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特許7523949レンズユニット、画像投影装置及び光学装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】レンズユニット、画像投影装置及び光学装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20240722BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20240722BHJP
   G02B 7/08 20210101ALI20240722BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20240722BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
G02B7/02 F
G02B7/02 Z
G02B7/04 D
G02B7/08 Z
G03B21/14 D
G03B21/00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020088218
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021182116
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】514274487
【氏名又は名称】リコーインダストリアルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】本多 章悟
(72)【発明者】
【氏名】金澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健一
(72)【発明者】
【氏名】澤口 卓矢
【審査官】登丸 久寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-117398(JP,A)
【文献】特開2009-086233(JP,A)
【文献】特開2012-185256(JP,A)
【文献】特開2010-107702(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130579(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0299759(US,A1)
【文献】特開2010-197598(JP,A)
【文献】特開2010-185940(JP,A)
【文献】特開2005-292471(JP,A)
【文献】特開2003-004416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02
G02B 7/04
G02B 7/08
G03B 21/14
G03B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1枚のレンズと、
前記レンズを支持する支持部材と、
前記レンズ及び前記支持部材を光軸方向に移動させるズーム移動機構と、
を備え、
前記支持部材は、耐熱性、熱伝導性の高い金属製の第1のレンズ支持部材と、前記第1のレンズ支持部材の外側に設けられた耐熱性に優れ、強度、剛性が高く、金属製と比較して形状精度のバラつきが小さい樹脂製の第2のレンズ支持部材とで構成され、
前記第1のレンズ支持部材のフランジ部と、前記第2のレンズ支持部材のフランジ部とで結合された2体構造であり、
前記第1のレンズ支持部材の内側で前記レンズを支持するものであり、
前記ズーム移動機構は、曲線状のカム溝が形成され回動可能なカム筒と、前記光軸方向に沿って直線状の溝が形成され前記カム筒の外周側に固定された固定筒と、前記第2のレンズ支持部材に一体形成され、前記カム溝及び前記溝に係合するカムフォロアと、からなるレンズユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズユニットにおいて、
前記第2のレンズ支持部材は、前記第1のレンズ支持部材に対してネジを介して結合されていることを特徴とするレンズユニット。
【請求項3】
請求項1に記載のレンズユニットにおいて、
前記第2のレンズ支持部材は、前記第1のレンズ支持部材に対して熱カシメによって結合されていることを特徴とするレンズユニット。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1つに記載のレンズユニットにおいて、
前記第2のレンズ支持部材は、該レンズユニット又は他のレンズユニットにおいて共通使用可能な形状を有することを特徴とするレンズユニット。
【請求項5】
請求項1~の何れか1つに記載のレンズユニットを具備することを特徴とする画像投影装置
【請求項6】
請求項1~の何れか1つに記載のレンズユニットを具備することを特徴とする光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズユニット、画像投影装置及び光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラやプロジェクタに搭載されるズーム機能を備えたレンズユニットでは、ズームレンズ群の移動量に合わせた螺旋状のカム溝を有するカム筒と、ズームレンズ移動群を直進移動させる直進溝を有する直進枠と、カム溝と直進溝に係合する凸形状を備えたレンズ支持枠を用いるものが広く知られている(例えば特許文献1及び2参照)。
レンズ支持枠の凸形状は、枠自体に成形又は加工することによりカムフォロア形状を設ける物のほか、ローラやコロなどの別部品を組み付ける物なども知られている。
【0003】
一方、特にズーム機能を備えたレンズユニットを使用した画像投影装置では、画像投影時の明るさ向上が求められており、これを実現すべく光源の高出力化が図られてきている。これにより、画像投影時の鏡筒内部の温度上昇・高温度化が著しくなってきている。
【0004】
ズームレンズ移動群の材質に関して、レンズ支持枠を樹脂成形品とした場合では高温度化による溶融の恐れがあるため、別材料である特に金属を用いることにより対応が可能となる。
【0005】
但し、カムフォロア形状に相当する凸形状あるいはローラ組付け用座面を金属製のレンズ支持枠へ設けようとすると、レンズ支持枠の外周方向からの加工が増えることになるため、コストアップとなる。更に、金属製のレンズ支持枠は、樹脂成形品と比較すると加工精度のバラつきが大きいため、レンズユニットの歩留まりに影響を及ぼしてしまう。また、カムフォロア形状として別途ローラ部品を用いた場合では、ローラ部品精度及びローラ組付け精度のバラつきが製品性能に影響を及ぼしてしまう。
【0006】
特許文献1、2記載の技術では、レンズ支持枠を、レンズを支持する鏡室部と、この鏡室部を支持するとともに外周に複数のカムフォロアが形成された移動枠とに分離する案が提案されている。
しかしながら、上記各枠の材質に関しては樹脂のみの記載があるものの、高温度となるレンズへの対応は難しい。また、複数のレンズ群において、他のレンズセルと共用しイニシャルコスト低減可能とする提案もなされているが、様々なカム方式に対応可能な具体的方式が提案されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、レンズ支持枠の高温対策で、耐熱性、熱伝導性の高い(金属製の)レンズ支持枠を用いても歩留まりへの影響が少なく、部品コストダウンに寄与することができるレンズユニットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、少なくとも1枚のレンズと、前記レンズを支持する支持部材と、前記レンズ及び前記支持部材を光軸方向に移動させるズーム移動機構と、を備え、前記支持部材は、耐熱性、熱伝導性の高い金属製の第1のレンズ支持部材と、前記第1のレンズ支持部材の外側に設けられた耐熱性に優れ、強度、剛性が高く、金属製と比較して形状精度のバラつきが小さい樹脂製の第2のレンズ支持部材とで構成され、前記第1のレンズ支持部材のフランジ部と、前記第2のレンズ支持部材のフランジ部とで結合された2体構造であり、前記第1のレンズ支持部材の内側で前記レンズを支持するものであり、前記ズーム移動機構は、曲線状のカム溝が形成され回動可能なカム筒と、前記光軸方向に沿って直線状の溝が形成され前記カム筒の外周側に固定された固定筒と、前記第2のレンズ支持部材に一体形成され、前記カム溝及び前記溝に係合するカムフォロアと、からなるレンズユニットにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性、熱伝導性の高い第1のレンズ支持部材を用いても歩留まりへの影響が少なく、部品コストダウンに寄与することができるレンズユニットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る画像投影装置の構成の一例を示す図である。
図2】(a)は従来例のレンズユニットの全体構成を示す断面図、(b)は(a)のレンズユニットの第3ズーム移動群の要部構成を示す分解斜視図である。
図3】従来例のレンズユニットの第3ズーム移動群の要部構成を拡大して示す断面図である。
図4】従来例として第3ズーム移動群の第3レンズセルの材質に樹脂を採用した場合の温度予測シュレーションの結果を示す図である。
図5】(a)は本発明の一実施形態に係るレンズユニットの全体構成を示す断面図、(b)は(a)のレンズユニットの第3ズーム移動群の要部構成を示す分解斜視図である。
図6】本実施形態に係るレンズユニットの第3ズーム移動群の要部構成を拡大して示す断面図である。
図7】本実施形態に係るレンズユニットにおいて高温が予測される群の温度予測シュレーションを実施した結果を説明する図である。
図8】本発明の別の実施形態に係る画像投影装置の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照して実施例を含む本発明の実施の形態を詳細に説明する。各実施形態等に亘り、同一の機能及び形状等を有する構成要素(部材や構成部品)等については、混同の虞がない限り一度説明した後では同一符号を付すことによりその説明を省略する。
本発明の一実施形態として、画像投影装置の構成の一例を図1に示す。
【0012】
図1に示す画像投影装置100は、光束を射出する光源101と、投射すべき画像を表示して、透過する光束に画像情報を付与する空間光変調素子102と、を有している。
画像投影装置100はまた、画像を画像投影面104に投影するための投影光学系の一部を構成するレンズユニット70と、画像投影面104に投影するべき画像を表示するために空間光変調素子102を制御する制御部109と、を有している。
【0013】
図1等において、後述する正姿勢状態においてレンズユニット70への入射光の光軸即ちレンズ光軸LをZ軸、Z軸に垂直な方向のうち、図1における紙面上下方向に平行な軸をY軸と定め、Z軸及びY軸にそれぞれ垂直な軸をX軸と定める。なお、X軸、Y軸、Z軸それぞれの方向について、図1に示す矢印の方向をそれぞれ正方向と定める。
【0014】
光源101は、光線を出射する発光源たるハロゲンランプを用いて、白色光を略並行に出射する。ここで光源としては、メタルハライドランプや高圧水銀ランプ、LEDを用いてもよい。
光源101は白色光源であるが、R、G、B等の基本色に対応するレーザー光源のような単色光源を複数用いたものであってもよい。
【0015】
空間光変調素子102は、入射した光束を透過して空間的な変調を付与して出射することで画像情報を与える画像表示手段たる液晶パネルである。なお、空間光変調素子102は、DMD(デジタルマイクロミラーデバイス)のような反射型の空間光変調素子であってもよい。
【0016】
レンズユニット70は、後述する本発明に係る特徴的な構成を除き一般的なズームレンズ光学系の構成であり、レンズユニット70から出射された光を画像投影面(スクリーン)に直接的に投影するものである。
【0017】
図1において、レンズユニット70は、図の簡明化を図るため模式的に図示しており、具体的な構成は後述する。レンズユニット70は、レンズユニット70の本体をなす筐体19がネジ等の締結部材で画像投影装置100本体側に取り付け・固定されている。
図1において括弧を付して示す符号700は、従来例としてのレンズユニットを、括弧を付して示す符号1000は、従来例としての画像投影装置を、それぞれ表している。
従来の画像投影装置1000は、本発明の一実施形態に係る画像投影装置100と比較して、後述するようにレンズユニット70に代えて、レンズユニット700を用いる点が主に相違し、その他の構成は同じである。
【0018】
まず、図2図3を参照して従来例に係るズーム機能を有するレンズユニット700の構成について説明する。図2(a)は従来例のレンズユニット700の全体構成を示す断面図、図2(b)は図2(a)のレンズユニット700の第3ズーム移動群の要部構成を示す分解斜視図である。図3は従来例のレンズユニット700の第3ズーム移動群の要部構成を拡大して示す断面図である。
図2(a)、図2(b)及び図3においては、図の簡明化を図るためフォーカス群及び固定群の一部を除き、ズーム群の設置されているレンズの図示を省略している。これは、後述する図5(a)、図5(b)及び図6等に示す本発明に係る一実施形態のレンズユニット70についても同様である。
また、レンズユニット700の全体構成を示す図2(a)の断面図においては、図の簡明化を図るため断面ハッチングの図示を省略している。これは、後述する図5(a)に示す本発明に係る一実施形態のレンズユニット70についても同様である。
【0019】
レンズユニット700は、図2(a)に示すように、光軸方向たるZ軸上に配置されて投射光学系を構成している。レンズユニット700は、投射画像を拡大投射する画像投影面(スクリーン)での最適なサイズを容易に実現できるように、ズーム・変倍機能を有する投射用ズームレンズが用いられている。レンズユニット700は、拡大側(画像投影面のある側)から縮小側に向かって順に、フォーカス用レンズ9を有するフォーカス群10と、第1ズーム移動群11と、第2ズーム移動群12と、第3ズーム移動群13と、第4ズーム移動群14と、第5ズーム移動群15と、対物レンズ17を有する固定群16とを具備する。
【0020】
フォーカス群10は、正逆方向に回転する(即ち回動する)ことにより、図1に示した画像投影面104でピント(焦点)を合わせる。フォーカス群10は、回動によりZ軸方向に移動する。固定群16はZ軸方向に移動不能に固定されている。
第1ズーム移動群11~第5ズーム移動群15は、それぞれに設置されているレンズ(図示せず)を支持するレンズ支持部材としての第1レンズセル21、第2レンズセル22、第3レンズセル63、第4レンズセル24、第5レンズセル25を有している。
【0021】
レンズユニット700には、第1レンズセル21、第2レンズセル22、第3レンズセル63、第4レンズセル24、第5レンズセル25を光軸方向であるZ方向に移動させるズーム移動機構が設けられている。第1ズーム移動群11~第5ズーム移動群15のズーム移動機構は、原理的に同様の構成であり、以下、第3ズーム移動群13のズーム移動機構を代表して説明する。
第3ズーム移動群13のズーム移動機構は、図3に拡大して示すように、曲線状ないし螺旋状のカム溝30aが形成され回動可能なカム筒30と、光軸方向であるZ軸方向に沿って直線状の直進溝31aが形成され、カム筒30の内周側に固定された固定筒としてのライナー31と、カム溝30a及び直進溝31aに係合するカムフォロアとしてのローラ64とからなる。ローラ64は、概略円柱状をなし、第3レンズセル63と別体で第3レンズセル63の外周部に設けられている。
【0022】
第1レンズセル21、第2レンズセル22、第4レンズセル24の図において外周部には、カム溝及び直進溝に係合するカムフォロアとしての凸状部21a、凸状部22a、凸状部24aが、それぞれY方向に向かって突出するように一体形成されている。なお、カム筒30及びライナー31等を含めて一般的に鏡筒とも呼ばれる。
【0023】
一方、図2(b)に示すように、第3レンズセル63の外周部の等分した3箇所には、ローラ64を挿入するためのローラ挿入用穴63bが形成されている。第3レンズセル63は、高温度に耐えられるように、かつ熱伝導性の高い金属材料、特には熱伝導率が高く軽量のアルミニウムで一体形成されている。
【0024】
ローラ64は、材質がPOM等の樹脂で一体形成されている。ローラ64は、上述した通り、カム溝30a及び直進溝31aに係合するカムフォロアとしての役割を担っている。ズーム移動機構のカム溝30a及び直進溝31aと摺動するカムフォロアについては、切削加工が難しいため上記したようなローラ(コロ)状の部品であるローラ64を別途組み付けている。
【0025】
フォーカス用レンズ9は、樹脂製のレンズを用いている。フォーカス用レンズ9以外のレンズは、全てガラス製のレンズを用いている。
【0026】
以下、第3レンズセル63が、高温度に耐えられるように、かつ熱伝導性の高い金属材料であるアルミニウムを使用している理由を説明する。
図3に示すように、第3ズーム移動群13の前記レンズの外周縁部を支持ないし保持している第3レンズセル63のレンズ支持部32近傍には、前記レンズ性能を発揮すべく、該レンズを通過する光量を調整するための絞り(図示せず)が設けられている。この絞りは、第3ズーム移動群13の入射側(最も縮小側)の面に固定的に配置されている。
【0027】
従来及び本発明のレンズユニットを設計する際には、一般的な「伝熱解析ソフト」を用いて温度予測シュレーションを事前に行い、採用するレンズ及びレンズセルの材質を問題なく設定できるようにしている。この温度予測シュレーション条件は、従来及び本発明のレンズユニット共に、同じ条件(光源の最大出力エネルギー、レンズユニットの前記絞りの配置構成及び該絞りの仕様、レンズユニットの所定の稼働時間後の温度表示等)にして行っている。
【0028】
上記背景技術で述べたように、従来の画像投影装置1000は、本発明に係る画像投影装置100と同様に、画像投影時の明るさアップを実現すべく光源101の高出力化が図られている。上述の「伝熱解析ソフト」を用いて、図4に示すように、第3ズーム移動群13の第3レンズセルの材質に樹脂を採用した場合(これを第3レンズセル65とする)の温度予測シュレーションを実施した結果、第3レンズセル65において破線で囲んで示すレンズ支持部32近傍の温度が高温予測箇所35となり、最大で約112[℃]であった。
従来、図2図4において高温が予測される群33の高温予測箇所35の温度が約90~100[℃]を超えると、樹脂材の溶融の恐れがあるため樹脂材の使用を避けてきた。そこで、温度予測シュレーションにて高温が予測される箇所である第3レンズセル63は、金属(特にはアルミ)材料を使用している。
【0029】
光源101から出射された高光量のエネルギーがレンズユニット700の第3ズーム移動群13の前記絞りで絞られることで、すなわち第3ズーム移動群13の入射側に配置された前記絞りによって、第3レンズセル63の開口部で光線をカットするため、カットされた光線のエネルギーが第3レンズセル63の表面で熱エネルギーに変わることとなる。これにより、前記温度予測シュレーションで得られた結果の通り図示しないレンズを含めて高温度となる。そのため、レンズ支持部32を有する第3レンズセル63は、高温度に耐えられ、かつ熱伝導性の高い金属材料であるアルミニウムで形成しているため、蓄熱されることなく、熱は鏡筒(カム筒30及びライナー31等)から筐体19ないし画像投影装置1000本体側へと伝わって拡散されることとなる。
【0030】
上述した従来のレンズユニット700の第3レンズセル63では、以下列挙する事項が光学性能へ影響を及ぼす課題となっている。
第1に、図2において、ローラ64の挿入用穴63bの位置精度が加工バラつきにより、第3ズーム移動群13の姿勢が安定しない。
第2に、ローラ64自体の形状バラつきにより、カム溝30a及び直進溝31aへの嵌合状態がローラ64部品毎に異なる。
第3に、ローラ64の挿入用穴63への組付け時に姿勢バラつきが発生してしまう。
【0031】
以下、図5図8を参照して、従来のレンズユニット700が有する第1~第3の課題(問題点)を解決できる本発明の一実施形態に係るレンズユニット70について、相違点の構成を中心に説明する。図5(a)は本発明の一実施形態に係るレンズユニット70の全体構成を示す断面図、図5(b)は図5(a)のレンズユニット70の第3ズーム移動群の要部構成を示す分解斜視図である。図6は一実施形態に係るレンズユニット70の第3ズーム移動群の要部構成を拡大して示す断面図である。図7図6において高温が予測される群33の高温予測箇所35の温度予測シュレーションを実施した結果を説明する図である。
レンズユニット70は、図5に示すように、従来のレンズユニット700と比較して、第3ズーム移動群13に備えられたローラ64を有する第3レンズセル63に代えて、高温となるレンズ支持部の内側は金属製の第3レンズセル23とし、外側に第3樹脂製レンズセル27を追加した2体構造部材を用いる点が主に相違する。上記相違点以外のレンズユニット70の構成は、従来のレンズユニット700と同様である。
【0032】
第3レンズセル23は、これに支持されているレンズ(図示せず)を支持する熱伝導性の高い第1のレンズ支持部材として機能する。第3レンズセル23は、従来のレンズユニット700の第3レンズセル63と同様に、高温度に耐えられるように、かつ熱伝導性の高い金属材料、特には熱伝導率が高く軽量のアルミニウムで一体形成されている。
第3レンズセル23の外周フランジ部23aの3箇所には、第3レンズセル23と第3樹脂製レンズセル27とを締結・結合する際のネジ28を挿通するためのネジ挿通用穴23bが形成されている。第3レンズセル23には、第3レンズセル63のような樹脂製のローラ挿入用穴63bがない。第3レンズセル23は、アルミニウム程の軽量化を望まなくてもよいのであれば、例えば熱伝導率の高い真鍮などで形成してもよい。
【0033】
第3ズーム移動群13の前記図示しないレンズの支持手段は、第3レンズセル23のレンズ支持部32でカシメによって固定されている。なお、これに限らず、レイアウトが許せば一般的な締結手段(ネジ等による締結や接着剤による固定)でも代用可能である。
【0034】
第3樹脂製レンズセル27は、第3レンズセル23を介して前記レンズを支持する樹脂製の第2のレンズ支持部材として機能する。第3樹脂製レンズセル27は、耐熱性に優れ強度や剛性が極めて高い樹脂材であるPPS(ポリフェニレンスルファイド)やPCGF(ポリカーボネート+ガラスフィラー)等の材料で形成されている。
第3樹脂製レンズセル27には、図6に示すように、第3ズーム移動群13のズーム移動機構を構成するカム筒30のカム溝30a及びライナー31の直進溝31aに係合するカムフォロアとしての凸状部27aが一体形成されている。凸状部27aは、第3樹脂製レンズセル27の外周フランジ部の等分された3箇所に形成されている。また、第3樹脂製レンズセル27の前記外周フランジ部と直交するフランジ部の3箇所には、ネジ28で締結されるネジ穴27bが形成されている。
【0035】
図5(b)に示すように、第3樹脂製レンズセル27は、第3レンズセル23に対してネジ28を介して結合されている。なお、これに限らず、第3樹脂製レンズセル27は、第3レンズセル23に対して熱カシメによって結合してもよい。
【0036】
レンズユニット70を構成している第3レンズセル23が、高温度に耐えられるように、かつ熱伝導性の高い金属材料であるアルミニウムを使用しているのは、上述した従来のレンズユニット700と同じ理由からである。
上述の「伝熱解析ソフト」を用いて、図7に示すように、第3ズーム移動群13に第3レンズセル23及び第3樹脂製レンズセル27を採用して温度予測シュレーションを実施した結果、第3レンズセル23において破線で囲んで示すレンズ支持部32近傍の温度が高温予測箇所35となり、最大で約45[℃]となり、温度が抑制されていることが分かった。これにより、第3レンズセル23と第3樹脂製レンズセル27との結合・嵌合面についても約45[℃]以下となるため、第3樹脂製レンズセル27の溶融の恐れもない。
【0037】
以上説明した構成により、本実施形態によれば、耐熱性、熱伝導性の高い第1のレンズ支持部材として金属製の第3レンズセル23を用いても歩留まりへの影響が少なく、部品コストダウンに寄与することができるレンズユニット70を提供できる。
【0038】
従来のレンズユニット700が有していた上述の第1~第3の課題を全て解消することができる。具体的には以下の通りである。第3レンズセル23、63のようにアルミ加工部品は1点1点切削等の加工をするため、樹脂成型部品と比較して形状精度のバラつきが大きくなる。
しかしながら、本実施形態では、金属・アルミ製の第3レンズセル23の外側に第3樹脂製レンズセル27を追加したことにより、カム溝30a及び直進溝31aに摺動する凸状部27aの形状精度が安定する。
【0039】
第3樹脂製レンズセル27を追加したことにより、従来のようなローラ64が不要となるので、ローラ64に関しての精度を考慮しなくてもよい。
【0040】
第3レンズセル23は、外周方向からの加工形状がなくなるため、部品コストの低減が期待できる。
【0041】
第3樹脂製レンズセル27は、該レンズユニット系又は他のレンズユニット系において共通使用可能な汎用性の有る形状にすることにより、他のズームレンズ群などでも共用可能となるため、イニシャルコスト低減につながる。例えば、第3樹脂製レンズセル27のカムフォロアとしての凸状部27aに関しては、樹脂の金型を部分的な入子構造とすることにより、カム溝幅に差異を生じるようなレンズユニットに採用する場合でも個別に対応可能となり、カム溝幅に合わせた対応が可能となる。
【0042】
本発明に係る画像投影装置は、図1に示したようなズーム光学系を備えるプロジェクタに限らず、図8に示すように、折り返しミラーを備える超短焦点のプロジェクタであってもよい。
画像投影装置100は、いわゆる超短焦点のプロジェクタであり、プレゼンテーションのときなどに発表者の影が映り込まないという長所がある。一方、投射距離が光学系の全長よりも短くなった場合、画像投影面(被投射面)から離れたところに設置して使用することができず、画像投影面に埋め込まなければならないという短所がある。そこで、折返しミラーを配して光路を折返すことにより、前記欠点を解消しているものである。
投射光学系は、屈折光学系を少なくとも一つ含んだ光学系であり全体として正のパワーを有する第1光学系と、反射領域と透過領域とを有する第2光学系と、パワーを有する反射面を少なくとも一つ含んだ光学系であり全体として正のパワーを有する第3光学系と、を有する。前記投射光学系は、前記画像側からの光線が前記第1光学系を通過して前記第2光学系の前記反射領域で光路を折り曲げられて前記第3光学系に入射し、更に前記第3光学系で光路を折り曲げられて前記第2光学系の前記透過領域を透過して前記画像投影面に入射する。前記第3光学系では、非球面反射ミラー18を用いている。
【0043】
また、本発明に係るレンズユニットは、画像投影装置に限らず、例えばカメラを始めとする光学装置に具備するものであってもよい。
【0044】
上記実施形態には、実質的に以下の態様及び効果が記載されていたと言える。
即ち、第1の態様は、複数枚のレンズのうちの相対的に高温度となる少なくとも1枚の、第3ズーム移動群13に設置される図示を省略したレンズと、前記レンズを支持し、耐熱性、熱伝導性の高い第3レンズセル23などの第1のレンズ支持部材と、前記第1のレンズ支持部材を介して前記レンズを支持する樹脂製の第3樹脂製レンズセル27などの第2のレンズ支持部材と、前記レンズ及び前記第1のレンズ支持部材と共に前記第2のレンズ支持部材をZ軸方向などの光軸方向に移動させるズーム移動機構と、を備えるレンズユニット70などのレンズユニットである。
かかる構成により、第1の態様によれば、耐熱性、熱伝導性の高い第1のレンズ支持部材を用いても歩留まりへの影響が少なく、部品コストダウンに寄与することができるレンズユニットを提供できる。
【0045】
第2の態様は、第1の態様において、前記第1のレンズ支持部材は、金属又は同等の熱特性を持つ樹脂等で形成されているレンズユニットである。
【0046】
第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記ズーム移動機構は、曲線状のカム溝30aなどのカム溝が形成され回動可能なカム筒30などのカム筒と、前記光軸方向に沿って直進溝31aなどの直線状の溝が形成され前記カム筒の外周側に固定されたライナー31などの固定筒と、前記第2のレンズ支持部材に一体形成され、前記カム溝及び前記溝に係合する凸状部27aなどのカムフォロアと、からなるレンズユニットである。
【0047】
第4の態様は、第1~第3の何れか1つの態様において、前記第2のレンズ支持部材は、前記第1のレンズ支持部材に対してネジ28などのネジを介して結合されているレンズユニットである。
【0048】
第5の態様は、第1~第3の何れか1つの態様において、前記第2のレンズ支持部材は、前記第1のレンズ支持部材に対して熱カシメによって結合されているレンズユニットである。
【0049】
第6の態様は、第1~第5の何れか1つの態様において、前記第2のレンズ支持部材は、該レンズユニット系又は他のレンズユニット系において共通使用可能な汎用形状を有するレンズユニットである。
【0050】
第7の態様は、第1~第6の何れか1つの態様のレンズユニットを具備する画像投影装置である。
第8の態様は、第1~第6の何れか1つの態様のレンズユニットを具備する光学装置である。
【0051】
以上本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0052】
例えば、画像投影装置は、1つの液晶パネルでカラーの画像情報を与える1板式のカラープロジェクタとしたが、これに限らず、3板式のカラープロジェクタであってもよいし、モノクロの画像投影装置であってもよい。
【0053】
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0054】
10 フォーカス群
11~15 第1ズーム移動群~第5ズーム移動群
16 固定群
23 第3レンズセル(第1のレンズ支持部材の一例)
27 第3樹脂製レンズセル(第2のレンズ支持部材の一例)
28 ネジ(締結・結合部材の一例)
30 カム筒
30a カム溝(曲線状のカム溝の一例)
31 ライナー(固定筒の一例)
31a 直進溝(直線状の溝の一例)
33 高温予想ズーム群
70 レンズユニット
100 画像投影装置
L レンズ光軸
Z 光軸方向
【先行技術文献】
【特許文献】
【0055】
【文献】特開2006-023359号公報
【文献】特許第4557211号公報
図1
図2
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