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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】半導体装置の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/67 20060101AFI20240722BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H01L21/68 E
H01L21/60 311T
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022577031
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2021045830
(87)【国際公開番号】W WO2022158166
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/001678
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬山 耕平
(72)【発明者】
【氏名】清水 孝寛
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/213566(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/213567(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/061107(WO,A1)
【文献】特開2007-194433(JP,A)
【文献】特開2006-160935(JP,A)
【文献】特開平02-072638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/67
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合面と前記接合面と対向する保持面とを有するチップを、接合対象に接合して半導体装置を製造する製造装置であって、
前記保持面がダイシングテープの表面に粘着保持された1以上の前記チップを、前記ダイシングテープとともに保持するウエハ保持装置と、
前記1以上のチップのうちピックアップ対象のチップである対象チップを非接触で保持するピックアップヘッドを有し、前記対象チップを前記ダイシングテープからピックアップするピックアップ装置と、
前記ダイシングテープの裏面側から前記対象チップに向かって、エリア選択的に、光または熱であるエネルギを照射して、前記ダイシングテープの粘着力を低減させるエネルギ照射装置と、
前記ピックアップ装置およびエネルギ照射装置の動作を制御するコントローラと、
を備え、前記ダイシングテープの粘着層は、前記エネルギの照射に伴い粘着力が低下するとともに前記対象チップを浮上させる自己剥離粘着層であり、
前記コントローラは、前記ピックアップのために前記ピックアップヘッドを前記対象チップに近接させてから前記対象チップを前記ダイシングテープからテイクオフさせるまでのテイクオフ準備期間において、前記対象チップが浮上しても前記対象チップと前記ピックアップヘッドとが接触しないように、前記ピックアップヘッドの位置を制御する、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記コントローラは、前記テイクオフ準備期間において、前記対象チップの浮上を相殺するように前記ピックアップヘッドを上昇させることで、前記ピックアップヘッドの吸着面と前記対象チップの前記接合面との距離である面間距離を一定に保つ、ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記ピックアップヘッドは、前記面間距離が、最大有効距離より小さく、かつ、中立距離より大きい場合に前記対象チップを前記吸着面に引き寄せ、前記面間距離が前記中立距離より小さい場合に前記対象チップを前記吸着面から離れる方向に押し付け、
前記コントローラは、前記テイクオフ準備期間において、前記面間距離を中立距離より小さい距離で一定に保つ、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記コントローラは、前記テイクオフ準備期間において、前記ピックアップ装置に作用する荷重を一定に保つように、前記ピックアップヘッドを位置-荷重制御する、ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項5】
請求項2または3に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記コントローラは、前記テイクオフ準備期間において前記面間距離を一定に保つための前記ピックアップヘッドの目標位置の時間変化を示す目標プロファイルを記憶しており、前記テイクオフ準備期間中、前記目標プロファイルに従って前記ピックアップヘッドの位置を制御する、ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項6】
請求項1に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記コントローラは、前記テイクオフ準備期間において、前記ピックアップヘッドを待機高さで待機させ、
前記待機高さは、前記対象チップが完全に浮上した際に、前記ピックアップヘッドが前記対象チップに接触することなく前記対象チップを保持できる高さである、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記ピックアップヘッドは、前記ピックアップヘッドの吸着面と前記対象チップの前記接合面との距離である面間距離が、最大有効距離より小さく、かつ、中立距離より大きい場合に前記対象チップを前記吸着面に引き寄せ、前記面間距離が前記中立距離より小さい場合に前記対象チップを前記吸着面から離れる方向に押し付け、
前記待機高さは、前記対象チップが浮上開始する前のタイミングで、前記面間距離が、最大有効距離より小さく、かつ、中立距離より大きくなる高さである、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記ピックアップヘッドは、吸着面からエアを噴出、または、前記吸着面に超音波振動を付与することで、吸着対象物との間に空気層を形成しつつ前記吸着対象物を非接触で保持し、
前記コントローラは、前記エネルギ照射装置による前記エネルギの照射の開始と同時、または照射の開始より前に、前記エアの噴出または前記超音波振動の付与を開始させる、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、チップを基板に接合して半導体装置を製造する製造装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
フリップチップ実装では、チップの接合面を、基板または他のチップである接合対象に押し当てることで、当該チップを接合対象に接合している。この場合、チップの接合対象への接合品質は、接合面の品質に大きく依存する。特に、原子結合または分子結合を利用して、チップを接合対象に常温で接合する常温接合を行う場合、チップの接合面は、高い品質を保つことが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-130742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、チップのピックアップの過程で、接合面の品質が低下することがあった。すなわち、通常、ボンディング前のチップは、その接合面を上に向けた姿勢で、ダイシングテープ上に粘着保持されている。従来のピックアップ装置は、チップをダイシングテープからピックアップするために、チップを吸引保持しており、ピックアップの過程で、チップの接合面に機械的に接触していた。こうした機械的接触に起因して、チップの接合面が機械的または化学的に変化し、接合対象との接合品質が低下することがあった。
【0005】
なお、特許文献1には、刺激を与えることにより粘着力が低下するダイシングテープをウエハに貼付したうえで当該ウエハを個々のチップにダイシングするダイシング工程と、ダイシングテープに刺激を与えて粘着力を低下させる粘着力低下工程と、チップを吸引ノズルで吸引してピックアップするピックアップ工程と、を有する方法が開示されている。かかる技術によれば、ピックアップ前に、ダイシングテープの粘着力が低下しているため、チップを小さい力でピックアップできる。
【0006】
しかし、特許文献1の技術でも、ピックアップの際、吸引ノズルが、チップの接合面に機械的に接触するため、接合面の変質を防ぐことができず、チップの対象物への接合品質の低下を防止できない。
【0007】
そこで、本明細書では、チップの対象物への接合品質をより向上できる半導体装置の製造装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示する半導体装置の製造装置は、接合面と前記接合面と対向する保持面とを有するチップを、接合対象に接合して半導体装置を製造する製造装置であって、前記保持面がダイシングテープの表面に粘着保持された1以上の前記チップを、前記ダイシングテープとともに保持するウエハ保持装置と、前記1以上のチップのうちピックアップ対象のチップである対象チップを非接触で保持するピックアップヘッドを有し、前記対象チップを前記ダイシングテープからピックアップするピックアップ装置と、前記ダイシングテープの裏面側から前記対象チップに向かって、エリア選択的に、光または熱であるエネルギを照射して、前記ダイシングテープの粘着力を低減させるエネルギ照射装置と、前記ピックアップ装置およびエネルギ照射装置の動作を制御するコントローラと、を備え、前記ダイシングテープの粘着層は、前記エネルギの照射に伴い粘着力が低下するとともに前記対象チップを微小距離だけ浮上させる自己剥離粘着層であり、前記コントローラは、前記ピックアップのために前記ピックアップヘッドを前記対象チップに近接させてから前記対象チップを前記ダイシングテープからテイクオフさせるまでのテイクオフ準備期間において、前記対象チップが浮上しても前記対象チップと前記ピックアップヘッドとが接触しないように、前記ピックアップヘッドの位置を制御する、ことを特徴とする。
【0009】
この場合、前記コントローラは、前記テイクオフ準備期間において、前記対象チップの浮上を相殺するように前記ピックアップヘッドを上昇させることで、前記ピックアップヘッドの吸着面と前記対象チップの前記接合面との距離である面間距離を一定に保ってもよい。
【0010】
また、前記ピックアップヘッドは、前記面間距離が、最大有効距離より小さく、かつ、中立距離より大きい場合に前記対象チップを前記吸着面に引き寄せ、前記面間距離が前記中立距離より小さい場合に前記対象チップを前記吸着面から離れる方向に押し付け、前記コントローラは、前記テイクオフ準備期間において、前記面間距離を中立距離より小さい距離で一定に保ってもよい。
【0011】
また、前記コントローラは、前記テイクオフ準備期間において、前記ピックアップ装置に作用する荷重を一定に保つように、前記ピックアップヘッドを位置-荷重制御してもよい。
【0012】
また、前記コントローラは、前記テイクオフ準備期間において前記面間距離を一定に保つための前記ピックアップヘッドの目標位置の時間変化を示す目標プロファイルを記憶しており、前記テイクオフ準備期間中、前記目標プロファイルに従って前記ピックアップヘッドの位置を制御してもよい。
【0013】
また、前記コントローラは、前記テイクオフ準備期間において、前記ピックアップヘッドを待機高さで待機させ、前記待機高さは、前記対象チップが完全に浮上した際に、前記ピックアップヘッドが前記対象チップに接触することなく前記対象チップを保持できる高さであってもよい。
【0014】
この場合、前記ピックアップヘッドは、前記ピックアップヘッドの吸着面と前記対象チップの前記接合面との距離である面間距離が、最大有効距離より小さく、かつ、中立距離より大きい場合に前記対象チップを前記吸着面に引き寄せ、前記面間距離が前記中立距離より小さい場合に前記対象チップを前記吸着面から離れる方向に押し付け、前記待機高さは、前記対象チップが浮上開始する前のタイミングで、前記面間距離が、最大有効距離より小さく、かつ、中立距離より大きくなる高さであってもよい。
【0015】
また、前記ピックアップヘッドは、吸着面からエアを噴出、または、前記吸着面に超音波振動を付与することで、吸着対象物との間に空気層を形成しつつ前記吸着対象物を非接触で保持し、前記コントローラは、前記エネルギ照射装置による前記エネルギの照射の開始と同時、または照射の開始より前に、前記エアの噴出または前記超音波振動の付与を開始させてもよい。
【0016】
本明細書で開示する他の半導体装置の製造装置は、接合面と前記接合面と対向する保持面とを有するチップを、接合対象に接合して半導体装置を製造する製造装置であって、前記保持面がダイシングテープの表面に粘着保持された1以上のチップを、前記ダイシングテープとともに保持するウエハ保持装置と、前記チップの前記接合面に対向して配置され、前記1以上のチップのうちピックアップ対象のチップである対象チップを非接触で保持してピックアップするピックアップ装置と、前記ダイシングテープの裏面側から前記対象チップに向かって、エリア選択的に、光または熱であるエネルギを照射して、前記ダイシングテープの粘着力を低減させるエネルギ照射装置と、前記ピックアップ装置およびエネルギ照射装置の動作を制御するコントローラと、を備える、ことを特徴とする。
【0017】
この場合、前記ダイシングテープの粘着層は、紫外線の照射に伴い粘着力が低下するとともにガスを発生するUV自己剥離粘着層であり、前記エネルギ照射装置は、前記エネルギとして紫外線を照射し、前記ピックアップ装置は、その吸着面の中央からエアを噴出して、前記中央に真空吸引力を発生させつつ前記吸着対象物との間にエア層を形成することで、前記吸着対象物を非接触で保持するエア噴出式の非接触チャックを有してもよい。
【0018】
この場合、前記コントローラは、前記ピックアップ装置による前記エアの噴出開始後または同時に、前記エネルギ照射装置による前記紫外線の照射を開始させてもよい。
【0019】
また、前記コントローラは、前記エネルギの照射エリアが、前記対象チップの外形より外側に広がったエリアになるように、前記エネルギ照射装置を制御してもよい。
【0020】
また、さらに、前記ピックアップ装置が前記対象チップから受ける反力を検出する検出部を備え、前記コントローラは、前記検出部による検出荷重の変化に基づいて、前記対象チップが前記ダイシングテープから剥離されたタイミングを判断してもよい。
【0021】
また、前記コントローラは、前記ピックアップ装置による前記対象チップの吸引開始前に、前記粘着力が残存する量の前記エネルギを前記エネルギ照射装置に照射させるプレ照射処理と、前記プレ照射処理の後、残存している前記粘着力が消失する量の前記エネルギを前記エネルギ照射装置に照射させる本照射処理と、を実行するように構成されていてもよい。
【0022】
また、前記ダイシングテープの粘着層は、熱の照射に伴い粘着力が低下し、前記エネルギ照射装置は、前記エネルギとして熱を照射し、前記ピックアップ装置は、その吸着面の中央から径方向外側にエアを噴出して、前記中央に真空吸引力を発生させつつ前記吸着対象物との間にエア層を形成することで、前記吸着対象物を非接触で保持するエア噴出式の非接触チャックを有しており、前記コントローラは、前記粘着力が消失する量の前記エネルギを前記エネルギ照射装置に照射させた後、前記ピックアップ装置による前記エアの噴出を開始させてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本明細書で開示する半導体装置の製造装置では、ダイシングテープの粘着力を局所的に消失させる。そのため、吸引力の小さい非接触のピックアップ装置でも、対象チップをピックアップできる。そして、これにより、対象チップの接合面の品質低下を効果的に防止でき、チップの対象物への接合品質をより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】製造装置の構成を示す図である。
図2】PUヘッドの構成を示す概略図である。
図3】PUヘッドによるピックアップの様子を示すイメージ図である。
図4】PUヘッドによるピックアップの様子を示すイメージ図である。
図5】PUヘッドによるピックアップの様子を示すイメージ図である。
図6】ピックアップ処理の流れを示すフローチャートである。
図7】ピックアップ処理の他の流れを示すフローチャートである。
図8】超音波式の非接触チャックの構成を示す図である。
図9】規制機構の一例を示す図である。
図10】エネルギ照射に伴う対象チップの挙動を示すイメージ図である。
図11】空気層が対象チップに及ぼす力と面間距離との関係を説明する図である。
図12】テイクオフ準備期間中におけるPUヘッドの位置制御の様子を示すイメージ図である。
図13】ピックアップ処理におけるタイミングチャートの一例である。
図14】テイクオフ準備期間中におけるPUヘッドの位置制御の他の例の様子を示すイメージ図である。
図15】ピックアップ処理におけるタイミングチャートの他の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して半導体装置の製造装置10の構成について説明する。図1は、製造装置10の構成を示す図である。製造装置10は、ダイシングテープ130からチップ100をピックアップし、これを基板110または他のチップ100である接合対象に接合し、半導体装置を製造する。チップ100は、その一面に接合材が設けられており、当該一面を接合対象に押し付けることで接合対象に接合される。なお、以下では、チップ100のうち、接合材が形成される面を、「接合面102」と呼び、その反対側の面を「保持面」と呼ぶ。また、以下の図面では、接合面102を太線で図示する。
【0026】
チップ100を接合対象に接合する際、接合材が溶融するように、チップ100を加熱してもよいが、本例では、チップ100を加熱することなく、常温で接合対象に接合する。こうした常温接合は、原子結合または分子結合を利用した接合である。常温接合を行うために、本例のチップ100の接合面102は、高い品質を維持することが求められている。
【0027】
チップ100を接合対象に接合するために、製造装置10は、実装ヘッド18とステージ20とを有している。ステージ20は、基板110が載置される台である。実装ヘッド18は、ステージ20と対向配置されており、その末端においてチップ100の保持面を吸引保持する。換言すれば、実装ヘッド18は、チップ100の接合面102がステージ20に向くように、チップ100を保持する。この実装ヘッド18が、ステージ20に対して相対移動することで、チップ100が接合対象に押し付けられる。
【0028】
実装ヘッド18にチップ100を供給するために、製造装置10には、さらに、ウエハ保持装置12と、ピックアップ装置(以下「PU装置」と呼ぶ)14と、エネルギ照射装置16と、が設けられている。ウエハ保持装置12は、ダイシングテープ130とともにウエハを保持する。ウエハは、予め、ダイシングテープ130を貼付したうえで、ダイシングされ、個々のチップ100に分割されている。そのため、ダイシングテープ130の表面には、複数のチップ100が並んでいる。ダイシングテープ130は、後に詳説するように、基材132と、粘着層134と、を有しており、粘着層134の粘着力で個々のチップ100を保持している。ダイシングテープ130には、ウエハを取り囲むように、ウエハリング136が取り付けられている。複数のチップ100は、保持面が粘着層134に接触し、接合面102が上側を向く姿勢(いわゆるフェイスアップの姿勢)でダイシングテープ130に保持されている。
【0029】
ウエハ保持装置12は、ダイシングテープ130に、面方向外側の張力を付与した状態で保持するもので、エキスパンドリング30とリング押さえ32とを有している。エキスパンドリング30は、軸方向に貫通する貫通孔が形成された略筒状部材であり、その下端には径方向外側に延びるフランジが設けられている。このエキスパンドリング30の内径は、ウエハの径よりも大きく、ウエハリング136の内径よりも小さい。
【0030】
ダイシングテープ130は、このエキスパンドリング30の上に載置される。また、ダイシングテープ130に取り付けられたウエハリング136は、リング押さえ32により、エキスパンドリング30のフランジに押し付けられて固定される。このとき、ダイシングテープ130は、エキスパンドリング30の貫通孔の上端を覆う状態であり、貫通孔を介して、ダイシングテープ130に下側からアクセスできる。
【0031】
PU装置14は、ダイシングテープ130から、チップ100をフェイスアップ状態でピックアップしたのち、フェイスダウン姿勢に変更して、実装ヘッド18に、直接または間接的に受け渡す。かかるPU装置14は、図1に示すように、チップ100の接合面102に対向して配置されており、ピックアップ対象のチップ100(以下「対象チップ100」と呼ぶ)の接合面102を保持するPUヘッド40を有している。PUヘッド40は、対象チップ100を、ピックアップした後、180度回転し、対象チップ100をフェイスダウン姿勢に変更する。PU装置14は、このフェイスダウン姿勢の対象チップ100を実装ヘッド18に引き渡す。なお、図1では、対象チップ100を、PU装置14から実装ヘッド18に直接、渡しているが、他の装置を介在させて渡すようにしてもよい。
【0032】
エネルギ照射装置16は、ダイシングテープ130の裏面側、すなわち、ダイシングテープ130を挟んでPU装置14の反対側に設けられている。このエネルギ照射装置16は、対象チップ100に向かって、エリア選択的に、エネルギを照射して、ダイシングテープ130の粘着力を局所的に低減させる。エネルギは、ダイシングテープ130の粘着層の特性に応じて選択される。本例では、エネルギとして光、より具体的には、紫外線を照射している。エネルギをエリア選択的に照射するために、エネルギ照射装置16は、エネルギ発生源(例えばUVランプ)の位置および/または姿勢を変更させてもよいし、エネルギ発生源とダイシングテープ130との間に、照射エリアを限定するためのマスク部材を設けてもよい。いずれにしても、エネルギ照射装置16は、対象チップ100の位置に応じて、エネルギの照射位置を変更する。こうしたエネルギ照射装置16を設けている理由については、後述する。
【0033】
コントローラ22は、上述した実装ヘッド18やPU装置14、エネルギ照射装置16の駆動を制御する。コントローラ22は、物理的には、プロセッサ50とメモリ52とを有したコンピュータである。
【0034】
ところで、上述した通り、PUヘッド40は、対象チップ100の接合面102を保持してピックアップするが、この際、PUヘッド40の一部が、接合面102に機械的に接触すると、接合面102が機械的または化学的に変化してしまい、接合面102の品質が低下することがある。これは、チップ100と接合対象との接合品質の低下の原因となる。特に、上述した通り、常温接合する際には、接合面102の品質を高く保つ必要があるため、PUヘッド40と接合面102との機械的接触を防止することが求められている。
【0035】
そこで、本例では、PUヘッド40に、対象チップ100の接合面102を非接触で保持する非接触チャック60を設けている。また、対象チップ100に対してエネルギを照射することでダイシングテープ130の粘着力を低減させるエネルギ照射装置16を設けている。以下、この非接触チャック60およびエネルギ照射装置16について詳説する。
【0036】
図2は、PUヘッド40の構成を示す概略図である。本例のPUヘッド40は、上述した通り、対象チップ100の接合面102を非接触で保持する非接触チャック60を有する。この非接触チャック60には、その底面(すなわちの吸着面62)の略中央から面方向外側に向かって圧縮エアCAを噴出する噴出孔(図示せず)が複数形成されている。この噴出孔から圧縮エアCAが、放射状に、あるいは、サイクロン状に、吸着面62に沿って流れることで、吸着面62の略中央には、真空64が形成される。この真空64が形成された状態で、接合面102との距離が所定の吸引距離以下になるまで、吸着面62が接合面102に近接することで、対象チップ100が吸着面62に引き寄せられる。その一方で、接合面102と吸着面62との間には、面方向外側に流れる圧縮エアCAによるエア層が形成されている。このエア層により、接合面102が吸着面62に接触することが排斥される。つまり、吸着面62の下側には、真空64の形成で生じる吸引力と、エア層で生じる排斥力と、が同時に生じており、これにより、非接触チャック60は、エア層を介して、非接触で、対象チップ100を保持できる。
【0037】
このように、非接触チャック60で対象チップ100を保持することで、接合面102の損傷を確実に防止できる。しかしながら、非接触チャック60による吸引力は、非常に小さい。そのため、非接触チャック60では、ダイシングテープ130の粘着力に抗して、対象チップ100をダイシングテープ130から引き剥がすことは難しかった。
【0038】
そこで、本例では、ダイシングテープ130の粘着力を局所的に低減させるために、エネルギ照射装置16を設けている。ここで、本例で取り扱うダイシングテープ130について説明する。図3から図5は、PUヘッド40によるピックアップの様子を示すイメージ図である。
【0039】
図3図5に示すように、ダイシングテープ130は、基材132と、粘着層134と、を積層して構成される。粘着層134は、エネルギ、より具体的には、紫外線を照射することで粘着力を失うとともに、対象チップ100が自動的に剥離されるUV自己剥離粘着層である。かかるUV自己剥離粘着層は、例えば、特殊アクリル系ポリマーとUV官能型ガス発生剤と、で構成できる。UV自己剥離粘着層に紫外線を照射すると粘着剤中に窒素ガスが発生し、そのガスが粘着剤の外部、粘着面界面に放出され、接着界面にガスが溜まっていくことによって、接着対象物が自然に剥がれていく。基材132は、紫外線を透過できればよく、例えば、ポリアクリル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、塩化ビニル、ABS、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリウレタン、ポリイミド等の透明な樹脂からなるシートで構成されてもよい。また、別の形態として、基材132は、網目状の構造を有するシート、孔が開けられたシート等で構成されてもよい。
【0040】
こうしたダイシングテープ130のうち対象チップ100に対応するエリアに、エネルギ照射装置16により紫外線70を照射すると、図4に示すように、当該エリアの粘着力が低減されるとともに、当該エリアにおける粘着層134からガスが発生し、対象チップ100が、自動的に剥離される。そして、対象チップ100がダイシングテープ130から剥離されることで、非接触チャック60の小さな吸引力でも、対象チップ100をピックアップすることができる。最終的に、非接触チャック60は、図5に示すように、対象チップ100との間にエア層を介在させた状態で、非接触で、対象チップ100を保持して持ち上げる。
【0041】
以上の説明で明らかなとおり、本例によれば、粘着層134にエネルギを照射して局所的に粘着力を低減させることで、非接触チャック60を用いて、対象チップ100をピックアップできる。そして、これにより、接合面102の品質劣化を効果的に防止でき、対象チップ100と接合対象との接合品質をより向上できる。
【0042】
なお、エネルギ照射装置16による紫外線70の照射は、非接触チャック60が、対象チップ100の近接位置において圧縮エアCAの噴出を開始すると同時、または、噴出を開始した後に、開始する。これは、UV自己剥離粘着層から発生するガスによる対象チップ100の飛び跳ねを防止するためである。すなわち、上述した通り、本例のダイシングテープ130の粘着層134は、UV自己剥離粘着層であるが、かかるUV自己剥離粘着層は、紫外線70の照射によりガスを発生させる。このガスの噴出力によって、対象チップ100が、ダイシングテープ130から飛び跳ねることがあった。本例では、紫外線70の照射の前、換言すれば、ガスの発生前に、非接触チャック60のエア噴出を開始することで、対象チップ100の飛び跳ねを、圧縮エアCAの力で抑えることができる。その結果、対象チップ100を適切な姿勢でピックアップすることができる。
【0043】
また、紫外線70(すなわちエネルギ)の照射エリアEaは、対象チップ100を完全にカバーできるように、対象チップ100の外形より僅かに外側に広がるエリアとしている。照射エリアEaを、対象チップ100よりも大きくすることで、照射エリアEaの位置決めに若干の誤差があったとしても、対象チップ100の全面を確実に照射できる。そして、対象チップ100の全面の粘着力が確実に低減することで、吸引力が小さい非接触チャック60でも、対象チップ100を確実に吸引できる。なお、従来の接触式チャックの場合、隣接する他のチップ100を誤って吸引しないために、照射エリアEaは、対象チップ100の外形より僅かに小さくする必要があった。しかし、繰り返し述べる通り、本例で用いる非接触チャック60は、吸引力が小さいため、他のチップ100の一部の粘着力が低減したとしても、当該他のチップ100を誤って吸引することはない。したがって、照射エリアEaを、対象チップ100より大きく設定したとしても、問題はない。
【0044】
PU装置14は、紫外線70の照射により対象チップ100がダイシングテープ130から剥離されれば、PUヘッド40を上昇させる。対象チップ100が剥離されたタイミング、ひいては、PUヘッド40を上昇させるタイミングは、紫外線70の照射開始からの経過時間で判断してもよいし、PUヘッド40に作用する荷重の変化から判断してもよい。例えば、紫外線70の照射開始から剥離までに要する時間を剥離時間として予め実験により取得しておき、実際のピックアップ処理の際には、紫外線70の照射開始から剥離時間が経過したタイミングで対象チップ100が剥離されたと判断してもよい。
【0045】
また、別の形態として、PUヘッド40に、当該PUヘッド40に作用する荷重を検知する検出部44を設けておき、この検出部44で検知される検知荷重の変化に基づいて、剥離のタイミングを判断してもよい。すなわち、圧縮エアCAを噴出した状態で非接触チャック60を対象チップ100に近づけた場合、対象チップ100には、垂直上向きの吸引の力Faが生じる(図3図4参照)。対象チップ100が粘着層134により粘着保持されている場合には、この吸引力Faに抗する垂直下向きの反力FbがPUヘッド40に作用する。この反力Fbは、対象チップ100が、粘着層134から剥離されたタイミングで急激に低下する。そこで、この反力Fb、ひいては、PUヘッド40に作用する下向きの力を検出部44で検知し、検知荷重が急低下したタイミングを、剥離のタイミングとして判断してもよい。なお、検出部44は、PUヘッド40に作用する荷重を検知する荷重センサを有してもよい。また、別の形態として、検出部44は、PUヘッド40を駆動するトルクフィードバック可能なモータの出力を監視することによりPUヘッド40に作用する下向きの力を検知する機構でもよい。
【0046】
次に、対象チップ100をピックアップする処理の流れについて説明する。図6は、ピックアップ処理の流れを示すフローチャートである。対象チップ100をピックアップする際、コントローラ22は、最初に、PUヘッド40の位置決めを行う(S10)。すなわち、PUヘッド40を、対象チップ100の真上に水平移動させるとともに、PUヘッド40を下降させて、PUヘッド40を対象チップ100に吸引力が作用する距離、すなわち、吸引距離まで対象チップ100に近接させる。
【0047】
PUヘッド40が対象チップ100に近接すれば、コントローラ22は、PUヘッド40の非接触チャック60に圧縮エアCAを供給し、吸着面62から圧縮エアCAを噴出させる(S12)。これにより、非接触チャック60の下側に真空64が形成され、対象チップ100に吸引力が作用する。
【0048】
圧縮エアCAの噴出が開始されれば、コントローラ22は、エネルギ照射装置16による紫外線70の照射を開始する(S14)。エネルギ照射装置16は、対象チップ100に対応するエリアにのみ、紫外線70を照射する。コントローラ22は、この紫外線70の照射から、所定の剥離時間が経過するまで、紫外線70の照射を継続する。そして、剥離時間が経過すれば(S16でYes)、コントローラ22は、対象チップ100がダイシングテープ130から剥離されたと判断する。なお、上述した通り、経過時間に替えて、PUヘッド40に作用する荷重で、剥離のタイミングを把握してもよい。いずれにしても、対象チップ100が剥離できれば、コントローラ22は、紫外線70の照射を停止させたうえで(S18)、PUヘッド40を上昇させる(S20)。これにより、一つの対象チップ100のピックアップが完了となる。ピックアップ後、PU装置14は、必要に応じて、ピックアップした対象チップ100を実装ヘッド18に引き渡す。また、新たなチップ100のピックアップが必要になれば、再び、ステップS10~S20を繰り返す。
【0049】
以上の説明で明らかなとおり、本例によれば、PU装置14が、接合面102に接触することなく、対象チップ100をピックアップできるため、接合面102の品質低下を防止でき、対象チップ100と接合対象との接合品質をより向上できる。なお、ここまで説明した構成は、一例であり、対象チップ100を非接触で保持してピックアップするPU装置14と、対象チップ100に向かって、エリア選択的にエネルギを照射してダイシングテープ130の粘着力を局所的に低減させるエネルギ照射装置16と、を備えるのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。
【0050】
例えば、これまでの説明では、圧縮エアCAの噴出後に、紫外線70の照射を開始している。しかし、圧縮エアCAの噴出前、換言すれば、PU装置14による対象チップ100の吸引開始前に、粘着力が残存する量のエネルギを照射させるプレ照射処理を実行してもよい。そして、このプレ照射処理の後に、残存している粘着力が消失する量のエネルギを照射する本照射処理を実行してもよい。
【0051】
この場合、プレ照射処理は、ダイシングテープ130上の複数のチップ100全てに対して、予め、一括して実行してもよい。また、別の形態として、PU装置14が、チップ100の吸引以外の処理、例えば、チップ100を実装ヘッド18に搬送する処理等を行っている期間中に、次にピックアップする予定の単一のチップ100に対してプレ照射処理を行ってもよい。このように、プレ照射処理を予め行うことで、本照射処理におけるエネルギ照射時間を短縮でき、ピックアップに要する時間を短縮できる。
【0052】
また、これまでの説明では、粘着力を消失させるためのエネルギとして、光、より具体的には紫外線を照射しているが、他の種類のエネルギ、例えば、熱を照射してもよい。すなわち、ダイシングテープ130の種類によっては、紫外線ではなく、熱により粘着力を消失するものがある。例えば、粘着層134を構成する粘着剤として、加熱により架橋して弾性率が向上、ひいては、粘着性が低下する熱硬化型粘着剤や、加熱により発泡する発泡剤を含有した熱発泡型粘着剤を用いたダイシングテープ130が知られている。かかるダイシングテープ130でチップ100を保持する場合、エネルギ照射装置16は、エネルギとして熱を照射してもよい。
【0053】
ところで、非接触チャック60から圧縮エアCAを噴出した場合、対象チップ100の周辺に風が生じるため、対象チップ100およびその周辺のダイシングテープ130の温度が低下しやすい。そのため、熱の照射と並行して圧縮エアCAの噴出を行うと、剥離層の温度が十分に上昇せず、対象チップ100の剥離が不十分となるおそれがある。そこで、エネルギとして熱を照射する場合、非接触チャック60からの圧縮エアCAの噴出は、対象チップ100の剥離完了後、換言すれば、熱の照射完了後に行うようにしてもよい。
【0054】
図7は、熱を照射する場合のピックアップ処理の流れを示すフローチャートである。図7に示すように、熱自己剥離型のダイシングテープ130を用いる場合には、PUヘッド40を位置決めした後(S30)は、圧縮エアCAの噴出(S36)に先立って、熱照射を開始する(S32)。そして、所定の剥離時間が経過し(S34でYes)、対象チップ100の剥離が完了したと判断できれば、圧縮エアCAの噴出を開始し(S36)、対象チップ100をPUヘッド40で非接触保持する。
【0055】
また、これまでの説明では、圧縮エアCAを噴出することで、吸着対象を非接触保持するエア噴出式の非接触チャック60を用いているが、他の形態の非接触チャック60を用いてもよい。例えば、高周波振動を利用して吸着対象を非接触保持する超音波式の非接触チャック60を用いてもよい。図8は、超音波式の非接触チャック60の構成を示す図である。かかる非接触チャック60は、電圧を印可することで、高周波で微振動するソノトロード66を有している。この微振動により、非接触チャック60の下面には、圧縮された薄い空気の膜、いわゆるスクイーズ膜68が形成される。このスクイーズ膜68が、吸着面62への対象チップ100の接触を排斥する。非接触チャック60は、こうしたスクイーズ膜68の形成と並行して、エア吸引も行う。その結果、対象チップ100は、吸着面62に吸引される一方で、スクイーズ膜68により吸着面62への接触が阻害されるため、非接触チャック60は、対象チップ100を非接触で保持できる。
【0056】
ところで、エア噴出式および超音波式のいずれの場合でも、非接触チャック60は、その軸方向において、吸着対象物(対象チップ100)を拘束するが、吸着面62方向においては、吸着対象物を拘束しない。そのため、非接触チャック60で吸引された対象チップ100は、吸着面62の面方向には、比較的容易に移動しやすかった。
【0057】
そこで、こうした対象チップ100の面方向移動を抑制するために、PUヘッド40に、対象チップ100の面方向移動を規制する規制機構を設けてもよい。図9は、規制機構の一例を示す図である。図9では、PUヘッド40の周面に、軸方向に進退可能な規制ピン80を設けている。規制ピン80は、バネ82により下方向に付勢されている。非接触チャック60が、ダイシングテープ130上の対象チップ100に近接した場合、規制ピン80は、対象チップ100に隣接する他のチップ100の接合面102に接触する。このとき、規制ピン80は、他のチップ100から受ける反力により、バネ82の付勢力に抗して、上方に退避する。一方、PUヘッド40が対象チップ100を持ち上げれば、規制ピン80は、バネの付勢力により下方に進出する。このとき、規制ピン80の下端は、対象チップ100の上面(接合面102)より低く、規制ピン80は、対象チップ100の周面に近接する。そのため、対象チップ100が、面方向に移動しようとしても、対象チップ100が規制ピン80に当接することになり、対象チップ100の面方向の移動が規制される。
【0058】
なお、上述の説明から明らかなとおり、規制ピン80は、他の対象チップ100の接合面102に接触する。この接触により、チップ100の接合対象への接合品質が低下しないように、規制ピン80の位置を決定する。すなわち、接合面102の中でも、接合対象に接合される接合材(例えば電極部)等は、高い品質を保つことが求められるが、当該接合材が無いエリアは、その品質が若干変化しても、接合品質に悪影響を与えない。したがって、規制ピン80を設ける場合は、この接合品質に影響を与えない箇所に接触するように、その位置やサイズを決定すればよい。
【0059】
次に、他の実施形態について説明する。本実施形態の製造装置10の構成は、図1に示した装置10とほぼ同じである。本実施形態の製造装置10は、対象チップ100をピックアップするために、PUヘッド40を対象チップ100に近接させてからテイクオフさせるまでの期間(以下「テイクオフ準備期間」と呼ぶ)における制御を特殊なものとしている。
【0060】
また、本実施形態で用いるダイシングテープ130は、エネルギ(例えば紫外線または熱等)の照射に伴い、対象チップ100を浮上させる。これについて図10を参照して説明する。上述した通り、また、図10に示す通り、ダイシングテープ130は、基材132と、粘着層134と、を有する。図10の状態S1は、このダイシングテープ130にエネルギを照射する前の初期状態を示している。初期状態S1において、粘着層134は、対象チップ100を粘着保持している。
【0061】
この粘着層134は、エネルギの照射に伴い、ガスを発生させたり、膨張したりする。こうしたガスの発生および膨張により、対象チップ100が、粘着層134から自然に剥がれる。また、ガスの発生および膨張により、対象チップ100は、図10の状態S2に示すように、対象チップ100が上方に浮上する。そのため、PUヘッド40の高さ位置を、初期状態S1において対象チップ100に過度に近接する高さ位置(例えば図10における高さha)で固定すると、エネルギ照射に伴い浮上した対象チップ100とPUヘッド40とが接触するおそれがあった。一方で、PUヘッド40を、初期状態S1において対象チップ100から大きく離れた位置で固定すると、非接触チャック60で対象チップ100を保持できない。そのため、ガスの噴出力により、対象チップ100が、図10の状態S3に示すように、ダイシングテープ130から跳ね上がって、飛散することがあった。
【0062】
そこで、本実施形態では、エネルギ照射に伴う対象チップ100の浮上の挙動を考慮して、PUヘッド40の位置制御を行う。このPUヘッド40の位置制御の説明に先立って、吸着面62と接合面102との距離(以下「面間距離Df」と呼ぶ)と、非接触チャック60が対象チップ100に及ぼす力と、の関係について説明する。
【0063】
上述した通り、非接触チャック60がエア噴出式の場合には、吸着面62の下側に真空64(図2参照)の層が形成され、超音波式の場合には、吸着面62の下側にスクイーズ膜68(図8参照)が形成される。この真空64の層およびスクイーズ膜68は、いずれも、吸着力と斥力とを有する空気層72である。面間距離Dfが、所定の最大有効距離Dvより小さくなれば、空気層72の力が対象チップ100に作用する。
【0064】
より具体的に説明すると、図11(a)に示すように、面間距離Dfが、最大有効距離Dvより小さく、かつ、所定の中立距離Dnより大きい場合、空気層72は、Df=Dnに近づくように、対象チップ100を引き付けたまま縮小しようとする。つまり、この場合、対象チップ100には、吸着面62に向かう引き寄せの力Faが作用する。
【0065】
一方、図11(c)に示すように、面間距離Dfが中立距離Dnより小さい場合、空気層72は、Df=Dnに近づくように、膨張しようとする。このとき、対象チップ100がダイシングテープ130で支持されている場合、対象チップ100は、空気層72により押さえつけられ、PUヘッド40には、当該押さえつけの力Fbに応じた反力が作用する。
【0066】
次に、本実施形態におけるPUヘッド40の位置制御について説明する。上述したとおり、本実施形態では、エネルギ照射に伴う対象チップ100の浮上の挙動を考慮して、PUヘッド40の位置制御を行う。
【0067】
具体的に説明すると、ピックアップ処理の際には、PUヘッド40を対象チップ100に近接させるとともに、対象チップ100にエネルギを照射する。そして、対象チップ100がダイシングテープ130から離間されれば、PUヘッド40を上昇させ、対象チップ100をダイシングテープ130からテイクオフさせる。
【0068】
本実施形態では、テイクオフ準備期間中、対象チップ100とPUヘッド40との接触を防止するために、対象チップ100の浮上を相殺するようにPUヘッド40を上昇させる。また、このとき、対象チップ100に押さえつけの力が作用するように、面間距離Dfを、中立距離Dnよりも小さい値で一定に保つ。図12は、この位置制御の様子を示すイメージ図である。図12に示すように、本実施形態では、初期状態S1と状態S2との間で、対象チップ100が距離Δhだけ浮上した場合、PUヘッド40も距離Δhだけ上昇させ、面間距離Dfを一定に保つ。
【0069】
ここで、本実施形態では、面間距離Dfを一定に保つために、PUヘッド40に作用する荷重を検知し、この荷重が一定になるように、PUヘッド40を荷重-位置制御している。荷重を一定に保つことで、空気層72の厚み、ひいては、面間距離Dfが一定に保たれる。PUヘッド40に作用する荷重は、PUヘッド40をZ方向に動かすモータへの印可する電流(以下「駆動電流」と呼ぶ)から推定する。また、別の形態として、専用の荷重センサをPUヘッド40に搭載してもよい。いずれにしても、コントローラ22は、テイクオフ準備期間中、PUヘッド40に作用する荷重が目標値より大きければ、PUヘッド40を上昇させ、荷重が目標値より小さければPUヘッド40を下降させる。
【0070】
図13は、ピックアップ処理におけるタイミングチャートの一例である。図13において、一段目は、面間距離Dfを表しており、当該面間距離Dfが中立距離Dnより小さい場合は、対象チップ100に押さえつけの力が作用し、中立距離Dnより大きい場合は、対象チップ100に引っ張りの力が作用する。また、図13における二段目は、PUヘッド40のZ方向位置を、三段目は、対象チップ100のZ方向位置を示している。さらに、図13における四段目は、PUヘッド40を駆動するモータに印加される駆動電流を示している。この駆動電流は、PUヘッド40に作用する荷重に比例する。また、図13において、PUヘッド40は、エア噴出式の非接触チャック60を有しており、エネルギ照射装置16は、エネルギとして紫外線70を照射する。
【0071】
対象チップ100をピックアップする場合、コントローラ22は、PUヘッド40を、所定の目標高さh1まで下降させる。この場合の目標高さh1は、面間距離Dfが、ゼロより大きく、中立距離Dnより小さくなる値である。かかる目標高さh1は、予め、実験やシミュレーションを行うことで特定される。図12では、時刻t1において、PUヘッド40が目標高さh1に到達している。
【0072】
PUヘッド40が目標高さh1に到達した後の時刻t2において、コントローラ22は、非接触チャック60のエア噴射を開始する。これにより、吸着面62の下側には空気層72が形成され、この空気層72の力により、チップ100には、所定の大きさの押さえつけの力が発生する。また、PUヘッド40には、当該押さえつけの力に応じた反力が生じる。これにより、PUヘッド40に作用する荷重、ひいては、駆動電流が急激に上昇する。コントローラ22は、駆動電流が、所定の目標電流A1を維持するように、PUヘッド40を荷重-位置制御する。ここで、目標電流A1は、押さえつけ力に応じた値である。かかる目標電流A1は、予め、実験またはシミュレーションにより求めておく。
【0073】
続いて、コントローラ22は、時刻t3において、エネルギ照射装置16を駆動し、対象チップ100への紫外線70の照射を開始する。これにより、対象チップ100を粘着保持する粘着層134からガスが発生したり、粘着層134が膨張したりする。その結果、時刻t4以降、対象チップ100が徐々に浮上する。
【0074】
対象チップ100が浮上し、面間距離Dfが小さくなると、押さえつけ力、ひいては、駆動電流が上昇する。コントローラ22は、駆動電流が上昇すれば、当該駆動電流が、目標電流A1になるまで、PUヘッド40を上昇させる。こうした処理を継続することで、PUヘッド40は、対象チップ100の浮上に追従して上昇することとなり、面間距離Dfが、ほぼ一定に保たれる。そして、これにより、対象チップ100が浮上したとしても、対象チップ100とPUヘッド40との接触が確実に防止できる。
【0075】
対象チップ100が、ダイシングテープ130から完全に剥離された時刻t6において、コントローラ22は、PUヘッド40を上昇させて、対象チップ100をテイクオフさせる。なお、対象チップ100の剥離完了したタイミング、換言すれば、テイクオフを実行するタイミングは、対象チップ100(ひいてはPUヘッド40)の浮上量から判断してもよいし、エネルギ照射開始してからの経過時間で判断してもよい。
【0076】
以上の説明から明らかな通り、PUヘッド40を、荷重が一定になるように駆動制御することで、対象チップ100が浮上しても、面間距離Dfを一定に保つことができ、PUヘッド40と対象チップ100との接触を防止できる。また、本実施形態では、面間距離Dfを、中立距離Dn未満に保つため、テイクオフの直前まで対象チップ100を空気層72で押さえつけることができ、ガスの噴出に起因する対象チップ100の飛散を効果的に防止できる。
【0077】
次に他の実施形態について説明する。上述の例では、面間距離Dfを一定に保つために、PUヘッド40を、荷重が一定になるように位置制御していた。本実施形態では、テイクオフ準備期間において面間距離Dfを一定に保つためのPUヘッド40の目標位置の時間変化を示す目標プロファイルを予め記憶しておく。そして、テイクオフ準備期間中、この目標プロファイルに従ってPUヘッド40の位置制御を行う。
【0078】
すなわち、予め、実験やシミュレーションを行い、エネルギ照射してからの対象チップ100のZ方向位置の時間変化を求めておく。この対象チップ100のZ方向位置の時間変化に基づいて、面間距離Dfを一定に保つことができるPUヘッド40の目標位置の時間変化を、目標プロファイルとして求め、メモリ52に記憶する。すなわち、図13の二段目に示すような、PUヘッド40の時間-位置曲線を予めメモリ52に記憶しておく。
【0079】
コントローラ22は、エネルギの照射が開始されれば、メモリ52に記憶された目標プロファイルに従ってPUヘッド40の位置を制御する。すなわち、制御のサンプリングタイミングごとに、PUヘッド40の実際の位置と、目標位置と、を比較し、実位置が目標位置に近づくように、PUヘッド40を昇降させる。かかる構成とすることで、対象チップ100が浮上しても、面間距離Dfを一定に保つことができ、PUヘッド40と対象チップ100との接触を防止できる。
【0080】
次に他の実施形態について説明する。図14は、他の実施形態の様子を示すイメージ図である。図14に示すように、本実施形態では、テイクオフ準備期間中、PUヘッド40を、所定の待機高さhwで待機させる。待機高さhwとは、対象チップ100が完全に浮上した際に、PUヘッド40が対象チップ100に接触することなく、対象チップ100を保持できる高さである。
【0081】
また、本実施形態では、待機高さhwを、対象チップ100が浮上開始する前のタイミングで、面間距離Dfが、最大有効距離Dvより小さくなる高さとしている。かかる構成とすることで、テイクオフ準備期間中、空気層72の力を対象チップ100に作用させることができるため、対象チップ100の飛散を効果的に防止できる。
【0082】
さらに、本実施形態では、待機高さhwを、対象チップ100が浮上開始する前のタイミングで、面間距離Dfが、中立距離Dnより大きくなる高さとしている。かかる構成とすることで、浮上開始前の段階で、面間距離Dfを比較的大きく確保できるため、対象チップ100が浮上したとしても、PUヘッド40と対象チップ100との接触をより確実に防止できる。こうした待機高さhwは、予め、実験やシミュレーションを行って、特定しておく。
【0083】
図15は、本実施形態における、ピックアップ処理におけるタイミングチャートの一例である。図15において、一段目は、面間距離Dfを表している。また、図15における二段目は、非接触チャック60のZ方向位置を、三段目は、対象チップ100のZ方向位置を示している。
【0084】
対象チップ100をピックアップする場合、コントローラ22は、PUヘッド40を、所定の待機高さhwまで下降させる。図15では、時刻t1において、PUヘッド40が待機高さhwに到達している。これにより、面間距離Dfは、最大有効距離Dv未満、中立距離Dn超過となる。
【0085】
続いて、コントローラ22は、時刻t2において、非接触チャック60のエア噴射を開始する。これにより、吸着面62の下側には空気層72が形成される。この時点で、Dn<Df<Dvであるため、対象チップ100には、所定の大きさの引っ張りの力が発生する。ただし、この時点で、対象チップ100は、ダイシングテープ130に貼りついているため、引っ張りの力を受けても、対象チップ100のZ方向位置は変化しない。
【0086】
その後、コントローラ22は、時刻t3において、エネルギ照射装置16を駆動し、対象チップ100への紫外線70の照射を開始する。これにより、対象チップ100を粘着保持する粘着層134からガスが発生したり、粘着層134が膨張したりする。その結果、時刻t4以降、対象チップ100が徐々に浮上する。
【0087】
対象チップ100の浮上に伴い、面間距離Dfが急激に低下する。そして、対象チップ100が完全に剥離した時刻t5の時点で、対象チップ100には、面間距離Dfは、中立距離Dn未満となり、対象チップ100には、押し付けの力が作用する。対象チップ100が完全に剥離できれば、時刻t6において、コントローラ22は、PUヘッド40を上昇させて、対象チップ100をテイクオフさせる。
【0088】
以上の説明から明らかな通り、本実施形態によれば、テイクオフ準備期間中、PUヘッド40は、待機高さhwで待機している。そのため、対象チップ100が浮上する場合でも、PUヘッド40が対象チップ100に接触することを防止できる。また、待機高さhwは、対象チップ100が浮上開始する前の段階で、面間距離Dfが最大有効距離Dvより小さくなる値としている。そのため、テイクオフ準備期間中、空気層72の力を対象チップ100に作用させることができる。これにより、対象チップ100は、常に、非接触チャック60で保持されるため、粘着層134から急激にガスが噴出したとしても、対象チップ100の飛散が防止される。
【0089】
なお、これまで説明した構成は、一例であり、テイクオフ準備期間において、対象チップ100が浮上しても、対象チップ100とPUヘッド40とが接触しないように、PUヘッド40の位置を制御するのであれば、その他の構成は、変更されてもよい。例えば、図13図15の実施形態では、エア噴射式の非接触チャック60を採用し、紫外線70の照射で自己剥離するダイシングテープ130を採用している。しかし、非接触チャック60は、超音波式でもよいし、ダイシングテープ130は、熱の照射で自己剥離するものでもよい。
【符号の説明】
【0090】
10 製造装置、12 ウエハ保持装置、14 PU装置、16 エネルギ照射装置、18 実装ヘッド、20 ステージ、22 コントローラ、30 エキスパンドリング、32 リング押さえ、40 PUヘッド、44 検出部、50 プロセッサ、52 メモリ、60 非接触チャック、62 吸着面、64 真空、66 ソノトロード、68 スクイーズ膜、70 紫外線、80 規制ピン、82 バネ、100 チップ、102 接合面、110 基板、130 ダイシングテープ、132 基材、134 粘着層、136 ウエハリング。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15