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特許7523843リチウム二次電池用の正極およびリチウム二次電池
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  • 特許-リチウム二次電池用の正極およびリチウム二次電池 図1
  • 特許-リチウム二次電池用の正極およびリチウム二次電池 図2
  • 特許-リチウム二次電池用の正極およびリチウム二次電池 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用の正極およびリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240722BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240722BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240722BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240722BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240722BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M4/36 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022554231
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-24
(86)【国際出願番号】 KR2021016158
(87)【国際公開番号】W WO2022103104
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】10-2020-0152863
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】キョン・ミン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ブム・ヨン・ジュン
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-035589(JP,A)
【文献】特開2017-063027(JP,A)
【文献】特開2015-015156(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163114(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/044609(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/220991(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体上に位置する安全性機能層、および前記安全性機能層上に位置する正極合剤層を含み、
前記安全性機能層は、正極集電体と接する第1安全性機能層、および前記第1安全性機能層上に位置する第2安全性機能層とを含む2層以上の多層構造であり、
前記第2安全性機能層は、前記第1安全性機能層の組成と前記正極合剤層の組成とが混合した組成を有し、
前記第1安全性機能層の中に含まれるバインダーは、前記第1安全性機能層の総重量を基準にして、5重量%~30重量%で含まれ
前記第1安全性機能層は第1正極活物質を含み、前記正極合剤層は前記第1正極活物質とは異なる種類の第2正極活物質を含み、
前記第2安全性機能層は、前記第1正極活物質、前記第2正極活物質およびバインダーを含む、リチウム二次電池用の正極。
【請求項2】
前記第1正極活物質は、下記化学式1で表されるオリビン構造のリン酸鉄リチウム化合物であり、
[化学式1]
Li1+aFe1-x(PO4-b)X
前記化学式1において、MはAl、Mg及びTiの中から選択された1種以上であり、XはF、S及びNの中から選択された1種以上であり、-0.5≦a≦+0.5、0≦x≦0.5、0≦b≦0.1である、請求項に記載のリチウム二次電池用の正極。
【請求項3】
前記第2正極活物質は、下記化学式2で表されるリチウム遷移金属酸化物であり、
[化学式2]
LiNi1-x-yCoMnMzO
前記化学式2において、Mは、Al、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo及びCrからなる群から選択された1種以上であり、0.9≦a≦1.5、0≦x≦1、0≦y≦0.5、0≦z≦0.1、0≦x+y≦1である、請求項またはに記載のリチウム二次電池用の正極。
【請求項4】
前記第2安全性機能層には、前記第1正極活物質と前記第2正極活物質が85:15~25:75の重量比で含まれる、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用の正極。
【請求項5】
前記正極集電体と前記第1安全性機能層との間の接着力Aは、前記第1安全性機能層と前記第2安全性機能層との間の接着力Bより大きい、請求項1からのいずれか一項に記載のリチウム二次電池用の正極。
【請求項6】
前記接着力Bが、前記第2安全性機能層と前記正極合剤層との間の接着力C以上である、請求項に記載のリチウム二次電池用の正極。
【請求項7】
前記安全性機能層の各層に含まれるバインダーの重量比は、前記正極集電体から遠くなるにつれて減少する、請求項1からのいずれか一項に記載のリチウム二次電池用の正極。
【請求項8】
前記第2安全性機能層の中に含まれるバインダーは、第2安全性機能層の総重量を基準にして、0.5重量%~10重量%で含まれる、請求項に記載のリチウム二次電池用の正極。
【請求項9】
前記安全性機能層の総厚さは、1~20μmである、請求項1からのいずれか一項に記載のリチウム二次電池用の正極。
【請求項10】
前記安全性機能層の各層の厚さは7μm以下である、請求項1からのいずれか一項に記載のリチウム二次電池用の正極。
【請求項11】
前記第1正極活物質の平均粒径(D50)が4μm以下であり、前記第2正極活物質の平均粒径(D50)より小さい、請求項からのいずれか一項に記載のリチウム二次電池用の正極。
【請求項12】
前記第1正極活物質の平均粒径(D50)が0.1μm~3μmである、請求項11に記載のリチウム二次電池用の正極。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用の正極と、分離膜と、負極とを含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年11月16日付の韓国特許出願第10-2020-0152863号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、リチウム二次電池用の正極およびリチウム二次電池に関するものであって、具体的には、電池の寿命特性を低下させることなく安全性が向上されたリチウム二次電池用の正極およびリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に対する技術開発と需要が増加するにつれて、エネルギー源としての二次電池に対する需要が急激に増している。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度と作動電位を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率の低いリチウム二次電池が商用化されて広く使用されている。
【0004】
近年、電気自動車などの中大型デバイスの電源としてリチウム二次電池が利用されるにつれて、リチウム二次電池の高容量、高いエネルギー密度、低コスト化が求められている。これにより、高価のCoを代替して低価格のNi、Mn、Feなどを使用するための研究が盛んに行われている。
【0005】
このようなリチウム二次電池の主な研究課題のうちの一つは、高容量、高出力の電極活物質を具現しながらも、それを用いた電池の安全性を向上させることにある。リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられており、その中でも作動電圧が高く容量特性に優れたLiCoOのリチウムコバルト複合金属酸化物が主として用いられている。しかし、LiCoOは、脱リチウムによる結晶構造の不安定化に起因して熱的特性が非常に劣り、また高価であるので、電気自動車などのような分野の動力源としての大量使用には限界がある。
【0006】
LiCoOを代替するための材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnOやLiMn等)、リン酸鉄リチウム化合物(LiFePO等)やリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiO等)等が開発された。この中でも約200mAh/gの高い可逆容量を有し、大容量の電池具現が容易なリチウムニッケル複合金属酸化物に対する研究および開発がより活発化している。しかし、LiNiOはLiCoOと比較して熱安定性が悪く、充電状態において外部からの圧力などに起因して内部短絡が生じると、正極活物質そのものが分解されて電池の破裂及び発火をもたらすという問題がある。
【0007】
これにより、LiNiOの優れた可逆容量は維持しながらも低い熱安定性を改善するための方法として、ニッケル(Ni)の一部をコバルト(Co)やマンガン(Mn)に置換する方法が提案された。しかし、ニッケルの一部をコバルトに置換したLiNi1-αCoα(α=0.1~0.3)の場合、優れた充放電特性と寿命特性を示すが、熱的安定性が低いという問題がある。また、Niの一部を熱的安定性に優れたMnに置換したニッケルマンガン系リチウム複合金属酸化物及びMnとCoに置換したニッケルコバルトマンガン系リチウム複合金属酸化物(以下、単に「NCM系リチウム酸化物」という)の場合、相対的にサイクル特性および熱的安定性に優れるというメリットがあるが、貫通抵抗が低くて、釘のような金属体が浸透した時に内部短絡にならない。そのため、瞬間的な過電流による発火または爆発などの安全性の側面で深刻な問題をもたらし得る。
【0008】
特許文献1は、正極集電体と正極活物質層との間に過充電防止層を介在して過充電時の抵抗を増加させて充電電流を遮断することで、電池の安全性を確保する技術を開示している。
【0009】
しかし、上記のように過充電防止層を介在する先行文献は、過充電防止層を備えた電極は安全性が向上されるが、過充電防止層と正極活物質層の組成の違いによる層間クラックが発生し得るので、電池の寿命特性が不良となるデメリットがあった。また、上記特許文献は貫通抵抗が低くて、針状体による浸透時に安全性の側面においての問題をもたらし得る。
【0010】
したがって、安全性を向上させながらも寿命特性の低下が発生せず、外部から釘のような金属体が電極を貫通する場合の貫通抵抗を増加させた二次電池用の正極に対する技術開発が必要であるのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】韓国公開特許2019-0047203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、高容量、高出力の性能、優れたサイクル特性および熱的安定性を有しながらも、外部から釘のような金属体が電極を貫通する場合の貫通抵抗を増加させた二次電池用の正極およびそれを含むリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るリチウム二次電池用の正極は、正極集電体上に配置される安全性機能層、および上記安全性機能層上に配置される正極合剤層を含み、
上記安全性機能層は、正極集電体と接する第1安全性機能層および上記第1安全性機能層上に配置された第2安全性機能層を含む2層以上の多層構造であり、
上記第2安全性機能層は、上記第1安全性機能層の組成と上記正極合剤層の組成が混合されたことを特徴とする。
【0014】
本発明の一実施形態において、上記第1安全性機能層は、第1正極活物質を含み、上記正極合剤層は上記第1正極活物質とは異なる種類の第2正極活物質を含む。
【0015】
本発明の一実施形態において、上記第1正極活物質は、下記化学式1で表されるオリビン構造のリン酸鉄リチウム化合物である。
[化学式1]
Li1+aFe1-x(PO4-b)X
上記式において、MはAl、Mg及びTiの中から選択された1種以上であり、XはF、S及びNの中から選択された1種以上であり、-0.5≦a≦+0.5、0≦x≦0.5、0≦b≦0.1である。
【0016】
本発明の一実施形態において、上記第2正極活物質は、下記化学式2で表されるリチウム遷移金属酸化物である。
[化学式2]
LiNi1-x-yCoMn
上記式において、Mは、Al、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、MoおよびCrからなる群から選択される何れか一つ以上の元素であり、0.9≦a≦1.5、0≦x≦1、0≦y≦0.5、0≦z≦0.1、0≦x+y≦1である。
【0017】
本発明の一実施形態において、上記第2安全性機能層は、上記第1正極活物質、上記第2正極活物質およびバインダーを含む。
【0018】
本発明の一実施形態において、上記第2安全性機能層は、上記第1正極活物質と第2正極活物質が85:15~25:75の重量比で含まれる。
【0019】
本発明の一実施形態において、上記正極集電体と第1安全性機能層との間の接着力Aは、第1安全性機能層と第2安全性機能層との間の接着力Bより大きい。
【0020】
本発明の一実施形態において、上記接着力Bは、第2安全性機能層と正極合剤層との間の接着力Cより大きいか、同一(以上)である。
【0021】
本発明の一実施形態において、上記第1安全性機能層の中に含まれるバインダーは、第1安全性機能層の総重量を基準にして、5重量%から30重量%で含まれる。
【0022】
本発明の一実施形態において、各層に含まれるバインダーの重量%は、集電体から遠くなるほど減少する。
【0023】
本発明の一実施形態において、上記第2安全性機能層の中に含まれるバインダーは、第2安全性機能層の総重量を基準にして、0.5重量%~10重量%で含まれる。
【0024】
本発明の一実施形態において、上記安全性機能層の総厚さは1~20μmである。
【0025】
本発明の一実施形態において、1つの安全性機能層の厚さは7μm以下である。
【0026】
本発明の一実施形態において、上記第1正極活物質は、その平均粒径(D50)が4μm以下であり、上記第2正極活物質の平均粒径(D50)より小さい。
【0027】
本発明の一実施形態において、上記第1正極活物質は、その平均粒径(D50)が0.1μm~3μmである。
【0028】
本発明のリチウム二次電池は、上述した正極、分離膜および負極を含む。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るリチウム二次電池用の正極及びそれを含むリチウム二次電池は、安全性機能層を多層で構成する。そして、集電体に最も近い第1安全性機能層と正極合剤層との間に配置された第2安全性機能層が、第1安全性機能層の組成と正極合剤層の組成とを混合して、第1安全性機能層から正極合剤層に至るまでのその組成が徐々に変化する。そのため、安全性機能層と正極合剤層との界面クラックを緩和し、電池の寿命特性を向上させるという効果を有する。
【0030】
また、正極集電体に隣接する安全性機能層の延伸率を減少させることで、外部から釘のような金属体が電極を貫通する場合の貫通抵抗を増加させることができる。これにより、過電流を抑制して過電流に起因する電池の発火または爆発を防止し得る、安全性が改善された二次電池用の正極およびそれを含む二次電池を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】従来技術に係る正極の断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る正極の断面図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る正極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について詳細に説明する。その前に、本明細書および特許請求の範囲で使用された用語または単語は、通常的または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者が彼自身の発明を最良の方法で説明するために用語の概念を適切に定義し得るという原則に立脚して、本発明の技術的思想に合致する意味と概念として解釈されるべきである。
【0033】
本出願において、「含む」または「有する」などの用語は、本明細書に記載された特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や数字、ステップ、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないものとして理解されるべきである。また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」あるとする場合、これは他の部分の「真上に」ある場合のみならず、その中間に別の部分がある場合も含む。逆に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「下に」あるとする場合、これは他の部分の「真下に」ある場合のみならず、その中間に別の部分がある場合も含む。また、本出願において「上に」配置されるということは、上部のみならず下部に配置される場合も含むものであり得る。
【0034】
図1は、従来の安全性機能層を含む正極の断面図である。図1を参照すると、従来の安全性機能層を含む正極10は、正極集電体11と正極合剤層13との間に安全性機能層12が介在されている。上記安全性機能層12は、正極10が針状導体によって貫通されたとき、針状導体が集電体と直接接触することを防止するか、針状導体と集電体の間の接触面積が減少により短絡電流を減少させて電池の安全性を向上させることができる。しかし、このような正極は、充放電によって安全性機能層と正極合剤層との体積差が発生し、それが界面のクラック発生につながり電池の寿命特性が低下されるという問題があった。
【0035】
そこで、本発明は、安全性機能層と正極合剤層と間の界面クラックに起因する寿命特性の低下無しに電池の安全性を向上させる正極を提供することを目的とする。
【0036】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0037】
図2は、本発明の一実施形態に係る正極の断面図である。図2を参照すると、本発明のリチウム二次電池用の正極100は、正極集電体110と接する安全性機能層120、および上記安全性機能層120の上に配置される正極合剤層130を含み、上記安全性機能層120は、集電体と接する第1安全性機能層121および上記第1安全性機能層上に配置された第2安全性機能層122を含む2層の多層構造である。また、上記第2安全性機能層は、上記第1安全性機能層の組成と上記正極合剤層の組成とが混合された組成を有する。
【0038】
ここで、「上記第1安全性機能層の組成と上記正極合剤層の組成とが混合された組成」とは、第1安全性機能層の中に含まれる正極活物質と、正極合剤層の中に含まれる正極活物質との両方を含むものであり得る。また、第1安全性機能層の中に含まれる正極活物質及びバインダーと、正極合剤層の中に含まれる正極活物質及びバインダーとの両方を含むものであり、第1安全性機能層や正極合剤層が導電材やその他の添加剤をさらに含んでいる場合には、これらをすべて含むものであり得る。
【0039】
本発明の一実施形態に係る正極の安全性機能層120は、2層の構造であり得る。正極集電体110と接する第1安全性機能層121と正極合剤層130との間に、第2安全性機能層122が介在されており、第2安全性機能層の組成を第1安全性機能層121の組成と正極合層130の組成とを混合(ブレンディング、Blending)して構成することで、第2安全性機能層が、第1安全性機能層と正極合剤層との間の差を緩衝する機能をする。これにより、充放電の繰り返しによる、層間のクラックの発生を抑制することができ、電池の寿命特性が低下されないという効果がある。
【0040】
本発明の一実施形態において、上記第1安全性機能層は第1正極活物質を含み、上記正極合剤層は上記第1正極活物質とは相違する種類の第2正極活物質を含む。したがって、これらの間に配置されて、充放電時にこれらの層の体積の差を緩衝する機能をする第2安全性機能層は、正極活物質であって、上記第1正極活物質と、上記第2正極活物質との両方を含む。
【0041】
本発明の一実施形態において、上記第1正極活物質は、下記化学式1で表されるオリビン構造のリン酸鉄リチウム化合物である。
[化学式1]
Li1+aFe1-x(PO4-b)X
上記式において、MはAl、Mg及びTiの中から選択された1種以上であり、XはF、S及びNの中から選択された1種以上であり、-0.5≦a≦+0.5、0≦x≦0.5、0≦b≦0.1である。
【0042】
上記オリビン構造の正極活物質は、約4.5Vの過充電電圧以上において安全性機能層内のリチウムが抜け出しながら体積が収縮する特性を有している。そのため、安全性機能層の中に含まれる第1正極活物質として上記リン酸鉄リチウム化合物を選択することで、安全性機能層の導電パス(Path)を速やかに遮断させて安全性機能層が絶縁層として作用して抵抗が増加することになり、充電電流が遮断されて過充電終了電圧に到達させるという効果がある。したがって、本発明において、上記第1正極活物質として上記オリビン構造の正極活物質を選択することで、安全性向上の観点から相乗効果を発揮し得ることになる。
【0043】
このように、第1正極活物質として、上記オリビン構造の正極活物質を選択する場合、本発明の安全性機能層は、電池が正常に動作するときには一般的な正極活物質層のように作動し、過充電状態あるいは外部の針状導体による貫通時に抵抗上昇による過充電防止あるいは針状導体との接触を防止し、究極的に安全性を向上させるという役割をする。
【0044】
本発明の一実施形態において、上記第1安全性機能層は、第1安全性機能層の総重量を基準として、上記第1正極初物質を50重量%~99重量%で含み得る。
【0045】
一方、上記正極合剤層の中に含まれる第2正極活物質は、高い可逆容量を有し、大容量の電池の具現が容易なリチウムニッケル複合金属酸化物を含み得る。このような第2正極活物質の具体例としては、下記化学式2で表されるリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
[化学式2]
LiNi1-x-yCoMn
上記式において、Mは、Al、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、MoおよびCrからなる群から選択される何れか一つ以上の元素であり、0.9≦a≦1.5、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.1、0≦x+y≦1である。
【0046】
ただし、上記第2正極活物質が化学式2で表されるリチウム遷移金属酸化物に必ずしも限定されるものではなく、上記第2正極活物質は、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)等の層状化合物や、1種以上の遷移金属に置換された化合物、化学式Li1+x1Mn2-x1(ここで、x1は0~0.33である)、LiMnO、LiMn、LiMnOなどのリチウムマンガン酸化物、リチウム銅酸化物(LiCuO)、LiV、LiVOO、V、Cuなどの酸化バナジウム、化学式LiNi1-x (ここで、M=Co,Mn、Al、Cu、Fe、Mg、BまたはGaであり、x=0.01~0.3である)で表されるNiサイト型リチウムニッケル酸化物、化学式LiMn2-x3 x3(ここで、M=Co、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTaであり、x=0.01~0.1である)またはLiMn(ここで、M=Fe、Co、Ni、CuまたはZnである)で表されるリチウムマンガン複合酸化物、LiNix4Mn2-x4(ここで、x=0.01~1である)で表されるスピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物、下記式のLiの一部がアルカリ土類金属イオンに置換されたLiMn4、ジスルフィド化合物、Fe(MoOなどを含み得る。
【0047】
上記第2安全性機能層は、上記第1正極活物質、上記第2正極活物質およびバインダーを含む。上述したように、本発明の第2安全性機能層は、第1安全性機能層と正極合剤層との界面でのクラックの発生を緩和する機能を果たす。そのため、第2安全性機能層は正極活物質として、第1安全性機能層の正極活物質と正極合剤層の正極活物質との両方を含むものである。
【0048】
このとき、第2安全性機能層は、上記第1正極活物質と第2正極活物質とが85:15~25:75の重量比で含まれる。好ましくは80:20~30:70の重量比で含まれる。界面クラックの発生緩和および過充電防止の観点から、第2安全性機能層の中に含まれる第1正極活物質と第2正極活物質との混合割合が上記数値の範囲にあることが好ましい。
【0049】
一方、図2は、安全性機能層が2層で構成されている実施形態を図示したが、本発明の実施形態がこれに限定されるものではなく、図3に図示された実施形態のように、安全性機能層を3層で構成することができ、4つ以上の層で構成することもできる。
【0050】
このような場合、第1安全性機能層を除いた残りの安全性機能層の組成は、正極合剤層に近いほど徐々に正極合剤層の組成と類似になる傾向を有し、正極集電体に近いほど徐々に第1安全性機能層の組成と類似になる傾向を有する。かりに、安全性機能層が図3のように3つの層で構成されて、正極集電体210、第1安全性機能層221、第2安全性機能層222、第3安全性機能層223および正極合剤層230が順次に積層された構造の正極であれば、安全性機能層の中に含まれる第1正極活物質の重量%は、正極合剤層に近いほど徐々に減少し、逆に、第2正極活物質の重量%は正極合剤層に近づくにつれて徐々に増加する。
【0051】
また、本発明の正極における、正極集電体と第1安全性機能層との間の接着力Aは、第1安全性機能層と第2安全性機能層との間の接着力Bより大きい。これにより、針状導体による貫通時に、第1安全性機能層が正極集電体から剥離されずに正極集電体に付着されているので、針状導体が正極集電体と直接接触することを防止または抑制して電池の安全性を向上させるという効果がある。
【0052】
本発明の一実施形態において、第1安全性機能層と第2安全性機能層との間の接着力Bは、第2安全性機能層と正極合剤層との間の接着力Cより大きいか、同一(以上)である。
【0053】
これは、外部から釘のような金属体が正極を貫通したとき、金属体と正極集電体の接触面積を極力減少させるためである。すなわち、金属体が正極を貫通する際に、正極に外力が加わる。これは、正極集電体と第1安全性機能層との間、第1安全性機能層と第2安全性機能層との間、第2安全性機能層と正極合剤層との間のそれぞれに隙間を発生させることができる。上記接着力Aが上記接着力B及び接着力Cより相対的に大きいと、第1安全性機能層が第2安全性機能層から脱離されても、第1安全性機能層が依然として正極集電体と付着されているので、金属体が正極集電体と直接接触しにくいものである。また、接着力Bが接着力Cより相対的に大きいと、第2安全性機能層が正極合剤層から脱離されても、第2安全性機能層は第1安全性機能層に依然として付着して第1安全性機能層を金属体の外力が直接加わることから保護し得るので、金属体の外力によって第1安全性機能層が正極集電体から脱離しようとする傾向をさらに抑制することができるようになる。
【0054】
そして、このように各層の間の接着力の大きさをA>B≧Cとなるように制御するためには、第1安全性機能層、第2安全性機能層及び正極合剤層のそれぞれに含まれる各バインダーの含有量を調節することで、達成し得る。
【0055】
これにより、本発明の一実施形態に係る正極は、各層に含まれるバインダーの重量%が集電体から遠くなるにつれて減少する。ここで、「重量%」とは、一つの層の総重量において、バインダーの重量が占める割合を意味する。かりに、第1安全性機能層の総重量に対して第1安全性機能層に含まれたバインダーの重量%をa、第2安全性機能層の総重量に対して第2安全性機能層に含まれたバインダーの重量%をb、正極合剤層の総重量に対して正極合剤層に含まれたバインダーの重量%をcと定義するとき、a、b、cの関係はa>b>cとなる。
【0056】
一方、第1安全性機能層の中に含まれるバインダーは、第1安全性機能層の総重量を基準にして、5重量%~30重量%、好ましくは7~25重量%、さらに好ましくは8~20重量%で含まれる。もし、第1安全性機能層の中に含まれるバインダーが5重量%未満の場合には、針状導体による貫通時に、第1安全性機能層が針状導体と集電体との直接接触を防止する効果が微々たるので、短絡の恐れがある。逆に、第1安全性機能層の中に含まれるバインダーが30重量%を超えると、必要以上にバインダーの含量が高くなる結果、第2安全性機能層と、正極合剤層とのバランスが崩れることになり、好ましくない。
【0057】
さらに、第2安全性機能層の中に含まれるバインダーは、第2安全性機能層の総重量を基準として0.5重量%~10重量%であり得る。第2安全性機能層は、第1安全性機能層と正極合剤層との差を緩衝する役割を果たすので、バインダーの重量%は、正極合剤層に含まれるバインダーの重量%と類似なレベルであるか、それより若干高いレベルであり得る。
【0058】
本発明の一実施形態において、上記集電体と第1安全性機能層との間の接着力Aは、100N/m~500N/mであり得る。好ましくは150N/m~300N/mであり、より好ましくは200N/m~300N/mである。
【0059】
上記第1安全性機能層と第2安全性機能層との間の接着力Bは、20N/m~150N/mであり得る。好ましくは、20N/m~100N/mであり、さらに好ましくは40N/m~100N/mである。
【0060】
上記第2安全性機能層と上記正極合剤層との間の接着力Cは、10N/m~40N/mあり得る。好ましくは15N/m~35N/mであり、さらに好ましくは20N/m~35N/mである。
【0061】
本発明の安全性機能層及び正極合剤層はバインダーを含み、上記バインダーは正極活物質粒子間の付着及び正極活物質と正極集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF‐co‐HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体などが挙げられ、これらのうちの1種単独または2種以上の混合物が使用され得る。
【0062】
本発明の一実施形態において、上記安全性機能層に含まれるバインダーと、正極合剤層に含まれるバインダーとは、同じ性質のバインダーであり得る。例えば、安全性機能層に含まれるバインダーが親水性バインダーであれば、正極合剤層に含まれるバインダーも親水性バインダーであり得る。逆に、安全性機能層に含まれるバインダーが親油性バインダーであれば、正極合剤層に含まれるバインダーも親油性バインダーであり得る。
【0063】
本発明の一実施形態において、上記安全性機能層の総厚さは1~20μm、好ましくは2~15μm、最も好ましくは3~15μmであり得る。ここで、安全性機能層とは、正極集電体と正極合剤層との間に介在された多層の安全性機能層を意味するものである。
【0064】
本発明の一実施形態において、上記安全性機能層を構成する各層の厚さは7μm以下であり得る。好ましくは5μm以下であり、より好ましくは1μm~5μmであり得る。1つの安全性機能層の厚さが厚すぎると、結局に安全性機能層の総厚が過渡に熱くなり得るので、好ましくない。
【0065】
本発明の一実施形態において、第1安全性機能層に含まれる第1正極活物質は、その平均粒径(D50)が4μm以下であり、上記第2正極活物質の平均粒径(D50)より小さい。具体的には、上記第1正極活物質の平均粒径D50は、上記第2正極活物質の平均粒径D50の10~80%であり得る。
【0066】
すなわち、本発明の一実施形態によると、第1安全性機能層に相対的に平均粒径D50の小さい正極活物質が含まれるように構成して、第1安全性機能層の延伸率を減少させる。そして、第1安全性機能層の減少された延伸率のよって、それに隣接した正極集電体を針状導体が貫通する状況において、正極集電体が針状伝導体に沿って延伸されずに破断されて、貫通安全性がさらに向上される。
【0067】
本発明において、平均粒径D50は、粒径分布曲線における体積累積量の50%に該当する粒径として定義し得る。上記平均粒径D50は、例えば、レーザー回折法(laser diffraction method)を用いて測定し得る。例えば、上記正極活物質の平均粒径(D50)の測定方法は、正極活物質の粒子を分散媒の中で分散させた後、市販のレーザー回折粒度測定装置(例えば、Microtrac MT3000)に導入して約28kHzの超音波を出力60Wで照射した後、測定装置における体積累積量の50%に該当する平均粒径D50を算出し得る。
【0068】
具体的には、上記第1正極活物質の平均粒径D50は4μm以下であり得る。よりさらに好ましくは、上記第1正極活物質の平均粒径(D50)は、0.1μm~3μm、さらに好ましくは0.1~2μmであり得る。上記第1正極活物質の平均粒径(D50)が0.1μm未満の場合、電極副反応が発生するか、または電極製造過程上に分散性が容易でないという問題があり得る。また、4μmを超える場合、正極集電体との接着力が減少し、第1安全性機能層の延伸率が増加して、安全性改善の効果が微々たり得る
【0069】
上記第2正極活物質は、上記第1正極活物質よりも平均粒径(D50)が相対的に大きい大粒径粒子であり得る。
【0070】
具体的には、上記第2正極活物質の平均粒径(D50)は3μm以上であり得る。よりさらに好ましくは、上記第2正極活物質の平均粒径(D50)は、3~30μm、さらに好ましくは3~20μmであり得る。第2正極活物質の平均粒径(D50)が3μm未満の場合、電極作製工程時の圧延過程における工程上の困難さがあり得る。
【0071】
また、上記第1正極活物質の比表面積は、3m/g以上であり得る。好ましくは5m/g~25m/gであり、さらに好ましくは7m/g~20m/gである。比表面積が2m/g未満であると、第1安全性機能層および第2安全性機能層の延伸率が増加し得るので、好ましい。
【0072】
本発明において、比表面積はBET法により測定したものであって、具体的にはBELJapan社のBELSORP-minoIIを用いて液体窒素温度下77Kでの窒素ガス吸着量から算出され得る。
【0073】
本発明の一実施形態に係る第1安全性機能層の空隙率は、20%~40%でありえる。正極合剤層の空隙率は、第1安全性機能層の空隙率より小さい範囲で、15~35%であり得る。第1安全性機能層の空隙率を大きく制御して高電圧で小粒子表面のガス酸化量を増加させることができ、これにより、第1安全性機能層の抵抗を増加させて過電流の生成を防止により、安全性の改善を図ることができる。
【0074】
上記空隙率は、SEM分析で測定することができる。電極の厚さ方向の空隙分布を定量化する方法として、分析前の電極をエポキシで充填した後、真空で乾燥させて分析試料を用意し、平面視で同じ間隔を有するように9等分し、9等分された直線に沿って電極活物質層の試料を厚さ方向にイオンミリング(ion miling)で切った後、断面をSEM(10kV)イメージで撮影し、このような各断面のSEMイメージから、全断面の面積に対する空隙の面積割合を算出した後、9個の空隙面積の割合の平均値を電極活物質層の空隙率値として求めることができる。
【0075】
本発明の一実施形態に係る正極は、第1安全性機能層と正極合剤層との延伸率の差が0.1~1.0%であり得る。より好ましくは0.2~0.7%であり得る。本発明における延伸率は、UTM装置を用いて測定した値であり、第1安全性機能層または正極合剤層を装着した後、約5mm/minの速度で延伸させるとき、既存の正極合剤層の長さと比べて正極合剤層が最大に延伸されるまでの長さの変化を通じて延伸率を測定した。
【0076】
このように下層部の第1安全性機能層の延伸率の減少は極大化させ、かつ比表面積の小さい大粒径の正極活物質として正極合剤層を形成することで、電極下層部と上層部の延伸率の差を極大化させ、貫通抵抗を増加させながらも寿命特性などのセル性能を向上させることができる。
【0077】
具体的には、上記第1安全性機能層の延伸率は0.2~1.2%であり得る。より好ましくは0.2~0.5%であり得る。上記正極集電体に隣接する第1安全性機能層の延伸率が上記範囲を充たすことで、外部から金属体が電極を貫通する場合の貫通抵抗を著しく増加させることができ、貫通抵抗の増加による過電流生成の防止により、安全性の改善を図ることができる。
【0078】
また、上記正極合剤層の延伸率は0.6~2.0%であり、より好ましくは0.6~0.9%であり得る。電極上層部に位置する正極合剤層の延伸率が上記範囲を満たすことにより、正極全体の延伸率を一定レベル以上に維持することができ、電極作製工程時に圧延過程で破断が発生する問題を防止することができる。
【0079】
また、このようにして製造された上記正極の全体延伸率は1.4%未満であり得る。上記第1安全性機能層及び正極合剤層に含まれる正極活物質の平均粒径(D50)を上述したように異なるようにし、各層の空隙率を制御することで、第1安全性機能層及び正極合剤層の延伸率の差を0.1~1.0%、より好ましくは0.2~0.7%とすることができ、さらに、正極全体延伸率は1.4%未満とすることができる。
【0080】
本発明の一実施形態において、上記安全性機能層および正極合剤層のうちの少なくとも1つ以上は導電材を追加でさらに含む。上記導電材は、電池に化学的変化を誘発せずに導電性を有するものであれば、特に限定されるものではない。例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などを用いることができる。上記導電材は、正極合剤層の総重量に対して1重量%~30重量%で含まれ得る。
【0081】
本発明において、上記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発せずに導電性を有するものであれば、特に限定されない。例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレススチール表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用され得る。また、上記正極集電体は、通常、3~500μmの厚さを有し得る。さらに、上記正極集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態で使用され得る。
【0082】
また、本発明は、上記正極を含む電気化学素子を提供する。上記電気化学素子は、具体的には、電池、キャパシタなどであり得る。より具体的にはリチウム二次電池であり得る。
【0083】
上記リチウム二次電池は、具体的には、正極、上記正極と対向して位置する負極、上記正極と上記負極との間に介在される分離膜および電解質を含み、上記正極は上述した通りである。また、上記リチウム二次電池は、上記正極、負極、分離膜の電極組立体を収容する電池ケース、及び電池ケースを密封する密封部材を選択的にさらに含み得る。
【0084】
上記リチウム二次電池において、上記負極は、負極集電体および上記負極集電体上に位置する負極合剤層を含む。
【0085】
上記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発せずに高い導電性を有するものであれば、特に制限されない。例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが使用され得る。また、上記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有し得る。さらに、正極集電体と同様に、上記負極集電体の表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態で使用され得る。
【0086】
上記負極合剤層は、負極活物質とともにバインダーおよび導電材を含む。上記負極合剤層は、一例として、負極集電体上に負極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を含む負極合剤層の形成用の組成物を塗布して乾燥するか、または上記負極合剤層の形成用び組成物を別途の支持体上にキャスティングした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで、製造されることもできる。
【0087】
上記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーション及びデインターカレーションが可能な化合物が使用され得る。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料、Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金などのリチウムと合金化が可能な金属質化合物、SiO(0<x<2)、SnO、酸化バナジウム、リチウム酸化バナジウムのようにリチウムをドープおよび脱ドープし得る金属酸化物、またはSi‐C複合体またはSn‐C複合体のように上記金属質化合物と炭素質材料を含む複合体などが挙げられる。これらのうちのいずれか1つまたは2つ以上の混合物が使用され得る。また、上記負極活物質として金属リチウム薄膜が使用されることもある。また、炭素材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素などのすべてが使用され得る。低結晶性炭素としては、軟質炭素(soft carbon)と硬質炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては無定形、板状、鱗片状、球状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛( Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(mesocarbon microbeads)、液晶ピッチ(mesophase pitches)および石油または石炭系コークス(petroleum orcoal tarpitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0088】
また、上記バインダー及び導電材は、上述の正極で説明したものと同じものであり得る。
【0089】
一方、上記リチウム二次電池において、分離膜は負極と正極を分離してリチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常、リチウム二次電池において分離膜として使用されるものであれば、特に制限なく使用可能である。特に、電解質のイオン移動に低抵抗でありながら電解液含湿能力に優れるものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体及びエチレン/メタクリレート共重合体等のようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用され得る。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点ガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が使用されることもあり得る。また、耐熱性または機械的強度を確保するために、セラミック成分または高分子物質が含まれてコーティングされた分離膜が使用されることもあり、選択的に単層または多層構造で使用され得る。
【0090】
また、本発明で使用される電解質としては、リチウム二次電池製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0091】
具体的には、電解質は有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0092】
上記有機溶媒としては、電池の電気化学反応に関与するイオンが移動し得る媒体としての役割を果たし得るものであれば、特に制限なく使用され得る。具体的には、上記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ‐ブチロラクトン(γ‐butyrolactone)、ε‐カプロラクトン(ε‐caprolactone)等のエステル系溶媒、ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒、シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒、ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒、ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethlene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)等のカーボネート系溶媒、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、R‐CN(Rは、C~C20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含み得る)などのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、1、3‐ジオキソランなどのジオキソラン類、または、スルホラン(sulfolane)類などが使用され得る。この中でもカーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の線状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは約1:1~9の体積比で混合して使用することが、優れた電解液の性能を示し得る。
【0093】
上記リチウム塩は、リチウム二次電池で使用されるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特に制限なく使用することができる。具体的には、リチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが使用され得る。上記リチウム塩の濃度は、0.1M~2.0Mの範囲内に使用するのがよい。リチウム塩の濃度が上記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度および粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動し得る。
【0094】
上記電解質には、上記電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池の容量減少の抑制、電池の放電容量の向上等を目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネート等のようなハロアルキレンカーボネート系化合物、またはピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グリム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N、N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が、さらに1種以上含まれることもあり得る。この場合、上記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1重量%~5重量%で含まれ得る。
【0095】
上記のように本発明に係る正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性及び容量維持率を安定的に示すため、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ等の携帯機器、及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などに有用である。
【0096】
これにより、本発明の他の実施形態によるば、上記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびそれを含む電池パックが提供される。
【0097】
上記電池モジュールまたは電池パックはパワーツール(Power Tool)、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug‐in hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気自動車、または電力貯蔵の用システムのうちの何れか1つ以上の中大型デバイスの電源として利用され得る。
【0098】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施し得るように本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は多様な異なる形態で具現され得るので、ここで説明する実施例に限定されない。
【0099】
実施例1
<第1安全性機能層用のスラリーの製造>
平均粒径(D50)が1μm、BET比表面積が15m/gであるLiFePO正極活物質88重量部、導電材としてカーボンブラックを2重量部、バインダーとしてPVDF10重量部を、N‐メチルピロリドン(NMP)溶媒中で混合して第1安全性機能層用のスラリーを製造した。
【0100】
<正極合剤層用のスラリーの製造>
平均粒径(D50)が4μmで、BET比表面積が0.7m/gであるLiNi0.8Co0.1Mn0.1正極活物質96重量部、導電材としてカーボンブラックを2重量部、バインダーとしてPVDF2重量部を、N‐メチルピロリドン(NMP)溶媒中で混合して正極合剤層用のスラリーを製造した。
【0101】
<第2安全性機能層用のスラリーの製造>
平均粒径(D50)が1μm、BET比表面積が15m/gであるLiFePO正極活物質70重量部、平均粒径(D50)が4μmで、BET比表面積が0.7m/gであるLiNi0.8Co0.1Mn0.1正極活物質23重量部、導電材としてカーボンブラックを2重量部、バインダーとしてPVDF5重量部を、N‐メチルピロリドン(NMP)溶媒中で混合して第2安全性機能層用のスラリーを製造した。
【0102】
<正極の製造>
アルミニウム箔に、上記第1安全性機能層用のスラリー/第2安全性機能層用のスラリー/正極合剤層用のスラリーを塗布し、乾燥及び圧延してアルミニウム箔/第1安全性機能層/第2安全性機能層/正極合剤層の構造を有する正極を製造した。第1安全性機能層および第2安全性機能層の厚さはそれぞれ4μm、正極合剤層の厚さは80μmであった。
【0103】
実施例2、比較例1
上記実施例1において、各層の組成を表1のように変更したことを除いては、実施例1と同じく正極を製造した。
【0104】
比較例2
<安全性機能層用のスラリーの製造>
平均粒径(D50)が1μm、BET比表面積が15m/gであるLiFePO正極活物質88重量部、導電材としてカーボンブラックを2重量部、バインダーとしてPVDF10重量部を、N‐メチルピロリドン(NMP)溶媒中で混合して安全性機能層用のスラリーを製造した。
【0105】
<正極合剤層用のスラリーの製造>
平均粒径(D50)が4μmで、BET比表面積が0.7m/gであるLiNi0.8Co0.1Mn0.1正極活物質96重量部、導電材としてカーボンブラックを2重量部、バインダーとしてPVDF2重量部を、N‐メチルピロリドン(NMP)溶媒中で混合して正極合剤層用のスラリーを製造した。
【0106】
<正極の製造>
アルミニウム箔に、上記安全性機能層用のスラリー/正極合剤層用のスラリーを塗布し、乾燥及び圧延してアルミニウム箔/安全性機能層/正極合剤層の構造を有する正極を製造した。安全性機能層の厚さは10μm、正極合剤層の厚さは80μmであった。
【0107】
比較例3~比較例4
上記比較例2において、各層の組成を表1のように変更したことを除いては比較例2と同じく正極を製造した。
【0108】
【表1】
【0109】
実験例1:容量維持率評価
上記実施例1~実施例2および比較例1~比較例4で製造された正極をそれぞれ用いてリチウム二次電池を製造した。
【0110】
まず負極活物質として、天然黒鉛、カーボンブラック導電材及びPVDFバインダーを、N‐メチルピロリドン溶媒中で85:10:5の重量比で混合して負極形成用のスラリーを製造し、それを銅箔に塗布して負極を製造した。
【0111】
上記負極と上記実施例1~実施例2及び比較例1~比較例4で製造された各正極の間に多孔性ポリエチレンの分離膜を介在してそれぞれの電極組立体を製造し、上記各電極組立体をケース内部に位置させた後、ケース内部に電解液を注入してリチウム二次電池を製造した。このとき、電解液は、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート(EC/DMC/EMCの混合体積比は3/4/3)からなる有機溶媒に1.0M濃度のリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)を溶解させて製造した。
【0112】
上記実施例1~実施例2及び比較例1~4で製造された正極をそれぞれ用いて製造されたリチウム二次電池に対して、25℃で充電終止電圧4.25V、放電終止電圧2.5V、0.5C/0.5C条件で100サイクル及び200サイクルの充放電を行いながら容量維持率(Capacity Retention[%])を測定し、その結果を表2に示した。
【0113】
実験例2:貫通安全性の評価
上記実験例1と同一の方法で、実施例1~実施例2および比較例1~比較例4で製造された正極をそれぞれ用いてリチウム二次電池を製造した。
【0114】
このように製造されたリチウム二次電池に対してPV8450認証条件と同一に直径3mmの金属体を80mm/secの速度で降下してセルを貫通させたときの発火有無を評価し、その結果を下記表2に示した。
【0115】
実験例3:接着力の測定
実施例1~実施例2及び比較例1で製造された正極を、横及び縦の長さがそれぞれ25mm、70mmとなるように切断した。その後プレスを用いて70℃、4MPa条件でラミネーションして試片を製作した。
【0116】
準備された試片を両面テープを用いてガラス板に付着して固定した。このとき、集電体がガラス板に対面するように配置した。引張試験機を用いて試片の諸正極合剤層部分を25℃で100mm/minの速度、90°の角度で剥離し、このときの剥離力をリアルタイムで測定し、その平均値を第二安全性機能層と正極合剤層の界面接着力Cとして定義し、その結果を表2に示す。
【0117】
第2安全性機能層と第1安全性機能層との間の接着力Bと、第1安全性機能層と集電体との間の接着力Aも上記と同じく測定し、その結果を表2に示した。
【0118】
【表2】
【0119】
表2の結果を参照すると、本発明の実施例に係る正極を含む二次電池は、貫通安全性に優れるが、比較例1、比較例3~比較例4の電池は、貫通試験で発火が生じた。比較例2の正極を含む二次電池は、実施例1、2の第1安全性機能層と同一組成からなる単一層の安全性機能層を含んでいて貫通試験で発火が生じなかったが、第2安全性機能層がなくて、実施例に係る正極と比較して寿命特性が劣位であることを確認し得る。したがって、本発明に係る正極及びそれを含むリチウム二次電池は、貫通安全性のみならず、寿命特性にも優れた効果がある。
【0120】
以上の説明は、本発明の技術思想を例示的に説明したものに過ぎず、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で多様な修正及び変形が可能である。したがって、本発明に開示された図面は、本発明の技術思想を限定するためのものではなく、説明するためのものであり、このような図面によって本発明の技術思想の範囲が限定されるものではない。本発明の保護範囲は特許請求の範囲によって解釈されるべきであり、それと同等の範囲内にある全ての技術思想は本発明の権利範囲に含まれるものとして解釈されるべきである。
図1
図2
図3