IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キリンホールディングス株式会社の特許一覧

特許7523898発酵工程中の機能性ペプチド含有量の減少が抑制された、はっ酵乳の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】発酵工程中の機能性ペプチド含有量の減少が抑制された、はっ酵乳の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/13 20060101AFI20240722BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20240722BHJP
   A23L 33/18 20160101ALN20240722BHJP
【FI】
A23C9/13 ZNA
A23C9/123
A23L33/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019180878
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021052694
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】田浦 啓子
(72)【発明者】
【氏名】阿野 泰久
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-233097(JP,A)
【文献】特開2013-090604(JP,A)
【文献】特開2019-136002(JP,A)
【文献】国際公開第2011/105335(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 1/00 - 23/00
A23L 2/00 - 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
はっ酵乳の製造において、原料乳と、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるテトラペプチド(GTWYテトラペプチド)とを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスの菌体を用いることを特徴とする、0.1~100mg/kgのGTWYテトラペプチドを含有するはっ酵乳の製造方法。
【請求項2】
はっ酵乳の製造において、原料乳とGTWYテトラペプチドとを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトコッカス・ラクティスの菌体を用いることを特徴とする、0.1~100mg/kgのGTWYテトラペプチドを含有するはっ酵乳の製造に際し、前記はっ酵乳原料配合液の発酵工程中のGTWYテトラペプチド含有量の減少を抑制する方法。
【請求項3】
0.1~100mg/kgのGTWYテトラペプチドを含有するはっ酵乳の製造において、原料乳とGTWYテトラペプチドとを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための組成物であって、
ラクトコッカス・ラクティスの菌体を有効成分とする、発酵工程における前記GTWYペプチドの減少抑制用組成物。
【請求項4】
0.1~100mg/kgのGTWYテトラペプチドを含有するはっ酵乳の製造において、牛乳及び大豆ペプチドのいずれも含まず、ホエイペプチド及び/またはカゼインペプチドを含み、かつ、GTWYペプチドの含有量が0.1~100mg/kgであるはっ酵乳原料配合液を、ラクトコッカス・ラクティスの菌体を用いて発酵させることを特徴とする、発酵によるGTWYテトラペプチドの減少を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の機能性ペプチドを含むはっ酵乳原料配合液(すなわち、はっ酵乳の原料の配合液)を乳酸菌で発酵させる際に、発酵工程中の該特定の機能性ペプチド含有量の減少が抑制された、はっ酵乳の製造方法や、発酵工程中の特定の機能性ペプチド含有量の減少を抑制する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
有用な生理活性を有する様々なペプチドが知られており、そのようなペプチドを有する飲食品への注目が近年高まっている。例えば特許文献1には、Val-Ala-Gly-Thr-Trp-TyrのN末端から3残基以上の連続したアミノ酸配列を含むペプチド又は該ペプチドを含有するβ-ラクトグロブリン加水分解物を、前記ペプチドの含量が添加後の全体量に対して0.01重量%以上となる量で含む、発酵乳飲食品などが開示されている。特許文献1のこのペプチドは、β-ラクトグロブリンをトリプシンで加水分解することにより調製することができる。また、特許文献2には、ラクトバチルス・ヘルベティカスCNCM I-3997、ラクトバチルス・ヘルベティカスCNCM I-3998およびラクトバチルス・ヘルベティカスCNCM I-3999から選択されるラクトバチルス・ヘルベティカスの乳酸菌株と、トリペプチドIPP、VPP、およびLPPの混合物とを含む発酵乳製品が開示されている。特許文献2のこのペプチドは、前述の特定の乳酸菌株で乳を発酵させることにより調製することができる。
【0003】
また、これまでに本発明者らは、記憶学習機能及び/又は認知機能を増強する活性を有するペプチドを、ホエイ又はカゼインのタンパク分解物から見いだしている(特許文献3)。特許文献3には、かかるペプチドとして、GTWY(特許文献3の配列番号7;本願の配列番号1)のアミノ酸配列からなるテトラペプチド(以下、「GTWYテトラペプチド」とも表す。)、WY(特許文献3の配列番号13)のアミノ酸配列からなるジペプチド(以下、「WYジペプチド」とも表す。)、WL(特許文献3の配列番号15)のアミノ酸配列からなるジペプチド(以下、「WLジペプチド」とも表す。)などが開示されている。また、特許文献3には、記憶学習機能等を増強する活性を有するペプチドを飲食品に配合することが記載されている。
【0004】
ところで、はっ酵乳の製造に使用することができる乳酸菌として、多くの種類の乳酸菌が知られており、かかる乳酸菌には例えば、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス、ラクトバシラス・ヘルベティカス、ラクトバシラス・デルブリッキ・サブスピーシーズ・ブルガリクス等が含まれている(特許文献4)
【0005】
しかし、特許文献3に記載の特定の機能性ペプチドを含むはっ酵乳原料配合液を特定の乳酸菌で発酵させることにより、発酵工程中の該特定の機能性ペプチド含有量の減少が抑制されることはこれまで知られておらず、また、そのように減少が抑制される、特定のペプチドと特定の乳酸菌との組み合わせもこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-144167号公報
【文献】特開2011-524744号公報
【文献】WO2015/194564号パンフレット
【文献】特開2017-184682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献3に記載の生理活性ペプチドを含有するはっ酵乳の開発を行うこととした。はっ酵乳に生理活性ペプチドを含ませるタイミングは、発酵工程より前や後に添加するか、発酵に伴う酵素反応などで生成させることが考えられるところ、本発明者らは、発酵工程前にペプチドを添加する方法は、発酵が進行する過程で該ペプチドの含有量が大幅に減少してしまう場合が多いという課題を見出した。
【0008】
本発明の課題は、特定の機能性ペプチドを含むはっ酵乳原料配合液を乳酸菌で発酵させる際に、発酵工程中の該特定の機能性ペプチド含有量の減少が抑制された、はっ酵乳の製造方法や、発酵工程中の特定の機能性ペプチド含有量の減少を抑制する方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、鋭意検討を行ったところ、GTWYテトラペプチドを含むはっ酵乳原料配合液を発酵する場合には、ラクトコッカス・ラクティスを用いると、はっ酵乳原料配合液に配合する乳や発酵促進成分の種類にかかわらず、GTWYテトラペプチドの含有量の減少を抑制することができ、
WYジペプチドを含むはっ酵乳原料配合液を発酵する場合には、ラクトバシラス・ヘルベティカスを用いると、はっ酵乳原料配合液に配合する乳や発酵促進成分の種類にかかわらず、WYジペプチドの含有量の減少を抑制することができ、WLジペプチドを含むはっ酵乳原料配合液を発酵する場合には、ラクトコッカス・ラクティス及び/又はラクトバシラス・デルブリッキを用いると、はっ酵乳原料配合液に配合する乳や発酵促進成分の種類にかかわらず、WLジペプチドの含有量の減少を抑制することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)はっ酵乳の製造において、原料乳と、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるテトラペプチド(GTWYテトラペプチド)とを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトコッカス・ラクティスの菌体を用いることを特徴とする、0.1~100mg/kgのGTWYテトラペプチドを含有するはっ酵乳の製造方法;
(2)ラクトコッカス・ラクティスの菌体が、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスの菌体、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスの菌体からなる群から選択される1種又は2種の菌体である、上記(1)に記載のはっ酵乳の製造方法;
(3)はっ酵乳の製造において、原料乳とGTWYテトラペプチドとを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトコッカス・ラクティスの菌体を用いることを特徴とする、
0.1~100mg/kgのGTWYテトラペプチドを含有するはっ酵乳の製造に際し、前記はっ酵乳原料配合液の発酵工程中のGTWYテトラペプチド含有量の減少を抑制する方法。
(4)はっ酵乳の製造において、原料乳と、WYのアミノ酸配列からなるジペプチド(WYジペプチド)とを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトバシラス・ヘルベティカスの菌体を用いることを特徴とする、0.01~50mg/kgのWYジペプチドを含有するはっ酵乳の製造方法;
(5)はっ酵乳の製造において、原料乳とWYジペプチドとを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトバシラス・ヘルベティカスの菌体を用いることを特徴とする、
0.01~50mg/kgのWYジペプチドを含有するはっ酵乳の製造に際し、前記はっ酵乳原料配合液の発酵工程中のWYジペプチド含有量の減少を抑制する方法;
(6)はっ酵乳の製造において、原料乳と、WLのアミノ酸配列からなるジペプチド(WLジペプチド)とを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトコッカス・ラクティスの菌体、及びラクトバシラス・デルブリッキの菌体からなる群から選択される1種又は2種の菌体を用いることを特徴とする、0.02~50mg/kgのWLジペプチドを含有するはっ酵乳の製造方法;
(7)ラクトコッカス・ラクティスの菌体が、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスの菌体であり、及び、ラクトバシラス・デルブリッキの菌体が、ラクトバシラス・デルブリッキ・サブスピーシーズ・ブルガリクスの菌体である、上記(6)に記載のはっ酵乳の製造方法;や
(8)はっ酵乳の製造において、原料乳とWLジペプチドとを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトコッカス・ラクティスの菌体、及びラクトバシラス・デルブリッキの菌体からなる群から選択される1種又は2種の菌体を用いることを特徴とする、
0.02~50mg/kgのWLジペプチドを含有するはっ酵乳の製造に際し、前記はっ酵乳原料配合液の発酵工程中のWLジペプチド含有量の減少を抑制する方法;
などに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の機能性ペプチドを含むはっ酵乳原料配合液を乳酸菌で発酵させる際に、発酵工程中の該特定の機能性ペプチド含有量の減少が抑制された、はっ酵乳の製造方法や、発酵工程中の特定の機能性ペプチド含有量の減少を抑制する方法等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、
[1]はっ酵乳の製造方法において、原料乳と、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるテトラペプチド(GTWYテトラペプチド)とを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトコッカス・ラクティスの菌体を用いることを特徴とする、0.1~100mg/kgのGTWYテトラペプチドを含有するはっ酵乳の製造方法(以下、「本発明の製造方法1」とも表示する。);や、
[2]はっ酵乳の製造において、原料乳とGTWYテトラペプチドとを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトコッカス・ラクティスの菌体を用いることを特徴とする、
0.1~100mg/kgのGTWYテトラペプチドを含有するはっ酵乳の製造に際し、前記はっ酵乳原料配合液の発酵工程中のGTWYテトラペプチド含有量の減少を抑制する方法(以下、「本発明の抑制方法1」とも表示する。);や、
[3]はっ酵乳の製造方法において、原料乳と、WYのアミノ酸配列からなるジペプチド(WYジペプチド)とを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトバシラス・ヘルベティカスの菌体を用いることを特徴とする、0.01~50mg/kgのWYジペプチドを含有するはっ酵乳の製造方法(以下、「本発明の製造方法2」とも表示する。);や、
[4]はっ酵乳の製造において、原料乳とWYジペプチドとを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトバシラス・ヘルベティカスの菌体を用いることを特徴とする、
0.01~50mg/kgのWYジペプチドを含有するはっ酵乳の製造に際し、前記はっ酵乳原料配合液の発酵工程中のWYジペプチド含有量の減少を抑制する方法(以下、「本発明の抑制方法2」とも表示する。);や、
[5]はっ酵乳の製造方法において、原料乳と、WLのアミノ酸配列からなるジペプチド(WLジペプチド)とを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトコッカス・ラクティスの菌体、及びラクトバシラス・デルブリッキの菌体からなる群から選択される1種又は2種の菌体を用いることを特徴とする、0.02~50mg/kgのWLジペプチドを含有するはっ酵乳の製造方法(以下、「本発明の製造方法3」とも表示する。);や、
[6]はっ酵乳の製造において、原料乳とWLジペプチドとを含むはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、ラクトコッカス・ラクティスの菌体、及びラクトバシラス・デルブリッキの菌体からなる群から選択される1種又は2種の菌体を用いることを特徴とする、
0.02~50mg/kgのWLジペプチドを含有するはっ酵乳の製造に際し、前記はっ酵乳原料配合液の発酵工程中のWLジペプチド含有量の減少を抑制する方法(以下、「本発明の抑制方法3」とも表示する。);や、
[7]ラクトコッカス・ラクティスの菌体と、0.1~100mg/kgのGTWYテトラペプチドとを含有するはっ酵乳(以下、「本発明のはっ酵乳1とも表示する。)や、
[8]ラクトバシラス・ヘルベティカスの菌体と、0.01~50mg/kgのWYジペプチドとを含有するはっ酵乳(以下、「本発明のはっ酵乳2」とも表示する。)や、
[9]ラクトコッカス・ラクティスの菌体、及びラクトバシラス・デルブリッキの菌体からなる群から選択される1種又は2種の菌体と、0.02~50mg/kgのWLジペプチドを含有するはっ酵乳(以下、「本発明のはっ酵乳3」とも表示する。)、
などの実施態様を含んでいる。
【0013】
(はっ酵乳)
本明細書において「はっ酵乳」とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令 )で定義される「発酵乳」、「乳製品乳酸菌飲料」、および「乳酸菌飲料」を包含する意味である。「発酵乳」の成分規格は、無脂乳固形分8.0%以上、乳酸菌(又は酵母数)1000万個/mL以上であり、「乳製品乳酸菌飲料」の成分規格は、無脂乳固形分3.0%以上、乳酸菌・酵母数1000万個/mL以上であり、「乳酸菌飲料」の成分規格は、無脂乳固形分3.0%未満、乳酸菌・酵母数100万個/mL以上である。
【0014】
本明細書における「はっ酵乳」には、例えば、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳などの乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を、乳酸菌で発酵させ、糊状または液状にしたものまたはこれらを凍結したものが含まれる。
【0015】
本発明における「はっ酵乳」としては発酵乳(ヨーグルト)が好ましく挙げられ、ヨーグルトとしては、ハードヨーグルト、ソフトヨーグルト(糊状はっ酵乳)、ドリンクヨーグルト(液状はっ酵乳)、フローズンヨーグルト(凍結状はっ酵乳)が挙げられる。なお、発酵乳の種類としては、大別すると、容器にはっ酵乳原料配合液を充填して発酵させた凝固状のヨーグルト(静置型ヨーグルト、後発酵タイプのヨーグルト)と、タンクにはっ酵乳原料配合液を入れて発酵し、生じたカードを砕き、これを容器に充填したヨーグルト(撹拌型ヨーグルト、前発酵タイプのヨーグルト)と、があるが、本発明における発酵乳は前発酵タイプであってもよいし、後発酵タイプであってもよい。ハードヨーグルトは通常は静置型ヨーグルトであり、ソフトヨーグルト、ドリンクヨーグルト、フローズンヨーグルトは通常は攪拌型ヨーグルトである。
【0016】
(ペプチド)
本発明の製造方法1や本発明の抑制方法1や本発明のはっ酵乳1では、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるテトラペプチド(GTWYテトラペプチド)を少なくとも用い、本発明の製造方法2や本発明の抑制方法2や本発明のはっ酵乳2では、WYのアミノ酸配列からなるジペプチド(WYジペプチド)を少なくとも用い、本発明の製造方法3や本発明の抑制方法3や本発明のはっ酵乳3では、WLのアミノ酸配列からなるジペプチド(WLジペプチド)を少なくとも用いる。以下、本明細書において、GTWYテトラペプチド、WYジペプチド及びWLジペプチドからなる群から選択される1種又は2種又は3種のペプチドを、「本発明におけるペプチド」とも表示する。本発明におけるペプチドは、前述したように、記憶学習機能及び/又は認知機能を増強する活性を有するペプチドである(特許文献3)。
【0017】
本発明におけるペプチドは、化学合成によって得られたものを用いてもよく、乳、大豆、小麦、卵、畜肉、魚肉、魚介などに由来するタンパク質やポリペプチド原料等から化学的もしくは酵素的に分解して得られたものを用いてもよい。具体的には、例えば、本発明に用いるペプチドの配列は、少なくとも、乳のホエイやカゼイン、牛血清アルブミン(BSA)、大豆のグリシニン、小麦のグルテニン、卵黄のリボビテリン、卵白のオボアルブミン、オボトランスフェリン、リゾチウム、チキン蛋白のコラーゲンなどに含まれているから、それらや、それらを含有する食品もしくは食品素材を酸加水分解やプロテアーゼによる酵素処理、又は微生物発酵等に供して、上記ペプチドを生成させることができる。本発明の組成物としてはその調製物をそのまま用いてもよいし、濃縮したり、スプレードライや凍結乾燥等により乾燥粉末として用いてもよい。また、必要に応じて不純物、塩、酵素等の除去など、任意の程度の精製を施して用いてもよい。
【0018】
本発明におけるペプチドを構成するアミノ酸は、L型のアミノ酸のみから構成されていてもよいし、D型のアミノ酸のみから構成されていてもよいし、あるいは両者が混在したペプチドのいずれであってもよい。また、天然に存在するアミノ酸のみから構成されていてもよいし、アミノ酸にリン酸化やグリコシル化等、任意の官能基が結合した修飾アミノ酸のみから構成されていてもよいし、あるいは両者が混在したペプチドのいずれであってもよい。また、ペプチドが2以上の不斉炭素を含む場合には、エナンチオマー、ジアステレオマー、あるいは両者が混在したペプチドのいずれであってもよい。
【0019】
さらに、本発明におけるペプチドは、その薬学上許容される塩もしくは溶媒和物であってもよい。例えば、薬学上許容される酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩等の有機酸塩などが挙げられる。また、薬学上許容される金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩などが挙げられる。また、薬学上許容されるアンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。また、薬学上許容される有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の付加塩が挙げられる。
【0020】
本発明に用いる「本発明におけるペプチド」(すなわち、GTWYテトラペプチド、WYジペプチド及びWLジペプチドからなる群から選択される1種又は2種又は3種のペプチド)としては、「本発明におけるペプチド」;「本発明におけるペプチドを含む組成物」;「本発明におけるペプチドのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつ、はっ酵乳原料配合液に含有させて発酵させた場合に本発明におけるペプチドを生じることができるペプチド及び/又はタンパク質」などが挙げられ、「本発明におけるペプチド」をより高濃度で含むはっ酵乳を製造する観点から、「本発明におけるペプチド」や、「本発明におけるペプチドを含む組成物」が好ましく挙げられ、より低いコストで利用できる観点から、「本発明におけるペプチドを含む組成物」がより好ましく挙げられる。
なお、「本発明におけるペプチド」;「本発明におけるペプチドを含む組成物」;「本発明におけるペプチドのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつ、はっ酵乳原料配合液に含有させて発酵させた場合に本発明におけるペプチドを生じることができるペプチド及び/又はタンパク質」は、いずれかを用いてもよいし、これらの2種又は3種を併用してもよい。
【0021】
上記の「本発明におけるペプチドを含む組成物」としては、本発明におけるペプチド(すなわち、GTWYテトラペプチド、WYジペプチド及びWLジペプチドからなる群から選択される1種又は2種又は3種のペプチド)を含む組成物である限り特に制限されないが、本発明におけるペプチドを含む乳ペプチド(すなわち、乳タンパク質の加水分解物であるペプチド)が好ましく挙げられ、本発明におけるペプチドを含むホエイペプチド(ホエイタンパク質の加水分解物)や、本発明におけるペプチドを含むカゼインペプチド(カゼインタンパク質の加水分解物)がより好ましく挙げられる。より詳細には、GTWYテトラペプチドやWYジペプチドを用いる場合は、ホエイペプチドを好適に用いることができ、WYジペプチドを用いる場合は、カゼインペプチドを好適に用いることができ、WLジペプチドを用いる場合は、ホエイペプチドを好適に用いることができる。
【0022】
上記の「本発明におけるペプチドのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつ、はっ酵乳原料配合液に含有させて発酵させた場合に本発明におけるペプチドを生じることができるペプチド及び/又はタンパク質」としては、本発明におけるペプチドのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつ、はっ酵乳原料配合液に含有させて発酵させた場合に本発明におけるペプチドを生じることができるペプチド及び/又はタンパク質である限り特に制限されないが、乳タンパク質、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質などが挙げられ、乳タンパク質、ホエイタンパク質が好ましく挙げられる。例えば、乳タンパク質やホエイタンパク質を含むはっ酵乳原料配合液を、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスNBRC100676や、ラクトバシラス・デルブリッキ・サブスピーシーズ・ブルガリクスNBRC13953で発酵させると、WLジペプチド濃度が発酵前より高くなる場合がある。
【0023】
上記の乳ペプチドや乳タンパク質等は市販されているものを使用することができる。例えばホエイペプチドとしては、HW-3(雪印メグミルク社製)、LE80GF-US(日本新薬社製)が好ましく挙げられ、HW-3がより好ましく挙げられ、カゼインペプチドとしては、CE90GMM(日本新薬社製)が好ましく挙げられ、乳タンパク質としては、乳たん白Z(日本新薬社製)が挙げられ、ホエイタンパク質としては、PROGEL800(日本新薬社製)、エンラクトYYY(日本新薬社製)が挙げられる。
【0024】
本発明におけるペプチドの使用量としては特に制限されないが、本発明の効果をより多く享受する観点から、本発明におけるペプチドを一定量以上使用することが好ましい。
例えば、本発明の製造方法1や本発明の抑制方法1や本発明のはっ酵乳1の製造においては、はっ酵乳原料配合液中のGTWYテトラペプチドの含有量が0.1mg/kg以上、好ましくは1mg/kg以上、より好ましくは2mg/kg以上、であって、100mg/kg以下、より好ましくは50mg/kg以下、さらに好ましくは40mg/kg以下となるように、GTWYテトラペプチド及び/又はGTWYテトラペプチドを含む組成物をはっ酵乳原料配合液中に含有させることが好ましく挙げられる。
また、本発明の製造方法2や本発明の抑制方法2や本発明のはっ酵乳2の製造においては、はっ酵乳原料配合液中のWYジペプチドの含有量が0.01mg/kg以上、好ましくは0.1mg/kg以上、より好ましくは0.5mg/kg以上であって、50mg/kg以下、より好ましくは20mg/kg以下、さらに好ましくは10mg/kg以下となるように、WYジペプチド及び/又はWYジペプチドを含む組成物をはっ酵乳原料配合液中に含有させることが好ましく挙げられる。
また、本発明の製造方法3や本発明の抑制方法3や本発明のはっ酵乳3の製造においては、はっ酵乳原料配合液中のWLジペプチドの含有量が0.02mg/kg以上、好ましくは0.1mg/kg以上、より好ましくは0.2mg/kg以上であって、50mg/kg以下、より好ましくは10mg/kg以下、さらに好ましくは5mg/kg以下なるように、WLジペプチド及び/又はWLジペプチドを含む組成物をはっ酵乳原料配合液中に含有させることが好ましく挙げられる。
【0025】
また、本発明におけるペプチドの好ましい使用量を、はっ酵乳中の本発明におけるペプチドの濃度で以下に記載する。
本発明の製造方法1や本発明の抑制方法1や本発明のはっ酵乳1の製造においては、はっ酵乳中のGTWYテトラペプチドの含有量が0.1mg/kg以上、好ましくは1mg/kg以上、より好ましくは2mg/kg以上、であって、100mg/kg以下、より好ましくは50mg/kg以下、さらに好ましくは40mg/kg以下となるように、「GTWYテトラペプチド」、「GTWYテトラペプチドを含む組成物」及び「GTWYのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつ、はっ酵乳原料配合液に含有させて発酵させた場合にGTWYテトラペプチドを生じることができるペプチド及び/又はタンパク質」からなる群から選択される1種又は2種又は3種(好ましくは、「GTWYテトラペプチド」及び/又は「GTWYテトラペプチドを含む組成物」)をはっ酵乳原料配合液中に含有させることが好ましく挙げられる。
本発明の製造方法2や本発明の抑制方法2や本発明のはっ酵乳2の製造においては、はっ酵乳中のWYジペプチドの含有量が0.01mg/kg以上、好ましくは0.1mg/kg以上、より好ましくは0.5mg/kg以上であって、50mg/kg以下、より好ましくは20mg/kg以下、さらに好ましくは10mg/kg以下となるように、「WYジペプチド」、「WYジペプチドを含む組成物」及び「WYのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつ、はっ酵乳原料配合液に含有させて発酵させた場合にWYジペプチドを生じることができるペプチド及び/又はタンパク質」からなる群から選択される1種又は2種又は3種(好ましくは、「WYジペプチド」及び/又は「WYジペプチドを含む組成物」)をはっ酵乳原料配合液中に含有させることが好ましく挙げられる。
本発明の製造方法3や本発明の抑制方法3や本発明のはっ酵乳3の製造においては、はっ酵乳中のWLジペプチドの含有量が0.02mg/kg以上、好ましくは0.1mg/kg以上、より好ましくは0.2mg/kg以上であって、50mg/kg以下、より好ましくは10mg/kg以下、さらに好ましくは5mg/kg以下となるように、「WLジペプチド」、「WLジペプチドを含む組成物」及び「WLのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなり、かつ、はっ酵乳原料配合液に含有させて発酵させた場合にWLジペプチドを生じることができるペプチド及び/又はタンパク質」からなる群から選択される1種又は2種又は3種(好ましくは、「WLジペプチド」及び/又は「WLジペプチドを含む組成物」)をはっ酵乳原料配合液中に含有させることが好ましく挙げられる。
【0026】
(原料乳)
「原料乳」は、ヨーグルトなどのはっ酵乳の原料となるものである。本発明では、公知の原料乳を適宜用いることができる。原料乳には、殺菌前のものも、殺菌後のものも含まれる。原料乳の具体的な原料としては、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリーム、バターミルク、バター及び水からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられ、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリーム及び水からなる群から選択される1種又は2種以上が好ましく挙げられ、「生乳」、「殺菌処理した乳」、「脱脂乳」、「全脂粉乳及び水」、「脱脂粉乳及び水」、「生乳及びクリーム」、「殺菌処理した乳及びクリーム」、「脱脂乳及びクリーム」、「全脂粉乳、水及びクリーム」、「脱脂粉乳、水及びクリーム」などがより好ましく挙げられる。
【0027】
原料乳は、公知であり、公知の方法に従って調製することができる。例えば、全脂粉乳や脱脂粉乳は、全脂粉乳や脱脂粉乳を水で希釈したものを好ましく用いることができ、全脂粉乳や脱脂粉乳が7~13重量%となるように水で希釈したものをより好ましく用いることができる。
【0028】
本発明において使用される原料乳は、無脂乳固形分として6.0%以上10.0%以下が好ましく、より好ましくは7.0%以上9.0%以下である。また、乳脂肪分として0.5%以上4.0%以下が好ましく、より好ましくは1.0%以上3.0%以下である。
【0029】
(本発明におけるはっ酵乳原料配合液)
本発明におけるはっ酵乳原料配合液は、原料乳と本発明における所定のペプチドとを含んでいる限り特に制限されない。本発明における所定のペプチドとして、本発明の製造方法1や本発明の抑制方法1や本発明のはっ酵乳1の製造においては、GTWYテトラペプチドを少なくとも用い、本発明の製造方法2や本発明の抑制方法2や本発明のはっ酵乳2の製造においては、WYジペプチドを少なくとも用い、本発明の製造方法3や本発明の抑制方法3や本発明のはっ酵乳3の製造においては、WLジペプチドを少なくとも用いる。本発明は、はっ酵乳原料配合液を調製する工程をさらに含んでいなくてもよいが、さらに含んでいてもよい。はっ酵乳原料配合液を調製する工程としては、原料乳と、本発明における所定のペプチドとを含むはっ酵乳原料配合液を調製する工程である限り特に制限されないが、例えば原料乳と、本発明における所定のペプチドを混合する工程が挙げられる。
【0030】
(はっ酵乳原料配合液における任意成分)
本発明におけるはっ酵乳原料配合液には、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、香料、甘味料、発酵促進成分等を含有させてもよい。
【0031】
上記の安定剤としては特に限定されず、例えば、寒天、ゼラチン等が挙げられる。上記の香料としては特に限定されず、例えば、天然香料、各種フレーバー類等が挙げられる。また、上記の甘味料としては特に限定されず、例えば、砂糖、水あめ、粉飴、異性化糖、乳糖、麦芽糖、果糖、転化糖、還元麦芽水あめ、蜂蜜、トレハロース、パラチノース、D-キシロース等の糖類;キシリトール、ソルビトール、マルチロール、エリスリトール等の糖アルコール類;サッカリンナトリウム、サイクラメート及びその塩、アセスルファムカリウム、ソーマチン、アスパルテーム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、ステビア抽出物に含まれるステビオサイド等の高甘味度甘味料等が挙げられ、これらの甘味料を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0032】
上記の発酵促進成分としては、「本発明におけるペプチドのいずれでもないペプチド」や「はっ酵乳原料配合液に含有させて発酵させた場合に本発明におけるペプチドを生じないペプチド及び/又はタンパク質」などが挙げられ、より具体的には、「乳ペプチド(ホエイペプチド及び/又はカゼインペプチドなど)に含まれるペプチドであって、本発明におけるペプチドのいずれでもないペプチド」、「大豆ペプチドに含まれるペプチドであって、本発明におけるペプチドのいずれでもないペプチド」、「はっ酵乳原料配合液に含有させて発酵させた場合に本発明におけるペプチドを生じない乳タンパク質(ホエイタンパク質及び/又はカゼインタンパク質など)」が挙げられる。かかる発酵促進成分として具体的には、「前述のHW-3(雪印メグミルク社製)に含まれるペプチドのうち、本発明におけるペプチドではないペプチド」、「LE80GF-US(日本新薬社製)に含まれるペプチドのうち、本発明におけるペプチドではないペプチド」、「CE90GMM(日本新薬社製)に含まれるペプチドのうち、本発明におけるペプチドではないペプチド」、「乳たん白Z(日本新薬社製)に含まれるタンパク質のうち、はっ酵乳原料配合液に含有させて発酵させた場合に本発明におけるペプチドを生じないタンパク質」、「PROGEL800(日本新薬社製)に含まれるタンパク質のうち、はっ酵乳原料配合液に含有させて発酵させた場合に本発明におけるペプチドを生じないタンパク質」、「エンラクトYYY(日本新薬社製)に含まれるタンパク質のうち、はっ酵乳原料配合液に含有させて発酵させた場合に本発明におけるペプチドを生じないタンパク質」などが好ましく挙げられる。
【0033】
(均質化処理工程)
本発明は、はっ酵乳原料配合液を均質化処理する工程をさらに含んでいなくてもよいが、均質化処理する工程をさらに含んでいることが好ましい。はっ酵乳原料配合液を均質化処理する方法としては、ホモジナイザー等ではっ酵乳原料配合液に圧力を加えるなど、通常用いられている方法を用いることができる。均質化処理を行う場合、均質化処理を行う時点は特に制限されず、後述する加熱殺菌処理の前に行ってもよいし、加熱殺菌処理の後であって発酵工程の前に行ってもよいが、より衛生的であることから加熱殺菌処理の前に行うことが好ましい。
【0034】
(加熱殺菌処理工程)
本発明は、はっ酵乳原料配合液を加熱殺菌処理する工程をさらに含んでいることが好ましい。加熱殺菌処理を行う場合、加熱殺菌処理を行う時点は特に制限されないが、はっ酵乳原料配合液を調製する工程より後であって、発酵工程よりも前に行うことが好ましい。はっ酵乳原料配合液を加熱殺菌処理する方法としては、通常用いられている方法を用いることができる。例えば、はっ酵乳原料配合液を、プレート式殺菌機、チューブラー式殺菌機、直接加熱式殺菌機、ジャケット付きタンク等の加熱処理装置等を用いて加熱することにより行なうことができる。なお、加熱殺菌処理する工程の後に、はっ酵乳原料配合液を冷却することが好ましい。
【0035】
(発酵工程)
本発明において、本発明におけるはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、所定の乳酸菌の菌体を用いる、とは、本発明におけるはっ酵乳原料配合液を発酵させるための乳酸菌として、所定の乳酸菌の菌体を用いる限り特に制限されないが、より具体的には、本発明におけるはっ酵乳原料配合液に所定の乳酸菌の菌体を添加して発酵させる工程を実施することが好適に含まれる。本発明におけるかかる発酵工程としては、はっ酵乳原料配合液に所定の乳酸菌の菌体を添加して発酵させる工程である限り特に制限されない。
【0036】
かかる発酵工程で用いる所定の乳酸菌の種類と、発酵工程中の含有量の減少を抑制する対象のペプチドの種類は以下のように対応している。以下、そのペプチドの減少を抑制するための発酵工程で用いる所定の乳酸菌を、その「ペプチドに対応する乳酸菌」とも表示する。
GTWYテトラペプチドに対応する所定の乳酸菌の菌体(すなわち、本発明の製造方法1や本発明の抑制方法1や本発明のはっ酵乳1の製造において用いる乳酸菌の菌体)は、ラクトコッカス・ラクティスの菌体であり、好ましくは、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティスの菌体、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスの菌体からなる群から選択される1種又は2種の菌体であり、より好ましくは、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス分離株の菌体、及びラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスNBRC100676の菌体からなる群から選択される1種又は2種の菌体であり、WYジペプチドに対応する所定の乳酸菌の菌体(すなわち、本発明の製造方法2や本発明の抑制方法2や本発明のはっ酵乳2の製造において用いる乳酸菌の菌体)は、ラクトバシラス・ヘルベティカスの菌体であり、好ましくはラクトバシラス・ヘルベティカスNBRC15019の菌体であり、WLジペプチドに対応する所定の乳酸菌の菌体(すなわち、本発明の製造方法3や本発明の抑制方法3や本発明のはっ酵乳3の製造において用いる乳酸菌の菌体)は、ラクトコッカス・ラクティスの菌体、及びラクトバシラス・デルブリッキの菌体からなる群から選択される1種又は2種の菌体であり、好ましくは、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス・クレモリスの菌体、及びラクトバシラス・デルブリッキ・サブスピーシーズ・ブルガリクスの菌体からなる群から選択される1種又は2種の菌体であり、より好ましくは、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス・クレモリスNBRC100676の菌体、及びラクトバシラス・デルブリッキ・サブスピーシーズ・ブルガリクスNBRC13953の菌体からなる群から選択される1種又は2種の菌体である。
【0037】
本発明において、ペプチドに対応する乳酸菌のみを用いてもよいが、ペプチドに対応する乳酸菌以外の乳酸菌を併用してもよい。ペプチドに対応する乳酸菌以外の乳酸菌としては特に制限されないが、ストレプトコッカス・サーモフィラス、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダムなどが挙げられる。本発明において、ペプチドに対応する乳酸菌以外の乳酸菌を併用する場合の併用割合は特に制限されないが、はっ酵乳原料配合液中のすべての乳酸菌の濃度(CFU/g)に対する、ペプチドに対応する乳酸菌の濃度(CFU/g)の割合(%)で、例えば30%以上、好ましくは45%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であることが挙げられる。
【0038】
本発明に用いる乳酸菌は、さまざまな寄託機関などから入手することができる。例えば、NBRC番号で特定される微生物は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8にある独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門(NITE Biological Resource Center:NBRC)より入手可能である。なお、NBRCでは菌株名による検索で様々な菌株のNBRC番号を特定することができるため、NBRC番号を事前に知らなくても、様々な菌株を入手することができる。また、本発明に用いる乳酸菌は、自然界から分離することもできる。
【0039】
所定の乳酸菌の菌体は、はっ酵乳の公知の製造方法において採用されている方法ではっ酵乳原料配合液に添加することができる。例えば、乳酸菌が増殖し得る培養培地で乳酸菌を培養した後、乳酸菌の菌体を含むその培養培地をはっ酵乳原料配合液に添加することができる。はっ酵乳原料配合液に添加する乳酸菌の添加量としては、その乳酸菌の添加後、はっ酵乳原料配合液の発酵が進む限り特に制限されないが、例えば、はっ酵乳原料配合液中のその乳酸菌の濃度が1×10CFU/g以上、好ましくは1×10CFU/g以上となるように添加することが好ましい。
【0040】
発酵温度などの発酵条件は、原料乳に添加された乳酸菌の種類や、求める発酵乳の風味などを考慮して適宜調整することができる。発酵室内の温度(発酵温度)の好適な例として、ラクトコッカス・ラクティスの場合は25~35℃が挙げられ、ラクトバシラス・デルブリッキや、ラクトバシラス・ヘルベティカスの場合は35~45℃が挙げられる。
【0041】
発酵時間は、用いる乳酸菌の種類、発酵温度、製造するはっ酵乳の種類や性質などに応じて適宜調整することができ、例えば1~96時間、好ましくは2~72時間、より好ましくは3~48時間が挙げられる。発酵ははっ酵乳のpHが例えば5.05以下、好ましくは4.83以下、より好ましくは4.2~4.83程度になるまで行うことが好ましい。はっ酵乳のpHは常法により測定することができる。
【0042】
(容器への充填工程)
本発明は、容器への充填工程をさらに含んでいなくてもよいが、さらに含んでいることが好ましい。
後発酵の製法の場合は、はっ酵乳原料配合液(好ましくは、加熱殺菌処理工程を経たはっ酵乳原料配合液、より好ましくは、加熱殺菌処理工程を経た後であって、所定の乳酸菌の菌体を添加する前のはっ酵乳原料配合液)を容器に充填することが好ましい。一方、前発酵の製法の場合は、発酵工程後の発酵乳(好ましくは、発酵工程後、攪拌した後の発酵乳)を容器に充填することが好ましい。
【0043】
(発酵工程中の本発明におけるペプチド含有量の減少の抑制)
本発明において、「発酵工程中の本発明におけるペプチド(すなわち、GTWYテトラペプチド、WYジペプチド又はWLジペプチド)含有量の減少が抑制された」はっ酵乳とは、本発明におけるそのペプチド(すなわち、GTWYテトラペプチド、WYジペプチド又はWLジペプチド)に対応する乳酸菌を用いないこと以外は、同種のはっ酵乳原料配合液を用いて同じ製法で製造したはっ酵乳(以下、「コントロールはっ酵乳」とも表示する。)と比較して、はっ酵乳中の本発明におけるそのペプチド(すなわち、GTWYテトラペプチド、WYジペプチド又はWLジペプチド)の含有濃度が高いはっ酵乳を意味する。
なお、本発明における「発酵工程中の本発明におけるペプチド(すなわち、GTWYテトラペプチド、WYジペプチド又はWLジペプチド)含有量の減少が抑制された」はっ酵乳には、便宜上、発酵工程中の本発明におけるペプチド(すなわち、GTWYテトラペプチド、WYジペプチド又はWLジペプチド)含有量が増加する場合も含まれることとする。
【0044】
本発明におけるペプチド含有量の減少の抑制の程度としては、特に制限されないが、好ましい程度としては、発酵前のはっ酵乳原料配合液中の本発明におけるペプチド(すなわち、GTWYテトラペプチド、WYジペプチド又はWLジペプチド)濃度を基準(すなわち100%)としたときの、本発明におけるペプチド(すなわち、GTWYテトラペプチド、WYジペプチド又はWLジペプチド)濃度の割合(%)(以下、ペプチド残存率)で、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上が挙げられる。また、好ましい態様としては、後述の実施例のはっ酵乳原料配合液1~15のうち、2種類以上、好ましくは3種類以上、より好ましくは3種以上で、ペプチド残存率が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であることが挙げられる。
【0045】
(ペプチド濃度の測定方法)
はっ酵乳原料配合液中やはっ酵乳中の本発明におけるペプチドの濃度は液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC/MSMS法)にて測定する。LC/MSMS法としては、後述の実施例に記載された方法を使用する。
【0046】
以下に、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0047】
[試験1]はっ酵乳原料に含まれる測定対象ペプチド濃度の測定
はっ酵乳の原料として、牛乳及び/又は脱脂粉乳のほか、発酵促進剤として乳タンパク質や乳ペプチド(乳タンパク質の加水分解物であるペプチド)が用いられる場合がある。後述の試験2以降の試験で、市販の脱脂粉乳と、乳タンパク質や乳ペプチドとをはっ酵乳原料配合液に含有させるため、これら脱脂粉乳、乳タンパク質、乳ペプチド中の本発明におけるペプチド等の濃度を測定することとした。なお、測定対象ペプチド(合計6種)には、本発明におけるペプチド(GTWYテトラペプチド、WYジペプチド、WLジペプチド)の他、以下の3種のペプチドが含まれる。これら3種類のペプチドも、以前、本発明者らが記憶学習機能及び/又は認知機能を増強するペプチドとして見いだしたペプチドである(特許文献3)。
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるテトラペプチド(TWYSテトラペプチド)
TWYのアミノ酸配列からなるジペプチド(TWYトリペプチド)
WVのアミノ酸配列からなるジペプチド(WVジペプチド)
【0048】
(1)方法
脱脂粉乳として、Difco社製の脱脂粉乳を用意した。また、乳ペプチドとして、LE80GF-US(日本新薬社製)、CE90GMM(日本新薬社製)、HW-3(雪印メグミルク社製)を、乳タンパク質として、乳たん白Z(日本新薬社製)、PROGEL800(日本新薬社製)、エンラクトYYY(日本新薬社製)を用意した。なお、LE80GF-USはホエイペプチド(ホエイタンパク質の加水分解物)であり、CE90GMMはカゼインペプチド(カゼインタンパク質の加水分解物)であり、HW-3はホエイペプチドであり、乳たん白Zは乳タンパク質であり、PROGEL800はホエイタンパク濃縮物であり、エンラクトYYYはホエイタンパク濃縮物である。
【0049】
(ア)分析サンプルの調製
はっ酵乳原料(先に挙げた脱脂粉乳、乳タンパク質、乳ペプチドのうちのいずれか1種)を20mg分取して水に溶解、希釈して、いずれか1種のはっ酵乳原料を0.01%(W/V)含む溶液を得た。この溶液を遠心分離(15000rpm×3分間、5℃。以下同じ)してその上清を限外濾過(10kDa。以下同じ)して濾液を得た。濾液を適宜希釈し分析サンプルとした。測定はLC/MSMSを用い、以下の条件とした。濃度換算は検量線法によった。
【0050】
(イ)分析条件
(i)装置
質量分析計:4000Q TRAP(エービー・サイエックス社製)
LC計:Agilent 1200 Series(アジレント・テクノロジー社製)
(ii)LC条件
カラム:TSK gel ODS-100V 3μM 2.0mm I.D.X150mm(東ソー社製)
カラム温度:70℃
移動相A:0.1 vol%ギ酸-蒸留水
移動相B:0.1 vol%ギ酸-アセトニトリル
流量:0.2mL/min
注入量:2μL
LC/MSMS グラジエント条件(表1)
【0051】
【表1】
【0052】
(iii)MSMS条件
イオン化法:ESI(正イオン検出モード)
カーテンガス:40 psi
ネブライザーガス:50 psi
乾燥ガス:80 psi
乾燥ガス温度:600 ℃
コリジョンガス:窒素
イオン化電圧:5000 V
各測定対象ペプチドにおける設定質量数(m/z),コリジョンエネルギー(CE;eV),DP電圧(V)をそれぞれ表2に記載した。
【0053】
【表2】
【0054】
(2)結果
はっ酵乳の各原料(合計7種)中の各測定対象ペプチド(合計6種)の濃度を測定した結果を以下の表3に示す。なお、かかる測定の定量下限値は0.05mg/gであり、表3における「-」はそのペプチド濃度が定量下限値未満であったことを表す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3の結果から分かるように、脱脂粉乳、乳たん白Z、PROGEL800、及び、エンラクトYYYでは、いずれの測定対象ペプチドも、定量下限値(0.05mg/g)未満であった。一方、LE80GF-USはGTWYテトラペプチド及びWYジペプチドを、CE90GMMはWYジペプチドを、HW-3はGTWYテトラペプチド、WYジペプチド、WVジペプチド及びWLジペプチドを、表3に記載の濃度で含んでいることが示された。
【0057】
[試験2]はっ酵乳原料配合液からはっ酵乳への発酵の過程における、測定対象ペプチドの濃度の変化(1)
はっ酵乳原料配合液からはっ酵乳への発酵の過程で測定対象ペプチドの濃度がどのように変化するかを以下の方法で調べた。試験2では、測定対象ペプチドとして、GTWYテトラペプチドとWYジペプチドの濃度の変化を調べた。
【0058】
2-1 はっ酵乳の製造
(1)はっ酵乳原料配合液の調製
後述の表4又は5に記載の組成で原料を混合した後、105℃で10分間オートクレーブ殺菌し、常温まで冷却してはっ酵乳原料配合液1~10をそれぞれ得た。はっ酵乳原料配合液1~10においては、発酵促進剤として、乳ペプチド(ホエイペプチド:LE80GF-US、HW-3; カゼインペプチド:CE90GMM)又は大豆ペプチド(HKB:不二製油社製)を使用した。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
(2)供試菌株の前培養液の調製
10%(W/V)のスキムミルク(Difco社製)及び0.2%(W/V)のYeast extract (Difco社製)を含む水溶液を105℃で10分間オートクレーブ殺菌し、前培養培地とした。表6記載の各供試菌の凍結液約30μLを前培養培地3mLにそれぞれ植菌して、表6記載の各温度で72時間培養し、各供試菌の前培養液(以下、それぞれ「供試菌前培養液1~15」)を得た。なお、各供試菌は、NBRCなどから入手した。
【0062】
【表6】
【0063】
(3)はっ酵工程
上記表4及び表5に記載のはっ酵乳原料配合液1~10に、それぞれ供試菌前培養液1~15を3%(W/V)添加した後、前培養のときと同じ培養温度(表6)で発酵を行った。発酵はヨーグルトの製造を想定して、各はっ酵乳原料配合液について、はっ酵乳原料配合液が半流動ゲル状のヨーグルトとなるまで発酵を行って各はっ酵乳サンプルを得た。ただし、はっ酵乳配合液の種類と供試菌の種類によっては、培養を比較的長時間行ってもはっ酵乳配合液のpHの低下の程度が少なく、半流動ゲル状ではなく液状に近いままのはっ酵乳サンプルもあった。各はっ酵乳サンプルを5℃に冷却した後、撹拌して、分析に供した。また、発酵工程を行わない各はっ酵乳原料配合液はコントロールとして分析に供した。
【0064】
2-2 ペプチドの分析
(1)方法
はっ酵乳サンプル及びはっ酵前のはっ酵乳原料配合液(コントロール)に含まれるGTWYテトラペプチド濃度及びWYジペプチド濃度を測定した。
【0065】
はっ酵乳サンプル0.5gに水0.5mLを加えて懸濁し、遠心分離したものの上清を限外濾過した濾液を適宜希釈したものを分析サンプルとした。はっ酵前のはっ酵乳原料配合液(コントロール)については、はっ酵乳原料配合液(すなわち、所定の原料を混合した後、105℃で10分間オートクレーブ殺菌し、常温まで冷却した配合液)0.5gに水0.5mLを加えて懸濁し、前記分析サンプルと同様に遠心分離、限外濾過、適宜希釈したものを分析サンプルとした。これらの分析サンプルの分析はLC/MSMSを用い、試験1の際と同じ分析条件で行った。濃度換算は検量線法によった。また、はっ酵乳原料配合液やはっ酵乳サンプルのpHは常法により測定した。
【0066】
(2)結果
供試菌番号1~7の乳酸菌でそれぞれ発酵させた各はっ酵乳におけるGTWYテトラペプチド濃度及びWYジペプチド濃度、並びに、各コントロールにおけるGTWYテトラペプチド濃度及びWYジペプチド濃度を以下の表7~表10に示す。また、供試菌番号8~15の乳酸菌でそれぞれ発酵させた各はっ酵乳におけるGTWYテトラペプチド濃度及びWYジペプチド濃度、並びに、各コントロールにおけるGTWYテトラペプチド濃度及びWYジペプチド濃度を以下の表11~表14に示す。
例えば、はっ酵乳原料配合液1の項目において、供試菌番号1の項目のGTWYテトラペプチド濃度は、はっ酵乳原料配合液1を表5の供試菌番号1の乳酸菌株で発酵させたはっ酵乳サンプル中のGTWYテトラペプチド濃度を表す。
また、各はっ酵乳サンプル及びはっ酵前の各はっ酵乳原料配合液(コントロール)のpHを測定した結果を以下の表7~表14に示し、また、各はっ酵乳サンプルの発酵時間も以下の表7~表14に示す。
【0067】
【表7】
【0068】
【表8】
【0069】
【表9】
【0070】
【表10】
【0071】
【表11】
【0072】
【表12】
【0073】
【表13】
【0074】
【表14】
【0075】
上記表7~表14の結果から分かるように、はっ酵乳原料配合液の種類や供試菌の種類によって、GTWYテトラペプチド濃度やWYジペプチド濃度が大きく異なることが分かった。そこで、発酵前のはっ酵乳原料配合液中のGTWYテトラペプチド濃度又はWYジペプチド濃度(いずれのペプチド濃度も表7~表14参照)を基準(すなわち100%)としたときの、はっ酵乳サンプル中のGTWYテトラペプチド濃度又はWYジペプチド濃度(いずれのペプチド濃度も表7~表14参照)の割合(%)(以下、「ペプチドの残存率(%)」とも表示する。)をそれぞれ算出した結果を、それぞれ以下の表15~表22に示す。なお、表15~表22において、好ましいペプチドの残存率(%)として、かかる残存率が60%以上の場合は残存率(%)の数値に一重の下線を記し、70%以上の場合は残存率(%)の数値に二重の下線を記した。また、pHはある程度低い方が好ましいため、はっ酵乳サンプルのpHが5.05以下の場合にはpHの数値に一重の下線を記し、pHが4.83以下の場合にはpHの数値に二重の下線を記した。
【0076】
【表15】
【0077】
【表16】
【0078】
【表17】
【0079】
【表18】
【0080】
【表19】
【0081】
【表20】
【0082】
【表21】
【0083】
【表22】
【0084】
表15~表22の結果から、発酵工程の乳酸菌として供試菌3(ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス分離株)又は供試菌4(ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスNBRC100676)を使用すると、はっ酵乳の原料の種類にかかわらず(すなわち、はっ酵乳原料配合液1~10のいずれかにかかわらず)、GTWYテトラペプチドの残存率(%)が高いはっ酵乳が得られること(すなわち、発酵工程中のGTWYテトラペプチド含有量の減少を抑制できること)が示された。このことから、ラクトコッカス・ラクティス種に属する菌であれば、はっ酵乳の原料の種類にかかわらず、発酵工程中のGTWYテトラペプチド含有量の減少を抑制できると考えられた。
【0085】
また、表15~表22の結果から、供試菌10(ラクトバシラス・ヘルベティカスNBRC15019)を使用すると、はっ酵乳の原料の種類にかかわらず(すなわち、はっ酵乳原料配合液1~10のいずれかにかかわらず)、WYジペプチドの残存率(%)が高いはっ酵乳が得られること(すなわち、発酵工程中のWYジペプチド含有量の減少を抑制できること)が示された。
【0086】
[試験3]はっ酵乳原料配合液からはっ酵乳への発酵の過程における、測定対象ペプチドの濃度の変化(2)
はっ酵乳原料配合液からはっ酵乳への発酵の過程で測定対象ペプチドの濃度がどのように変化するかを以下の方法で調べた。試験3では、測定対象ペプチドとして、TWYSテトラペプチド、TWYトリペプチド、WVジペプチド及びWLジペプチドの濃度の変化を調べた。
【0087】
3-1 はっ酵乳の製造
(1)はっ酵乳原料配合液の調製
後述の表23に記載の組成で原料を混合した後、105℃で10分間オートクレーブ殺菌し、常温まで冷却してはっ酵乳原料配合液11~15をそれぞれ得た。はっ酵乳原料配合液11~15においては、発酵促進剤として、LE80GF-US(ホエイペプチド)、CE90GMM(カゼインペプチド)、乳たん白Z(乳タンパク質)、PROGEL800(ホエイタンパク濃縮物)又はエンラクトYYY(ホエイタンパク濃縮物)を使用した。
【0088】
【表23】
【0089】
(2)供試菌株の前培養液の調製
前述の試験2の2-1の(2)に記載の方法で、供試菌前培養液1~15を得た。
【0090】
(3)はっ酵工程
上記表23に記載のはっ酵乳原料配合液11~20に、それぞれ供試菌前培養液1~15を3%(W/V)添加した後、前培養のときと同じ発酵温度(表6)で発酵を行った。発酵はヨーグルトの製造を想定して、各はっ酵乳原料配合液について、はっ酵乳原料配合液が半流動ゲル状のヨーグルトとなるまで発酵を行って各はっ酵乳サンプルを得た。ただし、はっ酵乳配合液の種類と供試菌の種類によっては、発酵を比較的長時間行ってもはっ酵乳配合液のpHの低下の程度が少なく、半流動ゲル状ではなく液状に近いはっ酵乳サンプルであった。各はっ酵乳サンプルを5℃に冷却した後、撹拌して、分析に供した。また、発酵工程を行わない各はっ酵乳原料配合液はコントロールとして分析に供した。
【0091】
3-2 ペプチドの分析
(1)方法
はっ酵乳サンプル及びはっ酵前のはっ酵乳原料配合液(コントロール)に含まれるTWYSテトラペプチド濃度、TWYトリペプチド濃度、WVジペプチド濃度及びWLジペプチド濃度を測定した。
【0092】
はっ酵乳サンプル0.5gに水0.5mLを加えて懸濁し、遠心分離したものの上清を限外濾過した濾液を適宜希釈したものを分析サンプルとした。はっ酵前のはっ酵乳原料配合液(コントロール)については、はっ酵乳原料配合液(すなわち、所定の原料を混合した後、105℃で10分間オートクレーブ殺菌し、常温まで冷却した配合液)0.5gに水0.5mLを加えて懸濁し、前記分析サンプルと同様に遠心分離、限外濾過、適宜希釈したものを分析サンプルとした。これらの分析サンプルの分析はLC/MSMSを用い、試験1の際と同じ分析条件で行った。濃度換算は検量線法によった。
【0093】
(2)結果
供試菌番号1、3、4、6、8、9、15の乳酸菌でそれぞれ発酵させた各はっ酵乳における各測定対象ペプチド濃度(TWYSテトラペプチド濃度、TWYトリペプチド濃度、WVジペプチド濃度、WLジペプチド濃度)、並びに、各コントロールにおける各測定対象ペプチド濃度(TWYSテトラペプチド濃度、TWYトリペプチド濃度、WVジペプチド濃度、WLジペプチド濃度)を以下の表24~表26に示す。また、各はっ酵乳サンプルの発酵時間も以下の表24~表26に示す。
【0094】
【表24】
【0095】
【表25】
【0096】
【表26】
【0097】
上記表24~表26の結果から分かるように、はっ酵乳原料配合液の種類や供試菌の種類によって、TWYSテトラペプチド濃度、TWYトリペプチド濃度、WVジペプチド濃度やWLジペプチド濃度が大きく異なることが分かった。そこで、発酵前のはっ酵乳原料配合液中の測定対象ペプチド濃度(TWYSテトラペプチド濃度、TWYトリペプチド濃度、WVジペプチド濃度又はWLジペプチド濃度(いずれのペプチド濃度も表24~表26参照)を基準(すなわち100%)としたときの、はっ酵乳サンプル中のその測定対象ペプチド(TWYSテトラペプチド濃度、TWYトリペプチド濃度、WVジペプチド濃度又はWLジペプチド濃度)(いずれのペプチド濃度も表24~表26参照)の割合(%)(「ペプチドの残存率(%)」)をそれぞれ算出した結果を、それぞれ以下の表27~表29に示す。なお、表27~表29において、好ましいペプチドの残存率(%)として、かかる残存率が60%以上の場合は残存率(%)の数値に一重の下線を記し、70%以上の場合は残存率(%)の数値に二重の下線を記した。
【0098】
【表27】
【0099】
【表28】
【0100】
【表29】
【0101】
表27~表29の結果から、発酵工程の乳酸菌として供試菌4(ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリスNBRC100676)や、供試菌9(ラクトバシラス・デルブリッキ・サブスピーシーズ・ブルガリクスNBRC13953)を使用すると、はっ酵乳の原料の種類にかかわらず(すなわち、はっ酵乳原料配合液11~15のいずれかにかかわらず)、WLジペプチドの残存率(%)が高いはっ酵乳が得られること(すなわち、発酵工程中のおけるWLジペプチド含有量の減少を抑制できること)が示された。このことから、ラクトコッカス・ラクティス又はラクトバシラス・デルブリッキを用いると、はっ酵乳の原料の種類にかかわらず、発酵工程中のWLジペプチド含有量の減少を抑制できると考えられた。
なお、表28~29の結果から、はっ酵乳原料配合液13~15で供試菌4又は供試菌9を用いた場合は、発酵前より発酵後の方がWLペプチド濃度が高かったため、WLジペプチドに残存割合が100%を超えている。しかし、供試菌4又は供試菌9を用いた場合のはっ酵乳中のWLジペプチドの濃度は、乳タンパク質を含むはっ酵乳原料配合液13~15を用いた場合よりも、乳ペプチド(ホエイペプチド又はカゼインペプチド)を含むはっ酵乳原料配合液11及び12を用いた場合の方が高かった。したがって、本発明の製造方法3や本発明の抑制方法3において、WLペプチドとして、ホエイペプチドやカゼインペプチドを用いることが好ましいことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、特定の機能性ペプチドを含むはっ酵乳原料配合液を乳酸菌で発酵させる際に、発酵工程中の該特定の機能性ペプチド含有量の減少が抑制された、はっ酵乳の製造方法や、発酵工程中の特定の機能性ペプチド含有量の減少が抑制されたはっ酵乳等を提供することができる。