び約80%以上、例えば約81%~約87%の電圧効率(VE)を示し得る。483mA/cmの電流密度においては、記載されるレドックスフロー電池は、90%以上、例えば幾つかの実施形態においては約94%~約98%のCE;約65%以上、例えば幾つかの実施形態においては約65%~約75%のEE;及び約65%以上、例えば約66%~約77%のVEを示し得る。
【0019】
[0030]本レドックスフロー電池膜の性能特性は、PBIゲル膜を使用することに基づく。この膜を組み込んだ電池及び電池セルは、例えば20mS/cm未満の非常に低いイオン伝導率を示す従来のPBIポリマー膜に基づくイオン交換膜を組み込んだものと比較して遙かに改良されている。更に、従来のPBIポリマー膜を組み込んだ電池は、約80mA/cmより高い電流密度で機能することができない。いかなる特定の理論にも縛られることは望まないが、本発明のレドックスフロー電池膜の優れた特性は、膜構造を形成するポリマーマトリックスの形態に起因すると考えられる。本明細書に更に記載するように、本発明のゲル膜は、PPAポリマー溶媒の加水分解、及びその後の加水分解生成物(PA)中におけるPBIポリマーの固化を含む方法にしたがって形成される。このin situ加水分解及びポリマーの固化は、有機溶媒の溶液としてキャストされ、続いて例えば加熱によって有機溶媒を除去することによって固化された従来の有機溶液キャストPBI膜とは分子構造が異なる秩序化ポリマーマトリックスの形成をもたらすと考えられる。特に、PBIゲル膜構造は、伝統的なPBI膜と比較して、より開放されていて規則的な骨格を含み、PBIマトリックスの骨格は、記載される改良された電気化学的特性を示す安定なゲル膜を与えると考えられる。
【0020】
[0031]非常に望ましい電気化学的特性に加えて、PBIポリマーをベースとするレドックスフロー電池膜は、レドックスフロー電池環境における劣化に対して高耐性である。例えば、本発明の膜は、酸化性バナジウム溶液中において分解を少ししか又は全く示さない。したがって、本発明の膜は長期間の活性を与えることができ、その膜を組み込んだレドックスフロー電池のコストが更に減少する。
【0021】
[0032]レドックスフロー電池膜として使用するためのPBIゲル膜を形成するためにに、PPA及び選択されるPBI形成化合物、例えばPBI形成モノマーを含む重合組成物を形成することができる。重合組成物のモノマー含量は、一般に低く、例えば約10重量%以下、約8重量%以下、又は幾つかの実施形態においては約5重量%以下であってよい。
【0022】
[0033]PBIゲル膜のPBIポリマーは、当該技術において一般に知られている任意のPBI構造を有していてよく、少なくとも1種類の芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノ化合物、及び少なくとも1種類の芳香族又はヘテロ芳香族ポリカルボン酸又はそのエステル、無水物、又は酸塩化物、又は少なくとも1種類の芳香族又はヘテロ芳香族ジアミノカルボン酸を含むPBI形成化合物の重合によって形成することができる。本発明に包含されるヘテロ芳香族化合物としては、芳香環中に少なくとも1つの窒素、酸素、イオウ、又はリン原子を含む芳香族系が挙げられる。
【0023】
[0034]PBIゲル膜を形成する際に使用することができる芳香族及びヘテロ芳香族テトラアミノ化合物の例としては、限定なしに、2,3,5,6-テトラアミノピリジン;3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルスルホン;3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルエーテル;3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル;1,2,4,5-テトラアミノベンゼン;3,3’,4,4’-テトラアミノベンゾフェノン;3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルメタン;及び3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルジメチルメタン、及びそれらの塩、例えばモノ-、ジ-、トリ-、及びテトラヒドロクロリド塩、並びに芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノモノマーの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0024】
[0035]一実施形態においては、芳香族ポリカルボン酸としてジカルボン酸を挙げることができる。ジカルボン酸は、単独か、又は1種類以上の更なるポリカルボン酸化合物、例えばトリカルボン酸及び/又はテトラカルボン酸と組み合わせて使用することができる。含ませる場合には、トリカルボン酸又はテトラカルボン酸の含量は、一般に、1種類以上のジカルボン酸化合物の量を基準として約30モル%以下、例えば約0.1モル%~約20モル%、又は約0.5モル%~約10モル%であってよい。ポリカルボン酸のC~C20-アルキルエステル又はC~C12-アリールエステルのようなポリカルボン酸のエステルを使用することができる。ポリカルボン酸の無水物又はポリカルボン酸の酸塩化物は、開示された方法にしたがって重合することができる。
【0025】
[0036]芳香族ジカルボン酸の例としては、限定なしに、ピリジン-2,5-ジカルボン酸;ピリジン-3,5-ジカルボン酸;ピリジン-2,6-ジカルボン酸;ピリジン-2,4-ジカルボン酸;4-フェニル-2,5-ピリジンジカルボン酸;3,5-ピラゾールジカルボン酸;2,6-ピリミジンジカルボン酸;2,5-ピラジンジカルボン酸;2,4,6-ピリジントリカルボン酸;ベンズイミダゾール-5,6-ジカルボン酸;5-ヒドロキシイソフタル酸;4-ヒドロキシイソフタル酸;2-ヒドロキシテレフタル酸;5-アミノイソフタル酸;5-N,N-ジメチルアミノイソフタル酸;5-N,N-ジエチルアミノイソフタル酸;2,5-ジヒドロキシテレフタル酸;2,6-ジヒドロキシイソフタル酸;4,6-ジヒドロキシイソフタル酸;2,3-ジヒドロキシフタル酸;2,4-ジヒドロキシフタル酸;3,4-ジヒドロキシフタル酸;1,8-ジヒドロキシナフタレン-3,6-ジカルボン酸;ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸;イソフタル酸;テレフタル酸;フタル酸;3-フルオロフタル酸;5-フルオロイソフタル酸;2-フルオロテレフタル酸;テトラフルオロフタル酸;テトラフルオロイソフタル酸;テトラフルオロテレフタル酸;3-スルホフタル酸 ;5-スルホイソフタル酸;2-スルホテレフタル酸;テトラスルホフタル酸;テトラスルホイソフタル酸;テトラスルホテレフタル酸;1,4-ナフタレンジカルボン酸;1,5-ナフタレンジカルボン酸;2,6-ナフタレンジカルボン酸;2,7-ナフタレンジカルボン酸;ジフェン酸;ジフェニルエーテル4,4’-ジカルボン酸;ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸;ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸; 4-トリフルオロメチルフタル酸;2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン;4,4’-スチルベンジカルボン酸;及び4-カルボキシ桂皮酸、又はそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0026】
[0037]芳香族トリカルボン酸及びそのエステル、酸無水物、並びに酸塩化物の例としては、限定なしに、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸);1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸);(2-カルボキシフェニル)イミノ二酢酸;3,5,3’-ビフェニルトリカルボン酸;及び3,5,4’-ビフェニルトリカルボン酸;又はそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0027】
[0038]芳香族テトラカルボン酸及びそのエステル、酸無水物、並びに酸塩化物の例としては、限定なしに、3,5,3’,5’-ビフェニルテトラカルボン酸;ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸;ベンゾフェノンテトラカルボン酸;3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸;2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸;1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸;及び1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸;又はそれらの任意の組合せを挙げることができる。
【0028】
[0039]ヘテロ芳香族カルボン酸としては、ヘテロ芳香族ジカルボン酸、ヘテロ芳香族トリカルボン酸、及びヘテロ芳香族テトラカルボン酸(ヘテロ芳香族カルボン酸のC~C20-アルキルエステル、C~C12-アリールエステルのようなそれらのそれぞれのエステル、又は酸無水物、若しくは酸塩化物を含む)を挙げることができる。ヘテロ芳香族カルボン酸の例としては、限定なしに、ピリジン-2,5-ジカルボン酸;ピリジン-3,5-ジカルボン酸;ピリジン-2,6-ジカルボン酸;ピリジン-2,4-ジカルボン酸;4-フェニル-2,5-ピリジンジカルボン酸;3,5-ピラゾールジカルボン酸;2,6-ピリミジンジカルボン酸;2,5-ピラジンジカルボン酸;2,4,6-ピリジントリカルボン酸;ベンズイミダゾール-5,6-ジカルボン酸;及びそれらのC~C20-アルキルエステル若しくはそれらのC~C12-アリールエステル、又はそれらの酸無水物若しくはそれらの酸塩化物、或いはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0029】
[0040]一実施形態においては、重合組成物にはジアミノカルボン酸を含ませることができ、その例としては、限定なしに、ジアミノ安息香酸、並びにかかる酸のモノ及びジヒドロクロリド誘導体、並びに1,2-ジアミノ-3’-カルボン酸4,4’-ジフェニルエーテル、又はそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0030】
[0041]重合組成物中において使用することができるPPAは、例えばRiedel-de Haenから入手できる商業的なPPAであってよい。PPAには、100%を超えるPA(HPO)の濃縮グレードを含ませることができる。高い濃度において、個々のHPO単位が脱水によって重合され、PPAは、式Hn+23n+1(n>1)によって表すことができる。
【0031】
[0042]PPA[Hn+23n+1(n>1)]は、例えば約70重量%以上、例えば約75重量%以上、又は約82重量%以上、例えば幾つかの実施形態においては約70重量%~約86重量%の酸滴定によって計算されるP含量を有していてよい。重合組成物は、一般に重合される化合物の性質及び重合溶液の更なる成分に応じて、モノマー/化合物の溶液、又はPPA中のモノマー/化合物の分散液/懸濁液の形態であってよい。
【0032】
[0043]重合は、化合物の好適な重合が起こるまでの温度及び時間で行うことができ、これは一般に重合組成物の粘度の増加によって求めることができる。粘度の増加は、目視検査によるか、固有粘度の測定によるか、又は任意の他の好適な手段によって求めることができる。例えば、重合は、重合組成物が約0.8dL/g以上、例えば約1.0dL/g以上、又は幾つかの実施形態においては約1.5dL/g以上の固有粘度を示すまで継続することができる。重合温度は、一般に約220℃以下、例えば約200℃以下、例えば幾つかの実施形態においては約100℃~195℃であってよい。重合は、数分(例えば約5分)から数時間(例えば約100時間)までの時間にわたって行うことができる。一実施形態においては、重合組成物を、段階的に、例えば3つ以上の段階で加熱することができ、それぞれの段階は約10分~約5時間継続し、それぞれの段階について温度を約15℃以上上昇させる。もちろん、当業者に明らかなように、特定の重合条件は、一般に特定のモノマーの反応性及び濃度に応じて変化させることができ、レドックスフロー電池膜の形成において特定の重合条件は必要でない。
【0033】
[0044]PBIゲル膜の代表的なPBIポリマー繰り返し単位としては、限定なしに
【0034】
【化1】
【0035】
【化2】
【0036】
【化3】
【0037】
(ここで、n及びmは、それぞれ独立して1以上、約10以上、又は幾つかの実施形態においては約100以上である)
又はそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0038】
[0045]本明細書中に開示される膜のPBIポリマーは、当該技術において一般的に知られている任意の繰り返し単位(その任意の誘導体化形態を含む)を含んでいてよく、その例は当業者の知識の範囲内であり、その代表例は、例えばBenicewiczらの米国特許出願公開第2013/0183603号(参照により本明細書中に組み込まれる)に記載されている。
【0039】
[0046]重合の後は、ポリマーはPPA溶媒中の溶液であり得、PBIポリマー溶液を処理して、所望の厚さを有するゲル膜前駆体を形成することができる。有利には、ポリマー溶液、並びにポリマー溶液から形成されるゲル膜前駆体、及び最終的なゲル膜、及びレドックスフロー電池膜は、有機溶媒を含まなくてよい。
【0040】
[0047]膜前駆体は、キャスティング、スプレーコーティング、ナイフコーティングなど(しかしながらこれらに限定されない)の任意の好適な形成プロセスにしたがって形成することができる。例えば、ゲル膜前駆体は、一実施形態においては約20マイクロメートル(μm)~約4,000μm、例えば約30μm~約3,500μm、又は幾つかの実施形態においては約50μm~約1,000μmの厚さに形成することができる。
【0041】
[0048]ポリマーを固化させてPBIゲル膜を形成するために、PBIポリマー溶液を水及び/又は湿分の存在下で処理して、溶液のPPAの少なくとも一部を加水分解することができる。加水分解するとPPAは加水分解してPA及び水を形成し、PBIポリマーはPPAと比較してPA中に溶解しにくいので、これによってPBIポリマー溶液のゾル-ゲル転移及びポリマーの固化が引き起こされる。
【0042】
[0049]加水分解処理は、高い液体含量(例えば、膜の固体及び液体の総含量の約60重量%以上の液体含量)を導入しながら、ゲル膜を固化させて、自己支持性で且つ破壊することなく操作することができるのに充分な温度及び時間で行うことができる。例として、加水分解処理は、約0℃~約150℃、例えば約10℃~約120℃、又は約20℃~約90℃の温度、例えば、幾つかの実施形態においては(例えば約35%~100%の相対湿度接触環境においては)周囲温度で行うことができる。
【0043】
[0050]加水分解は、ゲル膜前駆体を、例えば液体又は気体状のHOと、及び/又は他の成分の存在下で接触させることによって行うことができる。例えば、ゲル膜前駆体を、水蒸気及び/又は液体水及び/又は蒸気及び/又はPA水溶液(例えば、約10重量%~約90重量%、例えば約30重量%~約70重量%、又は約45重量%~約55重量%のPA濃度を有するPA溶液)と接触させることができる。処理は標準圧力下で行うことができるが、これは形成プロセスの必須要件ではなく、幾つかの実施形態においては、加水分解処理は、変更された圧力下で行うことができる。
【0044】
[0051]一実施形態においては、加水分解は、HO含量を厳密に制御することができる気候制御雰囲気中で行うことができる。例えば、局所環境の湿分含量は、前駆体膜に接触する流体の温度又は飽和度を制御することによって制御することができる。例えば、空気、窒素、二酸化炭素、又は他の好適なガスのようなキャリヤーガスによって、前駆体膜と接触するための制御された量のHO(例えば水蒸気)を運ぶことができる。
【0045】
[0052]加水分解処理時間は、一般に、例えば、HO含量及び接触の形態、膜厚さ、接触温などのようなパラメーターに応じて変化し得る。一般に、加水分解処理は、例えば加水分解処理が過熱水蒸気を利用する場合には数秒~数分の間の時間、或いは例えば加水分解処理を周囲温度及び低い相対大気湿分において行う場合には数日の時間にわたって行うことができる。幾つかの実施形態においては、加水分解処理は、約10秒~約300時間、例え、約1分~約200時間の間の期間にわたって行うことができる。例として、PBIポリマー溶液のPPAの少なくとも部分的な加水分解を、室温(例えば約20℃)において、約20%~100%、例えば約40%~約80%の相対大気湿分含量(即ち相対湿度)の周囲空気を用いて行う実施形態においては、処理時間は一般に約5時間~約200時間であり得る。
【0046】
[0053]PBIポリマー溶液のPPAの少なくとも一部を加水分解すると、ポリマーを固化させることができ、これによりPBIゲル膜が形成される。PBIゲル膜は、一実施形態においては、約15μm~約3000μm、例えば約20μm~約2000μm、又は約20μm~約1500μmの厚さを有し得るが、任意の特定の膜厚さは必須ではない。幾つかの実施形態においては、PBIゲル膜は、膜前駆体のものよりも小さい厚さを有し得る。上記で議論したように、加水分解の後において、PBIゲル膜は、高い液体含量においても自己支持性であり得、これは固化したポリマーマトリックス中に存在する分子内及び分子間ポリマー構造に起因すると考えられる。
【0047】
[0054]形成された状態のPBIゲル膜は、一実施形態においては、液体含量を含む膜の全質量の約5重量%~約40重量%、例えば約8重量%~約30重量%、又は約10重量%~約25重量%のPBI固体含量を有し得る。形成された状態のPBIゲル膜は、自己支持性であり得、例えば、0.43mmの厚さ及び5重量%のPBI含量を有するPBIゲル膜(例えばポリベンズイミダゾール)について求めて約2.0MPa以上、例えば約3.0MPa以上、又は幾つかの実施形態においては約4.5MPa以上のヤング率を有し得る。
【0048】
[0055]PBIゲル膜からレドックスフロー電池膜を形成するためには、膜中に導入されたPA及び残存するPPAを除去し、レドックスフロー電池支持電解質で置き換えることができる。例えば、PBIゲル膜を単に水で数回洗浄して、ゲル膜中に残存するPA及びPPAを除去することができる。例えば、PBIゲル膜を一連の水浴中に浸漬し、それぞれの浴にPBIゲル膜を数分間(例えば約5分間)乃至数時間(例えば約24時間)の時間保持することができる。場合により、浴を例えば約20℃~約150℃、例えば約25℃~約90℃の温度に加熱することができるが、他の実施形態においては、膜は、特に温度制御しないで周囲温度においてすすぐことができる。PA及びPPAの除去を確認するために、洗浄溶液のpHを求めることができ、洗浄/すすぎは洗浄溶液のpHが中性になるまで継続することができる。
【0049】
[0056]場合により、PBIゲル膜は架橋することができ、これにより、膜の所望の電気化学的特性に強く影響を及ぼすことなく、電池電解液のレドックス対イオンに対する膜の透過性を減少させることができる。架橋の方法、及び形成プロセスにおいて膜を架橋する時点は特に限定されない。例えば、ゲル膜は、形成された状態のゲル膜のすすぎ/洗浄の後、及び膜に支持電解質を吸収させる前に架橋することができる。しかしながら、他の実施形態においては、膜は、すすぎ/洗浄の前、又は膜に支持電解質を吸収させた後に架橋することができる。
【0050】
[0057]一実施形態においては、PBIゲル膜は、単純に大気酸素の存在下で加熱することによって架橋することができる。架橋はまた、放射線、例えば赤外線(IR)放射線(約700nm~約1mmの波長を有する)(近赤外線(約700~約2000nmの波長又は約0.6~約1.75eVの範囲のエネルギーを有する放射線)を含む)の作用によって行うこともできる。
【0051】
[0058]架橋を行うために、PBIポリマーには、それ自体と架橋するように、又はその代わりに架橋剤、すなわちPBIポリマーの1以上の官能基(例えばアミン)と反応することができる多官能性化合物と組み合わせて、ポリマー鎖上に反応性官能基を導入することができる。架橋剤は、架橋を行うための任意の好適な官能基を含んでいてよい。好適な架橋剤は特に限定されず、その例としては、限定なしにエピクロロヒドリン、ジエポキシド、ジイソシアネート、α,ω-ジハロアルカン、ジアクリレート、及びビスアクリルアミドが挙げられ、これらの特定の例としては、限定なしにα、α’-ジクロロ-p-キシレン、クロロメチルエーテル、ビス(クロロメチル)エーテル、塩化テレフタロイル、塩化スクシニル、及びコハク酸ジメチル、並びに複数の架橋剤の組み合わせが挙げられる。一実施形態においては、利用可能な芳香環あたり1~20当量の架橋剤を使用することができるが、膜の架橋実施形態はいかなる特定の架橋密度にも限定されない。
【0052】
[0059]レドックスフロー電池膜を形成するために、ゲル膜に支持電解質を吸収させることができる。選択される支持電解質は、一般に、膜が使用されるレドックスフロー電池の特定の特性によって定めることができ、酸性支持電解質、塩基性支持電解質、並びに中性種(例えば水)を挙げることができる。例えば、膜に、塩酸、硝酸、フルオロスルホン酸、又は硫酸のような鉱酸(例えば強無機酸)、又はそれらの混合物、又は酢酸、ギ酸、p-トルエンスルホン酸、又はトリフルオロメタンスルホン酸のような強有機酸、或いはそれらの混合物、並びに異なるタイプの複数の酸の混合物、例えば、鉱酸と有機酸の組み合わせを吸収させることができる。膜中に吸収させることができる支持電解質の他の例としては、限定なしに塩化ナトリウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、及びそれらの組み合わせを挙げることができる。例として、HSO、HBr、HBr/HCl混合物、HCl、NaS、NaS/NaBr混合物、HBr中のBr、HSO中のBr、HBr/HSO混合物中のBrなどを挙げることができる。一実施形態においてはテトラアルキルアンモニウム支持カチオンを膜中に吸収させることができ、Et及びBuは、2つの非限定的な例である。テトラフルオロボレート(BF4-)、過塩素酸塩(ClO4-)、又はヘキサフルオロホスフェート(PF6-)、又はそれらの組合せの水溶液が、膜中に吸収させることができる支持電解質の更なる例である。
【0053】
[0060]膜中の支持電解質の濃度は特に限定されず、一般に膜中に吸収させる溶液には、約25モル/リットル(M)以下、例えば約0.1M~約25M、約0.5M~約10M、又は幾つかの実施形態においては約1M~約5Mの濃度の支持電解質を含ませることができる。
【0054】
[0061]膜には、任意の好適な方法にしたがって支持電解質を吸収させることができる。例えば、一実施形態においては、膜を支持電解質の溶液中に数分~数時間又は数日間の時間、場合によっては上昇した温度の環境中において浸漬することによって、膜に支持電解質を吸収させることができる。
【0055】
[0062]レドックスフロー電池膜には、膜形成時点において、又は支持電解質と組み合わせて、膜中に導入することができる1種類以上の添加剤を含ませることができる。例として、小分子のC~Cアルコール(例えばグリセロール)、小分子の有機酸、尿素などのような有機小分子を、支持電解質と組み合わせてレドックスフロー電池中に導入することができる。
【0056】
[0063]一実施形態においては、レドックスフロー電池膜に、微粒子、例えば二酸化チタン又はPBI微粒子を、一般に約2重量%以下の量で導入することができ、これにより膜の多孔性を低下させることができる。例えば、PBIのナノサイズの粒子を、加水分解の前又はその間に微粒子をポリマー溶液に加えることによって、ゲル膜の固化中にポリマーマトリクス中に導入することができる。
【0057】
[0064]PBIゲル膜及び支持電解質を含むレドックスフロー電池膜は、任意の使用のために、及び任意の好適な電解液及びレドックス対と組み合わせて、レドックスフロー電池中に組み込むことができる。例えば、記載したレドックスフロー電池膜は、ピーク使用時間中のバックアップ/エネルギー中断の低減のために、再生可能エネルギー分野及び/又は現在の電力グリッドにおいて使用するために、電池中に組み込むことができる。
【0058】
[0065]レドックスフロー電池膜12を組み込むことができるレドックスフロー電池セル10の一実施形態を図1に示す。示すように、セルは、第1の電解液を保持することができる第1のタンク100、及び第2の電解液を保持することができる第2のタンク200と液体連通させることができる。タンク100、200は、導管110、210、ポンプ112、212、バルブ、制御システムなどを使用することによって、セル10のレドックスフロー電池膜12の両側と液体連通させることができる。タンク100、200に貯蔵された電解液は、電池10の両側中に循環させて、充放電中にそれぞれポンプ112、212によって膜12の両側に接触させることができる。
【0059】
[0066]公知のように、電池の電解液には、それぞれレドックス対の1つの構成要素を含ませることができる。1つの特定の実施形態においては、レドックスフロー電池膜を、当該技術において公知のVRBにおいて使用することができる。VRBは、第1の電解液中に、バナジウムが+5価(5価)バナジウムと+4価(4価)バナジウムとの間で変動するバナジウム系化合物、例えば、(VOSO、VO(SO)、又はそれらの組合せを含む。第2の電解液には、活物質として、バナジウムが+2価(2価)バナジウムと+3価(3価)バナジウムの間で変動するバナジウム系化合物、例えば、VSO、V(SO、又はそれらの組合せを含ませることができる。
【0060】
[0067]VRBの充電/放電化学反応は、一実施形態においては次のように表すことができる。
正極:
VO2++HO-e → VO2++2H (充電)
VO2++HO-e ← VO2++2H+ (放電)
=+1.00Vvs標準水素電極(SHE)
負極:
3++e → V2+ (充電)
3++e ← V2+ (放電)
=-0.26VvsSHE
全化学反応:
VO2++V3++HO →VO2++2H+V2+(充電)
VO2++V3++HO ←VO2++2H+V2+(放電)
cell=1.26VvsSHE
[0068]もちろん、本明細書に記載するレドックスフロー電池はVRBに限定されず、他のレドックス対を含む他の電池は本発明に包含される。代表的なレドックス対としては、限定なしにZn/Br;Zn/Fe;Fe/Cr;ポリスルフィド/Br;ポリスルフィド/I;9,10-アントラキノン-2,7-ジスルホン酸(AQDS)/Br;ポリ(メチルビオロゲン)(ポリ(MV))/ポリ(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニルオキシ-4-イルメタクリレート)(ポリ(TEMPO));ビス-(トリメチルアンモニオ)プロピルビオロゲンテトラクロリド(BTMAP-Vi)/BTMAPフェロセンジクロリド(BTMAP-Fc);2,6-ジヒドロキシアントラキノン(2,6-DHAQ)/フェロシアニド;及びアロキサジン7/8-カルボン酸(ACA)/フェロシアニドを挙げることができる。
【0061】
[0069]例として、一実施形態においては、電池に、活性アノード液材料として[Fe(CN)/[Fe(CN)のようなのフェロシアニド、及び活性カソード液材料としてFe2+及びFe3+を電解質系を含ませることができる。かかる系におけるカソード液には鉄/リガンド錯体を含ませることができ、その例としては、限定なしにトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N,N-ビス-(2-ヒドロキシエチル)-(イミノトリス)-(ヒドロキシメチル)-メタン、及びそれらの混合物を挙げることができ、ここでカソード液は約3:1~約10:1のリガンド/鉄比を有していてよい。
【0062】
[0070]電解液には、一般に、約0.5M~約10Mの濃度の活物質(例えば、バナジウムイオン、鉄イオンなど)を含ませることができる。例えば、電解液に、約0.5M以上、約0.6M以上、又は約0.7M以上、例えば約1M~約3Mの濃度の活物質を含ませることができる。
【0063】
[0071]一実施形態においては、電解液に1M~10Mの範囲の活物質の濃度のそれぞれの活物質を含ませることができる。一実施形態においては、活物質がこの範囲内の濃度を有する場合には、それはレドックスフロー電池膜が作動することができる高エネルギー密度及び高出力密度を促進することができる。一実施形態においては、活物質が1M未満の濃度を有する場合には、液中に含まれる活物質は単位体積あたりの量が少なすぎる場合があり、それによってエネルギー密度が低下する。一実施形態においては、活物質が10Mより高い濃度を有する場合には、電解液は急激に増加した粘度を有し得、したがって、著しく減少した酸化/還元反応速度を有し、それによって電力密度を減少させることができる。レドックスフロー電池の対になった電解液に、それぞれのレドックス対活物質を、互いに同じ濃度又は異なる濃度で含ませることができ、好ましい濃度は、一般に、使用する特定のレドックス対、電池の用途、及び電解液中における任意の更なる添加剤の存在によって定まる。
【0064】
[0072]電池の電解液には、上記で議論した1種類以上のレドックスフロー電池支持電解質のような添加剤を含ませることができる。一実施形態においては、電池の電解液に、レドックスフロー電池膜中に吸収された支持電解質を含ませることができる。
【0065】
[0073]電解液には、一実施形態においては硫酸支持電解質を含ませることができる。例えば、電解液に、溶液の活物質と組み合わせて、例えば溶媒として硫酸と水との混合物、即ち硫酸水溶液を含ませることができる。一実施形態においては、支持電解質と水の混合物(例えば硫酸水溶液)には、約1M~約5Mの濃度の支持電解質を含ませることができる。支持電解質の濃度は、一実施形態においては電解液の活物質について好適な溶解度を与えるように選択することができる。したがって、溶液は望ましいイオン伝導性及び粘度を示すことができ、電池において過電圧の問題を引き起こすことを回避することができる。
【0066】
[0074]図1に示すように、セル10のそれぞれの側部に、伝導性セパレータ14、例えば中でも多孔質カーボン紙、カーボンクロス、カーボンフェルト、又は金属クロス(繊維タイプの金属から製造された多孔質フィルム、又はポリマー繊維クロスの表面上に形成された金属フィルム)などの当該技術において公知の、膜12に隣接する更なる構成要素を含ませることができる。セルにはまた、公知の電極16を含ませることができ、これらは互いに同一であっても異なっていてもよく、セルのそれぞれの電解液について適切な伝導性基材(例えばグラファイト)から製造することができる。集電体18(例えば金メッキされた銅)を電極16と電気的に連通させることができ、セルには端板20(例えば、ステンレス鋼の端板)を含ませることができ、1つは1/2セルのいずれかの側にあり、セパレータから反対側に離隔して面している。集電体18は、示すように、セル10と外部回路との間に電気的連通を与える。
【0067】
[0075]図2は、レドックスフロー電池の代表的なセルスタック150内に配置された複数のセル10を示す。示されるように、第1の循環経路300をスタック150のそれぞれのセル10の1つの側に通して、電池のこの半分の電解液が経路300を通って流れて第1のタンク100に戻るようにすることができる。第2の循環経路400はスタック150のそれぞれのセル10の他方の側を通って、電池のこの半分の電解液が経路400を流れて第2のタンク200に戻るようになっている。図1に示すように、レドックスフロー電池には、電池を使用することによって電力を回収して供給するために、当該技術において公知のそれぞれの充電/放電回路、ならびにコンバータ、コントローラなどを更に含ませることができる。
【0068】
[0076]本明細書に記載されるレドックスフロー電池膜は、高電流負荷下で作動するより高い性能のフロー電池を可能にすることができる。かかる改良された動作条件は大きな電気化学スタックの必要性を緩和することができ、それによって、商業的なフロー電池装置の全体的なコストを低減することができる。更に、本発明の膜は、その高いイオン伝導性のために優れた性能を示す。これは、次に必要なスタックの寸法を減少させることによって全体的な構築のコストを減少させることができる。
【実施例
【0069】
[0077]本発明は、下記に示す実施例を参照してより良好に理解することができる。
材料及び方法:
[0078]3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル(TAB、ポリマーグレード、約97.5%)はBASF Fuel Cell, Inc.によって提供され、受け取った状態で使用した。更なるモノマーを購入し、受け取った状態で使用した。PPA(115%)は、FMC Corporationから供給され、受け取った状態で使用した。α,α’-ジクロロ-p-キシレン(純度>98.0%)をTCIから購入し、受け取った状態で使用した。
【0070】
ポリマー合成及び膜製造:
[0079]代表的な重合は、モノマーとPPA溶媒とを組み合わせ、塔頂スターラーを用いて混合し、乾燥窒素でパージすることから構成されていた。反応窯の内容物を高温シリコーン油浴中で加熱し、ランプ/ソークの特徴を有するプログラム可能な温度制御装置によって温度を制御した。粘度の目視検査によって求めて反応が完了したら、他に示さない限りにおいて15ミルの制御されたゲート厚さを有するドクターブレードを使用して、ポリマー溶液を透明なガラスプレート上にキャストした。キャストした溶液を、25℃で55%の相対湿度に調節した湿度チャンバー中で膜に加水分解した。
【0071】
酸交換:
[0080]キャストした状態の膜をDI水浴中に配置し、PH片を用いて水のpHをモニターした。7のpHが記録されるまで、8時間毎に水浴を交換した。この時点で、膜を2.6M硫酸浴中に24時間配置して酸ドープの平衡を確実にするか、又は架橋反応によって膜を更に変性した。
【0072】
膜形成後の架橋:
[0081]PBIゲル膜からPAを除去した後、それらをメタノール中のα,α’-ジクロロ-p-キシレンの0.0523M溶液の浴中に浸漬した。浴を覆って、30℃に加熱し、磁気スターラーバーを用いて撹拌した。架橋反応は、通常は6時間進行させた。次に、膜をDI水及びメタノールで周期的に少なくとも3回洗浄した。次に、酸ドープのために、膜を2.6M硫酸(SA)浴に24時間移した。
【0073】
膜の組成:
[0082]膜中のポリマー固形分、水、及び酸の相対量を測定することによって、硫酸をドープしたPBI膜の組成を求めた。膜の硫酸含量は、Metrohm 888 DMS Titrando自動滴定器を使用し、標準化水酸化ナトリウム溶液(0.10M)で膜試料を滴定することによって求めた。滴定したら、試料をDI水で十分に洗浄し、減圧下120℃において一晩乾燥した。次に、乾燥した試料を秤量して、膜のポリマー固形分含量を求めた。
【0074】
[0083]式1及び2を用いて、ポリマーの重量パーセント及び硫酸の重量パーセントをそれぞれ求めた。
【0075】
【化4】
【0076】
ここで、Wsampleは滴定前の試料の重量であり、Wdryは滴定後の最終乾燥試料の重量であり、Macidは硫酸の分子量であり、VNaOH及びCNaOHは硫酸を第1当量点まで中和するのに必要な水酸化ナトリウム溶液の体積及び濃度である。硫酸の第2のプロトンは第1のプロトンよりもはるかに低酸性であるが、それは両方のプロトンを同時に滴定するのに十分な強さの酸である(pKa=-3、pKa=2)ことに留意することが重要である。
【0077】
[0084]PBI繰り返し単位1モルあたりの硫酸のモル数(又はSAドーピングレベル、X)を次式から計算した。
【0078】
【化5】
【0079】
ここで、VNaOH及びCNaOHは硫酸を第1の当量点まで中和するのに必要な水酸化ナトリウム溶液の体積及び濃度であり、Wdryは滴定後の乾燥試料の最終重量であり、Mpolymerはポリマー繰り返し単位の分子量である。
【0080】
伝導率:
[0085]1Hz~50kHzの周波数範囲にわたり、FuelCon(TrueData-EIS PCM)電気化学ワークステーションを使用して、4プローブ電気化学インピーダンス分光(EIS)法により膜の面内伝導率を測定した。1.0cm×4.0cmの代表的な形状を有する膜試料を、測定装置の測定4電極ヘッド中に固定した。膜の伝導率は、次式を使用して計算した。
【0081】
【化6】
【0082】
ここで、dは2つの内側プローブの間の距離であり、lは膜の厚さであり、wは膜の幅であり、Rはモデルフィッティングによって求めたオーム抵抗である。伝導率を室温で行って、VRBの通常の動作条件を再現した。
【0083】
バナジウム透過性:
[0086]PermeGearの「並列」直接浸透セルを使用して、バナジウム(IV)(VOSO)のクロスオーバーを測定した。セルは、試験下において膜によって分離された45mLの容積を有する2つのチャンバーを有する。チャンバーの温度は、再循環水浴を使用して25℃に調節した。代表的な試験装置は、ドナーチャンバー内に2.6M硫酸中の1.5M-VOSO、及びレセプターチャンバー内に2.6M硫酸中の1.5M-MgSOを含んでいた。バナジウム(IV)は248nmにおいて強い吸収特性を有しており;この特性を利用し、レセプターチャンバーの濃度を、Shimadzu UV-2450 UV/Vis分光計を使用して種々の時間間隔で測定した。VO2+透過率は、フィックの拡散則(式5)を使用して計算することができる。
【0084】
【化7】
【0085】
ここで、c(t)は時刻tにおけるレセプターVOSOの濃度であり、c(0)はドナーの当初のVOSO濃度であり、Vはドナー及びレセプター溶液の体積であり、dは膜の厚さであり、Aは膜の活性面積であり、Pは塩透過性である。
【0086】
バナジウム試験セル:
[0087]24cmの活性面積を有し、カーボンプレートに機械加工された液体電解質のための対向櫛形流路を利用したVRB試験セルを組み立てた。使用中は、膜を、空気中で400℃に30時間予め熱処理した同一の市販のカーボンペーパー電極の間にサンドイッチし、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムのガスケットを施した。セルに、3.55の平均酸化状態及び4.2Mの全イオウ含量を有する1.60Mのバナジウム種から構成される、側部あたり100mLの電解液の2つのリザーバを取り付けた。電解質を、2つの耐酸性ダイヤフラムポンプによって120mL/分の一定の流速でセルを通して循環させた。充放電サイクル性能は、マルチチャネルポテンシオスタット(Model BT2000、Arbin Instruments Inc., College Station, TX)を使用して、72mA/cm~484mA/cmの範囲の一定の電流密度において測定した。
【0087】
実施例1:
[0088]10.71gのTAB(50ミリモル)及び13.44gの2-スルホテレフタル酸モノナトリウム(s-TPA、50ミリモル)を580gのPPAに加え、次の反応スキームに従って上記のように重合してs-PBIを形成した。
【0088】
【化8】
【0089】
[0089]重合を、窒素雰囲気中220℃において48時間行った。この溶液を、15ミルのゲート厚さを有するドクターブレードを使用してガラス板に塗布し、続いて24時間以上加水分解した。膜を脱イオン水浴中で数回すすいでPA加水分解生成物を除去した。進行する前に、pH指示紙を使用して全ての酸が除去されたことを確認した。
【0090】
[0090]中和した膜を2.6M硫酸中に24時間配置して非架橋膜を形成した後、特性分析した。
[0091]中和した膜をα,α’-ジクロロ-p-キシレンの0.0523Mメタノール溶液中に浸漬し、30℃においてで6時間撹拌して架橋膜を形成した。膜を、脱イオン水、次にメタノールで4回、次に水でもう1回洗浄した。架橋した膜を2.6M硫酸の溶液中に24時間配置した後、特性分析決定した。架橋反応の反応スキームは次の通りであった。
【0091】
【化9】
【0092】
[0092]膜の室温イオン伝導率を、代表的な運転セル条件において見られる2.6M硫酸及びV(IV)/H溶液の両方において評価した。s-PBIゲル膜(未架橋及び架橋の両方)についてのex-situ膜特性を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
[0093]非架橋s-PBI膜を含むVRB試験セルを、上記のように組み立てた。VE、CE、及びEEを測定し、結果を図3及び下表2に示した。80%の充電状態の電解質を使用し、比較例1に記載のm-PBIと比較した分極曲線を図4に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
[0094]架橋s-PBI膜を含む別のVRB試験セルを上記のように組み立てた。VE、CE、及びEEを測定し、結果を図5及び下表3に示した。80%の充電状態の電解質を使用し、比較例1に記載のm-PBIと比較した分極曲線を図6に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
[0095]s-PBIゲル膜は、硫酸中及び酸電解液(比較例1参照)中の両方において、m-PBIの膜と比較して驚くほど高い伝導性を示す。即ち、それぞれ、13.1mS・cm-1と比較して537~593mS・cm-1、及び12.2mS・cm-1と比較して240~242mS・cm-1。2つのs-PBI膜の間の伝導率のわずかな違いは、架橋の結果である可能性が高い。架橋剤はイミダゾール窒素と結合を形成し、水素結合ネットワークを通るプロトン経路をわずかに阻害する可能性がある。
【0099】
[0096]架橋が起こったことを確認するために、中和乾燥膜の50mgの試料を、800mLのN,N’-ジメチルアセトアミド中、還流において48時間加熱した。これらの条件下においては、架橋した試料については膜の劣化又は溶液の変色は観察されなかったが、当初のポリマー膜については溶解が観察された。更に、架橋膜と非架橋膜との膨潤比は注目すべき結果を与えた。非酸性溶媒(N,N’-ジメチルアセトアミド)を使用して望ましくない溶媒ポリマー相互作用を確実に抑制すると、非架橋PPA形成膜(3.94重量%の増加)は、架橋膜(3.25重量%の増加)よりも約0.75重量%多い溶媒を吸収することが見出された。化学的架橋による連鎖移動度の制限はポリマーゲルの溶媒膨潤を阻害し、その結果、溶媒吸収によってより低い重量増加をもたらす。
【0100】
[0097]膜の酸化安定性も試験し、膜は酸化性バナジウム溶液中において分解を示さなかった。
[0098]2つの異なる吸収された溶液(硫酸及びV(IV)/H溶液)についての結果を比較すると、バナジウム電解液中におけるゲル膜の伝導率の低下は2つの要因から生じると考えられた。第1は、バナジウムイオンが負に荷電したスルホネート基(pKa=約-2)との吸引力によって膜と相互作用し、プロトンの流れを妨害し得ることである。この溶液についてのPBIゲル膜におけるドロップイン伝導率はまた、バナジウムイオンを含む電解液の固有伝導率にも起因していた。プロトンコンダクタンスの主要因はイオンの移動度であるので、バナジウム濃度の増加が単に電解液の粘度の増加に関連して電解液のプロトン伝導性を減少させることは驚くべきことではなかった。PBIゲル膜は、Grotthussメカニズムによるプロトン輸送だけでなく、膜中の電解質の移動度も可能にすることによってプロトン伝導性を増大させる相当に開いた形態を有すると考えられ、したがって、膜を通るプロトン輸送はバナジウムイオンの導入による粘度の増加によって影響を受け得る。
【0101】
[0099]PBIゲル膜中の電解質移動度もまた、求められたバナジウム透過性についての妥当な説明である。透過性は、膜のポリマー固形分を考慮すると予想外ではない。ゲル膜は、従来のPBI膜と比較して膜中の電解質の量あたり比較的少量の重合体を含んでいた。ゲル膜中のPBI鎖の化学的架橋は、間隙空間を満たして連鎖移動度を制限すると予想された。一見すると、架橋したPBIゲル膜の透過性は理想的ではないが、この変性は未変性型と比較すると、伝導率に劇的な効果をを及ぼすことなく影響を与えた。この技術は、選択されたPBI誘導体に偏っていないので、必要に応じてPBI膜の特性を調整するために使用することができる。
【0102】
実施例2:
[0100]PPA法にしたがってTABをテレフタル酸(TPA)と重合することによって上記のように製造したパラ-PBI膜を、脱イオン水浴中で数回すすいでPAを除去した。進行する前に、pH指示紙を使用して全ての酸が除去されていることを確認した。次に、中和した膜を2.6M硫酸の溶液中に少なくとも24時間配置した後、特性分析した。室温において面内イオン伝導率を測定したところ、398mS/cmであった。
【0103】
実施例3:
[0101]実施例2に記載されたようにして形成された膜から架橋パラ-PBI膜を製造した。5.5016gのα,α’-ジクロロ-p-キシレン(31.43ミリモル)を秤量し、600mLのメタノール中に溶解して溶液を形成し、これをガラス皿中に注ぎ入れた。中和した膜をメタノールで3回洗浄した後、それをガラス皿中の溶液に加えた。混合物を覆い、30℃に加熱し、磁気スターラーバーを用いて一晩撹拌した。次に、架橋した膜を取り出して、洗浄瓶を使用してメタノールで洗浄した。それを脱イオン水で数回洗浄し、続いてメタノール及び脱イオン水で更に洗浄した。架橋した膜を50重量%硫酸の溶液中に24時間配置し、140℃において5分間ホットプレスして、厚さを0.34mmから0.09mmに減少させた。ホットプレスした架橋膜を2.6M硫酸の溶液中に24時間配置した後、特性分析した。室温において面内イオン伝導率を測定したところ、492mS/cmであった。
【0104】
[0102]架橋したパラ-PBI膜を、VRB試験セル内で記載したように試験した。VE、CE、及びEEを測定し、図7に示し、下表4に示すように記録した。
【0105】
【表4】
【0106】
実施例4:
[0103]上記記載のPPA法で製造したパラ-PBI膜を、脱イオン水浴中で数回洗浄してPAを除去した。進行する前に、pH指示紙を使用して全ての酸が除去されたことを確認した。1000mLのエルレンマイヤーフラスコ内において、7.88gの4,4’-ビス(クロロメチル)ビフェニル(31.38ミリモル)を600mLのN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)中に溶解した。溶液をガラス皿中に注ぎ入れ、それに膜を加えた。この架橋反応を80℃で6時間撹拌した。続いて、膜を脱イオン水、続いてメタノールで4回、次に水でもう1回洗浄した。架橋した膜を2.6M硫酸の溶液中に24時間配置した後、特性分析した。室温において面内イオン伝導率を測定したところ、367mS/cmであった。
【0107】
実施例5:
[0104]上記記載のPPA法で製造したパラ-PBI膜を、脱イオン水浴中で数回洗浄してPAを除去した。進行する前に、pH指示紙を用いて全ての酸が除去されたことを確認した。次に、7.5gの(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン(31.73ミリモル)を600mLのメタノール中に溶解して0.0523M溶液を形成し、これを次に中和した膜を含むガラス皿中に注ぎ入れた。架橋反応を室温において2時間行った。次に、膜を2.6M硫酸の溶液中に少なくとも24時間直接配置した後、特徴分析を行った。室温において面内イオン伝導率を測定したところ、537mS/cmであった。
【0108】
実施例6:
[0105]42.854gの3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル(TAB、200ミリモル)、4.153gのTPA(25ミリモル)、29.073gのイソフタル酸(IPA、175ミリモル)、及び685gのPPAを、塔頂メカニカルスターラーを備えた3口の1000mLレジンケトルに加えた(IPA:TPAのモル比=7:1、10重量%のモノマー充填量)。重合を、220℃の湯浴温度を使用し、窒素雰囲気中で24時間行った。次に温度を180℃まで低下させ、還流凝縮器を取り付け、103gの脱イオン水をゆっくりと加えて7.82重量%の安定化したポリマー溶液を調製した。溶液を更に8時間撹拌した。100.5gのポリマー溶液、及び100メッシュの寸法を有する3.6355gのメタ-PBI粉末を、三ツ口の蓋及び塔頂めたに刈るスターラーを有するレジンケトルに加えた(溶液中のポリマーと100メッシュPBI粉末との重量比=1:0.5)。窒素雰囲気下において、混合物を165℃に4時間加熱し、次に200℃に30分間上昇させた後、15ミルのドクターブレードでガラス基材上にキャストした。これを、25℃で55%RHに調節した湿度チャンバー内で24時間以上膜に加水分解した。次に、膜を脱イオン水浴中で数回すすいでPAを除去した。pH指示紙を使用して、全ての酸が除去されたことを確認した。中和した膜を2.6M硫酸の溶液中に配置し、少なくとも24時間放置した後、特性分析した。室温において面内イオン伝導率を測定したところ、175mS/cmであった。
【0109】
[0106]VE、CE、及びEEは、記載したバナジウム試験セル内で測定した。結果を図8及び下表5に示す。
【0110】
【表5】
【0111】
実施例7:
[0107]6.8811gのTAB(32.11ミリモル)、0.6673gのTPA(4.01ミリモル)、4.6689gのイソフタル酸(IPA、28.10ミリモル)、及び110gのPPAを、塔頂メカニカルスターラーを装備した100mLの反応釜に加えた(7:1のIPA:TPAの比、11重量%のモノマー充填量)。窒素雰囲気中、220℃の油浴温度を使用して、重合を24時間行った。溶液を、20ミルのゲート厚さを有するドクターブレードを使用してガラス板に塗布し、続いて24時間以上加水分解した。膜を脱イオン水浴中で数回すすいでPAを除去した。進行する前に、pH指示紙を使用して全ての酸が除去されていることを確認した。次に、これをイソプロパノールと85重量%PAの1:1溶液中に浸漬して、24時間撹拌した。それを混合物から取り出し、ベンチトップ上で30分間蒸発させた。膜を2.6M硫酸溶液中に24時間浸漬した後、特性分析した。室温において面内イオン伝導率を測定したところ、228mS/cmであった。
【0112】
[0108]上記記載のようにVRB試験セルを組み立てた。VE、CE、及びEEを測定した。結果を図9及び下表6に示す。
【0113】
【表6】
【0114】
実施例8:
[0109]1.778gのTAB(8.30ミリモル)、2.226gのs-TPA(8.30ミリモル)、及び96gのPPAを、塔頂メカニカルスターラーを備えた100mLの反応釜に加えた(4重量%のモノマー充填量)。重合を、窒素雰囲気中220℃において48時間行った。この溶液を、15ミルのゲート厚さを有するドクターブレードを使用してガラス板に塗布し、続いて24時間以上加水分解した。膜を脱イオン水浴中で数回すすいでPAを除去した。pH指示紙を使用して全ての酸が除去されたことを確認した。700mLのメタノールと6.543gのα,α’-ジクロロ-p-キシレン(37.38ミリモル)とを混合して溶液を形成し、これに中和した膜を加え、室温において24時間撹拌した。次に、膜を溶液から取り出し、脱イオン水及びメタノールで複数回洗浄した。これを脱イオン水浴中に配置し、次に2.6M硫酸浴中に24時間配置した後、特性分析した。室温において面内イオン伝導率を測定したところ、289mS/cmであった。
【0115】
実施例9:
[0110]5.937gのTAB(27.71ミリモル)、5.490gの2,5-ジヒドロキシテレフタル酸(ジOH-TPA、27.71ミリモル)、及び362.32gのPPAを反応窯に加え、窒素雰囲気下において塔頂メカニカルスターラーを使用して撹拌した。重合を、窒素雰囲気中220℃において24時間行った。溶液を、20ミルのゲート厚さを有するドクターブレードを使用してガラス板に塗布し、続いて24時間以上加水分解した。PA中で吸収させた膜を、脱イオン水浴中で膜を数回洗浄した。進行する前に、pH表示紙を使用して全ての酸が除去されたことを確認した。中和した膜を2.6M硫酸の溶液中に配置し、24時間撹拌した後、特性分析した。室温において面内イオン伝導率を測定したところ、608mS/cmであった。
【0116】
実施例10:
[0111]5.9599gのTAB(27.81ミリモル)、2.3104gのIPA(13.91ミリモル)、3.7297gの5-スルホイソフタル酸モノナトリウム塩(5SIPA、13.91ミリモル)、及び138gのPPAを、塔頂メカニカルスターラーを備えた100mLの反応釜に加えた(1:1の比のIPA:5SIPA、8重量%のモノマー充填量)。重合を、窒素雰囲気中220℃において24時間行った。溶液を、20ミルのゲート厚さを有するドクターブレードを使用してガラス板に塗布し、続いて24時間以上加水分解した。膜を脱イオン水浴中で数回すすいでPAを除去した。進行する前に、pH指示紙を使用して全ての酸が除去されていることを確認した。中和した膜を2.6M硫酸の溶液中に配置し、24時間撹拌した後、特性分析した。室温において面内イオン伝導率を測定したところ、109mS/cmであった。
【0117】
比較例1:
[0112]N,N-ジメチルアセトアミド溶液をキャスト及び乾燥することによって製造された商業的に入手できるメタ-PBIフィルムを、受け取った状態で使用した。フィルムを2.6M硫酸の溶液中に24時間配置した後、特性分析した。硫酸中における面内イオン伝導率を室温において測定したところ、13.1mS/cmであった。V(IV)/H溶液(1.5M-VOSO+2.6M硫酸)中に3日間浸漬した後の面内イオン伝導率を室温において測定したところ、12.2mS/cmであった。膜中のポリマー固形分含量は65.6%であると求められた。
【0118】
[0113]上記記載のようにVRB試験セルを組み立てた。VE、CE、及びEEを測定し、その結果を図10及び表7に示す。
【0119】
【表7】
【0120】
[0114]示されるように、より高い電流密度においては、セルは性能を有さず、約72mA/cmより高い電流密度で作動させることができなかった。これは、電圧が膜伝導率(この膜については非常に低い)に相関するからである。
【0121】
[0115]80%充電状態の電解質を使用した分極曲線も求め、上記の実施例1のものと比較した。比較を図11に示す。
比較例2:
[0116]N,N-ジメチルアセトアミド溶液をキャスト及び乾燥することによって製造された商業的に入手できるメタ-PBIフィルムを、受け取った状態で使用した。最初に1000mLのメタノールを9.27gのα,α’-ジクロロ-p-キシレン(52.95ミリモル)と混合して溶液を形成し、これを膜を含むガラス皿中に注ぎ入れることによって架橋反応を行った。膜を含む溶液を覆い、30℃に加熱し、磁気スターラーバーを使用して24時間撹拌した。架橋した膜を溶液から取り出し、洗浄し、外気中で乾燥させた。乾燥した後、架橋した膜を2.6M硫酸の溶液中に24時間配置した後、特性分析した。室温において面内イオン伝導率を測定したところ、15.6mS/cmであった。
【0122】
比較例3:
[0117]N,N-ジメチルアセトアミド溶液をキャスト及び乾燥することによって製造された商業的に入手できるメタ-PBIフィルムを、受け取った状態で使用した。膜を85重量%PAの浴中に48時間配置した。膜を脱イオン水浴中で数回すすいでPAを除去した。進行する前に、pH指示紙を使用して全ての酸が除去されていることを確認した。中性になったら、それを2.6M硫酸の溶液中に24時間配置した後、特性分析した。室温において面内イオン伝導率を測定したところ、11.6mS/cmであった。
【0123】
比較例4:
[0118]N,N-ジメチルアセトアミド溶液をキャスト及び乾燥することによって製造された商業的に入手できるメタ-PBIフィルムを、受け取った状態で使用した。膜を85重量%PAの浴中に48時間配置した。最初に1000mLのメタノールを9.40gのα,α’-ジクロロ-p-キシレン(53.70ミリモル)と混合して溶液を形成し、これを膜を含むガラス皿中に注ぎ入れることによって架橋反応を行った。膜を含む溶液を覆い、30℃に加熱し、磁気スターラーを使用して25時間撹拌した。次に、架橋した膜を溶液から取り出し、メタノール及び脱イオン水中で洗浄した後、外気中で乾燥させた。次に、架橋した膜を2.6M硫酸の溶液中に24時間配置した後、特性分析した。室温において面内イオン伝導率を測定したところ、16.7mS/cmであった。
【0124】
[0119]特定の用語を使用して開示された主題の幾つかの実施形態を説明したが、かかる記載は例示目的のみのためであり、主題の精神又は範囲から逸脱することなく、変更及び変形を行うことができることを理解すべきである。
以下に、出願時の特許請求の範囲の記載を示す。
[請求項1]
レドックスフロー電池膜を形成する方法であって、
ポリリン酸、芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノ化合物、及び芳香族又はヘテロ芳香族カルボン酸化合物を含む重合組成物であって、前記芳香族又はヘテロ芳香族カルボン酸化合物は、芳香族又はヘテロ芳香族ポリカルボン酸又はそのエステル、無水物、又は酸塩化物を含み、及び/又は芳香族又はヘテロ芳香族ジアミノカルボン酸を含む重合組成物を形成すること;
前記芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノ化合物を前記芳香族又はヘテロ芳香族カルボン酸化合物と重合して、前記ポリリン酸中に溶解したポリベンズイミダゾールを含むポリマー溶液を形成すること;
前記ポリマー溶液を成形して、前記ポリマー溶液を含む膜前駆体を形成すること;
前記膜前駆体のポリリン酸の少なくとも一部を加水分解してリン酸及び水を形成し、それにより、前記膜前駆体が、前記ポリベンズイミダゾールを含むゲル膜を形成すること、ここで、当該ゲル膜が、ポリベンズイミダゾールを含み、構造を失うことなく約60重量%以上の液体含有物を含ませることができる自己支持膜であり;及び
前記ゲル膜に、レドックスフロー電池支持電解質を吸収させること;
を含む、上記方法。
[請求項2]
前記重合組成物が、前記重合組成物の約10重量%以下の濃度の前記芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノ化合物及び前記芳香族又はヘテロ芳香族カルボン酸化合物を含む、請求項1に記載の方法。
[請求項3]
前記芳香族又はヘテロ芳香族テトラアミノ化合物が、2,3,5,6-テトラアミノピリジン;3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルスルホン;3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルエーテル;3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル;1,2,4,5-テトラアミノベンゼン;3,3’,4,4’-テトラアミノベンゾフェノン;3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルメタン;及び3,3’,4,4’-テトラアミノジフェニルジメチルメタン、又はそれらの塩、或いはそれらの任意の組合せを含む、請求項1又は2に記載の方法。
[請求項4]
前記芳香族又はヘテロ芳香族カルボン酸化合物が、ピリジン-2,5-ジカルボン酸;ピリジン-3,5-ジカルボン酸;ピリジン-2,6-ジカルボン酸;ピリジン-2,4-ジカルボン酸;4-フェニル-2,5-ピリジンジカルボン酸;3,5-ピラゾールジカルボン酸;2,6-ピリミジンジカルボン酸;2,5-ピラジンジカルボン酸;2,4,6-ピリジントリカルボン酸;ベンズイミダゾール-5,6-ジカルボン酸;5-ヒドロキシイソフタル酸;4-ヒドロキシイソフタル酸;2-ヒドロキシテレフタル酸;5-アミノイソフタル酸;5-N,N-ジメチルアミノイソフタル酸;5-N,N-ジエチルアミノイソフタル酸;2,5-ジヒドロキシテレフタル酸;2,6-ジヒドロキシイソフタル酸;4,6-ジヒドロキシイソフタル酸;2,3-ジヒドロキシフタル酸;2,4-ジヒドロキシフタル酸;3,4-ジヒドロキシフタル酸;1,8-ジヒドロキシナフタレン-3,6-ジカルボン酸;ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸;イソフタル酸;テレフタル酸;フタル酸;3-フルオロフタル酸;5-フルオロイソフタル酸;2-フルオロテレフタル酸;テトラフルオロフタル酸;テトラフルオロイソフタル酸;テトラフルオロテレフタル酸;3-スルホフタル酸;5-スルホイソフタル酸;2-スルホテレフタル酸;テトラスルホフタル酸;テトラスルホイソフタル酸;テトラスルホテレフタル酸;1,4-ナフタレンジカルボン酸;1,5-ナフタレンジカルボン酸;2,6-ナフタレンジカルボン酸;2,7-ナフタレンジカルボン酸;ジフェン酸;ジフェニルエーテル 4,4’-ジカルボン酸;ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸;ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸;4-トリフルオロメチルフタル酸;2,2-ビス(4-カルボ
キシフェニル)ヘキサフルオロプロパン;4,4’-スチルベンジカルボン酸;及び4-カルボキシ桂皮酸、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
[請求項5]
前記膜前駆体が20μm~約4,000μmの厚さを有する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
[請求項6]
前記加水分解を、約0℃~約150℃の温度及び約20%~100%の相対湿度において行う、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
[請求項7]
前記ゲル膜を架橋することを更に含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
[請求項8]
レドックスフロー電池膜であって、
構造を失うことなく約60重量%以上の液体含有物を含ませることができる自己支持膜であるポリベンズイミダゾールゲル膜;及び
前記ポリベンズイミダゾールゲル膜内に吸収されたレドックスフロー電池支持電解質;を含み;
前記レドックスフロー電池膜は、約100mS/cm以上の2.6M硫酸溶液中における面内イオン伝導率を示す、上記レドックスフロー電池膜。
[請求項9]
前記ゲル膜の前記ポリベンズイミダゾールが、次の繰り返し単位:
【化10】
【化11】
【化12】
(式中、n及びmは、それぞれ独立して、1以上、約10以上、又は約100以上である)
の1以上又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項8に記載のレドックスフロー電池膜。
[請求項10]
前記支持電解質が、塩酸、硝酸、フルオロスルホン酸、又は硫酸、或いはそれらの混合物のような鉱酸;酢酸、ギ酸、p-トルエンスルホン酸、又はトリフルオロメタンスルホン酸、或いはそれらの混合物のような強有機酸;或いは1以上の鉱酸及び/又は1以上の有機酸の組合せを含むか;或いは前記支持電解質が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、又はそれらの任意の組合せを含むか、或いは前記支持電解質が、テトラアルキルアンモニウムカチオンを含む、請求項8又は9に記載のレドックスフロー電池膜。
[請求項11]
前記レドックスフロー電池膜が架橋されている、請求項8~10のいずれかに記載のレドックスフロー電池膜。
[請求項12]
ポリベンズイミダゾールゲル膜、及び前記ポリベンズイミダゾールゲル膜内に吸収されているレドックスフロー電池支持電解質を含むレドックスフロー電池であって、前記ポリベンズイミダゾールゲル膜は、構造を失うことなく約60重量%以上の液体含有物を含ませることができる自己支持膜であり、前記レドックスフロー電池は、約100mA/cm以上の電流密度で作動させることができる、上記レドックスフロー電池。
[請求項13]
前記レドックスフロー電池がバナジウムフロー電池である、請求項12に記載のレドックスフロー電池。
[請求項14]
前記レドックスフロー電池が、242mA/cmの電流密度において、約90%以上のクーロン効率及び/又は約75%以上のエネルギー効率及び/又は約80%以上の電圧効率を有する、請求項12又は13に記載のレドックスフロー電池。
[請求項15]
前記レドックスフロー電池が、483mA/cmの電流密度において、約90%以上のクーロン効率及び/又は約65%以上のエネルギー効率及び/又は約65%以上の電圧効率を有する、請求項12~14のいずれかに記載のレドックスフロー電池。
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