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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】吊り足場
(51)【国際特許分類】
   E04G 3/30 20060101AFI20240722BHJP
   E04G 7/20 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
E04G3/30 301A
E04G7/20 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022020493
(22)【出願日】2022-02-14
(65)【公開番号】P2023117759
(43)【公開日】2023-08-24
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】516288044
【氏名又は名称】株式会社クリス・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 龍男
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-080810(JP,A)
【文献】特開2013-256861(JP,A)
【文献】特開平05-295712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D1/00-24/00
E04G1/00-7/34
27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業床を構成するパネル材と、
前記パネル材が設置される複数のデッキビームと、
前記デッキビームを建築物に吊り下げる吊り部材とを備えた吊り足場において、
前記デッキビームは、水平方向に延びるとともに、同一高さに設置される第1デッキビーム及び第2デッキビームを含んでおり、
前記第1デッキビームに掛けられ、当該第1デッキビームの延びる方向にスライドするスライド部材と、
前記第1デッキビームの端部と、前記第2デッキビームの端部とを互いに水平方向に間隔をあけた状態で上下方向に延びる軸周りに回動可能に接続するビームジョイントとを備え、
前記パネル材の長手方向の端部は、前記スライド部材に連結され、
前記ビームジョイントには、前記第1デッキビーム側から前記第2デッキビーム側まで延びるとともに前記第1デッキビーム及び前記第2デッキビームと同一高さに設置され、前記スライド部材を前記第1デッキビーム側から前記第2デッキビーム側まで導くガイド部が設けられている吊り足場。
【請求項2】
請求項1に記載の吊り足場において、
前記第1デッキビーム及び前記第2デッキビームは、上側パイプ材と、当該上側パイプ材から下方に離れて配置され、当該上側パイプ材と平行に延びる下側パイプ材と、前記上側パイプ材及び前記下側パイプ材に固定され、当該上側パイプ材及び当該下側パイプ材を連結する連結材とを備え、
前記スライド部材は、前記上側パイプ材に掛けられる吊り足場。
【請求項3】
請求項2に記載の吊り足場において、
前記第1デッキビームの端部には、上下方向に延びる第1連結筒部が固定され、
前記第2デッキビームの端部には、上下方向に延びる第2連結筒部が固定され、
前記ビームジョイントは、前記第1連結筒部と前記第2連結筒部との間に配置され、上下方向に延びる筒状のジョイント本体と、前記ジョイント本体に固定され、前記第1連結筒部の上端部に重なるように配置される第1連結板部と、前記ジョイント本体に固定され、前記第2連結筒部の上端部に重なるように配置される第2連結板部と、前記第1連結板部を貫通して前記第1連結筒部に挿入される第1連結ピンと、前記第2連結板部を貫通して前記第2連結筒部に挿入される第2連結ピンとを備え、
前記ガイド部は、前記第1連結ピンの上端部よりも上方の箇所から前記第2連結ピンの上端部よりも上方の箇所まで延びている吊り足場。
【請求項4】
請求項3に記載の吊り足場において、
前記ガイド部は、前記ジョイント本体とは別部材とされた上側構成部材の一部に設けられており、
前記上側構成部材には、前記ジョイント本体に上方から挿入される取付筒部が設けられている吊り足場。
【請求項5】
請求項に記載の吊り足場において、
前記上側構成部材は、前記第1連結板部の上に重なるように配置される第1固定板部と、前記第2連結板部の上に重なるように配置される第2固定板部とを備え、
前記第1連結ピンは前記第1固定板部を貫通し、
前記第2連結ピンは前記第2固定板部を貫通している吊り足場。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば各種建築物等に吊り下げられた状態で使用される吊り足場に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な吊り足場は、例えば各種建築物等から吊り下げられた複数のパイプからなる梁部材を平行に配置し、梁部材間に横架材を架け渡し、横架材の上に作業床となる床材を設置することによって構成されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている吊り足場は、互いに平行配置される複数の梁ユニットと、梁ユニット間に架け渡される足場パネルとを備えている。梁ユニットは、複数の本体部を長手方向に連結することによって構成されている。本体部は、水平に延びる左右一対の上弦材と、左右の上弦材の下方において水平に延びる左右一対の下弦材と、上弦材及び下弦材に架け渡される複数の斜材とで構成されたトラス構造となっている。
【0004】
特許文献1の吊り足場は、既設の梁ユニットに延長用の梁ユニットが連結可能になっている。延長用の梁ユニットを既設の梁ユニットに連結する際には、既設の梁ユニットに足場パネルを設置した後、延長用の梁ユニットを足場パネルの縁部に沿うように配置するとともに、既設の梁ユニットの先端部に対して連結ピンによって連結する。その後、延長用の梁ユニットを連結ピン周りに回動させて既設の梁ユニットの延長線上に直列に配置してから固定ピンによって固定する。延長用の梁ユニットを固定した後、延長用の梁ユニットの上に足場パネルを設置する。このように、既設の梁ユニットを吊り下げた状態で順次、足場を拡張していくことが可能な吊り足場は、先行床施工型吊り足場と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実用新案登録第3223667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、吊り足場を構築する際には、まず、既設の梁ユニットに延長用の梁ユニットを連結した後、この延長用の梁ユニットに別の延長用の梁ユニットを連結し、これを繰り返して作業床を拡張していくことになるが、このような方法で拡張を行うためには、上記連結ピンが必要になる。
【0007】
また、作業床を構成するアンチと呼ばれるパネル材も順次、梁ユニットに載置することになるが、このパネル材を安全にかつ所望の位置に設置するのが問題になる場合がある。特に、特許文献1のように既設の梁ユニットと延長用の梁ユニットとの間に連結ピンが設けられていると、アンチを既設の梁ユニット側から延長用の梁ユニット側に設置する際に連結ピンが邪魔になるおそれがある。
【0008】
本開示は、かかる点に鑑みてたものであり、その目的とするところは、吊り足場を構成するデッキビームが回動可能に連結されている場合に、パネル材を安全にかつ所望の位置に設置できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本開示の第1態様では、作業床を構成するパネル材と、前記パネル材が設置される複数のデッキビームと、前記デッキビームを建築物に吊り下げる吊り部材とを備えた吊り足場を前提とすることができる。前記デッキビームは、水平方向に延びるとともに、同一高さに設置される第1デッキビーム及び第2デッキビームを含んでいる。吊り足場は、前記第1デッキビームに掛けられ、当該第1デッキビームの延びる方向にスライドするスライド部材と、前記第1デッキビームの端部と、前記第2デッキビームの端部とを互いに水平方向に間隔をあけた状態で上下方向に延びる軸周りに回動可能に接続するビームジョイントとを備えている。前記パネル材の長手方向の端部は、前記スライド部材に連結されている。前記ビームジョイントには、前記第1デッキビーム側から前記第2デッキビーム側まで延びるとともに前記第1デッキビーム及び前記第2デッキビームと同一高さに設置され、前記スライド部材を前記第1デッキビーム側から前記第2デッキビーム側まで導くガイド部が設けられている。
【0010】
この構成によれば、複数のデッキビームとパネル材とによってシステム化された吊り足場とすることができるので、従来からある単管吊り足場に比べて構築に要する時間が大幅に短縮される。また、第1デッキビームと第2デッキビームとがビームジョイントによって回動可能に接続されるので、例えば既設のデッキビームに対して延長用デッキビームを回動可能にすることができ、先行床施工型吊り足場を容易に拡張できる。
【0011】
さらに、第1デッキビームに第2デッキビームを接続して水平方向に延長していく際に、第1デッキビームの基端側に配置したスライド部材にパネル材の端部を連結させておくと、パネル材を先端側へ向けて押すだけで、スライド部材が第1デッキビーム側からガイド部によって第2デッキビーム側まで案内されるので、パネル材を先端側へ送ることが可能になる。つまり、作業者が第1デッキビームの基端側に居ながら、パネル材を先端側へ安全に送り、所望の位置に設置可能になる。
【0012】
本開示の第2態様では、前記第1デッキビーム及び前記第2デッキビームが、上側パイプ材と、当該上側パイプ材から下方に離れて配置され、当該上側パイプ材と平行に延びる下側パイプ材と、前記上側パイプ材及び前記下側パイプ材に固定され、当該上側パイプ材及び当該下側パイプ材を連結する連結材とを備えていてもよい。前記スライド部材は、前記上側パイプ材に掛けることができる。
【0013】
この構成によれば、パネル材の荷重を受ける第1デッキビーム及び第2デッキビームが上側パイプ材及び下側パイプ材を備えているので高い強度を持つものになり、耐荷重を十分に確保できる。
【0014】
本開示の第3の態様では、前記第1デッキビームの端部には、上下方向に延びる第1連結筒部が固定され、前記第2デッキビームの端部には、上下方向に延びる第2連結筒部が固定されていてもよい。前記ビームジョイントは、前記第1連結筒部と前記第2連結筒部との間に配置され、上下方向に延びる筒状のジョイント本体と、前記ジョイント本体に固定され、前記第1連結筒部の上端部に重なるように配置される第1連結板部と、前記ジョイント本体に固定され、前記第2連結筒部の上端部に重なるように配置される第2連結板部と、前記第1連結板部を貫通して前記第1連結筒部に挿入される第1連結ピンと、前記第2連結板部を貫通して前記第2連結筒部に挿入される第2連結ピンとを備えていてもよい。前記ガイド部は、前記第1連結ピンの上端部よりも上方の箇所から前記第2連結ピンの上端部よりも上方の箇所まで延びるように形成できる。
【0015】
この構成によれば、第1デッキビームの第1連結筒部と、第2デッキビームの第2連結筒部とを第1連結ピン及び第2連結ピンによって回動可能に連結することができる。この場合に、ガイド部が第1連結ピンの上方から第2連結ピンの上方まで延びているので、スライド部材が第1連結ピンや第2連結ピンと干渉することはなく、スライド部材をスムーズにスライドさせることができる。
【0016】
本開示の第4の態様に係るガイド部は、前記ジョイント本体とは別部材とされた上側構成部材の一部に設けられていてもよい。前記上側構成部材には、前記ジョイント本体に上方から挿入される取付筒部が設けられていてもよい。
【0017】
この構成によれば、ガイド部をジョイント本体とは別部材とすることで、形状の設定自由度が向上し、スライド部材の案内がスムーズに行える形状にできる。この場合に、取付筒部をジョイント本体に差し込むことで、ガイド部の変位を抑制することができ、ガイド部を安定させることができる。
【0018】
本開示の第5の態様では、前記上側構成部材における前記第1連結ピンの上端部の真上部分と、前記上側構成部材における前記第2連結ピンの上端部の真上部分とがそれぞれ開放されていてもよい。
【0019】
この構成によれば、第1連結ピンを第1連結筒部に挿入する際に、ガイド部が邪魔になることはなく、作業が容易に行える。第2連結ピンについても同様である。
【0020】
本開示の第6の態様に係る上側構成部材は、前記第1連結板部の上に重なるように配置される第1固定板部と、前記第2連結板部の上に重なるように配置される第2固定板部とを備えていてもよい。前記第1連結ピンは前記第1固定板部を貫通し、前記第2連結ピンは前記第2固定板部を貫通するように形成できる。
【0021】
この構成によれば、第1連結ピン及び第2連結ピンによって上側構成部材の複数箇所をジョイント本体に固定することができるので、上側構成部材のがたつき等を抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、第1デッキビームと第2デッキビームとを回動可能に連結するビームジョイントの上部にガイド部を設けたので、パネル材の端部が連結されるスライド部材をガイド部によって第1デッキビーム側から第2デッキビーム側まで導くことができる。これにより、パネル材を安全にかつ所望の位置に設置できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係る吊り足場の側面図である。
図2】構築途中の吊り足場を上方から見た斜視図である。
図3】右側第1デッキビームの側面図である。
図4】右側第1デッキビームの平面図である。
図5】右側第1デッキビームと右側第2デッキビームとの接続部分近傍を示す側面図である。
図6】右側第1デッキビーム及び右側第2デッキビームの接続前の状態を示したビームジョイントの分解斜視図である。
図7】右側第2デッキビーム及びビームジョイントの部分断面図である。
図8】スライド部材の斜視図である。
図9】上側パイプ材に固定した状態を示すスライド部材の正面図である。
図10】クサビを省略したスライド部材の側面図である。
図11】クサビの平面図である。
図12】変形例1に係る図8相当図である。
図13】上側構成部材の断面図である。
図14】別形態のジョイントの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係る吊り足場1の側面図である。吊り足場1は、デッキ2と、作業床を構成する複数のパネル材3と、複数の吊り部材4とを備えている。パネル材3は、例えば木製足場板、鋼製足場板、アンチ(板付き布枠)等で構成されており、作業用の足場となる作業床を構成することができる部材であれば、特に限定されない。パネル材3の大きさや形状も、デッキ2の大きさや形状に合わせて任意に設定することができる。また、パネル材3の数も、デッキ2の大きさや形状によって変更可能である。本実施形態では、パネル材3がアンチであり、図2にも示すように、長方形または長方形に近似可能な所定方向に長い板材3aと、板材3aの長手方向両端部(板材3aの一端部及び他端部)にそれぞれ設けられ、後述する布材に係合する係合部3bとを有している。図2は、吊り足場1を構築する途中の状態を示しており、パネル材3が設置途中となっている。また、図2は、各部材を模式的に示しており、各部材の詳細構造は省略している。
【0026】
2つの係合部3bが板材3aの一端部に互いに幅方向に間隔をあけて設けられるとともに、板材3aの他端部にも2つの係合部3bが互いに幅方向に間隔をあけて設けられている。これら4つの係合部3bは同じものであり、下方に開放するフック状に形成されている。
【0027】
図1に示す吊り部材4は、デッキ2を構成するデッキビーム21~26(後述する)を建築物に吊り下げるための部材であり、例えば金属製のチェーン等で構成することができる。吊り部材4の上部は、例えば建築物等に対して直接または吊り具用金物等を介して間接的に固定されている。吊り部材4の下部に連結部材5を介してデッキビーム21、22、25、26等が固定される。連結部材5は、吊り部材4が挿通する筒状に形成されており、吊り部材4が挿通した状態で当該吊り部材4を連結部材5に対してピン(図示せず)等によって固定することができるようになっている。また、連結部材5は、デッキビーム21、22、25、26の端部に対して固定されている。
【0028】
吊り部材4の本数は、デッキ2の大きさや形状に合わせて任意の本数にすることができる。また、吊り部材4の長さは、建築物や作業内容等に応じて任意の長さに変更することができる。デッキビーム21~26、パネル材3及び吊り部材4は、吊り足場1を構成する足場構成部材である。
【0029】
吊り足場1は、各種建築物の建築現場や各種土木作業現場において、その作業の種類や内容等に応じて構築されるものである。例えば、橋梁の架設や橋梁の補修工事等においても吊り足場1を使用することができる。建設作業以外にも、メンテナンス作業時にも吊り足場1が構築される。吊り足場1は、例えば規模の大きな生産設備や工場施設である各種プラントの建築現場やメンテナンス作業現場で構築するのに適している。各種プラントでは、建物の外部に複数の配管が入り組むようにして設けられており、これら配管に対する作業や建物に対する作業を行う際に、本実施形態に係る吊り足場1を構築することができる。
【0030】
図1に示すように、デッキ2は、第1デッキ2A、第2デッキ2B及び第3デッキ2Cを備えている。デッキ2は、第1デッキ2Aのみで構成されていてもよいし、任意の複数のデッキ2A~2Cで構成されていてもよく、その数は3つに限られるものではない。第1デッキ2Aは、第2デッキ2B及び第3デッキ2Cとは別に組み立てられるデッキであり、ファーストデッキとも呼ばれる。また、デッキ2は、紙面の奥行方向に拡張される形態であってもよい。
【0031】
すなわち、デッキ2を構築する際には、第1デッキ2Aを例えば地上で組み立てた後、吊り部材4によって建築物に吊り下げる工程を行う。この工程を行うことで、第2デッキ2B及び第3デッキ2Cよりも先にパネル材3によって作業床を形成できる。これがファーストデッキ組立工程である。ファーストデッキ組立工程の後、第1デッキ2Aの作業床に作業員が上がって第2デッキ2Bを組み立て、第2デッキ2Bの組み立てが完了した後、第2デッキ2Bの作業床に作業員が上がって第3デッキ2Cを組み立てることで、作業床を順次拡張していくことが可能になっている。つまり、本実施形態の吊り足場1は、既設のデッキ(第1デッキ2A)を吊り下げた状態で順次、足場を拡張していくことが可能な先行床施工型吊り足場である。第1デッキ2A、第2デッキ2B及び第3デッキ2Cの並ぶ方向が足場の拡張方向であり、施工方向とも呼ぶ。施工方向の手前側を基端側といい、奥側を先端側という。また、デッキ2を基端側から見た時に右となる側を単に右といい、左となる側を単に左という。尚、吊り足場1には、図示しないが、必要に応じて手摺、幅木、布材等が取り付けられていてもよい。
【0032】
図2に示すように、第1デッキ2Aは、右側第1デッキビーム21と左側第1デッキビーム22とを備えている。また、第2デッキ2Bは、右側第2デッキビーム23と左側第2デッキビーム24とを備えている。また、第3デッキ2Cは、右側第3デッキビーム25と左側第3デッキビーム26とを備えている。
【0033】
第1デッキ2Aを構成している右側第1デッキビーム21は、第1デッキ2Aの右側に配置される部材であり、施工方向に水平に延びている。左側第1デッキビーム22は、第1デッキ2Aの左側に配置される部材であり、施工方向に水平に延びている。右側第1デッキビーム21及び左側第1デッキビーム22は、互いに左右方向に対向しており、互いに平行に配置されている。右側第1デッキビーム21と左側第1デッキビーム22とは同じものであり、よって、右側第1デッキビーム21及び左側第1デッキビーム22の長さは同じである。
【0034】
第2デッキ2Bを構成している右側第2デッキビーム23は、第2デッキ2Bの右側に配置される部材であり、施工方向に水平に延びている。左側第2デッキビーム24は、第2デッキ2Bの左側に配置される部材であり、施工方向に水平に延びている。右側第2デッキビーム23及び左側第2デッキビーム24は、互いに左右方向に対向しており、互いに平行に配置されている。右側第2デッキビーム23及び左側第2デッキビーム24は、それぞれ右側第1デッキビーム21及び左側第1デッキビーム22と同じものである。
【0035】
右側第2デッキビーム23の基端部が右側第1デッキビーム21の先端部に対して、後述するビームジョイント50(図5図7に示す)によって上下方向に延びる軸周りに回動可能に接続されている。右側第2デッキビーム23の基端部と、右側第1デッキビーム21の先端部とは、ビームジョイント50が介在していることで、水平方向に間隔をあけた状態で接続されることになる。具体的には、右側第2デッキビーム23の基端部と、右側第1デッキビーム21の先端部とは施工方向に間隔をあけて配置される。
【0036】
また、左側第2デッキビーム24の基端部は左側第1デッキビーム22の先端部に対して、同様に構成された別のビームジョイント50によって回動可能に接続されている。左側第2デッキビーム24の基端部と、左側第1デッキビーム22の先端部とは施工方向に間隔をあけて配置される。
【0037】
第3デッキ2Cを構成している右側第3デッキビーム25は、第3デッキ2Cの右側に配置される部材であり、施工方向に水平に延びている。左側第3デッキビーム26は、第3デッキ2Cの左側に配置される部材であり、施工方向に水平に延びている。右側第3デッキビーム25及び左側第3デッキビーム26は、互いに左右方向に対向しており、互いに平行に配置されている。右側第3デッキビーム25及び左側第3デッキビーム26は、それぞれ右側第1デッキビーム21及び左側第1デッキビーム22と同じものである。
【0038】
右側第3デッキビーム25の基端部が右側第2デッキビーム23の先端部に対して、更に別のビームジョイント50によって上下方向に延びる軸周りに回動可能に接続されている。また、左側第3デッキビーム26の基端部は左側第2デッキビーム24の先端部に対して、さらに別のビームジョイント50によって回動可能に接続されている。
【0039】
また、デッキビーム21~26の長さは、特に限られるものではなく、任意に設定することができ、あくまでも例であるが、短いものから順に、610mm、914mm、1219mm、1524mm、1829mm等とすることもでき、この場合は5種類の長さのデッキビームを任意に組み合わせてデッキ2A~2Cを構成することができる。上記寸法は、例えばデッキビームの両端に取付可能なビームジョイント50の中心~中心までの寸法とすることができる。デッキビーム21~26の長さ、幅、上下方向の寸法等の諸元を予め決めておくことで、デッキビーム21~26を規格品とすることができ、システム化された吊り足場1を構成できる。
【0040】
デッキビーム21~26は全て同じものであることから、以下、図3及び図4に基づいて右側第1デッキビーム21の構造について詳細に説明する。右側第1デッキビーム21は、上側パイプ材40と、下側パイプ材41と、一側連結材42と、他側連結材43と、中間連結材44とを備えている。上側パイプ材40及び下側パイプ材41は、例えば円形断面を有する鋼管等で構成されており、具体的には、従来から仮設足場を構成している単管建地や布材等の部材である。よって、上側パイプ材40及び下側パイプ材41の外径は、単管建地や布材等と同じである。
【0041】
上側パイプ材40は水平に延びている。下側パイプ材41は、上側パイプ材40から下方に離れて配置され、当該上側パイプ材40と平行に延びている。上側パイプ材40の外径と下側パイプ材41の外径とは同じであるが、異なっていてもよい。また、上側パイプ材40の長さと下側パイプ材41の長さとは同じである。平面視で第1デッキビーム21の長手方向に直交する方向を第1デッキビーム21の左右方向と定義し、第1デッキビーム21の左右方向は第1デッキビーム21の幅方向と呼ぶこともできる。
【0042】
一側連結材42及び他側連結材43は、それぞれ、上側パイプ材40及び下側パイプ材41に対して例えば溶接等によって固定されており、当該上側パイプ材40及び当該下側パイプ材41を連結するための部材である。一側連結材42は、上側パイプ材40の一端部から下側パイプ材41の一端部まで延び、左右方向に互いに間隔をあけて配設された左右一対の金属製の板材42a、42bと、一側連結筒部42cと、一側連結筒部42cを板材42a、42bに固定するための中間板材42dとを有している。一側連結筒部42cは、中間板材42d及び板材42a、42bを介して上側パイプ材40の一端部及び下側パイプ材41の一端部に固定されることになる。
【0043】
左側の板材42aは、上側パイプ材40の一端部の外周面における下側部分から下側パイプ材41の一端部の外周面における上側部分まで連続して延びるとともに、第1デッキビーム21の長手方向にも延びており、平面視で上側パイプ材40及び下側パイプ材41の軸線から左方向に偏位している。右側の板材42bは、左側の板材42aと平行であり、平面視で上側パイプ材40及び下側パイプ材41の軸線から右方向に偏位している。図4に示す平面視では、左右の板材42a、42bが上側パイプ材40によって隠れるように位置付けられる。
【0044】
中間板材42dは、板材42a、42bに沿うように上下方向に延びるとともに、第1デッキビーム21の長手方向にも延びている。中間板材42dの上下方向の寸法は、板材42a、42bの上下方向の寸法よりも短く設定されている。中間板材42dの基部は板材42a、42bの間に挿入された状態で両板材42a、42bに固定されている。中間板材42dの先端部は、両板材42a、42bの間から第1デッキビーム21の長手方向外方へ向けて突出しており、具体的には上側パイプ材40及び下側パイプ材41の一端部よりも外方に位置している。
【0045】
一側連結筒部42cは、上下方向に延びる円筒状の部材で構成されており、上下方向の両端部がそれぞれ開放されている。一側連結筒部42cの外径は、上側パイプ材40及び下側パイプ材41の外径よりも小さく設定されている。一側連結筒部42cの外面が中間板材42dの先端部に溶接等によって固定されている。この固定状態では、一側連結筒部42cが上側パイプ材40及び下側パイプ材41の一端部よりも外方に位置付けられ、かつ、一側連結筒部42cの軸線の延長線と、上側パイプ材40の軸線の延長線とが直交する位置関係となる。一側連結筒部42cの上端部は、上側パイプ材40の下部よりも下に位置付けられ、また一側連結筒部42cの下端部は、下側パイプ材41の上部よりも上に位置付けられる。
【0046】
他側連結材43は、上側パイプ材40の他端部から下側パイプ材41の他端部まで延び、左右方向に互いに間隔をあけて配設された左右一対の金属製の板材43a、43bと、他側連結筒部43cと、他側連結筒部43cを板材43a、43bに固定するための中間板材43dとを有している。他側連結筒部43cは、中間板材43d及び板材43a、43bを介して上側パイプ材40の他端部及び下側パイプ材41の他端部に固定されることになる。他端側の板材43a、43b、他側連結筒部43c、中間板材43dは、それぞれ、一端側の板材42a、42b、一側連結筒部42c、中間板材42dと同じである。
【0047】
すなわち、左側の板材43aは、上側パイプ材40の他端部の外周面における下側部分から下側パイプ材41の他端部の外周面における上側部分まで連続して延びるとともに、第1デッキビーム21の長手方向にも延びており、平面視で上側パイプ材40及び下側パイプ材41の軸線から左方向に偏位している。右側の板材43bは、左側の板材43aと平行であり、平面視で上側パイプ材40及び下側パイプ材41の軸線から右方向に偏位している。図4に示す平面視では、左右の板材43a、43bが上側パイプ材40によって隠れるように位置付けられる。
【0048】
中間板材43dは、板材43a、43bに沿うように上下方向に延びるとともに、第1デッキビーム21の長手方向にも延びている。中間板材43dの上下方向の寸法は、板材43a、43bの上下方向の寸法よりも短く設定されている。中間板材43dの基部は板材43a、43bの間に挿入された状態で両板材43a、43bに固定されている。中間板材43dの先端部は、両板材43a、43bの間から第1デッキビーム21の長手方向外方へ向けて突出しており、具体的には上側パイプ材40及び下側パイプ材41の他端部よりも外方に位置している。
【0049】
他側連結筒部43cは、上下方向に延びる円筒状の部材で構成されており、上下方向の両端部がそれぞれ開放されている。他側連結筒部43cの外径は、上側パイプ材40及び下側パイプ材41の外径よりも小さく設定されている。他側連結筒部43cの外面が中間板材43dの先端部に溶接等によって固定されている。この固定状態では、他側連結筒部43cが上側パイプ材40及び下側パイプ材41の他端部よりも外方に位置付けられ、かつ、他側連結筒部43cの軸線の延長線と、上側パイプ材40の軸線の延長線とが直交する位置関係となる。他側連結筒部43cの上端部は、上側パイプ材40の下部よりも下に位置付けられ、また他側連結筒部43cの下端部は、下側パイプ材41の上部よりも上に位置付けられる。
【0050】
中間連結材44は、上側パイプ材40の長手方向中間部から下側パイプ材41の長手方向中間部まで延びている。中間連結材44の上端部は、上側パイプ材40の外周面における下側部分に固定されている。中間連結材44の下端部は、下側パイプ材41の外周面に固定されている。中間連結材44も上側パイプ材40及び下側パイプ材41に対して溶接等で固定することができる。したがって、上側パイプ材40と下側パイプ材41とは、長手方向両端部だけではなく、中間部同士も連結されることになるので、右側第1デッキビーム21は高い強度を確保することができる。中間連結材44は、平面視で上側パイプ材40の径方向両方にはみ出さないように形成されている。
【0051】
尚、中間連結材44の個数は1つに限られるものではなく、2つ以上であってもよい。中間連結材44は、足場構成部材に設けられたクサビが差し込まれる差し込み部を有していてもよい。上側パイプ材40及び下側パイプ材41が短い場合には、中間連結材44を省略してもよい。
【0052】
右側第1デッキビーム21の左右方向の寸法は、上下方向の寸法よりも短く設定されている。すなわち、右側第1デッキビーム21を構成する上側パイプ材40は1本のみであり、上側パイプ材40の側方に別のパイプ材が配設されておらず、また、下側パイプ材41も1本のみであり、下側パイプ材41の側方に別のパイプ材が配設されていない。そして、これら上側パイプ材40及び下側パイプ材41が平面視で左右方向には並ばないように配置されている。具体的には、上側パイプ材40の真下に下側パイプ材41が位置しており、従って、平面視では、上側パイプ材40の軸線と、下側パイプ材41の軸線とが重複する位置関係になる。このように上側パイプ材40及び下側パイプ材41を配置することで、右側第1デッキビーム21の左右方向の寸法は、上側パイプ材40ないし下側パイプ材41の外径と等しくなる。
【0053】
図2に示すように、他のデッキビーム22~26も、上側パイプ材40、下側パイプ材41、一側連結材42、他側連結材43及び中間連結材44を備えている。全てのデッキビーム21~26は同一高さに設置される。従って、デッキビーム21~26の全ての上側パイプ材40は同一高さに位置し、また全ての下側パイプ材41も同一高さに位置する。
【0054】
(スライド部材及び布材)
図2に示すように、吊り足場1は、右側第1デッキビーム21の上側パイプ材40及び左側第1デッキビーム22の上側パイプ材40にそれぞれ掛けられ、当該上側パイプ材40の軸方向にスライドする一対のスライド部材80、80と、一対のスライド部材80、80に連結され、右側第1デッキビーム21及び左側第1デッキビーム22の離間方向に延びる布材90とを備えている。詳細は後述するが、スライド部材80は、右側第1デッキビーム21の上側パイプ材40から右側第2デッキビーム23の上側パイプ材40までスライド可能であるとともに、右側第2デッキビーム23の上側パイプ材40から右側第3デッキビーム25の上側パイプ材40までスライド可能である。また、スライド部材80は、左側第1デッキビーム22の上側パイプ材40から左側第2デッキビーム24の上側パイプ材40までスライド可能であるとともに、左側第2デッキビーム24の上側パイプ材40から左側第3デッキビーム26の上側パイプ材40までスライド可能である。
【0055】
パネル材3は、布材90を介してスライド部材80、80に連結されるようになっている。具体的には、パネル材3の係合部3bは、布材90に対して上方から掛けられた状態で係合し、この係合状態でパネル材3が下方へ落下しないようにスライド部材80、80を介して上側パイプ材40で支持される。
【0056】
一対のスライド部材80、80は同じものである。図8及び図9に示すように、各スライド部材80は、本体部81と、ポケット82と、クサビ83とを有している。本体部81が上側パイプ材40に上から掛けられる部分であり、上側パイプ材40の軸方向にスライド可能になっている。本体部81は、上側パイプ材40の上に配置される上板部81aと、上板部81aにおける上側パイプ材40の径方向両端部に対応する部分からそれぞれ下方へ延びる第1縦板部81b及び第2縦板部81cとを備えている。上板部81aは、上側パイプ材40の上部に沿って軸方向に延びるとともに、径方向に対応する方向(左右方向)にも延びている。
【0057】
図9にも示すように、第1縦板部81bは、上板部81aにおけるデッキ2の内方に位置する端部から下方へ延びている。第2縦板部81cは、上板部81aにおけるデッキ2の外方に位置する端部から下方へ延びている。尚、デッキ2の内外方向は、図9に示す方向と反対であってもよい。
【0058】
第1縦板部81bと第2縦板部81cとは、上端部同士が上板部81aによって連結されているだけであり、下方向及び上側パイプ材40の軸方向に対応する両方向は開放されている。第1縦板部81bと第2縦板部81cとの間隔は、上端部から下端部まで略同じに設定されており、上側パイプ材40の外径よりも若干広めである。これにより、上側パイプ材40を第1縦板部81b及び第2縦板部81cの下方から、第1縦板部81b及び第2縦板部81cの間に容易に挿入することができ、スライド部材80を上側パイプ材40に簡単に掛けることが可能になる。スライド部材80を上側パイプ材40に掛けた状態では、スライド部材80に作用する下向きの荷重を、上板部81aを介して上側パイプ材40で受けることができる。また、スライド部材80が上側パイプ材40の径方向に変位しようとすると、第1縦板部81bまたは第2縦板部81cが上側パイプ材40の外面に当接することで変位が抑制されてスライド部材80の脱落を未然に防止できる。
【0059】
第1縦板部81b及び第2縦板部81cは、上側パイプ材40の下部よりも下方まで延びている。ポケット82は、布材90の端部が連結される部分(被連結部)である。すなわち、布材90の両端部には、それぞれ下方へ突出するクサビ(図示せず)が設けられている。ポケット82は上下方向に開放されており、布材90のクサビを上方から差し込み可能に構成されている。本実施形態では、ポケット82が第1縦板部81bと第2縦板部81cとの両方に設けられているが、第1縦板部81bと第2縦板部81cとの一方にのみ設けられていてもよい。
【0060】
第1縦板部81b及び第2縦板部81cには、上側パイプ材40の下部に当接するクサビ83が打ち込まれる第1クサビ孔81d及び第2クサビ孔81eがそれぞれ形成されている。第1クサビ孔81dは、矩形状とされており、第1縦板部81bの厚み方向(水平方向)に貫通している。また、第2クサビ孔81eも矩形状とされており、第2縦板部81cの厚み方向(水平方向)に貫通している。第1クサビ孔81dの下縁部と、第2クサビ孔81eの下縁部とは同じ高さに位置しており、上側パイプ材40の軸方向に直線状に延びている。一方、第1クサビ孔81dの上縁部は、第2クサビ孔81eの上縁部よりも上に位置しており、下縁部と平行に延びている。第1クサビ孔81d及び第2クサビ孔81eの幅(上側パイプ材40の軸方向に対応する方向の寸法)は、同じに設定されている。
【0061】
クサビ83の長さは、第1クサビ孔81dから第2クサビ孔81eに達し、かつ、第1クサビ孔81dからデッキ2の内方へ突出するとともに、第2クサビ孔81eからデッキ2の外方へも突出するように設定されている。クサビ83は、第1クサビ孔81dへの打ち込み方向に長い下板部83aと、下板部83aの幅方向両端部から上方へ突出する一対の側板部83b、83bとを有している。側板部83b、83bの上下方向の寸法は、打ち込み方向先端に近づくほど短くなるように設定されている。具体的には、側板部83b、83bの打ち込み方向先端の上下方向の寸法は、第2クサビ孔81eに挿入可能に設定されているが、側板部83b、83bの打ち込み方向基端の上下方向の寸法は、第1クサビ孔81dの上下方向の寸法よりも長く設定されていて、クサビ83の基端が第1クサビ孔81dを通過不能になっている。
【0062】
図10に示すように、クサビ83の下板部83aには、打ち込み方向に延びるスリット83cが形成されている。スリット83cには、図9に示すようにクサビホルダ81fが入るようになっている。クサビホルダ81fは、第1縦板部81bに両端部が固定された棒状の部材で構成されており、クサビ83が本体部81から落下しないようにするためのものである。クサビ83を第1クサビ孔81d及び第2クサビ孔81eから抜くと、クサビ83は図9に仮想線で示すように下に垂れ下がった姿勢(非固定姿勢)になる。一方、図9に実線で示す固定姿勢となるように、クサビ83を第1クサビ孔81d及び第2クサビ孔81eに打ち込むと、クサビ83の側板部83b、83bの上縁部が下側パイプ材41に下から当接して下側パイプ材41をクサビ83と上板部81aとによって上下方向に強固に挟むことができる。これにより、スライド部材80を上側パイプ材40に対して軸方向に動かないように固定できる。クサビホルダ81fは、スリット83cに挿入した後に第1縦板部81bに固定すればよい。
【0063】
(変形例1)
スライド部材80は、図12に示す変形例1のように構成することもできる。変形例1に係るスライド部材80は、図8に示す例と比べて、布材90の端部が連結される被連結部の構造が異なるだけであり、他の部分は同一である。すなわち、スライド部材80は、水平方向に延びる板材84を備えており、この板材84によって被連結部が構成されている。板材84には、布材90のクサビが差し込まれる差込孔84aが上下方向に貫通するように形成されている。布材90のクサビを差込孔84aに差し込むことにより、布材90をスライド部材80に連結することが可能になる。差込孔84aの形状や大きさは、布材90のクサビに合わせて設定することができ、図示したものに限られない。
【0064】
(回転式ビームジョイント)
図5に示すように、右側第1デッキビーム21と右側第2デッキビーム23とは、回転式のビームジョイント50によって接続されている。図5において、右側第1デッキビーム21の他側連結筒部43cが右側第1デッキビーム21の端部に固定された第1連結筒部であり、また、右側第2デッキビーム23の一側連結筒部42cが右側第2デッキビーム23の端部に固定された第2連結筒部である。
【0065】
図6図7にも示すように、ビームジョイント50は、右側第1デッキビーム21の他側連結筒部43cと右側第2デッキビーム23の一側連結筒部42cとの間に配置され、上下方向に延びる円筒状のジョイント本体51を備えている。ジョイント本体51の外径は、一側連結筒部42c及び他側連結筒部43cの外径よりも大径となっている。また、ジョイント本体51は一側連結筒部42c及び他側連結筒部43cよりも長く形成されていて、ジョイント本体51の上端部は、一側連結筒部42c及び他側連結筒部43cの上端部よりも上方に位置し、またジョイント本体51の下端部は、一側連結筒部42c及び他側連結筒部43cの下端部よりも下方に位置している。
【0066】
ビームジョイント50は、上側第1連結板部52と、下側第1連結板部53と、上側第2連結板部54と、下側第2連結板部55と、下部連結板部56とをさらに備えている。上側第1連結板部52は、ジョイント本体51の上端部近傍に固定され、右側第1デッキビーム21の他側連結筒部43cの上端部に重なるように配置されている。上側第1連結板部52には、他側連結筒部43cの上端の開口と一致する貫通孔52aが形成されている。また、下側第1連結板部53は、ジョイント本体51の下端部近傍に固定され、右側第1デッキビーム21の他側連結筒部43cの下端部に重なるように配置されている。下側第1連結板部53には、他側連結筒部43cの下端の開口と一致する貫通孔53aが形成されている。
【0067】
上側第2連結板部54は、ジョイント本体51の上端部近傍に固定され、右側第2デッキビーム23の一側連結筒部42cの上端部に重なるように配置されている。上側第2連結板部54には、一側連結筒部42cの上端の開口と一致する貫通孔54aが形成されている。また、下側第2連結板部55は、ジョイント本体51の下端部近傍に固定され、右側第2デッキビーム23の一側連結筒部42cの下端部に重なるように配置されている。下側第2連結板部55には、一側連結筒部42cの下端の開口と一致する貫通孔55aが形成されている。
【0068】
下部連結板部56は、ジョイント本体51の下端部近傍に固定され、デッキ2の内外方向に突出するとともに上下方向に延びている。下部連結板部56には、水平方向に貫通する貫通孔56aが形成されている。
【0069】
ビームジョイント50は、第1連結ピン61及び第2連結ピン62をさらに備えている。第1連結ピン61は、上側第1連結板部52を貫通して右側第1デッキビーム21の他側連結筒部43cに挿入されるとともに、下側第1連結板部53を貫通するように形成されている。すなわち、第1連結ピン61の上端部には下側部分に比べて大径の頭部61aが形成されている。第1連結ピン61の頭部61aよりも下側部分は上下方向に延びる円柱状をなしている。第1連結ピン61の下側部分が上側第1連結板部52の貫通孔52a、他側連結筒部43c及び下側第1連結板部53の貫通孔53aに挿通されることにより、ジョイント本体51が他側連結筒部43cに対して、第1連結ピン61の軸線周りに相対回動可能に接続される。
【0070】
第2連結ピン62は、第1連結ピン61と同じものであり、上側第2連結板部54を貫通して右側第2デッキビーム23の一側連結筒部42cに挿入されるとともに、下側第2連結板部55を貫通するように形成されている。すなわち、第2連結ピン62の頭部62aよりも下側部分が上側第2連結板部54の貫通孔54a、一側連結筒部42c及び下側第2連結板部55の貫通孔55aに挿通されることにより、ジョイント本体51が一側連結筒部42cに対して、第2連結ピン62の軸線周りに相対回動可能に接続される。
【0071】
ビームジョイント50は、ジョイント本体51とは別部材とされた上側構成部材70をさらに備えている。上側構成部材70は、ガイド部71と、第1側壁部72及び第2側壁部73と、第1固定板部74a及び第2固定板部74bと、取付筒部75とを備えている。ガイド部71は、スライド部材80を右側第1デッキビーム21側から右側第2デッキビーム23側まで導くための部分であり、上側構成部材70の一部で構成されている。具体的には、ガイド部71は、右側第1デッキビーム21側から右側第2デッキビーム23側まで延びるとともに右側第1デッキビーム21及び右側第2デッキビーム23と同一高さに設置される。このガイド部71の下方に第1連結ピン61の上端部(頭部61a)が位置するともに、第2連結ピン62の上端部(頭部62a)が位置している。つまり、ガイド部71は、第1連結ピン61の上端部よりも上方の箇所から第2連結ピン62の上端部よりも上方の箇所まで延びている。
【0072】
ガイド部71の形状は、上側パイプ材40の上半部の形状に対応した円弧状を有している。これにより、右側第1デッキビーム21の上側パイプ材40の軸線に沿って見たとき、ガイド部71が当該上側パイプ材40からはみ出したり、突出することが無くなるので、右側第1デッキビーム21の上側パイプ材40に掛けてあるスライド部材80がガイド部71へスムーズに移動可能になる。同様に、ガイド部71へ移動したスライド部材80が右側第2デッキビーム23へスムーズに移動可能になる。
【0073】
上側構成部材70における第1連結ピン61の上端部の真上部分と、上側構成部材70における第2連結ピン62の上端部の真上部分とはそれぞれ開放されている。具体的には、上側構成部材70には、第1連結ピン61の頭部61aの真上部分を上方へ開放するための第1切欠部71aが形成されている。第1切欠部71aの大きさは、第1連結ピン61を貫通孔52aに挿通させる際に頭部61aがガイド部71と干渉することなく、当該頭部61aをガイド部71の上方から下方へ移動させることが可能な大きさである。また、上側構成部材70には、第2連結ピン62の頭部62aの真上部分を上方へ開放するための第2切欠部71bが形成されている。第2切欠部71bの大きさは、第2連結ピン62を貫通孔54aに挿通させる際に頭部62aがガイド部71と干渉することなく、当該頭部62aをガイド部72の上方から下方へ移動させることが可能な大きさである。
【0074】
第1側壁部72は、ガイド部71における幅方向(デッキ2の左右方向に対応する方向)の一端部から下方へ延びるとともに、右側第1デッキビーム21側から右側第2デッキビーム23側まで延びている。また、第2側壁部73は、ガイド部71における幅方向の他端部から下方へ延びるとともに、右側第1デッキビーム21側から右側第2デッキビーム23側まで延びている。第1側壁部72と第2側壁部73とは互いに平行である。
【0075】
図13に示す第1固定板部74a及び第2固定板部74bは第1側壁部72の下端部から第2側壁部73の下端部まで延びており、ジョイント本体51を避けるように設けられている。第1固定板部74aは上側第1連結板部52の上に重なるように配置される。第1固定板部74aには上側第1連結板部52の貫通孔52aと一致する貫通孔74cが形成されている。第1連結ピン61は、第1固定板部74aの貫通孔74cに挿通される。つまり、第1連結ピン61は、第1固定板部74aを貫通してその下の貫通孔52aに挿入されるので、第1連結ピン61によって上側構成部材70をジョイント本体51に固定できる。
【0076】
また、第2固定板部74bは上側第2連結板部54の上に重なるように配置される。第2固定板部74bには上側第2連結板部54の貫通孔54aと一致する貫通孔74dが形成されている。第2連結ピン62は、第2固定板部74bの貫通孔74dに挿通される。つまり、第2連結ピン62は、第2固定板部74bを貫通してその下の貫通孔54aに挿入されるので、第2連結ピン62によっても上側構成部材70をジョイント本体51に固定できる。
【0077】
上側構成部材70は、第1補強板76及び第2補強板77を備えている。第1補強板76は、第1側壁部72から第2側壁部73に延びるとともに、一方の底壁部74に連結される。また、第2補強板77は、第1側壁部72から第2側壁部73に延びるとともに、他方の底壁部74に連結される。
【0078】
上側構成部材70は、取付筒部75が取り付けられる中間板部78も備えている。中間板部78は、第1補強板76と第2補強板77との間の中間部分に配置されており、第1側壁部72から第2側壁部73に延びている。中間板部78の高さは、第1側壁部72の上端部近傍に設定されており、第1固定板部74a及び第2固定板部74bよりも高いところに位置している。
【0079】
取付筒部75は、上下方向に延びる円筒状をなしている。取付筒部75の外径は、ジョイント本体51の内径よりも小さく設定されている。取付筒部75の上端部が中間板部78の下面に固定されている。取付筒部75は、第1固定板部74a及び第2固定板部74bよりも下方へ突出しており、取付筒部75の下側部分はジョイント本体51に上方から挿入される。
【0080】
(別形態のジョイント)
図14は、ガイド部71を有さない別形態のジョイント100を示す斜視図である。ジョイント100は、ジョイント本体101と、それぞれ水平な4方向に突出するように設けられた上側連結板部102及び下側連結板部103とを備えている。各上側連結板部102には、貫通孔102aが形成されており、また、各下側連結板部103には、貫通孔103aが形成されている。一側連結筒部42cまたは他側連結筒部43cの上端部に重なるように上側連結板部102が配置可能になっている。下側連結板部103は、一側連結筒部42cまたは他側連結筒部43cの下端部に配置可能になっている。よって、ジョイント100を用いることにより、第1連結ピン61及び第2連結ピン62によって第1デッキビーム22と第2デッキビーム23とを接続できる。また、上側連結板部102及び下側連結板部103がそれぞれ4つあるので、最大で4本のデッキビームをジョイント100で接続することも可能である。
【0081】
ジョイント本体101には、上方へ突出する突出筒部104が設けられている。この突出筒部104には、水平方向に貫通する貫通孔104aが形成されている。例えば突出筒部104を支柱(図示せず)にその下方から挿入してピン等を貫通孔104aに差し込むことで、支柱をジョイント本体101に固定することができる。また、ジョイント本体101に吊り部材4を挿入して固定することもできる。
【0082】
(パネル材の設置方法)
次に、図2に基づいてパネル材3の設置方法について説明する。パネル材3を設置する前に、第1デッキ2Aを吊り部材4によって建築物に吊り下げる。第1デッキ2Aを構成している右側第1デッキビーム21の上側パイプ材40及び左側第1デッキビーム22の上側パイプ材40には、それぞれ、スライド部材80を掛ける。このとき、クサビ83による固定は行わない。
【0083】
一対のスライド部材80、80に布材90の両端部を連結する。スライド部材80、80及び布材90は右側第1デッキビーム21及び左側第1デッキビーム22の基端側に寄せておき、パネル材3の一端部の係合部3bを布材90に係合させる。このとき、第1デッキ2Aの一部のパネル材3のみ布材90に係合させておく。その後、図2に矢印で示すように、パネル材3を第1デッキ2Aの先端側へ押すと、パネル材3がスライド部材80によって上側パイプ材40に支持されているので、上側パイプ材40によって先端側へ案内されながら移動する。
【0084】
別のスライド部材80、80及び布材90を右側第1デッキビーム21及び左側第1デッキビーム22の基端側に掛けた後、パネル材3の他端部の係合部3bを当該別の布材90に係合させることで第1デッキ2Aにパネル材3を設置できる。
【0085】
その後、第1デッキ2Aのパネル材3に作業者が立ち、右側第1デッキビーム21の先端部に、ビームジョイント50を介して右側第2デッキビーム23の基端部を接続し、左側第1デッキビーム22の先端部に、ビームジョイント50を介して左側第2デッキビーム24の基端部を接続する。
【0086】
次いで、第1デッキ2Aのパネル材3をさらに先端側へ押していくと、先端側に位置しているスライド部材80が右側第1デッキビーム21側からビームジョイント50のガイド部71(図5等に示す)に移動し、ガイド部71によって右側第2デッキビーム23側へ案内される。よって、スライド部材80がスムーズに移動する。
【0087】
このようにしてパネル材3を第2デッキ2Bに送ることができる。パネル材3を第2デッキ2Bに送る際には、更に別のスライド部材80、80及び布材90を右側第1デッキビーム21及び左側第1デッキビーム22の基端側に掛ける。そして、別のパネル材3の係合部3bを当該更に別の布材90に係合させた後、先端側へ押すと、パネル材3の全体を先端側へ送ることができ、第2デッキ2Bにパネル材3を設置できる。
【0088】
その後、第2デッキ2Bのパネル材3に作業者が立ち、右側第2デッキビーム23の先端部に、ビームジョイント50を介して右側第3デッキビーム25の基端部を接続し、左側第2デッキビーム24の先端部に、ビームジョイント50を介して左側第3デッキビーム26の基端部を接続する。以降、同様にしてパネル材3を第3デッキ2Cにも送ることができる。
【0089】
パネル材3の設置後、スライド部材80のクサビ83を第1クサビ孔81d及び第2クサビ孔81eに打ち込んでスライド部材80を上側パイプ材40に固定する。
【0090】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、複数のデッキビーム21~26とパネル材3とを用いてシステム化された吊り足場1とすることができるので、従来からある単管吊り足場に比べて構築に要する時間が大幅に短縮される。
【0091】
また、第1デッキビーム22と第2デッキビーム24とがビームジョイント50によって回動可能に接続されるので、例えば既設のデッキビーム22に対して延長用のデッキビーム24を回動可能にすることができ、先行床施工型吊り足場を容易に拡張できる。
【0092】
さらに、第1デッキビーム22に第2デッキビーム24を接続して水平方向に延長していく際に、第1デッキビーム22の基端側に配置したスライド部材80にパネル材3の端部を連結させておくと、パネル材3を先端側へ向けて押すだけで、スライド部材80が第1デッキビーム22側からガイド部71によって第2デッキビーム24側まで案内されるので、パネル材3を先端側へ送ることが可能になる。つまり、作業者が第1デッキビーム21の基端側に居ながら、パネル材3を先端側へ安全に送り、所望の位置に設置可能になる。
【0093】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上説明したように、本発明に係る吊り足場は、例えば各種建築物等の作業現場で利用できる。
【符号の説明】
【0095】
1 吊り足場
2 デッキ
3 パネル材
3b 係合部
4 吊り部材
21 第1デッキビーム
24 第2デッキビーム
40 上側パイプ材
41 下側パイプ材
42 一側連結材
42c 一側連結筒部(第2連結筒部)
43 他側連結材
43c 他側連結筒部(第1連結筒部)
50 ビームジョイント
51 ジョイント本体
52 第1連結板部
54 第2連結板部
61 第1連結ピン
62 第2連結ピン
71 ガイド部
74a 第1固定板部
74b 第2固定板部
75 取付筒部
80 スライド部材
図1
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