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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】細胞の純化方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20240722BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20240722BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240722BHJP
   C12Q 1/6881 20180101ALI20240722BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/6827 Z
C12N5/10
C12Q1/6881 Z ZNA
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023121145
(22)【出願日】2023-07-25
【審査請求日】2024-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522058659
【氏名又は名称】株式会社セルージョン
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】羽藤 晋
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 慎二
(72)【発明者】
【氏名】岡 雅子
【審査官】三谷 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/064715(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/184403(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/142271(WO,A1)
【文献】特開2017-112835(JP,A)
【文献】国際公開第2012/141202(WO,A1)
【文献】Simon A GAYTHER et al.,nature genetics,2000年,Vol. 24,pp. 300-303
【文献】Jeroen H. Roelfsema,Am. J. Hum. Genet.,2005年,Vol. 76,pp. 572-580
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12M 1/00-3/10
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混入率1%以下で変異細胞を含有する細胞集団から正常細胞を純化する方法であって、以下の工程を含む方法:
工程1:該細胞集団を分画して培養する工程、
工程2:培養した各分画において変異細胞を検出する工程、及び
工程3:変異細胞が検出されなかった分画の細胞を培養する工程
ここで、細胞は多能性幹細胞であり、
工程1において、分画数は20~30であり、且つ、1分画あたりの播種密度は0.05~2×10 細胞/cm である
【請求項2】
混入率1%以下で変異細胞を含有する細胞集団から正常細胞を純化する方法であって、以下の工程を含む方法:
工程1:該細胞集団を分画して培養する工程、
工程2:培養した各分画において変異細胞を検出する工程、及び
工程3:変異細胞が検出されなかった分画の細胞を培養する工程
ここで、細胞は多能性幹細胞であり、
工程1において、分画数は90~100であり、且つ、1分画あたりの播種密度は0.03~3×10 細胞/cm である。
【請求項3】
工程1と工程2の間に、1又は2以上の拡大培養工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
工程1と工程2の間に、1又は2以上の拡大培養工程を含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
混入率が0.1~1%である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
混入率が0.1~1%である、請求項2記載の方法。
【請求項7】
多能性幹細胞がiPS細胞である、請求項記載の方法。
【請求項8】
多能性幹細胞がiPS細胞である、請求項2記載の方法。
【請求項9】
変異がEP300遺伝子における変異である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
EP300遺伝子における変異が、EP300遺伝子のPHD(Plant homeodomain)領域における部分欠損である、請求項記載の方法。
【請求項11】
EP300遺伝子のPHD領域における変異を特異的に検出する為のプライマーセットであって、
該プライマーセットは、配列番号7の塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号8の塩基配列を有するリバースプライマーの組み合わせを含む。
【請求項12】
配列番号9の塩基配列を有する、EP300遺伝子のPHD領域における変異を特異的に検出するためのプローブ。
【請求項13】
標的核酸配列を増幅する為のプライマーセットであって、配列番号10の塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号11の塩基配列を有するリバースプライマーの組み合わせからなり、該標的核酸配列が、EP300遺伝子の変異を有するPHD領域内にあることを特徴とする、プライマーセット。
【請求項14】
EP300遺伝子における変異が、EP300遺伝子のPHD領域における部分欠損である、請求項13記載のプライマーセット。
【請求項15】
工程2において請求項11記載のプライマーセット及び請求項12記載のプローブを用いることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項16】
工程2において請求項13記載のプライマーセットを用いることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項17】
さらに、EP300遺伝子のPHD領域を検出する為のプライマーセット及びプローブを用いる、請求項15記載の方法、ここで
該プライマーセットは、配列番号1の塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号2の塩基配列を有するリバースプライマーの組み合わせであり、
該プローブは、配列番号3の塩基配列を有するプローブである。
【請求項18】
さらに、EP300遺伝子を検出する為のプライマーセット及びプローブを用いる、請求項15記載の方法、ここで
該プライマーセットは、配列番号4の塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号5の塩基配列を有するリバースプライマーの組み合わせであり、
該プローブは、配列番号6の塩基配列を有するプローブである。
【請求項19】
さらに、EP300遺伝子を検出する為のプライマーセット及びプローブを用いる、請求項17記載の方法、ここで
該プライマーセットは、配列番号4の塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号5の塩基配列を有するリバースプライマーの組み合わせであり、
該プローブは、配列番号6の塩基配列を有するプローブである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異細胞が混入している細胞集団からの正常細胞の純化方法に関する。本発明は、また、変異細胞としてEP300遺伝子に変異を有する細胞の混入を同定する方法、該方法に適したプライマー及びプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を用いた創薬や再生医療は目覚ましい発展を遂げ、尚、研究開発が進められている。通常、細胞は、個々の細胞の集まり、即ち、細胞集団として用いられるが、細胞集団における個々の細胞は必ずしも均一なものではない。一定の割合で、変異細胞が混入している可能性があり、そのような変異細胞は実験の正確性や再現性の担保、及び医療分野での使用における安全性といった観点から、あらかじめ取り除いておくことが好ましく、又求められている。
ある程度の混入率がある場合には、例えば限界希釈によって変異細胞を除去することができる限界希釈法が、シングルセルの単離を目的とする古典的な手法として知られ、計算上1細胞/ウェルになるような希釈系列を作成し、各ウェルの細胞を観察する手法である。その為、混入率が低いと作業が煩雑で効率が悪い。各ウェルの細胞における変異の有無を確認し、変異を有さない細胞のみを拡大培養する(非特許文献1)。
限界希釈法の場合は、1個の細胞から増やしていくため時間がかかり効率が悪く、効率よく単一性を確保するための方法が検討されてきた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-148830号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】「シングルセルクローニング」、CeLLaviSta(セラビスタ社)、AppLication Note(アプリケーション ノート)2023年7月19日検索インターネット<URL:http://www.primetech.co.jp/Portals/0/db/product/SynenTec/Cellavista_App_Single_Cell_Cloning_J_rev00_201303.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
iPS細胞等は細胞数が少ないと育ちにくく、限界希釈法による変異細胞の除去が難しい細胞もある。また、細胞集団における変異細胞の混入が極めて少ない場合、限界希釈法では変異細胞の混入に気が付かないまま拡大培養してしまい、変異細胞の分裂速度が正常細胞より早い場合には、拡大培養により変異細胞の占める割合が大きくなり、最終製品(医薬品)としての有効性や安全性に影響を及ぼす可能性がある。
本発明は、拡大培養前にわずかな変異細胞が混入していた場合であっても、それらを検出、除去することで正常細胞を精製し、純化した細胞集団を得ることを可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明者らは、細胞集団において変異細胞の混入率が低い場合には、1ウェルあたりに1個の細胞ではなくある程度の細胞数で細胞を含む、幾つかの分画に分けて培養することで変異細胞の検出効率を高め、続いて変異細胞が検出されなかった分画の細胞を培養することで細胞集団を純化し得ることを見出した。さらに、細胞、特に多能性幹細胞、好ましくはiPS細胞の細胞集団においてEP300遺伝子に変異を有する変異細胞が混入し得るという本発明者らが初めて得た知見に基づき、当該変異細胞を検出可能なプライマー及び/又はプローブの設計に成功し本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下を提供する。
[1]混入率1%以下で変異細胞を含有する細胞集団から正常細胞を純化する方法であって、以下の工程を含む方法:
工程1:該細胞集団を分画して培養する工程、
工程2:培養した各分画において変異細胞を検出する工程、及び
工程3:変異細胞が検出されなかった分画の細胞を培養する工程。
[2]工程1と工程2の間に、1又は2以上の拡大培養工程を含む、[1]記載の方法。
[3]混入率が0.1~1%である、[1]又は[2]記載の方法。
[4]工程1において、分画数が20~30である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]工程1において、1分画あたり、0.05~2×10細胞/cmの密度で播種する、[4]記載の方法。
[6]工程1において、分画数が90~100である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[7]工程1において、1分画あたり、0.03~3×10細胞/cmの密度で播種する、[6]記載の方法。
[8]細胞が多能性幹細胞である、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]多能性幹細胞がiPS細胞である、[8]記載の方法。
[10]変異がEP300遺伝子における変異である、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]EP300遺伝子における変異が、EP300遺伝子のPHD(Plant homeodomain)領域における部分欠損である、[10]記載の方法。
[12]EP300遺伝子のPHD領域における変異を特異的に検出する為のプライマーセットであって、
該プライマーセットは、配列番号7の塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号8の塩基配列を有するリバースプライマーの組み合わせを含む。
[13]配列番号9の塩基配列を有する、EP300遺伝子のPHD領域における変異を特異的に検出するためのプローブ。
[14]EP300遺伝子のPHD領域を検出する為のプライマーセットであって、
該プライマーセットは、配列番号1の塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号2の塩基配列を有するリバースプライマーの組み合わせを含む。
[15]配列番号3の塩基配列を有する、EP300遺伝子のPHD領域を検出するためのプローブ。
[16]EP300遺伝子を検出する為のプライマーセットであって、
該プライマーセットは、配列番号4の塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号5の塩基配列を有するリバースプライマーの組み合わせを含む。
[17]配列番号6の塩基配列を有する、EP300遺伝子を検出するためのプローブ。
[18]標的核酸配列を増幅する為のプライマーセットであって、配列番号10の塩基配列を有するフォワードプライマー及び配列番号11の塩基配列を有するリバースプライマーの組み合わせからなり、該標的核酸配列が、EP300遺伝子の変異を有するPHD領域内にあることを特徴とする、プライマーセット。
[19]EP300遺伝子における変異が、EP300遺伝子のPHD領域における部分欠損である、[18]記載のプライマーセット。
[20]工程2において[12]記載のプライマーセット及び[13]記載のプローブを用いることを特徴とする、[1]記載の方法。
[21]工程2において[18]記載のプライマーセットを用いることを特徴とする、[1]記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
ある程度の細胞数から培養するので限界希釈法と比較して、一定量の細胞数に到達するまでの培養時間が短縮でき、かつ変異細胞の混入率が低くても変異細胞を検出することができ、効率よく変異細胞を除去することができる。iPS細胞の拡大培養前に本方法を実施することにより、拡大培養前に検知することが困難な変異細胞を早期に発見、除去することができ、拡大培養後に変異細胞によって汚染されることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の細胞の純化方法(変異細胞を含まない細胞集団の取得方法)を模式的に示した図である。図中、Pは継代数を示し、例えばP16は16回継代したことを意味する。「起眠P16→P17」は16回継代した細胞を凍結保存し、該凍結保存した細胞を起眠(17回目の継代)した状態を意味する。
図2】野生型EP300遺伝子(WT)、変異型EP300遺伝子(Mutant)ゲノム上の各プライマー(矢印)及び各プローブ(長楕円形)の位置を示した図である。1は共通領域を、2は欠損領域を、3は切断部位を含む領域を示す。VIC(登録商標):carboxyrhodamine、FAM(商標):Carboxyfluorescein、MGB:minor groove binder、NFQ:nonfluorescent quencher
図3】野生型EP300遺伝子(WT)、変異型EP300遺伝子(Mutant)を有する細胞から調製したサンプルを用いてマルチプレックスPCRを実施した結果を示す図である。横軸はサイクル数を縦軸は蛍光シグナルの大きさ(△Rn)を示す。
図4】野生型EP300遺伝子(WT)、変異型EP300遺伝子(Mutant)を有する細胞から調製したサンプルを用いてqPCRを行い、Mutant領域及び欠損領域の発現を調べた結果を示す図である。共通領域を内因性コントロールとして相対的発現でグラフ化した。
図5】野生型EP300遺伝子を有する細胞(EP300欠損-;MCB P15)、変異型EP300遺伝子を有する細胞(EP300欠損+;CECSi)から調製したサンプルを用いてRT-PCRを行い、各領域の発現を調べた結果を示す図である。
図6】野生型EP300遺伝子を有する細胞(EP300欠損-;MCB P15)、変異型EP300遺伝子を有する細胞(EP300欠損+;CECSi)から調製したサンプルを用いてRT-PCRを行い、各領域の発現を調べた結果を示す図である。
図7】変異型EP300遺伝子を有する細胞(EP300欠損+)の混入率を段階的に変えて細胞集団を調製し、各サンプルから調製したサンプルを用いて定量的PCRを行った結果を示すグラフである。0.1%程度の混入率を検出することができた。
図8】野生型EP300遺伝子(WT)、変異型EP300遺伝子(MT)上の各プライマーの位置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味を有する。
【0011】
1.細胞の純化方法
本発明は、変異細胞を含有する細胞集団から正常細胞を純化する方法を提供する(以下、本発明の純化方法とも称する)。本発明の純化方法は、以下の工程を含む。
工程1:該細胞集団を分画して培養する工程、
工程2:培養した各分画において変異細胞を検出する工程、及び
工程3:変異細胞が検出されなかった分画の細胞を培養する工程。
【0012】
(工程1)
工程1は、変異細胞を含有する細胞集団を分画して培養する工程である。ここで、工程1が適用される「変異細胞を含有する細胞集団」は、変異細胞を混入しているか、混入している可能性のある細胞集団であって、結果的に混入していなくても構わない。混入率が高いと全ての分画に変異細胞が含まれる可能性があり、工程3が実施できない為、好ましくは変異細胞の混入率は1%以下であり、0.9%以下、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下であってもよい。工程2における検出の容易性の観点から0.1%以上であることが好ましいが、変異細胞が混入していないことが結果的には望ましいため、混入率が0.1%未満であってもよい。
細胞集団の分画は、工程2及び工程3が適切に実施できる限り分画数や各分画あたり細胞の数は特に限定されない。例えば分画数20~30の場合、各分画あたり0.05~2×10細胞/cmの密度で播種することができる。例えば分画数90~100の場合、各分画あたり0.03~3×10細胞/cmの密度で播種することができる。図1に示されるように、分画数を段階的に変えて(例、96ウェル→24ウェル→6ウェル)培養することができ、変異を有さない細胞の収率を向上させる観点から工程1と工程2の間に1又は2以上の拡大培養工程、好ましくは2回の拡大培養工程を実施することが好ましい。
細胞としては、変異が生じる可能性のある細胞であり、且つ増殖能を有する細胞であれば特に限定されないが、幹細胞が好ましい。特に多能性幹細胞が好ましく、とりわけiPS細胞が好ましい。
【0013】
幹細胞とは、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞であり、その例としては、以下に限定されるものではないが、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、がん幹細胞、毛包幹細胞、皮膚幹細胞などが挙げられる。
【0014】
多能性幹細胞は、受精卵、クローン胚、生殖幹細胞、組織内幹細胞、体細胞等から誘導することができる。多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞:Embryonic stem cell)、EG細胞(Embryonic germ cell)、人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)等を挙げることができる。間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)から得られるMuse細胞(Multi-lineage differentiating Stress Enduring cell)、及び生殖細胞(例えば精巣)から作製されるGS細胞も多能性幹細胞に包含される。
【0015】
ES細胞は、内部細胞集団をフィーダー細胞上又はleukemia inhibitory factor(LIF)を含む培地中で培養することにより製造することができる。また、所定の機関より入手でき、市販品を購入することもできる。ES細胞の1つである核移植ES細胞(ntES細胞)は、細胞核を取り除いた卵子に体細胞の細胞核を移植して作ったクローン胚から樹立することができる。
【0016】
EG細胞は、始原生殖細胞をマウス幹細胞因子(mSCF)、LIF及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含む培地中で培養することにより製造することができる(Cell, 70:841-847, 1992)。
【0017】
iPS細胞とは、体細胞を公知の方法等により初期化(reprogramming)することにより、多能性を誘導した細胞である。iPS細胞としては、具体的には線維芽細胞、末梢血単核球等に分化した体細胞をOct3/4、Sox2、Klf4、Myc (c-Myc、N-Myc、L-Myc)、Glis1、Nanog、Sall4、lin28、Esrrb等を含む初期化遺伝子群から選ばれる複数の遺伝子の発現により初期化して多分化能を誘導した細胞が挙げられる。2006年、山中らによりマウス細胞で人工多能性幹細胞が樹立された(Cell, 2006, 126(4) pp.663-676)。人工多能性幹細胞は、2007年にヒト線維芽細胞でも樹立され、胚性幹細胞と同様に多能性と自己複製能を有する(Cell, 2007, 131(5) pp.861-872; Science, 2007, 318(5858) pp.1917-1920; Nat. Biotechnol., 2008, 26(1) pp.101-106)。人工多能性幹細胞として、遺伝子発現による直接初期化で製造する方法以外に、化合物の添加などにより体細胞より人工多能性幹細胞を誘導することもできる(Science, 2013, 341, pp.651-654)。
【0018】
人工多能性幹細胞を製造する際に用いられる体細胞としては、特に限定は無いが、組織由来の線維芽細胞、血球系細胞(例えば末梢血単核球、T細胞等)、肝細胞、膵臓細胞、腸上皮細胞、平滑筋細胞等が挙げられる。
【0019】
人工多能性幹細胞を製造する際に、数種類の遺伝子(例えばOct3/4、Sox2、Klf4及びMycの4因子)の発現により初期化する場合、遺伝子を発現させるための手段は特に限定されない。遺伝子を発現させるための手段としては、例えばウイルスベクター(例えばレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター)を用いた感染法、プラスミドベクター(例えばプラスミドベクター、エピソーマルベクター)を用いた遺伝子導入法(例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、レトロネクチン法、エレクトロポレーション法)、RNAベクターを用いた遺伝子導入法(例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法)、タンパク質の直接注入法等が挙げられる。
【0020】
また、株化された人工多能性幹細胞を入手する事も可能である。具体的には、iPS細胞としては、201B7、201B7-Ff、253G1、253G4、1201C1、1205D1、1210B2、836B3、FF-I14s03、FF-I01s04、MH09s01、Ff-XT18s02、Ff-WIs03、Ff-WJs513、Ff-CLs14、Ff-KVs09、QHJI14s03、QHJI01s04、RWMH09s01、DRXT18s02、RJWIs03、YZWJs513、ILCLs14、GLKVs09、 Ff-XT28s05-ABo_To,Ff-I01s04-ABII-KO,Ff-I14s04-ABII-KO(いずれもiPSアカデミアジャパン社、又は京都大学iPS研究財団)、Tic(JCRB1331株)、Dotcom(JCRB1327株)、Squeaky(JCRB1329株)、Toe(JCRB1338株)、及びLollipop(JCRB1336株)(以上成育医療センター、医薬基盤研究所難病・疾患資源研究部・JCRB細胞バンク)、UTA-1株及びUTA-1-SF-2-2株(いずれも東京大学)、21526、21528、21530、21531、31536、31538株(いずれもフジフイルム・セルラー・ダイナミクス社)、ATCC-DYP0730、ATCC-DYP0250、ATCC-HYR0103、ATCC-DYR0100、ATCC-DYR0530、ATCC-DYS0530、ATCC-DYP0530、ATCC-DYS0100、ATCC-HYS0103、ATCC-CYS0105、KYOU-DXR0109B、ATCC-BYS0110、ATCC-BYS0111、ATCC-BYS0112、ATCC-BYS0113、ATCC-BXS0114、ATCC-BXS0115、ATCC-BXS0116、ATCC-BXS0117(いずれも非営利法人American Type Culture Collection)等を用いることができる。
【0021】
人工多能性幹細胞から各種細胞、例えば角膜内皮代替細胞(本明細書中において「CECSi細胞」と表す場合もある)に分化誘導され得る。
【0022】
「哺乳動物」には、げっ歯類、有蹄類、ネコ目、ウサギ目、霊長類等が包含される。げっ歯類には、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等が包含される。有蹄類には、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等が包含される。ネコ目には、イヌ、ネコ等が包含される。ウサギ目には、ウサギ等が含包される。「霊長類」とは、霊長目に属する哺乳類動物をいい、霊長類としては、キツネザル、ロリス、ツバイ等の原猿亜目、及びサル、類人猿、ヒト等の真猿亜目が含まれる。
【0023】
本発明に用いる多能性幹細胞は、哺乳動物の多能性幹細胞であり、好ましくはげっ歯類(例えばマウス、ラット)又は霊長類(例えばヒト、サル)の多能性幹細胞であり、最も好ましくはヒトの多能性幹細胞である。
【0024】
(工程2)
工程2は、工程1の後(場合によっては工程1の後に実施する拡大培養工程の後)に実施される工程であり、培養した各分画において変異細胞を検出する工程である。
ここで、「変異細胞」とは、遺伝子に変異が生じている細胞であれば特に限定されるものではなく、継代の過程で後天的に変異が生じた細胞であってもよく、先天的に変異が生じているものであってもよい。変異細胞の検出は遺伝子レベル(例、ノザンブロット、PCR)であってもタンパク質レベル(例、ウェスタンブロット)であってもよいが、一般的に、変異細胞と正常細胞との遺伝子配列の差は少なく、ごく一部の塩基が異なっていることが多いため、遺伝子レベルで実施されることが好ましい。
変異細胞の一例として、EP300遺伝子に変異を有する細胞が挙げられる。EP300(E1A binding protein 300)は、ヒストンアセチル基転移酵素活性(HAT活性)を有する転写共役因子である。遺伝子プロモーター領域において、HAT活性によりヒストンとDNAとの相互作用を弱めることでクロマチン構造を変化させ、そこに基本転写装置および転写制御因子を呼び込むことで転写を促進する。EP300の体細胞変異はがんにおいて広く認められ、その大部分が機能失活を引き起こす可能性の高い短縮型変異であり、がん抑制遺伝子として働いている可能性が考えられている。EP300遺伝子上の各ドメインを図示した模式図を図8に示す。本発明者らは、一部のiPS細胞にEP300遺伝子上の変異を見出した。EP300遺伝子に変異を有する細胞を検出する為の具体的な手順は後述の「2.EP300遺伝子における欠損を検出する為のツール」の項で述べる。
工程2において、全ての分画に変異細胞が検出された場合には、次工程である工程3を実施することができないので、工程1において分画する細胞の個数を減らして再度工程1を実施する(場合によっては工程1の後に拡大培養工程を実施する)。
【0025】
(工程3)
工程3は、工程2において変異が検出されなかった分画の細胞を拡大培養する工程である。ある程度の細胞数からの培養開始となるため、短期間で高い収率で変異を有さない細胞を得ることができる。
【0026】
工程1の培養工程、工程1と工程2との間に実施する拡大培養工程、及び工程3における培養工程の培養条件は、対象とする細胞の種類によって適宜選択され、自体公知のものが利用できる。例えば、各工程で用いる培地には、自体公知の基礎培地を用いることができ、対象となる細胞、好ましくは多能性幹細胞、より好ましくはiPS細胞の増殖を阻害しない限り特に限定されない。多能性幹細胞培養用の培地が好ましく、例えばDMEM、DMEMHG、EMEM、IMDM(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)、GMEM(Glasgow's MEM)、RPMI-1640、α-MEM、Ham's Medium F-12、Ham's Medium F-10、Ham's Medium F12K、Medium 199、ATCC-CRCM30、DM-160、DM-201、BME、Fischer、McCoy's 5A、Leibovitz's L-15、RITC80-7、MCDB105、MCDB107、MCDB131、MCDB153、MCDB201、NCTC109、NCTC135、Waymouth's MB752/1、CMRL-1066、Williams' medium E、Brinster's BMOC-3 Medium、E8 medium(Nature Methods, 2011, 8, 424-429)、ReproFF2培地(リプロセル社)、StemFit(登録商標)AK培地(味の素)及びこれらの混合培地等が挙げられる。
【0027】
培地には、自体公知の添加物を含むことができる。添加物としては、細胞、特に多能性幹細胞、好ましくはiPS細胞の増殖を阻害するものでない限り特に限定されないが、例えば、成長因子(例えばインスリン等)、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ポリアミン類(例えばプトレシン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、本発明の低減されるアミノ酸以外のアミノ酸(例えばL-グルタミン等)、還元剤(例えば2-メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d-ビオチン等)、ステロイド(例えばβ-エストラジオール、プロゲステロン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等、脂質類(例えばリノール酸等)、核酸類(例えばチミジン等)が挙げられる。また、従来から多能性幹細胞の培養に用いられてきた自体公知の添加物も適宜含むことができる。添加物は、それぞれ自体公知の濃度範囲内で含まれることが好ましい。
【0028】
培地には、血清が含まれていてもよい。血清としては、動物由来の血清であれば、細胞、特に多能性幹細胞、好ましくはiPS細胞の増殖を阻害するものでない限り特に限定されないが、好ましくは哺乳動物由来の血清(例えばウシ胎仔血清、ヒト血清等)であり、より好ましくはヒト血清である。血清の濃度は、自体公知の濃度範囲内であればよい。
【0029】
細胞培養に用いられる培養器は、対象とした細胞、特に多能性幹細胞、好ましくはiPS細胞培養が可能なものであれば特に限定されないが、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、及びローラーボトルが挙げられ得る。工程1の培養工程、工程1と工程2の間の拡大培養工程では、細胞集団を分画して培養することから、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート等の複数のウェル中で同時に培養可能な培養器が好ましい。
【0030】
培養器は、細胞接着性であっても細胞非接着性であってもよく、目的に応じて適宜選ばれる。細胞接着性の培養器は、培養器の表面の細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス(ECM)等の任意の細胞支持用基質でコーティングされたものであり得る。細胞支持用基質は、細胞接着を目的とする任意の物質であり得る。
【0031】
培養温度は、特に限定されるものではないが約30~40℃、好ましくは約37℃であり得る。CO濃度は、約1~10%、好ましくは約2~5%であり得る。酸素分圧は、1~10%であり得る。
【0032】
2.EP300遺伝子における欠損を検出する為のツール
本発明の一実施態様は、本発明の細胞の純化方法の工程2において使用可能な、変異細胞を検出する為のツールを提供することである。当該ツールには、DNA増幅反応を利用した方法(PCR法)に使用するプライマーセット(フォワードプライマーとリバースプライマーとの対)や、ハイブリダイゼーション法に使用するプローブが挙げられる。タンパク質レベルでの検出が可能な場合には、当該ツールとして抗体等が挙げられる。
【0033】
(1)増幅反応を利用した方法(PCR法)
本発明においては、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して変異細胞(における変異型遺伝子)を簡便かつ高精度に検出することができる。
まず、変異型遺伝子の塩基配列と、野生型遺伝子の塩基配列との比較から、両者を区別して増幅することができるプライマーを設計する。プライマーセットは、野生型遺伝子cDNA配列若しくは変異型遺伝子のcDNA配列を基準に設計してもよいし、野生型遺伝子のゲノム配列若しくは変異型遺伝子のゲノム配列を基準に設計してもよい。
プライマーの設計手法は当技術分野で周知であり、本発明において使用可能なプライマーは、特異的なアニーリングが可能な条件を満たす、例えば特異的なアニーリングが可能な長さ及び塩基組成(融解温度)を有するように設計される。例えば、プライマーとしての機能を有する長さとしては、10塩基以上が好ましく、さらに好ましくは15~50塩基であり、さらに好ましくは15~30塩基である。また設計の際には、プライマーのGC含量とプライマーの融解温度(Tm)を確認することが好ましい。Tmとは、任意の核酸鎖の50%がその相補鎖とハイブリッドを形成する温度を意味し、鋳型となるDNAとプライマーとが二本鎖を形成してアニーリングするためには、アニーリングの温度を最適化する必要がある。一方、この温度を下げすぎると非特異的な反応が起こるため、温度は可能な限り高いことが望ましい。Tmの確認には、公知のプライマー設計用ソフトウエアを利用することができる。設計されたプライマーは、公知のオリゴヌクレオチド合成手法により化学合成することができるが、通常は、市販の化学合成装置を使用して合成される。
【0034】
具体的な実施形態において、EP300遺伝子及び/又はEP300遺伝子の変異(22番染色体にあるEP300 遺伝子の、エクソン22領域の欠失)の検出に使用可能なプライマーセットとしては、限定するものではないが、例えば以下のプライマーセットが挙げられる:
・配列番号1の塩基配列(AAACTATTTTCAGTTCTTTGGTCATGAC)で表されるフォワードプライマーと配列番号2の塩基配列(CCTTAACCAAATGAAAACTTGCAA)で表されるリバースプライマーとからなるEP300遺伝子欠損領域検出用のプライマーセット、
・配列番号4の塩基配列(ATGCTGCTGGCATGAATAGGT)で表されるフォワードプライマーと配列番号5の塩基配列(GCTGTTCCTGCCCTAACCAA)で表されるリバースプライマーとからなるEP300共通領域検出用のプライマーセット、
・配列番号7の塩基配列(AAACTATTTTCAGTTCTTTGGTCATGAC)で表されるフォワードプライマーと配列番号8の塩基配列(GCCAAACCCAAAGAAAACAATT)で表されるリバースプライマーとからなるEP300遺伝子のmutant領域検出用のプライマーセット、
このように設計されたプライマーセットを用いた場合、変異型遺伝子によって得られる増幅産物と、野生型遺伝子によって得られる増幅産物とは、その長さ及び/又は塩基配列が異なる。従って、プライマーセットを用いた増幅反応により得られる増幅産物の長さ及び/又は塩基配列の相違から、EP300遺伝子に変異を有するか否かを判別することができる。
【0035】
増幅反応は、特に限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法の原理を利用した公知の方法を挙げることができる。増幅は、増幅産物が検出可能なレベルになるまで行う。PCRの最適条件は、当業者であれば容易に決定することができる。またRT-PCR法では、まず、mRNAを鋳型として、逆転写酵素反応によりcDNAを作製し、その後、作製したcDNAを鋳型として一対のプライマーを用いてPCR法を行う。RT-PCR法のプライマーセットとしては、例えば以下が挙げられる。
・配列番号10の塩基配列(GATGACCCTTCCCAGCCTCAAAC)で表されるフォワードプライマーと配列番号11(CTTTAAACAGCCATCACAGACGAATAGTT)で表されるリバースプライマーとからなるEP300遺伝子のmutant領域検出用のプライマーセット。
【0036】
上記増幅反応後に特異的な増幅反応が起こったか否かを検出するには、増幅反応により得られる増幅産物を特異的に認識することができる公知の手段を用いることができる。例えば、アガロースゲル電気泳動法等を利用して、特定のサイズの増幅断片が増幅されているか否かを確認することにより、特異的な増幅反応を検出することができる。増幅産物のサイズは設計したプライマー間の塩基配列に基づいて推測することが可能である。
【0037】
あるいは、プライマー又は基質に標識した標識に基づいて核酸断片の増幅の有無を検出する。例えば、増幅反応の過程で取り込まれるdNTPに、放射性同位体、蛍光物質、発光物質などの標識体を作用させ、この標識体を検出することができる。放射性同位体としては、32P、125I、35Sなどを用いることができる。また蛍光物質としては、例えば、フルオレセン(FITC)、スルホローダミン(TR)、テトラメチルローダミン(TRITC)などを用いることができる。また発光物質としてはルシフェリンなどを用いることができる。これら標識体の種類や標識体の導入方法等に関しては、特に制限されることはなく、従来公知の各種手段を用いることができる。例えば標識体の導入方法としては、放射性同位体を用いるランダムプライム法が挙げられる。
【0038】
標識したdNTPを取り込んだ増幅産物を観察する方法としては、上述した標識体を検出するための当技術分野で公知の方法であればいずれの方法でもよい。例えば、標識体として放射性同位体を用いた場合には、放射活性を、例えば液体シンチレーションカウンター、γ-カウンターなどにより計測することができる。また標識体として蛍光を用いた場合には、その蛍光を蛍光顕微鏡、蛍光プレートリーダーなどを用いて検出することができる。
【0039】
(2)ハイブリダイゼーション法
EP300遺伝子の変異は、ハイブリダイゼーション法を利用して検出することもできる。
【0040】
最初に、変異型EP300遺伝子の塩基配列と、野生型EP300遺伝子の塩基配列との比較から、両者を区別してハイブリダイズすることができるプローブを設計する。このようなプローブを用いたハイブリダイゼーションの有無により、変異型EP300遺伝子を含むかどうかを検出することができる。
【0041】
プローブの設計手法は当技術分野で周知であり、本発明において使用可能なプローブは、特異的なハイブリダイゼーションが可能な条件を満たす、例えば特異的なハイブリダイゼーションが可能な長さ及び塩基組成(融解温度)を有するように設計される。プローブの長さは、10塩基以上が好ましく、さらに好ましくは20~50塩基であり、さらに好ましくは20~30塩基である。
【0042】
具体的な実施形態において、EP300遺伝子及び/又はEP300遺伝子の変異(22番染色体にあるEP300 遺伝子の、エクソン22領域の欠失)の検出に使用可能なプローブとしては、限定するものではないが、例えば以下のプローブが挙げられる:
・配列番号3の塩基配列(CTTTGTCAGAAGTCATGGGA)で表されるEP300遺伝子の欠損領域検出用のプローブ、
・配列番号6の塩基配列(CCTGGTAAGGGTCACCA)で表されるEP300遺伝子の共通領域検出用のプローブ、
・配列番号9の塩基配列(CTTTGTCAGGTTTTTTATTC)で表されるEP300遺伝子のmutant領域検出用のプローブ。
【0043】
本方法においては、プローブを用いてハイブリダイゼーション反応を行い、その特異的結合(ハイブリッド)を検出することにより、変異型EP300遺伝子の存在を検出する。ハイブリダイゼーション反応は、ストリンジェントな条件下で行う必要がある。そのようなストリンジェントな条件は当技術分野で周知であり、特に限定されない。
【0044】
本方法においてハイブリダイゼーションを行う場合には、プローブに蛍光標識(フルオレセイン、ローダミン、VICなど)、放射性標識(32Pなど)、酵素標識(アルカリフォスファターゼ、西洋ワサビパーオキシダーゼ等)、ビオチン標識等の適当な標識を付加することができる。
【0045】
各プライマーやプローブがEP300遺伝子のどの領域に対応するかを図2及び図8に示す。
【0046】
(3)タンパク質レベルでの検出
変異細胞のタンパク質レベルでの検出は、例えば、変異細胞に特異的に発現しているタンパク質や変性したタンパク質を検出することによって行う。検出は、免疫アッセイ(免疫学的測定法)により行うことができる。すなわち試料中の、変異細胞に特異的に発現しているタンパク質や変性したタンパク質と、該タンパク質に特異的に結合する抗体との反応に基づいて、該タンパク質の発現を測定する。免疫アッセイは、当該分野で汎用されている方法であれば液相系及び固相系のいずれで行ってもよい。また免疫アッセイの形式も限定されるものではなく、直接固相法の他、サンドイッチ法、競合法、ウエスタンブロッティング法、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)法などであってもよい。
【0047】
変異細胞に特異的に発現しているタンパク質や変性したタンパク質と抗体との結合(反応)は、周知の方法に従って測定しうる。当業者であれば、採用する免疫アッセイの種類及び形式、使用する標識の種類などに応じて、各アッセイについての有効かつ最適な測定方法を決定することができる。例えば、試料中のタンパク質と抗体との結合を容易に検出するために、該抗体を標識することにより該結合を直接検出するか、又は標識二次抗体若しくはビオチン-アビジン複合体等を用いることにより間接的に検出する。
【0048】
免疫アッセイにおいて使用する抗体を標識するための標識としては、酵素、放射性同位体、蛍光色素又はアビジン-ビオチン系を使用することができる。酵素としては、通常の酵素免疫アッセイ(EIA)に用いられる酵素、例えば、パーオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等を用いることができる。放射性同位体としては、125IやH等の通常のラジオイムノアッセイ(RIA)で用いられているものを使用することができる。蛍光色素としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等の通常の蛍光抗体法に用いられるものを使用することができる。
【0049】
標識シグナルの検出もまた、当技術分野で公知の方法に従って行うことができる。例えば、酵素標識を用いる場合には、酵素作用によって分解して発色する基質を加え、基質の分解量を光学的に測定することによって酵素活性を求め、これを結合抗体量に換算し、標準値との比較から抗体量が算出される。基質は、使用する酵素の種類に応じて異なり、例えば酵素としてパーオキシダーゼを使用する場合には、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジシンを、また酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、パラニトロフェノール等を用いることができる。放射性標識を用いる場合には、放射性標識の発する放射線量をシンチレーションカウンター等により測定する。蛍光標識は、例えば蛍光顕微鏡、プレートリーダー等を用いて検出及び定量することができる。
【実施例
【0050】
以下に実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。また、使用する試薬及び材料は特に限定されない限り商業的に入手可能である。本明細書中で用いた略語は特に断りの無い限り、当分野で通常用いられるものと同様である。
【0051】
実施例1:細胞の純化
iPS細胞をY-27632(富士フイルム和光純薬)含有StemFit(登録商標)AK03N培地(味の素)中、iMatrix-511(0.6μg/cm)をコートした96ウェルプレートに100細胞/ウェルの密度で播種した。1日培養後、Y-27632抜きのAK03N培地に培地交換をした(Day1)。4日培養後(Day4)、5日培養後(Day5)、6日培養後(Day6)にAK03N培地で培地交換し、7日培養後(Day7)でAK03N(Y-27632添加)培地を用いてiMatrix-511(0.6μg/cm)をコートした24ウェルプレートに継代を行った(96ウェルプレートの1ウェル中のコロニー全量を24ウェルプレートの1ウェルに播種する)。
継代の翌日(Day1’)及び4日後(Day4’)、5日後(Day5’)にAK03N培地で培地交換を行い、6日後(Day6’)でAK03N(Y-27632添加)培地を用いてiMatrix-511(0.6μg/cm)をコートした6ウェルプレートに継代を行った(24ウェルの1ウェル中のコロニー半量を6ウェルプレートの1ウェルに播種する)。
継代の翌日(Day1’’)にAK03N培地で培地交換を行った。その後、適宜培地交換をしつつ、細胞がコンフルになった時点でAK03N(Y-27632添加)培地を用いて細胞を回収した。
EP300変異が観察されなかったウェルを変異細胞の混入のない細胞集団のウェルと評価し、細胞を回収した。回収した細胞の定量的PCRの結果(方法は実施例5と同じ、使用したプライマーセットはF1+R6)。回収した細胞は全て正常細胞だった。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例2:Taqman PCR
染色体上のEP300遺伝子を検出するために、EP300の染色体上の発現領域における欠損領域、ならびに欠損の有無に依存しない領域(共通領域)、欠損後に結合した領域(mutant領域)の3つの配列を標的として、3種類のプライマー設計とそのプライマーで挟まれる領域に特異的なtaqmanプローブ配列を作製した。共通領域のプローブにはVIC色素、欠損領域ならびにMutant領域はFAM色素を使用しているため、マルチプレックスPCRが可能である。各領域におけるプライマー及プローブの位置関係を図2に示す。配列は以下の通り。
<欠損配列を含む検出用(欠損領域)>
フォワードプライマー:AAACTATTTTCAGTTCTTTGGTCATGAC(配列番号1)
リバースプライマー:CCTTAACCAAATGAAAACTTGCAA(配列番号2)
プローブ:CTTTGTCAGAAGTCATGGGA(配列番号3)
<欠損の有無関係なく、共通領域で設計(共通領域)>
フォワードプライマー:ATGCTGCTGGCATGAATAGGT(配列番号4)
リバースプライマー:GCTGTTCCTGCCCTAACCAA(配列番号5)
プローブ:CCTGGTAAGGGTCACCA(配列番号6)
<欠損後の配列検出用(mutant領域)>
フォワードプライマー:AAACTATTTTCAGTTCTTTGGTCATGAC(配列番号7)
リバースプライマー:GCCAAACCCAAAGAAAACAATT(配列番号8)
プローブ:CTTTGTCAGGTTTTTTATTC(配列番号9)
ポジティブコントロールとして、それぞれのプライマーで挟まれた領域の配列を2種類ずつ繋ぎ合わせて前後の配列も加え300bpに調整した(1)Mutant領域と共通領域、(2)欠損領域と共通領域の配列をThermoFisher社のStrings DNA Fragments合成サービスにてGeneArt Strings DNA Fragment Positive controlを作製した。これを用いて下記の通り、検量線を作製した。
合成物はDNase不含の水にて1×1010コピー/μlになるよう調整し、1×10コピー/μlになるよう希釈したものをワーキングソリューションとし、そこから1/10ずつ希釈し、検量線サンプルを作製する。配列を以下に示す。
(1)Mutant領域と共通領域
ATAGAAACTTTATTAAAACTATTTTCAGTTCTTTGGTCATGACCTTGGCTGTCTTTGTCAGGTTTTTTATTCTATGCAATTGACTGTATTATATCTTCAAAGTTACTATCTTTAAATTGTTTTCTTTGGGTTTGGCCACGATAATTATAGGGATCATGCTGCTGGCATGAATAGGTCTGGCCCTGGTAAGGGTCACCATTTGGTTAGGGCAGGAACAGCAAGTTATAAGGCTGCAGTCATAGTGTAATTGCCTAGTAAAAGGGAGGGGCCATCGCTCTGTACAAGAGGAACTAATCCCAG(配列番号12)
(2)欠損領域と共通領域
AGAAACTTTATTAAAACTATTTTCAGTTCTTTGGTCATGACCTTGGCTGTCTTTGTCAGAAGTCATGGGAAATATTGCAAGTTTTCATTTGGTTAAGGTTTGGGGTTAATTTTGGAATTGGCTCTGCTCTTCCAGGTTTGTTGAATGTACGGATCATGCTGCTGGCATGAATAGGTCTGGCCCTGGTAAGGGTCACCATTTGGTTAGGGCAGGAACAGCAAGTTATAAGGCTGCAGTCATAGTGTAATTGCCTAGTAAAAGGGAGGGGCC ATCGCTCTGTACAAGAGGAACTAATCCCAG(配列番号13)
反応液中にプライマー900nM、プローブ250nMとなるよう調整し、テンプレートは1~20ng用いてTaqman PCRを実施した。StepOnePlusTM Real Time PCR System (Applied Biosystems)にて、95℃20秒間反応させたのち、95℃1秒間、60℃20秒間を40サイクル反応させるプログラムにて解析した。テンプレートには、Mutant2種類(Sample A及びB)、WT2種類(Sample C及びD)のゲノム抽出サンプルを用いた。8ngのテンプレートを用いた場合のqPCRの結果を図3に示す。変異型(Mutant)と野生型(WT)を区別して検出することができた。
qPCRを行った後、共通領域を内因性コントロールとしてdCT値を計算し、さらにddCTを算出し、相対的な発現を調べた。結果を図4に示す。
WTのサンプルではMutant領域の検出はないことが確認された。欠損領域がMutantのサンプルでも確認されたので、このMutantのサンプルはWTとのヘテロであることが考えられる。
Sample A及びBは変異型(Mutant)としてEP300変異細胞が混入したiPS細胞由来のCECSi細胞を、Sample C及びDは野生型(WT)として、EP300変異細胞が混入していないiPS細胞由来のCECSi細胞を使用した。
ゲノム抽出にはPureLink Genomic DNA Kit(Invitrogen, K1820-01)を使用した。抽出後、ゲノムの濃度を測定し、-20℃で保存した。
【0054】
参考例1
EP300変異を有する、又は有さない各iPS細胞由来のCECSiをQIAGEN社RNeasy mini kit (#74106)を用いてRNA抽出を行い、TOYOBO社ReverTra-plus- (#PCR501)を用いてcDNA合成を行った。
プライマー:ランダムプライマー
反応スケール:20μL
反応条件:42℃20分×1、99℃5分×1
作成したcDNAをTaKaRa社TaKaRa Ex Taq(登録商標)(#RR001A)を用いて、サーマルサイクラーを使ってRT-PCRを行った。
反応スケール:20μL
反応条件:(98℃3秒、60℃30秒)×40
反応終了後、3.5%アガロースゲルにアプライし、電気泳動を実施した後、臭化エチジウム溶液にて染色した。
RT-PCRに用いた主なプライマーの配列を下記表に示す。F1、R1、R2、R3のプライマーが標的とする位置関係を図8に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
結果を図5に示す。
【0057】
実施例3
EP300の変異混入率が0%の角膜内皮細胞(レーン1,ネガティブコントロール:B4G12)、変異混入率が6.3%であるiPS細胞(レーン2:MCB P15)、変異混入率が75%の角膜内皮代替細胞(レーン3,ポジティブコントロール:TR1 CECSi)、をQIAGEN社RNeasy mini kit (#74106)を用いてRNA抽出を行い、TOYOBO社ReverTra-plus-(#PCR501)を用いてcDNA合成を行った。
プライマー:ランダムプライマー
反応スケール:20μL
反応条件:42℃20分×1、99℃5分×1
作成したcDNAをTOYOBO社THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix (#QPS201)を用いて、サーマルサイクラーを使ってRT-PCRを行った。
反応スケール:20μL
反応条件:(95℃3秒、62℃30秒)×40。
反応終了後、3.5%アガロースゲルにアプライし、電気泳動を実施した後、臭化エチジウム溶液にて染色した。
RT-PCRに用いたプライマーの配列を下記表に示す。F1及びR6のプライマーが標的とする位置関係を図8に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
結果を図6に示す。変異混入率とバンドの濃さに相関があり、EP300変異(EP300に欠損領域を有する)を検出できた。
【0060】
実施例4
実施例1の工程2において、実施例3で用いたプライマーセットを用いることで、変異細胞の混入率が低い場合であっても除去できることを確認するため、EP300欠損を持つiPS細胞をEP300の欠損を持たないiPS細胞に各割合(0%,0.01%,0.1%,1%,10%,100%)になるようにスパイクをし、定量的PCRを行った。各サンプルは、QIAGEN社RNeasy mini kit (#74106)を用いてRNA抽出を行い、TOYOBO社ReverTra-plus-(#PCR501)を用いてcDNA合成を行った。
プライマー:ランダムプライマー
反応スケール:20μL
反応条件:42℃20分×1、99℃5分×1
作成したcDNAをTOYOBO社THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix (#QPS201)を用いて、ABI Step OnePlusを使って定量的PCRを行った。
反応スケール:20μL
反応条件:(95℃3秒、62℃30秒)×40
結果を図7に示す。図7は、EP300の欠損を持っているiPS細胞が100%の群の値を100%とした際の比較値で表している。
qPCRに用いたプライマーの配列を下記表に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
少なくとも0.1%程度のスパイク率(混入率)であっても変異細胞を検出できることがわかった。
【0063】
実施例5
実施例1とは異なるiPS細胞のマスターセルバンクを継代し、EP300変異細胞の混入率を推定した。定量的PCRは実施例4と同じ方法で行った。
結果を下記表5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
EP300変異細胞の分裂速度が正常細胞よりも速く、拡大培養によって変異細胞の占める割合が高くなった。しかし、実施例1の方法に従えば早期に変異細胞を除去することができ、汚染を防ぐことができる。なお、実施例1の方法はEP300の変異細胞除去に限定されず、他の遺伝子が変異した細胞の除去にも応用できる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
ある程度の細胞数から培養するので限界希釈法と比較して、ある程度の細胞集団を得られるので培養時間が短縮でき、かつ混入率が低くても変異細胞を検出することができ、効率よく変異細胞を除去することができる。iPS細胞の拡大培養前に本方法を実施することにより、拡大培養前に検知することが困難な変異細胞を早期に発見、除去することができ、拡大培養後に変異細胞によって汚染されることを防ぐことができる。
【要約】
【課題】本発明は、拡大培養前にわずかな変異細胞が混入していた場合であっても、それらを検出、除去することで正常細胞を精製し、純化した細胞集団を得ることを可能とする方法を提供することを目的とする。
【解決手段】混入率1%以下で変異細胞を含有する細胞集団から正常細胞を純化する方法であって、以下の工程を含む方法:工程1:該細胞集団を分画して培養する工程、工程2:培養した各分画において変異細胞を検出する工程、及び工程3:変異細胞が検出されなかった分画の細胞を培養する工程。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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