IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両用灯具制御装置 図1
  • 特許-車両用灯具制御装置 図2
  • 特許-車両用灯具制御装置 図3
  • 特許-車両用灯具制御装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】車両用灯具制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/14 20060101AFI20240722BHJP
【FI】
B60Q1/14 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020059350
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021154960
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】林田 隆憲
【審査官】野木 新治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-223874(JP,A)
【文献】特開2012-183875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方に搭載される車両用灯具と、
前記車両用灯具により光を照射可能な照射可能範囲を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が撮像した画像に基づいて、前記照射可能範囲内であっても光を照射させない非照射範囲を特定する特定手段と、
前記特定手段により特定された前記非照射範囲に対して光を照射させないように前記車両用灯具を制御する制御手段とを備え、
前記特定手段は、
前記撮像手段が撮像した画像のうち輝度が高い箇所に応じて前記非照射範囲の下縁ラインを特定し、
特定した前記下縁ラインへの向きから、前記輝度が高い箇所までの距離に応じた角度上向きとなるラインを前記非照射範囲の上縁ラインとして特定し、傾斜角度が閾値を超える坂道であると判定したときには前記輝度が高い箇所までの距離に応じた角度よりも大きな角度上向きとなるラインを前記上縁ラインとして特定し、
前記制御手段は、前記下縁ラインの上方から前記上縁ラインの下方までの非照射範囲に対して光を照射させない一方で、前記下縁ラインの下方の範囲および前記上縁ラインの上方の範囲に対して光を照射させるように前記車両用灯具を制御する、車両用灯具制御装置。
【請求項2】
前記特定手段は、前記撮像手段が撮像した画像のうち輝度が最も高い箇所に応じて前記非照射範囲の下縁ラインを特定する、請求項1に記載の車両用灯具制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前方に搭載される前照灯(ヘッドライト)としては、先行車や対向車(前方車両)の有無等に応じて光を照射する配光領域が自動制御されるものが知られている。例えば、特許文献1には、前照灯による配光領域を予め複数に分割し、カメラの撮影画像に基づき検出された前方車両が存在する領域への照射を非照射状態とするランプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-280302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術では、前照灯による配光領域を縦方向に短冊状となるように分割し、領域単位で照射状態または非照射状態に制御するものである。このため、非照射状態に制御された領域については、前方車両のみならず、当該前方車両の上方および下方の領域についても非照射状態となり視認性が低くなる。特に、前方車両の下方の領域には、当該前方車両よりも手前側(自車両側)の路面が含まれるところ、当該路面の視認性が低くなってしまい安全性を低下させてしまう虞があった。
【0005】
これを解決するために、例えば、前方車両の外形を特定して、当該外形に対応する範囲を非照射状態とすることが考えられる。しかし、前方車両の外形等を正確に検知するためには、高性能な車載カメラや検知センサが必要となる。その結果、コストが増大するため現実的ではない。
【0006】
本発明は、かかる実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、コストを抑制しつつより安全性を高めることができる車両用灯具制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる車両用灯具制御装置は、
車両の前方に搭載される車両用灯具と、
前記車両用灯具により光を照射可能な照射可能範囲を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が撮像した画像に基づいて、前記照射可能範囲内であっても光を照射させない非照射範囲を特定する特定手段と、
前記特定手段により特定された前記非照射範囲に対して光を照射させないように前記車両用灯具を制御する制御手段とを備え、
前記特定手段は、
前記撮像手段が撮像した画像のうち輝度が高い箇所に応じて前記非照射範囲の下縁ラインを特定し、
特定した前記下縁ラインへの向きから、前記輝度が高い箇所までの距離に応じた角度上向きとなるラインを前記非照射範囲の上縁ラインとして特定し、角度が閾値を超える坂道であると判定したときには前記輝度が高い箇所までの距離に応じた角度よりも大きな角度上向きとなるラインを前記上縁ラインとして特定し、
前記制御手段は、前記下縁ラインの上方から前記上縁ラインの下方までの非照射範囲に対して光を照射させない一方で、前記下縁ラインの下方の範囲および前記上縁ラインの上方の範囲に対して光を照射させるように前記車両用灯具を制御する
【0008】
本発明にかかる車両用灯具制御装置の一実施形態においては、前記特定手段は、前記撮像手段が撮像した画像のうち輝度が最も高い箇所に応じて前記非照射範囲の下縁ラインを特定する。
【0009】
本発明にかかる車両用灯具制御装置の別の実施形態においては、前記撮像手段が撮像した画像に基づいて、前記輝度が高い箇所に対応する位置までの距離を算出する距離算出手段を備え、
前記特定手段は、前記撮像手段が撮像した画像のうち輝度が高い箇所に応じて前記非照射範囲の下縁ラインを特定するとともに、前記距離算出手段により算出された距離に応じて前記非照射範囲の上縁ラインを特定する。
【0010】
本発明にかかる車両用灯具制御装置の別の実施形態においては、前記特定手段は、前記距離算出手段により算出された距離に応じて非照射範囲とする角度を特定し、前記車両用灯具から前記非照射範囲の下縁ラインへの向きを基準として当該角度だけ上向きとなるラインを前記非照射範囲の上縁ラインとして特定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる車両用灯具制御装置によれば、高性能なカメラや検知センサを要しないためコストを抑制しつつも、前方車両の運転者(運転手)へのグレア光の照射を抑制でき、かつ前方車両の手前側の路面を照射することにより当該路面の視認性が向上し、安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】車両用灯具制御装置の全体的な構成を示す模式図である。
図2】車両用灯具制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図3】非照射範囲の一例を説明するための図である。
図4】ヘッドライトの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の車両用灯具制御装置1の全体的な構成を示す模式図である。本発明にかかる車両用灯具制御装置1は、車両用灯具と、撮像手段と、制御部とを備えている。車両用灯具は、車両の前方に搭載される灯具であって、例えばヘッドライト11である。ヘッドライト11は、図4を用いて後述するが、照射可能範囲内のうち照射範囲として設定された範囲に対して光を照射させる一方、非照射範囲として設定された範囲に対して光を照射させないように制御可能な構造を有している。撮像手段は、ヘッドライト11により光を照射可能な照射可能範囲を撮像する位置(例えば、バックミラー・ルームミラーの裏面付近)に搭載されており、例えばステレオカメラからなる車載カメラ12である。制御部は、例えばヘッドライト11および車載カメラ12を制御するECU13(Electronic Control Unit)である。ECU13は、CPU、RAM、ROM、およびI/Oを含むマイクロコンピュータで構成されている。
【0014】
ECU13は、所定時間(例えば100msec)毎に撮像させるための制御信号を車載カメラ12に送信する。これにより、車載カメラ12は、所定時間毎に照射可能範囲を撮像する。車載カメラ12が撮像した画像のデータは、ECU13に送信される。
【0015】
また、ECU13は、車載カメラ12が撮像した画像に基づき、照射可能範囲内であっても光を照射させない非照射範囲を特定し、当該非照射範囲に対して光を照射させないようにヘッドライト11を制御する。本発明におけるECU13は、撮像した画像を解析して、当該画像のうちの輝度が高い箇所に応じて非照射範囲の下縁ライン(非照射範囲とする下端のライン)を特定し、当該下縁ラインの上方の非照射範囲に対しては光を照射させない一方で、下縁ラインの下方の範囲に対して光を照射させるように制御する。なお、非照射範囲の左右方向について、ECU13は、例えば、下縁ラインの特定に用いた輝度が高い箇所に応じて非照射範囲の左縁ラインおよび右縁ラインを特定し、当該左縁ラインから右縁ラインまでの範囲を非照射範囲として光を照射させない一方で、左縁ラインよりも左方の範囲や右縁ラインよりも右方の範囲に対して光を照射させるように制御する。
【0016】
図2は、本発明の車両用灯具制御装置1の動作(処理)の一例を示すフローチャートである。ECU13は、例えば、ヘッドライトを点灯させるための設定操作が行われている場合や自動点灯させる場合などにおいて、図2に示す処理を所定時間(例えば、100msec)毎に繰り返し実行する。図2にしたがって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
ステップS1においては、車載カメラ12により照射可能範囲を撮像するための処理を行う。具体的には、撮像するための制御信号を車載カメラ12に出力する。車載カメラ12が撮像した画像のデータは、ECU13に送信される。
【0018】
ステップS2においては、受信した画像を解析するための前処理が行われる。次いで、ステップS3においては、車両用のヘッドライトやテールランプ(以下、単に「ランプ」ともいう)となり得る箇所を抽出するための処理を行う。本実施形態においては、撮像した画像のうちの輝度が高い箇所を抽出する。輝度が高い点の抽出方法は、輝度が所定値より高い箇所を抽出するものであってもよいし、画像内の周辺領域よりも相対的に高い輝度を示す箇所を抽出するものであってもよい。所定値は、例えば、車両用のランプの規格上における輝度に応じて任意に設定される値である。
【0019】
画像内の輝度が高い箇所には、車両に搭載されているランプに対応する箇所が含まれる一方で、道路標識や反射板、街灯に対応する箇所等も含まれる。このため、ステップS4では、ステップS3において抽出した輝度の高い箇所が車両のランプに対応する箇所であるか否かを識別(誤検知を避けるため識別)するための処理を行う。
【0020】
識別の方法としては、(1)色による識別、(2)動いているか否かによる識別、(3)二つ対になっているか否かによる識別等が例として挙げられる。(1)の色による識別とは、ヘッドライトが白色、テールランプが赤色に規格上定められているため、抽出した輝度の高い箇所のうち白色と赤色以外の箇所を排除する方法である。これにより青色や緑色の道路標識は除外される。(2)の動いているか否かによる識別とは、抽出した輝度の高い箇所のうち動いている箇所を識別し、動いていない箇所(静止している箇所)を排除する方法である。例えば撮像は、100msec毎に行われるので、前後の画像同士を比較して、自車両の速度や移動距離を考慮した上で、抽出した箇所が動いているか否かを判断する。(3)の二つ対になっているか否かによる識別とは、車両のランプは左右対になっているため、抽出した輝度の高い箇所のうち所定範囲(所定距離)内で二つ対になっていない箇所を排除する方法である。なお、車両のランプに対応する箇所であるか否かの識別は、(1)~(3)や他の方法を組み合わせて多段階的に識別し、精度を上げることが望ましい。
【0021】
これらにより、ステップS4では、道路標識や、反射板、街灯などに対応する箇所を高い精度で排除でき、排除されなかった箇所を車両のランプに対応する箇所であるものとして識別する(みなす)。このように、ステップS3およびS4の処理を行うにあたっては、例えば輝度や色などを特定可能な画像を撮像できるカメラが車載カメラ12として搭載されているものであればよいため、高性能なカメラや検知センサを要することがない。
【0022】
ステップS5では、ステップS4の結果に基づいて先行車または対向車の有無を判別する。具体的には、ステップS4において車両のランプに対応する箇所が特定されているときに、先行車または対向車が有ると判別される。ステップS5において先行車または対向車が有ると判別されなかったときには、非照射範囲を設定する必要がないため、ステップS7に移行して、照射可能範囲に亘って光を照射するようにヘッドライト11を制御する。
【0023】
一方、ステップS5において先行車または対向車が有ると判別されたときには、ステップS6において非照射範囲を設定した後、ステップS7に移行して照射可能範囲のうち設定された非照射範囲に光を照射させず、非照射範囲以外の照射可能範囲に対して光を照射させるようにヘッドライト11を制御する。
【0024】
ステップS6では、輝度が高い箇所のうちステップS4において特定された車両のランプに対応する箇所に基づいて非照射範囲を設定する。ステップS6では、例えば、車両のランプに対応する箇所のうち、例えば、上下方向において最も下方に位置する箇所に基づいて非照射範囲の下縁ラインを特定する。また、ステップS6では、例えば、左右方向で最も左方に位置する箇所に基づいて非照射範囲の左縁ラインを特定し、最も右方に位置する箇所に基づいて非照射範囲の右縁ラインを特定する。以下に具体例を説明する。
【0025】
図3(a)は、自車両の前方において先行車(左側の車両)および対向車(右側の車両)が走行している状況であって、ステップS4においてランプに対応する箇所として、先行車の左右のテールランプカバー内に示す4つの点(箇所)と、対向車のヘッドライトカバー内に示す4つの点(箇所)とが識別された例を示している。なお、ランプに対応する箇所の個数は、ランプの構造や前方車両の台数などに応じて随時変動する。
【0026】
図3(a)に示す場合、ステップS6では、8つのランプに対応する箇所のうち、対向車に向かって右側のヘッドライトカバー内の下側の箇所aが最も下方に位置する箇所であると判定し、当該箇所aに応じて非照射範囲の下縁ラインAを特定し、当該下縁ラインAの上方を非照射範囲として光を照射させないようにし、当該下縁ラインAの下方を照射範囲として光を照射させる。
【0027】
車両のランプは、一般的に、フロントガラスおよびリアガラスが配置される箇所より下方に配置されている。このため、輝度の高い箇所のうちランプに対応する箇所に応じて非照射範囲の下縁ラインを水平方向に特定し、当該下縁ラインの上方の非照射範囲に対しては光を照射させない一方で、下縁ラインの下方の範囲に対して光を照射させるよう制御する。これにより、前方車両の運転者に光を照射しないようにしつつも、前方車両の手前側(自車両側)の路面は照射可能となる。
【0028】
また、ステップS6では、ステップ4で特定されたランプに対応する箇所(輝度が高い箇所でもある)に応じて、非照射範囲の下縁ラインを特定するとともに、非照射範囲の左縁ラインおよび右縁ラインを特定する。図3(a)に示すように、前方車両の8つのランプの箇所のうち、先行車の左側のテールランプカバー内の下側の箇所bが最も左方に位置する箇所であると判定し、当該箇所bに応じて非照射範囲の左縁ラインBを特定し、対向車に向かって右側のヘッドライトカバー内の下側の箇所aが最も右方に位置する箇所であると判定し、当該箇所aに応じて非照射範囲の右縁ラインCを特定し、左縁ラインBから右縁ラインCまでの間を非照射範囲として光を照射させないようにし、左縁ラインBの左方および右縁ラインCの右方を照射範囲として光を照射させる。これにより、斜線で示す領域X1が非照射範囲となり光が照射されず、領域X1以外の前方車両の存在しない領域(前方車両の手前側の路面を含む)に光が照射される。その結果、高性能なカメラや検知センサを要しないためコストを抑制しつつも、前方車両の運転者へのグレア光の照射を抑制でき、かつ前方車両の手前側の路面を照射することにより当該路面の視認性が向上し、安全性を高めることができる。
【0029】
また、本実施形態では、輝度の高い箇所に基づいて非照射範囲の下縁ラインなどが特定されるため、図3(a)に示すようにランプカバーの領域内においても下縁ライン等の非照射範囲の外縁を設定することが可能となる。これにより、ランプカバーを基準として下縁ライン等を設定するものなどと比較して、より細かく正確に非照射範囲・照射範囲を設定することができる。
【0030】
(実施形態2)
上記実施形態における図2のステップS6では、ランプに対応する箇所のうち最も下方に位置する箇所に基づいて非照射範囲の下縁ラインを特定する例を示したが、これに限らず、ランプに対応する箇所のうち輝度が最も高い箇所に基づいて非照射範囲の下縁ラインを特定するものであってもよい。車両のランプに対応する箇所のうち輝度が最も高い箇所は、例えば、自車両から最も近い前方車両のランプに対応する箇所などとみなすことができる。これによっても、高性能なカメラや検知センサを要しないためコストを抑制しつつも、前方車両の運転者へのグレア光の照射を抑制でき、かつ前方車両の手前側の路面を照射することにより当該路面の視認性が向上し、安全性を高めることができる。
【0031】
また、図2のステップS6では、非照射範囲の下縁ラインを特定する例について説明したが、これに限らず、非照射範囲の上縁ラインも特定し、下縁ラインから上縁ラインまでを非照射とし、下縁ラインの下方および上縁ラインの上方を照射するようにしてもよい。この場合、上縁ラインは、下縁ラインの特定に用いたランプに対応する箇所(図3(a)では輝度が高い(あるいは輝度が最も高い)箇所a)に対応する位置までの距離、つまり前方車両までの距離に応じて特定するようにしてもよい。ヘッドライト11から前方車両までの距離を算出する手段は、特に限定されるものではなく、撮像した画像に基づいて算出してもよいし、レーザ光等の照射により算出してもよい。
【0032】
非照射範囲は、前方車両の運転者へのグレア光の照射を抑制するために設定するものである。このため、上縁ラインとしては、前方車両までの距離に応じて少なくとも当該前方車両の運転者の位置(フロントガラス部分またはリアガラス部分)が含まれ得る範囲が非照射範囲となるラインが特定されるものであればよい。上縁ラインとしては、例えば、ヘッドライト11からステップS6で特定された下縁ラインに対応する位置への向き(光の照射方向)を基準とし、算出された前方車両までの距離に応じた角度だけ上向きとなるラインを特定するようにしてもよい。
【0033】
撮像した画像における前方車両の見かけ上の大きさは、自車両から近いほど大きくなり、自車両から遠いほど小さくなる。このため、非照射範囲とすべき上下の範囲は、自車両から近いほど大きくなり、自車両から遠いほど小さくなる。その結果、前方車両までの距離に応じた角度としては、距離が短いほど大きな値が特定され、距離が遠いほど小さな値が特定される。例えば、前方車両までの距離が100mのときに角度として4度が特定され、前方車両までの距離が200mのときに角度として2度が特定される。角度は、前方車両までの距離に応じて特定されるものであれば、所定の数式に従って距離からその都度算出されるものであってもよく、距離に応じた角度を特定するテーブルを参照することにより読み出されるものであってもよい。
【0034】
図3(b)は、図3(a)と同じ状況において、さらに非照射範囲の上縁ラインDを特定する例を示している。図3(a)と同様に、下縁ラインA、左縁ラインB、右縁ラインCが特定され、さらに、下縁ラインAに対応する位置への向き(光の照射方向)を基準とし、算出された前方車両(図3(b)では対向車)までの距離に応じた角度だけ上向きとなるラインが上縁ラインとして特定され、当該上縁ラインよりも上方についてはヘッドライト11からの光が照射されるように制御される。つまり、下縁ラインAから上縁ラインDまでの間であって左縁ラインBから右縁ラインCまでの間を非照射範囲とし、下縁ラインAの下方、上縁ラインDの上方、左縁ラインBの左方および右縁ラインCの右方を照射範囲として光を照射させる。これにより、斜線で示す領域X2が非照射範囲となり光が照射されず、領域X2以外の前方車両の存在しない領域(前方車両の手前側の路面、前方車両の上方を含む)に光が照射され得る。その結果、非照射範囲の高さを前方車両までの距離に応じた適正な高さにすることができ、前方車両の上方に位置し得る道路標識などの物体の視認性を高めることができる。なお、上縁ラインは、下縁ラインを基準として前方車両までの距離に応じた角度だけ上向きとなるラインを設定する例について説明したが、これに限らず、下縁ラインを基準として非照射範囲の高さを前方車両までの距離に応じた高さとなるラインを設定するものであってもよい。
【0035】
(実施形態3)
上記実施形態1および2における図2のステップS6では、先行車と対向車とを区別せずに、非照射範囲を設定する例について説明したが、これに限らず、先行車用の非照射範囲と、対向車用の非照射範囲とを各々別個に設定するようにしてもよい。例えば、ステップS6に対応する処理においては、先行車となる赤色のランプに対応する箇所のうちで最も下方の箇所あるいは最も輝度が高い箇所に基づいて非照射範囲の下縁ラインを特定し、対向車となる白色のランプに対応する箇所のうちで最も下方の箇所あるいは最も輝度が高い箇所に基づいて非照射範囲の下縁ラインを特定するようにしてもよい。
【0036】
また、左右方向についても先行車用の非照射範囲と、対向車用の非照射範囲とを区別して設定するようにしてもよい。先行車用の非照射範囲として、先行車となる赤色のランプに対応する箇所のうちで最も左方に位置する箇所に基づいて非照射範囲の左縁ラインを特定し、最も右方に位置する箇所に基づいて非照射範囲の右縁ラインを特定する。また、対向車用の非照射範囲については、対向車となる白色のランプに対応する箇所のうちで最も左方に位置する箇所に基づいて非照射範囲の左縁ラインを特定し、最も右方に位置する箇所に基づいて非照射範囲の右縁ラインを特定する。
【0037】
非照射範囲の上縁ラインは、下縁ラインの特定に用いた箇所に対応する位置までの距離、つまり前方車両までの距離に応じて特定することができるが、先行車用の非照射範囲と対向車用の非照射範囲のそれぞれの上縁ラインを各々別個に特定するようにしてもよい。つまり、先行車については、先行車となる赤色の箇所に基づいて特定した下縁ラインを基準とし、先行車までの距離に応じた角度だけ上向きとなるラインを先行車用の上縁ラインとして特定する。また、対向車については、対向車となる白色の箇所に基づいて特定した下縁ラインを基準とし、対向車までの距離に応じた角度だけ上向きとなるラインを対向車用の上縁ラインとして特定する。以下において、図3(c)を用いて具体的に説明する。
【0038】
図3(c)は、自車両の前方において先行車1台と対向車2台が走行している状況を示している。なお、対向車については、図3(c)において手前から1台目、2台目と称する。図2のステップS4においては、先行車のテールランプが一対(左右2つずつ、計4つのランプの箇所)、対向車のヘッドライトが二対(1台につき左右2つずつ計4つのランプの箇所、2台合わせて8つのランプの箇所)が識別されているものとする。
【0039】
この場合、図2のステップS6においては、対向車のヘッドライト内のランプ(白色)の箇所のうち、最も下方あるいは輝度が最も高い箇所aに基づいて下縁ラインEを特定し、最も左の箇所に基づいて左縁ラインI、最も右の箇所に基づいて右縁ラインJを特定し、下縁ラインEを基準として1台目の対向車までの距離に応じた角度で上縁ラインFが特定される。これにより、斜線で示す領域X3が対向車用の非照射範囲となり光が照射されない。なお、坂道走行時等の自車両と対向車との位置関係によっては、下縁ラインおよび上縁ラインの特定方法はこの限りではない。例えば、自車両が坂道に差し掛かる手前で、対向車が坂道を走行しているとした場合には、1台目(手前)の対向車に続く2台目(奥)の対向車が1台目の対向車よりも図3(c)に示す位置と比較してさらに上方(高い)の位置となる。一方、1台目(手前)の対向車に応じた下縁ラインを基準として当該対向車までの距離に応じて上縁ラインを特定する場合には、2台目の対向車の高さ位置によっては、当該対向車のフロントガラスの範囲を含んだラインが上縁ラインとなり得る可能性が生じてしまう。このため、例えば、ステップS06においては、1台目の対向車が標準位置(例えば、平地や緩やかな坂道走行時の範囲)よりも高い位置であることに基づいて比較的急な坂道を下っているか否かを判定し、比較的急な坂道を下っていると判定されたときには、距離に応じた角度として通常時(急な坂道でないとき、具体的には比較的急な坂道を下っていると判定されなかったとき)よりも大きな角度を特定して上縁ラインの位置をより上方に特定するようにしてもよく、他の方法により特定するようにしてもよい。
【0040】
また、図2のステップS6においては、先行車のテールランプ内のランプ(赤色)の箇所のうち、最も下方あるいは輝度が最も高い箇所bに基づいて下縁ラインKを特定し、最も左の箇所に基づいて左縁ラインG、最も右の箇所に基づいて右縁ラインHを特定し、下縁ラインKを基準として先行車までの距離に応じた角度に基づいて上縁ラインLが特定される。これにより、斜線で示す領域X4が先行車用の非照射範囲となり光が照射されない。その結果、先行車および対向車各々に応じて適切な範囲で非照射範囲を設定できる。また、前方車両の手前側の路面のみならず、先行車と対向車との間(右縁ラインHと左縁ラインIとの間)にも光が照射されて視認性を高めることができ、安全性を向上できる。なお、坂道走行時等の自車両と先行車との位置関係によっては、坂道走行時等の自車両と対向車との位置関係と同様に、下縁ラインおよび上縁ラインの特定方法はこの限りではなく、例えば、ステップS06においては、直近(最も手前)の先行車が標準位置(例えば、平地や緩やかな坂道走行時の範囲)よりも高い位置であることに基づいて比較的急な坂道を上っているか否かを判定し、比較的急な坂道を上っていると判定されたときには、距離に応じた角度として通常時(急な坂道でないとき、具体的には比較的急な坂道を上っていると判定されなかったとき)よりも大きな角度を特定して上縁ラインの位置をより上方に特定するようにしてもよく、他の方法により特定するようにしてもよい。
【0041】
(ヘッドライトについて)
上記実施形態1~3における図2のステップS7において制御されるヘッドライト11は、照射可能範囲内であっても図2のステップS6で設定した非照射範囲に光を照射させず、非照射範囲以外の照射可能範囲に対して光を照射させるように制御可能な構造を有するものであればよく、特定の種類に限定されるものではない。ヘッドライト11は、図4(a)に例示するように、例えば、LEDアレイチップ(LEDチップを多数個配列されたLEDパッケージ)を用いた多分解能ADB(Adaptive Driving Beam)であってもよく、DMD(Digital Micromirror Device)を用いた多分解能ADBであってもよい。また、ヘッドライト11は、図4(b)に例示するように、リフレクタ上下分割によって上下配光を分割したADBであってもよい。なお、分割数は、多いほどより非照射範囲および照射範囲をより細かく設定可能となる。
【0042】
(その他の変形例について)
以上、図面に基づいて本発明の実施の一態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。以下に、その他の変形例について説明する。
【0043】
上記実施形態における車両のランプに対応する箇所の識別に際しては、図2のステップS4で示したものに限るものではない。近年のヘッドライトやテールランプは、複数のLED等の光源により形成されていることを考慮して、ステップS4においては、さらに、ステップS3において抽出された輝度が高い箇所が所定範囲(例えば画像上におけるヘッドライトの表面積程度の範囲)内に所定箇所(例えば5箇所)以上存在するか否かを識別し、所定箇所以上存在しないときには当該箇所がランプではないとして排除するようにしてもよい。
【0044】
上記実施形態における下縁ラインは、図2のステップS4において識別された車両のランプに対応する箇所のうち所定の箇所(例えば、最も下方の箇所、輝度が最も高い箇所など)を通るラインを例示した。しかし、下縁ラインは、これに限らず、所定の箇所よりも所定量(例えば、10cm、10cmに対応する角度等)だけ上方または下方に調整(マージン設定)した位置を通るラインとしてもよい。また、所定量は、前方車両までの距離に応じて異なるようにしてもよく、例えば、距離が長いほど小さくなるように定められているものであってもよい。なお、図2のステップS4において識別された車両のランプに対応する箇所のうち、左縁ラインおよび右縁ラインを特定するための箇所についても同様に、左縁ラインおよび右縁ラインについては、当該箇所よりも所定量(例えば、10cm、10cmに対応する角度等)だけ左方または右方に調整(マージン設定)した位置を通るラインとしてもよい。
【0045】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0046】
1 …車両用灯具制御装置
11 …ヘッドライト
12 …車載カメラ
13 …ECU
図1
図2
図3
図4