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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】SiC基板の切削方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20240722BHJP
   B24B 1/04 20060101ALI20240722BHJP
   B24D 3/06 20060101ALI20240722BHJP
   B24D 5/12 20060101ALI20240722BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
B24B27/06 M
B24B1/04 C
B24D3/06 A
B24D5/12 Z
H01L21/78 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020071234
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021167046
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝利
(72)【発明者】
【氏名】平岩 卓
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-013812(JP,A)
【文献】特開2011-251350(JP,A)
【文献】特開2007-111803(JP,A)
【文献】特表平08-511482(JP,A)
【文献】特開2011-054632(JP,A)
【文献】特開2015-039039(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102166725(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B24B 1/04
B24D 3/06
B24D 5/12
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と基台に装着された円環状の切り刃とを備えた切削ブレードの該切り刃でSiC基板を切削するSiC基板の切削方法であって、
炭化タングステンとコバルトを焼結したボンドで砥粒が固定された該切削ブレードの該切り刃を径方向に超音波振動させつつ、チャックテーブルに保持したSiC基板を切削するとともに、
該切削ブレードの該基台から該切り刃の外縁までの刃先出し量は、該切り刃の刃厚の20倍以上でかつ30倍以下に設定されているSiC基板の切削方法。
【請求項2】
円環状の切り刃のみで構成されかつマウントによりスピンドルの先端に固定された切削ブレードの該切り刃でSiC基板を切削するSiC基板の切削方法であって、
炭化タングステンとコバルトを焼結したボンドで砥粒が固定された該切削ブレードの該切り刃を径方向に超音波振動させつつ、チャックテーブルに保持したSiC基板を切削するとともに、
該マウントから該切り刃の外縁までの刃先出し量は、該切り刃の刃厚の20倍以上でかつ30倍以下に設定されているSiC基板の切削方法。
【請求項3】
SiC基板は、Siが露出したSi面と、該Si面の反対側の面でCが露出したC面と、から表面及び裏面が形成され、
該SiC基板の該C面側を保持したチャックテーブルと該チャックテーブルに保持された該SiC基板に該切り刃が切り込む該切削ブレードとの相対的な移動方向と、該切削ブレードの該切り刃の該SiC基板に切り込んだ位置における該切削ブレードの回転方向、を逆方向としてSiC基板を切削する請求項1又は請求項2に記載のSiC基板の切削方法。
【請求項4】
SiC基板は、Siが露出したSi面と、該Si面の反対側の面でCが露出したC面と、から表面及び裏面が形成され、
該SiC基板の該Si面側を保持したチャックテーブルと該チャックテーブルに保持された該SiC基板に該切り刃が切り込む該切削ブレードとの相対的な移動方向と、該切削ブレードの該切り刃の該SiC基板に切り込んだ位置における該切削ブレードの回転方向、を同方向としてSiC基板を切削する請求項1又は請求項2に記載のSiC基板の切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC基板の切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC基板は、パワー半導体を形成する基板として広く使われ開発が進んでいる。SiC基板は、チップに分割する際、切削ブレードによるダイシングが用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-130315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、SiC基板は、難切削材であるため、比較的消耗しやすいボンドを用いた切削ブレードで切削する必要があり、この種の切削ブレードは、消耗が激しく、使用量が多くなってしまう。そこで、切削ブレードの刃先出し量を長くし、消耗しても長く持つようにしたいが、切削時の蛇行の発生が懸念される。また、消耗しにくい固いボンド、例えば電鋳ボンドを用いて切削すると、切削速度が上がりにくく、さらに目潰れのため切削中の加工負荷が大きくなり、切削ブレードの破損や大きなチッピングが発生してしまう。
【0005】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、切削ブレードの破損及びチッピングを抑制しながらも、SiC基板を切削する際の切削ブレードの消耗を抑制することができるSiC基板の切削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のSiC基板の切削方法は、基台と基台に装着された円環状の切り刃とを備えた切削ブレードの該切り刃でSiC基板を切削するSiC基板の切削方法であって、炭化タングステンとコバルトを焼結したボンドで砥粒が固定された該切削ブレードの該切り刃を径方向に超音波振動させつつ、チャックテーブルに保持したSiC基板を切削するとともに、該切削ブレードの該基台から該切り刃の外縁までの刃先出し量は、該切り刃の刃厚の20倍以上でかつ30倍以下に設定されていることを特徴とする。
本発明のSiC基板の切削方法は、円環状の切り刃のみで構成されかつマウントによりスピンドルの先端に固定された切削ブレードの該切り刃でSiC基板を切削するSiC基板の切削方法であって、炭化タングステンとコバルトを焼結したボンドで砥粒が固定された該切削ブレードの該切り刃を径方向に超音波振動させつつ、チャックテーブルに保持したSiC基板を切削するとともに、該マウントから該切り刃の外縁までの刃先出し量は、該切り刃の刃厚の20倍以上でかつ30倍以下に設定されていることを特徴とする。
【0007】
前記SiC基板の切削方法において、SiC基板は、Siが露出したSi面と、該Si面の反対側の面でCが露出したC面と、から表面及び裏面が形成され、該SiC基板の該C面側を保持したチャックテーブルと該チャックテーブルに保持された該SiC基板に該切り刃が切り込む該切削ブレードとの相対的な移動方向と、該切削ブレードの該切り刃の該SiC基板に切り込んだ位置における該切削ブレードの回転方向、を逆方向としてSiC基板を切削しても良い。
【0008】
前記SiC基板の切削方法において、SiC基板は、Siが露出したSi面と、該Si面の反対側の面でCが露出したC面と、から表面及び裏面が形成され、該SiC基板の該Si面側を保持したチャックテーブルと該チャックテーブルに保持された該SiC基板に該切り刃が切り込む該切削ブレードとの相対的な移動方向と、該切削ブレードの該切り刃の該SiC基板に切り込んだ位置における該切削ブレードの回転方向と、を同方向としてSiC基板を切削しても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、切削ブレードの破損及びチッピングを抑制しながらも、SiC基板を切削する際の切削ブレードの消耗を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態1に係るSiC基板の切削方法を示す斜視図である。
図2図2は、実施形態1に係るSiC基板の切削方法の加工対象のSiC基板の斜視図である。
図3図3は、図1に示されたSiC基板の切削方法を実施する切削装置の切削ユニットの断面図である。
図4図4は、図3に示された切削ユニットの切削ブレードの斜視図である。
図5図5は、図1に示されたSiC基板の切削方法を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0012】
〔実施形態1〕
本発明の実施形態1に係るSiC基板の切削方法を図面に基づいて説明する。図1は、実施形態1に係るSiC基板の切削方法を示す斜視図である。図2は、実施形態1に係るSiC基板の切削方法の加工対象のSiC基板の斜視図である。図3は、図1に示されたSiC基板の切削方法を実施する切削装置の切削ユニットの断面図である。図4は、図3に示された切削ユニットの切削ブレードの斜視図である。図5は、図1に示されたSiC基板の切削方法を示す側面図である。
【0013】
実施形態1に係るSiC基板の切削方法は、図1に示すように、切削装置1が切削ブレード21でSiC基板200を切削する方法である。実施形態1に係るSiC基板の切削方法の加工対象のSiC基板200は、SiC(炭化ケイ素)を基板201とする円板状の半導体ウェーハである。
【0014】
SiC基板200は、図2に示すように、Si(シリコン)が露出したSi面202と、Si面202の反対側の面でC(炭素)が露出したC面203と、から表面204及び裏面205が形成されている。SiC基板200は、Si面202の格子状の分割予定ライン206によって区画された領域にデバイス207が形成されている。なお、SiC基板200は、C面203にはデバイス207が形成されていない。
【0015】
実施形態1では、デバイス207は、電力制御や電力供給を行うパワーデバイスであるが、本発明では、パワーデバイスに限定されない。
【0016】
実施形態1において、SiC基板200は、外縁に切り欠いて、互いに直交する長辺部208と短辺部209とが形成されている。長辺部208は、短辺部209よりも長い。なお、長辺部208が手前側に位置する場合を基準とすると、図2に示すように、Si面202が上方に露出している状態では、短辺部209が長辺部208の左側に位置し、C面203が上方に露出している状態では、短辺部209が長辺部208の右側に位置する。
【0017】
実施形態1において、SiC基板200は、分割予定ライン206に沿って個々のデバイス207毎に分割されて、電力制御や電力供給を行う所謂パワー半導体に個片化される。
【0018】
また、実施形態1では、SiC基板200は、図2に示すように、C面203がSiC基板200よりも大径なダイシングテープ210の中央に貼着され、ダイシングテープ210の外縁部に内径がSiC基板200の外径よりも大きな環状フレーム221が貼着されて、環状フレーム221の内側の開口222内に支持される。
【0019】
実施形態1に係るSiC基板の切削方法は、図1に要部を示す切削装置1により実施される。切削装置1は、SiC基板200をチャックテーブル10で保持し分割予定ライン206に沿って切削ブレード21で切削して、SiC基板200を個々のパワー半導体に分割する加工装置である。切削装置1は、図1に示すように、SiC基板200を保持面11で吸引保持するチャックテーブル10と、チャックテーブル10に保持されたSiC基板200を切削ブレード21で切削する切削ユニット20と、チャックテーブル10に保持されたSiC基板200を撮影する図示しない撮像ユニットと、図示しない制御ユニットとを備える。
【0020】
また、切削装置1は、図1に示すように、チャックテーブル10と切削ユニット20とを相対的に移動させる移動ユニット30を備える。移動ユニット30は、水平方向と平行な加工送り方向であるX軸方向にチャックテーブル10を移動させる加工送りユニット31と、水平方向と平行でかつX軸方向に対して直交する割り出し送り方向であるY軸方向に切削ユニット20を移動させる割り出し送りユニット32と、X軸方向とY軸方向との双方と直交する鉛直方向に平行な切り込み送り方向であるZ軸方向に切削ユニット20を移動させる切り込み送りユニット33と、チャックテーブル10をZ軸方向と平行な軸心回りに回転する回転移動ユニット34とを備える。
【0021】
チャックテーブル10は、円盤形状であり、SiC基板200を保持する保持面11がポーラスセラミック等から形成されている。また、チャックテーブル10は、加工送りユニット31によりX軸方向に移動自在に設けられ、かつ回転移動ユニット34によりZ軸方向と平行な軸心回りに回転自在に設けられている。チャックテーブル10は、図示しない真空吸引源と接続され、真空吸引源により吸引されることで、図1に示すように、保持面11に載置されたSiC基板200を吸引、保持する。実施形態1では、チャックテーブル10は、ダイシングテープ210を介してSiC基板200のC面203側を吸引、保持する。また、チャックテーブル10の周囲には、環状フレーム221をクランプする図示しないクランプ部が複数設けられている。
【0022】
切削ユニット20は、チャックテーブル10に保持されたSiC基板200を切削する切削ブレード21を着脱自在に装着するスピンドル23を有する加工ユニットである。切削ユニット20は、チャックテーブル10に保持されたSiC基板200に対して、割り出し送りユニット32によりY軸方向に移動自在に設けられ、かつ、切り込み送りユニット33によりZ軸方向に移動自在に設けられている。切削ユニット20は、割り出し送りユニット32及び切り込み送りユニット33により、チャックテーブル10の保持面11の任意の位置に切削ブレード21を位置付け可能となっている。
【0023】
切削ユニット20は、図3に示すように、切削ブレード21と、割り出し送りユニット32及び切り込み送りユニット33によりY軸方向及びZ軸方向に移動自在に設けられたスピンドルハウジング22と、スピンドルハウジング22に軸心回りに回転可能に設けられ先端に切削ブレード21が装着されるスピンドル23と、スピンドル23を軸心回りに回転するスピンドルモータ24と、スピンドル23の先端に装着された切削ブレード21を振動させる超音波振動付与ユニット25と、切削ブレード21に切削水を供給する図1に示すノズル26とを備える。
【0024】
切削ブレード21は、略リング形状を有する極薄の環状の切削砥石である。実施形態1において、切削ブレード21は、図3及び図4に示すように、円柱状の基台211と、基台211に装着されてSiC基板200を切削する円環状の切り刃212とを備える所謂ハブブレードである。
【0025】
実施形態1において、基台211は、軸心方向の両端部に設けられかつ互いに外径が等しい小径部213と、小径部213間に設けられかつ外径が小径部よりも大きい大径部214とを一体に備える。小径部213と大径部214とは、同軸に配置されている。実施形態1において、大径部214は、一方の側面に切り刃212が固着されている。
【0026】
切り刃212は、炭化タングステンとコバルトを焼結したメタルボンドで、ダイヤモンドやCBN(Cubic Boron Nitride)等の砥粒が固定されて所定の厚みに形成されている。実施形態1において、切削ブレード21は、基台211の大径部214から切り刃212の外縁までの刃先出し量215は、切り刃212の厚さである刃厚216の20倍以上でかつ30倍以下に形成されている。
【0027】
即ち、刃先出し量215を刃厚216で割った値をアスペクト比とすると、実施形態1に係るSiC基板の切削方法で用いられる切削ブレード21のアスペクト比は、20以上でかつ30以下となる。
【0028】
実施形態1において、切削ブレード21は、軸心方向に基台211の中央を貫通した貫通孔217内を通ったボルト27がスピンドル23の先端面のねじ穴231に螺合して、スピンドル23の先端に装着される。
【0029】
なお、本発明では、切削ブレード21は、切り刃212のみで構成された所謂ワッシャーブレードでもよい。この場合、切削ブレード21をスピンドル23の先端に固定するマウントから切り刃212の外縁までの刃先出し量215は、切り刃212の刃厚216の20倍以上でかつ30倍以下に形成される。
【0030】
スピンドルモータ24は、スピンドル23に設けられて、スピンドル23と一体に回転するロータ241と、ロータ241の外周側でかつスピンドルハウジング22に配設されロータ241を回転させるステータ242とを備えている。スピンドルモータ24は、ステータ242がロータ241を回転して、スピンドル23を軸心回りに回転する。
【0031】
超音波振動付与ユニット25は、切削ブレード21をY軸方向に直交する径方向に超音波振動させるものである。なお、本発明でいう、超音波振動は、20kHz以上でかつ数GHz以下の周波数で数μmから数十μmまでの振幅で振動させることである。超音波振動付与ユニット25は、スピンドル23に設けられた超音波振動子251と、スピンドル23の後端部に設けられたロータリートランス252とを備える。ロータリートランス252は、スピンドル23の後端部に配設された受電手段253と、スピンドルハウジング22の後端部に配設された給電手段254とを備えている。給電手段254は、超音波電源部28に接続されている。
【0032】
超音波振動付与ユニット25は、超音波電源部28からの電力を給電手段254と受電手段253とを介して超音波振動子251に供給して、超音波振動子251を超音波振動させて、スピンドル23の先端に装着された切削ブレード21を径方向に超音波振動させる。
【0033】
なお、超音波電源部28には、電源29が接続されて、電源29から電力が供給される。また、電源29は、ステータ242にも接続し、ステータ242に電力を供給する。
【0034】
切削ユニット20の切削ブレード21及びスピンドル23の軸心は、Y軸方向と平行である。
【0035】
撮像ユニットは、切削ユニット20と一体的に移動するように、切削ユニット20に固定されている。撮像ユニットは、チャックテーブル10に保持された切削前のSiC基板200の分割すべき領域を撮影する撮像素子を備えている。撮像素子は、例えば、CCD(Charge-coupled Device)撮像素子又はCMOS(Complementary MOS)撮像素子である。撮像ユニットは、チャックテーブル10に保持されたSiC基板200を撮影して、SiC基板200と切削ブレード21との位置合わせを行なうアライメントを遂行するため等の画像を得、得た画像を制御ユニットに出力する。
【0036】
制御ユニットは、切削装置1の上述した各ユニットをそれぞれ制御して、SiC基板200に対する加工動作を切削装置1に実施させるものである。なお、制御ユニットは、CPU(Central processing unit)のようなマイクロプロセッサを有する演算処理装置と、ROM(read only memory)又はRAM(random access memory)のようなメモリを有する記憶装置と、入出力インターフェース装置とを有するコンピュータである。制御ユニットの演算処理装置は、記憶装置に記憶されているコンピュータプログラムに従って演算処理装置が演算処理を実施して、切削装置1を制御するための制御信号を入出力インターフェース装置を介して切削装置1の上述した構成要素に出力する。
【0037】
また、制御ユニットは、加工動作の状態や画像などを表示する液晶表示装置などにより構成される表示ユニットと、オペレータが加工内容情報などを登録する際に用いる入力ユニットとに接続されている。入力ユニットは、表示ユニットに設けられたタッチパネルと、キーボード等の外部入力装置とのうち少なくとも一つにより構成される。
【0038】
前述した構成の切削装置1は、オペレータにより登録された加工内容情報を制御ユニットが受付け、オペレータからの加工動作の開始指示を制御ユニットが受け付けると、加工動作即ち実施形態1に係るSiC基板の切削方法を開始する。SiC基板の切削方法では、切削装置1は、SiC基板200をダイシングテープ210を介してチャックテーブル10の保持面11に吸引保持するとともに、クランプ部で環状フレーム221をクランプする。
【0039】
SiC基板の切削方法では、切削装置1は、スピンドル23を軸心回りに回転し、移動ユニット30によりチャックテーブル10を撮像ユニットの下方まで移動し、撮像ユニットによりチャックテーブル10に吸引保持したSiC基板200を撮像して、アライメントを遂行する。
【0040】
SiC基板の切削方法では、切削装置1は、ノズル26から切削水を供給し、切削ブレード21を径方向に超音波振動させつつ、加工内容情報に基づいて、移動ユニット30により切削ブレード21とSiC基板200とを分割予定ライン206に沿って相対的に移動させながら、図1に示すように、チャックテーブル10に保持したSiC基板200の分割予定ライン206に切削ブレード21をダイシングテープ210に到達するまで切り込ませて切削する。
【0041】
なお、実施形態1に係るSiC基板の切削方法では、図5に示すように、切削ブレード21の切り刃212とSiC基板200との接触点における切削ブレード21の回転方向218をC面203側からSi面202側に向かう方向としてSiC基板200を切削する。図5に示すように、C面203側がダイシングテープ210を介してチャックテーブル10に保持されている場合は、切削ブレード21の切り刃212とSiC基板200との接触点における切削ブレード21の回転方向218は、加工送りユニット31のチャックテーブル10の移動方向である加工送り方向311に対して逆方向である。
【0042】
また、Si面202側がダイシングテープ210を介してチャックテーブル10に保持されている場合は、切削ブレード21とSiC基板200との接触点における切削ブレード21の回転方向は、加工送り方向311と同方向である。切削装置1は、SiC基板200の全ての分割予定ライン206を切削すると、加工動作即ちSiC基板の切削方法を終了する。
【0043】
以上説明した実施形態1に係るSiC基板の切削方法は、炭化タングステンとコバルトを焼結させたボンドで砥粒を固定した消耗しにくい固い切削ブレード21の切り刃212を径方向に超音波振動させつつSiC基板200に切り込ませるので、切削ブレード21の破損及びチッピングを抑制しながらも安定的にSiC基板200を切削することができるとともに、SiC基板200を切削する際の切削ブレード21の切り刃212の消耗を抑制することができるという効果を奏する。
【0044】
次に、本発明の発明者らは、実施形態1に係るSiC基板の切削方法の効果を確認した。結果を、以下の表1、表2、表3及び表4に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
表1、表2、表3及び表4は、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6、比較例7及び比較例8において、1700番手の砥粒を含み外径が76.2mmでかつ刃厚216が0.05mmの切り刃212を有する切削ブレード21で、加工送り方向311のチャックテーブル10の速度である加工送り速度20mm/secとして厚さ100μmのSiC基板200を切削した時のチッピングの平均サイズ、切り刃212の消耗量(μm/m)、及びスピンドル負荷電流値の測定結果を示す。なお、スピンドル負荷電流値は、スピンドルモータ24のステータ242に流れる電流値であって、切削時の切り刃212の蛇行や目潰れによる加工負荷の上昇などにより切削抵抗が増加すると時間経過とともに上昇傾向になるものである。
【0050】
また、表1、表2及び表4の実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3、比較例6、比較例7及び比較例8は、周波数50kHzでかつ振幅5μmで切削ブレード21の切り刃212を径方向に超音波振動させた。表2の比較例4及び比較例5は、切削ブレード21の切り刃212を径方向に超音波振動させなかった。
【0051】
実施例1は、炭化タングステンとコバルトを焼結したボンドで砥粒を固定しかつ刃先出し量が1.0μm(即ちアスペクト比が20)の切削ブレード21の切り刃212で前述したSiC基板200を切削した。実施例2は、炭化タングステンとコバルトを焼結したボンドで砥粒を固定しかつ刃先出し量が1.5μm(即ちアスペクト比が30)の切削ブレード21の切り刃212で前述したSiC基板200を切削した。
【0052】
比較例1は、ニッケルを含む電鋳ボンドで砥粒を固定しかつ刃先出し量が1.0μm(即ちアスペクト比が20)の切削ブレード21の切り刃212で前述したSiC基板200を切削した。比較例2は、ニッケルを含む電鋳ボンドで砥粒を固定しかつ刃先出し量が1.2μm(即ちアスペクト比が24)の切削ブレード21の切り刃212で前述したSiC基板200を切削した。比較例3は、ニッケルを含む電鋳ボンドで砥粒を固定しかつ刃先出し量が1.5μm(即ちアスペクト比が30)の切削ブレード21の切り刃212で前述したSiC基板200を切削した。
【0053】
比較例4は、炭化タングステンとコバルトを焼結したボンドで砥粒を固定しかつ刃先出し量が1.0μm(即ちアスペクト比が20)の切削ブレード21の切り刃212で前述したSiC基板200を切削した。比較例5は、ニッケルを含む電鋳ボンドで砥粒を固定しかつ刃先出し量が1.0μm(即ちアスペクト比が20)の切削ブレード21の切り刃212で前述したSiC基板200を切削した。
【0054】
比較例6は、銅や錫を含むメタルボンドで砥粒を固定しかつ刃先出し量が1.0μm(即ちアスペクト比が20)の切削ブレード21の切り刃212で前述したSiC基板200を切削した。比較例7は、レジンボンドで砥粒を固定しかつ刃先出し量が1.0μm(即ちアスペクト比が20)の切削ブレード21の切り刃212で前述したSiC基板200を切削した。比較例8は、ビトリファイドボンドで砥粒を固定しかつ刃先出し量が1.0μm(即ちアスペクト比が20)の切削ブレード21の切り刃212で前述したSiC基板200を切削した。
【0055】
表2によれば、比較例1は、スピンドル負荷電流値が安定して、チッピングの平均サイズが16μmでありチッピングを抑制できたが、切り刃212の消耗量が4.3μmと大きかった。また、表2、表3、表4によれば、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6、比較例7及び比較例8は、スピンドル負荷電流値が上昇傾向であって、切削ブレード21が破損し、チッピングの平均サイズ及び切り刃212の消耗量が測定できなかった。
【0056】
このような比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6、比較例7及び比較例8に対して、表1によれば、実施例1及び実施例2は、スピンドル負荷電流値が安定して、チッピングの平均サイズが17μmでありチッピングを抑制でき、切り刃212の消耗量が0.5μmと抑制できた。したがって、表1、表2、表3及び表4によれば、炭化タングステンとコバルトを焼結したボンドで砥粒が固定された切削ブレード21の切り刃212を径方向に超音波振動させつつチャックテーブル10に保持したSiC基板200を切削することで、切削ブレード21の破損及びチッピングを抑制しながらも、SiC基板200を切削する際の切削ブレード21の消耗を抑制できることが明らかとなった。
【0057】
また、表1によれば、実施例1及び実施例2が、スピンドル負荷電流値が安定して、チッピングの平均サイズが17μmでありチッピングを抑制でき、切り刃212の消耗量が0.5μmと抑制できたので、切削ブレード21の切り刃212の刃先出し量215を刃厚216の20倍以上でかつ30倍以下に設定されることで、切削ブレード21の破損及びチッピングを抑制しながらも、SiC基板200を切削する際の切削ブレード21の消耗を抑制できることが明らかとなった。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 チャックテーブル
21 切削ブレード
200 SiC基板
202 Si面
203 C面
204 表面
205 裏面
215 刃先出し量
216 刃厚
218 回転方向
図1
図2
図3
図4
図5