(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】測位装置
(51)【国際特許分類】
G01S 19/43 20100101AFI20240722BHJP
G01S 19/22 20100101ALN20240722BHJP
【FI】
G01S19/43
G01S19/22
(21)【出願番号】P 2020083428
(22)【出願日】2020-05-11
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】飯村 鉄人
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-212400(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1305676(KR,B1)
【文献】特開2010-071686(JP,A)
【文献】特開2017-181519(JP,A)
【文献】特開2014-142272(JP,A)
【文献】特開2016-075646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14,
G01S 19/00-19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星から送信されてアンテナを介して受信される測距信号に基づいて前記測距信号の受信位置を示す測位位置を算定する測位部と、
複数の前記測位位置に関する誤差円を計算する誤差円計算部と、を有し、
前記誤差円計算部が、
全球測位衛星システムにおける測位位置の分散に基づいて基本誤差円を算定し、前記基本誤差円の算定時から遡ってサイクルスリップが発生していない状態が継続している時間が短い場合、前記基本誤差円の算定時から遡って前記測距信号の受信位置の移動速度が安定している状態が継続している時間が短い場合、及び、前記基本誤差円の算定時における前記測距信号の受信位置の移動速度が停止もしくは低速である場合のうちの少なくとも1つの場合に、前記基本誤差円よりも大きい円として最終的な誤差円の大きさを決定し、
前記移動速度が安定しているか否かは、速度を平滑化した値の時系列での差分が所定の値よりも小さいか否かで判断される、
ことを特徴とする測位装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、測位装置に関し、特に、全球測位衛星システムにおける測位位置の測位精度を示す誤差円を計算する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS(Global Positioning System の略)などを含む全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System の略)は、衛星から発信される電波(具体的には、測距信号)を利用して受信点の位置を算定する仕組みである。衛星航法システムを用いて位置や方位などを測定する測位装置は、複数の衛星から送信されたそれぞれの信号に基づいて測位装置の位置を測定する。
【0003】
測距信号に基づいて算定される測位位置は実際の位置(別言すると、真の位置)に対する誤差を含み、実際の位置に対する測位位置の誤差は誤差円によって表される。誤差円は、算定された測位位置を中心とする円(楕円を含む)であり、実際の位置に対する測位位置の誤差の大きさに応じて半径(楕円の場合は長半径および短半径)が決定される。すなわち、誤差円の半径が小さい状態は測位位置の誤差が小さく測位精度が高い状態であり、誤差円の半径が大きい状態は測位位置の誤差が大きく測位精度が低い状態である。誤差円は、つまり、測位位置の正確性を示す精度指標である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、市街地などでサイクルスリップが多発する環境では測位精度が悪化する場合がある。しかしながら、従来の誤差円の計算では、サイクルスリップの発生状況は考慮されていないため、誤差円の確度が低い、という問題がある。また、測距信号の受信機の付近に構造物が存在する環境ではマルチパスによって測位精度が悪化する場合があり、このとき、受信機が移動する速度(例えば、前記受信機が搭載されている車両の走行速度)がある程度の大きさを保ちながら安定しているならば、マルチパスがあっても分散されて測位精度は影響を受けにくい。しかしながら、従来の誤差円の計算では、受信機が移動する速度の大きさや安定度は考慮されていないため、誤差円の確度が低い、という問題がある。
【0006】
そこでこの発明は、全球測位衛星システムにおける測位位置の誤差円の確度を向上させることが可能な、測位装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、衛星から送信されてアンテナを介して受信される測距信号に基づいて前記測距信号の受信位置を示す測位位置を算定する測位部と、複数の前記測位位置に関する誤差円を計算する誤差円計算部と、を有し、前記誤差円計算部が、全球測位衛星システムにおける測位位置の分散に基づいて基本誤差円を算定し、前記基本誤差円の算定時から遡ってサイクルスリップが発生していない状態が継続している時間が短い場合、前記基本誤差円の算定時から遡って前記測距信号の受信位置の移動速度が安定している状態が継続している時間が短い場合、及び、前記基本誤差円の算定時における前記測距信号の受信位置の移動速度が停止もしくは低速である場合のうちの少なくとも1つの場合に、前記基本誤差円よりも大きい円として最終的な誤差円の大きさを決定し、前記移動速度が安定しているか否かは、速度を平滑化した値の時系列での差分が所定の値よりも小さいか否かで判断される、ことを特徴とする測位装置である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、サイクルスリップの発生状況、測距信号の受信位置の移動速度の安定度、および測距信号の受信位置の移動速度の大きさのうちの少なくとも1つを考慮して誤差円を決定するようにしているので、測位位置の誤差円の確度を向上させることが可能となる。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、測位位置の誤差円を決定する際にサイクルスリップの発生状況を的確に考慮することができ、測位位置の誤差円の確度を向上させることが可能となる。
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、測位位置の誤差円を決定する際に測距信号の受信位置の移動速度の安定度を的確に考慮することができ、測位位置の誤差円の確度を向上させることが可能となる。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、測位位置の誤差円を決定する際に測距信号の受信位置の移動速度の大きさを的確に考慮することができ、測位位置の誤差円の確度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施の形態に係る測位装置を含むGNSS受信装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1のGNSS受信装置における処理手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
図1は、この発明の実施の形態に係る測位装置4を含むGNSS受信装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2は、実施の形態に係るGNSS受信装置1における処理手順を示すフロー図である。
図2のフロー図に示す処理手順は、主に測位装置4が例えばプログラムに従って実行する処理内容であり、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
【0017】
GNSS受信装置1は、全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System の略)によって位置情報を取得するための仕組みである。GNSS受信装置1は、GNSSアンテナ2と、受信部3と、測位装置4と、を有する。
【0018】
GNSSアンテナ2は、複数の衛星(例えば、GPS衛星)のそれぞれから送信される測距信号(別言すると、GPS信号)を受信して受信部3へと転送する。GNSSアンテナ2としては、具体的には例えばパッチアンテナが用いられる。
【0019】
受信部3は、GNSSアンテナ2から転送される測距信号の周波数を中間周波数に変換するとともにアナログ-デジタル変換処理を行ってデジタル信号を生成する。受信部3は、さらに、前記デジタル信号に対して復調処理を施して復調した測距信号を出力する(ステップS1)。
【0020】
測位装置4は、測距信号に基づいて算定されるGNSS受信装置1の位置の測位精度を示す誤差円を計算して決定するための仕組みであり、衛星から送信されてGNSSアンテナ2を介して受信される測距信号に基づいてGNSS受信装置1の位置を示す測位位置を算定する測位部41と、複数の測位位置に関する誤差円を計算する誤差円計算部42と、を有し、誤差円計算部42が、サイクルスリップの発生状況、GNSS受信装置1の移動速度の安定度、およびGNSS受信装置1の移動速度の大きさのうちの少なくとも1つを考慮して誤差円を決定する、ようにしている。
【0021】
測位装置4は、例えばCPU(Central Processing Unit の略)、メモリ、および入力・出力ポートなどを含む機序として構成され、メモリに記憶された制御プログラムや各種データをCPUが参照することによって必要な処理を実行する。
【0022】
測位部41は、受信部3から出力される復調処理後の測距信号の入力を受け、前記測距信号に基づいてGNSS受信装置1の位置(言い換えると、測距信号の受信位置;「測位位置」と呼ぶ)を算定する(ステップS2)。
【0023】
測位部41による測位位置の算定の仕法は、特定の手法に限定されるものではなく、公知の若しくは新規の手法の中から適当な手法が適宜選択される。測位部41による測位位置の算定の仕法としては、例えば、複数の衛星(例えば、GPS衛星)のそれぞれが測距信号を送信してからGNSSアンテナ2が受信するまでの時間長さに光速を乗じて計算される、前記複数の衛星のそれぞれとGNSSアンテナ2との間の距離を基準として三角測量の原理で算定する方法が用いられる。
【0024】
複数の衛星のそれぞれから測距信号が連続的に送信され、前記複数の衛星のそれぞれから連続的に送信される測距信号をGNSSアンテナ2が受信して測位部41が処理を繰り返し行うことにより、短時間のうちに複数の測位位置が連続的に算定される。
【0025】
誤差円計算部42は、測位部41によって算定される測位位置の測位精度を示す誤差円を計算して決定する。
【0026】
誤差円計算部42は、例えば数秒程度の所定の時間長さの間に測位部41によって算定された複数の測位位置に関する誤差円を計算して決定する。誤差円計算部42は、基本誤差円算定タスク42a、サイクルスリップ判定タスク42b、速度安定度判定タスク42c、速度判定タスク42d、および誤差円決定タスク42eを備える。
【0027】
基本誤差円算定タスク42aは、誤差円を決定するに際して基本となる誤差円(「基本誤差円」と呼ぶ)の大きさ(具体的には、半径)を算定して出力する(ステップS3)ためのタスク・プログラムである。
【0028】
基本誤差円は、誤差円決定タスク42eによって最終的に決定される誤差円のもととなる大きさを備える誤差円である。基本誤差円の算定の仕法は特定の手法に限定されるものではないものの、基本誤差円の算定の仕法として、例えば、GNSS測位計算によって求められるGNSS測位解(即ち、測位位置)がどの程度の誤差を含んでいるのかを表す指標であるGNSS測位解の分散に基づいて算定する手法が挙げられる。
【0029】
基本誤差円は、具体的には、あくまで一例として挙げると、GNSS測位解の、水平面に沿う二次元(具体的には、緯度方向、経度方向)の誤差共分散行列から得られる、等確率曲線に相当する共分散楕円(誤差楕円)として算定され、これにより、誤差円の中心が、GNSS受信装置1の真の位置として尤もな位置として求められ、また、誤差円の半径が、任意に設定される信頼度に応じた確率でGNSS測位解が誤差円の内側に観測されるような大きさ(具体的には、距離)として求められる。
【0030】
サイクルスリップ判定タスク42bは、基本誤差円算定タスク42aにおいて基本誤差円が算定されるタイミング(「基本誤差円算定時」と呼ぶ)のそれぞれについて、当該の基本誤差円算定時の直前時期においてサイクルスリップが発生していない状態が継続している時間が短いか否かを判定して判定結果を出力するためのタスク・プログラムである。
【0031】
サイクルスリップは、衛星からの電波の受信が障害物などで一時的に遮断されると搬送波位相の測定が中断するために中断の間の整数部の繰り上がり、繰り下がりが分からなくなり、中断前後で位相の整数部分に整数部だけの不確定が生じる現象である。
【0032】
したがって、サイクルスリップが頻発する場合にはサイクルスリップによって測位精度が悪化する。このため、サイクルスリップの発生状況としての発生の程度(言い換えると、発生の頻度)を考慮して誤差円の大きさを決定することにより、誤差円の確度を向上させることができる。
【0033】
サイクルスリップが発生していない状態が継続している時間が短いか否かを判定するための時間長さの閾値(「CS時間閾値」と呼ぶ)は、特定の値に限定されるものではなく、サイクルスリップによる測位精度の悪化を回避し得る程度の、サイクルスリップが発生していない状態の継続時間が考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。CS時間閾値は、例えば、0~30秒程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。なお、CS時間閾値が0秒に設定されると、サイクルスリップの発生に直ちに反応することとなる。
【0034】
サイクルスリップ判定タスク42bは、具体的には、基本誤差円算定時から遡ってサイクルスリップが発生していない状態が継続している時間が、CS時間閾値以下である場合にはCS発生フラグとして1を出力し、CS時間閾値よりも大きい場合にはCS発生フラグとして0を出力する(ステップS4)。
【0035】
速度安定度判定タスク42cは、基本誤差円算定時のそれぞれについて、当該の基本誤差円算定時の直前時期においてGNSS受信装置1の移動速度が安定している状態が継続している時間が短いか否かを判定して判定結果を出力するためのタスク・プログラムである。
【0036】
GNSS受信装置1の移動速度は、具体的には例えば、GNSS受信装置1が搭載されている車両の走行速度である。GNSS受信装置1の移動速度は、測距信号の受信位置の移動速度であるともいえる。
【0037】
ここで、GNSS受信装置1の付近に構造物が存在する環境ではマルチパスによって測位精度が影響を受ける場合があり、GNSS受信装置1の移動速度が変動する場合にはマルチパスによって測位精度が悪化する一方で、GNSS受信装置1の移動速度が安定している場合にはマルチパスがあっても分散されて測位精度は影響を受けにくい。このため、GNSS受信装置1の移動速度の安定度(別言すると、測距信号の受信位置の移動速度の安定度)を考慮して誤差円の大きさを決定することにより、誤差円の確度を向上させることができる。
【0038】
GNSS受信装置1の移動速度が安定している状態が継続している時間が短いか否かを判定するための時間長さの閾値(「速度安定時間閾値」と呼ぶ)は、特定の値に限定されるものではなく、マルチパスによる測位精度の悪化を回避し得る程度の、速度が安定している状態の継続時間が考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。速度安定時間閾値は、例えば、0~10秒程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。なお、速度安定時間閾値が0秒に設定されると、速度が非安定時に直ちに反応することとなる。
【0039】
また、移動速度が安定しているか否かの判断の仕法は、特定の手法に限定されるものではなく、時系列における速度の安定の度合いを評価し得る手法の中から適当な手法が適宜選択される。移動速度が安定しているか否かは、例えば、時系列における速度の変動の幅が所定の範囲に収まっているか否かで判断されたり、速度を平滑化した値の時系列での差分が所定の値よりも小さいか否かで判断されたり、或いは、速度の移動平均の値の時系列での差分が所定の値よりも小さいか否かで判断されたりすることが考えられる。
【0040】
速度安定度判定タスク42cは、具体的には、基本誤差円算定時から遡ってGNSS受信装置1の移動速度が安定している状態が継続している時間が、速度安定時間閾値以下である場合には速度安定フラグとして1を出力し、速度安定時間閾値よりも大きい場合には速度安定フラグとして0を出力する(ステップS5)。
【0041】
速度判定タスク42dは、基本誤差円算定時のそれぞれについて、当該の基本誤差円算定時におけるGNSS受信装置1の移動速度(別言すると、測距信号の受信位置の移動速度)が停止もしくは低速であるか否かを判定して判定結果を出力するためのタスク・プログラムである。
【0042】
ここで、GNSS受信装置1の付近に構造物が存在する環境ではマルチパスによって測位精度が影響を受ける場合があり、GNSS受信装置1が停止していたり低速であったりする場合にはマルチパスによって測位精度が悪化する一方で、GNSS受信装置1がある程度の速度で移動している場合にはマルチパスがあっても分散されて測位精度は影響を受けにくい。このため、GNSS受信装置1の移動速度の大きさ(別言すると、測距信号の受信位置の移動速度の大きさ)を考慮して誤差円の大きさを決定することにより、誤差円の確度を向上させることができる。
【0043】
GNSS受信装置1の移動速度が停止もしくは低速であるか否かを判定するための速度の大きさの閾値(「移動速度閾値」と呼ぶ)は、特定の値に限定されるものではなく、マルチパスによる測位精度の悪化を回避し得る程度の速度の大きさが考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。移動速度閾値は、例えば、0.1~0.2m/秒程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0044】
速度判定タスク42dは、具体的には、基本誤差円算定時におけるGNSS受信装置1の移動速度の大きさが、移動速度閾値以下である場合には低速フラグとして1を出力し、移動速度閾値よりも大きい場合には低速フラグとして0を出力する(ステップS6)。
【0045】
誤差円決定タスク42eは、基本誤差円算定タスク42aによって算定される基本誤差円の大きさを基本として、サイクルスリップ判定タスク42b、速度安定度判定タスク42c、および速度判定タスク42dから出力される情報も考慮して、最終的な誤差円の大きさを決定する(ステップS7)ためのタスク・プログラムである。
【0046】
誤差円決定タスク42eは、具体的には例えば、CS発生フラグが0である場合に基本誤差円と同じ大きさの円として最終的な誤差円の大きさを決定する一方で、CS発生フラグが1である場合に基本誤差円よりも大きい円として最終的な誤差円の大きさを決定することが考えられる。この場合、最終的な誤差円を基本誤差円と比べてどの程度大きな円として決定するかは、特定の比率などに限定されるものではなく、CS発生フラグが1である場合(即ち、基本誤差円算定時から遡ってサイクルスリップが発生していない状態が継続している時間がCS時間閾値以下である場合)の測位精度の悪化の程度が考慮されるなどしたうえで適当な比率などが適宜設定される。
【0047】
誤差円決定タスク42eは、また、速度安定フラグが0である場合に基本誤差円と同じ大きさの円として最終的な誤差円の大きさを決定する一方で、速度安定フラグが1である場合に基本誤差円よりも大きい円として最終的な誤差円の大きさを決定することが考えられる。この場合、最終的な誤差円を基本誤差円と比べてどの程度大きな円として決定するかは、特定の比率などに限定されるものではなく、速度安定フラグが1である場合(即ち、基本誤差円算定時から遡ってGNSS受信装置1の移動速度が安定している状態が継続している時間が速度安定時間閾値以下である場合)の測位精度の悪化の程度が考慮されるなどしたうえで適当な比率などが適宜設定される。
【0048】
誤差円決定タスク42eは、或いは、CS発生フラグが0であり且つ低速フラグが0である場合に基本誤差円と同じ大きさの円として最終的な誤差円の大きさを決定する一方で、CS発生フラグが1であるまたは低速フラグが1である場合に基本誤差円よりも大きい円として最終的な誤差円の大きさを決定することが考えられる。この場合、最終的な誤差円を基本誤差円と比べてどの程度大きな円として決定するかは、特定の比率などに限定されるものではなく、CS発生フラグが1である場合(即ち、基本誤差円算定時から遡ってサイクルスリップが発生していない状態が継続している時間がCS時間閾値以下である場合)の測位精度の悪化の程度や、低速フラグが1である場合(即ち、基本誤差円算定時におけるGNSS受信装置1の移動速度の大きさが移動速度閾値以下である場合)の測位精度の悪化の程度が考慮されるなどしたうえで適当な比率などが適宜設定される。
【0049】
ただし、誤差円決定タスク42eが基本誤差円の大きさを基本として最終的な誤差円の大きさを決定する際の、サイクルスリップの発生状況としての発生の程度(言い換えると、発生の頻度;この実施の形態では具体的には、サイクルスリップ判定タスク42bから出力されるCS発生フラグの値)、GNSS受信装置1の移動速度の安定度(この実施の形態では具体的には、速度安定度判定タスク42cから出力される速度安定フラグの値)、およびGNSS受信装置1の移動速度の大きさ(この実施の形態では具体的には、速度判定タスク42dから出力される低速フラグの値)の考慮の仕方(言い換えると、組み合わせのパターン)は、上記の3つに限定されるものではなく、サイクルスリップの発生の程度/頻度、GNSS受信装置1の移動速度の安定度、およびGNSS受信装置1の移動速度の大きさのうちの少なくとも1つ以上を考慮するのであれば、どのような考慮の仕方であっても構わない。
【0050】
なお、基本誤差円算定タスク42aによって算定される基本誤差円の大きさの最小値が予め設定され、ステップS3の処理において算定された基本誤差円の大きさが前記最小値よりも小さい場合に、基本誤差円の大きさが前記最小値と同じに変更されるようにしてもよい。また、誤差円決定タスク42eによって決定される最終的な誤差円の大きさの最小値が予め設定され、ステップS7の処理において決定された最終的な誤差円の大きさが前記最小値よりも小さい場合に、最終的な誤差円の大きさが前記最小値と同じに変更されるようにしてもよい。
【0051】
また、基本誤差円の大きさが、例えば、小さいおよび大きい、或いは、小さい、中程度、および大きいなどのように、段階的に設定されるようにしてもよい。最終的な誤差円の大きさも、例えば、小さいおよび大きい、或いは、小さい、中程度、および大きいなどのように、段階的に設定されるようにしてもよい。そして、基本誤差円や最終的な誤差円の大きさが段階的に設定される場合には、ステップS3の処理を経て基本誤差円の大きさが例えば小さいと判定されたときに、サイクルスリップの発生の程度/頻度(具体的には、CS発生フラグの値)、GNSS受信装置1の移動速度の安定度(具体的には、速度安定フラグの値)、およびGNSS受信装置1の移動速度の大きさ(具体的には、低速フラグの値)のうちの少なくとも1つ以上が考慮されて、最終的な誤差円の大きさが、基本誤差円と同じに小さいままとして決定されたり、中程度や大きいに変更されて決定されたりするようにしてもよい。
【0052】
上記のような測位装置4によれば、サイクルスリップの発生状況、測距信号の受信位置の移動速度の安定度、および測距信号の受信位置の移動速度の大きさのうちの少なくとも1つを考慮して誤差円を決定するようにしているので、測位位置の誤差円の確度を向上させることが可能となる。
【0053】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態ではサイクルスリップの発生の程度/頻度、GNSS受信装置1の移動速度の安定度、およびGNSS受信装置1の移動速度の大きさがいずれも2段階(具体的には、継続時間が短いか否か、または、移動速度が停止もしくは低速であるか否か)で評価されるようにしているが、3段階(例えば、継続時間が短い、中程度、長い、または、移動速度が停止もしくは低速、中速、高速)や4段階以上で評価されるようにしてもよい。前記の要因が3段階以上で評価される場合には、基本誤差円の大きさを基本として最終的な誤差円の大きさを決定する際に、3段階以上の評価のうちのいずれであるかに応じて最終的な誤差円の大きさを段階的に変化させるようにしてもよい。
【0054】
また、上記の実施の形態では、サイクルスリップの発生状況として基本誤差円算定時から遡ってサイクルスリップが発生していない状態が継続している時間を考慮し、GNSS受信装置1の移動速度の安定度(別言すると、測距信号の受信位置の移動速度の安定度)として基本誤差円算定時から遡ってGNSS受信装置1の移動速度が安定している状態が継続している時間を考慮し、さらに、GNSS受信装置1の移動速度の大きさ(別言すると、測距信号の受信位置の移動速度の大きさ)として基本誤差円算定時におけるGNSS受信装置1の移動速度の大きさを考慮するようにしているが、サイクルスリップの発生状況、GNSS受信装置1の移動速度の安定度、およびGNSS受信装置1の移動速度の大きさの各々に対応する具体的な指標は上記の実施の形態における指標には限定されない。すなわち、本発明の要点は測位位置の誤差円を計算/決定する際にサイクルスリップの発生状況、GNSS受信装置1の移動速度の安定度、およびGNSS受信装置1の移動速度の大きさのうちの少なくとも1つを考慮することであり、前記の要因を考慮する際の具体的な指標は特定の指標には限定されない。
【0055】
具体的には例えば、サイクルスリップの発生状況として、所定の距離を移動/走行する間におけるサイクルスリップの発生の有無や発生の程度/頻度が考慮されたり、サイクルスリップが発生していない状態で移動/走行している距離の長さが考慮されたりするようにしてもよい。また、GNSS受信装置1の移動速度の安定度として、所定の距離を移動/走行する間における移動速度の変動の有無や変動の程度が考慮されたり、移動速度が変動していない状態で移動/走行している距離の長さが考慮されたりするようにしてもよい。また、GNSS受信装置1の移動速度の大きさとして、所定の距離を移動/走行する間における移動速度の平均速度が考慮されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
この発明は、例えば、車載用ナビゲーションシステムの分野や、車両の制御や自動運転システムの分野に適用され得る。
【符号の説明】
【0057】
1 GNSS受信装置
2 GNSSアンテナ
3 受信部
4 測位装置
41 測位部
42 誤差円計算部
42a 基本誤差円算定タスク
42b サイクルスリップ判定タスク
42c 速度安定度判定タスク
42d 速度判定タスク
42e 誤差円決定タスク