(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】ダイシングダイボンドフィルム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240722BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240722BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240722BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H01L21/78 M
C09J7/38
C09J201/00
H01L21/52 E
(21)【出願番号】P 2018227882
(22)【出願日】2018-12-05
【審査請求日】2021-08-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】福井 章洋
(72)【発明者】
【氏名】高本 尚英
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄大
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉村 敏正
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】中野 浩昌
【審判官】松永 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-81954(JP,A)
【文献】特開2017-216273(JP,A)
【文献】特開2017-5160(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152957(WO,A1)
【文献】特開2017-92296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と粘着剤層とを含む積層構造を有するダイシングテープと、
前記ダイシングテープにおける前記粘着剤層に剥離可能に密着しているダイボンドフィルムとを備え、
前記ダイシングテープは、幅10mmのダイシングテープ試験片について初期チャック間距離50mm、-15℃、および引張速度300mm/分の条件で行われる引張試験での破断伸度が120%以上であり、
前記ダイボンドフィルムは、幅10mmおよび厚さ210μmのダイボンドフィルム試験片について初期チャック間距離20mm、-15℃、および引張速度100mm/分の条件で行われる引張試験での破断伸度が20%以下であり、
前記ダイボンドフィルムは、直径D
1の円盤形状を有し、当該円盤形状と同心円の直径D
2のウエハ貼着領域を含み、且つD
1およびD
2がD
1>D
2および(D
1-D
2)/D
2<0.1を充た
し、
前記ダイボンドフィルムの厚さは、30μm以上150μm以下である、ダイシングダイボンドフィルム。
【請求項2】
前記ウエハ貼着領域の直径D
2は200~300mmである、請求項1に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項3】
前記ダイシングテープは、初期チャック間距離100mm、23℃および引張速度1000mm/分の条件でチャック間距離120mmまで伸張された幅10mmのダイシングテープ試験片について加熱温度100℃および加熱時間10秒の条件で行われる加熱処理試験での熱収縮率が、0.1
%以上である、請求項1または2に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造過程で使用することのできるダイシングダイボンドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程においては、ダイボンディング用のチップ相当サイズの接着フィルムを伴う半導体チップ、即ちダイボンドフィルム付き半導体チップを得るうえで、ダイシングダイボンドフィルムが使用される場合がある。ダイシングダイボンドフィルムは、例えば、基材および粘着剤層からなるダイシングテープと、その粘着剤層側に剥離可能に密着しているダイボンドフィルムとを有する。
【0003】
ダイシングダイボンドフィルムを使用してダイボンドフィルム付き半導体チップを得る手法の一つとして、ダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープをエキスパンドしてダイボンドフィルムを割断する工程を経る手法が知られている。
【0004】
この手法では、まず、ダイシングダイボンドフィルムのダイボンドフィルム上に半導体ウエハが貼り合わせられる。ダイボンドフィルムは、半導体ウエハを上回るサイズの円盤形状を有する。半導体ウエハは、例えば、後にダイボンドフィルムと共に割断されて複数の半導体チップへと個片化可能なように、加工されたものである。
【0005】
次に、それぞれが半導体チップに密着している複数の接着フィルム小片がダイシングテープ上のダイボンドフィルムから生じるように当該ダイボンドフィルムを割断すべく、エキスパンド装置が使用されてダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープが半導体ウエハの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされる。このエキスパンド工程では、ダイボンドフィルムにおける割断箇所に相当する箇所でダイボンドフィルム上の半導体ウエハにおいても割断が生じ、ダイシングダイボンドフィルム上ないしダイシングテープ上にて半導体ウエハの個片化が図られる。
【0006】
エキスパンド工程にて引き伸ばされて弛緩したダイシングダイボンドフィルムについては、それにおける半導体ウエハ周りの周縁領域が加熱されて収縮させられる(ヒートシュリンク工程)。これにより、ダイボンドフィルムにおける周縁領域より内側の領域(ウエハ貼合わせ領域)は所定程度の張力が作用する状態に至る。このようなヒートシュリンク工程は、上述のエキスパンド工程において割断された半導体チップ間の離隔距離、即ちいわゆるカーフ幅を、確保する目的で実施される。
【0007】
次に、例えば洗浄工程を経た後、各半導体チップがそれに密着しているチップ相当サイズのダイボンドフィルムと共に、ダイシングテープの下側からピックアップ機構のピン部材によって突き上げられたうえでダイシングテープ上からピックアップされる。このようにして、ダイボンドフィルム即ち接着剤層を伴う半導体チップが得られる。このダイボンドフィルム付き半導体チップは、そのダイボンドフィルムを介して、実装基板等の被着体にダイボンディングによって固着されることとなる。
【0008】
例えば以上のように使用されるダイシングダイボンドフィルムに関する技術については、例えば下記の特許文献1,2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-2173号公報
【文献】特開2010-177401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来式のダイシングダイボンドフィルムを使用して行う半導体装置製造過程における上述のようなヒートシュリンク工程では、ダイシングダイボンドフィルムにおける加熱箇所(半導体ウエハの周りの周縁領域)が十分に収縮しない場合がある。その場合、ダイシングダイボンドフィルムにおいて当該加熱箇所より内側のウエハ貼合わせ領域が十分に引っ張られず、ダイシングダイボンドフィルム上の半導体チップ間にて十分なカーフ幅が確保されないこととなる。十分なカーフ幅が確保されない場合、ダイシングテープ上からダイボンドフィルム付き半導体チップを適切にピックアップできないことがあり、例えば、半導体チップのピックアップ時に、当該チップとそれに隣接するチップおいて、チップ間接触に起因する損傷等が生じることがある。
【0011】
本発明は、以上のような事情のもとで考え出されたものであって、その目的は、ダイボンドフィルム付き半導体チップを得るためにダイシングダイボンドフィルムを使用して行うエキスパンド工程において良好な割断を実現しつつ、チップ間の割断箇所についてその後に十分なカーフ幅を確保するのに適した、ダイシングダイボンドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明により提供されるダイシングダイボンドフィルムは、ダイシングテープおよびダイボンドフィルムを備える。ダイシングテープは、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有する。このダイシングテープは、幅10mmのダイシングテープ試験片について初期チャック間距離50mm、-15℃、および引張速度300mm/分の条件で行われる引張試験での破断伸度(伸張前の長さに対する、破断時の伸張分の長さの割合)が、120%以上である。ダイボンドフィルムは、ダイシングテープにおける粘着剤層に剥離可能に密着している。このダイボンドフィルムは、幅10mmおよび厚さ210μmのダイボンドフィルム試験片について初期チャック間距離20mm、-15℃、および引張速度100mm/分の条件で行われる引張試験での破断伸度が、20%以下である。また、ダイボンドフィルムは、直径D1(mm)の円盤形状を有し、当該円盤形状と同心円の直径D2(mm)のウエハ貼着領域(即ち、半導体ウエハが貼り合わされることとなる領域)を含み、且つ、D1およびD2がD1>D2および(D1-D2)/D2<0.1を充たす。ダイボンドフィルムにおけるウエハ貼着領域の直径D2は、例えば200~300mmである。本ダイシングダイボンドフィルムが8インチウエハ対応型として設計される場合、D2は、例えば200mm±5mmであり、好ましくは200mm±1mm、より好ましくは200mm±0.5mmである。本ダイシングダイボンドフィルムが12インチウエハ対応型として設計される場合、D2は、例えば300mm±5mmであり、好ましくは300mm±1mm、より好ましくは300mm±0.5mmである。このような構成のダイシングダイボンドフィルムは、半導体装置の製造過程でダイボンドフィルム付き半導体チップを得るのに使用することができる。
【0013】
半導体装置の製造過程においては、上述のように、ダイボンドフィルム付き半導体チップを得るうえで、ダイシングダイボンドフィルムを使用して行う割断用のエキスパンド工程が実施される場合がある。ダイシングダイボンドフィルムの一構成要素をなすダイボンドフィルムにとり、幅10mmおよび厚さ210μmのダイボンドフィルム試験片について初期チャック間距離20mm、-15℃、および引張速度100mm/分の条件で行われる引張試験での破断伸度が20%以下であるという上記構成は、割断用エキスパンド工程にあるダイボンドフィルムについて、その割断予定箇所に割断を生じさせるのに適することを、本発明者らは見いだした。例えば後記の実施例および比較例をもって示すとおりである。ダイボンドフィルムについての上記引張試験での破断伸度が20%以下であるという上記構成は、割断用エキスパンド工程において、当該ダイボンドフィルムを割断させるための引張り長さが過大となるのを回避しつつ当該ダイボンドフィルムに延性破壊等による破断を生じさせるのに適するのである。ダイボンドフィルムについて割断用エキスパンド工程での良好な割断性を確保するという観点からは、ダイボンドフィルムについての上記引張試験での破断伸度は、好ましくは18%以下、より好ましくは15%以下である。
【0014】
本ダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープは、上述のように、幅10mmのダイシングテープ試験片について初期チャック間距離50mm、-15℃、および引張速度300mm/分の条件で行われる引張試験での破断伸度が120%以上である。このような構成は、ダイシングテープについて、引っ張り作用を受けるエキスパンド工程において破断するのを回避するのに好適である。ダイシングテープについて、引っ張り作用を受けるエキスパンド工程において破断するのを回避するうえでは、ダイシングテープの前記破断伸度は、好ましくは150%以上、より好ましくは200%以上、より好ましくは250%以上である。
【0015】
半導体装置の製造過程においては、上述のように、ダイボンドフィルム付き半導体チップを得るうえで、割断用エキスパンド工程後にヒートシュリンク工程が実施される場合がある。ダイシングダイボンドフィルムの一構成要素をなすダイボンドフィルムとり、ダイボンドフィルムの直径D1と当該ダイボンドフィルムの一部であるウエハ貼着領域の直径D2(<D1)とが(D1-D2)/D2<0.1を充たすという上記構成は、所定サイズのダイシングダイボンドフィルムの面内方向ないし径方向において、ワークである半導体ウエハに対してダイボンドフィルムが過大となるのを抑制するのに適し、従って、ダイボンドフィルム周りに当該フィルムによって被覆されていない十分な広さのダイシングテープ領域を確保するのに適する。基材と粘着剤層とを含むダイシングテープはダイボンドフィルムよりも加熱による収縮率が大きい傾向にある。そのため、ダイシングダイボンドフィルムにおいてダイボンドフィルム周りに当該フィルムによって被覆されていない十分な広さのダイシングテープ領域を確保するのに適する上記構成は、ヒートシュリンク工程において、ダイシングダイボンドフィルムの半導体ウエハ周りを十分に加熱収縮させるのに適し、従って、ダイシングダイボンドフィルムの当該加熱箇所より内側のウエハ貼合わせ領域に十分な張力を作用させて当該フィルム上の半導体チップ間にて十分なカーフ幅を確保するのに適する。ヒートシュリンク工程においてダイシングダイボンドフィルム上の半導体チップ間にて十分なカーフ幅を確保するという観点からは、(D1-D2)/D2の値は、好ましくは0.7以下であり、より好ましくは0.5以下である。
【0016】
以上のように、本発明に係るダイシングダイボンドフィルムは、割断用のエキスパンド工程において良好な割断を実現しつつ、チップ間の割断箇所についてその後に十分なカーフ幅を確保するのに適する。
【0017】
本ダイシングダイボンドフィルムにおいて、上記のダイシングテープは、初期チャック間距離100mm、23℃および引張速度1000mm/分の条件でチャック間距離120mmまで伸張された幅10mmのダイシングテープ試験片について加熱温度100℃および加熱時間10秒の条件で行われる加熱処理試験での熱収縮率が好ましくは0.1以上%、より好ましくは0.2%以上、より好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.6%以上、より好ましくは0.7%以上、より好ましくは1%以上、より好ましくは1.5%以上である。ダイシングテープないしその基材のいわゆるMD方向といわゆるTD方向とで熱収縮率が異なる場合、本発明におけるダイシングテープの熱収縮率とは、MD方向の熱収縮率とTD方向の熱収縮率との平均値に相当する平均熱収縮率をいうものとする。このような構成は、ヒートシュリンク工程において、ダイシングダイボンドフィルムの半導体ウエハ周りを十分に加熱収縮させるのに適し、従って、ダイシングダイボンドフィルムの当該加熱箇所より内側のウエハ貼合わせ領域に十分な張力を作用させて当該フィルム上の半導体チップ間にて十分なカーフ幅を確保するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一の実施形態に係るダイシングダイボンドフィルムの断面模式図である。
【
図2】
図1に示すダイシングダイボンドフィルムが使用される半導体装置製造方法における一部の工程を表す。
【
図8】
図1に示すダイシングダイボンドフィルムが使用される半導体装置製造方法の変形例における一部の工程を表す。
【
図10】
図1に示すダイシングダイボンドフィルムが使用される半導体装置製造方法の変形例における一部の工程を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一の実施形態に係るダイシングダイボンドフィルムXの断面模式図である。ダイシングダイボンドフィルムXは、ダイボンドフィルム10とダイシングテープ20とを含む積層構造を有する。ダイシングテープ20は、基材21と粘着剤層22とを含む積層構造を有する。粘着剤層22は、ダイボンドフィルム10側に粘着面22aを有する。ダイボンドフィルム10は、ダイシングテープ20の粘着剤層22ないしその粘着面22aに剥離可能に密着している。ダイシングダイボンドフィルムXは、半導体装置の製造においてダイボンドフィルム付き半導体チップを得る過程での例えば後記のようなエキスパンド工程に使用することのできるものである。
【0020】
ダイシングダイボンドフィルムXにおけるダイボンドフィルム10は、熱硬化性を示すダイボンディング用接着剤として機能しうる構成を有する。ダイボンドフィルム10は、樹脂成分として、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有してもよいし、硬化剤と反応して結合を生じ得る熱硬化性官能基を伴う熱可塑性樹脂を含む組成を有してもよい。熱硬化性官能基を伴う熱可塑性樹脂を含む組成をダイボンドフィルム10が有する場合、当該ダイボンドフィルム10は熱硬化性樹脂を更に含む必要はない。このようなダイボンドフィルム10は、単層構造を有してもよいし、隣接層間で組成の異なる多層構造を有してもよい。
【0021】
ダイボンドフィルム10が熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有する場合の当該熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、および熱硬化性ポリイミド樹脂が挙げられる。ダイボンドフィルム10は、一種類の熱硬化性樹脂を含有してもよいし、二種類以上の熱硬化性樹脂を含有してもよい。エポキシ樹脂は、ダイボンディング対象である半導体チップの腐食原因となりうるイオン性不純物等の含有量が少ない傾向にあることから、ダイボンドフィルム10中の熱硬化性樹脂として好ましい。また、エポキシ樹脂に熱硬化性を発現させるための硬化剤としては、フェノール樹脂が好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型、およびグリシジルアミン型の、エポキシ樹脂が挙げられる。フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、およびテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂は、硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み且つ耐熱性に優れることから、ダイボンドフィルム10中のエポキシ樹脂として好ましい。
【0023】
エポキシ樹脂の硬化剤として作用しうるフェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、および、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレンが挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、およびノニルフェノールノボラック樹脂が挙げられる。ダイボンドフィルム10は、エポキシ樹脂の硬化剤として、一種類のフェノール樹脂を含有してもよいし、二種類以上のフェノール樹脂を含有してもよい。フェノールノボラック樹脂やフェノールアラルキル樹脂は、ダイボンディング用接着剤としてのエポキシ樹脂の硬化剤として用いられる場合に当該接着剤の接続信頼性を向上させる傾向にあるので、ダイボンドフィルム10中のエポキシ樹脂用硬化剤として好ましい。
【0024】
ダイボンドフィルム10がエポキシ樹脂とその硬化剤としてのフェノール樹脂とを含有する場合、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対してフェノール樹脂中の水酸基が好ましくは0.5~2.0当量、より好ましくは0.8~1.2当量である割合で、両樹脂は配合される。このような構成は、ダイボンドフィルム10の硬化にあたって当該エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の硬化反応を十分に進行させるうえで好ましい。
【0025】
ダイボンドフィルム10における熱硬化性樹脂の含有割合は、ダイボンドフィルム10においてその熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させるという観点からは、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~50質量%である。
【0026】
ダイボンドフィルム10中の熱可塑性樹脂は例えばバインダー機能を担うものであり、ダイボンドフィルム10が熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有する場合の当該熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびフッ素樹脂が挙げられる。ダイボンドフィルム10は、一種類の熱可塑性樹脂を含有してもよいし、二種類以上の熱可塑性樹脂を含有してもよい。アクリル樹脂は、イオン性不純物が少なく且つ耐熱性が高いことから、ダイボンドフィルム10中の熱可塑性樹脂として好ましい。
【0027】
ダイボンドフィルム10が熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂を含有する場合の当該アクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および/または「メタクリル」を意味するものとする。
【0028】
アクリル樹脂のモノマーユニットをなすための(メタ)アクリル酸エステル、即ち、アクリル樹脂の構成モノマーである(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、および(メタ)アクリル酸アリールエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s-ブチルエステル、t-ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2-エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル(即ちラウリルエステル)、トリデシルエステル、テトラデシルエステル、ヘキサデシルエステル、オクタデシルエステル、およびエイコシルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のシクロペンチルエステルおよびシクロヘキシルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニルおよび(メタ)アクリル酸ベンジルが挙げられる。アクリル樹脂の構成モノマーとして、一種類の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよいし、二種類以上の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよい。また、アクリル樹脂は、それを形成するための原料モノマーを重合して得ることができる。重合手法としては、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合、および懸濁重合が挙げられる。
【0029】
アクリル樹脂は、例えばその凝集力や耐熱性の改質のために、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な一種類の又は二種類以上の他のモノマーを構成モノマーとしてもよい。そのようなモノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、およびアクリロニトリルが挙げられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸カルボキシペンチル、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、およびクロトン酸が挙げられる。酸無水物モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸および無水イタコン酸が挙げられる。ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、および(メタ)アクリル酸(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチルが挙げられる。エポキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルおよび(メタ)アクリル酸メチルグリシジルが挙げられる。スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、および(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸が挙げられる。リン酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートが挙げられる。
【0030】
ダイボンドフィルム10において高い凝集力を実現するという観点からは、ダイボンドフィルム10に含まれるアクリル樹脂は、好ましくは、アクリル酸ブチルとアクリル酸エチルとアクリロニトリルとの共重合体である。
【0031】
ダイボンドフィルム10が、熱硬化性官能基を伴う熱可塑性樹脂を含む組成を有する場合、当該熱可塑性樹脂としては、例えば、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂を用いることができる。この熱硬化性官能基含有アクリル樹脂をなすためのアクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。そのような(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ダイボンドフィルム10に含有されるアクリル樹脂の構成モノマーとして上記したのと同様の(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。一方、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂をなすための熱硬化性官能基としては、例えば、グリシジル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、およびイソシアネート基が挙げられる。これらのうち、グリシジル基およびカルボキシ基を好適に用いることができる。すなわち、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂としては、グリシジル基含有アクリル樹脂やカルボキシ基含有アクリル樹脂を好適に用いることができる。また、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基の種類に応じて、それと反応を生じうる硬化剤が選択される。熱硬化性官能基含有アクリル樹脂の熱硬化性官能基がグリシジル基である場合、硬化剤としては、エポキシ樹脂用硬化剤として上記したのと同様のフェノール樹脂を用いることができる。
【0032】
ダイボンディングのために硬化される前のダイボンドフィルム10について、ある程度の架橋度を実現するためには、例えば、ダイボンドフィルム10に含まれる上述の樹脂成分の分子鎖末端の官能基等と反応して結合を生じうる多官能性化合物を架橋剤としてダイボンドフィルム形成用樹脂組成物に配合しておくのが好ましい。このような構成は、ダイボンドフィルム10について、高温下での接着特性を向上させるうえで、また、耐熱性の改善を図るうえで、好適である。そのような架橋剤としては、例えばポリイソシアネート化合物が挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、および、多価アルコールとジイソシアネートの付加物が挙げられる。ダイボンドフィルム形成用樹脂組成物における架橋剤含有量は、当該架橋剤と反応して結合を生じうる上記官能基を有する樹脂100質量部に対し、形成されるダイボンドフィルム10の凝集力向上の観点からは好ましくは0.05質量部以上であり、形成されるダイボンドフィルム10の接着力向上の観点からは好ましくは7質量部以下である。また、ダイボンドフィルム10における架橋剤としては、エポキシ樹脂等の他の多官能性化合物をポリイソシアネート化合物と併用してもよい。
【0033】
ダイボンドフィルム10に配合される上記のアクリル樹脂および上記の熱硬化性官能基含有アクリル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは-40~10℃である。ポリマーのガラス転移温度については、下記のFoxの式に基づき求められるガラス転移温度(理論値)を用いることができる。Foxの式は、ポリマーのガラス転移温度Tgと、当該ポリマーにおける構成モノマーごとの単独重合体のガラス転移温度Tgiとの関係式である。下記のFoxの式において、Tgはポリマーのガラス転移温度(℃)を表し、Wiは当該ポリマーを構成するモノマーiの重量分率を表し、Tgiはモノマーiの単独重合体のガラス転移温度(℃)を示す。単独重合体のガラス転移温度については文献値を用いることができ、例えば「新高分子文庫7 塗料用合成樹脂入門」(北岡協三 著,高分子刊行会,1995年)や「アクリルエステルカタログ(1997年度版)」(三菱レイヨン株式会社)には、各種の単独重合体のガラス転移温度が挙げられている。一方、モノマーの単独重合体のガラス転移温度については、特開2007-51271号公報に具体的に記載されている手法によって求めることも可能である。
【0034】
Foxの式 1/(273+Tg)=Σ[Wi/(273+Tgi)]
【0035】
ダイボンドフィルム10は、フィラーを含有してもよい。ダイボンドフィルム10へのフィラーの配合は、ダイボンドフィルム10の弾性率や、降伏点強度、破断伸度などの物性を調整するうえで好ましい。フィラーとしては、無機フィラーおよび有機フィラーが挙げられる。フィラーは、球状、針状、フレーク状など各種形状を有していてもよい。また、ダイボンドフィルム10は、一種類のフィラーを含有してもよいし、二種類以上のフィラーを含有してもよい。
【0036】
上記の無機フィラーの構成材料としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素、結晶質シリカ、および非晶質シリカが挙げられる。無機フィラーの構成材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル等の単体金属や、合金、アモルファスカーボン、グラファイトなども挙げられる。ダイボンドフィルム10が無機フィラーを含有する場合の当該無機フィラーの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。また、同含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0037】
上記の有機フィラーの構成材料としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、およびポリエステルイミドが挙げられる。ダイボンドフィルム10が有機フィラーを含有する場合の当該有機フィラーの含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上である。また、同含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは17質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0038】
ダイボンドフィルム10がフィラーを含有する場合の当該フィラーの平均粒径は、好ましくは0.005~10μm、より好ましくは0.05~1μmである。当該フィラーの平均粒径が0.005μm以上であるという構成は、ダイボンドフィルム10において、半導体ウエハ等の被着体に対する高い濡れ性や接着性を実現するうえで好適である。当該フィラーの平均粒径が10μm以下であるという構成は、ダイボンドフィルム10において十分なフィラー添加効果を得るとともに耐熱性を確保するうえで好適である。フィラーの平均粒径は、例えば、光度式の粒度分布計(商品名「LA-910」,株式会社堀場製作所製)を使用して求めることができる。
【0039】
ダイボンドフィルム10は、熱硬化触媒を含有してもよい。ダイボンドフィルム10への熱硬化触媒の配合は、ダイボンドフィルム10の硬化にあたって樹脂成分の硬化反応を十分に進行させたり、硬化反応速度を高めるうえで、好ましい。そのような熱硬化触媒としては、例えば、イミダゾール系化合物、トリフェニルフォスフィン系化合物、アミン系化合物、およびトリハロゲンボラン系化合物が挙げられる。イミダゾール系化合物としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-ウンデシルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-エチル-4'-メチルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、および2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールが挙げられる。トリフェニルフォスフィン系化合物としては、例えば、トリフェニルフォスフィン、トリブチルフォスフィン、トリ(p-メチルフェニル)フォスフィン、トリ(ノニルフェニル)フォスフィン、ジフェニルトリルフォスフィン、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、メチルトリフェニルホスホニウム、メチルトリフェニルホスホニウムクロライド、メトキシメチルトリフェニルホスホニウム、およびベンジルトリフェニルホスホニウムクロライドが挙げられる。トリフェニルフォスフィン系化合物には、トリフェニルフォスフィン構造とトリフェニルボラン構造とを併有する化合物も含まれるものとする。そのような化合物としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリボレート、ベンジルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、およびトリフェニルホスフィントリフェニルボランが挙げられる。アミン系化合物としては、例えば、モノエタノールアミントリフルオロボレートおよびジシアンジアミドが挙げられる。トリハロゲンボラン系化合物としては、例えばトリクロロボランが挙げられる。ダイボンドフィルム10は、一種類の熱硬化触媒を含有してもよいし、二種類以上の熱硬化触媒を含有してもよい。
【0040】
ダイボンドフィルム10は、必要に応じて、一種類の又は二種類以上の他の成分を含有してもよい。当該他の成分としては、例えば、難燃剤、シランカップリング剤、およびイオントラップ剤が挙げられる。難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、および臭素化エポキシ樹脂が挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、およびγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが挙げられる。イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、含水酸化アンチモン(例えば東亜合成株式会社製の「IXE-300」)、特定構造のリン酸ジルコニウム(例えば東亜合成株式会社製の「IXE-100」)、ケイ酸マグネシウム(例えば協和化学工業株式会社製の「キョーワード600」)、およびケイ酸アルミニウム(例えば協和化学工業株式会社製の「キョーワード700」)が挙げられる。金属イオンとの間で錯体を形成し得る化合物もイオントラップ剤として使用することができる。そのような化合物としては、例えば、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物、およびビピリジル系化合物が挙げられる。これらのうち、金属イオンとの間で形成される錯体の安定性の観点からはトリアゾール系化合物が好ましい。そのようなトリアゾール系化合物としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-{N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル}ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、6-(2-ベンゾトリアゾリル)-4-t-オクチル-6'-t-ブチル-4'-メチル-2,2'-メチレンビスフェノール、1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1-(1,2-ジカルボキシジエチル)ベンゾトリアゾール、1-(2-エチルヘキシルアミノメチル)ベンゾトリアゾール、2,4-ジ-t-ペンチル-6-{(H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル}フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、オクチル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-エチルヘキシル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-ブチルフェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロ-ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ジ(1,1-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2,2'-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]、(2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、および、メチル-3-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネートが挙げられる。また、キノール化合物や、ヒドロキシアントラキノン化合物、ポリフェノール化合物などの所定の水酸基含有化合物も、イオントラップ剤として使用することができる。そのような水酸基含有化合物としては、具体的には、1,2-ベンゼンジオール、アリザリン、アントラルフィン、タンニン、没食子酸、没食子酸メチル、およびピロガロールが挙げられる。
【0041】
ダイボンドフィルム10の厚さは、好ましくは3μm以上、より好ましくは7μm以上、より好ましくは10μm以上である。また、ダイボンドフィルム10の厚さは、好ましくは150μm以下、より好ましくは140μm以下、より好ましくは135μm以下である。
【0042】
ダイボンドフィルム10は、直径D1(mm)の円盤形状を有する。これとともに、ダイボンドフィルム10は、その円盤形状と同心円の直径D2(mm)のウエハ貼着領域10Aを含む。ウエハ貼着領域10Aの直径D2は、例えば200~300mmの範囲内にある。具体的には、ダイシングダイボンドフィルムXが8インチウエハ対応型として設計される場合、D2は、例えば200mm±5mmであり、好ましくは200mm±1mm、より好ましくは200mm±0.5mmである。ダイシングダイボンドフィルムXが12インチウエハ対応型として設計される場合、D2は、例えば300mm±5mmであり、好ましくは300mm±1mm、より好ましくは300mm±0.5mmである。
【0043】
ダイシングダイボンドフィルムXにおいて、ダイボンドフィルム10の直径D1とウエハ貼着領域10Aの直径D2は、D1>D2および(D1-D2)/D2<0.1を充たす。(D1-D2)/D2の値は、好ましくは0.7以下であり、より好ましくは0.5以下である。これら構成は、ダイシングダイボンドフィルムXにおいてダイボンドフィルム10周りに当該フィルムによって被覆されていない十分な広さのダイシングテープ領域を確保するのに適する。
【0044】
ダイボンドフィルム10は、幅10mmおよび厚さ210μmのダイボンドフィルム試験片について初期チャック間距離20mm、-15℃、および引張速度100mm/分の条件で行われる引張試験での破断伸度(伸張前の長さに対する、破断時の伸張分の長さの割合)が20%以下であり、好ましくは18%以下、より好ましくは15%以下である。この破断伸度については、引張試験機(商品名「オートグラフ AG-X」,株式会社島津製作所製)を使用して測定することができる。また、ダイボンドフィルム10における破断伸度の調整は、ダイボンドフィルム10における無機フィラーおよび/または有機フィラーの配合量の制御や、ダイボンドフィルム10中の上述のアクリル樹脂のガラス転移温度の制御などによって、行うことが可能である。
【0045】
ダイボンドフィルム10の未硬化状態における120℃での粘度は、好ましくは300Pa・s以上、より好ましくは700Pa・s以上、より好ましくは1000Pa・s以上である。また、ダイボンドフィルム10の未硬化状態における120℃での粘度は、好ましくは5000Pa・s以下、より好ましくは4500Pa・s以下、より好ましくは4000Pa・s以下である。
【0046】
以上のようなダイボンドフィルム10は、温度23℃、剥離角度180・および引張速度300mm/分の条件での剥離試験において、SUS平面に対し、例えば0.3~20N/10mmの180・剥離粘着力を示す。このような構成は、ダイシングダイボンドフィルムXないしそのダイボンドフィルム10によるワークの保持を確保するうえで好適である。
【0047】
ダイシングダイボンドフィルムXにおけるダイシングテープ20の基材21は、ダイシングテープ20ないしダイシングダイボンドフィルムXにおいて支持体として機能する要素である。基材21は例えばプラスチック基材であり、当該プラスチック基材としてはプラスチックフィルムを好適に用いることができる。プラスチック基材の構成材料としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフェニルスルフィド、アラミド、フッ素樹脂、セルロース系樹脂、およびシリコーン樹脂が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-ブテン共重合体、およびエチレン-ヘキセン共重合体が挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリブチレンテレフタレートが挙げられる。基材21は、一種類の材料からなってもよし、二種類以上の材料からなってもよい。基材21は、単層構造を有してもよいし、多層構造を有してもよい。基材21上の粘着剤層22が後述のように紫外線硬化型である場合、基材21は紫外線透過性を有するのが好ましい。また、基材21は、プラスチックフィルムよりなる場合、無延伸フィルムであってもよいし、一軸延伸フィルムであってもよいし、二軸延伸フィルムであってもよい。
【0048】
基材21は、熱収縮性を有するのが好ましい。また、基材21がプラスチックフィルムよりなる場合、ダイシングテープ20ないし基材21について等方的な熱収縮性を実現するうえでは、基材21は二軸延伸フィルムであるのが好ましい。ダイシングテープ20ないし基材21は、加熱温度100℃および加熱処理時間60秒の条件で行われる加熱処理試験による熱収縮率が好ましくは2~30%、より好ましくは2~25%、より好ましくは3~20%、より好ましくは5~20%である。基材21に関する当該熱収縮率は、いわゆるMD方向の熱収縮率およびいわゆるTD方向の熱収縮率の少なくとも一方の熱収縮率をいうものとする。
【0049】
基材21における粘着剤層22側の表面は、粘着剤層22との密着性を高めるための物理的処理、化学的処理、または下塗り処理が施されていてもよい。物理的処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、サンドマット加工処理、オゾン暴露処理、火炎暴露処理、高圧電撃暴露処理、およびイオン化放射線処理が挙げられる。化学的処理としては例えばクロム酸処理が挙げられる。
【0050】
基材21の厚さは、ダイシングテープ20ないしダイシングダイボンドフィルムXにおける支持体として基材21が機能するための強度を確保するという観点からは、好ましくは40μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは55μm以上、より好ましくは60μm以上である。また、ダイシングテープ20ないしダイシングダイボンドフィルムXにおいて適度な可撓性を実現するという観点からは、基材21の厚さは、好ましくは200μm以下、より好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。
【0051】
ダイシングテープ20の粘着剤層22は、粘着剤を含有する。この粘着剤は、ダイシングダイボンドフィルムXの使用過程において外部からの作用によって意図的に粘着力を低減させることが可能な粘着剤(粘着力低減可能型粘着剤)であってもよいし、ダイシングダイボンドフィルムXの使用過程において外部からの作用によっては粘着力がほとんど又は全く低減しない粘着剤(粘着力非低減型粘着剤)であってもよい。粘着剤層22中の粘着剤として粘着力低減可能型粘着剤を用いるか或いは粘着力非低減型粘着剤を用いるかについては、ダイシングダイボンドフィルムXを使用して個片化される半導体チップの個片化の手法や条件など、ダイシングダイボンドフィルムXの使用態様に応じて、適宜に選択することができる。
【0052】
粘着剤層22中の粘着剤として粘着力低減可能型粘着剤を用いる場合、ダイシングダイボンドフィルムXの使用過程において、粘着剤層22が相対的に高い粘着力を示す状態と相対的に低い粘着力を示す状態とを、使い分けることが可能である。例えば、ダイシングダイボンドフィルムXが後記のエキスパンド工程に使用される時には、粘着剤層22からのダイボンドフィルム10の浮きや剥離を抑制・防止するために粘着剤層22の高粘着力状態を利用する一方で、それより後、ダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ20からダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップするための後記のピックアップ工程では、粘着剤層22からダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップしやすくするために粘着剤層22の低粘着力状態を利用することが可能である。
【0053】
このような粘着力低減可能型粘着剤としては、例えば、ダイシングダイボンドフィルムXの使用過程において放射線照射によって硬化させることが可能な粘着剤(放射線硬化性粘着剤)や加熱発泡型粘着剤などが挙げられる。本実施形態の粘着剤層22では、一種類の粘着力低減可能型粘着剤が用いられてもよいし、二種類以上の粘着力低減可能型粘着剤が用いられてもよい。また、粘着剤層22の全体が粘着力低減可能型粘着剤から形成されてもよいし、粘着剤層22の一部が粘着力低減可能型粘着剤から形成されてもよい。例えば、粘着剤層22が単層構造を有する場合、粘着剤層22の全体が粘着力低減可能型粘着剤から形成されてもよいし、粘着剤層22における所定の部位(例えば、ワークの貼着対象領域である中央領域)が粘着力低減可能型粘着剤から形成され、他の部位(例えば、リングフレームの貼着対象領域であって、中央領域の外側にある領域)が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよい。また、粘着剤層22が多層構造を有する場合、多層構造をなす全ての層が粘着力低減可能型粘着剤から形成されてもよいし、多層構造中の一部の層が粘着力低減可能型粘着剤から形成されてもよい。
【0054】
粘着剤層22のための放射線硬化性粘着剤としては、例えば、電子線、紫外線、α線、β線、γ線、またはX線の照射によって硬化するタイプの粘着剤が挙げられ、紫外線照射によって硬化するタイプの粘着剤(紫外線硬化性粘着剤)を特に好適に用いることができる。
【0055】
粘着剤層22のための放射線硬化性粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤たるアクリル系ポリマーなどのベースポリマーと、放射線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基を有する放射線重合性のモノマー成分やオリゴマー成分とを含有する、添加型の放射線硬化性粘着剤が挙げられる。
【0056】
上記のアクリル系ポリマーは、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。アクリル系ポリマーのモノマーユニットをなすための(メタ)アクリル酸エステル、即ち、アクリル系ポリマーの構成モノマーである(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、および(メタ)アクリル酸アリールエステルが挙げられ、より具体的には、ダイボンドフィルム10のためのアクリル樹脂に関して上記したのと同様の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。アクリル系ポリマーの構成モノマーとして、一種類の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよいし、二種類以上の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよい。アクリル系ポリマーの構成モノマーとしては、好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシルおよびアクリル酸ラウリルが挙げられる。また、(メタ)アクリル酸エステルに依る粘着性等の基本特性を粘着剤層22にて適切に発現させるうえでは、アクリル系ポリマーの構成モノマー全体における(メタ)アクリル酸エステルの割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
【0057】
アクリル系ポリマーは、例えばその凝集力や耐熱性の改質のために、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な一種類の又は二種類以上の他のモノマーを構成モノマーに含んでもよい。そのようなモノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、およびアクリロニトリルが挙げられ、より具体的には、ダイボンドフィルム10のためのアクリル樹脂に関して上記したのと同様の共重合性モノマーが挙げられる。
【0058】
アクリル系ポリマーは、そのポリマー骨格中に架橋構造を形成するために、(メタ)アクリル酸エステルなどのモノマー成分と共重合可能な多官能性モノマーに由来するモノマーユニットを含んでいてもよい。そのような多官能性モノマーとして、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリグリシジル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、およびウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および/または「メタクリレート」を意味するものとする。アクリル系ポリマーの構成モノマーとして、一種類の多官能性モノマーが用いられてもよいし、二種類以上の多官能性モノマーが用いられてもよい。(メタ)アクリル酸エステルに依る粘着性等の基本特性を粘着剤層22にて適切に発現させるうえでは、アクリル系ポリマーの構成モノマー全体における多官能性モノマーの割合は、好ましくは40質量%以下、好ましくは30質量%以下である。
【0059】
アクリル系ポリマーは、それを形成するための原料モノマーを重合して得ることができる。重合手法としては、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合、および懸濁重合が挙げられる。ダイシングテープ20ないしダイシングダイボンドフィルムXの使用される半導体装置製造方法における高度の清浄性の観点からは、ダイシングテープ20ないしダイシングダイボンドフィルムXにおける粘着剤層22中の低分子量物質は少ない方が好ましいところ、アクリル系ポリマーの数平均分子量は、好ましくは10万以上、より好ましくは20万~300万である。
【0060】
粘着剤層22ないしそれをなすための粘着剤は、アクリル系ポリマーなどベースポリマーの数平均分子量を高めるために例えば、外部架橋剤を含有してもよい。アクリル系ポリマーなどベースポリマーと反応して架橋構造を形成するための外部架橋剤としては、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリオール化合物、アジリジン化合物、およびメラミン系架橋剤が挙げられる。粘着剤層22ないしそれをなすための粘着剤における外部架橋剤の含有量は、ベースポリマー100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0061】
放射線硬化性粘着剤をなすための上記の放射線重合性モノマー成分としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、および1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。放射線硬化性粘着剤をなすための上記の放射線重合性オリゴマー成分としては、例えば、ウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系など種々のオリゴマーが挙げられ、分子量100~30000程度のものが適当である。放射線硬化性粘着剤中の放射線重合性のモノマー成分やオリゴマー成分の総含有量は、形成される粘着剤層22の粘着力を適切に低下させ得る範囲で決定され、アクリル系ポリマーなどのベースポリマー100質量部に対して、好ましくは5~500質量部であり、より好ましくは40~150質量部である。また、添加型の放射線硬化性粘着剤としては、例えば特開昭60-196956号公報に開示のものを用いてもよい。
【0062】
粘着剤層22のための放射線硬化性粘着剤としては、例えば、放射線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基をポリマー側鎖や、ポリマー主鎖中、ポリマー主鎖末端に有するベースポリマーを含有する内在型の放射線硬化性粘着剤も挙げられる。このような内在型の放射線硬化性粘着剤は、形成される粘着剤層22内での低分子量成分の移動に起因する粘着特性の意図しない経時的変化を抑制するうえで好適である。
【0063】
内在型の放射線硬化性粘着剤に含有されるベースポリマーとしては、アクリル系ポリマーを基本骨格とするものが好ましい。そのような基本骨格をなすアクリル系ポリマーとしては、上述のアクリル系ポリマーを採用することができる。アクリル系ポリマーへの放射線重合性の炭素-炭素二重結合の導入手法としては、例えば、所定の官能基(第1の官能基)を有するモノマーを含む原料モノマーを共重合させてアクリル系ポリマーを得た後、第1の官能基との間で反応を生じて結合しうる所定の官能基(第2の官能基)と放射線重合性炭素-炭素二重結合とを有する化合物を、炭素-炭素二重結合の放射線重合性を維持したままアクリル系ポリマーに対して縮合反応または付加反応させる方法が、挙げられる。
【0064】
第1の官能基と第2の官能基の組み合わせとしては、例えば、カルボキシ基とエポキシ基、エポキシ基とカルボキシ基、カルボキシ基とアジリジル基、アジリジル基とカルボキシ基、ヒドロキシ基とイソシアネート基、イソシアネート基とヒドロキシ基が挙げられる。これら組み合わせのうち、反応追跡の容易さの観点からは、ヒドロキシ基とイソシアネート基の組み合わせや、イソシアネート基とヒドロキシ基の組み合わせが、好ましい。また、反応性の高いイソシアネート基を有するポリマーを作製するのは技術的難易度が高いので、アクリル系ポリマーの作製または入手のしやすさの観点からは、アクリル系ポリマー側の上記第1の官能基がヒドロキシ基であり且つ上記第2の官能基がイソシアネート基である場合が、より好ましい。この場合、放射線重合性炭素-炭素二重結合と第2の官能基たるイソシアネート基とを併有するイソシアネート化合物、即ち、放射線重合性の不飽和官能基含有イソシアネート化合物としては、例えば、メタクリロイルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)、およびm-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネートが挙げられる。
【0065】
粘着剤層22のための放射線硬化性粘着剤は、好ましくは光重合開始剤を含有する。光重合開始剤としては、例えば、α-ケトール系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ケタール系化合物、芳香族スルホニルクロリド系化合物、光活性オキシム系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、カンファーキノン、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、およびアシルホスフォナートが挙げられる。α-ケトール系化合物としては、例えば、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、α-ヒドロキシ-α,α'-ジメチルアセトフェノン、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、および1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが挙げられる。アセトフェノン系化合物としては、例えば、メトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、および2-メチル-1-[4-(メチルチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-1が挙げられる。ベンゾインエーテル系化合物としては、例えば、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、およびアニソインメチルエーテルが挙げられる。ケタール系化合物としては、例えばベンジルジメチルケタールが挙げられる。芳香族スルホニルクロリド系化合物としては、例えば2-ナフタレンスルホニルクロリドが挙げられる。光活性オキシム系化合物としては、例えば、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシムが挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、および3,3'-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンが挙げられる。チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、および2,4-ジイソプロピルチオキサントンが挙げられる。粘着剤層22における放射線硬化性粘着剤中の光重合開始剤の含有量は、アクリル系ポリマーなどのベースポリマー100質量部に対して例えば0.05~20質量部である。
【0066】
粘着剤層22のための上記の加熱発泡型粘着剤は、加熱によって発泡や膨張をする成分(発泡剤や熱膨張性微小球など)を含有する粘着剤である。発泡剤としては、種々の無機系発泡剤および有機系発泡剤が挙げられる。熱膨張性微小球としては、例えば、加熱によって容易にガス化して膨張する物質が殻内に封入された構成の微小球が挙げられる。無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、およびアジド類が挙げられる。有機系発泡剤としては、例えば、トリクロロモノフルオロメタンやジクロロモノフルオロメタンなどの塩フッ化アルカン、アゾビスイソブチロニトリルやアゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレートなどのアゾ系化合物、パラトルエンスルホニルヒドラジドやジフェニルスルホン-3,3'-ジスルホニルヒドラジド、4,4'-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アリルビス(スルホニルヒドラジド)などのヒドラジン系化合物、ρ-トルイレンスルホニルセミカルバジドや4,4'-オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)などのセミカルバジド系化合物、5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾールなどのトリアゾール系化合物、並びに、N,N'-ジニトロソペンタメチレンテトラミンやN,N'-ジメチル-N,N'-ジニトロソテレフタルアミドなどのN-ニトロソ系化合物が、挙げられる。上記のような熱膨張性微小球をなすための、加熱によって容易にガス化して膨張する物質としては、例えば、イソブタン、プロパン、およびペンタンが挙げられる。加熱によって容易にガス化して膨張する物質をコアセルベーション法や界面重合法などによって殻形成物質内に封入することによって、熱膨張性微小球を作製することができる。殻形成物質としては、熱溶融性を示す物質や、封入物質の熱膨張の作用によって破裂し得る物質を用いることができる。そのような物質としては、例えば、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、およびポリスルホンが挙げられる。
【0067】
上述の粘着力非低減型粘着剤としては、例えば、粘着力低減可能型粘着剤に関して上述した放射線硬化性粘着剤を予め放射線照射によって硬化させた形態の粘着剤や、感圧型粘着剤などが、挙げられる。放射線硬化性粘着剤は、その含有ポリマー成分の種類および含有量によっては、放射線硬化されて粘着力が低減された場合においても当該ポリマー成分に起因する粘着性を示し得て、所定の使用態様で被着体を粘着保持するのに利用可能な粘着力を発揮することが可能である。本実施形態の粘着剤層22においては、一種類の粘着力非低減型粘着剤が用いられてもよいし、二種類以上の粘着力非低減型粘着剤が用いられてもよい。また、粘着剤層22の全体が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよいし、粘着剤層22の一部が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよい。例えば、粘着剤層22が単層構造を有する場合、粘着剤層22の全体が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよいし、上述のように、粘着剤層22における所定の部位(例えば、リングフレームの貼着対象領域であって、ウエハの貼着対象領域の外側にある領域)が粘着力非低減型粘着剤から形成され、他の部位(例えば、ウエハの貼着対象領域である中央領域)が粘着力低減可能型粘着剤から形成されてもよい。また、粘着剤層22が多層構造を有する場合、多層構造をなす全ての層が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよいし、多層構造中の一部の層が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよい。
【0068】
一方、粘着剤層22のための感圧型粘着剤としては、例えば、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤やゴム系粘着剤を用いることができる。粘着剤層22が感圧型粘着剤としてアクリル系粘着剤を含有する場合、当該アクリル系粘着剤のベースポリマーたるアクリル系ポリマーは、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。そのようなアクリル系ポリマーとしては、例えば、放射線硬化性粘着剤に関して上述したアクリル系ポリマーが挙げられる。
【0069】
粘着剤層22ないしそれをなすための粘着剤は、上述の各成分に加えて、架橋促進剤、粘着付与剤、老化防止剤、顔料や染料などの着色剤などを、含有してもよい。着色剤は、放射線照射を受けて着色する化合物であってもよい。そのような化合物としては、例えばロイコ染料が挙げられる。
【0070】
粘着剤層22の厚さは、好ましくは1~50μm、より好ましくは2~30μm、より好ましくは5~25μmである。このような構成は、例えば、粘着剤層22が放射線硬化性粘着剤を含む場合に当該粘着剤層22の放射線硬化の前後におけるダイボンドフィルム10に対する接着力のバランスをとるうえで、好適である。
【0071】
ダイシングテープ20は、上述のダイボンドフィルム10の円盤形状と同心円の直径D3の円盤形状を有する。ダイシングダイボンドフィルムXが8インチウエハ対応型として設計される場合、ダイシングテープ20の直径D3は例えば255~280mmであり、ダイシングダイボンドフィルムXが12インチウエハ対応型として設計される場合、ダイシングテープ20の直径D3は例えば360~380mmである。
【0072】
ダイシングテープ20は、初期チャック間距離100mm、23℃および引張速度1000mm/分の条件でチャック間距離120mmまで伸張された幅10mmのダイシングテープ試験片について加熱温度100℃および加熱時間10秒の条件で行われる加熱処理試験での熱収縮率が好ましくは0.1以上%、より好ましくは0.2%以上、より好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.6%以上、より好ましくは0.7%以上、より好ましくは1%以上、より好ましくは1.5%以上である。ダイシングテープ試験片の伸張には、例えば、引張試験機(商品名「オートグラフ AG-X」,株式会社島津製作所製)を使用することができる。熱収縮率の調整は、ダイシングテープ20の基材21をなす材料における、熱収縮率の高い樹脂の存在割合の調整によって、行うことが可能である。例えば、単層構造の基材21では、熱収縮率の高い樹脂の基材構成材料中の配合割合を高めることにより、ダイシングテープ20の熱収縮率を高めることができる。多層構造の基材21では、熱収縮率の高い樹脂よりなる層を基材21の多層構造中に含めることにより、ダイシングテープ20の熱収縮率を高めることができる。
【0073】
ダイシングテープ20は、幅10mmのダイシングテープ20試験片について初期チャック間距離50mm、-15℃、および引張速度300mm/分の条件で行われる引張試験での破断伸度が120%以上であり、好ましくは150%以上、より好ましくは200%以上、より好ましくは250%以上である。この破断伸度については、引張試験機(商品名「オートグラフ AG-X」,株式会社島津製作所製)を使用して測定することができる。また、ダイシングテープ20における破断伸度の調整は、ダイシングテープ20の基材21をなす材料における、伸びやすい樹脂の存在割合の調整によって、行うことが可能である。例えば、単層構造の基材21では、伸びやすい樹脂の基材構成材料中の配合割合を高めることにより、ダイシングテープ20の破断伸度を高めることができる。多層構造の基材21では、伸びやすい樹脂よりなる層を基材21の多層構造中に含めることにより、ダイシングテープ20の破断伸度を高めることができる。
【0074】
以上のような構成を有するダイシングダイボンドフィルムXは、例えば以下のようにして製造することができる。
【0075】
ダイシングダイボンドフィルムXのダイボンドフィルム10の作製においては、まず、ダイボンドフィルム10形成用の接着剤組成物を調製した後、所定のセパレータ上に当該組成物を塗布して接着剤組成物層を形成する。セパレータとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、並びに、フッ素系剥離剤や長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙類などが、挙げられる。接着剤組成物の塗布手法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、およびグラビア塗工が挙げられる。次に、この接着剤組成物層において、加熱によって、必要に応じて乾燥させ、また、必要に応じて架橋反応を生じさせる。加熱温度は例えば70~160℃であり、加熱時間は例えば1~5分間である。以上のようにして、セパレータを伴う形態で上述のダイボンドフィルム10を作製することができる。
【0076】
ダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ20については、用意した基材21上に粘着剤層22を設けることによって作製することができる。例えば樹脂製の基材21は、カレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、共押出し法、ドライラミネート法などの製膜手法によって、作製することができる。製膜後のフィルムないし基材21には、必要に応じて所定の表面処理が施される。粘着剤層22の形成においては、例えば、粘着剤層形成用の粘着剤組成物を調製した後、まず、当該組成物を基材21上または所定のセパレータ上に塗布して粘着剤組成物層を形成する。粘着剤組成物の塗布手法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、およびグラビア塗工が挙げられる。次に、この粘着剤組成物層において、加熱によって、必要に応じて乾燥させ、また、必要に応じて架橋反応を生じさせる。加熱温度は例えば80~150℃であり、加熱時間は例えば0.5~5分間である。粘着剤層22がセパレータ上に形成される場合には、当該セパレータを伴う粘着剤層22を基材21に貼り合わせ、その後、セパレータが剥離される。これにより、基材21と粘着剤層22との積層構造を有する上述のダイシングテープ20が作製される。
【0077】
ダイシングダイボンドフィルムXの作製においては、次に、ダイシングテープ20の粘着剤層22側にダイボンドフィルム10を例えば圧着して貼り合わせる。貼合わせ温度は、例えば30~50℃であり、好ましくは35~45℃である。貼合わせ圧力(線圧)は、例えば0.1~20kgf/cmであり、好ましくは1~10kgf/cmである。粘着剤層22が上述のような放射線硬化性粘着剤を含む場合、当該貼り合わせの前に粘着剤層22に対して紫外線等の放射線を照射してもよいし、当該貼り合わせの後に基材21の側から粘着剤層22に対して紫外線等の放射線を照射してもよい。或いは、ダイシングダイボンドフィルムXの製造過程では、そのような放射線照射を行わなくてもよい(この場合、ダイシングダイボンドフィルムXの使用過程で粘着剤層22を放射線硬化させることが可能である)。粘着剤層22が紫外線硬化型粘着剤層である場合、粘着剤層22を硬化させるための紫外線照射量は、例えば50~500mJ/cm
2であり、好ましくは100~300mJ/cm
2である。ダイシングダイボンドフィルムXにおいて粘着剤層22の粘着力低減措置としての照射が行われる領域(照射領域R)は、例えば
図1に示すように、粘着剤層22におけるダイボンドフィルム貼合せ領域内のその周縁部を除く領域である。
【0078】
以上のようにして、ダイシングダイボンドフィルムXを作製することができる。ダイシングダイボンドフィルムXには、ダイボンドフィルム10側に、少なくともダイボンドフィルム10を被覆する形態でセパレータ(図示略)が設けられていてもよい。セパレータは、ダイボンドフィルム10や粘着剤層22が露出しないように保護するための要素であり、ダイシングダイボンドフィルムXを使用する際には当該フィルムから剥がされる。
【0079】
図2から
図7は、以上のようなダイシングダイボンドフィルムXが使用される半導体装置製造方法を表す。
【0080】
本半導体装置製造方法においては、まず、
図2(a)および
図2(b)に示すように、半導体ウエハWに改質領域30aが形成される。半導体ウエハWは、第1面Waおよび第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。本工程では、粘着面T1aを有するウエハ加工用テープT1が半導体ウエハWの第1面Wa側に貼り合わされた後、ウエハ加工用テープT1に半導体ウエハWが保持された状態で、ウエハ内部に集光点の合わせられたレーザー光がウエハ加工用テープT1とは反対の側から半導体ウエハWに対してその分割予定ラインに沿って照射され、多光子吸収によるアブレーションに因って半導体ウエハW内に改質領域30aが形成される。改質領域30aは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための脆弱化領域である。半導体ウエハにおいてレーザー光照射によって分割予定ライン上に改質領域30aを形成する方法については、例えば特開2002-192370号公報に詳述されているところ、本実施形態におけるレーザー光照射件は、例えば以下の条件の範囲内で適宜に調整される。
<レーザー光照射条件>
(A)レーザー光
レーザー光源 半導体レーザー励起Nd:YAGレーザー
波長 1064nm
レーザー光スポット断面積 3.14×10
-8cm
2
発振形態 Qスイッチパルス
繰り返し周波数 100kHz以下
パルス幅 1μs以下
出力 1mJ以下
レーザー光品質 TEM00
偏光特性 直線偏光
(B)集光用レンズ
倍率 100倍以下
NA 0.55
レーザー光波長に対する透過率 100%以下
(C)半導体基板が載置される載置台の移動速度 280mm/秒以下
【0081】
次に、ウエハ加工用テープT1に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化され、これにより、
図2(c)に示すように、複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Aが形成される(ウエハ薄化工程)。研削加工は、研削砥石を備える研削加工装置を使用して行うことができる。
【0082】
次に、
図3(a)に示すように、ウエハ加工用テープT1に保持された半導体ウエハ30Aが、ダイシングダイボンドフィルムXのダイボンドフィルム10ないしそのウエハ貼着領域10Aに対して貼り合わせられる。この後、
図3(b)に示すように、半導体ウエハ30Aからウエハ加工用テープT1が剥がされる。ダイシングダイボンドフィルムXにおける粘着剤層22が放射線硬化性粘着剤層である場合には、ダイシングダイボンドフィルムXの製造過程での上述の放射線照射に代えて、半導体ウエハ30Aのダイボンドフィルム10への貼り合わせの後に、基材21の側から粘着剤層22に対して紫外線等の放射線を照射してもよい。照射量は、例えば50~500mJ/cm
2であり、好ましくは100~300mJ/cm
2である。ダイシングダイボンドフィルムXにおいて粘着剤層22の粘着力低減措置としての照射が行われる領域(
図1に示す照射領域R)は、例えば、粘着剤層22におけるダイボンドフィルム10貼合わせ領域内のその周縁部を除く領域である。
【0083】
次に、ダイシングダイボンドフィルムXにおけるダイボンドフィルム10上にリングフレーム41が貼り付けられた後、
図4(a)に示すように、半導体ウエハ30Aを伴う当該ダイシングダイボンドフィルムXがエキスパンド装置の保持具42に固定される。
【0084】
次に、相対的に低温の条件下での第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)が、
図4(b)に示すように行われ、半導体ウエハ30Aが複数の半導体チップ31へと個片化されるとともに、ダイシングダイボンドフィルムXのダイボンドフィルム10が小片のダイボンドフィルム11に割断されて、ダイボンドフィルム付き半導体チップ31が得られる。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が、ダイシングダイボンドフィルムXの図中下側においてダイシングテープ20に当接して上昇され、半導体ウエハ30Aの貼り合わされたダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ20が、半導体ウエハ30Aの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。このエキスパンドは、ダイシングテープ20において例えば15~32MPaの引張応力が生ずる条件で行われる。クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43が上昇する速度)は、例えば1~400mm/秒である。また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、例えば3~16mmである。クールエキスパン工程でのエキスパンドに関するこれら条件については、後記のクールエキスパン工程においても同様である。
【0085】
このようなクールエキスパンド工程により、ダイシングダイボンドフィルムXのダイボンドフィルム10が小片のダイボンドフィルム11に割断されてダイボンドフィルム付き半導体チップ31が得られる。具体的に、本工程では、半導体ウエハ30Aにおいて脆弱な改質領域30aにクラックが形成されて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、本工程では、エキスパンドされるダイシングテープ20の粘着剤層22に密着しているダイボンドフィルム10において、半導体ウエハ30Aの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、ウエハのクラック形成箇所に対向する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ20に生ずる引張応力が作用する。その結果、ダイボンドフィルム10において半導体チップ31間のクラック形成箇所に対向する箇所が割断されることとなる。本工程の後、
図4(c)に示すように、突き上げ部材43が下降されて、ダイシングテープ20におけるエキスパンド状態が解除される。
【0086】
次に、相対的に高温の条件下での第2エキスパンド工程が、
図5(a)および
図5(b)に示すように行われ、ダイボンドフィルム付き半導体チップ31間の距離(離間距離)が広げられる。本工程では、エキスパンド装置の備えるテーブル44が上昇され、ダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ20がエキスパンドされる。テーブル44は、テーブル面上のワークに負圧を作用させて当該ワークを真空吸着可能なものである。第2エキスパンド工程における温度条件は、例えば10℃以上であり、好ましくは15~30℃である。第2エキスパンド工程におけるエキスパンド速度(テーブル44が上昇する速度)は、例えば0.1~10mm/秒である。また、第2エキスパンド工程におけるエキスパンド量は例えば3~16mmである。後記のピックアップ工程にてダイシングテープ20からダイボンドフィルム付き半導体チップ31を適切にピックアップ可能な程度に、本工程ではダイボンドフィルム付き半導体チップ31の離間距離が広げられる。テーブル44の上昇によってダイシングテープ20がエキスパンドされた後、テーブル44はダイシングテープ20を真空吸着する。そして、テーブル44によるその吸着を維持した状態で、
図5(c)に示すように、テーブル44がワークを伴って下降される。本実施形態では、この状態において、ダイシングダイボンドフィルムXにおける半導体ウエハ30A周り(半導体チップ31保持領域より外側の部分)が加熱されて収縮させられる(ヒートシュリンク工程)。その後、テーブル44による真空吸着状態が解除される。ヒートシュリンク工程を経ることにより、ダイシングダイボンドフィルムXにおいて、上述の第1エキスパンド工程や第2エキスパンド工程にて引き伸ばされて一旦弛緩したウエハ貼合わせ領域に所定程度の張力が作用しうる状態となり、前記真空吸着状態解除後であっても半導体チップ31の上記の離隔距離が固定される。
【0087】
本半導体装置製造方法では、第1エキスパンド工程の後、ダイシングダイボンドフィルムXの更なるエキスパンドを経ずに、ダイシングダイボンドフィルムXにおける半導体ウエハ30A周り(半導体チップ31保持領域より外側の部分)を加熱して収縮させてもよい。このようなヒートシュリンク工程により、ダイシングダイボンドフィルムXにおいて、上述の第1エキスパンド工程にて引き伸ばされて一旦弛緩したウエハ貼合わせ領域に所定程度の張力を作用させて、半導体チップ31間において所望の離隔距離を確保してもよい。
【0088】
次に、ダイボンドフィルム付き半導体チップ31を伴うダイシングテープ20における半導体チップ31側を水などの洗浄液を使用して洗浄するクリーニング工程を必要に応じて経た後、
図6に示すように、ダイボンドフィルム付き半導体チップ31をダイシングテープ20からピックアップする(ピックアップ工程)。例えば、ピックアップ対象のダイボンドフィルム付き半導体チップ31について、ダイシングテープ20の図中下側においてピックアップ機構のピン部材45を上昇させてダイシングテープ20を介して突き上げた後、吸着治具46によって吸着保持する。ピックアップ工程において、ピン部材45の突き上げ速度は例えば1~100mm/秒であり、ピン部材45の突き上げ量は例えば50~3000μmである。
【0089】
次に、
図7(a)に示すように、ピックアップされたダイボンドフィルム付き半導体チップ31が、所定の被着体51に対してダイボンドフィルム11を介して仮固着される。被着体51としては、例えば、リードフレーム、TAB(Tape Automated Bonding)フィルム、および配線基板が挙げられる。
【0090】
次に、
図7(b)に示すように、半導体チップ31の電極パッド(図示略)と被着体51の有する端子部(図示略)とをボンディングワイヤー52を介して電気的に接続する(ワイヤーボンディング工程)。半導体チップ31の電極パッドや被着体51の端子部とボンディングワイヤー52との結線は、加熱を伴う超音波溶接によって実現され、ダイボンドフィルム11を熱硬化させないように行われる。ボンディングワイヤー52としては、例えば金線、アルミニウム線、または銅線を用いることができる。ワイヤーボンディングにおけるワイヤー加熱温度は、例えば80~250℃である。また、その加熱時間は数秒~数分間である。
【0091】
次に、
図7(c)に示すように、被着体51上の半導体チップ31やボンディングワイヤー52を保護するための封止樹脂53によって半導体チップ31を封止する(封止工程)。本工程では、ダイボンドフィルム11の熱硬化が進む。本工程では、例えば、金型を使用して行うトランスファーモールド技術によって封止樹脂53が形成される。封止樹脂53の構成材料としては、例えばエポキシ系樹脂を用いることができる。本工程において、封止樹脂53を形成するための加熱温度は例えば165~185℃であり、加熱時間は例えば60秒~数分間である。本工程(封止工程)で封止樹脂53の硬化が充分には進行しない場合には、本工程の後に封止樹脂53を完全に硬化させるための後硬化工程が行われる。封止工程においてダイボンドフィルム11が完全に熱硬化しない場合であっても、後硬化工程において封止樹脂53と共にダイボンドフィルム11の完全な熱硬化が可能となる。後硬化工程において、加熱温度は例えば165~185℃であり、加熱時間は例えば0.5~8時間である。
【0092】
以上のようにして、半導体装置を製造することができる。
【0093】
本半導体装置製造方法おいては、半導体ウエハ30AがダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わされるという上述の構成に代えて、次のようにして作製される半導体ウエハ30BがダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わされてもよい。
【0094】
半導体ウエハ30Bの作製においては、まず、
図8(a)および
図8(b)に示すように、半導体ウエハWに分割溝30bが形成される(分割溝形成工程)。半導体ウエハWは、第1面Waおよび第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。本工程では、粘着面T2aを有するウエハ加工用テープT2が半導体ウエハWの第2面Wb側に貼り合わされた後、ウエハ加工用テープT1に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWの第1面Wa側に所定深さの分割溝30bがダイシング装置等の回転ブレードを使用して形成される。分割溝30bは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための空隙である(図面において分割溝30bを模式的に太線で表す)。
【0095】
次に、
図8(c)に示すように、粘着面T3aを有するウエハ加工用テープT3の、半導体ウエハWの第1面Wa側への貼り合わせと、半導体ウエハWからのウエハ加工用テープT2の剥離とが、行われる。
【0096】
次に、
図8(d)に示すように、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化される(ウエハ薄化工程)。このウエハ薄化工程によって、本実施形態では、複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Bが形成される。半導体ウエハ30Bは、具体的には、当該ウエハにおいて複数の半導体チップ31へと個片化されることとなる部位を第2面Wb側にて連結する部位(連結部)を有する。半導体ウエハ30Bにおける連結部の厚さ、即ち、半導体ウエハ30Bの第2面Wbと分割溝30bの第2面Wb側先端との間の距離は、例えば1~30μmであり、好ましくは3~20μmである。以上のようにして作製される半導体ウエハ30Bが半導体ウエハ30Aの代わりにダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わされたうえで、
図3から
図7を参照して上述した各工程が行われてもよい。
【0097】
図9(a)および
図9(b)は、半導体ウエハ30BがダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わされた後に行われる第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を具体的に表す。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が、ダイシングダイボンドフィルムXの図中下側においてダイシングテープ20に当接して上昇され、半導体ウエハ30Bの貼り合わされたダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ20が、半導体ウエハ30Bの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。このようなクールエキスパンド工程により、半導体ウエハ30Bにおいて薄肉で割れやすい部位に割断が生じて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、本工程では、エキスパンドされるダイシングテープ20の粘着剤層22に密着しているダイボンドフィルム10において各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝に対向する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ20に生ずる引張応力が作用する。その結果、ダイボンドフィルム10において半導体チップ31間の分割溝に対向する箇所が割断されることとなる。こうして得られるダイボンドフィルム付き半導体チップ31は、
図6を参照して上述したピックアップ工程を経た後、半導体装置製造過程における実装工程に供されることとなる。
【0098】
本半導体装置製造方法おいては、
図8(d)を参照して上述したウエハ薄化工程に代えて、
図10に示すウエハ薄化工程を行ってもよい。
図8(c)を参照して上述した過程を経た後、
図10に示すウエハ薄化工程では、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、当該ウエハが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化されて、複数の半導体チップ31を含んでウエハ加工用テープT3に保持された半導体ウエハ分割体30Cが形成される。本工程では、分割溝30bそれ自体が第2面Wb側に露出するまでウエハを研削する手法(第1の手法)を採用してもよいし、第2面Wb側から分割溝30bに至るより前までウエハを研削し、その後、回転砥石からウエハへの押圧力の作用により分割溝30bと第2面Wbとの間にクラックを生じさせて半導体ウエハ分割体30Cを形成する手法(第2の手法)を採用してもよい。採用される手法に応じて、
図8(a)および
図8(b)を参照して上述したように形成される分割溝30bの、第1面Waからの深さは、適宜に決定される。
図10では、第1の手法を経た分割溝30b、または、第2の手法を経た分割溝30bおよびこれに連なるクラックについて、模式的に太線で表す。このようにして作製される半導体ウエハ分割体30Cが半導体ウエハ30Aや半導体ウエハ30Bの代わりにダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わされたうえで、
図3から
図7を参照して上述した各工程が行われてもよい。
【0099】
図11(a)および
図11(b)は、半導体ウエハ分割体30CがダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わされた後に行われる第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を具体的に表す。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が、ダイシングダイボンドフィルムXの図中下側においてダイシングテープ20に当接して上昇され、半導体ウエハ30Bの貼り合わされたダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ20が、半導体ウエハ30Bの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。このようなクールエキスパンド工程により、エキスパンドされるダイシングテープ20の粘着剤層22に密着しているダイボンドフィルム10において、半導体ウエハ30Bの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝30bに対向する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ20に生ずる引張応力が作用する。その結果、ダイボンドフィルム10において半導体チップ31間の分割溝30bに対向する箇所が割断されることとなる。こうして得られるダイボンドフィルム付き半導体チップ31は、
図6を参照して上述したピックアップ工程を経た後、半導体装置製造過程における実装工程に供されることとなる。
【0100】
例えば以上のような半導体装置製造過程において使用されうるダイシングダイボンドフィルムXにおけるダイボンドフィルム10にとり、幅10mmおよび厚さ210μmのダイボンドフィルム試験片について初期チャック間距離20mm、-15℃、および引張速度100mm/分の条件で行われる引張試験での破断伸度が20%以下であるという上述の構成は、割断用のエキスパンド工程にあるダイボンドフィルム10について、その割断予定箇所に割断を生じさせるのに適することを、本発明者らは見いだした。例えば後記の実施例および比較例をもって示すとおりである。ダイボンドフィルム10についての上記引張試験での破断伸度が20%以下であるという上述の構成は、割断用エキスパンド工程において、当該ダイボンドフィルム10を割断させるための引張り長さが過大となるのを回避しつつ当該ダイボンドフィルム10に延性破壊等による破断を生じさせるのに適するのである。ダイボンドフィルム10について割断用エキスパンド工程での良好な割断性を確保するという観点からは、ダイボンドフィルム10についての上記引張試験での破断伸度は、好ましくは18%以下、より好ましくは15%以下である。
【0101】
ダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ20は、上述のように、幅10mmのダイシングテープ試験片について初期チャック間距離50mm、-15℃、および引張速度300mm/分の条件で行われる引張試験での破断伸度が120%以上である。このような構成は、ダイシングテープについて、引っ張り作用を受けるエキスパンド工程において破断するのを回避するのに好適である。ダイシングテープについて、引っ張り作用を受けるエキスパンド工程において破断するのを回避するうえでは、ダイシングテープの前記破断伸度は、好ましくは150%以上、より好ましくは200%以上、より好ましくは250%以上である。
【0102】
加えて、ダイシングダイボンドフィルムXの一構成要素をなすダイボンドフィルム10とり、ダイボンドフィルム10の直径D1と当該ダイボンドフィルム10の一部であるウエハ貼着領域の直径D2(<D1)とが(D1-D2)/D2<0.1を充たすという上述の構成は、所定サイズのダイシングダイボンドフィルムXの面内方向ないし径方向において、ワークである半導体ウエハに対してダイボンドフィルム10が過大となるのを抑制するのに適し、従って、ダイボンドフィルム10周りに当該フィルムによって被覆されていない十分な広さのダイシングテープ領域を確保するのに適する。基材21と粘着剤層22とを含むダイシングテープ20はダイボンドフィルム10よりも加熱による収縮率が大きい傾向にある。そのため、ダイシングダイボンドフィルムXにおいてダイボンドフィルム10周りに当該フィルムによって被覆されていない十分な広さのダイシングテープ領域を確保するのに適する上述の構成は、上述のヒートシュリンク工程において、ダイシングダイボンドフィルムXの半導体ウエハ周りを十分に加熱収縮させるのに適し、従って、ダイシングダイボンドフィルムXの当該加熱箇所より内側のウエハ貼合わせ領域に十分な張力を作用させて当該フィルム上の半導体チップ間にて十分なカーフ幅を確保するのに適する。ヒートシュリンク工程においてダイシングダイボンドフィルムX上の半導体チップ間にて十分なカーフ幅を確保するという観点からは、(D1-D2)/D2の値は、好ましくは0.7以下であり、より好ましくは0.5以下である。
【0103】
以上のように、ダイシングダイボンドフィルムXは、割断用のエキスパンド工程において良好な割断を実現しつつ、チップ間の割断箇所についてその後に十分なカーフ幅を確保するのに適する。
【0104】
ダイシングダイボンドフィルムXにおいて、ダイシングテープ20は、上述のように、初期チャック間距離100mm、23℃および引張速度1000mm/分の条件でチャック間距離120mmまで伸張された幅10mmのダイシングテープ20試験片について加熱温度100℃および加熱時間10秒の条件で行われる加熱処理試験での熱収縮率が好ましくは0.1以上%、より好ましくは0.2%以上、より好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.6%以上、より好ましくは0.7%以上、より好ましくは1%以上、より好ましくは1.5%以上である。このような構成は、上述のヒートシュリンク工程において、ダイシングダイボンドフィルムXの半導体ウエハ周りを十分に加熱収縮させるのに適し、従って、ダイシングダイボンドフィルムXの当該加熱箇所より内側のウエハ貼合わせ領域に十分な張力を作用させて当該フィルム上の半導体チップ31間にて十分なカーフ幅を確保するのに適する。
【実施例】
【0105】
〔実施例1〕
〈ダイボンドフィルムの作製〉
アクリル樹脂A1(商品名「テイサンレジンSG-P3」,重量平均分子量は85万,ガラス転移温度Tgは12℃,ナガセケムテックス株式会社製)100質量部と、フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」,明和化成株式会社製)12質量部と、無機フィラー(商品名「SO-25R」,シリカ,平均粒径は500nm,株式会社アドマテックス製)100質量部とを、メチルエチルケトンに加えて混合し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物を塗布して接着剤組成物層を形成した。次に、この組成物層について130℃で2分間の加熱乾燥を行い、PETセパレータ上に厚さ30μmの実施例1のダイボンドフィルム(DAF)を作製した。実施例1ならびに後記の各実施例および各比較例におけるダイボンドフィルムの組成を表1に掲げる(表1において、ダイボンドフィルムの組成を表す各数値の単位は、当該組成内での相対的な“質量部”である)。
【0106】
〈ダイシングテープの作製〉
冷却管と、窒素導入管と、温度計と、撹拌装置とを備える反応容器内で、アクリル酸2-エチルヘキシル100質量部と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル19質量部と、重合開始剤である過酸化ベンゾイル0.4質量部と、重合溶媒であるトルエン80質量部とを含む混合物を、60℃で10時間、窒素雰囲気下で撹拌した(重合反応)。これにより、アクリル系ポリマーP1を含有するポリマー溶液を得た。次に、このアクリル系ポリマーP1を含有するポリマー溶液と、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)と、付加反応触媒としてのジブチル錫ジラウリレートとを含む混合物を、50℃で60時間、空気雰囲気下で撹拌した(付加反応)。当該反応溶液において、MOIの配合量は、上記アクリル系ポリマーP1100質量部に対して1.3質量部であり、ジブチル錫ジラウリレートの配合量は、アクリル系ポリマーP1100質量部に対して0.5質量部である。この付加反応により、側鎖にメタクリレート基を有するアクリル系ポリマーP2を含有するポリマー溶液を得た。次に、当該ポリマー溶液に、アクリル系ポリマーP2100質量部に対して1.3質量部のポリイソシアネート化合物(商品名「コロネートL」,東ソー株式会社製)と、3質量部の光重合開始剤(商品名「イルガキュア184」,BASF社製)とを加えて混合し、粘着剤組成物を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して粘着剤組成物を塗布して粘着剤組成物層を形成した。次に、この組成物層について120℃で2分間の加熱乾燥を行い、PETセパレータ上に厚さ10μmの粘着剤層を形成した。次に、ラミネーターを使用して、この粘着剤層の露出面にポリオレフィン製の基材S1(商品名「ファンクレア NED#125」,厚さ125μm,グンゼ株式会社製)を室温で貼り合わせた。以上のようにして実施例1のダイシングテープ(DT)を作製した。
【0107】
〈ダイシングダイボンドフィルムの作製〉
PETセパレータを伴う実施例1の上述のダイボンドフィルムを直径312mmの円盤形に打ち抜き加工した。次に、当該ダイボンドフィルムからPETセパレータを剥離し且つ上述のダイシングテープからPETセパレータを剥離した後、当該ダイシングテープにおいて露出した粘着剤層と、ダイボンドフィルムにおいてPETセパレータの剥離によって露出した面とを、ロールラミネーターを使用して貼り合わせた。この貼り合わせにおいて、貼合わせ速度を10mm/分とし、温度条件を23℃とし、圧力条件を0.15MPaとした。次に、このようにしてダイボンドフィルムと貼り合わせられたダイシングテープを、ダイシングテープの中心とダイボンドフィルムの中心とが一致するように、直径390mmの円盤形に打ち抜き加工した。次に、ダイシングテープにおける粘着剤層に対し、EVA基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を300mJ/cm2とした。以上のようにして、ダイシングテープとダイボンドフィルムとを含む積層構造を有する実施例1のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0108】
〔実施例2〕
ダイボンドフィルムの直径を312μmに代えて315μmとしたこと以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、実施例2のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0109】
〔実施例3〕
ダイボンドフィルムの直径を312μmに代えて320μmとしたこと以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、実施例3のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0110】
〔実施例4〕
〈ダイボンドフィルムの作製〉
アクリル樹脂A2(商品名「テイサンレジンSG-70L」,重量平均分子量は90万,ガラス転移温度Tgは-13℃,ナガセケムテックス株式会社製)100質量部と、フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」,明和化成株式会社製)210質量部と、エポキシ樹脂E1(商品名「JER1010」,三菱ケミカル株式会社製)52質量部と、エポキシ樹脂E2(商品名「JER828」,三菱ケミカル株式会社製)140質量部と、硬化促進剤(商品名「2PHZ-PW」,四国化成工業株式会社)3質量部と、無機フィラー(商品名「SO-25R」,シリカ,平均粒径は500nm,株式会社アドマテックス製)350質量部とを、メチルエチルケトンに加えて混合し、固形分濃度35質量%の接着剤組成物を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して当該接着剤組成物を塗布して接着剤組成物層を形成した。次に、この組成物層について130℃で2分間の加熱乾燥を行い、PETセパレータ上に厚さ30μmの実施例4のダイボンドフィルムを作製した。
【0111】
〈ダイシングダイボンドフィルムの作製〉
PETセパレータを伴う実施例4の上述のダイボンドフィルムを直径320mmの円盤形に打ち抜き加工した。このダイボンドフィルムを実施例1のダイボンドフィルム(直径312μm)の代わりに用いたこと以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、実施例4のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0112】
〔実施例5〕
ポリオレフィン製の基材S1(商品名「ファンクレア NED#125」,グンゼ株式会社製)の代わりに別のポリオレフィン製の基材S2(商品名「ODZ-IVS」,厚さ80μm,大倉工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例1のダイシングテープと同様にして、実施例5のダイシングテープを作成した。そして、実施例5のダイシングテープを実施例1のダイシングテープの代わりに用いたこと、および、円盤形に打ち抜き加工されるダイボンドフィルムの直径を312μmに代えて320μmとしたこと、以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、実施例5のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0113】
〔実施例6〕
〈ダイシングテープの作製〉
ポリオレフィン製の基材S1(商品名「ファンクレア NED#125」,グンゼ株式会社製)の代わりに別のポリオレフィン製の基材S3(厚さ100μm)を用いたこと以外は実施例1のダイシングテープと同様にして、実施例6のダイシングテープを作成した。ポリオレフィン製の基材S3は次のようにして用意した。まず、原材料である低密度ポリエチレン(商品名「スミカセン F213-P」,住友化学株式会社製)を押出機(商品名「GM30-28」,スクリュー径は30mm,スクリュー有効長(L/D)は28,株式会社ジーエムエンジニアリング製)に投入し、この押出機とフィードブロック方式のTダイとを使用して、Tダイ溶融共押出法による製膜を行ってフィルムを得た(押出温度は240℃とした)。次に、得られたフィルムの片面に対してエンボス処理(表面粗さRaは1.42μm)を行い、片面にエンボス処理の施された厚さ100μmのフィルムを得た。次に、このフィルムのエンボス処理面とは反対側の面に対してコロナ処理を施した。実施例6のダイシングテープのための基材S3は、以上のようにして用意されたものである。
【0114】
〈ダイシングダイボンドフィルムの作製〉
実施例6のダイシングテープを実施例1のダイシングテープの代わりに用いたこと、および、円盤形に打ち抜き加工されるダイボンドフィルムの直径を312μmに代えて320μmとしたこと、以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、実施例6のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0115】
〔実施例7〕
ポリオレフィン製の基材S1(商品名「ファンクレア NED#125」,グンゼ株式会社製)の代わりに別のポリオレフィン製の基材S4(商品名「DDZ#150」,厚さ150μm,グンゼ株式会社製)を用いたこと以外は実施例1のダイシングテープと同様にして、実施例7のダイシングテープを作成した。そして、実施例7のダイシングテープを実施例1のダイシングテープの代わりに用いたこと、および、円盤形に打ち抜き加工されるダイボンドフィルムの直径を312μmに代えて320μmとしたこと、以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、実施例7のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0116】
〔比較例1〕
ダイボンドフィルムの直径を312μmに代えて330μmとしたこと以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、比較例1のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0117】
〔比較例2〕
〈ダイボンドフィルムの作製〉
アクリル樹脂A1(商品名「テイサンレジンSG-P3」,重量平均分子量は90万,ガラス転移温度Tgは12℃,ナガセケムテックス株式会社製)100質量部と、フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」,明和化成株式会社製)6質量部と、無機フィラー(商品名「SO-25R」,シリカ,平均粒径は500nm,株式会社アドマテックス製)50質量部とを、メチルエチルケトンに加えて混合し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ50μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して当該接着剤組成物を塗布して接着剤組成物層を形成した。次に、この組成物層について130℃で2分間の加熱乾燥を行い、PETセパレータ上に厚さ30μmの比較例2のダイボンドフィルムを作製した。
【0118】
〈ダイシングダイボンドフィルムの作製〉
PETセパレータを伴う比較例2の上述のダイボンドフィルムを直径320mmの円盤形に打ち抜き加工した。このダイボンドフィルムを実施例1のダイボンドフィルム(直径312μm)の代わりに用いたこと以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、比較例2のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0119】
〔比較例3〕
ポリオレフィン製の基材S1(商品名「ファンクレア NED#125」,グンゼ株式会社製)の代わりに別のポリオレフィン製の基材S5(商品名「NSO」,厚さ100μm,大倉工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例1のダイシングテープと同様にして、比較例3のダイシングテープを作成した。そして、比較例3のダイシングテープを実施例1のダイシングテープの代わりに用いたこと以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、比較例3のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0120】
〔比較例4〕
ポリオレフィン製の基材S1(商品名「ファンクレア NED#125」,グンゼ株式会社製)の代わりに別のポリオレフィン製の基材S5(商品名「NSO」,厚さ100μm,大倉工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例1のダイシングテープと同様にして、比較例3のダイシングテープを作成した。そして、比較例3のダイシングテープを実施例1のダイシングテープの代わりに用いたこと、および、円盤形に打ち抜き加工されるダイボンドフィルムの直径を312μmに代えて320μmとしたこと、以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、比較例4のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0121】
〈ダイボンドフィルム(DAF)の破断伸度〉
実施例1~7および比較例1~4における各ダイボンドフィルムについて、引張試験機(商品名「オートグラフ AG-X」,株式会社島津製作所製)を使用して行う引張試験により、未硬化状態における-15℃での破断伸度を調べた。引張試験に供されるダイボンドフィルム試験片は、実施例および比較例ごとに、複数のダイボンドフィルムを厚さ210μmに積層して積層体を形成した後、当該積層体から長さ60mm×幅10mmのサイズで切り出して用意した。また、この引張試験において、初期チャック間距離は20mmであり、温度条件は-15℃であり、引っ張り前の試験片の-15℃での静置時間は2分間であり、引張速度は100mm/分である。測定された破断伸度(伸張前の長さに対する、破断時の伸張分の長さの割合)の値(%)を表1に掲げる。
【0122】
〈ダイシングテープ(DT)の破断伸度〉
実施例1~7および比較例1~4における各ダイシングテープについて、引張試験機(商品名「オートグラフ AG-X」,株式会社島津製作所製)を使用して行う引張試験により、-15℃での破断伸度を調べた。引張試験に供されるダイシングテープ試験片として、実施例および比較例ごとに2種類の試験片(第1試験片,第2試験片)を用意した。第1試験片は、ダイシングテープから、そのMD方向の長さ90mm×幅10mmのサイズで切り出したものである。第2試験片は、ダイシングテープから、そのTD方向の長さ90mm×幅10mmのサイズで切り出したものである。また、この引張試験において、初期チャック間距離は50mmであり、温度条件は-15℃であり、引っ張り前の試験片の-15℃での静置時間は2分間であり、引張速度は300mm/分である。測定された破断伸度(伸張前の長さに対する、破断時の伸張分の長さの割合)の値(%)を表1に掲げる。
【0123】
〈ダイシングテープ(DT)の熱収縮率〉
実施例1~7および比較例1~4における各ダイシングテープについて、そのMD方向の熱収縮率、TD方向の熱収縮率、およびこれらの平均熱収縮率を調べた。具体的には次のとおりである。
【0124】
実施例および比較例ごとに2種類の試験片(第3試験片,第4試験片)を用意した。第3試験片は、ダイシングテープから、そのMD方向の長さ140mm×幅10mmのサイズで切り出したものである。第4試験片は、ダイシングテープから、そのTD方向の長さ140mm×幅10mmのサイズで切り出したものである。切り出された各試験片には、その長手方向に離れる一対のマーキングラインを付した。各マーキングラインは試験片の幅方向に延び、且つ、マーキングライン間の距離は100mmである。そして、引張試験機(商品名「オートグラフ AG-X」,株式会社島津製作所製)を使用して試験片を伸張させた。この伸張操作においては、初期チャック間距離は100mmであり(チャック間隔とマーキングライン間隔とが一致するように試験片をチャックに保持させた)、23℃および引張速度は1000mm/分の条件でチャック間距離120mmまで試験片を引っ張り、引っ張り後に試験片を60秒間静置した。この伸張操作後の試験片について、引張試験機から取り外してマーキングライン間距離L1を測定した後、加熱処理を施した。加熱処理において、加熱温度は100℃であり、加熱時間は10秒間である。この加熱処理の後、試験片におけるマーキングライン間距離L2を測定した。試験片について算出される熱収縮率(収縮前の長さL1に対する、収縮分の長さ(L1-L2)の割合)の値(%)、並びに、実施例および比較例ごとのMD方向熱収縮率とTD方向熱収縮率とから算出される平均熱収縮率(%)を、表1に掲げる。
【0125】
〈エキスパンド工程からピックアップ工程までにおける評価〉
実施例1~7および比較例1~4の上述の各ダイシングダイボンドフィルムを使用して、以下のような貼合わせ工程、割断工程(割断用のクールエキスパンド工程)、離間工程(エキスパンド工程+ヒートシュリンク工程)、およびピックアップ工程を行った。
【0126】
貼合わせ工程では、ウエハ加工用テープ(商品名「UB-3083D」,日東電工株式会社製)に保持された半導体ウエハをダイシングダイボンドフィルムのダイボンドフィルムに対して貼り合わせ、その後、半導体ウエハからウエハ加工用テープを剥離した。貼合わせにおいては、ラミネーターを使用し、貼合わせ速度を10mm/秒とし、温度条件を50~80℃とし、圧力条件を0.15MPaとした。また、半導体ウエハは、次のようにして形成して用意したものである。
【0127】
まず、ベアウエハ(直径12インチ,厚さ780μm,東京化工株式会社製)の改質領域形成予定面である第1面の側にウエハ加工用テープ(商品名「UB-3083D」,日東電工株式会社製)を貼り合わせた。次に、ステルスダイシング装置(商品名「DAL7360(SDE05)」,Power:0.25W,周波数:80kHz,株式会社ディスコ製)を使用して、このベアウエハに対し、ウエハ内の第1面側に集光点の合わせられたレーザー光を第1面とは反対の裏面(第2面)側からウエハ内の分割予定ラインに沿って照射し、多光子吸収によるアブレーションに因ってウエハ内の第1面側に個片化用の改質領域(ウエハの第1面からの深さ50μm,一区画10mm×10mmの格子状をなす)を形成した。この後、バックグラインド装置(商品名「DGP8760」,株式会社ディスコ製)を使用して、ウエハの第2面(改質領域の形成されていない面)の側からの研削によって当該ウエハを厚さ30μmに至るまで薄化した。以上のようにして、半導体ウエハ(ウエハ加工用テープに保持された状態にある)を形成した。この半導体ウエハには、複数の半導体チップ(10mm×10mm)へと個片化されることとなる区画が含まれている。
【0128】
割断工程は、ダイセパレート装置(商品名「ダイセパレータ DDS2300」,株式会社ディスコ製)を使用して、その第1エキスパンドユニットであるクールエキスパンドユニットにて行った。具体的には、まず、半導体ウエハを伴う上述のダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープ粘着剤層に、直径12インチのSUS製リングフレーム(株式会社ディスコ製)を室温で貼り付けた。次に、当該ダイシングダイボンドフィルムを装置内にセットし、同装置の第1エキスパンドユニットにて、半導体ウエハを伴うダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープをエキスパンドした。この割断工程において、温度は-15℃であり、エキスパンド速度は200mm/秒であり、エキスパンド量は11mmである。
【0129】
割断工程の後にダイボンドフィルムを観察し、割断予定の辺(即ち、半導体ウエハの改質領域に対向して当該半導体ウエハの割断に伴って割断された場合に辺を生じる箇所)のうち、割断されていない辺の数を計測した。そして、割断予定の辺の総数と未割断の辺の数とから、割断予定の辺の総数に占める、割断した辺の数の割合を、割断率(%)として算出した。その結果を表1に掲げる。また、実施例1~7および比較例1~3のダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープは割断工程において破断箇所を生じなかったのに対し、比較例4のダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープは割断工程において破断箇所を生じた。この結果についても表1に掲げる。
【0130】
離間工程は、ダイセパレート装置(商品名「ダイセパレータ DDS2300」,株式会社ディスコ製)を使用して、その第2エキスパンドユニットにて行った。本工程では、まず、上述の割断工程を経た半導体ウエハを伴うダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープを、同装置の第2エキスパンドユニットにて、ワークを真空吸着可能なテーブルの上昇によって突き上げてエキスパンドした。このエキスパンドにおいて、温度は23℃であり、エキスパンド速度は1mm/秒であり、エキスパンド量は9mmである。本工程では、次に、テーブルの上昇によってエキスパンドされたダイシングテープをテーブルによって真空吸着し、テーブルによるその吸着を維持した状態でテーブルをワークとともに下降させた。そして、ダイシングダイボンドフィルムにおける、ワーク貼着領域より外側の周縁部について、加熱収縮処理を施した(ヒートシュリンク)。この処理において、加熱用の温風の温度は250℃であってその風量は40L/分であり、ヒート距離(温風吹き出し口から加熱対象物までの距離)は20mmであり、半導体ウエハを伴うダイシングダイボンドフィルムを保持するステージのローテーションスピードは3°/秒である。
【0131】
離間工程の後、レーザー顕微鏡(商品名「H300」,レーザーテック株式会社製)を使用して、ウエハ中央位置にて個片化されて生じた半導体チップと、その四辺にて隣り合う四つの半導体チップとの間の距離を測定した。その距離の平均値をカーフ幅(μm)として表1に掲げる。
【0132】
ピックアップ工程では、ピックアップ機構を有する装置(商品名「ダイボンダー SPA-300」,株式会社新川製)を使用して、ダイシングテープ上にて個片化されたダイボンドフィルム付き半導体チップのピックアップを試みた。このピックアップにおいて、ピックアップ高さは350μmであり、ピックアップ評価数は50である。このピックアップ工程に関し、50個のダイボンドフィルム付き半導体チップすべてをダイシングテープからピックアップできた場合を優(◎)と評価、ピックアップ成功率が90%以上かつ100%未満でる場合を良(○)と評価し、ピックアップ成功率が90%未満でる場合を不良(×)と評価した。その評価結果を表1に掲げる(上述のように割断工程にて破断箇所を生じた比較例4のダイシングダイボンドフィルムについては、ピックアップ評価を行えなかった)。
【0133】
[評価]
実施例1~7のダイボンドフィルムによると、エキスパンド工程において良好な割断を実現しつつ、チップ間の割断箇所につき十分なカーフ幅を確保することができた。
【0134】
【符号の説明】
【0135】
X ダイシングダイボンドフィルム
10,11 ダイボンドフィルム
10A ウエハ貼着領域
20 ダイシングテープ
21 基材
22 粘着剤層
W,30A,30B 半導体ウエハ
30C 半導体ウエハ分割体
30a 改質領域
30b 分割溝
31 半導体チップ