(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 43/00 20060101AFI20240722BHJP
F02D 13/02 20060101ALI20240722BHJP
F02D 21/08 20060101ALI20240722BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240722BHJP
F02D 41/14 20060101ALI20240722BHJP
F02D 41/30 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
F02D43/00 310A
F02D13/02 J
F02D21/08 301A
F02D21/08 301C
F02D21/08 301E
F02D43/00 301E
F02D43/00 301H
F02D43/00 301Z
F02D43/00 301N
F02D45/00 368F
F02D41/14
F02D41/30
(21)【出願番号】P 2021005881
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】辻 達也
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-047357(JP,A)
【文献】特開2017-155629(JP,A)
【文献】特開2007-192157(JP,A)
【文献】特開2004-293392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒の吸気バルブまたは排気バルブの開弁または閉弁のタイミングを変更し得るVVT機構、及び排気通路を流れる排気ガスの一部を吸気通路に還流させ得るEGR装置が付帯した内燃機関を制御するものであり、気筒に連なる吸気通路内の吸気圧を実測して気筒に吸入される空気量を演算する制御装置であって、
EGRバルブの開度に依拠しない、VVT機構が具現するバルブタイミングに応じた補正量p1をメモリに記憶保持しており、それを基に現在のバルブタイミングに対応する補正量p1を知得し、
また、VVT機構が具現するバルブタイミングに依拠しない、EGRバルブの開度に応じた補正量p2をメモリに記憶保持しており、それを基に現在のEGRバルブの開度に対応する補正量p2を知得し、
さらに、VVT機構が具現するバルブタイミング及びEGRバルブの開度に応じた補正量pEXをメモリに記憶保持しており、それを基に現在のバルブタイミング及び現在のEGRバルブの開度に対応する補正量pEXを知得し、
吸気圧の実測値Pを前記補正量p1、前記補正量p2及び前記補正量pEXを用いて補正することで気筒に吸入される吸気に占める空気の分圧PMを求めて吸入空気量または燃料噴射量を演算することとし、
前記補正量pEXは、EGRバルブの開度を一定に保ったままVVT機構により
バルブタイミングを変更する操作を行う場合に生じる実測空燃比の目標空燃比からの偏差
Bと、EGRバルブの開度を変化させる操作を行いながらVVT機構により
バルブタイミングを変更する操作を行う場合に生じる実測空燃比の目標空燃比からの偏差
Aとの差
である偏差の増大量Cが、バルブタイミングによらず略一定となるように定められたものである内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒の吸気バルブまたは排気バルブの開弁または閉弁のタイミングを変更し得る可変バルブタイミング(Variable Valve Timing)機構、及び排気通路を流れる排気ガスの一部を吸気通路に還流させ得る排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置が付帯した内燃機関の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載される内燃機関について、吸気バルブ及び/または排気バルブの開閉タイミングを可変制御できる位相変化型のVVT機構を備えたものが公知である。この種のVVT機構は、内燃機関の出力軸であるクランクシャフトに対する、吸気バルブを開閉駆動する吸気カムシャフト及び/または排気バルブを開閉駆動する排気カムシャフトの回転位相を変化させることで、吸気バルブ及び/または排気バルブの開閉タイミングを進角または遅角させる。VVT機構は、主として気筒への吸気の充填効率の改善に寄与する。加えて、気筒の吸気バルブ及び排気バルブがともに開くバルブオーバラップの期間の長さを調整することを通じて、気筒で発生する燃焼ガスの一部を排気せず気筒内に残留させる内部EGRを実行することもできる。
【0003】
また、内燃機関の排気通路と吸気通路とをEGR通路を介して接続し、燃焼ガスの一部をEGR通路経由で吸気通路に還流させて吸入空気に混交する外部EGR装置も広く採用されている。EGR通路上には、これを開閉するEGRバルブが設けられている。EGRバルブの開度を操作すれば、外部EGRガスの還流量が増減する。EGRにより、気筒内での燃焼温度を低下させて有害物質NOxの排出量を削減しつつ、ポンピングロスの低減を図ることが可能である(以上、例えば、下記特許文献を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
気筒に対する燃料の噴射量を決定するには、気筒に吸入される空気(新気、または酸素)量を算定しなければならない。基本的には、気筒に連なる吸気通路内の吸気圧力を検出する吸気圧センサを設置し、当該吸気圧センサを介して実測した吸気圧及び現在のエンジン回転数を基に、吸入空気量を推測する。但し、気筒に流入する吸気には空気以外に外部EGRガスが含まれることがあり、かつ気筒内には内部EGRガスが残存していることがある。従って、吸入空気量を精確に見積もるためには、内部EGRに関わるVVT機構の操作量及び外部EGRに関わるEGRバルブの操作量に応じた補正を加える必要がある。
【0006】
従前の内燃機関の運転制御では、VVT機構の操作とEGRバルブの操作とを同時に行うことがなかった。つまり、VVT機構が具現するバルブタイミングを変化させる間はEGRバルブの開度を一定に保ち、EGRバルブの開度を拡縮する間はバルブタイミングを一定に保っていた。それ故、実測吸気圧に基づく吸入空気量を補正するにあたっては、EGRバルブをある開度(特に、全閉)に固定していることを前提として実験的に求めたバルブタイミングに応じた補正量、及びバルブタイミングをある位相角(例えば、バルブオーバラップ量が0となるような位相角)に固定していることを前提として実験的に求めたEGRバルブ開度に応じた補正量を用いていた。
【0007】
近時、VVT機構とEGRバルブとを同時に操作することが、内燃機関の効率、燃費性能をより一層改善するために効果的であることが分かってきた。だが、VVT機構及びEGRバルブを同時に操作する過渡期において、上述した従前の手法を以て吸入空気量を推算すると、実際に気筒に充填される空気量の真値との間で誤差が生じ、それに起因して燃料噴射量が不適正となり、一時的にせよ混合気の空燃比が目標空燃比から逸脱するおそれがあることが、発明者の鋭意研究の結果判明した。空燃比の目標値からの逸脱は、有害物質の排出量の増加や燃費性能の低下に繋がり、決して好ましくない。
【0008】
本発明は、以上に着目してなされたものであり、VVT機構とEGR装置とを両備した内燃機関を運転制御する際の空燃比の目標値からの逸脱をより小さくすることを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、気筒の吸気バルブまたは排気バルブの開弁または閉弁のタイミングを変更し得るVVT機構、及び排気通路を流れる排気ガスの一部を吸気通路に還流させ得るEGR装置が付帯した内燃機関を制御するものであり、気筒に連なる吸気通路内の吸気圧を実測して気筒に吸入される空気量を演算する制御装置であって、EGRバルブの開度に依拠しない、VVT機構が具現するバルブタイミングに応じた補正量p1をメモリに記憶保持しており、それを基に現在のバルブタイミングに対応する補正量p1を知得し、また、VVT機構が具現するバルブタイミングに依拠しない、EGRバルブの開度に応じた補正量p2をメモリに記憶保持しており、それを基に現在のEGRバルブの開度に対応する補正量p2を知得し、さらに、VVT機構が具現するバルブタイミング及びEGRバルブの開度に応じた補正量pEXをメモリに記憶保持しており、それを基に現在のバルブタイミング及び現在のEGRバルブの開度に対応する補正量pEXを知得し、吸気圧の実測値Pを前記補正量p1、前記補正量p2及び前記補正量pEXを用いて補正することで気筒に吸入される吸気に占める空気の分圧PMを求めて吸入空気量または燃料噴射量を演算することとし、前記補正量pEXは、EGRバルブの開度を一定に保ったままVVT機構によりバルブタイミングを変更する操作を行う場合に生じる実測空燃比の目標空燃比からの偏差Bと、EGRバルブの開度を変化させる操作を行いながらVVT機構によりバルブタイミングを変更する操作を行う場合に生じる実測空燃比の目標空燃比からの偏差Aとの差である偏差の増大量Cが、バルブタイミングによらず略一定となるように定められたものである内燃機関の制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、VVT機構とEGR装置とを両備した内燃機関を運転制御する際の空燃比の目標値からの逸脱をより小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態における内燃機関及び制御装置の概略構成を示す図。
【
図2】同実施形態の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
【
図3】同実施形態の制御装置が用いる吸入空気量の補正量の決定方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークガソリンエンジンであり、複数の気筒1(
図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気バルブよりも上流、各気筒1に連なる吸気ポートの近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を起こすものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0013】
吸気を気筒1に供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配設している。
【0014】
排気を気筒1から排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させたことで生じる排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配設している。
【0015】
外部EGR装置2は、排気通路4と吸気通路3とを連通する外部EGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における触媒41の下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所(特に、サージタンク33または吸気マニホルド34)に接続している。
【0016】
本実施形態の内燃機関では、クランクスプロケット(または、プーリ)、吸気側スプロケット(または、プーリ)並びに排気側スプロケット(または、プーリ)にタイミングチェーン(または、ベルト)を巻き掛け、このタイミングチェーンにより、クランクシャフトからもたらされる回転駆動力を吸気側スプロケットを介して吸気カムシャフトに、排気側スプロケットを介して排気カムシャフトに、それぞれ伝達している。
【0017】
その上で、吸気側スプロケットと吸気カムシャフトとの間に、VVT機構5を介設している。VVT機構5は、クランクシャフトに対する吸気カムシャフトの回転位相を変化させることにより、気筒1の吸気バルブの開閉タイミングを変化させる既知のものである。VVT機構5は、内燃機関の潤滑油(エンジンオイル)を作動液とし、カムスプロケットに対するカムシャフトの位相角をその潤滑油圧により変位させるベーン式VVTであることもあれば、カムスプロケットに対するカムシャフトの位相角を電動機により変位させるモータドライブVVTであることもある。
【0018】
本実施形態の内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECUまたはコントローラが、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものであることがある。
【0019】
ECU0の入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求されるエンジン負荷率またはエンジントルク)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、内燃機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33または吸気マニホルド34)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、大気圧を検出するセンサから出力される大気圧信号f、吸気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号g、排気通路4を流れるガスの空燃比を検出する空燃比センサ(O2センサまたはリニアA/Fセンサ)から出力される空燃比信号h等が入力される。
【0020】
ECU0の出力インタフェースからは、点火プラグ12に高電圧を印加する火花点火装置のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l、VVT機構5に対してバルブタイミングの制御信号m等を出力する。
【0021】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、気筒1に吸入される空気(新気)量に見合った要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する火花点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)、吸気バルブの開閉タイミング等といった各種運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、mを出力インタフェースを介して印加する。
【0022】
燃料噴射量を決定するにあたり、ECU0は、気筒1に吸入される空気量に比例する、吸入空気量に対して目標空燃比を実現できような燃料噴射量の基本量TPを決定する。広汎な運転領域において、目標空燃比は理論空燃比またはその近傍である。但し、高回転域や高負荷域では、内燃機関の出力を増大させるべく、目標空燃比を理論空燃比よりもリッチに設定することがある。
【0023】
そして、この基本噴射量TPを、触媒41に流入するガスの空燃比とその目標値との偏差に応じたフィードバック補正係数FAFや、環境条件その他に応じて定まる各種補正係数Kにより補正する。補正係数FAF、Kはそれぞれ、1を中心に増減する正数である。さらに、インジェクタ11を開弁しても燃料が噴出しない無効噴射時間TAUVを加味して、最終的な燃料噴射時間T、即ちインジェクタ11を開弁するべくこれに通電する時間を算定する。燃料噴射時間Tは、
T=TP×FAF×K+TAUV
となる。ECU0は、燃料噴射時間Tだけインジェクタ11に対して信号jを入力し、インジェクタ11を開弁して燃料を噴射させる。
【0024】
混合気の空燃比を目標空燃比に精度よく制御するためには、ECU0において、気筒1に吸入される空気(または、酸素)量を精確に見積もる必要がある。吸入空気量の推算値と真値との間に誤差が混入すると、燃料噴射量TPが不適正となり、空燃比がその目標値から逸脱して、有害物質の排出量の増加や燃費性能の低下を招きかねないからである。
【0025】
図2に示すように、本実施形態のECU0は、吸入空気量を推算するにあたり、まず、気筒1に連なる吸気通路3(サージタンク33または吸気マニホルド34)内の現在の吸気圧Pを求める(ステップS1)。吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の吸気圧P、ひいては気筒1に流入する吸気量が、スロットルバルブ32の開度に依存することは言うまでもない。吸気圧Pは、吸気圧センサの出力信号eを参照して実測できる。
【0026】
吸気通路3を流れて気筒1に流入する吸気には、外部EGRガスが含まれていることがある。なおかつ、気筒1内に、排気行程にて完全に排出されず、または吸気行程にて気筒1に再度吸入された内部EGRガスが残存することもある。ステップS1で求めた吸気圧Pは、外部EGR及び内部EGRの存在を無視している。気筒1に吸入される空気量を精密に算定するためには、実測の吸気圧Pをそのまま吸入空気の分圧と見なすことはせず、これからEGRガスの分圧を差し引く補正を加えなければならない。
【0027】
よって、次に、ECU0は、現在VVT機構5が具現しているバルブタイミング(のみ)に応じた(EGRバルブ23の開度に依拠しない)補正量p1を決定する(ステップS2)。気筒1の吸気バルブ及び排気バルブがともに開いているバルブオーバラップ期間の長さは、気筒1に残留する内部EGRガスの量に影響を及ぼす。吸気バルブの開弁タイミングが進角し、バルブオーバラップ量が大きくなると、内部EGRが増大し、その分気筒1に充填される空気量が減少する。従って、吸気バルブタイミングの位相角が進角するほど、ステップS1で求めた吸気圧Pを減じて吸入空気の分圧の真値に近づけるように補正することが求められる。補正量p1が吸気圧Pに乗じる補正係数であるならば、吸気バルブタイミングの進角量が大きくなるほど同補正係数を小さな値とし、補正量p1が吸気圧Pから減算する補正項であるならば、吸気バルブタイミングの進角量が大きくなるほど同補正項の絶対値を大きな値とする。
【0028】
ECU0のメモリには予め、エンジン回転数Ne及び吸気圧Pと補正量p1との関係を規定したマップデータが格納されている。内部EGRに関わる補正量p1は、様々な運転領域の下で、EGRバルブ23の開度を一定(特に、全閉)に保ったままVVT機構5によりバルブタイミングを変更する操作を行うことを通じて、実験的に求めたものである。[エンジン回転数Ne,吸気圧P]を引数とするのは、内燃機関を運転制御する際のバルブタイミングをこれらエンジン回転数Ne及び吸気圧Pに応じて決定している(間接的に、吸気バルブタイミングの進角量を指し示している)からである。ECU0は、現在のエンジン回転数Ne及び吸気圧Pをキーとして当該マップを検索し、現在の補正量p1を得る。
【0029】
並びに、ECU0は、現在のEGRバルブ23の開度(のみ)に応じた(VVT機構5が具現しているバルブタイミングに依拠しない)補正量p2を決定する(ステップS3)。EGRバルブ23の開度は、排気通路4から吸気通路3に還流して気筒1に流入する外部EGRガスの量に影響を及ぼす。EGRバルブ23の開度が拡開すると、外部EGRが増大し、その分気筒1に充填される空気量が減少する。従って、EGRバルブ23の開度が大きくなるほど、ステップS1で求めた吸気圧Pを減じて吸入空気の分圧の真値に近づけるように補正することが求められる。補正量p2が吸気圧Pに乗じる補正係数であるならば、EGRバルブ23の開度が大きくなるほど同補正係数を小さな値とし、補正量p2が吸気圧Pから減算する補正項であるならば、EGRバルブ23の開度が大きくなるほど同補正項の絶対値を大きな値とする。
【0030】
ECU0のメモリには予め、エンジン回転数Ne及び吸気圧Pと補正量p2との関係を規定したマップデータが格納されている。外部EGRに関わる補正量p2は、様々な運転領域の下で、VVT機構5が具現するバルブタイミングを一定(特に、バルブオーバラップ量が0となるタイミング)に保ったままEGRバルブ23の開度操作を行うことを通じて、実験的に求めたものである。[エンジン回転数Ne,吸気圧P]を引数とするのは、内燃機関を運転制御する際のEGRバルブ23開度をこれらエンジン回転数Ne及び吸気圧Pに応じて決定している(間接的に、EGRバルブ23の開度を指し示している)からである。ECU0は、現在のエンジン回転数Ne及び吸気圧Pをキーとして当該マップを検索し、現在の補正量p2を得る。
【0031】
上掲のステップS1ないしS3は、従来の内燃機関の制御と同様である。だが、ステップS2及びS3で求める補正量p1、p2は何れも、VVT機構5及びEGRバルブ23の双方を同時に操作することを想定して定められたものではない。これら補正量p1、p2による補正のみでは、VVT機構5及びEGRバルブ23を同時に操作する過渡期において、ECU0が推算する吸入空気量と実際に気筒1に充填される空気量との間で誤差が生じ得る。
【0032】
そこで、本実施形態では、従来の制御手法に加えて、そのような誤差をより小さくするための新たな補正量pEXを導入する(ステップS4)。
【0033】
以降、VVT機構5とEGR装置2との協調制御における新たな補正量pEXを定める方法に関して補記する。
図3に示すものは、複数のアクセル開度(または、吸気圧P)の条件の下、VVT機構5を操作して吸気バルブタイミングを変化させる過渡期において、従来の制御手法に則って吸入空気量を推算し燃料噴射量TPを決定したときの、気筒1に充填される混合気(そして、気筒1から排出されて触媒41に流入する排気)の空燃比の目標空燃比からの偏差を計測した結果である。横軸は、VVT機構5が具現する吸気バルブの開閉タイミングの進角量(クランク角度(°CA))であり、基準位相角(例えば、10°CA)αにて吸気バルブと排気バルブとがともに開く期間であるバルブオーバラップ量が0となる。吸気バルブの開閉タイミングを基準位相角αよりも進角させると、バルブオーバラップ量が拡大し、内部EGR量が増大する。縦軸は、混合気の空燃比と目標空燃比との偏差であって、偏差が0であれば混合気の空燃比が目標空燃比と一致していると言える。
【0034】
図3中、破線Bは、EGRバルブ23の開度を一定(特に、全閉)に保ったままVVT機構5により吸気バルブタイミングを変化させる場合に生じた空燃比の偏差を表している。これに対し、実線Aは、EGRバルブの開度を変化させながら(特に、全閉とせず開弁操作しながら)VVT機構5により吸気バルブタイミングを変化させる場合に生じた空燃比の偏差を表している。並びに、一点鎖線Cは、後者の偏差と前者の偏差との差(C=A-B)を表している。本実施形態で初めて導入する補正量pEXを加味しない限り、VVT機構5とEGRバルブ23とを同時に操作する協調制御では、どちらか一方のみを操作し他方を固定する従前の制御に比して、空燃比の偏差が増大することが分かる。さらに、その偏差の増大量Cは、VVT機構5が具現するバルブタイミングが基準位相角α近傍であるときに最小(0に近い)であり、バルブタイミングが基準位相角αから進角するほど、また基準位相角αから遅角するほど大きくなっている。一方で、この傾向は、アクセル開度の大小によらず共通している。しかも、
図3中の偏差の増大量の線Cの形状、極大値と極小値との幅(縦軸方向に沿った高さ)が、アクセル開度にかかわらず略一律になっている。
【0035】
VVT機構5とEGRバルブ23とを同時に操作する協調制御において、ECU0が推算する吸入空気量に混入する誤差をより低減せしめ、混合気の空燃比の目標空燃比からの偏差をより縮小するためには、少なくとも、偏差の増大量Cがバルブタイミングの進角量によらず略一定となるように、換言すれば
図3中の偏差の増大量Cの線が横軸方向に沿って略水平になるように(その場合、協調制御時の偏差の線Aと非協調制御時の偏差の線Bとが互いに略平行になり、両者の差が
図3に示しているものよりも縮小する)補正量pEXを定める。そのような補正量pEXは、VVT機構5が具現するバルブタイミング及びEGRバルブ23の開度に依存するが、アクセル開度には必ずしも依存せず、アクセル開度が異なっても同じ補正量pEXを用いることが可能と考えられる。
【0036】
補正量pEXは、吸気圧Pに乗じる補正係数であってもよく、吸気圧Pに対して加減算する補正項であってもよい。あるいは、補正量pEXが、補正量p1または補正量p2に乗じる補正係数であることも、補正量p1または補正量p2に対して加減算する補正項であることもあり得る。本実施形態では、補正量pEXを、補正量p2を補正するものとしている。これは、EGRバルブ23の開閉速度が、VVT機構5によるカムシャフトの位相角の変化速度よりも遅いことによる。
【0037】
ECU0のメモリには予め、VVT機構5が具現するバルブタイミングの進角量及びEGRバルブ23の開度と補正量pEXとの関係を規定したマップデータが格納されている。ステップS4にて、ECU0は、現在のバルブタイミングの進角量及びEGRバルブ23の開度をキーとして当該マップを検索し、現在の補正量pEXを得る。
【0038】
しかして、ECU0は、吸気圧の実測値Pを補正量p1、p2及びpEXを用いて補正することにより、真値に近い吸入空気の分圧PMを求める(ステップS5)。例えば、
PM=P×p1±(p2±pEX)
のような形で、気筒1に吸入される空気の分圧PMを算出する。上式では、p1が内部EGRに関わる補正係数、p2及びpEXが外部EGRに関わる補正項となっている。
【0039】
最終的に、ECU0は、現在のエンジン回転数Ne及び吸入空気圧PMから、気筒1に吸入される空気量を求める(ステップS6)。現在のエンジン回転数Neは、クランク角センサの出力信号bを参照して実測できる。ECU0のメモリには予め、エンジン回転数Ne及び吸入空気圧PMと吸入空気量との関係を規定したマップデータが格納されている。ECU0は、現在のエンジン回転数Ne及び吸入空気圧PMをキーとして当該マップを検索し、現在の吸入空気量を得る。なお、その吸入空気量を、現在の吸気温や大気圧に応じて補正しても構わない。
【0040】
先に述べた通り、算定した吸入空気量は、燃料噴射量TPの演算に用いられる。
【0041】
本実施形態では、気筒1の吸気バルブの開弁または閉弁のタイミングを変更し得るVVT機構5、及び排気通路4を流れる排気ガスの一部を吸気通路3に還流させ得るEGR装置2が付帯した内燃機関を制御するものであり、気筒1に連なる吸気通路3内の吸気圧Pを実測して気筒1に吸入される空気量を演算する制御装置であって、EGRバルブ23の開度を一定に保ったままVVT機構5により吸気バルブの開弁または閉弁のタイミングを変更する操作を行う場合に生じる実測空燃比の目標空燃比からの偏差Bと、EGRバルブ23の開度を変化させる操作を行いながらVVT機構5により吸気バルブの開弁または閉弁のタイミングを変更する操作を行う場合に生じる実測空燃比の目標空燃比からの偏差Aとの差Cを縮小するような補正量pEXをメモリに記憶保持し、その補正量pEXを以て吸入空気量(吸入空気圧PM)を補正する内燃機関の制御装置0を構成した。
【0042】
本実施形態によれば、VVT機構5と外部EGR装置2とを同時に操作する協調制御時の、空燃比の目標値からの逸脱をより小さくすることができる。空燃比センサの出力信号hを参照して知得される実測の空燃比と目標空燃比との間で偏差が発生すると、その偏差はフィードバック制御(補正係数FAF)により事後的に修正される。本実施形態の制御装置0は、VVT機構5が具現するバルブタイミングとEGRバルブ23の開度とを同時に変化させる過渡期において、気筒1に吸入される空気量をより精確に見積もることが可能であり、適切に基本燃料噴射量TPを設定して、空燃比とその目標値との偏差が拡大することを予防できる。従って、フィードバック制御を通じた空燃比の目標値への収束が早まり、有害物質の排出量の増加を回避することができ、無駄な燃料消費(空燃比が目標値よりもリーンである状態が長引くと、その間燃料噴射量FAFを増量し続ける)を抑制することにもなる。
【0043】
本実施形態の制御手法は、新たなハードウェアを追加することなく実現でき、コスト増を招かない。
【0044】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、補正量pEXを、吸入空気量(吸入空気圧PM、より具体的には補正量p2)を補正するものとしていたが、これに代えて、燃料噴射量TPを補正するもの(燃料噴射量TPに乗ずる補正係数、または燃料噴射量TPに対して加減算する補正項)として設定する態様もとり得る。それによっても、混合気の空燃比とその目標値との偏差の拡大を予防することができる。
【0045】
上記実施形態における内燃機関には、気筒1の排気バルブの開閉タイミングを可変制御するための排気VVT機構が実装されていなかったが、吸気VVT機構5と同様の排気VVT機構が内燃機関に付帯していてもよい。排気VVT機構を介して排気バルブタイミングを進角または遅角させると、バルブオーバラップ量が変化し、内部EGRガス量が増減する。従って、排気VVT機構と外部EGR装置2との協調制御に、本発明を適用することも当然に考えられる。
【0046】
内燃機関の気筒1の吸気バルブ及び/または排気バルブの開閉タイミングを変化させるためのVVT機構5の具体的態様は任意であり、一意に限定されない。吸気カムシャフト及び/または排気カムシャフトのクランクシャフトに対する回転位相を進角/遅角させるもの以外にも、吸気バルブ及び/または排気バルブを開弁駆動するカムを複数用意しておきそれらカムを適宜使い分けるもの、ロッカーアームのレバー比を電動機を介して変化させるもの、吸気バルブ及び/または排気バルブを電磁ソレノイドバルブとしたもの等が知られており、それら種々の機構の中から選択して採用することが許される。
【0047】
その他、各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関の制御に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
0…制御装置(ECU)
1…気筒
11…インジェクタ
2…排気ガス再循環(EGR)装置
23…EGRバルブ
3…吸気通路
32…スロットルバルブ
4…排気通路
5…可変バルブタイミング(VVT)機構
b…クランク角信号
c…アクセル開度信号
g…カム角信号
j…燃料噴射信号
k…スロットルバルブの開度操作信号
l…EGRバルブの開度操作信号
m…バルブタイミングの制御信号
A…協調制御時に生じる空燃比の偏差
B…非協調制御時に生じる空燃比の偏差
C…協調制御時に生じる空燃比の偏差と非協調制御時に生じる空燃比の偏差との差