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特許7523922セラミック電子部品の製造方法、および金属導電ペースト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】セラミック電子部品の製造方法、および金属導電ペースト
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240722BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H01G4/30 311D
H01G4/30 201L
H01G4/30 201D
H01G4/30 517
H01G4/30 516
H01G4/30 515
H01B1/22 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020035804
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021141131
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 翔平
【審査官】多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-181941(JP,A)
【文献】国際公開第2010/021202(WO,A1)
【文献】特開2019-172565(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098728(WO,A1)
【文献】特開2016-060666(JP,A)
【文献】神鳥 和彦,粉末X線回折測定による固体構造の研究,[online],大阪教育大学,2006年08月13日,<URL:http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~rck/kandori.pdf>,特に、「4.結晶子について」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体材料を含む誘電体グリーンシート上にNiを主成分とする金属材料およびチタン酸バリウムを主成分とする共材を含む金属導電ペーストのパターンが配置された積層単位を、前記金属導電ペーストの配置が交互にずれるように複数積層することで積層体を形成する形成工程と、
前記積層体を焼成する焼成工程と、を含み、
前記焼成工程前において、粉末X線回折で評価した場合の(111)面のFWHMについて、(前記金属材料のFWHM)/(前記共材のFWHM)が0.550以下であり、
前記焼成工程前において、前記金属材料の平均粒径が120nm以下であることを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記共材の平均粒径は、10nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記金属導電ペーストの焼成によって得られる内部電極層の平均厚みは、0.8μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程前において、前記共材のFWHMは、1.1以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程前において、前記金属材料のFWHMは、0.7以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記誘電体材料は、主成分がチタン酸バリウムであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程前において、粉末X線回折で評価した場合の(111)面のFWHMについて、(前記金属材料のFWHM)/(前記共材のFWHM)が0.512以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程前において、粉末X線回折で評価した場合の(111)面のFWHMについて、(前記金属材料のFWHM)/(前記共材のFWHM)が0.140以上であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項9】
Niを主成分とする金属材料およびチタン酸バリウムを主成分とする共材を含み、
粉末X線回折で評価した場合の(111)面のFWHMについて、(前記金属材料のFWHM)/(前記共材のFWHM)が0.550以下であり、
前記金属材料の平均粒径が120nm以下であることを特徴とする金属導電ペースト。
【請求項10】
前記共材の平均粒径は、10nm以下であることを特徴とする請求項9に記載の金属導電ペースト。
【請求項11】
前記共材のFWHMは、1.1以上であることを特徴とする請求項7または請求項10に記載の金属導電ペースト。
【請求項12】
前記金属材料のFWHMは、0.7以下であることを特徴とする請求項9から請求項11のいずれか一項に記載の金属導電ペースト。
【請求項13】
粉末X線回折で評価した場合の(111)面のFWHMについて、(前記金属材料のFWHM)/(前記共材のFWHM)が0.512以下であることを特徴とする請求項9から請求項12のいずれか一項に記載の金属導電ペースト。
【請求項14】
粉末X線回折で評価した場合の(111)面のFWHMについて、(前記金属材料のFWHM)/(前記共材のFWHM)が0.140以上であることを特徴とする請求項9から請求項13のいずれか一項に記載の金属導電ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品の製造方法、および金属導電ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品では、小型大容量化が求められている。そこで、誘電体層および内部電極層の薄層化による実効容量値の向上が求められている。しかしながら、内部電極層を薄層化すると、誘電体層と内部電極層との間の焼結温度差に起因して、内部電極層の焼結後の連続率が著しく低下することがある。そこで、収縮遅延効果をもたらすために、内部電極層に、共材を添加することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-055314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、内部電極層の薄層化に伴い、共材を用いても、焼結過程において、内部電極層の焼結開始温度での球状化が顕著となる。それにより、結果的に焼結後も連続率が低下し、所望の容量が取得できないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、内部電極層の連続率低下を抑制することができる、セラミック電子部品の製造方法、および金属導電ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、誘電体材料を含む誘電体グリーンシート上にNiを主成分とする金属材料およびチタン酸バリウムを主成分とする共材を含む金属導電ペーストのパターンが配置された積層単位を、前記金属導電ペーストの配置が交互にずれるように複数積層することで積層体を形成する形成工程と、前記積層体を焼成する焼成工程と、を含み、前記焼成工程前において、粉末X線回折で評価した場合の(111)面のFWHMについて、(前記金属材料のFWHM)/(前記共材のFWHM)が0.550以下であり、前記焼成工程前において、前記金属材料の平均粒径が120nm以下であることを特徴とする。
【0007】
上記セラミック電子部品の製造方法において、前記共材の平均粒径は、10nm以下としてもよい。
【0008】
上記セラミック電子部品の製造方法において、前記金属導電ペーストの焼成によって得られる内部電極層の平均厚みは、0.8μm以下としてもよい。
【0009】
上記セラミック電子部品の製造方法の前記焼成工程前において、前記共材のFWHMは、1.1以上としてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品の製造方法の前記焼成工程前において、前記金属材料のFWHMは、0.7以下としてもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品の製造方法において、前記誘電体材料は、主成分をチタン酸バリウムとしてもよい。
【0012】
本発明に係る金属導電ペーストは、Niを主成分とする金属材料およびチタン酸バリウムを主成分とする共材を含み、粉末X線回折で評価した場合の(111)面のFWHMについて、(前記金属材料のFWHM)/(前記共材のFWHM)が0.520以下であり、前記金属材料の平均粒径が120nm以下であることを特徴とする。
【0013】
上記金属導電ペーストにおいて、前記共材の平均粒径は、10nm以下としてもよい。
【0014】
上記金属導電ペーストにおいて、前記共材のFWHMを1.1以上としてもよい。
【0015】
上記金属導電ペーストにおいて、前記金属材料のFWHMを0.7以下としてもよい。
【0016】
上記金属導電ペーストにおいて、前記誘電体材料は、主成分をチタン酸バリウムとしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内部電極層の連続率低下を抑制することができる、セラミック電子部品の製造方法、および金属導電ペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2】内部電極層の球状化を例示する図である。
図3】連続率を表す図である。
図4】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図5】(a)~(c)は積層工程を例示する図である。
図6】(a)~(e)は金属導電ペーストの焼成を例示する図である。
図7】FWHMを例示する図である。
図8】(a)~(d)はSEM画像を模式的に描いた図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0020】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0021】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を主成分とする誘電体層11と、卑金属材料等の金属材料を主成分とする内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層構造において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層構造の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0022】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0023】
内部電極層12は、Ni(ニッケル)を主成分とする。内部電極層12の平均厚さは、例えば、0.8μm以下であり、0.6μm以下とすることが好ましい。誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム),CaZrO(ジルコン酸カルシウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。
【0024】
内部電極層12を金属粉末の焼成によって得る場合、焼結が進むと表面エネルギーを最小にしようとするために球状化する。誘電体層11の主成分セラミックよりも内部電極層12の金属成分の焼結が進みやすいため、誘電体層11の主成分セラミックが焼結するまで温度を上げると、内部電極層12の金属成分は過焼結となり、球状化しようとする。この場合、切れるキッカケ(欠陥)があれば、図2で例示するように、誘電体層11は連続性を有するものの、当該欠陥を基点に内部電極層12が切れ、内部電極層12の連続率が低下する。内部電極層12の連続率が低下すると、積層セラミックコンデンサ100の容量が低下する。
【0025】
内部電極層12が薄くなると、誘電体層11の焼結収縮に伴う再伸展が生じにくくなる。したがって、連続率の低下は、内部電極層12の平均厚さが0.6μm以下などの薄層化された積層セラミックコンデンサ100で特に生じやすくなる。
【0026】
図3は、連続率を表す図である。図3で例示するように、ある内部電極層12における長さL0の観察領域において、その金属部分の長さL1,L2,・・・,Lnを測定して合計し、金属部分の割合であるΣLn/L0をその層の連続率と定義することができる。
【0027】
本実施形態においては、内部電極層12の連続率の低下を抑制することができる、積層セラミックコンデンサ100の製造方法、および金属導電ペーストについて説明する。図4は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0028】
(原料粉末作製工程)
誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11を構成するセラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0029】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、希土類元素(Y(イットリウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト)、Ni、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)およびSi(ケイ素)の酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0030】
例えば、セラミック粉末の平均粒径は、誘電体層11の薄層化の観点から、好ましくは50~200nmである。例えば、上記のようにして得られたセラミック粉末について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上により、誘電体材料が得られる。
【0031】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。図5(a)で例示するように、得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み0.8μm以下の帯状の誘電体グリーンシート41を塗工して乾燥させる。図5(a)では基材を省略してある。
【0032】
次に、図5(b)で例示するように、誘電体グリーンシート41の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペースト42をスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷する。それにより、シート部材43を得る。シート部材43は、積層単位である。
【0033】
その後、図5(c)で例示するように、基材を剥離した状態で、金属導電ペースト42が互い違いになるように、かつ金属導電ペースト42が誘電体グリーンシート41の長さ方向両端面に端縁が交互に露出するように、所定層数(例えば100~500層)だけシート部材43を積層する。積層したシート部材43の上下にカバー層13となるカバーシートを圧着し、積層体を得る。その後に外部電極20a,20bの下地層となる金属導電ペーストを、積層体の両端面にディップ法等で塗布して乾燥させる。これにより、積層セラミックコンデンサ100を形成するための成型体が得られる。
【0034】
一枚の誘電体グリーンシート41上の複数箇所に、内部電極層12に対応する金属導電ペースト42を印刷してもよい。この場合、得られるシート部材43を積層し、カバーシートを圧着した後に所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)ずつにカットし、カットされた積層体のそれぞれの両端面に、外部電極20a,20bの下地層となる金属導電ペーストをディップ法等で塗布して乾燥させてもよい。
【0035】
ここで、金属導電ペースト42の詳細について説明する。金属導電ペースト42は、金属材料および共材を含んでいる。内部電極層12を薄層化する観点から、金属材料として、粒径の小さいものを用いる。本実施形態においては、金属材料には、平均粒径が120nm以下のNi粉末を用いる。粒径の標準偏差は、35程度とする。これにより、シャープな粒度分布が得られる。平均粒径は、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましい。粒径の標準偏差は、15以下であることが好ましく、13以下であることがより好ましい。また、累積粒度分布の傾きは、8以上であることが好ましい。なお、累積粒度分布の傾きは、累積粒度分布を対数プロットしD20とD80間の傾き(=1/(logD80-logD20)と定義することができる。本実施形態においては、共材としてチタン酸バリウムを用いる。
【0036】
図6(a)は、誘電体材料51のシート上に、金属材料52のパターンが積層され、当該パターン上に誘電体材料51のシートが積層された状態を例示する図である。誘電体材料51のシートは、図5(b)の誘電体グリーンシート41に対応している。金属材料52のパターンは、図5(b)の金属導電ペースト42に対応している。図6(a)で例示するように、金属材料52のパターン内に、共材53が分散している。
【0037】
焼結の過程で金属材料52から共材53が吐き出され、金属材料52間に残存できなくなると、図6(b)で例示するように、金属材料52同士がネッキングを開始する。この場合、金属材料52間に残存できなかった影響で、誘電体材料51が焼結によって緻密化する温度域に達する頃には、図6(c)で例示するように、金属材料52の球状化がさらに促進されてしまう。
【0038】
焼結の過程で共材53が金属材料52から吐き出されなければ、図6(d)で例示するように、金属材料52間に共材53が残存できるようになる。この場合、金属材料52同士のネッキングが阻害され、金属材料52の球状化が抑制される。この場合、誘電体材料51が焼結によって緻密化する温度域に達する頃には、図6(e)で例示するように、内部電極層12の連続率が維持されたまま、焼成が完了する。
【0039】
そこで、本実施形態においては、金属材料52間に共材53が分散しやすくなるようにする。金属材料52間に共材53が高分散な状態で存在すると、金属材料52間に共材53が残存できるようになる。
【0040】
具体的には、上述したように、金属材料52に、平均粒径が120nm以下の小粒径のNi粉末を用いる。これにより、金属材料52に共材53を分散させやすくなる。次に、共材53として、金属導電ペーストに含まれる金属材料52に対して、十分に結晶性の低いものを用いる。これにより、金属材料52に共材53を分散させやすくする。本実施形態においては、共材53を粉末X線回折で評価した場合の(111)面の半価幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)と、金属材料52を粉末X線回折で評価した場合の(111)面のFWHMに着目する。本実施形態においては、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)を0.550以下とする。この場合、共材53の結晶性が、金属材料52の結晶性に対し十分に低くなる。共材53の結晶性を低くする観点から、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)は、0.520以下であることが好ましい。また、金属材料52の結晶性を、共材53の結晶性よりも十分に高くする観点から、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)は、0.140以上であることが好ましく、0.130以上であることがより好ましい。 図7で例示するように、FWHMは、ピーク値(fmax)の半値であるfmax/2におけるピーク幅のことである。
【0041】
共材53を分散させやすくするためには、共材53は、小粒径を有していることが好ましい。そこで、共材53には、例えば平均粒径が10nm以下のものを用いることが好ましい。また、粒径の標準偏差は、5以下とすることが好ましい。これにより、シャープな粒度分布が得られる。平均粒径は、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。粒径の標準偏差は、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。また、累積粒度分布の傾きは、7以上であることが好ましい。なお、累積粒度分布の傾きは、累積粒度分布を対数プロットしD20とD80間の傾き(=1/(logD80-logD20)と定義することができる。
【0042】
共材53の結晶性を十分に低くする観点から、共材53のFWHMは、1.1以上であることが好ましく、1.3以上であることがより好ましく、1.6以上であることがさらに好ましい。
【0043】
共材53を分散させやすくする観点から、金属材料52の結晶性は高い方が好ましい。そこで、金属材料52のFWHMは、0.7以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましい。
【0044】
なお、金属材料52のFWHMは、金属材料52の粒子径調整などによって任意の値にすることができる。共材53のFWHMは、共材53の粒子径調整や、適切なセラミック粉末の合成方法(固相法や水熱法、蓚酸法、ゾル-ゲル法など)の選択によって、任意の値にすることができる。
【0045】
(焼成工程)
次に、積層工程によって得られた成型体を、250~500℃のN雰囲気中で脱バインダ処理した後に、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。なお、焼成工程において昇温速度を大きくすることで、共材53が金属材料52から吐き出される前に金属材料52が焼結するため、共材53が内部電極層12に残存しやすくなる。そこで、焼成工程において室温から最高温度までの平均昇温速度は、30℃/分以上とすることが好ましく、45℃/分以上とすることがより好ましい。なお、平均昇温速度が大きすぎると、成型体に残留する有機成分(脱バインダ処理だけで取り切れなかったもの)の排出が十分に行われず、焼成工程中にクラックが発生するなどの不具合が生じるおそれがある。そこで、平均昇温速度を、80℃/分以下とすることが好ましく、65℃/分以下とすることがより好ましい。
【0046】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bの下地層に、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行う。
【0047】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法によれば、金属材料52の平均粒径を120nm以下とし、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)≦0.550の関係を有する共材53が内部電極層12の形成用の金属材料52と混合される。このようにすることで、共材53が金属材料52に分散しやすくなる。金属材料52間に共材53が高分散な状態で存在すると、金属材料52間に共材53が残存できるようになる。その結果、金属材料52同士のネッキングが阻害され、金属材料52の球状化が抑制され、内部電極層12の連続率低下が抑制される。
【0048】
上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例
【0049】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0050】
(実施例1~3および比較例1~4)
チタン酸バリウム粉末を、誘電体材料51として用意した。チタン酸バリウム粉末に必要な添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料51を得た。誘電体材料51に有機バインダおよび溶剤を加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシート41を作製した。誘電体グリーンシート41の塗工厚みを0.8μmとし、有機バインダとしてポリビニルブチラール(PVB)等を用い、溶剤としてエタノール、トルエン等を加えた。その他、可塑剤などを加えた。
【0051】
次に、内部電極層12の主成分金属(Ni)の粉末(金属材料52)をNi固形分で50wt%と、共材53(チタン酸バリウム)を10部と、バインダ(エチルセルロース)を5部と、溶剤と、必要に応じてその他助剤を含んでいる内部電極形成用の金属導電ペースト42を遊星ボールミルで作製した。実施例1および比較例1では、金属材料52には、平均粒径が80nmのNi粉末を用いた。実施例2および比較例2では、金属材料52には、平均粒径が100nmのNi粉末を用いた。実施例3および比較例3では、金属材料52には、平均粒径が120nmのNi粉末を用いた。比較例4では、金属材料52には、平均粒子が140nmのNi粉末を用いた。比較例5では、金属材料52には、平均粒径が160nmのNi粉末を用いた。
【0052】
実施例1~3および比較例5では、共材53に、平均粒径が8nmのチタン酸バリウムを用いた。比較例1~4では、共材53に、平均粒径が50nmのチタン酸バリウムを用いた。実施例1および比較例1の金属材料52の(111)面のFWHMは、0.666であった。実施例2および比較例2の金属材料52の(111)面のFWHMは、0.561であった。実施例3および比較例3の金属材料52の(111)面のFWHMは、0.182であった。比較例4の金属材料52の(111)面のFWHMは、0.170であった。比較例5の金属材料52の(111)面のFWHMは、0.163であった。実施例1~3および比較例5の共材53の(111)面のFWHMは、1.300であった。比較例1~4の共材53の(111)面のFWHMは、0.300であった。実施例1では、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)は0.512であった。実施例2では、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)は0.432であった。実施例3では、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)は0.140であった。比較例1では、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)は2.220であった。比較例2では、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)は1.870であった。比較例3では、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)は0.607であった。比較例4では、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)は0.567であった。比較例5では、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)は0.125であった。これらの測定結果を表1に示す。
【表1】
【0053】
誘電体グリーンシート41に内部電極形成用の金属導電ペースト42をスクリーン印刷した。誘電体グリーンシート41上に金属導電ペースト42が印刷されたシート部材43を250枚重ね、その上下にカバーシートをそれぞれ積層した。その後、熱圧着により積層体を得て、所定の形状に切断した。
【0054】
得られた積層体をN雰囲気中で脱バインダした後に、積層体の両端面から各側面にかけて、Niを主成分とする金属フィラー、共材、バインダ、溶剤などを含む金属導電ペーストを下地層用に塗布し、乾燥させた。その後、還元雰囲気中で1100℃~1300℃で10分~2時間、下地層用の金属導電ペーストを積層体と同時に焼成して焼結体を得た。室温から最高温度までの平均昇温速度は、30℃/分以上80℃/分以下とした。
【0055】
得られた焼結体の形状寸法は、長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであった。焼結体をN雰囲気下800℃の条件で再酸化処理を行った後、メッキ処理して下地層の表面にCuめっき層、Niめっき層およびSnめっき層を形成し、積層セラミックコンデンサ100を得た。実施例1~実施例5のいずれにおいても、内部電極層12の平均厚みは0.5μmであった。
【0056】
(分析)
実施例1~3および比較例1~4における内部電極層12の連続率を測定した。測定には、幅方向中央部での、誘電体層11と内部電極層12との積層方向における断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を用いた。具体的には、数枚のSEM写真に写っている全内部電極層の連続率を測定し、その平均値を連続率として求めた。連続率が80%以上であれば、合格「〇」と判定した。連続率が80%未満であれば、不合格「×」と判定した。図8(a)は、実施例1のSEM写真を模式的に描いた図である。図8(b)は、実施例3のSEM写真を模式的に描いた図である。図8(c)は、比較例4のSEM写真を模式的に描いた図である。図8(d)は、比較例5のSEM写真を模式的に描いた図である。図8(c)および図8(d)に比べて、図8(a)および図8(b)では内部電極層12の途切れが少ないことがわかる。
【0057】
表1に示すように、実施例1~3のいずれにおいても連続率が合格と判定された。これは、金属材料52の平均粒径が120nm以下であり、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)≦0.550となったからであると考えられる。これに対して、比較例1~5では、連続率が不合格と判定された。比較例1~4では、(金属材料52のFWHM)/(共材53のFWHM)が0.520を上回ったからであると考えられる。比較例4および比較例5では、金属材料52の平均粒径が120nmを上回ったからであると考えられる。
【0058】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
20a,20b 外部電極
41 誘電体グリーンシート
42 金属導電ペースト
43 シート部材
51 誘電体材料
52 金属材料
53 共材
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8