(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】電動作業機および現場電気システム
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20240722BHJP
B25B 23/14 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B25F5/00 A
B25F5/00 C
B25B23/14 640B
(21)【出願番号】P 2020004474
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】市川 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】草川 卓也
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-535376(JP,A)
【文献】特開2019-025611(JP,A)
【文献】国際公開第2018/042982(WO,A1)
【文献】特開2015-094678(JP,A)
【文献】特開2019-171523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00
B25B 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
外部機器
である診断機器からの診断指令信号を含む信号を送受信するように構成されている信号送受信部と、
前記診断指令信号を受信したか否かを判定するように構成されている指令受信判定部と、
前記指令受信判定部が前記診断指令信号を受信したと判定すること
のみに応じて、前記診断指令信号
に基づく電動作業機の最新の状態に基づいて電動作業機の故障診断を実行するように構成されている診断部と、
前記診断部による前記故障診断の診断結果を表す診断結果信号を、前記信号送受信部を介して前記
診断機器に送信するように構成されている結果送信部と、
前記モータへ電力供給するバッテリパックが接続されるように構成されたバッテリ接続部と、
前記バッテリ接続部に接続された前記バッテリパックとの間でバッテリ関連信号の送受信を含む通信処理を行うように構成されたバッテリ通信処理部と、
を備え、
前記信号送受信部は、有線通信により、前記
診断機器との間で前記信号を送受信するように構成され、
前記バッテリ接続部は、前記バッテリパックから前記モータへの電力供給電流を通電するように構成された電力端子と、前記バッテリ通信処理部と前記バッテリパックとの第1通信経路を形成する第1信号端子と、前記バッテリ通信処理部と前記バッテリパックとの第2通信経路を形成する第2信号端子であって、前記第1信号端子とは異なる第2信号端子と、を備えており、
さらに、前記バッテリ接続部は、
前記診断機器を接続できるように構成されており、
前記診断機器は、前記診断指令信号を出力するとともに前記診断結果信号を受け取るように構成されており、
前記バッテリ接続部は、前記診断機器が前記バッテリ接続部に接続されることに応じて、前記信号送受信部として、前記バッテリ接続部の前記第1信号端子を介して前記診断機器に対して前記診断結果信号を送信し、前記バッテリ接続部の前記第2信号端子を介して前記診断機器から前記診断指令信号を受信するように構成されている、
電動作業機。
【請求項2】
請求項1に記載の電動作業機であって、
前記電動作業機は、モータ駆動回路、モータ電流検出部、モータ回転位置検出部、バッテリ電圧検出部、表示部、トリガスイッチを備えており、
前記診断部は、前記モータ駆動回路、前記モータ電流検出部、前記モータ回転位置検出部、前記バッテリ電圧検出部、前記表示部、前記トリガスイッチのうち少なくとも1つについて前記故障診断を実行するように構成されている、
電動作業機。
【請求項3】
請求項2に記載の電動作業機であって、
前記診断部は、少なくとも前記モータ駆動回路、前記モータ電流検出部、前記モータ回転位置検出部についての前記故障診断を実行するように構成されている、
電動作業機。
【請求項4】
請求項3に記載の電動作業機であって、
前記診断部は、前記モータ駆動回路、前記モータ電流検出部、前記モータ回転位置検出部のそれぞれの前記故障診断を、この順に実行するように構成されている、
電動作業機。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の電動作業機であって、
前記診断機器は、
前記電動作業機の前記バッテリ接続部に対して離脱可能に接続できるように構成されている接続アダプタと、
前記接続アダプタと有線接続されて、前記診断指令信号を送信するように構成された演算機器と、
を備える、
電動作業機。
【請求項6】
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の電動作業機であって、
前記診断機器は、
前記電動作業機の前記バッテリ接続部に対して離脱可能に接続できるように構成されている接続アダプタと、
前記接続アダプタと無線接続されて、前記診断指令信号を送信するように構成された演算機器と、
を備える、
電動作業機。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の電動作業機であって、
前記モータへ電力供給するバッテリパックが接続されるように構成されたバッテリ接続部と、
前記電動作業機において前記バッテリ接続部とは別に備えられて、前記診断指令信号および前記診断結果信号の経路を形成する診断信号経路部と、
を備える、
電動作業機。
【請求項8】
請求項1から請求項7のうちいずれか一項に記載の電動作業機と、
前記電動作業機に対して前記診断指令信号を出力し、前記電動作業機から前記診断結果信号を受け取るように構成された診断機器と、
を備える現場電気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動作業機および現場電気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電動作業機として、電動作業機における故障の有無を診断するものが提案されている。
例えば、電動作業機に診断機器が接続されて使用者による診断実行操作が行われると、診断プログラムを実行することで使用履歴情報を解析して故障の有無を診断し、診断結果を使用者に報知するように構成された電動作業機がある(特許文献1参照)。
【0003】
この電動作業機は、使用履歴情報に基づいて故障箇所を推定するように構成されている(特許文献1参照)。これにより、推定により特定された電動作業機の故障箇所を使用者に報知することができる。
【0004】
なお、電動作業機は、診断機器とともに現場電気システムを構成してもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の電動作業機は、故障箇所を使用履歴情報に基づいて推定する構成であるため、故障箇所の診断精度が低くなる可能性がある。
つまり、上記の電動作業機は、記憶部に記憶された過去の使用履歴情報に基づいて故障箇所を推定するものであり、電動作業機の最新の状態に基づいて故障箇所を診断するものではない。このため、上記の電動作業機は、最新の状態に基づいて故障箇所を診断することができない。
【0007】
また、上記の電動作業機は、過去の使用履歴情報に基づいて故障箇所を推定するものであり、実際に電動作業機を駆動させて故障箇所を特定する構成ではない。このため、上記の電動作業機は、故障箇所の診断精度は必ずしも高くない可能性がある。なお、実際に電動作業機を駆動させて故障箇所を特定する構成としては、例えば、モータへの通電制御を実行し、実際に電流通電が行われるか否かを判定する構成などが挙げられる。
【0008】
そこで、本開示の一局面における電動作業機および現場電気システムは、使用履歴情報に基づいて故障箇所を推定する場合に比べて、故障箇所の判定精度を向上できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一局面における電動作業機は、モータと、信号送受信部と、指令受信判定部と、診断部と、結果送信部と、を備える。
信号送受信部は、外部機器からの診断指令信号を含む信号を送受信するように構成されている。指令受信判定部は、診断指令信号を受信したか否かを判定するように構成されている。診断部は、指令受信判定部が診断指令信号を受信したと判定することに応じて、診断指令信号に基づいて電動作業機の故障診断を実行するように構成されている。結果送信部は、診断結果信号を、信号送受信部を介して外部機器に送信するように構成されている。診断結果信号は、診断部による故障診断の診断結果を表す信号である。
【0010】
つまり、この電動作業機は、診断指令信号に応じて実際に故障診断を実行することから、故障箇所を推測する構成に比べて、故障箇所の判定精度を向上できる。
また、この電動作業機は、過去の使用履歴情報に基づいて故障箇所を推定する構成では無く、電動作業機の最新の状態に基づいて故障箇所を診断することから、最新の状態に基づいて精度良く故障箇所を診断できる。
【0011】
次に、上述の電動作業機は、モータ駆動回路、モータ電流検出部、モータ回転位置検出部、バッテリ電圧検出部、表示部、トリガスイッチを備えてもよい。診断部は、モータ駆動回路、モータ電流検出部、モータ回転位置検出部、バッテリ電圧検出部、表示部、トリガスイッチのうち少なくとも1つについて故障診断を実行してもよい。
【0012】
これにより、電動作業機は、モータ駆動回路、モータ電流検出部、モータ回転位置検出部、バッテリ電圧検出部、表示部、トリガスイッチのうち少なくとも1つについて、故障診断するにあたり、使用履歴情報に基づいて故障箇所を推定する場合に比べて、故障箇所の判定精度を向上できる。
【0013】
次に、上述の電動作業機においては、診断部は、少なくとも、モータ駆動回路、モータ電流検出部、モータ回転位置検出部についての故障診断を実行するように構成されてもよい。この電動作業機は、これら3つの故障診断を行うことで、モータ駆動に関する主要な部分の故障箇所を特定するにあたり、使用履歴情報に基づいて故障箇所を推定する場合に比べて、故障箇所の判定精度を向上できる。
【0014】
次に、上述の電動作業機においては、診断部は、モータ駆動回路、モータ電流検出部、モータ回転位置検出部のそれぞれの故障診断を、この順に実行するように構成されてもよい。
【0015】
もし、モータ駆動回路が故障した場合、モータを駆動することができず、また、モータの駆動電流を流すことができない。つまり、モータ駆動回路が故障した場合には、モータ電流検出部が故障していない場合であっても、モータ電流検出部によるモータ電流検出が不可能となる。また、モータ駆動回路が故障した場合には、モータ回転位置検出部が故障していない場合であっても、モータ回転位置検出部によるモータ回転位置検出が不可能となる。
【0016】
そのため、この電動作業機は、上記の順番で3つの故障診断を行い、モータ駆動回路の故障を最初に特定できることで、モータ駆動回路の故障に起因して、モータ電流検出部およびモータ回転位置検出部が故障であると誤判定されるのを抑制できる。
【0017】
また、モータ電流検出部が故障した場合、過電流など重大な危険が生じる可能性がある。このため、この電動作業機は、故障診断の優先順位に関して、モータ回転位置検出部よりもモータ電流検出部を高い優先順位に設定することで、モータ電流検出部の故障を早期に発見でき、重大な危険が生じることを抑制できる。よって、この電動作業機によれば、故障診断の誤判定を抑制できるとともに、重大な危険の発生を抑制できる。
【0018】
次に、上述の電動作業機においては、信号送受信部は、有線通信または無線通信により、外部機器との間で信号を送受信するように構成されてもよい。
つまり、この電動作業機は、有線通信または無線通信により、診断指令信号を受信するとともに、診断結果信号を送信する。これにより、この電動作業機は、外部機器からの指令に基づいて故障診断を実行できるとともに、診断結果を外部機器に通知できる。
【0019】
なお、この電動作業機は、電源コードを介してモータ駆動電力を外部電源から受電する構成でもよいし、バッテリパックなどの携帯型電源からモータ駆動電力を受電する構成でもよい。
【0020】
次に、上述の電動作業機は、バッテリ接続部と、バッテリ通信処理部と、を備えてもよい。バッテリ接続部は、モータへ電力供給するバッテリパックが接続されるように構成されてもよい。バッテリ通信処理部は、バッテリ接続部に接続されたバッテリパックとの間で通信処理を行うように構成されてもよい。通信処理は、バッテリ関連信号の送受信を含んでもよい。
【0021】
バッテリ接続部は、電力端子と、信号端子と、を備えてもよい。電力端子は、バッテリパックからモータへの電力供給電流を通電するように構成されてもよい。信号端子は、バッテリ通信処理部とバッテリパックとの通信経路を形成してもよい。さらに、バッテリ接続部は、診断機器を接続できるように構成されてもよい。診断機器は、診断指令信号を出力するとともに診断結果信号を受け取るように構成されてもよい。
【0022】
バッテリ接続部は、診断機器がバッテリ接続部に接続されることに応じて、信号送受信部として、診断指令信号を受信し、診断結果信号を送信してもよい。このとき、信号送受信部としてのバッテリ接続部は、バッテリ接続部の信号端子を介して診断機器から診断指令信号を受信してもよい。また、信号送受信部としてのバッテリ接続部は、バッテリ接続部の信号端子を介して診断機器に対して診断結果信号を送信してもよい。
【0023】
この電動作業機は、バッテリ接続部を介して、外部機器としての、バッテリパックおよび診断機器のそれぞれが接続されるように構成されている。そして、この電動作業機は、バッテリパックが接続された場合には、バッテリパックとの間で信号送受信を行い、診断機器が接続された場合には、診断機器から診断指令信号を受信し、診断機器に診断結果信号を送信する。つまり、バッテリ接続部は、診断機器が接続された場合には、信号送受信部としての機能を発揮するように構成されている。
【0024】
この電動作業機は、バッテリパックと診断機器とを同時に接続することはなく、バッテリパックおよび診断機器のうちいずれか一方のみを接続するように構成されている。つまり、この電動作業機においては、故障診断の実行時期が診断機器との接続時に限定されるため、バッテリパックとの接続時に故障診断が実行されるのを抑制できる。
【0025】
よって、この電動作業機は、バッテリパックとの接続時における使用者の意図に反した故障診断の実行を抑制できるため、故障診断の実行に起因する電動作業機の動作による使用者のケガなどの事故を抑制できる。
【0026】
次に、上述の電動作業機は、バッテリ接続部と、診断信号経路部と、を備えてもよい。バッテリ接続部は、モータへ電力供給するバッテリパックが接続されるように構成されてもよい。診断信号経路部は、電動作業機においてバッテリ接続部とは別に備えられて、診断指令信号および診断結果信号の経路を形成してもよい。
【0027】
この電動作業機は、バッテリパックからモータ駆動電力の電力供給を受けつつ、故障箇所の診断を実行することができる。なお、診断信号経路部は、有線経路として備えられてもよいし、無線経路として備えられてもよい。
【0028】
次に、本開示の他の一局面における現場電気システムは、上述の電動作業機と、診断機器と、を備えている。診断機器は、電動作業機に対して診断指令信号を出力し、電動作業機から診断結果信号を受け取るように構成されてもよい。
【0029】
この現場電気システムは、上述の電動作業機を備えるため、上述の電動作業機と同様に、電動作業機の故障箇所を推測する場合に比べて、電動作業機の故障箇所の判定精度を向上できる。また、この現場電気システムは、過去の使用履歴情報に基づいて故障箇所を推定する構成では無く、電動作業機の最新の状態に基づいて故障箇所を診断することから、最新の状態に基づいて精度良く故障箇所を診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】第1実施形態に係る現場作業システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る電動作業機の縦断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るマイコンが実行するメイン処理を示すフローチャートである。
【
図4】第1実施形態に係るマイコンが実行する通信処理を示すフローチャートである。
【
図5】第1実施形態に係るマイコンが実行する診断機器通信処理を示すフローチャートである。
【
図6】第1実施形態に係るマイコンが実行するFET診断処理を示すフローチャートである。
【
図7】第1実施形態に係るマイコンが実行する電流検出診断処理を示すフローチャートである。
【
図8】第1実施形態に係るマイコンが実行する回転センサ診断処理を示すフローチャートである。
【
図9】第1実施形態に係るマイコンが実行する電圧検出診断処理を示すフローチャートである。
【
図10】第1実施形態に係るマイコンが実行するLED診断処理を示すフローチャートである。
【
図11】第1実施形態に係るマイコンが実行するトリガSW診断処理を示すフローチャートである。
【
図12】他の実施形態に係る第2工具本体および第2診断機器の構成を示すブロック図である。
【
図13】他の実施形態に係る第3診断機器の構成を示すブロック図である。
【
図14】第2診断機器通信処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
尚、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0032】
[1.第1実施形態]
[1-1.全体構成]
本実施形態の現場電気システム1は、
図1に示すように、電動作業機2と、診断機器3と、を備える。
【0033】
電動作業機2は、電動工具、園芸工具などのモータの駆動力で先端工具を駆動させる作業機である。電動工具としては、例えば、マルノコ、ドライバドリル、インパクトドライバ、クリーナー、ハンマドリルが挙げられる。園芸工具としては、例えば、草刈機、バリカン、ブロワなどが挙げられる。
【0034】
診断機器3は、電動作業機2の故障診断を行う機器である。診断機器3は、接続アダプタ80、演算機器90、機器電源91を備える。
本実施形態の電動作業機2は、
図2に示すように、ねじ締めなどの作業に用いられる充電式インパクトドライバ(以下、ドライバ2ともいう)である。
【0035】
図1および
図2に示すように、電動作業機2は、工具本体10と、工具本体10に電力を供給するバッテリパック70と、を備えて構成されている。
工具本体10は、モータ60や打撃機構106などを収容するハウジング102と、ハウジング102の下部(
図2の下側)から突出するように形成されたグリップ部103と、を備えて構成されている。
【0036】
ハウジング102は、ハウジング102の後部(
図2の左側)にモータ60が収容されている。モータ60の前方(
図2の右側)に釣鐘状のハンマケース105が組み付けられている。ハンマケース105は、打撃機構106を収容している。
【0037】
ハンマケース105は、ハンマケース105の後端側に、中空部が形成されたスピンドル107を同軸で収容している。ハンマケース105の内部の後端側には、ボールベアリング108が設けられている。ボールベアリング108は、スピンドル107の後端外周を軸支している。
【0038】
スピンドル107におけるボールベアリング108の前方部位には、遊星歯車機構109が備えられる。遊星歯車機構109は、回転軸に対して点対称で軸支された2つの遊星歯車を備える。遊星歯車機構109は、ハンマケース105の後端側内周面に形成されたインターナルギヤ111に噛合している。
【0039】
遊星歯車機構109は、モータ60の出力軸112の先端部に形成されたピニオン113と噛合する。
打撃機構106は、スピンドル107と、スピンドル107に外装されたハンマ114と、ハンマ114の前方側で軸支されるアンビル115と、ハンマ114を前方へ付勢するコイルバネ116と、を備える。
【0040】
ハンマ114は、スピンドル107に対して一体回転可能且つ軸方向へ移動可能に連結されており、コイルバネ116により前方(アンビル115側)に付勢されている。
スピンドル107の先端部は、アンビル115の後端に同軸で遊挿されることで回転可能に軸支されている。
【0041】
アンビル115は、ハンマ114による回転力及び打撃力を受けて軸回りに回転するものであり、ハウジング102の先端に設けられた軸受120によって、軸回りに回転自在かつ軸方向に変位不能に支持されている。
【0042】
アンビル115の先端部には、ドライバビットやソケットビット等の各種工具ビット(図示略)を装着するためのチャックスリーブ119が設けられている。
なお、モータ60の出力軸112、スピンドル107、ハンマ114、アンビル115、及びチャックスリーブ119は、いずれも同軸状となるように配置されている。
【0043】
ハンマ114の前端面には、アンビル115に打撃力を与えるための2つの打撃突部117,117が周方向に180°の間隔を隔てて突設されている。
一方、アンビル115には、その後端側に、2つの打撃アーム118,118が周方向に180°の間隔を隔てて形成されている。2つの打撃アーム118,118は、ハンマ114の各打撃突部117,117が当接可能に構成されている。
【0044】
ハンマ114がコイルバネ116の付勢力でスピンドル107の前端側に付勢・保持されることで、ハンマ114の各打撃突部117,117がアンビル115の各打撃アーム118,118に当接する。
【0045】
この状態で、モータ60の回転力により遊星歯車機構109を介してスピンドル107が回転すると、ハンマ114がスピンドル107と共に回転し、そのハンマ114の回転力が打撃突部117,117と打撃アーム118,118とを介してアンビル115に伝達される。
【0046】
これにより、アンビル115の先端に装着されたドライバビット等が回転し、ねじ締めが可能となる。
そして、ねじが所定位置まで締め付けられることにより、アンビル115に対して外部から所定値以上のトルクが加わると、そのアンビル115に対するハンマ114の回転力(トルク)も所定値以上になる。
【0047】
これにより、ハンマ114がコイルバネ116の付勢力に抗して後方に変位し、ハンマ114の各打撃突部117,117がアンビル115の各打撃アーム118,118を乗り越えるようになる。つまり、ハンマ114の各打撃突部117,117がアンビル115の各打撃アーム118,118から一旦外れ、空転する。
【0048】
このようにハンマ114の各打撃突部117,117がアンビル115の各打撃アーム118,118を乗り越えると、ハンマ114は、スピンドル107と共に回転しつつコイルバネ116の付勢力で再び前方へ変位し、ハンマ114の各打撃突部117,117がアンビル115の各打撃アーム118,118を回転方向に打撃する。
【0049】
従って、本実施形態のドライバ2においては、アンビル115に対して所定値以上のトルクが加わる毎に、そのアンビル115に対してハンマ114による打撃が繰り返し行われる。そして、このようにハンマ114の打撃力がアンビル115に間欠的に加えられることにより、ねじを高トルクで締め付けることができる。
【0050】
次に、グリップ部103は、作業者がドライバ2を使用する際に把持する部分であり、その上方にトリガ121が設けられている。
トリガ121は、作業者により引き操作される操作部121aと、この操作部121aの操作状態を検出する検出部121bと、を備えている。
【0051】
検出部121bには、操作部121aの引き操作によりオン・オフされるトリガスイッチ23(以下、スイッチをSWとも記載する)と、操作部121aの操作量(引き量)に応じて抵抗値が変化する操作量検出部(図示省略)とが備えられている。
【0052】
トリガ121の上側(ハウジング102の下端側)には、モータ60の回転方向を正転方向及び逆転方向の何れか一方に切り替えるための回転方向SW122(回転方向スイッチ122)が設けられている。なお、本実施形態では、工具の後端側から前方を見た状態で右回り方向が、モータ60の正転方向であり、この正転方向とは逆の回転方向が、モータ60の逆転方向である。
【0053】
ハウジング102の下部前方には、トリガ121が引き操作されたときにドライバ2の前方を光で照射するための照明LED123が設けられている。
また、グリップ部103における前方下部には、表示パネル24が設けられている。表示パネル24は、バッテリパック70の残容量やドライバ2の動作モード等を表示する。表示パネル24は、複数のLEDを備えている。表示パネル24は、複数のLEDのそれぞれの点灯・点滅・消灯を組み合わせることで、各種の情報を使用者に報知する。以下の説明では、表示パネル24は、表示LED24ともいう。
【0054】
グリップ部103は、表示パネル24の近傍に、モード切替SW、打撃力切替SW、照明SWを備えてもよい。
モード切替SWは、ドライバ2の動作モードを、トリガ121の操作量に応じてモータ60の回転を制御する通常モードと、モータ60の回転を低速回転から高速回転に切り替える変速モードと、の何れかに切り替えるためのものである。
【0055】
モード切替SWは、使用者により操作(押下)されているときにオン状態となるスイッチである。動作モードは、モード切替SWがオン状態となる度に、通常モード若しくは変速モードへと交互に切り替えられる。
【0056】
打撃力切替SWは、回転数や回転数の変化率を設定する際の制御パターンを、予め設定された複数の制御パターンの中から選択することで、打撃力を切り替えるためのスイッチである。制御パターンは、動作モードが変速モードであるときの低速、高速の回転数や、低速から高速への移行時の回転数の変化率を設定する際の制御パターンである。
【0057】
照明SWは、トリガ121が引き操作されたときに照明LED123を点灯させるか否かを切り替えるためのスイッチである。
次に、グリップ部103は、グリップ部103の下端に、第1コネクタ20aを備える。第1コネクタ20aは、バッテリパック70が、離脱可能に接続されている。バッテリパック70は、グリップ部103への装着時には、第1コネクタ20aに対してその前方側から後方側へとスライドさせることにより装着される。
【0058】
モータ60は、本実施形態では、U,V,W各相の電機子巻線を備えた3相ブラシレスモータにて構成されている。そして、モータ60には、モータ60の回転位置(角度)を検出するための回転センサ26(
図1参照)が設けられている。
【0059】
なお、回転センサ26は、例えば、モータ60の各相に対応して配置される3つのホール素子と、モータ60の所定回転角度毎に回転検出信号を発生するよう構成されたホールICと、を備える。
【0060】
工具本体10は、グリップ部103の内部に、駆動回路50(
図1参照)を備える。駆動回路50は、バッテリパック70から電力供給を受けて、モータ60を駆動制御する。
工具本体10は、駆動回路50の温度を検出する温度センサ27を備える。
【0061】
[1-2.電気的構成]
次に、現場電気システム1の電気的構成について、
図1を参照して説明する。
まず、上述のように、電動作業機2は、工具本体10と、バッテリパック70と、を備える。
【0062】
工具本体10は、コントローラ20と、モータ60と、回転センサ26と、図示しない先端工具と、を備え、バッテリパック70から電力の供給を受けて駆動する。
モータ60は、3相のブラシレスモータである。回転センサ26は、例えば、ホールICを備え、モータ60のロータの回転位置を検出する。回転センサ26は、検出したロータの回転位置を、後述するマイクロコンピュータ30(以下、マイコン30ともいう)へ出力する。マイコン30は、回転センサ26から取得したロータの回転位置と、検出時間間隔とから、モータ60の回転数を算出する。ここでの回転数は、所定期間(例えば、1分)における回転数である。
【0063】
コントローラ20は、第1コネクタ20aを備える。第1コネクタ20aは、バッテリパック70および接続アダプタ80のそれぞれと有線接続できるように構成されている。第1コネクタ20aは、複数の外部機器を同時に接続することはできず、1個の外部機器を接続するように構成されている。つまり、第1コネクタ20aは、バッテリパック70および接続アダプタ80を同時に接続することはできず、バッテリパック70および接続アダプタ80のうちいずれか一方を接続できる。
【0064】
第1コネクタ20aは、正極端子11と、負極端子12と、信号端子13と、シリアル通信端子14A,14Bと、を備える。正極端子11および負極端子12は、バッテリパック70からモータ60への電力供給電流を通電するように構成されている。信号端子13およびシリアル通信端子14A,14Bは、マイコン30とバッテリパック70との通信経路を形成する。さらに、信号端子13およびシリアル通信端子14A,14Bは、診断機器3とバッテリパック70との通信経路を形成する。第1コネクタ20aは、シリアル通信端子14A,14Bを用いて、診断機器3からの診断指令信号を含む信号を送受信するように構成されている。
【0065】
さらに、コントローラ20は、レギュレータ21と、バッテリ電圧検出部22と、トリガスイッチ23と、表示LED24と、電流検出回路25と、マイコン30と、ゲート回路40と、駆動回路50と、温度センサ27と、を備える。
【0066】
レギュレータ21は、バッテリパック70が工具本体10に接続されると、バッテリパック70から電力供給を受けて、マイコン30を作動させるために必要な電源電圧(例えば、直流5V)を生成する。
【0067】
バッテリ電圧検出部22は、正極端子11と負極端子12との間に印加されるバッテリパック70の電圧値を検出し、検出した電圧値をマイコン30へ出力する。
トリガスイッチ23は、モータ60を駆動又は停止させるために、使用者により操作されるスイッチである。トリガスイッチ23は、使用者により引かれるとオンになり、マイコン30へオン信号を出力する。また、トリガスイッチ23は、使用者により離されるとオフになり、マイコン30へオフ信号を出力する。
【0068】
さらに、トリガスイッチ23は、モータ60の回転数やトルクを調整するために、使用者により操作される。モータ60の巻線には、指令デューティ比のパルス(すなわち、PWM信号)が印加される。目標デューティ比は、指令デューティ比の目標値であり、使用者によるトリガスイッチ23の引き量に応じて設定される。使用者は、どの程度の回転数やトルクでモータ60を回転させたいかに応じて、トリガスイッチ23の引き量を調整する。例えば、モータ60の回転数を低くしたい場合や、トルクを小さくしたい場合には、トリガスイッチ23の引き量を少なくする。また、モータ60の回転数を高くしたい場合や、トルクを大きくしたい場合には、トリガスイッチ23の引き量を多くする。
【0069】
なお、トリガスイッチ23以外に、使用者が工具本体10の動作モードや目標デューティ比を設定するためのスイッチやダイヤルが設けられていてもよい。また、動作モードに応じて、目標デューティ比が設定されていてもよい。
【0070】
表示LED24は、工具本体10の動作状態や異常等を使用者に報知するために設けられている。表示LED24は、作業機の動作モード、モータ60の回転数、回転方向、バッテリパック70の残容量等を示す複数のLEDを備える。表示LED24の各LEDは、マイコン30からの指令に応じて、点灯、点滅、消灯する。
【0071】
駆動回路50は、バッテリパック70から電力供給を受けて、モータ60の各相に対応する巻線に電流を流す回路である。駆動回路50は、ハイサイドのスイッチング素子Q1~Q3と、ローサイドのスイッチング素子Q4~Q6を備える3相フルブリッジ回路である。各スイッチング素子Q1~Q6は、例えばMOSFETで構成されるが、これに限定されるものではない。
【0072】
温度センサ27は、駆動回路50の温度(以下、回路温度ともいう)を検出する。温度センサ27は、検出した回路温度をマイコン30へ出力する。
ゲート回路40は、マイコン30から出力された制御信号に従い、駆動回路50のスイッチング素子Q1~Q6のそれぞれをオン又はオフさせ、モータ60の各相の巻線に順次電流を流すことで、モータ60を回転させる。なお、スイッチング素子Q1~Q6を全てオフさせた場合、モータ60はフリーランの状態となる。また、スイッチング素子Q1~Q3をいずれもオフ、且つスイッチング素子Q4~Q6をいずれもオンさせた場合、モータ60はいわゆる短絡ブレーキがかかった状態となる。
【0073】
電流検出回路25は、駆動回路50から負極端子12に至る負極ラインに設けられており、バッテリパック70からモータ60へ出力された放電電流の電流値(以下、放電電流値ともいう)を検出する。電流検出回路25は、検出した放電電流値をマイコン30へ出力する。
【0074】
マイコン30は、CPU31と、メモリ32と、を備える。メモリ32は、揮発性メモリ及び不揮発性メモリを含む半導体メモリである。CPU31は、メモリ32に記憶されている各種プログラムを実行することにより、各種の処理を実行する。マイコン30が実行する処理は後述する。
【0075】
次に、バッテリパック70は、繰り返し充電可能な電源であり、例えば、リチウムイオン2次バッテリである。
バッテリパック70は、1つ又は複数のバッテリブロック78と、制御回路75と、パックコネクタ70aと、を備える。パックコネクタ70aは、バッテリ正極端子71と、バッテリ負極端子72と、バッテリ信号端子73と、バッテリシリアル通信端子74A,74Bと、を備える。
【0076】
工具本体10とバッテリパック70との接続にあたり、パックコネクタ70aは、コントローラ20の第1コネクタ20aと有線接続するように構成されている。工具本体10とバッテリパック70とが接続されることに応じて、各端子は次のように接続される。正極端子11は、バッテリ正極端子71に接続される。負極端子12は、バッテリ負極端子72に接続される。信号端子13は、バッテリ信号端子73に接続される。シリアル通信端子14Aはバッテリシリアル通信端子74Aに接続され、シリアル通信端子14Bはバッテリシリアル通信端子74Bに接続される。
【0077】
バッテリブロック78は、例えばリチウムイオン電池など、繰り返し充電可能な2次電池を備える。バッテリブロック78は、複数のバッテリセルが直列に接続されて構成されている。バッテリブロック78の正極は、バッテリ正極端子71に接続されており、バッテリブロック78の負極は、バッテリ負極端子72に接続されている。
【0078】
本実施形態では、バッテリパック70は、1つのバッテリブロック78を備える。なお、バッテリパック70は、2つ以上の並列に接続された2つ以上のバッテリブロック78を備えてもよい。
【0079】
制御回路75は、CPU76と、メモリ77と、を備える。メモリ77は、揮発性メモリ及び不揮発性メモリを含む半導体メモリである。CPU76は、メモリ77に記憶されている各種プログラムを実行することにより、各種の処理を実行する。
【0080】
具体的には、制御回路75は、バッテリブロック78が放電可能な場合には、バッテリ信号端子73を介して、工具本体10へ放電許可信号を出力する。また、制御回路75は、バッテリブロック78が放電不可能な場合には、バッテリ信号端子73を介して、工具本体10へ放電禁止信号を出力する。放電許可信号は、例えば、ローレベルの信号であり、放電禁止信号は、例えば、ハイレベルの信号である。
【0081】
また、制御回路75は、バッテリシリアル通信端子74A,74Bを介して、工具本体10と全二重のシリアル通信を実行する。具体的には、制御回路75は、バッテリシリアル通信端子74Aを介して、工具本体10へバッテリパック70の情報(すなわち、シリアル信号)を送信し、バッテリシリアル通信端子74Bを介して、工具本体10から工具本体10の情報を受信する。
【0082】
次に、診断機器3は、上述のように、接続アダプタ80、演算機器90、機器電源91を備える。接続アダプタ80は、演算機器90および機器電源91とそれぞれ接続されている。接続アダプタ80は、バッテリパック70の代わりに、工具本体10の第1コネクタ20aに対して離脱可能に接続できるように構成されている。接続アダプタ80は、工具本体10の第1コネクタ20aと有線接続するように構成されている。
【0083】
このため、演算機器90は、接続アダプタ80を介して、工具本体10と接続するように構成されている。機器電源91は、接続アダプタ80を介して、工具本体10に電力供給するように構成されている。
【0084】
接続アダプタ80は、アダプタ正極端子81と、アダプタ負極端子82と、アダプタ信号端子83と、アダプタシリアル通信端子84A,84Bと、を備える。
工具本体10と接続アダプタ80とが接続されることに応じて、各端子は次のように接続される。正極端子11は、アダプタ正極端子81に接続される。負極端子12は、アダプタ負極端子82に接続される。信号端子13は、アダプタ信号端子83に接続される。シリアル通信端子14Aはアダプタシリアル通信端子84Aに接続され、シリアル通信端子14Bはアダプタシリアル通信端子84Bに接続される。
【0085】
機器電源91は、商用電源等の交流電源から供給される交流電圧を整流し、整流後の直流電圧を出力する。機器電源91のうち直流電圧の出力部における正極は、アダプタ正極端子81に接続されている。機器電源91のうち直流電圧の出力部における負極は、アダプタ負極端子82に接続されている。工具本体10と接続アダプタ80とが接続された場合、機器電源91は、アダプタ正極端子81およびアダプタ負極端子82を介して、工具本体10に対して直流電圧を出力することができる。
【0086】
演算機器90は、接続アダプタ80のうち、アダプタ信号端子83、アダプタシリアル通信端子84A、およびアダプタシリアル通信端子84Bのそれぞれに接続される。工具本体10と接続アダプタ80とが接続された場合、演算機器90は、アダプタ信号端子83、アダプタシリアル通信端子84A、およびアダプタシリアル通信端子84Bを介して、工具本体10と接続される。これにより、演算機器90および工具本体10は、互いに各種情報の送受信が可能となる。
【0087】
演算機器90は、制御部90aと、指令入力部90bと、を備える。制御部90aは、図示しないCPUおよびメモリを備える。制御部90aは、メモリに記憶されている各種プログラムをCPUが実行することにより、各種の処理を実行する。指令入力部90bは、使用者が演算機器90に対する指令を入力するための機器である。演算機器90は、例えば、ノート型パソコンなどの携帯型端末装置であってもよい。指令入力部90bは、例えば、キーボードであってもよい。
【0088】
演算機器90は、使用者が指令入力部90bにより各種指令を入力すると、制御部90aは指令に応じた処理を実行する。演算機器90は、例えば、使用者が診断実行指令を入力すると、診断指令処理を実行する。診断指令処理は、工具本体10に対して診断指令信号を送信し、工具本体10から診断結果を受信する処理である。
【0089】
つまり、診断機器3は、工具本体10と有線接続するように構成されている。また、診断機器3は、工具本体10に対して診断指令信号を出力し、工具本体10から診断結果信号を受け取るように構成されている。
【0090】
[1-3.メイン処理]
次に、マイコン30が実行するメイン処理について、
図3のフローチャートを参照して説明する。
【0091】
まず、S110では、マイコン30はタイムベースが経過したか否か判定する。マイコン30は、タイムベースが経過していない場合には待機し、タイムベースが経過した場合にはS120の処理へ進む。タイムベースは、マイコン30の制御周期に相当する。
【0092】
S120では、マイコン30は、スイッチ操作検出処理(以下、SW操作検出処理ともいう)を実行する。詳しくは、マイコン30は、トリガスイッチ23からの信号に基づいて、トリガスイッチ23がオン状態かオフ状態かを検出する。
【0093】
S130では、マイコン30は、AD変換処理を実行する。詳しくは、マイコン30は、バッテリ電圧検出部22、電流検出回路25等から入力された検出信号をAD変換する。これにより、マイコン30は、バッテリパック70からモータ60へ流れる放電電流値、バッテリパック70の電圧値等を取得する。
【0094】
続いて、S140では、マイコン30は、通信処理を実行する。詳しくは、マイコン30は、シリアル通信端子14A,14Bを介して接続された機器との間で、シリアル通信を確立する。そして、マイコン30は、その機器の種類を判定し、その機器との間で各種情報の送受信を行う。なお、本実施形態では、シリアル通信端子14A,14Bを介して接続される機器は、バッテリパック70および診断機器3を含む。
【0095】
続いて、S150では、マイコン30は、異常検出処理を実行する。詳しくは、マイコン30は、S130において取得した放電電流値、電圧値等とそれぞれの閾値とを比較して、過電流、電圧低下などの異常を検出する。
【0096】
続いて、S160では、マイコン30は、トリガスイッチ23の状態、バッテリ状態、異常の検出結果に基づいて、モータ制御処理を実行する。マイコン30は、所定の駆動条件が成立することに応じて、正極端子11および負極端子12を介して供給される電力を用いて、モータ60を駆動する。駆動条件は、トリガスイッチ23がオン状態であり、S150で異常が検出されておらず、放電許可フラグがセットされている場合に、成立する。放電許可フラグは、マイコン30が制御回路75から放電許可信号を受信するとセットされ、マイコン30が制御回路75から放電禁止信号を受信するとリセットされる。
【0097】
続いて、S170では、マイコン30は、表示処理を実行する。詳しくは、マイコン30は、モータ60の動作状態、バッテリパック70の残容量、検出された異常などを、表示LED24を介して使用者に報知する。以上で本処理を終了する。
【0098】
[1-4.通信処理]
次に、マイコン30がS140において実行する通信処理の詳細について、
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0099】
まず、S210では、マイコン30は、初期通信完了であるか否かを判定する。マイコン30は、初期通信完了であると判定した場合にはS230の処理へ進み、初期通信完了ではないと判定した場合にはS220の処理へ進む。
【0100】
S220では、マイコン30は、初期通信処理を実行する。具体的には、マイコン30は、工具本体10が外部の機器と接続されると、シリアル通信端子14A,14Bを介して、その機器との間でシリアル通信を確立する。そして、マイコン30は、その機器から受信した情報に基づいて、その機器の種類を判定し、初期通信処理を完了する。
【0101】
S230では、マイコン30は、診断機器3と接続されたか否かを判定する。マイコン30は、診断機器3と接続されたと判定した場合にはS240の処理へ進み、診断機器3と接続されていないと判定した場合にはS250の処理へ進む。
【0102】
S240では、マイコン30は、診断機器通信処理を実行する。診断機器通信処理の詳細は、後述する。
S250では、マイコン30は、バッテリ通信処理を実行する。マイコン30は、第1コネクタ20aに接続されたバッテリパック70との間で通信処理を行う。通信処理は、バッテリ関連信号の送受信を含む。バッテリ関連信号は、工具本体10のモデルナンバー、バッテリパック70のモデルナンバー、内部抵抗情報などを含む信号である。
【0103】
マイコン30は、バッテリ通信処理の中で、まず、初期情報取得処理を実行し、初期情報取得処理が完了した後に、常時情報取得処理を実行する。
マイコン30は、初期情報取得処理を開始すると、まず、シリアル通信端子14Aを介して、バッテリパック70へ工具本体10のモデルナンバー等の情報を送信する。また、マイコン30は、シリアル通信端子14Bを介して、バッテリパック70から内部抵抗情報やモデルナンバー等の情報を受信する。内部抵抗情報は、バッテリパック70の内部抵抗値でもよいし、バッテリブロック78の並列数でもよい。すなわち、内部抵抗情報は、内部抵抗値そのものでもよいし、内部抵抗値が算出又は推定できる情報でもよい。
【0104】
マイコン30は、常時情報取得処理を開始すると、シリアル通信端子14Bを介して、バッテリパック70の温度、残容量、過負荷カウンタ値などを受信する。以上でバッテリ通信処理を終了する。
【0105】
S220,S240,S250の処理が完了すると、本処理を終了する。
[1-5.診断機器通信処理]
次に、マイコン30がS240において実行する診断機器通信処理の詳細について、
図5のフローチャートを参照して説明する。
【0106】
まず、S310では、マイコン30は、診断機器3からの診断指令信号(以下、診断コマンドともいう)を受信する処理を実行する。なお、診断機器3による1回の送信処理によって送信できる診断コマンドは、1種類に限られることはない。診断機器3は、1回の送信処理で、複数種類の診断コマンドを送信できる。複数種類の診断コマンドには、FET診断コマンド(FET診断指令信号)、電流検出診断コマンド(電流検出診断指令信号)、回転センサ診断コマンド(回転センサ診断指令信号)、電圧検出診断コマンド(電圧検出診断指令信号)、LED診断コマンド(LED診断指令信号)、トリガSW診断コマンド(トリガSW診断指令信号)が含まれる。
【0107】
次のS320では、マイコン30は、FET診断コマンドを受信したか否かを判定する。マイコン30は、FET診断コマンドを受信したと判定した場合には、S330の処理へ進み、FET診断コマンドを受信していないと判定した場合には、S340の処理へ進む。
【0108】
S330では、マイコン30は、FET診断処理を実行する。具体的には、マイコン30は、駆動回路50の各スイッチング素子Q1~Q6の故障診断を行う。
S340では、マイコン30は、電流検出診断コマンドを受信したか否かを判定する。マイコン30は、電流検出診断コマンドを受信したと判定した場合には、S350の処理へ進み、電流検出診断コマンドを受信していないと判定した場合には、S360の処理へ進む。
【0109】
S350では、マイコン30は、電流検出診断処理を実行する。具体的には、マイコン30は、電流検出回路25の故障診断を行う。
S360では、マイコン30は、回転センサ診断コマンドを受信したか否かを判定する。マイコン30は、回転センサ診断コマンドを受信したと判定した場合には、S370の処理へ進み、回転センサ診断コマンドを受信していないと判定した場合には、S380の処理へ進む。
【0110】
S370では、マイコン30は、回転センサ診断処理を実行する。具体的には、マイコン30は、回転センサ26の故障診断を行う。
S380では、マイコン30は、電圧検出診断コマンドを受信したか否かを判定する。マイコン30は、電圧検出診断コマンドを受信したと判定した場合には、S390の処理へ進み、電圧検出診断コマンドを受信していないと判定した場合には、S400の処理へ進む。
【0111】
S390では、マイコン30は、電圧検出診断処理を実行する。具体的には、マイコン30は、バッテリ電圧検出部22の故障診断を行う。
S400では、マイコン30は、LED診断コマンドを受信したか否かを判定する。マイコン30は、LED診断コマンドを受信したと判定した場合には、S410の処理へ進み、LED診断コマンドを受信していないと判定した場合には、S420の処理へ進む。
【0112】
S410では、マイコン30は、LED診断処理を実行する。具体的には、マイコン30は、表示LED24の故障診断を行う。
S420では、マイコン30は、トリガSW診断コマンドを受信したか否かを判定する。マイコン30は、トリガSW診断コマンドを受信したと判定した場合には、S430の処理へ進み、トリガSW診断コマンドを受信していないと判定した場合には、本処理を終了する。
【0113】
S430では、マイコン30は、トリガSW診断処理を実行する。具体的には、マイコン30は、トリガスイッチ23の故障診断を行う。
また、マイコン30は、S330,S350,S370,S390,S410,S430の何れかの処理を完了すると、本処理を終了する。
【0114】
[1-6.FET診断処理]
次に、マイコン30がS330において実行するFET診断処理の詳細について、
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0115】
まず、S510では、マイコン30は、第1FET試験を実施する。第1FET試験では、駆動回路50の各スイッチング素子Q1~Q6を順に1つずつONして、駆動回路50に電流が流れたか否かを判定する。マイコン30は、スイッチング素子Q1~Q6のうちいずれか1つがONとなる6パターンのそれぞれについて、駆動回路50に電流が流れたか否かを判定する。マイコン30は、6パターンのそれぞれについて、電流検出回路25で電流を検出した場合には電流が流れたと判定し、電流検出回路25で電流を検出しない場合には電流が流れていないと判定する。マイコン30は、6パターンのそれぞれの判定結果を記憶する。
【0116】
次のS520では、マイコン30は、第1FET試験の結果に関して第1条件が成立するか否かを判定する。第1条件は「スイッチング素子Q1~Q6の全てのパターンで電流検出されないこと」である。マイコン30は、第1FET試験の結果に関して第1条件が成立したと判定した場合には、S550の処理へ進み、第1FET試験の結果に関して第1条件が成立していないと判定した場合には、S530の処理へ進む。第1FET試験の結果が「少なくとも1つのスイッチング素子において電流検出された状態」である場合には、マイコン30は、第1FET試験の結果に関して第1条件が成立していないと判定する。
【0117】
S530では、マイコン30は、FET診断結果を「短絡異常」と判定する。スイッチング素子Q1~Q6の全てが正常の場合には、第1FET試験の結果に関して第1条件が成立する。しかし、スイッチング素子Q1~Q6のうち少なくとも1つのスイッチング素子が短絡異常である場合には、第1FET試験の結果に関して第1条件が成立しない。このため、S530に処理が移行する場合、スイッチング素子Q1~Q6のうち少なくとも1つのスイッチング素子が短絡異常と判定できる。
【0118】
S550では、マイコン30は、第2FET試験を実施する。第2FET試験では、駆動回路50の各スイッチング素子Q1~Q6を順に2つずつONして、駆動回路50に電流が流れたか否かを判定する。マイコン30は、スイッチング素子Q1~Q6のうちいずれか2つがONとなる6パターンのそれぞれについて、駆動回路50に電流が流れたか否かを判定する。ここでの6パターンは、ONとなる2つのスイッチング素子の組合せが「Q1,Q5」、「Q1,Q6」、「Q2,Q4」、「Q2,Q6」、「Q3,Q4」、「Q3,Q5」となる各パターンである。マイコン30は、これら6パターンのそれぞれについて、電流検出回路25で電流を検出した場合には電流が流れたと判定し、電流検出回路25で電流を検出しない場合には電流が流れていないと判定する。マイコン30は、6パターンのそれぞれの判定結果を記憶する。
【0119】
次のS560では、マイコン30は、第2FET試験の結果に関して第2条件が成立するか否かを判定する。第2条件は「スイッチング素子Q1~Q6の全てのパターンで電流検出されたこと」である。マイコン30は、第2FET試験の結果に関して第2条件が成立したと判定した場合には、S580の処理へ進み、第2FET試験の結果に関して第2条件が成立していないと判定した場合には、S570の処理へ進む。第2FET試験の結果が「少なくとも1つのパターンにおいて電流検出されない状態」である場合には、マイコン30は、第2FET試験の結果に関して第2条件が成立していないと判定する。
【0120】
S570では、マイコン30は、FET診断結果を「開放異常」と判定する。スイッチング素子Q1~Q6の全てが正常の場合には、第2FET試験の結果に関して第2条件が成立する。しかし、スイッチング素子Q1~Q6のうち少なくとも1つのスイッチング素子が開放異常である場合には、第2FET試験の結果に関して第2条件が成立しない。このため、S570に処理が移行する場合、スイッチング素子Q1~Q6のうち少なくとも1つのスイッチング素子が開放異常と判定できる。
【0121】
S580では、マイコン30は、FET診断結果を「正常」と判定する。
S530、S570、S580のいずれかが完了すると、マイコン30は、S540の処理へ進む。
【0122】
S540では、マイコン30は、FET診断結果を診断機器3に送信する。S540の処理が完了すると、本処理を終了する。
[1-7.電流検出診断処理]
次に、マイコン30がS350において実行する電流検出診断処理の詳細について、
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0123】
まず、S710では、マイコン30は、電流検出試験を実施する。電流検出試験では、予め定められた診断電流がモータ60に流れるように駆動回路50を制御し、実際に駆動回路50に流れた電流を検出する。マイコン30は、予め定められたON時間にわたりスイッチング素子Q1~Q6のうち所定の2つをONして、モータ60に通電する。このとき、マイコン30は、電流検出回路25で検出した電流値を記憶する。
【0124】
なお、スイッチング素子Q1~Q6のうち所定の2つをONした場合、ON直後はモータ60が回転する。その後、同じ2つのスイッチング素子によるモータ60への通電を継続すると、モータ60の回転が停止して回転位置が定まる。このような状況下でモータ60および駆動回路50に流れる電流は、バッテリ電圧、駆動回路50のインピーダンス、停止時のモータ60のインピーダンス、スイッチング素子のON時間(電流Duty比)などに基づき定められる所定の電流値となる。
【0125】
このため、電流検出試験での試験条件を予め定めておき、その試験条件において電流検出回路25で検出されるべき電流正常範囲を規定することで、その電流正常範囲を用いて電流検出回路25が正常であるか否かを判定できる。なお、電流正常範囲は、実際の電動作業機2を用いて測定した電流の測定結果に基づいて定めることができる。また、電流検出試験での試験条件は、例えば、バッテリ電圧、スイッチング素子のON時間(電流Duty比)などを含む。
【0126】
次のS720では、マイコン30は、電流検出試験の結果に関して電流正常条件が成立するか否かを判定する。電流正常条件は、「電流検出試験で検出した電流値が予め定められた電流正常範囲であること」である。電流正常範囲は、ON時間にわたる通電時にモータ60に流れるべき正常電流値に基づいて、その正常電流値を含むとともに所定の誤差を踏まえて予め設定されている。マイコン30は、電流検出試験の結果に関して電流正常条件が成立したと判定した場合には、S730の処理へ進み、電流検出試験の結果に関して電流正常条件が成立していないと判定した場合には、S740の処理へ進む。
【0127】
S730では、マイコン30は、電流検出診断結果を「正常」と判定する。S740では、マイコン30は、電流検出診断結果を「異常」と判定する。
S750では、マイコン30は、電流検出診断結果を診断機器3に送信する。S750の処理が完了すると、本処理を終了する。
【0128】
[1-8.回転センサ診断処理]
次に、マイコン30がS370において実行する回転センサ診断処理の詳細について、
図8のフローチャートを参照して説明する。
【0129】
まず、S810では、マイコン30は、回転センサ試験を実施する。回転センサ試験では、予め定められた診断回転速度でモータ60が回転するように駆動回路50を制御し、モータ60の回転に応じて回転センサ26で検出される検出結果を記憶する。なお、診断回転速度は、安全性が確保されるように、例えば、10[rpm]などの低速を設定してもよい。
【0130】
次のS820では、マイコン30は、回転センサ試験の結果に関してセンサ正常条件が成立するか否かを判定する。センサ正常条件は「回転センサ26の検出結果が、診断回転速度でのモータ60の回転動作に対応した検出結果であること」である。マイコン30は、回転センサ試験の結果に関してセンサ正常条件が成立したと判定した場合には、S840の処理へ進み、回転センサ試験の結果に関してセンサ正常条件が成立していないと判定した場合には、S830の処理へ進む。
【0131】
なお、センサ正常条件は、回転センサ26のホールICが出力する回転検出信号の変化パターンに基づいて規定してもよい。また、センサ正常条件は、回転センサ26の検出結果に基づき算出される回転速度で規定してもよい。
【0132】
S830では、マイコン30は、回転センサ診断結果を「異常」と判定する。S840では、マイコン30は、回転センサ診断結果を「正常」と判定する。
S850では、マイコン30は、モータ60を停止するように駆動回路50を制御する。S860では、マイコン30は、回転センサ診断結果を診断機器3に送信する。S860の処理が完了すると、本処理を終了する。
【0133】
[1-9.電圧検出診断処理]
次に、マイコン30がS390において実行する電圧検出診断処理の詳細について、
図9のフローチャートを参照して説明する。
【0134】
まず、S910では、マイコン30は、バッテリ電圧検出部22での検出電圧の電圧値(以下、検出電圧値ともいう)が予め定められた正常範囲であるか否かを判定する。このときの正常範囲は、診断機器3の機器電源91の出力電圧に基づいて予め定められている。例えば、機器電源91の出力電圧が18[V]である場合には、正常範囲は17~19[V]に設定してもよい。マイコン30は、検出電圧値が正常範囲に含まれると判定した場合には、S930の処理へ進み、検出電圧値が正常範囲に含まれていないと判定した場合には、S920の処理へ進む。
【0135】
S920では、マイコン30は、電圧検出診断結果を「異常」と判定する。S930では、マイコン30は、電圧検出診断結果を「正常」と判定する。
S940では、マイコン30は、電圧検出診断結果を診断機器3に送信する。S940の処理が完了すると、本処理を終了する。
【0136】
[1-10.LED診断処理]
次に、マイコン30がS410において実行するLED診断処理の詳細について、
図10のフローチャートを参照して説明する。
【0137】
まず、S1010では、マイコン30は、第1LED試験を実施する。第1LED試験では、予め定められた第1動作状態となるように表示LED24を制御し、この時に表示LED24に流れる電流(以下、第1試験電流ともいう)を検出する。本実施形態では、第1動作状態は、表示LED24が全て点灯している全点灯状態である。 次のS1020では、マイコン30は、第1LED試験の結果に関して第1LED正常条件が成立するか否かを判定する。第1LED正常条件は「第1試験電流が、第1正常電流範囲であること」である。第1正常電流範囲は、全点灯状態の表示LED24に流れる電流の電流値に基づいて予め定められた範囲である。マイコン30は、第1LED試験の結果に関して第1LED正常条件が成立したと判定した場合には、S1050の処理へ進み、第1LED試験の結果に関して第1LED正常条件が成立していないと判定した場合には、S1030の処理へ進む。
【0138】
S1050では、マイコン30は、第2LED試験を実施する。第2LED試験では、予め定められた第2動作状態となるように表示LED24を制御し、この時に表示LED24に流れる電流(以下、第2試験電流ともいう)を検出する。本実施形態では、第2動作状態は、表示LED24が全て消灯している全消灯状態である。
【0139】
S1060では、マイコン30は、第2LED試験の結果に関して第2LED正常条件が成立するか否かを判定する。第2LED正常条件は「第2試験電流が、第2正常電流範囲であること」である。第2正常電流範囲は、全消灯状態の表示LED24に流れる電流の電流値に基づいて予め定められた範囲である。マイコン30は、第2LED試験の結果に関して第2LED正常条件が成立したと判定した場合には、S1080の処理へ進み、第2LED試験の結果に関して第2LED正常条件が成立していないと判定した場合には、S1070の処理へ進む。
【0140】
S1030では、マイコン30は、LED診断結果を「短絡異常」と判定し、S1040の処理へ進む。S1070では、マイコン30は、LED診断結果を「開放異常」と判定し、S1040の処理へ進む。S1080では、マイコン30は、LED診断結果を「正常」と判定し、S1040の処理へ進む。 S1040では、マイコン30は、LED診断結果を診断機器3に送信する。S1040の処理が完了すると、本処理を終了する。
【0141】
[1-11.トリガSW診断処理]
次に、マイコン30がS430において実行するトリガSW診断処理の詳細について、
図11のフローチャートを参照して説明する。
【0142】
まず、S1110では、マイコン30は、トリガスイッチ23がOFF状態であるか否かを判定する。工具本体10が診断機器3と接続されている場合には、工具本体10は工具としての使用状況下ではない。この場合、使用者がトリガスイッチ23を操作することはなく、通常であれば、トリガスイッチ23はOFF状態である。マイコン30は、トリガスイッチ23がOFF状態であると判定した場合には、S1130の処理へ進み、トリガスイッチ23がOFF状態ではないと判定した場合には、S1120の処理へ進む。
【0143】
S1120では、マイコン30は、トリガSW診断結果を「異常」と判定する。S1130では、マイコン30は、トリガSW診断結果を「正常」と判定する。
S1140では、マイコン30は、トリガSW診断結果を診断機器3に送信する。S1140の処理が完了すると、本処理を終了する。
【0144】
[1-12.効果]
以上説明したように、現場電気システム1は、電動作業機2と、診断機器3と、を備える。電動作業機2は、工具本体10と、バッテリパック70と、を備える。
【0145】
工具本体10では、マイコン30は、診断機器通信処理のS320,S340,S360,S380,S400,S420のそれぞれを実行することで、診断機器3からの診断指令信号を受信したか否かを判定する。マイコン30は、S320,S340,S360,S380,S400,S420のうち少なくとも1つで肯定することに応じて、診断指令信号を受信したと判定する。
【0146】
マイコン30は、診断機器通信処理のS330,S350,S370,S390,S410,S430のそれぞれを実行することで、診断指令信号に基づいて工具本体10の故障診断を実行する。そして、マイコン30は、S540,S750,S860,S940,S1040,S1140のそれぞれを実行することで、故障診断の診断結果を表す診断結果信号を、第1コネクタ20aを介して診断機器3に送信する。
【0147】
このように、工具本体10は、診断機器3から診断指令信号を受信すると、診断指令信号の種類に応じて実際に故障診断を実行する。つまり、工具本体10は、過去の情報に基づいて故障箇所を推測する構成ではなく、実際に故障診断を実行して故障箇所を特定する。よって、工具本体10は、診断指令信号に応じて実際に故障診断を実行することから、故障箇所を推測する構成に比べて、故障箇所の判定精度を向上できる。
【0148】
また、工具本体10は、診断機器3からの診断指令信号の受信に応じて、実際に故障診断を実行する。つまり、工具本体10は、過去の使用履歴情報では無く、工具本体10の最新の状態に基づいて故障箇所を診断する。よって、工具本体10は、最新の状態に基づいて故障診断を行うため、精度良く故障箇所を診断できる。
【0149】
さらに、工具本体10は、工具本体10の外部に備えられる診断機器3が故障診断を実行するのではなく、工具本体10に備えられるマイコン30が故障診断を実行するように構成されている。このため、工具本体10は、工具本体10の種類に適した故障診断をマイコン30に記憶することで、誤った診断内容の故障診断が実行されるのを抑制できる。
【0150】
次に、工具本体10は、駆動回路50、電流検出回路25、回転センサ26、バッテリ電圧検出部22、表示LED24、トリガスイッチ23について、故障診断を行う。このため、工具本体10は、これら複数箇所の故障診断を行うにあたり、使用履歴情報に基づいて故障箇所を推定する場合に比べて、故障箇所の判定精度を向上できる。
【0151】
次に、工具本体10では、マイコン30は、少なくとも、駆動回路50、電流検出回路25、回転センサ26の故障診断を実行するように構成されている。工具本体10は、これら3つの故障診断を行うことで、モータ60の駆動に関する主要な部分の故障箇所を特定するにあたり、使用履歴情報に基づいて故障箇所を推定する場合に比べて、故障箇所の判定精度を向上できる。
【0152】
次に、工具本体10では、マイコン30は、診断機器3からの診断指令信号に基づいて、駆動回路50、電流検出回路25、回転センサ26の故障診断を実行する場合には、それぞれの故障診断をこの順に実行する。つまり、工具本体10は、上記の順番で3つの故障診断を行うことで、駆動回路50の故障を最初に特定できる。よって、工具本体10は、駆動回路50の故障に起因して、電流検出回路25および回転センサ26が故障であると誤判定されるのを抑制できる。
【0153】
また、工具本体10は、故障診断の優先順位に関して、回転センサ26よりも電流検出回路25を高い優先順位に設定している。このため、工具本体10は、電流検出回路25の故障を早期に発見でき、過電流などの重大な危険が生じることを抑制できる。よって、工具本体10によれば、故障診断の誤判定を抑制できるとともに、重大な危険の発生を抑制できる。
【0154】
次に、工具本体10では、診断機器3が第1コネクタ20aに接続されることに応じて、第1コネクタ20aは、診断機器3からの診断指令信号を受信し、診断機器3への診断結果信号を送信する。
【0155】
工具本体10は、第1コネクタ20aを介して、外部機器としての、バッテリパック70および診断機器3のそれぞれが接続されるように構成されている。そして、工具本体10は、バッテリパック70が接続された場合には、バッテリパック70との間で信号送受信を行い、診断機器3が接続された場合には、診断機器3から診断指令信号を受信し、診断機器3に診断結果信号を送信する。つまり、第1コネクタ20aは、診断機器3が接続された場合、診断機器3と信号送受信するための信号送受信部としての機能を発揮する。
【0156】
また、工具本体10は、バッテリパック70および診断機器3のうちいずれか一方のみを接続するように構成されている。つまり、工具本体10においては、故障診断の実行時期が診断機器3との接続時に限定されるため、バッテリパック70との接続時に故障診断が実行されるのを抑制できる。
【0157】
よって、工具本体10は、バッテリパック70との接続時における使用者の意図に反した故障診断の実行を抑制できるため、故障診断の実行に起因する工具本体10の動作による使用者のケガなどの事故を抑制できる。
【0158】
[1-13.文言の対応関係]
ここで、文言の対応関係について説明する。
工具本体10が電動作業機の一例に相当し、第1コネクタ20aが信号送受信部の一例に相当するとともにバッテリ接続部の一例に相当する。
【0159】
S320,S340,S360,S380,S400,S420のそれぞれを実行するマイコン30が指令受信判定部の一例に相当する。S330,S350,S370,S390,S410,S430のそれぞれを実行するマイコン30が診断部の一例に相当する。S540,S750,S860,S940,S1040,S1140のそれぞれを実行するマイコン30が結果送信部の一例に相当する。
【0160】
駆動回路50がモータ駆動回路の一例に相当し、電流検出回路25がモータ電流検出部の一例に相当し、回転センサ26がモータ回転位置検出部の一例に相当し、表示LED24が表示部の一例に相当する。
【0161】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0162】
(2a)上記実施形態では、電動作業機(詳細には、工具本体10)と診断機器との通信構成に関して、全二重のシリアル通信を実行する構成について説明したが、通信形態は、全二重のシリアル通信に限られることはなく、半二重のシリアル通信でもよい。
【0163】
また、上記実施形態では、電動作業機(詳細には、工具本体10)と診断機器とが、第1コネクタ20aおよび接続アダプタ80を介して互いに有線接続するように構成されているが、電動作業機と診断機器との接続形態は、このような形態に限られることはない。例えば、電動作業機は、
図12に示す第2工具本体10aのように、第1コネクタ20aとは別に、第2コネクタ20bおよび無線通信部28を備えてもよい。なお、第2工具本体10aは、第1実施形態の工具本体10と同様の構成を、第1実施形態と同一符号を付して表す。
【0164】
第2コネクタ20bは、診断機器3の接続アダプタ80と有線接続するように構成されている。第2コネクタ20bは、接続アダプタ80が離脱可能に接続されている。第2コネクタ20bは、正極端子41と、負極端子42と、信号端子43と、シリアル通信端子44A,44Bと、を備える。正極端子41および負極端子42は、機器電源91から接続アダプタ80を介してモータ60への電力供給電流を通電するように構成されている。信号端子43およびシリアル通信端子44A,44Bは、マイコン30と演算機器90との通信経路を形成する。第2コネクタ20bは、シリアル通信端子44A,44Bを用いて、診断機器3からの診断指令信号を含む信号を送受信するように構成されている。
【0165】
無線通信部28は、
図12に示す第2診断機器3aと無線接続するように構成されている。第2診断機器3aは、第2演算機器92を備える。第2演算機器92は、演算機器90に無線通信部90cが追加されることで構成されている。無線通信部90cは、制御部90aからの指令に基づいて無線通信を行う。無線通信部28は、無線通信により第2診断機器3aの無線通信部90cとの間でデータ通信を行う。無線通信は、近距離無線通信を含む。近距離無線通信は、例えば、Bluetooth規格に準拠した方式の無線通信などが挙げられる。Bluetoothは登録商標である。無線通信部28は、無線通信を用いて、第2診断機器3aからの診断指令信号を含む信号を送受信するように構成されている。
【0166】
このように、第1コネクタ20aとは別に、第2コネクタ20bおよび無線通信部28を備えることで、第2工具本体10aとバッテリパック70とが接続された状態で、診断機器3からの診断指令信号または第2診断機器3aからの診断指令信号に基づく第2工具本体10aの故障診断を実行できる。
【0167】
さらに、診断機器は、上記の診断機器3または第2診断機器3aのような構成に限られることはなく、
図13に示す第3診断機器3bのような構成であってもよい。第3診断機器3bは、第2演算機器92と、第2接続アダプタ80aと、を備える。第2演算機器92は、第2診断機器3aの第2演算機器92と同様の構成である。第2接続アダプタ80aは、接続アダプタ80において、無線通信部85を追加するとともに、アダプタ信号端子83およびアダプタシリアル通信端子84A,84Bを無線通信部85に接続することで構成されている。このため、第2接続アダプタ80aは、第1コネクタ20aおよび第2コネクタ20bのそれぞれに対して離脱可能に接続できるように構成されている。無線通信部85は、アダプタ信号端子83およびアダプタシリアル通信端子84A,84Bを介して、マイコン30と有線接続される。無線通信部85は、有線通信によりマイコン30と各種情報を送受信するように構成されている。また、無線通信部85は、無線通信部90cと無線接続される。無線通信部85は、無線通信により無線通信部90cと各種情報を送受信するように構成されている。第2演算機器92は、第2接続アダプタ80aを利用した無線通信を介して、工具本体10または第2工具本体10aと接続するように構成されている。これにより、第2演算機器92は、工具本体10または第2工具本体10aとの間で各種情報を送受信する。
【0168】
つまり、第3診断機器3bは、第2接続アダプタ80aが工具本体10または第2工具本体10aと有線接続するとともに、第2演算機器92が第2接続アダプタ80aと無線接続されるように構成されている。第3診断機器3bは、工具本体10または第2工具本体10aに対して診断指令信号を出力し、工具本体10または第2工具本体10aから診断結果信号を受け取るように構成されている。
【0169】
上述のように、無線通信により診断機器と工具本体とを接続する構成としては、工具本体に無線通信部を備える構成や、工具本体と接続される接続アダプタに無線通信部を備える構成など、種々の構成を採ることができる。
【0170】
第2工具本体10aにおいては、第2工具本体10aが電動作業機の一例に相当し、第1コネクタ20aがバッテリ接続部の一例に相当し、第2コネクタ20bが診断信号経路部の一例に相当する。
【0171】
なお、第2コネクタ20bは、正極端子41および負極端子42を省略してもよい。つまり、機器電源91からの電力ではなくバッテリパック70からの電力を用いて第2工具本体10aを駆動しつつ、診断機器3からの診断指令信号に基づく第2工具本体10aの故障診断を実行してもよい。
【0172】
(2b)上記実施形態では、故障診断の対象が、モータ駆動回路(駆動回路50)、モータ電流検出部(電流検出回路25)、モータ回転位置検出部(回転センサ26)、バッテリ電圧検出部、表示部(表示LED24)、トリガスイッチである形態について説明したが、故障診断の対象は、これら6箇所に限られることはない。例えば、工具本体10のうち温度センサ27が故障診断の対象に含まれてもよい。あるいは、故障診断の対象は、5箇所以下であってもよい。温度センサの故障診断は、診断機器からの診断指令信号に基づき、温度センサの検出温度が正常範囲内かどうか判定することで実現してもよい。例えば、工具本体の不使用時に故障診断を実行し、温度センサの検出温度が常温範囲内(例えば、0℃~50℃の範囲内)であるか否かに基づいて、温度センサの故障診断を実行してもよい。このとき、温度センサの検出温度が常温範囲内である場合には、温度センサが正常と判定し、温度センサの検出温度が常温範囲から逸脱している場合には、温度センサが異常と判定することができる。
【0173】
(2c)上記実施形態では、故障診断の順番が、モータ駆動回路(駆動回路50)、モータ電流検出部(電流検出回路25)、モータ回転位置検出部(回転センサ26)、バッテリ電圧検出部、表示部(表示LED24)、トリガスイッチの順番である形態について説明したが、故障診断の順番は上記の順番に限られることはない。例えば、モータ駆動回路(駆動回路50)、モータ電流検出部(電流検出回路25)、モータ回転位置検出部(回転センサ26)、表示部(表示LED24)、トリガスイッチ、バッテリ電圧検出部の順番で故障診断してもよい。
【0174】
(2d)上記実施形態では、電動作業機がインパクトドライバである形態について説明したが、本開示は、このような形態に限られることはない。本開示は、例えば、マルノコ、ドライバドリル、クリーナー、ハンマドリル、草刈機、バリカン、ブロワなどの電動作業機に適用してもよい。
【0175】
(2e)上記実施形態では、バッテリパックの電力を用いて駆動する電動作業機について説明したが、本開示はこのような構成に限られることはない。本開示は、例えば、バッテリパックの電力に代えて商用電源からの電力供給により駆動する形態の電動作業機であってもよい。また、本開示は、バッテリパックおよび商用電源のそれぞれから電力供給を受けられる形態の電動作業機であってもよい。
【0176】
(2f)上記実施形態では、診断指令信号を受信すると常に故障診断を実行する構成について説明したが、本開示はこのような構成に限られることはない。例えば、マイコン30が実行する診断機器通信処理は、上記の
図5に示す処理内容に限られることはなく、
図14に示す第2診断機器通信処理のように、FETが正常であるか否かを判定して、FETが正常ではない場合には故障診断を実施しない構成であってもよい。なお、
図14に示す各ステップのうち、
図5に示すステップと同じ処理内容のステップについては同一ステップ番号を付している。
【0177】
図14に示す第2診断機器通信処理を実行するマイコン30は、S340で肯定判定されるとS342に移行し、S342でFETが正常であるか否かを判定する。マイコン30は、FETが正常と判定するとS350に移行して電流検出診断処理を実行し、FETが正常ではないと判定するとS344に移行して診断未実施信号を診断機器3に送信する。診断未実施信号は、診断を実行していないことを通知するための信号である。また、マイコン30は、S360で肯定判定されるとS362に移行し、S362でFETが正常であるか否かを判定する。マイコン30は、FETが正常と判定するとS370に移行して回転センサ診断処理を実行し、FETが正常ではないと判定するとS364に移行して診断未実施信号を診断機器3に送信する。マイコン30は、S334,S364の何れかの処理を完了すると、第2診断機器通信処理を終了する。これにより、FETが正常ではない状況下で、電流検出診断処理および回転センサ診断処理が実行されることを抑制でき、故障診断の診断精度が低下することを抑制できる。
【0178】
あるいは、診断機器は、FETが正常ではないとの診断結果を受信した場合には、電流検出診断コマンドおよび回転センサ診断コマンドを出力しない構成であってもよい。
(2g)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合させたりしてもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、同様の機能を有する公知の構成に置き換えてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0179】
1…現場電気システム、2…電動作業機(インパクトドライバ)、3…診断機器、3a…第2診断機器、3b…第3診断機器、10…工具本体、10a…第2工具本体、20…コントローラ、20a…第1コネクタ、20b…第2コネクタ、20c…無線通信部、22…バッテリ電圧検出部、23…トリガスイッチ、24…表示パネル(表示LED)、25…電流検出回路、26…回転センサ、27…温度センサ、30…マイクロコンピュータ(マイコン)、40…ゲート回路、50…駆動回路、60…モータ、70…バッテリパック、70a…パックコネクタ、75…制御回路、78…バッテリブロック、80…接続アダプタ、80a…第2接続アダプタ、90…演算機器、90a…制御部、90b…指令入力部、91…機器電源、92…第2演算機器。