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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】異種組織細胞組成物の使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20240722BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240722BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 31/17 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240722BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240722BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K35/12
A61P35/00
A61K45/00
A61K31/17
A61K38/22
A61K38/19
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/68
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022526386
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 CN2020128782
(87)【国際公開番号】W WO2021093864
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】62/934,633
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509075457
【氏名又は名称】中國醫藥大學
【氏名又は名称原語表記】CHINA MEDICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 91, Hsueh-Shih Road, North District Taichung, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石 志榮
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 志平
(72)【発明者】
【氏名】張 智鈞
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 羣傑
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102793914(CN,A)
【文献】特開2014-169299(JP,A)
【文献】Nature Medicine,2000年,6(10),1160-1166
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
類似又は同じ組織型に属する複数種類の癌治療用医薬品であり、病巣内経路を介して投与される医薬品の調製に用いられる異種組織細胞組成物の使用方法であって、
前記異種組織細胞組成物は腫瘍細胞及び内皮細胞を含まず、アジュバントで処理されていないことを特徴とする異種組織細胞組成物の使用方法。
【請求項2】
前記病巣内経路には、腫瘍内投与及び腫瘍周囲投与が含まれることを特徴とする請求項1に記載の異種組織細胞組成物の使用方法。
【請求項3】
前記異種組織細胞組成物は、異種組織特異的幹細胞、異種組織始原細胞、異種組織前駆体及び異種組織成熟細胞の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の異種組織細胞組成物の使用方法。
【請求項4】
前記異種組織細胞組成物は、細胞外マトリックス分子及び多糖を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の異種組織細胞組成物の使用方法。
【請求項5】
前記異種組織細胞組成物は、哺乳類動物の組織から単離されることを特徴とする請求項1に記載の異種組織細胞組成物の使用方法。
【請求項6】
前記哺乳類動物は、ヒト、ブタ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ロバ、シカ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、又はサルであることを特徴とする請求項5に記載の異種組織細胞組成物の使用方法。
【請求項7】
前記異種組織細胞組成物は、少なくとも1つの化学療法薬を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の異種組織細胞組成物の使用方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの化学療法薬は、アルキル化剤、ニトロソ尿素剤、代謝拮抗物質、抗癌抗生物質、植物由来アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ホルモン剤、ホルモン拮抗剤、アロマターゼ阻害剤、P-糖タンパク質阻害剤及び白金錯体誘導体からなる群から選ばれることを特徴とする請求項7に記載の異種組織細胞組成物の使用方法。
【請求項9】
前記異種組織細胞組成物は、標的治療薬、抗体薬、免疫調節剤、及びそれらの組み合わせを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の異種組織細胞組成物の使用方法。
【請求項10】
前記標的治療薬は、チロシンキナーゼ阻害剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ阻害剤、未分化リンパ腫キナーゼ阻害剤、B細胞リンパ腫-2阻害剤、ポリADPリボースポリメラーゼ阻害剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ阻害剤、Braf阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤、及び熱ショックタンパク質90阻害剤からなる群から選ばれることを特徴とする請求項9に記載の異種組織細胞組成物の使用方法。
【請求項11】
前記抗体薬は、抗体及び抗体薬物複合体から選ばれることを特徴とする請求項9に記載の異種組織細胞組成物の使用方法。
【請求項12】
前記免疫調節剤は、サイトカイン及び免疫チェックポイント阻害剤から選ばれることを特徴とする請求項9に記載の異種組織細胞組成物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種組織細胞組成物の使用方法に関し、特に、異種組織細胞組成物の癌治療への使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍としても知られている癌は、細胞の異常増殖であり、且つこれらの増殖している細胞により体の他の部分に侵入する可能性があり、細胞の分裂増殖に対する制御機構の障害による疾患である。癌に罹患しているヒトは全世界でますます増加する傾向にあるが、癌は、本国で死因トップ10の1つであり、27年連続で死因トップ10のトップを占めている。従来の腫瘍治療法としては、例えば、外科手術、放射線療法、化学療法、標的療法があり、効果的であるが、健康な組織に損傷を与える付随的な損傷があり、多くの合併症や悪影響を引き起こす可能性がある。更に絶望的なのは、多くの治療オプションがあっても、5年生存率が10%未満のある進行癌患者にとって、癌死亡率がごくわずかに低下し、結果が悲惨である。治療戦略が如何に多くても、癌細胞は、互いに接続されている複雑な遺伝的及びシグナル経路を介して攻撃に対する逃避方法を探し出して、新しい形態として発展して成長することができる。
【0003】
癌免疫療法は、最近、癌治療の4番目の柱になった。自然免疫及び獲得免疫の両方とも癌免疫監視に関与するため、特定の自然免疫及び獲得免疫細胞型、例えば、T細胞、B細胞、ナチュラルキラーT細胞、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、エフェクター分子、及び調節経路が腫瘍形成を阻害する共通作用を持っている。癌免疫療法は、免疫調節剤又は遺伝子操作されたT細胞による宿主免疫系の活性化により、免疫系を回避する腫瘍を根絶させることができ、長続きする反応を持っている。
【0004】
異なるタイプの浸潤性免疫細胞は、癌のタイプ及び浸潤性免疫細胞の具体的な状況に応じて、腫瘍の進行への影響が異なる。臨床的に、免疫調節剤である細胞毒性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4)及びアポトーシス-1/アポトーシスリガンド1(PD-1/PD-L1)の抗体は、優れた治療効果を示すが、持続的な反応を示すことができるのは一部の患者のみであり、癌の治療には癌免疫に関するより広い視点が必要であることを示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに鑑みて、本発明の目的は、ヒト免疫系を強化して腫瘍細胞を根絶させるため、癌治療用医薬品の調製、特に類似又は同じ組織型に属する複数種類の癌の治療に用いることのできる異種組織細胞組成物の使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、類似又は同じ組織型に属する複数種類の癌治療用医薬品であり、病巣内経路を介して投与される医薬品の調製に用いられる異種組織細胞組成物の使用方法である。異種組織細胞組成物は腫瘍細胞及び内皮細胞を含まず、アジュバントで処理されていない
【0007】
前記の異種組織細胞組成物の使用方法によれば、病巣内経路には、腫瘍内投与及び腫瘍周囲投与が含まれてよい。
【0008】
前記の異種組織細胞組成物の使用方法によれば、異種組織細胞組成物は、異種組織特異的幹細胞、異種組織始原細胞、異種組織前駆体及び異種組織成熟細胞の混合物である
【0009】
前記の異種組織細胞組成物の使用方法によれば、異種組織細胞組成物は、細胞外マトリックス分子と多糖を更に含んでよい。
【0010】
前記の異種組織細胞組成物の使用方法によれば、異種組織細胞組成物は、哺乳類動物の組織から単離されてよい。好ましくは、前記哺乳類動物は、ヒト、ブタ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ロバ、シカ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、又はサルであってよい。
【0011】
前記の異種組織細胞組成物の使用方法によれば、異種組織細胞組成物は、少なくとも1つの化学療法薬を更に含んでよい。好ましくは、前記の少なくとも1つの化学療法薬は、アルキル化剤、ニトロソ尿素剤、代謝拮抗物質、抗癌抗生物質、植物由来アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ホルモン剤、ホルモン拮抗剤、アロマターゼ阻害剤、P-糖タンパク質阻害剤、及び白金錯体誘導体からなる群から選ばれてよい。
【0012】
前記の異種組織細胞組成物の使用方法によれば、異種組織細胞組成物は、標的治療薬、抗体薬、免疫調節剤、及びそれらの組み合わせを更に含む。好ましくは、標的治療薬は、チロシンキナーゼ阻害剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ阻害剤、未分化リンパ腫キナーゼ阻害剤、B細胞リンパ腫-2阻害剤、ポリADPリボースポリメラーゼ阻害剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ阻害剤、Braf阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤、及び熱ショックタンパク質90阻害剤からなる群から選ばれてよい。抗体薬は、抗体及び抗体薬物複合体から選ばれてよい。免疫調節剤は、サイトカイン及び免疫チェックポイント阻害剤から選ばれてよい。
【0013】
これにより、本発明の異種組織細胞組成物は、病巣内経路を介して類似又は同じ組織型に属する複数種類の腫瘍部位に投与されて損傷した組織を修復し、免疫系を回復して癌を治療し、腫瘍の進行を阻害する優れた効果がある。前記癌は、乳癌、腎臓癌、肝臓癌、膀胱癌及び膵臓癌等を含むが、これらに限定されない。本発明の異種組織細胞組成物は、相乗効果を達成するために、別の抗癌治療剤と組み合わせて使用することができる。
【0014】
上記の発明の概要は、読者に本開示の内容を基本的に理解させるように、本開示の内容の簡略化された概要を提供することを目的としている。この発明の概要は、本開示の内容の完全な記述ではなく、また本発明実施例の重要な/肝心な要素を指摘するもの、又は本発明の範囲を限定するものではない。
本発明の上記及び他の目的、特徴、メリット及び実施例をより分かりやすくするために、添付の図面の説明は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本発明の異種組織細胞組成物による類似又は同じ組織学的グレードの癌(すなわち、類似又は同じ組織型に属する複数種類の癌)に対する治療を示す模式図である。
図1B】本発明の異種組織細胞組成物による類似又は同じ組織学的グレードの癌(すなわち、類似又は同じ組織型に属する複数種類の癌)に対する治療を示す模式図である。
図1C】本発明の異種組織細胞組成物による類似又は同じ組織学的グレードの癌(すなわち、類似又は同じ組織型に属する複数種類の癌)に対する治療を示す模式図である。
図2A】ブタ乳腺組織から単離された異種乳腺細胞組成物の細胞特性の分析結果を示す図である。
図2B】ブタ乳腺組織から単離された異種乳腺細胞組成物の細胞特性の分析結果を示す図である。
図3A】異種乳腺細胞組成物による乳癌の治療効果の分析結果図である。
図3B】異種乳腺細胞組成物による乳癌の治療効果の分析結果図である。
図3C】異種乳腺細胞組成物による乳癌の治療効果の分析結果図である。
図4A】ブタ腎臓組織から単離された異種腎臓細胞組成物の細胞特性の分析結果図である。
図4B】ブタ腎臓組織から単離された異種腎臓細胞組成物の細胞特性の分析結果図である。
図5A】異種腎臓細胞組成物による腎臓癌の治療効果の分析結果図である。
図5B】異種腎臓細胞組成物による腎臓癌の治療効果の分析結果図である。
図5C】異種腎臓細胞組成物による腎臓癌の治療効果の分析結果図である。
図6A】ブタ肝臓組織から単離された異種肝臓細胞組成物の細胞特性の分析結果図である。
図6B】ブタ肝臓組織から単離された異種肝臓細胞組成物の細胞特性の分析結果図である。
図7】異種肝臓細胞組成物による肝臓癌の治療効果の分析結果を示す図である。
図8A】ブタ由来の異種尿路上皮細胞組成物の細胞特性の分析結果図である。
図8B】ブタ由来の異種尿路上皮細胞組成物の細胞特性の分析結果図である。
図9A】異種尿路上皮細胞組成物による膀胱癌の治療効果の分析結果図である。
図9B】異種尿路上皮細胞組成物による膀胱癌の治療効果の分析結果図である。
図9C】異種尿路上皮細胞組成物による膀胱癌の治療効果の分析結果図である。
図10A】ブタ膵臓組織から単離された異種膵臓細胞組成物の細胞特性の分析結果図である。
図10B】ブタ膵臓組織から単離された異種膵臓細胞組成物の細胞特性の分析結果図である。
図11】異種膵臓細胞組成物による膵臓癌の治療効果の分析結果図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書は、異種源から単離され増幅された増幅可能な異種組織細胞組成物を使用し、増幅された異種組織細胞組成物を使用して類似又は同じ組織学的グレードの関連癌(すなわち、類似又は同じ組織型に属する複数種類の関連癌)を治療する癌治療の新規方法を提供する。具体的には、本発明は、異種組織細胞組成物を使用して病巣内経路を介して類似又は同じ組織学的グレードの腫瘍部位(すなわち、類似又は同じ組織型に属する複数種類の腫瘍部位)に投与して、損傷した組織を修復して免疫系を回復して、癌を治療するための新規の使用方法を提供する。異種組織細胞組成物は、ヒト免疫系を強化して腫瘍細胞を根絶させるための免疫剤として、癌免疫療法に新規の治療オプションを提供することができる。したがって、本発明は、異種細胞に対する宿主免疫系の拒絶免疫応答を利用して抗腫瘍免疫を誘発して癌を治療するための方法である。
【0017】
本発明の異種組織細胞組成物による類似又は同じ組織学的グレードの癌(すなわち、類似又は同じ組織型に属する複数種類の癌)に対する治療を示す模式図である図1A図1Cを参照されたい。図1Aは、異種乳腺上皮細胞による乳癌の治療を示す模式図であり、図1Bは、異種腎臓細胞による腎臓癌の治療を示す模式図であり、図1Cは、異種肝臓細胞による肝臓癌の治療を示す模式図であるが、本発明の異種組織細胞組成物の治療可能な癌のタイプは、図1A図1Cに示される例に限定されない。
【0018】
図1Aに示すように、本発明の異種組織細胞組成物により乳癌を治療する場合は、ブタ乳腺組織などの異種由来乳房組織から異種乳腺幹細胞、異種乳腺始原細胞、異種乳腺前駆体、及び異種乳腺上皮細胞を含む異種乳腺細胞組成物を単離してもよい。単離された異種組織細胞組成物を増幅し、増幅された異種乳腺細胞組成物を、病巣内注射を介して乳癌病巣位置に注射し、免疫系による異種乳腺細胞組成物に対する拒絶免疫応答により抗腫瘍免疫を誘発して乳癌を治療する効果を達成する。
【0019】
図1Bに示すように、本発明の異種組織細胞組成物により腎臓癌を治療する場合は、ブタ腎実質組織などの異種由来腎臓組織から異種腎臓幹細胞、異種腎臓始原細胞、異種腎臓前駆体、及び異種腎上皮細胞を含む異種腎臓細胞組成物を単離する。単離された異種腎臓細胞組成物を増幅し、増幅された異種腎臓細胞組成物を、病巣内注射を介して腎臓癌病巣位置に注射し、免疫系による異種腎臓細胞組成物に対する拒絶免疫応答により抗腫瘍免疫を誘発して腎臓癌を治療する効果を達成する。
【0020】
図1Cに示すように、本発明の異種組織細胞組成物により肝臓癌を治療する場合は、ブタ肝小葉組織などの異種由来肝臓組織から異種肝臓幹細胞、異種肝臓始原細胞、異種肝臓前駆体、及び異種肝臓細胞を含む異種肝臓細胞組成物を単離する。単離された異種肝臓細胞組成物を増幅し、増幅された異種肝臓細胞組成物を、病巣内注射を介して肝臓癌病巣位置に注射し、免疫系による異種肝臓細胞組成物に対する拒絶免疫応答により抗腫瘍免疫を誘発して肝臓癌を治療する効果を達成する。
【0021】
本発明の内容によれば、病巣内経路には、腫瘍内投与及び腫瘍周囲投与が含まれてよい。本発明の異種組織細胞組成物の投与は、イメージングシステム(例えば、超音波装置、コンピューター断層撮影システム、X線装置、MRI装置、透視プラットフォーム、又はポジトロンコンピューター断層撮影装置)の協力により、腫瘍病巣の位置を標的にできるように注射針をガイドして、異種組織細胞組成物を腫瘍区域に注射することができる。
【0022】
本発明の内容によれば、異種組織細胞組成物は、哺乳類動物から単離されてよい。前記哺乳類動物は、ヒト、ブタ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ロバ、シカ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、サル及び/又は家畜又はペットとされる如何なる他の哺乳類動物であってよい。
【0023】
本発明の内容によれば、異種組織細胞組成物は、異種組織特異的幹細胞、異種組織始原細胞、異種組織前駆体及び異種組織成熟細胞を含む。更に、異種組織細胞組成物は、細胞外マトリックス分子及び多糖を含む溶液の中で、異種組織細胞組成物における細胞集団と有効量の成長因子、細胞外マトリックス、及びシグナル伝達経路調節剤とを接触させて、異種組織特異的幹細胞集団及び異種組織始原細胞集団を維持し、異種組織前駆体及び異種組織成熟細胞を増幅して総細胞数を増加させる。
【0024】
本発明の内容によれば、異種組織前駆体は、異種組織特異的幹細胞、異種組織始原細胞、異種組織前駆体細胞、及びそれらの組み合わせから選ばる。異種組織細胞組成物は、少なくとも50%及び90%の異種組織特異的幹細胞/異種組織始原細胞を含み、単離された異種組織特異的幹細胞/異種組織始原細胞又はそれらの集団はそれらの対応するマーカー遺伝子を発現する。
【0025】
本発明の内容によれば、増幅された異種組織細胞組成物の細胞発現型は、マーカーに対する評価によって決定することができ、当技術分野における既知の様々な方法によってマーカーの発現を評価することができる。マーカーの存在は、DNA、RNA、又はポリペプチド発現量によって決定することができ、例えば、検出マーカー遺伝子ポリペプチドの発現を含んでよい。ポリペプチドの発現は、マーカー遺伝子ポリペプチド配列の存在又は不存在を含む。以上のことは、当技術分野における様々な技術で検出でき、シーケンシング及び/又は特定のリガンド(例えば抗体)との結合を含む。ポリペプチドの発現は、例えば、免疫染色、フローサイトメトリー分析、又はウエスタンブロッティング法により評価することができるが、これらの方法に限定されない。異種組織細胞組成物におけるマーカー遺伝子(例えば、p63、CD33、CD44、CD133、ALDH又はそれらの組み合わせ)RNAの発現であれば、RNAの発現は、RNA配列の存在、RNAスプライシング又はプロセシングの存在、あるいは一定量のRNAの存在を含む。以上のことは、当技術分野における既知の様々な技術で検出でき、マーカー遺伝子RNAの全部又は一部をシーケンシングすること、或いはRNAの全部又は一部を選択的にハイブリダイゼーション又は選択的に増幅することを含む。前記方法は、当技術分野でよく知られており、ここでは繰り返して説明しない。
【0027】
本明細書に記載の「治療」とは、本発明の異種組織細胞組成物を癌患者などの必要な被検者に投与することを指す。
【0028】
本明細書に記載の「有効量」とは、被検者の疾患又は病症を効果的に「治療」する異種組織細胞組成物の量を指す。有効量は、投与される組織、系統、動物又は人の生物学的又は医学的応答とある程度の関連性がある。例えば、投与される場合それが1種又は複数種の疾患又は病症の発症をある程度防止すること、又は1種又は複数種の治療された病症又は病症の症状を緩和することに十分である。治療有効量は、疾患及びその重症度、並びに被治療の哺乳類動物の年齢及び体重等に応じて異なる。
【0029】
本明細書に記載の「改善」とは、疾患又はその症状の発症又は進行を減小、阻害、軽減、減少、停止又は安定化することを指す。
【0030】
本明細書に記載の「癌」とは、細胞成長障害を典型的な特徴とする哺乳動物の生理学的状態を指すか又は説明する。「腫瘍」には、1種類又は複数種の癌細胞が含まれる。癌の例としては、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫及び白血病又はリンパ性悪性腫瘍を含むが、これらに限定されない。このような癌のより具体的な例としては、扁平上皮癌(例えば、上皮性扁平上皮癌)、小細胞肺癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、肺腺腫、肺扁平上皮癌などの肺癌、腹膜癌、肝細胞癌、胃腸癌などの胃癌、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞腫、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肛門癌、陰茎癌、頭頸部癌が含まれる。
【0031】
本発明は、事実上あらゆる種類の癌を治療することができる。前記癌は、急性骨髄性白血病、副腎皮質癌、AIDS関連癌、AIDS関連リンパ腫、肛門癌、虫垂癌、星状細胞腫、基底細胞癌、肝外胆管癌、膀胱癌、骨癌、骨肉腫/悪性線維性組織細胞腫、脳幹神経膠腫、脳腫瘍、小脳星状細胞腫、脳星状細胞腫/悪性神経膠腫、上衣腫、髄芽細胞腫、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、視覚経路及び視床下部神経膠腫、乳癌、気管支腺腫/カルチノイド、小児カルチノイド腫瘍、胃腸カルチノイド腫瘍、未知の原発性癌、原発性中枢神経系リンパ腫、小児小脳星状細胞腫、小児脳星状細胞腫/悪性神経膠腫、子宮頸癌、小児癌、慢性骨髄増殖性疾患癌、結腸癌、皮膚T細胞リンパ腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、子宮内膜癌、食道癌、ユーイング肉腫、小児期頭蓋外胚細胞腫瘍、眼癌、網膜芽細胞腫、胆嚢癌、胃癌、胃腸間質腫瘍(GIST)、胚細胞腫瘍(頭蓋外、性腺外又は卵巣)、妊娠性栄養芽細胞腫瘍、小児脳星状細胞腫神経膠腫、小児視覚経路及び視床下部神経膠腫、胃カルチノイド、有毛細胞白血病、頭頸部癌、肝細胞(肝臓)癌、下咽頭癌、膵島細胞癌(膵臓内分泌腺)、カポジ肉腫、腎臓癌、喉頭癌、白血病、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病(又は急性骨髄白血病として知られる)、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病(又は慢性骨髄白血病として知られる)、唇がん、口腔がん、脂肪肉腫、肝がん(原発性)、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、リンパ腫、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(ホジキンを除くすべてのリンパ腫の古い分類)、マクログロブリン血症、ワルデンストレームマクログロブリン血症、骨の悪性線維性組織細胞腫/骨肉腫、小児髄芽細胞腫、黒色腫、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞癌、成人悪性中皮腫、小児上皮腫瘍、潜在性原発性転移性頸部扁平上皮癌、小児多発性内分泌腫瘍、多発性骨髄腫/形質細胞腫、菌状息肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性障害、慢性骨髄性白血病、成人急性骨髄性白血病、小児急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫(骨髄がん)、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経芽細胞腫、骨肉腫/骨の悪性線維性組織細胞腫、卵巣がん、上皮性卵巣がん(表面上皮間質腫瘍)、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣の低悪性度腫瘍、膵臓癌、副甲状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、褐色細胞腫、松果体星状細胞腫瘍、松果体胚細胞腫瘍、小児松果体細胞腫瘍及びテント上原始神経外胚葉性腫瘍、下垂体腺腫、形質細胞腫/多発性骨髄腫、胸膜肺芽細胞腫、前立腺癌、直腸がん、腎細胞がん、腎盂及び尿管の移行細胞がん、小児横紋筋肉腫、唾液腺癌、肉腫、ユーイング家族腫瘍、カポジ肉腫、軟組織肉腫、子宮肉腫、セザリー症候群、皮膚癌(非黒色腫)、皮膚癌(黒色腫)、小腸癌、扁平上皮癌、小児テント上原始神経外胚葉性腫瘍、精巣癌、胸腺腫、小児胸腺腫、胸腺癌、甲状腺癌、小児甲状腺癌、原発部位不明の成人がん、原発部位不明の小児がん、尿道がん、子宮内膜がん、膣がん、外陰部がん、及び小児ウィルムス腫瘍を含む。
【0032】
本発明の異種組織細胞組成物は、少なくとも1種の他の治療剤と組み合わせて投与することができ、例えば、化学療法薬、標的治療薬、抗体薬、免疫調節剤又はそれらの組み合わせと組み合わせて投与することができる。
【0033】
前記化学療法薬は、アルキル化剤、ニトロソ尿素剤、代謝拮抗物質、抗癌抗生物質、植物由来アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ホルモン剤、ホルモン拮抗剤、アロマターゼ阻害剤、P-糖タンパク質阻害剤及び白金錯体誘導体からなる群から選ばれる。化学療法薬の実例は、アビラテロン、アファチニブ、アルデスロイキン、アレムツズマブ、アリトレチノイン、アルトレタミン、アミホスチン(Amifostine)、アミノグルテチミド、アナグレリド、アナストロゾール、三酸化ヒ素、アスパラギナーゼ、アザシチジン、アザチオプリン、ベンダムスチン、ベバシズマブ、ベキサロテン(Bexarotine)、ビカルタミド、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、ブスルファン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、セツキシマブ、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クリゾチニブ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、アクチノマイシンD、ダサチニブ、ダウノルビシン、デニロイキンジフチトクス、デシタビン、ドセタキセル、デキサメタゾン、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、組換えヒトエリスロポエチンアルファα(Epoetin Alpha)エポチロン(Epothilone)、エルロチニブ、エストラムスチン、エンチノスタット、エトポシド、エベロリムス、エキセメスタン、フィルグラスチム、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、フルオキシメステロン、フルタミド、葉酸結合アルカロイド(folated linked alkaloid)、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ゲムツズマブオゾガマイシン(Gemtuzumabozogamicin)、GM-CT-01、ゴセレリン、ヒドロキシ尿素、イブリツモマブ、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、イリノテカン、イクサベピロン、ラパチニブ、ロイコボリン、リュープロン、レナリドマイド、レトロゾール、ロムスチン、窒素マスタード、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、ネララビン、ニロチニブ、ニルタミド、オクトレオチド、オファツムマブ、オプレルベキン、オキサリプラチン、パクリタキセル、パニツムマブ、ペメトレキセド、ペントスタチン、多糖類ガレクチン阻害剤、プロカルバジン、ラロキシフェン、レチノイン酸、リツキシマブ、ロミプロスチム、サルグラモスチム、ソラフェニブ、ストレプトゾトシン、スニチニブ、タモキシフェン、テムシロリムス、テモゾロミド、テニポシド、サリドマイド、チオグアニン、チオテパ、チオグアニン、トポテカン、トレミフェン、トシツモマブ、トラメチニブ、トラスツズマブ、レチノイン酸、バルビシン、VEGF阻害剤及び捕獲剤、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ビンタホリド(EC145)、ボリノスタット、それらの塩又は前記の任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0034】
前記標的治療薬は、小分子、小分子複合体又はモノクローナル抗体であってよい。それは、チロシンキナーゼ阻害剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ阻害剤、JAKキナーゼ阻害剤、未分化リンパ腫キナーゼ阻害剤、B細胞リンパ腫-2阻害剤、ポリADPリボースポリメラーゼ阻害剤、選択的エストロゲン受容体ボディモジュレーター、ホスファチジルイノシトールトリキナーゼ阻害剤、Braf阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤、および熱ショックタンパク質90阻害剤からなる群から選ばれてよい。標的治療薬の実例は、メシル酸イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ボルテゾミブ、タモキシフェン、トファシチニブ、クリゾチニブ、ABT-263、ゴシポール、オラパリブ、ペリフォシン、アパチニブ、AN-152、(AEZS-108)ドキソルビシン結合[D-Lys(6)]-LHRH、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、LGX818、トラメチニブ、MEK162、PD-0332991、LEE011、サリノマイシン、ビンタホリド、リツキシマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ、ベバシズマブ又は前記の任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0035】
前記抗体薬は、抗体及び抗体薬物複合体から選ばれる。抗体薬の実例は、アレムツズマブ(Campath)、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標),Genentech)、セツキシマブ(ERBITUX(登録商標),Imclone)、パニツムマブ(VECTIBIX(登録商標),Amgen)、リツキシマブ(RITUXAN(登録商標),Genentech/Biogen Idee)、ペルツズマブ(OMNITARG(商標),2C4,Genentech)、トロスティズマブ(HERCEPTIN(登録商標),Genentech)、トシツモマブ(Bexxar,Corixia)、及び抗体薬複合体、ゲムツズマブオゾガマイシン(MYLOTARG(登録商標),Wyeth)又はそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0036】
前記免疫調節剤は、サイトカイン及び免疫チェックポイント阻害剤から選ばれる。免疫調節剤の実例は、TLRアゴニスト(TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、TLR11アゴニスト)、1型インターフェロン(場合によって、インターフェロンアルファ又はインターフェロンベータである)、CD40アゴニスト、IL-6拮抗剤、TNF拮抗剤、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)阻害剤[例えば、イピリムマブ(ipilimumab) (Yervoy(登録商標))]、アポトーシス-1 (PD-1)阻害剤[例えば、ペムブロリズマブ(pembrolizumab) (Keytruda(登録商標))又はニボルマブ(nivolumab) (Opdivo(登録商標))]及びアポトーシス-リガンド1 (PD-L1)阻害剤[例えば、アテゾリズマブ(atezolizumab) (Tecentriq(登録商標))]を含むが、これらに限定されない。
【0037】
以下の具体的な試験例は、更に例を挙げて本発明を説明するものであり、当業者のために過度の解釈なしに本発明を完全に利用して実施することができる。これらの試験例は、本発明の範囲を限定することを意図していると見なされるべきではなく、本発明の材料及び方法がどのように実施されるかを説明することを意図している。
【0038】
1.異種組織細胞組成物による乳癌の治療効果
異種組織細胞組成物が病巣内経路を介して投与されると抗乳癌効果を持つことを証明するために、試験において、ブタ乳腺組織から単離して増幅された異種乳腺細胞組成物、及び免疫機能を有する同所性4T1乳腺腫瘍マウスモデルを使用してその有効性を検討する。
【0039】
試験において、まず異種乳腺細胞組成物の単離及び増幅を行い、単離された異種乳腺細胞組成物の細胞特性を分析する。ブタ乳腺組織から単離された異種乳腺細胞組成物の細胞特性の分析結果図である図2A及び図2Bを参照されたい。図2Aは、異なる継代のブタ乳腺上皮細胞の顕微鏡写真であり、図2Bは、ブタ乳腺上皮細胞の関連遺伝子発現の分析結果図である。
【0040】
図2Aの結果からわかるように、単離された異種乳腺細胞組成物は、ブタ乳腺上皮細胞の形態を持つ。図2Bの結果からわかるように、ブタ腎臓細胞、ブタ尿路上皮細胞及び骨格筋組織と比較して、ブタ乳腺上皮細胞のみがCSN2遺伝子、CK5遺伝子及びCK14遺伝子等の乳腺上皮細胞の関連遺伝子を豊富に発現しており、他の細胞は前記乳腺上皮細胞の関連遺伝子を発現していないか少量発現していることを示す。図2Bは、一元配置分散分析により統計分析を行い、データが平均値±標準偏差として表され、***がp<0.001を表わす。
【0041】
異種乳腺細胞組成物の体内の抗乳癌効果を更に評価するために、乳房腫瘍に類似し且つ無傷の免疫系を有する同系動物モデルを使用する必要があるため、試験においてまず同所性4T1乳腺腫瘍マウスモデルを樹立する。BALB/cマウスに由来する4T1乳がん細胞株(1×106)を免疫能のあるBALB/cマウスの乳腺脂肪パッドに注入し、移植された4T1乳がん細胞株が腫瘍になり、腫瘍のサイズが50~100mm3になるとモデルが樹立され、それから治療を行う。試験は、それぞれ未処理の対照群、異種乳腺細胞組成物で処理された試験群1、化学療法薬で処理された試験群2、及び異種乳腺細胞組成物と化学療法薬で同時に処理された試験群3という4つの群に分けられる。本試験例において使用された化学療法薬はゲムシタビン(Gemcitabine)であり、試験群1及び試験群3において処理された異種乳腺細胞組成物は試験の1日目に1×106の異種乳腺細胞組成物を腫瘍内注射し、試験群2及び試験群3において処理された化学療法薬は試験の2、7及び14日目に60mg/kgのゲムシタビンを腹腔内注射する。治療期間は3週間であり、腫瘍体積をノギスで週に2回測定して腫瘍の成長状況を評価し、π/6×長さ×幅2という式を使用して腫瘍体積を計算する。マウスが死亡するか又は試験のエンドポイントに達した時、腫瘍組織を取り秤量し、腫瘍組織を包埋して切片化して、更に組織学的評価及び免疫染色を行う。
【0042】
異種乳腺細胞組成物による乳癌の治療効果の分析結果図である図3A図3Cを参照されたい。図3Aは異なる群のマウスの試験期間の腫瘍体積の統計結果図であり、図3Bは異なる群のマウスの腫瘍写真であり、図3Cは異なる群のマウスの腫瘍重量の統計図である。図3A及び図3Cにおいて、*はp<0.05を表わし、**はp<0.01を表わし、***はp<0.001を表わす。
【0043】
図3A図3Cの結果からわかるように、対照群と比べると、異種乳腺細胞組成物のみで処理された試験群1は腫瘍の成長を大幅に阻害することができ、試験群2(化学療法薬のみで処理され)と類似の効果を達成することができる。異種乳腺細胞組成物と化学療法薬で同時に処理された試験群3は、腫瘍成長を阻害する効果がより顕著である。
【0044】
2.異種組織細胞組成物による腎臓癌の治療効果
異種組織細胞組成物が病巣内経路を介して投与されると抗腎臓癌効果を持つことを証明するために、試験において、ブタ腎臓乳様突起組織から単離して増幅された異種乳腺細胞組成物、及び免疫機能を有する同所性RAG-luc腎臓腫瘍マウスモデルを使用してその有効性を検討する。
【0045】
試験において、まず異種腎臓細胞組成物の単離及び増幅を行い、単離された異種腎臓細胞組成物の細胞特性を分析する。ブタ腎臓組織から単離された異種腎臓細胞組成物の細胞特性の分析結果図である図4A及び図4Bを参照されたい。図4Aは、異なる継代のブタ腎臓細胞の顕微鏡写真であり、図4Bは、ブタ腎臓細胞の関連遺伝子発現の分析結果図である。
【0046】
図4Aの結果からわかるように、単離された異種腎臓細胞組成物は、ブタ腎臓上皮細胞の形態を持つ。図4Bの結果からわかるように、ブタ腎臓細胞、ブタ尿路上皮細胞及び骨格筋組織と比較して、ブタ腎臓細胞のみがPAX2遺伝子、PAX6遺伝子及びZO-1遺伝子等の腎臓上皮細胞の関連遺伝子を豊富に発現しており、他の細胞は前記腎臓細胞の関連遺伝子を発現していないか少量発現していたことを示す。図4Bは、一元配置分散分析により統計分析を行い、データが平均値±標準偏差として表され、**がp<0.01を表わし、***がp<0.001を表わす。
【0047】
異種腎臓細胞組成物の体内の抗腎臓癌効果を更に評価するために、腎臓腫瘍に類似し且つ無傷の免疫系を有する同系動物モデルを使用する必要があるため、試験においてまず同所性RAG-luc腎臓腫瘍マウスモデルを樹立する。BALB/cマウスに由来しルシフェラーゼレポーター遺伝子をトランスフェクトしたRAG-luc腎臓癌細胞株(1×10)を、免疫能のあるBALB/cマウスの腎実質組織に注入し、移植されたRAG-luc腎臓癌細胞株が腫瘍になり、腫瘍蛍光シグナルが10plexになるとモデルが樹立され、それから治療を行う。試験は、それぞれ未処理の対照群、異種腎臓細胞組成物で処理された試験群1、化学療法薬で処理された試験群2、及び異種腎臓細胞組成物と化学療法薬で同時に処理された試験群3という4つの群に分けられる。本試験例において使用された化学療法薬はスニチニブ(Sunitinib)であり、チロシンキナーゼ阻害剤である。試験群1及び試験群3において処理された異種腎臓細胞組成物は、試験の1日目に1×10の異種腎臓細胞組成物を腫瘍内注射し、試験群2及び試験群3において処理された化学療法薬は1日あたり40mg/kgのスニチニブを経口投与する。治療期間は4週間であり、試験中にIVISイメージングシステムで腫瘍サイズをモニターし、マウスが死亡するか又は試験のエンドポイントに達した時、腫瘍組織を取り秤量する。
【0048】
異種腎臓細胞組成物による腎臓癌の治療効果の分析結果図である図5A図5Cを参照されたい。図5Aは異なる群のマウスの治療前及び14日目まで治療したIVISイメージであり、図5Bは異なる群のマウスの腎臓写真であり、図5Cは異なる群のマウスの腎臓重量の統計図である。図5Cにおいて*がp<0.05を表わし、**がp<0.01を表わし、***がp<0.001を表わす。
【0049】
図5A図5Cの結果からわかるように、対照群と比べると、異種腎臓細胞組成物のみで処理された試験群1は腫瘍の成長を大幅に阻害することができ、試験群2(化学療法薬のみで処理され)と類似の効果を達成することができる。異種腎臓細胞組成物及び化学療法薬で同時に処理された試験群3は、腫瘍成長を阻害する効果がより顕著である。異種腎臓細胞組成物は腎臓腫瘍の進行を阻害することができ、更に化学療法薬と組み合わせてより優れた治療効果を達成することができることが示されている。
【0050】
3.異種組織細胞組成物による肝臓癌の治療効果
異種組織細胞組成物が病巣内経路を介して投与されると抗肝臓癌効果を持つことを証明するために、試験において、ブタ肝臓組織から単離され増幅された異種肝臓細胞組成物、及び免疫機能を有する同所性Hepa 1-6-luc HCC肝臓腫瘍マウスモデルを使用してその有効性を検討する。
【0051】
試験において、まず異種肝臓細胞組成物の単離及び増幅を行い、単離された異種肝臓細胞組成物の細胞特性を分析する。ブタ肝臓組織から単離された異種肝臓細胞組成物の細胞特性の分析結果図である図6A及び図6Bを参照されたい。図6Aは、ブタ肝臓細胞の顕微鏡写真であり、図6Bは、ブタ肝臓細胞の関連遺伝子発現の分析結果図である。
【0052】
図6Aの結果からわかるように、単離された異種肝臓細胞組成物は、ブタ初代肝臓細胞の形態を持つ。図6Bの結果からわかるように、ブタ乳腺上皮細胞、ブタ腎臓細胞、ブタ尿路上皮細胞及び骨格筋組織と比較して、ブタ肝臓細胞のみがALB遺伝子、TF遺伝子及びCK18遺伝子等の肝臓細胞の関連遺伝子を豊富に発現しており、他の細胞は前記肝臓細胞の関連遺伝子を発現していないか少量発現していたことを示す。図6Bは、一元配置分散分析により統計分析を行い、データが平均値±標準偏差として表され、***がp<0.001を表わす。
【0053】
異種肝臓細胞組成物の体内の抗肝臓癌効果を更に評価するために、肝臓腫瘍に類似し且つ無傷の免疫系を有する同系動物モデルを使用する必要があるため、試験においてまず同所性Hepa 1-6-luc肝臓腫瘍マウスモデルを樹立する。C57BL6マウスに由来するルシフェラーゼレポーター遺伝子をトランスフェクトしたHepa 1-6-luc肝臓癌細胞株(1×106)を免疫能のあるC57BL6マウスの肝臓の左葉に注入する。移植されたHepa 1-6-luc肝臓癌細胞株が腫瘍になり、腫瘍蛍光シグナルが105plexになるとモデルが樹立され、それから治療を行う。試験は、それぞれ未処理の対照群、異種肝臓細胞組成物で処理された試験群1、化学療法薬で処理された試験群2、及び異種肝臓細胞組成物と化学療法薬で同時に処理された試験群3という4つの群に分けられる。本試験例において使用された化学療法薬はソラフェニブ(Sorafenib)である。試験群1及び試験群3において処理された異種肝臓細胞組成物は試験の1日目に1×106の異種肝臓細胞組成物を腫瘍内注射し、試験群2及び試験群3において処理された化学療法薬は週に5回の30mg/kgのソラフェニブを経口投与する。治療期間は2週間又は4週間であり、試験中にIVISイメージングシステムで腫瘍サイズをモニターし、マウスが死亡するか又は試験のエンドポイントに達した時、腫瘍が浸潤した肝臓組織を取り秤量する。
【0054】
異種肝臓細胞組成物による肝臓癌の治療効果の分析結果図である図7を参照されたい。図7は異なる群のマウスの4日目、8日目、及び12日目まで治療したIVISイメージである。図7の結果からわかるように、対照群と比べると、異種肝臓細胞組成物のみで処理された試験群1は腫瘍の成長を大幅に阻害することができ、試験群2(化学療法薬のみで処理され)よりも優れた効果を達成することができる。異種肝臓細胞組成物と化学療法薬で同時に処理された試験群3は、腫瘍成長を阻害する効果がより顕著である。異種肝臓細胞組成物は肝臓腫瘍の進行を阻害することができ、更に化学療法薬と組み合わせて治療するとより優れた治療効果を達成することができることが示されている。
【0055】
4.異種組織細胞組成物による膀胱癌の治療効果
異種組織細胞組成物が病巣内経路を介して投与されると抗膀胱癌効果を持つことを証明するために、試験において、ブタ尿路上皮組織から単離して増幅された異種尿路上皮細胞組成物、及び免疫機能を有する同所性MBT-2膀胱腫瘍マウスモデルを使用してその有効性を検討する。
【0056】
試験において、まず異種尿路上皮細胞組成物の単離及び増幅を行い、単離された異種組織細胞組成物の細胞特性を分析する。ブタ由来の異種尿路上皮細胞組成物の細胞特性の分析結果図である図8A及び図8Bを参照されたい。図8Aは、ブタ尿路上皮細胞の顕微鏡写真であり、図8Bは、ブタ尿路上皮細胞の関連遺伝子発現の分析結果図である。
【0057】
図8Aの結果からわかるように、単離された異種尿路上皮細胞組成物は、ブタ尿路上皮細胞の形態を持つ。図8Bの結果からわかるように、ブタ肝臓細胞、ブタ腎臓細胞、及び骨格筋組織と比較して、ブタ尿路上皮細胞のみがCD44遺伝子、CK5遺伝子CK14遺伝子及びUPK3A遺伝子等の尿路上皮細胞の関連遺伝子を豊富に発現しているが、他の細胞は前記尿路上皮細胞の関連遺伝子を発現していないか少量発現していたことを示す。図8Bは、一元配置分散分析により統計分析を行い、データが平均値±標準偏差として表され、*がp<0.05を表わし、***がp<0.001を表わす。
【0058】
異種尿路上皮細胞組成物の体内の抗膀胱癌効果を更に評価するために、膀胱腫瘍に類似し且つ無傷の免疫系を有する同系動物モデルを使用する必要があるため、試験においてまず同所性MBT-2膀胱腫瘍マウスモデルを樹立する。C3H/Heマウスに由来するMBT-2膀胱癌細胞株(1×106)を免疫能のあるC3H/Heマウスの皮下組織に注入する。移植されたMBT-2膀胱癌細胞株が腫瘍になり、腫瘍サイズが50-100 mm3になるとモデルが樹立され、それから治療を行う。試験は、それぞれ未処理の対照群、異種尿路上皮細胞組成物で処理された試験群1、化学療法薬で処理された試験群2、及び異種尿路上皮細胞組成物と化学療法薬で同時に処理された試験群3という4つの群に分けられる。本試験例において使用された化学療法薬はゲムシタビン(Gemcitabine)とシスプラチン(Cisplatin)である。試験群1及び試験群3において処理された異種尿路上皮細胞組成物は試験の3日目に、且つ、週に1回の1×106の異種尿路上皮細胞組成物を腫瘍内注射し、2週間の治療を行う。試験群2及び試験群3において処理された化学療法薬は、1日目に6mg/マウスのゲムシタビンを腹腔内注射し、2日目に0.12mg/マウスのシスプラチンを腹腔内注射し、週に1回行い、治療期間は3週間である。腫瘍体積をノギスで週に2回測定して腫瘍の成長状況を評価し、π/6×長さ×幅2という式を使用して腫瘍体積を計算する。マウスが死亡するか又は試験のエンドポイントに達した時、腫瘍組織を取り秤量する。
【0059】
異種尿路上皮細胞組成物による膀胱癌の治療効果の分析結果図である図9A図9Cを参照されたい。図9Aは異なる群のマウスの試験期間の腫瘍体積の統計結果図であり、図9Bは異なる群のマウスの腫瘍写真であり、図9Cは異なる群のマウスの腫瘍重量の統計図である。図9Cにおいて*はp<0.05を表わし、**はp<0.01を表わし、***はp<0.001を表わす。
【0060】
図9A図9Cの結果からわかるように、対照群と比べると、異種尿路上皮細胞組成物のみで処理された試験群1は腫瘍の成長を大幅に阻害することができ、異種尿路上皮細胞組成物と化学療法薬で同時に処理された試験群3は、腫瘍成長を阻害する効果がより顕著である。
【0061】
5.異種組織細胞組成物による膵臓癌の治療効果
異種組織細胞組成物が病巣内経路を介して投与されると抗膵臓癌効果を持つことを証明するために、試験において、ブタ膵臓組織から単離して増幅された異種膵臓細胞組成物、及び免疫機能を有する同所性Pan 18膵臓腫瘍マウスモデルを使用してその有効性を検討する。
【0062】
試験において、まず異種膵臓細胞組成物の単離及び増幅を行い、単離された異種膵臓組織細胞組成物の細胞特性を分析する。ブタ膵臓細胞組織から単離された異種膵臓細胞組成物の細胞特性の分析結果図である図10A及び図10Bを参照されたい。図10Aは、異なる継代のブタ膵臓上皮細胞の顕微鏡写真であり、図10Bは、ブタ膵臓上皮細胞の関連遺伝子発現の分析結果図である。
【0063】
図10Aの結果からわかるように、単離された異種膵臓細胞組成物は、ブタ膵臓上皮細胞の形態を持つ。図10Bの結果からわかるように、骨格筋組織と比較して、ブタ膵臓上皮細胞のみがCK19遺伝子、CFTR遺伝子及びSOX2遺伝子等の膵臓上皮細胞の関連遺伝子を豊富に発現しており、骨格筋組織は前記膵臓上皮細胞の関連遺伝子を発現していないか少量発現していたことを示す。図10Bは、一元配置分散分析により統計分析を行い、データが平均値±標準偏差として表され、***がp<0.001を表わす。
【0064】
異種膵臓細胞組成物の体内の抗膵臓癌効果を更に評価するために、膵臓腫瘍に類似し且つ無傷の免疫系を有する同系動物モデルを使用する必要があるため、試験においてまず同所性Pan 18膵臓腫瘍マウスモデルを樹立する。C57BL6マウスに由来するPan 18膵臓癌細胞株(1×106)を免疫能のあるC57BL6マウスの背側に注入する。移植されたPan 18膵臓癌細胞株が腫瘍になり、腫瘍サイズが50~100 mm3になるとモデルが樹立され、それから治療を行う。試験は、それぞれ未処理の対照群、異種膵臓細胞組成物で処理された試験群1、化学療法薬で処理された試験群2、及び異種膵臓細胞組成物と化学療法薬で同時に処理された試験群3という4つの群に分けられる。本試験例において使用された化学療法薬はゲムシタビン(Gemcitabine)である。試験群1及び試験群3において処理された異種膵臓細胞組成物は試験の1日目に1×106の異種膵臓細胞組成物を腫瘍内注射し、試験群2及び試験群3において処理された化学療法薬は週に1回60mg/kgのゲムシタビンを腹腔内注射する。治療期間は3週間であり、腫瘍体積をノギスで週に2回測定して腫瘍の成長状況を評価し、π/6×長さ×幅2という式を使用して腫瘍体積を計算する。マウスが死亡するか又は試験のエンドポイントに達した時、腫瘍組織を取り秤量する。
【0065】
異種膵臓細胞組成物による膵臓癌の治療効果の分析結果図である図11を参照されたい。図11は異なる群のマウスの試験期間の腫瘍体積の統計結果図であり、*はp<0.05を表わし、**はp<0.01を表わす。図11の結果からわかるように、対照群と比べると、異種膵臓細胞組成物のみで処理された試験群1は腫瘍の成長を大幅に阻害することができ、試験群2(化学療法薬のみで処理)よりも優れた効果を達成することができる。異種膵臓細胞組成物及び化学療法薬で同時に処理された試験群3は、腫瘍成長を阻害する効果がより顕著である。
【0066】
要するに、本発明の異種組織細胞組成物は、病巣内経路を介して類似又は同じ組織学的グレードの腫瘍部位(すなわち、類似又は同じ組織型に属する複数種類の腫瘍部位)に投与されて損傷した組織を修復し、免疫系を回復して癌を治療する。実験データによって確認されるように、本発明の異種組織細胞組成物は、乳癌、腎臓癌、肝臓癌、膀胱癌、及び膵臓癌等の動物モデルでの腫瘍の進行に対して優れた阻害効果がある。相乗効果を達成するために、化学療法薬などの別の抗癌治療剤と組み合わせて使用されることができ、生物医学医療市場で使用される可能性がある。
【0067】
本発明は実施形態によって前述の通りに開示されたが、本発明を限定するためのものではない。当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、多様の変更や修飾を加えることができる。従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲で指定した内容を基準とする。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11