(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】波動歯車装置およびアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240722BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2023549202
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2021034641
(87)【国際公開番号】W WO2023047469
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-231996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に配置された可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に配置され、前記外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車に部分的にかみ合わせている波動発生器と、
前記波動発生器を回転自在の状態で支持している装置ハウジングと、
前記波動発生器と前記外歯歯車との間に発生するスラスト力を算出するために、前記スラスト力により前記波動発生器に生じる軸線の方向の変位を検出する検出機構と、
を備えており、
前記波動発生器は、前記軸線の方向に相対移動可能な状態で一体回転するように、外部の回転軸に連結される円筒状のハブを備えており、
前記装置ハウジングは前記ハブを取り囲む筒状ハウジング部分を備えており、
前記検出機構は、前記ハブと前記筒状ハウジング部分との間に配置され、前記ハブに生じる前記軸線の方向の変位を検出する
ものであり、
前記検出機構は、
前記ハブの外周面に配置され、このハブの変位に追従して前記軸線の方向に伸縮可能な検出模様と、
前記装置ハウジングに取り付けられ、前記検出模様の伸縮を光学的あるいは磁気的に検出する検出ユニットと、
を備えており、
前記検出模様は、前記軸線の方向に沿って、等間隔で交互に形成された光の反射部および非反射部であり、
前記検出ユニットは、前記軸線の方向に沿って等間隔に形成した光通過部が形成された固定スリット板、前記光通過部を介して前記検出模様に検出光を照射する発光部、および前記反射部で反射された前記検出光を前記光通過部を介して受光する受光部を備えている光学式の検出ユニットであり、
前記軸線を中心として180度離れた対称の角度位置に配置した少なくとも一対の前記検出ユニットを備えており、
前記検出模様は、前記ハブの全周に亘って形成されており、
前記検出ユニットは、前記検出模様を同軸状に取り囲むリング状の発光部およびリング状の受光部を備えている波動歯車装置。
【請求項2】
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に配置された可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に配置され、前記外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車に部分的にかみ合わせている波動発生器と、
前記波動発生器を回転自在の状態で支持している装置ハウジングと、
前記波動発生器と前記外歯歯車との間に発生するスラスト力を算出するために、前記スラスト力により前記波動発生器に生じる軸線の方向の変位を検出する検出機構と、
を備えており、
前記波動発生器は、前記軸線の方向に相対移動可能な状態で一体回転するように、外部の回転軸に連結される円筒状のハブを備えており、
前記装置ハウジングは前記ハブを取り囲む筒状ハウジング部分を備えており、
前記検出機構は、前記ハブと前記筒状ハウジング部分との間に配置され、前記ハブに生じる前記軸線の方向の変位を検出するものであり、
前記検出機構は、
前記ハブの外周面に配置され、このハブの変位に追従して前記軸線の方向に伸縮可能な検出模様と、
前記装置ハウジングに取り付けられ、前記検出模様の伸縮を光学的あるいは磁気的に検出する検出ユニットと、
を備えており、
前記検出模様は、前記軸線の方向に沿って等間隔で交互に形成した磁性部および非磁性部であり、
前記検出ユニットは、
前記検出模様の前記軸線の方向の伸縮に伴って磁場強度が変化するように前記検出模様に対峙させた磁石および前記磁場強度の変化を検出する磁気検出素子を備えた磁気式の検出ユニットであり、
前記検出模様は、前記ハブの全周に亘って形成されており、
前記検出ユニットは、前記検出模様を同軸状に取り囲むリング状の磁石およびリング状の磁気検出素子を備えている波動歯車装置。
【請求項3】
モータと、モータ出力回転を減速して出力する波動歯車装置と、モータに組み込まれた回転検出機構およびブレーキ機構と、制御装置とを備えたアクチュエータにおいて、
前記波動歯車装置は、
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に配置された可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に配置され、前記外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車に部分的にかみ合わせている波動発生器と、
前記波動発生器を回転自在の状態で支持している装置ハウジングと、
前記波動発生器と前記外歯歯車との間に発生するスラスト力を算出するために、前記スラスト力により前記波動発生器に生じる軸線の方向の変位を検出する検出機構と、
を備えており、
前記波動発生器は、前記軸線の方向に相対移動可能な状態で一体回転するように、外部の回転軸に連結される円筒状のハブを備えており、
前記装置ハウジングは前記ハブを取り囲む筒状ハウジング部分を備えており、
前記検出機構は、前記ハブと前記筒状ハウジング部分との間に配置され、前記ハブに生じる前記軸線の方向の変位を検出するものであり、
前記制御装置は、
前記検出機構による検出結果に基づき、前記スラスト力の発生の有無と、前記スラスト力の方向と、前記スラスト力の大きさおよび時間的変化とのうち、少なくとも一つを算出する算出部と、
前記算出部の算出結果に基づき、前記波動歯車装置の運転状態を判別する運転状態判別部と、
前記検出機構による検出結果、および、前記運転状態判別部による判別結果に基づき、前記波動歯車装置の運転制御を行う運転制御部と、
を備えており、
前記運転制御部は、
(1)算出された前記スラスト力の方向に基づき、前記波動歯車装置が減速運転か増速運転状態にあるのかを判別し、増速運転時には、前記ブレーキ機構による摩擦トルクを用いて前記波動歯車装置の運転効率を低下させることで前記モータの保持トルクを低減させる制御、
(2)前記スラスト力の発生の有無に基づき、動作停止時の対象軸のロック力の不足を判別し、前記ロック力が不足の場合には前記ブレーキ機構を用いて、前記動作停止時の前記対象軸の前記ロック力を大きくする制御、
(3)算出された前記スラスト力の大きさおよび時間的変化に基づき、前記外歯歯車の内周面と前記波動発生器の外周面との間の潤滑状態を判別し、前記潤滑状態が悪化している場合には、前記潤滑状態を良好な状態に復帰させるために、負荷トルクの低下、加速レ-トの低減、あるいは、回転数と運転時間の設定を行う制御、
のうちの少なくとも一つを行うことを特徴とするアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト力を検出するための機構を備えた波動歯車装置およびアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置では、減速時に、波動発生器に減速回転出力側に向かう方向のスラスト力が作用し、増速時には、波動発生器に反対方向のスラスト力が作用する。本発明者は、特許文献1において、カップ型あるいはシルクハット型の波動歯車装置において、波動発生器が負荷側トルクによって回転することの無いように保持するために必要な入力側保持トルクを低減する方法を提案している。この方法では、可撓性の外歯歯車を備えた波動歯車装置において、減速時および増速時において波動発生器に作用するスラスト力の方向の違いを利用して、入力側保持トルクを低減している。
【0003】
一方、波動歯車装置として、パンケーキ型あるいはフラット型と呼ばれる波動歯車装置が知られている。この形式の波動歯車装置は、2枚の内歯歯車と、これらの内側に同軸に配置した円筒形状をした可撓性の外歯歯車と、この内側に同軸に装着した波動発生器とを備えている。一方の内歯歯車は、外歯歯車と歯数が異なる固定側(静止側)歯車であり、他方の内歯歯車は、外歯歯車と歯数が同一で一体回転する出力側(駆動側)歯車である。減速運転においては、モータ等から波動発生器に高速回転が入力されると、波動発生器の回転が固定側の内歯歯車と外歯歯車の歯数差に応じて大幅に減速されて、外歯歯車が減速回転する。減速回転は、外歯歯車と一体回転する出力側の内歯歯車から負荷側に出力される。逆に、増速運転においては、出力側の内歯歯車からの入力回転が、外歯歯車と固定側の内歯歯車との間で大幅に増速されて、波動発生器から高速回転が出力される。特許文献2に記載の波動歯車装置においては、外歯歯車と波動発生器との間に生じるスラスト力によって外歯歯車が移動することを規制する規制部材を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-231996号公報
【文献】特開2019-105314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
波動歯車装置においては、減速運転時と増速運転時に発生するスラスト力を検出する小型で装置に内蔵可能な検出器については提案されていない。小型で内蔵可能な検知器があれば、運転中のスラスト力に関する情報を利用して、検出したスラスト力に応じた運転制御が可能となる。
【0006】
本発明の目的は、この点に鑑みて、小型で内蔵可能なスラスト力を検出するための機構を備えた波動歯車装置、および当該波動歯車装置を備えたアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の波動歯車装置は、
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に配置された可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に配置され、前記外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車に部分的にかみ合わせている波動発生器と、
前記波動発生器を回転自在の状態で支持している装置ハウジングと、
前記波動発生器と前記外歯歯車との間に発生するスラスト力を検出するために、前記スラスト力により前記波動発生器に生じる軸線の方向の変位を検出する検出機構と、
を備えており、
前記波動発生器は、前記軸線の方向に相対移動可能な状態で一体回転するように、外部の回転軸に連結されるハブを備えており、
前記装置ハウジングは前記ハブを取り囲む筒状ハウジング部分を備えており、
前記検出機構は、前記ハブと前記筒状ハウジング部分との間に配置され、前記ハブに生じる前記軸線の方向の変位を検出することを特徴としている。
【0008】
波動歯車装置の波動発生器には、外部から回転力のみが伝達され、軸方向力は伝達されない。波動発生器には、軸方向力として、外歯歯車との間に発生するスラスト力が作用する。作用するスラスト力により、波動発生器のハブには軸線の方向に微小変位が生じる。この微小変位が検出機構により検出される。検出された微小変位に基づき波動発生器に作用するスラスト力を算出できる。
【0009】
また、検出機構は、波動発生器のハブと、これを取り囲む装置ハウジングの部位との間に形成される空間に配置されるので、波動歯車装置の軸長の増加を伴うことなく、検出機構を組み込むことができる。
【0010】
さらに、この検出機構が組み込まれた波動歯車装置、および、当該波動歯車装置とモータを備えたアクチュエータにおいては、運転中のスラスト力に関する情報を利用して、スラスト力に応じた運転制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】本発明を適用したカップ型の波動歯車装置の一例を示す説明図である。
【
図1B】波動歯車装置の内歯歯車に対する外歯歯車のかみ合い状態を示す説明図である。
【
図2】波動歯車装置の半縦断面を示す説明図であり、検出機構の別の取り付け例を示す。
【
図3】波動歯車装置を備えたアクチュエータの一例を示す説明図である。
【
図4A】本発明を適用した波動歯車装置の別の例を示す説明図である。
【
図5】本発明を適用したシルクハット型の波動歯車装置の例を示す説明図である。
【
図6】本発明を適用したパンケーキ型の波動歯車装置の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して本発明を適用した波動歯車装置の実施の形態を説明する。以下に述べる実施の形態は本発明の一例であり、本発明を実施の形態に限定することを意図したものではない。
【0013】
(全体構成)
図1Aおよび
図1Bを参照して説明すると、本発明を適用したカップ型の波動歯車装置1は、剛性の内歯歯車2と、この内側に同軸に配置したカップ形状をした可撓性の外歯歯車3と、この内側に同軸に装着した波動発生器4と、装置ハウジング5と、装置ハウジング5の内側に組み込まれた検出機構6とを備えている。検出機構6は、外歯歯車3と波動発生器4との間に発生するスラスト力によって波動発生器4に生じる軸線1aの方向の微小変位を検出する機構である。検出機構6の検出結果は、有線あるいは無線により、駆動制御装置20に供給される。
【0014】
駆動制御装置20は、コンピュータを中心に構成され、運転状態判別部20aおよび運転制御部20bを備えている。運転状態判別部20aは、検出機構6の検出結果に基づき、波動発生器4に作用するスラスト力の発生の有無、スラスト力の方向、スラスト力の大きさ、スラスト力の時間的変化などの情報を算出する。また、運転状態判別部20aは、スラスト力に関する算出情報に基づき、波動歯車装置1の運転状態を判別する。運転制御部20bは、運転状態の判別結果に基づき、波動歯車装置1の運転状態を制御する。
【0015】
装置ハウジング5は、円筒状の入力側ハウジング51と、この入力側ハウジング51の一端に同軸に締結固定された円筒状の出力側ハウジング52とを備えている。入力側ハウジング51は、大径の取付用フランジ51aと、取付用フランジ51aの端面から同軸に突出している筒状ハウジング部分51bと、この筒状ハウジング部分51bの端を封鎖している端板部分51cとを備えている。一方、出力側ハウジング52における出力側の端部には、クロスローラベアリング7を介して、出力軸8が回転自在の状態で支持されている。
【0016】
内歯歯車2は固定側部材であり、本例の内歯歯車2は、装置ハウジング5における出力側ハウジング52の内周面に一体形成されている。波動発生器4は高速回転が入力される入力側の部材であり、想像線で示すようにモータ軸9に同軸に連結される。外歯歯車3は、減速回転を出力する出力側の部材であり、外歯歯車3には円盤状の出力軸8が同軸に連結されている。
【0017】
外歯歯車3は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部31と、この円筒状胴部31の開口端の側の外周面部分に形成した外歯32と、円筒状胴部31の開口端とは反対側の端から半径方向の内方に延びているダイヤフラム33と、ダイヤフラム33の内周縁に繋がっている円環形状をした剛性のボス34とを備えている。外歯歯車3は内歯歯車2の内側に同軸に装着されて、外歯32が内歯歯車2の内歯21に半径方向の内側から対峙している。ボス34は、円環形状の押さえ部材11と出力軸8の間に挟まれており、これら三部材が複数本の締結ボルトによって締結固定されている。
【0018】
波動発生器4は、楕円状外周面を備えた剛性のウエーブプラグ41と、楕円状外周面に装着したウエーブベアリング42とを備えている。ウエーブベアリング42は、ウエーブプラグ41の楕円状外周面と外歯歯車3の円筒状胴部31の内周面との間に装着され、ウエーブプラグ41および外歯歯車3を相対回転可能な状態に保持している。また、ウエーブプラグ41に装着されて楕円状に撓められたウエーブベアリング42によって、外歯歯車3における外歯32が形成されている円筒状胴部31の部分が楕円形状に撓められている。楕円形状の長軸Lmaxの両端部分に位置する外歯32が内歯歯車2の内歯21にかみ合っている。
【0019】
ウエーブプラグ41における軸線1aの方向の一方のプラグ端面41a(入力側のプラグ端面)には、同軸状態で円筒形状をしたハブ43が一体形成されている。ハブ43の先端部は、入力側ハウジング51の端板部分51cにおける中心開口部の内周縁部に、ベアリング12を介して、回転自在の状態で支持されている。また、ハブ43は、入力側ハウジング51に対して、軸線1aの方向には移動しないように、ベアリング12を介して、入力側ハウジング51に取り付けられている。
【0020】
ハブ43の中心軸孔には、その先端開口から、想像線で示すモータ軸9が挿入されて、ハブ43に同軸に連結されている。ハブ43とモータ軸9との間は、例えば、スプライン結合部13を介して連結されており、ハブ43とモータ軸9は一体回転するが、軸線1aの方向には相対的にスライド可能である。これにより、モータ軸9と波動発生器4の間では、実質的に軸方向力が伝達されることがなく、これらの間で回転力のみが伝達される。
【0021】
(検出機構)
検出機構6は、波動発生器4におけるウエーブプラグ41のハブ43に発生する軸線方向の微小軸変位を検出する。検出機構6は、ハブ43と、これを取り囲む装置ハウジング5の入力側ハウジング51との間に組み込まれている。
【0022】
本例の検出機構6はレーザー測長器式の検出機構であり、レーザー光の射出および受光を行う検出ユニット61と、レーザー光を反射する反射面62aを備えた反射部62とを備えている。検出ユニット61は、反射面62aに向けてレーザー光を射出するレーザー光源63と、反射面62aで反射されたレーザー光を受光する受光部64とを備えている。公知のように、レーザー測長器では、三角測距方式、位相差測距方式等により距離計測が精度良く行われる。
【0023】
検出ユニット61は、入力側ハウジング51の端板部分51cに取り付けられている。反射部62は、端板部分51cに対して、軸線1aの方向から対峙しているウエーブプラグ41のプラグ端面41aに取り付けられている。反射部62の反射面62aは、ハブ43を同軸状に取り囲む一定幅のリング形状をしている。本例では、反射面62aは、軸線1aに直交する面であり、検出ユニット61は、軸線1aに沿った方向から反射面62aに対峙している。また、本例では、軸線1aを中心として、反射面62aにおける円周方向に180度離れた対称の角度位置に、一対の検出ユニット61が配置されている。3以上の複数の検出ユニット61を配置して、検出精度を高めることができる。
【0024】
(動作の説明)
この構成の波動歯車装置1において、モータ軸9によって波動発生器4が高速回転すると、外歯歯車3の内歯歯車2に対するかみ合い位置が、内歯歯車2の円周方向に移動する。外歯歯車3は内歯歯車2よりも歯数が2n枚少ない(n:正の整数)。本例では内歯歯車2が固定されているので、波動発生器4の回転に伴って外歯歯車3が減速回転する。外歯歯車3の減速回転が、そのボス34に連結されている出力軸8から不図示の負荷側に出力される。
【0025】
モータ軸9と波動発生器4のハブ43との間は、スプライン結合部13を介して連結されており、軸線1aの方向に相対移動可能な状態で一体回転する。外部のモータ軸9から波動発生器4には、回転力のみが伝達され、軸方向力は伝達されない。ハブ43が一体形成されているウエーブプラグ41には、外歯歯車3と波動発生器4との間に発生するスラスト力が作用する。
【0026】
波動発生器4のウエーブプラグ41のハブ43は、ベアリング12を介して、軸線1aの方向に移動しないように、固定側の装置ハウジング5の入力側ハウジング51によって支持されている。波動発生器4にスラスト力が作用すると、ウエーブプラグ41のハブ43には軸線1aの方向に微小変位が生じる。ハブ43の微小変位に応じて、ウエーブプラグ41の側の反射面62aの位置が検出ユニット61の受光部64に対して相対的に軸線1aの方向に微小に変位する。検出機構6によって微小変位量が測定される。
【0027】
検出機構6の検出結果(測定された微小変位量)は、有線あるいは無線により、駆動制御装置20に供給される。駆動制御装置20の運転状態判別部20aは、検出機構6の検出結果に基づき、スラスト力の発生の有無、スラスト力の方向、スラスト力の大きさ、スラスト力の時間的変化等を判別あるいは算出する。運転制御部20bは、検出機構6による検出結果、または、運転状態判別部20aによる判別結果に基づき、波動歯車装置1の運転制御を行う。
【0028】
ここで、検出機構6の温度補正を行って検出精度を高めることができる。この場合には、例えば、
図1Aに想像線で示すように、ウエーブプラグ41のプラグ端面41aあるいはハブ43の外周面の近傍に、温度センサ10を配置する。温度センサ10の出力を駆動制御装置20に取り込み、検出結果の温度補正を行う。後述の実施例においても、温度センサを配置して温度補正を行うことができる。
【0029】
(検出機構の別の取付例)
図2は波動歯車装置1の半縦断面を含む説明図であり、波動歯車装置1に組み込まれた検出機構6の別の取付例を示してある。
図2に示す検出機構6の検出ユニット61は、軸線1aに対して90度未満の角度だけ傾斜した向きとなるように、入力側ハウジング51に取り付けられている。検出ユニット61から射出されるレーザー光の向きに対応させて、ウエーブプラグ41のプラグ端面41aに配置した反射部62の反射面62aも、軸線1aに対して傾斜させてある。このように、軸線1aに対して検出機構6を傾斜して配置することもできる。
【0030】
(アクチュエータ)
図3は、本例の波動歯車装置1を用いたアクチュエータ(回転アクチュエータ)の一例を示す説明図である。この図に示すように、アクチュエータ100は、モータ110と、モータ出力回転を減速して出力する波動歯車装置1と、モータ110に組み込まれた回転検出機構120およびブレーキ機構130と、制御装置140とから構成される。制御装置140は、先に述べた運転状態判別部20aおよび運転制御部20bの機能を備えている。
【0031】
制御装置140は、検出される波動発生器4の微小変位からスラスト力を求める。スラスト力に基づき、モータ110およびブレーキ機構130の駆動を制御して、波動歯車装置1(波動発生器4)への入力回転を制御することで、波動歯車装置1の運転制御を行うことができる。
【0032】
例えば、次のように運転状態が判別されて波動歯車装置1の運転制御が行われる。
(1)スラスト力の方向検出によって、波動歯車装置1が減速運転か増速運転状態にあるのかを判別する。増速運転時には、ブレーキ機構130などによる摩擦トルクで、効率を低下させ、モータ110の保持トルクを低減させることができる。
(2)スラスト力の発生の有無に基づき次の状態を判別できる。波動発生器4及びこれに連結されるモータ軸9が完全にロック状態であればスラスト力は発生しない。よって、動作停止時の対象軸のロック力の過不足を判別できる。
多軸ロボットなど他の軸が動作中の場合、対象軸の波動歯車装置1によるロックが不足の場合では、増速運転となり、スラスト力が発生する。よって、ブレーキ機構130等を利用して、動作停止時の対象軸のロック力を大きくすることで、ロック力の不足に対応できる。
(3)スラスト力の大きさ、変動には、負荷トルクと、外歯歯車3の内周面と波動発生器4の外輪外周面の間の潤滑状態が大きく影響する。スラスト力の大きさ、変動に基づき、外歯歯車3の内周面と波動発生器4のウエーブベアリングの外輪外周面との間の潤滑状態の状態を知ることができる。
潤滑状態は、波動歯車装置1の運転姿勢、運転状態(一方向一定連続運転、高負荷低速運転、正逆時の短サイクルと大きな加速レ-ト、長期停止時間、潤滑剤の種類・状態)によって変動する。潤滑状態に基づき、寿命予知、診断を行うことができる。
潤滑状態が悪化していることが分かれば、潤滑状態を良好な状態に復帰させることができる。例えば、負荷トルクの低下、加速レ-トの低減、適正な回転数と運転時間の設定等を行うことができる。
【0033】
(その他の実施の形態)
(光学式の検出機構の例)
図4Aは、異なる形式の検出機構が組み込まれた波動歯車装置の縦断面を含む説明図であり、
図4Bはその検出機構の部分を示す説明図である。波動歯車装置1Aは波動歯車装置1と同一構成であるので、対応する部位には同一の符号を使用し、それらの部位の説明を省略する。
【0034】
波動歯車装置1Aに組み込まれている検出機構160は光学式の検出機構であり、ウエーブプラグ41のハブ43の外周面43aに配置された光学的に検出可能な検出模様161と、装置ハウジング5の入力側ハウジング51に取り付けた光学式の検出ユニット162とを備えている。
【0035】
ハブ43の外周面43aに配置した検出模様161は、ハブ外周部の軸線1aの方向の変位に追従して伸縮可能な模様である。本例の検出模様161は、軸線1aの方向に沿って、等間隔で交互に形成された一定幅の光の反射部161aおよび非反射部161bであり、例えば、ハブ43の外周面43aの全周に亘って形成されている。
【0036】
検出ユニット162は、発光部163、固定スリット板164および受光部165を備えている。発光部163は、検出光を、固定スリット板164に形成した光透過部である固定スリット164aを介して、検出模様161に向けて射出する。固定スリット164aも軸線1aの方向に沿って等間隔で配列された一定幅のスリットである。受光部165は、検出模様161で反射された検出光の反射光を、固定スリット板164の固定スリット164aを介して受光する。
【0037】
波動発生器4のウエーブプラグ41にスラスト力が作用して、そのハブ43が軸線1aの方向に微小変位すると、それに追従して、検出模様161が軸線1aの方向に伸縮する。この結果、ハブ43の微小変位に応じて、受光部165における反射光の受光量が変化する。これらの対応関係を事前に記憶保持しておくことで、検出された受光量に基づき、スラスト力の大きさ、方向等が求まる。
【0038】
検出ユニット162を、ハブ43の外周面43aの円周方向における複数の位置に配置することができる。例えば、軸線1aを中心として180度離れた対称の角度位置に、一対の検出ユニット162を配置する。これにより検出精度を高めることができる。なお、検出ユニット162として、検出模様161を同軸状に取り囲むリング状の発光部およびリング状の受光部を備えたものを用いることができる。3つ以上の複数の検出ユニット162を配置することもできる。
【0039】
また、光学的に検出可能な検出模様161は、ハブ43の外周面43aに、表面処理、あるいは、印刷等により、直接形成することができる。ハブ43の外周面43aに、検出模様161が形成あるいは印刷されたフレキシブルフィルム等を貼り付けてもよい。
【0040】
(磁気式の検出機構の例)
次に、検出機構として、磁気式の検出機構を用いることができる。
図4Cは、磁気式の検出機構の一例を示す説明図である。この図を参照して説明すると、波動歯車装置1A(
図4A参照)に組み込まれる磁気式の検出機構260は、ウエーブプラグ41のハブ43の外周面43aに配置された磁気的に検出可能な検出模様261と、装置ハウジング5の入力側ハウジング51に取り付けた磁気式の検出ユニット262とを備えている。
【0041】
ハブ43の外周面43aに配置した検出模様261は、ハブ外周部の軸線1aの方向の変位に追従して伸縮可能な模様である。本例の検出模様161は、軸線1aの方向に沿って、等間隔で交互に形成された一定幅の磁性部261aおよび非磁性部261bであり、ハブ43の外周面43aの全周に亘って形成されている。例えば、ハブ43の外周面43aにおいて、一定幅でメタル系磁性粉等を塗布して形成した磁性輪帯を、軸線1aの方向に等間隔に配列することで、検出模様261が得られる。
【0042】
ハブ43の外周面43aの表面処理によって直接に磁性輪帯を形成してもよい。例えば、オーステナイト系ステンレス鋼からなるハブ43の外周面43aに対して、非磁性で塑性変形しやすい残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させるショットピーニング処理を施し、処理面を研磨仕上げすることで、軸線の方向に一定の間隔で磁性部が形成される。また、ハブ43の外周面43aに、磁性媒体からなる検出模様261が印刷されたフレキシブルフィルム等を、貼り付けてもよい。
【0043】
検出ユニット262は、検出模様261の軸線1aの方向の伸縮に伴って磁場強度が変化するように検出模様261に対峙させた磁石263および磁場強度の変化を検出するMR素子などの磁気検出素子264を備えている。磁石263には、軸線1aの方向に沿って等間隔で交互に一定幅のN極およびS極が形成されている。
【0044】
磁気式の検出ユニット262も、ハブ43の外周面43aの円周方向における複数の位置に配置することができる。例えば、軸線1aを中心として180度離れた対称の角度位置に、一対の検出ユニット262を配置する。これにより検出精度を高めることができる。なお、検出ユニット262として、検出模様261を同軸状に取り囲むリング状の磁石およびリング状の磁気検出素子を備えたものを用いることもできる。3つ以上の検出ユニットを配置することもできる。
【0045】
(波動歯車装置の別の例)
上記の例は、本発明をカップ型の波動歯車装置に適用した場合のものである。本発明は、シルクハット型の波動歯車装置、パンケーキ型の波動歯車装置に対しても適用可能である。
【0046】
図5は、検出機構6が組み込まれたシルクハット型の波動歯車装置1Bを示す説明図である。シルクハット型の波動歯車装置1Bは、剛性の内歯歯車2Bと、シルクハット形状の外歯歯車3Bと、波動発生器4Bと、入力側ハウジング51B(装置ハウジング)とを備えている。シルクハット形状の外歯歯車3Bは、円筒状胴部31Bと、この外周面に形成した外歯32Bと、円筒状胴部31Bの一端から半径方向の外方に広がるダイヤフラム33Bと、ダイヤフラム33Bの外周縁に形成した円環形状をした剛性のボス34Bとを備えている。
【0047】
ボス34Bには、同軸状態で、円盤状の出力軸8Bおよびクロスローラベアリング7Bの外輪に固定されている。波動発生器4Bのウエーブプラグ41Bのハブ43Bと、これを取り囲む入力側ハウジング51Bとの間には、検出機構6(160、260)が組み込まれている。
【0048】
図6は、検出機構が組み込まれたパンケーキ型の波動歯車装置1Cを示す説明図である。パンケーキ型の波動歯車装置1Cは、剛性の内歯歯車2Cと、内歯歯車2Cの内側に同軸に配置された可撓性の外歯歯車3Cと、外歯歯車3Cの内側に同軸に配置され、外歯歯車3Cを非円形に撓めて内歯歯車2Cに部分的にかみ合わせている波動発生器4Cと、入力側ハウジング51C(装置ハウジング)と、波動発生器4Cと外歯歯車3Cとの間に発生するスラスト力による波動発生器4Cの軸線の方向の微小変位を検出する検出機構6(160、260)とを有している。
【0049】
また、波動歯車装置1Cは、内歯歯車2Cに対して、軸線の方向に並べて同軸に配置した剛性の駆動側内歯歯車2Dを備えている。駆動側内歯歯車2Dには、同軸に、円盤状の出力軸8Cが固定されている。波動発生器4Cによって非円形に撓められた外歯歯車3Cは駆動側内歯歯車2Dにも部分的にかみ合っている。外歯歯車3Cは、半径方向に撓み可能な円筒状胴部を備え、その外周面に外歯が形成されている。内歯歯車2Cは外歯歯車3Cとは歯数が相違し、駆動側内歯歯車2Dは、外歯歯車3Cと一体回転するように、外歯歯車3Cとは歯数が同一である。波動発生器4Cのウエーブプラグ41Cのハブ43Cと、これを取り囲む入力側ハウジング51Cとの間には、検出機構6(160、260)が組み込まれている。